説明

レスベラトロールを含む剤、及び組成物

【課題】本発明は、安全で、且つ優れた組成物、特に抗酸化作用等を有する組成物を提供することを主な目的とする。
【解決手段】単離したレスベラトロール−4’−O−β−D−グルコピラノシドを含む、Sirt1活性化剤、並びにMnSOD活性化剤、及び単離したレスベラトロール−4’−O−β−D−グルコピラノシドを含む組成物、並びに抗酸化組成物を提供すること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はレスベラトロールを含む剤、及び組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
レスベラトロールは、ブドウの果皮、赤ワインなどに含まれるポリフェノールの一種であり、赤ワインの消費が多い程、虚血性の心疾患の発生が減少するという、所謂フレンチパラドックスの原因物質ではないかといわれている。また、このようなレスベラトロールは、酸化型アデニンジヌクレオチド(NAD)依存型のヒストン脱アセチル化酵素であるSIRT1を活性化し、引き続いてマンガンスーパーオキシドディスムターゼ(MnSOD)の発現を亢進させ、結果として細胞内の酸化ストレスを除去する働きを誘導することが明らかとなっている(非特許文献1)。
【0003】
レスベラトロールアグリコンについては、上述のような知見があるが、レスベラトールの誘導体の生体内における効果については、何ら明らかになっていない。例えば、レスベラトロールの水溶性を向上させるために、レスベラトール配糖体が有用に用いられることが考えられ、その具体的なレスベラトロール配糖体としては、下記式(1)
【0004】
【化1】

【0005】
に示すような、レスベラトロール−3−O−β−D−グルコピラノシド(以下、3G−RSVとする)、下記式(2)
【0006】
【化2】

【0007】
に示すような、レスベラトロール−4’−O−β−D−グルコピラノシド(以下、4’G−RSVとする)等の配糖体が挙げられる。これらのレスベラトロール配糖体は、糖が配位する場所異なっており、それによって生体内における効果が異なる可能性が考えられるが明らかにはなっていない。
【0008】
また、抗酸化作用を示す化合物は、生体内外にて異なる効果を示すことが多く、上述のレスベラトロールに至ってはレスベラトロールアグリコンが示す抗酸化作用しか明らかになっていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Tanno M,et al.J BiolChem. 2010 Mar12;285(11):8375−82.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述のように、抗酸化作用を示すとされる化合物は、細胞外での抗酸化作用の結果が、細胞内での抗酸化作用の結果と必ずしも一致しないことが多く、生体に対して効果的に抗酸化作用を示すかどうかについては明確ではなかった。殊に、レスベラトロールについては、有効な抗酸化作用を有することが知られていたが、抗酸化作用が要求される剤や組成物に用いるのに有用なレスベラトロール誘導体についての知見は何ら存在していない。
【0011】
そこで本発明は、安全で、且つ優れた組成物、特に抗酸化作用等を有する組成物を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題に鑑みて鋭意研究を重ねた結果、レスベラトロール配糖体の中でも4’G−RSVが、レスベラトロールアグリコンよりも、優れたH3の脱アセチル化作用を有することを見出した。
【0013】
さらに4’G−RSVは、他のレスベラトロール配糖体よりも、優れたSirt1活性化能、及びMnSOD発現誘導能を示すことが明らかとなった。すなわち本発明は、かかる知見に基づいて完成したものであり、下記に示す態様の発明を広く包含するものである。
【0014】
項1 単離したレスベラトロール−4’−O−β−D−グルコピラノシドを含む、Sirt1活性化剤。
【0015】
項2 単離したレスベラトロール−4’−O−β−D−グルコピラノシドを含む、MnSOD発現誘導剤。
【0016】
項3 単離したレスベラトロール−4’−O−β−D−グルコピラノシドを含む、組成物。
【0017】
項4 単離したレスベラトロール−4’−O−β−D−グルコピラノシドを含む、抗酸化組成物
以下に、本発明を詳細に説明する。
【0018】
レスベラトロール−4’−O−β−D−グルコピラノシド(4’G−RSV)
本発明の4’G−RSVは、下記式(2)
【0019】
【化3】

【0020】
に示される化合物である。4’G−RSVは幾何異性体として、シス体及びトランス体が存在するが、トランス体が本発明の4’G−RSVとして好ましい。
【0021】
本発明の4’G−RSVの単離方法は、化学合成による方法であっても、天然に存在する動植物から抽出する方法であってもよい。若しくは、天然物、又はその抽出物を原料として、発酵等の生物合成、又は化学合成の工程を経て単離する方法であってもよい。中でも環境や動物への安全性の観点から、化学合成の工程を経る方法は好ましくない。
【0022】
上述の原料となる天然物として、具体的にはブドウ、ピーナッツ、カカオマス等の植物の表皮を挙げることができる。好ましくは、ピーナッツである。例えば、ピーナッツ表皮の乾燥体1g当たり通常は1〜5mg程度の4’G−RSVが含まれる。
【0023】
上記の天然物由来の4’G−RSVは、上記の植物の表皮うち少なくとも一種を原料として単離すればよい。具体的な単離方法の一例として、上記原料をそのまま、或いは必要に応じて乾燥、細切、破砕、粉砕、圧搾、煮沸あるいは発酵処理した処理物に対して、溶媒を加えて4’G−RSVを抽出する方法が挙げられる。
【0024】
溶媒としては、例えばアセトン、エタノール、ヘキサン、クロロホルム等が挙げられ、中でも、抽出効率の観点からアセトン、又はエタノールを用いることが好ましい。溶媒の使用量は、上記原料に1重量部に対して通常2〜100重量部程度とすればよく、より好ましくは10〜50重量部程度である。
【0025】
具体的な抽出方法は、冷浸、温浸等の浸漬法;低温、室温、又は高温条件下で撹拌する方法;パーコレーション法等が挙られる。抽出の後、ろ過や遠心分離等の通常の固液分離手段を用いて固相画分を取り除いて得られる液体画分を、4’G−RSVを含む抽出物とすればよい。得られた抽出物そのものを、本発明の単離した4’G−RSVとしてもよいが、必要に応じて得られた抽出物に対して減圧蒸留等の処理を施し、有機溶媒成分を取り除いて得られるものを本発明の単離した4’G−RSVとしてもよい。更に、必要に応じて乾燥、濃縮等の処理に供して乾燥物や濃縮物としてもよい。
【0026】
また、得られた抽出物を精製の工程に供して、本発明の単離した4’G−RSVとしてもよい。具体的な精製方法として、HPLCシステム等を用いた、公知のカラムクロマトグラフィー法による方法等が挙げられる。このような方法にて用いるカラムの種類としては、シリカカラム、ODSカラム等が挙げられ、中でもシリカカラムが好ましい。
【0027】
Sirt1活性化剤、及びMnSOD発現誘導剤
本発明のSirt1活性化剤、及びMnSOD発現誘導剤は、上述の4’G−RSVを含む。本発明のSirt1活性化剤も、MnSOD発現誘導剤も、上述の4’G−RSVそのものであっても、他の成分を含有したものであってもよい。
【0028】
後者の場合、Sirt1活性化剤、及びMnSOD発現誘導剤に含有される4’G−RSVの割合は、これらの剤に対して通常0.001〜99重量%程度とすればよく、より好ましくは10〜90%程度である。
【0029】
上述の4’G−RSVを細胞に対して作用させると、細胞内のSirt1が活性化し、ヒストンH3の脱アセチル化が生じ、それに伴ってMnSODの発現が亢進され、結果として細胞内に酸化ストレスを低減させる機能を有するMnSODが、著量に蓄積することになる(図1)。すなわち、本発明のSirt1活性化剤、及びMnSOD発現誘導剤は、細胞内における抗酸化の用途に用いることができる。Sirt1、及びMnSODのより詳細な機能等については、非特許文献1に記載の通りである。
【0030】
本発明のSirt1活性化剤、及びMnSOD発現誘導剤による効果は、それぞれ細胞内のSirt1活性化の度合い、及び細胞内のMnSOD発現誘導の度合いによって確認することもできるが、上述のようにSirt1の活性化、及びMnSODの活性化は共に細胞内での抗酸化作用を上昇させるので、酸化ストレスに起因する細胞死の抑制、ひいては老化防止作用、アンチエイジング作用等によって確認することもできる。
【0031】
本発明のSirt1活性化剤、及びMnSOD発現誘導剤は、動物個体を対象として使用することが可能である。使用対象とする動物個体は、特に限定はされないが、ヒト、マウス、ラット、モルモット、ウサギ、ハムスター、イヌ、ネコ、イタチ等のホ乳類動物に対して、より好ましい抗酸化作用、老化防止作用、アンチエイジング作用を示す。さらに好ましい使用対象はヒトである。
【0032】
本発明のSirt1活性化剤、及びMnSOD発現誘導剤の動物個体に対する使用量は、動物個体の体重、年齢、性別、投与形態、所望する効果の程度等によって適宜設定することが可能である。具体的な使用量は、内用の形態であれば、有効成分である4’G−RSVの量に換算して、通常0.5〜500mg/kg/日程度の量とすればよく、外用の形態であれば、同じく4’G−RSVの量に換算して、皮膚1cmあたり通常2.5〜500mg程度の量で使用すればよい。
【0033】
上述のように、本発明のSirt1活性化剤、及びMnSOD発現誘導剤に含まれる4’G−RSVは、経皮による適用となる外用、内服又は摂取による適用となる内用等の形態で使用されることによって抗酸化効果、ひいては老化防止効果、アンチエイジング効果等を発揮するので、本発明の4’G−RSVは組成物に配合して使用される。
【0034】
組成物
本発明の単離した4’G−RSVを含む組成物における4’G−RSVの配合割合は、当該組成物が抗酸化作用、老化防止作用、アンチエイジング作用等を示す量とすればよく、該組成物の形態、用途等に応じて適宜調整されるが、通常は組成物の総量に対して、0.001〜99重量%程度とすればよい。
【0035】
上述のように、本発明の単離した4’G−RSVを含む組成物は、Sirt1活性化剤、及びMnSOD発現誘導剤と同様に抗酸化の作用を示すことが期待できるため、抗酸化組成物として特に有用である。そして、本発明の組成物は、上述のSirt1活性化剤、及びMnSOD発現誘導剤と同様に動物個体を対象として使用することも可能である。
【0036】
使用対象とする動物個体は、特に限定はされないが、ヒト、マウス、ラット、モルモット、ウサギ、ハムスター、イヌ、ネコ、イタチ等のホ乳類動物に対して、より好ましい抗酸化作用を示す。さらに好ましくはヒトである。特に、本発明の組成物は抗酸化作用が期待できるので、飲食品又は化粧料の分野において、抗酸化、老化防止、アンチエイジング等を所望するヒトに、好ましく用いられる。また、医薬品の分野においては、後述するような酸化ストレス等に関与する疾病の治療及び/又は予防が必要であるヒトに、好ましく用いられる。
【0037】
以下に、本発明の単離した4’G−RSVを含む組成物の使用態様について、化粧料、医薬品、及び飲食品を例に挙げて説明する。
【0038】
化粧料
化粧料において、抗酸化作用、老化防止作用、アンチエイジング作用等に有効な量の4’G−RSVと共に、香粧学的に許容される担体や添加剤等を配合することにより、抗酸化用、老化防止用の化粧料組成物が提供される。
【0039】
すなわち、本発明の化粧料組成物は上述の4’G−RSVを有効成分として含有する。当該化粧用組成物は、Sirt1を活性化し、MnSODの発現を亢進させて細胞内の酸化ストレスを抑制する作用を効果的に発揮し、抗酸化作用、老化防止作用、アンチエイジング等の効果が期待され、特に紫外線などの光によって引き起こされる老化防止効果やアンチエイジング効果が期待されるので、例えば、老化防止用化粧料、アンチエイジング用化粧料等に有用である。
【0040】
当該化粧料組成物の形状については特に制限されないが、例えば、ペースト状、ローション状、ムース状、ジェル状、ゼリー状、液状、乳液状、懸濁液状、クリーム状、軟膏状、シート状、エアゾール状、スプレー状等が挙げられる。また、当該化粧料組成物の形態についても、制限されるものではないが、例えば、ファンデーション、頬紅、白粉等のメイクアップ化粧料;化粧水、乳液、クリーム、ローション、オイル及びパック等の基礎化粧料;洗顔料、クレンジング、ボディ洗浄料等の皮膚洗浄料;マッサージ剤、清拭剤;清浄剤;入浴剤等が挙げられる。
【0041】
このような化粧料組成物の適用量は、適用対象者の性別や年齢、該組成物の適用形態、期待される効果等に基づいて適宜設定することができ、例えば4’G−RSVの量に換算して、皮膚1cmあたり、通常2.5〜500mg程度の量とすればよい。
【0042】
このような化粧料組成物における4’G−RSVの配合割合は、上述した割合の範囲内で適宜設定すればよいが、化粧料組成物の総量に対して、4’G−RSVが0.001〜99重量%程度となる割合とすればよく、好ましくは10〜90%程度である。
【0043】
医薬品
医薬の分野では、抗酸化作用、老化防止作用、アンチエイジング効果等に有効な量の上述の4’G−RSVと共に、薬学的に許容される担体や添加剤を配合することにより、抗酸化用、老化防止用、アンチエイジング用等の医薬組成物が提供される。すなわち、本発明の医薬組成物は上述の4’G−RSVを有効成分として含有する。
【0044】
当該医薬組成物における4G’−RSVの配合割合は、適用形態や適用量等に応じて、適宜設定すればよいが、該組成物の総量に対して、4G’−RSVが0.001〜99.9重量%程度となる割合とすればよく、好ましくは10〜90重量%程度である。
【0045】
当該医薬組成物は、Sirt1を活性化し、MnSODの発現を亢進させて細胞内の酸化ストレスを抑制する作用を効果的に発揮するので、細胞内の酸化ストレスの地蓄積によって惹起される疾病や症状の予防及び/又は治療薬として有用である。具体的には、肥満、心不全、筋ジストロフィー、糖尿病、前糖尿病状態、動脈硬化症、高脂血症、自己免疫疾患(ループスエリテマトーデス、関節リウマチ、結節性多発動脈炎、皮膚筋炎、混合性結合織病、強皮症、シェーグレン症候群、ベーチェット病、側頭動脈炎、重症筋無力症、ギランバレー症候群、多発性硬化症、原田病、白斑、天疱瘡、類天疱瘡、慢性腎炎、クローン病、潰瘍性大腸炎等)、アルツハイマー病、筋委縮性側索硬化症、パーキンソン病、脳出血、脳梗塞、心筋梗塞、黄斑変性症、網膜色素変性症、糖尿病性網膜症、アレルギー性皮膚炎、慢性膵炎、腎硬化症、肝硬変等が例示される。なお、当該医薬組成物には、医薬品及び医薬部外品の双方が含まれる。
【0046】
当該医薬組成物は、内用的に適用されても、また外用的に適用されても、上述した所望の作用を発揮することができる。故に、当該医薬組成物は、内服剤;静脈注射、皮下注射、皮内注射、筋肉注射及び腹腔内注射等の注射剤;経粘膜適用剤、経皮適用剤等の製剤形態で使用することができる。
【0047】
当該医薬組成物の剤型としては、適用形態に応じて適宜設定されるが、一例として、錠剤、散剤、粉末剤、顆粒剤、カプセル剤等の固形製剤;液剤、乳剤、懸濁剤等の液状製剤;軟膏剤、ゲル剤等の半固形製剤が挙げられる。
【0048】
当該医薬組成物の適用量は、適用対象者の性別や年齢、該組成物の適用形態、期待される効果等に基づいて適宜設定することができ、例えば、4G’−RSVの量に換算して、通常1〜100mg/kg/日程度の量で適用すればよい。
【0049】
飲食品
飲食品の分野では、細胞における抗酸化作用、老化防止作用、アンチエイジング効果等を生体内で発揮するのに有効な量の4G’−RSVを飲食品素材として各種飲食品に配合することにより、細胞内のSirt1を活性化し、MnSODの発現を亢進させて細胞内の酸化ストレスを抑制する作用を効果的に発揮する飲食品組成物を提供することができる。
【0050】
すなわち本発明は、飲食品の分野において、抗酸化、老化防止、又はアンチエイジングを目的とした飲食品組成物を提供することができる。当該飲食品組成物としては、一般の食品の他、特定保健用食品(条件付き特定保健用食品を含む)、栄養補助食品、機能性食品、病者用食品等を挙げることができる。
【0051】
当該飲食品組成物として、より具体的には、清涼飲料、炭酸飲料、栄養飲料、果実飲料、乳酸飲料等の飲料;アイスクリーム、かき氷等の冷菓;ガム、チョコレート、飴、錠菓、スナック菓子、ゼリー、ジャム、クリーム等の菓子類;そば、うどん、即席麺等の麺類;かまぼこ、ハム、ソーセージ等の水産・畜産加工食品;加工乳、発酵乳等の乳製品;サラダ油、マヨネーズ、ホイップクリーム、ドレッシング等の油脂及び油脂加工食品;ソース、たれ等の調味料;スープ、サラダ、惣菜、漬物、パン、シリアル等を例示できる。例えば、特定保健用食品、栄養補助食品、機能性食品等の場合であれば、粉末、顆粒、カプセル、トローチ、タブレット、シロップ等の形態のものであってもよい。
【0052】
従来、4G’−RSVは上述のようにブドウ、ピーナッツ、カカオマス等の表皮に含まれていることが知られているが、通常の飲食慣習における範囲での摂取量は、上述した抗酸化作用、老化防止作用、アンチエイジング作用等を得るには十分な量ではない。また、過剰な量の4G’−RSVを摂取することは、その量に見合った効果が得られず経済的問題があり、ほかには人体への予期されない悪影響が懸念されるので好ましくない。
【0053】
このような観点から、当該飲食品組成物の摂取量は、4G’−RSVの量に換算して、通常0.1〜0.5mg/日程度とすればよい。このような範囲の摂取量を満たすように適宜設定することで、飲食品組成物に含有させる4G’−RSVの量を確定させることができる。また上記の4G’−RSVの配合量は、飲食品組成物に対して換算すると、通常0.001〜99重量%程度となり、好ましくは10〜90重量%程度である。
【0054】
本発明の4’G−RSVは、抗酸化作用、老化防止作用、アンチエイジング作用等を効果的に発揮でき、生体内の酸化ストレスを防ぐ効果が期待されるので、抗酸化用、老化防止用、アンチエイジング用等の飲食品添加剤としても有用である。
【0055】
上記の抗酸化用、老化防止用、アンチエイジング用等の飲食品添加剤への4’G−RSVの配合量は、該剤当り、通常0.001〜99重量%程度となり、好ましくは10〜90重量%程度である。また、該剤は具体的には飲食品の摂取時又は食事等の調理時に好適に用いることができ、摂取量は上述の飲食品組成物の摂取量と同程度にすればよい。
【発明の効果】
【0056】
本発明の組成物に含有される単離した4’G−RSVは、ブドウ、ピーナッツ、カカオマスの表皮等に含まれる成分である。すなわち、当該4’G−RSVは、従来から食品として摂取されてきた天然成分の一種であり、人体に対する安全性が確認されている。特に、本発明の単離した4’G−RSVは、RSVや他の配糖体である3G−RSVよりも細胞毒性が低いという性能を有するので、飲食品、医薬品、化粧料などの分野に好ましく用いることができる。
【0057】
そして、本発明の組成物に含有される単離された4’G−RSVは、Sirt1活性化能、MnSOD発現誘導能を有することから、細胞において抗酸化の効果をもたらす。従って、ヒト等の動物に適用することによって、アンチエイジング効果、老化防止効果等を与えることが可能となる。
【0058】
従って、本発明の単離した4’G−RSVを含む組成物はそれぞれ抗酸化、老化防止、アンチエイジング等の用途を目的として、飲食品、医薬品、化粧料の分野に用いることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】RSVが関与する生体内の機能を説明する図
【図2】本発明の実施例にて用いた3G−RSV、及び4’G−RSVの逆相HPCLによる分離を確認するチャート。
【図3】DPPHを用いたRSV、3G−RSV、及び4’G−RSVのラジカル消去活性試験。
【図4】RSV、3G−RSV、及び4’G−RSVによるヒストンH3脱アセチル化を確認する実験。(A)実験スキームを示す模式図。(B)実験結果を定量化し、解析した結果を示すグラフ。(C)ヒストンH3の脱アセチル化を確認するために行ったWestern Blotting像。
【図5】RSV、3G−RSV、及び4’G−RSVによるMnSODタンパク質の発現量の亢進を確認する実験。(A)実験スキームを示す模式図。(B)実験結果を定量化し、解析した結果を示すグラフ。(C)MnSODタンパク質の発現量の亢進を確認するために行った免疫染色像。
【図6】RSV、3G−RSV、及び4’G−RSVによるMnSODタンパク質の発現量の亢進を確認する実験。(A)実験スキームを示す模式図。(B)実験結果を定量化し、解析した結果を示すグラフ。(C)MnSODタンパク質の発現量の亢進を確認するために行ったWestern Blotting像。
【図7】RSV、3G−RSV、及び4’G−RSVによる細胞増殖に及ぼす影響を確認する実験。(A)実験スキームを示す模式図。(B)実験結果を定量化し、解析した結果を示すグラフ。(C)細胞増殖を確認するために行った細胞のHechst染色像。
【発明を実施するための形態】
【0060】
以下に本発明をさらに詳細に説明する。但し、本発明が以下に示す実施例に限定されないのは言うまでも無い。
【実施例】
【0061】
<実験手法等>
(1)実施例にて使用したレスベラトロール
実施例にて用いたRSV配糖体は、下記の方法によって作製した。Murashige−Skoog(MS)基本培地に、3%のsucrose、終濃度が1ppmとなるように2,4−dichlorophenoxyacetic acidを添加した液体培地(100ml)に、新鮮重量20gの植物培養細胞を移植し、25℃、120rpmで4日間振とう培養した。その後、DMSO(100μl)に溶解させた40μmolのレスベラトロール(東京化成)を投与し、同条件下で2日間培養した。
【0062】
培養後、ナイロンメッシュで培地と培養細胞とにろ別し、培地部は水飽和n−ブタノールで分配抽出し、細胞部はホモジナイズしたのちメタノールで静置抽出した。それぞれ有機相を減圧下濃縮しメタノールで5.0mlに調製しサンプルとした。
【0063】
得られたサンプルを逆相HPLCにて分析し、変換物を確認した。この変換物を分取HPLCで単離・精製し、LC/MSおよびNMRを用いて構造解析を行った。
【0064】
HPLCによる分離パターンを図2に示す。図から明らかなように、上記の方法によって、二種の化合物が分離・製造され、これらの解析からそれぞれ3G−RSV、及び4’G−RSVであることが明らかとなった。
【0065】
(2)実施例にて使用した細胞及び培養方法
マウス由来の筋肉芽細胞であるC2C12細胞は、10%のFetal Bovine Serum(FBS;MP Biomedicals Inc)と1%のantibiotic−antimycotic mixed stock solution (Nacalai Tesque)を含む高グルコースのD−MEM培地(Wako)を用いて37℃、5%の二酸化炭素の環境下にて培養した。
【0066】
新生仔ラット単離心筋細胞であるneonatal rat ventricular myocytes(NRVM)は、生後3日以内の新生仔ラット(Sprague Dawley)の心筋を単離し、ハサミで心房を除去後、残った心室に当る組織を細切りした後にコラゲナーゼ溶液(0.05%のCollagenase(Wako)をPhosphate Buffer Solution(PBS)に溶解した液)に加え、Incubator Shaker(INNOVA 4200、New Brunswick)を用いて、80rpm、37℃で90分間振とうした。その後、NRVM細胞を4℃のPBS(1.25mMのCaCl;PBS溶解液)に移し7分間ピペッティングした後、ナイロンメッシュを用いろ過して回収した。
【0067】
回収した細胞は、10%のFBS(MP Biomedicals Inc)と1%のantibiotic−antimycotic mixed stock Solution(Nacalai Tesque)を含む低グルコースのD−MEM培地(Wako)を10ml加えておいた100mmディッシュ(greiner bio−one)に移し、37℃、5%の二酸化炭素中で1時間培養した。この操作で、ディッシュ底面に接着する線維芽細胞を除去した後、NRVMを12−well plate(Greiner bio−one)に播き、10%のFBS(MP Biomedicals Inc)と1%のantibiotic−antimycotic mixed stock Solution(Nacalai Tesque)を含む低グルコースのD−MEM培地(Wako)を用いて37℃、5%の二酸化炭素中で培養した。分離された細胞は抗Myosin Heavy Chain抗体を用いた免疫染色によって確認を行った。単離されたNRVMの純度はおおよそ80〜90%だった。
【0068】
(3)実施例にて使用した抗体
本実験で使用した抗体を下記の表1にて示す。
【0069】
【表1】

【0070】
(4)DPPHラジカル消去活性試験
1,1−diphenyl−2−picrylhydrazyl radical(DPPH)は、517nmに特異的な吸収波長を有している。ラジカルが抗酸化物質などによって奪われると、517nmの吸収が減少する。この反応を利用し、ラジカルの消去率を測定し、測定値から50%阻害濃度(IC50)を算出し、抗酸化活性の比較を行った。DPPHをメタノールで溶解し、0.15mMに調整した。精製したRSVとRSV配糖体(3G−RSV及び4’G-RSV)はエタノール、もしくは水で2mMの濃度に調整し、さらに2倍ずつ希釈し1/2〜1/512の希釈系列を作製した。DPPHメタノール溶液と各濃度のサンプルを500μlずつ混合して攪拌し、室温・暗所にて30分間反応させ、分光光度計で517nmの吸収を測定した。ラジカル消去活性は、コントロール(試料として、サンプルを溶解させた溶媒を加えたもの)の吸光度を100%とし、サンプルを用いて測定したときの吸光度と比較してラジカル消去率を算出した。
【0071】
(5)Western blotting
培養したC2C12細胞に、上記のRSVとRSV配糖体(3G−RSV及び4’G−RSV)を100μMの濃度で18時間予め処理し、その後に酸化ストレスを細胞に与える為、100μMのAA(アンチマイシンA)で6時間の処理を行った。
【0072】
処理後の細胞をPBSで洗浄し、引き続いて4℃のCellLyticTMM Cell lysis reagent(SIGMA)にプロテアーゼ阻害剤カクテル(Nacalai Tesque)とホスファターゼ阻害剤カクテル(Nacalai Tesque)を加えた溶液を用いて細胞を溶解した。細胞溶解液を超音波破砕し、4℃、15,000rpmで10分間遠心を行った。そして、遠心後の細胞溶解液の上清に4×SDSサンプルバッファーを加え、98℃、3分間でインキュベーションして電気泳動用サンプルとした。
【0073】
引き続いて、電気泳動用サンプルを、12.5%ポリアクリルアミドゲルを用いたSDS−PAGEに供し、電気泳動後のポリアクリルアミドゲルをImmun−Blot PVDF membrane(BIO−RAD)へ転写した。
【0074】
転写後のmembraneは、5%スキムミルクを加えたTBST溶液(50mM Tris HCl、pH7.5、 150mM NaCl、0.05% Tween20(Wako))に浸して室温で30分間ブロッキング処置を行った後に1次抗体4℃にて一晩行った。処理後のmembraneは、Wash Solution(KPL)を用いて、各15分間、4回繰返して洗浄を行い、続いて2次抗体処理を室温で1時間行った。1次抗体処理ごと同様に、Wash Solution(KPL)で15分間の洗浄を4回行った。
【0075】
最後に、製造元のプロトコールに従い、Amersham ECL Advance Western Blotting Detection Kit(GE Healthcare)を用いてmembrene上の発光反応を行った後に、LAS−1000(FUJIFILM)を用いて発光反応に基づくBlot像を取得した。得られたBlot像は、Image J software(National Institutes of Health;NIH)を用いて定量化した。
【0076】
(6)免疫染色
培養したC2C12細胞を、12well dishに入れたAtelo Cell(R) IPC−30 Atelocollagen(KOKEN)でコートしたガラスディスク上に播種し、12時間、37℃、5%の二酸化炭素中にインキュベーションし、細胞がガラスプレートに付着させた。ガラスディスク上への細胞の付着を確認した後に、100μMの濃度のRSV又はRSV配糖体(3G−RSV及び4’G−RSV)にて処理し、18時間後に100μMのAAを加え、さらに6時間インキュベーションを行った。
【0077】
処理後の細胞は4%パラホルムアルデヒド溶液で固定した後に、0.1%のTritonX-100を含むブロッキングソリューション(3%のウシ血清アルブミンコーンフラクションV(Wako)、1%のgoat Serum(Wako);PBS溶解液)にて室温で30分処置した後、4℃で一晩1次抗体処理を行った。その後、PBSで15分間、4回洗浄を行った後に、室温で4時間、2次抗体処理を行い1次抗体処理後と同様に洗浄した。
【0078】
その後、核を染色するためにHoechst 33342(Wako)を用いて、室温で30分間処理し、PBSで15分間、2回洗浄をおこなった後に、共焦点レーザー蛍光顕微鏡(ZEISS/Radian)にて撮影を行った。画像はImage J software(NIH)を用いて定量化した。
【0079】
(7)統計処理
各実験は3回以上行い,得られたデータはOne Way Repeated Measures ANOVAを用いて統計的有意差検定を行い、P<0.05をもって有意差ありとした。なお、細胞免疫染色においては、各投与群で細胞数が20個以上50個未満の視野を24視野を任意に選択して観察し、得られた数値を統計処理に用いた。
【0080】
<実験結果>
(1)DPPHラジカル消去活性
RSVが有する抗酸化活性が、RSV配糖体とすればどのように変化するのかを検討する為に、DPPHラジカル消去活性試験を行った。結果を図3に示す。
【0081】
RSVもしくはRSV糖誘導体(3G−RSV又は4’G−RSV)の抗酸化活性を、DPPHの吸光度の減少で測定し、最大にラジカルを消去する濃度の半分の濃度(半分阻害濃度(IC50))で還元能を解析した。すると、RSVでは79μM、3G−RSVでは110μMだったが、4’G−RSVでは250μM以上であった。従って、4’G−RSVはRSV及び3G−RSVよりも顕著なDPPHラジカル消去活性を示さないことが明らかとなった。即ち、インビトロにおいて、4’G−RSVは、顕著な抗酸化作用を示さないことが明らかとなった。
【0082】
(2)RSVとRSV配糖体のヒストンH3脱アセチル化活性
RSVはSIRT1を活性化してヒストンの脱アセチル化を促進することが分かっているので(非特許文献1、図1を参照)、RSV配糖体がヒストンH3の脱アセチル化を促進するかどうかを検討した。
【0083】
それぞれ100μMの濃度のRSVとRSV配糖体でC2C12細胞を18時間処置した後、100μMの濃度のAA(アンチマイシンA)で6時間処置して酸化ストレスを細胞に与えた後、アセチル化されたヒストンH3量と全ヒストンH3量をWestern blottingにより検討した(図4(A)に示す実験スキームを参照。)。その結果を図4(B)及び(C)に示す。
【0084】
コントロール群(図中、AA示される。以下同様。)に対して、RSV処置群と4’G−RSV処置群が有意なアセチル化ヒストンH3の減少を示し、さらに4’G−RSVがRSVに比べ有意にヒストンH3の脱アセチル化を促進させることが確認された。一方、3G−RSV処置群ではコントロール群に対し、ヒストンH3の脱アセチル化の促進作用は確認できなかった。
【0085】
(3)RSVとRSV配糖体のMnSOD発現亢進作用の比較
RSV及びRSV配糖体によるMnSODの発現量の亢進の有無を、抗MnSOD抗体を用いた抗体免疫染色法及びWestern blotting法にて確認した。
【0086】
3−1)抗体免疫染色法
C2C12細胞を、それぞれ100μMの濃度のRSV又はRSV配糖体(4’G−RSV及び3G−RSV)で18時間処置し、その後100μMの濃度のAAを6時間作用させた。(図5(A)に示す実験スキームを参照。)。処理後の細胞は4%パラホルムアルデヒドで固定し、免疫染色法によりMnSODの発現量を比較検討した。結果を図5(B)及び(C)に示す。
【0087】
コントロール群に対して、RSV処置群と4‘G−RSV処置群が、有意なMnSOD染色の増加を示し、さらに4’G−RSVはRSVよりも顕著に強いMnSOD誘導能をもつことが判明した。一方で、3G−RSV処置群では、MnSOD染色の程度はコントロール群とほぼ同程度であり、MnSOD発現量の亢進作用は確認できなかった。
【0088】
3−2)Western blotting法
MnSODの細胞免疫染色法の結果から、RSVと4‘G−RSVがMnSODの発現量を亢進させる効果を有することが明らかとなった。そこで、Western blotting法を用いて、タンパク質レベルでのMnSODの発現量の増加を確認した。
【0089】
MnSODの免疫染色法と同様に処置した細胞(図6(A)に示す実験スキームを参照。)をWestern blotting法に供した結果、図6(B)及び(C)に示すように、コントロール群に対してRSV処置群と4‘G−RSV処置群が有意なMnSODの発現量の増加を示し、4’G−RSV処置群ではRSV処置群に比べさらに強い発現誘導能が示された。一方で、3G−RSV処置群ではMnSODの発現量の増加は確認できなかった。
【0090】
(4)RSVとRSV配糖体の細胞増殖能への作用
RSVは癌細胞などの細胞の増殖を抑制する効果が知られている。すでに、筋芽細胞であるC2C12の増殖を、RSVが抑制することを見出されており、RSVとRSV配糖体(3G−RSV及び4’G−RSV)のC2C12細胞の増殖に対する作用を比較検討した。それぞれ30μMの濃度のRSV及びRSV配糖体でC2C12細胞を24時間処置した後、細胞をHoechst33342で染色し、細胞数を計測した(図7(A)に示す実験スキームを参照。)。結果を図7(B)及び(C)に示す。
【0091】
RSVと4’G−RSVはC2C12細胞の増殖をともに抑制したが、4’G−RSVはRSVに比較してその増殖抑制能は有意に低かった。一方、3G−RSVには細胞増殖抑制能はみられなかった。
【0092】
以上の実験結果から、4’G−RSVは、RSVよりも有意にヒストンH3脱アセチル化を誘導し、また、RSVよりも有意にMnSODの発現誘導を引き起こす作用を有することが明確となった。従って、図1に示す模式図を参照すれば、4’G−RSVはRSVよりも顕著にSirt1遺伝子を活性化することが理解される。
【0093】
さらに、4’G−RSVはRSVよりも細胞増殖抑制効果が薄いことから、細胞への毒性が低いことが明確となった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単離したレスベラトロール−4’−O−β−D−グルコピラノシドを含むSirt1活性化剤。
【請求項2】
単離したレスベラトロール−4’−O−β−D−グルコピラノシドを含むMnSOD活性化剤。
【請求項3】
単離したレスベラトロール−4’−O−β−D−グルコピラノシドを含む組成物。
【請求項4】
単離したレスベラトロール−4’−O−β−D−グルコピラノシドを含む抗酸化組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−240956(P2012−240956A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−111971(P2011−111971)
【出願日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 掲載年月日 平成22年11月19日 掲載アドレス http://share.dynacom.jp/bmb2010abst/index.php?p_no=3P−0449&btn_syousai=on
【出願人】(599035627)学校法人加計学園 (43)
【出願人】(307014555)北海道公立大学法人 札幌医科大学 (31)
【出願人】(391007356)備前化成株式会社 (16)
【Fターム(参考)】