説明

レドックスフロー電池

【課題】高い起電力を有しながら、析出物の析出を抑制できるレドックスフロー電池を提供する。
【解決手段】レドックスフロー電池100は、正極電極104と、負極電極105と、両電極104,105間に介在される隔膜101とを具える電池セルに正極電解液及び負極電解液を供給して充放電を行う。正極電解液は、マンガンイオン、或いはマンガンイオン及びチタンイオンの双方を含む。負極電解液は、チタンイオン、バナジウムイオン、クロムイオン、亜鉛イオン、及びスズイオンから選択される少なくとも一種の金属イオンを含む。レドックスフロー電池100は、正極電解液にチタンイオンを含んだり、正極電解液の充電深度が90%以下となるように運転されたりすることで、MnO2といった析出物の析出を抑制し、良好に充放電を行える。また、このレドックスフロー電池100は、従来のバナジウム系レドックスフロー電池と同等、又は同等以上の高い起電力を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レドックスフロー電池に関するものである。特に、高い起電力が得られるレドックスフロー電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
昨今、地球温暖化への対策として、太陽光発電、風力発電といった新エネルギーの導入が世界的に推進されている。これらの発電出力は、天候に影響されるため、大量に導入が進むと、周波数や電圧の維持が困難になるといった電力系統の運用に際しての問題が予測されている。この問題の対策の一つとして、大容量の蓄電池を設置して、出力変動の平滑化、余剰電力の貯蓄、負荷平準化などを図ることが期待される。
【0003】
大容量の蓄電池の一つにレドックスフロー電池がある。レドックスフロー電池は、正極電極と負極電極との間に隔膜を介在させた電池セルに正極電解液及び負極電解液をそれぞれ供給して充放電を行う。上記電解液は、代表的には、酸化還元により価数が変化する金属イオンを含有する水溶液が利用される。正極に鉄イオン、負極にクロムイオンを用いる鉄-クロム系レドックスフロー電池の他、両極にバナジウムイオンを用いるバナジウム系レドックスフロー電池が代表的である(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006-147374号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
バナジウム系レドックスフロー電池は、実用化されており、今後も使用が期待される。しかし、従来の鉄-クロム系レドックスフロー電池やバナジウム系レドックスフロー電池では、起電力が十分に高いとは言えない。今後の世界的な需要に対応するためには、更に高い起電力を有し、かつ、活物質に用いる金属イオンを安定して供給可能な、好ましくは安定して安価に供給可能な新たなレドックスフロー電池の開発が望まれる。
【0006】
そこで、本発明の目的は、高い起電力が得られるレドックスフロー電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
起電力を向上するためには、標準酸化還元電位が高い金属イオンを活物質に用いることが考えられる。従来のレドックスフロー電池に利用されている正極活物質の金属イオンの標準酸化還元電位は、Fe2+/Fe3+が0.77V、V4+/V5+が1.0Vである。本発明者らは、正極活物質の金属イオンとして、水溶性の金属イオンであり、従来の金属イオンよりも標準酸化還元電位が高く、バナジウムよりも比較的安価であって資源供給面においても優れると考えられるマンガン(Mn)を用いたレドックスフロー電池を検討した。Mn2+/Mn3+の標準酸化還元電位は、1.51Vであり、マンガンイオンは、起電力がより大きなレドックス対を構成するための好ましい特性を有する。
【0008】
しかし、正極活物質の金属イオンにマンガンイオンを用いた場合、充放電に伴って固体のMnO2が析出するという問題がある。
Mn3+は不安定であり、マンガンイオンの水溶液では、以下の不均化反応によってMn2+(2価)及びMnO2(4価)を生じる。
不均化反応:2Mn3++2H2O ⇔ Mn2++MnO2(析出)+4H+
【0009】
上記不均化反応の式から、H2Oを相対的に減らす、例えば、電解液の溶媒を硫酸水溶液といった酸の水溶液とするとき、当該溶媒中の酸(例えば、硫酸)の濃度を高めることで、MnO2の析出をある程度抑制できることがわかる。ここで、上述したような大容量の蓄電池として実用的なレドックスフロー電池とするためには、エネルギー密度の点から、マンガンイオンの溶解度が0.3M以上であることが望まれる。しかし、マンガンイオンは、酸濃度(例えば、硫酸濃度)を高めると、溶解度が低下する特性を有する。即ち、MnO2の析出を抑制するために酸濃度を高めると、電解液中のマンガンイオンの濃度が高くできず、エネルギー密度の低下を招く。また、酸の種類によっては、酸濃度を高めることで電解液の粘度が増加して使用し難いという問題も生じる。
【0010】
本発明者らは、正極活物質にマンガンイオンを用いても、Mn(3価)の不均化反応に伴う析出が生じ難く、Mn2+/Mn3+の反応が安定して行われ、実用的な溶解度が得られる構成を更に検討した。その結果、上記析出の抑制手段として、(1)正極電解液に特定の金属イオンを含有させる、(2)正極電解液の充電深度(SOC:State of Charge)が特定の範囲となるように運転を行うこと、が好適に利用できる、との知見を得た。
【0011】
上記(1)については、詳しいメカニズムは不明であるが、正極電解液に、マンガンイオンと共にチタンイオンを存在させることで、上記析出を効果的に抑制できることを見出した。特に、正極電解液の充電深度を、マンガンイオンの反応を全て1電子反応(Mn2+→Mn3++e-)で計算した場合に90%超、更に130%以上という高い充電深度で充電を行っても上記析出が実質的に観察されない、という驚くべき事実を見出した。このようにマンガンイオンとチタンイオンとを共存させることで、上記析出を効果的に抑制できることから、溶媒の酸濃度を不必要に高くする必要が無く、マンガンイオンの溶解度を十分に実用的な値にすることができる。また、上記充電深度を100%以上に充電させた場合に充電過程で生成されたと考えられるMnO2(4価)は、析出物とならず、放電過程でMn(2価)に還元され得るという新たな事実も見出した。このことから、上記(1)の抑制手段を採用することで、更に電池特性を向上できると期待される。
【0012】
一方、上記(2)については、正極電解液の充電深度が90%以下となるように運転することで、上記析出を効果的に抑制できることを見出した。上記特定の運転条件とすることで、上記析出を抑制できることから、溶媒の酸濃度を不必要に高くする必要が無く、マンガンイオンの溶解度を十分に実用的な値にすることができる。また、上記特定の運転条件とする場合、若干量のMnO2が析出されても、充放電過程において析出されたMnO2(4価)の少なくとも一部は、Mn(2価)に還元され得るという新たな事実も見出した。
【0013】
そして、正極活物質にマンガンイオンを用い、負極活物質に、チタンイオン、バナジウムイオン、クロムイオン、亜鉛イオン、及びスズイオンの少なくとも一種の金属イオンを用いた、Ti/Mn系、V/Mn系、Cr/Mn系、Zn/Mn系、Sn/Mn系レドックスフロー電池は、高い起電力を有することができ、かつ上記金属イオンが高濃度に溶解された電解液を用いて、安定して良好に動作することができる、との知見を得た。特に、マンガンイオンを正極活物質とし、かつチタンイオンを含有する電解液を正極電解液とし、チタンイオンを負極活物質とし、かつマンガンイオンを含有する電解液を負極電解液とする、即ち、両極の電解液中の金属イオン種を等しくすると、(1)金属イオンが対極に移動して、各極で本来反応する金属イオンが相対的に減少することによる電池容量の減少現象を効果的に回避できる、(2)充放電に伴って経時的に液移り(一方の極の電解液が他方の極に移動する現象)が生じて両極の電解液の液量にばらつきが生じた場合でも、両極の電解液を混合するなどして、ばらつきを容易に是正できる、(3)電解液の製造性に優れる、といった特有の効果を奏し得る。本発明は、これらの知見に基づくものである。
【0014】
本発明は、正極電極と、負極電極と、これら両電極間に介在される隔膜とを具える電池セルに正極電解液及び負極電解液を供給して充放電を行うレドックスフロー電池に係るものである。上記正極電解液は、マンガンイオンを含有し、上記負極電解液は、チタンイオン、バナジウムイオン、クロムイオン、亜鉛イオン、及びスズイオンから選択される少なくとも一種の金属イオンを含有する。そして、このレドックスフロー電池は、MnO2の析出を抑制する析出抑制手段を具える。上記析出抑制手段は、例えば、以下の(1),(2)が挙げられる。
(1) 上記析出抑制手段として、上記正極電解液にチタンイオンを含有している。
(2) 上記析出抑制手段として、上記正極電解液の充電深度を1電子反応で計算して90%以下となるように運転する。
更に、正極電解液にチタンイオンを含有する場合、以下の(3)の形態とすることができる。
(3) 上記正極電解液及び上記負極電解液の双方が、マンガンイオン及びチタンイオンの双方を含有している。
【0015】
上記構成によれば、従来のレドックスフロー電池と同等、又は同等以上の高い起電力が得られる上に、比較的安価な金属イオンを少なくとも正極活物質に利用することで、活物質を安定して供給できると期待される。特に、上記構成(3)では、正極活物質及び負極活物質の双方を安定して供給できると期待される。
【0016】
また、上記構成(1)及び(3)によれば、正極電解液にマンガンイオンとチタンイオンとを共存させることで、マンガンイオンを利用しながらも、MnO2を実質的に析出させることが無く、Mn2+/Mn3+の反応を安定して行えることから、良好に充放電動作を行える。また、MnO2が生成された場合にも析出されず、MnO2を活物質として利用でき、より大きな電池容量を実現できる。更に、上記構成(3)によれば、両極の電解液中の金属イオン種が等しいことで、対極への金属イオンの移動に伴う電池容量の低下を抑制できることから、長期に亘り、安定した電池容量を確保することができる。
【0017】
一方、上記構成(2)によれば、特定の運転条件とすることで、マンガンイオンを利用しながらも、MnO2の析出を効果的に抑制できるため、MnO2の析出による正極活物質の減少などの問題が生じ難く、Mn2+/Mn3+の反応を安定して行えることから、良好に充放電動作を行うことができる。
【0018】
そして、上記構成によれば、MnO2の析出を抑制できることから、溶媒の酸濃度を過剰に高くする必要が無いため、正極電解液におけるマンガンイオンの溶解度を高められ、実用的なマンガンイオン濃度を有することができる。従って、本発明レドックスフロー電池は、新エネルギーの出力変動の平滑化、余剰電力の貯蓄、負荷平準化に好適に利用することができると期待される。
【0019】
その他、上記構成(3)によれば、両極の電解液中の金属イオン種が等しいことで、液移りによる液量のばらつきを容易に是正できる上に、電解液の製造性にも優れる。
【0020】
上記構成(2)では、上記正極電解液の充電深度が、マンガンイオンの反応を全て1電子反応(Mn2+→Mn3++e-)で計算した場合に90%以下となるように運転を制御する。上記充電深度は、低いほどMnO2の析出を抑制し易く、後述する試験例に示すように70%以下とすると、実質的に析出しない、との知見を得た。従って、充電深度は、1電子反応で計算した場合に70%以下となるように運転を制御すること、代表的には電解液の液組成に応じて切替電圧を調整することが好ましい。
【0021】
マンガンイオンを取り扱う本発明では、主として1電子反応が生じると考えられることから、1電子反応で充電深度を計算する。しかし、1電子反応のみではなく、2電子反応(Mn2+→Mn4++2e-)も生じ得ることから、本発明では、2電子反応を許容する。2電子反応が生じた場合、エネルギー密度を高められる効果がある。
【0022】
上記正極電解液の具体的な形態として、正極電解液にチタンイオンを含まない場合、2価のマンガンイオン及び3価のマンガンイオンの少なくとも一種のマンガンイオンを含有する形態、正極電解液にチタンイオンを含む場合、2価のマンガンイオン及び3価のマンガンイオンの少なくとも一種のマンガンイオンと、4価のチタンイオンとを含有する形態が挙げられる。上記いずれかのマンガンイオンを含有することで、放電時:2価のマンガンイオン(Mn2+)が存在し、充電時:3価のマンガンイオン(Mn3+)が存在し、充放電の繰り返しにより、両マンガンイオンが存在する形態となる。正極活物質に上記二つのマンガンイオン:Mn2+/Mn3+を利用することで標準酸化還元電位が高いため、高い起電力のレドックスフロー電池とすることができる。上記マンガンイオンに加えて、4価のチタンイオンが存在する形態では、上述した充電深度を特定の範囲とする特定の運転条件としなくても、MnO2の析出を抑制できる。4価のチタンイオンは、例えば、硫酸塩(Ti(SO4)2、TiOSO4)を電解液の溶媒に溶解することで電解液に含有させることができ、代表的にはTi4+で存在する。その他、4価のチタンイオンは、TiO2+などを含み得る。なお、正極に存在するチタンイオンは、主としてMnO2の析出の抑制に作用し、活物質として積極的に作用しない。
【0023】
本発明では、上述のように例えば、チタンイオンによりMnO2の析出の抑制を図るが、実際の運転では、充電状態によっては4価のマンガンが存在していると考えられる。或いは、本発明では、例えば、上述の特定の運転条件によりMn(3価)の不均化反応の抑制を図るが、実際の運転では、僅かながら不均化反応が生じ得る。そして、不均化反応が生じた場合、4価のマンガンが存在し得る。即ち、本発明の一形態として、4価のマンガンを含む形態、具体的には以下の形態が挙げられる。
(1) 正極電解液が、2価のマンガンイオン及び3価のマンガンイオンの少なくとも一種のマンガンイオンと、4価のマンガンと、4価のチタンイオンとを含有する形態
(2) 正極電解液が、2価のマンガンイオン及び3価のマンガンイオンの少なくとも一種のマンガンイオンと、4価のマンガンとを含有する形態
【0024】
上記4価のマンガンはMnO2と考えられるが、このMnO2は固体の析出物ではなく、電解液中に溶解したように見える安定な状態で存在していると考えられる。この電解液中に浮遊するMnO2は、放電時、2電子反応として、Mn2+に還元され(放電して)、即ち、MnO2が活物質として作用して、繰り返し使用できることで、電池容量の増加に寄与することがある。従って、本発明では、若干量(マンガンイオンの総量(mol)に対して10%程度以下)の4価のマンガンの存在を許容する。
【0025】
一方、負極電解液は、チタンイオン、バナジウムイオン、クロムイオン、亜鉛イオン、スズイオンのうちの単一種の金属イオンを含有した形態、これら列挙する複数種の金属イオンを含有した形態とすることができる。これらの金属イオンのいずれも、水溶性であり、電解液を水溶液にできるため利用し易く、これらの金属イオンを負極活物質とし、正極活物質をマンガンイオンとするにあたり、起電力が高いレドックスフロー電池が得られる。
【0026】
負極電解液が上記金属イオンのうち、単一種の金属イオンを含有する形態において、チタンイオンを負極活物質として含有するチタン-マンガン系レドックスフロー電池とした場合、1.4V程度の起電力が得られる。また、負極電解液にチタンイオンを含有することで、運転開始時に正極電解液にチタンイオンを含有していない形態でも、充放電の繰り返し使用により、経時的に液移りが生じて、チタンイオンがある程度正極電解液に混入された場合、詳しいメカニズムは定かでないが、MnO2の析出を抑制する効果がある、という驚くべき知見を得た。更に、チタンイオンが正極電解液に存在する場合、MnO2が生成されても析出せず、生成されたMnO2が電解液中に安定に存在して充放電が可能である、という驚くべき知見を得た。このようにMnO2の析出を抑制してMn3+を安定化することができ、充放電を十分に行えることから、負極活物質には、チタンイオンが好ましい。
【0027】
特に、運転当初から正極電解液に活物質となるマンガンイオンに加えてチタンイオンを含み、負極電解液に活物質となるチタンイオンを含む形態では、両極の電解液中に存在する金属イオン種が重複することで、液移りによる不具合が生じ難い。一方、運転当初から正極電解液にチタンイオンを含まず、負極活物質としてチタンイオンを利用する形態では、液移りが本来好ましい現象ではないため、上述のように特定の運転条件により、MnO2の析出の抑制を積極的に図ることが好ましい。
【0028】
負極電解液が上記金属イオンのうち、単一種の金属イオンを含有する形態において、バナジウムイオンを含有するバナジウム-マンガン系レドックスフロー電池とした場合、起電力:1.8V程度、クロムイオンを含有するクロム-マンガン系レドックスフロー電池とした場合、起電力:1.9V程度、亜鉛イオンを含有する亜鉛-マンガン系レドックスフロー電池とした場合、起電力:2.2V程度という更に高い起電力を有するレドックスフロー電池とすることができる。スズイオンを含有するスズ-マンガン系レドックスフロー電池とした場合、起電力:1.4V程度とチタン-マンガン系レドックスフロー電池と同程度の起電力を有するレドックスフロー電池とすることができる。
【0029】
負極電解液が上記金属イオンのうち、単一種の金属イオンを含有する形態として、負極電解液は、以下の(1)〜(5)のいずれか一つを満たす形態が挙げられる。
(1) 3価のチタンイオン及び4価のチタンイオンの少なくとも一種のチタンイオンを含有する。
(2) 2価のバナジウムイオン及び3価のバナジウムイオンの少なくとも一種のバナジウムイオンを含有する。
(3) 2価のクロムイオン及び3価のクロムイオンの少なくとも一種のクロムイオンを含有する。
(4) 2価の亜鉛イオンを含有する。
(5) 2価のスズイオン及び4価のスズイオンの少なくとも一種のスズイオンを含有する。
【0030】
上記(1)を満たす場合、上記いずれかのチタンイオンを含有することで、放電時:4価のチタンイオン(Ti4+、TiO2+など)が存在し、充電時:3価のチタンイオン(Ti3+)が存在し、充放電の繰り返しにより、両チタンイオンが存在する形態となる。但し、チタンイオンには、2価のものが存在し得る。従って、負極電解液として、2価のチタンイオン、3価のチタンイオン、及び4価のチタンイオンから選択される少なくとも一種のチタンイオンを含有する形態としてもよい。
【0031】
上記(2)を満たす場合、上記いずれかのバナジウムイオンを含有することで、放電時:3価のバナジウムイオン(V3+)が存在し、充電時:2価のバナジウムイオン(V2+)が存在し、充放電の繰り返しにより、両バナジウムイオンが存在する形態となる。上記(3)を満たす場合、上記いずれかのクロムイオンを含有することで、放電時:3価のクロムイオン(Cr3+)が存在し、充電時:2価のクロムイオン(Cr2+)が存在し、充放電の繰り返しにより、両クロムイオンが存在する形態となる。上記(4)を満たす場合、2価の亜鉛イオンを含有することで、放電時:2価の亜鉛イオン(Zn2+)が存在し、充電時:金属亜鉛(Zn)が存在し、充放電の繰り返しにより、2価の亜鉛イオンが存在する形態となる。上記(5)を満たす場合、上記いずれかのスズイオンを含有することで、放電時:4価のスズイオン(Sn4+)が存在し、充電時:2価のスズイオン(Sn2+)が存在し、充放電の繰り返しにより、両スズイオンが存在する形態となる。
【0032】
負極電解液が複数種の金属イオンを含有する場合、充電時の電圧の上昇に伴って各金属イオンが一つずつ順番に電池反応を行うように、各金属の標準酸化還元電位を考慮して組合せることが好ましい。電位が貴な順に、Ti3+/Ti4+,V2+/V3+,Cr2+/Cr3+を組み合せて含む形態が好ましい。また、負極にもマンガンイオンを含有させることができ、例えば、チタンイオン及びマンガンイオン、クロムイオン及びマンガンイオン、などを含有する負極電解液とすることができる。負極電解液に含有するマンガンイオンは、活物質として機能させるのではなく、主として、両極の電解液の金属イオン種を重複させるために含有する。より具体的には、例えば、負極活物質としてチタンイオンを含有し、正極電解液の金属イオン種と重複する、或いは揃うようにマンガンイオンを含有する場合、負極電解液は、3価のチタンイオン及び4価のチタンイオンの少なくとも一種のチタンイオンと、2価のマンガンイオンとを含有する形態、2価のチタンイオン、3価のチタンイオン、及び4価のチタンイオンから選択される少なくとも一種のチタンイオンと、2価のマンガンイオンとを含有する形態が挙げられる。正極電解液も、正極活物質となるマンガンイオンに加えて、上述したチタンイオンのように活物質として実質的に機能しない金属イオンを含有した形態とすることができる。例えば、負極電解液がクロムイオンと、マンガンイオン(代表的には2価のマンガンイオン)とを含有し、正極電解液は、上記マンガンイオン及びチタンイオンに加えて、クロムイオン(代表的には3価のクロムイオン)を含有する形態とすることができる。このように両極の電解液の金属イオン種が重複したり、金属イオン種が等しくなったりすることで、(1)液移りに伴って各極の金属イオンが相互に対極に移動することにより、各極で本来活物質として反応する金属イオンが減少して電池容量が減少する現象を抑制できる、(2)液移りにより液量がアンバランスになっても是正し易い、(3)電解液の製造性に優れる、といった効果を奏する。
【0033】
両極の電解液に含有される活物質となる金属イオンの濃度はいずれも0.3M以上5M以下が好ましい(「M」:体積モル濃度)。従って、本発明の一形態として、上記正極電解液のマンガンイオンの濃度、及び上記負極電解液の各金属イオンの濃度がいずれも0.3M以上5M以下である形態が挙げられる。また、各極の電解液に主として金属イオン種を重複させるために含有させる金属イオンの濃度も、0.3M以上5M以下が好ましい。例えば、正極電解液にチタンイオンを含有する場合、正極電解液中のマンガンイオン及びチタンイオンの各濃度がいずれも0.3M以上5M以下である形態が挙げられる。例えば、正負極電解液のいずれもがマンガンイオン及びチタンイオンの双方を含有する場合、マンガンイオン及びチタンイオンの各濃度がいずれも0.3M以上5M以下である形態が挙げられる。
【0034】
両極の活物質となる金属イオンの濃度が0.3M未満では、大容量の蓄電池として十分なエネルギー密度(例えば、10kWh/m3程度)を確保することが難しい。エネルギー密度の増大を図るためには、上記金属イオンの濃度は高い方が好ましく、0.5M以上、更に1.0M以上がより好ましい。正極電解液中にチタンイオンが存在する形態では、正極電解液中のマンガンイオンの濃度を0.5M以上、1.0M以上といった非常に高濃度としても、Mn(3価)が安定しており、析出物を抑制できるため、良好に充放電を行うことができる。但し、電解液の溶媒を酸の水溶液とする場合、酸濃度をある程度高めると上述のようにMnO2の析出を抑制できるものの、酸濃度の上昇により金属イオンの溶解度の低下を招くことから、上記金属イオンの濃度の上限は5Mと考えられる。正極電解液中にチタンイオンが存在する形態では、正極活物質として積極的には機能しない当該チタンイオンも、濃度が0.3M〜5Mを満たすことで、MnO2の析出を十分に抑制したり、上述のように正極電解液の溶媒を酸の水溶液とする場合に酸濃度をある程度高められる。特に、正負極の金属イオンの種類や濃度を等しくすると、対極への金属イオンの移動に伴う電池容量の減少や液移りの是正が容易になる。また、正負極の電解液に同種の金属イオンが存在する形態では、正負極の金属イオンの濃度を等しくし、かつ正負極の電解液量を等しくする観点から、一つの極内の金属イオンの濃度(例えば、チタンイオンの濃度とマンガンイオンの濃度)は等しいことが好ましい。
【0035】
本発明の一形態として、上記両極電解液の溶媒は、H2SO4、K2SO4、Na2SO4、H3PO4、H4P2O7、K2PO4、Na3PO4、K3PO4、HNO3、KNO3、及びNaNO3から選択される少なくとも一種の水溶液である形態が挙げられる。
【0036】
上述の金属イオン、即ち、両極の活物質となる金属イオンや析出抑制のための金属イオン、活物質として積極的に機能しない金属イオンがいずれも水溶性イオンであるため、両極の電解液の溶媒として、水溶液を好適に利用することができる。特に、水溶液として、上記硫酸、リン酸、硝酸、硫酸塩、リン酸塩、及び硝酸塩の少なくとも一種を含有する場合、(1)金属イオンの安定性の向上や反応性の向上、溶解度の向上が得られる場合がある、(2)Mnのような電位が高い金属イオンを用いる場合でも、副反応が生じ難い(分解が生じ難い)、(3)イオン伝導度が高く、電池の内部抵抗が小さくなる、(4)塩酸(HCl)を利用した場合と異なり、塩素ガスが発生しない、といった複数の効果が期待できる。この形態の電解液は、硫酸アニオン(SO42-)、リン酸アニオン(代表的にはPO43-)、及び硝酸アニオン(NO3-)の少なくとも一種が存在する。但し、電解液中の上記酸の濃度が高過ぎると、マンガンイオンの溶解度の低下や電解液の粘度の増加を招く恐れがあるため、上記酸の濃度は5M未満が好ましいと考えられる。
【0037】
本発明の一形態として、上記両電解液が硫酸アニオン(SO42-)を含有する形態が挙げられる。このとき、上記両電解液の硫酸濃度は5M未満が好ましい。
【0038】
両電解液が硫酸アニオン(SO42-)を含有する形態では、上述したリン酸アニオンや硝酸アニオンを含有する場合と比較して、両極の活物質となる金属イオンの安定性や反応性、析出抑制のための金属イオンの安定性、両極の金属イオン種を等しくすることを目的とし、活物質として積極的に機能しない金属イオンの安定性などを向上できるため好ましい。両電解液が硫酸アニオンを含有するには、例えば、上記金属イオンを含む硫酸塩を利用することが挙げられる。更に、硫酸塩を用いることに加えて、電解液の溶媒を硫酸水溶液とすると、上述のように金属イオンの安定性や反応性の向上、副反応の抑制、内部抵抗の低減などを図ることができる。但し、硫酸濃度が高過ぎると、上記溶解度の低下を招くため、硫酸濃度は、5M未満が好ましく、1M〜4Mが利用し易い。
【0039】
本発明の一形態として、上記正極電極及び上記負極電極は、以下の(1)〜(10)から選択される少なくとも一種の材料から構成された形態が挙げられる。
(1) Ru,Ti,Ir,Mn,Pd,Au,及びPtから選択される少なくとも一種の金属と、Ru,Ti,Ir,Mn,Pd,Au,及びPtから選択される少なくとも一種の金属の酸化物とを含む複合材(例えば、Ti基体にIr酸化物やRu酸化物を塗布したもの)、(2) 上記複合材を含むカーボン複合物、(3) 上記複合材を含む寸法安定電極(DSE)、(4) 導電性ポリマ(例えば、ポリアセチレン、ポリチオフェンなどの電気を通す高分子材料)、(5) グラファイト、(6) ガラス質カーボン、(7) 導電性ダイヤモンド、(8) 導電性ダイヤモンドライクカーボン(DLC)、(9) カーボンファイバからなる不織布、(10) カーボンファイバからなる織布
【0040】
ここで、電解液を水溶液とする場合、Mn2+/Mn3+の標準酸化還元電位が酸素発生電位(約1.0V)よりも貴な電位であることで、充電時、酸素ガスの発生を伴う可能性がある。これに対し、例えば、カーボンファイバからなる不織布(カーボンフェルト)から構成される電極を利用すると、酸素ガスが発生し難く、導電性ダイヤモンドから構成される電極の中には、酸素ガスが実質的に発生しないものがある。このように電極材料を適宜選択することで、酸素ガスの発生をも効果的に低減又は抑制できる。また、上記カーボンファイバからなる不織布から構成される電極は、(1)表面積が大きい、(2)電解液の流通性に優れる、といった効果がある。
【0041】
本発明の一形態として、上記隔膜は、多孔質膜、膨潤性隔膜、陽イオン交換膜、及び陰イオン交換膜から選択される少なくとも一種の膜である形態が挙げられる。膨潤性隔膜とは、官能基を持たず、かつ水を含む高分子(例えば、セロハン)で構成された隔膜を言う。イオン交換膜は、(1)正負極の活物質である金属イオンの隔離性に優れる、(2)H+イオン(電池内部の電荷担体)の透過性に優れる、といった効果があり、隔膜に好適に利用することができる。
【発明の効果】
【0042】
本発明レドックスフロー電池は、高い起電力が得られる上に、析出物の生成を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】図1(I)は、実施形態1のレドックスフロー電池を具える電池システムの動作原理を示す説明図、図1(II)は、更に制御手段を具える上記電池システムの機能ブロック図である。
【図2】図2は、実施形態2のレドックスフロー電池を具える電池システムの動作原理を示す説明図である。
【図3】図3は、実施形態3のレドックスフロー電池を具える電池システムの動作原理を示す説明図である。
【図4】図4は、試験例2で作製したTi/Mn系レドックスフロー電池において、隔膜を異ならせた場合の充放電のサイクル時間(sec)と電池電圧(V)との関係を示すグラフである。
【図5】図5は、硫酸濃度(M)と、マンガンイオン(2価)の溶解度(M)との関係を示すグラフである。
【図6】図6は、試験例4で作製したV/Mn系レドックスフロー電池において、マンガンイオン濃度を変化させた場合の充放電のサイクル時間(sec)と電池電圧(V)との関係を示すグラフである。
【図7】図7は、試験例5で作製したV/Mn系レドックスフロー電池において、硫酸濃度を変化させた場合の充放電のサイクル時間(sec)と電池電圧(V)との関係を示すグラフである。
【図8】図8は、試験例6で作製したV/Mn系レドックスフロー電池において、硫酸濃度を変化させた場合の充放電のサイクル時間(sec)と電池電圧(V)との関係を示すグラフである。
【図9】図9は、試験例7で作製したTi/Mn系レドックスフロー電池において、各極の電解液量や電流密度を変化させた場合の充放電のサイクル時間(sec)と電池電圧(V)との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0044】
以下、図1〜図3を参照して、実施形態1〜実施形態3のレドックスフロー電池を具える電池システムの概要を説明する。図1(I),図2に示すイオン種は例示である。図1〜図3において、同一符号は同一名称物を示す。また、図1〜図3において、実線矢印は、充電、破線矢印は、放電を意味する。その他、図1〜図3に示す金属イオンは代表的な形態を示しており、図示される以外の形態も含み得る。例えば、図1(I),図2,図3では、4価のチタンイオンとしてTi4+を示すが、TiO2+などのその他の形態も含み得る。
【0045】
実施形態1〜実施形態3のレドックスフロー電池100の基本的構成は同様であるため、まず、図1(I),図2,図3を参照して基本的構成を説明する。レドックスフロー電池100は、代表的には、交流/直流変換器を介して、発電部(例えば、太陽光発電機、風力発電機、その他、一般の発電所など)と電力系統や需要家とに接続され、発電部を電力供給源として充電を行い、電力系統や需要家を電力提供対象として放電を行う。上記充放電を行うにあたり、レドックスフロー電池100と、この電池100に電解液を循環させる循環機構(タンク、導管、ポンプ)とを具える以下の電池システムが構築される。
【0046】
レドックスフロー電池100は、正極電極104を内蔵する正極セル102と、負極電極105を内蔵する負極セル103と、両セル102,103を分離すると共に適宜イオンを透過する隔膜101とを具える。正極セル102には、正極電解液用のタンク106が導管108,110を介して接続される。負極セル103には、負極電解液用のタンク107が導管109,111を介して接続される。導管108,109には、各極の電解液を循環させるためのポンプ112,113を具える。レドックスフロー電池100は、導管108〜111、ポンプ112,113を利用して、正極セル102(正極電極104)、負極セル103(負極電極105)にそれぞれタンク106の正極電解液、タンク107の負極電解液を循環供給して、各極の電解液中の活物質となる金属イオンの価数変化反応に伴って充放電を行う。
【0047】
レドックスフロー電池100は、代表的には、上記セル102,103を複数積層させたセルスタックと呼ばれる形態が利用される。上記セル102,103は、一面に正極電極104、他面に負極電極105が配置される双極板(図示せず)と、電解液を供給する給液孔及び電解液を排出する排液孔を有し、かつ上記双極板の外周に形成される枠体(図示せず)とを具えるセルフレームを用いた構成が代表的である。複数のセルフレームを積層することで、上記給液孔及び排液孔は電解液の流路を構成し、この流路は導管108〜111に適宜接続される。セルスタックは、セルフレーム、正極電極104、隔膜101、負極電極105、セルフレーム、…と順に繰り返し積層されて構成される。なお、レドックスフロー電池システムの基本構成は、公知の構成を適宜利用することができる。
【0048】
特に、実施形態1のレドックスフロー電池では、上記正極電解液にマンガンイオンを含有し、上記負極電解液にチタンイオン、バナジウムイオン、クロムイオン、亜鉛イオン、及びスズイオンから選択される少なくとも一種の金属イオンを含有する(図1(I)では、例としてチタンイオンを示す)。そして、実施形態1のレドックスフロー電池100は、マンガンイオンを正極活物質とし、上記金属イオンを負極活物質とし、正極電解液の充電深度が90%以下となるように運転される。この形態では、上記レドックスフロー電池システムとして、更に、充電深度が特定の範囲となるように運転状態を制御する制御手段を具えることが好ましい。後述するように、充電深度は、充電時間と、理論充電時間とから求められる。従って、上記制御手段200は、例えば、図1(II)に示すように理論充電時間の算出に利用するパラメータ(充電電流、活物質電気量など)を予め入力する入力手段201と、入力されたパラメータから理論充電時間を算出する充電時間演算手段202と、種々の入力値などを記憶する記憶手段203と、電池100の充電時間を測定するタイマ手段204と、測定した充電時間と演算により求めた理論充電時間とから充電深度を演算するSOC演算手段205と、充電深度が特定の範囲内か否かを判断する判断手段206と、判断手段の結果から、電池100の充電時間を調整するために、電池100の運転の継続又は停止を命令する命令手段207とを具えるものが挙げられる。このような制御手段には、上記演算手段などを具える処理装置と、キーボードといった直接入力手段210とを具えるコンピュータを好適に利用できる。更に、モニタといった表示手段211を具えていてもよい。
【0049】
特に、実施形態2のレドックスフロー電池では、上記正極電解液にマンガンイオン及びチタンイオンの双方を含有し、上記負極電解液にチタンイオン、バナジウムイオン、クロムイオン、亜鉛イオン、及びスズイオンから選択される少なくとも一種の金属イオンを含有する(図2では、例としてチタンイオンを示す)。この実施形態2のレドックスフロー電池100は、マンガンイオンを正極活物質とし、上記金属イオンを負極活物質とする。
【0050】
特に、実施形態3のレドックスフロー電池では、上記正極電解液及び上記負極電解液の双方にマンガンイオン及びチタンイオンの双方を含有し、正極電解液中のマンガンイオンを正極活物質とし、負極電解液中のチタンイオンを負極活物質とする。
【0051】
以下、実施形態1のレドックスフロー電池の電解液及び運転条件について試験例を挙げて説明する。
[試験例1]
図1に示すレドックスフロー電池システムを構築し、正極電解液として、活物質にマンガンイオンを含有する電解液を用いて充放電を行い、この正極電解液の充電深度(SOC)と析出現象との関係を調べた。
【0052】
正極電解液として、硫酸濃度が4Mの硫酸水溶液(H2SO4aq)に硫酸マンガン(2価)を溶解して、マンガンイオン(2価)の濃度が1Mの電解液を用意した。負極電解液として、硫酸濃度が1.75Mの硫酸水溶液(H2SO4aq)に硫酸バナジウム(3価)を溶解して、バナジウムイオン(3価)の濃度が1.7Mの電解液を用意した。また、各極の電極には、カーボンフェルト、隔膜には、陰イオン交換膜を用いた。
【0053】
この試験では、電極の反応面積が9cm2である小型セルを作製し、上記各極の電解液をそれぞれ6ml(6cc)ずつ用意して、これらの電解液を用いて充放電を行った。特に、この試験では、充電と放電とを切り替えるときの電池電圧:切替電圧を上限充電電圧とし、表1に示すように切替電圧を変化させることで、充電終了時の正極電解液の充電深度を異ならせた。充電及び放電はいずれも、電流密度:70mA/cm2の定電流で行い、表1に示す切替電圧に達したら、充電から放電に切り替えた。充電深度は、通電した電気量(積算値:A×h(時間))が全て充電(1電子反応:Mn2+→Mn3++e-)に使用されたと想定して、以下のように算出した。また、充電深度の測定は、初期の充電時間を利用した。試験例1及び後述する試験例のいずれも、充電効率がほぼ100%であり、通電した電気量が全て充電に使用されたと想定しても誤差は小さいと考えられる。
【0054】
充電電気量(A・秒)=充電時間(t)×充電電流(I)
活物質電気量=モル数×ファラデー定数=体積×濃度×96,485(A・秒/モル)
理論充電時間=活物質電気量/充電電流(I)
充電深度=充電電気量/理論充電電気量
=(充電時間×電流)/(理論充電時間×電流)
=充電時間/理論充電時間
【0055】
上述の条件で3回の充放電サイクルを繰り返した後、析出物の有無を調べた。その結果を表1に示す。
【0056】
【表1】

【0057】
表1に示すように、充電深度を90%超とすると、3回の充放電サイクルでも析出物が生じ、この析出物により、上記サイクル以降、電池として機能させることが困難であった。析出物を調べたところ、MnO2であった。
【0058】
これに対して、充電深度を90%以下とすると、2価のマンガンイオンと3価のマンガンイオンとの酸化還元反応が可逆に生じて、電池として十分に機能することができた。また、充電深度が90%近くでは若干の析出物が認められたが、問題なく使用することができ、70%以下では実質的に析出物が観察されなかった。更に、カーボンフェルト製の電極を利用することで、酸素ガスの発生は、実質的に無視できる程度であった。
【0059】
このように正極活物質としてマンガンイオンを含有する正極電解液を用いたレドックスフロー電池であっても、正極電解液の充電深度を90%以下として運転することで、MnO2といった析出物の析出を効果的に抑制し、良好に充放電を行えることが分かる。特に、この試験例に示すバナジウム-マンガン系レドックスフロー電池では、約1.8Vといった高い起電力を有することができる。
【0060】
上記硫酸バナジウム(3価)に代えて、硫酸クロム(3価)、硫酸亜鉛(2価)、硫酸スズ(4価)を用いた場合も、充電終了時の正極電解液の充電深度が90%以下となるように運転を行うことで、析出物の析出を抑制することができる。
【0061】
[試験例2]
試験例1と同様にレドックスフロー電池システムを構築して充放電を行い、電池特性(電流効率、電圧効率、エネルギー効率)を調べた。
【0062】
この試験では、負極活物質を試験例1と異なる金属イオンとした。具体的には、負極電解液は、硫酸濃度が3.6Mの硫酸水溶液(H2SO4aq)に硫酸チタン(4価)を溶解して、チタンイオン(4価)の濃度が1Mの電解液を用意した。正極電解液は、試験例1と同様にした(硫酸濃度:4M、硫酸マンガン(2価)使用、マンガンイオン(2価)の濃度:1M)。また、各極の電極には、カーボンフェルト、隔膜には、陰イオン交換膜、陽イオン交換膜をそれぞれ用いた。
【0063】
試験例1と同様に、電極の反応面積が9cm2の小型セルを作製し、上記各極の電解液をそれぞれ6ml(6cc)ずつ用意して、これらの電解液を用い、試験例1と同様に電流密度:70mA/cm2の定電流で充放電を行った。この試験では、充電終了時の正極電解液の充電深度が90%以下となるように、図4に示すように切替電圧が1.60Vに達したところで充電を終了し、放電に切り替えた。
【0064】
その結果、陰イオン交換膜及び陽イオン交換膜のいずれを用いた場合も、若干の析出物(MnO2)が観察されたものの、図4に示すように、試験例1と同様に2価のマンガンイオンと3価のマンガンイオンとの酸化還元反応が可逆に生じて、電池として問題なく機能することが確認できた。
【0065】
また、陰イオン交換膜を用いた場合、陽イオン交換膜を用いた場合のそれぞれについて、上記充放電を行った場合の電流効率、電圧効率、エネルギー効率を調べた。電流効率は、放電電気量(C)/充電電気量(C)、電圧効率は、放電電圧(V)/充電電圧(V)、エネルギー効率は、電流効率×電圧効率で表わされる。これらの各効率は、通電した電気量の積算値(A×h(時間))、充電時の平均電圧及び放電時の平均電圧をそれぞれ測定して、これら測定値を利用して算出する。更に、試験例1と同様にして充電深度を求めた。
【0066】
その結果、陰イオン交換膜を用いた場合、電流効率:97.8%、電圧効率:88.6%、エネルギー効率:86.7%、放電容量:12.9min(理論放電容量に対する割合:84%)、充電深度:86%(13.2min)であり、陽イオン交換膜を用いた場合、電流効率:98.2%、電圧効率:85.1%、エネルギー効率:83.5%、放電容量:12.9min(理論放電容量に対する割合:84%)、充電深度:90%(14min)であり、いずれの場合も優れた電池特性を有することが確認できた。
【0067】
[試験例3]
硫酸(H2SO4)に対するマンガンイオン(2価)の溶解度を調べた。その結果を図5に示す。図5に示すように硫酸濃度の増加に従って、マンガンイオン(2価)の溶解度が減少し、硫酸濃度が5Mの場合、溶解度は0.3Mとなることが分かる。逆に、硫酸濃度が低い領域では、4Mという高い溶解度が得られることが分かる。この結果から、電解液中のマンガンイオン濃度を高めるためには、特に、実用上望まれる0.3M以上の濃度を得るためには、電解液の溶媒に硫酸水溶液を用いる場合、硫酸濃度を5M未満と低くすることが好ましいことが分かる。
【0068】
[試験例4]
試験例1と同様にバナジウム-マンガン系レドックスフロー電池システムを構築して充放電を行い、析出状態を調べた。
【0069】
この試験では、正極電解液として、硫酸マンガン(2価)を硫酸水溶液(H2SO4aq)に溶解したものであって、硫酸濃度と、マンガンイオン(2価)の濃度とを変化させた以下の3種類の正極電解液(I)〜(III)を用意した。また、負極電解液は、硫酸濃度が1.75Mの硫酸水溶液(H2SO4aq)に硫酸バナジウム(3価)を溶解して、バナジウムイオン(3価)の濃度が1.7Mの電解液を用意した。電解液以外の構成は、試験例1のレドックスフロー電池と同様の構成とした(隔膜:陰イオン交換膜、電極:カーボンフェルト、電池反応面積:9cm2、各電解液量:6ml)。
(I) 硫酸濃度:マンガンイオン(2価)濃度=1M:4M
(II) 硫酸濃度:マンガンイオン(2価)濃度=2M:3M
(III) 硫酸濃度:マンガンイオン(2価)濃度=4M:1.5M
【0070】
充電及び放電のいずれも、電流密度:70mA/cm2の定電流で行い、図6に示すように電池電圧(切替電圧)が2.10Vに達したときに充電を終了し、放電に切り替える、という充放電を繰り返し行った。
【0071】
その結果、上記(I)及び(II)の正極電解液を用いた場合、後述するように充電深度が90%以下となっており、若干の析出物(MnO2)が観察されたものの、問題なく良好に充放電を行えた。これに対し、上記(III)の正極電解液を用いた場合、充電深度が90%超(122%)となっており、数回のサイクルで多くのMnO2の析出が観察された。このように液組成が異なると、切替電圧を等しくしても、充電深度が異なることが分かる。従って、正極電解液の充電深度を90%超として長期に亘り運転する場合、MnO2の析出を抑制する対策が必要である。
【0072】
この試験に用いたレドックスフロー電池に対して、試験例2と同様にして電池特性を調べたところ、正極電解液(I)を用いたレドックスフロー電池は、電流効率:84.2%、電圧効率:81.4%、エネルギー効率:68.6%、放電容量:18.2min(理論放電容量に対する割合:30%)、充電深度:44%(26.8min)であり、正極電解液(II)を用いたレドックスフロー電池は、電流効率:94.2%、電圧効率:87.6%、エネルギー効率:82.6%、放電容量:25.7min(理論放電容量に対する割合:56%)、充電深度:60%(27.4min)であり、正極電解液(III)を用いたレドックスフロー電池は、運転初期に測定したところ、電流効率:97.1%、電圧効率:89.4%、エネルギー効率:86.7%、放電容量:25.6min(理論放電容量に対する割合:111%)、充電深度:122%(28.1min)であった。正極電解液(I),(II)を用いた場合、優れた電池特性を有することが分かる。また、この結果から、硫酸濃度が高いほど、また、マンガンイオン(2価)の濃度が0.3M以上5M以下の範囲では当該濃度が低いほど、電池特性に優れる傾向にあると言える。
【0073】
[試験例5]
試験例4と同様にバナジウム-マンガン系レドックスフロー電池システムを構築して充放電を行い、析出状態を調べた。
【0074】
この試験では、正極電解液のマンガンイオン(2価)の濃度を1Mに固定し、硫酸濃度を2M,3M,4Mに変化させた3種類の正極電解液(順に電解液(I),(II),(III)と呼ぶ)を用意した以外の構成は、試験例4と同様にし(負極電解液;硫酸濃度:1.75M,バナジウムイオン(3価)濃度:1.7M,隔膜:陰イオン交換膜、電極:カーボンフェルト、電池反応面積:9cm2、各電解液量:6ml)、試験例4と同様の条件で充放電を繰り返し行った(切替電圧:2.1V、電流密度:70mA/cm2)。図7に、電解液(I)〜(III)を用いた場合の充放電のサイクル時間と電池電圧との関係を示す。
【0075】
その結果、後述するように充電深度が90%以下となるように運転を行えた電解液(I),(II)を用いたレドックスフロー電池では、若干の析出物(MnO2)が観察されたものの、問題なく良好に充放電を行えた。一方、充電深度が90%超となった電解液(III)を用いたレドックスフロー電池では、3サイクル程度の運転は可能であったが、数回の運転で多量の析出物が認められ、運転の継続が困難であった。
【0076】
この試験に用いたレドックスフロー電池に対して、試験例2と同様にして電池特性を調べたところ、電解液(I)を用いたレドックスフロー電池は、電流効率:86.1%、電圧効率:84.4%、エネルギー効率:72.6%、放電容量:7.3min(理論放電容量に対する割合:48%)、充電深度:63%(9.7min)であり、電解液(II)を用いたレドックスフロー電池は、電流効率:89.1%、電圧効率:87.3%、エネルギー効率:77.7%、放電容量:11.8min(理論放電容量に対する割合:77%)、充電深度:90%(13.7min)であり、優れた電池特性を有することが分かる。一方、電解液(III)を用いたレドックスフロー電池は、運転初期に測定したところ、電流効率:96.9%、電圧効率:88.5%、エネルギー効率:85.7%、放電容量:19.3min(理論放電容量に対する割合:126%)、充電深度:159%(24.3min)であった。
【0077】
ここで、体積:6ml、マンガンイオン(2価)の濃度:1Mの電解液における1電子反応の理論放電容量(放電時間)は15.3分である。これに対して、この試験では、硫酸濃度が4Mである電解液(III)を用いた場合、驚くべきことに19.3分の放電容量が得られた。放電容量がこのように増加した理由は、不均化反応により生成されたMnO2(4価)が2電子反応によりマンガンイオン(2価)に還元されたためと考えられる。このことから、2電子反応(4価→2価)に伴う現象を利用することで、エネルギー密度が高められ、より大きな電池容量が得られると考えられる。
【0078】
以下、実施形態2のレドックスフロー電池について、試験例を挙げて説明する。
[試験例6]
図2に示す実施形態2のレドックスフロー電池システムを構築し、正極電解液として、マンガンイオンおよびチタンイオンの双方を含有する電解液を用いて充放電を行い、析出状態及び電池特性を調べた。
【0079】
この試験では、正極電解液として、硫酸濃度が異なる二種類の硫酸水溶液(H2SO4aq)を用意し、各硫酸水溶液に硫酸マンガン(2価)及び硫酸チタン(4価)を溶解して、マンガンイオン(2価)の濃度が1M、かつチタンイオン(4価)の濃度が1Mの電解液を用意した。以下、硫酸濃度を1Mとした正極電解液を電解液(I)、硫酸濃度を2.5Mとした正極電解液を電解液(II)と呼ぶ。負極電解液として、硫酸濃度が1.75Mの硫酸水溶液(H2SO4aq)に硫酸バナジウム(3価)を溶解して、バナジウムイオン(3価)の濃度が1.7Mの電解液を用意した。また、各極の電極には、カーボンフェルト、隔膜には、陰イオン交換膜を用いた。
【0080】
この試験では、電極の反応面積が9cm2である小型セルを作製し、上記各極の電解液をそれぞれ6ml(6cc)ずつ用意して、これらの電解液を用いて充放電を行った。特に、この試験では、充電と放電とを切り替えるときの電池電圧:切替電圧を上限充電電圧とし、電解液(I),(II)のいずれを利用した場合も切替電圧を2.1Vとした。充電及び放電はいずれも、電流密度:70mA/cm2の定電流で行い、上記切替電圧に達したら、充電から放電に切り替えた。
【0081】
各電解液(I),(II)を用いたレドックスフロー電池について、初期の充電時間の充電深度を測定した。充電深度は、通電した電気量(積算値:A×h(時間))が全て充電(1電子反応:Mn2+→Mn3++e-)に使用されたと想定して、試験例1と同様にして算出した。この試験では、充電効率がほぼ100%であり、通電した電気量が全て充電に使用されたと想定しても誤差は小さいと考えられる。
【0082】
図8(I)に電解液(I)、図8(II)に電解液(II)を用いた場合の充放電サイクル時間と電池電圧との関係を示す。電解液(I)を用いたレドックスフロー電池の充電深度は118%(18min)、電解液(II)を用いたレドックスフロー電池の充電深度は146%である。そして、このように充電終了時の正極電解液の充電深度が100%を超えるまで、更には130%を超えるまで充電を行った場合でも、析出物(MnO2)が実質的に全く観察されず、2価のマンガンイオンと3価のマンガンイオンとの酸化還元反応が可逆に生じて、電池として問題なく機能することが確認できた。この結果から、正極電解液にチタンイオンを含有することで、Mn3+が安定化されていると共に、MnO2が生成されても析出物とならず安定して電解液中に存在して、充放電反応に作用していると推測される。
【0083】
また、電解液(I),(II)を用いた場合のそれぞれについて、上記充放電を行った場合の電流効率、電圧効率、エネルギー効率を調べた。電流効率、電圧効率、エネルギー効率の算出は、試験例2と同様にした。
【0084】
その結果、電解液(I)を用いた場合、電流効率:98.4%、電圧効率:85.6%、エネルギー効率:84.2%、電解液(II)を用いた場合、電流効率:98.3%、電圧効率:87.9%、エネルギー効率:86.4%であり、いずれの場合も優れた電池特性を有することが確認できた。
【0085】
ここで、体積:6ml、マンガンイオン(2価)の濃度:1Mの電解液における1電子反応の理論放電容量(放電時間)は上述のように15.3分である。これに対して、電解液(I),(II)を用いた場合、放電容量はそれぞれ16.8min,19.7minであり、上記理論放電容量に対してそれぞれ110%,129%に相当する。放電容量がこのように増加した理由は、充電時に生成されたMnO2(4価)が2電子反応によりマンガンイオン(2価)に還元されたためと考えられる。このことから、上述のように2電子反応(4価→2価)に伴う現象を利用することで、エネルギー密度が高められ、より大きな電池容量が得られると考えられる。
【0086】
このように正極活物質としてマンガンイオンを含有する正極電解液を用いたレドックスフロー電池であっても、チタンイオンを存在させることで、MnO2といった析出物の析出を効果的に抑制し、良好に充放電を行えることが分かる。特に、この試験例に示すバナジウム-マンガン系レドックスフロー電池では、約1.8Vといった高い起電力を有することができる。更に、カーボンフェルト製の電極を利用することで、酸素ガスの発生は、実質的に無視できる程度であった。
【0087】
上記硫酸バナジウム(3価)に代えて、硫酸チタン(4価)、硫酸クロム(3価)、硫酸亜鉛(2価)、硫酸スズ(4価)を用いた場合も、正極電解液にマンガンイオンと共にチタンイオン(4価)を共存させておくことで、析出物の析出を抑制することができる。
【0088】
以下、実施形態3のレドックスフロー電池について、試験例を挙げて説明する。
[試験例7]
図3に示す実施形態3のレドックスフロー電池システムを構築し、正極電解液及び負極電解液の双方に、マンガンイオン及びチタンイオンの双方を含有する電解液を用いて充放電を行い、析出状態及び電池特性を調べた。
【0089】
この試験では、正極電解液及び上記負極電解液の双方が同一の金属イオン種を含有するように、硫酸濃度が2Mの硫酸水溶液(H2SO4aq)に硫酸マンガン(2価)及び硫酸チタン(4価)を溶解して、マンガンイオン(2価)の濃度かつチタンイオン(4価)の濃度がいずれも1.2Mの電解液を用意した。また、各極の電極には、カーボンフェルト、隔膜には、陰イオン交換膜を用いた。
【0090】
この試験では、電極の反応面積が9cm2である小型セルを作製し、形態(I)では、上記各極の電解液をそれぞれ6ml(6cc)ずつ用意して、形態(II),(III)ではそれぞれ、正極電解液を6ml(6cc)、負極電解液を9ml(9cc)用意して、これらの電解液を用いて充放電を行った。特に、この試験では、充電と放電とを切り替えるときの電池電圧:切替電圧を上限充電電圧とし、形態(I)〜(III)のいずれも切替電圧を1.7Vとした。充電及び放電は、形態(I)及び(III):電流密度:50mA/cm2の定電流で行い、形態(II):電流密度:70mA/cm2の定電流で行い、上記切替電圧に達したら、充電から放電に切り替えた。
【0091】
各形態(I),(II),(III)のレドックスフロー電池について、初期の充電時間の充電深度を測定した。充電深度は、通電した電気量(積算値:A×h(時間))が全て充電(1電子反応:Mn2+→Mn3++e-)に使用されたと想定して、試験例1と同様にして算出した。この試験では、充電効率がほぼ100%であり、通電した電気量が全て充電に使用されたと想定しても誤差は小さいと考えられる。
【0092】
図9(I)に形態(I)、図9(II)に形態(II)、図9(III)に形態(III)の充放電サイクル時間と電池電圧との関係を示す。形態(I)の充電深度は101%(26min)であり、負極電解液量を正極電解液量よりも多くして充電深度を高めたところ、形態(II)の充電深度は110%(20.2min)である。また、各極の電解液量を形態(II)と同様とし、電流密度を70mA/cm2から50mA/cm2に下げることで充電深度を高めたところ、形態(III)の充電深度は139%(35.6min)である。そして、このように充電終了時の正極電解液の充電深度が100%を超えるまで、更には130%を超えるまで充電を行った場合でも、析出物(MnO2)が実質的に全く観察されず、2価のマンガンイオンと3価のマンガンイオンとの酸化還元反応が可逆に生じて、電池として問題なく機能することが確認できた。この結果から、正極電解液にチタンイオンを含有することで、Mn3+が安定化されていると共に、MnO2が生成されても析出物とならず安定して電解液中に存在して、充放電反応に作用していると推測される。
【0093】
また、各形態(I),(II),(III)のそれぞれについて、上記充放電を行った場合の電流効率、電圧効率、エネルギー効率を調べた。電流効率、電圧効率、エネルギー効率の算出は、試験例2と同様にした。
【0094】
その結果、形態(I)では、電流効率:98.8%、電圧効率:88.9%、エネルギー効率:87.9%、形態(II)では、電流効率:99.8%、電圧効率:81.6%、エネルギー効率:81.4%、形態(III)では、電流効率:99.6%、電圧効率:85.3%、エネルギー効率:85.0%であり、いずれの場合も優れた電池特性を有することが確認できた。
【0095】
ここで、体積:6ml、マンガンイオン(2価)の濃度:1.2Mの電解液における1電子反応(Mn3++e-→Mn2+)の理論放電容量(放電時間)は25.7分(50mA/cm2)である。これに対して、形態(I)〜(III)の放電容量はそれぞれ、24.2min(50mA/cm2),20.1min(70mA/cm2),33.5min(50mA/cm2)である。放電容量がこのように増加した理由は、充電時に生成されたMnO2(4価)が2電子反応によりマンガンイオン(2価)に還元されたためと考えられる。このことから、上述のように2電子反応(4価→2価)に伴う現象を利用することで、エネルギー密度が高められ、より大きな電池容量が得られると考えられる。
【0096】
このように正極活物質としてマンガンイオンを含有する正極電解液を用いたレドックスフロー電池であっても、チタンイオンを存在させることで、MnO2といった析出物の析出を効果的に抑制し、良好に充放電を行えることが分かる。特に、この試験例に示すチタン-マンガン系レドックスフロー電池では、約1.4Vといった高い起電力を有することができる。また、このレドックスフロー電池は、正負両極の電解液に存在する金属イオン種が等しいため、(1)対極への金属イオンの移動に伴う電池容量の減少が実質的に生じない、(2)液移りが生じて両極の電解液の液量にばらつきが生じたとしても、ばらつきを容易に是正できる、(3)電解液を製造し易い、という優れた効果を奏する。更に、カーボンフェルト製の電極を利用することで、酸素ガスの発生は、実質的に無視できる程度であった。
【0097】
上述した実施形態は、本発明の要旨を逸脱することなく、適宜変更することが可能であり、上述した構成に限定されるものではない。例えば、正極電解液のマンガンイオンの濃度やチタンイオンの濃度、正極電解液の溶媒の酸濃度、負極活物質の金属イオンの種類や濃度、各極電解液の溶媒の種類や濃度、電極の材質、隔膜の材質などを適宜変更することができる。
【産業上の利用可能性】
【0098】
本発明レドックスフロー電池は、太陽光発電、風力発電などの新エネルギーの発電に対して、発電出力の変動の安定化、発電電力の余剰時の蓄電、負荷平準化などを目的とした大容量の蓄電池に好適に利用することができる。その他、本発明レドックスフロー電池は、一般的な発電所に併設されて、瞬低・停電対策や負荷平準化を目的とした大容量の蓄電池としても好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0099】
100 レドックスフロー電池 101 隔膜 102 正極セル 103 負極セル
104 正極電極 105 負極電極 106 正極電解液用のタンク
107 負極電解液用のタンク 108,109,110,111 導管 112,113 ポンプ
200 制御手段 201 入力手段 202 充電時間演算手段 203 記憶手段
204 タイマ手段 205 SOC演算手段 206 判断手段 207 命令手段
210 直接入力手段 211 表示手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極電極と、負極電極と、これら両電極間に介在される隔膜とを具える電池セルに正極電解液及び負極電解液を供給して充放電を行うレドックスフロー電池であって、
前記正極電解液は、マンガンイオンを含有し、
前記負極電解液は、チタンイオン、バナジウムイオン、クロムイオン、亜鉛イオン、及びスズイオンから選択される少なくとも一種の金属イオンを含有し、
MnO2の析出を抑制する析出抑制手段を具えることを特徴とするレドックスフロー電池。
【請求項2】
前記析出抑制手段として、前記正極電解液にチタンイオンを含有していることを特徴とする請求項1に記載のレドックスフロー電池。
【請求項3】
前記正極電解液及び前記負極電解液の双方が、マンガンイオン及びチタンイオンの双方を含有していることを特徴とする請求項1又は2に記載のレドックスフロー電池。
【請求項4】
前記析出抑制手段として、前記正極電解液の充電深度を1電子反応で計算して90%以下となるように運転することを特徴とする請求項1に記載のレドックスフロー電池。
【請求項5】
前記マンガンイオン及びチタンイオンの各濃度がいずれも0.3M以上5M以下であることを特徴とする請求項2又は3に記載のレドックスフロー電池。
【請求項6】
前記マンガンイオンの濃度、及び前記負極電解液の各金属イオンの濃度がいずれも0.3M以上5M以下であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のレドックスフロー電池。
【請求項7】
前記両電解液は、硫酸アニオンを含有し、
前記両電解液の硫酸濃度が5M未満であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のレドックスフロー電池。
【請求項8】
前記正極電解液は、2価のマンガンイオン及び3価のマンガンイオンの少なくとも一種のマンガンイオンと、4価のチタンイオンとを含有し、
前記負極電解液は、以下の(1)〜(5)のいずれか一つを満たすことを特徴とする請求項2に記載のレドックスフロー電池。
(1) 3価のチタンイオン及び4価のチタンイオンの少なくとも一種のチタンイオンを含有する。
(2) 2価のバナジウムイオン及び3価のバナジウムイオンの少なくとも一種のバナジウムイオンを含有する。
(3) 2価のクロムイオン及び3価のクロムイオンの少なくとも一種のクロムイオンを含有する。
(4) 2価の亜鉛イオンを含有する。
(5) 2価のスズイオン及び4価のスズイオンの少なくとも一種のスズイオンを含有する。
【請求項9】
前記正極電解液は、2価のマンガンイオン及び3価のマンガンイオンの少なくとも一種のマンガンイオンと、4価のマンガンと、4価のチタンイオンとを含有し、
前記負極電解液は、以下の(I)〜(V)のいずれか一つを満たすことを特徴とする請求項2に記載のレドックスフロー電池。
(I) 2価のチタンイオン、3価のチタンイオン、及び4価のチタンイオンから選択される少なくとも一種のチタンイオンを含有する。
(II) 2価のバナジウムイオン及び3価のバナジウムイオンの少なくとも一種のバナジウムイオンを含有する。
(III) 2価のクロムイオン及び3価のクロムイオンの少なくとも一種のクロムイオンを含有する。
(IV) 2価の亜鉛イオンを含有する。
(V) 2価のスズイオン及び4価のスズイオンの少なくとも一種のスズイオンを含有する。
【請求項10】
前記正極電解液は、更に、3価のクロムイオンを含有し、
前記負極電解液は、クロムイオンと、2価のマンガンイオンとを含有することを特徴とする請求項2に記載のレドックスフロー電池。
【請求項11】
前記正極電解液は、2価のマンガンイオン及び3価のマンガンイオンの少なくとも一種のマンガンイオンと、4価のチタンイオンとを含有し、
前記負極電解液は、3価のチタンイオン及び4価のチタンイオンの少なくとも一種のチタンイオンと、2価のマンガンイオンとを含有することを特徴とする請求項3に記載のレドックスフロー電池。
【請求項12】
前記正極電解液は、2価のマンガンイオン及び3価のマンガンイオンの少なくとも一種のマンガンイオンと、4価のマンガンと、4価のチタンイオンとを含有し、
前記負極電解液は、2価のチタンイオン、3価のチタンイオン、及び4価のチタンイオンの少なくとも一種のチタンイオンと、2価のマンガンイオンとを含有することを特徴とする請求項3に記載のレドックスフロー電池。
【請求項13】
前記正極電解液は、2価のマンガンイオン及び3価のマンガンイオンの少なくとも一種のマンガンイオンを含有し、
前記負極電解液は、以下の(1)〜(5)のいずれか一つを満たすことを特徴とする請求項4に記載のレドックスフロー電池。
(1) 3価のチタンイオン及び4価のチタンイオンの少なくとも一種のチタンイオンを含有する。
(2) 2価のバナジウムイオン及び3価のバナジウムイオンの少なくとも一種のバナジウムイオンを含有する。
(3) 2価のクロムイオン及び3価のクロムイオンの少なくとも一種のクロムイオンを含有する。
(4) 2価の亜鉛イオンを含有する。
(5) 2価のスズイオン及び4価のスズイオンの少なくとも一種のスズイオンを含有する。
【請求項14】
前記正極電解液は、2価のマンガンイオン及び3価のマンガンイオンの少なくとも一種のマンガンイオンと、4価のマンガンとを含有し、
前記負極電解液は、以下の(I)〜(V)のいずれか一つを満たすことを特徴とする請求項4に記載のレドックスフロー電池。
(I) 2価のチタンイオン、3価のチタンイオン、及び4価のチタンイオンから選択される少なくとも一種のチタンイオンを含有する。
(II) 2価のバナジウムイオン及び3価のバナジウムイオンの少なくとも一種のバナジウムイオンを含有する。
(III) 2価のクロムイオン及び3価のクロムイオンの少なくとも一種のクロムイオンを含有する。
(IV) 2価の亜鉛イオンを含有する。
(V) 2価のスズイオン及び4価のスズイオンの少なくとも一種のスズイオンを含有する。
【請求項15】
前記正極電極及び前記負極電極は、
Ru,Ti,Ir,Mn,Pd,Au,及びPtから選択される少なくとも一種の金属と、Ru,Ti,Ir,Mn,Pd,Au,及びPtから選択される少なくとも一種の金属の酸化物とを含む複合材、
前記複合材を含むカーボン複合物、
前記複合材を含む寸法安定電極(DSE)、
導電性ポリマ、
グラファイト、
ガラス質カーボン、
導電性ダイヤモンド、
導電性ダイヤモンドライクカーボン(DLC)、
カーボンファイバからなる不織布、
及びカーボンファイバからなる織布から選択される少なくとも一種の材料から構成されており、
前記隔膜は、多孔質膜、膨潤性隔膜、陽イオン交換膜、及び陰イオン交換膜から選択される少なくとも一種の膜であることを特徴とする請求項1〜14のいずれか1項に記載のレドックスフロー電池。
【請求項16】
前記両極電解液の溶媒は、H2SO4、K2SO4、Na2SO4、H3PO4、K2PO4、Na3PO4、K3PO4、H4P2O7、HNO3、KNO3、及びNaNO3から選択される少なくとも一種の水溶液であることを特徴とする請求項1〜15のいずれか1項に記載のレドックスフロー電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−9448(P2012−9448A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−192926(P2011−192926)
【出願日】平成23年9月5日(2011.9.5)
【分割の表示】特願2010−549755(P2010−549755)の分割
【原出願日】平成22年9月10日(2010.9.10)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】