説明

レトルト殺菌処理された高タンパク質ゲル状食品

【課題】
タンパク質含量が6質量%以上であっても、十分な保形性と保水性を兼ね備え、かつレトルト殺菌によるタンパク質の凝集、変性も抑制され、口当たりの良い滑らかな食感を有するレトルトゲル状食品を提供する。特に、咀嚼・嚥下困難者の喫食に適した物性を有する、高タンパク質のレトルトゲル状食品を提供する。
【解決手段】
寒天と発酵セルロース、更にカラギナン及び/又はジェランガムを併用して、高タンパク質のゲル状食品を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はレトルト殺菌処理された、高タンパク質ゲル状食品に関する。具体的には、タンパク質含量が6質量%以上であっても、十分な保形性と保水性を有し、かつレトルト殺菌によるタンパク質の凝集、変性が抑制され、口当たりの良い滑らかな食感を有するレトルトゲル状食品に関する。特に本発明は、咀嚼・嚥下困難者の喫食に適した高タンパク質のレトルトゲル状食品に関する。
【背景技術】
【0002】
食事における栄養補助や、運動後のエネルギー補給等を目的として、タンパク質含量を高めたゲル状食品が検討されている。中でも、レトルト殺菌処理が施されたゲル状食品は、加圧条件下、かつ105〜140℃で4〜60分程度の厳しい条件下で殺菌されるため、常温流通、常温保存が可能となる利点を有する。
【0003】
6質量%以上のタンパク質を含む食品をレトルト殺菌処理すると、加圧条件下における長時間の熱負荷により、種々の問題を引き起こす。
第一にゲル状食品の保形性が低下し、ペースト状の食感となりやすい。タンパク原料として全卵等を用いると、一定の保形性を付与できるが脆い食感となり、滑らかで口溶けの良い食感を提供することはできない。また、保形性付与を目的として寒天やジェランガム等を使用すると離水が発生しやすく、レトルト殺菌処理によって更に離水が顕著となる。
第二に、内容成分が不均一にゲル化されるため、ざらついた食感となり、滑らかな食感を付与することができない。
【0004】
また、近年では、食べ物を噛む、飲み込む能力又は機能が低下した咀嚼・嚥下困難者が増加しており、咀嚼・嚥下困難者用の栄養補給として、高タンパク質ゲル状食品のニーズが高い。
咀嚼・嚥下困難者の喫食に適したゲル状食品として、主に求められる物性としては、第一に保形性(適度なかたさを有すること)、第二に食塊形成性(口中での食品のまとまりやすさ)に優れること、第三に口腔及び咽頭への付着感が小さいことが挙げられる。
特に、咀嚼・嚥下困難者は筋肉の衰えなどから食塊を咽頭から食道へ送り込む機能が低下しており、付着感が大きい食品はスムースに咽頭相を通過することができない。従って、嚥下したときに咽頭に食塊がへばりつかないよう、口腔や咽頭への付着感が少ないことが重要である。
【0005】
咀嚼・嚥下困難者を対象とした、タンパク質を含有するレトルトゲル状食品に関しては、タンパク質成分、ゲル化剤に着目した技術等がある。
例えば、タンパク質成分に着目した技術として、A:乳ホエータンパク質からなる加熱ゲル化性蛋白質と、B:カゼイネート、総合乳蛋白質、及び脱脂粉乳からなる加熱非ゲル化性蛋白質と、C:コラーゲン分解物からなるペプチドを含有したゲル状食品組成物が特許文献1に開示されている。
ゲル化剤に着目した技術としては、寒天、キサンタンガム及びイオタタイプのカラギナンを含むゲル状流動食(特許文献2)、寒天、ジェランガム、ネイティブジェランガムのうちいずれかを含むゲル状栄養食(特許文献3)が知られている。
【0006】
特許文献1の技術は、用いるタンパク質の種類が重要であるため、A〜C成分の全てを満たす必要があり、利便性に欠ける。例えば、特許文献1にも記載があるように、A成分を不使用とするとゲルを形成できない、易嚥下性が得られにくい等、汎用性に欠ける技術であった。また、特許文献2、3に開示されたゲル化剤の組み合わせでは均一にゲル化させることが困難であり、得られたゲル状流動食の食感がざらつくといった課題を抱えていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第4316943号公報
【特許文献2】特開2008−237186号公報
【特許文献3】特開2007−289163号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記従来技術に鑑み、本発明ではタンパク質含量が6質量%以上であっても、十分な保形性と保水性を兼ね備え、かつレトルト殺菌によるタンパク質の凝集、変性も抑制され、口当たりの良い滑らかな食感を有するレトルトゲル状食品を提供することを目的とする。特に本発明は、咀嚼・嚥下困難者の喫食に適した物性を有する、高タンパク質のレトルトゲル状食品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記のごとき課題を解決すべく鋭意研究した結果、寒天及び発酵セルロース、更にカラギナン及び/又はジェランガムを用いることで、上記課題を解決した、高タンパク質のゲル状食品を提供できることを見出し、本発明に至った。
【0010】
本発明は以下の態様を有する高タンパク質のゲル状食品に関する;
項1.タンパク質含量が6質量%以上であり、寒天及び発酵セルロースを含有し、更にカラギナン及び/又はジェランガムを含有することを特徴とする、レトルト殺菌処理された高タンパク質ゲル状食品。
項2.咀嚼・嚥下困難者用である、項1に記載の高タンパク質ゲル状食品。
項3.発酵セルロースの添加量が、寒天100質量部に対して10〜200質量部である、項1又は2に記載の、高タンパク質ゲル状食品。
【発明の効果】
【0011】
タンパク質含量が6質量%以上であっても、十分な保形性と保水性を有し、且つざらつきのない滑らかな食感を実現できる。また、咀嚼・嚥下困難者用の喫食に適した物性、具体的には、保形性、食塊形成性が良好であり、かつ付着感が小さい高タンパク質のレトルトゲル状食品を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のゲル状食品は、タンパク質含量が6質量%以上であり、レトルト殺菌処理されることを特徴とする。
タンパク質の種類は、従来から食品に使用されているものであれば特に限定されず、各種タンパク質を用いることができる。例えば、乳タンパク質(牛乳、脱脂粉乳、全粉乳、乳清タンパク質、カゼイン等)、大豆タンパク質(豆乳等)、小麦タンパク質、これらタンパク質の分解物等が挙げられる。
目安として、牛乳に含まれるタンパク質は約3質量%、脱脂粉乳は約35質量%、全粉乳は約25質量%、豆乳は約3.5質量%である。
【0013】
タンパク質含量が6質量%以上となると、レトルト殺菌処理を経て製造されるゲル状食品の保形性が低下する、離水が発生しやすい、かたくてざらついた食感になる等の問題が発生し、かかる課題はタンパク質含量が8質量%以上、更には10質量%以上でより顕著となる。しかし、本発明にかかる構成をとることで、上記タンパク質含量が高いゲル状食品であっても、保形性、保水性及び良好な食感を兼ね備えたゲル状食品を提供できる。タンパク質含量の上限は特に制限されないが、20質量%を例示できる。
【0014】
レトルト殺菌処理は、食品製造工程で通常行われる条件で実施できる。例えば、121105〜140℃で4〜60分間、加圧加熱殺菌処理される。
【0015】
本発明の高タンパク質ゲル状食品は、寒天及び発酵セルロースを含有し、更にカラギナン及び/又はジェランガムを含有することを特徴とする。
本発明で用いる寒天は、天草、オゴノリ、オバクサ、イタニクサなどの紅藻類を原料として熱水抽出して凝固させたものを乾燥させた各種のものをいずれも使用することができ、糸寒天、棒寒天、フレーク寒天、粉末寒天など各種形状の寒天を用いることができる。好ましくは、1.5%濃度で70℃の水中に10分間保持した時の溶解率が50%以上の易溶性寒天を使用できる。
ゲル状食品に対する寒天の添加量としては、例えば0.1〜0.6質量%、好ましくは0.15〜0.5質量%、更に好ましくは0.2〜0.4質量%を例示できる。
【0016】
本発明で用いる発酵セルロースは、セルロース生産菌が生産するセルロースであり、アセトバクター属、シュードモナス属、アグロバクテリウム属等に属する細菌から産生される非常に微細な繊維状セルロースである。
【0017】
本発明では、好ましくは当該発酵セルロースが高分子物質と複合化された、発酵セルロース複合体を使用できる。複合化に使用される高分子物質は、食品に使用可能な高分子物質であれば特に限定されず、例えば、キサンタンガム、ガラクトマンナン、カルボキシメチルセルロース(CMC)とその塩、タマリンド種子ガム、ペクチン、アラビアガム、トラガントゴム、カラヤガム、ガティガム、カラギナン、寒天、アルギン酸とその塩、ジェランガム、カードラン、プルラン、大豆多糖類、サイリウムシードガム、グルコマンナン、キチン、キトサン等が挙げられる。
【0018】
好ましくは、キサンタンガム、ガラクトマンナン、並びにカルボキシメチルセルロース(CMC)またはその塩が挙げられる。ガラクトマンナンとして好ましくはグァーガムが、CMCの塩としてナトリウム塩が挙げられ、本発明では特に、グァーガムと、CMC又はその塩を用いて複合化された発酵セルロースや、キサンタンガムとCMC又はその塩を用いて複合化された発酵セルロースを好適に使用できる。発酵セルロースを高分子物質と複合化させる技術は、例えば、特開平9−121787号公報に開示されており、微生物培養に用いる培地中に高分子物質を添加する方法や発酵セルロースのゲルを高分子物質の溶液に浸漬させる方法によって複合化が可能である。
【0019】
かかる高分子物質と複合化された発酵セルロースは商業上入手可能であり、例えば三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製の「サンアーティスト[登録商標]PG(グァーガムおよびCMCのナトリウム塩と発酵セルロースとの複合体の製剤)」、「サンアーティスト[登録商標]PX(キサンタンガムおよびCMCのナトリウム塩と発酵セルロースとの複合体の製剤)」などを挙げることができる。
【0020】
上記寒天に対する発酵セルロースの添加量としては、寒天100質量部に対して、発酵セルロースを10〜200質量部、好ましくは30〜100質量部添加することが望ましい。
【0021】
本発明では上記寒天及び発酵セルロースに加えて、カラギナン及び/又はジェランガムを併用することを特徴とする。カラギナン及び/又はジェランガムを併用しなかった場合は、十分な保形性が担保できない上、離水が発生するといった問題を抱える。
【0022】
カラギナンは、紅藻類海藻から抽出,精製される天然高分子物質で、ガラクトース,3,6アンヒドロガラクトースを主成分とする分子量100,000〜500,000の多糖類である。分子内の半エステル型の硫酸基は、他の天然ガム質等には見られないカラギナン特有のものである。カラギナンは硫酸基の結合位置およびアンヒドロ糖の有無によって主としてカッパ型、イオタ型、及びラムダ型の3種類に分類される。本発明では、いずれのカラギナンを使用することも可能であるが、好ましくはイオタ型のカラギナンを使用する。一般的に商業上入手可能なイオタカラギナン製剤としては、三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製の「カラギニンCSI−1(F)」等を例示できる。
【0023】
ジェランガムは、Sphingomonas elodeaが産出する発酵多糖類である。グルコース、グルクロン酸、グルコースとL−ラムノースの4つの糖の反復ユニットが直鎖上に結合したものであり、β1、3結合したグルコースのC−6位にアセチル基が1/2残基存在し、C−2位にグリセリル基が結合しているネイティブ型のジェランガムと、ネイティブ型ジェランガムを脱アセチル化した脱アシル化ジェランガムが存在する。
本発明では、いずれのジェランガムも使用可能であるが、保形性改良の目的に好ましくは、脱アシル型ジェランガムを使用できる。また、ネイティブジェランガムは、喫食時に加温される高タンパク質ゲル状食品の離水防止の目的に好適に使用できる。
各々のジェランガム製剤は、商業上入手することができ、例えば、脱アシル型ジェランガム製品として「サンサポート[登録商標]K−S(F)」、ネイティブジェランガムとして「ケルコゲル[CPケルコ社登録商標]HM」を例示できる。
【0024】
寒天に対する、カラギナン及び/又はジェランガムの添加量は、好ましくは寒天100質量部に対して1〜200質量部、更に好ましくは5〜150質量部である。
【0025】
本発明のレトルト殺菌処理されたゲル状食品は、寒天及び発酵セルロースを含有し、更にカラギナン及び/又はジェランガムを含有し、タンパク質含量を6質量%以上に調整する以外は、常法に従って製造可能である。
具体的には、水にタンパク質、寒天及び発酵セルロース、並びにカラギナン及び/又はジェランガム、必要に応じて糖類などの副原料を添加、混合して均質化処理を行った後、容器に充填し、レトルト殺菌処理、冷却処理を行うことで調製できる。
【0026】
本発明のゲル状食品は、咀嚼・嚥下困難者の喫食に適した物性も有しており、特に、咀嚼・嚥下困難者用のゲル状食品として有用性が高い。咀嚼・嚥下困難者の喫食に適したゲル状食品に求められる物性としては、第一に保形性(適度なかたさを有すること)が高く、第二に食塊形成性(口中での食品のまとまりやすさ)に優れ、第三に口腔及び咽頭への付着感が小さいことが挙げられるが、本発明のゲル状食品はこれらの物性を満たす。特に、タンパク質含量が高くなると、ゲル状食品の付着感が増大する傾向があるが、本発明のゲル状食品は、タンパク質含量を高めた場合であっても、口腔及び咽頭への付着感が小さいという優れた利点を有する。
【実施例】
【0027】
以下に、実施例を用いて本発明を更に詳しく説明する。ただし、これらの例は本発明を制限するものではない。なお、実施例中の「部」「%」は、それぞれ「質量部」「質量%」、文中「*」印は、三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製、文中「※」印は三栄源エフ・エフ・アイ株式会社の登録商標であることを意味する。
【0028】
実験例1 レトルト殺菌処理された高タンパク質ゲル状食品の調製
表1の処方に基づき、高タンパク質ゲル状食品を調製した。
具体的には、水に香料、色素以外の原料の粉体混合物を添加し、80℃で10分間撹拌した。次いで香料、色素を添加し、水にて全量が100質量%となるよう補正した。15MPaの条件で均質化処理を行い、容器に充填し、121℃で20分間レトルト殺菌処理した。8℃で1時間冷却し、その後5℃で一晩冷蔵することで、高タンパク質のゲル状食品を調製した。
得られたゲル状食品について、保形性、付着感、食塊形成性、食感等を評価した。結果を表2に示す。
【0029】
【表1】

【0030】
注1)発酵セルロース20質量%含有、カルボキシメチルセルロースナトリウム及びグァーガムとの複合体製剤を用いた。
【0031】
【表2】

【0032】
<評価基準>
保形性:保形性が高いものから+++>++>+>±>−の5段階で評価した。
付着感:付着感が弱いものから順に、5段階で評価した。
(付着感がない)−<±<+<++<++<+++(付着感が強い)
食塊形成性:食塊形成性が高いものから+++>++>+>±>−の5段階で評価した。
【0033】
寒天と発酵セルロースに加えて、イオタカラギナンを併用した実施例1は、タンパク質含量が10質量%と極めて高いにも関わらず、ゲル食感で十分な保形性を有するゲル状食品であった。また、タンパク質の凝集、沈殿や離水もみられなかった。更には、食した際に食塊が口中でばらけることもなく、良好な食塊形成性を有し、かつ付着感もなく、咀嚼・嚥下困難者用ゲル状食品として極めて優れた物性を有していた。
一方、寒天と発酵セルロースのみを併用した比較例1は、一定の保形性を有するものの不十分であり、食塊形成性も不十分な上、離水が発生していた。イオタカラギナンに代えて、ローカストビーンガムを併用した比較例2、及びタマリンドシードガムを併用した比較例3は、いずれもペースト食感であり、比較例1よりも更に保形性が低下していた。また、食した際に付着感が強く、ざらつきも感じるものであった。
【0034】
実施例2 レトルト殺菌処理された高タンパク質ゲル状食品の調製
表3の処方に基づき、高タンパク質ゲル状食品を調製した。
具体的には、水に香料、色素、乳酸カルシウム(5水和物)以外の原料の粉体混合物を添加し、80℃で10分間撹拌した。次いで香料、色素、少量の水に溶解させた乳酸カルシウムを添加し、水にて全量が100質量%となるよう補正した。15MPaの条件で均質化処理を行い、容器に充填し、121℃で20分間レトルト殺菌処理した。8℃で1時間冷却し、その後5℃で一晩冷蔵することで、高タンパク質のゲル状食品を調製した。
【0035】
【表3】

【0036】
注2)脱アシル型ジェランガム42質量%含有、クエン酸三ナトリウム及びデキストリンとの製剤を用いた。
【0037】
得られた高タンパク質ゲル状食品は、ゲル食感で十分な保形性を有するゲル状食品であった。また、タンパク質の凝集、沈殿や離水もみられなかった。更には、食した際に食塊が口中でばらけることもなく、良好な食塊形成性を有し、かつ付着感もなく、咀嚼・嚥下困難者用ゲル状食品として極めて優れた物性を有していた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンパク質含量が6質量%以上であり、寒天及び発酵セルロースを含有し、更にカラギナン及び/又はジェランガムを含有することを特徴とする、レトルト殺菌処理された高タンパク質ゲル状食品。
【請求項2】
咀嚼・嚥下困難者用である、請求項1に記載の高タンパク質ゲル状食品。
【請求項3】
発酵セルロースの添加量が、寒天100質量部に対して10〜200質量部である、請求項1又は2に記載の、高タンパク質ゲル状食品。


【公開番号】特開2013−31404(P2013−31404A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−169340(P2011−169340)
【出願日】平成23年8月2日(2011.8.2)
【出願人】(000175283)三栄源エフ・エフ・アイ株式会社 (429)
【Fターム(参考)】