説明

レトルト処理食品用水中油型乳化物

【課題】レトルト処理後でも乳味感・乳化安定性に優れる加工食品を得ることができる、
乳風味を付与するために使用される水中油型乳化物を得ること。
【解決手段】生クリーム、クリームチーズ、デイリースプレッド又はバターの中から選択される乳脂原料から1種又は2種以上を配合し、該乳脂原料に由来する乳脂が乳化物の油分中60質量%以上を占め、且つタンパク質含有量が油分100質量部あたり5質量部以下であり、さらに乳由来の固形分中のリン脂質の含有量が2質量%以上である乳原料を含有するレトルト処理食品用水中油型乳化物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レトルト処理後でも乳味感・乳化安定性に優れる加工食品を得ることができる、レトルト処理食品用水中油型乳化物に関する。
【背景技術】
【0002】
乳特有の風味、コク味といった乳味感は、様々な食品素材や飲料と相性が良いため、幅広く加工食品に利用されている。乳に含まれる成分としては、乳蛋白質や乳糖等の無脂乳固形分、乳脂、水分が挙げられるが、良好な乳味感を得るためには、油分として一定量の乳脂を含有する必要があるとされている。加工食品に乳味感を付与する際には、生乳や牛乳を添加する方法、バター、クリーム等の乳脂主体の乳製品を添加する方法、脱脂粉乳、乳蛋白質等の乳蛋白質主体の乳製品を添加する方法、或いはこれらを組み合わせる方法等が行われている。そして加工食品の製造過程での安定性の点で、これらの乳製品は水中油型乳化物で使用されることが一般的である。
【0003】
しかし、乳脂を多く含有する乳化物は一般に乳化安定性が悪いため、特に油分含量が高い場合や冷蔵条件下での保管の場合、油脂の分離や凝集が生じやすいという問題がある。
また、乳蛋白質はある程度の乳化性を示すため、乳脂含有水中油型乳化物に乳蛋白質を使用することで、上記問題をある程度解決することができるものの、同時に異味や雑味を生じやすい。
【0004】
さらに上記水中油型乳化物を、100℃を超えるような高温での殺菌工程を通した場合や、特に、上記水中油型乳化物を使用した加工食品がレトルト処理等の加圧加熱処理を行う場合、とりわけ加工食品が水中油型乳化物である場合に顕著であるが、油分含量や保管温度にかかわらず、油脂の分離や凝集、或いは乳蛋白質の熱変性が生じ、乳味感が乏しく異味・雑味の強いものとなりやすいという問題がある。
【0005】
このような問題を解決するための方法として、水中油型乳化物に特定の乳化剤を使用する方法(例えば特許文献1)、乳蛋白質を特定比で使用する方法(例えば特許文献2)、特定の乳蛋白質や水溶性乳成分と糖アルコールを併用する方法(例えば特許文献3)が開示されている。
【0006】
しかし、特許文献1に記載の方法では、水中油型乳化物や該水中油型乳化物を使用した加工食品に乳味感が不足する問題に加え、乳化剤により異味・雑味が強く出てしまう問題があり、特許文献2や特許文献3に記載の方法では、水中油型乳化物を使用した加工食品を加圧加熱処理した場合に、油分分離やざらが発生し乳味感の悪いものになりやすいという問題があり、特に特許文献3に記載の方法では、得られる加工食品の色調が淡化し、美味しそうに見えなくなるという問題があった。
【0007】
一方、特許文献4ではバターと特定の乳化剤を含有し、乳化粒子の平均粒子径を制御したバター含有水中油型乳化物が開示されている。しかし、特許文献4に記載の水中油型乳化物では合成乳化剤を多く含有するため、該水中油型乳化物を使用して得られる加工食品は本来の乳味感とは異なる違和感のあるものになってしまっていた。
【0008】
このように、レトルト処理後でも乳味感・乳化安定性に優れる加工食品を得ることは非常に困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2005−341933号公報
【特許文献2】特開2009−278896号公報
【特許文献3】特開2000−139343号公報
【特許文献4】特開2008−212107号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
よって、本発明の目的は、レトルト処理等の加圧加熱処理後でも乳化安定性に優れ、異味・雑味のない加工食品を得ることができる、水中油型乳化物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は上記課題を解決すべく種々検討した結果、乳化油脂の形態である乳脂原料を使用し、該乳脂原料に由来する乳脂が油分中60質量%以上を占め、タンパク質含有量を油分基準で一定量以下とし、さらに特定の乳原料を特定の比で含有する水中油型乳化物を使用した場合、上記課題を解決可能であるとの知見を得た。本発明はこのような知見に基づいて完成されたものである。
【0012】
即ち、本発明は、下記(a)〜(d)の条件を満たす、レトルト処理食品用水中油型乳化物及び該水中油型乳化物を使用した加工食品を提供するものである。
(a)乳脂原料として、生クリーム、クリームチーズ、デイリースプレッド又はバターの中から選ばれる1種又は2種以上を含有する。
(b)上記乳脂原料に由来する乳脂が、水中油型乳化物の油分のうち60質量%以上を占める。
(c)タンパク質含有量が、水中油型乳化物の油分100質量部あたり5質量部以下である。
(d)乳由来の固形分中のリン脂質の含有量が2質量%以上である乳原料を含有する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、乳味感を維持しながら、レトルト処理等の高温処理後でも良好な乳化安定性を保つことのできるレトルト処理食品用水中油型乳化物及び加工食品を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明のレトルト処理食品用水中油型乳化物について、好ましい実施形態に基づき、詳細に説明する。
本発明のレトルト処理食品用水中油型乳化物は、下記(a)〜(d)の条件を満たすものである。
(a)乳脂原料として、生クリーム、クリームチーズ、デイリースプレッド又はバターの中から選ばれる1種又は2種以上を含有する。
(b)上記乳脂原料に由来する乳脂が、水中油型乳化物の油分のうち60質量%以上を占める。
(c)タンパク質含有量が、水中油型乳化物の油分100質量部あたり5質量部以下である。
(d)乳由来の固形分中のリン脂質の含有量が2質量%以上である乳原料を含有する。
【0015】
本発明のレトルト処理食品用水中油型乳化物は、水中油型乳化物の油分のうち60質量%以上を乳脂が占めるものである。尚、この油分は、直接配合する油脂以外に、油脂分を含有する食品素材や食品添加物を使用した場合には、それらに含まれる油脂分をあわせて算出するものとする。
【0016】
上記乳脂の由来としては、生クリーム、バター、バターオイル、クリームチーズ、デイリースプレッド等が挙げられるが、本発明においては、上記(a)及び(b)の条件の通り、上記油分のうち60質量%以上が、生クリーム、クリームチーズ、デイリースプレッド又はバターの中から選択される1種又は2種以上よりなる乳脂原料(以下、生クリーム、クリームチーズ、デイリースプレッド、バターを合わせて乳脂原料ともいう)であり、上記油分のうち好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上が、上記乳脂原料である。上記範囲で上記乳脂原料を使用することにより、後述のようにタンパク質含有量が低い場合であっても濃厚な乳味感を加工食品に付与できるレトルト処理食品用水中油型乳化物を得ることができる。
また、上記乳脂のうちバターに由来する割合は、後述のようにタンパク質含有量を低く抑えながら本発明の効果を引き出す点から、80質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることが更に好ましく、95質量%以上であることが最も好ましい。
【0017】
本発明において、なぜ乳脂を含む原料として上記乳脂原料を使用した場合に限ってこのような効果が得られるのか、以下のように考えている。
一般に生クリームには50質量%程度、バターには20質量%程度、クリームチーズには35質量%程度、デイリースプレッドには30質量%程度の水性相が存在する。この水性相中にはミネラル分、風味分等の多様な成分が含まれており、乳原料特有の乳味感を付与するものと考えられてきた。
一方で、生クリーム、クリームチーズ、バター、デイリースプレッドの水性相と油性相の境界は、乳脂肪球皮膜と呼ばれるリン脂質を主体とする膜が界面を形成している。乳脂肪球皮膜は、内膜と外膜の2層が再構成された多成分系膜となっている。
本発明者は、乳原料特有のコク味や乳風味は水性相だけでなく、上記のような乳脂肪球皮膜部分が重要な役割を担っているのではないかとの仮説をたて検討を進めた結果、上記条件下で乳味感が顕著に強化されることを見出した。
この理由は明らかではないが、多成分系膜である乳脂肪球皮膜が乳味感に大きく影響する呈味成分を効果的に取り込み保持することができ、その結果呈味成分が多く残るためであると考えている。
このような効果は、水相成分を含有する上記乳原料を使用した場合顕著に見られる一方で、バターオイルとバターの水相成分を併せて添加しても大きく減じられた効果しかみられない。おそらく、一度乳脂分と分離された乳脂肪球皮膜部分では呈味成分の保持が低下してしまうものと考えている。
尚、上記乳脂原料としては、後述のようにタンパク質含有量を低く抑える点からも、バターを使用することが最も好ましい。
【0018】
本発明のレトルト処理食品用水中油型乳化物においては、上記乳脂原料の他に、ラウリン系油脂を油分基準で3〜30質量%含有するのが好ましく、5〜25質量%含有するのがより好ましく、5〜20質量%含有するのが最も好ましい。ラウリン系油脂とは、油脂を構成する脂肪酸のうちラウリン酸含有率が40質量%を超えるような油脂の総称である。具体的なラウリン系油脂としては、ヤシ油、パーム核油、これらの油脂に水素添加、分別及びエステル交換から選択される1種又は2種以上の処理を施した加工油脂等が挙げられる。上記範囲でラウリン系油脂を乳脂と共に含有させることで、本発明のレトルト処理食品用水中油型乳化物を使用して得られる加工食品の乳味感をより高めることができる。
【0019】
本発明のレトルト処理食品用水中油型乳化物で用いることができるその他の油脂としては、例えば、パーム油、コーン油、綿実油、大豆油、菜種油、米油、ヒマワリ油、サフラワー油、カカオ脂等の各種植物油脂、牛脂、豚脂、魚油、鯨油等の各種動物油脂、並びにこれらを水素添加、分別及びエステル交換から選択される1種又は2種以上の処理を施した加工油脂等が挙げられる。本発明においては、上記の油脂を単独で用いることもでき、又は2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0020】
本発明のレトルト処理食品用水中油型乳化物中の油脂の含有量は、上記乳脂原料、上記ラウリン系油脂、及びその他の配合原料中に含まれる油分も含めた油分含有量が30質量%より大であることが好ましく、35質量%より大であることが最も好ましい。
上記油分含有量とすることで、本発明のレトルト処理食品用水中油型乳化物を使用して得られる加工食品の乳味感をより高めることができる。尚、上限については、55質量%未満、好ましくは50質量%未満である。
【0021】
また、本発明のレトルト処理食品用水中油型乳化物中の水分含有量は、15〜69質量%であることが好ましく、20〜64質量%であることがより好ましい。尚、この水分含量には、直接配合する水以外に、水分を含有する食品素材や食品添加物を使用した場合には、それらに含まれる水分をあわせて算出するものとする。
【0022】
次に、本発明のレトルト処理食品用水中油型乳化物に含有されるタンパク質について説明する。
本発明のレトルト処理食品用水中油型乳化物においては、上記(c)の条件の通り、乳化物中に含まれるタンパク質含有量が油分100質量部あたり5質量部以下、好ましくは4.2質量部以下、さらに好ましくは3.5質量部以下、最も好ましくは3質量部以下である。タンパク質含有量が5質量部より大きい場合、後述のレトルト処理によりタンパク質が変性・凝集し、水中油型乳化物を使用して得られる加工食品は経時的に異味・雑味が生じ乳味感を損ねるだけでなく商品価値を大きく下げることとなってしまう。
【0023】
上記タンパク質としては、特に限定されないが、例えば、α−ラクトアルブミンやβ−ラクトグロブリン、血清アルブミン等のホエイ蛋白質、カゼイン、カゼインカルシウム、カゼインナトリウム、カゼインカリウム等のカゼイン蛋白質、その他の乳蛋白質、低密度リポ蛋白質、高密度リポ蛋白質、ホスビチン、リベチン、リン糖蛋白質、オボアルブミン、コンアルブミン、オボムコイド等の卵蛋白質、グリアジン、グルテニン等の小麦蛋白質、プロラミン、グルテリン等の米蛋白質、その他動物性及び植物性蛋白質等のタンパク質が挙げられる。これらのタンパク質は、上記条件を満たす量であれば、目的に応じて1種ないし2種以上の蛋白質として、或いは1種ないし2種以上の蛋白質を含有する食品素材の形で添加してもよい。
【0024】
また、本発明のレトルト処理食品用水中油型乳化物では、上記(d)の条件の通り、乳由来の固形分中のリン脂質の含有量が2質量%以上である乳原料を含有する必要がある。本発明において上記リン脂質含有乳原料を含有することにより、上述のようにタンパク質含有量を低く抑えた場合であっても、水中油型乳化物を使用して得られる加工食品の乳味感を顕著に高めながら、レトルト処理後の乳化を安定させることができる。
この理由については明らかではないが、上記乳脂原料由来の乳脂肪球皮膜と、上記リン脂質含有乳原料に由来するリン脂質という、異なる状態にあるリン脂質成分を併用することで相互作用が起きているものと考えている。
【0025】
上記乳由来の固形分中のリン脂質の含有量が2質量%以上である乳原料としては、乳由来の固形分中のリン脂質の含有量が、該固形分を基準として、3質量%以上である乳原料を使用することが好ましく、更に好ましくは4質量%以上、最も好ましくは5〜40質量%である乳原料を使用する。
【0026】
上記乳由来の固形分中のリン脂質とは、乳由来の固形分中に含まれる乳由来のリン脂質のことを指す。
また、上記乳由来の固形分中のリン脂質の含有量が2質量%以上である乳原料は、液体状でも、粉末状でも、濃縮物でも構わない。但し、溶剤を用いて乳由来の固形分中のリン脂質の含有量が2質量%以上となるように濃縮した乳原料は、風味上の問題から、本発明においては、上記乳原料として用いないのが好ましい。
【0027】
本発明においては、上記乳由来の固形分中のリン脂質の含有量が2質量%以上である乳原料由来のリン脂質が、上記乳脂原料(生クリーム、クリームチーズ、バター、デイリースプレッド)由来のリン脂質1質量部に対し、0.5〜5質量部であることが好ましく、0.8〜4.5質量部であることがより好ましく、1.5〜4質量部であることが最も好ましい。
これにより、上記乳脂原料由来の多成分膜を形成しているリン脂質と上記乳由来の固形分中のリン脂質の含有量が2質量%以上である乳原料に含まれるリン脂質が一定の割合で並存することになる。これにより、本発明のレトルト処理食品用水中油型乳化物を使用して得られる加工食品の乳化安定性が高まるだけでなく、乳味感をより高めることができる。
上記乳脂原料由来のリン脂質1質量部に対し、上記乳原料由来のリン脂質が0.5質量部よりも少ないと十分な効果が得られない場合があり、5質量部よりも多いと、異味・雑味を生じやすくなる場合がある。
【0028】
乳由来のリン脂質を含有する乳原料の固形分中のリン脂質の定量方法としては、例えば下記の定量方法が挙げられる。但し、抽出方法等については乳原料の形態等によって適正な方法が異なるため、下記の定量方法に限定されるものではない。
先ず、乳由来のリン脂質を含有する乳原料の脂質をFolch法により抽出する。次いで、抽出した脂質溶液を湿式分解法(日本薬学会編、衛生試験法・注解2000 2.1食品成分試験法に記載の湿式分解法に準じる)にて分解した後、モリブデンブルー吸光度法(日本薬学会編、衛生試験法・注解2000 2.1食品成分試験法に記載のリンのモリブデン酸による定量に準じる)によりリン量を求める。求められたリン量から、以下の計算式を用いて、乳由来のリン脂質を含有する乳原料の固形分100g中のリン脂質の含有量(g)を求める。
リン脂質(g/100g)=〔リン量(μg)/(乳由来のリン脂質を含有する乳原料−乳由来のリン脂質を含有する乳原料の水分(g))〕×25.4×(0.1/1000)
【0029】
上記乳由来の固形分中のリン脂質の含有量が2質量%以上である乳原料としては、例えば、クリーム又はバターからバターオイルを製造する際に生じる水相成分が挙げられる。該クリーム又はバターからバターオイルを製造する際に生じる水相成分は、通常のクリームからバターを製造する際に生じるいわゆるバターミルクとは組成が大きく異なり、リン脂質を多量に含有しているという特徴がある。バターミルクは、その製法の違いによって大きく異なるが、乳由来の固形分中のリン脂質の含有量が、通常0.5〜1.5質量%程度であるのに対して、上記クリーム又はバターからバターオイルを製造する際に生じる水相成分は、乳由来の固形分中のリン脂質の含有量が、おおよそ2〜15質量%であり、多量のリン脂質を含有している。
【0030】
本発明において、上記乳由来の固形分中のリン脂質の含有量が2質量%以上である乳原料として、通常のクリームからバターを製造する際に生じるいわゆるバターミルクそのものを用いることはできないが、バターミルクを乳由来の固形分中のリン脂質の含有量が2質量%以上となるように濃縮した濃縮物、或いはその乾燥物を用いることは可能である。
上記クリーム又はバターからバターオイルを製造する際に生じる水相成分の製造方法の一例を以下に説明する。
【0031】
上記クリームからバターオイルを製造する際に生じる水相成分の製造方法は、例えば以下の通りである。
先ず、牛乳を遠心分離して得られる脂肪濃度30〜40質量%のクリームをプレートで加温し、遠心分離機によってクリームの脂肪濃度を70〜95質量%まで高める。次いで、乳化破壊機で乳化を破壊し、再び遠心分離機で処理することによってバターオイルが得られる。本発明で用いることができる上記水相成分は、最後の遠心分離の工程でバターオイルの副産物として発生するものである。
【0032】
一方、上記バターからバターオイルを製造する際に生じる水相成分の製造方法は、例えば以下の通りである。
先ず、バターを溶解機で溶解し、熱交換機で加温する。これを遠心分離機で分離することによってバターオイルが得られる。本発明で用いることができる上記水相成分は、遠心分離の工程でバターオイルの副産物として発生するものである。該バターオイルの製造に用いられるバターとしては、通常のものが用いられる。
【0033】
本発明で用いることができる上記水相成分としては、乳由来の固形分中のリン脂質の含有量が該固形分を基準として2質量%以上であれば、上記クリーム又はバターからバターオイルを製造する際に生じる水相成分をそのまま用いてもよく、また、噴霧乾燥、濃縮、冷凍等の処理を施したものを用いてもよい。
但し、乳由来のリン脂質は、高温加熱するとその機能が低下するため、上記加温処理や上記濃縮処理中或いは殺菌等により加熱する際の温度は、100℃未満であることが好ましい。
【0034】
また、本発明のレトルト処理食品用水中油型乳化物では、上記乳由来の固形分中のリン脂質の含有量が2質量%以上である乳原料として、上記乳原料中のリン脂質の一部又は全部がリゾ化されたリゾ化物を使用することもできる。該リゾ化物は、上記乳原料をそのままリゾ化したものであってもよく、また上記乳原料を濃縮した後にリゾ化したものであってもよい。また、得られたリゾ化物に、更に濃縮或いは噴霧乾燥処理等を施してもよい。
【0035】
上記乳由来の固形分中のリン脂質の含有量が2質量%以上である乳原料中のリン脂質をリゾ化するには、ホスホリパーゼAで処理すればよい。ホスホリパーゼAは、リン脂質分子のグリセロール部分と脂肪酸残基とを結びつけている結合を切断し、この脂肪酸残基を水酸基で置換する作用を有する酵素である。ホスホリパーゼAは、作用する部位の違いによってホスホリパーゼA1とホスホリパーゼA2とに分かれるが、ホスホリパーゼA2が好ましい。ホスホリパーゼA2の場合、リン脂質分子のグリセロール部分の2位の脂肪酸残基が選択的に切り離される。
尚、上記乳原料の起源となる乳としては、牛乳、ヤギ乳、ヒツジ乳、人乳等の乳を例示することができるが、特に牛乳が好ましい。
【0036】
本発明のレトルト処理食品用水中油型乳化物では、本発明の効果を阻害しない範囲内(好ましくは合計で30質量%以下)で所望により、乳化剤、安定剤、増粘安定剤、蛋白質、乳製品(既述のものを除く)、糖類、果汁、ジャム、カカオ及びカカオ製品、コーヒー及びコーヒー製品等の呈味成分、調味料、着香料、着色料、保存料、酸化防止剤、pH調整剤等の、一般的なレトルト処理食品用水中油型乳化物に使用することのできるその他の成分を、必要に応じ任意に配合することができる。
【0037】
上記乳化剤としては、特に限定されないが、例えば、レシチン、グリセリン脂肪酸エステル、グリセリン酢酸脂肪酸エステル、グリセリン乳酸脂肪酸エステル、グリセリンコハク酸脂肪酸エステル、グリセリンジアセチル酒石酸脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ショ糖酢酸イソ酪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ステアロイル乳酸カルシウム、ステアロイル乳酸ナトリウム、ポリオキシエチレンソルビタンモノグリセリド等が挙げられる。これらの乳化剤は単独で用いることもでき、又は2種以上を組み合わせて用いることもできる。
本発明においては、良好な乳風味の観点から、合成乳化剤を使用しないことが好ましいが、使用する場合の含有量は、好ましくは0.001〜1質量%、より好ましくは0.005〜0.1質量%である。
【0038】
上記安定剤としては、リン酸塩(ヘキサメタリン酸、第2リン酸、第1リン酸)、クエン酸のアルカリ金属塩(カリウム、ナトリウム等)等が挙げられる。これらの安定剤は、単独で用いることもでき、又は2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0039】
上記増粘安定剤としては、キサンタンガム、グアーガム、タマリンドガム、カラギーナン、アルギン酸塩、ファーセルラン、ローカストビーンガム、ペクチン、カードラン、澱粉、化工澱粉、結晶セルロース、ゼラチン、デキストリン、寒天、デキストラン等が挙げられる。これらの安定剤は、単独で用いることもでき、又は2種以上を組み合わせて用いることもできる。
本発明における増粘安定剤の含有量は、0〜0.02質量%が好ましく、0〜0.001質量%がより好ましい。
【0040】
上記糖類としては、特に限定されないが、例えば、ブドウ糖、果糖、ショ糖、麦芽糖、酵素糖化水飴、還元澱粉糖化物、異性化液糖、ショ糖結合水飴、オリゴ糖、還元糖ポリデキストロース、ソルビトール、還元乳糖、トレハロース、キシロース、キシリトール、マルチトール、エリスリトール、マンニトール、フラクトオリゴ糖、大豆オリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、乳果オリゴ糖、ラフィノース、ラクチュロース、パラチノースオリゴ糖、ステビア、アスパルテーム等の糖類が挙げられる。これらの糖類は、単独で用いることもでき、又は2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0041】
本発明のレトルト処理食品用水中油型乳化物において、油性相(油相):水性相(水相)の質量比率は、バランスの良い乳味感を得られる点から、好ましくは30〜55:70〜45、より好ましくは35〜50:65〜50である。
尚、油相には、上記乳脂原料、ラウリン系油脂、その他の油脂等の油脂類、及び油性成分〔食品素材や食品添加物に含有される油脂分が含まれるほか、油溶性の任意成分(例えば、油溶性の乳化剤、酸化防止剤、着色料、着香料)を使用した場合には、これらも含まれる。〕が含まれる。また水相には、水や、水性成分〔食品素材や食品添加物に含有される水分が含まれるほか、水溶性の任意成分(例えば、水溶性の乳化剤、酸化防止剤、着色料、着香料)を使用した場合には、これらも含まれる。〕が含まれる。
【0042】
次に、本発明のレトルト処理食品用水中油型乳化物の製造方法を説明する。
本発明のレトルト処理食品用水中油型乳化物は、油脂類及び油性成分を混合した油性相と、水及び水性成分を混合した水性相を乳化することにより得ることができる。具体的には、まず水性相及び油性相を用意する。次に上記の水性相及び/又は油性相に乳蛋白質、乳脂を含有する成分を添加、混合する。
次いで、上記水性相と上記油性相とを水中油型に乳化する。
さらにこれを、好ましくはバルブ式ホモジナイザー、ホモミキサー、コロイドミル等の均質化装置により圧力0〜100MPaの範囲で均質化してもよい。
そして、必要によりインジェクション式、インフージョン式等の直接加熱方式、或いはプレート式、チューブラー式、掻き取り式等の間接加熱方式を用いたUHT・HTST・低温殺菌、バッチ式、レトルト、マイクロ波加熱等の加熱滅菌若しくは加熱殺菌処理を施してもよく、或いは直火等の加熱調理により加熱してもよい。
さらにこれを、好ましくはバルブ式ホモジナイザー、ホモミキサー、コロイドミル等の均質化装置により圧力0〜100MPaの範囲でさらに均質化してもよい。そして、必要により急速冷却、徐冷却等の冷却操作を施してもよい。
また、本発明のレトルト処理食品用水中油型乳化物は、必要により、冷蔵若しくは冷凍状態で保存してもよい。
【0043】
本発明のレトルト処理食品用水中油型乳化物は、高温工程においても安定であることから、レトルト殺菌が必要な加工食品用として好適に用いることができる。レトルト殺菌とは、加圧条件下、100〜150℃で1〜90分間程度加熱殺菌する方法であり、アルミパウチ、テーブルカップ、透明パウチ、缶、チアパック等の密封容器に封入して行われる。
【0044】
レトルト殺菌が必要な加工食品としては特に制限はなく、例えばカレー、シチュー、スープ、ホワイトソース等の食品や、コーヒー、乳飲料等の飲料が挙げられる。また、上記用途における本発明のレトルト処理食品用水中油型乳化物の使用量は、使用用途により異なるものであり、特に限定されるものではないが、例えば、カレー、シチュー、スープ、ホワイトソース等の食品に用いられる場合、食品100質量部に対して、好ましくは1〜
100質量部、より好ましくは3〜45質量部であり、コーヒー、乳飲料等の飲料に用いられる場合、飲料100質量部に対して、好ましくは0.05〜11質量部、より好ましくは0.5〜5質量部である。
【実施例】
【0045】
次に実施例、及び比較例を挙げ、本発明を更に詳細に説明するが、これらは本発明を何ら制限するものではない。
【0046】
[実施例1]
無塩バター(油分82.5質量%、リン脂質0.24質量%及びタンパク質0.5質量%、以下同じ)45質量部、及びパーム核ステアリン5質量部を混合し、65℃に加温溶解し、油相とした。一方、クリームからバターオイルを製造する際に生じる水相成分の濃縮物(リン脂質含有量3.7質量%、蛋白質含有量9.2質量%、乳固形分38質量%、及び乳固形分中のリン脂質の含有量9.8質量%)10質量部、及び水40質量部を混合し、65℃に加温溶解し、水相とした。上記油相と上記水相を混合、乳化して、予備乳化物を調製し、3MPaの圧力で均質化した後、VTIS殺菌機(アルファラバル社製UHT殺菌機)で140℃、4秒間殺菌し、再度5MPaの圧力で均質化後5℃まで冷却した。その後、冷蔵庫で24時間エージングを行い、本発明のレトルト処理食品用水中油型乳化物Aを得た。得られた水中油型乳化物Aは、油分が42.1質量%であり、該油分のうち、上記無塩バターに由来する乳脂が88.1質量%であった。
【0047】
[実施例2]
無塩バター(油分82.5質量%)40質量部、及びパーム核ステアリン5質量部を混合し、65℃に加温溶解し、油相とした。一方、クリームからバターオイルを製造する際に生じる水相成分の濃縮物(リン脂質含有量3.7質量%、蛋白質含有量9.2質量%、乳固形分38質量%、及び乳固形分中のリン脂質の含有量9.8質量%)7質量部、及び水48質量部を混合し、65℃に加温溶解し、水相とした。上記油相と上記水相を混合、乳化して、予備乳化物を調製し、3MPaの圧力で均質化した後、VTIS殺菌機(アルファラバル社製UHT殺菌機)で140℃、4秒間殺菌し、再度5MPaの圧力で均質化後5℃まで冷却した。その後、冷蔵庫で24時間エージングを行い、本発明のレトルト処理食品用水中油型乳化物Bを得た。得られた水中油型乳化物Bは、油分が38.0質量%であり、該油分のうち、上記無塩バターに由来する乳脂が86.8質量%であった。
【0048】
[実施例3]
無塩バター(油分82.5質量%)40質量部、及びパーム核ステアリン10質量部を混合し、65℃に加温溶解し、油相とした。一方、クリームからバターオイルを製造する際に生じる水相成分の濃縮物(リン脂質含有量3.7質量%、蛋白質含有量9.2質量%、乳固形分38質量%、及び乳固形分中のリン脂質の含有量9.8質量%)12.5質量部、及び水37.5質量部を混合し、65℃に加温溶解し、水相とした。上記油相と上記水相を混合、乳化して、予備乳化物を調製し、3MPaの圧力で均質化した後、VTIS殺菌機(アルファラバル社製UHT殺菌機)で140℃、4秒間殺菌し、再度5MPaの圧力で均質化後5℃まで冷却した。その後、冷蔵庫で24時間エージングを行い、本発明のレトルト処理食品用水中油型乳化物Cを得た。得られた水中油型乳化物Cは、油分が43.0質量%であり、該油分のうち、上記無塩バターに由来する乳脂が76.7質量%であった。
【0049】
[実施例4]
無塩バター(油分82.5質量%)40質量部、及びパーム核ステアリン10質量部を混合し、65℃に加温溶解し、油相とした。一方、クリームからバターオイルを製造する際に生じる水相成分の濃縮物(リン脂質含有量3.7質量%、蛋白質含有量9.2質量%、乳固形分38質量%、及び乳固形分中のリン脂質の含有量9.8質量%)2質量部、及び水48質量部を混合し、65℃に加温溶解し、水相とした。上記油相と上記水相を混合、乳化して、予備乳化物を調製し、3MPaの圧力で均質化した後、VTIS殺菌機(アルファラバル社製UHT殺菌機)で140℃、4秒間殺菌し、再度5MPaの圧力で均質化後5℃まで冷却した。その後、冷蔵庫で24時間エージングを行い、本発明のレトルト処理食品用水中油型乳化物Dを得た。得られた水中油型乳化物Dは、油分が43.0質量%であり、該油分のうち、上記無塩バターに由来する乳脂が76.7質量%であった。
【0050】
[実施例5]
無塩バター(油分82.5質量%)20質量部、及びパーム核ステアリン10質量部を混合し、65℃に加温溶解し、油相とした。一方、クリームからバターオイルを製造する際に生じる水相成分の濃縮物(リン脂質含有量3.7質量%、蛋白質含有量9.2質量%、乳固形分38質量%、及び乳固形分中のリン脂質の含有量9.8質量%)7質量部、脱脂粉乳(タンパク質含有量34質量%以下同じ)1.5質量部、及び水26.5質量部を混合し、65℃に加温溶解し、水相とした。上記油相と上記水相、及び生クリーム(油分47質量%、リン脂質0.22質量%及びタンパク質1.6質量%以下同じ)35質量部を混合、乳化して、予備乳化物を調製し、3MPaの圧力で均質化した後、VTIS殺菌機(アルファラバル社製UHT殺菌機)で140℃、4秒間殺菌し、再度5MPaの圧力で均質化後5℃まで冷却した。その後、冷蔵庫で24時間エージングを行い、本発明のレトルト処理食品用水中油型乳化物Eを得た。得られた水中油型乳化物Eは、油分が43.0質量%であり、該油分のうち、上記無塩バターに由来する乳脂が38.4質量%であり、上記生クリームに由来する乳脂が38.3質量%であった。
【0051】
[実施例6]
無塩バター(油分82.5質量%)30質量部、及びパーム核ステアリン5質量部を混合し、65℃に加温溶解し、油相とした。一方、クリームからバターオイルを製造する際に生じる水相成分の濃縮物(リン脂質含有量3.7質量%、蛋白質含有量12質量%、乳固形分38質量%、及び乳固形分中のリン脂質の含有量9.8質量%)9.5質量部、及び水55.5質量部を混合し、65℃に加温溶解し、水相とした。上記油相と上記水相を混合、乳化して、予備乳化物を調製し、3MPaの圧力で均質化した後、VTIS殺菌機(アルファラバル社製UHT殺菌機)で140℃、4秒間殺菌し、再度5MPaの圧力で均質化後5℃まで冷却した。その後、冷蔵庫で24時間エージングを行い、本発明のレトルト処理食品用水中油型乳化物Fを得た。得られた水中油型乳化物Fは、油分が29.8質量%であり、該油分のうち、上記無塩バターに由来する乳脂が83.2質量%であった。
【0052】
[実施例7]
無塩バター(油分82.5質量%)50質量部を65℃に加温溶解し、油相とした。一方、クリームからバターオイルを製造する際に生じる水相成分の濃縮物(リン脂質含有量3.7質量%、蛋白質含有量9.2質量%、乳固形分38質量%、及び乳固形分中のリン脂質の含有量9.8質量%)7質量部、及び水43質量部を混合し、65℃に加温溶解し、水相とした。上記油相と上記水相を混合、乳化して、予備乳化物を調製し、3MPaの圧力で均質化した後、VTIS殺菌機(アルファラバル社製UHT殺菌機)で140℃、4秒間殺菌し、再度5MPaの圧力で均質化後5℃まで冷却した。その後、冷蔵庫で24時間エージングを行い、本発明のレトルト処理食品用水中油型乳化物Gを得た。得られた水中油型乳化物Gは、油分が41.3質量%であり、該油分のうち、上記無塩バターに由来する乳脂が100質量%であった。
【0053】
[比較例1]
バターオイル33質量部、及びパーム核ステアリン10質量部を混合し、65℃に加温溶解し、油相とした。一方、クリームからバターオイルを製造する際に生じる水相成分の濃縮物(リン脂質含有量3.7質量%、蛋白質含有量9.2質量%、乳固形分38質量%、乳固形分中のリン脂質の含有量9.8質量%)10質量部、及び水47質量部を混合し、65℃に加温溶解し、水相とした。上記油相と上記水相を混合、乳化して、予備乳化物を調製し、3MPaの圧力で均質化した後、VTIS殺菌機(アルファラバル社製UHT殺菌機)で140℃、4秒間殺菌し、再度5MPaの圧力で均質化後5℃まで冷却した。その後、冷蔵庫で24時間エージングを行い、比較の水中油型乳化物Hを得た。得られた水中油型乳化物Hは、油分が43.0質量%であり、該油分のうち、上記バターオイルに由来する乳脂が76.7質量%であった。
【0054】
[比較例2]
バターオイル5質量部を混合し、65℃に加温溶解し、油相とした。一方、クリームからバターオイルを製造する際に生じる水相成分の濃縮物(リン脂質含有量3.7質量%、蛋白質含有量9.2質量%、乳固形分38質量%、及び乳固形分中のリン脂質の含有量9.8質量%)7質量部、脱脂粉乳2質量部、及び水6質量部を混合し、65℃に加温溶解し、水相とした。上記油相と上記水相、及び生クリーム(油分47質量%)80質量部を混合、乳化して、予備乳化物を調製し、3MPaの圧力で均質化した後、VTIS殺菌機(アルファラバル社製UHT殺菌機)で140℃、4秒間殺菌し、再度5MPaの圧力で均質化後5℃まで冷却した。その後、冷蔵庫で24時間エージングを行い、比較の水中油型乳化物Iを得た。得られた水中油型乳化物Iは、油分が42.6質量%であり、該油分
のうち、上記バターオイルに由来する乳脂が11.7質量%であり、上記生クリームに由来する乳脂が88.3質量%であった。
【0055】
[比較例3]
無塩バター(油分82.5質量%)30質量部、及びパーム核ステアリン20質量部を混合し、65℃に加温溶解し、油相とした。一方、クリームからバターオイルを製造する際に生じる水相成分の濃縮物(リン脂質含有量3.7質量%、蛋白質含有量9.2質量%、乳固形分38質量%、及び乳固形分中のリン脂質の含有量9.8質量%)7質量部、及び水43質量部を混合し、65℃に加温溶解し、水相とした。上記油相と上記水相を混合、乳化して、予備乳化物を調製し、3MPaの圧力で均質化した後、VTIS殺菌機(アルファラバル社製UHT殺菌機)で140℃、4秒間殺菌し、再度5MPaの圧力で均質化後5℃まで冷却した。その後、冷蔵庫で24時間エージングを行い、比較の水中油型乳化物Jを得た。得られた水中油型乳化物Jは、油分が44.8質量%であり、該油分のうち、上記無塩バターに由来する乳脂が55.3質量%であった。
【0056】
[比較例4]
パーム核ステアリン40質量部を65℃に加温溶解し、油相とした。一方、クリームからバターオイルを製造する際に生じる水相成分の濃縮物(リン脂質含有量3.7質量%、蛋白質含有量9.2質量%、乳固形分38質量%、及び乳固形分中のリン脂質の含有量9.8質量%)7質量部、及び水53質量部を混合し、65℃に加温溶解し、水相とした。上記油相と上記水相を混合、乳化して、予備乳化物を調製し、3MPaの圧力で均質化した後、VTIS殺菌機(アルファラバル社製UHT殺菌機)で140℃、4秒間殺菌し、再度5MPaの圧力で均質化後5℃まで冷却した。その後、冷蔵庫で24時間エージングを行い、比較の水中油型乳化物Kを得た。得られた水中油型乳化物Kは、油分が40質量%であった。
【0057】
[比較例5]
生クリーム(油分47質量%)90質量部、及び水10質量部を混合し、乳化して、予備乳化物を調製し、3MPaの圧力で均質化した後、VTIS殺菌機(アルファラバル社製UHT殺菌機)で140℃、4秒間殺菌し、再度5MPaの圧力で均質化後5℃まで冷却した。その後、冷蔵庫で24時間エージングを行い、比較の水中油型乳化物Lを得た。得られた水中油型乳化物Lは、油分が42.3質量%であり、該油分のうち、上記生クリームに由来する乳脂が100質量%であった。
【0058】
[比較例6]
無塩バター(油分82.5質量%)45質量部、パーム核ステアリン5質量部、大豆レシチン0.1質量部、及びグリセリン脂肪酸エステル0.1質量部を混合し、65℃に加温溶解し、油相とした。一方、ショ糖脂肪酸エステル0.1質量部、及び水49.7質量部を混合し、65℃に加温溶解し、水相とした。上記油相と上記水相を混合、乳化して、予備乳化物を調製し、3MPaの圧力で均質化した後、VTIS殺菌機(アルファラバル社製UHT殺菌機)で140℃、4秒間殺菌し、再度5MPaの圧力で均質化後5℃まで冷却した。その後、冷蔵庫で24時間エージングを行い、比較の水中油型乳化物Mを得た。得られた水中油型乳化物Mは、油分が42.1質量%であり、該油分のうち、上記無塩バターに由来する乳脂が88.1質量%であった。
【0059】
上記実施例1〜7で得られた本発明のレトルト処理食品用水中油型乳化物A〜G又は上記比較例1〜6で得られた比較の水中油型乳化物H〜Mをそれぞれ用いて、下記に示す方法により、本発明又は比較の加工食品(レトルト食品)であるホワイトソース又はコーヒー飲料の調製及び評価を行った。
【0060】
<ホワイトソースの調製及び評価>
小麦粉20gとマーガリン20gを同時に炒めた後、これに上記水中油型乳化物150g、食塩2g、胡椒0.1g、チキンコンソメ1g及び水300gを加え攪拌しながら加熱膨潤させ、ホワイトソースを作製した。これを121℃で30分レトルト加熱処理した後、常温まで冷却し、本発明又は比較のレトルト食品であるホワイトソースを得た。
このようにして得られたホワイトソースについて、オイルオフ及び乳味感について下記評価基準で評価し、結果を下記〔表1〕又は〔表2〕に示した。ホワイトソースの色については、日本電色工業(株)製色差計にてホワイトソースのL値(値が大きい方が白い)を測定し、同じく〔表1〕又は〔表2〕に示した。
【0061】
<評価基準>
ホワイトソースの評価
・オイルオフ
◎+ 乳化が非常に良好であり、凝集物も認められない。
◎ 乳化が良好であり、凝集物も認められない。
○ 乳化が良好であり、凝集物もほぼ認められない。
△ 一部油脂の分離(オイルオフ)があり、凝集物も認められる。
× 油脂の分離があり、多量の凝集物が生じている。
【0062】
・乳味感
ホワイトソースを口にふくんだときの乳味感を、15人のパネラーにて官能試験した。「乳味感が良好なもの」、「乳味感が不良なもの」、及び「どちらともいえないもの」の3段階で評価し、「乳味感が良好なもの」に2点、「どちらともいえないもの」に1点、「乳味感が不良なもの」に0点を与え、合計点が26点以上のものを◎+、23〜25点のものを◎、20〜22点のものを○、15〜19点のものを△、14点以下のものを×とした。
【0063】
・異味、雑味
ホワイトソースを口にふくんだときの異味・雑味を、15人のパネラーにて官能試験した。「異味・雑味をまったく感じないもの」、「異味・雑味を強く感じるもの」、及び「どちらともいえないもの」の3段階で評価し、「異味・雑味をまったく感じないもの」に2点、「どちらともいえないもの」に1点、「異味・雑味を強く感じるもの」に0点を与え、合計点が26点以上のものを◎+、23〜25点のものを◎、20〜22点のものを○、15〜19点のものを△、14点以下のものを×とした。
【0064】
<コーヒー飲料の調製及び評価>
コーヒー抽出液(Bx値:2.5)70質量部に、重曹を適量添加しpHを6.6に調整した。続いてシュガーエステル(HLB値16)0.05質量部、カゼインナトリウム0.1質量部、上記水中油型乳化物4質量部を混合・溶解し、さらに水を加え全量が100質量部になるように調製した。次に65℃で均質化した後、スチール缶(容量200ml)に190g入れ、121℃で20分間のレトルト殺菌処理を行い、本発明又は比較のレトルト食品であるコーヒー飲料を得た。室温(25℃)に戻した後、乳味感、異味・雑味について下記評価基準で評価を行った。さらに、55℃保持2週間後における乳味感、異味・雑味、及び乳化安定性についても評価した。結果を〔表1〕及び〔表2〕に示す。
【0065】
コーヒー飲料の評価
・乳味感
製造直後及び55℃2週間保管後のコーヒー飲料を口にふくんだときの乳味感を、15人のパネラーにて官能試験した。
「乳味感が良好なもの」、「乳味感が不良なもの」、及び「どちらともいえないもの」の3段階で評価し、「乳味感が良好なもの」に2点、「どちらともいえないもの」に1点、「乳味感が不良なもの」に0点を与え、合計点が26点以上のものを◎+、23〜25点のものを◎、20〜22点のものを○、15〜19点のものを△、14点以下のものを×とした。
【0066】
・異味、雑味
製造直後及び55℃2週間保管後のコーヒー飲料を口にふくんだときの異味・雑味を、15人のパネラーにて官能試験した。
「異味・雑味をまったく感じないもの」、「異味・雑味を強く感じるもの」、及び「どちらともいえないもの」の3段階で評価し、「異味・雑味をまったく感じないもの」に2点、「どちらともいえないもの」に1点、「異味・雑味を強く感じるもの」に0点を与え、合計点が26点以上のものを◎+、23〜25点のものを◎、20〜22点のものを○、15〜19点のものを△、14点以下のものを×とした。
【0067】
・乳化安定性
製造後55℃2週間保管したコーヒー飲料の乳化安定性について下記<評価基準>で評価を行った。
<評価基準>
◎ 乳化が非常に良好であり、凝集物も見られない
○ 乳化が良好であり、凝集物もほぼ見られない
△ 一部油脂の分離(オイルオフ)があり、凝集物も認められる。
× 油脂の分離があり、多量の凝集物が生じている。
【0068】
【表1】

【0069】
【表2】

【0070】
上記〔表1〕及び〔表2〕の結果から、上記(a)〜(d)の条件を具備する本発明のレトルト処理食品用水中油型乳化物を用いたホワイトソース及びコーヒー飲料は、高温処理等を経た後であっても、乳化状態及び乳味感が良好であり、異味、雑味等をまったく感じないものであった。
一方、上記(a)〜(d)の条件の何れかを満たさない比較の水中油型乳化物を用いたホワイトソース及びコーヒー飲料は、オイルオフや凝集物が認められたり、乳味感が不良であったり、異味・雑味を感じたりするものであった。
従って、本発明のレトルト処理食品用水中油型乳化物は、乳味感を維持しながら、レトルト処理等の高温処理後でも良好な乳化安定性を保つことのできる、レトルト処理食品用水中油型乳化物として好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(a)〜(d)の条件を満たす、レトルト処理食品用水中油型乳化物。
(a)乳脂原料として、生クリーム、クリームチーズ、デイリースプレッド又はバターの中から選ばれる1種又は2種以上を含有する。
(b)上記乳脂原料に由来する乳脂が、水中油型乳化物の油分のうち60質量%以上を占める。
(c)タンパク質含有量が、水中油型乳化物の油分100質量部あたり5質量部以下である。
(d)乳由来の固形分中のリン脂質の含有量が2質量%以上である乳原料を含有する。
【請求項2】
上記乳由来の固形分中のリン脂質の含有量が2質量%以上である乳原料を、該乳原料のリン脂質の含有量が、上記乳脂原料由来のリン脂質1質量部に対して0.5〜5質量部となるように含有する請求項1記載のレトルト処理食品用水中油型乳化物。
【請求項3】
油分含有量が30質量%より大である、請求項1又は2に記載のレトルト処理食品用水中油型乳化物。
【請求項4】
合成乳化剤を含有しない、請求項1〜3の何れか1項に記載のレトルト処理食品用水中油型乳化物。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか1項に記載のレトルト処理食品用水中油型乳化物を使用した加工食品。

【公開番号】特開2013−34461(P2013−34461A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−175658(P2011−175658)
【出願日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【出願人】(000000387)株式会社ADEKA (987)
【Fターム(参考)】