説明

レニウム−188で標識した粒子の製造方法及びキット

本発明は、放射性同位体のレニウム−188(Re−188)で標識した粒子の製造方法、並びに上記方法を実施するためのキットに関する。この種の放射性で標識した粒子は、医学において、特に腫瘍学及び核医学の分野で、腫瘍又は腫瘍の転移の放射線治療のために使用することができる。この方法の場合に、粒子を溶液中に懸濁させて、加熱し、その際、上記溶液は予めpH1〜pH3のpH値を有し、かつスズ−II−塩及びRe188過レニウム酸塩を含む。45分間〜70分間加熱した後にpH値を高める。pH値の上昇後に得られる懸濁液は、放射線治療のために患者に直接使用することができる。洗浄工程が行われないことによって、時間の節約と共に、作業者に対する放射線保護が著しく改善される。さらに、ラベリングに必要なスズ−II−塩の量は減少し、ラベリング収率は増加する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射性同位体のレニウム−188(Re−188)で標識した粒子の製造方法、並びに上記方法を実施するためのキットに関する。この種の放射性を有する粒子を、医学において、特に腫瘍学及び核医学の分野で、腫瘍の又は腫瘍の転移を放射線治療するために使用することができる。
【背景技術】
【0002】
放射性標識した粒子を用いた腫瘍又は腫瘍の転移の放射線治療は公知である。このために、一般に腫瘍にまで達する血管中にカテーテルが挿入される。従って、上記カテーテルを通して放射性標識した粒子が局所的に腫瘍組織に供給される。この放射性標識した粒子は、腫瘍に侵入する毛細血管系の第1の通路において腫瘍の毛細血管に入り込んだままになることが保証されるサイズを有する。この方法は、標的腫瘍組織中で極めて高い放射性線量を達成し、同時に患者の周囲の組織もしくは他の器官への影響を少なくすることができる。腫瘍組織中での著しく高い放射線量は、例えば、放射性標識した抗体、ペプチド及び他の低分子量化合物を全身的に静脈内投与することによって得られる。
【0003】
ここ数十年で、特に、相応する粒子のラベリング(標識付け)のために、放射性核種Y−90、Re−188及びHo−166が使用される。17時間の比較的短い半減期を有するベータ放射体のRe−188は、高い放射性核種線量を用いた治療のため及び同じ患者への複数回の適用に特に適している。
【0004】
もちろん、Re−188及び粒子のための今までのラベリング方法は不十分である。
【0005】
類似した化学元素、例えばテクネチウムの場合に有効に実施可能なラベリング方法は、異なる化学的挙動に基づき、特に異なる酸化還元電位により、Re−188を用いたラベリングに転用できない。
【0006】
核医学において放射性核種輸送のための担体材料として使用される粒子は、20マイクロメーターの平均サイズのヒト血清−アルブミン−マイクロスフェアー([99mTc]HSAマイクロスフェアー B20、非特許文献1)が好ましい。このタンパク質粒子は、生体内で分解可能であるため、このマイクロスフェアーは毛細血管を一時的に閉鎖するだけで、患者に複数回注入することができる。テクネチウムのために開発されたラベリング方法を、Re−188を用いるラベリングに使用する場合、酸化還元電位が異なる故に、5%だけ少ないラベリング収率が達成される。
【0007】
Wunderlichらにより記載された方法の欠点は、90分を超える反応時間の後にほんの70%〜最大90%のRe−188が粒子に結合していることである。未反応のRe−188が患者生体に望ましくない被爆を引き起こさないために、過剰量のRe−188は複数回の洗浄により除去しなければならない。この洗浄工程は放射性の液体を直接取り扱う必要があり、従って作業者に高い被爆をもたらす。
【0008】
Wang S. J.ら著の刊行物(非特許文献2)には、同様にRe−188により標識したマイクロスフェアーのラベリングする方法は公知である。このマイクロスフェアーはプラスチック樹脂からなる。この方法において、マイクロスフェアーはRe−188を標識した後に、同様に上澄液の除去及び食塩溶液中での再懸濁により洗浄しなければならないことが欠点である。この方法で、マイクロスフェアー20mgのラベリングのために、200mgのスズ塩と強酸性のpH値が必要となる。この高いスズ量は、患者を付加的に薬理学的危険にさらすという欠点を有する。強酸性のpH値のためにこの方法はタンパク質粒子のためには適していない。とういのはタンパク質が使用される強酸性の0.2N HClによって加水分解されるからである。
【0009】
Grillenberger K. G.らは、Re−188で標識したヒドロキシアパタイト及び硫黄コロイド(非特許文献3)を記載している。しかしラベリングの際に達成される収率は80%より少ない。
【0010】
粒子をRe−188でラベリングする公知の方法は時間がかかる。達成されるラベリング収率は使用したベース材料に著しく依存する。
【0011】
核医学において、診療スタッフにとって粒子をRe−188でラベリングすることが容易となる方法が必要である。レニウム−188の高い放射線量の取り扱いは、作業者が許容範囲内で被爆を保つために可能な限り短くなければならない。したがって、洗浄工程を行わない方法が所望される。
【非特許文献1】Rotop Pharmaka、ドイツ国;Wunderlich Gら著、Applied Radiation and Isotopes 52 (2000) p. 63−68。
【非特許文献2】Journal of Nuclear Medicine 1998、39 (10) : p. 1752−1757、 Nuclear Medicine Communications 1998、19 : p.427−433。
【非特許文献3】Nuklearmedizin 1997、36 : p.71−75。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の課題は、レニウム−188で粒子をラベリングするための簡単な方法、並びに上記方法を実施するためのキットを提供することである。特に、上記方法及び上記キットを用いて、作業者の被爆を減らし、上記方法を実施する場合に費やされる時間を短縮しなければならない。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明によれば、上記課題は、粒子をまず酸性溶液中に懸濁し、ついで加熱し、所定の時間加熱した後にpH値を高めることによる、レニウム−188(Re−188)で標識した粒子の製造方法によって解決される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
上記溶液は、この場合、pH1〜pH3のpH値を有し、そして次の成分を有する:
a) スズ−II−塩及び
b) Re−188−過レニウム酸塩。
【0015】
好ましい反応容量は、この工程で1〜5ml、特に好ましくは2ml〜4ml、殊に好ましくは3mlである。公知のRe−ジェネレータは2mlの最少溶出容量を生じる。上記反応容量により本発明による方法の場合に、Re−ジェネレータの全部の溶出物を利用できるのが有利である。
【0016】
30〜240分間、好ましくは45〜70分間加熱した後に、pH値が高められる。この場合、pH値をpH5より高く、好ましくはpH6.5〜pH8.5に調整する。
【0017】
驚くべきことに、加熱後の時点でpH値を増加させることにより、Re−188による粒子のラベリングの収率は95%より多くまで高められた。このように達成された、Re−188による粒子の有効なラベリングにより、最終生成物の後処理はもはや必要なくなる。特に洗浄工程は行う必要がない。pH値の上昇後に得られる懸濁液は、放射線治療のために患者に直接使用することができる。
【0018】
全体の反応時間は、先行技術と比較して明らかに短縮される。洗浄工程を行わないために、時間の短縮と共に、作業者のための放射線保護も改善される。というのは注射可能な生成物を得るために、より少ない操作を必要とするからである。
【0019】
この方法を用いて、Wunderlichら(2001)により以前に記載されたラベリングを著しく超えた、500MBq/mgと比べて2500MBq/mgの比放射能(粒子の標識)が達成される。
【0020】
pH値の増加は、緩衝溶液、好ましくはアセタート溶液、シトラート溶液又はタートレート溶液、特に好ましくは酒石酸カリウム−ナトリウム溶液の添加により行われる。
【0021】
上記緩衝溶液は、加熱された溶液に添加した後に好ましくは15mmol/l〜50mmol/l、特に好ましくは25mmol/lの最終濃度を有する。
【0022】
上記スズ−II−塩は、好ましくは水溶性のスズ−II−塩、例えばSnCl×2HO又はSnFであり、これは、方法の開始まで溶液中で10mmol/l〜50mmol/lの濃度で存在し、特に好ましくは17mmol/lの濃度で存在する。
【0023】
この方法により、まず過レニウム酸(perrhenate)(ReO)として酸化数(Oxidationstufe)+VIIで存在するRe−188がスズ−II−塩の還元作用によって還元される。それにより、酸化数+4の形のRe−188の酸化物(ReO×HO)は、形成される難溶性の水酸化スズと一緒にマイクロスフェアー上に析出する。このように共沈着により生じた層は約1μmの厚さを有する。
【0024】
本発明による方法により、ラベリングに必要なスズ−II−塩の量は、先行技術(Wangら)に比べて10分の1に減少させることができる。マイクロスフェアー10mgあたりスズ(II)塩10mg〜12mgの量は、意外にもマイクロスフェアーのラベリングのために十分であることが判明した。
【0025】
スズ−II−塩は水溶液中で加熱の際に比較的不安定であるため、この溶液にはスズ−II−塩を安定化する錯化剤が添加される。このような錯化剤は、好ましくは有機カルボン酸、特に好ましくは2.5−ジヒドロキシ安息香酸(ゲンチシン酸)である。さらに好ましい錯化剤は、酢酸、クエン酸、マロン酸、グルコン酸、乳酸、ヒドロキシイソ酪酸、アスコルビン酸、酒石酸、コハク酸、上記酸の塩又はグルコヘプトナートである。スズ−II−塩を安定化する錯化剤は、溶液中で好ましくは15mmol/l〜30mmol/l、特に好ましくは20mmol/lの濃度を有する。
【0026】
ゲンチシン酸を使用するのが有利である、それというのもゲンチシン酸はラジカル捕捉剤であり、従って調製剤中で放射線保護剤として作用するためである。さらに、ゲンチシン酸は医薬品用添加物として既に認可されている。
【0027】
溶液の加熱は、沸点未満の温度で、80℃〜100℃の範囲内の温度で行われるのが好ましい。
【0028】
ラベリングすべき粒子は、好ましくは球形であるかもしくはほぼ球形である。マイクロスフェアーといわれるこの種の粒子は、好ましくは上記マイクロスフェアーが通常の血管を通して輸送される程度に十分に小さい直径を有するが、毛細血管中に留まるのに十分に大きい直径を有する。上記マイクロスフェアーは、好ましくは10μm〜100μm、特に好ましくは15μm〜30μmの直径を有する。
【0029】
上記粒子は、好ましくは有機ポリマー又はバイオポリマーからなる。本発明の1つの実施態様において、上記粒子は生体分解性でないポリマー、好ましくは弱いカチオン交換樹脂(例えば、BIO−REX 70、 BioRad、ドイツ国)、ポリアクリル、ポリメチルメタクリラート(PMMA、例えば、Heraeus Kulzer社、ドイツ国)、メタクリラートコポリマー(例えば、Macro Prep、BIORAD、ドイツ国)、又はポリビニルホルムアルデヒド(例えば、Drivalon Nycomed−Amersham、ドイツ国)からなる。
【0030】
特に好ましい粒子は、しかしながら、ヒトの身体中で代謝されかつ分解される材料からなるマイクロスフェアーであるため、上記粒子は適用後にほんの一時的に毛細血管を塞ぐ。これが粒子の複数回の適用を有利に可能にする。このような分解可能な粒子の好ましい例は、ヒト血清アルブミン([99mTc]HSAマイクロスフェアーB20、Rotop Pharmaka、Radeberg、ドイツ国)からなるマイクロスフェアーである。この[99mTc]HSAマイクロスフェアーB20をはテクネチウム−99mによるラベリングに使用することは既に認可されている。
【0031】
多様な生体分解性材料からなる粒子を用いた対照試験は、ヒト血清アルブミンからなるマイクロスフェアーが本発明による方法において意外にも明らかに高いRe−188ラベリング収率を示し、かつ、同様に生体分解する他の材料よりも高い生体内安定性を達成した。巨大凝集アルブミン(MAA、Nycomed−Amersham、ドイツ国)からなる粒子、コラーゲン粒子(Angiostat、Regional Therapeutics、USA)及びポリラクタート粒子(PLA、Micromod、ドイツ国)を用いたラベリング収率は明らかにより低かった。
【0032】
上記粒子は、ラベリングの場合に、ミリリットル当たり有利に2〜3百万個の粒子、好ましくは2.5百万個の粒子の濃度で、又はミリリットル当たり0.5〜10百万個の粒子の濃度で存在する。
【0033】
ラベリングのために使用されたベータ放射体のレニウム−188は、対応する放射性核種ジェネレータ(Oak Ridge National Laboratory、 TN、USA又はSchering AG、ドイツ国)の購入後に、実際に数ヶ月にわたり無制限に提供され、そして同じ患者への特に高い放射線量及び複数の適用による治療に適する。この種のジェネレータにおいて、Re−188は0.9%食塩溶液の導入により過レニウム酸塩(Re−188の酸化数VII)の形で溶出される。こうして得られたRe−188ジェネレータ溶出物は、好ましくは1000MBq〜60000MBq、好ましくは10000〜20000MBqの放射能を有している。
【0034】
本発明による方法を用いて得られた比放射能(粒子の負荷)は、好ましくは1500〜3000MBq/mgであった。この比放射能は、患者に応じたRe−188ジェネレータ溶出物の使用量によって所望の治療的放射線量に有利に調整することができる。
【0035】
従って本発明による方法は、治療範囲内にある放射能によるマイクロスフェアーのラベリングに最適である。それにより及び上記方法工程の上記の簡素化によって、医療用キットの開発も有利に行うことができる。
【0036】
本発明の別の課題は、本発明による方法を実施するための医療用キットである。レニウム−188で標識したマイクロスフェアーを製造するためのこのキットは次の成分を有する:
a) それぞれ粉末の形又は溶液の形の水溶性スズ−II−塩及びスズ−II−塩を安定化する錯化剤のある量を有する第1容器、
b) ヒト血清アルブミンからなるマイクロスフェアーを有する第2容器、並びに
c) 粉末又は溶液の形の、pH値を高めるための物質又は溶液を有する第3容器。
【0037】
このpH値を高めるための物質は、固体又は水溶液の形で存在し、溶液の形でpH6.5〜pH8.5のpH値をもたらす。
【0038】
これらの成分は別々容器に分けられているのが好ましい。上記キットは、この実施態様の場合に、患者への投与ごとに、3つ容器の少なくとも1つずつを有している。
【0039】
本発明の特に好ましい実施態様で、pH値を高めるために、アセタート、シトラート又はタルトラート、好ましくは酒石酸カリウム−ナトリウムが使用される。患者への投与ごとに、上記キットは、好ましくはpH値を高めるための物質0.1mmol〜0.2mmol、特に好ましくは酒石酸カリウム−ナトリウム×4HO 30mg〜50mgを含む。
【0040】
このスズ−II−塩は、好ましくは水溶性スズ−II−塩であり、例えば塩化スズ(II)二水和物又はSnFである。患者への投与ごとに、上記キットは、好ましくは水溶性スズ−II−塩0.02mmol〜0.1mmol、特に好ましくは塩化スズ(II)二水和物5mg〜20mgを含む。
【0041】
水溶液中のスズ−II−塩は加熱時に比較的不安定であるため、上記キットは、好ましくは他の成分としてスズ−II−塩を安定化する錯化剤を含む。このような錯化剤は、好ましくは有機カルボン酸又は有機カルボン酸の塩である。上記錯化剤は、容器(a.)中で、スズ−II−塩と一緒に含有されている。
【0042】
特に好ましいスズ−II−塩を安定化する錯化剤は、2.5−ジヒドロキシ安息香酸(ゲンチシン酸)である。さらに有利な錯化剤は、アセタート、シトラート、マロナート、グルコナート、マレアート、ラクタート、ヒドロキシイソブチラート、ピロホスファート、アスコルバート、酒石酸カリウム−ナトリウム又はグルコヘプトナートである。患者への投与ごとに、上記キットは、好ましくはスズ−II−塩1Mol当たりスズ−II−塩を安定化する錯化剤0.5〜2Mol、特に好ましくは1Molを含む。これは、ゲンチシン酸5mg〜20mgの量に相当する。
【0043】
上記キットは、他の成分として標識すべき粒子も含む。この粒子は、好ましくは球形であるかもしくはほぼ球形である。この種の粒子のマイクロスフェアーは、好ましくは上記マイクロスフェアーが通常の血管を通過して輸送される程度に十分に小さい直径を有するが、毛細血管中で捉えられるほど十分に大きい直径を有する。好ましくは、上記マイクロスフェアーは10μm〜50μm、特に有利に10μm〜30μmの直径を有する。
【0044】
上記キット中には、好ましくは0.5〜10百万個、特に好ましくは1〜5百万個、好ましくは1〜2百万個の粒子を付加的な容器(b.)中に含む。
【0045】
上記粒子は、好ましくはヒト体内で代謝されかつ分解される材料からなるため、上記粒子は適用時に毛細血管をほんの一時的に塞ぐ。それによって、この粒子の複数回の適用も有利に可能となる。この種の分解可能な粒子についての好ましい例は、ヒト血清アルブミン([99mTc]HSAマイクロスフェアーB20 Rotop Pharmaka、Radeberg、ドイツ国)からなるマイクロスフェアーである。この[99mTc]HSAマイクロスフェアーB20を、テクネチウム99mによるラベリングで使用することは既に認可されている。
【0046】
上記粒子はキット中に、好ましくは濃縮された水性懸濁液又はアルコール性懸濁液として含まれている。上記粒子の分散性を高めるために、これらの懸濁液に、非イオン性界面活性剤が有利に添加される。好ましくは、ポリエチレンタイプの非イオン性界面活性剤、例えばポリオキシエチレンソルビタンモノオレアート(Tween(登録商標) 80)が使用される。
【0047】
上記非イオン性界面活性剤は、好ましくは懸濁液中で粒子1mg当たり0.15mg〜0.3mgの量で含まれる。
【0048】
レニウム−188で標識したマイクロスフェアーの製造のために、スズ−II−塩及びスズ−II−塩を安定化する錯化剤が、第1容器中で滅菌水に溶かされ、これを、マイクロスフェアーを有する第2容器に添加し、かつ上記マイクロスフェアーを上記溶液中に懸濁させる。この懸濁液に、放射性レニウム−188を有するジェネレータ溶出物を添加し、上記懸濁液を80〜100℃で加熱する。45分〜70分加熱した後に、この懸濁液を第3容器中に存在する物質と混合することによりpH値を高めるために上記pH値をpH5〜pH8.5に調整した。上記懸濁液は有利に体温にまで冷却され、洗浄工程なしに患者に直接投与することができる。
【0049】
本発明は、本発明による方法を用いてもしくは本発明によるキットを用いて製造された粒子、及び癌腫又はその転移の放射線治療のためのその使用にも関している。
【0050】
本発明の別の構成要素は、上記粒子を用いた腫瘍、癌腫又はそれらの転移の放射線治療する方法である。上記方法の場合に、本発明による方法で、上記のようなレニウム−188で標識した粒子が製造される。癌腫に達する局所的血管中にカテーテルが挿入される。上記カテーテルを通して、放射性標識した粒子の懸濁液を、pH5〜pH8.5のpH値に調整(粒子の中間的洗浄は行わない)した後に局所的に腫瘍組織に供給される。上記放射性標識した粒子は、腫瘍に侵入する毛細血管系の第1の通路において腫瘍の毛細血管に留まることが保証される大きさを有する。好ましくは、このために上記粒子は10μm〜50μm、特に有利に10μm〜30μmの直径を有する。
【0051】
この方法は、有利に、標的腫瘍組織中で極めて高い放射性線量を達成し、同時に患者の周囲の組織もしくは他の器官への影響を少なくすることができる。腫瘍組織中で、例えば、放射性標識した抗体、ペプチド及び他の低分子量化合物を全身的に静脈内投与する場合よりも著しく高い放射線量(100〜150Gy)が達成される。
【0052】
ヒト血清アルブミンからなるマイクロスフェアーの使用は、粒子が生体内で分解されるという利点を有する。上記マイクロスフェアーは、従って適用時にほんの一時的に毛細血管を塞ぐ。したがって複数回の適用も可能である。
【0053】
粒子の適用は、好ましくは動脈への注入により行われる。このために、注入溶液(例えば滅菌された等張食塩水)20ml〜100ml、好ましくは50ml中で好ましくは0.5〜10百万個、特に好ましくは1〜5百万個、殊に好ましくは1〜2.5百万個の粒子(1〜20mg、有利に3〜10mgに相当)が懸濁され、そして注入される。
【0054】
上記マイクロスフェアーは、好ましくは200時間より長い、特に8日〜15日の範囲内の生物学的半減期で分解される。このマイクロスフェアーの生物学的半減期は、従って、Re−188の生物学的半減期の範囲内にある。好ましくは、Re−188のマイクロスフェアーへの固定化により、上記Re−188は適用箇所に固定される(数日にわたって、90%より多くがそこに留まる)。
【0055】
本発明による方法によりRe−188で標識したマイクロスフェアーは、特に有利に肝癌の治療及び他の癌腫の肝臓転移の治療のために適している。
【0056】
次の実施例を用いて本発明を詳細に説明する:
【実施例1】
【0057】
Re−188を有する粒子のラベリングは、ヒト血清アルブミン(HSA)マイクロスフェアーのラベリングを用いて次のように説明する:
2.5−ジヒドロキシ安息香酸(ゲンチシン酸)9.3mgを注射用水2mlに溶かし、引き続き11.4mgのSnClOを添加し、この溶液をキット瓶中でヒト血清アルブミン(HSA)マイクロスフェアー(MS B20、Rotop Pharmaka、Radeberg、ドイツ国)と一緒に滅菌濾過した。上記瓶中の上記粒子を懸濁させ、更なるキット−瓶MS B20に、引き続き第3の瓶に移した。第3の瓶中で、次いで1.5Mioの粒子MS B20が得られた。これに、0.9%のNaCl中に溶かした滅菌濾過されたRe−188過レニウム酸塩(10000〜20000MBq)1mlを添加した。粒子を有するこのキット−瓶を、加熱ブロック中に立て、これを95℃で55分間振盪した。その後で、滅菌濾過した0.6mlの酒石酸KNa溶液(42mg/ml)を添加し、ヒーターをスイッチオフした。5分間さらに振盪した後、この調製物を注射することができる。
【0058】
こうして標識した粒子のラベリング収率(放射化学的純度)は95%以上であった。
【実施例2】
【0059】
粒子(この場合、ヒト血清アルブミン(HSA)マイクロスフェアー)をRe−188でラベリングするための有利なキットは、表1中に記載された内容物を有する3つの瓶からなる:
【0060】
【表1】

【0061】
** 最高純度窒素は保護ガスとして使用した。
【0062】
このキットは、患者の治療のために作られている。
【実施例3】
【0063】
実施例2によるキットを用いて、粒子(この場合ヒト血清アルブミン(HSA)マイクロスフェアー)を次のラベリング工程によって標識した。
【0064】
上記キット瓶1の成分(2.5−ジヒドロキシ安息香酸−ゲンチシン酸)及び塩化スズ(II)二水和物)を、発熱物質不含の滅菌注射用水2mlで溶かし、キット瓶2中でHSAマイクロスフェアーA20に添加した。上記溶液の添加後に、圧力補償のために同じ体積の窒素を、注射器を用いて瓶1及び2から抜き取られた。ゴム栓を濡らしながら軽く振盪することにより、HSAマイクロスフェアーは懸濁した。発熱物質不含の、滅菌及び等張された塩化ナトリウム溶液中の[188Re]過レニウム酸ナトリウム(188Re−ジェネレータ溶出物(10000〜20000MBq)、体積:1ml)を、鉛のシールド中に存在する瓶2に移した。188Re−ジェネレータ溶出物の添加の後に、圧力補償のために同じ体積の窒素を瓶2から取り出した。
【0065】
反応のために、この瓶2を加熱振盪装置中で、95℃で55分間振盪した。この瓶2を振盪器から取り出し、瓶3(酒石酸K/Na溶液)から0.6mlを瓶2に移した。上記溶液の添加の後に、圧力補償のために同じ体積の窒素を瓶2から取り出した。ゴム栓を濡らしながら軽く振盪することにより、[188Re]HSAマイクロスフェアーは懸濁した。
【0066】
瓶中の調製物をさらに5分間室温で振盪装置を使用しながら反応させ、その後で上記調製物を注射することができる。この標識した[188Re]HSAマイクロスフェアーB20の懸濁液は、所望の濃度に応じて、注射のために塩化ナトリウム溶液を用いて希釈することができる。この[188Re]HSAマイクロスフェアー懸濁液はラベリング後の2時間まで使用可能であった。
【実施例4】
【0067】
実施例2によるキットを次のように製造した:
150本の瓶1のバッチのために、1.395gのゲンチシン酸(2.5−ジヒドロキシ安息香酸)と1.710gの塩化スズ(II)二水和物とを、注射用水150ml中に溶かした。上記溶液を150本の瓶に分配し、凍結乾燥した。
【0068】
200本の瓶2のバッチのために、2.0gのHSAマイクロスフェアーA20(Rotop Pharmaka GmbH、ドイツ国)と0.48gのTween(登録商標) 80とを
− 360mlのアセトン
− 40mlの苛性ソーダ液(0.1mol/l)
− 40mlの塩酸(0.1mol/l)
− 240mlのエタノール(無水)
からなる溶液中に懸濁させた。上記懸濁液を少量の染料ベンガルピンクを添加した。上記懸濁液を真空中で400mlにまで濃縮し、200本の瓶に分配した。引き続き、真空乾燥によってアセトンとエタノールとを除去した。
【0069】
150本の瓶3のバッチのために、6.3gの酒石酸カリウムナトリウムを注射用水150ml中に溶かした。上記溶液を150本の瓶に分配した。
【実施例5】
【0070】
実施例1からの工程に応じて、多様な材料からなる粒子をRe−188で標識した:
S1 弱いポリアクリル−カチオン交換樹脂(BIO−REX 70、BIORAD、ドイツ国)、
S2 ポリメチルメタクリラート(PMMA、Heraeus Kulzer、ドイツ国)、
S3 メチルアクリラートコポリマー(Macro Prep Q、BIORAD、ドイツ国)、
S4 ポリビニルホルムアルデヒド(Drivalon Nycomed−Amersham、ドイツ国)、
S5 巨大凝集アルブミン(MAA、Nycomed−Amersham、ドイツ国)、
S6 ヒト血清アルブミン(HSA B20、ROTOP Pharmaka GmbH、ドイツ国)、
S7 コラーゲン粒子(Angiostat、Regional Therapeutics、USA)、
S8 ポリラクタート粒子(PLA、Micromod、ドイツ国)
それぞれ2〜3mgの粒子(約0.5百万の粒子に相当)を使用した。
【0071】
ラベリングの前及び後に、ISO 13323−1による粒子サイズの分布を個々の粒子の光散乱で測定した。粒子を含まない水中に希釈した後に、上記粒子を順番に流量キュベットの測定区域中で測定した。上記粒子の粒度分布をISO 9276−2に従って面積に対する分布に換算した。なぜならばこれはラベリングされた粒子表面上でのRe−188の分布をより良好に特性決定するからである。
【0072】
表2中には、ISO 1998による積算分布(Q2)の値を示し、この値は面積に対する全分布の90%を示した。
【0073】
このラベリング収率は、ラベリング後に粒子懸濁液の遠心分離し、上澄液と沈殿物との放射線をガンマ試料チェンジャー(Cobra II、Packard、USA)中で測定した。
【0074】
【表2】

【0075】
Re−188でラベリングした後に、生体分解性HSAマイクロスフェアーB20(顕微鏡により球として認識可能)は15μmと37μm(平均値21μm)の間でほとんど変化しない分布を示した。
【0076】
これとは対照的に、巨大凝集HSA(MAA)はラベリング後により幅広い粒子分布を示した。これは、MAA粒子が丸いマイクロスフェアーとしてではなく、不規則な例えば海綿状の形で存在することによる。MAA粒子は高温で安定ではなく、比較的大きな表面積に基づき、生体内でより急速に酵素により攻撃を受けかつ分解される。
【0077】
Drivalon(S4)、Angiostat(S7)及びPLA(S8)粒子は、同様に必要な高い反応温度でのラベリングを克服できず、つまり微細な材料が増加し、粒度分布は明らかに広範囲になってしまう。それにもかかわらず、全ての粒子調製物におけるラベリングはインビトロでは安定である。
【0078】
インビトロ安定性を試験するために、標識した粒子試料をヒト血漿と共にインキュベーションした。37℃で3時間インキュベートし、室温で24及び48時間インキュベートした後に、遠心分離後のRe−188の粒子への付着及びガンマ試料チェンジャー(Cobra II、Packard、USA)放射性測定を試験した。
【0079】
標識した粒子のインビトロ安定性の結果は表3にまとめた:
【0080】
【表3】

【0081】
全ての粒子調製物のインビトロ安定性は十分であるということができる。なぜならばRe−188の75〜90%は48時間後になお粒子と結合して存在しているからである*(表3)。
【0082】
多様な粒子の生体内分布は、インビボでWisterラットへの静脈内注射によって試験した。その際、良好な血流供給を有する腫瘍に対するモデルとしてその肺を使用した。
【0083】
20MBqのRe−188でラベリングした粒子の注射の後に、粒子の生体内分布を48時間にわたりガンマカメラ(Picker CX 250)のもとで通常の各医療の画像撮影技術を用いて調査した。ガンマカメラ−調査の終了後に、動物を殺し、選択された器官を取り出し、その放射能を全体の動物に比べて及び注射した活性に比べてガンマカウンタで測定した。
【0084】
標識した粒子の肝臓及び肺中のインビボ生体内分布は(それぞれ全体の器官中の注射した用量の%で示して)、材料あたり、(n=3〜6)の生後8週間のWisterラットの尾の静脈に注射後48時間で測定した。
【0085】
多様な粒子調製物の生体内安定性を測定するために、尺度として肺中の生物学的半減期(Tb 1/2)を使用し、45時間〜200時間を越えるまでの値を提供した。200時間の生物学的半減期は、この場合Re−188について15.4時間の有効半減期に相当した。5有効半減期(つまり77時間)の後に、本来の放射能の約3%しか体内に存在せず、そして治療的に作用することができるので、得られる安定性は満足できるものとみなすことができる。
【0086】
インビボ生体内分布及び生体内安定性の結果を表4にまとめた:
【0087】
【表4】

【0088】
この生体内分布試験は、調製剤S1〜S3及びS6についての生体内安定性において極めて良好であることを示し、肺中で放射能の極めて遅い低下によって、及び非標的器官中で最小の放射線吸収によって特徴づけられる(例えば肝臓、S2の場合を除く、表4)。S2は、ベース材料において既に比較的高い微細成分を有し、上記微細成分は肝臓中での粒子の高濃度化を生じたが、そこでは、その粒子は同様に試験期間中、留まり、そして変化がない。
【0089】
小さい粒子(<10μm、例えば試料S2)は、肝臓及び脾臓中の細網内皮系(RES)に集まった。ラベリングプロセスにおいて微細材料が形成される場合に、上記微細材料は静脈内注射(i. v.)後にこの器官中に見られた(試料S4、S7及びS8)。これらの粒子は、つまりヒトの動脈内腫瘍治療に適していないが、生物学的半減期は比較的長かった(>120時間)。
【0090】
MAA−巨大凝集物(S5)もまたその比較的低い生物学的半減期(45.4時間)のために、ヒトの動脈内腫瘍治療に適さない。
【0091】
粒子に満足に固定結合されていない長寿命のベータ放射体(Y−90)を適用する場合、Mantravadi 1981 によって報告された致命的な医学的結果(Mantravadi RV、 Spigos DG、 Tan WS、 Felix EL著. Intraarterial yttrium−90 in the treatment of hepaticmalignancy. Radiology 1981 ; 142 : 783−786)と比べて、短寿命の放射体のRe−188でラベルされている粒子の適用は著しく危険が少ない。粒子から遊離したRe−188は、つまり生命に重要な器官中に高濃度化されず、短時間で腎臓を経由して排泄される。Re−188調製物を使用する更なる利点は、医者の要求に、長く待たせることなく、魅力的なコストで答えることができるように、現在の放射線各種ジェネレータをRe−188調製物の製造のために常に使用することができる。
【0092】
多様な粒子材料を用いたこの比較試験の結果は、次のようにまとめることができる:
本発明による方法を用いて、多様な粒子材料を高い収率でRe−188を用いて標識することができ、かつ体内放射線治療の適用に有望な方法で使用することができる。
【0093】
Re−188で標識したHSAマイクロスフェアーB20は、特に粒子の生体適合性、その均一なサイズ及び生成物の高い生体内安定性のために、血管を通して選択的にカテーテルを挿入することによる局所的腫瘍治療に最も魅力的な核医学療法である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機ポリマー又はバイオポリマーからなる粒子を溶液中に懸濁させて、80℃〜100℃に加熱し、その際、上記溶液は予めpH1〜pH3のpH値を有し、そして次の成分:
a.) 水溶性スズ−II−塩、
b.) 1000MBq〜60000MBqの放射能を有するRe−188過レニウム酸塩、
を含むレニウム−188で標識した粒子の製造方法において、45分〜70分加熱した後に上記pH値を高め、そしてpH5〜pH8.5のpH値に調整することを特徴とする、レニウム−188で標識した粒子の製造方法。
【請求項2】
pH値を高めるために、シトラート、アセタート又はタルトラート、好ましくは酒石酸カリウムナトリウムからなる溶液を使用する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
溶液が、2.5−ジヒドロキシ安息香酸、酢酸、クエン酸、マロン酸、グルコン酸、乳酸、ヒドロキシイソ酪酸、アスコルビン酸、酒石酸、コハク酸、上記酸の塩又はグルコヘプトナートから選択される、スズ−II−塩を安定化する錯化剤を含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
スズ−II−塩を安定化する錯化剤として、2.5−ジヒドロキシ安息香酸を使用する、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
粒子が10μm〜30μmの直径を有する、請求項1〜4のいずれか1つに記載の方法。
【請求項6】
水溶性のスズ−II−塩が、処理の開始時に溶液中に10mmol/l〜50mmol/lの濃度で存在する、請求項1〜5のいずれか1つに記載の方法。
【請求項7】
粒子がヒト血清アルブミンからなることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1つに記載の方法。
【請求項8】
a.) 水溶性スズ−II−塩のある量と、2.5−ヒドロキシ安息香酸、酢酸、クエン酸、マロン酸、グルコン酸、乳酸、ヒドロキシイソ酪酸、アスコルビン酸、酒石酸、コハク酸、上記酸の塩又はグルコヘプトナートから選択される、スズ−II−塩を安定化する錯化剤のある量とを有する第1容器と、
b.) 有機ポリマーからなるか又はバイオポリマーからなる粒子を有する第2容器と、
c.) 固体の形で又は水溶液の形で存在し、そして溶液の形でpH6.5〜pH8.5のpH値をもたらすシトラート、アセタート又はタルトラートから選択される、pH値を高めるための物質のある量を有する第3容器と
を含む、レニウム−188で標識した粒子を製造するための医療用キット。
【請求項9】
スズ−II−塩を安定化する錯化剤が、2.5−ジヒドロキシ安息香酸である、請求項8に記載の医療用キット。
【請求項10】
pH値を高めるための物質が酒石酸カリウムナトリウムである、請求項8または9に記載の医療用キット。
【請求項11】
粒子が10μm〜30μmの直径を有する、請求項8〜10のいずれか1つに記載の医療用キット。
【請求項12】
キットが患者への1回投与あたり0.02mmol〜0.1mmolのスズ−II−塩を含む、請求項8〜11のいずれか1つに記載の医療用キット。
【請求項13】
粒子がヒト血清アルブミンからなることを特徴とする、請求項8〜12のいずれか1つに記載の医療用キット。
【請求項14】
請求項1〜6のいずれか1つに記載の方法によって製造されたレニウム−188で標識した粒子。
【請求項15】
腫瘍、癌腫又はそれらの転移を放射線治療するために、請求項14に記載のレニウム−188で標識した粒子の使用。

【公表番号】特表2007−523062(P2007−523062A)
【公表日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−549867(P2006−549867)
【出願日】平成17年1月27日(2005.1.27)
【国際出願番号】PCT/DE2005/000140
【国際公開番号】WO2005/072781
【国際公開日】平成17年8月11日(2005.8.11)
【出願人】(506260582)ロートプ・ファルマカ・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング (1)
【Fターム(参考)】