説明

レジスト液充填容器の包装材

【課題】レジスト液を変成させてしまう感光性の短波長領域の光を遮蔽しつつ、非感光性の長波長領域の光を透過させることができ、レジスト液の充填容器やそのグレード・ロット・シリアルナンバー等の管理情報を外部から視認できる、簡易で生産性に優れた包装材を提供する。
【解決手段】レジスト液充填容器の包装材1は、レジスト液充填容器2を覆う包装材であって、包装材1が、ポリオレフィン系樹脂の100重量部中に、無機系金属化合物の0.01〜10重量部と、赤、橙、黄、黄緑、又はその中間色を示す暖色系顔料の0.01〜10重量部とを含有した膜であり、200〜500nmの短波長の領域での吸光度が最低でも3で、620〜910nmの長波長の領域での吸光度が最大でも1となっており、充填すべきレジスト液3に対する感光性の前記短波長の光遮断性であり、非感光性の前記長波長の暖色光透過性であることによってレジスト液充填容器2上に付された管理情報5が識別されるというものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体素子や液晶モニターの電子デバイスを製造する際にリソグラフィーに使用されるレジスト液の充填容器を、包装するためのもので、そのレジスト液に対する感光性の短波長の光遮断性であり、非感光性の長波長の暖色光透過性であって、被包装物を視認できる透明性を有している包装材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体素子や液晶モニターのような電子デバイスは、小型化、高解像度を実現するために、高集積化、高性能化が求められている。それに伴い、シリコンウエハーのような電子デバイス部材の回路等の表面加工をより一層、微細化する必要がある。
【0003】
このような表面加工の微細化を行うには、リソグラフィー技術が用いられる。リソグラフィーは、シリコンウエハー等の被加工部材上にレジスト液が塗布されて形成されたレジスト膜へ、フォトマスクを介して光、電子ビーム、イオンビーム、X線のような活性線を照射し、フォトマスクのパターンを転写し、不要部位を除去するという一連の現像操作により、極めて微細な回路を作製するというものである。
【0004】
このようなレジスト液は、例えば特許文献1のように、不純微粒子が浸出しない高純度樹脂組成物で成形した充填容器内で保存される。保存中に、活性線、特に紫外線のような光で感光して変成してしまうため、使用するまで感光波長領域の光を遮蔽しておく必要がある。そこで一般的に、全波長域の光を遮蔽するために、レジスト液の充填容器を黒色に着色した包装袋に密封して保管することが多い。黒色着色包装袋では、包装されたレジスト液の充填容器を外部から視認し得えない。
【0005】
レジスト液のグレードやロットを管理するため、充填容器に管理ラベルを貼付けてあるが、それを確認するには一旦、包装袋を開封しなければならない。このときレジスト液が感光して変成してしまわないように、その感光波長領域の光を遮蔽した暗室で開封しなければならず、暗室設備の設置に多額の費用を要するうえ、暗室での面倒な開封及び確認作業を行わなければならず手間と時間がかかり効率が悪い。
【0006】
そこで、現場ではレジスト液の充填容器に貼付けられる容器ラベルと同一の情報を付しバーコード管理できる外装ラベルを、黒色着色包装袋にも貼り、包装袋を開封しなくともレジスト液のグレードやロットを外装ラベルで確認するシステムを採用している。
【0007】
この場合、充填容器と包装袋とにラベルを貼付しなければならず、作業ミスで充填容器に付されたレジスト液の真正のグレードやロットの容器ラベルの内容と、外装ラベルの内容とが一致していない場合、もはや開封するまで、そのことに気付き得ない。また、生産工程管理の厳密化の観点から、充填容器毎に連番のシリアル番号を付す必要が生じてきている。容器とその包装袋とに別々なラベルを付してミスを誘発するよりも、容器のみに付されたラベルを、包装袋の外部から視認できることが求められている。
【0008】
【特許文献1】特開平9−95565号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は前記の課題を解決するためになされたもので、レジスト液充填容器を包装するためのものであり、そのレジスト液を変成させてしまう感光性の短波長領域の光を遮蔽しつつ、そのレジスト液を非感光性の長波長領域の光を透過させることができ、レジスト液充填容器やそれに貼付されたラベルに付されたグレード・ロット等の管理情報を外部から視認できる、簡易で生産性に優れた包装材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記の目的を達成するためになされた特許請求の範囲の請求項1に記載のレジスト液充填容器の包装材は、レジスト液充填容器を覆う包装材であって、前記包装材が、ポリオレフィン系樹脂の100重量部中に、無機系金属化合物の0.01〜10重量部と、赤、橙、黄、黄緑、又はその中間色を示す暖色系顔料の0.01〜10重量部とを含有した膜であり、200〜500nmの短波長の領域での吸光度が最低でも3で、620〜910nmの長波長の領域での吸光度が最大でも1となっており、充填すべきレジスト液に対する感光性の前記短波長の光遮断性であり、非感光性の前記長波長の暖色光透過性であることによって前記レジスト液充填容器上に付された管理情報が識別されることを特徴とする。
【0011】
請求項2に記載のレジスト液充填容器の包装材は、請求項1に記載されたもので、前記無機系金属化合物が、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化セリウム、酸化鉄の少なくとも何れかであり、前記暖色系顔料が、単一又は混合された有機顔料であることを特徴とする。
【0012】
請求項3に記載のレジスト液充填容器の包装材は、請求項1に記載されたもので、前記レジスト液充填容器を封入する袋、又は前記レジスト液充填容器を包み込むフィルム又はシートであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明のレジスト液充填容器の包装材は、所定の光吸収特性及び光透過特性のような光学特性を備えた膜でありレジスト液充填容器を包装することにより、高純度のレジスト液に対する感光性の短波長領域の光を遮蔽する十分な遮光性と、包装材内部を確認することが可能な優れた視認性との両特性を、発揮できるものである。
【0014】
このようなレジスト液充填容器の包装材で、レジスト液の充填容器を密封していると、レジスト液を変成させてしまう感光性の短波長領域の光を確実に遮蔽しつつ、それを開封しなくとも非感光性の長波長領域の光を透過させるから充填容器に付されたラベルを目視によって明確に確認することができる。さらに、620〜910nmであるレジスト液非感光性の長波長領域の光が透過できるので、ラベルに付されたバーコードをバーコードリーダーによって、レジスト液のグレード・ロット・シリアル番号のようなレジスト液の充填容器に固有の情報を、正確かつ簡易に目視でき、またリーダーで読み取りできる。
【0015】
しかも、充填容器と包装材との夫々にグレード・ロット・シリアル番号等の固有情報を記載したラベルや印刷を別々に付す必要がなく、充填容器毎に付されるラベルや印刷のみで済むから、ラベルの誤貼付のような作業ミスの誘発の恐れがなく、面倒な両複貼付の必要もない。しかも、資源節約、経費削減、作業効率向上に資することができる。
【発明を実施するための好ましい形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための好ましい形態を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの形態に限定されるものではない。本発明のレジスト液充填容器の包装材を示す図1を参照しながら説明する。
【0017】
レジスト液充填容器2の包装材1は、容器2を封入する袋状のものである。この包装材1は、ポリオレフィン系樹脂の100重量部中に、無機系金属化合物の0.01〜10重量部と、赤、橙、黄、又は黄緑を示す暖色系顔料の0.01〜10重量部とが含有された組成物で、膜状に成形したものである。この包装材1は、無機系金属化合物と暖色系顔料とを共存させつつ、膜の厚みに応じてそれらの含有量を調節することにより、200〜500nmの短波長の領域での吸光度が3以上であり、620〜910nmの長波長の領域での吸光度が1未満のものである。この包装材1は、例えば前記組成物をカレンダー加工や押出加工により筒状に成形し、適当な長さで切断して、一端を熱溶融により封鎖し、レジスト液充填容器2を挿入してから他端を熱溶融により封止したものである。
【0018】
無機系金属化合物と暖色系顔料との量の何れかが、0.01重量部未満であると十分な遮光性を得られず、10重量部を超えると視認性に影響すると共にフィルムまたはシートの機械的物性に影響があり包装材としての使用が困難となってしまう。それぞれ0.1〜5重量部であることが好ましい。
【0019】
無機系金属化合物として、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化セリウム、酸化鉄の何れかの金属酸化物を用いることが好ましい。例えば酸化亜鉛を用いる場合には、平均粒子径が0.1μm以下のものが好ましく用いられ、良好な分散性を示すことから透明性が良好となる。酸化チタン、酸化セリウム、酸化鉄を用いる場合にも、平均粒子径が0.02〜0.1μmのものが好ましい。粒子形が小さすぎると凝集を引起し透明性が著しく低下し、粒子形が大きすぎると必要な透明性を得る事ができない。これらの無機系金属化合物を単独で用いてもよく、混合して用いてもよい。
【0020】
この無機系金属化合物だけでは200〜500nmの波長領域の光の吸光度が3以上という条件を満足する遮光性を得られないことがある。必要に応じその不足を補い、620〜910nmの波長領域の光を透過する顔料を選択する必要がある。
【0021】
暖色系顔料として、マンセル色体系で示す赤(R)、橙(黄赤:YR)、黄(Y)、黄緑(GY)のような暖色系を示す顔料が用いられる。より具体的には、マンセルの色相環で5R、10R、5YR、10YR、5Y、10Y、5GY、10GYやそれらの中間色のような色彩である。赤系の色は、長時間眺めていると人間の目に疲れをもたらす事が知られている。赤以外を用いる事がより好ましい。
【0022】
一方、レジスト液3の管理情報5、例えば、レジスト液の組成やグレード、ロット番号やシリアル番号、製品番号等をバーコード化したり文字を印刷したりして容器ラベル4に付されている。このバーコードや印刷文字を利用して、レジスト液のこれら管理情報を判別できるように、包装材1は、バーコードリーダーでバーコードの読み取りや文字の目視が可能となる620〜910nm波長の光を透過することが好ましい。管理情報5は、この波長の光を反射する色調である。包装材を介してその内部のバーコードをバーコードリーダーで読取るには、一般的に包装材の吸光度が1以下の必要があると言われている。より正確かつ確実に読取を行うには包装材の吸光度が、0.7未満であることが好ましい。黄緑系顔料を用いると、620〜910nm波長の吸光度に影響が大きく、黄系・橙系原料を用いたときよりも、バーコードが読取難くなり易い。そこでこれらの中でも、黄系・橙系又はその中間色系の顔料を用いることがより好ましい。
【0023】
このような赤、橙、黄、黄緑のような暖色系の顔料として、500nm以下波長を遮蔽し、620nm以上波長を透過する顔料としては、赤、橙、黄、黄緑のような暖色系の顔料が挙げられるが、これらの色を発色するもの全てが該当するわけではない。特にL*a*b*表色系においてa*値が0に近くb*値が+で大きい値を示すものが好ましい。これらの顔料を単独で用いてもよく混合して用いてもよい。
【0024】
一方、無機系金属化合物の代替物として汎用されている有機系紫外線吸収剤は、衛生面、安全性の観点から、またハロゲンを含有することから環境汚染の観点から、使用が忌避されているから、用いないことが好ましい。同様に、暖色系顔料も、ハロゲンを含有しないものを用いることが好ましい。
【0025】
ポリオレフィン系樹脂は、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、エチレン−プロピレン共重合体、およびプロピレン−αオレフィン共重合体から選ばれる少なくとも1種類以上のポリオレフィン系樹脂であることが好ましい。ポリエチレン樹脂としては、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレンなどを挙げることができる。また、エチレン−プロピレン共重合体としては、ランダム共重合体、および/またはブロック共重合体などを挙げることができる。
【0026】
また、レジスト液充填容器2の包装材1は、このような樹脂組成物からなる膜の成形体であって、フィルム状、シート状、又は袋状に成形したものであってもよい。膜の厚さが30μm〜200μmとなるように成形されていることが好ましい。その厚さに応じて添加する無機系金属化合物および顔料の量を、適宜調節する必要がある。膜の厚さが30μm未満であると十分なフィルム強度が得られず、厚さが200μmを超えるフィルムの取り扱いが困難となる。膜の厚さは、50μm〜100μmであると一層好ましい。
【0027】
包装材1は、フィルム状あるいはシート状に成形し複数層積層した積層体を用いて、ガスバリア性などの性能を付与させる事も可能である。
【0028】
なお、吸光度は、平行光線が包装材1を通過する場合に、入射光強度をI、透過光強度をIとしたとき、log10(I/I)で表されるもので、包装材1の光吸収の強さを示すものである。
【実施例】
【0029】
以下、本発明のレジスト液充填容器の包装材を、試作した例を示す。
【0030】
(実施例1)
ポリオレフィン系樹脂として直鎖状低密度ポリエチレンの100重量部と、無機系金属化合物として平均粒子経20nmの酸化亜鉛の2重量部と、有機系顔料として市販のマスターバッチであってそれの顔料成分量が3.5重量部となる量の黄色顔料PEX3043YELLOW(東京インキ株式会社製;商品名)との組成物を、混練し、インフレーション成形法により、レジスト液充填容器の包装材として、厚さ80μmのチューブ状フィルムを、作製した。
【0031】
(比較例1)
実施例1で用いた黄色顔料を用いなかったこと以外は、実施例1と同様にして、比較例1のチューブ状フィルムを、作製した。
【0032】
(比較例2)
実施例1で用いた無機系金属化合物を用いなかったこと以外は、実施例1と同様にして、比較例1のチューブ状フィルムを、作成した。
【0033】
(比較例3)
実施例1で用いた黄色顔料に代えて、青色顔料PEX3170BLUE(東京インキ株式会社;商品名)をその黄色顔料と同量用いたこと以外は、実施例1と同様にして、比較例2のチューブ状フィルムを、作製した。
【0034】
実施例1、比較例1、2及び3で得たフィルムについて、吸光度、バーコード読み取り特性、レジスト液感光特性の各項目の物性評価を、以下のようにして行った。
【0035】
(1)吸光度測定、評価方法及び測定結果
実施例1、比較例1、比較例2および比較例3で得られたフィルムを用い、分光光度計Ubest−55(日本分光株式会社製、商品名)により、190〜910nmの波長領域での吸光度の測定を行った。その結果を図2に示す。
【0036】
(2)バーコード読取特性、評価方法及び測定結果
バーコードリーダーBT−350A(株式会社キーエンス製、商品名)により、実施例1、比較例1、比較例2および比較例3で得られたフィルムを隔てたバーコードの読取が、可能であるか否かを検討し、読取可能のものを○、読取不能のものを×とする2段階で評価した。その結果を表1に示す。
【0037】
(3)レジスト液感光特性、評価及び測定結果
実施例1、比較例1、比較例2および比較例3で得られたフィルムを用いて包装したレジスト液を、自然光で露光させ、レジスト液が感光して、目的のパターンを作る事ができるか否かを現像処理を行ってパターンが得られるかどうか観察し、パターンが得られたものを○、得られなかったものを×とする2段階で評価した。その結果を表1に示す。
【0038】
【表1】

【0039】
図2及び表1に示す結果から、以下のことが分かった。ポリオレフィン系樹脂に、無機金属化合物及び暖色系顔料が含有されたレジスト液充填容器の包装材は、包装されているレジスト液を感光させることなく、通常の環境で長期間保管することが可能となり、しかも、グレードやロットやシリアル番号等の情報を管理する為にレジスト液の充填容器に貼付されるラベルのバーコードを、袋状のレジスト液充填容器の包装材の外部から目視可能であり、かつ確実にバーコードリーダーで読み込み可能としている。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明のレジスト液充填容器の包装材によれば、それで包装されたレジスト液を変成させてしまう感光性の短波長領域の光を完全に遮蔽でき、非感光性の長波長領域の可視光又はバーコードリーダー読込可能光を選択的に透過させることができるので、レジスト液の包装に、用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明を適用するレジスト液充填容器の包装材の使用状態を示す図である。
【図2】本発明を適用するレジスト液充填容器の包装材の吸光度を測定した結果を示す図である。
【符号の説明】
【0042】
1はレジスト液充填容器の包装材、2はレジスト液充填容器、3はレジスト液、4はラベル、5は管理情報である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レジスト液充填容器を覆う包装材であって、前記包装材が、ポリオレフィン系樹脂の100重量部中に、無機系金属化合物の0.01〜10重量部と、赤、橙、黄、黄緑、又はその中間色を示す暖色系顔料の0.01〜10重量部とを含有した膜であり、200〜500nmの短波長の領域での吸光度が最低でも3で、620〜910nmの長波長の領域での吸光度が最大でも1となっており、充填すべきレジスト液に対する感光性の前記短波長の光遮断性であり、非感光性の前記長波長の暖色光透過性であることによって前記レジスト液充填容器上に付された管理情報が識別されることを特徴とするレジスト液充填容器の包装材。
【請求項2】
前記無機系金属化合物が、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化セリウム、酸化鉄の少なくとも何れかであり、前記暖色系顔料が、単一又は混合された有機顔料であることを特徴とする請求項1に記載のレジスト液充填容器の包装材。
【請求項3】
前記レジスト液充填容器を封入する袋、又は前記レジスト液充填容器を包み込むフィルム又はシートであることを特徴とする請求項1に記載のレジスト液充填容器の包装材。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−47265(P2010−47265A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−211671(P2008−211671)
【出願日】平成20年8月20日(2008.8.20)
【出願人】(000100849)アイセロ化学株式会社 (20)
【Fターム(参考)】