説明

レドックスメディエータ

【課題】レドックスメディエータとしての錯体の提供。
【解決手段】レドックスメディエータとして式IIの錯体の使用が開示され、


式中、Mがルテニウム又はオスミウムであって0、1、2、3又は4の酸化状態を有し、x及びnが独立に、1〜6から選択された整数であり、yが0〜5から選択された整数であり、mが−5〜+4の整数であり、zが−2〜+1の整数である。Aが二座、三座、四座、五座又は六座配位子であって、Bが独立に選択された配位子、Xが対イオン、任意にBが、置換又は無置換のアルキル、アルケニル又はアリール基、−F、−Cl、−Br、−I、−NO2、−CN、−CO2H、−SO3H、−NHNH2、−SH、アリール、アルコキシカルボニル、アルキルアミノカルボニル、ジアルキルアミノカルボニル、−OH、アルコキシ、−NH2、アルキルアミノから、独立に選択された1〜8個の基で置換され、配位原子数が6である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なルテニウム錯体又はオスミウム錯体と、バイオセンサ内での当該錯体の使用に関する。具体的には本発明は、ルテニウム(III)状態においてルテニウム含有化学種上の全電荷が3+未満であるルテニウム錯体のレドックスメディエータとしての使用に関する。
【背景技術】
【0002】
バイオセンサは、生化学的認識成分又は感知要素と物理的トランスデューサとを組み合わせた分析ツールである。当該センサは、個人の健康の監視、環境スクリーニング及び監視、バイオプロセス監視、並びに食品及び飲料業界内のような様々な分野で広範な用途を有する。
【0003】
生物学的な感知要素は酵素、抗体、DNA配列であるか又は微生物でさえあることできる。生化学的な成分は、反応を選択的に触媒するか又は結合事象を促進するのに役立つ。生化学的な認識事象を選択することによりバイオセンサは、例えば体液内のような複雑な試料マトリクス内で動作可能となる。トランスデューサは、生化学的事象を測定可能な信号に変換し、このようにして当該事象を検知する手段として機能する。測定可能な事象は、酵素反応生成物/基質の生産又は消費によるスペクトル変化から、生化学的錯形成時の質量変化まで様々である。
【0004】
一般にトランスデューサは、種々の形態を取り、測定される物理化学的パラメータを指示する。よってトランスデューサは、吸光、蛍光又は屈折率等の変化を測定する光学ベースのものであることもできる。トランスデューサは、生物学的に誘導した結合反応に伴う質量変化を測定する質量ベースのものであることもできる。加えてトランスデューサは、熱ベース(エンタルピー(熱)変化を測定する)、又は電流測定ベース若しくはインピーダンスベース(検体・バイオ認識層相互作用に伴う電気的特性変化を測定する)のものであることもできる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
バイオセンサは、分散測定の便利さと容易を提供し、すなわち、懸念点又はポイント・オブ・ケアに対しアッセイを行うことができる潜在的可能性を提供する。適切に設計し製造したバイオセンサ装置は、便利に大量生産することもできる。
【0006】
しかしながら、バイオセンサの使用には幾つかの制限がある。この制限には、汚れ(foulant)及び干渉に対するトランスデューサの脆弱性が含まれる。
酵素ベースのバイオセンサは、臨床的、環境的、農業的及びバイオ工学的用途の検体検知に広く使用される。ヒト体液の臨床アッセイにおいて測定できる検体には、例えばブドウ糖、乳酸塩、コレステロール、ビリルビン及びアミノ酸が含まれる。血液のような生体液内における当該検体のレベルは、疾病の診断及び監視のために重要である。
【0007】
酵素ベースのシステムに通例使用できるセンサが、ポイント・オブ・ケアとして又は対抗装置として設けられる。当該センサを用いて新鮮な未改質の指尖全血試料を試験し、装置に試料を加えてから1〜2分以内に(注:この時間は一定ではなく大幅な変動を受ける可能性が高い)総コレステロール、中性脂肪、HDL及びLDLの濃度を定量することができる。当該4つのパラメータは互いに組み合わされて、成人の心疾患リスクの非常に良好な指標となることが臨床的に証明されている。高コレステロールが無症候性であることは良く知られており、よって、全ての成人が試験を受けて自身のリスクを評価することが推奨される。高リスクであることが判明した場合、食餌療法のみによるか又は治療薬との組み合わせによる適正な管理によって、リスクを大幅に減らすことができる。
【0008】
かかる酵素ベースのバイオセンサの一例では、問題の検体を検知するために電気化学的アッセイが利用される。メディエータの酸化状態の変化が利用され、定量される検体と反応済みの酵素と、当該メディエータとが相互作用する。メディエータがもっぱら、基質を加え次第、酵素と相互作用する状態であるように、メディエータの酸化状態は選択される。検体は、酵素を介して化学量論濃度のメディエータと反応する。これによってメディエータが酸化又は還元(酵素反応によって決まる)され、所与の電位における発生電流を定量することにより、メディエータのレベルの変化を測定可能となる。
【0009】
電気化学的アッセイは通常、少なくとも1つの測定又は作用電極と1つの参照電極とを含む2つ又は3つの電極を備えたセル内で行われる。3電極システムでは、第三の電極は対電極である。2電極システムでは、参照電極が対電極の役割も果たす。これらの電極は、ポテンショスタットのような回路を通じて接続される。測定又は作用電極は、炭素又は金属導体である。作用電極を電流が通過し次第、酸化還元酵素が電気酸化又は電気還元される。当該酵素は、検知される検体又は当該検体の生成物に特異的なものである。酵素のターンオーバー率は通常、試験溶液内における検体自体の濃度又はその生成物に関連する(好ましくは直線的に、ただし、必ずしもそうである必要はない)。
【0010】
酵素の電気酸化又は電気還元は、溶液内又は電極上のレドックスメディエータの存在により促進されることが多い。レドックスメディエータは通例、作用電極と酵素との間の電気的伝達を手助けする。レドックスメディエータは、分析される流体に溶解することができ、電極に電解接触する。有用な装置は、例えば、レドックスメディエータと酵素とを含む被膜で電極を被覆することにより作成することができ、その場合、当該酵素は、希望検体又はその生成物に対して触媒的に特異的なものある。水溶性又は不水溶性であることのできる拡散性のレドックスメディエータは、例えば酵素と電極との間において、電子を往復させることにより機能する。いかなる場合もレドックスメディエータは、酵素基質が電気酸化される場合には基質還元酵素から電極に電子を運搬し、当該基質が電気還元される場合には電極から基質酸化酵素に電子を運搬する。
【0011】
現在までに使用されてきた多くの酵素ベース電気化学的センサには、単量体のフェロセン、キニーネを含むキノイド化合物(例えばベンゾキノン)、サイクラミン酸ニッケル及びルテニウムアミンのような幾つかの異なるレドックスメディエータが用いられてきた。これらのレドックスメディエータの大多数には、次のような制限が1つ以上存在する。制限とはすなわち、レドックスメディエータの、試験溶液内における溶解度の低さ、化学的安定性、光安定性、熱安定性若しくはpH安定性の不足、又は酵素、電極若しくはそれらの両方との間での電子交換速度の不足。加えて、これら報告されたレドックスメディエータの多くの酸化還元電位は、還元済みメディエータが電極上で電気酸化される電位で、検体以外の溶液成分もまた電気酸化されるほど酸化性であり、その他の場合には、例えば溶存酸素のような溶液成分もまた急速に電気還元されるほど還元性である。その結果として、当該メディエータを利用するセンサは十分に特異的ではない。
【0012】
これまでルテニウムベース錯体は、例えばコレステロール脱水素酵素を含む反応におけるレドックスメディエータとして利用されてきた。例えば、存在する[RuII(NH2+種は、適切な電位に保った電極で[RuIII(NH3+に転換される。すなわち、通過電流は、酵素反応を介して形成されたRuII(NH種の量に比例する。しかしながら、[RuIII(NH3+型のような高電荷種は多かれ少なかれ、通例はイオン対の形で錯体となり、それに伴い、分析プロセスが効果的且つ効率的に行われるために必要な反応は、酵素上及び電極表面上の負電荷基によって妨げられる。
【0013】
従って、分析混合物及び電極の成分と錯体を形成する力がより弱いか又は全くないレドックスメディエータを利用し、そのようにして、前記メディエータから測定される応答の信頼性、安定及び再現可能性を高めることが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の参考例によれば、レドックスメディエータとしての式Iの錯体の使用が提供され、
【0015】
【化1】

式中、Mはルテニウム又はオスミウムであって0、1、2、3又は4の酸化状態を有し、x及びnは独立に、1〜6から選択された整数であり、yは1〜5から選択された整数であり、mは−5〜+4の整数であり、zは−2〜+1の整数であり、
Aは一座又は二座の芳香族配位子であって1個又は2個の窒素原子を含み、
Bは、窒素含有複素環式配位子を除く適切な配位子であるように独立に選択され、
Xは適切な対イオンであり、
任意にAは、置換又は無置換のアルキル、アルケニル又はアリール基、−F、−Cl、−Br、−I、−NO、−CN、−COH、−SOH、−NHNH、−SH、アルコキシカルボニル、アルキルアミノカルボニル、ジアルキルアミノカルボニル、−OH、アルコキシ、−NH、アルキルアミノ、ジアルキルアミノ、アルカノイルアミノ、アリールカルボキサミド、アルキルヒドラジノ、ヒドロキシルアミノ、アルコキシアミノ、アルキルチオから、独立に選択された1〜8個の基で置換され、
配位原子数は6である。
【0016】
配位子Aは、1個以上のCO基で置換した一座配位子、又は1個以上のCO基で任意に置換した二座若しくは三座配位子であることができる。
基RはHであるように選択することができる。
【0017】
配位子Aは、ニコチン酸、イソニコチン酸、2,2’−ビピリジン、2,2−ビピリジン−5,5’−ジカルボン酸、2,2−ビピリジン−4,4’−ジカルボン酸又は5−クロロ−8−ヒドロキシキノリンから選択することができる。
【0018】
本発明に従う式IIの錯体の、レドックスメディエータとしての使用が提供され、
【0019】
【化2】

式中、Mはルテニウム又はオスミウムであって0、1、2、3又は4の酸化状態を有し、x及びnは独立に、1〜6から選択された整数であり、yは0〜5から選択された整数であり、mは−5〜+4の整数であり、zは−2〜+1の整数であり、Aは二座、三座、四座、五座又は六座配位子であって、式RRN(CNR)を有する直鎖式、又は式(RNC、(RNC(RNC若しくは[(RNC)(RNC)]を有する環式であることができ、wは1〜5の整数であり、vは3〜6の整数であり、p及びqは1〜3の整数であってpとqとの和が4、5又は6であり、sは2又は3であり、R及びRは水素又はメチルであり、
Bは、独立に選択された配位子であり、
Xは対イオンであり、
任意にBは、置換又は無置換のアルキル、アルケニル又はアリール基、−F、−Cl、−Br、−I、−NO、−CN、−COH、−SOH、−NHNH、−SH、アルコキシカルボニル、アルキルアミノカルボニル、ジアルキルアミノカルボニル、−OH、アルコキシ、−NH、アルキルアミノ、ジアルキルアミノ、アルカノイルアミノ、アリールカルボキサミド、アルキルヒドラジノ、ヒドロキシルアミノ、アルコキシアミノ、アルキルチオから、独立に選択された1〜8個の基で置換され、
配位結合数は6である。
【0020】
配位子Aは二座、三座又は四座配位子であることができて、式RRN(CNR)を有する直鎖式、又は式(RNC、(RNC(RNC若しくは[(RNC)(RNC)]を有する環式であることができ、wは1〜3の整数であり、vは3又は4であり、p及びqは1〜3の整数であってpとqとの和が4であり、sは2又は3である。
【0021】
配位子Aは、1,4,7−トリメチル−1,4,7−トリアザシクロノナン又は1,1,4,7,10,10−ヘキサメチルトリエチレンテトラミン、1,2−ジメチルエチレンジアミン若しくは1,1,2,2−テトラメチルエチレンジアミンから選択することができる。
【0022】
式IIの配位子Bは、NHのようなアミン配位子から、又はCO、CN、ハロゲン及びアセチルアセトナト(acac)、3−ブロモ−アセチルアセトナト(Bracac)、シュウ酸塩、ピリジン若しくは5−クロロ−8−ヒドロキシキノリンから選択することができる。
【0023】
式IIの配位子A及びBは、二座であって、錯体の配位がシス形又はトランス形であるように選択することができる。
式IIの錯体内の金属の酸化状態は2+、3+又は4+であるように選択することができる。
【0024】
式IIの錯体内の金属の酸化状態は3+であるように選択することができる。
式IIの配位子A及びBは、+2、+1、0、−1、−2及び−3の群から選択することができる。
【0025】
式IIの錯体内の対イオンは、F、Cl、Br、I、NO、NH、NR、PF、CFSO、SO2−、ClO、K、Na、Liから選択することができる。対イオンの組み合わせを使用することができる。
【0026】
式IIの錯体は、[RuIII(NH(ピリジン−3−COOH)](PF(CFSO)、[RuIII(2,4−ペンタンジオネート)(ピリジン−3−COOH)(ピリジン−3−COO)]、[RuIII(3−ブロモ−2,4−ペンタンジオネート)(ピリジン−3−COOH)(ピリジン−3−COO)]、[RuIII(2,4−ペンタンジオネート)(2,2’−ビピリジン−5,5’−(COOH)(COO)]、[RuIII(2,4−ペンタンジオネート)(2,2’−ビピリジン−4,4’−(COOH)(COO)]、[RuIII(2,4−ペンタンジオネート)(2,2’−ビピリジン)]Cl、[RuIII(2,4−ペンタンジオネート)(ピリジン−4−COOH)(ピリジン−4−COO)]、[RuIII(5−クロロ−8−ヒドロキシキノリン)(ピリジン−3−COOH)(ピリジン−3−COO)]、[RuIII(1,1,4,7,10,10−ヘキサメチルトリエチレンテトラミン)(2,4−ペンタンジオネート)](PF)(CFSO)、[RuIII(1,1,4,7,10,10−ヘキサメチルトリエチレンテトラミン)(2,4−ペンタンジオネート)]Cl、[OsII(2,2’−ビピリジン)(2,4−ペンタンジオネート)]Cl、[RuII(2,2’−ビピリジン)(2,4−ペンタンジオネート)]Cl、[RuII(2,2’−ビピリジン)(C)]、K[RuIII(C(ピリジン−3−COOH)]、[RuIII(1,4,7−トリメチル−1,4,7−トリアザシクロノナン)(2,4−ペンタンジオネート)(ピリジン)](NOから選択することができる。
【0027】
式IIの錯体は、[RuIII(2,4−ペンタンジオネート)(ピリジン−3−COOH)(ピリジン−3−COO)]、[RuIII(1,4,7−トリメチル−1,4,7−トリアザシクロノナン)(2,4−ペンタンジオネート)(ピリジン)](NO又は[RuIII(1,1,4,7,10,10−ヘキサメチルトリエチレンテトラミン)(2,4−ペンタンジオネート)]Clから選択することができる。
【0028】
レドックスメディエータは、電気化学的センサに使用することができる。電気化学的センサは微小帯電極を含むことができる。電気化学的センサは、電気化学的バイオセンサであることができる。電気化学的バイオセンサを用いて体液、環境試料、食品及び飲料、獣医学的試料、医薬内の検体を検知することができる。
【0029】
本発明によれば、上記に定義した通りの式IIのルテニウム錯体の、バイオセンサ内での使用が提供される。
式IIの錯体は、pH6〜10で使用することができる。式IIの錯体は、pH7〜9で使用することができる。
【0030】
バイオセンサは、適合した生化学的検体と共に使用することができる。検体は生体液内に見出すことができ、また、酵素、酵素基質、抗原、抗体、核酸配列、コレステロール、コレステロールエステル、リポ蛋白、中性脂肪又は微生物のいずれかからも選択することができる。
【0031】
本発明によれば、検体を測定するための検知システムであって、
(a) 式IIに従うRu含有化合物又はOs含有化合物の群から選択されたレドックスメディエータを含む溶液に、検体を含む試料を接触されるステップと、
(b) 接触した試料を、酵素が検体に作用するようになる条件下で培養するステップと、
(c) ステップ(b)で培養した試料を、測定可能な信号変化が生じる条件に掛けるステップと、
(d) その結果生じた信号を測定するステップとを含む検知システムが提供される。
【0032】
測定可能な信号は、電気化学、比色分析、熱、インピーダンス測定、容量又は分光の各信号であることができる。測定可能な信号は、微小帯電極で測定される電気化学的信号であることができる。
【0033】
本発明の参考例によれば、式Iの錯体が提供され、
【0034】
【化3】

式中、Mはルテニウム又はオスミウムであって0、1、2、3又は4の酸化状態を有し、x及びnは独立に、1〜6から選択された整数であり、yは1〜5から選択された整数であり、mは−5〜+4の整数であり、zは−2〜+1の整数であり、
Aは一座又は二座の芳香族配位子であって1個又は2個の窒素原子を含み、
Bは、窒素含有複素環式配位子を除く1個以上の適切な配位子であるように独立に選択され、
Xは適切な対イオンであり、
任意にAは、置換又は無置換のアルキル、アルケニル又はアリール基、−F、−Cl、−Br、−I、−NO、−CN、−COH、−SOH、−NHNH、−SH、アルコキシカルボニル、アルキルアミノカルボニル、ジアルキルアミノカルボニル、−OH、アルコキシ、−NH、アルキルアミノ、ジアルキルアミノ、アルカノイルアミノ、アリールカルボキサミド、アルキルヒドラジノ、ヒドロキシルアミノ、アルコキシアミノ、アルキルチオから、独立に選択された1〜8個の基で置換され、
配位原子数は6である。
【0035】
配位子Aは、1個以上のCO基で置換した一座配位子、又は1個以上のCO基で任意に置換した二座若しくは三座配位子であることができ、前記1個以上のCO基のRは、Hであるように選択することができる。
【0036】
配位子Aは、ニコチン酸、イソニコチン酸、5−カルボキシ−ニコチン酸、6−ピリジル−ニコチン酸、2,2’−ビピリジン−5,5’−ビス−カルボン酸、2,2’−ビピリジン−4,4’−ビス−カルボン酸、2,2’−ビピリジン、1,10−フェナントロリン−3,9−ビス−カルボン酸から選択することができる。
【0037】
本発明によれば、式IIの錯体が提供され、
【0038】
【化4】

式中、Mはルテニウム又はオスミウムであって0、1、2、3又は4の酸化状態を有し、x及びnは独立に、1〜6から選択された整数であり、yは0〜5から選択された整数であり、mは−5〜+4の整数であり、zは−2〜+1の整数であり、
Aは二座、三座、四座、五座又は六座配位子であって、式RRN(CNR)を有する直鎖式、又は式(RNC、(RNC(RNC若しくは[(RNC)(RNC)]を有する環式であることができ、wは1〜5の整数であり、vは3〜6の整数であり、p及びqは1〜3の整数であってpとqとの和が4であり、sは2又は3であり、R及びRは水素又はメチルであり、
Bは、独立に選択された配位子であり、
Xは対イオンであり、
任意にAは、置換又は無置換のアルキル、アルケニル又はアリール基、−F、−Cl、−Br、−I、−NO、−CN、−COH、−SOH、−NHNH、−SH、アルコキシカルボニル、アルキルアミノカルボニル、ジアルキルアミノカルボニル、−OH、アルコキシ、−NH、アルキルアミノ、ジアルキルアミノ、アルカノイルアミノ、アリールカルボキサミド、アルキルヒドラジノ、ヒドロキシルアミノ、アルコキシアミノ、アルキルチオから、独立に選択された1〜7個の基で置換され、配位原子数は6である。
【0039】
配位子Aは二座、三座又は四座配位子であることができて、式RRN(CNR)を有する直鎖式、又は式(RNC、(RNC(RNC)q若しくは[(RNC)(RNC)]を有する環式であることができ、wは1〜3の整数であり、vは3又は4であり、p及びqは1〜3の整数であってpとqとの和が4であり、sは2又は3である。
【0040】
配位子Aは、1,4,7−トリメチル−1,4,7−トリアザシクロノナン又は1,1,4,7,10,10−ヘキサメチルトリエチレンテトラミン、1,2−ジメチルエチレンジアミン若しくは1,1,2,2−テトラメチルエチレンジアミンから選択することができる。
【0041】
配位子Bは、NH若しくはNMeのようなアミン配位子から、又はCO、CN、ハロゲン、アセチルアセトナト(acac)、3−ブロモ−アセチルアセトナト(Bracac)、シュウ酸塩、1,4,7−トリエチレンクラウンエーテル、シュウ酸塩若しくは5−クロロ−8−ヒドロキシキノリンから選択することができる。
【0042】
配位子A又はBが二座であるように選択した場合、錯体の配位はシス形又はトランス形であることができる。
式IIの錯体内の金属の酸化状態は、2+又は3+であるように選択することができる。式IIの錯体内の金属の酸化状態は、3+であるように選択することができる。
【0043】
配位子A及びBは、式IIの錯体上の全電荷が+2、+1、0、−1、−2及び−3の群から選択されるように、選択することができる。
対イオンは、F、Cl、Br、I、NO、NH、NR、PF、CFSO、SO2−、ClO、K、Na、Liから選択することができる。対イオンの組み合わせを使用することができる。
【0044】
式IIの錯体は、[RuIII(NH(ピリジン−3−COOH)](PF(CFSO)、[RuIII(2,4−ペンタンジオネート)(ピリジン−3−COOH)(ピリジン−3−COO)]、[RuIII(3−ブロモ−2,4−ペンタンジオネート)(ピリジン−3−COOH)(ピリジン−3−COO)]、[RuIII(2,4−ペンタンジオネート)(2,2’−ビピリジン−5,5’−(COOH)(COO)]、[RuIII(2,4−ペンタンジオネート)(2,2’−ビピリジン−4,4’−(COOH)(COO)]、[RuIII(2,4−ペンタンジオネート)(2,2’−ビピリジン)]Cl、[RuIII(2,4−ペンタンジオネート)(ピリジン−4−COOH)(ピリジン−4−COO)]、[RuIII(5−クロロ−8−ヒドロキシキノリン)(ピリジン−3−COOH)(ピリジン−3−COO)]、[RuIII(1,1,4,7,10,10−ヘキサメチルトリエチレンテトラミン)(2,4−ペンタンジオネート)](PF)(CFSO)、[RuIII(1,1,4,7,10,10−ヘキサメチルトリエチレンテトラミン)(2,4−ペンタンジオネート)]Cl、[OsII(2,2’−ビピリジン)(2,4−ペンタンジオネート)]Cl、[RuII(2,2’−ビピリジン)(2,4−ペンタンジオネート)]Cl、[RuII(2,2’−ビピリジン)(C)]、K[RuIII(C(ピリジン−3−COOH)]、[RuIII(1,4,7−トリメチル−1,4,7−トリアザシクロノナン)(2,4−ペンタンジオネート)(ピリジン)](NOから選択することができる。
【0045】
当然のことながら、式IIの錯体内において金属は、必要に応じてルテニウム又はオスミウムであるように選択できる。加えて、対応するルテニウム錯体又はオスミウム錯体を形成するために、上記特定の錯体内の金属を変更することができる。錯体内のRuをOsに置換することにより、錯体の作用電位(working potential)が約−400mV〜−600mVだけ変化すること、及び、必要な場合には金属中心の周囲の配位子を変更することにより、メディエータが−300mV〜+300mVvsAg/AgClの作用電位に達するまで作用電位を逆向きに更に微調整できることを、当業者であれば正しく理解するはずである。
【0046】
例えば、[RuIII(acac)(py−3−COOH)(py−3−COO)]のE1/2電位は−175mVである。[RuIII(3−Bracac)(py−3−COOH)(py−3−COO)]は[RuIII(acac)(py−3−COOH)(py−3−COO)]に類似するが、acacの代わりにブロモacacを有し、そのE1/2電位は−142mVである。
【0047】
[RuIII(acac)(py−4−COOH)(py−4−COO)]は、[RuIII(acac)(py−3−COOH)(py−3−COO)]に類似するが、異なる場所にCOOHを有し(py−3−COOHの代わりにpy−4−COOHを有し)、そのE1/2電位は−165mVである。作用電位はE1/2よりも約150mV高くなければならないことを、当業者であれば理解するはずである。
【0048】
本明細書において説明したRu錯体に対応する錯体は、次の通りである。[OsIII(NH(ピリジン−3−COOH)](PF(CFSO)、[OsIII(2,4−ペンタンジオネート)(ピリジン−3−COOH)(ピリジン−3−COO)]、[OsIII(3−ブロモ−2,4−ペンタンジオネート)(ピリジン−3−COOH)(ピリジン−3−COO)]、[OsIII(2,4−ペンタンジオネート)(2,2’−ビピリジン−5,5’−(COOH)(COO)]、[OsIII(2,4−ペンタンジオネート)(2,2’−ビピリジン−4,4’−(COOH)(COO)]、[OsIII(2,4−ペンタンジオネート)(2,2’−ビピリジン)]Cl、[OsIII(2,4−ペンタンジオネート)(ピリジン−4−COOH)(ピリジン−4−COO)]、[OsIII(5−クロロ−8−ヒドロキシキノリン)(ピリジン−3−COOH)(ピリジン−3−COO)]、[OsIII(1,1,4,7,10,10−ヘキサメチルトリエチレンテトラミン)(2,4−ペンタンジオネート)](PF)(CFSO)、[OsIII(1,1,4,7,10,10−ヘキサメチルトリエチレンテトラミン)(2.4−ペンタンジオネート)]Cl、[OsII(2,2’−ビピリジン)(2,4−ペンタンジオネート)]Cl、[OsII(2.2’−ビピリジン)(C)]、K[OsIII(C(ピリジン−3−COOH)]、[OsIII(1,4,7−トリメチル−1,4,7−トリアザシクロノナン)(2,4−ペンタンジオネート)(ピリジン)](NO
【0049】
本明細書で使用される用語は次のように定義される。
「アルキル」という用語は、直鎖又は分岐鎖の飽和脂肪族炭化水素を含む。アルキル基の例には、メチル、エチル、n−プロピル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、第三ブチル、シクロペンチル及び類似の基が含まれる。別途記載のない限り、「アルキル」という用語はアルキル基とシクロアルキル基との両方を含む。
【0050】
「アルコキシ」という用語は、酸素原子によりアルキル基が残りの構造に結びついている状態を指す。アルコキシ基の例には、メトキシ、エトキシ、n−プロポキシ、イソプロポキシ、ブトキシ、第三ブトキシ、シクロペントキシ及び類似の基が含まれる。加えて、別途記載のない限り、「アルコキシ」という用語は、アルコキシ基とシクロアルコキシ基との両方を含む。
【0051】
「アルケニル」という用語は、直鎖又は分岐鎖の不飽和脂肪族炭化水素であって少なくとも1つの炭素−炭素二重結合を有するものを指す。アルケニル基の例には、エテニル、1−プロペニル、2−プロペニル、1−ブテニル、2−メチル−1−プロペニル、シクロペンテニル及び類似の基が含まれる。加えて、別途記載のない限り、「アルケニル」という用語は、アルケニル基とシクロアルケニル基との両方を含む。
【0052】
「反応性基」とは、分子の官能基であって、別の化合物と反応して当該他方化合物の少なくとも一部分を当該分子に結合させることのできるものである。反応性基には、カルボキシ、活性エステル、ハロゲン化スルホニル、スルホン酸エステル、イソシアン酸塩、イソチオシアン酸塩、エポキシド、アジリジン、ハロゲン化物、アルデヒド、ケトン、アミノ、アクリルアミド、チオール、アジ化アシル、ハロゲン化アシル、ヒドラジン、ヒドロキシルアミン、ハロゲン化アルキル、イミダゾール、ピリジン、フェノール、アルキル、スルホン酸塩、ハロトリアジン、イミドエステル、マレイミド、ヒドラジド、ヒオドロキシ及び光反応性アジドアリール基が含まれる。当該技術分野において理解される通りの活性エステルには通例、スクシンイミジル、ベンゾトリアゾリル又はアリールのエステルであってスルホ基、ニトロ基、シアノ基又はハロ基のような電子吸引基で置換したものが含まれる。
【0053】
「acac」という用語は、2,4−ペンタンジオンの共役塩基であるアセチルアセトナト・アニオンを指す。
「置換」官能基(例えば置換アルキル、アルケニル又はアルコキシ基)は、次の基から選択された少なくとも1つの置換分を含む。すなわち、ハロゲン、アルコキシ、メルカプト、アリール、アルコキシカルボニル、アルキルアミノカルボニル、ジアルキルアミノカルボニル、−OH、−NH、アルキルアミノ、ジアルキルアミノ、トリアルキルアンモニウム、アルカノイルアミノ、ジアルカノイルアミノ、アリールカルボキミド、ヒドラジノ、アルキルチオ、アルケニル及び反応性基。
【0054】
「生体液」とは、その中の検体を測定することができる体液又は体液誘導体、例えば血液、間質液、血漿、皮膚液、汗及び涙である。
「電気化学的センサ」とは、電気化学的な酸化又は還元反応を介して試料内の検体の存在を検知するか又はその濃度若しくは量を測定するように構成された装置である。これらの反応は通常、検体の量又は濃度に相関させることのできる電気的信号に変換することができる。
【0055】
「レドックスメディエータ」とは、検体又は検体還元酵素若しくは検体酸化酵素と電極との間において、直接的に又は1つ以上の追加的な電子移動剤を介して電子を運搬する電子移動剤である。
【0056】
「電解」とは、電極において直接に、又は1つ以上の電子移動剤(例えばレドックスメディエータ又は酵素)を介して行われる化合物の電気酸化又は電気還元である。
「参照電極」という用語は、別途指定のない限り、a)参照電極と、b)対電極としても機能できる参照電極(すなわち対・参照電極)との両方を含む。
【0057】
「対電極」という用語は、別途指定のない限り、a)対電極と、b)参照電極としても機能できる対電極(すなわち対・参照電極)との両方を含む。
「測定可能な信号」という用語は、電極電位、蛍光、スペクトル吸収、発光、光散乱、NMR、IR、質量分析、熱変化又は圧電変化のような容易に測定することのできる信号を意味する。
【0058】
「生化学的検体」という用語は、生体液内に存在しうる測定可能な化学物質又は生化学的物質を含み、また、酵素、抗体、DNA配列又は微生物のいずれかをも含む。
一座、二座及び三座とは、本発明に従う場合、当該技術分野において一般に認められた意味を持つ。すなわち、一座配位子は、1個の潜在的配位原子を有する化学部分又は基として定義される。2個以上の潜在的配位原子は多座配位子と呼ばれ、潜在的配位原子の数が、二座、三座などという用語で示される。
【0059】
本発明において使用できる既知のバイオセンサは、例えばストリップから成り、当該ストリップに4つの試薬ウェルと共通の疑似基準とがあって各ウェルが独自の管状の微小帯作用電極を有することもできる。ストリップの感知成分は、異なる特別配合試薬を各ウェル内で乾燥させることにより提供され、当該試薬は少なくとも、試験試料内の特定の検体と相互作用する酵素及びメディエータを含む。異なる試薬を各ウェルに加えて乾燥させることが潜在的に可能であるために、単一の試験試料を用いて多検体試験を完了できることが明らかである。ウェルの数は変更可能で、それに伴い、独自試験の数も変更可能であり、例えば、1〜6個のウェルを用いるセンサを使用することもできる。
【0060】
通常は作用電極及び参照電極付きの、従来型の微小電極を使用することができる。作用電極は通例、パラジウム、プラチナ、金又は炭素で作成される。対電極は通常、炭素、Ag/AgCl、Ag/AgSO、パラジウム、金、プラチナ、Cu/CuSO、Hg/HgO、Hg/HgCl、Hg/HgSO又はZn/ZnSOである。
【0061】
好ましい微小電極では作用電極は、前記微小電極を形成するレセプタクルの壁内にある。本発明において使用できる微小電極の例は、WO03/097860において開示された電極である。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】0.1MのKClを含む緩衝液にメディエータ[RuII(py−COOH)(NH](PF)を溶解した10mM溶液の、WO200356319において説明された通りの標準ウェル電極を100mVs−1の走査周波数で用いて記録したボルタンメトリーを示す。
【図2】図2は、0.1MのKCl内における10mMの新規メディエータ[RuII(py−COOH)(NH](PFの、脱酸素化(赤)及び酸素化(青)環境において記録した繰り返し酸化試験(+0.25VvsAg/AgClでの)を示す。
【図3】0.1MのpH9トリス緩衝液(0.1MのKClを含む)(a)内、及び0.1MのKCl溶液(水溶液)(b)内における新規メディエータ[RuII(py−COOH)(NH](PFのサイクリックボルタンメトリーを示す。
【図4】(a)は、0.1MのKCl内における新規メディエータ[RuII(py−COOH)(NH](PFの、酸素化環境において記録した繰り返し酸化試験(+0.25VvsAg/AgClでの)を示し、(b)は、電流に対するメディエータ濃度のRu2+較正データを示す。
【図5】ブドウ糖酸化酵素の不存在下(黒−(a))及び存在下(灰色−(b))における[RuII(py−−COOH)(NH](PFのサイクリックボルタモグラムを示す。
【図6】WO200356319において説明された通りの総コレステロール混合物内における[RuIII(NH(py−3−COOH)(PF(CFSO)のサイクリックボルタモグラムを示す。
【図7A】総コレステロールと新規メディエータ[RuIII(NH(py−3−COOH)](PF(CFSO)との混合物の、血漿を試験溶液とした場合の時間=118秒での酸化を示す。
【図7B】総コレステロールとメディエータ[RuIII(NH(py−3−COOH−ピリジン)](PF(CFSO)との混合物の、血漿を試験溶液とした場合の時間=118秒での還元電流を示す。
【図7C】メディエータ[RuIII(NH(3−COOH−ピリジン)](PF(CFSO)を用いた場合のタイムポイント実験を示し、異なる濃度のコレステロールに関する平均酸化電流の経時変化を示す。
【図8A】メディエータ[RuIII(NH(3−COOH−ピリジン)](PF(CFSO)を用いた場合の酸化電流の、時間=118秒でのタイムポイント実験を示す。
【図8B】メディエータ[RuIII(NH(3−COOH−ピリジン)](PF(CFSO)を用いた場合の酸化電流の、時間=202秒でのタイムポイント実験を示す。
【図8C】メディエータ[RuIII(NH(3−COOH−ピリジン)](PF(CFSO)を用いた場合の還元電流の、時間=202秒でのタイムポイント実験を示す。
【図8D】Ruメディエータ[Ru(NH(py−3−COOH)](PF(CFSO)を用いた場合のタイムポイント実験を示し、異なる濃度のコレステロールに関する平均酸化電流の経時変化を示す。
【図9】10mMの[RuIII(acac)(py−3−COOH)(py−3−COO)]と、0.1MのKClと、16mMのCHAPSと、0.1Mのトリス緩衝液(pH9.0)とから成る溶液内におけるスクリーン印刷炭素微小電極ストリップの、100mV/秒の走査周波数で記録したサイクリックボルタモグラムを示す。
【図10】メディエータとして[RuIII(acac)(py−3−COOH)(py−3−COO)]を用いた場合の、ウェル内における異なるヒト血漿試料の酸化電流対総コレステロール(TC)濃度のグラフを示す。電流は、作用電極に+0.15VvsAg/AgCl参照の酸化電位を印加した後、記録された。
【図11】10mMの[RuIII(3−Bracac)(py−3−COOH)(py−3−COO)]と、0.1MのKClと、16mMのCHAPSと、0.1Mのトリス緩衝液(pH9.0)とから成る溶液内におけるスクリーン印刷炭素微小電極ストリップの、100mV/秒の走査周波数で記録したサイクリックボルタモグラムを示す。
【図12】0.5mMの[RuIII(3−Bracac)(py−3−COOH)(py−3−COO)]から成る溶液の、0.75mMのNADH及び0.03mg/mLのPdRの不存在下(黒−(a))及び存在下(灰色−(b))における紫外・可視吸収スペクトルを示す。
【図13】メディエータとして[RuIII(3−Bracac)(py−3−COOH)(py−3−COO)]を用いた場合の、ウェル内における異なる凍結乾燥血清試料の酸化電流対総コレステロール(TC)濃度のグラフを示す。電流は、作用電極に+0.15VvsAg/AgCl参照の酸化電位を印加した後、記録された。
【図14】1mMの[RuIII(acac)(2,2’−bpy−5,5’−(COOH)(COO)]と、0.1MのKClと、16mMのCHAPSと、0.1Mのトリス緩衝液(pH9.0)とから成る溶液内におけるスクリーン印刷炭素微小電極ストリップの、100mV/秒の走査周波数で記録したサイクリックボルタモグラムを示す。
【図15】メディエータとして[RuIII(acac)(2,2’−bpy−5,5’−(COOH)(COO)]を用いた場合の、ウェル内における異なる凍結乾燥血清試料の酸化電流対総コレステロール(TC)濃度の較正グラフを示す。電流は、+0.15VvsAg/AgCl参照の酸化電位を作用電極に印加した後、記録された。
【図16】10mMの[RuIII(acac)(2,2’−bpy)]Clと、0.1MのKClと、16mMのCHAPSと、0.1Mのトリス緩衝液(pH9.0)とから成る溶液内におけるスクリーン印刷炭素微小電極ストリップの、100mV/秒の走査周波数で記録したサイクリックボルタモグラムを示す。
【図17】1mMの[RuIII(acac)(2,2’−bpy)]Clと1mMのNADHとの溶液の、0.017mg/mLのPdRの不存在下(濃−(a))及び存在下(淡−(b))における紫外・可視吸収スペクトルを示す。
【図18】メディエータとして[RuIII(acac)(2,2’−bpy)]Clを用いた場合の、ウェル内における異なる凍結乾燥血清試料の酸化電流対総コレステロール(TC)濃度のグラフを示す。電流は、+0.15VvsAg/AgCl参照の酸化電位を作用電極に印加した後、記録された。
【図19】10mMの[RuIII(acac)(py−4−COOH)(py−4−COO)]と、0.1MのKClと、16mMのCHAPSと、0.1Mのトリス緩衝液(pH9.0)とから成る溶液内におけるスクリーン印刷炭素微小電極ストリップの、100mV/秒の走査周波数で記録したサイクリックボルタモグラムを示す。
【図20】メディエータとして[RuIII(acac)(py−4−COOH)(py−4−COO)]を用いた場合の、ウェル内における異なるヒト血漿試料の酸化電流対総コレステロール(TC)濃度のグラフを示す。電流は、+0.15VvsAg/AgCl参照の酸化電位を作用電極に印加した後、記録された。
【図21】10mMの[RuIII(5−Cl−QuIn)(py−3−COOH)(py−3−COO)]と、0.1MのKClと、16mMのCHAPSと、0.1Mのトリス緩衝液(pH9.0)とから成る溶液内におけるスクリーン印刷炭素微小電極ストリップの、100mV/秒の走査周波数で記録したサイクリックボルタモグラムを示す。
【図22】10mMのNADHの存在下において(a)0、(b)0.1、(c)0.5、(d)1及び(e)5mg/mLのPdRを含むスクリーン印刷炭素微小電極ストリップでの、0.1Mのトリス緩衝液(pH9.0)内における[RuIII(5−Cl−QuIn)(py−3−COOH)(py−3−COO)](1mM)のサイクリックボルタモグラム(10mV/秒での)を示す。
【図23】0.25mMの[RuIII(5−Cl−QuIn)(py−3−COOH)(py−3−COO)]と0.25mMのNADHとを含む溶液の、0.033mg/mLのPdRの不存在下(濃−(a))及び存在下(淡−(b))における紫外・可視吸収スペクトルを示す。
【図24】5mMの[RuIII(Me−tet)(acac)](PF)(CFSO)と、0.1MのKClと、16mMのCHAPSと、0.1Mのトリス緩衝液(pH9.0)とから成る溶液内におけるスクリーン印刷炭素微小電極ストリップの、100mV/秒の走査周波数で記録したサイクリックボルタモグラムを示す。
【図25】5mMの[RuIII(Me−tet)(acac)](PF)(CFSO)と0.5mMのNADHとから成る溶液の、0.033mg/mLのPdRの不存在下(濃−(a))及び存在下(薄−(b))における紫外・可視吸収スペクトルを示す。
【図26】メディエータとして[RuIII(Me−tet)(acac)](PF)(CFSO)を用いた場合の、ウェル内における異なるヒト血漿試料の酸化電流対総コレステロール(TC)濃度のグラフを示す。電流は、作用電極に+0.15VvsAg/AgCl参照の酸化電位を印加した後、記録された。
【図27】10mMの[OsII(2,2’−bpy)(acac)]Clと、0.1MのKClと、16mMのCHAPSと、0.1Mのトリス緩衝液(pH9.0)とから成る溶液内におけるスクリーン印刷炭素微小電極ストリップの、100mV/秒の走査周波数で記録したサイクリックボルタモグラムを示す。
【図28】10mMのNADHの存在下において(a)0、(b)0.1、(c)0.5、(d)1及び(e)5mg/mLのPdRを含むスクリーン印刷炭素微小電極ストリップでの、0.1Mのトリス(pH9.0)内における[OsII(2,2’−bpy)(acac)]Cl(1mM)のサイクリックボルタモグラム(10mV/秒での)を示す。
【図29】1mMの[RuII(2,2’−bpy)(acac)]Clと、0.1MのKClと、16mMのCHAPSと、0.1Mのトリス緩衝液(pH9.0)とを含む溶液内におけるスクリーン印刷炭素微小電極ストリップの、10mV/秒の走査周波数で記録したサイクリックボルタモグラムを示す。
【図30】0.1Mのブドウ糖の存在下において(a)0、(b)0.5、(c)1.25及び(d)2.5mg/mLのブドウ糖酸化酵素を含むスクリーン印刷炭素微小電極ストリップでの、0.1Mのトリス(pH7.0)内における[Ru(2,2’−bpy)(acac)]Cl(1mM)のサイクリックボルタモグラム(10mV/秒での)を示す。
【図31】0.1Mのブドウ糖の存在下において(a)0、(b)0.25、(c)1.25及び(d)5mg/mLのブドウ糖酸化酵素を含むスクリーン印刷炭素微小電極ストリップでの、0.1Mのトリス(pH7.0)内における[RuII(2,2’−bpy)(C)](1mM)のサイクリックボルタモグラム(10mV/秒での)を示す。
【図32】0.1Mのブドウ糖の存在下において(a)0及び(b)5mg/mLのブドウ糖酸化酵素を含むスクリーン印刷炭素微小電極ストリップでの、0.1Mのトリス(pH7.0)内におけるK[RuIII(C(py−3−COOH)](5mM)のサイクリックボルタモグラム(100mV/秒での)を示す。
【図33】CHCN内における[RuII(MeTACN)(acac)(py)]PFのESI質量スペクトル(+veモード)を示す。
【図34】メタノール内における[RuIII(Me−TACN)(acac)(py)](NOのESI質量スペクトル(+veモード)を示す。
【図35】10mMの[RuIII(Me−TACN)(acac)(py)](NOと、0.1MのKClと、0.1Mのトリス緩衝液(pH9.0)とを含む溶液内におけるスクリーン印刷炭素微小電極ストリップの、100mV/秒の走査周波数で記録したサイクリックボルタモグラムを示す。
【図36】2mMの[RuIII(Me−TACN)(acac)(py)](NOと5mMのNADHとを含む溶液の、0.033mg/mLのPdRの不存在下(濃−(a))及び存在下(淡−(b))における紫外・可視吸収スペクトルを示す。
【図37】1mg/mLのPdRを含む10mMの[RuIII(Me−TACN)(acac)(py)](NO溶液の、酸化電流対NADH濃度のグラフを示す。
【図38】3.3mMの[RuIII(acac)(2,2’−bpy−4,4’−(COOH)(COO)]と、0.1MのKClと、0.1Mのトリス緩衝液(pH9.0)とを含む溶液内におけるスクリーン印刷炭素微小電極ストリップの、100mV/秒の走査周波数で記録したサイクリックボルタモグラムを示す。
【図39】50mMのNADHの存在下において(a)0及び(b)10mg/mLのPdRを含む標準的なスクリーン印刷炭素微小電極ストリップでの、0.1MのKClと0.1Mのトリス緩衝液(pH9.0)とを含む溶液内における[RuIII(acac)(2,2’−bpy−4,4’−(COOH)(COO)](3.3mM)のサイクリックボルタモグラム(100mV/秒での)を示す。
【図40】0.1MのKCl内における、本発明のメディエータの10mM溶液の還元型(左)及び酸化型(右)を示す。
【図41】本発明に従うルテニウム錯体の例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0063】
本発明の実施例を、添付の図を参照して単なる例としてのみ説明する。
全ての溶液は、ミリポアシナジー185浄水システムによるミリQ試薬水、又は試薬等級の溶媒を用いて調製された。全ての固体は、更に精製することなく受け取ったままの状態で使用された。メディエータは、酵素仲介を用いてか又は酵素カスケードを用いて仲介を試験した。酵素カスケード用の電極及び配合は、出願人らの同時係属出願WO200356319において記載されている。
【0064】
次のようなメディエータを合成した。
[RuIII(NH(py−3−COOH)](PF(CFSO)、[RuIII(acac)(py−3−COOH)(py−3−COO)]、[RuIII(3−Bracac)(py−3−COOH)(py−3−COO)]、[RuIII(acac)(2,2’−bpy−5,5’−(COOH)(COO)]、[RuIII(acac)(2,2’−bpy−4,4’−(COOH)(COO)]、[RuIII(acac)(2,2’−bpy)]Cl、[RuIII(acac)(py−4−COOH)(py−4−COO)]、[RuIII(5−Cl−QuIn)(py−3−COOH)(py−3−COO)]、[RuIII(Me−tet)(acac)](PF)(CFSO)、[RuIII(Me−tet)(acac)]Cl、[OsII(2,2’−bpy)(acac)]Cl、[Ru(2,2’−bpy)(acac)]Cl、[RuII(2,2’−bpy)(C)]、K[RuIII(C(py−3−COOH)]及び[RuIII(Me−TACN)(acac)(py)](NOであって、
式中、py=ピリジン、3−Bracac=3−ブロモ−2,4−ペンタンジオネート、acac=2,4−ペンタンジオネート、2,2’−bpy=2,2’−ビピリジン、2,2’−bpy−5,5’−(COOH)=2,2’−ビピリジン−5,5’−ジカルボン酸、Me−tet=1,1,4,7,10,10−ヘキサメチルトリエチレンテトラミン、Me−TACN=1,4,7−トリメチル−1,4,7−トリアザシクロノナン、5−Cl−QuIn=5−クロロ−8−ヒドロキシキノリンであるもの。
【0065】
各錯体について、特に対応するルテニウム錯体又はオスミウム錯体は、同じ合成手順に従い単に対応するルテニウム又はオスミウム化合物に出発化合物を変更するだけで、調製することができる。
【0066】
≪[RuII(NH(py−3−COH)](PF及び[RuIII(NH(py−3−COH)](PF(CFSO)の合成≫
【0067】
【化5】

≪材料≫
RuCl・3HO(ヘレウス)
ヒドラジン一水和物(80%、RDH)
ニコチン酸(アルドリッチ)
p−トルエンスルホン酸銀(アルドリッチ)
トリフルオロメタンスルホン酸銀(アルドリッチ)
ヘキサフルオロリン酸アンモニウム(アルドリッチ)
クロロペンタアミンルテニウム(III)塩化物である[Ru(NHCl]Clを、文献の方法(A.D.アレン、Inorg.Synth.1970、12、2)に従って三塩化ルテニウムから調製し、0.1MのHClからの40℃での再晶出により精製した。
【0068】
[RuII(NH(py−3−COH)](PF
[Ru(NHCl]Cl(1.0g、3.4mmol)を40mLの水に懸濁した懸濁液に、2等量のp−トルエンスルホン酸銀(1.9g、6.8mmol)を加えた。混合液を室温で1時間撹拌した後、溶液を濾過してAgClを除去した。その結果生じた淡黄色の溶液をアルゴンで脱気した後、溶液に4倍過剰のニコチン酸(py−3−COH、1.67g、13.6mmol)と、12〜15片の粒状亜鉛アマルガム(約10g)とを加えた。混合液をAr下において室温で2時間撹拌した後、溶液を濾過した。その結果生じた赤橙色の溶液に、過剰のヘキサフルオロリン酸アンモニウム(NHPF、3g)を加え、混合液を4℃で一晩放置した。濾過してアセトン/ジエチルエーテルからこの粗生成物を再晶出させた後、0.6gの[RuII(NH(py−3−COH)](PFを得た。(収率:29.5%)
[RuIII(NH(py−3−COH)](PF(CFSO
[RuII(NH(py−3−COH)](PF(160mg、0.27mmol)を30mLのアセトンに溶解した溶液に、1.3等量のトリフルオロメタンスルホン酸銀(AgCFSO、89mg)を加え、混合液を暗所において室温で1時間撹拌した。遠心分離により銀を除去し、淡黄色の溶液を得た。その結果生じた溶液を250mLのジメチルエーテルに滴下で加えながら撹拌し、混合液を4℃で3時間放置して淡黄色の沈殿を得た。生成物をジエチルエーテルで洗浄し、アセトン及びジエチルエーテルから再晶出させた。(収率:90mg、44%)
≪[RuII(acac)(py−3−COOH)]の合成≫
【0069】
【化6】

Ru(acac)(200mg、0.5mmol)とニコチン酸(494mg、4mmol)とをエタノールに混合した混合液を、数片の粒状亜鉛アマルガムと共にアルゴン下で5時間還流した。その結果生じた赤褐色の混合液を冷却し、濾過によりZn/Hgを除去した。赤褐色の沈殿を濾過により収集し、0.1MのHCl、水及びジエチルエーテルで洗浄した。(粗生成物収率:250mg、91%、Zn/Hg残骸を含む)。
【0070】
≪[RuIII(acac)(py−3−COOH)(py−3−COO)]の合成≫
シス−[RuII(acac)(py−3−COOH)](200mg)を0.1MのNHに溶解した後、濾過した。赤褐色の濾過液を空気中で一晩(約18時間)撹拌し、濃紫色の溶液を得た。溶液を濾過して蒸発乾固させた。濃紫色の残分を収集し、アセトン及びジエチルエーテルで洗浄した後、空気乾燥させた。(収量:150mg)
≪シス−[RuIII(3−Bracac)(py−3−COO)(py−3−COOH)]の合成≫
【0071】
【化7】

シス−[RuIII(acac)(py−3−COO)(py−3−COOH)](93mg、0.17mmol)を、2mLのHOに溶解した。その後、4.3mLの0.041M臭素水(0.17mmolのBr)を加えた。その結果生じた青紫色の懸濁液を空気中で一晩撹拌した。青色の沈殿を収集し、水で洗浄した。収率=25%。E=0.18V対NHE、pH=8(リン酸緩衝液)において。
【0072】
≪[RuIII(acac)(5,5’−(COO)(COOH)−2,2’−bpy]の合成≫
【0073】
【化8】

Ru(acac)(200mg、0.5mmol)と5,5’−(COOH)−2,2’−bpy(122mg、0.5mmol)とを30mLのエタノールに混合した赤色の混合液を、数片の粒状Zn/Hgアマルガムと共にアルゴン下で一晩還流した。その結果生じた褐色の混合液を冷却し、亜鉛アマルガムをピンセットで除去した。褐色の沈殿を濾過により収集し、エタノール及びジエチルエーテルで洗浄した。褐色の固体をその後、50mLの0.1MのNHに溶解し、濾過した。緑色の濾過液を空気中で一晩撹拌し、赤色の溶液を得た。溶液を濾過した後、蒸発乾固させた。紫〜赤色の沈殿を収集し、アセトン及びジエチルエーテルで洗浄した後、空気乾燥させた。収率:22%。E=0.15V対NHE、pH=8(リン酸緩衝液)において。
【0074】
[RuIII(acac)(2,2’−bpy)](PF
【0075】
【化9】

[RuII(acac)(2,2’−bpy)](75mg、0.165mmol)を、ジクロロメタン(15mL)に溶解した。ヘキサフルオロリン酸フェロセニウム(54.6mg、0.165mmol)をジクロロメタン(10mL)に溶解した溶液を、[RuII(acac)(2,2’−bpy)]の溶液に少しずつ加えながら、室温で激しく撹拌した。数分後、溶液の色は深緑色から赤みを帯びた色に変化した。更に10分間撹拌した後、溶液を濾過し、ジエチルエーテル(60mL)を加え、沈殿を遠心分離により収集し、ジエチルエーテルで洗浄した。(収率=50%)
≪[RuIII(acac)(2,2’−bpy)]Clの合成≫
[BuN]Cl(463mg、1.667mmol)をアセトン(15mL)に溶解した溶液を、[RuIII(acac)(2,2’−bpy)](PF)(200mg、0.333mmol)を20mLのアセトンに溶解した溶液に滴下で加えながら、室温で撹拌した。紫色の沈殿を濾過により収集し、アセトン及びジエチルエーテルで洗浄した後、空気乾燥させた。沈殿をアセトニトリルに溶解し、ジエチルエーテルによる蒸気拡散を介した晶出によって精製した。(収率=50%)
≪[RuII(acac)(py−4−COOH)]の合成≫
【0076】
【化10】

Ru(acac)(200mg、0.5mmol)とpy−4−COOH(124mg、1mmol)とを40mLのエタノールに混合した赤色の混合液を、数片の粒状Zn/Hgアマルガムと共にアルゴン下で4時間還流した。その結果生じた濃紫色の混合液を冷却し、亜鉛アマルガムをピンセットで除去した。暗褐色の沈殿を濾過により収集し、0.1MのHCl及び水に続きジエチルエーテルで洗浄した。(粗生成物の収率=250mg、91%、Znアマルガムを含む)
≪[RuIII(acac)(py−4−COOH)(py−4−COO)]の合成≫
RuII(acac)(py−4−COOH)(250mg)を0.1MのNHに溶解した後、濾過した。赤褐色の濾過液を空気中で一晩撹拌し、紫色の溶液を得た。溶液を濾過した後、蒸発乾固させた。紫色の沈殿を収集し、アセトン及びジエチルエーテルで洗浄した後、空気乾燥させた。収率=50%。E=0.12V対NHE、pH=8(リン酸緩衝液)において。
【0077】
≪[RuIII(5−Cl−QuIn)(py−3−COOH)(py−3−COO)]の合成≫
【0078】
【化11】

ニコチン酸(92.3mg、0.75mmol)とRu(5−Cl−QuIn)(200mg、0.37mmol)とをエタノール(25mL)に溶解した溶液を、数片の亜鉛アマルガムと共にアルゴン下で24時間還流した。その結果生じた明褐色の固体を濾過により単離し、エタノールで洗浄し、空気乾燥させた。褐色の固体を水(15mL)に懸濁し、KOH(0.2g、3.57mmol)を加えた。30分間撹拌した後、その結果生じた濃褐色の溶液を濾過し、回転器で蒸発乾固させた。残分をエタノールで洗浄し、1:1のメタノール/エタノールに溶解した後で溶液を元の体積の約50%近くまでゆっくりと蒸発させることにより再晶出させた。固体を真空中で60℃で乾燥させた。収率:57%(150mg、0.21mmol)。MS:m/z634(M+1)。E=0.097V対NHE、pH=8(リン酸緩衝液)において。
【0079】
≪[RuII(Tet−Me)(acac)](PF)の合成≫
【0080】
【化12】

シス−[RuIII(Tet−Me)Cl](PF)(100mg、0.18mmol)とLi(acac)(40mg、0.36mmol)とを10mLのエタノールに混合した黄色の混合液を、一晩還流した。その結果生じた褐色の溶液を冷却した後、濾過した。濾過液を約1mLに濃縮し、ジエチルエーテルを加え、褐色の沈殿を濾取し、ジエチルエーテルで洗浄した後、空気乾燥させた。収率=85%。RuC1737PFに関する計算値:C35.48%、H6.48%、N9.73%、検出値:C35.39%、H6.37%、N9.60%。
【0081】
≪[RuIII(Tet−Me)(acac)](PF)(CFSO)の合成≫
[RuII(Tet−Me)(acac)](PF)(125mg、0.22mmol)を10mLのアセトンに溶解した溶液に、AgCFSO(67mg、0.26mmol)を加えた。褐色の溶液は直ちに青色に変化し、この混合液を暗所で30分間撹拌した。溶液内の金属銀を遠心分離により除去した後、青色の溶液を、約80mLのジメチルエーテルにゆっくりと加えた。青色の沈殿を濾過により収集し、ジメチルエーテルで洗浄した後、真空中で一晩乾燥させた。収率=70%。E=0.18V対NHE、pH=8(リン酸緩衝液)において。
【0082】
≪[RuIII(Tet−Me)(acac)]Clの合成≫
[Ru(Me−tet)(acac)](PF)(CFSO)をMeOHに溶解した溶液に、[n−BuN]Clを加えることにより、[Ru(Me−tet)(acac)]Clの沈殿が生じ、当該沈殿を濾取し、真空中で一晩乾燥させた。
【0083】
≪[OsII(acac)(bipy)Clの合成≫
【0084】
【化13】

[OsII(bipy)Cl](0.25g、0.44mmol)を水(20mL)及びアルコール(10mL)に入れた中に、アセチルアセトン(1mL)を加え、混合液を過剰のCaCO(0.5g)の存在下で6時間還流した。揮発性物質を蒸発除去し、残分をクロロホルム(30mL)で抽出した。非常に濃い赤褐色のクロロホルム抽出液を濾過し、無水NaSOで乾燥させ、蒸発させて少量にし、ジエチルエーテルを加えると[OsII(bpy)(acac)Cl]が暗橙〜褐色の小板として晶出した。その後、これらの小板を濾取し、空気乾燥させた。収率:63%(0.176g、0.28mmol)。MS:m/z603(M)。E=0.31V対NHE、pH=8(リン酸緩衝液)において。
【0085】
≪[RuII(bipy)(acac)]Clの合成≫
【0086】
【化14】

[Ru(bipy)Cl](300mg、0.62mmol)を水(20mL)及びエタノール(20mL)に懸濁した懸濁液に、アセチルアセトン(1mL、9.70mmol)を加え、混合液を過剰のCaCOの存在下で6時間還流した。混合液を濾過し、濾過液を回転器で蒸発乾固させた。残分をクロロホルム(30mL)で抽出し、濾過した。濾過液をMgSO上で乾燥させた後、蒸発させて約5mLにした。ジエチルエーテルを加えると、[RuII(bipy)(acac)Cl]が暗褐色の結晶性固体としてゆっくりと晶出させた。固体を、真空中において60℃で乾燥させた。収率:70%(236mg、0.43mmol)。MS:m/z513(M)。E=0.71V対NHE、pH=8(リン酸緩衝液)において。
【0087】
≪RuII(bipy)oxの合成≫
【0088】
【化15】

Ru(bipy)Cl(0.2g、0.41mmol)を、水(20mL)及びエタノール(10mL)に懸濁し、混合液を2分間沸騰させた。シュウ酸カリウム二水和物(52.1mg、0.41mmol)を加え、混合液を還流下で2時間加熱し、鮮赤色の溶液を得た。冷却し次第、緑色の結晶性固体が得られ、当該固体を濾取し、水及びジエチルエーテルで洗浄し、空気乾燥させた。収率:94%、0.19g。MS:m/z503.1(M)。E=32.5mV対Fc/Fc、0.1MのTBHPを含むアセトニトリル内において。
【0089】
≪K[RuIII(ox)(py−3−COOH)]の合成≫
【0090】
【化16】

[Ru(ox)](500mg、1.0mmol)とpy−3−COOH(255mg、2.1mmol)とを50mLのH0に溶解した溶液を、空気中で一晩還流した。その結果生じた褐色の溶液を冷却した後、濾過した。濾過液を約1mLに濃縮し、アセトンを加え、淡褐色の沈殿を濾取し、アセトン及びジエチルエーテルで洗浄した。粗生成物をH0/アセトンから3回再晶出させた。収率:70%。ESI−MS:m/z=602(M+K)。RuIII/IIのE1/2=0.16V対NHE、リン酸緩衝溶液(pH8.05)内において。
【0091】
≪[RuII(DMSO)Cl]の調製≫
三塩化ルテニウム三水和物(1.0g)を、ジメチルスルホキシド(5mL)内で5分間還流した。体積を真空中で半減させ、アセトン(20mL)を加え、黄色の沈殿を得た。分離した黄色の錯体を濾取し、アセトン及びエーテルで洗浄し、真空乾燥させた。
【0092】
≪[RuIII(L)Cl]の調製≫
RuII(DMSO)Cl(1.0g、2.1mmol)を無水エタノール(25mL)に混合した混合液に、L(0.80g、4.7mmol)(L=1,4,7−トリメチル−1,4,7−トリアザシクロノナン)を加えながら撹拌した。懸濁液を、深赤色〜褐色の溶液が得られるまで、1時間掛けて60℃まで加熱し、当該溶液をその後、2時間還流した。溶媒を減圧下で回転器により蒸発除去した。赤〜橙色の残分を濃HClで処理し、空気の存在下において還流下で30分間加熱した。橙色の微結晶性固体を濾過により収集し、水、エタノール及びジエチルエーテルで洗浄し、空気乾燥させた。
【0093】
≪[RuIII(L)(acac)(OH)]PF・HOの調製≫
ナトリウム2,4−ペンタンジオネート(acac)(3.0g、約24mmol)を水(60mL)に溶解した溶液に、固体RuIII(L)Cl(2.0g、5.0mmol)を少量ずつ加えながら、周囲温度で撹拌した。混合液を、透明な赤色の溶液が得られるまで3.5時間撹拌した。NaPF(2.0g)をHO(5mL)に溶解した溶液を加え、0℃まで冷却すると、橙色の微結晶の沈殿が始まり、当該微結晶を濾過により収集し、ジエチルエーテルで洗浄し、空気乾燥させた。
【0094】
≪[RuII(L)(acac)(py)]PFの調製≫
無水エタノール/ピリジン(5mL)(4:1、v/v)内に[RuIII(L)(acac)(OH)]PF(105mg、0.20mmol)を含む溶液を加熱し、10片の亜鉛アマルガムの存在下においてアルゴン雰囲気下で4時間還流した。周囲温度まで冷却した後、赤色の微結晶性沈殿を濾過により収集し、ジエチルエーテルで洗浄し、空気乾燥させた。生成物を、アセトン/ジエチルエーテルから再晶出させた。収率:94mg、79%。ESI/MS(正イオンモード):m/z=451[M]。RuIII/IIのE1/2=−0.18V対Fc+/0、0.1MのTBAHを含むCHCN内において。
【0095】
≪[RuIII(L)(acac)(py)](NOの調製≫
【0096】
【化17】

AgCFSO(42mg、0.16mmol)をアセトン(1mL)に溶解した溶液を、[RuII(Me−TACN)(acac)(py)]PF(90mg、0.15mmol)を含む橙色のアセトン溶液(3mL)にゆっくりと加えた。5分間撹拌した後、固体[n−BuN]NO(304mg、1mmol)を加え、紫色の沈殿を濾取し、アセトンに続きジエチルエーテルで洗浄した。生成物を、メタノール/ジエチルエーテルから再晶出させた。収率:64mg、87%。ESI/MS(正イオンモード):m/z=451.0[M]、225.4[M]2+。RuIII/IIのE=0.2V対NHE、pH8.05リン酸緩衝液内において。
【0097】
≪[RuIII(acac)(4,4’−(COO)(COOH)−2,2’−bpy)]の合成≫
Ru(acac)(200mg、0.5mmol)と4,4’−(COOH)−2,2’−bpy(122mg、0.5mmol)とを30mLのエタノールに混合した赤色の混合液を、数片の粒状Zn/Hgアマルガムと共にアルゴン下で一晩還流した。その結果生じた褐色の混合液を冷却し、亜鉛アマルガムをピンセットで除去した。褐色の沈殿を収集し、エタノール及びジエチルエーテルで洗浄した。褐色の固体をその後、50mLの0.1MのNHに溶解し、濾過し、空気中で一晩撹拌して紫〜赤色の溶液を得た。溶液を濾過した後、蒸発乾固させた。紫色の沈殿を収集し、アセトン及びジエチルエーテルで洗浄した後、空気乾燥させた。収率:45%。E=0.21V対NHE、pH=8(リン酸緩衝液)において。
【0098】
≪電気化学的試験≫
≪サイクリックボルタンメトリーを用いる仲介試験(PdR)≫
還元型で合成したメディエータ、すなわち、[RuIII(5−Cl−QuIn)(py−3−COOH)(py−3−COO)]及び[OsII(2,2’−bpy)(acac)]Clを試験するために一式の実験に着手し、かかる実験においてRu2+(RuII(5−Cl−QuIn)(py−3−COOH)(py−3−COO)又はOs2+([OsII(2,2’−bpy)(acac)]Cl)を、NADHの存在下で電気化学的に酸化させた。プチダレドキシン還元酵素(PdR)(仲介酵素)を加えると、酸化電流の大幅な増加と、リバース走査での還元ピークの不存在とによって特定される電極触媒作用が生じた。
【0099】
≪サイクリックボルタンメトリーを用いる仲介試験用の溶液の調製(PdR)≫
一連のプチダレドキシン還元酵素(バイオカタリスツ社、ウェールズ)溶液を、次のようにして作成した。すなわち、0.1Mにしたトリズマ(登録商標)調製済み結晶pH9(シグマ・アルドリッチ社)にPdRを溶解し、10mg/mLの原液を得て、当該原液を連続希釈し、異なるPdR濃度の溶液を得た。その後、これらの溶液と、メディエータを含むNADH(シグマ・アルドリッチ社)又はTNADH(オリエンタル酵母社、日本)溶液とを1:1(v:v)で混合した。全ての最終試験溶液は、1mMのメディエータと、5mMのTNADH(又は10mMのNADH)と、様々な濃度のPdR(5mg/mL〜0.1mg/mL)とを含んだ。
【0100】
≪サイクリックボルタンメトリーを用いる仲介試験用の溶液の調製(GOx)≫
一連のブドウ糖酸化酵素(GOx)(シグマ・アルドリッチ社)溶液を、次のようにして作成した。すなわち、0.1Mにしたトリズマ(登録商標)調製済み結晶pH7(シグマ・アルドリッチ社)にGOxを溶解し、10mg/mLの原液を得て、当該原液を連続希釈し、異なるGOx濃度の溶液を得た。その後、これらの溶液と、メディエータを含むNADH(シグマ・アルドリッチ社)又はTNADH(オリエンタル酵母社、日本)溶液とを1:1(v:v)で混合した。全ての最終試験溶液は、1mMのメディエータと、5mMのTNADH(又は10mMのNADH)と、様々な濃度のGOx(2.5mg/mL〜0.5mg/mL)とを含んだ。
【0101】
≪実験1≫
新規メディエータ[Ru(II)(py−3−COOH)(NH](PFの電気化学的応答を定量するために、10mMのメディエータ溶液(脱酸素化していない水を用いて調製した)を標準電極上に位置づけ、サイクリックボルタンメトリーを用いて試験した。
【0102】
結果を図1に示す。同図は、標準電極上で試験した10mMのメディエータ溶液(酸素化)のサイクリックボルタモグラムであり、100mV/秒の走査周波数で−0.35V〜0.5Vの間でループする。ボルタモグラムは、メディエータの酸化とその後の還元との明確に規定されたピークを示し、ピーク分離は比較的小さい。
【0103】
≪実験2≫
新規メディエータ[RuII(py−3−COOH)(NH](PFの還元型の、溶在酸素による直接的酸化に対する安定性を試験するために、センサを、嫌気性条件と好気性条件との両方における繰り返し酸化により試験した(同じ溶液を用いて)。
【0104】
図2は、センサをグローブボックス内(四角)及び開放空気内(円)で試験した時に得られた繰り返し酸化(+0.25VvsAg/AgClでの)の結果を示す。
結果は、新規メディエータの酸化電流が、試験を繰り返す間に−11回の繰り返し酸化で約12%−減少したことを示したが、Ru(NHClと比較した場合、溶在酸素の影響は大幅に低下した。
【0105】
≪実験3≫
実験1において説明した条件下で、0.1MのpH9のトリス内におけるメディエータ[RuII(py−3−COOH)(NH](PF)のボルタンメトリーを調査し、それが依然として同じであるか否かを定量した。100mV/秒の掃引速度を用いてサイクリックボルタンメトリーを行い、+0.5V及び−0.35VvsAg/AgClを掃引限界として0Vから始めて最初は正方向に掃引した。図3は、水(0.1MのKClを含む)内及び0.1MのトリスpH9内におけるメディエータのボルタモグラムを示す。ボルタモグラムは非常に似ており、ピーク電位及び絶対電流がほぼ同じであった。Ru3+種の還元の、Ru2+種の酸化に比べて小さいピークによって、溶液内の種が大部分はRu2+であることが示された。Ru(NHClを用いて着手された同様の実験では、Ru2+/Ru3+酸化還元対の50:50のピーク電流比が示された。
【0106】
≪実験4≫
酸素による酸化に対するメディエータ[RuII(py−3−COOH)(NH](PFの安定性を、標準電極上で調査した。1%のタウロコール酸ナトリウム(NaTC)と、50mMのMgSOと、0.1MのKClとを含む0.1Mのトリス緩衝液pH9に10、5及び1mMの新規メディエータを溶解した溶液を調製した後、標準電極上で繰り返し時間手順を用いて+0.25VvsAg/AgClの電位で試験した。結果を図4に示す。データによると、試験した全てのメディエータ濃度において新規メディエータが酸素による酸化に対して安定している。新規メディエータの較正グラフは156nA/mMの勾配を示しており、それに比べて、標準的なルテニウムヘキサミンメディエータでは199nA/mM(同じ電極シートに関する記録値)であった。グラフからの%CV(分散係数)(2.84%)は、標準的ルテニウムヘキサミンに関する観測値(2.81%)とほとんど同一であった。データによると、グラフの切片は95nAであり、ルテニウムヘキサミンに関する観測値(72nA)に匹敵する。
【0107】
≪実験5≫
新規メディエータ[RuII(py−3−COOH)(NH](PFがブドウ糖酸化酵素(GOx)への電子の行き来を仲介できるか否かを試験するために、新規メディエータの(部分的に酸素で酸化した)溶液にGOxの部分標本を加えた。その他の全ての条件は、実験3において説明した通りであった。図5は、その結果としてGOxの不存在下及び存在下の記録されたボルタモグラムを示す。新規メディエータがGOxと電極との間において電子移動を仲介できることを、データは示した。
【0108】
≪実験6≫
メディエータ[RuIII(NH(py−3−COOH)](PF(CFSO)を、裸センサ上におけるサイクリックボルタンメトリーにより調査した。0.1Mのトリス(pH9.0)、0.1MのKCl及び1%w/vの界面活性剤(NaTC又はCHAPS)内において50mMのメディエータ溶液を調製した。メディエータは容易に溶解し、非常に濃い黄色の溶液になった。100mV/秒の掃引速度を用いてサイクリックボルタンメトリーを行い、+0.7V及び−0.7VvsAg/AgClを掃引限界として0mVから始めて最初は正方向に掃引した。各ウェルにおいて2回の掃引を行い、2回目の掃引を保存した(図6)。サイクリックボルタモグラムは、各々の界面活性剤タイプについて全く同じであった。ボルタモグラムは、2つの還元ピークと1つの酸化ピークとに加え、酸化波上の更なる肩状部をも示し、材料が何らかの不純物を含む可能性があることを暗示する。ピークの酸化電位はRuヘキサミンよりも正の値が大きく、酸化クロノ電流測定実験用に+250mVvsAg/AgClの電位が選択された。還元実験用の電位は変更せず、−300mVのままにした。
【0109】
0.1Mのトリス(pH9.0)、5%のCHAPS、5%のデオキシ−BIGCHAP及び66mg/mLのコレステロール脱水素酵素(ChDH)内に入れた当該メディエータを用いて、総コレステロールセンサを調製した。メディエータを加え、48.3mMの最終濃度にした。ペテックス拡散膜と10μLの解凍血漿とを用いてセンサ応答を定量した。
【0110】
第一実験では、5回の繰り返し時間測定を行った。電流−濃度応答の傾斜は合理的に
高かったが、切片もまた高かった。これは、メディエータが何らかの不純物(例えば何らかのRuII種)を含んでいたことを示す可能性がある。平均電流対時間のグラフ(図7A〜C参照)は、いったん最大電流値に達した後は応答が非常に安定していることを示す。この応答安定性の改善は、十中八九、新規Ruメディエータの安定性の増大によるものである。データによると、総コレステロールセンサ内において[RuIII(NH(py−3−COOH)](PF(CFSO)がメディエータとして機能すること、及び新規メディエータがPdRとの電子交換を容易に行うことがわかる。
【0111】
≪実験7≫
ヘキサミン錯体に比べて明らかに増大した新規メディエータ[RuIII(NH(py−3−COOH)](PF(CFSO)のこの安定性を更に調査するために、時間期間を延長した繰り返し時間測定を用いて第二実験を行った。
【0112】
通常測定時間(118秒)及び最終測定時間(202秒)におけるセンサ応答の結果を下記に示す。応答はほとんど同一であり、図8A〜8Dにも示した平均電流対時間のグラフによれば、応答が、よってメディエータが、非常に安定していることを示す。
【0113】
≪実験8≫
図9は、低酸素雰囲気中(還元型)及び空気中(酸化型)におけるメディエータの外観を示す。まず容器内で水を沸騰させ、次に容器を密封した後、Nで20分間パージすることにより、低酸素溶液を調製した。その後、容器をパラフィルムで密封し、不活性雰囲気グローブボックス(≪9ppmO)に移した。いったん内部に入れた後、この脱酸素化水を用いて0.1MのKClを作成し、次いでこれに新規メディエータに加え、10mM溶液にした。当該溶液は赤色を呈した(図左下)のに対して、酸素化水を用いて作成した(そして4時間放置した)溶液は黄色を呈する(図右)。
【0114】
メディエータの異なる酸化還元状態は異なる色を呈し、かかる色を分光測定に用いることができる。
本発明の錯体は、正又は負電荷が低く(pH7〜10で+2〜−1)、分析混合物及び電極の成分と錯体を形成する力がより弱いか又は全くなく、よって、電気化学的プロセスの信頼性、安定及び再現可能性を高める。加えて、酸素分子によるルテニウム(II)種の急速な酸化が確実に起こらない点にも注目すべきである。
【0115】
蛋白質、酵素及びその他の負電荷種と電極との関係に関連する問題により酵素反応が複雑にならないことを、新規メディエータは保証する。換言すればルテニウム種は、意図された仕事、すなわち、効率的且つ効果的な電子移動メディエータとしての役割を、効率的に果たすことができる。これらの化合物は、[Ru(NH]Clに関して報告された仲介品質を保持すると同時に、用いられている酵素反応に最も良く適合するように錯体上の電荷を選択することを可能にする。
【0116】
本明細書において説明した本発明の範囲から逸脱することなく、更なる修正及び改善を行うことができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レドックスメディエータとしての式IIの錯体の使用であって、
【化18】

式中、Mがルテニウム又はオスミウムであって0、1、2、3又は4の酸化状態を有し、x及びnが独立に、1〜6から選択された整数であり、yが0〜5から選択された整数であり、mが−5〜+4の整数であり、zが−2〜+1の整数であり、
Aが二座、三座、四座、五座又は六座配位子であって、式RRN(CNR)を有する直鎖式、又は式(RNC、(RNC(RNC若しくは[(RNC)(RNC)]を有する環式であることができ、wが1〜5の整数であり、vが3〜6の整数であり、p及びqが1〜3の整数であってpとqとの和が4、5又は6であり、sが2又は3であり、R及びRが水素又はメチルであり、
Bが、独立に選択された配位子であり、
Xが、対イオンであり、
任意にAが、置換又は無置換のアルキル、アルケニル又はアリール基、−F、−Cl、−Br、−I、−NO、−CN、−COH、−SOH、−NHNH、−SH、アリール、アルコキシカルボニル、アルキルアミノカルボニル、ジアルキルアミノカルボニル、−OH、アルコキシ、−NH、アルキルアミノ、ジアルキルアミノ、アルカノイルアミノ、アリールカルボキサミド、ヒドラジノ、アルキルヒドラジノ、ヒドロキシルアミノ、アルコキシアミノ、及びアルキルチオから、独立に選択された1〜8個の基で置換され、配位原子数が6であることを特徴とする、レドックスメディエータとしての式IIの錯体の使用。
【請求項2】
Aが二座、三座又は四座配位子であって、式RRN(CNR)を有する直鎖式、又は式(RNC、(RNC(RNC若しくは[(RNC)(RNC)]を有する環式であることができ、wが1〜3の整数であり、vが3又は4であり、p及びqが1〜3の整数であってpとqとの和が4であり、sが2又は3であることを特徴とする、請求項1に記載のレドックスメディエータとしての式IIの錯体の使用。
【請求項3】
Aが、1,4,7−トリメチル−1,4,7−トリアザシクロノナン、1,1,4,7,10,10−ヘキサメチルトリエチレンテトラミン、1,2−ジメチルエチレンジアミン、若しくは1,1,2,2−テトラメチルエチレンジアミンから選択される、ことを特徴とする、請求項1に記載のレドックスメディエータとしての式IIの錯体の使用。
【請求項4】
Bが、アミン配位子、CO、CN、ハロゲン、アセチルアセトナト(acac)、3−ブロモ−アセチルアセトナト(Bracac)、シュウ酸塩、ピリジン、又は5−クロロ−8−ヒドロキシキノリンから選択されることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の使用。
【請求項5】
前記アミン配位子がNH又はNMeであることを特徴とする、請求項4に記載の使用。
【請求項6】
A又はBが二座であるように選択された場合、錯体の配位がシス形又はトランス形であることを特徴とする、請求項1乃至5のいずれか一項に記載の使用。
【請求項7】
金属の酸化状態が2+、3+又は4+であるように選択されることを特徴とする、請求項1乃至6のいずれか一項に記載の使用。
【請求項8】
金属の酸化状態が3+であることを特徴とする、請求項6に記載の使用。
【請求項9】
錯体上の全電荷が+3、+2、+1、0、−1、−2及び−3の群から選択されるように配位子A及びBが選択されることを特徴とする、請求項1乃至8のいずれか一項に記載の使用。
【請求項10】
対イオンが、F、Cl、Br、I、NO、NH、NR、PF、CFSO、SO2−、ClO、OH、K、Na、及びLiから選択されることを特徴とする、請求項1乃至9のいずれか一項に記載の使用。
【請求項11】
対イオンの組み合わせが使用されることを特徴とする、請求項10に記載の使用。
【請求項12】
前記錯体が[RuIII(NH(ピリジン−3−COOH)](PF(CFSO)、[RuIII(2,4−ペンタンジオネート)(ピリジン−3−COOH)(ピリジン−3−COO)]、[RuIII(3−ブロモ−2,4−ペンタンジオネート)(ピリジン−3−COOH)(ピリジン−3−COO)]、[RuIII(2,4−ペンタンジオネート)(2,2’−ビピリジン−5,5’−(COOH)(COO)]、[RuIII(2,4−ペンタンジオネート)(2,2’−ビピリジン−4,4’−(COOH)(COO)]、[RuIII(2,4−ペンタンジオネート)(2,2’−ビピリジン)]Cl、[RuIII(2,4−ペンタンジオネート)(ピリジン−4−COOH)(ピリジン−4−COO)]、[RuIII(5−クロロ−8−ヒドロキシキノリン)(ピリジン−3−COOH)(ピリジン−3−COO)]、[RuIII(1,1,4,7,10,10−ヘキサメチルトリエチレンテトラミン)(2,4−ペンタンジオネート)](PF)(CFSO)、[RuIII(1,1,4,7,10,10−ヘキサメチルトリエチレンテトラミン)(2,4−ペンタンジオネート)]Cl、[OsII(2,2’−ビピリジン)(2,4−ペンタンジオネート)]Cl、[Ru(2,2’−ビピリジン)(2,4−ペンタンジオネート)]Cl、[RuII(2,2’−ビピリジン)(C)]、K[RuIII(C(ピリジン−3−COOH)]、及び[RuIII(1,4,7−トリメチル−1,4,7−トリアザシクロノナン)(2,4−ペンタンジオネート)(ピリジン)](NOのいずれかであることを特徴とする、請求項1乃至11のいずれか一項に記載の使用。
【請求項13】
前記錯体が[RuIII(2,4−ペンタンジオネート)(ピリジン−3−COOH)(ピリジン−3−COO)]、[RuIII(1,4,7−トリメチル−1,4,7−トリアザシクロノナン)(2,4−ペンタンジオネート)(ピリジン)](NO又は[RuIII(1,1,4,7,10,10−ヘキサメチルトリエチレンテトラミン)(2,4−ペンタンジオネート)]Clであることを特徴とする、請求項12に記載の使用。
【請求項14】
レドックスメディエータが電気化学的センサ内で使用されることを特徴とする、請求項1乃至13のいずれか一項に記載の使用。
【請求項15】
電気化学的センサが微小帯電極を含むことを特徴とする請求項14に記載の使用。
【請求項16】
電気化学的センサが電気化学的バイオセンサであることを特徴とする、請求項15に記載の使用。
【請求項17】
前記電気化学的バイオセンサが、体液、環境試料、食品及び飲料、獣医学的試料、医薬内において検体を検知するために使用されることを特徴とする、請求項16に記載の使用。
【請求項18】
請求項1乃至13のいずれか一項に記載された式IIのルテニウム錯体又はオスミウム錯体の、バイオセンサ内における使用。
【請求項19】
錯体がpH6〜10で使用されることを特徴とする、請求項18に記載の使用。
【請求項20】
錯体がpH7〜9で使用されることを特徴とする、請求項19に記載の使用。
【請求項21】
バイオセンサが、適合した検体と共に使用されることを特徴とする、請求項18乃至20のいずれか一項に記載の使用。
【請求項22】
検体が、生体液内に見出されることになり、また、酵素、酵素基質、抗原、抗体、核酸配列、コレステロール、コレステロールエステル、リポ蛋白、中性脂肪又は微生物のいずれかからも選択できることを特徴とする、請求項21に記載の使用。
【請求項23】
(a) 請求項1の式IIに従うRu含有化合物又はOs含有化合物の群から選択されたレドックスメディエータと酵素とを含む溶液に、検体を含む試料を接触されるステップと、
(b) 酵素が検体に作用するようになる条件下で接触試料を培養するステップと、
(c) ステップ(b)の培養試料を、測定可能な信号変化が生じる条件に掛けるステップと、
(e) その結果生じた信号を測定するステップとを含む検体を測定する検知システム。
【請求項24】
測定可能な信号が、電気化学、比色分析、熱、インピーダンス測定、容量又は分光の各信号である、請求項23に記載のシステム。
【請求項25】
測定可能な信号が、微小帯電極を用いて測定される電気化学的信号である、請求項24に記載のシステム。
【請求項26】
電気化学的信号が、電流測定検知方法において微小帯電極を用いて検知される、請求項25に記載のシステム。
【請求項27】
式IIの錯体であって、
【化19】

式中、Mがルテニウム又はオスミウムであって0、1、2、3又は4の酸化状態を有し、x及びnが独立に、1〜6から選択された整数であり、yが0〜5から選択された整数であり、mが−5〜+4の整数であり、zが−2〜+1の整数であり、
Aが二座、三座、四座、五座又は六座配位子であって、式RRN(CNR)を有する直鎖式、又は式(RNC、(RNC(RNC若しくは[(RNC)(RNC)]を有する環式であることができ、wが1〜5の整数であり、vが3〜6の整数であり、p及びqが1〜3の整数であってpとqとの和が4であり、sが2又は3であり、R及びRが水素又はメチルであり、
Bが、独立に選択された配位子であり、
Xが対イオンであり、
任意にAが、置換又は無置換のアルキル、アルケニル又はアリール基、−F、−Cl、−Br、−I、−NO、−CN、−COH、−SOH、−NHNH、−SH、アリール、アルコキシカルボニル、アルキルアミノカルボニル、ジアルキルアミノカルボニル、−OH、アルコキシ、−NH、アルキルアミノ、ジアルキルアミノ、アルカノイルアミノ、アリールカルボキサミド、アルキルヒドラジノ、ヒドロキシルアミノ、アルコキシアミノ又はアルキルチオから、独立に選択された1〜7個の基で置換され、
配位原子数が6である錯体。
【請求項28】
Aが二座、三座又は四座配位子であって、式RRN(CNR)を有する直鎖式、又は式(RNC、(RNC(RNC若しくは[(RNC)(RNC)]を有する環式であることができ、wが1〜3の整数であり、vが3又は4であり、p及びqが1〜3の整数であってpとqとの和が4であり、sが2又は3である、請求項27に記載の錯体。
【請求項29】
Aが、1,4,7−トリメチル−1,4,7−トリアザシクロノナン又は1,1,4,7,10,10−ヘキサメチルトリエチレンテトラミン、1,2−ジメチルエチレンジアミン若しくは1,1,2,2−テトラメチルエチレンジアミンから選択される、請求項28に記載の錯体。
【請求項30】
Bが、アミン配位子、CO、CN、ハロゲン及びアセチルアセトナト(acac)、3−ブロモ−アセチルアセトナト(Bracac)、シュウ酸塩、シュウ酸塩、または5−クロロ−8−ヒドロキシキノリンから選択される、請求項27〜29のいずれか一項に記載の錯体。
【請求項31】
前記アミン配位子がNHであることを特徴とする、請求項30に記載の錯体。
【請求項32】
A及びBが二座であるように選択された場合、錯体の配位がシス形又はトランス形である、請求項27〜30のいずれか一項に記載の錯体。
【請求項33】
金属の酸化状態が2+又は3+であるように選択される、請求項27〜32のいずれか一項に記載の錯体。
【請求項34】
金属の酸化状態が3+である請求項27〜33のいずれか一項に記載の錯体。
【請求項35】
錯体上の全電荷が+2、+1、0、−1、−2及び−3の群から選択されるように、配位子A及びBが選択される、請求項34に記載の錯体。
【請求項36】
対イオンが、F、Cl、Br、I、NO、NH、NR、PF、CFSO、SO2−、ClO、OH、K、Na、及びLiから選択される、請求項27〜35のいずれか一項に記載の錯体。
【請求項37】
対イオンの組み合わせが使用される、請求項36に記載の錯体。
【請求項38】
前記錯体が[RuIII(NH(ピリジン−3−COOH)](PF(CFSO)、[RuIII(2,4−ペンタンジオネート)(ピリジン−3−COOH)(ピリジン−3−COO)]、[RuIII(3−ブロモ−2,4−ペンタンジオネート)(ピリジン−3−COOH)(ピリジン−3−COO)]、[RuIII(2,4−ペンタンジオネート)(2,2’−ビピリジン−5,5’−(COOH)(COO)]、[RuIII(2,4−ペンタンジオネート)(2,2’−ビピリジン−4,4’−(COOH)(COO)]、[RuIII(2,4−ペンタンジオネート)(2,2’−2,2’−ビピリジン)]Cl、[RuIII(2,4−ペンタンジオネート)(ピリジン−4−COOH)(ピリジン−4−COO)]、[RuIII(5−クロロ−8−ヒドロキシキノリン)(ピリジン−3−COOH)(ピリジン−3−COO)]、[RuIII(1,1,4,7,10,10−ヘキサメチルトリエチレンテトラミン)(2,4−ペンタンジオネート)](PF)(CFSO)、[RuIII(1,1,4,7,10,10−ヘキサメチルトリエチレンテトラミン)(2,4−ペンタンジオネート)]Cl、[OsII(2,2’−ビピリジン)(2,4−ペンタンジオネート)]Cl、[Ru(2,2’−ビピリジン)(2,4−ペンタンジオネート)]Cl、[RuII(2,2’−ビピリジン)(C)]、K[RuIII(C(ピリジン−3−COOH)]又は[RuIII(1,4,7−トリメチル−1,4,7−トリアザシクロノナン)(2,4−ペンタンジオネート)(ピリジン)](NOである、請求項27〜37のいずれか一項に記載の錯体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7A】
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【図7B】
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【図7C】
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【図8A】
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【図8B】
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【図8C】
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【図8D】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【図36】
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【図37】
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【図38】
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【図39】
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【図40】
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【図41】
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【公開番号】特開2013−79237(P2013−79237A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−245272(P2012−245272)
【出願日】平成24年11月7日(2012.11.7)
【分割の表示】特願2008−546615(P2008−546615)の分割
【原出願日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【出願人】(504412406)エフ.ホフマン−ラ・ロッヒェ・アクチェンゲゼルシャフト (4)
【氏名又は名称原語表記】F.HOFFMANN−LA ROCHE AG
【Fターム(参考)】