説明

レトルト食品およびそのバターの劣化臭の防止方法

【課題】バターとトマトをベースにしたソースを含むレトルト食品において、保存中のバターの劣化臭の発生を防止する。
【解決手段】バター成分、トマトを含むソースをベースにしたレトルト食品であって、前記バター成分がバターとバター加工品で構成されるレトルト食品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バター風味とトマトの酸味を有するソースに具材を有する食品、例えばバターチキンカレー、ハッシュドビーフなどの食品において、加圧加熱殺菌時に発生するバターの劣化臭、特に酸敗臭とイカレ感を防止したレトルト食品とその製造方法、さらにバターの劣化臭の防止方法に関する。
【背景技術】
【0002】
バター風味とトマトの酸味を有する食品として、バターチキンカレー、ハッシュドビーフなどが知られている。これらの食品は、バターとトマトを主成分とするソースに、さらに必要に応じてチキン、ビーフなどの肉類、小麦粉ルウ、焙煎野菜などを加えて加熱することで、製造することができる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、ソースにおけるバター風味とトマトの酸味を活かしつつ、保存中のバターの風味劣化を抑制したレトルト食品、その製造方法、さらにバターの劣化臭の発生の抑制方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
バターとトマトが十分量配合され、バター風味とトマトの酸味を有するソースをレトルト殺菌処理の後、保存中に、酸敗臭とイカレ感などのバターの劣化臭が発生することが本発明者の検討により明らかになった。この酸敗臭は、バター風味が弱くなる程度までバターの配合量を低減するか、或いは酸味が弱くなるまでトマトの配合量を低減すれば抑えることはできるが、この場合には食品本来の風味ないし味が損なわれることになる。
【0005】
本発明者は、この課題に対し検討を重ねた結果、バターの配合量を減らし、バター加工品とバターを組み合わせることで、バター感を弱めることなくバターの劣化臭の発生を抑制できることを見出し、本発明を完成した。
【0006】
本発明は、以下のレトルト食品とその製造方法、さらにバターの劣化臭の防止方法に関する。
1. バター成分、トマトを含むソースをベースにしたレトルト食品であって、前記バター成分がバターとバター加工品で構成されるレトルト食品。
2. ソースに油脂および澱粉系原料を含む項1に記載のレトルト食品。
3. ソースに香辛料を含む、項1または2に記載のレトルト食品。
4. カレー、ビーフシチュー、パスタ用ミートソース、トマトスープ又はハッシュドビーフである、項1〜3のいずれかに記載のレトルト食品。
5. バター加工品の配合量が、バター100重量部に対し2〜50重量部程度であることを特徴とする項1〜3のいずれかに記載のレトルト食品。
6. バター成分、トマトを含むソースをベースにしたレトルト食品の製造方法であって、バター、バター加工品およびトマトを含むソースと具材を含む流動性またはペースト状の食品をレトルト容器に封入し、加圧加熱殺菌処理することを特徴とする、レトルト食品の製造方法。
7. レトルト食品がカレー、ビーフシチュー、パスタ用ミートソース、トマトスープ又はハッシュドビーフである、項6に記載のレトルト食品の製造方法。
8. バターとトマトを含むソースと具材を含むレトルト食品のバターの劣化臭の防止方法であって、前記ソースにバター加工品を配合することを特徴とする、レトルト食品のバターの劣化臭の防止方法。
9. レトルト食品がカレー、ビーフシチュー、パスタ用ミートソース、トマトスープ又はハッシュドビーフである、項8に記載のレトルト食品のバターの劣化臭の防止方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、バターチキンカレー、ハッシュドビーフなどのバターとトマトの風味を有するソースを含むレトルト食品を、酸敗臭とイカレ感のような
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明のレトルト食品は、バター、バター加工品およびトマトを含むソースをベースとした食品である。
【0009】
バターとしては、通常使用されるバターがすべて使用でき、(加塩)バター、無塩バターのいずれであっても良い。バターの配合量は、流動性のソースの0.5〜5.0重量%程度、好ましくは1.0〜2.5重量%程度である。
【0010】
トマトとしては、生のトマトであっても良く、缶詰等の適当な容器に封入されたピューレ、ペースト、ホ−ル状、カット品、或いは、トマトケチャップ、トマトソ−ス、チリソ−ス、トマトパウダ−等のトマト加工品も好適に使用することができる。また、使用するトマトの栽培種、原産地は特に制限されず、いずれのものでもよい。トマトの配合量は、流動性のソースの3〜30重量%程度、好ましくは4〜15重量%程度である。
【0011】
バター加工品としては、バターを酵素処理(リパーゼ等)することによりバター感を増強した呈味料を意味し、バターフレーバー成分であるカプロン酸、カプリル酸等の脂肪酸を多く含有したものである。バター加工品は、酵素処理バターとして流通する場合があるが、この酵素処理バターも本発明のバター加工品に包含される。バター加工品単独ではバター感は少ないが、バターと併用し、加熱工程を経ることによりバターの呈味を発現する。バターとバター加工品の配合比率は、バター100重量部に対しバター加工品を2〜50重量部程度、好ましくは5〜20重量部程度配合するのが、レトルト食品のバター感を増強し、かつ、酸敗臭、イカレ感などのレトルト殺菌後の保存中に生じるバターの劣化臭を低減するために好ましい。バター加工品の配合量は、流動性のソースの0.05〜2.5重量%程度、好ましくは0.1〜2.0重量%程度である。
【0012】
本発明のレトルト食品としては、バターとトマトの風味を有する食品、例えばカレー、ハッシュドビーフ、シチューなどが挙げられ、具体的にはバターチキンカレー、ハッシュドビーフ、ビーフシチュー、パスタ用ミートソース、トマトスープなどが挙げられる。
【0013】
バター、バター加工品とトマト以外に、ソースには水が適量含まれ、ソースに適度な流動性が付与される。ソースに含まれる他の成分としては、油脂、澱粉系原料、調味料、香辛料、乳製品、野菜などが挙げられる。具体的には、油脂としては、牛脂、ラードなどのバターまたはバター加工品を除く動物性油脂、大豆油、菜種油、綿実油、コーン油、胡麻油、パーム油等の植物性油脂、更にこれらの硬化油や混合油等が挙げられる。油脂は、澱粉系原料(例えば小麦粉)や、野菜(例えば、たまねぎ、ニンニクなどの香味野菜)、肉類(牛肉、鶏肉、豚肉など)を炒めるのに使用することができる。また、油脂は風味、コクなどをソースに付与するのにも使用され得る。油脂類としては、流動性を有するソースの1.0〜10.0重量%程度使用することができる。澱粉系原料としては、小麦粉、小麦澱粉、コーンパウダー、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、ポテトフレーク、馬鈴薯澱粉、タピオカ澱粉、米粉、米澱粉、甘藷澱粉等を用いることができる。澱粉は、耐熱性、耐酸性、耐老化性、機械耐性等を付与するため、エーテル化、エステル化、リン酸架橋等の化学処理を施したいわゆる化工澱粉や、加熱処理等の物理的処理をした湿熱加熱澱粉やアルファ化澱粉等も用いることができる。とろみを抑えてコク味を付与するために前記澱粉の分解物であるデキストリン等を用いることもできる。澱粉系原料は、流動性を有するソースの0〜10.0重量%程度使用することができる。調味料としては、グルタミン酸ナトリウムなどのアミノ酸類、5'-イノシン酸二ナトリウム、5'-グアニル酸二ナトリウムなどの核酸、コハク酸やコハク酸二ナトリウムなどの有機酸、食塩、砂糖、ブイヨン、などが挙げられる。調味料は流動性を有するソースの20.0重量%程度以下使用することができる。香辛料としては、ターメリック、カルダモン、フェンネル、シナモン、フェヌグリーク、クミン、コリアンダー、クローブ、アニス、ナツメグ、メース、スターアニス、胡椒、唐辛子、ディル、キャラウェイ、タイム、セージ、ローレル、マジョラム、タラゴン、セロリシード、パセリ、花椒、バジル、セボリー、パプリカ、しょうが、陳皮、オニオン、ガーリック等が挙げられこれらを単独でまたは2種以上を混合して使用することができる。また、カレー粉などの複合香辛料、香辛料抽出物、ハーブ類を使用することもできる。香辛料は流動性を有するソースの5.0重量%程度以下程度使用することができる。本発明のレトルト食品は、バター風味とトマト風味を有する点に特徴を有し、調味料と香辛料は、これらの風味を損なわない範囲内において配合することができる。乳製品としては、生乳、牛乳、脱脂乳、加工乳などの乳、生クリ−ム、チーズ、濃縮ホエイ、濃縮乳、全粉乳、脱脂粉乳、クリームパウダー、ホエイパウダー、チ−ズパウダーなどが挙げられる。乳製品は、流動性を有するソースの20.0重量%程度以下程度使用することができる。野菜としては、たまねぎ、にんじん、ジャガイモなどが挙げられ、これらはダイスカット品、スライス品が好ましく使用される。また、これら以外に肉類(牛肉、鶏肉、豚肉のブロック、スライス、ミンチ肉)、マッシュルームなどが挙げられる。
【0014】
本発明のレトルト食品は、バター、バター加工品、トマトと他の成分、必要に応じてさらに具材を配合し、加熱調理してソースを製造し、これをレトルト容器に封入し、加圧加熱殺菌することにより、酸敗臭、イカレ感などのバターの劣化臭のない食品として得ることができる。
【0015】
本発明のレトルト食品の加圧加熱殺菌は、例えば0.15MPa〜0.25MPa、120〜125℃、15〜40分間の条件下で実施することができ、例えばレトルト釜にて122℃、25分間加熱することで殺菌することができる。
【実施例】
【0016】
以下、実施例及び比較例を挙げて、本発明をより一層具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
実施例1および比較例1
ソースの全原料100%に対し、各原料を以下の表1、表2に記載の量で使用し、以下の手順に従ってバターチキンカレーを製造した。
【0017】
【表1】

【0018】
【表2】

【0019】
(1) 小麦粉ルウの調整・・原料Aと原料Bを蒸気ジャケット付き攪拌ニーダー(A)にて120℃まで加熱して小麦粉ルウとする。
(2) 具材の調整・・鶏ムネ肉を20mmのダイス状にカットしたものを1%炭酸ナトリウム水溶液に25〜30分攪拌浸漬した後、98℃の蒸気中で中心温度が80℃に達するまで約8分蒸煮したものを処理済み鶏肉とした。
(3) カレーソースの調整・・蒸気ジャケット付き攪拌ニーダー(B)に上記の小麦粉ルウを投入し 粉末原料CグループとペーストDグループ、水を加え品温が95℃になるまで攪拌しながら加熱し、カレーソースとする。
(4) レトルトカレーの調整・・上記処理済みの鶏肉45gをレトルトパウチに充填後、攪拌ニーダー(B)から充填機に移送されたカレーソースを155g充填し、ヒートシールにて密封した上記パウチ詰めカレーをスプレー式のレトルト釜にて122℃で25分加熱し、レトルトカレーを製造した。
(5) レトルトカレーの品質評価・・レトルト殺菌した翌日、上記レトルトカレーを鍋で熱湯3分加熱したものを官能パネラー5名で試食した結果、実施例と比較例では若干、実施例サンプルがバターの香りが弱いと感じたがほぼ同等の評価であった。
【0020】
その後、常温にて90日保管後に上記レトルトカレーを試食した結果、比較例サンプルにレトルト直後には感じられなかった乳製品が発酵したような酸敗臭、異臭が発生し商品価値が無くなっていた。実施例サンプルは若干、スパイスの香りが大人しくなっていたものの、良好な風味を保っていた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バター成分、トマトを含むソースをベースにしたレトルト食品であって、前記バター成分がバターとバター加工品で構成されるレトルト食品。
【請求項2】
ソースに油脂および澱粉系原料を含む請求項1に記載のレトルト食品。
【請求項3】
ソースに香辛料を含む、請求項1または2に記載のレトルト食品。
【請求項4】
カレー、ビーフシチュー、パスタ用ミートソース、トマトスープ又はハッシュドビーフである、請求項1〜3のいずれかに記載のレトルト食品。
【請求項5】
バター加工品の配合量が、バター100重量部に対し2〜50重量部程度であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のレトルト食品。
【請求項6】
バター成分、トマトを含むソースをベースにしたレトルト食品の製造方法であって、バター、バター加工品およびトマトを含むソースと具材を含む流動性またはペースト状の食品をレトルト容器に封入し、加圧加熱殺菌処理することを特徴とする、レトルト食品の製造方法。
【請求項7】
レトルト食品がカレー、ビーフシチュー、パスタ用ミートソース、トマトスープ又はハッシュドビーフである、請求項6に記載のレトルト食品の製造方法。
【請求項8】
バターとトマトを含むソースと具材を含むレトルト食品のバターの劣化臭の防止方法であって、前記ソースにバター加工品を配合することを特徴とする、レトルト食品のバターの劣化臭の防止方法。
【請求項9】
レトルト食品がカレー、ビーフシチュー、パスタ用ミートソース、トマトスープ又はハッシュドビーフである、請求項8に記載のレトルト食品のバターの劣化臭の防止方法。

【公開番号】特開2008−141991(P2008−141991A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−331610(P2006−331610)
【出願日】平成18年12月8日(2006.12.8)
【出願人】(000000228)江崎グリコ株式会社 (187)
【Fターム(参考)】