説明

レジオネラ属菌の検出方法および蛍光物質

【課題】簡便な方法でより迅速にレジオネラの測定ができるようにする。
【解決手段】レジオネラ属菌の検出対象の試料を水に浸す。対象となるレジオネラ属菌は、レジオネラニューモフィラである。次に、水に浸した試料に励起光を照射する。励起光として波長254nmの光(紫外線)を照射する。次に、水に浸した試料に上述したように励起光を照射したことにより発せられる発光(蛍光)を検出する。波長346nmの蛍光が検出されれば、試料にレジオネラニューモフィラが存在しているものと判定(同定)できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レジオネラ属菌を迅速に検出する検出方法および蛍光物質に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、細菌による感染症が多数報告されている。この中には、死に至る場合もあり、対策と対策の重要性が認識されている。中でも、レジオネラ(レジオネラ属菌)は、クーラーの冷却塔水、噴水や雑用水中に生存し、エアロゾルが生じた際に人に吸引され、人に肺炎などのレジオネラ症を発症させることが知られている(非特許文献1参照)。
【0003】
近年、多くの温泉付き旅館・ホテルでは、慢性的な温泉の元湯量不足を解消するために、循環ろ過式浴槽を用い、一度使用した浴槽水を循環ろ過して再度浴槽水として使用している。レジオネラ属菌は、例えば、アメーバーに寄生して増殖する。このアメーバーが、浴槽などの表面に形成されるバイオフィルムに付着して生息しており、このような環境で増殖したレジオネラが、レジオネラ症の感染源となる。
【0004】
西暦2000年から2002年にかけて、石岡市、浜松市、日向市、東郷町などで温泉利用客がレジオネラに集団感染して社会問題となった。現在、温泉・公衆浴場を営業している業者には、少なくとも年に1回のレジオネラの菌数測定検査が義務づけられている。非特許文献2に、全国各地の温泉水に含まれるレジオネラの検査結果が報告されている。この報告の中で用いられているレジオネラ属菌の測定は、次のとおりである。
【0005】
試料200mlを、6000rpm・30分間の遠心分離により1mリットルに濃縮する。次いで、濃縮した試料に、等量の0.2MのHCl−KCl溶液(pH2.2)を用いて酸処理(15分間)を行う。この後、WYOα寒天培地およびGVPCα寒天培地に各々0.1mlずつ滴下し、培地全体にコンラージ棒で塗抹し、これらを37℃で7日間培養する。この培養の後、寒天培地の上でレジオネラ属菌を疑う集落を釣菌し、これを、血液寒天培地とBCYEα寒天培地の2分割平板培地に塗抹し、純培養と同時にシステイン要求性試験を行う。グラム陰性の長桿菌で血液寒天培地には発育せず、BCYEα寒天培地に発育した菌株を、レジオネラ属菌とする。また、ラテックス凝集反応、免疫血清凝集反応、およびDNA−DNAハイブリダイゼーションにより、菌種の同定を行う。
【0006】
また、特許文献1には、迅速な細菌の濃縮を行うため、電気泳動と走化性の両方を利用する技術が示されている。この技術では、多孔質膜を電極で挟んで電荷を付与することで、多孔質膜に電位および走化性をもたらす化学物質の濃度勾配を形成し、細菌を移動させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−262865号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】「新版 レジオネラ症防止指針」、財団法人 ビル管理教育センター、5刷、pp.3−17,平成15年5月。
【非特許文献2】古畑 勝則 他、「温泉水からのレジオネラ属菌の分離状況」、感染症学雑誌、第78巻、第8号、pp.710−716、2004年。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上述したレジオネラの分析方法では、複雑で特殊な手順を踏む必要があり、レジオネラの検出に多数の器材および装置を必要としている。また、電気泳動と走化性を利用した技術では、迅速な検出を実現可能としているが、細菌を移動させる機構の他に、溶液を撹拌する機械や、微細領域に電界をかけて電気泳動を使用することにより生じる発熱を抑える冷却機構が別途に必要となる。このため、装置の小型化および測定手順の簡易性を実現することが容易ではない。このように、現状では、温泉・公衆浴場などで簡便にレジオネラの検出(測定)を行うことができず、測定の回数を増やして安全性を高めることの障害となっている。
【0010】
本発明は、以上のような問題点を解消するためになされたものであり、簡便な方法でより迅速にレジオネラの測定ができるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係るレジオネラ属菌の検出方法は、レジオネラニューモフィラの検出対象の試料を水に浸す第1ステップと、水に浸した試料より発せられる蛍光を検出する第2ステップとを少なくとも備える。なお、蛍光は、レジオネラニューモフィラより産生された蛍光物質より発生られたものであり、第2ステップでは、波長254nmの光を励起光として発光する波長346nmの蛍光を検出すればよい。
【0012】
また、本発明に係る蛍光物質は、水に浸されたレジオネラニューモフィラより産生されたシデロフォアであり、このシデロフォアは、キノロン環にケトン基,カルボキシル基、および複数の水酸基が結合した化合物である。
【発明の効果】
【0013】
以上説明したように、本発明によれば、レジオネラニューモフィラの検出対象の試料を水に浸した後、試料より発せられる蛍光を検出するようにしたので、簡便な方法でより迅速にレジオネラの測定ができるようになるという優れた効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施の形態におけるレジオネラ属菌の検出方法を説明するためのフローチャートである。
【図2】レジオネラニューモフィラが水に浸すことで蛍光物質を産生する状態を説明するための説明図である。
【図3】水に浸したレジオネラニューモフィラにより産生されたシデロフォアの波長254nmの励起光による蛍光の状態を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について図を参照して説明する。図1は、本発明の実施の形態におけるレジオネラ属菌の検出方法を説明するためのフローチャートである。本実施の形態におけるレジオネラ属菌の検出方法は、ステップS101で、レジオネラ属菌の検出対象の試料を水に浸す。対象となるレジオネラ属菌は、レジオネラニューモフィラである。ここで、試料を水に浸してから次のステップに移行するまでに、例えば、24時間放置すればよい。この放置時間は、以降に示す励起光の強度が測定可能な状態にまで達する時間とすればよい。例えば、レジオネラニューモフィラが存在している試料を水に浸してから、励起光の強度が測定可能な状態になるまでの時間を予め計測しておけばよい。
【0016】
次に、ステップS102で、水に浸した試料に励起光を照射する。励起光として波長254nmの光(紫外線)を照射する。例えば、波長254nmのレーザ光を照射する。対象となるレジオネラ属菌であるレジオネラニューモフィラは、後述するように、水に浸すことで、波長254nmの励起光により波長346nmの蛍光を発する蛍光物質を産生するようになる。
【0017】
次に、ステップS103で、水に浸した試料に上述したように励起光を照射したことにより発せられる発光(蛍光)を検出する。ステップS103における蛍光の測定で、波長346nmの蛍光が検出されれば、試料にレジオネラニューモフィラが存在しているものと判定(同定)できる。このように、本実施の形態によれば、試料を所定時間水に浸した後、波長346nmの蛍光の有無を確認することで、レジオネラニューモフィラが同定できるので、複雑で特殊な手順を踏む必要が無く、多数の器材および装置を必要とせずに、簡便な方法でより迅速にレジオネラの測定ができるようになる。
【0018】
図2に示すように、レジオネラニューモフィラ201は、水に浸すことにより、蛍光物質202をより多く産生するようになる。このように水に浸すことで、レジオネラニューモフィラ201に多くの蛍光物質202を産生させた状態で、ここに紫外線(254nm)を照射すると、レジオネラニューモフィラ201が生産した蛍光物質202が励起状態の蛍光物質202aとなり、蛍光203を発するようになる。
【0019】
よく知られているように、細菌などの微生物は、所定の条件下で、シデロフォアと呼ばれる物質を産生する。シデロフォアは、鉄を含むか、または、鉄と結合した比較的低分子量の有機化合物であり、三価の鉄イオン(Fe3+)と強い親和性(シデロフォア活性)がある。レジオネラニューモフィラもシデロフォアとして上述した蛍光物質を産生するものと考えられる。発明者らの実験により、レジオネラニューモフィラを水に浸すことにより、シデロフォア(蛍光物質)の産生が促進されることが、初めて見いだされた。
【0020】
ところで、レジオネラ属菌は、細菌の研究による報告では、現在50種が報告され、菌種特有の蛍光物質について多くの研究報告がなされている。例えば、レジオネラ属のなかで、「L.snisa」,「L.bozemanii」,「L.dumoffii」,「L.gormanii」,「L.parisiensis」,「L.tucsonensis」,「L.cherii」,「L.steigerwaltii」が、青白い蛍光を発することが知られている。また、「L.erythra」,「L,rubrilucens」,「L.taurinensis」が赤い蛍光を発することが知られている。
【0021】
これらに対し、自然界で最も優勢で、人に感染することの多い「L.pneumophila」:レジオネラニューモフィラについては、自身が蛍光を発することがないとされている。これに対し、上述したように、発明者らの検討により、レジオネラニューモフィラについては、水に浸すことで、蛍光を発するようになることが初めて確認された。
【0022】
次に、レジオネラニューモフィラが産生する物質(蛍光物質)に関する分析結果について説明する。この分析では、スペクトロメータ(分光計)を用いる。水に浸したレジオネラニューモフィラにより産生された物質(シデロフォア)に、波長254nmの光を照射すると、図3に示すように、波長346nmの青色発光を示すことが測定される。この結果より、水に浸したレジオネラニューモフィラにより産生されたシデロフォアは、蛍光物質であることがわかる。
【0023】
さらに、この蛍光物質についてマススペクトル分析を行うと、キノロン環を基本とし、ケトン基,カルボキシル基、および複数の水酸基が結合した化合物であることが確認された。また、クロムアズロールS(chrome azurol S)を指示薬とした分析(Chrome Azurol S Assay)により、この蛍光物質にシデロフォア活性が確認された。
【0024】
これまでは、前述したように、レジオネラニューモフィラは、蛍光物質を産生しないとされていた。また、レジオネラニューモフィラが産生する物質には、シデロフォア活性が認められるものの、このシデロフォアの本体は不明であった。これに対し、発明者らの研究により、レジオネラニューモフィラは、水に浸すことで、蛍光を発するシデロフォアを産生することが見いだされ、この効果が確認された。水に浸されたレジオネラニューモフィラがより多く産生するようになる上述の蛍光物質は、発明者らにより、新規に見いだされたものである。
【0025】
従来のレジオネラニューモフィラの検出では、菌を培地で培養する必要があり、この際に鉄分がないと菌が増殖しないため、鉄を添加している。これに対し、発明者らは、鉄が不足した際に発生する現象を見るために、鉄を不足させる実験を行った。この実験では、レジオネラニューモフィラを水に浸すことで、鉄が不足する環境とした。この結果、前述したように、蛍光物質の増加が確認された。このことより、レジオネラニューモフィラは、この周囲に十分に鉄が存在すると、蛍光物質を産生しないようになるものと考えられる。また、このため、蛍光の発光が確認されなかったものと考えられる。
【0026】
また、上述したレジオネラニューモフィラにより産生される蛍光物質の蛍光波長は、この蛍光物質に特有であり、この波長の蛍光を測定することにより、レジオネラニューモフィラを同定することが可能となる。
【符号の説明】
【0027】
201…レジオネラニューモフィラ、202…蛍光物質、202a…蛍光物質、203…蛍光。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レジオネラニューモフィラの検出対象の試料を水に浸す第1ステップと、
水に浸した前記試料より発せられる蛍光を検出する第2ステップと
を少なくとも備えることを特徴とするレジオネラ属菌の検出方法。
【請求項2】
請求項1記載のレジオネラ属菌の検出方法において、
前記蛍光は、レジオネラニューモフィラより産生された蛍光物質より発生られたものであることを特徴とするレジオネラ属菌の検出方法。
【請求項3】
請求項2記載のレジオネラ属菌の検出方法において、
前記第2ステップでは、波長254nmの光を励起光として発光する波長346nmの蛍光を検出する
ことを特徴とするレジオネラ属菌の検出方法。
【請求項4】
水に浸されたレジオネラニューモフィラより産生されたシデロフォアであることを特徴とする蛍光物質。
【請求項5】
請求項4記載の蛍光物質において、
前記シデロフォアは、キノロン環にケトン基,カルボキシル基、および複数の水酸基が結合した化合物であることを特徴とする蛍光物質。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−252747(P2010−252747A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−109253(P2009−109253)
【出願日】平成21年4月28日(2009.4.28)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【出願人】(000102739)エヌ・ティ・ティ・アドバンステクノロジ株式会社 (265)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【Fターム(参考)】