説明

レトルトがゆ

【課題】植物ステロール類を配合し、当該植物ステロール類の凝集を抑えたレトルトがゆを提供する。
【解決手段】植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との複合体、および/または植物ステロール類とグリセリン脂肪酸エステルとを含有する製剤、ならびに玄米を配合されているレトルトがゆ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物ステロール類を配合したレトルトがゆに関する。詳しくは、植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との複合体、および/または植物ステロール類とグリセリン脂肪酸エステルとを含有する製剤、ならびに玄米を配合することにより、レトルト処理したときでも、植物ステロール類の凝集を抑えたレトルトがゆに関する。
【背景技術】
【0002】
植物ステロールおよびその飽和型である植物スタノール等の植物ステロール類は、血中の総コレステロール濃度および低密度リポ蛋白質−コレステロール濃度を低下させることが知られており、また食品としての安全性も有している。植物ステロールは、植物油脂、大豆、小麦等に含まれているのでヒトは日常的に摂取していることになるが、その摂取量は僅かであることから、植物ステロール類を食品原料として利用することへの期待が高まっている。
【0003】
また、植物ステロール類によるコレステロールの低下効果を期待するには、ある程度の量の植物ステロール類を長期にわたり継続して摂取する必要がある。このことから、長期にわたり継続して摂取しやすい食品に、植物ステロールを配合することが望まれており、そのような食品の1つとして、日本人の主食である米を用いたおかゆがある。
【0004】
一方、レトルト処理を施したレトルトがゆは、常温で長期間保存でき、単に温めるだけで簡便に喫食することが可能であり、しかも低カロリーであることから、近年の健康志向により、その需要が増加している。
【0005】
このような状況下、植物ステロール類を配合したレトルト白がゆを製したところ、植物ステロール類が凝集をおこしており、さらに、食した際にざらつきが感じられることがあった。
【0006】
本出願人は、植物ステロール類が卵黄の主成分である卵黄リポ蛋白質と複合体を形成し、得られた複合体は水系媒体に対して良好な分散性を示すことを見出し、前記複合体およびこれを含有する食品を出願している(特許第3844010号公報:特許文献1)。しかしながら、当該出願には、前記複合体を配合したレトルトがゆについては、一切検討されていない。
【0007】
そこで、本発明者らは、水分散性を有することが知られている植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との複合体を配合したレトルト白がゆを製したところ、レトルト処理を行うことにより、植物ステロール類が凝集をおこしており、外観上好ましいものではなかった。
【0008】
また、植物ステロール類を水系媒体に分散させることを課題とした従来技術としては、例えば、特開2006−51015号公報(特許文献2)において、植物ステロール類とグリセリン脂肪酸エステルとを含有する製剤を配合した乳飲料が記載されている。しかしながら、当該出願についても、植物ステロール類とグリセリン脂肪酸エステルとを含有する製剤を、レトルトがゆに配合することについては一切検討されていない。
【0009】
そこで、本発明者らは、同様に、水分散性を有する植物ステロール類とグリセリン脂肪酸エステルとを含有する製剤を配合したレトルト白がゆを製したところ、やはり、レトルト処理を行うことにより、植物ステロール類が凝集をおこしており、外観上好ましいものではなかった。
【0010】
【特許文献1】特許第3844010号公報
【特許文献2】特開2006−51015号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、植物ステロール類を配合し、当該植物ステロール類の凝集を抑えたレトルトがゆを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記植物ステロール類を用いた複合体および/または製剤と、他の原料との組み合わせについて、鋭意研究を重ねた結果、玄米を併用するならば、意外にも、植物ステロール類の凝集を抑えることを見出し、遂に本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明は、
(1)植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との複合体、および/または植物ステロール類とグリセリン脂肪酸エステルとを含有する製剤、ならびに玄米を配合しているレトルトがゆ、
(2)前記複合体の植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との構成比が、卵黄リポ蛋白質1部に対して植物ステロール類5〜232部である(1)のレトルトがゆ、
(3)前記複合体の配合量が、製品に対し乾物換算で0.01〜5%である(1)または(2)のレトルトがゆ、
(4)前記製剤の配合量が、製品に対し乾物換算で0.01〜5%である(1)乃至(3)のいずれかのレトルトがゆ、
(5)前記玄米の配合量が、製品に対し乾物換算で0.5〜30%である(1)乃至(4)のいずれかのレトルトがゆ、
である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、植物ステロール類の凝集を抑えたレトルトがゆを提供できるので、植物ステロール類の食品への更なる用途拡大が期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。なお、本発明において「%」は「質量%」を、「部」は「質量部」をそれぞれ意味する。
【0016】
本発明におけるレトルトがゆとしては、耐熱性を有する包装容器に充填・密封され、当該密封物であるおかゆの中心部において120℃で4分相当の加熱処理を行う、またはこれと同等以上の効果を有する条件で加熱処理を行う、いわゆるレトルト処理を施したおかゆであって、植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との複合体、および/または植物ステロール類とグリセリン脂肪酸エステルとを含有する製剤、ならびに玄米を配合していることを特徴とする。そして、当該特徴によりレトルト処理による植物ステロール類の凝集を抑える効果を奏する。
【0017】
本発明におけるおかゆとは、発芽玄米がゆ、玄米がゆ、五穀がゆの他、梅がゆ、玉子がゆ、紅鮭がゆ等の味付がゆや雑炊等が挙げられる。
【0018】
本発明に用いる植物ステロール類とは、コレステロール又は当該飽和型であるコレスタノールに類似した構造をもつ植物の脂溶性画分より得られる植物ステロール又は植物スタノール、あるいはこれらの構成成分のことであり、植物ステロール類は、植物の脂溶性画分に合計で数%存在する。また、市販の植物ステロール又は植物スタノールは、融点が約140℃前後で、常温で固体であり、これらの主な構成成分としては、例えば、β−シトステロール、β−シトスタノール、スチグマステロール、スチグマスタノール、カンペステロール、カンペスタノール、ブラシカステロール、ブラシカスタノール等が挙げられる。また、植物スタノールについては、天然物の他、植物ステロールを水素添加により飽和させたものも使用することができる。なお、本発明において植物ステロール類は、いわゆる遊離体を主成分とするが、若干量のエステル体を含有していてもよい。
【0019】
本発明の植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との複合体のうち、植物ステロール類には、市販されている粉体あるいはフレーク状のものを用いることができるが、平均粒子径が50μm以下、特に10μm以下の粉体を使用することが好ましい。平均粒子径が50μmを超える粉体あるいはフレーク状の植物ステロール類を用いる場合には、卵黄と攪拌混合して複合体を製造する際に、均質機(T.K.マイコロイダー:プライミクス(株)製)等を用いて植物ステロール類の粒子を小さくしつつ攪拌混合を行うことが好ましい。これにより、植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との複合体が形成され易くなり、当該複合体、および/または後述する植物ステロール類とグリセリン脂肪酸エステルとを含有する製剤、ならびに玄米を配合することで、レトルト処理したレトルトがゆにおいて、植物ステロール類の凝集を抑えられたものが得られる。
【0020】
本発明の植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との複合体のうち、卵黄リポ蛋白質とは、卵黄蛋白質と、親水部分および疎水部分を有するリン脂質、ならびにトリアシルグリセロール、コレステロール等の中性脂質とからなる複合体である。当該複合体は、蛋白質やリン脂質の親水部分を外側にし、疎水部分を内側にして、中性脂質を包んだ構造をしている。卵黄リポ蛋白質は、卵黄の主成分であって、卵黄固形分中の約80%を占める。したがって、本発明の卵黄リポ蛋白質としては、当該成分を主成分とした卵黄を用いるとよく、食用として一般的に用いている卵黄であれば特に限定するものではない。例えば、鶏卵を割卵し卵白液と分離して得られた生卵黄をはじめ、当該生卵黄に殺菌処理、冷凍処理、スプレードライ又はフリーズドライ等の乾燥処理、ホスフォリパーゼA、ホスフォリパーゼA、ホスフォリパーゼC、ホスフォリパーゼD又はプロテアーゼ等による酵素処理、酵母又はグルコースオキシダーゼ等による脱糖処理、超臨界二酸化炭素処理等の脱コレステロール処理、食塩又は糖類等の混合処理等の1種又は2種以上の処理を施したもの等が挙げられる。また、本発明では、鶏卵を割卵して得られる全卵、あるいは卵黄と卵白とを任意の割合で混合したもの、あるいはこれらに上記処理を施したもの等を用いてもよい。
【0021】
本発明のレトルトがゆに配合する植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との複合体は、上述した植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質を主成分とする卵黄とを、好ましくは10μm以下の粉体状の植物ステロール類と卵黄を水系中で攪拌混合することにより得られる。具体的には、工業的規模での攪拌混合し易さを考慮し、卵黄リポ蛋白質として、卵黄を水系媒体で適宜希釈した卵黄希釈液を使用し、当該卵黄希釈液と植物ステロール類とを攪拌混合して製造することが好ましい。前記水系媒体としては、水分が90%以上のものが好ましく、例えば、清水の他に液状調味液(例えば、だし汁、食塩水、醤油、ブイヨン)等が挙げられる。また、前記卵黄希釈液の濃度としては、その後、添加する植物ステロール類の配合量にもよるが、卵黄固形分として0.01〜50%の濃度が好ましく、攪拌混合時の温度は、常温(20℃)でもよいが、45〜55℃に加温しておくと植物ステロール類と攪拌混合し易く好ましい。攪拌混合は、例えば、ホモミキサー、コロイドミル、高圧ホモゲナイザー、T.K.マイコロイダー(プライミクス(株)製)等の均質機を用いて、全体が均一になるまで行うとよい。また、上述の方法で得られたものは、複合体が水系媒体に分散したものであるが、噴霧乾燥、凍結乾燥等の乾燥処理を施して乾燥複合体としてもよく、本発明の効果を損なわない範囲で、複合体に他の原料を配合してもよい。
【0022】
本発明で用いる複合体は、当該原料である植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との構成比が、卵黄リポ蛋白質1部に対して植物ステロール類5〜232部であることが好ましく、当該構成比は、卵黄固形分中に卵黄リポ蛋白質は約8割存在するから、卵黄固形分1部に対して植物ステロール類4〜185部に相当する。後述に示すとおり複合体は、卵黄リポ蛋白質1部に対して植物ステロール類が前記範囲で形成していることから、植物ステロールが前記範囲より少なくなると複合体を形成できなかった卵黄リポ蛋白質が残存し、得られるレトルトがゆが卵黄風味により損なわれる場合があり、一方、前記範囲より多くなると植物ステロール類が水分散性を有する複合体を形成し難くなり、本発明の効果が得られ難く好ましくない。
【0023】
レトルトがゆに対する植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との複合体の配合量は、植物ステロール類の1日の摂取量が800mg以上であれば血中のコレステロール濃度が低下するなどを考慮して決定すればよいが、あまり多すぎても血中のコレステロール濃度を低下させる効果がそれに比例して増大するわけではなく、レトルトがゆの美味しさが損なわれ易くなることから、製品に対して乾物換算で0.01〜5%とすることが好ましく、0.05〜3%とすることがより好ましい。
【0024】
本発明のレトルトがゆに、前記複合体を添加する方法としては、例えば、前記複合体の調製過程で発生する水系媒体に分散した複合体、または乾燥複合体をそのまま、あるいは乾燥複合体を予め水系媒体と混合したものを、レトルトがゆの製造工程中に添加混合する方法等が挙げられる。
【0025】
また、本発明の植物ステロール類とグリセリン脂肪酸エステルとを含有する製剤のうち、前記製剤とは、レトルトがゆに添加する目的、つまり食品添加物的に用いられるものである。
【0026】
本発明に用いるグリセリン脂肪酸エステルとは、グリセリンまたはポリグリセリンと脂肪酸がエステル結合したもので、モノグリセリド、有機酸モノグリセリド、ポリグリセリン脂肪酸エステル等が挙げられ、食用に供されるものであれば特に限定するものではない。例えば、モノグリセリド、コハク酸モノグリセリド、クエン酸モノグリセリド、ジアセチル酒石酸モノグリセリド、酢酸モノグリセリド、乳酸モノグリセリド、ポリグリセリン脂肪酸エステル等が挙げられ、これらの1種または2種以上を用いるとよい。好適には、ポリグリセリン脂肪酸エステルを使用し、そのHLBは好ましくは8〜20であり、より好ましくは10〜15である。
【0027】
前記製剤における植物ステロール類とグリセリン脂肪酸エステルとの構成比は、グリセリン脂肪酸エステル1部に対して植物ステロール類0.5〜100部であることが好ましく、1〜50部であることがより好ましい。前記範囲より少なくなると、得られるレトルトがゆがグリセリン脂肪酸エステル特有の風味により損なわやすくなる傾向が見られ、一方、前記範囲より多くなると、得られるレトルトがゆに凝集が生じやすくなる傾向が見られ好ましくない。
【0028】
レトルトがゆに対する植物ステロール類とグリセリン脂肪酸エステルとを含有する製剤の配合量は、植物ステロール類の1日の摂取量が800mg以上であれば血中のコレステロール濃度が低下するなどを考慮して決定すればよいが、あまり多すぎても血中のコレステロール濃度を低下させる効果がそれに比例して増大するわけではなく、レトルトがゆの美味しさが損なわれ易くなることから、製品に対して乾物換算で0.01〜5%とすることが好ましく、0.05〜3%とすることがより好ましい。
【0029】
本発明のレトルトがゆに添加する植物ステロール類とグリセリン脂肪酸エステルとを含有する製剤には、本発明の効果を損なわない範囲で、デキストリン、ショ糖脂肪酸エステル、カゼインナトリウム、微結晶セルロース、アラビアガム、キサンタンガム、ネイティブジェランガム、カラヤガム、カラギーナン、ペクチン、カルボキシメチルセルロースナトリウム、食用油脂、多価アルコール等を適宜選択して用いることができる。
【0030】
本発明のレトルトがゆに配合する植物ステロール類とグリセリン脂肪酸エステルとを含有する製剤を製する方法としては、例えば、上述した植物ステロール類、グリセリン脂肪酸エステルおよびデキストリンなどを練り合わせ混合し篩分別したり、流動層造粒したり、予め加熱溶解した溶液を噴霧乾燥したりして、粉末化する方法などが挙げられるが、これらの方法に限定されるものではない。
【0031】
本発明のレトルトがゆに、前記製剤を添加する方法としては、例えば、前記製剤をそのまま、あるいは前記製剤を予め水系媒体と混合したものを、レトルトがゆの製造工程中に添加混合する方法等が挙げられる。
【0032】
上述のように、本発明のレトルトがゆは、植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との複合体、および/または植物ステロール類とグリセリン脂肪酸エステルとを含有する製剤を配合するものであるが、本発明のレトルトがゆは、更に、前記複合体および/または前記製剤に加えて、玄米を配合することを特徴とする。水分散性を有することが知られている前記複合体または前期製剤を配合したレトルトがゆは、レトルト処理を行うことにより、植物ステロール類が凝集を起こしてしまうが、玄米を併せて用いることにより、植物ステロール類の凝集を抑えることができる。
【0033】
本発明で用いる玄米とは、籾米を脱穀したもので、糊粉層、亜糊粉層、外胚乳、種皮、果皮などを有するもので、うるち玄米、もち玄米のいずれでも差し支えなく、さらに、玄米を一定時間(例えば半日程度)温水中に浸漬することで、胚芽を0.5〜2mm程度の大きさまで発芽させた、いわゆる発芽玄米でもよい。
【0034】
玄米の配合量は、上述した植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との複合体、および/または植物ステロール類とグリセリン脂肪酸エステルとを含有する製剤の配合量等を考慮する必要があるが、製品に対して乾物換算で0.5〜30%が好ましく、1〜20%がより好ましい。玄米の配合量が前記範囲よりも少なくなると、レトルト処理後の植物ステロール類の凝集を抑える効果が充分に得られ難く、一方、前記範囲よりも多くしたとしても、これに応じたレトルト処理後の植物ステロール類の凝集を抑える効果が得られ難く経済的でないため、好ましくない。
【0035】
なお、本発明のレトルトがゆには、上述した原料の他に、昆布だし、かつおだしなどのだし汁、食塩、味噌、醤油、酒、アミノ酸、核酸系旨味調味料などの各種調味料、キサンタンガム、ローカストビーンガム、ジェランガム、カラギーナン、アルギン酸ナトリウム、ペクチン、およびゼラチン等の増粘剤、アスコルビン酸またはその塩、ビタミンE等の酸化防止剤、着色料、香料、保存料、ごま、海苔、梅、卵、鮭などの具材の截断物、あるいはペースト状物等の原料を、本発明の効果を損なわない範囲で適宜選択して用いることができる。
【0036】
次に、本発明のレトルトがゆの代表的な製造方法を説明するが、特にこの製造方法に限定するものではない。清水に、本発明の必須の原料である植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との複合体、および/または植物ステロール類とグリセリン脂肪酸エステルとを含有する製剤、ならびに必要に応じて他の任意の原料を適量添加し、ニーダー等の撹拌機で80℃以上に加熱撹拌して調味液を調製する。そして、原料米、調味液、および必要に応じ具材をアルミパウチ等の耐熱性包装容器に充填・密封した後、レトルト処理を施す。なお、前記原料米には、本発明の必須の原料である玄米のみならず、無洗米、生米を洗浄した洗浄米、水浸漬処理した浸漬米、大麦、押し麦、ヒエ、粟、はと麦、小豆等の原料を、本発明の効果を損なわない範囲で適宜選択して用いることができる。
【0037】
以下、本発明で用いる植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との複合体、および/または植物ステロール類とグリセリン脂肪酸エステルとを含有する製剤、ならびに玄米を配合したレトルトがゆについて、実施例などに基づき具体的に説明する。なお、本発明は、これらに限定するものではない。
【実施例】
【0038】
[調製例1]植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との複合体:複合体の構成成分の解析及び複合体の植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との構成比
まず、卵黄液5g(卵黄固形分2.5g、卵黄固形分中の卵黄リポ蛋白質約2g)に清水95gを加え、均質機(日音医理科器機製作所社製、ヒスコトロン)で2000rpmで1分間攪拌して卵黄希釈液を調製した。次に5000rpmで攪拌しながら植物ステロール(遊離体97.8%、エステル体2.2%、平均粒子径約3μm)2.5gを添加し、さらに10000rpmで5分間攪拌し、植物ステロールと卵黄リポ蛋白質とから形成された複合体の分散液を得た(調製例1−1)。
【0039】
得られた分散液1gを取り、0.9%食塩水4gを加え、真空乾燥機(東京理科器械社製、VOS−450D)で真空度を10mmHgにして1分間脱気し、遠心分離器(国産遠心分離器社製、モデルH−108ND)で3000rpmで15分間遠心分離を行い、沈澱と上澄みとを分離した。この上澄みを0.45μmのフィルターで濾過し、さらに0.2μmのフィルターで濾過し、複合体と、複合体を形成していない植物ステロールとを除去した。
【0040】
この濾液の吸光度(O.D.)を、分光光度計(日立製作所製、U−2010)を用いて、0.9%食塩水を対照とし、280nm(蛋白質中の芳香環をもつアミノ酸の吸収)で測定し、濾液中の蛋白質の量を測定した。
【0041】
植物ステロールの添加量を表1のように変え、同様に吸光度を測定した(調製例1−2〜調製例1−8)。この結果を表1に示す。
【0042】
また、調製例1−1の濾液と、調製例1−6の濾液については、更に440nmの吸光度を測定した。ここで、440nmは、卵黄リポ蛋白質中に含まれる油溶性の色素(カロチン)の吸収波長である。この結果を表2に示す。
【0043】
【表1】

【0044】
【表2】

【0045】
複合体の構成比が卵黄リポ蛋白質1部に対し植物ステロールが5部以下であると、表1より、植物ステロールの割合が増えるに伴い、濾液中の蛋白質あるいはアミノ酸の含量の指標となる280nmの吸光度が小さくなっており、蛋白質あるいはアミノ酸の含量が減少することが分かる。また、表2より、濾液中の油脂含量の指標となる440nmの吸光度において、調製例1−1の濾液は調製例1−6に比べ吸光度が優位に高く、油脂含量が明らかに多いことが分かる。一方、複合体の構成比が卵黄リポ蛋白質1部に対し植物ステロールが5部以上であると、表1より、濾液中の蛋白質あるいはアミノ酸の含量の指標となる280nmの吸光度は略一定を示し、表2より、濾液中の油脂含量の指標となる440nmの吸光度において、調製例1−6の濾液は調製例1−1に比べ吸光度が優位に低く、油脂含量が明らかに少ないことが分かる。
【0046】
以上の結果より、複合体の構成比が卵黄リポ蛋白質1部に対し植物ステロールが5部以上であるものの分散液には、複合体以外に、卵黄リポ蛋白質でない遊離の蛋白質あるいはアミノ酸が存在し、一方、複合体の構成比が卵黄リポ蛋白質1部に対し植物ステロールが5部より少ないものの分散液には、前記遊離の蛋白質あるいはアミノ酸に加え、複合体を形成しなかった卵黄リポ蛋白質が存在しているものと推定される。したがって、卵黄リポ蛋白質1部を余すことなく複合体の形成に使用するためには、植物ステロール類が5部以上必要であることが分かる。
【0047】
[調製例2]植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との複合体:複合体の植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との構成比
鶏卵を工業的に割卵して得られた卵黄液(固形分45%)と清水の量と植物ステロールの量を表3の通りに変更して、植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質の複合体の分散液を調製し、この分散液の分散性から、植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との好ましい構成比を検討した。
【0048】
すなわち、鶏卵を割卵して取り出した卵黄液(固形分45%)に清水を加え、均質機(日音医理科器機製作所社製、ヒスコトロン)で2000rpm、1分間攪拌して卵黄希釈液を調製した後、45℃に加温し、次に5000rpmで攪拌しながら植物ステロール(調製例1と同じもの)を除々に添加し、添加し終えたところで、さらに10000rpmで攪拌して植物ステロールと卵黄リポ蛋白質の複合体の分散液を得た。
【0049】
また、分散液の分散性に関しては、植物ステロールと卵黄リポ蛋白質の複合体の分散液0.5gを試験管(内径1.6cm、高さ17.5cm)にとり、0.9%食塩水10mLで希釈し、試験管ミキサー(IWAKI GLASS MODEL−TM−151)で10秒間撹拌することにより振盪し、その後1時間室温で静置し、さらに真空乾燥機(東京理化器械社製、VOS−450D)に入れ、真空度を10mmHg以下にして室温(20℃)で脱気を行い、脱気後に浮上物が見られない場合を○、浮上物が見られた場合を×と判定した。これらの結果を表3に示す。
【0050】
なお、植物ステロールを加熱溶解し、冷却し、比重の異なるエタノール液に浸けて浮き沈みによりその比重を求めたところ、0.98であったことから、上述の分散性の試験での浮上物は植物ステロールであると考えられる。
【0051】
【表3】

【0052】
表3より、複合体の構成比が卵黄リポ蛋白質1部に対し植物ステロールが232部以下であると、複合体に良好な水分散性を付与できることが分かる。
【0053】
調製例1及び調製例2の結果より、複合体が良好な水分散性を有し、しかも卵黄リポ蛋白質1部を余すことなく複合体の形成に使用するためには、複合体の構成比が卵黄リポ蛋白質1部に対して植物ステロール類5〜232部の範囲であることが分かる。
【0054】
[調製例3]植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との複合体
清水7.5kgに殺菌卵黄(固形分45%、キユーピー(株)製)0.5kgを加え、均質機(日音医理科器機製作所社製、ヒスコトロン)で2000rpm、1分間攪拌して卵黄希釈液を調製した後、50℃に加温し、次に5000rpmで攪拌及び真空度350mmHgで脱気しながら植物ステロール(調製例1と同じもの)2kgを除々に添加し、添加し終えたところで、さらに同回転数で30分間攪拌して植物ステロールと卵黄リポ蛋白質の複合体(殺菌卵黄使用)の分散液を得た。なお、得られた分散液中の複合体の構成比は、卵黄固形分1部に対し植物ステロール8.9部であり、卵黄リポ蛋白質1部に対し植物ステロール11.1部である。
【0055】
[調製例4]植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との複合体
清水17.5kgに殺菌卵黄(固形分45%、キユーピー(株)製)0.5kgを加え、均質機(日音医理科器機製作所社製、ヒスコトロン)で2000rpm、1分間攪拌して卵黄希釈液を調製した後、50℃に加温し、次に5000rpmで攪拌及び真空度350mmHgで脱気しながら植物ステロール(調製例1と同じもの)2kgを除々に添加し、添加し終えたところで、さらに同回転数で30分間攪拌して植物ステロールと卵黄リポ蛋白質の複合体の分散液を得た。得られた複合体の分散液を、噴霧乾燥機を用いて、送風温度170℃、排風温度70〜75℃の条件で乾燥し、複合体を得た。なお、得られた乾燥状の複合体の構成比は、調製例3のものと同じである。
【0056】
[調製例5]植物ステロール類とグリセリン脂肪酸エステルとを含有する製剤
植物ステロール(実施例1と同じもの)3kgおよびポリグリセリン脂肪酸エステル(モノステアリン酸デカグリセリン(HLB12)0.5kgを130〜140℃で撹拌しながら溶解させ、溶液を製した。清水30kgにデキストリン1.5kgを添加し、80℃になるまで加熱撹拌した後、前記溶液を添加し、6800〜7000rpmで10分間撹拌した。次いで、高圧ホモジナイザーを用いて50MPaの圧力で1回処理した溶液を、噴霧乾燥機を用いて、送風温度170℃、排風温度70〜75℃の条件で乾燥し、製剤を得た。
【0057】
[実施例1]レトルト発芽玄米がゆ
下記配合のレトルト発芽玄米がゆを製した。つまり、まず、下記の配合に準じ、だし汁(かつおだし)に、調製例4で得られた乾燥複合体と食塩を添加し、90℃まで加熱撹拌して、調味液を調製した。そして、発芽玄米25gをそのまま当該調味液225gと共にアルミパウチに250g充填し密封した後、この密封物を炊飯と殺菌とを兼ねてレトルト殺菌機を用い、118℃で25分間の条件でレトルト処理を施した。得られたレトルト発芽玄米がゆには、製品に対して植物ステロールと卵黄リポ蛋白質との複合体が乾物換算で0.35%含まれており、玄米が乾物換算で10%含まれている。
【0058】
<レトルト発芽玄米がゆの配合割合>
発芽玄米 10%
乾燥複合体(調製例4) 0.35%
食塩 0.2%
だし汁(かつおだし) 残余
――――――――――――――――――――――――
合計 100%
【0059】
[比較例1]
実施例1のレトルト発芽玄米がゆにおいて、調製例4の乾燥複合体に換えて複合体の原料である植物ステロール(調製例1と同じもの)を配合した以外は、同様の方法でレトルト発芽玄米がゆを製した。なお、植物ステロールの配合量を実施例1と合わせるため、植物ステロールを0.32%配合した。
【0060】
[比較例2]
実施例1のレトルト発芽玄米がゆにおいて、発芽玄米に換えて無洗米を配合した以外は、同様の方法でレトルト白がゆを製した。
【0061】
[試験例1]
実施例1、比較例1、および比較例2で得られたレトルトがゆをアルミパウチから取り出し、レトルトがゆの外観について評価した。結果を表4に示す。
【0062】
【表4】

【0063】
表4より、複合体に換えて複合体の原料である植物ステロールを配合した比較例1、および玄米を配合しなかった比較例2のレトルトがゆは、いずれもレトルト処理を行うことにより、植物ステロールの凝集が見られ、外観上好ましくなかった。これに対し、植物ステロールと卵黄リポ蛋白質との複合体、および玄米を配合した実施例1のレトルトがゆは、植物ステロールの凝集が抑えられていた。これにより、植物ステロールと卵黄リポ蛋白質との複合体、および玄米を配合することではじめてレトルト処理による植物ステロール類の凝集が抑えられることが理解される。なお、複合体の原料である植物ステロールを植物スタノールに変更した場合も同様の結果となった。
【0064】
[実施例2]レトルト玄米がゆ
実施例1のレトルト発芽玄米がゆにおいて、調製例4の乾燥複合体0.35%を調製例5の製剤0.53%に、発芽玄米を玄米に換えた以外は、同様の方法でレトルト玄米がゆを製した。得られたレトルト玄米がゆには、製品に対して植物ステロール類とグリセリン脂肪酸エステルとを含有する製剤が乾物換算で0.53%含まれており、玄米が乾物換算で10%含まれている。
【0065】
[比較例3]
実施例2のレトルト玄米がゆにおいて、調製例5の製剤に換えて製剤の原料である植物ステロール(調製例1と同じもの)を配合した以外は、同様の方法でレトルト玄米がゆを製した。なお、植物ステロールの配合量を実施例2と合わせるため、植物ステロールを0.32%配合した。
【0066】
[比較例4]
実施例2のレトルト玄米がゆにおいて、玄米に換えて無洗米を配合した以外は、同様の方法でレトルト白がゆを製した。
【0067】
[試験例2]
実施例2、比較例3、および比較例4で得られたレトルトがゆをアルミパウチから取り出し、レトルトがゆの外観について評価した。結果を表5に示す。
【0068】
【表5】

【0069】
表5より、製剤に換えて製剤の原料である植物ステロールを配合した比較例3、および玄米を配合しなかった比較例4のレトルトがゆは、いずれもレトルト処理を行うことにより、植物ステロールの凝集が見られ、外観上好ましくなかった。これに対し、植物ステロールとグリセリン脂肪酸エステルとを含有する製剤、および玄米を配合した実施例2のレトルトがゆは、植物ステロールの凝集が抑えられていた。これにより植物ステロールとグリセリン脂肪酸エステルとを含有する製剤、および玄米を配合することではじめてレトルト処理による植物ステロール類の凝集が抑えられることが理解される。なお、製剤の原料である植物ステロールを植物スタノールに変更した場合も同様の結果となった。
【0070】
[実施例3]レトルト五穀がゆ
下記配合のレトルト五穀がゆを製した。つまり、まず、下記の配合に準じ、だし汁(かつおだし)に、調製例3で得られた複合体分散液と食塩を添加し、90℃まで加熱撹拌して、調味液を調製した。そして、玄米5g、無洗米5g、ひえ3.75g、はと麦3.75g、押し麦3.75g、および小豆3.75gをそのまま当該調味液225gと共にアルミパウチに250g充填し密封した後、この密封物を炊飯と殺菌とを兼ねてレトルト殺菌機を用い、118℃で25分間の条件でレトルト処理を施した。得られたレトルト五穀がゆには、製品に対して植物ステロールと卵黄リポ蛋白質との複合体が乾物換算で0.35%含まれており、玄米が乾物換算で2%含まれている。
【0071】
<レトルト五穀がゆの配合割合>
玄米 2%
無洗米 2%
ヒエ 1.5%
はと麦 1.5%
押し麦 1.5%
小豆 1.5%
複合体分散液(調製例3) 1.6%
食塩 0.2%
だし汁(かつおだし) 残余
――――――――――――――――――――――――
合計 100%
【0072】
[実施例4]レトルト五穀がゆ
実施例3のレトルト五穀がゆにおいて、玄米2%を0.5%に、無洗米2%を3.5%に換えた以外は、同様の方法でレトルト五穀がゆを製した。得られたレトルト五穀がゆには、製品に対して植物ステロールと卵黄リポ蛋白質との複合体が乾物換算で0.35%含まれており、玄米が乾物換算で0.5%含まれている。
【0073】
[試験例3]
実施例1、実施例3、実施例4、および比較例2で得られたレトルトがゆをアルミパウチから取り出し、レトルトがゆの外観について評価した。結果を表6に示す。
【0074】
【表6】

【0075】
表6より、玄米を配合しなかった比較例2のレトルトがゆは、レトルト処理を行うことにより植物ステロールの凝集が見られ、外観上好ましくなかった。これに対し、玄米を配合した実施例1、実施例3および実施例4のレトルトがゆは、いずれも植物ステロールの凝集が抑えられていた。特に、玄米の配合割合が乾物換算で0.5%である実施例4はわずかな凝集が見られるのに対して、玄米の配合割合が乾物換算で1〜20%である実施例1および実施例3は凝集がなく、より好ましいことが理解される。なお、ここで示していないが、複合体の原料である植物ステロールを植物スタノールに変更した場合も同様の結果となった。また、植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との複合体を、植物ステロール類とグリセリン脂肪酸エステルとを含有する製剤(調製例5)に変更した場合も同様の結果となった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との複合体、および/または植物ステロール類とグリセリン脂肪酸エステルとを含有する製剤、ならびに玄米を配合していることを特徴とするレトルトがゆ。
【請求項2】
前記複合体の植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との構成比が、卵黄リポ蛋白質1部に対して植物ステロール類5〜232部である請求項1に記載のレトルトがゆ。
【請求項3】
前記複合体の配合量が、製品に対し乾物換算で0.01〜5%である請求項1または2に記載のレトルトがゆ。
【請求項4】
前記製剤の配合量が、製品に対し乾物換算で0.01〜5%である請求項1乃至3のいずれかに記載のレトルトがゆ。
【請求項5】
前記玄米の配合量が、製品に対し乾物換算で0.5〜30%である請求項1乃至4のいずれかに記載のレトルトがゆ。