説明

レチノイド化合物およびそれらの使用

本発明は、式(I):
【化1】


(式中、Vは疎水基であり、Wは非ポリエン性リンカーであり、Xは水素結合供与体を含む極性基である)のレチノイド化合物又はその塩、および細胞分化調節におけるかかる化合物の使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レチノイド化合物および例えば細胞分化におけるそれらの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
全トランス型レチノイン酸(ATRA)およびその立体異性体である9−シス型レチノイン酸(9−シスRA)は、脊椎動物の発生、成長、増殖、および細胞分化を含む幅広い生物学的過程を制御することが知られている、ビタミンAの2つの活性な代謝産物である。レチノイドは、リガンド活性化核受容体(RAR)およびレチノイドX受容体(RXR)の別個のファミリーと結合することによって、細胞分化を誘発すると理解されている。
【0003】
ATRA、9−シス型RA(9CRA)および13−シス型レチノイン酸(13CRA)を含む天然に存在するレチノイドは、選択的に光を吸収することから発色団ということができる。かかる分子は、実質的に、疎水性末端、ポリエンリンカー、および酸性基の3つの構造的に異なる領域からなる。天然に存在するレチノイドのポリエンリンカーは、高度に共役し、この領域が、光(溶媒に応じて300〜400nmの周波数の)を吸収する能力をレチノイドに付与する。それは、これらの分子が特に光異性化を受けやすく、様々なレチノイン酸異性体の混合物に分解できるという特徴に起因する。得られるレチノイドレベルの濃度は、経時的に培養物中で著しく減少することも示されており、このことは、それらが分解も代謝もされた結果であり得る。さらに、ATRAなどのレチノイドは温度感受性であり、容易に酸化することが知られている。
【0004】
得られる異性体が異なる作用機序を有することから、ATRAの異性化は、その代謝経路の重要な一部分であると理解される。これは、細胞培養実験室においてATRAの使用者によってあまりにもしばしば見落とされている重要な点である。ATRAの異性体は、代替系統に沿って分化する哺乳動物幹細胞の能力に様々に影響を及ぼすことが報告されており、かかる実験においては、異性化からレチノイン酸を保護するために細心の注意が払われるべきであると述べられている(非特許文献1)。このことは、細胞反応が溶液中に存在する異性体(複数可)の濃度(複数可)によって決定される場合に特に関係する。例えば、レチノイドを使用する多能性(pluripotent)幹細胞の分化の誘発は、変化しやすいことが非常に多く、その結果、代替細胞型の様々な集団からなる細胞の異種培養物が形成される。分化反応におけるかかる可変性を低減し、再現性を改善するためには、細胞分化を誘発するために使用されるものは何でも、その使用毎に同じ形態および濃度であることが必須である。現在このことは、全て光および熱感受性であり、かつサンプル調製条件下、原液保存条件下、および培養条件下で異性化を受ける傾向のあるATRAおよびその立体異性体などの試薬を使用する場合には保証することができない。
【0005】
異なる異性体が細胞に多様な作用を及ぼすために、異性化に対するATRAの感受性および傾向を調節するための幾つかの試みがなされてきた。例えば、ウシ血清アルブミン(BSA)、フィブリノゲン、リゾチーム、ホスファチジルコリンN−エチルマレイミド、およびビタミンCを含む、レチノイン酸のシス型−トランス型の相互変換または酸化を防止する幾つかの添加剤が評価されている(非特許文献2及び3)。しかし、細胞培地へのかかる分子の添加は望ましいものではなく、例えば無血清培地ではBSAの使用は不可能であろう。
前述の安定性の問題に悩まされず、細胞培養への適用で容易に使用できるATRAの改善された代替物が必要とされている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Murayama等、J.Nutr.Sci.Vitaminol 43(167)1977年
【非特許文献2】Chen等、J.Am.Chem.Soc.126(410)1995年
【非特許文献3】Wang等、J Chromatogr 796、283、2003年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、化合物の生物活性に著しい影響を及ぼすことなく、天然に存在するレチノイド化合物のポリエン性リンカーを非ポリエン性リンカーで置き換えることによって化合物の安定性を改善できるという認識に少なくとも部分的に基付くものである。共役ポリエンリンカーは光異性化を受けやすく、ポリエン骨格を非異性化官能基で置き換えることによって化合物の安定性を改善する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
したがって、本発明の第1の態様は、細胞分化を調節するためのレチノイド化合物の使用に関し、該化合物は、疎水基および水素結合供与体を含む極性基を含み、前記基は、非ポリエン性リンカーによって分離している。細胞分化を調節する方法も提供される。
【0009】
本発明のレチノイド化合物を使用して、天然に存在するレチノイドと類似した形で幹細胞の分化を調節することができる。該化合物は、より均一な形での細胞分化を誘導することができ、ATRAを使用する日常的な幹細胞培養と比較して、代替の分化細胞型の変化および異質性を低減する。改善された安定性の有益性と共に、これらの試薬の使用は、細胞分化培養物中の細胞異質性を低減することができる。細胞分化の安定な合成モジュレータは、既存技術よりも明確な利点を提供し、生物工学者にとって重要な価値のあるものとなろう。
【0010】
メチル基を含む系と含まない系の両方の系に対して(例えば、6a対6bにおいて)この技術を適用することは重要であり、なぜならばそれによってアリールおよびビニル基の相対的回転配向の調節が可能になるからであり、そのことは受容体選択的なレチノイド類似体の開発の設計原理として構造調節にとって重要な意味をもつ。式6の化合物は、細胞分化の調節に有効である。式6aiiおよび6biの化合物も、細胞分化の調節に有効であり、特に安定である。
【0011】
アリール−アルケニルボロン酸エステル5aのテトラヒドロナフタレン核は、白血病細胞中にアポトーシスを生じる強力なレチノイドX−受容体リガンドとして適用されているレチノイド誘導体を導出するための基本的なサブユニットとして既に注目されているが、この基礎構造は、幹細胞の分化のための新規な活性レチノイドの開発の柔軟な中間体である。
【0012】
本発明の化合物は、例えば遊離酸、遊離塩基、エステル、および他のプロドラッグ、塩および互変異性体などの異なる形態で存在することができ、本開示には、化合物の全ての変形形態が含まれる。
【0013】
本発明の特定の態様、実施形態、または実施例に関連して記載される特性、整数、特徴、化合物、化学部分、または基は、本明細書に記載の任意の他の態様、実施形態、または実施例に、それと適合しない場合を除いて適用できることを理解されたい。
【発明を実施するための形態】
【0014】
ポリエン性
本明細書で使用される「ポリエン」および「ポリエン性」という用語は、2つ以上の共役炭素−炭素二重結合を含む脂肪族部分を意味する。
【0015】
ヒドロカルビル
本明細書で使用される「ヒドロカルビル」という用語は、水素および炭素原子のみからなる部分を意味し、かかる部分は、脂肪族および/または芳香部分を含むことができる。この部分は、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、または20個の炭素原子を含むことができる。ヒドロカルビル基の例には、C1〜6アルキル(例えば、C、C、C、またはCアルキル、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、n−ブチル、sec−ブチル、またはtert−ブチル);アリール(例えば、ベンジル)またはシクロアルキル(例えば、シクロプロピルメチル)で置き換えられているC1〜6アルキル;シクロアルキル(例えば、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、またはシクロヘキシル);アルケニル(例えば、2−ブテニル);アルキニル(例えば、2−ブチニル);アリール(例えば、フェニル、ナフチル、またはフルオレニル)等が含まれる。
【0016】
アルキル
本明細書で使用される「アルキル」および「C1〜6アルキル」という用語は、1、2、3、4、5、または6個の炭素原子を有する直鎖または分岐鎖のアルキル部分を意味する。この用語は、メチル、エチル、プロピル(n−プロピルまたはイソプロピル)、ブチル(n−ブチル、sec−ブチル、またはtert−ブチル)、ペンチル、ヘキシルなどの基への言及を含む。特に、アルキルは、1、2、3、または4個の炭素原子を有することができる。
【0017】
アルケニル
本明細書で使用される「アルケニル」および「C2〜6アルケニル」という用語は、2、3、4、5、または6個の炭素原子を有し、適用可能な場合にはEまたはZ立体化学のいずれかの少なくとも1つの二重結合をさらに有する直鎖または分岐鎖のアルキル部分を意味する。この用語は、エテニル、2−プロペニル、1−ブテニル、2−ブテニル、3−ブテニル、1−ペンテニル、2−ペンテニル、3−ペンテニル、1−ヘキセニル、2−ヘキセニル、および3−ヘキセニルなどの基への言及を含む。
【0018】
アルキニル
本明細書で使用される「アルキニル」および「C2〜6アルキニル」という用語は、2、3、4、5、または6個の炭素原子を有し、少なくとも1つの三重結合をさらに有する直鎖または分岐鎖のアルキル部分を意味する。この用語は、エチニル、1−プロピニル、2−プロピニル、1−ブチニル、2−ブチニル、3−ブチニル、1−ペンチニル、2−ペンチニル、3−ペンチニル、1−ヘキシニル、2−ヘキシニル、および3−ヘキシニルなどの基を含む。
【0019】
アルコキシ
本明細書で使用される「アルコキシ」および「C1〜6アルコキシ」という用語は、−O−アルキルを意味し、ここでアルキルは、直鎖または分岐鎖であり、1、2、3、4、5、または6個の炭素原子を含む。諸実施形態の一クラスでは、アルコキシは1、2、3、または4個の炭素原子を有する。この用語は、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、イソプロポキシ、ブトキシ、tert−ブトキシ、ペントキシ、ヘキソキシなどの基を含む。
【0020】
シクロアルキル
本明細書で使用される「シクロアルキル」という用語は、3、4、5、6、7、または8個の炭素原子を有する脂環式部分を意味する。この基は、架橋されたまたは多環式環系であってよい。シクロアルキル基は、単環式であることが多い。この用語は、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、ノルボルニル、ビシクロ[2.2.2]オクチルなどの基を含む。
【0021】
アリール
本明細書で使用される「アリール」という用語は、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、または16個の環の炭素原子を含む芳香環系を意味する。アリールは、しばしばフェニルであるが、少なくとも1つが芳香族である2つ以上の環を有する多環式環系であってよい。この用語は、フェニル、ナフチル、フルオレニル、アズレニル、インデニル、アントリルなどの基を含む。
【0022】
カルボシクリル
本明細書で使用される「カルボシクリル」という用語は、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、または16個の炭素環原子を有する飽和(例えば、シクロアルキル)または不飽和(例えば、アリール)環部分を意味する。特に、カルボシクリルは、飽和または不飽和であってよい3〜10員環または環系、特に5および6員環を含む。カルボシクリル部分は、例えば、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、ノルボルニル、ビシクロ[2.2.2]オクチル、フェニル、ナフチル、フルオレニル、アズレニル、インデニル、アントリルなどから選択される。
【0023】
ヘテロシクリル
本明細書で使用される「ヘテロシクリル」という用語は、少なくともその1つが窒素、酸素、リン、ケイ素、および硫黄から選択される、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、または16個の環原子を有する、飽和(例えば、ヘテロシクロアルキル)または不飽和(例えば、ヘテロアリール)複素環部分を意味する。特にヘテロシクリルは、飽和または不飽和であってよい3〜10員環または環系、より具体的には5または6員環を含む。
【0024】
複素環部分は、例えば、オキシラニル、アジリニル、1,2−オキサチオラニル、イミダゾリル、チエニル、フリル、テトラヒドロフリル、ピラニル、チオピラニル、チアントレニル、イソベンゾフラニル、ベンゾフラニル、クロメニル、2H−ピロリル、ピロリル、ピロリニル、ピロリジニル、イミダゾリル、イミダゾリジニル、ベンズイミダゾリル、ピラゾリル、ピラジニル、ピラゾリジニル、チアゾリル、イソチアゾリル、ジチアゾリル、オキサゾリル、イソオキサゾリル、ピリジル、ピラジニル、ピリミジニル、ピペリジニル、ピペラジニル、ピリダジニル、モルホリニル、チオモルホリニル、特にチオモルホリノ、インドリジニル、イソインドリル、3H−インドリル、インドリル、ベンズイミダゾリル、クマリル、インダゾリル、トリアゾリル、テトラゾリル、プリニル、4H−キノリジニル、イソキノリル、キノリル、テトラヒドロキノリル、テトラヒドロイソキノリル、デカヒドロキノリル、オクタヒドロイソキノリル、ベンゾフラニル、ジベンゾフラニル、ベンゾチオフェニル、ジベンゾチオフェニル、フタラジニル、ナフチリジニル、キノキサリル、キナゾリニル、キナゾリニル、シンノリニル、プテリジニル、カルバゾリル、β−カルボリニル、フェナントリジニル、アクリジニル、ペリミジニル、フェナンスロリニル、フラザニル、フェナジニル、フェノチアジニル、フェノキサジニル、クロメニル、イソクロマニル、クロマニル等から選択される。
【0025】
ヘテロシクロアルキル
本明細書で使用される「ヘテロシクロアルキル」という用語は、3、4、5、6、または7個の環の炭素原子、ならびに窒素、酸素、リン、および硫黄から選択される1、2、3、4、または5個の環のヘテロ原子を有する飽和複素環部分を意味する。この基は、複素環系であってよいが、単環式であることが多い。この用語は、アゼチジニル、ピロリジニル、テトラヒドロフラニル、ピペリジニル、オキシラニル、ピラゾリジニル、イミダゾリル、インドリジジニル(indolizidinyl)、ピペラジニル、チアゾリジニル、モルホリニル、チオモルホリニル、キノリジジニル(quinolizidinyl)などの基を含む。
【0026】
ヘテロアリール
本明細書で使用される「ヘテロアリール」という用語は、その少なくとも1つが、窒素、酸素、および硫黄から選択される5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、または16個の環原子を有する芳香族複素環系を意味する。この基は、その少なくとも1つが芳香族である2つ以上の環を有する多環式環系であってよいが、単環式であることが多い。この用語は、ピリミジニル、フラニル、ベンゾ[b]チオフェニル、チオフェニル、ピロリル、イミダゾリル、ピロリジニル、ピリジニル、ベンゾ[b]フラニル、ピラジニル、プリニル、インドリル、ベンズイミダゾリル、キノリニル、フェノチアジニル、トリアジニル、フタラジニル、2H−クロメニル、オキサゾリル、イソオキサゾリル、チアゾリル、イソインドリル、インダゾリル、プリニル、イソキノリニル、キナゾリニル、プテリジニルなどの基を含む。
【0027】
ハロゲン
本明細書で使用される「ハロゲン」という用語は、F、Cl、Br、またはIを意味する。特にハロゲンは、FまたはClであってよく、Fがより一般的である。
【0028】
置換される
部分に関して本明細書で使用される「置換される」という用語は、前記部分の1つまたは複数の、特に最大5個、より具体的には1、2、または3個の水素原子が、対応数の記載の置換基で互いに独立に置き換えられていることを意味する。本明細書で使用される「任意に置換されていてもよい」という用語は、置換または非置換を意味する。
【0029】
当然のことながら、置換基はそれらが化学的に可能な位置のみにあり、当業者は、特定の置換が可能かどうかを過度の労力をかけずに(実験的または理論的に)決定できることが理解されよう。例えば、遊離水素を含むアミノ基またはヒドロキシ基は、不飽和(例えば、オレフィン)結合で炭素原子と結合する場合には不安定になり得る。さらに当然のことながら、本明細書に記載の置換基は、当業者に認識される適切な置換基への前述の制限を前提として、任意の置換基でそれら自体が置き換えられることが理解されよう。
【0030】
独立に
2つ以上の部分が、原子または基の例示から「それぞれ独立に」選択されると記載される場合、これは、その部分が同じでも異なっていてもよいことを意味する。したがって各部分の同一性は、1つまたは複数の他の部分の同一性とは独立である。
【0031】
化合物
本発明は、細胞分化を制御するためのレチノイド化合物の使用を提供し、該化合物は疎水基および水素結合供与体を含む極性基を含み、前記基は非ポリエン性リンカーによって離間している。
【0032】
好ましくは、非ポリエン性リンカーは、ポリエン基よりも光異性化を受けにくい。好ましくは、該リンカーはさらに、不飽和基を含むことができる。
【0033】
本発明による好ましい一使用では、レチノイド化合物は、下記式(I)の化合物またはその塩である。
【0034】
【化1】

式中、
Vは疎水基であり、
Wは非ポリエン性リンカーであり、
Xは、水素結合供与体を含む極性基である。
【0035】
本発明による好ましい一つの使用では、Vは、下記式(i)の基である。
【0036】
【化2】

式中、
、R、R、R、およびRは、それぞれ独立に、水素、R、1、2、3、4、または5個のRで任意に置換されていてもよいヒドロカルビル、および1、2、3、4、または5個のRで任意に置換されていてもよい−(CH−ヘテロシクリルから選択され、
各Rは独立に、ハロゲン、トリフルオロメチル、シアノ、ニトロ、オキソ、=NR、−OR、−C(O)R、−C(O)OR、−OC(O)R、−S(O)、−N(R)R、−C(O)N(R)R、−S(O)N(R)R、およびRから選択され、
およびRは、それぞれ独立に水素またはRであり、
は、ヒドロカルビルおよび−(CH−ヘテロシクリルから選択され、そのいずれかは、ハロゲン、シアノ、アミノ、ヒドロキシ、C1〜6アルキル、およびC1〜6アルコキシから独立に選択される1、2、3、4、または5個の置換基で任意に置換されていてもよく、
kは、0、1、2、3、4、5、または6であり、
lは、0、1、または2であり、
mは、0、1、2、3、4、5、または6であり、
あるいは、1つまたは複数のRおよびR、RおよびR、RおよびR、ならびにRおよびRは、それらが結合する原子とともに、1つまたは複数のRで任意に置換されていてもよい炭素環または複素環を形成してもよい。
【0037】
本発明によるさらに好ましい一使用では、R、R、R、R、およびRの1つまたは2つのみが水素である。
【0038】
本発明による好ましい一使用では、Vは、次式の1つの基である。
【0039】
【化3】

式中、前記R基の各々は水素以外である。
【0040】
好ましくは、Vは上記式(v)の基である。本発明の好ましい化合物Vは、下記式(viii)の基である。
【0041】
【化4】

式中、R10、R11、R12、R13、R14、およびR15は、それぞれ独立に、水素、R、1、2、3、4、または5個のRで任意に置換されていてもよいヒドロカルビル、および1、2、3、4、または5個のRで任意に置換されていてもよい−(CH−ヘテロシクリルから選択され、
あるいは、R10およびR13は、1、2、3、4、または5個のRで任意に置換されていてもよいC1〜4アルキレンリンカーを形成してもよい。
【0042】
好ましくは、R10、R11、R12、R13、R14、およびR15は、それぞれ独立に、水素およびC1〜6アルキルから選択される。
【0043】
本発明による好ましい一使用では、Vは下記式(ix)の基である。
【0044】
【化5】

【0045】
好ましくは、R11、R12、R14、およびR15は、それぞれ独立に、水素またはC1〜6アルキルである。
【0046】
さらに好ましくは、R11、R12、R14、およびR15は、それぞれメチルである。
【0047】
本発明による好ましい一使用では、Rは、水素、R、1、2、3、4、または5個のRで任意に置換されていてもよいヒドロカルビル、および1、2、3、4、または5個のRで任意に置換されていてもよい−(CH−ヘテロシクリルから選択される。
【0048】
本発明によるさらに好ましい一使用では、Rは、水素、ハロゲン、1、2、3、4、または5個のRで任意に置換されていてもよいC1〜6アルキル、−OR、−S(O)、および−N(R)Rから選択される。
【0049】
本発明によるさらに好ましい一使用では、Rは、水素ならびにC、C、C、およびCアルキルから選択される。
【0050】
本発明によるまたさらに好ましい一使用では、Rは、水素またはメチルである。
【0051】
好ましくは、Wは、2〜10個の鎖内原子を有するリンカー、例えば2、3、4、5、6、7、または8個の鎖内原子を有するリンカーである。
【0052】
好ましくは、Wは不飽和基である。Wは、1つまたは複数の、例えば2つの不飽和脂肪族または芳香族基、例えばいずれかが1、2、3、4、または5個のR(Rは本明細書で定義する通り)で任意に置換されていてもよい、C2〜6アルケニレン、C2〜6アルキニレン、アリーレン、およびヘテロアリーレンから独立に選択される1つまたは複数の基を含むことができる。
【0053】
Wは、各々が1、2、3、4、または5個のRで任意に置換されていてもよい、C2〜6アルケニレン、C2〜6アルキニレン、フェニレン、およびナフチレンから独立に選択される1つまたは複数の基を含むことができる。
【0054】
Wは、各々が1、2、3、4、または5個のRで任意に置換されていてもよい、C2〜6アルキニレン、フェニレン、およびナフチレンから独立に選択される1つまたは複数の基を含むことができる。
【0055】
Wは、各々が1、2、3、4、または5個のRで任意に置換されていてもよい、C2〜6アルケニレン、C2〜6アルキニレン、フェニレン、およびナフチレンから独立に選択される1つまたは複数の基を含むことができる。
【0056】
本発明による好ましい一使用では、Wはリンカー−A−B−であり、AはVに結合しており、BはXに結合しており、AおよびBはそれぞれ独立に、各々が1、2、3、4、または5個のRで任意に置換されていてもよい、C2〜6アルケニレン、C2〜6アルキニレン、アリーレン、およびヘテロアリーレンから選択される。リンカーは、各々が1、2、3、4、または5個のRで任意に置換されていてもよい、
アルケニレン、
アルキニレン、
−フェニレン−アルケニレン−、
−アルケニレン−フェニレン−、
−フェニレン−アルキニレン−、
−アルキニレン−フェニレン−、および
ナフチレン
から選択することができる。
【0057】
好ましくは、リンカーは、各々が1、2、3、4、または5個のRで任意に置換されていてもよい、−フェニレン−アルケニレン−、−アルキニレン−フェニレン、およびナフチレンから選択される。
【0058】
好ましくは、Wは、各々が1、2、3、4、または5個のRで任意に置換されていてもよい、
プロピレン、
エチニレン、
−フェニレン−プロピレン−、
−エチニレン−フェニレン−、および
ナフチレン
から選択されるリンカーである。
【0059】
一実施形態では、Wは、リンカー−フェニレン−プロピレン−である。
【0060】
さらなる一実施形態では、Wは、リンカー−エチニレン−フェニレン−である。
【0061】
本発明の好ましい一実施形態では、Wは、プロプ−2−イレン基が疎水基に結合している−プロプ−2−イレン−フェニレンではない。
【0062】
本発明による好ましい一使用では、Xは−C(O)Zを含み、Zは水素結合供与体を含む。好ましくは、Xは−C(O)Zである。Zは、−OH、−C(O)OH、−O(C1〜6アルキル)、−NH、およびNHOHから選択することができる。好ましくは、Zは、−OH、OCH、およびNHOHから選択される。
【0063】
本発明による好ましい一使用では、化合物は、下記式(II)の化合物またはその塩である。
【0064】
【化6】

式中、
、R、R、R、およびRは、本明細書で定義する通りであり、
Zは本明細書で定義する通りである。
【0065】
好ましくは、化合物は、下記式(III)の化合物である。
【0066】
【化7】

式中、R10、R11、R12、R13、R14、およびR15は、本明細書で定義する通りである。
【0067】
好ましくは、化合物はさらに、下記式(IV)の化合物である。
【0068】
【化8】

【0069】
本発明による好ましい一使用では、R11、R12、R14、およびR15は、それぞれ独立に、水素またはC1〜6アルキルである。
【0070】
本発明による好ましい一使用では、化合物は、次式の1つである。
【0071】
【化9】

【0072】
本発明による好ましい一使用では、化合物は、式(V)、(VI)、または(VII)の化合物である。さらに好ましくは、化合物は、式(V)または(VII)の化合物である。
【0073】
好ましい一実施形態では、化合物は、次式の1つである。
【0074】
【化10】

【0075】
本発明による好ましい一使用では、化合物は、式(IX)、(X)、または(XI)の化合物である。さらに好ましくは、化合物は、式(IX)または(XI)の化合物である。
【0076】
好ましくは、Rは水素またはメチルである。
【0077】
本発明による好ましい一使用では、化合物は、本明細書に記載の6、10、11、12、または13、例えば本明細書に記載の化合物10、11、または12である。
【0078】
本発明による好ましい一使用では、化合物は、下記式(IX)の化合物である。
【0079】
【化11】

式中、RおよびZは、本明細書で定義する通りである。好ましくは、RはHまたはメチルである。好ましくは、ZはOH、OCH、またはNHOHである。
【0080】
本発明による好ましい一使用では、化合物は、下記式(X)の化合物である。
【0081】
【化12】

式中、RおよびZは、本明細書で定義する通りである。好ましくは、RはHまたはメチルである。好ましくは、Rはメチルである、好ましくは、ZはOHである。
【0082】
本発明による好ましい一使用では、化合物は、下記式(XI)の化合物である。
【0083】
【化13】

式中、RおよびZは、本明細書で定義する通りである。好ましくは、RはHまたはメチルである。好ましくは、ZはOHである。
【0084】
本発明による好ましい一使用では、化合物は、下記式(XII)の化合物である。
【0085】
【化14】

式中、RおよびZは、本明細書で定義する通りである。好ましくは、ZはOCHである。ZがOHではない場合、好ましくは、Rはメチルである。
【0086】
本発明による好ましい一使用では、化合物は、下記式(XIII)の化合物ではない。
【0087】
【化15】

【0088】
本発明による好ましい一使用では、化合物は、下記式(XIV)の化合物ではない。
【0089】
【化16】

式中、R、R、R、R、およびRは下表の通りである。
【0090】
【表1】

【0091】
さらなる一態様では、本発明は、その用途とは無関係に、本明細書で定義するレチノイド化合物を提供する。
【0092】
例えば、本発明の化合物は、以下の一般スキームに従って調製することができる。
【0093】
【化17】

【0094】
スキーム1によれば、タイプ1の構造は、触媒の存在下で、2つのC−H活性化ステップを含む効率的な金属触媒反応の連続を介して5および類似体6に変換することができる。4bの調製の場合、この化合物は、フリーデル−クラフツ(Friedel Crafts)のアセチル化およびウィッティヒ(Wittig)メチル化の連続を介して、1bから2ステップで効率的に調製することができる。
【0095】
同様に、このタイプの手法を拡張して、以下に示すスキーム2を介して化合物10および11が生成される。10a(iii)が、アセチレンおよびエンラクトン誘導体の混合物として存在すると同時に、10a(i)および(ii)も、分化過程を調査するための有用なプローブである。
【0096】
【化18】

【0097】
【化19】

【0098】
類似の戦略を使用して、スキーム3に概説のように、関連系12および13にアクセスすることができる。この場合、パラジウム媒介クロスカップリングを使用して、ホウ素化(borylated)中間体3aを直接変換してケイ皮酸エステル類似体12を導出することができ、またはナフチル系13に容易に変換することができる。
【0099】
先に詳説したプロセスは、単に本発明を例示する目的のものであり、限定的なものとみなすべきではないことが理解されよう。当業者に知られている同様または類似の試薬および/または条件を使用する過程を使用して、本発明の化合物を得ることもできる。
【0100】
得られる最終生成物または中間体の任意の混合物は、知られている形で、構成成分の物理化学的な差異をベースにして、例えばクロマトグラフィー、蒸留、分別結晶によって、またはその状況下で適切もしくは可能な場合には塩を形成することによって、純粋な最終生成物または中間体に分離することができる。
【0101】
本明細書で述べる幾つかの基(特にヘテロ原子および共役結合を含有するもの)は、互変異性体の形態で存在することができ、全てのこれらの互変異性体は、本開示の範囲に含まれる。より一般的には、例えば有機酸および相当するそれらのアニオンの場合、多くの種が平衡状態で存在することができ、したがって本明細書の種への言及は、それらの全ての平衡形態への言及を含む。
【0102】
本開示の化合物は、1つまたは複数の不斉炭素原子を含有することもでき、したがって、光学および/またはジアステレオ異性を示すことができる。全てのジアステレオ異性体は、従来の技術、例えばクロマトグラフィーまたは分別結晶を使用して分離することができる。従来の、例えば分別結晶またはHPLC技術を使用して、化合物のラセミ性または他の混合物を分離することによって、様々な立体異性体を単離することができる。あるいは、ラセミ化またはエピマー化を生じない条件下で、適切な光学活性な出発材料の反応によって、または例えばホモキラル酸もしくはアミンでの誘導体化後に、従来の手段(例えば、HPLC、シリカでのクロマトグラフィー)によりジアステレオマー誘導体を分離することによって、所望の光学異性体を生成することができる。全ての立体異性体が本開示の範囲に含まれる。単一のエナンチオマーまたはジアステレオマーが開示される場合、その開示は、他のエナンチオマーまたはジアステレオマー、およびラセミ化合物も包含し、これに関しては、本明細書に例示の特定の化合物が特に参照される。
【0103】
本開示の化合物には、幾何異性体が存在してもよい。本開示は、炭素−炭素二重結合周辺の置換基の配列から得られる様々な幾何異性体およびそれらの混合物を企図し、かかる異性体をZまたはE配置のものと指定し、ここで用語「Z」は、炭素−炭素二重結合の同じ側の置換基を表し、用語「E」は、炭素−炭素二重結合の反対側の置換基を表す。
【0104】
使用
本発明による好ましい一使用では、ある幹細胞の少なくとも1つの分化細胞型への分化に、本明細書で定義するレチノイド化合物を使用することが提供される。
【0105】
本発明の好ましい一実施形態では、前記幹細胞は、ヒト以外の全能性幹細胞、例えばマウスの全能性細胞である。
【0106】
本発明の好ましい一実施形態では、前記幹細胞は、多能性幹細胞、好ましくはヒトの多能性幹細胞である。
【0107】
本発明の代替の好ましい一実施形態では、前記幹細胞は多能性幹細胞である。
【0108】
本発明の好ましい一実施形態では、前記多能性幹細胞は、造血幹細胞、神経幹細胞、骨幹細胞、筋肉幹細胞、間葉幹細胞、上皮幹細胞(皮膚、胃腸粘膜、腎臓、膀胱、乳腺、子宮、前立腺、および下垂体などの内分泌腺などの臓器由来)、外胚葉幹細胞、中胚葉幹細胞、または内胚葉幹細胞(例えば、肝臓、膵臓、肺、および血管などの臓器由来)からなる群から選択される。
【0109】
本発明のさらなる一態様によれば、幹細胞の分化を誘発する方法であって、
i)幹細胞を維持するのに適した、本明細書で定義するレチノイド化合物を含む細胞培地中で、幹細胞の調製物を形成するステップと、
ii)少なくとも1つの分化細胞型への幹細胞の分化を可能にする条件下で、前記幹細胞を培養するステップと
を含む方法が提供される。
【0110】
本発明の好ましい一方法では、前記幹細胞は全能性幹細胞ではない。好ましくは、前記幹細胞はヒトである。
【0111】
本発明の好ましい一方法では、前記分化細胞は、ケラチノサイト、線維芽細胞(例えば、皮膚、角膜、腸粘膜、口腔粘膜、膀胱、尿道、前立腺、肝臓)、上皮細胞(例えば、皮膚、角膜、腸粘膜、口腔粘膜、膀胱、尿道、前立腺、肝臓)、神経膠細胞または神経細胞、肝細胞、間葉細胞、筋細胞(心筋細胞または筋管細胞)、腎細胞、血球(例えば、CD4+リンパ球、CD8+リンパ球)、膵臓細胞、または内皮細胞からなる群から選択される。
【0112】
本発明の好ましい一方法では、該方法は、可視光および/またはUV光、50℃を超えない温度(例えば、−80℃から最大50℃、一般には−20℃から最大約40℃)、ならびに/あるいは酸化試薬、例えば空気またはDMSOの存在下で行われる。
【0113】

本発明の方法は、ex vivo、in vivo、またはin vitroで行うことができる。
【0114】
本発明のさらなる一態様は、本明細書で定義するレチノイド化合物に可視またはUV光を照射するステップを含む、化合物を照射する方法を提供する。
【0115】
本発明のさらなる一態様は、治療で使用するための本明細書で定義するレチノイド化合物を提供する。
【0116】
本発明のまたさらなる一態様は、本明細書で定義するレチノイド化合物および医薬として許容される担体または賦形剤を含む医薬製剤を提供する。
【0117】
本発明のさらなる一態様では、レチノイド療法から利益を得られる疾患または状態の治療のための医薬品の製造における、本明細書で定義するレチノイド化合物の使用が提供される。レチノイド療法から利益を得られる可能性がある疾患または状態には、癌(例えば、脳腫瘍)、ニキビ、皮膚創傷、例えば日焼け、UV損傷、老化皮膚などの皮膚障害が含まれる。
【0118】
以下の実施例は、図面を参照しながら本発明を例示するものである。
【図面の簡単な説明】
【0119】
【図1】実験室光条件(11月または12月)に1時間(左)および24時間(右)曝露した13CRAのサンプルの天然レチノイドの相対レベルを示す円グラフである。
【図2】実験室光条件(11月または12月)に1時間(左)および24時間(右)曝露したATRAのサンプルの天然レチノイドの相対レベルを示す円グラフである。
【図3】実験室光条件(3月)に6時間曝露した13CRA(左)およびATRA(右)のサンプルの天然レチノイドの相対レベルを示す円グラフである。サンプルは直射日光下にあった。
【図4】UV光に1時間(左)および12時間(右)曝露した13CRAのサンプルの天然レチノイドの相対レベルを示す円グラフである。
【図5】UV光に1時間(左)および12時間(右)曝露したATRAのサンプルの天然レチノイドの相対レベルを示す円グラフである。
【図6】暗室中空気下で3日後(上)対蛍光に3日曝露した後(下)のガラス製NMR管中のD−DMSOのATRAのH NMR(500MHz)スペクトル(d5.40〜7.80)を示すグラフである。
【図7】暗室中空気下で3日後(上)対蛍光に3日曝露した後(下)のガラス製NMR管中のD−DMSOのEC23(10a(i)(R’=H))のH NMR(500MHz)スペクトル(d7.20〜8.10)を示すグラフである。
【図8】ヒトの多能性胚性癌腫幹細胞の培養物(TERA2.SP12)を、10μMのATRAまたは10μMのEC23(10a(i)(R’=H))のいずれかに曝露したときの、幹細胞(ssea−3、tra−1−60)および分化誘導体(vinis−53、a2b5)のマーカーについての細胞表面抗原発現のフローサイトメトリー分析を示すグラフである。
【図9】全て1μMで使用したATRA;3Me−CEBX(12);3Me−EC19(10b(ii)R’−H);3Me−EC23(10b(i)(R’=H));4Me−TTN(6b(i)(R’=H))のいずれかに7日間曝露した後の、ヒトの多能性TERA2.cl.SP12胚性癌腫幹細胞(未分化)およびそれらの分化誘導体での細胞表面抗原発現のフローサイトメトリー分析のグラフである。ビヒクル対照としてDMSOを使用した。
【実施例】
【0120】
実施例1:化合物の合成
上記のスキーム1、2、および3に従って、化合物6、10、11、12、および13を調製した。
【0121】
実験
標準のシュレンク技術を使用して、乾燥窒素雰囲気下で、またはInnovative Technology Inc.System1倍長グローブボックス内で全ての反応を実施した。ガラス製品を、グローブボックスに移す前にオーブン乾燥した。
【0122】
ヘキサンおよびTHFをナトリウム/ベンゾフェノンで乾燥し、アセトニトリルをCaHで乾燥し、全てを窒素下で蒸留した。溶媒1,4−ジオキサンを、3つの冷凍ポンプ低サイクルで脱ガスした。トルエンを乾燥し、Innovative Technology,Inc.のSPS−400溶媒精製系の局所的な改変版を使用して、Ar圧力下で活性アルミナおよびBASF−R311触媒のカラムを通過させることによって脱酸素化した。
【0123】
化合物1,1,4,4−テトラメチル−1,2,3,4−テトラヒドロ−ナフタレンを、Avocado Chemical Companyから購入し、CaHで乾燥し蒸留した。[Ir(μ−Cl)(COE)(Entら、Inorg.Synth.1990年、28、90)、トランス−[Rh(Cl)(CO)(PPh](Evansら、Inorg.Synth.1966年、8、215およびMcLevertyら、Inorg.Synth.1968年、11、99)、およびウィッティヒ試薬(PhPMe)を、文献の手順によって合成し、Bpinは、Frontier Scientific Inc.およびNetChem Inc.から贈与として供給された。塩酸はFisher Scientificから得、全ての他の化合物は、Aldrich Chemical Companyから得、GC/MSによって純度を試験し、さらなる精製を行わずに使用した。
【0124】
NMRスペクトルを、周囲温度においてVarian Inova 500(H、13C{H}、HSQC)、Varian C500(H、13C{H}、HSQC、HMBC)、Varian Unity300(11Bおよび11B{H})、およびBruker AC200(13C{H})計器で記録した。プロトンおよび炭素のスペクトルは、それぞれ重水素化溶媒中の残留プロトンまたは溶媒共鳴を介して外部SiMeを基準とし、11B NMRスペクトルは外部BF・OEtを基準とした。ダーラム大学の化学科で、Exeter Analytical Inc.のCE−440元素分析計を使用して元素分析を行った。
【0125】
GC−MS分析は、5971質量選択検出器および7673自動回収装置を備えたHewlett−Packard5890 SeriesIIガスクロマトグラフで、または5973N MSDおよびAnatune Focusロボットによる液体ハンドリングシステム/自動回収装置を備えたAgilent6890 Plus GCで実施した。溶融シリカ毛管カラム(10mまたは12mの架橋した5%フェニルメチルシリコーン)を使用し、オーブンの温度を20℃/分の速度で50℃から280℃に傾斜させた。UHPグレードのヘリウムをキャリアガスとして使用した。使用したネジ式キャップの自動回収装置バイアルは、Thermoquest Inc.から供給されたものであり、テフロン(登録商標)/シリコーン/テフロン(登録商標)隔壁および0.2mlのマイクロインサートを取り付けた。
【0126】
NMRデータによって、それぞれ以下の化合物であることを確認した。
【0127】
中間体3a:6−Bpin−1,1,4,4−テトラメチル−1,2,3,4−テトラヒドロナフタレン
窒素充填グローブボックス内で、[Ir(Cl)(COE)(23.8mg、26.6×10−3mmol、2.5mol%)およびdtbpy(14.3mg、53.2×10−3mmol、5mol%)のTHF2ml中溶液に、THF3ml中、Bpin(270mg、1.06mmol、1当量)および1,1,4,4−テトラメチル−1,2,3,4−テトラヒドロナフタレン1a(200mg、1.06mmol)の混合物を添加した(全体積5ml)。混合物を激しく撹拌して完全に混合するようにし、アンプルに移し、テフロンヤング製の(Teflon Young’s)栓で封止し、80℃で加熱した。3日後、混合物をGC/MSで分析し、次いで溶媒を真空下で除去した。生成物をシリカゲルクロマトグラフィーにかけて(ヘキサン:DCM、50:50)、242mg(72%)の3a;M.p.=104〜106℃を得ることができた。
【0128】
中間体4a:6−イソプロペニル−1,1,4,4−テトラメチル−1,2,3,4−テトラヒドロナフタレン
窒素充填グローブボックス内で、6−Bpin−1,1,4,4−テトラメチル−1,2,3,4−テトラヒドロナフタレン3a(50mg、159×10−3mmol)および2−ブロモプロペン(19.1mg、159×10−3mmol)の1,4−ジオキサン1ml中溶液を入れた、テフロンヤング製の栓で封止したアンプルに、Pd(OAc)(1.78mg、7.95×10−3mmol)およびPPh(4.15mg、15.9×10−3mmol)(全体積2ml)の1,4−ジオキサン溶液を添加した。この混合物に、KPO水溶液(101mg、477.5×10−3mmol)1mlを窒素下で添加し、次いで反応混合物を80℃で加熱した。3時間後、in situでのGC/MSは、ボロン酸エステル化合物のアルケン生成物への変換を示した。生成物を酢酸エチルで抽出し、MgSOで乾燥させ、シリカゲルクロマトグラフィーにかけて(60:40のヘキサン:DCM)、66mg(90%)の4aを得た。
【0129】
中間体5a:6−(2−Bpin−1−メチル−ビニル)−1,1,4,4−テトラメチル−1,2,3,4−テトラヒドロナフタレン
窒素充填グローブボックス内で、トランス−[Rh(Cl)(CO)(PPh](12.1mg、17.5×10−3mmol、5mol%)の、トルエン/アセトニトリル(3:1)混合物2ml中溶液に、3:1のトルエン/アセトニトリル溶媒(全溶媒体積4ml)2mlの89.2mg(351×10−3mmol、1当量)のBpinおよび6−イソプロペニル−1,1,4,4−テトラメチル−1,2,3,4−テトラヒドロナフタレン4a(80mg、0.350mmol)を添加した。混合物を激しく撹拌して完全に混合するようにし、アンプルに移し、テフロンヤング製の栓で封止し、次いで80℃で加熱した。反応をGC/MSでモニタした。3日後、溶媒を真空下で除去し、ヘキサン/DCM(60:40)混合物に再溶解し、次いでシリカゲルクロマトグラフィーにかけて(ヘキサン/DCM、60:40)、98mg(80%);M.p.128〜130℃の7を得た。
【0130】
化合物6a(i):TTNPB、4−[2−(5,5,8,8−テトラメチル−5,6,7,8−テトラヒドロ−ナフタレン−2−イル)−プロペニル]−安息香酸(R’=H)
Pd(dppf)Cl(33mg、0.04mmol)、5a(142mg、0.4mmol)、および4−ヨード安息香酸(121mg、0.4mmol)をDMF(15cm)に溶解し、グローブボックス内のシュレンク管に添加した。カニューレを介して脱ガスHO(3cm)中KPO(200mg、0.8mmol)を添加し、GCMS分析によって6a(i)の完全消費が示されるまで混合物を加熱した。希釈HCl(水溶液)(2cm)を添加し、混合物をDCM(3×10cm)で抽出し、有機相を希釈HCl(水溶液)(3×10cm)で洗浄し、MgSOで乾燥し、真空下で濃縮した。
【0131】
4[2−(5,5,8,8−テトラメチル−5,6,7,8−テトラヒドロナフタレン−2−イル)−プロペニル]−安息香酸メチルエステル6a(i)(R’=Me)
乾燥N充填グローブボックス内で、Pd(dppf)Cl(33mg、0.04mmol)、4,4,5,5−テトラメチル−2−[2−(5,5,8,8−テトラメチル−5,6,7,8−テトラヒドロナフタレン−2−イル)−プロペニル]−[1,3,2]−ジオキサボロラン5a(0.40g、1.1mmol)、4−ヨード安息香酸メチルエステル(0.24g、0.9mmol)、KPO・2HO(0.57g、2.3mmol)、および脱ガスDMF(15mL)を厚肉ガラス管に添加し、ヤング製の栓で封止した。管をシュレンクラインに接続し、カニューレを介して脱ガスHO(3mL)を添加した。GCMS分析によって出発材料の完全消費が示されるまで(2日)、混合物を80℃で加熱した。希釈HCl(水溶液)(2mL)を添加し、混合物をDCM(3×10mL)で抽出した。有機相を希釈HCl(水溶液)(3×10mL)で洗浄し、MgSOで乾燥し、真空下で濃縮した。シリカプラグを介してヘキサンに次いで10%のDCM/ヘキサンで混合物を濾過し、溶媒を真空下で除去した。加熱EtOHからの再結晶化によって、生成物をふわふわした白色粉末6a(i)(R’=Me)(0.28g、84%);mp137〜139℃として得た。
【0132】
3−[2−(5,5,8,8−テトラメチル−5,6,7,8−テトラヒドロナフタレン−2−イル)−プロペニル]−安息香酸メチルエステル6a(ii)(R’=Me)
乾燥N充填グローブボックス内で、Pd(dppf)Cl(33mg、0.04mmol)、4,4,5,5−テトラメチル−2−[2−(5,5,8,8−テトラメチル−5,6,7,8−テトラヒドロナフタレン−2−イル)−プロペニル]−[1,3,2]−ジオキサボロラン5a(0.40g、1.1mmol)、3−ヨード安息香酸メチルエステル(0.24g、0.9mmol)、KPO・2HO(0.57g、2.3mmol)、および脱ガスDMF(15mL)を厚肉ガラス管に添加し、ヤング製の栓で封止した。管をシュレンクラインに接続し、カニューレを介して脱ガスHO(3mL)を添加した。GCMS分析によって出発材料の完全消費が示されるまで(2日)、混合物を80℃で加熱した。希釈HCl(水溶液)(2mL)を添加し、混合物をDCM(3×10mL)で抽出した。有機相を希釈HCl(水溶液)(3×10mL)で洗浄し、MgSOで乾燥し、真空下で濃縮した。シリカプラグを介してヘキサンに次いで10%のDCM/ヘキサンで混合物を濾過し、溶媒を真空下で除去した。加熱EtOHからの再結晶化によって、生成物をふわふわした白色粉末6a(ii)(R’=Me)(0.25g、75%);mp86〜88℃として得た。
【0133】
中間体:2,5−ジクロロ−2,5−ジメチルヘキサン
濃HCl(37%v/v、d=1.18、250ml)を、500ml円錐フラスコ中、2,5−ジメチル−2,5−ヘキサンジオール(20g、137mmol)に注意深く添加した。混合物を24時間撹拌し、次いで濾過し、沈殿物を水3×200mlで洗浄した。白色結晶をジエチルエーテルに再溶解し、水100mlで洗浄し、次いでMgSOで乾燥した。溶媒を真空下で除去して、2,5−ジクロロ−2,5−ジメチルヘキサン12.9g(50%)を白色固体;M.p.=62〜64℃として得た。
【0134】
中間体1b:1,1,4,4,6−ペンタメチル−1,2,3,4−テトラヒドロナフタレンの合成
磁気撹拌棒および還流冷却器を備えた250mlの丸底フラスコに、2,5−ジクロロ−2,5−ジメチルヘキサン(10g、54.5mmol)、トルエン(10g、110mmol)、およびDCM50mlを添加した。激しく撹拌したこの溶液に、AlCl(100mg、0.75mmol)をゆっくり添加した結果、ガス性HClが急速に発生した。反応混合物を室温で30分間撹拌し、次いでさらに15分間還流して、赤色溶液を得た。冷却後、撹拌した溶液に10mlの20%HCl水溶液を添加し、反応混合物が透明/白色に変化した。有機相を水で洗浄し、ヘキサン2×100mlで抽出し、MgSOで乾燥し、濾過し、濃縮した。クーゲルロール蒸留(40〜100℃、3×10−4トール)によって、分析的に純粋なサンプル1b(10.5g、92%);M.p.30〜32℃を得た。
【0135】
中間体:1−(3,5,5,8,8−ペンタメチル−5,6,7,8−テトラヒドロナフタレン−2−イル)−エタノン
塩化アセチル(2.3g、29.7mmol)およびDCM50mlを入れた、磁気撹拌棒および還流冷却器を備えた250mlの三口丸底フラスコに、1,1,4,4,6−ペンタメチル−1,2,3,4−テトラヒドロナフタレン1b(5g、24.8mmol)を添加し、次いでAlCl(7.5g、56.2mmol)をゆっくり添加した(約0.5g部)。褐色の混合物を30分間撹拌し、次いで15分間加熱還流した。反応を完了するために、追加のAlCl(1〜2g)を必要とした。冷却した反応混合物を、激しく撹拌した氷水200mlに注いだ後、20%の塩酸水溶液50mlで酸化し、酢酸エチル100mlを添加した。有機相が黄色になるまで15分間撹拌を継続した。有機相を酢酸エチル(2×100ml)で抽出し、MgSOで乾燥し、濾過し、真空下で濃縮した。クーゲルロール蒸留(80〜120℃、3×10−4トール)によって、分析的に純粋なサンプル1−(3,5,5,8,8−ペンタメチル−5,6,7,8−テトラヒドロナフタレン−2−イル)エタノン5.31g(88%)を白色固体;m.p.54〜56℃として得た。
【0136】
中間体4b:6−イソプロペニル−1,1,4,4,7−ペンタメチル−1,2,3,4−テトラヒドロナフタレンの合成
窒素充填グローブボックス内で、1−(3,5,5,8,8−ペンタメチル−5,6,7,8−テトラヒドロナフタレン−2−イル)エタノン(0.5g、2.05mmol)および乾燥THF50mlを入れた、磁気撹拌棒を備えた250mlの丸底フラスコに、[PPhMel](1.24g、3.07mmol)に次いでBuOK(343g、3.06mmol)を添加した。混合物を室温で撹拌した。24時間後、in situでのGC/MS分析によってカルボニル化合物のアルケン生成物への完全な変換が示された。混合物を濾過して塩を除去した。溶媒を真空下で除去し、得られた固体をヘキサンに再溶解し、次いで冷蔵庫で24時間冷却して、PPhOを結晶化した。混合物を濾過し、再び冷却して、さらなるPPhOを除去した。このステップは、PPhOの全てを除去するために少なくとも4回反復しなければならない。最後に溶媒を真空下で除去して、純粋なアルケンを得た。あるいは、より早い精製方法は、濾過による塩の除去後に真空下で濃縮し、次いでクーゲルロール蒸留(100〜140℃、3×10−4トール)するものであり、それによって分析的に純粋なサンプル4a(396mg、80%);m.p.39〜40℃が得られた。
【0137】
中間体5b:6−(2−Bpin−1−メチル−ビニル)−1,1,4,4,7−ペンタメチル−1,2,3,4−テトラヒドロナフタレン
窒素充填グローブボックス内で、トランス−[Rh(Cl)(CO)(PPh](28.5mg、41.3×10−3mmol)のトルエン/アセトニトリル(3:1)混合物2ml中溶液に、3:1のトルエン/アセトニトリル2ml中、Bpin(201mg、0.79mmol)および6−イソプロペニル−1,1,4,4,7−ペンタメチル−1,2,3,4−テトラヒドロナフタレン4b(200mg、826×10−3mmol)を添加した(全溶媒体積4ml)。混合物を激しく撹拌して完全に混合するようにし、アンプルに移し、テフロンヤング製の栓で封止し、次いで80℃で加熱した。反応をin situでのGC/MSでモニタした。3日後、溶媒を真空下で除去し、得られた固体をヘキサン/DCM(60:40)混合物に再溶解し、次いでシリカゲルクロマトグラフィーにかけ、ヘキサン/DCM(60:40)で溶離して、151mg(50%)の生成物5bを白色固体M.p.=78〜80℃として得た。
【0138】
中間体7a:6−ブロモ−1,1,4,4−テトラメチル−1,2,3,4−テトラヒドロナフタレン
1,1,4,4−テトラメチル−1,2,3,4−テトラヒドロナフタレン1a(10.0g、53.0mmol)のDCM(60cm)中溶液に、N下の0℃でBr(15.58g、97.5mmol)を添加した。DCM(10cm)中BF・EtO(8.27g、58.3mmol)を、2時間かけて滴加した。反応混合物を40/60のEtOAc/ヘキサン(150cm)で希釈し、飽和NaSO溶液(100cm)、飽和NaHCO溶液(100cm)、およびHO(100cm)で洗浄した。有機相をMgSOで乾燥し、濾過し、溶媒を真空下で除去して、暗褐色油を得た。クーゲルロール蒸留(120℃、8×10−3ミリバール)によって、7aを薄黄色の結晶(11.02g、77.8%);M.p.43℃として得た。
【0139】
中間体7b:6−ブロモ−1,1,4,4,7−ペンタメチル−1,2,3,4−テトラヒドロナフタレン
1,1,4,4,6−ペンタメチル−1,2,3,4−テトラヒドロナフタレン1b(4.00vg、19.78mmol)のDCM(40cm)中溶液に、N下の0℃でBr(5.69g、35.60mmol)を添加し、DCM(10cm−3)中BF・EtO(3.08g、21.76mmol)を、2時間かけて滴加した。反応混合物を1時間撹拌し、次いで40/60のEtOAc/ヘキサン(150cm)で希釈し、飽和NaSO溶液(100cm)、飽和HCO溶液(100cm)、およびHO(100cm)で洗浄した。有機相をMgSOで乾燥し、濾過し、溶媒を除去して、7bをふわふわした白色粉末(4.98g、89.5%);M.p.91℃として得た。
【0140】
中間体8a:2−メチル−4−(5,5,8,8−テトラメチル−5,6,7,8−テトラヒドロナフタレン−2−イル)ブト−3−イン−2−オール(P=ジメチルカルビノール)
PdCl(0.331g、1.87mmol)、Cu(OAc)(0.274g、1.87mmol)、7a(5.0g、18.71mmol)、およびPPh(2.45g、9.35mmol)を、500cmのシュレンクフラスコに入れ、フラスコの空気を抜き、Nガスで3回充填し直した。乾燥した脱ガストリエチルアミン(150cm)を、カニューレを介して添加し、シリンジを介して2−メチルブト−3−イン−2−オール(4.72g、56.13mmol)を添加した。溶液をN下の70℃で3日間撹拌した。溶媒を真空下で除去し、残渣をヘキサンに溶解し、シリカゲルプラグを介してヘキサンに次いで10%のEtOAC/ヘキサンで濾過した。EtOAC/ヘキサン溶液を、希釈HCl溶液(水溶液)(100cm)で洗浄し、MgSOで乾燥し、溶媒を除去して、8a(P=ジメチルカルビノール)を少し濁った白色の固体(2.25g、45%);M.p.107℃として得た。
【0141】
中間体8a(P=TMS):トリメチル−(5,5,8,8−テトラメチル−5,6,7,8−テトラヒドロ−ナフタレン−2−イルエチニル)−シラン
PdCl(0.55g、3.1mmol)、Cu(OAc)(0.62g、3.1mmol)、7a(8.3g、31.0mmol)、およびPPh(4.06g、15.53mmol)を、N下で500cmのシュレンクフラスコに入れた。カニューレを介して乾燥脱ガストリエチルアミン(150cm)を添加し、シリンジを介してTMSA(6.09g、62.1mmol)を添加した。GCMS分析が反応の完了を示すまで(18時間)、N下の70℃で終夜溶液を撹拌した。溶媒を真空下で除去し、残渣をヘキサンに溶解し、シリカプラグを介してヘキサンで濾過し、MgSOで乾燥した。真空下で溶媒を除去することによって、8a(P=TMS)を橙色濃化油(7.42g、84%)として得たが、これは約10%のTMSジインおよび他のTMS担持不純物;m/z(EI−MS)284(25%、M)、269(100%、Me喪失)も含有していた。
【0142】
中間体9a:6−エチニル−1,1,4,4−テトラメチル−1,2,3,4−テトラヒドロナフタレン
2−メチル−4−(5,5,8,8−テトラメチル−5,6,7,8−テトラヒドロナフタレン−2−イル)ブト−3−イン−2−オール8a(P=ジメチルカルビノール)(7.42g、26.1mmol)の1:5のトルエン/MeOH100cm中溶液に、新しい粉末KOH(2.92g、52.3mmol)を添加した。GCMS分析が反応の完了を示すまで(18時間)、溶液を撹拌した。1:1のヘキサン/HO(100cm)を添加して、極性溶媒と非極性溶媒とを分離した。混合物を希釈HCl溶液(水溶液)(100cm)に次いで水(2×100cm)で洗浄した。有機層を分離し、MgSOで乾燥し、真空下で溶媒を除去して、9aを橙色の濃化油(4.97g、90%)として得た。
【0143】
化合物10a(i):4−(5,5,8,8−テトラメチル−5,6,7,8−テトラヒドロ−ナフタレン−2−イルエチニル)安息香酸(R’=H)
Cul(0.0164g、0.0321mmol)、4−ヨード安息香酸(0.797g、3.21mmol)、およびPd(PPhCl(0.0225g、0.0321mmol)をN下で250cmのシュレンクフラスコに入れ、9a(1.224g、5.77mmol)を添加した。カニューレを介して乾燥脱ガスEtN(150cm)を添加し、反応混合物をN下で3日間撹拌した。EtNの体積を、真空下で50%低減し、残りの混合物をEtO(100cm)で希釈し、5%のHCl溶液(水溶液)(3×80cm)およびブライン(3×80cm)で洗浄した後、MgSOで乾燥した。ロータリーエバポレーターで溶媒を除去し、真空下で乾燥して粗生成物を得た。シリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン/EtO勾配溶離)による精製によって10a(i)を得、それをヘキサンから再結晶して、少し濁った白色の粉末(0.30g、28%);M.p.254〜256℃を得た。
【0144】
化合物6b(i):4−[2−(3,5,5,8,8−ペンタメチル−5,6,7,8−テトラヒドロ−ナフタレン−2−イル)プロペニル]安息香酸(R’=H)
Pd(dppf)Cl(33mg、0.04mmol)、5b(150mg、0.4mmol)、および4−ヨード安息香酸(121mg、0.4mmol)をDMF(15cm)に溶解し、グローブボックス内のシュレンク管に添加した。カニューレを介して脱ガスHO(3cm)中、KPO(200mg、0.8mmol)を添加し、GCMS分析が5bの完了な消費を示すまで混合物を加熱した。希釈HCl(水溶液)(2cm)を添加し、混合物をDCM(3×10cm)で抽出し、有機相を希釈HCl(水溶液)(3×10cm)で洗浄し、MgSOで乾燥し、真空下で濃縮した。
【0145】
4−[2−(3,5,5,8,8−ペンタメチル−5,6,7,8−テトラヒドロナフタレン−2−イル)−プロペニル]−安息香酸メチルエステル6b(i)(R’=Me)
乾燥N充填グローブボックス内で、Pd(dppf)Cl(28mg、0.03mmol)、4,4,5,5−テトラメチル−2−[2−(3,5,5,8,8−ペンタメチル−5,6,7,8−テトラヒドロナフタレン−2−イル)−プロペニル]−[1,3,2]−ジオキサボロラン5b(0.30g、0.82mmol)、4−ヨード安息香酸メチルエステル(0.18g、0.68mmol)、KPO・2HO(0.42g、1.7mmol)、および脱ガスDMF(15mL)を厚肉ガラス管に添加し、ヤング製の栓で封止した。管をシュレンクラインに接続し、カニューレを介して脱ガスHO(3mL)を添加した。GCMS分析によって出発材料の完全消費が示されるまで(2日)、混合物を80℃で加熱した。希釈HCl(水溶液)(2mL)を添加し、混合物をDCM(3×10mL)で抽出した。有機相を希釈HCl(水溶液)(3×10mL)で洗浄し、MgSOで乾燥し、真空下で濃縮した。シリカプラグを介してヘキサンに次いで10%のDCM/ヘキサンで混合物を濾過し、溶媒を真空下で除去した。加熱EtOHからの再結晶化によって、生成物6b(i)(R’=Me)をふわふわした白色粉末(0.22g、86%);mp137〜139℃として得た。
【0146】
3−[2−(3,5,5,8,8−ペンタメチル−5,6,7,8−テトラヒドロナフタレン−2−イル)−プロペニル]−安息香酸メチルエステル6b(ii)(R’=Me)
乾燥N充填グローブボックス内で、Pd(dppf)Cl(285mg、0.03mmol)、4,4,5,5−テトラメチル−2−[2−(3,5,5,8,8−ペンタメチル−5,6,7,8−テトラヒドロナフタレン−2−イル)−プロペニル]−[1,3,2]−ジオキサボロラン5b(0.30g、0.82mmol)、3−ヨード安息香酸メチルエステル(0.18g、0.68mmol)、KPO・2HO(0.42g、1.7mmol)、および脱ガスDMF(15mL)を厚肉ガラス管に添加し、ヤング製の栓で封止した。管をシュレンクラインに接続し、カニューレを介して脱ガスHO(3mL)を添加した。GCMS分析によって出発材料の完全消費が示されるまで(2日)、混合物を80℃で加熱した。希釈HCl(水溶液)(2mL)を添加し、混合物をDCM(3×10mL)で抽出した。有機相を希釈HCl(水溶液)(3×10mL)で洗浄し、MgSOで乾燥し、真空下で濃縮した。シリカプラグを介してヘキサンに次いで10%のDCM/ヘキサンで混合物を濾過し、溶媒を真空下で除去した。加熱EtOHからの再結晶化によって、生成物6b(ii)(R’=Me)をふわふわした白色粉末(0.22g、86%);mp91〜92℃として得た。
【0147】
4−(3,5,5,8,8−ペンタメチル−5,6,7,8−テトラヒドロナフタレン−2−イルエチニル)−安息香酸メチルエステル10b(i)(R’=Me)
Pd(PPhCl(29mg、0.042mmol)、Cul(8mg、0.004mmol)、4−ヨード安息香酸メチルエステル(1.1g、4.2mmol)、および6−エチニル−1,1,4,4,7−ペンタメチル−1,2,3,4−テトラヒドロナフタレン9b(1.0g、4.4mmol)を、N下で250mLのシュレンクフラスコに入れた。カニューレを介して乾燥脱ガスEtN(100mL)を添加した。反応物をN下で3日間撹拌した。溶媒を真空下で除去し、SiOプラグを介して残渣を濾過し、ヘキサン(200mL)および50/50のDCM/ヘキサン(200mL)で溶離した。DCM/ヘキサン画分を真空下で蒸発させて、薄褐色固体を得た。EtOHからの再結晶化によって白色麺状の10b(i)(R’=Me)(0.12g、77%);mp135〜137を得た。
【0148】
3−(3,5,5,8,8−ペンタメチル−5,6,7,8−テトラヒドロナフタレン−2−イルエチニル)−安息香酸メチルエステル10b(ii)(R’=Me)
Pd(PPhCl(29mg、0.042mmol)、Cul(8mg、0.0042mmol)、3−ヨード安息香酸メチルエステル(1.1g、4.21mmol)、および6−エチニル−1,1,4,4,7−ペンタメチル−1,2,3,4−テトラヒドロナフタレン9b(1.0g、4.42mmol)を、N下で250mLのシュレンクフラスコに入れた。カニューレを介して、乾燥脱ガスEtN(100mL)を添加した。反応物をN下で3日間撹拌した。溶媒を真空下で除去し、SiOプラグを介して残渣を濾過し、ヘキサン(200mL)および50/50のDCM/ヘキサン(200mL)で溶離した。DCM/ヘキサン画分を真空下で蒸発させて、薄褐色固体を得た。EtOHからの再結晶化によって白色麺状の10b(ii)(R’=Me)(0.11g、71%);mp115〜117を得た。
【0149】
化合物11a(ii):3−(5,5,8,8−テトラメチル−5,6,7,8−テトラヒドロナフタレン−2−イルエチニル)ベンゾヒドロキサム酸
N,O−ビス(トリメチルシリル)ヒドロキシルアミン(0.2ml、0.92mmol)および乾燥THF(2ml)を、アルゴン雰囲気下で撹拌しながら−78℃に冷却した。n−BuLi(ヘキサン中2.5M溶液0.37ml)を撹拌溶液にゆっくり添加し、−78℃に再冷却した。10a(ii)(160mg、0.462mmol)を、撹拌溶液に添加した(依然アルゴン下)。これを−78℃で2時間撹拌し、次いで室温に温め、終夜撹拌した。次いで溶液を加熱還流し、5時間で曇りが生じた(生成物の形成?)。次いで反応を10%のHCl(〜4ml)でクエンチし、1時間撹拌した。HO(4ml)を溶液に添加し、次いで酢酸エチル(3×15ml)で抽出した。混合有機物をブライン(7ml)で洗浄し、乾燥し(MgSO)、濾過し、溶媒を除去して粗油(170mg)を得た。混合物140mgをシリカゲルクロマトグラフィーで分離して、11a(ii)を薄黄色固体(55mg、40%)として得た。加熱アセトニトリルからの固体の再結晶化によって、鮮明な白色の固体を得た。
【0150】
化合物12(i)(R=H、R’=H)
窒素雰囲気下、3a(515mg、1.6mmol)、4−ブロモケイ皮酸(396mg、1.7mmol、1.1当量)、Pd(PPh(58.7mg、51μmol)、およびBa(OH)・8HO(1.26g、4.0mmol)を、N,N−ジメチルアセトアミド/精製水(5:1、17ml)の脱ガス混合物に溶解した。固体は完全には溶解しなかった。反応物を、封止管中80℃で3日間加熱し、反応を希釈塩酸(2ml)でクエンチし、EtOAc(50ml)で抽出した。有機相をブライン(1×10ml)および希釈塩酸(3×20ml)で洗浄し、混合水性洗浄物をEtOAc(2×50ml)で抽出し直した。混合有機層をMgSOで乾燥し、濾過し、真空下で濃縮した。少し濁った白色の粗生成物を、フラッシュシリカゲルクロマトグラフィー(溶離剤としてTHF)で精製し、まずは加熱THF、次いで−18℃でアセトンから再結晶化して、12(i)を白色結晶固体(360mg、66%収率)として得た。
【0151】
3−[4−(3,5,5,8,8−ペンタメチル−5,6,7,8−テトラヒドロナフタレン−2−イル)−フェニル]−アクリル酸メチルエステル12(i)(R=Me、R’=Me)
Pd(dppf)Cl(23mg、0.028mmol)、5,5−ジメチル−2−(3,5,5,8,8−ペンタメチル−5,6,7,8−テトラヒドロナフタレン−2−イル)−[1,3,2]ジオキサボリナン3a(R=Me)(0.20g、0.64mmol)、KPO・2HO(0.29g、1.16mmol)、および4−(3−ブロモ−フェニル)−アクリル酸メチルエステル(0.14g、0.58mmol)を、乾燥N充填グローブボックス内で、ヤング製の栓を取り付けた厚肉ガラス管に、脱ガスDMF(10mL)およびHO(2mL)と共に入れた。GCMS分析によって反応の完了が示されるまで(2日)、混合物を80℃で加熱した。希釈HCl(水溶液)(2mL)を添加し、混合物をEtO(3×10mL)で抽出した。有機相を希釈HCl(水溶液)(3×10mL)で洗浄し、MgSOで乾燥し、真空下で濃縮した。シリカプラグを介してヘキサンに次いで10%のDCM/ヘキサンで混合物を濾過し、溶媒を真空下で除去した。加熱EtOHからの再結晶化によって、生成物12(i)(R=Me、R’=Me)をふわふわした白色粉末(0.17g、80%);mp152〜153として得た。
【0152】
3−[3−(3,5,5,8,8−ペンタメチル−5,6,7,8−テトラヒドロナフタレン−2−イル)−フェニル]−アクリル酸メチルエステル12(ii)(R=Me、R’=Me)
Pd(dppf)Cl(23mg、0.028mmol)、5,5−ジメチル−2−(3,5,5,8,8−ペンタメチル−5,6,7,8−テトラヒドロナフタレン−2−イル)−[1,3,2]ジオキサボリナン3a(R=Me)(0.2g、0.64mmol)、KPO・2HO(0.29g、1.16mmol)、および3−(3−ブロモフェニル)アクリル酸メチルエステル(0.14g、0.54mmol)を、乾燥N充填グローブボックス内で、ヤング製の栓を取り付けた厚肉ガラス管に、脱ガスDMF(10mL)およびHO(2mL)と共に入れた。GCMS分析によって反応の完了が示されるまで(2日)、混合物を80℃で加熱した。希釈HCl(水溶液)(2mL)を添加し、混合物をEtO(3×10mL)で抽出した。有機相を希釈HCl(水溶液)(3×10mL)で洗浄し、MgSOで乾燥し、真空下で濃縮した。シリカプラグを介してヘキサンに次いで10%のDCM/ヘキサンで混合物を濾過し、溶媒を真空下で除去した。加熱EtOHからの再結晶化によって、生成物12(ii)(R=Me、R’=Me)をふわふわした白色粉末(0.17g、83%);mp121〜122として得た。
【0153】
化合物12(ii)(R=H、R’=H)
窒素雰囲気下、3a(534mg、1.7mmol)、3−ブロモケイ皮酸(406mg、1.8mmol)、Pd(PPh(57.8mg、50μmol)、およびBa(OH)・8HO(1.25g、4.0mmol)を、N,N−ジメチルアセトアミド/精製水(5:1、17ml)の脱ガス混合物に溶解した。固体は完全には溶解しなかった。反応物を、封止管中80℃で3日間加熱し、反応を希釈塩酸(2ml)でクエンチし、DCM(3×20ml)で抽出した。有機相をブライン(1×10ml)および希釈塩酸(5×20ml)で洗浄し、混合水性洗浄物を、DCM(2×20ml)で抽出し直した。混合有機層をMgSOで乾燥し、濾過し、真空下で濃縮した。シリカゲルクロマトグラフィーによる精製(溶離剤として1:1のヘキサン:DCM)およびまずはEtOAc、次いでアセトンからの再結晶化によって、11(ii)を白色結晶固体(280mg、37%収率)として得た。
【0154】
化合物13(R=H、R’=H)
窒素雰囲気下、3a(532mg、1.7mmol)、6−ブロモ−2−ナフトエ酸(439mg、1.7mmol)、Pd(PPh(58.9mg、51μmol)、およびBa(OH)・8HO(1.25g、4.0mmol)を、N,N−ジメチルアセトアミド/精製水(5:1、17ml)の脱ガス混合物に溶解した。固体は完全には溶解しなかった。反応物を、封止管中80℃で3日間加熱し、反応を希釈塩酸(15ml)でクエンチし、EtOAc(3×50ml)で抽出した。有機相を水(3×20ml)で洗浄し、混合水性洗浄物を、EtOAc(2×50ml)で抽出し直した。混合有機層をMgSOで乾燥し、濾過し、真空下で濃縮した。シリカゲルパッド(溶離剤=EtOAc)を介して、粗生成物を濾過した。−20℃でのアセトンからの再結晶化によって、13(250mg、41%収率)の4つの産物を無色結晶として得た。
【0155】
3’,5’,5’,8’,8’−テトラメチル−5’,6’,7’,8’−テトラヒドロ2,2’]ビナフタレニル−6−カルボン酸メチルエステル13(R=Me、R’=Me)
Pd(dppf)Cl(23mg、0.28mmol)、5,5−ジメチル−2−(3,5,5,8,8−ペンタメチル−5,6,7,8−テトラヒドロナフタレン−2−イル)−[1,3,2]ジオキサボリナン3a(R=Me)(0.20g、0.64mmol)、KPO・2HO(0.29g、1.16mmol)および6−ブロモ−ナフタレン−2−カルボン酸メチルエステル(0.15g、0.58mmol)を、乾燥N充填グローブボックス内で、ヤング製の栓を取り付けた厚肉ガラス管に、脱ガスDMF(10mL)およびHO(2mL)と共に入れた。GCMS分析によって反応の完了が示されるまで(2日)、混合物を80℃で加熱した。希釈HCl(水溶液)(2mL)を添加し、混合物をEtO(3×10mL)で抽出した。有機相を希釈HCl(水溶液)(3×10mL)で洗浄し、MgSOで乾燥し、真空下で濃縮した。シリカプラグを介してヘキサンに次いで10%のDCM/ヘキサンで混合物を濾過し、溶媒を真空下で除去した。加熱EtOHからの再結晶化によって、生成物13(R=Me、R’=Me)をふわふわした白色粉末(0.19g、84%);mp162〜163として得た。
【0156】
実施例2:物理的および化学的安定性の決定
天然に存在するレチノイドは感受性があり異性化することを考慮して、改善された安定性および類似の生物活性を示す、本明細書に記載の幾つかの合成レチノイド誘導体を設計、合成、かつ精製した。異なる種類の哺乳動物幹細胞に対するこれらの分子の生物活性およびかかる細胞の分化を調節するそれらの能力を評価した。
【0157】
天然レチノイドの感受性を試験するために、DMSOまたは重クロロホルムのいずれかの10mMサンプルを、37℃、実験室光(約500ルクス)、白色光(約1250ルクス)、またはUV光のいずれかに曝露した。異性化の際に、サンプルのHNMRスペクトルを採取し、純粋なサンプルのHNMRスペクトルと比較した。HNMRスペクトルからのピーク強度%を使用して、様々なレチノイン酸および存在し得る任意の他の化合物のレベルを定量化した。
【0158】
37℃で異性化したレチノイン酸
レチノイン酸溶液を37℃の水浴に入れて、様々な時間で温度感受性を試験した。37℃での1時間後、最初のレチノイン酸のおよそのレベルは、13CRAサンプルについては85%であり、ATRAサンプルについては100%であった。これが、24時間後には13CRAサンプルについては73%に、ATRAサンプルについては86%に低下した。
【0159】
ATRAおよび13CRAのサンプルを、室温に1週間置いた。13CRAの分解溶液は、約78%の13CRAを含有していた。ATRAの溶液はより安定であり、依然94%のATRAを含有していた。上記実験の全ては、光の下のみならず37℃およびさらには室温におけるレチノイン酸固有の不安定性を強調するものである。
【0160】
レチノイン酸の光異性化
様々な時間で3つの光条件の1つにATRA、9CRA、および13CRAのサンプルを置くことによって、レチノイン酸の光に対する感受性を試験した。サンプルを、通常の実験室光条件、白色光、またはUV光のいずれかに曝露した。次いで、HNMRスペクトルを純粋なサンプルのものと比較した。
【0161】
実験室光
1時間および24時間、実験室光で異性化したATRAおよび13CRAのサンプルに見られた天然レチノイン酸異性体の相対比を、図1および2に見ることができる。HNMRスペクトルの新しいピークは大きさが増大し、したがって異性化生成物のレベルは、24時間かけて増大したが、程度は大きくなかった。ATRAは、特に1時間までの曝露で13CRAよりもわずかに安定と思われる。
【0162】
日光
図3の結果は、図1および2のものとは非常に異なっており、日光での6時間のレチノイド異性化は、はるかに大きな分解度を示している。調査過程にわたって分解をより示した唯一のサンプルは、UV光に12時間曝露したサンプルであった。9CRAのレベルは、両方のサンプルの中で最も増大していたようにみえるが、13CRAサンプルはより著しく増大した。他の多くの化合物は、HNMRで見ることができた。
【0163】
UV光
図4および5は、1時間および12時間、UV光で異性化したATRAおよび13CRAのサンプルに見られた天然レチノイン酸の相対比を示す。ATRAおよび13CRAは、12時間で急速に分解する。図3に示されたサンプルとは対照的に、ATRAのレベルは、図4に示されたサンプルの中で最も増大した。13CRAのレベルは、図5に示されたサンプルの中で最も増大した。この差異は、より広い波長のスペクトルへの曝露によって、C〜C10結合での異性化が促進される一方、より短い波長のより狭い範囲の光は、C〜C14位において全トランス型から13−シス型の配置に、または13−シス型から全トランス型の配置に戻すいずれかの異性化を促進する傾向があるようにみえることを示している。
【0164】
白色光
ATRAのレベルは、白色光への曝露の1時間後に100%から76%に減少し、6時間には43%に減少し、24時間後には21%に減少したことが見出された(データ示さず)。また、分解速度は6時間後に著しく減速する。
【0165】
レチノイン酸異性化の以前の調査によって、白色光に30分間曝露したエタノール中のATRAのサンプルについての異性体の相対濃度は、ATRAが25%、9CRAが10%、11CRAが10%、13CRAが30%、9,13−ジシス型RAが5%、不明の化合物が20%であることが明らかとなっている(Giguere V.Endocrine Reviews、1994年、15、61〜70頁)。これらの異性体は、光定常状態に達したと思われる。この調査で異性化したサンプルから、天然レチノイン酸を含む少なくとも9つの異性化生成物が特定された。
【0166】
合成レチノイド
合成レチノイド12(ii)、12(i)、および13のサンプルを、実験室光に1時間、白色光に1時間、およびUV光に1時間曝露した。実験室光および白色光に曝露したサンプルからのHNMRスペクトルは、純粋な化合物のものと同じであった。実験室光または白色光の1時間後には分解の徴候は観察されなかった。12(ii)および12(i)のサンプルは、UV光への曝露後に少量の分解を示した。13は分解の徴候を示さなかった。UV光は、これらの合成レチノイドの共役二重結合領域を刺激する可能性が高い周波数で発光し、それによってわずかな分解が観察される。12(ii)および12(i)は、実験室光および白色光の下で安定であった。13は、全ての形態の光に曝露した場合にも安定であった。合成レチノイドは、それらの天然相当物よりもはるかに安定であることが証明された。
【0167】
幾つかの合成レチノイド対天然系の相対的安定性を研究するために、それぞれの溶液を異なる環境条件に曝露し、次いでNMRによって研究した。図6および7は、ATRAがDMSO中、暗室の空気中で3日にわたりかなり安定であるが、蛍光への曝露では63%の異性化および分解を生じ、NMRによると3日後には37%しか残らないことを明確に示している。それとは逆に、合成レチノイド10a(i)(R’=H)は、同じ条件下で完全に安定である。
【0168】
実施例3:生物活性の決定
これらの分子を、様々な濃度で異なる哺乳動物幹細胞系、即ち(1)ヒトの多能性幹細胞および(2)ラット成体の神経前駆細胞に曝露することによって、化合物6、10、11、12、および13の生物活性を決定した。
【0169】
ヒトの多能性幹細胞での化合物試験
ヒトの多能性幹細胞による組織発生は、子宮内の正常な胚形成中に行われるとかなり類似しており、この細胞系は、証明され許容された細胞分化のモデルとなっている(Przyborskiら、Stem Cells Dev.、2004年、13:400〜408頁)。
【0170】
これらの幹細胞が分化する際に変化することが知られている細胞表面抗原の発現を、フローサイトメトリーによって評価した。試験分子10a(i)が、幹細胞マーカーTRA−1−60およびSSEA−3の抑制を誘発した一方、分化組織に関連する抗原A2B5およびVINIS−53は、14日間の試験期間にわたって発現の顕著な増大を示した。これらの変化は、異性化されていないATRAによって誘発されたものと直接比較できるものであった。
【0171】
試験化合物10a(i)は、形態学的に特定可能なニューロンの形成を誘発し、これを免疫細胞化学によって確認した。試験化合物10a(ii)は異なる分子構造のものであり、細胞分化の代替経路を誘発して、上皮細胞の形成をもたらした。ニューロンは、化合物10a(ii)で処理した培養物では特定されなかった。
【0172】
試験化合物10a(i)は、細胞発生において必須の生体作用物質であることが知られている天然ATRAと本質的に同一の挙動を示した。実際には、これらの2つの化合物は、DMSO溶液中、正常な周囲条件下(正常な空気、室温、天然、および蛍光において)、それらの構造に基づいて数週もの間安定なままであると予測され、これが予備段階での結果である。これとは非常に対照的に、全てのレチノイン酸立体異性体が急速な異性化を受けて、分解生成物と共に、まだ(NMRおよびHPLCによって)特定されていないもの、さらなる異性体の3つの主な異性体の混合物をもたらす。化合物10a(i)は、ATRAに直接的に重ね合わせることができるが、10a(ii)は、2つの重要なシス型立体異性体に同様に密に関係しており、それによって生物活性の保存が観察される。
【0173】
レチノイド11a(ii)は著しい生物活性を有しており、その存在下で成長した培養物は、ほぼ即時に増殖を停止した。さらにレチノイドは、TERA2.cl.SP12細胞に対して強力な細胞毒性を示し、それらを4日以内に死滅させた。
【0174】
化合物6、10、および12の作用(複数可)をアッセイするために、フローサイトメトリーも使用した(図8および9)。これらの化合物は、幹細胞マーカーTRA−1−60およびSSEA−3の抑制を誘発したが、分化組織に関連する抗原A2B5およびVINIS−53は、試験期間にわたって発現の顕著な増大を示した。これらの変化は、異性化されていないATRAによって誘発されたものと直接比較できるものであった。これらのデータは、予測可能な形での細胞分化の誘発によって、幹細胞が試験分子に応答するということを明確に示している。
【0175】
免疫蛍光顕微鏡法によるタンパク質発現の分析は、ATRA、化合物EC23(10a(i))、またはEC19(10a(ii))(10μM)のいずれかに21日間曝露することによって誘発した細胞分化の代替経路を示した。ATRAは、サイトケラチン−8で染色した扁平細胞の島によって示されるように、ニューロン(神経マーカーネスチン、Tuj−1、およびNF200に対して陽性)および多数の上皮プラーク(p)の形成を誘発した。EC23への曝露は、あるとしてもごく少数の上皮プラークを生成し、主に神経分化を受ける細胞からなる、見掛け上より均質な培養物をもたらした。このことはさらに、ネスチンの、特に神経増殖の中枢を示す神経ロゼット(nr)の強い発現によって証明された。それとは逆に、EC19は、ネスチン染色が少ない極めて少数のニューロンの形成と、Tuj−1およびNF200に対して免疫陽性のほんのわずかの細胞の存在とを誘発した。しかし、多数のサイトケラチン−8陽性上皮プラークが認められた。
【0176】
成体神経前駆細胞での化合物試験
合成レチノイドEC23(10a(i))の生物活性は、成体ラットの海馬に由来する神経前駆細胞にそれを曝露することによって評価することもできた。これらの細胞は多能性であり、異性化されていないATRAに応答して分化し、複雑な神経突起網をもたらすニューロンを主に形成する。試験化合物10a(i)に曝露した同じ細胞も、明確なニューロンに分化する。マーカーβ−チューブリン−IIIの免疫細胞化学的染色を使用して、ニューロンであることを確認した(データ示さず)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞分化を調節するためのレチノイド化合物の使用であって、前記化合物が疎水基および水素結合供与体を含む極性基を含み、前記基が非ポリエン性リンカーによって離間している使用。
【請求項2】
前記リンカーが、ポリエン基よりも光異性化を受けにくい、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記リンカーが不飽和基を含む、請求項1または請求項2に記載の使用。
【請求項4】
前記レチノイド化合物が、下記式(I):
【化1】

(式中、
Vは疎水基であり、
Wは非ポリエン性リンカーであり、
Xは、水素結合供与体を含む極性基である)の化合物またはその塩である、請求項1から3のいずれか一項に記載の使用。
【請求項5】
Vが、下記式(i):
【化2】

(式中、
、R、R、R、およびRは、それぞれ独立に、水素、R、1、2、3、4、または5個のRで任意に置換されていてもよいヒドロカルビル、および1、2、3、4、または5個のRで任意に置換されていてもよい−(CH−ヘテロシクリルから選択され、
各Rは独立に、ハロゲン、トリフルオロメチル、シアノ、ニトロ、オキソ、=NR、−OR、−C(O)R、−C(O)OR、−OC(O)R、−S(O)、−N(R)R、−C(O)N(R)R、−S(O)N(R)R、およびRから選択され、
およびRは、それぞれ独立に水素またはRであり、
は、ヒドロカルビルおよび−(CH−ヘテロシクリルから選択され、そのいずれかは、ハロゲン、シアノ、アミノ、ヒドロキシ、C1〜6アルキル、およびC1〜6アルコキシから独立に選択される1、2、3、4、または5個の置換基で任意に置換されていてもよく、
kは、0、1、2、3、4、5、または6であり、
lは、0、1、または2であり、
mは、0、1、2、3、4、5、または6であり、
あるいは、1つまたは複数のRおよびR、RおよびR、RおよびR、ならびにRおよびRは、それらが結合する原子とともに、1つまたは複数のRで任意に置換されていてもよい炭素環または複素環を形成する)の基である、請求項4に記載の使用。
【請求項6】
、R、R、R、およびRの2つまたは3つのみが水素である、請求項5に記載の使用。
【請求項7】
Vが、次式:
【化3】

(式中、前記R基のそれぞれは、水素以外である)の1つの基である、請求項6に記載の使用。
【請求項8】
Vが式(v)の基である、請求項7に記載の使用。
【請求項9】
Vが、下記式(viii):
【化4】

(式中、R10、R11、R12、R13、R14、およびR15は、それぞれ独立に、水素、R、1、2、3、4、または5個のRで任意に置換されていてもよいヒドロカルビル、および1、2、3、4、または5個のRで任意に置換されていてもよい−(CH−ヘテロシクリルから選択され、
あるいはR10およびR13は、1、2、3、4、または5個のRで任意に置換されていてもよいC1〜4アルキレンリンカーを形成する)の基である、請求項8に記載の使用。
【請求項10】
10、R11、R12、R13、R14、およびR15が、それぞれ独立に、水素およびC1〜6アルキルから選択される、請求項9に記載の使用。
【請求項11】
Vが下記式(ix):
【化5】

の基である、請求項9に記載の使用。
【請求項12】
11、R12、R14、およびR15が、それぞれ独立に、水素またはC1〜6アルキルである、請求項11に記載の使用。
【請求項13】
11、R12、R14、およびR15がそれぞれメチルである、請求項12に記載の使用。
【請求項14】
が、水素、R、1、2、3、4、または5個のRで任意に置換されていてもよいヒドロカルビル、および1、2、3、4、または5個のRで任意に置換されていてもよい−(CH−ヘテロシクリルから選択される、請求項5から13のいずれか一項に記載の使用。
【請求項15】
が、水素、ハロゲン、1、2、3、4、または5個のRで任意に置換されていてもよいC1〜6アルキル、−OR、−S(O)、および−N(R)Rから選択される、請求項14に記載の使用。
【請求項16】
が、水素ならびにC、C、C、およびCアルキルから選択される、請求項15に記載の使用。
【請求項17】
が、水素またはメチルである、請求項16に記載の使用。
【請求項18】
Wが、2〜10個の鎖内原子を有するリンカーである、請求項4から17のいずれか一項に記載の使用。
【請求項19】
Wが、2、3、4、5、6、7、または8個の鎖内原子を有するリンカーである、請求項18に記載の使用。
【請求項20】
Wが不飽和基である、請求項4から19のいずれか一項に記載の使用。
【請求項21】
Wが、1つまたは複数の不飽和脂肪族または芳香族基を含む、請求項20に記載の使用。
【請求項22】
Wが、1、2、3、4、または5個のR(Rは請求項5で定義する通り)で任意に置換されていてもよい、C2〜6アルケニレン、C2〜6アルキニレン、アリーレン、およびヘテロアリーレンから独立に選択される1つまたは複数の基を含む、請求項21に記載の使用。
【請求項23】
Wが、1、2、3、4、または5個のRで任意に置換されていてもよい、C2〜6アルケニレン、C2〜6アルキニレン、フェニレン、およびナフチレンから独立に選択される1つまたは複数の基を含む、請求項22に記載の使用。
【請求項24】
Wが、1、2、3、4、または5個のRで任意に置換されていてもよい、C2〜6アルキニレン、フェニレン、およびナフチレンから独立に選択される1つまたは複数の基を含む、請求項22に記載の使用。
【請求項25】
Wが、1、2、3、4、または5個のRで任意に置換されていてもよい、C2〜6アルケニレン、C2〜6アルキニレン、フェニレン、およびナフチレンから独立に選択される1つまたは複数の基を含む、請求項24に記載の使用。
【請求項26】
Wが、前記基の少なくとも2つを含む、請求項22から25のいずれか一項に記載の使用。
【請求項27】
Wがリンカー−A−B−であり、AおよびBがそれぞれ独立に、1、2、3、4、または5個のRで任意に置換されていてもよい、C2〜6アルケニレン、C2〜6アルキニレン、アリーレン、およびヘテロアリーレンから選択される、請求項26に記載の使用。
【請求項28】
Wが、1、2、3、4、または5個のRで任意に置換されていてもよい、
アルケニレン、
アルキニレン、
−フェニレン−アルケニレン−、
−アルケニレン−フェニレン−、
−フェニレン−アルキニレン−、
−アルキニレン−フェニレン−、および
ナフチレン
から選択されるリンカーである、請求項27に記載の使用。
【請求項29】
Wが、1、2、3、4、または5個のRで任意に置換されていてもよい、
プロピレン、
エチニレン、
−フェニレン−プロピレン−、
−プロピレン−フェニレン−、および
ナフチレン
から選択されるリンカーである、請求項28に記載の使用。
【請求項30】
Wが、プロプ−2−イレン基が疎水基に結合している−プロプ−2−イレン−フェニレンではない、請求項29に記載の使用。
【請求項31】
Wが、1、2、3、4、または5個のRで任意に置換されていてもよい、
−フェニレン−アルケニレン−、
−アルキニレン−フェニレン、および
ナフチレン
から選択されるリンカーである、請求項28に記載の使用。
【請求項32】
Wが、1、2、3、4、または5個のRで任意に置換されていてもよい、
−エチニレン−フェニレン−、
−フェニレン−プロピレン−、および
ナフチレン
から選択されるリンカーである、請求項31に記載の使用。
【請求項33】
Xが−C(O)Zを含み、Zが水素結合供与体を含む、請求項4から32のいずれか一項に記載の使用。
【請求項34】
Xが−C(O)Zである、請求項33に記載の使用。
【請求項35】
Zが、−OH、−O(C2〜6アルキル)、−C(O)OH、−NH、およびNHOHから選択される、請求項33または34に記載の使用。
【請求項36】
前記化合物が、下記式(II):
【化6】

(式中、
、R、R、R、およびRは、請求項5から17のいずれかで定義する通りであり、
Zは請求項33または請求項35で定義する通りである)の化合物またはその塩である、請求項5に記載の使用。
【請求項37】
前記化合物が、下記式(III):
【化7】

(式中、R10、R11、R12、R13、R14、およびR15は、請求項9または請求項10で定義する通りである)の化合物である、請求項36に記載の使用。
【請求項38】
前記化合物が、式(IV):
【化8】

の化合物である、請求項37に記載の使用。
【請求項39】
11、R12、R14、およびR15が、それぞれ独立に、水素またはC1〜6アルキルである、請求項38に記載の使用。
【請求項40】
Wが、請求項18から32のいずれかで定義する通りである、請求項36から39のいずれか一項に記載の使用。
【請求項41】
前記化合物が次式:
【化09】

の1つである、請求項36に記載の使用。
【請求項42】
前記化合物が次式:
【化10】

の1つである、請求項41に記載の使用。
【請求項43】
が水素またはメチルである、請求項42に記載の使用。
【請求項44】
ZがOHである、請求項42または請求項43に記載の使用。
【請求項45】
前記化合物が、本明細書に記載の6、10、11、12、または13である、請求項1に記載の使用。
【請求項46】
前記化合物が、本明細書に記載の10、11、または12である、請求項45に記載の使用。
【請求項47】
前記化合物が、式(XIV):
【化16】

(式中、R、R、R、R、およびRは下表:
【表1】

の通りである)の化合物ではない、請求項1から46のいずれか一項に記載の使用。
【請求項48】
前記細胞が幹細胞である、請求項1から47のいずれか一項に記載の使用。
【請求項49】
前記細胞が全能性幹細胞ではない、請求項48に記載の使用。
【請求項50】
用途とは無関係である、請求項1から47のいずれかに記載のレチノイド化合物。
【請求項51】
細胞を請求項50に記載の化合物と接触させるステップを含む、細胞分化を調節する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2010−503615(P2010−503615A)
【公表日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−526166(P2009−526166)
【出願日】平成19年8月28日(2007.8.28)
【国際出願番号】PCT/GB2007/003237
【国際公開番号】WO2008/025965
【国際公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【出願人】(509058210)レインナーベート リミテッド (2)
【氏名又は名称原語表記】REINNERVATE LIMITED
【Fターム(参考)】