説明

レジンボンド質カーボンブラシ

【課題】モータ効率低下や、ブラシ基材の抵抗発熱によるブラシ耐久性能低下を生じさせることなく、優れた摺動性能と整流性能を発揮させる事で、ブラシ耐久性能を飛躍的に延ばすことが出来るレジンボンド質カーボンブラシを提供する。
【解決手段】低抵抗率層21と高抵抗率層22の異なる二層のレジンボンド質のカーボン材料でブラシ基材2が構成され、整流子10の回転方向入口側に低抵抗率層21が配設され、整流子10の回転方向出口側に高抵抗率層22が配設され、整流子10との摺動接触面4における高抵抗率層22の面積比率が、摺動接触面4の全体に対して30%以下に設定され、低抵抗率層21及び高抵抗率層22の整流子軸と平行方向の抵抗率が、略電気通電方向の抵抗率に対して、それぞれ3倍以上になっているレジンボンド質カーボンブラシ1。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動機等に用いられるレジンボンド質カーボンブラシに関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、例えば100V以上の電圧で回転数が3万回転を超えるような整流が特に過酷なモータでは、レジンボンド質のカーボンブラシが使用されている。レジンボンド質のカーボンブラシは、ブラシ基材の抵抗率が高く、高い抵抗整流効果が得られるという特性を有する。
【0003】
しかしながら、レジンボンド質のカーボンブラシは、ブラシ基材の抵抗率が高いことから、整流性能は向上するものの、ブラシ基材の発熱によるモータの効率低下や、発熱に伴うブラシ基材の耐久性の低下という弊害を生ずる。そのため、ブラシ基材の表面に電気良導性の金属皮膜を施したり、ブラシ基材の内部に銅等の電気良導性の電気導体を埋め込む対策が提案されている(特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−182733号公報
【特許文献2】特許第2866761号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記レジンボンド質のカーボンブラシの対策は、ブラシ基材に対して後処理を施すものであるが、これらの後処理はブラシの摺動性能の低下を伴うものであり、ブラシ基材の持つ整流性能を十分に発揮させる事が出来ていない。そのため本質的なブラシ基材の構造自体を改良し、摺動性能やモータ効率低下を引き起こす事無く、カーボンブラシの耐久性を向上させることが求められている。
【0006】
本発明は上記課題に鑑み提案するものであって、ブラシ基材の構造を改良し、ブラシ基材の発熱を抑制しつつ、整流性能を大幅に向上させることで、モータ効率の低下を発生させること無く、ブラシ寿命を飛躍的に向上させることが出来る、レジンボンド質のカーボンブラシを提供する事を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のレジンボンド質カーボンブラシは、低抵抗率層と高抵抗率層の異なる二層のレジンボンド質のカーボン材料でブラシ基材が構成され、整流子の回転方向入口側に前記低抵抗率層が配設され、前記整流子の回転方向出口側に前記高抵抗率層が配設され、前記整流子との摺動接触面における前記高抵抗率層の面積比率が、前記摺動接触面全体に対して30%以下に設定され、前記低抵抗率層及び前記高抵抗率層の整流子軸と平行方向の抵抗率が、略電気通電方向の抵抗率に対して、それぞれ3倍以上であることを特徴とする。
この構成によれば、抵抗発熱によるブラシ発熱を低抵抗率側ブラシ材質で抑制することが出来ると共に、モータ効率低下を防止することが可能となる。また高抵抗率側ブラシ材質により整流性能を向上させることが出来る。またブラシ抵抗率に異方性を持たせることで、ブラシ発熱の抑制やモータ効率の低下防止効果を最大限に引き出すことが可能となり、ブラシの摺動安定性の向上にも寄与する。また、ブラシの発熱を抑制してブラシ寿命を飛躍的に向上させることができる。
【0008】
本発明のレジンボンド質カーボンブラシは、通電用のリード線が前記低抵抗率層側に接続されていることを特徴とする。
この構成によれば、電気が流れ易くして通電性の向上を図ることができる。
【0009】
本発明のレジンボンド質カーボンブラシは、前記低抵抗率層及び前記高抵抗率層が、それぞれ整流子軸と平行方向に加圧して成形されていることを特徴とする。
この構成によれば、低抵抗率層と高抵抗率層がそれぞれ整流子軸と平行方向に加圧して形成されていることにより、ブラシ基材の押し固めの方向を整流子の回転方向に倣うようにすることができ、摺動性能を飛躍的に向上することができ、ブラシ基材の持つ整流性能を最大限に発揮させる事が出来る。
【0010】
本発明のレジンボンド質カーボンブラシの製造方法は、上記レジンボンド質カーボンブラシの製造方法であって、雌金型内に仕切板を挿入して仕切り、前記仕切板の一方側と他方側の雌金型内に低抵抗率層と高抵抗率層の原料粉末をそれぞれ充填する工程と、前記雌金型内から仕切板を抜き出す工程と、前記仕切板を抜き出した方向から前記低抵抗率層と前記高抵抗率層の原料粉末を加圧成形する工程と、を備えることを特徴とする。
この構成によれば、本発明の効果を有するレジンボンド質カーボンブラシを、簡単且つ確実に製造することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ブラシ基材の構造自体を積層構造に改良することにより、モータ効率やブラシ摺動性能の低下を伴う事無く、ブラシ基材の持つ整流性能や摺動性能を最大限に発揮させる事が可能となり、ブラシ寿命ひいてはモータ寿命を飛躍的に延ばす事が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】(a)は本発明による実施形態のレジンボンド質カーボンブラシの斜視説明図、(b)はそのブラシ基材の断面図。
【図2】実施形態のレジンボンド質カーボンブラシを整流子に接触させた状態を示す斜視説明図。
【図3】実施例のレジンボンド質カーボンブラシを製造する金型を示す斜視図。
【図4】(a)は図3の金型の雌金型への仕切板の挿入を説明する斜視説明図、(b)はその仕切板が雌金型に挿入された状態の斜視説明図、(c)はその断面説明図。
【図5】(a)は仕切板が挿入された金型内に原料粉末を充填した状態を示す斜視図、(b)はその断面説明図。
【図6】(a)は図5の金型からの仕切板の取り外しを説明する断面説明図、(b)は仕切板を取り外した雌金型への雄金型上パンチの挿入を説明する断面説明図、(c)は金型で原料粉末を加圧成形した状態を示す断面説明図、(d)は雄金型上パンチの取り外しを説明する断面説明図、(e)は成形体の取り外しを説明する断面説明図、(f)は実施例のレジンボンド質カーボンブラシを整流子に接触させた状態を示す斜視説明図。
【図7】(a)は比較例1のレジンボンド質カーボンブラシを製造する金型を示す斜視図、(b)は金型内に原料粉末を充填した状態を示す断面図、(c)は金型で原料粉末を加圧成形した状態を示す断面説明図、(d)は雄金型上パンチ及び成形体の取り外しを説明する断面説明図、(e)は比較例1のレジンボンド質カーボンブラシを整流子に接触させた状態を示す斜視説明図。
【図8】(a)は比較例2、3のレジンボンド質カーボンブラシを製造する金型を示す斜視図、(b)は金型内に原料粉末を充填した状態を示す断面図、(c)は金型で原料粉末を加圧成形した状態を示す断面説明図、(d)は雄金型上パンチ及び成形体の取り外しを説明する断面説明図、(e)は比較例2、3のレジンボンド質カーボンブラシを整流子に接触させた状態を示す斜視説明図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
〔実施形態のレジンボンド質カーボンブラシ〕
本発明による実施形態のレジンボンド質カーボンブラシについて図面を参照して説明する。図1(a)は実施形態のレジンボンド質カーボンブラシの斜視説明図、図1(b)はそのブラシ基材の断面図、図2は実施形態のレジンボンド質カーボンブラシを整流子に接触させた状態を示す斜視説明図である。
【0014】
本実施形態のレジンボンド質カーボンブラシ1は、図1に示すように、ブラシ基材2と、ブラシ基材2に取付けられて接続されている通電用のリード線3とを備える。ブラシ基材2は、低抵抗率層21と高抵抗率層22の異なる二層のレジンボンド質のカーボン材料で構成されており、リード線3は低抵抗率層21に固定され接続されている。尚、リード線3は高抵抗率層22に一部接触するなど、低抵抗率層21側に接続される構成であれば適宜である。
【0015】
レジンボンド質カーボンブラシ1は、図2に示すように、その摺動接触面4が円柱形の整流子10の外周面11に接触するように配置され、低抵抗率層21が整流子10の回転方向入口側に位置するように配設され、高抵抗率層22が整流子10の回転方向出口側に位置するように配設される。
【0016】
摺動接触面4における低抵抗率層21の面積比率は、摺動接触面4の全体に対して70%以上100%未満に設定され、摺動接触面4における高抵抗率層22の面積比率は、摺動接触面4の全体に対して0%超30%以下に設定されている。また、ブラシ基材2の全体の厚さに対する低抵抗率層21の厚さは70%以上100%未満、好適には70%以上90%未満に設定され、高抵抗率層22の厚さは0%超30%以下、好適には10%以上30%以下に設定される。
【0017】
低抵抗率層21と高抵抗率層22の各々は、例えば黒鉛粉を熱硬化性樹脂からなるバインダーで混錬し、乾燥・粉砕・成形後、熱硬化性樹脂が硬化され且つ炭素化されない温度で焼成されたものであり、それぞれが整流子軸と平行方向に加圧して成形されている(図2の加圧成形方向の一点鎖線矢印参照)。前記方向の加圧により、低抵抗率層21及び高抵抗率層22の整流子軸と平行方向の抵抗率は、低抵抗率層21及び高抵抗率層22の略電気通電方向の抵抗率に対して、それぞれ3倍以上になっている。
【0018】
尚、抵抗率の測定は、低抵抗率層及び高抵抗率層をそれぞれ切断分離した後、個々に下記計算式(1)を用いて4端子法で測定した。
抵抗率(μΩ・cm)=(V・S)/(I・L) …(1)
V:電圧降下(μV) S:断面積(cm2) I:電流値(A) L:測定距離(cm)
【0019】
〔実施例のレジンボンド質カーボンブラシの実施例と比較例との対比〕
次に、実施例のレジンボンド質カーボンブラシ1及びその比較例との対比について説明する。
【0020】
実施例1のレジンボンド質カーボンブラシ1の製造では、平均粒径80μmの人造黒鉛100部にエポキシ樹脂と硬化剤25部を混練し、その後乾燥し粉砕して、低抵抗率層21の原料粉末Aを得た。また、平均粒径30μmの人造黒鉛100部にエポキシ樹脂と硬化剤25部を混練し、その後乾燥し粉砕して、高抵抗率層22の原料粉末Bを得た。そして、図3〜図5に示すように、金型30の雌金型31に原料粉末充填分の空間Sを作るようにして雄金型下パンチ32の下死点を調整後、雌金型開口部311の面積で8:2の割合になるように雌金型31のレール部312と係合して雌金型31内に仕切板33を挿入し、8の割合側に原料粉末Aを、2の割合側に原料粉末Bをそれぞれ投入する。
【0021】
その後、図6に示すように、仕切板33を取り除き、雌金型31の上側より雄金型上パンチ34を雌金型31に挿入し、両粉末を加圧成形した。雄金型上パンチ34を抜き去った後、雄金型下パンチ32を上昇させ、加圧成形され低抵抗率材と高抵抗率材が8:2の割合で一対となった原料粉末Aと原料粉末Bの成形体を雌金型31より取り出し二層成形体25を得た。
【0022】
この二層成形体25を200℃の硬化温度で熱処理をした後、所定の寸法となるよう切削加工を行い、摺動接触面4側と対極の面にリード線3を銅粉止めで取付けた。リード線取付け部は原料粉末Aで成形された部位とし、これによって実施例1のレジンボンド質カーボンブラシ1を得た(図6(f)の一点鎖線矢印は加圧成形方向)。
【0023】
また、実施例2のレジンボンド質のカーボンブラシ1の製造は、雌型開口部311の面積に対して7:3の割合となるよう雌金型31内に仕切板33を挿入し、7の割合側に原料粉末Aを、3の割合側に原料粉末Bをそれぞれ投入し、加圧成形され低抵抗率材と高抵抗率材が7:3の割合で一対となった原料粉末Aと原料粉末Bの成形体を雌金型より取り出し二層成形体25を得ること以外、実施例1と同様である。
【0024】
また、実施例3のレジンボンド質のカーボンブラシ1の製造では、平均粒径80μmの人造黒鉛100部にエポキシ樹脂と硬化剤を25部を混練し、その後乾燥し粉砕して、低抵抗率層21の原料粉末Aを得た。また、平均粒径60μmの人造黒鉛100部にエポキシ樹脂と硬化剤を25部混練し、その後乾燥し粉砕して、高抵抗率層22の原料粉末Cを得た。その他の製造工程は、原料粉末Bに代えて原料粉末Cとする以外、実施例1と同様にして、実施例3のレジンボンド質カーボンブラシ1を得た。
【0025】
また、比較例1のレジンボンド質カーボンブラシの製造では、図7に示すように、雌金型31に原料粉末充填分の空間Sを作る様、雄金型下パンチ32の下死点を調整後、雌金型31に低抵抗率層の原料粉末Aを、その上方空間部に高抵抗率層の原料粉末Bを重量比で8:2となるように充填した。そして、雌金型31の上側より雄金型上パンチ34を挿入し、両粉末を加圧成形した。
【0026】
雄金型上パンチ34を抜き去った後、雄金型下パンチ32を上昇させ、加圧成形され低抵抗率材と高抵抗率材が8:2の割合で一対となった原料粉末Aと原料粉末Bの成形体を雌金型31より取り出し二層成形体を得た。この二層成形体を200℃の硬化温度で熱処理をした後、所定の寸法となるよう切削加工を行い、摺動面側と対極の面にリード線を銅粉止めで取付けた。リード線取付け部は原料粉末Aで成形された部位とし、これによって比較例1のカーボンブラシを得た(図7(e)の一点鎖線矢印は加圧成形方向)。
【0027】
また、図8に示すように、比較例2のレジンボンド質カーボンブラシの製造では、雌金型31に原料粉末充填分の空間Sを作る様、雄金型下パンチ32の下死点を調整後、雌金型31に低抵抗率層の原料粉末Aを充填した。そして、雌金型31の上側より雄金型上パンチ34を挿入し、粉末を加圧成形した。雄金型上パンチ34を抜き去った後、雄金型下パンチ32を上昇させ、加圧成形された原料粉末Aの成形体26を得た。この成形体を200℃の硬化温度で熱処理をした後、所定の寸法となるよう切削加工を行い、摺動接触面側と対極の面にリード線を銅粉止めで取付け比較例2のカーボンブラシを得た(図8(e)の一点鎖線矢印は加圧成形方向)。
【0028】
また、比較例3のレジンボンド質カーボンブラシの製造では、低抵抗率層の原料粉末Aに代えて雌金型31に高抵抗率層の原料粉末Bを充填すること以外、比較例2と同様である。
【0029】
上記実施例1〜3及び比較例1〜3について、通電方向に対して平行方向の抵抗率、整流子軸に対して平行方向の抵抗率、ブラシ寿命、モータ効率を実験結果を表1に示す。表1から明らかなように、実施例1〜3は、低抵抗率層21及び高抵抗率層22の整流子軸と平行方向の抵抗率は、通電方向の抵抗率に対して、それぞれ3倍以上であると共に、ブラシ寿命が非常に長くなっており、耐久性に優れている。また、比較例1では、ブラシ寿命が短く、整流子軸と平行方向の抵抗率が略電気通電方向の抵抗率と同等では、高抵抗率層と低抵抗率層の積層ブラシであっても耐久性が向上しないことを示している。
【0030】
【表1】

【0031】
〔実施形態の変形例等〕
本明細書開示の発明には、各発明や実施形態等の構成の他に、これらの部分的な構成を本明細書開示の他の構成に変更して特定したもの、或いはこれらの構成に本明細書開示の他の構成を付加して特定したもの、或いはこれらの部分的な構成を部分的な作用効果が得られる限度で削除して特定した上位概念化したものも含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明は、電動機等に用いられるカーボンブラシとして利用することができる。
【符号の説明】
【0033】
1…レジンボンド質カーボンブラシ 2…ブラシ基材 21…低抵抗率層 22…高抵抗率層 3…リード線 4…摺動接触面 10…整流子 11…外周面 25…二層成形体 26…成形体 30…金型 31…雌金型 32…雄金型下パンチ 311…雌金型開口部 312…レール部 33…仕切板 34…雄金型上パンチ S…原料粉末充填空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
低抵抗率層と高抵抗率層の異なる二層のレジンボンド質のカーボン材料でブラシ基材が構成され、
整流子の回転方向入口側に前記低抵抗率層が配設され、
前記整流子の回転方向出口側に前記高抵抗率層が配設され、
前記整流子との摺動接触面における前記高抵抗率層の面積比率が、前記摺動接触面全体に対して30%以下に設定され、
前記低抵抗率層及び前記高抵抗率層の整流子軸と平行方向の抵抗率が、略電気通電方向の抵抗率に対して、それぞれ3倍以上であることを特徴とするレジンボンド質カーボンブラシ。
【請求項2】
通電用のリード線が前記低抵抗率層側に接続されていることを特徴とする請求項1記載のレジンボンド質カーボンブラシ。
【請求項3】
前記低抵抗率層及び前記高抵抗率層が、それぞれ整流子軸と平行方向に加圧して成形されていることを特徴とする請求項1又は2記載のレジンボンド質カーボンブラシ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−50276(P2012−50276A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−191676(P2010−191676)
【出願日】平成22年8月30日(2010.8.30)
【出願人】(000103585)オーパック株式会社 (6)
【Fターム(参考)】