説明

レトルト包装用透明ガスバリア性フィルムおよびその製造方法

【課題】食品等のレトルト包装に適した透明ガスバリア性フィルムおよびその製造方法に関する。
【解決手段】α,β−不飽和カルボン酸とその91〜95%を中和する量の多価金属との塩のイオン架橋重合体膜を、透明フィルム基材上に形成してなり、ヘイズ値が5%以下、且つ120℃、30分のレトルト処理後の30℃・80%相対湿度雰囲気下での酸素透過係数が50×10−4cm(STP)/(m・s・MPa)以下であることを特徴とする、レトルト包装用透明ガスバリア性フィルム。透明フィルム基材上に、上記のα,β−不飽和カルボン酸と多価金属との塩を限定的な量の水で溶解して得られた重合性単量体組成物を、塗布し、湿潤状態で電子線を照射して、硬化させ、イオン架橋重合体膜を形成することにより、上記ガスバリア性フィルムを形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品等のレトルト包装に適した透明ガスバリア性フィルムおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカルボン酸と金属との間にイオン結合を導入することにより、ガスバリア性、耐熱水性、耐水蒸気性を改善したフィルムを製造する方法について、本出願人は、既に幾つかの提案を行っている。例えば、特許文献1では、ポリカルボン酸重合体層と多価金属化合物を含有する層とを隣接して配置した多層フィルムを形成し、そして、該多層フィルムを相対湿度20%以上の雰囲気下に置くことにより、多価金属化合物含有層からポリカルボン酸重合体層へ多価金属イオンを移行させて、ポリカルボン酸重合体のカルボキシル基と多価金属化合物との反応によるポリカルボン酸多価金属塩を生成させる方法を提案している。しかし、特許文献1に記載の方法では、(メタ)アクリル酸などのα、β−不飽和カルボン酸重合体を重合してポリカルボン酸重合体を合成する工程、ポリカルボン酸重合体を含有する塗工液を塗布する工程、及び多価金属化合物を含有する塗工液を塗布する工程が必要であり、操作が煩雑である。これに加えて、該方法では、多価金属化合物含有層からポリカルボン酸重合体層へ多価金属イオンを移行させるために、多層フィルムを長時間にわたって高湿雰囲気下に置く必要があり、連続的操作が困難である。
【0003】
上記特許文献1の積層ガスバリア膜の形成法の問題点を解決するために、特許文献2は、α,β−不飽和カルボン酸単量体と該α,β−不飽和カルボン酸単量体のカルボキシル基の10〜90%を中和する量の多価金属イオンとが、組成物全量基準で20〜85重量%の水に、溶解または分散して含有されている水系重合性単量体組成物を用い、これを塗工液として、基材上に塗工して得た湿潤状態の塗膜に、紫外線、あるいは電子線等の電離放射線の照射及び/または加熱処理を施して重合・硬化することにより、ゲルの析出やフィルムの白化などの問題を生ずることなく、酸素ガスバリア性に優れたイオン架橋ポリカルボン酸重合体フィルムを形成する方法を提案している。この方法は、従来のポリカルボン酸重合体フィルムをイオン架橋(イオン結合)する方法とは異なり、α,β−不飽和カルボン酸単量体を多価金属イオンの存在下に重合することにより、ポリカルボン酸重合体の生成と多価金属イオンによるイオン架橋とを同時に行う方法であり、フィルムの製造工程が大幅に簡略化される上、連続的生産に適している。得られた重合体フィルムは、透明で、且つ30℃・80%相対湿度というような高温高湿雰囲気下でも優れたガスバリア性を示し、食品をはじめとする各種内容物の包装材料として適している。
【0004】
しかしながら、本発明者の研究によれば、上記特許文献2のフィルムにも一つの問題点が見出された。それは、食品等の内容物についてしばしば要求される殺菌処理、特に簡便な殺菌処理としてのレトルト処理を行うと、ガスバリア性が低下することである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4373797号公報
【特許文献2】WO2006/059773
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述の事情に鑑み、本発明の主要な目的は、透明で且つレトルト処理後においても優れたガスバリア性を有するフィルム材料およびその効率的な製造方法を確立することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のレトルト包装用透明ガスバリア性フィルムは、上述の目的を達成するために開発されたものであり、より詳しくは、α,β−不飽和カルボン酸とその91〜95%を中和する量の多価金属との塩のイオン架橋重合体膜を、透明フィルム基材上に形成してなり、ヘイズ値が5%以下、且つ120℃、30分のレトルト処理後の30℃、80%相対湿度雰囲気下での酸素透過係数が50×10−4cm(STP)/(m・s・MPa)以下であることを特徴とするものである。
【0008】
また、本発明のレトルト包装用透明ガスバリア性フィルムの製造方法は、透明基材上に、α,β−不飽和カルボン酸とその91〜95%を中和する量の多価金属との塩を、組成物全量基準で35〜85重量%の水に溶解してなる重合性単量体組成物を塗布して、湿潤状態の塗膜を形成し、該塗膜に電子線を照射して、α,β−不飽和カルボン酸を重合するとともに生成重合体をイオン架橋して、イオン架橋重合体膜を形成することを特徴とするものである。
【0009】
ここで、本発明者が、上記特許文献2の技術から出発して、本発明に到達した経緯について付言する。上記特許文献2の技術において、α,β−不飽和カルボン酸とその10〜90%を中和する量の多価金属との塩を用いた理由は、より多量の多価金属を用いた中和度(イオン化度)が90%を超えるα,β−不飽和カルボン酸塩を用いた場合には、得られる重合体フィルムの透明性が著しく低下する事実を知見していたからである。しかしながら、本発明者の更なる研究によれば、使用するα,β−不飽和カルボン酸の酸性をわずかに残す範囲で中和度を91〜95%とより高め、且つ厳密に水分量を制御して調製した重合性単量体組成物を透明フィルム基材に塗布した状態で、重合活性の大なる電子線を照射すれば、透明性が良好に維持され、且つレトルト処理後もきわめて良好なガスバリア性を維持する、イオン架橋重合体膜が形成可能であることを知見し、本発明に到達したものである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を、その好適な実施形態に即して、詳細に説明する。
【0011】
1.α,β−不飽和カルボン酸単量体:
本発明で使用するα,β−不飽和カルボン酸単量体は、特許文献2で用いるものと同様であり、重合性単量体として機能する。その具体例としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、けい皮酸、セネシオ酸、チグリン酸、ソルビン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、メサコン酸、及びこれらの酸無水物からなる群より選ばれる少なくとも1種の不飽和カルボン酸化合物が含まれる。中でも、アクリル酸およびメタクリル酸が好ましく、アクリル酸がもっとも好ましい。
【0012】
2.多価金属:
上記α,β−不飽和カルボン酸との組み合わせで多価金属塩を形成する多価金属は、水中で価数が2以上のイオンを生じ得る金属元素であり、その具体例としては、ベリリウム、マグネシウム、カルシウムなどの周期表2A族の金属;チタン、ジルコニウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛などの遷移金属;アルミニウムを挙げることができる。中でも、亜鉛、カルシウム、銅、マグネシウム、アルミニウム、及び鉄が好ましく、水への溶解性が良好なα,β−不飽和カルボン酸金属塩を与える亜鉛及びカルシウムが特に好ましい。
【0013】
α,β−不飽和カルボン酸との組み合わせで多価金属塩を形成するための多価金属源、すなわち多価金属の供給形態は、特に限定されるものではなく、多価金属の単体を用いることができるほか、多価金属の酸化物、水酸化物、炭酸塩、有機酸塩、無機酸塩等の化合物が任意に用いられるが、水溶性の良好なものが好ましく、またバリア性を劣化させるカウンターイオンを含まないという点で、多価金属の酸化物、あるいはα,β−不飽和カルボン酸の多価金属塩自体が好ましく用いられる。多価金属源は2種以上併用することもできる。
【0014】
3.水系重合性単量体組成物:
本発明のレトルト包装用透明ガスバリア性フィルムを製造するためには、上記したα,β−不飽和カルボン酸とその91〜95%を中和する量の上記した多価金属との塩を、組成物全量基準で35〜85重量%の水に溶解してなる重合性単量体組成物を形成する。
【0015】
多価金属は、α,β−不飽和カルボン酸単量体に対して、そのカルボキシル基の91〜95%を中和する極めて限定的な量で用いられる。この中和度91%未満であると、本発明の主要な効果である、レトルト処理後のガスバリア性の低減防止効果が乏しくなる。逆に中和度が95%を超えると、製品ガスバリア性フィルムの透明性が低下し、高温・高湿下でのガスバリア性の低下ならびにそのレトルト処理後のガスバリア性が低下する傾向になる。この傾向は、重合性単量体組成物中の水分量を増大することにより緩和可能であるが、水分量を増大すると、重合促進効果の高い電子線照射を行うとしても、重合活性が低下する。
【0016】
水系重合性単量体組成物は、上記したα,β−不飽和カルボン酸と多価金属との塩(部分中和塩)を、組成物全量基準で35〜85重量%の水に溶解した溶液として形成される。水の含有量が少なすぎると、透明な溶液が形成しがたくなり、製品ガスバリア性フィルムの透明性が低下し、高温・高湿下でのガスバリア性の低下ならびにそのレトルト処理後のガスバリア性が低下する。逆に、水の含有量が高すぎると、湿潤状態の塗膜を重合させる工程でゲルを析出してフィルムの外観を低下させたり、重合後の水分除去が困難になったりする。
【0017】
上述の理由により、水の含有量は、組成物全量基準で、35〜85重量%とし、使用する多価金属化合物の水に対する溶解性にもよるが、好ましくは35〜75重量%、更に好ましくは40〜65重量%である。この水含有量は、α,β−不飽和カルボン酸と多価金属源との反応により生成し得る中和水も含めて考慮する必要がある。
【0018】
本発明で使用する水系重合性単量体組成物は、上記したα,β−不飽和カルボン酸とその91〜95%を中和する量の上記した多価金属との塩を、組成物全量基準で35〜85重量%の水に溶解してなるものであるが、最終的にこの溶液状態が形成される限り、その形成の過程は問わない。すなわち、水性媒体中で、α,β−不飽和カルボン酸と、多価金属(源)とを反応させて、それらの部分中和塩を形成することは一般には簡便であるが、少量のα,β−不飽和カルボン酸を含むその水溶液にα,β−不飽和カルボン酸の多価金属塩を溶解すること、α,β−不飽和カルボン酸の多価金属塩の水溶液あるいは分散液にα,β−不飽和カルボン酸(の水溶液)を添加して反応させること、など任意の形態が可能である。
【0019】
4.その他の成分:
本発明で使用する水系重合性単量体組成物は、上述したα,β−不飽和カルボン酸とその91〜95%を中和する量の上記した多価金属との塩を、組成物全量基準で35〜85重量%の水に溶解してなる(最終的な水分含有量が35〜85重量%である)溶液状態を形成する、という組成物要件を満たす限りで、必要に応じてその他の成分を含むことができる。
【0020】
例えば、本発明の水系重合性単量体組成物には、溶液としての均一性を損なわない範囲において、ナトリウム及びカリウムなどの一価の金属イオンを含有させることができる。また、溶媒として水を使用するが、各成分の均一な溶解または分散を阻害せず、かつ、重合反応を阻害しない範囲内で、少量の有機溶媒(例えば、アルコール類)を添加してもよい。
【0021】
本発明の水系重合性単量体組成物には、α,β−不飽和カルボン酸単量体の重合と多価金属イオンによるイオン架橋反応を阻害しない範囲内において、必要に応じて、他の重合体(例えば、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、キトサンなど)、グリセリン、増粘剤、無機層状化合物、分散剤、界面活性剤、柔軟剤、熱安定剤、酸化防止剤、酸素吸収剤、着色剤、アンチブロッキング剤、多官能モノマーなどを含有させることができる。
【0022】
特に、バリア性に悪影響を与えることなく組成物の塗工粘度を調整するために好ましい添加成分として、重合度が100〜5000でケン化度が85%以上100%未満のポリビニルアルコールのOH基の0.001〜50モル%を、(メタ)アクリレート基、(メタ)アクリロイル基、(メタ)アクリルアミド基、ビニル基、アリル基、スチリル基、地オール基、シリル基、アセトアセリル基、エポキシ基などの官能基で変性した変性ポリビニルアルコール(変性PVA)が挙げられる。これら変性PVAは、水系重合性単量体組成物中に0.01〜20重量%の割合で含ませることが好ましい。
【0023】
また製品ガスバリア性フィルム中のイオン架橋重合体膜の架橋密度を調整するために、多官能アクリレートを含ませることも好ましい。その具体例としては、ジエチレングリコールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、ポリエチレングリコール400ジアクリレート、1,3−ブタンジオールジアクリレート、1,4−ブタンジオールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、ヒドロキシピバリン酸エステルネオペンチルジアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、ジシクロペンテニルアクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチルアクリレート、1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテルジアクリレート、ジエチレングリコールジグリシジルエーテルジアクリレート、ジプロピレングリコールジグリシジルエーテルジアクリレート、2−ヒドロキシ−3−アクリロイロキシプロピルメタクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、ジプロピレングリコールジメタクリレートなどのジ(メタ)アクリレート類;トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレートなどのトリアクリレート類;トリメチロールエタントリメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレートなどのトリメタクリレート類;ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ポリメチロールプロパンポリアクリレートなどの四官能以上のアクリレート類;などが挙げられる。多官能アクリレートは、α,β−不飽和カルボン酸単量体100重量部に対して、0.01〜10重量部の割合で使用することが好ましい。
【0024】
またイオン架橋重合体膜の架橋度を調整するために、2−エチルヘキシルアクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレートなどの単官能のアクリル酸エステル類やメタクリル酸エステル類を少量の割合で添加することもできる。また、水系重合性単量体組成物の粘度を調整するために、光重合性プレポリマーを少量の割合で添加してもよい。
【0025】
水系重合性単量体組成物には、紫外線照射時の重合速度の向上のために、例えば、アセトフェノン類、ベンゾフェノン類、ミヒラーケトン類、ベンジル類、ベンゾイン類、ベンゾインエーテル類、ベンジルジメチルケタール類、チオキサントン類等の光重合開始剤;あるいはアゾ系または過酸化物系熱重合開始剤を含めることもできる。しかしながら、これら開始剤は、重合後の残渣として残ることにより、衛生上好ましくない傾向にあるので、本発明の目的のためには好ましくなく、むしろ電子線照射の高い重合促進効果のみを最大限に利用して開始剤を使用せず、外観の良好なフィルムを形成することが好ましい。また、開始剤なしで、塗膜の良好な重合性を確保するために、重合性単量体組成物中の水分量を厳密に制御することが好ましい。
【0026】
5.ガスバリア性フィルムの製造
上記した水系重合性単量体組成物を、透明フィルム基材上に塗布して形成した湿潤状態の塗膜に、電子線を照射することによりα,β−不飽和カルボン酸の多価金属による部分中和塩を重合させるとともに生成重合体をイオンして、イオン架橋重合体膜を形成することにより、本発明のレトルト包装用透明ガスバリア性フィルムを製造する。
【0027】
透明フィルム基材としては、広範な透明樹脂の、厚さが例えば0.1〜1000μm、特に5〜300μmの未延伸または延伸フィルムが好ましく用いられ、その樹脂としては、例えば、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ4−メチルペンテン、環状ポリオレフィンなどのオレフィン重合体類及びその酸変性物;ポリ酢酸ビニル、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体ケン化物、ポリビニルアルコールなどの酢酸ビニル重合体類及びその変性物;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステル類;ポリε−カプロラクトン、ポリヒドロキシブチレート、ポリヒドロキシバリレートなどの脂肪族ポリエステル類;ナイロン6、ナイロン66、ナイロン12、ナイロン6/66共重合体、ナイロン6/12共重合体、メタキシレンアジパミド・ナイロン6共重合体などのポリアミド類;ポリエチレングリコール、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンオキシドなどのポリエーテル類;ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリフッ化ビニル、ポリフッ化ビニリデンなどのハロゲン化重合体類;ポリメチルアクリレート、ポリエチルアクリレート、ポリメチルメタクリレート、ポリエチルメタクリレート、ポリアクリロニトリルなどのアクリル重合体類;ポリイミド樹脂;その他、塗料用に用いるアルキド樹脂、メラミン樹脂、アクリル樹脂、硝化綿、ウレタン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、アミノ樹脂、フッ素樹脂、エポキシ樹脂などの樹脂;セルロース、澱粉、プルラン、キチン、キトサン、グルコマンナン、アガロース、ゼラチンなどの天然高分子化合物;などを挙げることができる。フィルム基材には、必要に応じて、エッチング、コロナ放電、プラズマ処理、電子線照射などの前処理を施したり、接着剤を予め塗布したりすることができる。
【0028】
水系重合性単量体組成物を基材上に塗布するには、該基材の片面または両面に、スプレー法、ディッピング法、コーターを用いた塗布法、印刷機による印刷法など任意の塗工法を利用することができる。
【0029】
湿潤状態の塗膜の厚みは、生成するイオン架橋重合体フィルムの厚みが、好ましくは0.01〜100μm、より好ましくは0.1〜10μmの範囲となるように調整することが好ましい。水系重合性単量体組成物の塗布量は、水の含有量または固形分濃度にもよるが、好ましくは0.1〜100g/m、より好ましくは1〜80g/mである。
【0030】
本発明に従い、上記のようにして透明フィルム基材上に形成された水系重合性単量体組成物の湿潤状態の塗膜に、特に乾燥等の前処理を行なうことなく、紫外線または電子線、好ましくは電子線を照射して、イオン架橋重合体膜に転換する。
【0031】
電子線としては、0.1〜2000kV,好ましくは1〜300kV,の加速電圧で加速された電子線を、1〜300kGy、好ましくは5〜200kGyの線量で照射する、とよい。照射は、一般に電子線源とフィル基材上の塗膜とを相対移動させながら行われるが、フィルム基材上の特定部位における塗膜への電子線の照射時間は、数秒程度である。上記した程度の加速電圧で照射された電子線は、上記した程度の厚さの透明フィルム基材を透過しても、それほどエネルギーを減殺されることがない。従って、塗膜を形成した透明フィルム基材の下側から、透明フィルム基材を透過して照射することにより塗膜を硬化させることも可能であり、また透明フィルム基材上に形成した湿潤状態の塗膜を更に同様な(但し別種でもよい)透明フィルム基材で更に覆った後に、透明フィルム基材を透過して、電子線を照射することにより塗膜を硬化させることも可能である。このような、一対の透明フィルム基材で挟持した湿潤状態の水系重合性単量体組成物の塗膜を電子線照射により硬化させることは、照射を安定に行なうことができ、また塗膜の硬化後にラミネートする工程を省くことができ、生産性を高める点で、本発明において特に好ましく用いられる。
【0032】
上記のようにして電子線照射により硬化したイオン架橋重合体膜については、更に加熱することも好ましい。これにより、塗膜の水分を揮発させて、バリア性を向上することができる。この加熱は、加熱ヒータによる加熱、加熱炉の通過等により、例えば40〜180℃の温度で、1秒〜30分間行うことが好ましい。
【0033】
上記のようにして得られた本発明の透明ガスバリア性フィルムは、高温・高湿条件下においても優れた酸素ガスバリア性を示すものであり、例えば、温度30℃、相対湿度80%の高湿条件下で測定した酸素透過度が、通常50×10−4cm(STP)/(m・s・MPa)以下、好ましくは30×10−4cm(STP)/(m・s・MPa)以下、より好ましくは20×10−4cm(STP)/(m・s・MPa)以下、特に好ましくは10×10−4cm(STP)/(m・s・MPa)以下である。
【0034】
特に、本発明の透明ガスバリア性フィルムは、例えば120℃、30分のレトルト処理後においても、同じく温度30℃、相対湿度80%の高湿条件下で測定した酸素透過度が、50×10−4cm(STP)/(m・s・MPa)以下、好ましくは30×10−4cm(STP)/(m・s・MPa)以下、を維持しており、レトルト包装用にきわめて優れた適性を示すことが最大の特徴である。
【0035】
また、本発明の透明ガスバリア性フィルムは、透明性もきわめて優れており、ヘイズメーターで測定したヘイズ値として、通常5%以下、好ましくは3%以下の値を示すことがもう一つの特徴である。
【0036】
6.用途
上述したように、本発明の透明ガスバリア性フィルムは優れた耐レトルト性を有し、特にレトルト殺菌適性が要求されルことの多い、食品包装材料として優れた適性を有するものであるが、これ以外にも酸素によって変質を受け易い食品、飲料、薬品、医薬品、電子部品、精密金属部品などの包装材料として特に好適である。また、本発明のガスバリア性フィルムを用いて形成する包装体の具体的な形状としては、例えば、平パウチ、スタンディングパウチ、ノズル付きパウチ、ピロー袋、ガゼット袋、砲弾型包装袋などが挙げられる。多層ガスバリア性フィルムの層構成(基材の種類)を選択することにより、包装体に、易開封性、易引裂性、収縮性、電子レンジ適性、紫外線遮蔽性、酸素吸収性、意匠性などを付与することができる。
【実施例】
【0037】
以下に、実施例及び比較例を挙げて、本発明についてより具体的に説明する。なお、以下の実施例も含めて、本明細書に記載する特性値は、以下の方法による測定値に基づくものである。
【0038】
1.酸素透過度
ガスバリア製フィルム試料の酸素透過度は、モダンコントロール(Modern Control)社製の酸素透過度試験器Oxtran(登録商標)2/20を用いて、温度30℃及び相対湿度80%の条件下で測定した。測定方法は、ASTM D 3985−81(JIS K 7126のB法に相当)に従い、且つ非対称(片側基材)のときは、基材面側を検知器対向面として測定を行った。
測定値の単位は、cm(STP)/(m・s・MPa)である。「STP」は、酸素の体積を規定するための標準条件(0℃、1気圧)を意味する。
【0039】
酸素透過度の測定は、多層フィルム(基材付き)の状態で行ったが、基材として使用するフィルムの酸素透過度は十分に大きいため、測定値は、イオン架橋重合体層の酸素透過度と実質的に一致していると評価することができる。
【0040】
2.レトルト処理後酸素透過度
ガスバリア性フィルム試料を、貯塔式(予め温度、圧力を上げた熱水を貯めてからレトルト釜に移し変える方式)のレトルト釜を用い、120℃、30分間の条件でレトルト処理し、レトルト処理後に測定した酸素透過度(30℃・80%RH)を、上記1.と同様に測定した。
【0041】
3.ヘイズ
ガスバリア性フィルム試料のヘイズ値は、JIS K7361に従い、日本電色社製Haze Meter NDH2000を用いて測定した。
【0042】
4.アクリル酸量
ガスバリア性フィルム試料の1gを、50℃のアセトン5g中に24時間浸漬し、液クロマトグラフィー((株)島津製作所製装置を使用)でアクリル酸量を定量した。
【0043】
(実施例1)
アクリル酸(和光純薬製)2.55gと酸化亜鉛(ZnO)(和光純薬製)1.3gを蒸留水3.4gで溶解し、重合性単量体組成物を得た。アクリル酸のカルボキシル基の亜鉛による中和度は91%、水の含有量は51重量%であった。
【0044】
上記の通り調製した重合性単量体組成物を、卓上コーターを用いて、厚さ12μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(東レ(株)製「ルミラーP60」)上に、湿潤状態での塗工量が24g/mのバーコータで塗工した。塗工後、速やかにトレー搬送コンベア方式のEB照射装置(岩崎電気(株)製「CB250/15/180L」)を用いて、加速電圧100kV、搬送速度10m/分、照射線量50kGyの条件で電子線(EB)を照射し、硬化した組成物からなるガスバリア性膜を有するガスバリア性積層フィルムを得た。このガスバリア性フィルムの酸素透過度(温度30℃、相対湿度80%)は0.5×10−3cm(STP)/(m・s・MPa)、レトルト処理後の酸素透過度(30℃・80%RH)は、1.5×10−3cm(STP)/(m・s・MPa)、ヘイズ値は3.2%、アクリル酸は検出されなかった。
【0045】
上記実施例1の概要および得られたガスバリア性フィルムの評価結果を、下記実施例、比較例とともにまとめて、後記表1に示す。
【0046】
(実施例2)
後記表1に示すようにアクリル酸量を2.62g、酸化亜鉛量を1.4gおよび蒸留水量を3.5g、にそれぞれ変更して得られた重合性単量体組成物を用いる以外は実施例1と同様にして、厚さ12μmのポリエチレンテレフタレートフィルム上に、湿潤状態の塗膜を形成した後、速やかに、内面をコロナ処理した厚さ12μm2軸延伸6ナイロンフィルム(ユニチカ(株)製「エムブレムONy#15」)を塗膜表面に被せて、「基材/湿潤状態の塗膜/基材」の層構成を持つ多層構造体を得た。次いで、基材(ONy#15)の上から、UV照射装置((株)GSYUASA製「CompactUVConveyorCSOT・40」)を用いて、ランプ出力120W/cm、搬送速度5m/min、ランプ高さ24cmの条件で紫外線を照射し、ガスバリア性膜を中間層に有するガスバリア性積層フィルムを得て、実施例1と同様に評価を行った。
【0047】
(実施例3)
後記表1に示すようにアクリル酸量を2.3g、酸化亜鉛量を1.2gおよび蒸留水量を3.2g、にそれぞれ変更し、更に架橋成分として、シリル基変性PVA(ポリビニルアルコール)((株)クラレ製「R−1130」;平均重合度1700、ケン化度98%のPVAのOH基をシリル基で変性したもの)を0.2gを加えて形成した重合性単量体組成物を用いる以外は実施例1と同様にして、ガスバリア性フィルムを得て、評価した。
【0048】
(実施例4)
後記表1に示すようにアクリル酸量を2.1g、酸化亜鉛量を1.1gおよび蒸留水量を3g、にそれぞれ変更し、更に架橋成分として、ニ官能アクリレートである2−ヒドロキシ−3−アクリロイロキシプロピルメタクリレート(新中村化学工業(株)製「701A」)0.15gを加えて形成した重合性単量体組成物を用いる以外は実施例1と同様にして、ガスバリア性フィルムを得て、評価した。
【0049】
(比較例1)
後記表1に示すようにアクリル酸量を4gおよび蒸留水量を2gにそれぞれ変更し、酸化亜鉛を除いて形成した重合性単量体組成物(中和度:0%)を用いる以外は実施例1と同様にして、ガスバリア性フィルムを得て、評価した。
【0050】
(比較例2)
後記表1に示すようにアクリル酸量を3g、酸化亜鉛量を1.1gおよび蒸留水量を2g、にそれぞれ変更して形成した重合性単量体組成物(中和度:64%)を用いる以外は実施例1と同様にして、ガスバリア性フィルムを得て、評価した。
【0051】
(比較例3)
後記表1に示すようにアクリル酸5gのみからなる重合性単量体組成物(中和度:0%、水分量0%)を用いる以外は実施例1と同様にして、ガスバリア性フィルムを得て、評価した。
【0052】
(比較例4)
後記表1に示すようにアクリル酸量を2.5g、酸化亜鉛量を1.5gおよび蒸留水量を1g、にそれぞれ変更して形成した重合性単量体組成物(中和度:105%、水分量27%)を用いる以外は実施例1と同様にして、ガスバリア性フィルムを得て、評価した。
【0053】
(比較例5)
後記表1に示すようにアクリル酸および酸化亜鉛の代わりにジアクリル酸亜鉛(Aldrich社製)2.5gに変更し、蒸留水4gとともに形成した重合性単量体組成物(中和度:100%、水分量63%)を用いる以外は実施例1と同様にして、ガスバリア性フィルムを得て、評価した。
【0054】
(比較例6)
後記表1に示すようにアクリル酸量を2.5g、酸化亜鉛量を1.2gおよび蒸留水量を25g、にそれぞれ変更して形成した重合性単量体組成物(中和度:84%、水分量88%)を用いる以外は実施例1と同様にして、ガスバリア性フィルムを得て、評価した。
【0055】
上記実施例及び比較例の概要および得られたガスバリア性フィルムの評価結果を、まとめて、下記表1に示す。
【0056】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0057】
上記表1の結果に示されるように、本発明に従う実施例により得られたガスバリア性フィルムは、いずれもヘイズ値が5%以下で良好な透明性を有するほか、30℃、相対湿度80%の高湿度雰囲気下での酸素透過度が10×10−4cm(STP)/(m・s・MPa)以下と極めて高いガスバリア性を有するほか、120℃、30分のレトルト処理後においても、その酸素透過度が50×10−4cm(STP)/(m・s・MPa)以下に抑制されており、優れたレトルト包装材料であることが分る。但し、紫外線照射を行なった実施例2においては、残留モノマー(アクリル酸)量が、0.1mg/1gと若干多かった。
【0058】
これに対し、多価金属(亜鉛)を含まない重合性単量体組成物を用いて得られた比較例1及び3のガスバリア性フィルム酸素透過度が、500×10−4cm(STP)/(m・s・MPa)程度ときわめて劣悪である。
【0059】
他方、多価金属による中和度が64%である比較例2のガスバリア性フィルムは、レトルト処理前における酸素透過度が、2×10−4cm(STP)/(m・s・MPa)と良好であるが、レトルト処理後における酸素透過度は、82×10−4cm(STP)/(m・s・MPa)と著しく増大し、耐レトルト性包装材料としては不満である。また、中和度を84%に高めても水分量が88%と高い重合性単量体組成物を用いて得られたガスバリア性フィルムは、酸素透過度がレトルト処理前においても500×10−4cm(STP)/(m・s・MPa)と増大し、ガスバリア性包装材料としては不満である。
【0060】
また中和度が100%以上の重合性単量体組成物を用いて得られたガスバリア性フィルムは、ヘイズ値が18〜19%と高く、またレトルト処理前の酸素透過度が40×10−4cm(STP)/(m・s・MPa)であり、レトルト処理後においては、50×10−4cm(STP)/(m・s・MPa)を超え、耐レトルト性透明ガスバリア性包装材料としては未だ不満足である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
α,β−不飽和カルボン酸とその91〜95%を中和する量の多価金属との塩のイオン架橋重合体膜を、透明フィルム基材上に形成してなり、ヘイズ値が5%以下、且つ120℃、30分のレトルト処理後の30℃・80%相対湿度雰囲気下での酸素透過係数が50×10−4cm(STP)/(m・s・MPa)以下であることを特徴とする、レトルト包装用透明ガスバリア性フィルム。
【請求項2】
前記イオン架橋重合体膜が、前記α,β−不飽和カルボン酸の多価金属による部分中和塩の水湿潤塗膜の電子線照射による硬化膜である請求項1に記載の透明ガスバリア性フィルム。
【請求項3】
前記イオン架橋重合体膜が、一対の透明フィルム基材間に挟持されている請求項1または2に記載の透明ガスバリア性フィルム。
【請求項4】
透明フィルム基材上に、α,β−不飽和カルボン酸とその91〜95%を中和する量の多価金属との塩を、組成物全量基準で35〜85重量%の水に溶解してなる重合性単量体組成物を塗布して、湿潤状態の塗膜を形成し、該塗膜に電子線を照射して、α,β−不飽和カルボン酸を重合するとともに生成重合体をイオン架橋して、イオン架橋重合体膜を形成することを特徴とする、請求項1に記載のレトルト包装用透明ガスバリア性フィルムの製造方法。
【請求項5】
前記重合性単量体組成物が重合開始剤を含まない組成物である請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記重合性単量体組成物が、α,β−不飽和カルボン酸とその91〜95%を中和する量の多価金属化合物とを水媒体中で反応させてなる請求項4または5に記載の方法。
【請求項7】
前記重合性単量体組成物が、α,β−不飽和カルボン酸の水溶液に、α,β−不飽和カルボン酸の多価金属塩を添加してなる、同α,β−不飽和カルボン酸の多価金属による部分中和塩の水溶液である請求項4〜6のいずれかに記載の方法。

【公開番号】特開2012−143970(P2012−143970A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−4272(P2011−4272)
【出願日】平成23年1月12日(2011.1.12)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】