説明

レゾール樹脂フィルムの製造方法

【課題】従来のレゾール樹脂の低曳糸性・低成形性を改善し、さらに得られたフィルムの脆さを改善したレゾール樹脂からなるフィルムの製造方法を提供する。
【解決手段】溶液粘度が10〜200mPa・sのポリビニルブチラールを0.5〜5重量%含有したレゾール樹脂からなる繊維構造体を熱処理し、融解させることでフィルム化するレゾール樹脂フィルムの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脆性が改善されたレゾール樹脂を主体とする樹脂から成るレゾール樹脂フィルムおよびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、繊維材料の産業資材への適用が進んでいるが、耐薬品性に優れ、さらに高温に曝されても溶融しない不溶不融の耐熱性繊維・フィルムが注目されている。しかしながら、現状はメタアラミドやフッ素系樹脂など高価なものが主流であり、安価な耐熱性繊維・フィルムが求められている。
【0003】
一方、低コストの耐熱ポリマーとしては、フェノール樹脂が知られている。フェノール樹脂はフェノールをメチロール成分などで架橋することで、耐薬品性や耐熱性を向上させ不溶不融とするものである。フェノール樹脂は熱可塑型のノボラック樹脂と熱硬化型のレゾール樹脂に大別されるが、ノボラック樹脂は繊維化後改めて溶液中などで架橋剤により架橋させて硬化させる必要があるが、レゾール樹脂は熱処理のみで硬化が可能であり、実際の生産プロセスを考えた場合には、レゾール樹脂を選択することが好ましい。しかしながら、レゾール樹脂は分子量が比較的低いことから、曳糸性・成形性が極めて低く、レゾール樹脂単体では繊維化およびフィルム化が難しい物であるとともに、繊維およびフィルムにできたとしても極めて脆く、曲げが不可能であり、扱い難い欠点があった。
【0004】
以下、フェノール樹脂からなるフィルムの製造方法に関する従来技術について述べる。
【0005】
特許文献1では、レゾール樹脂に不飽和ポリエステルをブレンドした樹脂を製膜し、熱架橋で硬化させ、フェノール(レゾール)樹脂からなるフィルムが製造できることが記載されている。ただし、繊維形成能を担う不飽和ポリエステルの添加量はレゾールに対して1.5倍であり、樹脂全体に対する添加剤の濃度が高いため耐熱性に劣る問題があった。
【0006】
また特許文献2では、レゾールを中間体とするノボラックを製膜した後、アルデヒド類で硬化させることでフェノール(ノボラック)樹脂からなるフィルムが製造できることが記載されている。しかしながら、溶液処理で硬化させるためコストが高い問題があった。
【0007】
このように、レゾールを高濃度に含有した樹脂からなるレゾール樹脂フィルムを製造することは極めて困難であった。
【特許文献1】特開昭61−174235号公報(p.5)
【特許文献2】特開昭52−112696号公報(p.3、4)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、従来のレゾール樹脂の低曳糸性・低成形性を改善し、さらに得られたフィルムの脆さを改善したレゾール樹脂からなるフィルムの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、溶液粘度が10〜200mPa・sのポリビニルブチラールを0.5〜5重量%含有したレゾール樹脂からなる繊維構造体を熱処理し、融解させることを特徴とするレゾール樹脂フィルムの製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0010】
レゾール樹脂に溶液粘度が10〜200mPa・sのポリビニルブチラールを0.5〜5重量%ブレンドすることで、レゾール樹脂の曳糸性・成形性が向上し、レゾールを高濃度に含有した樹脂からなるレゾール樹脂フィルムを低コストで製造し、さらに気泡のないフィルムを効率よく製造する方法を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に、本発明について、望ましい実施の形態とともに詳細に説明する。
【0012】
本発明は、溶液粘度が10〜200mPa・sのポリビニルブチラールを0.5〜5重量%含有したレゾール樹脂を繊維構造体とした後、熱処理で融解させてフィルムを製造するものである。
【0013】
レゾール樹脂は、硬化させるための熱処理時に縮合反応して水が発生するが、樹脂を直接製膜したフィルムを硬化させた場合、縮合反応で発生した水による気泡の逃げ場がフィルムでは乏しいため、フィルム内に気泡が残存してしまい、欠点となる問題があった。特に100μm以上の厚いフィルムでは、内部で発生した気泡を外に追い出す前に、表面層が内部よりも速く硬化し易く、気泡が内部に一層残り易い。
【0014】
しかしながら、本発明の製造方法では、比表面積の高い繊維構造体をフィルム前駆体とすることで、熱処理時に発生した気泡を繊維の外部に追い出しながら融解してフィルムを製造することができ、フィルム内に残存する気泡による欠点を抑制することができる。これは、フィルムに比べて繊維は比表面積が高いことが特徴として有効に働いていると考えられる。本発明で言うフェノール樹脂とは、フェノールおよび/またはフェノール誘導体(以下、フェノール類と総称する)を構成単位とするポリマーであり、通常適切な架橋成分を含有する。フェノール樹脂は成形後に適切な架橋処理により、硬化されて耐薬品性や耐熱性に優れた不溶不融物とすることができる。フェノール樹脂は、熱可塑型のノボラック樹脂と熱硬化型のレゾール樹脂に大別されるが、ノボラック樹脂は成形後に改めて溶液中などで架橋剤により架橋させて硬化させる必要があるが、レゾール樹脂は熱処理のみで硬化が可能であり、実際の生産プロセスを考えた場合には、レゾール樹脂を選択することが重要である。
【0015】
本発明で言うレゾール樹脂とは、フェノール類に加熱によって架橋反応を起こす官能基または置換基が導入されたモノマーまたはポリマーの混合物を言う。このため、熱処理のみで硬化が可能という利点を有する反面、曳糸性・成形性に劣り、紙や多孔体の含浸ポリマーとしてや、接着成分として用いられることが多い。また、ポリマー自身が極めて脆いという欠点がある。レゾール樹脂は、通常、フェノール類とアルデヒド類とを塩基性触媒存在下で反応させて得られるものである。前記フェノール類としては、特に限定はないが、例えば以下のような物を例示することができる。すなわち、フェノール、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール等のクレゾール、2,3−キシレノール、2,4−キシレノール、2,5−キシレノール、2,6−キシレノール、3,4−キシレノール、3,5−キシレノール等のキシレノール、o−エチルフェノール、m−エチルフェノール、p−エチルフェノール等のエチルフェノール、イソプロピルフェノール、ブチルフェノール、p−tert−ブチルフェノール等のブチルフェノール、p−tert−アミルフェノール、p−オクチルフェノール、p−ノニルフェノール、p−クミルフェノール等のアルキルフェノール、フルオロフェノール、クロロフェノール、ブロモフェノール、ヨードフェノール等のハロゲン化フェノール、p−フェニルフェノール、アミノフェノール、ニトロフェノール、ジニトロフェノール、トリニトロフェノール等の1価フェノール置換体、および1−ナフトール、2−ナフトール等の1価フェノール類、レゾルシン、アルキルレゾルシン、ピロガロール、カテコール、アルキルカテコール、ハイドロキノン、アルキルハイドロキノン、フロログルシン、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、ジヒドロキシナフタリン等の多価フェノール類等を挙げることができる。また、キシレン・ホルムアルデヒド重縮合物やジシクロペンタジエン、パラキシリレンアルコール誘導体、桐油、トール油等を酸性条件下でフェノール類と反応させたものを用いてもよい。これらを単独または2種類以上組み合わせて使用してもよい。これらの中でも、高い力学物性が得られやすいことから、フェノール、クレゾール類、ビスフェノールAを好ましく用いることができる。また、樹皮抽出物などの天然物由来のポリフェノール類でもよい。
【0016】
また、前記アルデヒド類も特に限定はないが、例えば以下のような物を例示することができる。すなわち、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、トリオキサン、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ポリオキシメチレン、クロラール、ヘキサメチレンテトラミン、フルフラール、グリオキサゾール、n−ブチルアルデヒド、カプロアルデヒド、アリルアルデヒド、ベンズアルデヒド、クロトンアルデヒド、アクロレイン、テトラオキシメチレン、フェニルアセトアルデヒド、o−トルアルデヒド、サリチルアルデヒド等が挙げられる。これらを単独あるいは2種類以上混合して使用してもよい。これらの中でも合成時の反応性が高いことから、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒドを好ましく用いることができる。
【0017】
本発明では、塩基性触媒として、アンモニア水や第3級アミン(トリエチルアミンなど)あるいはヘキサメチレンテトラミンなどアミン系触媒を用いることが、反応性の観点から好ましい。また、電気絶縁用途に用いる際は、金属や金属イオンを含まない方が良いという観点からもアミン系触媒が好ましい。
【0018】
合成反応時のフェノール類に対するアルデヒドの反応モル比としては特に限定はないが、フェノール類1molに対し、アルデヒド類0.5〜3molとすることが好ましく、より好ましくはアルデヒド類は0.7〜2.5molである。
【0019】
レゾール樹脂は、フェノール類とアルデヒド類を反応させ、脱水した後、溶媒を添加し系内の沸点以下に保持して熟成を行い得る。この時、熟成の温度を高温にしたり、時間を長くすることにより、高分子量レゾール樹脂を得ることができる。熟成時間を制御すると、架橋反応を再現性良く制御できるため好ましく、熟成温度を高温にすると熟成時間を短くできるため好ましい。得られたレゾール樹脂をエレクトロスピニングする場合には、溶媒の蒸発速度が繊維化の重要なパラメータとなるため、適切な蒸気圧の溶媒を選択することが好ましい。より具体的にはメタノールやエタノール、イソプロパノールなどのアルコール類が好ましい。ただし、熟成温度を高温にする場合には、高沸点のジメチルスルフォキシドなどを用いてもよい。
【0020】
レゾール樹脂の分子量としては、高分子量である方が曳糸性・成形性や製品の脆さを改善するため好ましい。ポリスチレン(PS)換算の重量平均分子量として、3,000〜50,000であることが好ましく、より好ましくは4,000〜10,000である。曳糸性・成形性が向上するとともに、溶液とする時の溶解性も向上する。
【0021】
なお、この重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(以下、GPCと略称する)を用いて測定を行い、以下の条件でPS換算で算出したものである。
【0022】
GPC本体 : TOSOH社製HLC−8120
分析用カラム: TOSOH社製G1000HLX1本、G2000HLX2本、
G3000HLX1本
溶出溶媒 : テトラヒドロフラン(以下、THFと略称する)
流量 : 1.0mL/分
カラム温度 : 40℃
検出器 : 示差屈折計
また、レゾール樹脂に含有されるホルムアルデヒドは少ない方が工程や製品化した時のアウトガスが少なく好ましい。より具体的には、滴定法で測定されるホルムアルデヒド含有量はレゾール樹脂全体に対し1重量%以下であることが好ましい。
【0023】
本発明で言うレゾール樹脂には、レゾール樹脂の硬化しやすい特徴を損なわない範囲で別のポリマーを含有していてもよい。別のポリマーのブレンド率としては10重量%以下であることが好ましく、より好ましくは5重量%以下である。別のポリマーとしては、ノボラック樹脂やエポキシ樹脂などの熱硬化性ポリマーや光硬化性ポリマーなど、架橋により接着性や高耐熱・高耐薬品性を発現するポリマーを挙げることができる。また、レゾール樹脂の低い曳糸性・成形性を向上させる意味から、曳糸性・成形性の良いポリマーとすることもできる。例えば、ノボラック樹脂、セルロース、セルロース誘導体、高耐熱ポリオレフィン、ポリエステル、液晶ポリエステル、ポリフェニレンスルフィド、ポリケトン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、パラアラミド、メタアラミド、ポリイミド、ポリアミドイミドなどを例示することができる。ただし、これらのポリマーはレゾール樹脂と共通の溶媒に溶解できることが重要である。これらの中でも、低コストで架橋型のポリマーが耐熱・耐薬品性の観点から好ましく、ノボラック樹脂やエポキシ樹脂などが好ましい例として挙げられる。また、樹皮抽出物などの天然物由来のポリフェノール類を添加してもよい。
【0024】
本発明では、ポリビニルブチラールを少量レゾール樹脂にブレンドすることが、レゾール樹脂の繊維化、および得られるフィルムの脆さ改善に重要である。
【0025】
本発明で言うポリビニルブチラール(以下、PVBと略称する)とは、ブチラール基を主成分とし、水酸基と少量のアセチル基を含む共重合体であり、ポリビニルアルコール(以下、PVAと略称する)をブチラール化することで得ることができる。レゾール樹脂の曳糸性や脆さを改善する観点から、ブチラール化度は50〜75mol%が好ましく、より好ましくは60mol%以上である。また、分子量についてもレゾール樹脂の曳糸性や脆さを改善する観点から、重量平均分子量で4万〜100万であることが好ましく、より好ましくは8万〜20万である。また、分子量や重合度を反映するパラメータとして溶液粘度があり、工程管理の上からは溶液粘度で管理する方が簡便である。
【0026】
本発明においては、PVBの溶液粘度は、エタノールにPVBを5重量%の濃度になるように溶解し、以下の条件で溶液粘度を測定したものである。すなわち、東機産業(株)製のコーンプレート型回転粘度計(E型粘度計ELD)を用い、25℃で測定を行った。円錐角φ1゜34’、ローター回転数100rpmで、ずり速度383sec-1とした。なお、エタノールへの溶解性が不充分なPVBの溶液粘度については、エタノール/トルエン=1/1の混合溶媒などを用いることができるが、この時にはエタノール、混合溶媒の両方に溶解性良好なPVBで溶媒による違いを補正する検量線を作成し、エタノールでの溶液粘度に変換する。
【0027】
本発明で用いるPVBの溶液粘度としては、レゾール樹脂の曳糸性・成形性や脆さを向上させる観点から10〜200mPa・sであることが重要である。通常レゾール樹脂にPVBをブレンドする場合は、レゾール溶液の粘度調整のために用いられ、低分子量、すなわち溶液粘度が10mPa・s未満の低粘度PVBが10重量%以上ブレンドされる。これに対し、本発明では、PVBを高粘度、すなわち高分子量とし、かつブレンド率を下げることがポイントである。
【0028】
PVBのブレンド率としては、レゾール樹脂の曳糸性向上の観点から0.5重量%以上とすることが重要である。また、1重量%以上であれば脆さ改善にも効果が認められ、好ましい。さらに、エレクトロスピニングを行う場合には、PVBブレンド率は1.5重量%以上とすることでビーズの発生を抑制でき、より好ましい。一方、硬化後のレゾール樹脂の優れた耐熱性・耐薬品性を活かす観点からはPVBブレンド率は低い方が好ましく、5重量%以下であることが重要である。好ましくは3重量%以下である。ここで言うブレンド率とは、レゾール樹脂とPVBを合わせた重量に対するブレンドPVBの重量比である。
【0029】
本発明は、レゾール樹脂にPVBを少量ブレンドすることによりレゾール樹脂の欠点を解決するものであるが、この理由は定かではないが以下のように推定される。すなわち、レゾール樹脂の曳糸性・成形性に対する脆さは、レゾール樹脂が低分子量体であり、しかも紡糸・製膜の原料の段階から部分的に架橋しているため、直鎖ポリマーのような分子鎖の絡み合いが少ないためではないかと考えられる。ここにPVBを少量ブレンドすると、PVBの水酸基によりレゾール樹脂の鎖延長が行われ分子鎖長が伸びるだけでなく、PVBが多数保有する嵩高いブチラール基がレゾール樹脂の分子鎖の過度の凝集を抑制することで、変形追従性が向上して曳糸性や脆性が向上するのではないかと考えられる。実はPVBの原料となるPVAでは、PVBのような効果はあまり見られていなかった。これは、PVAは、側鎖のほとんどが水酸基であり、鎖連結効果というよりも架橋を進め分子鎖として伸びにくくなること、またブチラール基のような嵩高い側鎖を持たないため、PVBのような効果が発現し難いのではないかと考えられる。
【0030】
本発明の繊維構造体とは、レゾール樹脂を溶液紡糸法や溶融紡糸法で繊維化したものを、不織布状などのシート状にしたものである。レゾール樹脂の安定性の観点から溶液紡糸法が好ましい。溶液紡糸法には、エレクトロスピニング法、湿式紡糸法、乾式紡糸法、乾湿式紡糸法などがあるが、中でもエレクトロスピニング法を用いることが極細繊維を得やすく、比表面積の高い繊維とすることができ、さらに紡糸で直接にシート状の繊維構造体が得られるため好ましい。
【0031】
また本発明で言うレゾール樹脂とは、レゾール樹脂とPVBから成り、固体でも液体でもよい。このレゾール樹脂は適切な溶媒に溶解して溶液とすることで、エレクトロスピニングの原料として利用することができる。
【0032】
エレクトロスピニングの原料として利用するときの溶媒は、レゾール樹脂を含有するポリマーとPVBの双方を溶解できればよいが、例えば以下のものを挙げることができる。この中でも、環境負荷の観点からアルコールやアセトンなどが好ましく、特にメタノールやアセトンが好ましい。また、蒸発が速い溶媒を用いてエレクトロスピニングを行うと、ノズル詰まりが発生し易いため適度な蒸発速度の溶媒を選定することが好ましい。具体的にはメタノールやアセトン、またこれらの混合溶媒などが好ましい。また、PVBの溶解性の観点からもアルコール類が好ましい。
【0033】
レゾール樹脂溶液の粘度についても制限は無いが、粘度が低過ぎると紡糸をした際に、溶液が繋がり難く、逆に粘度が高過ぎると伸長性が低下するためやはり曳糸性が低下するので、適切な粘度を選択することが好ましい。例えば、エレクトロスピニング用のレゾール樹脂であれば溶液は比較的低粘度であるので曳糸性が良好となる。
一方、ブレンドするPVBの溶液粘度は高いほど、レゾール樹脂の曳糸性が向上するため、エレクトロスピニングが安定して行え、レゾール樹脂繊維を効率よく製造することが可能になる。さらにはPVBの添加量が少なくても繊維化が可能になるため、レゾール樹脂の耐熱・耐薬品性をより発揮することができる。PVBの溶液粘度が60mPa・s以上であると、吐出量が低い場合であってもエレクトロスピニングが安定するため、吐出量を下げて繊維径を小さくすることが可能になり、比表面積の高い繊維からなる構造体を効率よく製造することができ、好ましい。PVBの溶液粘度は、より好ましくは140mPa・s以上である。一方、PVBの溶液粘度が180mPa・s以下であれば、レゾール樹脂溶液をエレクトロスピニングする際に、ノズルが詰まることを抑制できるので、繊維径の小さい繊維を製造するのに好ましい。
【0034】
以下、エレクトロスピニング(以下、ESPと略称する)法について詳述する。ESP法とは、溶液と対電極の間に0.1〜3kV/cm程度の高い電場を印加し、溶液を対向する電極に向けて飛行させる過程で、溶液の蒸発と伸長、また溶液の分岐などにより極細繊維とし、それを極細繊維から成る繊維構造体として捕集する紡糸法である。本発明では、レゾール樹脂に溶液粘度が10〜200mPa・sのポリビニルブチラールをブレンド物全体に対し0.5〜5重量%ブレンドしたレゾール樹脂と溶媒から成る溶液を、エレクトロスピニングする繊維の製造方法を採用すると、レゾール樹脂を主体とするポリマーから成る繊維構造体を効率的に得ることができる。
【0035】
本発明の原料となるレゾール樹脂と溶媒から成る溶液において、レゾール樹脂の重量平均分子量は高い方がESP時の曳糸性が良好となり、かつ得られる繊維構造体の繊維の径を小さくすることが可能で、比表面積が高くなるため好ましい。より具体的には、レゾール樹脂の重量平均分子量は3,000以上であることが好ましく、4,000以上であるとより好ましい。レゾール樹脂の重量平均分子量の実用的な上限は50,000である。また、PVBブレンド率については、0.5重量%以上ブレンドすることでESPとして充分な曳糸性が得られるが、ブレンド率を1.5重量%以上とするとビーズの発生を抑制でき、好ましい。なお、ビーズとは後述の図2に示したように液滴状のポリマー溜まりが繊維で繋がっている物を言い、ESPとしては欠点となる場合がある。また、ビーズの前後では繊維径が細くなり易く、繊維径の均一性を向上させる観点からもビーズの発生は抑制する方が好ましい。なお、後述の図3のように、液滴状のポリマー溜まりが繊維で繋がっていない物を粒子状と呼び、この時は単にポリマーが液滴状に吹き付けられているに過ぎず、繊維化されていないため本発明の目的を達成することはできない。ただし、PVBブレンド率が高すぎるとレゾール樹脂溶液の増粘が顕著となり、ESP時にノズル詰まりが発生し易くなったり、得られる極細繊維の繊維径やそのばらつきが大きくなる場合があるので、PVBブレンド率は5重量%以下とすることが重要であり、3重量%以下とすることが好ましい。
【0036】
また、ピリジンなどの電解質を添加することで、静電反発を増加させ、より繊維径を極細化することが可能であり、これにより平均繊維径0.5μm以下の繊維を得ることもできる。繊維構造体の繊維径が小さく均一であるほど、高い比表面積の繊維とすることができるため、熱処理時に気泡を抑制することができ、好ましい。
【0037】
この時、原料となる溶液を吐出する方法としては、均一性や安定性を重視し、ノズルを用いる方法が好ましい。ノズル径としては特に限定はないが、太過ぎると溶液の垂れなどが、細すぎると溶媒蒸発によるノズル詰まりが発生しやすいため、溶液の種類や印加電圧などにより適切なノズル径を選択する必要がある。これらの観点から、本発明では18〜24ゲージ・シリンジ相当のノズル径を採用することが好ましい。また、ノズルを用いず溶液に直接電圧を印加し、溶液を引き出すことも可能であり、この時はノズル詰まりの問題を解消できるという利点がある。
【0038】
また、印加電場は直接ポリマー溶液を牽引する力となるため重要なプロセスパラメータである。印加電場が低すぎるとノズルから溶液を引き出すことができずESPが起こらない。一方、高すぎると放電が起こってしまい危険であるため、適切な電場を選択することが重要である。本発明では0.1〜3kV/cmであることが好ましく、より好ましくは1〜2kV/cmである。また、印加電場は強い方が、一般に細い繊維が得られ易いが、ポリマーの曳糸性と印加電場、すなわちポリマー溶液を牽引する力のバランスがあるようで、繊維径の極小値を示す電場が現れる場合もある。また、電場が強すぎると得られる繊維径のバラツキが増大する場合もある。
【0039】
捕集装置としては、板状物のみならず、回転式ローラーやコンベアネット、さらに回転ディスクやギャップを設けた物など、所望の形態を得るため適宜選択することができる。例えば、コンベアネットを用いることで連続生産を可能とすることができ、回転ディスクや、ギャップを設けた捕集装置により極細糸がランダムに捕集された紙状物では無く、極細繊維を配向させることも可能となる。
【0040】
また、捕集シートの材質としては、アルミ箔などの金属や離型紙、フィルター用紙、不織布、織編物、フィルムなど用途に応じて適宜選択することができる。レゾール樹脂の自己支持シート状物を得る場合にはアルミ箔や離型紙、フィルムが好ましい。
【0041】
特に捕集シートがフィルムの場合、表面粗さが大きく、離型性が高すぎると、硬化処理時の熱収縮により繊維構造体の形態が大きく変化しやすいことから、膜厚が制御し難くなるなど、実用上問題となる場合がある。この観点から、フィルムの表面粗さRaは150nm以下にすることが好ましい。一方、離型性が低すぎると、繊維構造体がフィルムから剥がれにくい。よって、表面粗さRaは30nm以上が好ましい。表面粗さRaは、共焦点顕微鏡などの公知の平滑性測定装置で測定できる。例えば、キーエンス社製カラー3Dレーザー顕微鏡VK−9700GenerationIIが挙げられる。
【0042】
ノズルと捕集装置の距離についても特に制限は無いが、近過ぎると溶媒の蒸発が不完全なまま捕集されるので、繊維状とし難くビーズ状やフィルム状となり易い。一方、遠過ぎると印加電圧に高電圧が必要となり、安全上の配慮が過大になる。これらは溶媒の蒸発速度やノズルからの吐出量に密接に関係するが、沸点が比較的低く蒸気圧も比較的高いアルコール(メタノール、エタノール、イソプロパノールなど)やアセトン、またはそれらの混合溶媒の場合には、吐出量0.01〜0.20cm3/分の場合には、ノズルと捕集装置の距離は5〜30cmの範囲が好ましい。
【0043】
雰囲気温度や雰囲気湿度も溶媒の蒸発に関係するが、雰囲気温度としては5〜40℃が好ましく、雰囲気湿度は10〜75%RHが好ましい。ESP法では高電圧を使用するため、漏電防止の観点からは湿度は75%RH以下が好ましい。一方、静電気による蒸発溶媒への引火防止の観点からは、湿度は10%RH以上が好ましい。いずれにしても、高電圧を用いるので、アースを確実に取ることや、大きな抵抗を組み込むことで電流をほとんど流さないことが肝要である。
【0044】
原料となる溶液は、前記した本発明のレゾール樹脂溶液を用いることが重要である。この時のレゾール樹脂の溶液全体に対する濃度は、濃い方がESPでの生産性を向上できるが、薄い方がノズルが詰まりにくく、また低粘度となるため得られる繊維を極細化し易い。また、溶液とするため濃い方は特に溶解度からの制約も有る。レゾール樹脂の溶媒としてアルコールを用いる場合には25〜40重量%とすることが好ましい。なお、レゾール樹脂に対してアルコールを使用する場合には、ある臨界濃度より低濃度となると逆に溶解性が低下する場合があり、濃度を慎重に選ぶことが好ましい。また、レゾール樹脂を主体とするポリマーとPVBをブレンドする際は、それぞれの溶液を作成しておき、その溶液を混合する方が溶解、ブレンドし易いため好ましい。また、PVBは一度に大量に溶媒に投入すると、PVBが膨潤するだけのゲル類似状態になり溶解しなくなる場合があるため、PVBは溶媒に少しずつ投入し溶解することが好ましい。また、紡糸原料の溶液粘度としては比較的低粘度の方が曳糸性が良好となり、また繊維径も細くし易い傾向があるが、低粘度にしすぎると曳糸性を失う場合もある。具体的には7〜50mPa・sであることが好ましく、より好ましくは9〜20mPa・sである。なお、溶液粘度測定装置はPVBで用いたものを適用することができる。
【0045】
レゾール樹脂は、熱処理で硬化が可能であり、不溶不融化することで耐薬・耐熱性が向上できる。以下、熱処理方法について詳細に説明する。
【0046】
本発明のレゾール樹脂からなる繊維構造体は、硬化温度である130℃以上で熱処理して融解させることで、フィルム化することができる。高温で短時間処理すると架橋速度が速く、生産性は高くなるが、フィルム内に気泡が残り易くなる。さらに、レゾール樹脂の熱収縮率が高いことから、樹脂の大きな変形に追従できずに、熱処理前後でサンプル形態が大きく変化し易い。膜厚100μm未満の薄いフィルムでは、熱処理後にクラックが生じることで、フィルムがヒビ割れ、破れてしまう場合がある。また、離型性の高い捕集シートに捕集させた繊維構造体を熱処理した場合には、膜厚が制御し難くなるなど、実用上好ましくない場合がある。そこで、硬化温度である130℃以上で熱処理する前に、予め90℃を超えて130℃未満の温度で熱処理する2段階の熱処理で硬化させると、気泡をより抑制しつつ、熱収縮による変形をも抑制できるため、好ましい。
【0047】
1段目の熱処理温度としては、90℃を越える温度であれば、2段目の熱処理時に溶融してフィルム化することができる。一方、90℃以下の温度で熱処理した後に130℃以上の温度で硬化させた場合では、繊維が融解することなく、繊維構造体を保持する場合があるため、90℃を超える温度が好ましい。硬化処理温度としては、レゾール樹脂を充分に架橋させるために130℃以上であることが重要である。レゾール樹脂は一般的に150℃以上で硬化を行うため、好ましくは150℃以上である。熱処理温度の上限としては、ポリマーの熱分解を抑制する観点で決定されるが、通常250℃以下である。
【0048】
本発明で言うフィルムとは、シート状物の通気度が0.01cc/cm/sec以下のものである。電気絶縁用途に使用した場合、シート状物に空隙、すなわち空気層が多くできると、ここで絶縁破壊が起こり、ポリマーの絶縁破壊特性を有効活用できない問題がある。そこで、通気度が0.01cc/cm/sec以下の空隙が少ないシート状物とすることで、絶縁破壊を抑制することができ、電気絶縁性が良好なシート状物、すなわちフィルムとすることができる。本発明のフィルムの通気度としては、0cc/cm/secが最も好ましい。
【0049】
本発明により得られたレゾール樹脂フィルムは、各種耐熱・耐薬品フィルムや、電気絶縁シート等で有用である。またフィルム内に残存する気泡が少ないことから、フィルムの脆性や可撓性が向上し、各種用途に用いた際には取り扱い性の良いものを提供することができる。
【実施例】
【0050】
以下、本発明を実施例に基づいて詳細に説明する。なお、実施例中の測定方法は以下の方法を用いた。
【0051】
A.レゾール樹脂の重量平均分子量
重量平均分子量はGPCを用いて測定を行い、以下の条件でPS換算で算出したものである。
【0052】
GPC本体 : TOSOH社製HLC−8120
分析用カラム: TOSOH社製G1000HLX1本、G2000HLX2本、
G3000HLX1本
溶出溶媒 : テトラヒドロフラン
流量 : 1.0mL/分
カラム温度 : 40℃
検出器 : 示差屈折計
B.ポリマーの溶液粘度
ポリマーの溶液粘度は東機産業(株)製のコーンプレート型回転粘度計(E型粘度計ELD)を用い、25℃で測定を行った。円錐角φ1゜34’、ローター回転数100rpmで、ずり速度Ds=383sec-1とした。また、PVBの溶液粘度は、濃度5重量%のエタノール溶液で測定を行った。
【0053】
C.走査型電子顕微鏡(SEM)観察
繊維に金−パラジウム合金を蒸着し、ニコン社製ESEM−2700で観察した。この時の加速電圧は15kVとした。
【0054】
D.繊維の状態
エレクトロスピニングにより得られたシート状物の表面をSEMで観察し、500倍の写真(視野範囲:165μm×228μm)で評価を行った。後述の図2のように球状のポリマー溜まりが繊維で繋がっている物をビーズとしてその個数を数え、以下のように評価した。
【0055】
ビーズ無し:ビーズ個数が0個
若干有り :ビーズ個数が1〜20個
多い :ビーズ個数が21個以上
また、後述の図3のように、不定形のポリマー溜まりが繊維で繋がっていない物を粒子状と評価した。
【0056】
E.平均繊維径
エレクトロスピニングにより得られたシート状物の表面をSEMで観察し、2,000倍の写真から繊維径を測定した。1枚の写真につき、無作為に20本の繊維の直径を測定し、これを5枚の写真について行い、合計100本の繊維径を測定し、その平均値を平均繊維径とした。ただし、ビーズ部は測定対象から外した。なお、最大繊維直径が5μmを超える場合には500倍の写真を用いて測定を行った。
【0057】
F.曳糸性
曳糸性を以下のように評価し、○以上を合格とした。
【0058】
ビーズ無し :◎
若干有り :○
多い :△
粒子状のみ :×
G.シート状態(通気度によるフィルムの評価)
熱処理後に得られたシート状物の通気度を、東洋精機製作所製フラジール通気度試験機にて測定し、通気度が0.01cc/cm/sec以下のものをフィルム状であると評価した。
【0059】
H.シート状物の厚み
熱処理後に得られたシート状物で任意に選んだ3cm×3cmにおいて、尾崎製作所製UPRIGHT DIAL GAUGEにて厚みを5箇所測定し、その平均値をシート状物の厚みとした。
【0060】
I.気泡
熱処理後に得られたシート状物において、任意に選んだ3cm×3cmの表面を目視で観察し、気泡の個数が3個以下を合格とした。なお、気泡は略楕円形において最大の直径が0.5mmを超えるものとする。
【0061】
J.面収縮率
エレクトロスピニングで得られたシート状物において、任意に選んだ3cm×3cmで、熱処理前後のサンプル面積から式(1)により算出した。
【0062】
(熱処理前の面積−熱処理後の面積)/熱処理前の面積×100(%) (1)
参考例1(レゾール樹脂の合成)
攪拌装置、環流冷却器および温度計を備えた反応容器に、フェノール1,000部、濃度37%のホルマリンを1,550部、濃度27%のアンモニア水32部を加え、80℃で1時間反応させた。その後650mmHgの真空下で脱水を行いながら、系内の温度が70℃に達したところでメタノール480部を加え熟成を行った後冷却し、レゾール樹脂を得た。これの重量平均分子量をGPCで測定したところ4,800であり、残存ホルムアルデヒドは0.4%であった。
【0063】
実施例1、2
参考例1で合成した重量平均分子量4,500のレゾール樹脂をメタノールに溶解した物と、溶液粘度65mPa・sのPVB(積水化学工業株式会社製、エスレック:BH−3)をメタノールに溶解した物をブレンドし、レゾール樹脂濃度30重量%、レゾール樹脂とPVBの和に対する所望のPVB濃度の溶液を調整した。なお、ここで用いたPVBの計算分子量は11万、ブチラール化度は65mol%であった。これをカトーテック社製ESP装置を用い、雰囲気温度21℃、雰囲気湿度51%RHでESPを行った。この時、ノズルとしては22ゲージのシリンジ(先端をカットした物)を用い、3本のシリンジを同時に用いて吐出させた。捕集装置としては直径10cm、幅35cmの回転ローラーに離型紙を貼り付けた物を用いた。回転ローラーは表面速度4m/分で回転させ、吐出量は1本のシリンジあたり0.050cm3/分、印加電圧は10kV、電極間距離は10cmとした。そして、PVBブレンド率を実施例1では1.0重量%、実施例2では3.0重量%としてESPを行ったところ、いずれも離型紙上に均一にポリマーが堆積した均一なシート状となった。これらは折り曲げ可能でありレゾール樹脂特有の脆さがかなり改善されていた。また、これらの表面をSEM観察したところ、いずれも極細繊維が形成され、曳糸性が大きく向上していることが分かった。ただし、実施例1では図2に示したようにビーズが散見されたが、実施例2では図1に示したようにビーズは全く観察されず、PVBブレンド率が高い方が曳糸性が優れる傾向を示した。
【0064】
さらにこれらのシートを110℃で2時間乾熱処理した後、150℃で1時間乾熱処理して通気度を測定したところ、実施例1、2ともに0.01cc/cm/sec以下であり、厚み20μmのフィルム状のものが得られた。また表面を目視で観察したところ、実施例1、2ともに気泡は観察されなかった。さらに熱処理前後での面収縮率は3%と低いものであった。
【0065】
実施例3
実施例2でESPしたシートをESPの直後に150℃で1時間乾熱処理した。得られたシート状物の通気度を測定したところ、0.01cc/cm/sec以下であり、フィルム状のものが得られた。フィルムの表面を目視で観察したところ、気泡はほとんど観察されなかった。ただし、熱処理前後での面積収縮率が10%であり、実施例2に比べて変形量が大きいものであった。
【0066】
実施例4
実施例2でESPしたシートを140℃で2時間乾熱処理した後、170℃で1時間乾熱処理した。得られたシート状物の通気度を測定したところ、0.01cc/cm/sec以下であり、フィルム状のものが得られた。フィルムの表面を目視で観察したところ、気泡はほとんど観察されなかった。ただし、熱処理前後での面積収縮率が8%であり、変形量が若干大きいものであった。
【0067】
実施例5
PVBブレンド率を4.5重量%、吐出量を0.100cm3/分、印加電圧を15kVとした以外は実施例2と同様にESPを行ったところ、離型紙上に均一にポリマーが堆積した均一なシート状となった。この表面をSEM観察したところ、ビーズは全く観察されず、平均繊維径は4.2μmであり、実施例2に比べて繊維径が若干太いものであった。実施例2と同様に熱処理して得られたシート状物の通気度は0.01cc/cm/sec以下であり、厚み43μmのフィルム状のものが得られた。フィルムの表面を目視で観察したところ、気泡は観察されなかった。
【0068】
実施例6
参考例1で合成した重量平均分子量4,500のレゾール樹脂をメタノールに溶解した物と、溶液粘度163mPa・sのPVB(電気化学工業株式会社製、デンカブチラール:6000−C)をアセトンに溶解した物をブレンドし、レゾール樹脂濃度31重量%、レゾール樹脂とPVBの和に対するPVB濃度を3.0重量%とした溶液を調整した。なお、ここで用いたPVBの重合度は2,400、ブチラール化度は62mol%であった。溶液粘度が高いことから低吐出量でもエレクトロスピニングが安定するため、吐出量を0.025cm3/分とし、印加電圧15kVとした以外は実施例2と同様にESPを行ったところ、離型紙上に均一にポリマーが堆積した均一なシート状となった。表面をSEM観察したところ、極細繊維が形成されており、ビーズは全く観察されなかった。さらに作製したシートを実施例2と同様に熱処理し、通気度が0.01cc/cm/sec以下のフィルム状のものが得られた。このフィルムの表面を目視で観察したところ、気泡は観察されなかった。
【0069】
実施例7
PVBを溶液粘度52mPa・sの物(積水化学工業株式会社製、エスレック:BH−6)にした以外は、実施例2と同様にレゾール樹脂溶液を調整してESPを行った。なお、ここで用いたPVBの計算分子量は9.2万、ブチラール化度は69mol%であった。ESPの結果、離型紙上に均一にポリマーが堆積した均一なシート状となった。表面をSEM観察したところ、極細繊維が形成されており、ビーズは全く観察されなかった。さらに作製したシートを実施例2と同様に熱処理し、通気度が0.01cc/cm/sec以下のフィルム状のものが得られた。このフィルムの表面を目視で観察したところ、気泡は観察されなかった。
【0070】
実施例8
捕集シートとして、表面粗さRaが20nmのフィルム(東レ社製、ルミラー:B400タイプ、厚み12μm)を用いた以外は実施例3と同様にESPを行ったところ、フィルム上に均一にポリマーが堆積した均一なシート状となった。この表面をSEM観察したところ、ビーズは全く観察されなかった。これを実施例3と同様に熱処理し、通気度が0.01cc/cm/sec以下のフィルム状のものが得られた。このフィルムの表面を目視で観察したところ、気泡は観察されなかった。熱処理前後での面積収縮率は1%と低いものであったが、レゾール樹脂フィルムを捕集シートフィルムから剥がしにくいものであった。
【0071】
実施例9
捕集シートとして、表面粗さRaが39nmである高離型性のフィルム(東レ社製、ルミラー:R75タイプ、厚み50μm)を用いた以外は実施例5と同様にESPを行ったところ、離型紙上に均一にポリマーが堆積した均一なシート状となった。この表面をSEM観察したところ、ビーズは全く観察されなかった。これを実施例5と同様に熱処理し、通気度が0.01cc/cm/sec以下のフィルム状のものが得られた。このフィルムの表面を目視で観察したところ、気泡は観察されなかった。また熱処理前後での面積収縮率は4%であり、変形量が小さいものであった。さらに、得られたレゾール樹脂フィルムは、捕集シートから剥がすことができた。
【0072】
実施例10
捕集シートとして、表面粗さRaが200nmである高離型性のフィルム(東レ社製、ルミラー:E20タイプ、厚み50μm)を用いた以外は実施例3と同様にESPを行ったところ、フィルム上に均一にポリマーが堆積した均一なシート状となった。この表面をSEM観察したところ、ビーズは全く観察されなかった。これを実施例3と同様に熱処理し、通気度が0.01cc/cm/sec以下のフィルム状のものが得られた。このフィルムの表面を目視で観察したところ、気泡は観察されなかった。ただし、熱処理前後での面積収縮率が15%であり、実施例9に比べて変形量が大きいものであったが、実用上問題ないレベルであった。
【0073】
比較例1
PVBを溶液粘度5mPa・sの物(積水化学工業株式会社製、エスレック:BL−1)に変更し、実施例2と同様にESPを行った。得られたものの表面をSEM観察ところ、液滴から溶媒が蒸発しただけの粒子状であり、繊維化そのものが不能であった。よって、繊維構造体を得ることができなかった。なお、ここで用いたPVBの計算分子量は1.9万、ブチラール化度は63mol%であった。
【0074】
比較例2
参考例1で合成したレゾール樹脂にPVBをブレンドすることなく、濃度29重量%のメタノール溶液を調整した。実施例2と同様にESPを行ったが、離型紙にまだらにポリマーが吹き付けられるだけでシート状になることはなかった。まだら模様は電場を高くするとやや改善傾向であったが、実施例のように均一なシート状になることはなかった。また、これらの表面をSEM観察したが、液滴から溶媒が蒸発しただけの粒子状であった(比較例2における観察結果を図3に示す)。さらに、これらのESPされたレゾール樹脂は離型紙から剥がれなかった。
【0075】
比較例3
PVBブレンド率を7重量%とした以外は、実施例2と同様にESPを行ったところ、繊維化可能であったがノズル詰まりが発生し易すく、紡糸での吐出が不安定になり、サンプリングできなかった。
【0076】
比較例4
実施例2で調整したレゾール樹脂溶液を繊維構造体とすることなく、直接キャストさせて製膜し、シート状のものを得た。これを実施例2と同様に熱処理し、表面を目視で観察したところ、残存する気泡は10個であり、欠点の多いものであった。
【0077】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】実施例2におけるESP直後のシートでビーズがないSEM写真である。
【図2】実施例1におけるESP直後のシートでビーズが生じたSEM写真である。
【図3】比較例2におけるESP直後のシートで粒子状のSEM写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶液粘度が10〜200mPa・sのポリビニルブチラールを0.5〜5重量%含有したレゾール樹脂からなる繊維構造体を熱処理し、融解させることを特徴とするレゾール樹脂フィルムの製造方法。
【請求項2】
繊維構造体がエレクトロスピニング法で製造した繊維からなることを特徴とする請求項1記載のレゾール樹脂フィルムの製造方法。
【請求項3】
熱処理し、融解させる温度が130℃以上であることを特徴とする請求項1または2記載のレゾール樹脂フィルムの製造方法。
【請求項4】
熱処理し、融解させる前の繊維構造体を90℃を超えて130℃未満で予め熱処理することを特徴とする請求項1または2記載のレゾール樹脂フィルムの製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項記載の製造方法で得られるレゾール樹脂フィルム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2010−111013(P2010−111013A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−285593(P2008−285593)
【出願日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】