説明

レトルト装置

【課題】加熱処理できる被処理物の大きさや配置の自由度を確保でき利便性を向上することができるレトルト装置を提供する。
【解決手段】複数の熱媒体噴射ノズル14は、収容部1204に収容された被処理物に、貯留部1202に貯留された熱媒体30を噴射させる。熱媒体30の噴射は、被処理物の側方から被処理物に向けて熱媒体30を噴射することでなされる。複数の蒸気噴射ノズル16は、処理槽12の内部に高温蒸気を噴射させる。高温蒸気の噴射は、複数の熱媒体噴射ノズル14から噴射される熱媒体30に向けてなされる。熱媒体循環回路22は、噴射された熱媒体30および高温蒸気が凝縮したドレンを貯留部1202から熱媒体噴射ノズル14に循環させ供給する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レトルト食品や医薬品などの被処理物を加圧下で加熱殺菌する際に使用されて好適なレトルト装置に関する。
【背景技術】
【0002】
レトルト食品などの被処理物を処理槽内で加熱殺菌処理するレトルト装置として、処理槽内に貯留された加熱水を被処理物に噴射する加熱水用の噴射スプレーと、加熱水用の噴射スプレーから噴射される加熱水に高温蒸気を噴射して加熱水を加熱する蒸気用の噴射スプレーとを備えるものが提案されている(特許文献1、2参照)。
特許文献1のレトルト装置では、加熱水用の噴射スプレーおよび蒸気用の噴射スプレーが、共に、処理槽の底部寄りの箇所に設けられており、加熱水用の噴射スプレーは上方に向けて加熱水を噴射し、かつ、蒸気用の噴射スプレーは、上方に向けて噴射された加熱水に向けて高温蒸気を噴射し、これにより加熱水が加熱されるように構成されている。
また、特許文献2のレトルト装置では、上記の構成に加えて処理槽の上部寄りの箇所に別の加熱水用の噴射スプレーを設け、この別の加熱水用の噴射スプレーから下方に向けて加熱水を噴射させている。
これらのレトルト装置では、トレイに被処理物を載置して被処理物を処理槽内に収容しており、トレイには、加熱水を通すためのスリットが形成されている。
そして、処理槽の底部寄りの箇所に設けられた加熱水用の噴射スプレーから上方に向けて噴射された加熱水は、スリットを通って処理槽内の最上部まで吹き上げられ、次いで、下方に向かって流れ落ち被処理物を順次伝わりながら、処理槽の底部に至る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−12001号公報
【特許文献2】特開平7−184615号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来装置では、加熱水を処理槽の底部から処理槽の最上部に向けて噴射する構成上、噴射された加熱水を通すための流路として、処理槽内部において、処理槽内部の底部から最上部にわたって上下方向に延在する空間を被処理物の間に確保しなくてはならない。
したがって、前記空間、すなわち、スリットを覆うような大きな被処理物をトレイ上に載置したり、スリットを跨ぐように被処理物をトレイ上に配置することができないことから、被処理物の大きさや配置が制約される。
本発明は上記のような点に鑑みなされたもので、加熱処理できる被処理物の大きさや配置の自由度を確保でき利便性を向上することができるレトルト装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために請求項1記載に発明は、処理槽に収容された被処理物に熱媒体を噴射させる複数の熱媒体噴射ノズルと、前記処理槽の内部に高温蒸気を噴射させる複数の蒸気噴射ノズルと、前記噴射された熱媒体および高温蒸気が凝縮したドレンを前記処理槽の底部から前記熱媒体噴射ノズルに循環させ供給する熱媒体循環回路と、前記熱媒体噴射ノズルへの前記熱媒体の供給と、前記蒸気噴射ノズルへの前記高温蒸気の供給とを制御する制御手段とを備えるレトルト装置であって、前記複数の熱媒体噴射ノズルによる前記熱媒体の噴射は、前記被処理物の側方から前記被処理物に向けてなされ、前記複数の蒸気噴射ノズルによる前記高温蒸気の噴射は、前記複数の熱媒体噴射ノズルから噴射された前記熱媒体に向けてなされ、前記制御手段は、前記熱媒体噴射ノズルから前記熱媒体を噴射させつつ前記蒸気噴射ノズルから前記高温蒸気を噴射させることによって、前記熱媒体を加熱しつつ前記処理槽内の温度を予め定められた目標温度まで加熱させ、前記処理槽内の温度が前記目標温度に到達したならば、前記蒸気噴射ノズルへの高温蒸気の供給を制御することにより前記処理槽内の温度を前記目標温度に維持させることを特徴とする。
【0006】
請求項1に記載の発明によれば、被処理物の側方から熱媒体が噴射されるため、熱媒体が被処理物の全体にわたって満遍なく噴射でき、しかも、複数の熱媒体噴射ノズルから噴射された熱媒体に向けて高温蒸気を噴射するので、熱媒体を効率よく加熱することができ、被処理物の加熱を的確に行うことができる。特に、噴射された熱媒体を通すための流路として、処理槽内部の底部から最上部にわたって上下方向に延在する空間を被処理物の間に確保する必要が無いため、被処理物の大きさや配置の自由度を確保でき、利便性を向上することができる。
【0007】
請求項2に記載の発明は、請求項1記載のレトルト装置において、前記噴射された熱媒体および高温蒸気が凝縮したドレンは、前記処理槽の底部に貯留され、前記複数の熱媒体噴射ノズルは、前記貯留された熱媒体の液面よりも上方の箇所、かつ、前記被処理物の側方の箇所で上下方向に間隔をおいて配置され、前記複数の蒸気噴射ノズルは、前記貯留された熱媒体の液面よりも上方の箇所、かつ、前記処理槽の底部寄りの箇所で上方に向けて配置されていることを特徴とする。
【0008】
請求項2に記載の発明によれば、トレイの形状に因らず、被処理物に対して的確に熱媒体を噴射させながら、噴射させる高温蒸気と熱媒体とを熱交換させることができるので、熱媒体を効率よく加熱することができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、加熱処理できる被処理物の大きさや配置の自由度を確保して、噴射する熱媒体を効率よく加熱することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施の形態におけるレトルト装置10の全体の構成を示す構成図である。
【図2】トレイ4、熱媒体噴射ノズル14、蒸気噴射ノズル16の配置を示す断面図である。
【図3】トレイ4、蒸気噴射ノズル16の配置を示す平面図である。
【図4】レトルト装置10における全体の処理手順を示すフローチャートである。
【図5】加熱・循環工程および殺菌工程を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明にかかるレトルト装置の実施の形態について、図1を参照して説明する。
本実施の形態では、被処理物がレトルト食品(レトルトパウチ食品)である場合について説明する。レトルト食品は、プラスチックフィルム若しくは金属箔又はこれらを多層に合わせたものを袋状その他の形に成形した容器(レトルトパウチ)に調製した食品を詰め、熱溶融により密封し、加圧加熱殺菌したものである。
【0012】
図1に示すように、本実施の形態のレトルト装置10は、処理槽12と、複数の熱媒体噴射ノズル14と、複数の蒸気噴射ノズル16と、熱媒体供給回路18と、熱媒体排出回路20と、熱媒体循環回路22と、蒸気供給回路24と、圧力調整手段26と、制御手段28とを含んで構成されている。
【0013】
処理槽12は、貯留部1202と、収容部1204とを含んで構成されている。
本実施の形態では、処理槽12は、水平方向に延在する円筒壁と、円筒壁の延在方向の一端に設けられた開口と、円筒壁の他端を閉塞する閉塞壁と、開口を開閉する密閉扉とを備えている。
貯留部1202は、処理槽12の底部に設けられ、熱媒体供給回路18から供給された熱媒体30を貯留するものである。本実施の形態では、熱媒体30は水である。
収容部1204は、被処理物が収容される部分である。
より詳細には、図2に示すように、収容部1204には、台車2が出し入れ可能に設けられている。
台車2には、被処理物が載置されるトレイ4が上下方向に積み重ねられて複数段配置されている。
本実施の形態では、各段においてトレイ4は、円筒壁の延在方向である前後方向に並べられて複数配置されている。
これらのトレイ4は、被処理物が載置された複数段のトレイ4を搭載した台車を処理槽12の開口部まで移動させて、台車上のトレイ4部分だけを処理槽12の収容部1204に移動させて収容部1204に収容する。搬出時は、台車を処理槽12の開口部まで移動させて、収容部1204からトレイ4を引き出して、台車上に移動させる。
また、各トレイ4の底部には、被処理物に噴射された熱媒体30が下方に流れ落ちるための多数の孔が貫通形成されている。
【0014】
処理槽12には、水位計1206と、第1、第2の温度センサ1208、1210とが設けられている。
水位計1206は、貯留部1202に貯留された熱媒体30の液面の位置(水位)を検出するものであり、水位の検出方法には公知の技術である電極式水位検出方式を用いている。
より詳細には、水位計1206は、処理槽12に配管を介して連通する金属製の容器と、水位検出用の3本の電極棒とを含んで構成されている。
3本の電極棒は、容器に挿入されて配設され、下端部の高さ位置が高位、中位、低位の3段階に異なる高水位用電極棒、中水位用電極棒、低水位用電極棒で構成されている。
各電極棒には電源の一方が接続され、容器には電源の他方が接続されており、水位計1206は、各電極棒と容器との導通状態の変化に応じて検出信号を制御手段28に供給する。
すなわち、水位計1206は、容器内の水位が高水位用電極棒、中水位用電極棒、低水位用電極棒にそれぞれ達することにより、容器の水位、すなわち、処理槽12の水位に応じた検出信号を制御手段28に供給する。より詳細には、高水位用電極棒で検出される水位は高水位、中水位用電極棒で検出される水位は中水位、低水位用電極棒で検出される水位は低水位となる。
第1の温度センサ1208は、収容部1204内の温度である槽内温度T1を検出するものである。
第2の温度センサ1210は、貯留部1202に貯留されている熱媒体30の温度である熱媒体温度T2を検出するものである。
【0015】
図2に示すように、複数の熱媒体噴射ノズル14は、収容部1204に収容された被処理物に、トレイ4の上下の間隙に向けて水平方向横から貯留部1202に貯留された熱媒体30を噴射させるものである。
複数の熱媒体噴射ノズル14は、貯留部1202に貯留された熱媒体30の液面よりも上方の箇所、かつ、被処理物の側方の箇所で上下方向に間隔をおいて配置されている。
本実施の形態では、複数の熱媒体噴射ノズル14は、処理槽12内に収容された各トレイ4の前後方向の中間に位置して、収容部1204の左右方向の両側方に配置されている。そして、この複数の熱媒体噴射ノズル14は、それぞれ多段に積み重ねられた上下のトレイ4の間で作られる空間の高さ方向略中央に位置し、収容部1204に収容された被処理物に向けて設けられている。
複数の熱媒体噴射ノズル14による熱媒体30の噴射は、被処理物の側方から被処理物に向けてなされる。
【0016】
複数の蒸気噴射ノズル16は、処理槽12の内部に高温蒸気を噴射させるものである。
複数の蒸気噴射ノズル16は、貯留部1202に貯留された熱媒体30の液面よりも上方の箇所、かつ、処理槽12の底部寄りの箇所で上方に向けて配置されている。
本実施の形態では、図2、図3に示すように、処理槽12の底部に、蒸気供給回路24から高温蒸気が供給される主管17Aと、この主管17Aに接続された複数の枝管17Bとが設けられており、蒸気噴射ノズル16は、複数の枝管17Bの上面にトレイ4に向けて高温蒸気を噴射するように複数設けられている。
より詳細には、主管17Aは、処理槽12の左右方向の中央において前後方向に延在して設けられている。
複数の枝管17Bは、主管17Aの延在方向に間隔をおいた複数箇所の左右両側から水平方向で左右方向に延在しており、各トレイ4の下面に4本の枝管17Bが配置されている。
複数の蒸気噴射ノズル16による高温蒸気の噴射は、複数の熱媒体噴射ノズル14から噴射された熱媒体30に向けてなされる。すなわち、高温蒸気は、複数の熱媒体噴射ノズル14から噴射された熱媒体30に噴射されると共に、被処理物に噴射されたのち、被処理物およびトレイ4を伝って下方に流れ落ちる熱媒体30に噴射される。これにより、高温蒸気と熱媒体30との熱交換がなされる。
したがって、熱媒体30に噴射された高温蒸気は、噴射された熱媒体30に接触してドレンとなり、このドレンと熱媒体30とが混合して貯留部1202に貯留されることになる。
【0017】
熱媒体供給回路18は、貯留部1202に熱媒体30を供給するものである。
熱媒体供給回路18は、熱媒体タンク1802と、給水用配管1804と、給水ポンプ1806と、給水弁1808とを含んで構成されている。
熱媒体タンク1802は、熱媒体30を収容するものである。
熱媒体タンク1802には、給水源から熱媒体タンク1802に貯留される水量を一定のレベルに保つことができるようにボールタップ1810が設けられている。
給水用配管1804は、熱媒体タンク1802と貯留部1202との間を接続するものである。
給水ポンプ1806は、給水用配管1804に設けられ熱媒体タンク1802に収容された熱媒体30を貯留部1202に供給するものである。
給水弁1808は、給水ポンプ1806と貯留部1202との間の給水用配管1804の箇所に設けられている。
【0018】
熱媒体排出回路20は、貯留部1202に貯留されている使用済みの熱媒体30を排出するものである。
熱媒体排出回路20は、配管2002と、排水弁2004とを含んで構成されている。
配管2002は、貯留部1202と外部(下水溝)とを接続するものである。
排水弁2004は、配管2002に介設されている。
【0019】
熱媒体循環回路22は、噴射された熱媒体30および高温蒸気が凝縮したドレンを貯留部1202から熱媒体噴射ノズル14に循環させ、供給するものである。
すなわち、熱媒体循環回路22は、貯留部1202に貯留されている熱媒体30を熱媒体噴射ノズル14に供給して、熱媒体30を熱媒体噴射ノズル14から収容部1204に収容された被処理物に噴射させることにより、熱媒体30により被処理物を加熱あるいは冷却するものである。
熱媒体循環回路22は、配管2202と、熱媒体循環ポンプ2204とを含んで構成されている。
配管2202は、貯留部1202と熱媒体噴射ノズル14とを接続するものである。
熱媒体循環ポンプ2204は、配管2202に介設され、貯留部1202の熱媒体30を熱媒体噴射ノズル14に向けて供給し、熱媒体噴射ノズル14から噴射されて貯留部1202に流れ落ちた熱媒体30を再び噴射ノズル14に供給するものである。
したがって、熱媒体循環回路22は、熱媒体30を、貯留部1202、配管2202、熱媒体循環ポンプ2204、配管2202、熱媒体噴射ノズル14、貯留部1202という経路で循環させることになる。
【0020】
蒸気供給回路24は、蒸気噴射ノズル16に高温蒸気を供給するものである。
蒸気供給回路24は、蒸気供給用配管2402と、給蒸弁2404と、希釈用空気配管2406とを含んで構成されている。
蒸気供給用配管2402は、不図示の蒸気供給源(ボイラ)と蒸気噴射ノズル16とを接続する。
給蒸弁2404は、蒸気供給用配管2402に介設されている。
希釈用空気配管2406は、不図示の希釈用空気供給源と、給蒸弁2404の上流側の位置する蒸気供給用配管2402の箇所とを接続する。
【0021】
圧力調整手段26は、処理槽12内の圧力を調整するものである。
本実施の形態では、圧力調整手段26は、圧縮空気供給弁2602と、排気弁2604と、逆止弁2606と、減圧手段2608と、真空弁2610、エア供給弁2612と、開放弁2614と、逆止弁2616と、フィルタ2618とを含んで構成されている。
【0022】
圧縮空気供給弁2602は、不図示の圧縮空気供給源と処理槽12との間に接続されており、圧縮空気供給弁2602が開動作されることにより圧縮空気が処理槽12内に供給される。
【0023】
排気弁2604は、その上流側が処理槽12に接続され、下流側が逆止弁2606を介して処理槽12の外部に接続されており、排気弁2604が開動作すると、処理槽12内の加圧空気が排気弁2604、逆止弁2606を介して処理槽12外へ放出される。
【0024】
減圧手段2608は、真空弁2610を介して処理槽12に接続されている。真空弁2610が開動作した状態で減圧手段2608が動作することにより、処理槽12内が減圧される。
また、減圧手段2608は、エア供給弁2612および圧縮空気供給弁2602を介して、前記の圧縮空気供給源に接続されている。エア供給弁2612および圧縮空気供給弁2602が開動作することでエゼクタ駆動用としてのエアが減圧手段2608に供給される。
減圧手段2608としては、エアエゼクタが好適であるが、水封式真空ポンプなどのポンプを使用するなど、従来公知のさまざまな装置が使用可能である。
【0025】
開放弁2614は、下流側が逆止弁2616を介して処理槽12に接続され、上流側がフィルタ2618を介して処理槽12外部に接続されている。
処理槽12内が負圧となった状態で、開放弁2614が開動作すると、処理槽12外部の空気(大気)がフィルタ2618、開放弁2614、逆止弁2616を介して処理槽12内に供給され、これにより、処理槽12内が大気圧に戻る。この際、フィルタ2618は、処理槽12内に吸入される空気中の塵埃等を除去する。
【0026】
制御手段28は、水位計1206、第1、第2の温度センサ1208、1210からの検出信号を受け付けると共に、給水ポンプ1806、熱媒体循環ポンプ2204、給水弁1808、排水弁2004、給蒸弁2404、圧縮空気供給弁2602、排気弁2604、真空弁2610、エア供給弁2612、開放弁2614を被処理物の加熱殺菌処理手順に従って制御するものである。
また、制御手段28は、予め以下に示す各時間を計時するタイマ2802を備えており、タイマ2802の計時動作により以下の各時間が、それぞれ予め定められた設定時間に到達したか否か(設定時間を経過したか否か)を判定するように構成されている。
1)加熱殺菌処理時間(後述する殺菌工程で使用)
2)第1、第2の冷却処理時間(後述する冷却工程で使用)
【0027】
このような制御手段28は、マイクロコンピュータによって構成することができる。
すなわち、マイクロコンピュータは、CPUと、バスラインを介して接続されたROM、RAM、インタフェースなどを含んで構成されている。ROMはCPUが実行する加熱殺菌処理用の制御プログラムなどを格納し、RAMはワーキングエリアを提供する。
そして、CPUが前記の制御プログラムを実行することにより、制御手段28が実現される。
【0028】
次に、本実施の形態におけるレトルト装置10の処理手順について、図4を参照して説明する。
図4に示すように、レトルト装置によるレトルト食品などの被処理物の加熱殺菌処理は、以下に示す各工程を順次実行することでなされる。
1)処理槽12への給水工程(S10)。
2)熱媒体30を加熱すると共に循環して被処理物に噴射して処理槽12内の温度、被処理物の温度を所定の殺菌温度まで上昇させる加熱・循環工程(S12)。
3)被処理物の温度を殺菌温度で所定時間保持する殺菌工程(S14)。
4)被処理物を加圧下で冷却する冷却工程(S16)。
5)処理槽12内の熱媒体30を排出する排水工程(S18)。
6)処理槽12内の加圧空気を排出して大気圧にする排気工程(S20)。
7)処理槽12内を一旦負圧にした後、大気圧に戻す終了工程(S22)。
以下、上記各工程について説明する。
【0029】
1)給水工程(S10)
処理槽12内に被処理物を収容し、前記の密閉扉を閉止する。
給水弁1808、排水弁2004、給蒸弁1606、圧縮空気供給弁2602、真空弁2610、エア供給弁2612、開放弁2614は閉状態とし、排気弁2604は開状態として給水工程を実行する。
制御手段28は、給水弁1808を開動作させ、給水ポンプ1806を起動して、給水タンク2002から処理槽12の貯留部1202に熱媒体30を供給し、水位計1206の検出結果に基づいて貯留部1202の給水レベルが予め定められた所定の水位に到達したと判定したならば、給水ポンプ1806を停止し、給水弁1808を閉動作させ、排気弁2604を閉動作させる。本実施の形態では、制御手段28は、高水位用電極棒によって高水位が検出されると、貯留部1202への給水を停止する。
なお、給水タンク2002から貯留部1202に供給される熱媒体30は常温である。
一方、熱媒体タンク1802から貯留部1202への給水に伴い、給水源から熱媒体タンク1802への給水が行われ、熱媒体タンク1802内の水量が減少した分だけ、給水源から補水される。
【0030】
2)加熱・循環工程(S12)
図5のフローチャートを参照して説明する。
制御手段28は、熱媒体循環ポンプ2204を動作させることにより、複数の熱媒体噴射ノズル14により、被処理物の側方から被処理物に向けて熱媒体30を噴射させると共に、給蒸弁2404を開動作させて、蒸気噴射ノズル16から上方に向けて蒸気を噴射する(S100,S102)。これにより、噴射された熱媒体30は、加熱されながら、被処理物を伝わって下方に流れ落ち、貯留部1202に至り貯留される。貯留部1202に貯留された熱媒体30は、配管2202および熱媒体循環ポンプ2204を介して複数の熱媒体噴射ノズル14から噴射される。このようにして、熱媒体30は、循環しながら加熱されて被処理物に噴射される。
また、熱媒体30に噴射された高温蒸気は、噴射された熱媒体30に接触してドレンとなり、このドレンと熱媒体30とが混合して貯留部1202に貯留されるので、貯留部1202における熱媒体30の水位は徐々に上昇する。したがって、制御手段30は、貯留部1202に貯留される熱媒体30の水位が予め定められた水位となるように、排水弁2004の開閉動作を制御する。本実施の形態では、制御手段30は、水位計1206で高水位用電極棒および中水位用電極棒の間に水位が検出されるように制御を行う。
制御手段28は、第1の温度センサ1208で検出される槽内温度T1が、予め定められた目標温度Tに到達したか否かを判定する(S104)。目標温度Tは、被処理物を加熱殺菌するために必要な高温(殺菌温度)であって、本実施の形態では、110℃〜120℃程度である。
【0031】
2)殺菌工程(S14)
制御手段28は、槽内温度T1が目標温度Tに到達したならば、タイマ2802を起動させ計時動作を開始する(S106)。
次いで、制御手段28は、第1の温度センサ1208によって検出される槽内温度T1が目標温度Tを維持するように、熱媒体噴射ノズル14から熱媒体30の噴射を継続しながら、給蒸弁2404の開度を調整することで高温蒸気の供給量を制御する(S108)。
このようにして、槽内温度T1を目標温度Tに維持し、被処理物を加熱殺菌する。
制御手段28は、タイマ2802の計時動作に基づき、目標温度Tでの加熱殺菌処理時間が予め定められた設定時間に到達したか否かを判定する(S110)。
制御手段28は、目標温度Tでの加熱殺菌処理時間が設定時間に到達していなければ、S108に戻り、目標温度Tでの加熱殺菌処理時間が設定時間に到達すれば、熱媒体循環ポンプ2204の運転を継続させたまま、給蒸弁2404を閉動作させて高温蒸気の供給を停止させる(S112)。これにより、被処理物の加熱殺菌処理が終了する。
【0032】
なお、加熱・循環工程から殺菌工程における処理槽12内の圧力は、大気圧より高く設定されている。
例えば、制御手段28は、処理槽12内に設けられた圧力センサ(不図示)の検出結果に基づいて、圧縮空気供給弁2802および排気弁2604を開閉動作させることにより、処理槽12内の圧力を大気圧より高い予め定められた目標圧力P1に制御する。
また、加熱殺菌工程においては、希釈用空気配管2406を介して処理槽12に希釈用空気を供給することにより、蒸気噴射ノズル16から噴射される高温蒸気の温度を調整し、これにより、蒸気噴射ノズル16近傍箇所に位置する被処理物が、それ以外の箇所に位置する被処理物よりも高温となるなど、被処理物が局所的に高温となることを抑制するようにしてもよい。
【0033】
4)冷却工程(S16)
冷却工程は以下の(a)〜(e)の手順で行われる。
(a)制御手段28は、給水弁1808を開動作させると共に給水ポンプ1806を動作させ、水位計1206で中水位が検出されるまで熱媒体30の処理槽12への供給を行う。
(b)制御手段28は、中水位が検出されたならば、熱媒体30の処理槽12への供給を維持しつつ、水位計1206の検出結果に基づき、中水位を維持するように排水弁2004の開閉動作を制御し、熱媒体循環ポンプ2204を動作させて、複数の熱媒体噴射ノズル14から熱媒体30を被処理物に向けて噴射させる。
噴射された熱媒体30は、被処理物を伝わって下方に流れ落ち、貯留部1202に至り貯留される。貯留部1202に貯留された熱媒体30は、配管2202および熱媒体循環ポンプ2204を介して複数の熱媒体噴射ノズル14から噴射される。このようにして、熱媒体30は循環しながら被処理物に噴射され、被処理物の温度が徐々に低下する。
(c)制御手段28は、第1の温度センサ1208によって検出される槽内温度T1が90℃〜100℃に低下したら、熱媒体循環ポンプ2204を停止し、給水弁1808を閉動作させ、給水ポンプ1806を停止し、(d)に移行する。
(d)設定回数(0回〜5回)だけ、以下の(1)、(2)を繰り返す。
(1)制御手段28は、排水弁2004を開動作させ、水位計1206で低水位が検出されなくなったならば、排水弁2004を閉動作させ、給水弁1808を開動作させ、給水ポンプ1806を動作させて、水位計1206で高水位が検出されるまで常温の熱媒体30を処理槽12に供給する。
(2)制御手段28は、水位計1206で高水位が検出されたならば、給水弁1808を閉動作させ、給水ポンプ1806を停止させ、タイマ2802を起動し、熱媒体循環ポンプ2204を動作させて、複数の熱媒体噴射ノズル14から熱媒体30を被処理物に向けて噴射させる。これにより被処理物の冷却がなされる。タイマ2802の計時時間が予め定められた第1の冷却処理時間に到達したならば、熱媒体循環ポンプ2204を停止させる。
(e)(d)の設定回数が最後の運転では、制御手段28は、上記(1)、(2)の代わりに、タイマ2802を起動し、熱媒体循環ポンプ2204を動作させて、複数の熱媒体噴射ノズル14から熱媒体30を被処理物に向けて噴射させる。これにより、被処理物の冷却がなされる。制御手段28は、熱媒体循環ポンプ2204の動作を維持した状態で、給水弁1808を開動作させ、給水ポンプ1806を動作させて、水位計1206で中水位が検出される状態を維持するように排水弁2004を開閉動作させる。タイマ2802の計時時間が予め定められた第2の冷却処理時間に到達したならば、熱媒体循環ポンプ2204、給水ポンプ1806を停止させ、給水弁1808、排水弁2004を閉動作させる。
【0034】
5)排水工程(S18)
制御手段28は、給水ポンプ1806、熱媒体循環ポンプ2204の停止および給水弁1808の閉動作を維持し、排水弁2004を開動作させ処理槽12内の熱媒体30を全て排出させる。
制御手段28は、水位計1206の検出結果に基づいて、処理槽12内の熱媒体30が全て排出された、と判定したならば、給水ポンプ1806、熱媒体循環ポンプ2204の停止を維持し、給水弁1808の閉動作を維持し、排水弁2004の開動作を維持した状態で排水工程を終了する。
【0035】
6)排気工程(S20)
制御手段28は、排水弁2004の開動作を維持しつつ、排気弁2604を開動作させることにより、処理槽12内の加圧空気を排出する。
制御手段28は、前記の圧力センサにより、処理槽12内の圧力が大気圧となったことが検出されたならば、排水弁2004および排気弁2604を閉動作させ、排気工程を終了する。
【0036】
7)終了工程(S22)
制御手段28は、真空弁2610を開動作させ、エア供給弁2612を開動作させて、減圧手段2608を作動させ、処理槽12内を大気圧に対して僅かに負圧となるようにする。前記の圧力計により処理槽12内が負圧であることが検出されたならば、真空弁2610を閉動作させ、エア供給弁2612を閉動作させて減圧手段2608を停止し、開放弁2614を開動作させる。
その後、前記の圧力計により、処理槽12内が大気圧となったことが検出されたならば、終了工程を終了し、これにより1バッチ分の処理(運転)が完了する。
【0037】
本実施の形態によれば、複数の熱媒体噴射ノズル14が、被処理物の側方から被処理物に向けて熱媒体30を噴射すると共に、複数の熱媒体噴射ノズル14から噴射される熱媒体30に向けて、複数の蒸気噴射ノズル16から高温蒸気を噴射するようにした。
したがって、処理槽12内に収容された被処理物が、水平方向において大きな寸法を有していても、あるいは、水平方向に沿って被処理物が隙間無く配置されていたとしても、被処理物の側方から熱媒体30が噴射されるため、熱媒体30が被処理物の全体にわたって満遍なく噴射され、しかも、熱媒体噴射ノズル14から噴射される熱媒体30に向けて、高温蒸気を噴射するので、熱媒体30を効率よく加熱することができ、被処理物の加熱を的確に行うことができる。
特に、熱媒体30を処理槽12の底部から処理槽12の最上部に向けて噴射する構成では、噴射された加熱水を通すための流路として、底部から最上部にわたって上下方向に延在する空間を被処理物の間に確保する必要がある。これに対して、本実施の形態では、このような空間を確保する必要が無いため、被処理物の大きさや配置の自由度を確保でき、利便性を向上することができる。
【0038】
また、本実施の形態では、噴射された熱媒体30および高温蒸気が凝縮したドレンは、処理槽12の底部(貯留部1202)に貯留され、複数の熱媒体噴射ノズル14は、貯留された熱媒体30の液面よりも上方の箇所、かつ、被処理物の側方の箇所で、上下方向に間隔をおいて配置され、複数の蒸気噴射ノズル16は、貯留された熱媒体30の液面よりも上方の箇所、かつ、処理槽12の底部寄りの箇所で上方に向けて配置されている。
したがって、トレイの形状に因らず、被処理物に対して的確に熱媒体30を噴射させながら、噴射させる高温蒸気と熱媒体とを熱交換させることができるので、熱媒体30を効率よく加熱することができる。
【0039】
なお、本実施の形態では、熱媒体30を被処理物に噴射して被処理物の加熱を行う場合について説明したが、熱媒体30を使用せず、高温蒸気のみによって被処理物を加熱処理を行うこともできる。
この場合は、蒸気噴射ノズル16から高温蒸気を処理槽12内に噴射して、処理槽12内の温度を目標温度Tまで加熱し、目標温度Tを予め定められた加熱殺菌時間維持させ、その後、実施の形態と同様に冷却工程、排気工程、終了工程を実施すればよい。
また、実施の形態では、被処理物がレトルト食品である場合について説明したが、被処理物は缶詰や医薬品など任意である。
また、実施の形態では、加熱処理工程によって被処理物の殺菌を行う場合について説明したが、加熱処理工程によって被処理物の調理、あるいは、調理および殺菌の双方を行うなど任意である。
【符号の説明】
【0040】
10……レトルト装置
12……処理槽
1202……貯留部
1204……収容部
14……熱媒体噴射ノズル
16……蒸気噴射ノズル
22……熱媒体循環回路
2202……配管
2204……熱媒体循環ポンプ
24……蒸気供給回路
2402……蒸気供給用配管
2404……給蒸弁
2406……希釈用空気配管
28……制御手段
30……熱媒体
T1……槽内温度
T2……熱媒体温度
……目標温度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理槽に収容された被処理物に熱媒体を噴射させる複数の熱媒体噴射ノズルと、
前記処理槽の内部に高温蒸気を噴射させる複数の蒸気噴射ノズルと、
前記噴射された熱媒体および高温蒸気が凝縮したドレンを前記処理槽の底部から前記熱媒体噴射ノズルに循環させ供給する熱媒体循環回路と、
前記熱媒体噴射ノズルへの前記熱媒体の供給と、前記蒸気噴射ノズルへの前記高温蒸気の供給とを制御する制御手段とを備えるレトルト装置であって、
前記複数の熱媒体噴射ノズルによる前記熱媒体の噴射は、前記被処理物の側方から前記被処理物に向けてなされ、
前記複数の蒸気噴射ノズルによる前記高温蒸気の噴射は、前記複数の熱媒体噴射ノズルから噴射された前記熱媒体に向けてなされ、
前記制御手段は、前記熱媒体噴射ノズルから前記熱媒体を噴射させつつ前記蒸気噴射ノズルから前記高温蒸気を噴射させることによって、前記熱媒体を加熱しつつ前記処理槽内の温度を予め定められた目標温度まで加熱させ、前記処理槽内の温度が前記目標温度に到達したならば、前記蒸気噴射ノズルへの高温蒸気の供給を制御することにより前記処理槽内の温度を前記目標温度に維持させる、
ことを特徴とするレトルト装置。
【請求項2】
前記噴射された熱媒体および高温蒸気が凝縮したドレンは、前記処理槽の底部に貯留され、
前記複数の熱媒体噴射ノズルは、前記貯留された熱媒体の液面よりも上方の箇所、かつ、前記被処理物の側方の箇所で上下方向に間隔をおいて配置され、
前記複数の蒸気噴射ノズルは、前記貯留された熱媒体の液面よりも上方の箇所、かつ、前記処理槽の底部寄りの箇所で上方に向けて配置されていることを特徴とする、
請求項1に記載のレトルト装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2012−105550(P2012−105550A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−254831(P2010−254831)
【出願日】平成22年11月15日(2010.11.15)
【出願人】(000175272)三浦工業株式会社 (1,055)
【Fターム(参考)】