説明

レバミピドの改良製造法

本発明は医薬として有用なレバミピドをより容易に、高純度且つ高収率で製造できる改善された方法を提供する。本発明は、不純物として式(11)の化合物を含有する式(5)のカルボスチリルアミノ酸化合物またはその塩を、塩基性水溶液中、水素及び触媒の存在下に還元して、不純物の化合物(11)を選択的に還元してカルボスチリルアミノ酸化合物(5)に変換し、次いで、塩基性水溶液中、該化合物(5)をアシル化して、式(1)のレバミピドを得るレバミピドの改良製法である。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本件は、胃潰瘍等の治療剤として有用なレバミピドを高純度且つ高収率で製造するレバミピドの改良製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
レバミピドは、下記式(1)で示されるカルボスチリル化合物(化学名:2−(4−クロロベンゾイルアミノ)−3−[2(1H)−キノロン−4−イル]プロピオン酸)であって、胃潰瘍、急性胃炎、または慢性胃炎の急性悪化期に現れる胃粘膜病変に対する優れた治療効果を示す薬剤である。
【0003】
【化1】

【0004】
レバミピドの製造方法としては、例えば下記反応式1に示す方法が知られている(特許文献1)。すなわち、ブロモメチルカルボスチリル(2)をナトリウムエトキシド等の塩基の存在下にジエチルアセトアミドマロネート(3)と反応させてマロネートカルボスチリル化合物(4)を得、この化合物を塩酸等の鉱酸で加水分解及び脱炭酸させてカルボスチリルアミノ酸化合物(5)を製造した後、4−クロロベンゾイルクロリド(6)でアシル化させて目的とする式(1)のレバミピドを製造する。
【0005】
【化2】

【0006】
上記出発物質のブロモメチルカルボスチリル(2)は、例えば下記反応式2に示すように、アセト酢酸アニリド(7)を臭素やN−ブロモコハク酸イミドなどで臭素化して式(8)の化合物とし、次いで濃硫酸などの縮合剤を用いて閉環させて得られるが、その生成物には臭素化反応由来の副生成物のひとつである下記式(9)で示される6−ブロモカルボスチリル化合物が不純物として含まれる。
【0007】
【化3】

【0008】
【化4】

【0009】
上記ブロモメチルカルボスチリル(2)中に混在する不純物の6−ブロモカルボスチリル化合物(9)は、上記反応式1にしたがって、ブロモメチルカルボスチリル(2)をレバミピド(1)に導く際、下記反応式3に示すようにブロモメチルカルボスチリル(2)と同様の挙動を示し、それぞれ対応する式(10)および式(11)で示される化合物を経て、式(12)で示される対応する6−ブロモ化合物に導かれ、目的物のレバミピド(1)中に混在する。
【0010】
【化5】

【0011】
なお、該不純物の6−ブロモカルボスチリル化合物(9)は、前記反応式2に示す方法における臭素化反応条件の制御、例えば式(7)のアセト酢酸アニリドに対する臭素の使用量を等モル若しくは等モル以下とし、反応温度を50℃以下で実施するなどの手段をとることによりある程度はその生成量を抑制することは可能であるが、反応条件の制御だけでは所望のブロモカルボスチリル(2)の収率を大きく低下させることなく6−ブロモカルボスチリル化合物(9)の生成を制御するのには限界がある。
【0012】
したがって、目的とするレバミピド(1)を医薬として用いるには、かかる混在する6−ブロモ化合物(12)を除去する必要があるが、その除去は極めて困難で、再結晶法や溶媒による洗浄法によっても充分に除去されず、またそれら操作中に目的物のレバミピドが損失するなどの欠陥があり、高純度のレバミピドを高収率で得ることは難しい。このような観点から、ブロモメチルカルボスチリル(2)中に混在する6−ブロモカルボスチリル化合物(9)を除去することを検討した。
【0013】
しかして、ブロモメチルカルボスチリル(2)から混在する6−ブロモカルボスチリル化合物(9)を除去する方法としては、種々の溶媒からの再結晶や種々の溶媒を用いる分散洗浄操作による方法などが考えられるが、十分な除去効果が得られないか、または例えば、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、1−メチル−2−ピロリドンなどを使用した場合ではある程度の除去効果は認められるが、その場合でもブロモメチルカルボスチリル(2)の濾液への損失が大きく実用的でないという問題がある。
【0014】
またその不純物の6−ブロモ体を以後の段階、すなわち前記反応式1におけるマロネートカルボスチリル化合物(4)からの対応6−ブロモ体(10)の除去、さらにカルボスチリルアミノ酸化合物(5)からの対応6−ブロモ体(11)の除去も同様の問題がある。
【特許文献1】特開昭60−19767号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかして、これら一連の工程において、いずれの段階で不純物である6−ブロモ体を除去するのが望ましいかについて種々検討した結果、アシル化による目的のレバミピドに導く直前に、該不純物の6−ブロモカルボスチリルアミノ酸化合物(11)を含有するカルボスチリルアミノ酸化合物(5)を還元処理することにより該6−ブロモ体(11)のみを選択的に還元して有用なカルボスチリルアミノ酸化合物(5)に変換することができ、ついでその反応生成物をアシル化に付すことにより所望の高純度のレバミピドが高収率で得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0016】
本発明の目的は、医薬として有用なレバミピドをより容易に高純度且つ高収率で製造できる改善された方法を提供することである。
【0017】
本発明の他の目的は、レバミピドを製造するための一連の工程中に副生する6−ブロモ体を効率よく除去する方法を提供するものである。
本発明のさらに他の目的は、ブロモメチルカルボスチリル(2)からの目的のレバミピド(1)を製造する過程で、アシル化直前のカルボスチリルアミノ酸化合物(5)に不純物として混在する6−ブロモカルボスチリルアミノ酸化合物(11)を選択的に還元して有用なカルボスチリルアミノ酸化合物(5)に変換させることによって該不純物を除去し、もって、目的とする高純度のレバミピドをより高収率で製造する方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明によれば、不純物として6−ブロモカルボスチリルアミノ酸化合物(11)を含有するカルボスチリルアミノ酸化合物(5)またはその塩を、塩基性の水溶液中、水素及び触媒の存在下で還元処理することにより、不純物である6−ブロモ体(11)のみを選択的に還元してカルボスチリルアミノ酸化合物(5)に変換し、次いで、該カルボスチリルアミノ酸化合物(5)を、塩基性水溶液中、4−クロロベンゾイルクロリドでアシル化させることにより、目的のレバミピド(1)を得ることができる。この本発明の方法を下記の反応式4に示す。
【0019】
【化6】

【0020】
本発明方法は、不純物除去方法として一般に採用されている、溶媒による再結晶や分散洗浄操作、或いはカラムクロマトグラフィーなどによる方法ではなく、還元反応を利用した精製方法であって、主成分そのものを還元するのではなく、主成分に混在する不純物を主成分そのものに変換して純度を高める精製方法であり、このような一般的でない精製方法を採用することによって、目的のレバミピドをより高収率で製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明において、6−ブロモカルボスチリルアミノ酸化合物(11)を不純物として含有するカルボスチリルアミノ酸化合物(5)の塩としては、例えば、塩酸塩、硫酸塩、臭化水素酸塩などの無機酸塩、ナトリウム塩、リチウム塩などのアルカリ金属塩を例示できる。
【0022】
本発明方法を実施するには、不純物の6−ブロモカルボスチリルアミノ酸化合物(11)を含有するカルボスチリルアミノ酸化合物(5)またはその塩に水および塩基性化合物を加えて、塩基性水溶液を調製する。この際加える水は、不純物含有カルボスチリルアミノ酸化合物(5)またはその塩1重量部に対して通常水5〜50重量部程度である。
【0023】
また塩基性の水溶液とするために加える塩基性化合物としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸リチウムなどの無機塩基性化合物が例示でき、その量は、好ましくは水溶液のpHが14以下の塩基性となるように加える。但し、該不純物含有のカルボスチリルアミノ酸化合物(5)が、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩などの金属塩である場合は、その水溶液は塩基性を示すため、必ずしも新たに塩基性化合物を加えなくてもよい。
【0024】
本発明において、該不純物の6−ブロモカルボスチリルアミノ酸化合物(11)を選択的に還元するために使用する触媒としては、例えば、パラジウム系触媒やニッケル系触媒などが例示できるが、このうち、展開ラネーニッケル触媒が好ましい。使用する触媒の量は、該不純物含有カルボスチリルアミノ酸化合物(5)またはその塩1重量部に対して、通常0.01〜0.50重量部程度、好ましくは0.02〜0.20重量部程度である。
【0025】
本発明における還元反応は、通常常圧〜10気圧の水素雰囲気下、好ましくは常圧〜4気圧の水素雰囲気下で行い、通常0〜40℃、好ましくは10〜30℃で行う。この還元反応は、撹拌下で行うことにより、より有利に進行する。
【0026】
還元反応終了後、触媒を除いて得られるカルボスチリルアミノ酸化合物(5)の塩基性水溶液を4−クロロベンゾイルクロリドと反応させて所望のレバミピド(1)を得る。このアシル化反応は常法によって行うことができ、例えば、ショッテン−バウマン法により容易に行うことが出来る。
【0027】
上記アシル化反応に用いられる4−クロロベンゾイルクロリドの使用量はカルボスチリルアミノ酸化合物(5)1モルに対して等モル、好ましくは等モル〜2倍モル量である。
【0028】
該アシル化反応は、上記触媒を除去して得られるカルボスチリルアミノ酸化合物(5)の塩基性水溶液に、所望によりさらに塩基性化合物(例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウムなど)を添加し、4−クロロベンゾイルクロリドをそのまま、あるいはアセトン、アセトニトリル、酢酸エチルなどの有機溶媒溶液を加えて−10℃〜100℃程度で、好ましくは約0℃〜36℃で、5分〜15時間程度行われる。
【実施例】
【0029】
以下に実施例を挙げて、本発明を更に詳細に説明する。
【0030】
実施例1
HPLC分析で1.09%の2−アミノ−3−[6−ブロモ−2(1H)キノロン−4−イル]プロピオン酸(式(11)の化合物)を不純物として含む、HPLC分析で純度98.56%の2−アミノ−3−[2(1H)キノロン−4−イル]プロピオン酸一塩酸塩二水和物(式(5)の化合物)10gに、水200ml及び25%の水酸化ナトリウム水溶液10mlを加えて溶解した。この水溶液に50%含水展開ラネーニッケル触媒2gを加えて、2気圧の水素雰囲気下、室温で2時間撹拌した後、触媒を濾過した。尚、2時間撹拌後のHPLC分析で、2−アミノ−3−[6−ブロモ−2(1H)キノロン−4−イル]プロピオン酸(式(11)の化合物)は0.01%、2−アミノ−3−[2(1H)キノロン−4−イル]プロピオン酸(式(5)の化合物)は99.73%であった。次に、触媒を濾過した水溶液に25%の水酸化ナトリウム水溶液10mlを加えた後、4−クロロベンゾイルクロリド10gのアセトン50ml溶液を氷冷下で滴下した。滴下終了後、塩酸酸性とし、析出した結晶を濾取した。得られた結晶を水及びアセトンで洗浄し、約80℃で温風乾燥して、11.7g(収率96.2%、HPLC分析の純度99.60%)のレバミピド(1)を得た。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明の方法によれば、一般的な精製方法では効率的に除去できない不純物の6−ブロモ化合物を、選択的に還元することで所望の化合物に変換してその純度を高めることができるため、主成分の損失を全く伴わない非常に効率的な精製方法が提供される。したがって、本発明方法は、より高純度なものを要求される医薬品のレバミピドの工業的な製法に有利に用いられる。
本発明方法によれば、また、その還元反応における溶媒として水を使用し、比較的短時間のうちに温和な条件で実施できるため、目的化合物の大量合成時における操作が簡単である。さらに、前工程の還元反応終了後に、触媒を濾過して除いた塩基性水溶液のままで、次の段階のアシル化反応に供することができ、目的のレバミピドが高収率で得ることができるため、本発明は、レバミピドの大量合成に極めて有効である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
不純物として式(11):
【化1】

の6−ブロモカルボスチリルアミノ酸化合物を含有する式(5):
【化2】

のカルボスチリルアミノ酸化合物またはその塩を、塩基性水溶液中、水素及び触媒の存在下に還元処理して、不純物の式(11)の化合物を選択的に還元してカルボスチリルアミノ酸化合物(5)に変換し、次いで、塩基性水溶液中、カルボスチリルアミノ酸化合物(5)に、4−クロロベンゾイルクロリドを反応させて式(1):
【化3】

のレバミピドに導くことを特徴とするレバミピドの改良製造法。


【公表番号】特表2007−503476(P2007−503476A)
【公表日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−546720(P2006−546720)
【出願日】平成17年11月30日(2005.11.30)
【国際出願番号】PCT/JP2005/022412
【国際公開番号】WO2006/059781
【国際公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【出願人】(000206956)大塚製薬株式会社 (230)
【Fターム(参考)】