説明

レセプター随伴タンパク質(RAP)、前記の誘導体、模倣体および合成ペプチドによるプリオンタンパク質増殖の阻害

RAP薬剤を医薬的に許容できる担体および/または賦形剤と一緒に含む医薬処方物、並びに前記をプリオン病に罹患したまたはその危険性がある対象動物に投与する工程を含むプリオン病の治療方法が提供される。RAP薬剤は、感染による発症かまたは遺伝的変異による発症かに関係なく、多様なプリオン病の予防および/または治療のために有効な手段である。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
プリオン病(あるいは伝染性海綿状脳症(TSE)として知られている)は、ヒトおよび動物の両方を冒す進行性神経変性障害の一ファミリーである。それらは、長い潜伏期間、ニューロン消失を伴う特徴的な海綿状変化、および古典的免疫応答誘発の失敗によって識別される。TSEの原因因子はプリオンであると考えられている。プリオンは、大半がコンフォーメーションの変化したプリオンタンパク質から成る伝染性因子であり、前記は正常な細胞性プリオンタンパク質の異常な折りたたみを誘発する能力を有する。脳内のプリオンの複製は、脳の損傷並びに本疾患の特徴的な徴候および症状をもたらす。ヒトのプリオン病は稀で通常は急速に進行し致死性である。現時点では症状発現前の診断検査または治療は利用可能ではない。
正常な細胞性プリオンタンパク質は、健常な人間および動物の全身の多様な器官および組織(脳を含む)で見出される。しかしながら、罹患者または動物の脳で見出されるプリオンタンパク質は、種々の“誤って折りたたまれた”構造を有し、部分的にプロテアーゼ耐性である。プリオンタンパク質の正常な細胞型は一般的にPrPCと称される(“c”は“細胞性(cellular)”を意味する)。感染型は以下のように種々に呼称される:PRPSc(“Sc”は“スクラピー”に由来する);PrPSc, TSE, CJD, GSS, FFI, BSE, CWD, 等(etc)(Sc、TSE、CJD、GSS、FFI、およびCWDは、TSE、より具体的にはスクラピー、種々の形態のクロイツフェルト-ヤコブ病、ゲルシュトマン-シュトロイスラー-シャインカー病、致死性家族性不眠症、ウシ海綿状脳症、慢性るい痩などの異常タンパク質を意味する);およびより一般的にはPrPd(“d”は“疾患随伴”プリオンタンパク質を意味する)。
【0002】
ヒトPrPCは、染色体20に位置する単一コピー遺伝子から生成される253アミノ酸のタンパク質である(LIAO et al. “Human prion protein cDNA: molecular cloning, chromosomal mapping, and biological implications,” Science, 1986, 233:364-367)。前記タンパク質は以下を含む多様な翻訳後修飾を受ける:ジスルフィド結合の形成(STAHL et al. “Prions and prion proteins,” FASEB J, 1991, 5:2799-2807)、グリコシル化(RUDD et al. “Prion glycoprotein: structure, dynamics, and roles for the sugars,” Biochemistry, 2001, 40:3759-66)、C-末端の22アミノ酸の除去およびグリコホスホチジルイノシトール(GPI)部分の付加(STAHL et al. Cell, 1987, 51:229-40)。正常な細胞性タンパク質はGPIアンカーを介して原形質膜に付着し、もっぱらアルファへリックス構造を有する。完全にグリコシル化されたタンパク質は38kDaの分子量を有し、構造としてモノマーであり、タンパク分解作用に感受性である(CAUGHEY et al. “Prions and their partners in crime,” Nature, 2006, 443:803-10)。PrPCは、以下を含む種々のタンパク質と相互作用することが判明している:熱ショックタンパク質(EDENHOFER et al. “Prion protein PrPc interacts with molecular shaperones of the Hsp60 family,” J Virol, 1996, 70:4724-8)、37kDa/67kDaラミニンレセプター(RIEGER et al. “The human 37-kDa laminin receptor precursor interacts with the prion protein in eukaryotic cells,” Nat Med, 1997, 3:1383-8;GAUCZYNSKI et al. “The 37-kDa/67kDa laminin receptor acts as the cell-surface receptor for the cellular prion protein,” EMBO J, 2001, 20:5863-75)、もっぱら細胞質に存在する66kDaのストレス誘発性タンパク質-1(ZANATA et al. “Stress-inducible protein 1 is a cell surface ligand for cellular prion that triggers neuroprotection,” EMBO J, 2002, 21:3307-16)、プラスミノーゲン(ELLIS et al. “Plasminogen activation is stimulated by prion protein and regulated in a copper-dependent manner,” Biochemistry, 2002, 41:6891-6;PRAUS et al. “Stimulation of plasminogen activation by recombinant cellular prion protein is conserved in the NH2-terminal fragment PrP23-110,” Thromb Haemost, 2003, 89:812-9;KORNBLATT et al. “The fate of the prion protein in the prion/plasminogen complex,” Biochem Biophys Res Commun, 2003, 305:518-22)、ニューロン細胞粘着分子(NCAM)(SANTUCCIONE et al. “Prion protein recruits its neuronal receptor NCAM to lipid rafts to activate p59fyn and to enhance neurite outgrowth,” J Cell Biol, 2005, 169:341-54)、硫酸ヘパランプロテオグリカン(HPSG)(HORONCHIK et al. “Heparan sulfate is a cellular receptor for purified infectious prions,” J Biol Chem, 2005, 280:17062, Epub, 2005 Jan 24)、低密度リポタンパク質レセプター関連タンパク質(LRP1)(TAYLOR et al. “Role of lipid rafts in the processing of the pathogenic prion and Altzheimer's amyloid-beta proteins,” Semin Cell Dev Biol, 2007, 18:638-48, Epub, 2007 Jul 24, Review;PARKYN et al. “LRP1 controls biosynthetic and endocytic trafficking of neuronal prion protein,” J Cell Sci, 2008, 121(Pt6):773-83, Epub, 2008 Feb 19;Cervenakova et al. 2004, 未発表データ)、他のLDLレセプタースーパーファミリーメンバー、メガリンレセプターおよびVLDLR(Cervenakova et al. 2004, 未発表データ)。PrPCは、以下の理由からLRP1スカベンジャー複合体の部分として機能しえると提唱されている:PrPCのN-末端ドメインが多数の結合モチーフを有するため(CAUGHEY et al. “Prions and transmissible spongiform encephalopathy (TSE) chemotherapeutics: A common mechanism for anti-TSE compounds?” Acc Chem Res, 2006, 39:646-53);および、PrPCがニューロン表面を迅速に行き交うときに、水性環境に暴露されたその疎水性配列(アミノ酸112−130)が変性タンパク質と結合する可能性があるため。最近、LRP1はニューロンPrPCの生合成および細胞内往来の両方と結合しこれらに関与することが示された(PARKYN et al. “LRP1 controls biosynthetic and endocytic trafficking of neuronal prion protein,” J Cell Sci, 2008, 12(Pt6):773-83, Epub, 2008 Feb 19)。正常なPrPCの機能は不明であるが、前記は、銅依存性抗酸化物質、シグナリング分子、抗アポトーシスおよびプロアポトーシス分子として、タンパク質支持ニューロン形態学および付着作用として機能しうること、および前記は長期記憶の維持に役割を果たしえることを示す証拠が存在する(ZOMOSA-SIGNORET et al. Physiological role of the cellular prion protein. Vet Res, 2008, 39:9, Epub, 2007 Nov 27. Review)。PrPCは骨髄の長期性造血幹細胞のマーカーであり、それらの自己再生を支援することが最近提唱された(ZHANG et al. “Prion protein is expressed on long-term repopulating hematopoietic stem cells and is important for their self-renewal,” Proc Natl Acad Sci USA, 2006, 103:2184-9, Epub, 2006 Feb 7)。
【0003】
PrPCおよびPrPdの一次構造(すなわちアミノ酸配列)に相違は検出されず、さらに構造またはコピー数に関して、正常脳と感染脳のPrP遺伝子またはmRNA間でも相違は全く認められなかった。したがって、この2つのタンパク質間の物理的な相違(例えば三次元立体配置)は翻訳後の化学的修飾に帰せられる。しかしながら、家族性プリオン病はPrP遺伝子に変異を有する家族で生じ、PrPの変異を有するマウスは、伝染が予防される管理条件下にもかかわらずプリオン病を発症する(HSIAO et al. “Spontaneous neurodegeneration in transgenic mice with prion protein codon 101 proline---leucine substitution,” Ann NY Acad Sci, 1991, 640:166-70)。多くの多様な変異が同定され、変異はとにもかくにも、異常なPrPd型にPrPCを偶発的により変化させやすくすると仮定された。
PrPdは、正常なPrPCタンパク質をそれらのコンフォーメーションまたは形状を変化させることによって感染性アイソフォームに変換することができ、これによって当該タンパク質の相互の連絡の仕方を順繰りに変化させる。動物の感染実験のデータは、まだ同定されていない、“タンパク質X”と名付けられる因子の存在を指摘し、前記タンパク質はこの変換プロセスを制御する可能性がある(TELLING et al. “Prion propagation in mice expressing human and chimeric PrP transgenes implicates the interaction of cellular PrP with another protein,” Cell, 1995, 83:79-90)。PrPdの正確な3D構造は不明であるが、PrPCからPrPdへの再折りたたみの間に、正常なαへリックスタンパク質構造のいくらかが部分的にβシートに変換される。これら異常なアイソフォームの凝集は高度な組織化されたアミロイド線維を形成し、前記は蓄積してぎっしりと詰まったβシートから成るプラークを形成する。PrPCとは異なり、この改変構造は極めて安定で、感染組織に蓄積する。この安定性は、プリオンが化学的および物理的因子による変性に対して非常に耐性をもち、これらの粒子の処分および封じ込めを困難にすることを意味する。“PrPres”(“res”は“resistant(耐性)”に由来する)は、プロテイナーゼK処理後のPrPdのタンパク分解作用耐性生成物を指すために一般的に用いられる。
【0004】
プリオンは、中枢神経系内のニューロンを変性させ、正常な組織構造を破壊することによって神経変性疾患を引き起こす。プリオン病の潜伏期間は一般的にきわめて長いが、いったん症状が出現するとこの疾患は急速に進行し、脳の損傷と死をもたらす。全ての既知のプリオン病は現時点では治療不能で致死性である。多くの多様な哺乳動物種がプリオン病に罹患する。異なる種間におけるPrPの小さな変化のために、プリオン病はある種から別の種に伝染することは珍しくはない。しかしながら、種から種への伝染は一定の条件下でのみ生じ、伝染のメカニズムは完全には理解されていない。そのような伝染のもっとも最近の例は、汚染牛に由来する食品から伝播した、ヒトを冒す変種クロイツフェルト-ヤコブ病(vCJD)であり、前記は、典型的にはウシに感染してウシ海綿状脳症(BSE)を引き起こすプリオンによって引き起こされると考えられている(WILL et al. “A new variant of Creutzfeldt-Jacob disiease in the UK,” Lancet, 1996, 347:921-5)。
自然界のTSE感染、例えばヒツジおよびヤギのスクラピー、ウシおよびヒツジのBSE、シカおよびヘラジカのCWD、並びにヒトのvCJDの主要経路は、汚染源の摂取によると考えられている。プリオンは、死んだ動物の残留物を介して、並びに尿、唾液および他の体液(CWDの場合)を介して環境中に保持されえる(HALEY et al. “Detection of CWD prions in urine and saliva of deer by transgenic mouse bioassay,“ Plos ONE, 2009, 4:4848, Epub, 2009 Mar 18)。それらはその後、粘土および他の鉱物と結合することによって土壌中に留まることができる(SAUNDERS et al. Prions in the environment: occurrence, fate and mitigation. Prion, 2008, 2:162-9, Epub 2008 Oct 26, Review)。他の感染方法もまた判明している。
【0005】
低密度リポタンパク質レセプター関連タンパク質随伴タンパク質1(LRPAP1またはレセプター随伴タンパク質(RAP)としてもまた知られている)は、ヒトではLRPAP1遺伝子によってコードされる(STRICKLAND et al. “Primary structure of alpha 2-macrogloburin receptor-associated protein. Human homologue of a Heymann nephritis antigen.” J Biol Chem, 1991, 266:13364-9;KORENBERG et al. “Chromosomal localization of human genes for the LDL receptor family member glycoprotein 330 (LRP2) and its associated protein RAP (LRRAP1)”, Genomics 1994, 22:88-93)。前記タンパク質は、最初マウスから44kDヘパリン結合タンパク質として単離され、初期にはHBP-44と称された(FURUKAWA et al. “A heparin binding protein whose expression increase during differentiation of embryonal carcinoma cells to parietal endoderm cells: cDNA cloning and sequence analysis,” J Biochem, 1990, 108(No.2):297-302)。ヒトでは、39-kD随伴タンパク質がアルファ-2-マクログロブリンレセプター複合体の部分として精製された(ASHCOM et al. “The human alpha 2-macroglobulin receptor: identification of a 420-kD cell surface glycoprotein specific for the activated conformation of alpha 2-macroblobulin,” J Cell Biol, 1990, 110:1041-8;STRICKLAND et al. “Primary structure of alpha 2-macroglobulin receptor-associated ptotein. Human homologue of a Heymann nephritis antigen,” J Biol Chem, 1991, 266:13364-9)。39-kDポリペプチド(アルファ-2-マクログロブリンレセプター随伴タンパク質(α2MRAP)と称される)は、cDNAクローニングによって決定された(STRICKLAND et al. “Primary structure of alpha 2-macroglobulin receptor-associated protein. Human homologue of a Heymann nephritis antigen,” J Biol Chem, 1991, 266:13364-9)。機能的な研究は、RAPはLRP1によってリガンド結合を阻止されることを明らかにした(HERZ et al. “39-kDa protein modulates binding of ligands to low density lipoprotein receptor-related protein/alpha 2-macroglobulin receptor,” J Biol Chem, 1991, 266:21232-8;WILLIAMS et al. “A novel mechanism for controlling the activity of alpha 2-macroglobulin receptor/low density lopoprotein. Multiple regulatory sites for 39-kDa receptor-associated ptotein,” Biol Chem, 1992, 267:9035-40)。ヒトRAPの推定アミノ酸配列は、323残基の成熟タンパク質に先行する仮説的シグナル配列を含む。前記配列は、ラットタンパク質と73%の同一性を、44-kDマウスHBP-44と77%の同一性を示した。RAPとアポリポタンパク質Eとの間にもまた類似性が存在する。RAPは粗面小胞体に局在し、この粗面小胞体でRAPは、LDLレセプターファミリーメンバーの折りたたみと細胞内輸送を補助する特殊化シャペロンとして機能するLDL-レセプター関連タンパク質と結合する。RAPは、脳を含む全身の多様な器官および組織で発現される。実験的証拠から、RAPはレセプターアンタゴニストとして機能し、細胞表面への輸送時に新規に合成されたLDL-レセプター関連タンパク質とそれらのリガンドとの随伴を妨げると提唱されている(WILLNOE, “Receptor-associated protein (RAP): a specialized chaperone for endocytic receptors,” Biol Chem, 1998, 379:1025-31)。RAPは脳血液関門を通過して効率的に輸送され、脳へのタンパク質系薬剤デリバリーの手段を提供しえる(PAN et al. “Efficient transfer of receptor-associated protein (RAP) across the blood-brain barrier,” J Cell Sci, 2004, 117(Pt21):5071-8, Epub, 2004 Sep 21)。最近、アミロイド沈着におけるRAPの重要性が、マウスのアルツハイマー病モデルで示された(XU et al. “Receptor-associated protein (RAP) plays a central role in modulating Abeta deposition in APP/PS1 transgenic mice,” PLoS ONE, 2008, 3:3159)。RAPはまたベータ-アミロイドタンパク質(Aベータ)のオリゴマー化(細胞培養におけるAベータの神経傷害作用)を阻害し、1日齢ヒナの長期記憶強化のAベータ誘発阻害を阻止する(KERR et al. “Inhibition of Abeta aggregation and neurotoxicity by the 39-kDa receptor-associated protein,” J Neurochem, 2010, 112:1199-209, Epub 2009 Dec 10)。
【発明の概要】
【0006】
対象動物でプリオン病を予防または治療する方法は、RAPポリペプチド並びに前記の誘導体、変種、フラグメントおよび模倣体から成る群から選択される薬剤の治療的に有効な量を前記対象動物に投与する工程を含む。対象動物は、プリオン病を発症するリスクがあるか、または前記に感染しているか、または前記に罹患している動物でありえる。
例示的実施態様では、プリオン病は、多様な形態のクロイツフェルト-ヤコブ病(CJD)、例えば医原性クロイツフェルト-ヤコブ病(iCJD)、変種クロイツフェルト-ヤコブ病(vCJD)、家族性クロイツフェルト-ヤコブ病(fCJD)、散発性クロイツフェルト-ヤコブ病(sCJD);ゲルシュトマン-シュトロイスラー-シャインカー症候群(GSS);致死性不眠症家族性(FFI)および散発性;クールー、スクラピー、ウシ海綿状脳症(BSE);伝染性ミンク脳症(TME);慢性るい痩(CWD);ネコ海綿状脳症;および外来有帝類脳症(EUE)から成る群から選択される。
対象動物は哺乳動物でもよく、さらに哺乳動物は、ヒト、ヒツジ、ヤギ、ウシ、ミンク、白尾をもつシカ(white-tailed deer)、ヘラジカ、ミュールジカ、ムース、ネコ、ナイアラ(nyala)、ゲムズボック、ナガツノレイヨウ、オオカモシカ、クーズー、アンコール(ankole)、およびバイソンから成る群から選択できる。例示的実施態様では、哺乳動物はヒトである。
適切な薬剤の例には以下のRAP配列を含むポリペプチド配列が含まれる:配列番号:1のアミノ酸35−357、配列番号:1のアミノ酸35−357と少なくとも70%から100%の配列同一性を有するアミノ酸配列、および配列番号:1−7のいずれか1つ。例示的実施態様では、薬剤は配列番号:1のアミノ酸35−357を含む。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】処置から24時間後の、脾臓由来mo-vCJD-SP/63およびコントロールSP/76細胞株でのPrPres形成におけるRAPの作用を示す。
【図2】脾臓由来mo-vCJD-SP/63細胞株でのPrPres形成における1μMのRAPの作用を示す(タイムコース)。
【図3】脾臓由来mo-vCJD-SP/63細胞株でのPrPres形成におけるRAPの作用を示す(用量依存性阻害)。
【図4】脾臓由来mo-vCJD-SP/63およびFu-SP/58細胞株(mo-vCJDまたはFukuokaに持続感染)でのPrPres形成における500nMのRAPの作用を示す。
【図5】脾臓由来mo-vCJD-SP/63細胞株でのPrPres形成における500nMのRAPの作用を示す(タイムコース)。
【図6】骨髄由来細胞株336-2BMS-Fu2(Fukuokaに持続感染)でのPrPres形成における500nMのRAPの阻害性作用を示す。
【図7】骨髄由来336-2-BM-Fu2細胞株(Fukuokaに持続感染)でのPrPres形成における250nMのRAPによる多重処置の阻害性作用を示す。
【図8】シグナルペプチドを含むヒトRAPポリペプチド配列(配列番号:1)を示す。
【図9】多様な種に由来するRAPペプチドの配列アラインメントを示す。図で1−7と区別した配列は、それぞれヒト(配列番号:1のアミノ酸35−357)、アフリカツメガエル(配列番号:2)、ゼブラフィッシュ(配列番号:3)、オランウータン(配列番号:4)、マウス(配列番号:5)、ラット(配列番号:6)、およびニワトリ(配列番号:7)由来である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
詳細な説明
我々は、レセプター随伴タンパク質(RAP)(低密度リポタンパク質レセプター関連タンパク質随伴タンパク質1またはLRPAP1としても知られている)は、種々のTSE因子の複製、および特に誤って折りたたまれたプリオンタンパク質またはPrPdの複製の強力な阻害物質であることを見出した。
誤って折りたたまれたプリオンタンパク質の現象は、広範囲の多様なプリオン病(一般にTSEと称されるものを含むが、ただしこれらに限定されない)と密接に関係する。
RAPおよび前記の変種、誘導体、フラグメントおよび/または模倣体(本明細書では“RAP薬剤”と称される)は、多様な生物、特に哺乳動物でプリオン病の予防および/または治療に有用である。特にRAP薬剤を用いて、プリオン病を予防し、治療し、または発症もしくは進行を遅らせることができ、しかも、プリオン病が別の生物からの感染による発症かまたは遺伝的変異による発症かに関係なく前記を達成できる。
多様な実施態様にしたがえば、RAPおよび前記の変種、誘導体、フラグメントおよび/または模倣体は、罹患動物またはその危険性がある動物に多様な手段および種々の形態で投与することができる。ある実施態様では、RAP薬剤は経鼻デリバリーによりまたは非経口的に投与される。RAP薬剤は医薬処方物として水性媒体中で調合することができる。
【0009】
ある実施態様では、RAP薬剤は、約2μMのRAPの水性混合物として注射用に処方される。そのような処方物は、約30mLから約3μLの体積で対象動物に投与することができる。別の実施態様では、処方物は、約3mLから約3μLの2μMのRAP溶液または等価用量で対象動物に投与される。別のところで考察するように、そのような用量の投与は経鼻的にまたは非経口的注射によって実施してもよい。
本明細書で用いられるように、“細胞性プリオンタンパク質”、“正常プリオンタンパク質”または“PrPC”という用語はそれらの正常な(または野生型)状態にあるプリオンタンパク質を意味し、天然に存在するプリオンタンパク質およびその変種が含まれる。
“疾患随伴プリオンタンパク質”、“誤って折りたたまれたプリオンタンパク質”および“PrPd”は感染性アイソフォームを意味し、その正常状態(すなわち疾患と関係しない)と比較してβシート構造の増加、可溶性低下および/またはタンパク分解耐性の増加をもたらす三次元構造の変化を受けたプリオンタンパク質を意味する。“PrPres”という用語は、タンパク分解切断生成物またはPrPdの消化生成物を指す。
“プリオン病”または“プリオン障害”とは、PrPCからPrPdへの変換および/またはその後のプリオンタンパク質の凝集に随伴するかまたは前記によって引き起こされる疾患を意味する。“プリオン病”という用語は、本明細書では“TSE”(伝染性海綿状脳症)または海綿状脳症と互換的に用いられる。プリオン病はヒトおよび他の動物(家畜を含む)を冒す。
【0010】
ヒトでは、プリオン病には、クロイツフェルト-ヤコブ病(CJD)およびその変種、例えば医原性クロイツフェルト-ヤコブ病(iCJD)、変種クロイツフェルト-ヤコブ病(vCJD)、家族性クロイツフェルト-ヤコブ病(fCJD)、および散発性クロイツフェルト-ヤコブ病(sCJD);ゲルシュトマン-シュトロイスラー-シャインカー症候群(GSS);致死性家族性不眠症(FFI);散発性致死性不眠症;およびクールーが含まれる。
動物では、本疾患には、スクラピー(ヒツジおよびヤギ)、ウシ海綿状脳症(BSE、“狂牛病”として知られている)(ウシ);伝染性ミンク脳症(TME)(ミンク);慢性るい痩(CWD)(白尾をもつシカ、ヘラジカ、ミュールジカおよびムース);ネコ海綿状脳症(ネコ、例えば家ネコ、ピューマ、チーター、オセロット、トラ);外来有帝類脳症(EUE)または外来反芻動物の海綿状脳症(ナイアラ、ゲムズボック、ナガツノレイヨウ(例えばアラビアナガツノレイヨウおよび三日月刀形の角をもつナガツノレイヨウ)、オオカモシカ、クーズー(例えば大クーズー)、アンコールおよびバイソン);アメリカダチョウの(おそらく)海綿状脳症(アメリカダチョウ)が含まれる。
【0011】
RAPは、由来種に関係なくレセプター随伴タンパク質(または低密度リポタンパク質レセプター関連タンパク質随伴タンパク質1またはLRPAPとしてもまた知られている)を意味する。例示的実施態様では、RAPは、本実施例で用いられるように、完全長ヒトRAPポリペプチド配列でシグナル配列を含まない(配列番号:1のアミノ酸35−357;図8および以下の文献を参照されたい:STRICKLAND et al., “Primary structure of alpha 2-macroglobulin receptor-associated protein. Human homologue of a Heymann nephritis antigen,“ J Biol Chem., 1991, 266:13364-9)。
本明細書で用いられるように、“RAP”には、任意の天然に存在するRAPポリペプチド配列、例えば哺乳動物または非哺乳動物のRAPポリペプチド配列が含まれる。本明細書で用いられる“RAP”という用語は、天然起源の完全長RAP配列と同様に、切端形、例えば配列番号:1のアミノ酸35−357および天然起源のRAP配列と少なくとも90%相同性を有するものを意味する。
種々の哺乳動物および非哺乳動物種由来のRAPのアミノ酸配列が同定された(例えば以下についての配列を参照されたい:ヒト(配列番号:1のアミノ酸35−357);アフリカツメガエル(配列番号:2);ゼブラフィッシュ(配列番号:3);オランウータン(配列番号:4);マウス(配列番号:5);ラット(配列番号:6);およびニワトリ(配列番号:7)(前記は図9でそれぞれ配列1−7として区別されている)と同様に、コモンチンパンジー、マカカ・ムラッタ(Macaca mulatta)(リーザス・マカク(Rhesus macaque))、ボス・タウルス(Bos Taurus)(ウシ)、カプラ・ヒルクス(Capra hircus)(ヤギ)、オビス・アリエス(Ovis aries)(ヒツジ)、スス・スクローファ(Sus scrofa)(ブタ)、カニス・ルプス・ファミリアリス(Canis lupus familiaris)(イヌ))。RAP配列はまた文献、例えばGenBankで以下のアクセッション番号にしたがって見出すことができる:ヒト[GenBank Acc: NM_002337];パン・トログロディティス(Pan troglodytis)(コモンチンパンジー)[GenBank Acc: XM_517082];ポンゴ・アベリ(Pongo abeli)(スマトラオランウータン)[GenBank Acc: NM_001131664.1];マカカ・ムラッタ(リーザス・マカク)[GenBank Acc: XM_001085674];ボス・タウルス(ウシ)[GenBank Acc: NM_001080225];カプラ・ヒルクス(ヤギ)[GenBank Acc: EV438413];オビス・アリエス(ヒツジ)[4つのESTクローンを集めて組み立てられた:GenBank Acc: GO756662.1; GO772827.1; 114717509; 88624253];スス・スクローファ(ブタ)[GenBank Acc: NM_001113436];カニス・ルプス・ファミリアリス(イヌ)[GenBank Acc: XM_536218];ムス・ムスクルス(Mus musculus)(マウス)[GenBank Acc: NM_013587];ラッツス・ノルヴェギクス(Rattus norvegicus)(ラット)[GenBank Acc: NM_001169113];ガルス・ガルス(Gallus gallus)(ニワトリ)[GenBank Acc: NM_205062];ダニオ・レリオ(Danio rerio)(ゼブラフィッシュ)[GenBank Acc: NM_201306];ゼノプス・ラエビス(Xenopus laevis)アフリカツメガエル[GenBank Acc: BC054293]。以下もまた前述のRAP配列に対して相同性を示す:ドロソフィラ・メラノガスター(Drosophila melanogaster)(ミバエ)[遺伝子記号:CG8507;GenBank Acc: NP_649950.1];アノフェレス・ガンビアエ(Anopheles gambiae)(蚊)[遺伝子記号:AgaP_AGAP003521;GenBank Acc: XP_313261.4];カエノルハブディティス・エレガンス(Caenorhabditis elegans)蠕虫[遺伝子記号C15C8.4の仮説的タンパク質;GenBank Acc: NP_506187.2]。
【0012】
“ラップ薬剤”という用語には、RAPと同様にRAPの誘導体、変種、フラグメントまたは模倣体が含まれ、前記は、PrPd形成の阻害および/またはPrPdの非感染型への変換の促進をもたらす。
RAP薬剤には、配列番号:1のアミノ酸35−357に対して有意な配列相同性、例えば配列番号:1のアミノ酸35−357に対して約70%から約100%の配列同一性(例えば、配列番号:1のアミノ酸35−357と少なくとも71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性)を有するポリペプチドが含まれる。
【0013】
ある実施態様では、プリオン病の危険性があるかまたはプリオン病に罹患している哺乳動物の予防および/または治療のための方法が存在し、前記方法は、哺乳動物のRAPポリペプチド並びに前記の誘導体、変種、フラグメントおよび模倣体から成る群から選択される薬剤の治療的に有効な量を前記哺乳動物に投与する工程を含む。プリオン病は、多様な形態のクロイツフェルト-ヤコブ病(CJD)、医原性クロイツフェルト-ヤコブ病(iCJD)、変種クロイツフェルト-ヤコブ病(vCJD)、家族性クロイツフェルト-ヤコブ病(fCJD)、散発性クロイツフェルト-ヤコブ病(sCJD);ゲルシュトマン-シュトロイスラー-シャインカー症候群(GSS);致死性不眠症家族性(FFI)または散発性;クールー、スクラピー、ウシ海綿状脳症(BSE);伝染性ミンク脳症(TME);慢性るい痩(CWD);ネコ海綿状脳症;および外来有帝類脳症(EUE)の群から選択することができる。哺乳動物は、ヒト、ヒツジ、ヤギ、ウシ、ミンク、白尾を有するシカ、ヘラジカ、ミュールジカ、ムース、ネコ、ナイアラ、ゲムズボック、ナガツノレイヨウ、オオカモシカ、クーズー、アンコール、およびバイソンの群から選択することができる。
【0014】
治療的に有効な薬剤は以下の群から選択できる:
a)配列番号:1のアミノ酸35−357を含むポリペプチド;
b)配列番号:1のアミノ酸35−357と70%から100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチド;および
c)配列番号:2、配列番号:3、配列番号:4、配列番号:5、配列番号:6または配列番号:7のアミノ酸配列と同様に、コモンチンパンジー、マカカ・ムラッタ(リーザス・マカク)、ボス・タウルス(ウシ)、カプラ・ヒルクス(ヤギ)、オビス・アリエス(ヒツジ)、スス・スクローファ(ブタ)、カニス・ルプス・ファミリアリス(イヌ)のRAP配列(本明細書にもまた開示されている)を含むポリペプチド。
別の実施態様では、予防および/または治療の方法は、さらに水性ビヒクル中の治療的に有効な量のRAP薬剤の経鼻投与を含む。ある実施態様では、RAP薬剤は配列番号:1のアミノ酸35−357を含むポリペプチドである。RAP薬剤の投与は、症状の緩和または完治が達成されるまで、または対象者がプリオン病にもはや暴露されないかまたは罹患の危険性がなくなるまで繰り返すことができる。
【0015】
“治療”または“治療する”などの用語は、一般に所望の薬理学的および/または生理学的効果を得ることを意味し、さらに対象動物が治療されているプリオン病の症状の完全な消失と同様に臨床的または定量的に測定可能なプリオン病の症状の緩和を意味する。前記効果は、疾患またはその症状を完全にまたは部分的に防ぐという点から予防的であり、および/または、疾患および/または当該疾患に起因する有害な作用の部分的または完全な治癒という点で治療的でありえる。前記効果はまた、プリオン病またはその症状の進行を元に戻すかまたは遅らせることに関係しえる。したがって例えば、治療は、薬剤(すなわりRAPおよび前記の誘導体、変種、フラグメントおよび模倣体)の投与によって、プリオン病のいずれかの症状が軽減または緩和されること、PrPCのPrPdの変換が阻害されること、および/またはPrPdの非感染性フラグメントへのプロセッシングが促進されることを指す。
【0016】
“治療的に有効な量”または“医薬的に有効な量”は、その必要がある対象動物に投与されたとき、薬剤の量がそのような治療を達成するために十分であることを意味する。したがって、“治療的に有効な量”は治療のために指示される量であるが、一方、顕著な副作用を引き起こす可能性がある量を超えない(合理的なリスク/利益比の釣り合いのとれた量)。“治療的に有効な量”は薬剤に応じて変動し、さらにまた医師および生理学的因子(例えば年齢、体重および/または治療されるべき対象動物の病歴)に応じて決定されるであろう。治療処置の有効性の評価は当業者には公知である。
“その必要がある対象動物”は、本明細書に記載の方法により利益を受けえる任意の対象動物または個体を意味し、プリオン病に感染した、罹患したまたは発症の危険性がある動物が含まれる。いくつかの実施態様では、その必要がある対象動物は、プリオン病の発症の素因がある対象動物、プリオン病による感染に暴露された対象動物、1つまたは2つ以上のプリオン病を有するが臨床症状を全く示していない対象動物、および/または1つまたは2つ以上のプリオン病の1つまたは2つ以上の症状を示している対象動物である。
“その必要がある対象”は一般には脊椎動物(例えば哺乳動物)である。哺乳動物には、ヒト、他の霊長類、農場飼育動物、外来動物、スポーツ用動物およびペットが含まれるが、ただしこれらに限定されない。例には、ヒツジ、ヤギ、ウシ、ミンク、白尾を有するシカ、ヘラジカ、ミュールジカ、ムース、ネコ(例えば家ネコ、ピューマ、チーター、オセロット、トラ)、ナイアラ、ゲムズボック、ナガツノレイヨウ(例えばアラビアナガツノレイヨウおよび三日月刀形の角をもつナガツノレイヨウ)、オオカモシカ、クーズー(例えば大クーズー)、アンコール、およびバイソンである。例示的実施態様では、対象動物はヒトである。他の実施態様では、本方法は、実験動物において、獣医の利用において、および/または動物の疾患モデルの開発において有用である。
【0017】
本明細書で用いられるように、薬剤の対象動物への“投与”または“導入”という用語は、治療的に有効な態様で対象動物に薬剤を提供することを意味する。対象動物へのRAP薬剤の投与方法には、以下を含む(ただしこれらに限定されない)多数の公知の手段が含まれる:全身投与(例えば非経口投与(静脈内、皮下または筋肉内)、腹腔内投与、吸入、経皮デリバリー、経口デリバリー、経鼻デリバリー、直腸デリバリーなど)、および/または局所投与(例えば標的組織への直接注射、カニューレによる組織へのデリバリー、経時放出物質の移植による標的組織へのデリバリー、または局所用組成物(例えばクリーム、ローションなど)による経皮デリバリー)、ポンプなどによる組織へのデリバリー、骨内デリバリー、脳脊髄液デリバリーなど。“経口的”または“経口デリバリー”という用語は、口による投与を意味し、処方物の経口摂取と同様に経口経管栄養が含まれる。また別の投与態様には、眼経由(例えば眼薬による)、頬経由、舌下、膣、皮下または皮内投与が含まれる。例示的実施態様では、標的組織は脳である。
投与態様には、持続放出および/または制御放出薬剤デリバリー処方物および/または装置によるデリバリーが含まれる。“持続放出”とは、通常の薬剤処方物の経口投与によって達成される期間と比較して長期に及ぶ、薬剤またはその活性な代謝物の全身循環への放出を意味する。“制御放出”は、ゼロオーダー放出、すなわち濃度に無関係に長期にわたる薬剤放出である。単回投与、多重投与、連続または間欠的投与も実施することができる。
【0018】
当業者には、RAP薬剤を多様なスタイルで処方し、さらに多様な担体、溶媒、希釈剤および他の賦形剤を用いることができることは理解されよう。例えば、RAP薬剤は水性混合物または水溶液中で処方することができる。前記混合物はさらに賦形剤、例えば緩衝剤、保存料、抗酸化剤など含むことができ、いずれも医薬処方物の一般的に許容される原則にしたがう。さらにまた、RAP薬剤は、クリーム、油、固体放出形、または膏薬(例えば経皮デリバリー用)として処方することができる。
投与されるべき用量は、治療期間、投与頻度、宿主、並びに疾患の性質および重篤度に応じて変動する。当業者は過度に多くの実験を実施することなく用量を決定することができる。プリオン病の所望される治療の提供に十分な調剤ユニットの患者への放出を担保するために、薬剤は十分な調剤濃度で投与される。活性成分は、治療的または予防的血液濃度、例えば約0.01から約10,000ng/cm3(cc)、例えば約0.01から約1,000ng/cm3(cc)の薬剤のin vivo血漿濃度を達成するために投与することができる。“治療的または予防的血液濃度”は、治療される動物で疾患の治療を達成するために、または疾患の開始を予防するために、または疾患の重篤度を緩和するために十分な期間に及ぶ薬剤またはその活性な代謝物の十分な濃度への全身的暴露を意味する。
【0019】
例えば、本明細書に記載の方法は、組成物を用いて約0.01から約100mg/kg体重/日の薬剤、約0.01から約10mg/kg体重/日の薬剤、または約30mg/kg体重/日の薬剤を提供することができる。
しかしながら、前記提供の範囲から外れる投薬レベルもまた与えられた疾患の治療に適切でありえることは理解されよう。
薬剤は投与に適した任意の形態でよい。そのような投与形態には、錠剤、緩衝化錠剤、ピル、カプセル、腸溶皮被覆カプセル、糖衣錠、カシェ剤、散剤、顆粒、エーロゾル、リポソーム、座薬、クリーム、ローション、軟膏、皮膚用膏薬、非経口剤、ロゼンジ、経口用液体(例えば懸濁液、溶液および乳液(水中油または油中水))、眼用液および注射液、または前記の持続放出および/または制御放出形が含まれる。所望の用量は、一日を通して通常の間隔での数回の追加により、連続的輸液により、または持続放出および/または制御放出処方物により提供できるが、またはボーラス、舐め薬もしくはペーストとして提供してもよい。
“実用的投薬計画”は患者の応諾に有用な薬剤投与スケジュールを意味する。ヒトの患者については、経口投与約のための実用的投薬計画では、総用量はおそらく10g/日未満であろう。
【0020】
ある実施態様では、薬剤を含む医薬組成物または処方物は、1つまたは2つ以上の医薬的に許容できる担体と混合することによって調製される。薬剤の防腐を最大限にするため、または個々のデリバリー方法を最適化するために、所望ならば他の生成物も添加できる。さらにまた、本方法は、本明細書に記載の薬剤をプリオン病の治療に適切な他の薬剤と一緒に含む配合組成物の使用を含む。
“医薬的に許容できる担体”または“希釈剤”は、医薬組成物の調製で有用であり、一般的に安全で、生物学的にも他の意味においても好ましく、有害ではなく他の意味においても許容可能で、合理的なリスク/利益比の釣り合いがとれ、当該処方物の他の成分と適合する担体を意味し、前記には、ヒト用医薬の使用と同様に獣医の使用についても許容できる担体が含まれる。本明細書および特許請求の範囲で使用される“医薬的に許容できる担体”はそのような担体の1つおよび2つ以上の両方を含む。
“医薬的に許容できる担体”には、任意かつ全ての溶媒、分散媒体、被覆剤、抗菌および抗カビ剤、等張剤および吸収遅延剤などで、薬剤を含む組成物の医薬的投与に適合するものが含まれる。そのような担体および希釈剤の例には、水、食塩水、リンゲル溶液およびデキストロース溶液が含まれるが、ただしこれらに限定されない。医薬組成物の体積は、意図する投与態様および個々の患者にとって安全な体積を基準にし、医療専門家が決定する。
【0021】
本明細書は、本明細書に記載した薬剤の任意の1つまたは2つ以上をプリオン病の治療に使用することに関する。本開示はまた、本明細書に記載した薬剤の任意の1つまたは2つ以上を医薬の製造に、具体的にはプリオン病治療用医薬の製造に使用することに関する。
RAP薬剤(RAPおよびその種々の模倣体を含む)はまた、TSE消毒用表面活性剤としても用いることができる。RAPは、細胞表面で少なくとも部分的に作用することによってPrPdの複製を阻害または防止または無効にする。RAP薬剤をPrPd(またはTSE、例えばBSE、CWD、CJDスクラピーなど)の多様な形態のいずれかと接触状態に置くことによって、RAP薬剤は、PrPdの複製を阻害しまたは無効にし、したがってPrPd感染を顕著に低下させまたは排除しまたは予防する。RAP薬剤は宿主で表面のTSE消毒として用いることができる。前記表面には、病院または住居で見出される人工表面(例えば金属またはプラスチック装置、セラミックス)、家畜小屋または飼育用植物(rendering plant)を含む家畜と一緒に使用されるものとともに天然の表面(例えば草、土壌など)が含まれる。
表面活性薬剤は表面コーチングとして適用するか、または処置すべき表面材料に埋め込むことができる。例えば、RAP薬剤は、ポリマー、セラミックスまたは複合材料中に包埋して消毒されるべき表面の構造性成分を形成するか、またはRAP薬剤は、塗料、ニス、ポリマー、ゲル、ペースト、油、軟膏または他の塗料の場合のようにマトリックスの状態で表面に適用することができる。RAP薬剤の消毒剤はまた、多様な態様で(液状物、エーロゾルまたはスプレー投与のための溶液を含む)、またはスラリー、散剤もしくはペーストとして処方することができる。
【0022】
RAP薬剤を調合する多様なマトリックスまたはビヒクルは、複数の薬剤、例えば緩衝剤、保存料、賦形剤、または例えばポリペプチドの保護、光、熱、酸化、遊離ラジカルなどからの保護に有用な他の公知の薬剤を含むようにさらに処方することができる。処方の態様、ビヒクル、および最終的処置または適用は特に重要であるとは思われず、公知の原理および方法にしたがって開発および操作に付すことができる。
RAP薬剤は、TSEに汚染されるかまたはTSEに暴露されるおそれがある物質または表面にRAP薬剤を加えることによって、TSE消毒方法で用いることができる。RAP薬剤消毒薬は、動物を収容するために用いられるものの内部または前記の周辺の領域の処理に用いることができる。消毒されるべき物質または表面はTSEと接触するかまたは前記を保持するおそれがあるもの、特に食品(家畜の飼料を含む)と結合するかまたは前記に暴露されるおそれがあるもので、前記には、食品それ自体とともに食品を貯蔵、輸送または処理するために用いられる物質も同様に含まれえる。この態様では、本方法は予防的作用および治療的作用の両方を含む。なぜならば、食品の処理は食品の消毒に用いることができ、食品を摂取する動物への投与手段でありえるからである。本明細書で用いられる“動物”にはヒトが含まれる。
さらにまた、本明細書に記載したTSE消毒は、野外での動物への大規模投与のために容易にかつ安価に調合することができ、前記のように用いてCWDの拡散と戦うことができる。そのような実施態様では、RAP薬剤を例えば水性混合物として(単独でまたは他の賦形剤とともに)調合し、TSE感染動物またはTSE感染の危険性がある動物が生活しているかおよび/または飼育されている領域一帯に噴霧することができる。
【0023】
本明細書で用いられるように、単数形“a”、“an”および“the”には、文脈が明らかにそうでないことを示していないかぎり、複数形の表示物が含まれる。したがって、例えば“an RAP”という表示には複数のRAP分子が含まれ、“the dosage”という表示には、1つまたは2つ以上の調剤および当業者に公知のその等価物が含まれ、以下同様である。
本明細書で考察される刊行物は、本出願の出願日前の刊行物の開示内容を単に提供するだけである。本明細書のいずれにおいても、先行開示のために本開示がそのような刊行物に先行する資格を与えられないことを容認するものと解されるべきではない。さらにまた、提供した刊行の日付は、実際の刊行日とは異なることがある(前記刊行日は別個に確認する必要があるかもしれない)。本明細書に引用した全ての刊行物、特許、特許出願および他の参考文献は参照により本明細書に含まれる。
本開示をその一定の実施態様を参考にしながら詳細に述べてきたが、本開示から逸脱することなく多様な変更を実施し、さらに等価物を利用することができることは、当業者には明白であろう。さらにまた、以下の実施例は本明細書に記載した方法の例示であり、前述の開示をいずれの態様においても制限するものと解されるべきではない。
【0024】
実施例
本明細書で説明する実施例は、プリオン感染した骨髄および脾臓由来ネズミ細胞培養でRAPがPrPd形成を阻害することを示す。PrPd形成阻害は、種々の濃度のRAPに暴露している間ずっと観察された。PrPCとは異なり、PrPdは、プロテイナーゼKによるタンパク分解に対し部分的に耐性である。したがって、PrPdの形成は、PrPres(PrPdの消化生成物)の存在を試験することによって決定した。PrPresはプリオン感染の認定マーカーである。
結果は、細胞培養に対する適切な処理時間は、50および250nMの阻害濃度では12から24時間であることを示している。多重処理によって、少なくとも20継代の間ずっと(処理停止後〜70日)PrPd形成が阻害された。同様なアプローチを用いて、TSE感染細胞を種々の物質(抗PrP特異的モノクローナル抗体を含む)で処理し、in vivo実験ではそのような物質で処置されたマウスで当該疾患の発症が遅くなることが示された(Caughey et al., “Prions and transmissible spongiform encephalopathy (TSE) chemotherapeutics: A common mechanism for anti-TSE compounds?“ Acc Chem Res., 2006, 39:646-53;Pankiewicz et al., “Clearance and prevention of prion infection in cell culture by anti-PrP antibodies,“ Eur J Neurosci., 2006, 23:2635-47;およびTelling et al., “Prion propagation in mice expressing human and chimeric PrP transgenes implicates the interaction of cellular PrP with another protein,“ Cell, 1995, 83:79-90)。
実験で用いたネズミ脾臓由来支質細胞(SP)株(Holland Laboratory)は、マウス順化ヒトプリオン因子、Fukuoka-1(Fu)(細胞株Fu-SP/58)およびマウス順化変種クロイツフェルト-ヤコブ病(細胞株mo-vCJD-SP/63)を持続的に増殖させるように開発された(AKIMOV et al., “Persistent propagation of variant Creutzfeldt-Jakob disease agent in murine spleen stromal cell culture with features of mesenchymal stein cells,”J Virol., 2008, 82:10959-62, Epub., 2008 Aug 20)。実験に用いたネズミ骨髄(BM)支質細胞株(Holland Laboratory)もまたFuを持続的に増殖させるように開発された(細胞株336-2BMSFu2)(AKIMOV et al.,”Murine bone marrow stromal cell culture with features of mesenchymal stem cells susceptible to mouse-adapted human TSE agent, Fukuoka-1,” Folia Neuropathol. 2009, 47:205-14)。
【実施例1】
【0025】
最初の実験は、低密度リポタンパク質レセプター関連タンパク質(LRP)特異的ポリクローナル抗体2629、PrP特異的モノクローナル抗体6D11、またはRAPによるmo-vCJD-SP/63細胞培養の処理が全PrPおよび、PrPresレベルに対して何らかの影響を有するか否かを決定するために実施した。
何代もの継代の間PrPresを増殖させる細胞株mo-vCJD-SP/63および非感染コントロール細胞株SP/76(正常なPrPCを発現する)をコンフルエント単層培養の1:3の密度でプレートした。次の日に、増殖培養液を以下のいずれかを含む新しい培養液に交換した:1μMのRAP(Dr. Stricklandから贈与)、または10μg/mLの6D11モノクローナル抗体(Signet)または50μg/mLの2629ウサギポリクローナル抗体(Dr. Stricklandから贈与)または3μLのコントロール抗アルファチューブリンウサギポリクローナル抗体(Cell Signaling Tech)。8時間インキュベートした後、既にRAPに暴露された細胞にのみさらに0.5μmMのRAPを添加した。各実験の間、細胞培養を5%CO2の存在下で37℃に維持した。最初の処理から24時間後に溶解緩衝液を用いて細胞を採集した。サンプルの一部分を正常なPK感受性PrPCの消化のためにプロテイナーゼK(10μg/mL)で処理し、残りの部分を未処理のままにした。PK処理および未処理サンプル中のタンパク質を-80℃のメタノールで沈殿させた。遠心後、2%SDS、62.5mMのTris-HCl、25%グリセロールおよび0.1%ブロモフェノールブルーを含む変性緩衝液でペレットを可溶化し、NuPAGE, 4−12%のBis-Trisグラジエントゲルで分け、続いてニトロセルロース膜に移し、抗PrP特異的モノクローナル抗体6D11(1:10,000に希釈)をプローブにして調べた。この実験のデータは図1に示されている。RAPはmo-vCJD-SP/63細胞でのPrPresの産生を有意に阻害したが、全PrPに対してはmo-vCJD-SP/63でもコントロールSP/76細胞でも影響を示さなかった。抗LRP2629抗体による両細胞株の処理は、mo-vCJD-SP/63細胞における全PrPまたはPrPresの量およびコントロールSP/76細胞におけるPrPCの量に対しては目に見える影響を与えなかった。3継代までさらに増殖させたとき、RAP処理mo-vCJD-SP/63細胞でのPrPresの産生は抗体処理細胞または未処理のままの細胞と同じレベルまで回復するのが観察された。
【実施例2】
【0026】
次に、1μMのRAPで細胞を処理した後PrPresの産生阻害がいつ生じるかを調べるために、“タイムコース実験”を実施した。
実験の〜3時間前に〜50%コンフルエントの密度でmo-vCJD-SP/63細胞株の細胞を6 cmのペトリ皿にプレートし、5%CO2の存在下にて37℃でインキュベートして細胞を付着させた。次に、1μMのRAPを添加し、細胞培養を5%CO2の存在下にて37℃で維持した。細胞を15分、30分、1、2、8、12および24時間後に採集し、実施例1に記載した方法を用いてウェスタンブロッティングのために処理した。この実験のデータは図2に示されている。
ウェスタンブロットは、RAPに暴露後24時間で採集した細胞におけるPrPres産生の有意な阻害を示している。
【実施例3】
【0027】
我々の以前の実験では、1μMの濃度のRAPを用いた。この実験では、PrPres形成におけるより低い濃度およびより高い濃度のRAPの影響並びにRAPの最低阻害濃度を決定した。
実験の〜3時間前に〜50%コンフルエンシーの密度でmo-vCJD-SP/63細胞株の細胞を6 cmのペトリ皿にプレートし、5%CO2の存在下にて37℃でインキュベートして細胞を付着させた。次に、種々の濃度(50nM、250nM、500nM、750nM、1μM、1.5μMおよび2μM)のRAPをプレートに添加し、細胞培養を5%CO2の存在下にて37℃で維持した。細胞を24時間後に採集し、実施例1に記載した方法を用いて処理した。この実験のデータは図3に示されている。
RAPは、250nMで用いたときPrPresの産生を強く阻害した。2μMまで濃度を増加してもさらに高い阻害効果は得られなかった。RAPを50nM以下の濃度で用いたとき阻害効果は観察されなかった。
【実施例4】
【0028】
この実験では、mo-vCJD(mo-vCJD-SP/63)またはFukuoka-1因子(Fu-SP/58)のどちらかに持続感染させた2つの細胞培養で、500nMのRAPの阻害作用を試験した。
mo-vCJD-SP/63またはFu-SP/58細胞株のどちらかの細胞を実験の〜1時間前に各細胞株について〜50%コンフルエンシーの密度で6 cmのペトリ皿にプレートし、5%CO2の存在下にて37℃で維持して細胞を付着させた。1時間後、培養液をBMまたはBLGM培養液のどちらかに交換し、RAPを各細胞培養に加えて最終濃度を500nMにした。細胞培養を5%CO2の存在下にて37℃で維持した。細胞を24時間後に採集し、実施例1に記載した方法を用いて処理した。この実験のデータは図4に示されている。
RAPは、被検条件下でmo-vCJD-SP/63およびFu-SP/58培養でPrPres産生を有意に阻害した。
【実施例5】
【0029】
“タイムコース実験”を繰り返して、500nMのRAPで細胞を処理した後PrPresの産生阻害がいつ生じるかを調べた。
実験の〜1時間前に〜50%コンフルエントの密度でmo-vCJD-SP/63細胞株の細胞を6 cmのペトリ皿にプレートし、5%CO2の存在下にて37℃でインキュベートして細胞を付着させた。次に、500nMのRAPを細胞培養に添加するか、または細胞培養を未処理のままにした。細胞を5%CO2の存在下にて37℃で維持した。細胞を4、8、12および24時間後に採集し、実施例1に記載した方法を用いてウェスタンブロッティングのために処理した。この実験のデータは図5に示されている。
もう一度繰り返せば、RAPは時宜を得た態様でPrPres産生を阻害し、有意な阻害は処理後12時間で観察された。RAP未処理のままの細胞は24時間の間ずっとPrPresを産生し、12時間後にわずかに量が増加した。
【実施例6】
【0030】
Fu因子を持続的に増殖させる骨髄由来細胞培養336-2BMS-Fu2で、500nMのRAPの阻害効果を試験した。
336-2BMS-Fu2細胞株の細胞を実験の〜1時間前に各細胞株について〜25%コンフルエントの密度で25cm2のフラスコにプレートし、5%CO2の存在下にて37℃で維持して細胞を付着させた。1時間後、培養液を新しいものに交換し、500nMのRAP(最終濃度)を細胞培養に加えるか、または細胞培養を未処理のままにした(コントロール)。細胞培養を5%CO2の存在下にて37℃で維持した。細胞を24時間後に採集し、実施例1に記載した方法を用いて処理した。この実験のデータは図6に示されている。
RAPは、未処理コントロール(レーン2)と比較して336-2BMS-Fu2細胞(レーン4)でPrPres産生を有意に阻害したが、全PrPのレベルには影響を与えなかった(レーン1とレーン3を比較されたい)。
【実施例7】
【0031】
この実験では、336-2BMS-Fu2細胞に対する250nM RAPの多重処理の影響を調べた。さらにまた、細胞培養をさらに増殖させて、この細胞処理がPrPres形成の一過性阻害を引き起こすか、または安定な阻害をもたらすか、または細胞を完全に治癒させるかを確認した。
336-2BMS-Fu2細胞株の細胞を実験の〜1時間前に各細胞株について〜10%コンフルエントの密度で25cm2のフラスコにプレートし、5%CO2の存在下にて37℃で維持して細胞を付着させた。1時間後、培養液を新しいものに交換し、250nMのRAP(最終濃度)を細胞培養に加えるか、または細胞培養を未処理のままにした(コントロール)。細胞の処理を継続し、250nM RAPを8、12、12、12、12、12時間後に添加した(合計6処理)。コントロール細胞は培養液のみで処理した。実験の間ずっと、細胞培養を5%CO2の存在下にて37℃で維持した。最後の処理の後12時間で細胞を採集し、細胞の一部分を更なる増殖に用い、一部分を実施例1に記載した方法を用いてウェスタンブロッティングによるPrPres検出のために処理した。細胞を3−4日毎に分割しながら20継代にわたって細胞を増殖させ、各継代時に細胞の一部分を採集し、ウェスタンブロッティングによるPrPresの検出のために処理した。この実験のデータは図7に示されている。
最初の処理の後68時間で採集した溶解物にシグナルが存在しないことによって示されるように、250nM RAPによる細胞の多重処理はPrPresの形成を阻害した。20継代にわたる更なる増殖の間ずっと未処理の細胞培養はPrPresを増殖させ続けたが、一方、Fukuoka因子に感染したRAP処理骨髄由来336-2BM-Fu2細胞培養は、たとえ存在するとしても有意に少ないPrPresを産生した。全PrPの量は、実験の間ずっとRAP処理および未処理細胞の両方で類似していた。
前述の実験は、マウス順化vCJDまたはFukuoka-1因子のどちらかを持続感染させたネズミ脾臓由来および骨髄由来支質細胞培養におけるPrPdの産生に対してRAPは顕著なin vitro阻害作用を有することを示している。実験7のデータは、RAPによる持続的処理は、感染細胞におけるPrPresの産生に対して長期の(70日までの)阻害作用を有することを示している。このことは、RAPが直接的にまたは他のタンパク質との相互作用を介してPrPresの形成の阻害および/またはPrPresの除去の促進に必要とされることを示している。
【実施例8】
【0032】
TSE因子のin vivo増殖に対するRAPの影響を評価するために、我々は以下の実験を実施した。
散発性CJD症例由来の脳組織を均質化し、PBS中で10倍から10-3〜10-6の懸濁物に連続希釈した。このサンプル体積の一部分を未処理のままにし(サンプル1)、さらに別の一部分を2μMのRAPで処理した(サンプル2)。メチオニンを129位にもつヒトプリオンタンパク質の遺伝子を保持する同型接合トランスジェニックマウスのグループを作製した。グループ1および3,4および6,7および9、10のマウスに、30μLの体積中の連続希釈サンプル1のただ1回の頭蓋内注射を実施した(それぞれ10-3、10-4、10-5および10-6)。グループ2、5、8および11のマウスに、30μLの体積中の連続希釈サンプル2のただ1回の頭蓋内注射を実施した(それぞれ10-3、10-4、10-5および10-6)。この疾患の発症に対するRAPの治療効果を評価するために、グループ3、6および9のマウスに感染性因子(サンプル1)の注射から100日後に30μL体積中の2μM RAPの頭蓋内注射を実施した。
実験の要旨は表1に提供されている。マウス感染用の高濃度(10-3)脳接種物では、感染防止のために感染直前にRAPを脳ホモジネートに添加したとき(グループ2)、または感染因子の注射から100日後に1回分の用量処置としてRAPを用いたとき(グループ3)、RAPはマウスの生存に対して影響を示さなかった。しかしながら、グループ1(脳ホモジネートを接種)およびグループ2(接種直前にRAPで処理した脳ホモジネートを接種)の全マウスが感染の結果として死んだが(それらマウスの脳内にPrPresが存在することにより確認)、一方、グループ3(100日に頭蓋内にRAP処理実施)の5匹の動物のうち4匹のみが感染の結果として死んだ(1匹の動物はウェスタンブロッティング試験でPrPres陰性であった)。マウス感染のためのより低い希釈(10-4)では、RAP未処理および処理マウスの生存で我々は再び相違を認めた。RAP未処理グループ4では5匹のマウス全てが感染により死んだが、グループ5および6では感染の結果として4匹の動物のみが死んだ。グループ5由来の1匹の死亡動物はウェスタンブロッティング試験でPrPres陰性であり、グループ6由来の1匹の動物は接種後300日を超えてなお生存している。同じ傾向が、さらに低い濃度(10-5)の脳ホモジネートを用いたときでも認められた。すなわち、感染の結果としてグループ7では5匹のうち3匹のマウスが死に、グループ8では5匹のうち2匹のマウスが死に、グループ9では3匹のマウス全てが死んだ。我々はまた、t検定(SigmaPlot 8)を用いたとき、グループ4と6(p=0.004)、および5と6(p=0.001)の間で統計的に有意な潜伏期間の延長を認めた。しかしながら、マウスにサンプルを注射する直前に脳ホモジネートにRAPを添加することによって潜伏期間が短縮されるように思われた(グループ4と5との比較、p=0.036)。潜伏期間における相違は、高希釈感染性因子について一般的に観察される高い変動性のために、グループ7、8および9間では統計的に有意ではなかった。この現象は、小さなサイズのマウスグループで試験するときRAPの作用の意義を混乱させるかもしれない。この観点から、より大きな動物グループが用いられるべきである。
RAPは、低濃度のTSE因子を与えられたマウスに投与されたとき、TSEの進行に対して治療効果を示した。
【0033】
表1:散発性CJD因子を頭蓋内に注射したトランスジェニックマウスにおけるTSE発症に対するRAPの影響

統計解析はt検定(SigmaPlot8)を用いて実施した。統計的有意差は、グループ4と5(p=0.03)、4と6(p=0.006)および5と6(p=0.002)を比較したときに見出された。
【0034】
ここに開示した所見は、他のタンパク質折りたたみ間違い疾患の治療および予防でRAPは有効であろうということを示唆する。そのような疾患の例は下記表2の疾患である。
【0035】
表2:RAPがおそらく治療効果を有する他のタンパク質折りたたみ間違い疾患

【0036】
(表2続き)


【特許請求の範囲】
【請求項1】
プリオン病に罹患した対象動物を治療する方法であって、前記方法が、治療的に有効な量のRAPポリペプチドを前記対象動物に投与する工程を含む、前記治療方法。
【請求項2】
プリオン病が、多様な形態のクロイツフェルト-ヤコブ病(CJD)、医原性クロイツフェルト-ヤコブ病(iCJD)、変種クロイツフェルト-ヤコブ病(vCJD)、家族性クロイツフェルト-ヤコブ病(fCJD)、散発性クロイツフェルト-ヤコブ病(sCJD)、ゲルシュトマン-シュトロイスラー-シャインカー症候群(GSS);致死性不眠症、家族性(FFI)または散発性クールー;スクラピー;ウシ海綿状脳症(BSE);伝染性ミンク脳症(TME);慢性るい痩(CWD);ネコ海綿状脳症;および外来有帝類脳症(EUE)から成る群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
対象動物が、ヒト、ヒツジ、ヤギ、ウシ、ミンク、白尾を有するシカ、ヘラジカ、ミュールジカ、ムース、ネコ、ナイアラ、ゲムズボック、ナガツノレイヨウ、オオカモシカ、クーズー、アンコール、およびバイソンから成る群から選択される哺乳動物である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
対象動物がヒトである、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
RAPポリペプチドが以下から成る群から選択される、請求項1に記載の方法:
a)配列番号:1のアミノ酸35−357を含むポリペプチド;
b)配列番号:1のアミノ酸35−357と90%から100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチド;
c)配列番号:2、配列番号:3、配列番号:4、配列番号:5、配列番号:6または配列番号:7のアミノ酸配列を含むポリペプチド;および
d)前記の組合せ。
【請求項6】
RAPポリペプチドが配列番号:1のアミノ酸35−357を含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
投与態様が経鼻である、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
薬剤が、対象動物へ投与する前に水性ビヒクルと調合される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
約0.01ng/cm3から約10,000ng/cm3の薬剤のin vivo血漿濃度を達成するようにRAP薬剤が投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
約0.01ng/cm3から約1,000ng/cm3の薬剤のin vivo血漿濃度を達成するようにRAP薬剤が投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
RAPポリペプチドが、約0.01から約100mg/kg体重/日の用量で対象動物に投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
RAPポリペプチドが、約30mg/kg体重/日の用量で対象動物に投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
治療的に有効な量のRAPポリペプチドを担体および医薬的に許容できる賦形剤と一緒に含む医薬処方物。
【請求項14】
担体が水性液担体である、請求項13に記載の処方物。
【請求項15】
RAPポリペプチドが以下から成る群から選択される、請求項14に記載の処方物:
a)配列番号:1のアミノ酸35−357を含むポリペプチド;
b)配列番号:1のアミノ酸35−357と70%から100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチド;
c)配列番号:2、配列番号:3、配列番号:4、配列番号:5、配列番号:6または配列番号:7のアミノ酸配列を含むポリペプチド;および
d)前記の組合せ。
【請求項16】
RAPポリペプチドが配列番号:1のアミノ酸35−357を含む、請求項13に記載の処方物。
【請求項17】
RAPポリペプチドが配列番号:1のアミノ酸35−357から成る、請求項13に記載の処方物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2012−527459(P2012−527459A)
【公表日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−511816(P2012−511816)
【出願日】平成22年5月17日(2010.5.17)
【国際出願番号】PCT/US2010/001455
【国際公開番号】WO2010/134970
【国際公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【出願人】(511282508)アメリカン ナショナル レッド クロス (1)
【Fターム(参考)】