説明

レジオネラ菌抗菌剤

【課題】レジオネラ菌を対象とした抗菌剤を提供すること。
【解決手段】上記課題は、アントラニル酸またはその誘導体、あるいは、それらのリボースないしデオキシリブロース誘導体にレジオネラ菌を殺傷する能力があることを予想外に見出したことによって解決した。本発明は、比較的簡単な構造を有する化合物を用いてレジオネラ菌を殺傷しうる。また、本発明の殺菌性物質は、レジオネラに対し特異的な殺菌性を有するものであることが確認された。即ち、本発明の殺菌性物質はレジオネラを選択的に殺菌する安全な殺菌剤として極めて有用なものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗菌剤の分野に関する。より詳細には、レジオネラ菌抗菌剤に関する。
【背景技術】
【0002】
レジオネラ菌は、レジオネラ属に属する真正細菌の総称であり、グラム陰性の桿菌である。レジオネラ肺炎(在郷軍人病)等多くのレジオネラ症を引き起こす種を含む。レジオネラは環境中に普通に存在する菌であり、通常では感染症を引き起こすことは少ない。しかしながら感染しやすい環境に示すような環境下では、特に高齢者等抵抗力の少ない人々にとって、主にレジオネラ属の一種、Legionella pneumophilaが、ヒトのレジオネラ感染症(レジオネラ肺炎およびポンティアック熱)の原因になる。
【0003】
レジオネラ属細菌はまた、冷却水系に侵入して増殖すると、配管内などにスライムが付着して配管が閉塞し、あるいは熱交換率が低下する等のスライム障害の原因ともなり得る。レジオネラ症を予防するために必要な措置に関する技術上の指針告示(厚生労働省告示第264号)として、このような事態は、冷却水の交換、消毒、冷却設備の清掃等を行うことにより防止することができるとされている。しかしながら、消毒については塩素系薬剤について例示しているだけで、この場合、遊離塩素濃度の維持管理に多大な労力を費やすことになるため、比較的簡便に実施可能な殺菌剤による消毒が好ましいとされる。
【0004】
そして、細胞内寄生菌であるため、細胞内への浸透性の悪い薬剤の効きが弱い。またβ−ラクタマーゼを産生するものが多いため、ペニシリン、セフェム系の抗菌薬は効かない。食細胞内に移行性の高いマクロライド系、ニューキノロン系、リファンピシン、テトラサイクリン系の抗菌薬を投与することが従来行われている。
【0005】
アントラニル酸(AA)およびそのアナログは、日和見感染菌Pseudomonas
aeruginosa(Pa)に対する抗菌効果が示唆されている(非特許文献1)。しかし、レジオネラ菌に対する抗菌性についての記載はなく、細胞内寄生菌との性質から、Paに対する効果から、レジオネラ菌に対する効果が予想できるともいえないので、示唆すらなされていないといえる。また、本発明者の知る限り、レジオネラ菌に対するアントラニル酸の抗菌性に言及している報告はない。
【0006】
非特許文献2は、アントラニル酸(AA)から合成されるオートインデューサー(AI)の合成がAAアナログにより阻害されることを記載する。しかし、レジオネラ菌に対する抗菌性についての記載はなく、示唆すらなされていない。
【0007】
非特許文献3は、植物ホルモンの誘導体インドール3プロピオン酸のLegionella pneumophila(Lp)に対する抗菌性に関する論文である。ここでは、トリプトファンが抗菌性を有すると記載されているに過ぎない。
【0008】
非特許文献4は、レジオネラ菌の殺傷に関する記載があるが、Staphylococcus warneriの作る抗レジオネラペプチドに関する記載があるに過ぎない。
【0009】
特許文献1は、レジオネラ産生抗菌物質を記載する。しかし、本文献では具体的な物質などは明らかにされていない。しかし、開示される内容は、疎水性低分子の集合体に過ぎず、複合的な効果が記載されるにすぎない。
【0010】
特許文献2は、レジオネラ属菌培養用透明培地に関するものであるが、レジオネラ菌の
殺傷に関する記載はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2000−053514号公報
【特許文献2】特許第4021969号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Lesic B.,et al.,PloS Pathog 2007、3(9):e126、1229−1239
【非特許文献2】Calfee MW,et al.,PNAS 2001,98:11633−11637
【非特許文献3】Mandelbaum−Shavit F et al.,Antimicrobial Agents and Cheotherapy 1991,35(12)2526−2530
【非特許文献4】Hechard Y et al.,FEMS Microbilogy Letters 252(2005),19−23
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、レジオネラ菌を殺傷しうる新規薬剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題は、アントラニル酸またはその誘導体にレジオネラ菌を殺傷する能力があることを予想外に見出したことによって解決した。
【0015】
したがって、本発明は以下を提供する。
【0016】
1つの局面では、本発明は、以下の式:
【0017】
【化1】

および
【0018】
【化2】

を有する化合物、ならびにそのリボシル誘導体およびデオキシリブロース誘導体からなる群より選択される少なくとも化合物、またはホスホ体、その塩もしくは溶媒和物を含む、
レジオネラ菌に対する抗菌剤を提供する。
【0019】
1つの実施形態では、前記化合物は少なくとも0.01mMの濃度で含まれる。
【0020】
別の実施形態では、前記化合物は0.1mM〜10mMの濃度で含まれる。
【0021】
別の実施形態では、前記化合物は1.0mM〜10mMの濃度で含まれる。
【0022】
別の実施形態では、前記化合物は、
【0023】
【化3】


【0024】
【化4】

である。
【0025】
このフルオロ誘導体は、以下のいずれかでありうる。
【0026】
【化5】

【0027】
別の実施形態では、本発明の抗菌剤は、さらなる抗菌物質を含む。
【0028】
別の実施形態では、本発明の抗菌剤は、固体または液状である。
【0029】
別の局面では、本発明は、本発明の上記抗菌剤を含む医薬組成物を提供する。
【0030】
別の局面では、本発明は、本発明の上記抗菌剤を含む物品を提供する。
【0031】
1つの実施形態では、前記抗菌剤が前記物品にコーティングされたものである。
【0032】
別の実施形態では、前記物品は、容器、風呂釜、手すり、歯ブラシ、フィルター、マスク、タイル、シャワーヘッド、風呂桶、デッキブラシ、ホースおよびネブライザーから選択される。
【0033】
別の実施形態では、前記抗菌剤は基剤として無機系コーティング剤、有機系コーティング剤およびワックスからなる群より選択される少なくとも1つを含む。
【0034】
別の局面では、本発明は、レジオネラ菌を抑制または殺傷する方法であって、請求項1〜7のいずれかに記載の抗菌剤を抑制または殺傷のための有効量で該レジオネラ菌と接触させる工程を包含する、方法を提供する。
【0035】
1つの実施形態では、前記接触は、0.7M未満の塩化ナトリウム(NaCl)の存在下で行われる。
【0036】
以下に、本発明の好ましい実施形態を示すが、当業者は本発明の説明および当該分野における周知慣用技術からその実施形態などを適宜実施することができ、本発明が奏する作用および効果を容易に理解することが認識されるべきである。
【発明の効果】
【0037】
本発明は、比較的簡単な構造を有する化合物を用いてレジオネラ菌を殺傷しうる。また、本発明の殺菌性物質は、レジオネラに対し特異的な殺菌性を有するものであることが確認された。即ち、本発明の殺菌性物質はレジオネラを選択的に殺菌する安全な殺菌剤として極めて有用なものである。従って、本発明の殺菌性物質は、当該殺菌性物質を有効成分とする殺菌剤組成物として用いることができ、かかる殺傷効果は、選択的であるという点顕著である。また、冷却水系統や加湿器のタンク内の水等を循環させて利用したり蓄えて利用したりすることによりレジオネラの増殖し易い環境下の水に添加する水処理剤、レジオネラ症の二次汚染を予防するための殺菌剤・除菌剤としての用途も期待できる
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下に本発明の好ましい形態を説明する。本明細書の全体にわたり、単数形の表現は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。従って、単数形の冠詞(例えば、英語の場合は「a」、「an」、「the」など、他の言語における対応する冠詞、形容詞など)は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。また、本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。したがって、他に定義されない限り、本明細書中で使用される全ての専門用語および科学技術用語は、本発明の属する分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。矛盾する場合、本明細書(定義を含めて)が優先する。
【0039】
(定義)
以下に本明細書において特に使用される用語の定義を列挙する。
【0040】
本明細書において「レジオネラ菌」とは、レジオネラ属に属する細菌が含まれる。種が特定されない場合は、Legionella sp.(本明細書では、特定の種の場合、L.***と標記することがある。)と表記する。本菌は、レジオネラ属に属する真正細菌の総称であり、グラム陰性の桿菌であり、レジオネラ肺炎(在郷軍人病とも呼ばれる)等多くのレジオネラ症を引き起こす種を含み、50種類程度の種と、70種類の血清型が知られた通性細胞内寄生性菌である。レジオネラ属菌は2〜5μm位の好気性グラム陰性
の桿菌で、一本以上の鞭毛を持っている。レジオネラは通性細胞内寄生性であることから、これらの場所ではアメーバなどの原生生物など他の生物の細胞内に寄生し、あるいは藻類と共生しており、これによってさまざまな環境での生育が可能になっているといわれている。レジオネラを含んだエアロゾルがヒトに吸入されると、レジオネラは肺胞に到達し、そこで肺胞のマクロファージに貪食される。しかし、レジオネラは通性細胞内寄生性であり、その殺菌機構を逃れてマクロファージ内で増殖することが可能である。レジオネラは環境中に普通に存在する菌であり、通常では感染症を引き起こすことは少ない。しかしながら感染しやすい環境に示すような環境下では、特に高齢者等抵抗力の少ない人々にとって、主にレジオネラ属の一種、L.pneumophilaが、ヒトのレジオネラ感染症(レジオネラ肺炎およびポンティアック熱)の原因になる。
【0041】
本発明が対象とする細菌は、レジオネラ属の細菌である限りにおいて特に限定されず、処理が必要な菌種であればいずれも範囲に入ることが理解される。具体的にはLegionella pneumophila(例えば、血清グループ1、血清グループ2、血清グループ3、血清グループ4、血清グループ5、血清グループ6、血清グループ7、血清グループ8)、Legionella dumoffii、Legionella longbeacheae、Legionella micdadei、Legionella oakridgensis、Legionella feelei、Legionella anisa、Legionella sainthelensi、Legionella bozemanii、Legionella gormanii、Legionella wadsworthii、Legionella jordanisおよびLegionella gormanii等を対象とすることができる。
【0042】
本明細書において「アントラニル酸」等の「リボシル誘導体」とは、アントラニル酸またはその誘導体(例えば、フルオロ誘導体(すなわち、アントラニル酸において1または数個の水素がフッ素に置換された誘導体をいい、例えば、3−フルオロアントラニル酸、4−フルオロアントラニル酸、5−フルオロアントラニル酸または6−フルオロアントラニル酸などをいう。)におけるアントラニル酸のアミノ基がリボースで置換された誘導体をいう。たとえば、リボシルアントラニレート、リボシル3−フルオロアントラニレート、リボシル4−フルオロアントラニレート、リボシル5−フルオロアントラニレート、リボシル6−フルオロアントラニレートなどを挙げることができる。
【0043】
本明細書において「アントラニル酸」等の「デオキシリブロース誘導体」とは、アントラニル酸またはその誘導体(例えば、3−フルオロアントラニル酸、4−フルオロアントラニル酸、5−フルオロアントラニル酸または6−フルオロアントラニル酸など)におけるアントラニル酸のアミノ基がデオキシリブロースで置換された誘導体をいう。例えば、カルボキシフェニルアミノデオキシリブロース(CPADR)、3−フルオロカルボキシ
フェニルアミノデオキシリブロース、4−フルオロカルボキシフェニルアミノデオキシリブロース、5−フルオロカルボキシフェニルアミノデオキシリブロース、6−フルオロカルボキシフェニルアミノデオキシリブロース、などを挙げることができる。
【0044】
本明細書において「ホスホ体」とは、アントラニル酸およびそのフルオロ誘導体、ならびにそれらのリボース誘導体およびデオキシリブロース誘導体にリン酸基が結合したものをいう。リン酸基は1つ結合してもよく、あるいは、複数、例えば、2つ、3つ等が結合してもよい。
【0045】
本明細書において有効成分である化合物は、塩、好ましくは薬学的に受容可能な塩を包含する。例えば、アルカリ金属(リチウム、ナトリウムまたはカリウム等)、アルカリ土類金属(マグネシウムまたはカルシウム等)、アンモニウム、有機塩基およびアミノ酸との塩、または無機酸(塩酸、硫酸、硝酸、臭化水素酸、リン酸またはヨウ化水素酸等)、
および有機酸(酢酸、トリフルオロ酢酸、クエン酸、乳酸、酒石酸、シュウ酸、マレイン酸、フマル酸、マンデル酸、グルタル酸、リンゴ酸、安息香酸、フタル酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸またはエタンスルホン酸等)との塩が挙げられる。特に塩酸、リン酸、酒石酸またはメタンスルホン酸等が挙げられる。これらの塩は、通常行われる方法によって形成させることができる。
【0046】
本明細書において、「溶媒和物」とは、溶質(例えば、本発明において使用される化合物)および溶媒によって形成される種々の化学量論量の複合体をいう例えば有機溶媒との溶媒和物、水和物等を包含する。水和物を形成する時は、任意の数の水分子と配位していてもよい。本発明の目的のためのかかる溶媒は、溶質の生物学的活性を干渉しなければよい。適当な溶媒の例は、限定するものではないが、水、メタノール、エタノールおよび酢酸を包含する。
【0047】
本明細書中で使用される場合、「有効量」とは、例えば当業者によって、目的とする組織、系、動物またはヒトの生物学的または医学的応答を引き出す薬物または薬剤の量を意味する。さらに、「治療上有効量」なる語は、かかる量を受けていない対応する対象と比べて、疾患、障害または副作用の改善された治療、治癒、予防または改善、あるいは疾患または障害の進行率の減少をもたらすいずれかの量を意味する。この用語は、また、その範囲内に、正常な生理学的機能を増幅するのに有効な量を包含する。
【0048】
本明細書において「レジオネラ菌を抑制する」とは、レジオネラ菌の静菌、すなわち細菌発育阻止を意味する。
【0049】
本明細書において「レジオネラ菌を殺傷する」とは、レジオネラ菌の殺菌、すなわちレジオネラ菌を死滅させることを意味する。
【0050】
本明細書における「抗菌」とは、レジオネラ菌についていうとき、静菌および殺菌などを含め、菌の増殖および生育に対するネガティブな作用全般を指す。詳細に説明するときは、菌の「増殖」とは、菌が増えることをいい、菌の「生育」とは、生き続けることをいう。本発明は、いずれの局面でも抑制作用または阻害作用を有し得、増殖を抑制する場合は「増殖抑制」または単に「抑制」といい、「生育」を阻害する場合は「殺傷」ともいう。
【0051】
本明細書において「抗菌剤」とは、当該分野において使用されるもっとも広義の意味を有し、抗菌作用を有する薬剤をいい、微生物および超微生物の破壊または成長阻害を起こす薬剤、菌の増殖抑制を有する薬剤、菌の生育を抑制する薬剤、地上製品における殺菌剤のほか、医薬品(例えば、抗生物質製剤など)等も包含される。
【0052】
本明細書において「レジオネラ関連の疾患、障害または状態」とは、レジオネラ菌に関連する任意の疾患、障害または状態をいう。レジオネラ菌の疾患としては、たとえば、呼吸器感染症(レジオネラ肺炎;在郷軍人病)、ポンティアック熱が挙げられる。レジオネラ菌関連の障害または状態としては、レジオネラ肺炎に関連するものとして、全身性倦怠感、頭痛、食欲不振、筋肉痛などの症状に始まり、乾性咳嗽(2〜3日後には、膿性〜赤褐色の比較的粘稠性に乏しい痰の喀出)、高熱、悪寒、胸痛が見られるようになる。傾眠、昏睡、幻覚、四肢の振せんなどの中枢神経系の症状が早期に出現するのも本症の特徴とされる。ポンティアック熱に関連するものとして、突然の発熱、悪寒、筋肉痛で始まるが、一過性で治癒するという特徴が挙げられる。本発明は、これらに限定されず、このほかにもレジオネラに関連する疾患、障害、症状および状態を処置または予防することができる。
【0053】
本明細書において「さらなる抗菌物質」とは、本発明の抗菌剤以外の任意の抗菌物質を意味する。したがって、このような抗菌物質はレジオネラ菌に対する抗菌物質であってもよく、レジオネラ菌以外に対する抗菌物質であってもよい。そのような抗菌物質としては、β−ラクタム類(例えば、アンピシリン、セフタジジム、メロペネム)、キノロン類(例えば、ノルフロキサシン、シプロフロキサシン)、糖ペプチド類(例えば、バンコマイシン)、マクロライド類(例えば、エリスロマイシン)、オキサゾリジノン類(例えば、リネゾリド)、ペプチド系抗生物質(例えば、マガイニンII)、リポペプチド類(例えば、ポリミキシン、バシトラシン)、ニトロイミダゾール類(例えば、メトロニダゾール)、アンサマイシン類(例えば、リファンピン)、アゾール類(例えば、フルコナゾール)、D−シクロセリン、リンコサミド類(例えば、クリンダマイシン)、ムピロシン、ストレプトグラミン類(例えば、ダルホプリスチン、キヌプリスチン)、ホスホマイシン、アミノグリコシド類(例えば、ゲンタマイシン)、スルホンアミド類(例えば、スルホメトキサゾール)、トリメトプリム、テトラサイクリン類(例えば、チギルサイクリン)、ノボビオシン、クロラムフェニコール、モノバクタム類、およびこれらの抗生物質の合成誘導体などを挙げることができる。さらなる抗菌物質としては、抗生物質だけでなく、一般的な抗菌物質である、エタノール、イソプロパノール等のアルコール類、有機酸、次亜塩素酸、二酸化塩素に代表される無機塩素系殺菌剤、さらには、銀イオン、光触媒性抗菌物質である酸化チタン、酸化亜鉛等を含む、およそ抗菌活性を有するものであれば、いかなる抗菌物質であってもよいことが理解され、当業者は目的に応じてさらなる抗菌物質を適切に選択することができる。
【0054】
(好ましい実施形態の説明)
以下に好ましい実施形態の説明を記載するが、この実施形態は本発明の例示であり、本発明の範囲はそのような好ましい実施形態に限定されないことが理解されるべきである。当業者はまた、以下のような好ましい実施形態および実施例における実証例を参考にして、本発明の範囲内にある改変、変更などを容易に行うことができることが理解されるべきである。
【0055】
(レジオネラ菌抗菌剤)
1つの局面において、本発明は、以下の式:
【0056】
【化6】

および
【0057】
【化7】

【0058】
(フルオロ誘導体)を有する化合物、そのホスホ体、ならびにそのリボシル誘導体およびデオキシリブロース誘導体からなる群より選択される少なくとも化合物を含む、レジオネラ菌に対する抗菌剤を提供する。
【0059】
ここで、上記フルオロ誘導体は、
【0060】
【化8】

またはそのリボシル誘導体もしくはデオキシリボシル誘導体であり得る。これらの化合物は、確定試験をしたものについては、レジオネラ菌に対する抗菌活性が見出された。以下のその代表的な構造式を示す。
【0061】
【化9】

【0062】
【化10】

【0063】
本願発明の上記リボース誘導体は、以下のように表すこともできる(左からアントラニル酸のリボース誘導体およびそのフルオロ誘導体)。
【0064】
【化11】

【0065】
本願発明の上記デオキシリブロース誘導体は、以下のように表すこともできる(左からアントラニル酸のデオキシリブロース誘導体およびそのフルオロ誘導体)。
【0066】
【化12】

【0067】
本発明の上記化合物は、細菌などの生体内では、リン酸化されやすい性質を有することから、上記化合物がリン酸化されたホスホ体もまた、同様に、抗菌活性を発揮すると推測され、このようなホスホ体もまた本発明の範囲内にあることが理解される。
【0068】
本発明において、本発明の有効成分である化合物は、レジオネラ菌を少なくとも増殖を抑制する濃度であれば使用することができ、通常は、生育を抑制する濃度でも使用することができ、少なくとも0.01mMの最終濃度で含まれるがこれに限定されず、例えば、少なくとも0.01μM、少なくとも0.1μM、少なくとも1μM、あるいは少なくとも0.02mM、少なくとも0.03mM、少なくとも0.04mM、少なくとも0.05mM、少なくとも0.06mM、少なくとも0.07mM、少なくとも0.08mM、少なくとも0.09mM、少なくとも0.1mM、あるいはこれらの間の任意の値でありうる。他方で、本発明の有効成分である化合物は、10mM以下、あるいは9mM以下、8mM以下、7mM以下、6mM以下、5mM以下、4mM以下、3mM以下、2mM以下、1mM以下、あるいはこれらの間の任意の値で使用されうる。レジオネラ菌は殺傷または増殖抑制をするが、他の代表的な菌を殺傷または増殖抑制をしない濃度での使用が望まれるときに使用されうる。
【0069】
1つの実施形態では、例えば、0.1mM〜10mM、1.0mM〜10mM、0.1
mM〜1mMなどの範囲で用いることができるがこれらに限定されない。なぜなら、この濃度範囲で、レジオネラ菌の殺傷または増殖抑制が見られ、他の代表的な細菌の殺傷または増殖抑制が見られなかったことが実施例において実証されているからであり、その点で特異的ないし選択的な抗菌剤として使用することができる可能性があるからであるが、本発明はこれに限定されないことが理解される。代表的な実施形態では、下限については、0.01mM以上等でもあり得、上限については、10mM以下であっても、10mM以上であってもよいことが理解される。
【0070】
1つの実施形態において、本発明は、その有効成分として好ましくは、アントラニル酸、またはそのフルオロ誘導体を用いることができる。理論に束縛されることを望まないが、アントラニル酸、またはそのフルオロ誘導体のほうが、それらのリボシル誘導体より、安定性が高いからである。
【0071】
1つの実施形態において、本発明の抗菌剤は、さらなる抗菌物質を含みうる。本発明の抗菌剤は、レジオネラ菌に対する特異性が高く、他の細菌に対する殺傷性または増殖抑制性が低いことから、レジオネラ菌に対する選択的な殺傷または増殖抑制を行うことができる。そして、他の細菌をも殺傷したいときは、その細菌にスペクトルを有する抗菌物質を本発明の抗菌剤に混ぜることによって、レジオネラ菌およびその他の菌に対する二重に特異的な抗菌剤を生産することができる。このような抗菌剤は、生存させたい菌が存在する場合に有利である。例えば、本発明では、有用菌であるLactobacillus(Lactobacillus plantarum)に対して、10mMで効果が示されなかったことが実証されている。したがって、このほかの乳酸菌、例えば、Lactobacillus acidophilus、Lactococcus類(例えば、Lact
ococcus lactis等)を有用菌として挙げることができる。
【0072】
(殺菌剤)
本発明は、殺菌剤として使用することができる。殺菌剤としては、例えば、殺菌スプレーなどの液状品、粉末、錠剤(タブレット)などを挙げることができる。
【0073】
このような殺菌剤は、本願発明の有効成分である、アントラニル酸などを、適宜の媒体に溶解して調製することができる。使用されうる媒体としては例えば、水、有機溶媒、アルコール、脂質、脂肪酸などを挙げることができる。
【0074】
これを適宜の容器に充填することができる。このような用途は、当該分野において使用されている任意の容器を用いることができる。スプレーであれば、アルミ缶、スチール缶を用いることができ、ジメチルエーテル、二酸化炭素、代替フロンなどを充填してスプレーとすることができる。
【0075】
(殺菌または静菌の方法)
本発明は、レジオネラ菌を抑制または殺傷する方法を提供する。この方法は、本発明の抗菌剤をレジオネラ菌と接触させる工程を包含する。この接触は、例えば、本発明の抗菌剤と必要に応じて適宜の媒体とを含む組成物を抑制または殺傷したレジオネラ菌が存在すると考えられる場所に噴霧ないし塗布することによって達成することができる。このほか、粉末殺菌剤としては、目的に合わせた適当な賦形剤加えるかそのままで、嘔吐物や貯水槽(浴槽)の殺菌に用いることができる。タブレット状の殺菌剤は、目的に合わせた適当な賦形剤を添加することにより錠剤形状にし、徐放性を制御した上で、循環水に投薬することで持続的な殺菌効果を期待できる。
【0076】
液状品殺菌剤や粉末殺菌剤はそれらの特性に適合する塗料、コーティング剤(無機または有機)、ワックスなどに添加することで、コーティング剤(無機または有機)、ワックスなどに抗菌性を付与することができる。)。また、1つの実施形態では、接触は、0.7M未満、あるいは0.9Mの塩化ナトリウム(NaCl)未満の存在下で行われる。これらの濃度より高い濃度では、他の細菌に対する静菌または殺菌効果が見られる可能性があるからである(非特許文献1)。このNaCl濃度は、他の浸透圧に影響を与える塩であれば、同様の静菌または殺菌効果が見られる可能性があることから、本発明の抗菌剤において選択性が重要視される場合は、このような濃度を避けることが有利である。他方で、他の菌を殺傷する必要がある場合は、NaClなどの浸透圧に影響を与える塩を加えて殺菌剤とすることができる。そのような浸透圧に対する影響を与える塩としては、塩化ナトリウム以外に塩化カリウム(KCl)等を挙げることができる。また、他の菌としては、例えば、P.aeruginosa,B.thailandensis,Y.pseudotuberculosis,S.aureus,B.subtilisなどの菌を挙げることができる(非特許文献1)。
【0077】
(抗菌剤が塗布された物品)
本願発明は、本願発明の抗菌剤が塗布またはコーティングされた物品を提供する。このような物品は、本願発明の抗菌剤を直接物品に塗布するか、または適宜の基剤に混合して、その媒体を目的とする物品に塗布することによって生産することができる。そのような基剤としては、塗料、無機/有機のコーティング剤、ワックスなど広く一般的に用いられる基剤であればどのようなものでも使用することができ、例えば、アクリルポリマー、ポリエチレングリコール、シリコン系コーティング剤を挙げることができる。そのような物品としては、代表的には、衛生用品分野の物品、例えば、容器、風呂釜、手すり、歯ブラシ、空調機のフィルター、マスク、浴室のタイル、シャワーヘッド、風呂桶、デッキブラシ、ホース、24時間風呂循環器のフィルター、ネブライザー、加湿器のタンク、カーテ
ン、シーツ(寝具)などを挙げることができるがそれらに限定されない。基剤と物品との組み合わせは、濡れ性などを考慮して、当業者は、公知技術を考慮して適宜の組み合わせを選択することができる。樹脂系コーティング剤または有機系コーティング剤としては、ウレタン、フッ素樹脂、ポリエチレン、ナイロン、エポキシ樹脂などを挙げることができる。無機系コーティング剤としては、シリコンコーティング剤、酸化チタンコーティング剤、銀コーティング剤、セラミックコーティング剤などを挙げることができる。ワックスは、パラフィンワックス(石油系ワックス)、合成ワックスなどを挙げることができる。また、コーティング剤はその耐久性から、本発明において、塗料タイプのものおよびスプレーに用いる液状のものを利用することができる。塗料としては水性塗料、油性塗料、粉末塗料などを挙げることができる。なお、塗料は混合物であり、上記コーティング剤として列挙した物質等を含みうることが理解される。
【0078】
(治療/予防のための投与および組成物)
本発明は、被験体への有効量の本発明の化合物を含む成分または薬学的組成物の投与によるレジオネラ関連の疾患、障害または状態の処置、阻害および予防の方法を提供する。好ましい局面において、化合物を含む成分は実質的に精製されたものであり得る(例えば、その効果を制限するかまたは望ましくない副作用を生じる物質が実質的に存在しない状態が挙げられる)。被験体は好ましくは、ウシ、ブタ、ウマ、ニワトリ、ネコ、イヌなどの動物が挙げられるがそれらに限定されない動物であり、そして好ましくは哺乳動物であり、そして最も好ましくはヒトである。
【0079】
本発明の化合物が医薬として使用される場合、そのような組成物は、薬学的に受容可能なキャリアなどをさらに含み得る。本発明の医薬に含まれる薬学的に受容可能なキャリアとしては、当該分野において公知の任意の物質が挙げられる。
【0080】
そのような適切な処方材料または薬学的に受容可能なキャリアとしては、抗酸化剤、保存剤、着色料、風味料、および希釈剤、乳化剤、懸濁化剤、溶媒、フィラー、増量剤、緩衝剤、送達ビヒクル、希釈剤、賦形剤および/または薬学的アジュバント挙げられるがそれらに限定されない。代表的には、本発明の医薬は、単離された多能性幹細胞、またはその改変体もしくは誘導体を、1つ以上の生理的に受容可能なキャリア、賦形剤または希釈剤とともに含む組成物の形態で投与される。例えば、適切なビヒクルは、注射用水、生理的溶液、または人工脳脊髄液であり得、これらには、非経口送達のための組成物に一般的な他の物質を補充することが可能である。
【0081】
本明細書で使用される受容可能なキャリア、賦形剤または安定化剤は、レシピエントに対して非毒性であり、そして好ましくは、使用される投薬量および濃度において不活性であり、例えば、リン酸塩、クエン酸塩、または他の有機酸;アスコルビン酸、α−トコフェロール;低分子量ポリペプチド;タンパク質(例えば、血清アルブミン、ゼラチンまたは免疫グロブリン);親水性ポリマー(例えば、ポリビニルピロリドン);アミノ酸(例えば、グリシン、グルタミン、アスパラギン、アルギニンまたはリジン);モノサッカリド、ジサッカリドおよび他の炭水化物(グルコース、マンノース、またはデキストリンを含む);キレート剤(例えば、EDTA);糖アルコール(例えば、マンニトールまたはソルビトール);塩形成対イオン(例えば、ナトリウム);ならびに/あるいは非イオン性表面活性化剤(例えば、Tween、プルロニック(pluronic)またはポリエチレングリコール(PEG))などが挙げられるがそれらに限定されない。
【0082】
例示の適切なキャリアとしては、中性緩衝化生理食塩水、または血清アルブミンと混合された生理食塩水が挙げられる。好ましくは、その生成物は、適切な賦形剤(例えば、スクロース)を用いて凍結乾燥剤として処方される。他の標準的なキャリア、希釈剤および賦形剤は所望に応じて含まれ得る。他の例示的な組成物は、pH7.0〜8.5のTri
s緩衝剤またはpH4.0〜5.5の酢酸緩衝剤を含み、これらは、さらに、ソルビトールまたはその適切な代替物を含み得る。
【0083】
本発明の医薬は、経口的または非経口的に投与され得る。あるいは、本発明の医薬は、静脈内または皮下で投与され得る。全身投与されるとき、本発明において使用される医薬は、発熱物質を含まない、薬学的に受容可能な水溶液の形態であり得る。そのような薬学的に受容可能な組成物の調製は、pH、等張性、安定性などを考慮することにより、当業者は、容易に行うことができる。本明細書において、投与方法は、経口投与、非経口投与(例えば、静脈内投与、筋肉内投与、皮下投与、皮内投与、粘膜投与、直腸内投与、膣内投与、患部への局所投与、皮膚投与など)であり得る。そのような投与のための処方物は、任意の製剤形態で提供され得る。そのような製剤形態としては、例えば、液剤、注射剤、徐放剤が挙げられる。
【0084】
他の剤形としては、内服用または外用、例えば錠剤、カプセル剤、液剤、蒸気剤、軟膏剤、ペースト剤、スプレー剤などがある、固体、半固体、液体などの形とすることができる。
【0085】
本発明の医薬は、必要に応じて生理学的に受容可能なキャリア、賦型剤または安定化剤(日本薬局方第15版、その追補またはその最新版、Remington’s Pharmaceutical Sciences,18th Edition,A.R.Gennaro,ed.,Mack Publishing Company,1990などを参照)と、所望の程度の純度を有する化合物とを混合することによって、凍結乾燥されたケーキまたは水溶液の形態で調製され保存され得る。
【0086】
本発明の処置方法において使用される組成物の量は、使用目的、対象疾患(種類、重篤度など)、患者の年齢、体重、性別、既往歴、細胞の形態または種類などを考慮して、当業者が容易に決定することができる。本発明の処置方法を被検体(または患者)に対して施す頻度もまた、使用目的、対象疾患(種類、重篤度など)、患者の年齢、体重、性別、既往歴、および治療経過などを考慮して、当業者が容易に決定することができる。頻度としては、例えば、毎日〜数ヶ月に1回(例えば、1週間に1回〜1ヶ月に1回)の投与が挙げられる。1週間〜1ヶ月に1回の投与を、経過を見ながら施すことが好ましい。
【0087】
本発明は、本発明の有効成分を生理学上機能的な誘導体として提供することもできる。ここで本明細書において「生理学上機能的な誘導体」とは、本発明の化合物のいずれかの薬学的に受容可能な誘導体、例えば、エステルまたはアミドであって、哺乳動物への投与時に、本発明の化合物またはその活性代謝産物を(直接または間接的に)提供することができる誘導体をいう。かかる誘導体は、過度の実験をしなくても、Burger’s Medicinal Chemistry And Drug Discovery,第5版,Vol 1:Principles and Practice(この文献の内容は、生理学上機能的な誘導体を教示する範囲を含み、本明細書の一部とされる)の教示を参照して、当業者に明らかである。
【0088】
本明細書において引用された、科学文献、特許、特許出願などの参考文献は、その全体が、各々具体的に記載されたのと同じ程度に本明細書において参考として援用される。
【0089】
以上、本発明を、理解の容易のために好ましい実施形態を示して説明してきた。以下に、実施例に基づいて本発明を説明するが、上述の説明および以下の実施例は、例示の目的のみに提供され、本発明を限定する目的で提供したのではない。従って、本発明の範囲は、本明細書に具体的に記載された実施形態にも実施例にも限定されず、特許請求の範囲によってのみ限定される。
【実施例】
【0090】
以下の実施例で用いた試薬は、和光純薬工業株式会社、シグマアルドリッチジャパン株式会社、東京化成工業株式会社、関東化学株式会社等から入手し、菌株は、製品評価技術基盤機構、独立行政法人理化学研究所バイオリソースセンター、American Type Culture Collection等から入手したか、入手可能なものである。あるいは、株式会社ナード研究所に委託して合成した。
【0091】
(実施例1:アントラニル酸類のレジオネラ菌に対する抗菌活性)
本実施例では、アントラニル酸類のレジオネラ菌に対する抗菌活性を調べた。
【0092】
(方法および材料)
(使用物質;カッコ内は略称である。また、次のカッコ内は製造会社、およびそのカタログ番号である。)
アントラニル酸(AA)(関東化学株式会社から入手、01412−30)
4−フルオロアントラニル酸(4−FAA)(東京化成工業株式会社から入手、F0405)
5−フルオロアントラニル酸(5−FAA)(和光純薬工業株式会社から入手、322−82431)
6−フルオロアントラニル酸(6−FAA)(和光純薬工業株式会社から入手、328−66651)
アントラニル酸メチル(AM)(和光純薬工業株式会社から入手、138−01973)N−メチルアントラニル酸メチル(MAM)(和光純薬工業株式会社から入手、134−04253)
3−クロロアントラニル酸(4−ClAA)(和光純薬工業株式会社から入手、328−55421) 1.0mM
4−クロロアントラニル酸(4−ClAA)(東京化成工業株式会社から入手、A0661) 1.0mM
2−アミノ−5−クロロ安息香酸(5−ClAA)(5−クロロアントラニル酸)(和光純薬工業株式会社から入手、321−50391) 1.0mM
2−アミノ−6−クロロ安息香酸(6−ClAA)(6−クロロアントラニル酸)(ワコーケミカルから入手、321−24761) 1.0mM
カルボニルフェニルアミノデオキシリボシレート(CPADR)(株式会社ナード研究所製造)
コリスミ酸(CA)(シグマアルドリッチジャパン株式会社から入手、C1761)
インドール(Ind)(和光純薬工業株式会社から入手、093−00162)
L−トリプトファン(L−Trp)(ペプチド研究所から入手、2721)
安息香酸(BA)(関東化学株式会社から入手、04115−30)
リボシルアントラニル酸(RAA)(AAとリボースを結合して合成したものを入手(株式会社ナード研究所))
リボシル4−フルオロアントラニル酸(RFAA)(FAAとリボースを結合して合成したものを入手(株式会社ナード研究所))
リボシルアントラニル酸ベンジルエステル(RAABn)(株式会社ナード研究所)
リボシル4−クロロアントラニル酸(RClAA)(株式会社ナード研究所)
リボシル−ジメチルアントラニル酸(RdMAA)(株式会社ナード研究所)
p−アミノ安息香酸(p−ABA)(和光純薬工業株式会社から入手、015−02332)
L−キヌレニン(L−K)(シグマアルドリッチジャパン株式会社から入手、K8625)
ピコリン酸(P)(シグマアルドリッチジャパン株式会社から入手、P42800)。
【0093】
(試験した菌株)
【0094】
【表1】

【0095】
これらの菌株は、1白金耳分の菌体を新鮮なLS培地に植菌し、35℃ 150rpmで培養開始した。
【0096】
(プレートアッセイ用培地調製)
(基礎培地)
酵母エキス(メルク1.03753) 10.0g
ゲランガム(和光純薬073−03071) 10.0g
塩化マグネシウム6水和物(和光純薬135−09205) 0.1g/900mL
これらを混合し、121℃で15分間オートクレーブした。
【0097】
(生育サプリメント)
ACES(N−(2−アセトアミド)−2−アミノ−エタンスルホン酸)(同仁化学349−04881) 10.0g
二りん酸鉄(III)、溶性(ピロリン酸鉄(III)、溶性)(和光純薬090−02405) 0.250g
L−システイン(ワコーケミカル322−20612) 0.40g
2−オキソグルタル酸(α−ケトグルタル酸)(和光純薬119−00085) 1.0g
pH 6.90/100mLとした。
【0098】
生育サプリメントをフィルター滅菌後、上記培地に添加混合した。21時間後、混釈菌株培養を終了した。レジオネラ菌は、Lは培養液原液を使用して混釈培地を調製した。
他の菌株はレジオネラ菌よりも生育が早いので、10倍希釈した液を使用して混釈培地を調製した。培養液または希釈液0.2mLを55℃に冷却した上記寒天培地10mLに加え、滅菌シャーレ内にて上記を混合し、混釈プレート作製した。
【0099】
(プレートアッセイ)
プレートアッセイは以下のように行った。
【0100】
各アッセイサンプルを100%または50%アセトニトリルに溶解し、適当な濃度の溶液を調製し、各混釈プレートに上記アッセイサンプルを2.0μLずつスポットした。表中の数字は、表中の数字は、生育阻止円の直径(mm)を示す。−は未実施を示す。
【0101】
(結果)
本実施例の結果、を以下の表にまとめた。
【0102】
(アントラニル酸とその誘導体)
【0103】
【表2】

【0104】
(アントラニル酸類縁体)
【0105】
【表3】

【0106】
(リボシルアントラニル酸誘導体及びCPADR)
【0107】
【表4】

【0108】
AAおよびAAのフルオロ誘導体の3種にはレジオネラ菌ではサンプルスポット部周辺に生育阻止円が観察された。フルオロ誘導体については、試験した4位、5位、6位において阻害活性が認められる。クロロ誘導体には3位、4位、5位、6位に関係なく阻害活性は認められない。他の菌株では本アッセイ条件では生育阻害活性は認められないことが
わかった。
【0109】
以上から、現時点でレジオネラに対して生育阻害効果が認められたのは、アントラニル酸(AA)、4−フルオロアントラニル酸、5−フルオロアントラニル酸、6−フルオロアントラニル酸、リボシル3−フルオロアントラニル酸、リボシル4−フルオロアントラニル酸、リボシル5−フルオロアントラニル酸、リボシル6−フルオロアントラニル酸、カルボニルフェニルアミノデオキシリボシレートにレジオネラ菌殺傷効果があるといえる。3−フルオロアントラニル酸についても同様の効果があることが期待される。
【0110】
逆に活性が認められないのは、コリスミ酸(CA)、インドール(Ind)、トリプトファン(Trp)、安息香酸(BA)、AA誘導体(アントラニル酸メチル(AM)、N−メチルアントラニル酸メチル(MAM)、4−クロロアントラニル酸(ClAA))、リボシルアントラニル酸ベンジルエステル(RAABn)、リボシル4−クロロアントラニル酸(RClAA)、リボシル−ジメチルアントラニル酸(RdMAA))であった。
【0111】
乳酸菌(Lp)にはアントラニル酸、CPADRいずれにも生育抑制効果は認められなかった。したがって、レジオネラ菌に対する特異性があること、および有用な菌である乳酸菌を殺傷せずにレジオネラ菌のみを殺傷しうることが明らかになった。
【0112】
(その他類縁化学物質)
【0113】
【表5】

【0114】
KおよびPは、多剤耐性ブドウ球菌などに対して抗菌活性を有することが検討されている物質(Koji N et al Bio.Pharm.Bull 2009 32;41−44)であることから、レジオネラ菌に対する活性もあるのではないかと期待された。しかし、レジオネラ菌に対する活性は見出すことができなかった。また、p−ABAはアントラニル酸(o−ABA)の異性体であるが、抗菌活性は認められなかった。
【0115】
(実施例2:各物質の生育阻害活性の強さ)
上記で生育阻害活性が確認されたAA、FAA、CPADRについて、スポットするサンプルの濃度を振って生育阻害活性の強さについて検証を行った。各サンプルを50%アセトニトリルにて段階希釈し、レジオネラ菌を混釈したアッセイプレートに2μLずつスポットして一晩培養を行い、スポット部周辺に現れる生育阻止円を観察した。
【0116】
【表6】

【0117】
上記表のように、AA、FAA、CPADRの3つの物質において生育阻害活性の強さに大差は認められなかった。また、最少発育阻止濃度(MIC)は0.1mM〜0.01mMの間に存在すると思われる。ここで、△および○の表示は、本発明にいう抗菌活性があったと認められる。
【0118】
(実施例3:レジオネラ混釈プレートにおける生育阻害活性の検証<他の菌種での生育阻害効果の検証>)
本実施例では、他の菌株での生育阻害効果について検証した。すなわち、実施例1において記載される手法と同様に、AA、CPADR添加プレートでのレジオネラおよびそのほかの菌種の生育抑制効果を検証した。AA、CPADRを添加したプレートを作製し、そのプレートにレジオネラおよびそのほかの菌種を塗布し、各菌種のAAに対する生育阻害効果を検証した。
【0119】
(使用菌株;括弧内は略語である。)
レジオネラ:Legionella pneumophila subsp.pneumophila JCM7571(L)
他の菌種:
Bacillus subtilis ATCC6633(Bs)
Escherichia coli NBRC3972(Ec)
Pseudomonas aeruginosa NBRC13275(Pa)
Staphylococcus aureus NBRC13276(Sa)
これらは、1白金耳分の菌体を新鮮なLS(Linsmaier and Skoog)培地に植菌し、35℃ 150rpmで培養開始した。
【0120】
(培地調製)
(基礎培地)
酵母エキス(メルク1.03753) 6.0g
ゲランガム(和光純薬073−03071) 6.0g
塩化マグネシウム6水和物(和光純薬135−09205) 0.06g/540mL
これらを、121℃で15分間オートクレーブして調製した。
【0121】
(生育サプリメント)
ACES(N−(2−アセトアミド)−2−アミノ−エタンスルホン酸)(同仁化学349−04881) 6.0g
二りん酸鉄(III)、溶性(ピロリン酸鉄(III)、溶性)(和光純薬090−02405) 0.150g
L−システイン(ワコーケミカル322−20612) 0.24g
2−オキソグルタル酸(α−ケトグルタル酸)(和光純薬119−00085) 0.6g
pH 6.90/60mLとした。
【0122】
これらを、フィルター滅菌後、上記培地に添加混合した。
【0123】
(アッセイ)
AAおよびCPADRを滅菌シャーレに下記のように添加した。
【0124】
【表7】

【0125】
各シャーレに上記培地を10mLずつ分注し、AAおよびCPADRと混合して固化した。
【0126】
(プレートアッセイ)
17時間後培養を終了した。そして、各培養液をリン酸緩衝液にて10〜10倍希釈した。その次に、AAおよびCPADR添加プレートに上記希釈液を各菌株50μLずつ表面塗布し、NCプレートにも上記と同じ希釈液を各菌株50μLずつ表面塗布した。そして35℃で培養開始した。結果は、プレート上の菌数を計数することによって評価した。
【0127】
(プレートチェック結果)
以下に結果を示す。
【0128】
【表8】

【0129】
表中(小)との表示は、コロニーは形成するが、コロニー径が他に比べて非常に小さい
ことを示す。
【0130】
Lはその他の菌と比較してAA、CPADR共に10倍程度の感受性を示していることがわかった。他の菌については、Bsは10mM AA添加するとコロニー全く形成おらず、また、1mM CPADR添加すると無添加時の50%程度の回収率しか得られないことがわかった。また、Paは10mM AA、1mM CPADRでも生育阻害を受けておらず、Ecは10mM AA添加してもコロニーは生育しているが、コロニーがかなり小さくある程度の生育阻害を受けていることも判明した。
1mM CPADR添加では全く生育阻害を受けていないこともわかった。SaはEcとほぼ同等の結果を示していることがわかった。
【0131】
以上から、本発明の抗菌剤は、これらの菌に比較してレジオネラ菌に特異的ないし選択的であることがわかった。
【0132】
(実施例4:スプレー製品での実施)
本実施例では、スプレー製品で実施したときの例を示す。
【0133】
通常の70% エタノールを主成分とした殺菌スプレーに本発明の抗菌剤を溶解し、更にレジオネラ菌に対して抗菌作用を強化した殺菌スプレーとする。
【0134】
(実施例5:風呂釜での実施)
本実施例では、風呂釜製品で実施したときの例を示す。風呂釜を成型する際に本発明の抗菌剤を練り込み、表面にレジオネラ菌が生育しにくい風呂釜とする。
【0135】
(実施例6:循環式の風呂釜のろ過フィルターでの実施)
本実施例では、循環式の風呂釜のろ過フィルターで実施したときの例を示す。
【0136】
循環式の風呂釜のろ過フィルターに本発明の抗菌剤を練り込み、表面にレジオネラ菌が生育しにくい環境とする。
【0137】
以上のように、本発明の好ましい実施形態を用いて本発明を例示してきたが、本発明は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。本明細書において引用した特許、特許出願および文献は、その内容自体が具体的に本明細書に記載されているのと同様にその内容が本明細書に対する参考として援用されるべきであることが理解される。
【産業上の利用可能性】
【0138】
本発明は、新規のレジオネラ菌に対する抗菌剤を提供する。本発明は比較的単純な構造の化合物で抗菌剤を提供することができ、また、選択性も示すことがわかった。このような効果から、本発明は、抗菌剤を業とする産業において有用であり、製薬業における用途も見出される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の式:
【化1】

および
【化2】

を有する化合物、ならびにそのリボシル誘導体およびデオキシリブロース誘導体からなる群より選択される少なくとも化合物、またはホスホ体、その塩もしくは溶媒和物を含む、レジオネラ菌に対する抗菌剤。
【請求項2】
前記化合物は少なくとも0.01mMの濃度で含まれる、請求項1に記載の抗菌剤。
【請求項3】
前記化合物は0.1mM〜10mMの濃度で含まれる、請求項1に記載の抗菌剤。
【請求項4】
前記化合物は1.0mM〜10mMの濃度で含まれる、請求項1に記載の抗菌剤。
【請求項5】
前記化合物は、
【化3】

、または
【化4】

である、請求項1に記載の抗菌剤。
【請求項6】
さらなる抗菌物質を含む、請求項1〜6のいずれかに記載の抗菌剤。
【請求項7】
液状である、請求項1〜6に記載の抗菌剤。
【請求項8】
請求項1〜7に記載の抗菌剤を含む医薬組成物。
【請求項9】
請求項1〜7に記載の抗菌剤を含む物品。
【請求項10】
前記抗菌剤が前記物品にコーティングされたものである、請求項9に記載の物品。
【請求項11】
前記物品は、容器、風呂釜、手すり、歯ブラシ、フィルター、マスク、タイル、シャワーヘッド、風呂桶、デッキブラシ、ホースおよびネブライザーから選択される、請求項9に記載の物品。
【請求項12】
前記抗菌剤は基剤として塗料、無機系コーティング剤、有機系コーティング剤およびワックスからなる群より選択される少なくとも1つを含む請求項9に記載の物品。
【請求項13】
レジオネラ菌を抑制または殺傷する方法であって、請求項1〜7のいずれかに記載の抗菌剤を抑制または殺傷のための有効量で該レジオネラ菌と接触させる工程を包含する、方法。
【請求項14】
前記接触は、0.7M未満の塩化ナトリウム(NaCl)の存在下で行われる、請求項13に記載の方法。

【公開番号】特開2012−246228(P2012−246228A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−117362(P2011−117362)
【出願日】平成23年5月25日(2011.5.25)
【出願人】(503174969)株式会社アテクト (14)
【Fターム(参考)】