説明

レシチンまたはサポニンを使用する金属コロイド含有水溶液の製造方法

【課題】新規な金属コロイド含有水溶液の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明は、レシチンまたはサポニンの存在下で金属イオンを還元することにより金属コロイド含有水溶液を製造する方法、および該方法によって製造される金属コロイド含有水溶液を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レシチンまたはサポニンの存在下で金属イオンを還元することにより金属コロイド含有水溶液を製造する方法、および該方法によって製造される金属コロイド含有水溶液に関する。
【背景技術】
【0002】
金属コロイド含有水溶液は、飲料、医薬品、化粧品原料などとして有用であることが知られている(特許文献1−3)。かかる金属コロイド含有水溶液は、コロイド保護剤の存在下で金属イオンを還元して金属コロイドを得る金属塩還元反応法により製造されている。コロイド保護剤は金属コロイドの凝集や沈澱を防止しそれらを安定に分散させるため使用されており、ポリソルベート80、グリセリン脂肪酸エステル、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸ナトリウムなどがコロイド保護剤として用いられてきた(特許文献1−5)。
【0003】
レシチンは、動植物等に広く存在するリン脂質であり、細胞膜の主要構成成分であること、コレステロールや中性脂肪の溶解作用を有することなどから、その生理作用が注目されている。植物由来の配糖体であるサポニンは、抗炎症、血圧降下、抗アレルギー作用などを有することが知られている。これまで、レシチンやサポニンを使用して製造された金属コロイド含有水溶液は知られていない。
【特許文献1】特開2001−079382
【特許文献2】特開2001−122723
【特許文献3】特開2002−212102
【特許文献4】WO2005/023467
【特許文献5】特開2005−163117
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、より優れた性質を有する金属コロイド含有水溶液を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、レシチンまたはサポニンの存在下で金属イオンを還元することにより金属コロイド含有水溶液を製造する方法を提供する。
【発明の効果】
【0006】
本発明により、より味の良い金属コロイド含有水溶液が提供された。本発明の金属コロイド含有水溶液によれば、金属コロイドだけでなくレシチンやサポニンにより発揮される様々な効果も享受できると期待される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の方法は、金属塩還元反応法による従来の金属コロイド含有水溶液の製造方法、例えば特開2001−079382号に記載の方法、の変法である。本発明の方法では、水、金属イオン溶液、還元剤およびpH補償剤に加えて、レシチンまたはサポニンを使用する。
【0008】
レシチンは、いずれの物質に由来するものであってもよいが、大豆、卵黄、穀類、食用油、魚類、動物の内臓などの食品に由来するレシチンが好ましい。特に、大豆由来レシチンが本発明の方法に好適に使用される。かかる物質に由来する一種類のレシチンを使用しても、複数種類のレシチンの混合物を使用してもよい。本発明に使用可能なレシチンは、太陽化学社株式会社など多くの供給元から入手可能である。
【0009】
サポニンもまた、いずれの物質に由来するものであってもよい。本発明の方法に好適なサポニンは生薬や食品として使用される植物に由来するものであり、特に、大豆、茶葉または茶種子由来のサポニンが好適である。サポニンとして、一種類のサポニンを用いても複数種類のサポニンの混合物を用いてもよい。本発明に使用可能なサポニンは、和光純薬工業株式会社、株式会社J−オイルミルズなど多くの供給元から入手可能である。
【0010】
金属イオン溶液は、金属ハロゲン化物の水溶液である。金属は、金、銀または白金から選択されることが好ましく、金属イオン溶液は、例えば塩化白金酸、塩化金酸または硝酸銀の水溶液である。金属イオン溶液は、市販の金属ハロゲン化物を水に溶解することにより調製することができる。
【0011】
還元剤としては、低分子アルコールを使用する。特にエタノールが好ましい。
【0012】
pH補償剤としては、アルカリ金属類、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウムを使用する。特に炭酸水素ナトリウムが好ましい。pH補償剤は水溶液として、金属イオン溶液と同時に処理液に添加するのが好ましい。
【0013】
金属コロイド含有水溶液は、例えば以下の方法により製造することができる。まず、水を攪拌しつつ温度を上げ一定の温度に達した後、レシチンまたはサポニンと還元剤とを添加する。次いでこの処理液に金属イオン溶液およびpH補償剤を同時に添加する。これにより、水中で金属イオンが還元剤により還元される。還元剤は、金属イオン溶液とpH補償剤の添加後に処理液に添加してもよい。この処理液の温度を一定に保持したまま攪拌を続け、金属イオンの還元が終了した時点で加温および攪拌を終了する。その結果、処理液中に金属コロイドが得られる。還元処理温度は50〜75℃の範囲であり、70℃付近が望ましい。金属イオンの還元は、白金、銀などの場合は液色の黒色への変色、金の場合は赤紫色への変色により確認することができる。次いで、処理液をろ過および洗浄精製し、金属コロイド含有水溶液を得る。洗浄精製は、常套的方法で、例えば限外濾過膜による透析にて行えばよい。
【0014】
各試薬の使用量は適宜調節されうるが、例えば、1ml中0.2gの金属を含有する金属イオン溶液1に対して、容量比で、水が400〜2000、還元剤が99.5%アルコールの場合で20〜100、pH補償剤が5%(wt%)濃度の場合で10〜40である。レシチンおよびサポニンの使用量は、金属イオン溶液中の金属0.2gあたり、0.05〜0.5g、好ましくは0.05〜0.25gである。
【0015】
本発明の方法により得られる金属コロイド含有水溶液は、−40〜−60mVのゼータ電位を有し、金属コロイドの平均粒径は1〜10nmである。本発明の金属コロイド含有水溶液は、飲料、医薬品、化粧品原料などに使用することができる。本発明の金属コロイド含有水溶液は従来品よりも味が良く、飲料や経口投与医薬品に特に好適である。
【実施例】
【0016】
本発明を以下の実施例によりさらに説明するが、本発明はいかなる意味においてもこれら実施例に限定されない。
【0017】
[実施例1]
大豆由来レシチンを用いた白金コロイド含有水溶液の調製
1.白金コロイド含有水溶液の調製
A.試薬
【表1】

サンレシチンA−1(太陽化学社株式会社)は、天然大豆レシチンを酵素分解して得られるリゾレシチン(1−モノアシルグリセリン脂質)を33%含有する。
【0018】
B.還元反応
水をガラス容器にいれ、攪拌しながら加温した。60℃になった時点で還元剤とレシチンを添加し、更に攪拌しながら加温して、70℃になった時点で金属イオン溶液とpH補償剤を添加した。70℃で攪拌しながら還元反応を行った。白金イオンが還元されて白金コロイドが形成された時点(溶液の色が褐色から黒色に変化した時点)で加温および攪拌を停止し、還元反応を終了した。
【0019】
C.濃縮および洗浄精製
還元反応終了後の液を濾紙(定量濾紙No.5C、孔径1μm、アドバンテック株式会社)でろ過した。ろ過液を12時間精置した後、限外ろ過膜(分画分子量:10,000、日本ミリポア株式会社)を用いて、水20,000mlを加えながら濃縮および洗浄精製を行った。白金濃度は500ppmを指定して調整した。
【0020】
D.白金コロイド含有水溶液の分析
白金コロイド含有水溶液の白金濃度(Pt)は505ppmであった。原子吸光光度計(株式会社日立製作所)で測定したところ、金属は白金しか検出されなかった。HF−2000形電界放出透過電子顕微鏡(株式会社日立製作所)で観察した白金コロイドの平均粒径は、2〜3nmであった。電子線回折では金属白金(面心立方晶構造)のリングのみが観測され、白金コロイドが金属白金であることが確認できた。ガスクロマトグラフィー法により不純物を測定したところ、各種不純物は測定限界以下であり、洗浄精製が成功していることが示された。強熱残分法によると、100mlでの残分量は約0.06%であった。白金コロイド含有水溶液の白金濃度は505ppm(約0.5g/L)で、100ml中の白金量は0.05gである。白金以外の残留成分の量は、水溶液中のレシチンに相当する。大塚電子製のレーザードプラー法による電気泳動光散乱装置を用いて計測したゼータ電位は−45mVであった。
【0021】
2.官能検査
比較例として、レシチンにかえて以下を使用して上記と同様に白金コロイド含有水溶液を調製した。
比較例1:グリセリン脂肪酸エステル(L−10D(三菱化学フーズ)0.4g+J−0381V(理研ビタミン社)1.3g)
比較例2:ポリソルベート80(4.5ml)
実施例1ならびに比較例1および2の白金コロイド含有水溶液について、盲検法により味覚検査を行った。検査員は、22〜55歳までの官能検査経験者男女5人ずつ計10人とした。その結果、比較例1との比較では、10人中9人は実施例1の白金コロイド含有水溶液のほうがよりおいしく飲みやすいと判定し、残る1人はいずれも同等と判定した。比較例2との比較では、10人全員が実施例1の白金コロイド含有水溶液のほうがよりおいしく飲みやすいと判定した。
【0022】
[実施例2]
茶種子由来サポニンを用いた白金コロイド含有水溶液の調製
1.白金コロイド含有水溶液の調製
以下の試薬を使用し、実施例1と同様にして白金コロイド含有水溶液を調製した。
【表2】

【0023】
白金濃度は250ppmを指定して調整した。得られた白金コロイド含有水溶液の白金濃度(Pt)は260ppmであり、平均粒径は2〜3nmであった。ゼータ電位は−43mVであった。
【0024】
2.官能検査
実施例1と同様にして、実施例2ならびに比較例1および2の白金コロイド含有水溶液について盲検法により味覚検査を行った。その結果、比較例1との比較では、10人中9人は実施例2の白金コロイド含有水溶液のほうがよりおいしく飲みやすいと判定し、残る1人はいずれも同等と判定した。比較例2との比較では、10人全員が実施例2の白金コロイド含有水溶液のほうがよりおいしく飲みやすいと判定した。
【0025】
[実施例3]
大豆由来サポニンを用いた白金コロイド含有水溶液の調製
1.白金コロイド含有水溶液の調製
以下の試薬を使用し、実施例1と同様にして白金コロイド含有水溶液を調製した。
【表3】

サポニンAZ(株式会社J−オイルミルズ)は、非遺伝子組換え大豆胚芽からエタノールで抽出・精製した食品素材で、大豆サポニン含有量84.2%である。
【0026】
白金濃度は250ppmを指定して調整した。得られた白金コロイド含有水溶液の白金濃度(Pt)は260ppmであり、平均粒径は2〜3nmであった。ゼータ電位は−44mVであった。
【0027】
2.官能検査
実施例1と同様にして、実施例3ならびに比較例1および2の白金コロイド含有水溶液について盲検法により味覚検査を行った。その結果、10人全員が、実施例3の白金コロイド含有水溶液のほうが比較例1および2の白金コロイド含有水溶液よりもおいしく飲みやすいと判定した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レシチンまたはサポニンの存在下で金属イオンを還元することにより金属コロイド含有水溶液を製造する方法。
【請求項2】
レシチンが大豆由来である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
サポニンが大豆、茶葉または茶種子由来である、請求項1記載の方法。
【請求項4】
金属が白金、銀または金である、請求項1記載の方法。
【請求項5】
金属が白金である、請求項4記載の方法。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載の方法により製造される金属コロイド含有水溶液。

【公開番号】特開2008−169151(P2008−169151A)
【公開日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−4450(P2007−4450)
【出願日】平成19年1月12日(2007.1.12)
【出願人】(396020408)アイノベックス株式会社 (4)
【Fターム(参考)】