説明

レジスチンアンタゴニスト及びその使用

特定のエピトープに反応性を有する抗体を含むレジスチンアンタゴニストを開示する。間質性肺疾患、肥厚性瘢痕、ケロイド瘢痕及び強皮症を含む、異常な線維芽細胞の活性をともなう疾患を治療するか、あるいはその症状を緩和する方法もまた開示する。ヒトレジスチンに対する抗体を作製するうえで有用な抗原もまた開示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗体などのレジスチンアンタゴニスト及び線維性病変を示す疾患の治療におけるその使用、並びに抗レジスチン抗体を作製するうえで有用な抗原に関する。
【背景技術】
【0002】
間質性肺疾患(ILD)は、同様の臨床的、放射線学的及び生理学的特徴を有する100種類を上回る異なる疾患の総称である。その根本となる原因は、全身性疾患又は職業上の曝露によるものがある。しかしながら、一部のILDでは根本となる病因は不明である。これらの線維性肺疾患は治療が困難であり、その診断には生検を要する。
【0003】
最も一般的な線維性肺疾患は、UIP(通常型間質性肺炎)であり、100,000人当たり3〜29人の発症率である(コルタス(Coultas)ら、Am.J.Respir.Crit.Care Med.、150巻、967〜972頁(1994年))。UIPは数ヶ月から数年をかけて徐々に発症し、臨床的症状よりも先にしばしば放射線学的変化が出現する。UIPの特徴的な組織学的所見としては斑状の不均一な線維症の存在が挙げられ、病気の進行にともなって肺胞の虚脱、細気管支拡張症及び蜂巣化を生じ得る。非特異的間質性肺炎(NSIP)はUIPと同様の臨床的症状を示す。しかしながら、特定の組織学的所見は類似しているものの、この患者群では線維症はより少ない傾向がある(マクドナルド(MacDonald)ら、放射線学(Radiology)、221巻、600〜605頁(2001年)。更に、NSIPの患者はコルチコステロイドに対する反応性が高く、ある研究ではNSIPの患者の予後は顕著に改善されている(ダニール(Daniil)ら、Am.J.Respir.Crit.Care Med.、160巻、899〜905頁(1999年)。
【0004】
肺腫瘍切除の通常のマージンから得られた試料などの、線維症とは無関係の肺疾患から得られた細胞と比較して、線維性肺疾患から得られた線維芽細胞に相違が見られることが文献に報告されている。UIP患者からの組織切片では、血管新生ケモカインであるCXCL8(インターロイキン8又はIL8としても知られる)の発現レベルが増大しているが、血管新生抑制ケモカインCXCL10(10kDaのIFN誘導性インターロイキン、IP10)の発現レベルが低下しており、UIP患者の肺における正味の血管新生における不均衡を示唆するものである(キーン(Keane)ら、免疫学(J. Immunol.)、159巻、1437〜1443頁(1997年)。更に、これらの患者から得られた線維芽細胞においてもCXCL8の発現が増大しており、線維芽細胞が血管新生の不均衡を生じる主要なエフェクター細胞であることを示唆するものである(キーン(Keane)ら、前出)。より最近では、UIP患者から得られた線維芽細胞は、高濃度のCCL7(単球走化性タンパク質3、MCP3)を発現及び分泌していることが示されている(チョイ(Choi)ら、Am.J.Respir.Crit.Care Med.、170巻、508〜515頁(2004年)。非線維化組織、UIP及び強皮症誘導性肺線維症から得られた線維芽細胞において、TGFβ1により誘導される遺伝子発現を比較した研究によっても、細胞が単離された環境に応じて異なる線維芽細胞の表現型及び反応性が示されている(レンゾニ(Renzoni)ら、Respir.Res.、5巻、24ページ(2004年)。
【0005】
レジスチンは、保存されたC末端のCysリッチドメインを有するFIZZ(Found in Inflammatory Zone(炎症領域で見出される)、RELMとしても知られる)タンパク質ファミリーに属する分泌因子である(ステッペン(Steppan)ら、Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.、98巻、502〜506頁(2001年)。それは、肥満とインスリン抵抗性との関連を与える脂肪細胞由来ポリペプチドとして最初にマウスで見出された(ステッペン(Steppan)ら、なネイチャー(Nature)、409巻、307〜312頁(2001年)。一方、ヒトレジスチンは、強力な炎症誘発因子として認識されているマクロファージ/単球由来因子である。ヒトレジスチンは、免疫系の様々な細胞からのサイトカインの放出を誘導し、接着分子の発現量を上昇させ、内皮細胞における血管新生を促進する(バーネット(Burnett)ら、アテロスクレローシス(Atherosclerosis)、182巻、241〜248頁(2005年)、ムー(Mu)ら、Cardiovasc.Res.、70巻、146〜157頁(2006年)、ヴェルマ(Verma)ら、循環器(Circulation)108巻、736〜740頁(2003年)、ボカレワ(Bokarewa)ら、免疫学(J. Immunol.)、174巻、5789〜5795頁(2005年)。
【0006】
レジスチンの作用はNF−κb経路によって媒介されていると考えられている(ボカレワ(Bokarewa)ら、前出)。現在、齧歯類で4種類の、ヒトで2種類のFIZZファミリーメンバーが同定されている。これらの内、FIZZ1(RELMα)はマウスにおける肺線維症の発症に関与している。FIZZ1は、アレルギー性肺疾患のマウスモデルの洗浄液中で発見された(ホロコム(Holcomb)ら、EMBO J.、19巻、4046〜4055頁(2000年)。更に、ブレオマイシン誘導線維症マウスの肺においてFIZZ1遺伝子の発現レベルの上昇が見られた(リュー(Liu)ら、米国病理学会雑誌(Am. J..Pathol.)、164巻、1315〜1326頁(2004年)。マウスへのFIZZ1の静脈内注射によって、肺においてCD68陽性マクロファージが顕著に増大することが示されている(ヤマジ−ケガン(Yamaji-Kegan)ら、J.Physiol.Lung Cell Mol.Physiol.8月4日、2006年、電子版)。インビトロでの実験により、FIZZ1は細胞分裂促進作用を有し、平滑筋細胞の増殖並びに肺線維芽細胞におけるアクチンとコラーゲンの沈着を誘導を刺激することによって線維症を媒介している可能性が示されている(テン(Teng)ら、Circ.Res.,92巻、1065〜1067頁(2003年)。FIZZ1の気道内注入により、VEGFの産生が顕著に増大し、これは肺の血管新生におけるFIZZ1の役割を示唆するものである(トン(Tong)ら、Respir.Res.、7巻、37頁(2006年)。FIZZ1のオーソログはヒトのゲノムでは同定されていない。興味深いことに、ヒトレジスチン(FIZZ3)は、発現パターンがマウスレジスチンよりもマウスFIZZ1に類似しており、このことは潜在的な機能的類似性を示唆するものである。
【0007】
しかしながらヒトレジスチンと肺線維症との関係についてはほとんど解明されていない。レジスチン受容体は同定されておらず、そのためにレジスチンの生物学の理解は限定されている。最近になって、マウスレジスチンの3次元構造が解明された(パテル(Patel)ら、サイエンス(Science)、304巻、1154〜1158頁(2004年)。マウスレジスチンは、ジスルフィド結合した6量体構造に集合し得る非共有結合による3量体オリゴマーを形成する。ヒトレジスチンについては構造的情報は得られていない。
【0008】
したがって、上記の観点から、ヒトレジスチンの構造的情報、並びに肺線維症及びこれにともなう症状を治療するためのレジスチンアンタゴニストなどの治療薬が求められている。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】UIP、NSIP及び非線維症患者から得た肺の生検におけるレジスチン濃度を示す。
【図2A】線維化肺及び非線維化肺由来の線維芽細胞、並びに線維化肺生検から単離された初代肺線維芽細胞を組み換えレジスチンで処理した後におけるプロコラーゲンI及びα平滑筋アクチン(αSMA)の遺伝子発現の誘導に対するレジスチンの影響を示す。
【図2B】線維化肺及び非線維化肺由来の線維芽細胞、並びに線維化肺生検から単離された初代肺線維芽細胞を組み換えレジスチンで処理した後におけるプロコラーゲンI及びα平滑筋アクチン(αSMA)の遺伝子発現の誘導に対するレジスチンの影響を示す。
【図2C】線維化肺及び非線維化肺由来の線維芽細胞、並びに線維化肺生検から単離された初代肺線維芽細胞を組み換えレジスチンで処理した後におけるプロコラーゲンI及びα平滑筋アクチン(αSMA)の遺伝子発現の誘導に対するレジスチンの影響を示す。
【図3A】肺線維芽細胞における線維化促進増殖因子及び増殖因子受容体の遺伝子発現に対するレジスチンの影響を示す。
【図3B】初代肺線維芽細胞における線維化促進増殖因子及び増殖因子受容体の遺伝子発現に対するレジスチンの影響を示す。
【図4A】肺線維芽細胞における幾つかの細胞外基質関連遺伝子(4A)及びIL−6遺伝子(4B)の発現レベルの誘導を示す。
【図4B】肺線維芽細胞における幾つかの細胞外基質関連遺伝子(4A)及びIL−6遺伝子(4B)の発現レベルの誘導を示す。
【図5A】ヒト肺初代線維芽細胞を組み換えレジスチンで処理した後の炎症誘発サイトカインIL−6(5A)、IL−8(5B)及びMCP−1(5C)の放出量の増大を示す。
【図5B】ヒト肺初代線維芽細胞を組み換えレジスチンで処理した後の炎症誘発サイトカインIL−6(5A)、IL−8(5B)及びMCP−1(5C)の放出量の増大を示す。
【図5C】ヒト肺初代線維芽細胞を組み換えレジスチンで処理した後の炎症誘発サイトカインIL−6(5A)、IL−8(5B)及びMCP−1(5C)の放出量の増大を示す。
【図6】ヒト初代単球からのレジスチンの分泌を示す。接着していない、又は接着した単球に線維化促進調節因子による処理を行わないか、あるいはそれぞれの単球を因子で刺激した。*はp<0.05を示す。
【図7A】UIPの組織切片においてレジスチンがマクロファージ様細胞とともに局在化している様子を示す。
【図7B】UIPの組織切片においてレジスチンがマクロファージ様細胞とともに局在化している様子を示す。
【図8】ヒト及びマウスレジスチンのアミノ酸配列の整合を示す。
【図9】完全長のヒトレジスチンへのポリクローナル抗体C2815及びC2816の結合を示す。
【図10A】ヒトレジスチンにより媒介される単離したヒト初代血中単核細胞(PBMC)からのMCP−1の放出に対するC2815及びC2816ポリクローナル抗体の影響を示す。
【図10B】ヒトレジスチンにより媒介される単離したヒト初代血中単核細胞(PBMC)からのMCP−1の放出に対するC2815及びC2816ポリクローナル抗体の影響を示す。
【図11A】マウスレジスチンにより媒介される単離したヒトPBMCからのMCP−1の放出に対するC2815及びC2816ポリクローナル抗体の影響を示す。
【図11B】マウスレジスチンにより媒介される単離したヒトPBMCからのMCP−1の放出に対するC2815及びC2816ポリクローナル抗体の影響を示す。
【発明の概要】
【0010】
本発明の一態様は、レジスチンのアンタゴニストである。一実施形態では、レジスチンアンタゴニストは、レジスチンに反応性を有し、レジスチンの少なくとも1つの生物学的活性を中和する単離された抗体である。
【0011】
本発明の別の態様は、ヒトレジスチンの50〜65番目の残基に位置するエピトープ(配列番号3)に反応性を有する単離された抗体である。
【0012】
本発明の別の態様は、ヒトレジスチンの78〜93番目の残基に位置するエピトープ(配列番号4)に反応性を有する単離された抗体である。
【0013】
本発明の別の態様は、ESQSVTSRGDLATSPR(配列番号5)のペプチドを含む単離されたポリペプチドである。
【0014】
本発明の別の態様は、SGSWDVRAETTSHSQS(配列番号6)のペプチドを含む単離されたポリペプチドである。
【0015】
本発明の別の態様は、配列番号5のアミノ酸配列をコードした単離された核酸である。
【0016】
本発明の別の態様は、配列番号6のアミノ酸配列をコードした単離された核酸である。
【0017】
本発明の別の態様は、レジスチンの濃度又は影響を低減することによって哺乳動物の線維症を治療する、又は線維症の症状を緩和する方法である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本明細書に引用する、特許及び特許出願を含むがそれらに限定されない刊行物はすべて、それらがあたかも本明細書に完全に記載されているのとまったく同様に本願に援用するものである。
【0019】
本発明は、ILD、強皮症、肥厚性瘢痕などの線維性病変にともなう疾患、並びに喘息及び慢性閉塞性肺疾患(COPD)などの著明な肺のリモデリングにともなう疾患を治療するための、レジスチンアンタゴニストに対する新規な治療ターゲットとしてのサイトカインの1種であるレジスチンの役割に関するものである。
【0020】
本発明では、レジスチンタンパク質は線維化した肺において検出されることが示されている。抗レジスチンモノクローナル抗体を用いた免疫組織化学法により、レジスチンは、線維化及びリモデリングプロセスに関与する単球/マクロファージ細胞において発現することが示されている。レジスチンの分泌は線維化促進作用を有する調節因子によって誘導されるが、このことは線維化した肺ではレジスチンの局所濃度が上昇している可能性を示唆するものである。レジスチンは、肺線維症の病因に寄与する2つのプロセスである細胞外基質(ECM)の蓄積及び筋線維芽細胞の分化に関与する遺伝子を誘導することによって初代肺線維芽細胞に直接影響する。レジスチンはまた、線維化促進性の増殖因子及び肺線維芽細胞におけるその受容体の発現も誘導する。更に、レジスチンは、炎症誘発性サイトカインの放出を増大させることによって肺線維芽細胞における炎症反応を刺激する。レジスチンは線維化していない線維芽細胞よりも線維化した細胞により大きく作用するが、このことはレジスチンによるシグナル伝達が病的な線維芽細胞において増大していることを示唆するものである。最後に、本発明では、レジスチンの発現及び分泌は線維化促進性の調節因子によって誘導されることが示されている。以上を考え合わせると、これらのデータは、レジスチンが線維芽細胞の活性化及び肺の炎症に寄与することによって線維症を悪化させ得ることを示唆するものである。したがって、レジスチンを阻害することは、異常な線維芽細胞の機能にともなう疾患の治療にとって有益であると考えられる。
【0021】
更に、本発明では、マウスのタンパク質の結晶構造に基づいたヒトレジスチンの3次元構造のモデルについて述べる。このモデルを用いて、C1q/TNFスーパーファミリーとの構造的類似性に基づき、潜在的な受容体結合部位を予測する。予測された受容体結合部位にまたがるペプチドに対する2種類のポリクローナル抗体を作製し、これらの抗体の中和活性をインビトロの機能性アッセイによって確認した。これらのデータは、同定されたエピトープがレジスチンが機能するうえで重要であり、レジスチンを中和する治療薬の作製に利用可能であることを示唆するものである。
【0022】
本発明の一実施形態では、こうしたエピトープペプチドは、担体タンパク質と接合させるか又はより大きなタンパク質の足場と結合させて、免疫化のため及び/又は中和抗レジスチン抗体を作製するパンニングを行うファージディスプレイのための抗原として、使用される。開示される機能性エピトープを使用して抗体群をスクリーニングすることで中和活性を有する抗体を同定することができる。
【0023】
抗体ポリペプチド及び組成物
本発明は、レジスチンに対するアンタゴニストを提供する。一実施形態では、レジスチンアンタゴニストは、レジスチンに結合してレジスチンの生物学的活性の少なくとも1つを中和する性質を有する抗体である。
【0024】
「アンタゴニスト」なる用語は広義で用いられ、レジスチンの1つ以上の生物学的活性を、直接的又は間接的に、部分的又は完全に、中和、低減又は阻害することが可能な分子を含む。
【0025】
「抗体」なる用語は広義で用いられ、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体などの免疫グロブリン又は抗体分子を含み、マウス、ヒト、ヒト化及びキメラモノクローナル抗体並びに抗体フラグメントが挙げられる。
【0026】
一般に、抗体とは、特定の抗原に対する結合特異性を示すタンパク質又はポリペプチドである。完全な抗体とは、2個の同じ軽鎖と2個の同じ重鎖とからなるヘテロ4量体の糖タンパク質である。通常、それぞれの軽鎖は1個の共有ジスルフィド結合によって重鎖と結合しているが、ジスルフィド結合の数は免疫グロブリンのアイソタイプが異なる重鎖の間で異なる。それぞれの重鎖及び軽鎖はまた、規則的な間隔をおいた鎖内ジスルフィド架橋も有する。それぞれの重鎖は可変領域(VH)を一端に有し、これに多数の定常領域が続く。それぞれの軽鎖は一端に可変領域(VL)を有し、その他端に定常領域を有しており、軽鎖の定常領域は重鎖の第1の定常領域と並んでおり、軽鎖の可変領域は重鎖の可変領域と並んでいる。あらゆる脊椎動物種の抗体の軽鎖は、定常領域のアミノ酸配列に基づいてカッパ(κ)及びラムダ(λ)の2つの明確に異なるタイプのうちの1つに分類することができる。免疫グロブリンは、重鎖の定常領域のアミノ酸配列に応じて、IgA、IgD、IgE、IgG及びIgMの5つの大きなクラスに分類することができる。IgA及びIgGは、IgA1、IgA2、IgG1、IgG2、IgG3及びIgG4のアイソタイプに更に分類される。
【0027】
「抗体フラグメント」なる用語は、完全な抗体の部分、通常は完全な抗体の抗原結合領域又は可変領域を意味する。抗体フラグメントの例としては、Fab、Fab’、F(ab’)2及びFvフラグメント、並びに一本鎖抗体分子が挙げられる。
【0028】
「CDR」は、抗体の相補性決定領域のアミノ酸配列として定義され、免疫グロブリンの重鎖及び軽鎖の超可変領域である。例えば、カバト(Kabat)らによる「免疫学的対象のタンパク質の配列」(Sequences of Proteins of Immunological Interest)第4編、米国保険社会福祉省、米国立衛生研究所(1987年)を参照されたい。免疫グロブリンの可変部分には3個の重鎖CDR又はCDR領域及び3個の軽鎖CDR又はCDR領域が存在する。したがって、本明細書で用いる「CDR」とは、状況に応じて、3個の重鎖CDRのすべて、又は3個の軽鎖CDRのすべて、又は重鎖CDRのすべてと軽鎖のCDRのすべての両方を指す。
【0029】
CDRは、抗体が抗原又はエピトープと結合するための接触残基の大部分を提供する。本発明の対象となるCDRは、ドナー抗体の可変重鎖及び軽鎖配列に由来するものであり、自然界に存在するCDRの類似体を含み、これらの類似体もまた、それらが由来するドナー抗体と同じ抗原結合特異性及び/又は中和能力を共有又は保持している。
【0030】
本明細書で用いる「モノクローナル抗体」(mAb)とは、ほぼ均質な抗体の集団から得られる抗体(又は抗体フラグメント)を意味する。モノクローナル抗体は極めて特異性が高く、通常、単一の抗原決定基に対して作製される。「モノクローナル」という修飾語は、抗体のほぼ均質な性質を指して言うものであり、抗体がいずれかの特定の方法によって作製される必要はない。例えば、マウスmAbは、コーラー(Kohler)らのハイブリドーマ法によって作製することができる(コーラー(Kohler)ら、ネイチャー(Nature)、256巻、495〜497頁)1975年)。ドナー抗体(通常はマウス)に由来する軽鎖及び重鎖の可変領域を、アクセプター抗体(通常はヒトなどの別の哺乳動物種)に由来する軽鎖及び重鎖の定常領域とともに含むキメラmAbを、米国特許第4,816,567号に開示される方法によって作製することができる。ヒト以外のドナー免疫グロブリン(通常はマウス)に由来するCDRと、結合親和性を保存するために変化させたフレームワーク支持残基を場合に応じて有する、1つ以上のヒト免疫グロブリンに由来する分子の免疫グロブリン由来の残りの部分とを有するヒト化mAbを、クイーン(Queen)らによって開示される技法によって得ることができる(クイーン(Queen)ら、Proc.Natl.Acad.Sci.(USA)、86巻、10029〜10032頁(1989年)及びホドソン(Hodgson)ら、Bio/Technology、9巻、421頁(1991年)。
【0031】
ヒト化に有用なフレームワーク配列の例は、例えば、www.ncbi.nlm.nih.gov/entrez/query.fcgi;www.ncbi.nih.gov/igblast;www.atcc.org/phage/hdb.html;www.mrc−cpe.cam.ac.uk/ALIGNMENTS.php;www.kabatdatabase.com/top.html;ftp.ncbi.nih.gov/repository/kabat;www.sciquest.com;www.abcam.com;www.antibodyresource.com/onlinecomp.html;www.public.iastate.edu/〜pedro/research_tools.html;www.whfreeman.com/immunology/CH05/kuby05.htm;www.hhmi.org/grants/lectures/1996/vlab;www.path.cam.ac.uk/〜mrc7/mikeimages.html;mcb.harvard.edu/BioLinks/Immunology.html;www.immunologylink.com;pathbox.wustl.edu/〜hcenter/index.html;www.appliedbiosystems.com;www.nal.usda.gov/awic/pubs/antibody;www.m.ehime−u.ac.jp/〜yasuhito/Elisa.html;www.biodesign.com;www.cancerresearchuk.org;www.biotech.ufl.edu;www.isac−net.org;baserv.uci.kun.nl/〜jraats/links1.html;www.recab.uni−hd.de/immuno.bme.nwu.edu;www.mrc−cpe.cam.ac.uk;www.ibt.unam.mx/vir/V_mice.html;http://www.bioinf.org.uk/abs;antibody.bath.ac.uk;www.unizh.ch;www.cryst.bbk.ac.uk/〜ubcg07s;www.nimr.mrc.ac.uk/CC/ccaewg/ccaewg.html;www.path.cam.ac.uk/〜mrc7/humanisation/TAHHP.html;www.ibt.unam.mx/vir/structure/stat_aim.html;www.biosci.missouri.edu/smithgp/index.html;www.jerini.de;imgt.cines.fr、及びカバト(Kabat)ら「免疫学的対象のタンパク質の配列」(Sequences of Proteins of Immunological Interest)米国保険社会福祉省(1987年)に開示されており、これらの全容を本願に援用する。
【0032】
ヒト以外のいかなる配列も有さない完全なヒトmAbを、例えば、ロンバーグ(Lonberg)ら(ネイチャー(Nature)、368巻、856〜859頁(1994年))、フィッシュワイルド(Fishwild)ら(ネイチャーバイオテクノロジー(Nature Biotechnology)、14巻、845〜851頁(1996年))及びメンデス(Mendez)ら(ネイチャージェネティクス(Nature Genetics)、15巻、146〜156頁(1997年))によって参照される方法によってヒト免疫グロブリン形質転換マウスから調製することができる。ヒトmAbは、例えば、ナッピク(Knappik)ら(J.Mol.Biol.、296巻、57〜86頁(2000年))、及びクレブス(Krebs)ら(J.Immunol.Meth.、254巻、67〜84頁(2001年)によって参照される方法によってファージディスプレイライブラリーから調製及び最適化することもできる。
【0033】
本発明は、ヒトレジスチンに結合し、NF−κbによって媒介されるシグナル伝達を調節することが可能なレジスチンアンタゴニストに関する。本発明はまた、ヒトレジスチンに結合し、線維芽細胞の異常活性化、線維化を促進する遺伝子発現の誘導、炎症性反応の刺激を含むがこれらに限定されないレジスチン媒介活性を調節することが可能なレジスチンアンタゴニストにも関する。こうしたアンタゴニストには、レジスチンに結合してレジスチンによるシグナル伝達を調節する性質を有する抗レジスチン抗体が含まれる。本発明の一態様は、MCP−1、IL−8及びIL−6を含むがこれらに限定されない他の炎症性サイトカインのレジスチンによって媒介される放出を阻害する、ヒトレジスチンに反応性を有する抗体である。これらの抗体は、研究用試薬、診断用試薬及び治療薬として有用である。特に、本発明の抗体は、線維症を治療する、又は線維症の症状を緩和するための治療薬として有用である。
【0034】
抗体の例は、アイソタイプがIgG、IgD、IgGA又はIgMである抗体である。加えて、こうした抗体は、グリコシル化、異性化、非グリコシル化、又はポリエチレングリコール部分の付加(ペギレーション)及び脂質化などの自然界には存在しない共有結合修飾などの反応によって翻訳後修飾されることができる。こうした修飾はインビボあるいはインビトロで行ってよい。完全なヒトの、ヒト化された及び親和性成熟させた抗体分子又は抗体フラグメントは、模倣体、結合タンパク質及びキメラタンパク質と同様、本発明の範囲に含まれる。
【0035】
本発明の抗体は、ヒトレジスチンのエピトープ50ECQSVTSRGDLATCPR65(配列番号3)又は78CGSWDVRAETTCHCQC93(配列番号4)の一方又は両方に結合し得る。これらのレジスチンエピトープは、ヒトレジスチンに対するモノクローナル抗体を作製及びスクリーニングするための抗原として使用するために単離及び修飾することができる。例えば、エピトープ配列を修飾してシステイン残基を取り除くことによってジスルフィド結合を防止できる。これらの残基はセリンで置換することができる。修飾されたレジスチンエピトープの例として、ESQSVTSRGDLATSPR(配列番号5)及びSGSWDVRAETTCHSQS(配列番号6)のアミノ酸配列を有する単離されたポリペプチドがある。これらのポリペプチドをコードしたポリヌクレオチドもまた、本発明に含まれる。
【0036】
本発明の抗体は、10-7、10-8、10-9、10-10、10-11又は10-12M以下のKdでヒトレジスチンに結合できる。ヒトレジスチンに対する特定の抗体の親和性は、任意の好適な方法を用いて実験によって測定することができる。こうした方法では、当業者には周知であるバイアコア(Biacore)又はKinExa装置、ELISA又は競合的結合アッセイを使用することができる。所望の親和性でヒトレジスチンと結合する抗体分子は、抗体親和性成熟法及び当該技術分野で認識されている他の好適な技法などの技法によって変異体又はフラグメントのライブラリーから選択することができる。
【0037】
本発明の別の態様は、少なくとも1種類のレジスチン抗体及び当該技術分野では周知の製薬学的に許容される担体又は希釈剤を含む製薬学的組成物である。担体又は希釈剤は、溶液、懸濁液、エマルション、コロイド又は粉末であってよい。
【0038】
本発明のレジスチン抗体は、治療に有効な量で製薬学的組成物として処方される。「有効な量」なる用語は、有効な治療、すなわち、治療を要する症状又は疾患の部分的又は完全な緩和に必要とされる抗体の量を一般に指す。有効な治療の定義には、上記に述べた症状又は疾患が発症する確率を低減させることを目的とした予防的治療が含まれる。
【0039】
核酸、ベクター及び細胞株
本発明の別の態様は、CDRのアミノ酸配列を有する抗体の重鎖又は軽鎖をコードするポリペプチドを含むか、そのポリペプチドと相補的であるか又はそのポリペプチドと充分な相同性を有する単離された核酸分子である。特定の発現系における遺伝子コードの縮重又はコドン選択性を考慮すると、重鎖又は軽鎖の可変領域のCDRをコードした他のポリヌクレオチドも本発明の範囲に含まれる。
【0040】
通常、本発明の核酸は、本発明のレジスチン抗体ポリペプチドを調製するために発現ベクターとして用いられる。本発明の範囲に含まれるベクターは真核生物の発現に必要な要素を与えるものであり、CMVプロモーターにより制御されるベクター、例えば、pcDNA3.1、pCEP4及びそれらの誘導体など、のウイルスプロモーターにより制御されるベクター、バキュロウイルス発現ベクター、ショウジョウバエ発現ベクター及びヒトIg遺伝子プロモーターなどの哺乳動物の遺伝子プロモーターにより制御される発現ベクターを含む。他の例としては、T7プロモーターにより制御されるベクター(例えば、pET41)、ラクトースプロモーターにより制御されるベクター及びアラビノース遺伝子のプロモーターにより制御されるベクターなどの原核生物の発現ベクターが挙げられる。
【0041】
本発明はまた、レジスチン抗体を発現する細胞株にも関する。ホスト細胞は原核細胞であっても真核細胞であってもよい。真核細胞の例は、COS−1、COS−7、HEK293、BHK21、CHO、BSC−1、HepG2、653、SP2/0、NS0、293、HeLa、骨髄腫、リンパ腫細胞、又はそれらの誘導体を含むがこれらに限定されない哺乳動物細胞である。最も好ましくは、ホスト細胞はHEK293、NS0、SP2/0又はCHO細胞である。細胞株は、当該技術分野では周知の安定的又は一過性形質導入によって作製することができる。
【0042】
本発明は更に、レジスチン抗体を発現させるための方法であって、レジスチン抗体が検出可能又は回収可能な量で発現されるような条件下でその細胞株を培養する工程を含む方法を提供する。本発明はまた、レジスチン抗体を作製するための方法であって、レジスチン抗体をコードした核酸をインビトロ又はその場でトランスレートすることによってレジスチン抗体が検出可能又は回収可能な量で発現される工程を含む方法を提供する。本発明はまた、上記の方法により作製されたレジスチン抗体も含む。
【0043】
レジスチン抗体は、これらに限定されるものではないが、タンパク質A精製、硫酸アンモニウム又はエタノール沈殿、酸抽出、アニオン又はカチオン交換クロマトグラフィー、ホスホセルロースクロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、親和性クロマトグラフィー、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー及びレクチンクロマトグラフィーなどの周知の方法によって回収及び精製することができる。高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を精製に使用することもできる。
【0044】
線維症を治療する又は線維症の症状を緩和するための治療方法
レジスチン抗体は、とりわけ、研究用試薬及び治療薬として有用である。一態様において、本発明は、レジスチンの生物学的活性を改変する方法であって、本発明のレジスチン抗体を必要とする哺乳動物に本発明のレジスチン抗体を提供する工程を含む方法に関する。レジスチンのこうした生物学的活性の例としては、線維芽細胞の異常活性化、筋芽細胞の分化の刺激、線維化促進遺伝子の誘導、炎症誘発性サイトカインの放出、I型コラーゲンの蓄積の誘導並びに当業者には周知の他の活性が挙げられる。特に、レジスチン抗体は、NF−κb経路を含むがこれに限定されないレジスチンによって媒介される細胞シグナル伝達カスケードを低減又は阻害し得る。
【0045】
本発明は更に、線維症の症状を緩和するか又は線維症を治療するための方法であって、レジスチン抗体製薬学的組成物の治療に有効な量をそれを必要とする患者に投与する工程を含む方法を提供する。上述したように、このような組成物は有効量のレジスチン抗体及び製薬学的に許容される担体又は希釈剤を含む。治療目的であるか予防目的であるかによらず、特定の治療法における有効量は、投与手段、標的部位及び投与される他の薬剤などの多くの異なる要因に応じて一般的に異なり得る。したがって、治療薬の用量は滴定することによって安全性及び有効性を最適化する必要がある。加えて、レジスチン抗体は単独で、又は線維症を治療するうえで有用な少なくとも1種類の更なる化合物、タンパク質若しくは組成物と組み合わせて投与することができる。
【0046】
投与形態は、製薬学的に有効な量の本発明のレジスチン抗体をホストに与えるための任意の好適な経路であってよい。例えば、レジスチン抗体は、皮下、気道内、筋肉内、皮内、静脈内若しくは鼻孔内投与などの非経口投与、又は当該技術分野では周知の他の任意の手段によって投与することができる。
【0047】
本発明を以下の実施例を参照しながら更に説明する。これらの実施例はあくまで本発明の態様を説明することを目的としたものであって、本発明を限定することを目的とするものではない。
【実施例】
【0048】
(実施例1)
レジスチンは肺に存在する。
【0049】
UIP、NSIP及び胚腫瘍の通常のマージンから得た肺の生検試料をコンプリートプロテアーゼインヒビター(Complete Protease Inhibitor)(ロシュ社(Roche))を含むPBS中でホモジナイズした。製造者の指示にしたがってELISA(リンコ・リサーチ社(Linco Research Inc.)、ミズーリ州セントチャールズ(St. Charles))によってレジスチン濃度を測定した。それぞれの肺生検の全タンパク質をBCAタンパク質アッセイ(ピアス・バイオテクノロジー社(Pierce Biotechnology, Inc.)イリノイ州ロックフォード(Rockford))を用いて測定した。次いでレジスチン濃度をそれぞれの患者の試料中のタンパク質の量に対して正規化し、これを図1に示す。レジスチンタンパク質は、すべての肺生検試料から得られたホモジネート中に検出された。非線維症群と線維症群との間に有意差は認められなかった。
【0050】
(実施例2)
レジスチンは線維症に関連する遺伝子の発現を刺激する。
【0051】
UIP患者から採取した肺生検から肺線維芽細胞を単離し(n=4)、ここでは、これを「線維化線維芽細胞」又は「UIP線維芽細胞」と呼ぶこととする。線維芽細胞も肺腫瘍切除の際に採取した肺組織から単離し(n=5)、組織学的分析によってこれらの試料が非線維性であることを確認した。これらの非線維化組織に由来する線維芽細胞をここでは「非線維化線維芽細胞」(NF)と呼ぶ。
【0052】
ヒト肺線維芽細胞を、100,000細胞/ウェルで24穴プレート(コースター社(Costar)、ニューヨーク州コーニング(Corning))に播種し、8時間、接着させた。次いで、細胞をPBSで洗い、無血清培地(L−グルタミンを加えたDMEM、Pen/Strep)中で一晩培養した。次いで細胞をTGFβ−1(1又は10ng/mL)又はレジスチン(1又は10μg/mL)の存在下又は非存在下で24時間、刺激した。ヒト組み換えレジスチンをペプロテック社(Peprotech, Inc.)ニュージャージー州ロッキーヒル(Rocky Hill))より購入した。タンパク質の純度をSDS−PAGE及び質量分析により確認したところ、エンドトキシン濃度は低いことが分かった(0.9EU/mg)。上清を除去し、市販のELISA又はLuminexを用いてレジスチンタンパク質について分析した。次いで、製造者の指示にしたがってRNeasy Plus Mini−Kit(キアジェン社(QIAGEN)カリフォルニア州バレンシア(Valencia))を用いてRNAを単離し、タックマン(TaqMan)(登録商標名)リバートランスクリプション(Reverse Transcription)試薬(アプライドバイオシステムズ社(Applied Biosystems)カリフォルニア州フォスターシティー(Foster City))を用いてcDNAに逆転写した。線維化促進遺伝子の発現を、製造者の指示にしたがってタックマン(TaqMan)(登録商標名)Universal PCR Master Mix(アプライドバイオシステムズ社(Applied Biosystems))及び予め開発されたタックマン(TaqMan)(登録商標名)Gene Expression Assay(アプライドバイオシステムズ社(Applied Biosystems))を用いたリアルタイムPCRによって調べた。比較CT法を用い、CT値を遺伝子発現が最初に検出された閾値サイクル数として求めることにより定量的な遺伝子発現を計算した。対象とする遺伝子の遺伝子発現の倍数変化を最初にハウスキーピング遺伝子18Sに対して正規化し、ΔCT値を得た。インビトロでの刺激による遺伝子発現の倍数変化を、刺激しない試料を基準として用いてΔΔCT=ΔCT(刺激無シ)−ΔCT(刺激有リ)により計算した。レジスチンの潜在的な線維化促進活性を調べるため、プロコラーゲンI、α平滑筋アクチン(αSMA)、CTGF、TGFβ1、TGFbR、PDGFR、ヒアルロナン受容体CD44、フィブリリン(fbn1)、フィブロネクチン(fn1)及びIL−6の発現レベルを非処理及びレジスチン処理した肺線維芽細胞で評価した。
【0053】
コラーゲン沈着の蓄積及び筋線維芽細胞の存在は線維症の2つの重要な特徴である。この研究でポジティブコントロールとして用いられる公知の線維化促進調節因子であるTGFβ1によって、プロコラーゲンI及びαSMAは肺線維芽細胞中でいずれも発現レベルの上昇が誘導された。同様に、肺線維芽細胞の組み換えレジスチンによる処理によって、プロコラーゲンI及びαSMAの発現が誘導された(図2)。レジスチンは非線維化線維芽細胞における遺伝子発現には影響を及ぼさなかったことから、このレジスチンの作用は線維症患者から単離された線維芽細胞に特異的であることは重要である。これらのデータは、線維化した細胞ではレジスチン受容体/シグナル伝達が発現上昇/活性化していることを示唆する。
【0054】
図3Aに示されるように、レジスチンは、公知の線維化促進調節因子であるCTGF及びTGFβ1遺伝子の発現レベルの上昇を誘導した。更に、レジスチンは、TGFβ受容体及びPDGF受容体の遺伝子の発現レベルの上昇も誘導した(図3B)。既に述べた他の遺伝子と同様、レジスチンは線維化した線維芽細胞の遺伝子発現のみを増大させた。
【0055】
細胞外基質(ECM)成分の変化並びに異常な基質ターンオーバーは、様々な線維性疾患又は組織リモデリングにともなう疾患の特徴である。ヒアルロナン受容体CD44、フィブリリン(fbn1)及びフィブロネクチン(fn1)を含むECM遺伝子の内の幾つかに対するレジスチンの影響を評価した。レジスチンは、CD44、フィブリリン及びフィブロネクチンの発現を線維化線維芽細胞に特異的に上昇させた(図4A)。レジスチンによる遺伝子発現の誘導は、低濃度においてより顕著であった(1μg/ml)。レジスチンはまた、線維化及び非線維化線維芽細胞の両方においてIL−6の発現レベルの上昇を誘導した(図4B)。
【0056】
(実施例3)
レジスチンはサイトカイン放出の誘導を通じて炎症誘発性環境を促進する。
【0057】
インビトロでヒト組み換えレジスチンで刺激した肺生検から単離した線維芽細胞からの無細胞上清を、LINCOヒトサイトカインキット(リンコリサーチ社(Linco Research))によりサイトカイン濃度について分析した。レジスチンは、肺線維芽細胞からのIL−6(図5A)、IL−8(図5B)及びMCP−1(図5C)の放出を刺激した。分析した他のサイトカインは検出可能濃度を下回った。これらのデータは、レジスチンが肺線維芽細胞において炎症性反応を引き起こすことが可能であり、これにより線維症の発症及び進行に寄与し得ることを示唆する。これらのデータは、レジスチンが免疫細胞からのサイトカインの放出を刺激する能力を有する強力な炎症誘発因子であることを示唆する。
【0058】
(実施例4)
レジスチンの分泌は線維化促進性メディエータによって増大する。
【0059】
単離したばかりの初代血中単核細胞から精製されたヒトCD14+単球を、オールセルズ社((AllCells, LLC)カリフォルニア州エメリービル(Emeryville))より購入した。細胞を、10%ウシ胎児血清(FBS)を含有するRPMI中、96穴U字底プレートにそれぞれのウェル当たり75,000個の細胞密度で播種した。0又は1ng/mlのTGFβ(R&Dシステムズ社(R&D Systems)、ミネソタ州ミネアポリス(Minneapolis))及びPDGF(R&Dシステムズ社(R&D Systems))で細胞を処理した。48時間の培養後、上清中のレジスチン濃度をELISAキットによって測定した。マクロファージの分化を誘導するために、単球を10%FBSを含有するRPMI中、96穴プレートに播種し、接着させた後、上記と同様にして細胞を処理した。図6のデータは、平均±S.E.M.として表わし、n=3であり、*はp<0.05であることを示す。
【0060】
図6に示されるように、レジスチンは初代単球及び接着した単球において発現及び分泌されている。TGFβ1及びPDGF処理により、単球及び接着した単球の両方においてレジスチンの産生が誘導された。レジスチンは、肺線維芽細胞においてもT細胞又はB細胞などの他の免疫細胞(データは示していない)においても検出されなかった。これらのデータは、リモデリング部位に存在するTGFβ1及びPDGFなどの増殖因子は、浸潤した単球及びマクロファージからのレジスチンの産生を誘導し得ることを示す。
【0061】
(実施例5)
レジスチンは肺のマクロファージ細胞で発現される。
【0062】
肺腫瘍の通常のマージン、UIP又はNSIPの患者からの肺生検試料(全体でn=9、それぞれの患者コホートにつき、n=3)を2μg/mlの濃度の抗レジスチン抗体(R&Dシステムズ社(R&D Systems))で染色した。肺の試料中、マクロファージ、組織球(組織に限局したマクロファージ)及びマスト細胞においてレジスチンタンパク質が検出された。高度の炎症を有する非線維化肺試料を、CD68抗体で共染色したところ、レジスチンはCD68陽性マクロファージ細胞とともに局在化していることが示された(図7A)。単球及びマクロファージ細胞におけるヒトレジスチンの発現はこれまでに報告されており(ジュン(Jung)ら、Cardiovasc.Res.、69巻、76〜85頁(2006年)、リルケ(Lehrke)ら、PLoS Med.、1巻、e45(2004年)並びに本発明者らの知見によっても確認された(図6)。UIP及びNSIPの患者からの肺試料の抗レジスチン抗体による染色の代表的な例を図7Bに示す。非線維化肺試料と線維化肺試料との間でレジスチン染色の明らかな差異は認められなかった。
【0063】
(実施例6)
ヒトレジスチンの3次元構造のモデリング。
【0064】
ヒトレジスチン(配列番号1)及びマウスレジスチン(配列番号2)のアミノ酸配列を、Swiss−Protよりアクセッション番号Q9HD89及びQ99P87でそれぞれ取得し、並べた。図8は、ヒトレジスチンとマウスレジスチンとの間の配列の整合を示したものであり、全体的な配列相同性は55%である。
【0065】
マウスレジスチンの結晶構造(ペテル(Patel)ら、前出)は、Protein Data Bankよりアクセッション番号1RFXで入手可能である。この構造に基づき、配列の整合性にしたがってアミノ酸を置換することによりヒトレジスチンの3Dモデルを構築した。この目的ではコンピュータプログラムCOOT(Emsley, Acta Crystallogr. D. Biol. Crystallogr. 60:2126-32(2004))を使用した。側鎖の立体配座を調節して他の残基との接近を防止した。可能なかぎり、最もエネルギー的に好ましい回転異性体を選択した。主鎖の立体配座は変化させる必要はなかった。得られたモデルは、禁制立体配座をなす残基がなく、立体障害のない、分子内部の相殺されない電荷や、分子の表面上の広範囲にわたる疎水性領域のような好ましくない環境をなす残基を有さないものであった。マウスタンパク質に対する配列類似性が比較的高く、立体化学的な基準が満たされているものと仮定すると、得られる3次元モデルは実際の構造のよい近似を与えるものである。
【0066】
レジスチンのポリペプチド鎖は、N末端のαへリックス構造(22〜47番目の残基)にロールケーキ(jelly-roll)形のβ構造を有する球状のドメイン(48〜108番目の残基)が続く構造に折り畳まれている。3個のタンパク質モノマーが、αへリックスがコイルドコイルを形成する3量体を形成し、球状ドメインがそれぞれのモノマーの表面の約30%に相当する広範囲の境界面を有する密な頭部を形成している。レジスチンの初期の理論的モデルは、Protein Data Bankからアクセッション番号1LV6で入手できる。この初期のモデルは、マウスレジスチンについて現在入手可能な結晶構造のデータとは一致してしない。
【0067】
(実施例7)
仮説に基づいたレジスチン受容体結合部位の予想。
【0068】
レジスチン3量体の球状ドメインの側面が受容体結合部位である可能性を示唆する複数の証拠がある。例えば、レジスチンは3量体の形で活性を示すことから(パテル(Patel)ら、前出)、溶媒に接触可能な3量体の表面のみが潜在的な受容体結合部位であると考えられる。更に、C1q/TNFタンパク質の構造的スーパーファミリーの一部を構成するレジスチンは、他のファミリーメンバーと共通の方式、すなわち、球状ドメインの側面において受容体と結合する可能性がある。C1q/TNFスーパーファミリーは、Pfamデータベースにアクセッション番号CL0100で登録されている。C1q/TNFスーパーファミリーには、アジポネクチン、TNFα及びTNFβ、並びにCD40Lなどの多くのサイトカインが含まれる。このスーパーファミリーのメンバーは、特徴的な螺旋形/ロールケーキ(jelly-roll)形の折り畳み部分と、コイルドコイルをなすホモ3量体構造を有している。このスーパーファミリーの多くのメンバーについて並びに対応する受容体とそれらの複合体について結晶構造が解明されている。これらの構造は、受容体との結合が、例えばAPOL2L+DR5及びTNFβ+TNFR55に見られるように、球状ドメインの側面、通常はドメインの境界面において起こることを示している。受容体が球状ドメインの上部又は螺旋状ドメインに結合することは観察されていない。
【0069】
また、レジスチンファミリーのタンパク質における配列の類似性は、螺旋状ドメインにおけるよりも球状ドメイン内においてはるかに高く、球状ドメインの機能上の重要性を示唆する。ヒトレジスチンとマウスレジスチンとのアミノ酸の相同性は、螺旋状ドメインでは約36%であるのに対して球状ドメインでは約66%である。同様に、ヒトレジスチンとウシ又はブタレジスチンとの相同性は、螺旋状ドメインでは約28%であるのに対して球状ドメインでは約85%である。
【0070】
最後に、レジスチン3量体の球状頭部の3重の対称性は、受容体が頭部の上部に結合するならば、その認識部位として内部に3重の対称性を有さなければならないことを意味するものであり、これは非常に考えにくい。このことは、頭部の上部への結合の可能性を事実上否定するものである。
【0071】
球状ドメインの側面上に存在し、かつ3量体の形態において溶媒と接触可能なヒトレジスチンのポリペプチド鎖のフラグメントは2つだけ存在する。これらは、50〜65番目の残基(配列番号3)及び78番目〜93番目の残基(配列番号4)を含む。いずれのペプチドも2つのタイプの残基を有しており、すなわち、受容体と接触可能でありしたがって受容体と相互作用可能なものと、内部に埋まり込んでいるために相互作用に関与しないものである。ペプチドの生物物理的性質を改良するため、表面上に存在しないアミノ酸を置換することができる。非特異的なジスルフィド架橋を防止するためにペプチドに以下の置換、すなわち、C51S、C63S(ペプチド1)及びC78S、C89S、C91S、C93S(ペプチド2)を行い、これにより以下のペプチドエピトープ配列を得た。
【0072】
ペプチド2815:ESQSVTSRGDLATSPR(配列番号5)
ペプチド2816:SGSWDVRAETTSHSQS(配列番号6)
これら2つのペプチドは、合わせると球状ドメインの表面の64%に相当する。ペプチド2815の利点の1つは、2個のシステイン以外のすべての残基がレジスチン中で露出されるために、遊離形態のペプチドのフォールディングとは無関係に、潜在的なエピトープ残基が抗体産生に利用され得る点である。ペプチド2816は、タンパク質中でβヘアピン構造を形成する。βヘアピン構造の1つの面のみが受容体認識に関与している可能性がある。ここで重要となる残基はR84−A85−E86である。ペプチド2816の別の利点は、この領域が高等な哺乳動物では100%保存されており、マウスのレジスチンに対しても75%保存されている点である。このフラグメントの高い配列類似性のため、複数の生物種に由来するレジスチンタンパク質と交叉反応する抗体を作製することが可能である。
【0073】
(実施例8)
同定されたエピトープの機能上の重要性の確認。
【0074】
ポリクローナル抗体の作製:エピトープペプチド2815及び2816をRink Resin SS(アドバンスド・ケムテック社(Advanced ChemTech)SA5030、ロット番号17046)を用い、ABI433Aペプチドシンセサイザー上で化学的に合成した。ペプチドを樹脂から開裂させ、沈殿、濾過、洗浄及び乾燥した。ペプチドをインビトロジェン社((Invitrogen Corporation)カリフォルニア州カールスバーグ(Carlsburg))に送付し、ここでKLHタンパク質に結合させて免疫化を行った。標準的な方法(カタログ番号M0300)を用いてそれぞれのペプチドにつき2匹のウサギを免疫した。ペプチドのELISAアッセイにより抗体価を測定し、4週間の免疫処置の後、ウサギを失血死させた。血清アルブミンに結合させたペプチドを用いて抗体を親和精製した。2815及び2816ペプチドに対して作製されたポリクローナル抗体をそれぞれC2815及びC2816と呼ぶ。
【0075】
完全長ヒトレジスチンへの結合:完全長のヒトレジスチンに対するポリクローナル抗体C2815及びC2816の結合能を標準的なサンドウィッチELISA形式を用いて試験した。プレートを、0.2M炭酸塩/重炭酸塩緩衝液(pH8.5)に加えた2μg/mlのC2815又はC2816で一晩、4℃でコーティングした。非特異的結合を防ぐため、PBSに加えた0.5%ウシ血清アルブミン280μlでプレートを2時間、37℃でブロックした。異なる濃度のヒトレジスチンをプレートに加え、4℃で一晩インキュベートした。検出のため、ユーロピウムを含むビオチン標識した抗レジスチン抗体BAM1359(R&Dシステム社(R&D System)ミネソタ州、ミネアポリス(Minneapolis))を加えた後、増強試薬を加えた。蛍光シグナルをビクター(Victor)プレートリーダー上で読み取り、データをGraphPad Prismにプロットした。
【0076】
図9の結果は、ポリクローナル抗体C2815及びC2816が完全長のヒトレジスチンにそれぞれ3.9及び0.8μg/mlのKdで結合したことを示している。
【0077】
中和活性:C2816及びC2815の中和活性をサイトカイン放出アッセイで評価した。簡単に述べると、2μg/mlのヒト又はマウスレジスチンを、増大する濃度のそれぞれの抗体とともに室温で20分間インキュベートした。このレジスチン/抗体混合物を単離したヒト初代血中単核細胞(PBMC)に加え、24時間インキュベートした。無細胞上清を回収し、市販のELISAキット(R&Dシステム社(R&D System)、ミネソタ州ミネアポリス(Minneapolis))によってMCP−1濃度を測定した。
【0078】
図10A及びBの結果は、ヒトレジスチンにより媒介される単離したヒトPBMCからのMCP−1の放出に対するポリクリーナル抗体C2815及びC2816の影響を示したものである。この結果は、MCP−1放出アッセイにおいてそれぞれの抗体がヒトレジスチンの活性を用量依存的に阻害したことを示し、同定されたエピトープがレジスチンの活性に重要であることを裏付ける。C2816(IC50 65μg/ml)はC2515と比較して優れた中和活性を示した。しかしながら、これは完全長のヒトレジスチンタンパク質に対するC2816のより高い親和性によって一部説明がなされ得るものである(図9)。
【0079】
図11A及びBは、マウスレジスチンにより媒介される単離したヒト初代血中単核細胞からのMCP−1の放出に対するC2815及びC2816ポリクローナル抗体の影響を示したものである。この結果は、MCP−1放出アッセイにおいてそれぞれの抗体がマウスレジスチンの活性を用量依存的に阻害したことを示す。これらのデータは、C2815及びC2816が選択されたこれらのエピトープにおける高い配列保存度と一致してマウスレジスチンと交叉反応することを示唆する。
【0080】
以上、本発明の全容を述べたが、付属の特許請求の範囲の趣旨又は範囲を逸脱することなく本発明に多くの変更及び改変をなし得ることは、当業者にとって明白であろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトレジスチンに結合し、NF−κbにより媒介されるシグナル伝達を調節することが可能なレジスチンアンタゴニスト。
【請求項2】
ヒトレジスチンに結合し、MCP−1、IL−8、IL−6及びTNF−αからなる群から選択される少なくとも1つの炎症性サイトカインのレジスチンによって媒介される放出を阻害することが可能なレジスチンアンタゴニスト。
【請求項3】
ヒトレジスチンに結合し、I型コラーゲン、α平滑筋アクチン、TGFβ1、CTGF、TGFβR、PDGFR、CD44、フィブリリン、フィブロネクチン及びIL−6からなる群から選択される少なくとも1つの線維化促進遺伝子の発現のレジスチンによって媒介される誘導を阻害することが可能なレジスチンアンタゴニスト。
【請求項4】
ヒトレジスチンに結合し、線維芽細胞の機能を調節することが可能なレジスチンアンタゴニスト。
【請求項5】
前記アンタゴニストが、抗体である、請求項1〜4のいずれか一項に記載のレジスチンアンタゴニスト。
【請求項6】
ヒトレジスチンの50番目〜65番目の残基(配列番号3)に位置するエピトープに反応性を有する単離された抗体。
【請求項7】
ヒトレジスチンの78番目〜93番目の残基(配列番号4)に位置するエピトープに反応性を有する単離された抗体。
【請求項8】
請求項5〜7のいずれか一項に記載の有効量のレジスチンアンタゴニスト、及び製薬学的に許容される担体又は希釈剤を含む製薬学的組成物。
【請求項9】
請求項6に記載の製薬学的組成物を哺乳動物に投与することを含む、哺乳動物のレジスチンの生物学的活性を改変する方法。
【請求項10】
請求項6に記載の製薬学的組成物を、それを必要とする患者に投与することを含む、間質性肺疾患、肥厚性瘢痕、ケロイド瘢痕、強皮症、肝線維症、腎線維症及び心線維症を含む、異常な線維芽細胞の活性をともなう疾患を治療するか、あるいはその症状を緩和する方法。
【請求項11】
アミノ酸配列ESQSVTSRGDLATSPR(配列番号5)を有するペプチドを含む単離されたポリペプチド。
【請求項12】
アミノ酸配列SGSWDVRAETTSHSQS(配列番号6)を有するペプチドを含む単離されたポリペプチド。
【請求項13】
前記配列番号5のアミノ酸配列をコードする単離された核酸。
【請求項14】
前記配列番号6のアミノ酸配列をコードする単離された核酸。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図6】
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【図7A】
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【図7B】
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【図8】
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【図9】
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【図10A】
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【図10B】
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【図11A】
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【図11B】
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【公表番号】特表2010−539937(P2010−539937A)
【公表日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−527041(P2010−527041)
【出願日】平成20年9月19日(2008.9.19)
【国際出願番号】PCT/US2008/076934
【国際公開番号】WO2009/042504
【国際公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【出願人】(509087759)セントコア・オーソ・バイオテツク・インコーポレーテツド (77)
【Fターム(参考)】