説明

レジスト洗浄剤中の金属の定量方法

【課題】レジスト洗浄処理や再生処理後の各種レジスト由来成分を含む炭酸エチレン等のレジスト洗浄剤において、誘導結合プラズマ質量分析装置等の一般的な分析装置を用いて、簡便な前処理、試料調製により精度よく金属定量を行なう方法を提供する。
【解決手段】レジスト成分を含有する、カルボニル基を有し酸素原子を環の構成原子として有してもよい4〜7員の飽和環式化合物の少なくとも1種を含むレジスト洗浄剤中の金属の定量方法であって、前記レジスト洗浄剤を酸性水溶液で希釈する希釈工程と、前記希釈工程で得られた溶液を逆相型固相抽出剤および/または活性炭固相抽出剤と接触させる固相抽出剤接触工程と、前記固相抽出剤接触工程で得られた逆相型固相抽出剤および/または活性炭固相抽出剤と接触させた後の溶液について金属を定量する金属定量工程と、を含むことを特徴とするレジスト洗浄剤中の金属定量方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レジスト洗浄剤中の金属の定量方法に関し、詳しくはレジスト成分を含有する特定構造を有する飽和環状化合物を含むレジスト洗浄剤中の金属定量方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体ウェハの製造工程においては、各工程で半導体ウェハへのレジスト材料の塗布が繰り返し行われている。半導体ウェハへのレジスト塗布は、スピンコーターにより半導体ウェハを回転させながら、半導体ウェハ中央部に滴下されたレジスト材料を遠心力により振り切って、所定の膜厚を半導体ウェハ表面に形成することによって行われる。スピンコート方式によって、レジスト材料を塗布する場合、遠心力により振り切られたレジスト材料はドレーン用のカップ(スピンコーターカップ)に落とされて回収された後、カップ外へ排出されて別の処理槽に送られる。このような処理工程が繰り返されると、スピンコーターカップにはカップ外へ排出されずに残留したレジスト材料が徐々に堆積するため、定期的にスピンコーターカップをエチレングリコールやシンナー系の有機溶剤あるいはオゾン水によって洗浄することが行われている。
【0003】
また、半導体ウェハ製造時のスピンコーターカップからのレジスト洗浄以外についても、半導体、プリント基板、液晶などの電子部品製造の各処理工程において、レジスト塗膜の剥離・除去が行われており、そのための各種レジスト洗浄剤が提案され使用されている。
【0004】
ところで上記レジスト洗浄の分野で近年、炭酸エチレン、炭酸プロピレン等の炭酸アルキレンが、再生・繰り返し使用可能な新規レジスト洗浄剤として注目されている。炭酸エチレンや炭酸プロピレンはオゾンで分解されにくい性質を有している。この性質を利用して、これらを洗浄剤としてレジスト洗浄を行った後の洗浄処理液をオゾン処理すると、溶解したレジスト材料はオゾンで分解されるが、洗浄剤である炭酸エチレンや炭酸プロピレンはそのままの形で残る。オゾン処理後の炭酸エチレンや炭酸プロピレン洗浄剤は、レジスト分解物は含有するが、レジスト材料に対する溶解力は回復・再生され、繰り返し使用が可能となるのである(特許文献1)。
【0005】
また、繰り返し使用でレジスト材料に対する溶解力が低下した炭酸エチレン等は、上記のようなオゾン処理以外でも再結晶処理などにより再生され、再使用が可能である(特許文献2)。さらに、レジスト成分を溶解した炭酸エチレン等洗浄剤を無機塩水溶液に接触させることで、洗浄処理液からレジスト成分を除去して再使用する方法も提案されている(特許文献3)。
【0006】
炭酸エチレン、炭酸プロピレン等の炭酸アルキレンの他にもこれに構造が類似した環状ケトンやラクトン類あるいはこれらを含むレジスト洗浄剤が再生・再使用されている。しかしながら、この様に再生・再利用されているレジスト洗浄剤には、その使用および再生工程において種々の金属汚染があり、再使用においてはそれらの金属成分による半導体ウェハ等への影響が懸念されている。従って、再生・再使用を行う炭酸エチレン等のレジスト洗浄剤においては、再使用の前段階で洗浄剤中の金属成分の定量評価を行う必要があり、その結果に応じて金属成分を除去する等の対応が求められている。
【0007】
ここで、金属分析は一般に誘導結合プラズマ質量分析装置(ICP−MS)、誘導結合プラズマ発光分析装置(ICP−AES)、原子吸光分析装置(AAS)等を用いて行われている。通常、ICP−MSやICP−AESは水溶液を対象としており、炭酸エチレンのような有機溶媒中の金属分析を行うためには、有機溶媒を分析するための特殊なシステムを有し、かつ高分解能な質量分析計を備えた非常に高価な分析装置が必要である。AASにおいても、レジスト成分の炭化等により、金属の原子化が阻害され、分析に大きな影響を与えることから金属の定量分析は困難である。
【0008】
特殊な装置を用いずに、通常のICP−MS、ICP−AES、AAS等を炭酸エチレン等のレジスト洗浄剤の金属分析に適用するためには、炭酸エチレン等の有機溶媒系のレジスト洗浄剤を分析可能な濃度まで水で希釈すると共に、レジスト材料やレジスト材料がオゾン分解された種々の有機酸などの金属定量を阻害する成分を除去する必要があるが、イオン交換法等の通常の方法では金属成分を残してこれらのみを除去はすることは困難であった。
【0009】
そこで、レジスト洗浄処理や、再生処理後の各種レジスト由来成分を含む炭酸エチレン、炭酸プロピレン等の炭酸アルキレン、環状ケトンやラクトン類あるいはこれらを含むレジスト洗浄剤において、ICP−MS、ICP−AES、AAS等の一般の分析装置を用いて、簡便な前処理、試料調製により精度よく金属定量を行なう方法が求められていた。
【特許文献1】特許第3914842号公報
【特許文献2】特開2005−169342号公報
【特許文献3】特開2006−241088号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、レジスト洗浄処理や、再生処理後の各種レジスト由来成分を含む炭酸エチレン、炭酸プロピレン等の炭酸アルキレン、環状ケトンやラクトン類あるいはこれらを含むレジスト洗浄剤において、誘導結合プラズマ質量分析装置、誘導結合プラズマ発光分析装置、原子吸光分析装置等の一般的な分析装置を用いて、簡便な前処理、試料調製により精度よく金属定量を行なう方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明にかかるレジスト洗浄剤中の金属定量方法は、レジスト成分を含有する、オキソ基が結合した炭素原子を環の構成原子として含み前記オキソ基が結合した炭素原子に結合しかつ環を構成する酸素原子を含んでいてもよい4〜7員の飽和環式化合物の少なくとも1種を含むレジスト洗浄剤中の金属の定量方法であって、
前記レジスト洗浄剤を酸性水溶液で希釈する希釈工程と、
前記希釈工程で得られた溶液を逆相型固相抽出剤および/または活性炭固相抽出剤と接触させる固相抽出剤接触工程と、
前記固相抽出剤接触工程で得られた逆相型固相抽出剤および/または活性炭固相抽出剤と接触させた後の溶液について金属を定量する金属定量工程と、
を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、レジスト洗浄処理や、再生処理後の各種レジスト由来成分を含む炭酸エチレン、炭酸プロピレン等の炭酸アルキレン、環状ケトンやラクトン類あるいはこれらを含むレジスト洗浄剤において、誘導結合プラズマ質量分析装置、誘導結合プラズマ発光分析装置、原子吸光分析装置等の一般的な分析装置を用いて、簡便な前処理、試料調製により精度よく金属定量を行なうことが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。
本発明の金属定量方法が対象とするレジスト洗浄剤は、レジスト成分を含有する、オキソ基が結合した炭素原子を環の構成原子として含み前記オキソ基が結合した炭素原子に結合しかつ環を構成する酸素原子を含んでいてもよい4〜7員の飽和環式化合物の少なくとも1種を含むレジスト洗浄剤である。
ここで、本明細書において「レジスト成分」とは、半導体、プリント基板、液晶等の電子部品製造時にレジスト洗浄剤を用いて実行される各種処理後のレジスト洗浄剤に含まれるレジスト成分、および、再生処理の結果得られるレジスト由来成分、例えば、炭酸エチレンおよび/または炭酸プロピレン洗浄剤の再生処理として実施されるオゾン処理等によりレジスト材料が分解されて得られるレジスト分解生成物等を含むものの総称として用いられる。
【0014】
本発明においてレジスト洗浄剤が含有するレジスト成分には、電子部品製造に、一般的に使用されるレジスト材料(前記「レジスト成分」と区別して、電子部品製造時に用いるレジストそのものを本明細書においては「レジスト材料」という。)が含まれる。このようなレジスト材料として具体的には、ノボラック樹脂/1,2−ナフトキノンジアジド類、p-テトラブトキシカルボニロキシスチレン/光酸発生剤、メチルアダマンチルメタクリレート系樹脂/光酸発生剤、メチルメタクリレート等のポジ型フォトレジスト材料や、ポリビニルシンナメート、スチリルピリジニウムホルマール化ポリビニルアルコール、グリコールメタクリレート/ポリビニルアルコール/開始剤、ポリグリシジルメタクリレート、ハロメチル化ポリスチレン、ジアゾレジン、ビスアジド/ジエン系ゴム、ポリヒドロキシスチレン/メラミン/光酸発生剤、メチル化メラミン樹脂、メチル化尿素樹脂等のネガ型フォトレジスト材料が挙げられる。
【0015】
また、ArFエキシマレーザ、KrFエキシマレーザ対応のレジスト材料として、ポリカルボニル・メタクリレート樹脂、脂肪族スルフォニル化合物、アルキルアダマンチル(アダマンチル系)、ポリアクリル酸系、ポリビニルフェノール系の化学増幅型レジストが挙げられる。
【0016】
本発明の対象となるレジスト洗浄剤が含有するレジスト成分は、レジスト洗浄工程の内容によるが、上記レジスト材料の光照射前後の態様を含むものである。さらに、これらレジスト材料のオゾン処理による分解生成物、UV酸化、H等の酸化剤による酸化処理物等が本発明におけるレジスト成分として挙げられる。
【0017】
本発明において、金属定量の対象となるレジスト洗浄剤は、オキソ基が結合した炭素原子を環の構成原子として含み前記オキソ基が結合した炭素原子に結合しかつ環を構成する酸素原子を含んでいてもよい4〜7員の飽和環式化合物の少なくとも1種を含むレジスト洗浄剤である。
【0018】
前記4〜7員の飽和環式化合物としては、4〜7員環の炭酸アルキレン、ラクトン類、シクロアルカノンが挙げられる。前記炭酸アルキレンとしては、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、炭酸ブチレンが、ラクトン類としては、β−ラクトン、γ−ラクトン、δ−ラクトン、ε−ラクトンがシクロアルカノンとしては、シクロブタノン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、シクロヘプタノンが挙げられる。本発明が適用されるレジスト洗浄剤は、これら4〜7員の飽和環式化合物を含有するものであり、これらの1種の単独からなっていてもよく、2種以上の混合物からなっていてもよい。さらに、その他成分として、これらレジスト洗浄剤が一般的に含有する低級のエステル、ケトン、アルコール等を本発明の効果を損なわない範囲で含んでいるレジスト洗浄剤であってもよい。
【0019】
これらのうちでも、本発明の金属定量方法が好ましく適用されるのは、炭酸エチレンおよび/または炭酸プロピレンからなるレジスト洗浄剤であり、より好ましく適用されるのは炭酸エチレンからなるレジスト洗浄剤である。
なお、本発明の金属定量方法は、レジスト洗浄剤が循環使用される場合の使用途中の所望の時点の状態で、回収再生される場合の回収時の状態、再結晶、蒸留処理等の再生処理後の状態等、レジスト洗浄剤にレジスト成分が含有し金属定量が必要とされるあらゆる時点のレジスト洗浄剤において適用可能である。
【0020】
本発明において定量の対象となる金属は、電子部品製造時に本来極力排除されているが原材料に混入したものがレジスト洗浄工程においてレジスト洗浄剤に移動したもの、あるいはレジスト洗浄剤再生工程において不本意に混入する金属等であり、レジスト洗浄剤を再度利用する際に液中に存在することにより電子部品に影響を与える可能性のある金属、例えば、ナトリウム(Na)、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、カリウム(K)、カルシウム(Ca)、クロム(Cr)、鉄(Fe)、マンガン(Mn)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、チタン(Ti)、タングステン(W)、バリウム(Ba)、コバルト(Co)、ビスマス(Bi)、カドミウム(Cd)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)、リチウム(Li)、鉛(Pb)、ストロンチウム(Sr)、バナジウム(V)等が挙げられる。
【0021】
本発明の金属定量方法は、上記レジスト洗浄剤を対象として、これを酸性水溶液で希釈する工程、この溶液を逆相型固相抽出剤および/または活性炭固相抽出剤に接触させる工程、逆相型固相抽出剤および/または活性炭固相抽出剤に接触後の溶液について金属を定量する工程を含むものである。以下、各工程を順に説明する。
【0022】
<希釈工程>
本発明の金属定量方法において、まず上記対象となるレジスト洗浄剤を酸性水溶液で希釈する。本発明において、この希釈工程で得られる溶液は強酸性の溶液であることが好ましい。具体的には、該溶液のpHが0〜3であることが好ましく、pH0〜1であることがより好ましい。pHが0より小さいと逆相型固相抽出剤および/または活性炭固相抽出剤から金属成分が多量に溶出され、分析を妨害する場合があり、pHが3を超えるとレジスト成分とともに金属成分が逆相型固相抽出剤および/または活性炭固相抽出剤に吸着し、分析値に負の誤差を与える原因となる場合がある。
【0023】
前記希釈工程に用いる酸性水溶液としては、希釈後の溶液のpHを上記の様な強酸性とするためには、それ以上に強酸性の溶液である必要がある。例えば、上記希釈工程で得られる溶液のpHを0〜3とするためには、希釈工程ではpHが3未満の酸性水溶液を用いることになる。希釈に用いる酸性水溶液のpHの具体的な値は、希釈後の溶液に求められるpHの値とレジスト洗浄液との希釈の割合により決まるので、それらに基づいて適宜設定すればよい。この様な酸性水溶液を調製する方法としては、特に限定されるものではないが、具体的には、硝酸、塩酸、フッ酸(フッ化水素酸)、硫酸等の無機酸を単独であるいは2種以上の混合物として用い、純水等金属成分が排除された水により上記設定されたpHに調整して酸性水溶液とする方法が挙げられる。なお、この酸性水溶液調製においては水ばかりでなく用いる無機酸等についても、十分に金属成分が排除されたものとすることが重要である。
【0024】
上記調製された酸性水溶液を用いてレジスト洗浄剤を希釈する割合は、希釈後の溶液に求められるpHの値や用いる酸性水溶液のpH、レジスト洗浄剤の種類や組成により適宜調整されるが、好ましくは容量でレジスト洗浄剤1に対して1〜100倍、より好ましくは5〜20倍の酸性水溶液で希釈する割合が挙げられる。レジスト洗浄剤に対する酸性水溶液の容量が1倍未満であると、希釈に用いる酸性水溶液のpH調整が困難な場合があり、酸性水溶液の容量が100倍を超えると測定対象金属濃度が微少となり測定誤差等を生じやすくなる。
【0025】
なお、本発明が適用されるレジスト洗浄剤のうちでも、例えば、炭酸エチレンは36.4℃に凝固点を有する常温で固体の有機溶媒である。この様に常温で固体のレジスト洗浄剤を酸性水溶液で希釈する際には、これを50〜60℃程度に加温して液体の状態にして希釈することが好ましい。特に、炭酸エチレンのみで構成されるレジスト洗浄剤の場合は、温度調整を行うことが好ましい操作条件となる。
【0026】
希釈工程での操作は、すべて金属成分の溶出・吸着の少ない材質、例えば、ポリエチレン製、ポリプロピレン製の容器、器具を使用して行う。
【0027】
<固相抽出剤接触工程>
本発明の金属定量方法においては、上記で得られた希釈溶液を次いで、逆相型固相抽出剤および/または活性炭固相抽出剤に接触させる。本工程で、従来技術において、簡便、正確な金属定量を行うことを阻害していたレジスト洗浄剤中のレジスト成分が除去される。この固相抽出剤接触工程で除去されるレジスト成分は、本発明の金属定量方法において除去が必要な疎水性のレジスト材料、比較的高分子量のレジスト分解物、疎水性の有機酸類等であり、これらを効率的に除去することができる。除去されないレジスト成分も極僅かあり、具体的には、ギ酸等の低分子量の有機酸が例示されるが、これらは酸性水溶液で希釈しても析出して、一般的な金属分析装置の導入系を詰まらせることがないため除去できないことが本発明の金属定量方法において不利には働かない。
【0028】
本工程で使用する逆相型固相抽出剤および/または活性炭固相抽出剤としては、これに接触させることによりレジスト洗浄剤中のレジスト成分を固相抽出剤中に保持することが可能な逆相型固相抽出剤や活性炭固相抽出剤であれば、特に制限なく用いることができる。逆相型固相抽出剤として、具体的には、一般に逆相型固相抽出剤として使用されている、スチレンジビニルベンゼン型逆相型固相抽出剤、オクタデシル基型逆相型固相抽出剤、フェニル基型逆相型固相抽出剤、シクロヘキシル基型逆相型固相抽出剤、オクチル基型逆相型固相抽出剤等が挙げられる。また、活性炭固相抽出剤としては、グラファイトカーボン型固相抽出剤等が挙げられる。これらは1種を単独で、または2種以上を組み合わせて用いることが可能である。
さらに、前記逆相型固相抽出剤および/または活性炭固相抽出剤のうちでも、本発明において好ましくは、スチレンジビニルベンゼン型逆相型固相抽出剤、オクタデシル基型逆相型固相抽出剤等が、より好ましくはスチレンジビニルベンゼン型逆相型固相抽出剤が用いられる。
【0029】
固相抽出剤接触工程の具体的な操作においては、上記希釈工程で得られた希釈溶液を逆相型固相抽出剤および/または活性炭固相抽出剤と接触させるに先立ち、逆相型固相抽出剤および/または活性炭固相抽出剤から金属類を除去する目的でこれを洗浄することが求められる。逆相型固相抽出剤および/または活性炭固相抽出剤の洗浄には、0.1〜1M程度の硝酸水溶液、塩酸水溶液等の酸性水溶液を用いればよい。酸性水溶液で洗浄後、さらに水洗を行う。この酸性水溶液での洗浄と水洗を金属類が十分に除去されるまで繰り返して行う。
【0030】
希釈溶液を逆相型固相抽出剤および/または活性炭固相抽出剤と接触させる方法としては特に限定されない。例えば、希釈溶液に逆相型固相抽出剤および/または活性炭固相抽出剤を投入し攪拌する等の接触方法も挙げられるが、簡便な方法として、逆相型固相抽出剤および/または活性炭固相抽出剤が充填されたカラムカートリッジに希釈溶液を通液する方法が挙げられる。カラムカートリッジを用いる場合、カラムカートリッジの大きさ、充填する逆相型固相抽出剤および/または活性炭固相抽出剤の量、通液する溶液が含有するレジスト成分の量等にもよるが、通常の方法では、5ml/min以上、望ましくはレジスト成分の貫流を考慮して、5〜10ml/min程度の流速で前記希釈溶液を通液し、逆相型固相抽出剤および/または活性炭固相抽出剤に接触させる。1回の通液処理ではレジスト成分の除去が不十分であることがあるため、必要に応じて前記固相抽出剤の2種以上のカラムカートリッジを組み合わせて繰り返し通液して、レジスト成分を十分に除去する。
【0031】
なお、レジスト成分の除去を確認する方法として、具体的には、着色、沈殿物、泡立ち等の有無を目視で確認する方法、可視紫外吸収スペクトルの測定により確認する方法等が挙げられる。目視で確認する際には、対照として純度の高い無添加のレジスト洗浄液を用いることが通常行われる。また、可視紫外吸収スペクトルの測定についても同様に対照として純度の高い無添加のレジスト洗浄液の可視紫外吸収スペクトルを使用することができる。また、処理前のレジスト成分含有のレジスト洗浄液の着色、沈殿物、泡立ち等の有無、可視紫外吸収スペクトルとの比較により、レジスト成分の除去の程度を知ることも可能である。
【0032】
なお、カラムカートリッジ等に逆相型固相抽出剤や活性炭固相抽出剤を封入した固相抽出器は、製品として、例えば、ジーエルサイエンス社製、GL−Pak、PLS−2(商品名)(抽出剤量=1000mg、スチレンジビニルベンゼン型逆相型固相抽出剤使用)、オルテック社製、C18マキシクリーンTMカートリッジ(抽出剤量=300mg、オクタデシル基型逆相型固相抽出剤使用)、ジーエルサイエンス社製、グラファイトカーボンカートリッジ(抽出剤量=1g、グラファイトカーボン型固相抽出剤使用)等として市販されており、これらを本発明に用いることが可能である。
【0033】
<金属定量工程>
金属定量工程は、前記固相抽出剤接触工程において逆相型固相抽出剤および/または活性炭固相抽出剤との接触が十分に行われた後の溶液について、金属の定量を行う工程である。
【0034】
金属を定量する方法としては、誘導結合プラズマ質量分析装置(ICP−MS)、誘導結合プラズマ発光分析装置(ICP−AES)、原子吸光分析装置(AAS)などの装置を用いた一般的な定量方法が挙げられる。前記固相抽出剤接触工程で得られる溶液は、前記通常の金属定量方法で定量することを阻んでいたレジスト成分の除去が十分に行なわれた溶液である。本発明の方法においては、このようにレジスト成分除去が確実に実施された溶液を用いることにより、前記公知の金属定量方法での、該溶液中の、Na、Mg、Al、K、Ca、Cr、Fe、Mn、Ni、Cu、Zn等の定量が必要とされる、金属成分の定量を可能としている。
【0035】
なお、ここで得られる実測値はレジスト洗浄剤を希釈した希釈溶液における金属量であるため、最終的には実測値と希釈の割合から定量が求められているレジスト洗浄剤中の金属量に換算する。
【0036】
上記説明した本発明の金属定量方法によれば、レジスト成分を含む炭酸エチレンおよび/または炭酸プロピレンからなるレジスト洗浄剤を酸性水溶液で希釈し、これを逆相型固相抽出剤および/または活性炭固相抽出剤に接触させるという簡便な操作で、レジスト洗浄剤から定量が必要な金属成分に影響を与えることなく、金属成分定量の阻害因子となっていたレジスト成分を容易に除去することができ、これによって、ICP−MS、ICP−AES、AAS等の一般的な装置で精度よく金属定量を行うことが可能となった。
【実施例】
【0037】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、実施例に用いる希釈倍率は、次の通りである。
希釈倍率=(希釈される溶質量(ml)+希釈に用いる溶媒量(ml))/希釈される溶質量(ml)
【0038】
[実施例1]
ポリエチレン製容器内で、ノボラック樹脂-ジアゾナフトキノン系のポジ型レジストの洗浄とオゾン処理を数百回繰り返し、その後、2回再結晶精製した(レジスト成分含有率は0.1%程度)試料炭酸エチレンを50〜60℃に加熱溶解し、1.0×10−1M(pH1)硝酸水溶液で希釈倍率10倍に希釈した。希釈して得られた溶液は、pH1であり、含有するレジスト成分により黄色を呈していた。酸洗浄(1M硝酸水溶液による通液)と水洗を10回繰り返して行い金属類を除去した、スチレンジビニルベンゼン型逆相型固相抽出剤が充てんされた固相抽出器(ジーエルサイエンス社製、GL−Pak、PLS−2(商品名)、抽出剤量=1000mg)に、前記硝酸水溶液で希釈した試料炭酸エチレンの30mlを5ml/minで1回通液し、通過した液を処理液として回収した。
【0039】
その後、得られた処理液について、目視で着色度合いを調べ、処理液が無色透明でレジスト成分が除去されていることを確認した後、同処理液中の金属類(Na、Mg、Al、K、Ca、Cr、Fe、Mn、Ni、CuおよびZn)をICP−MS(アジレント・テクノロジー社製、7500cs)を用いて定量し、得られた濃度に希釈倍率である10倍を乗じて測定に用いた試料炭酸エチレン中の金属濃度を算出した。結果を表1に示す。
【0040】
<金属添加回収試験>
上記で金属濃度を測定したのと同じノボラック樹脂-ジアゾナフトキノン系のポジ型レジストの洗浄とオゾン処理を数百回繰り返し、その後、2回再結晶精製した炭酸エチレン(レジスト成分含有率は0.1%程度)を分析試料に用いた。この試料炭酸エチレンを50〜60℃に加熱溶解し、Na、Mg、Al、K、Ca、Cr、Fe、Mn、Ni、CuおよびZnをそれぞれの添加分の含有量が1ppm(=1μg/g)となるように添加して試験液Aとした。
【0041】
上記で得られた50〜60℃に加熱溶解した試験液A(金属添加のレジスト成分含有炭酸エチレン)の5mlを、1.0×10−2M(pH2)の塩酸水溶液45mlで希釈(希釈倍率10倍)した。希釈して得られた溶液は、pH2であり、含有するレジスト成分により黄色を呈していた。酸洗浄(1M硝酸水溶液による通液)と水洗を10回繰り返して行い金属類を除去した、スチレンジビニルベンゼン型逆相型固相抽出剤が充てんされた固相抽出器(ジーエルサイエンス社製、GL−Pak、PLS−2(商品名)、抽出剤量=1000mg)に、前記塩酸水溶液で希釈した試験液Aの30mlを5ml/minで1回通液し、処理液として回収した。
【0042】
得られた処理液について、目視で着色度合いを調べ、処理液が無色透明でレジスト成分が除去されていることを確認した後、これを試料としてICP−AES(スペクトロ社製、CIROS)により、上記11金属の定量試験を行った。希釈に用いた塩酸水溶液の濃度を1.0×10−1M(pH1)とした以外は全て上記同様にして、上記11金属の定量試験を行った。なお、希釈して得られた溶液のpHは1であった。得られた測定結果と希釈倍率により希釈前の試験液A中の金属量を算出した。
【0043】
得られた金属量から、上記で得られた試料炭酸エチレンが含有する金属量を引いて、金属添加量に相当する部分の金属量を算出し、結果を上記金属添加量に対する測定量の百分率、すなわち回収率とした。結果を図1に示す。なお、図1においてpH1は、希釈に用いた酸性水溶液のpHが1の場合の各金属の回収率を示し、pH2は希釈に用いた酸性水溶液のpHが2の場合の各金属の回収率を示す。
【0044】
希釈用塩酸水溶液の濃度が1.0×10−2M(pH2)、希釈後の溶液のpHが2のとき、上記の11元素のうちCuを除く10元素で上記添加量の90%以上の金属量が定量されたが、Cuのみ添加量の50%の量しか定量されなかった。一方、塩酸濃度1.0×10−1M(pH1)の塩酸水溶液を用い、希釈後の溶液のpHが1の場合には、11元素全てで添加量の90%以上の金属量を定量することができた。
【0045】
次に、上記と同じ試料炭酸エチレンに上記11元素をそれぞれの添加分の含有量が10ppb(=10ng/g)となるように添加して、上記と同様にして低濃度の金属レベルでの定量試験を行った。なお、希釈には1.0×10−1M(pH1)硝酸水溶液を用い希釈倍率は10倍とした。希釈して得られた溶液のpHは1であった。金属の定量にはICP−MS(アジレント・テクノロジー社製、7500cs)を用いた。得られた測定結果と希釈倍率により希釈前の炭酸エチレン中の金属量を算出した。結果は、11元素全てで添加量のほぼ100%の金属量を定量することができた。
【0046】
[比較例1]
上記実施例1で測定に使用したのと同じ試料炭酸エチレンについて、含有金属量を以下に説明する従来の方法で測定した。
【0047】
まず、試料炭酸エチレンに含まれるレジスト成分および炭酸エチレンの影響を無くすために、試料炭酸エチレンを50〜60℃で加熱溶解し、1.0×10−1M硝酸水溶液(pH1)で希釈倍率10000倍に希釈した。用いた容器は上記同様のポリエチレン製容器であった。その後、実施例1で用いたICP−MSにより金属類を定量した。
【0048】
従来法では、前記の通り試料炭酸エチレンを希釈倍率10000倍に希釈したが、共存するレジスト成分によるICP−MSの試料導入系の閉塞が発生し、試料炭酸エチレン中の金属濃度を求めることは不可能であった。
【0049】
[比較例2]
比較のために、マイクロウェーブ分解装置(マイルストーンゼネラル社製、ETHOS 1(商品名))を用いて、上記実施例1で測定に使用した試料炭酸エチレンの0.1mlに1000W45分間処理を施し、試料炭酸エチレン中のレジスト成分を分解し、得られた処理液について、ICP−MSで分析する方法について検討した。その結果を表1に示す。操作が煩雑なうえ、分解の安全性のため試料の処理量は0.1ml程度と非常に少量であった。また、分解容器から数ng〜数十ngの金属類の溶出があり、これが試料炭酸エチレン中の金属分析値に大きな影響を与える。
【0050】
Na、Mg、Al、Ca、Cr、Mn、Fe、Ni、Cu、Znは分解容器からngオーダーの溶出があった。これは、試料炭酸エチレン0.1mlを用いて分析した時、0.01ppmオーダーでの分析値の誤差となる。従って、Na、Mg、Al、Ca、Cr、Mn、Fe、Ni、Cu、Znは0.1ppm以下であることが確認できたが、分解容器からの各金属の溶出による誤差のため、ppbのオーダーで確定値として示すことは不可能である。Kは分解容器から、数百ngオーダーの溶出があった。これは、試料炭酸エチレン0.1mlを用いて分析した時、Kでは1ppmオーダーでの分析値の誤差となる。従って、Kは10ppm以下であることが確認できたが、分解容器からの溶出により、ppbでの確定値として示すことは不可能である。
試料炭酸エチレン中の金属量を評価するには0.1ppm以下での分析性能が必要であり、十分な分析性能が得られなかった。
【0051】
【表1】

【0052】
この結果より、従来法では種々の要因により試料炭酸エチレン中の金属量を正確に評価することができないのに対して、本発明の方法による実施例1では、簡便な操作でレジスト成分を効率よく除去しており、ICP−MSの試料導入系が詰まることなく、0.001ppm(1ppb)まで金属成分を定量することができた。これは試料炭酸エチレン中の金属量評価について十分な性能であるといえる。
【0053】
[実施例2〜5]
A社、B社、C社でそれぞれ半導体ウェハ製造時にレジスト塗布カップのレジスト洗浄剤(それぞれ、ノボラック樹脂-ジアゾナフトキノン系レジストの洗浄とオゾン処理を数百回繰り返したもの)として実際に用いられた炭酸エチレンについて、同様に2回再結晶精製されたリサイクル品4種(A社から得られた試料:A、B社から得られた試料:B、C社から得られた試料2種:C1、C2)について、本発明の金属定量方法を適用して以下の通り金属定量を行った。
【0054】
前記4種の試料について、上記実施例1の試料炭酸エチレンの代わりに炭酸エチレンのリサイクル品試料(A、B、C1またはC2)を用いた以外は実施例1と全く同様にしてそれぞれの試料の金属定量を行った。なお、各社で電子部品製造に用いられるレジスト材料の種類は異なり、それに伴い炭酸エチレンリサイクル品に含まれるレジスト成分も異なると想定される。それぞれの炭酸エチレンリサイクル品試料について、金属分析結果を表2に示す。
【0055】
【表2】

【0056】
前記4種の試料について、上記金属の11元素をそれぞれ添加分の含有量として10ppbとなるように添加し、上記実施例1と全く同様にしてそれぞれの試料の金属定量を行った。11元素を10ppb添加した前記4種の試料の金属定量値から、表2に示した11元素を添加していない試料の金属定量値(前記4種の試料にもともと含まれていた金属量)を差し引き、添加した10ppbの金属の回収率を算出した。その結果、いずれの金属の回収率もほぼ100%であった。この結果は前記4種の試料にもともと含まれていた金属についてもほぼ100%回収し、正確な分析値が得られていることを証明している。
【0057】
この結果から、本発明の金属定量方法によれば、実施例1と同様に、炭酸エチレンの再生処理品(リサイクル品)についても、これらに含まれる金属量についてppbオーダーでの分析が可能であることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明により、レジスト洗浄処理や、再生処理後の各種レジスト由来成分を含む炭酸エチレン、炭酸プロピレン等のレジスト洗浄剤において、一般的な分析装置を用いて、簡便な前処理、試料調製により精度よく金属定量を行なうことが可能となり、各種電子部品製造時のレジスト洗浄工程におけるレジスト洗浄剤品質管理に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】実施例1における金属添加試験の金属回収率を希釈酸性水溶液のpH2種について示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レジスト成分を含有する、オキソ基が結合した炭素原子を環の構成原子として含み前記オキソ基が結合した炭素原子に結合しかつ環を構成する酸素原子を含んでいてもよい4〜7員の飽和環式化合物の少なくとも1種を含むレジスト洗浄剤中の金属の定量方法であって、
前記レジスト洗浄剤を酸性水溶液で希釈する希釈工程と、
前記希釈工程で得られた溶液を逆相型固相抽出剤および/または活性炭固相抽出剤と接触させる固相抽出剤接触工程と、
前記固相抽出剤接触工程で得られた逆相型固相抽出剤および/または活性炭固相抽出剤と接触させた後の溶液について金属を定量する金属定量工程と、
を含むレジスト洗浄剤中の金属定量方法。
【請求項2】
前記レジスト洗浄剤が、炭酸エチレンおよび/または炭酸プロピレンからなるレジスト洗浄剤である請求項1記載の金属定量方法。
【請求項3】
前記希釈工程で得られた溶液のpHが0〜3である請求項1または2に記載の金属定量方法。
【請求項4】
前記逆相型固相抽出剤および/または活性炭固相抽出剤が、スチレンジビニルベンゼン型逆相型固相抽出剤、オクタデシル基型逆相型固相抽出剤、フェニル基型逆相型固相抽出剤、シクロヘキシル基型逆相型固相抽出剤、オクチル基型逆相型固相抽出剤およびグラファイトカーボン型固相抽出剤から選ばれる少なくとも1種である請求項1〜3のいずれか1項に記載の金属定量方法。
【請求項5】
前記定量は、誘導結合プラズマ質量分析装置、誘導結合プラズマ発光分析装置または原子吸光分析装置を用いて行うことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の金属定量方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−54423(P2010−54423A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−221224(P2008−221224)
【出願日】平成20年8月29日(2008.8.29)
【出願人】(000245531)野村マイクロ・サイエンス株式会社 (116)
【Fターム(参考)】