説明

レバミピドを含む関節リューマチの予防用または治療用の薬学組成物

本発明は、活性成分としてのレバミピド及び薬学的に許容可能な担体を含む関節リューマチの予防用または治療用の薬学組成物を提供する。薬学組成物は、経口投与用形態であってもよく、例えば、錠剤形態またはカプセル剤形態の固形経口用剤形を有する。また、薬学組成物は、0.5〜50mg/kg、望ましくは、0.6〜6mg/kgの用量でレバミピドを経口投与するのに適した単位投与形態に製剤化されていてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、活性成分としてレバミピドを含む関節リューマチの予防用または治療用の薬学組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
関節リューマチ(rheumatoid arthritis)は、滑膜細胞の炎症と増殖とを特徴とする慢性炎症性疾患であり、骨関節炎とは異なり、関節周囲骨の骨粗鬆症及び骨糜爛(こつびらん)などが発生する。関節リューマチは、滑膜(synovial membrane)の炎症が関節包(joint capsule)、靭帯(ligament)及び腱(tendon)に広がる段階(段階1)、関節軟骨(joint cartilage)の破壊の進行によって関節腔が狭くなり、関節包と靭帯の張力が消失する段階(段階2)、炎症が骨に達して骨の部分的侵食が発生する段階(段階3)、及び関節機能が消失する段階(段階4)を経て進行する。
【0003】
従来、関節リューマチの治療のためには、従来型NSAID、サリシレート、COX−2阻害剤などの非ステロイド抗炎症剤(NSAID);プレドニゾロン、トリアムシノロンなどの副腎皮質ホルモン製剤;メトトレキサート(methotrexate)、スルファサラジン(sulfasalazine)などの疾患修飾抗リューマチ薬(DMARDs:disease−modifying anti−rheumatic drugs);及びエタネルセプト(etanercept)、インフリキシマブ(infliximab)、アダリムマブ(adalimumab)などの生物学的製剤などの薬物が使われている。通常、症状発現初期には、非ステロイド抗炎症剤及び副腎皮質ホルモン製剤が使われ、症状及び疾病活動度によっては、疾患修飾抗リューマチ薬が使われる。重症の場合には、生物学的製剤や併用療法などが臨床で使われている。
【0004】
しかし、生物学的製剤は、他の治療剤に比べて治療コストが高額になり、医療現場での適用が困難であるという問題点がある。相対的に治療コストが低廉なNSAIDは、胃腸管副作用を誘発する代表的な薬物であり、メトトレキサート、スルファサラジンなどの疾患修飾抗リューマチ薬も、主要副作用が胃腸障害であるものとしてよく知られている。従って、関節リューマチ患者にこれらの薬物を適用する場合、レバミピドなどの細胞保護剤(cytoprotective agent)や、シメチジン、ラニチジンなどのH2−受容体拮抗剤が併用投与されている。胃腸管疾患は、攻撃因子(例えば、胃酸)が強くなったり、あるいは防御因子が弱くなったりした場合に発生する。オメプラゾールなどのプロトンポンプ阻害剤及びレバプラザンなどの胃酸ポンプ拮抗剤はいずれも、攻撃因子すなわち胃酸分泌を抑制する化合物であり、スクラルファート、レバミピドなどの細胞保護剤は、防御因子を増強する化合物である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、医療現場で、多数の関節リューマチ患者を治療する過程で、驚くべきことに、胃腸障害副作用を防止するために併用投与されるレバミピド自体が、関節リューマチに対する予防活性及び治療活性を有することを発見した。レバミピドが関節リューマチの改善や治療活性と関連するという報告がこれまでに全くないことを考えれば、これは非常に驚くべきことである。
【0006】
従って、本発明は、レバミピドを有効成分として含む、関節リューマチの予防用または治療用の薬学組成物を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様によって、活性成分としてのレバミピド及び薬学的に許容可能な担体を含む関節リューマチの予防用または治療用の薬学組成物が提供される。
【0008】
前記薬学組成物は、経口投与用形態であってもよく、例えば錠剤形態またはカプセル剤形態の経口用固形剤形(oral solid dosage form)を有してもよい。また、前記薬学組成物は、0.5〜50mg/kg、望ましくは、0.6〜6mg/kgの用量でレバミピドを経口投与するのに適した単位投与形態に製剤化されてもよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、レバミピドが関節リューマチの予防活性または治療活性を有することが明らかになった。従って、本発明の薬学組成物は、関節リューマチの予防または治療のために、単独で、あるいは他の関節リューマチ治療剤と併用して使用してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】コラーゲン誘導関節炎(CIA)動物と、レバミピドを経口投与したCIA動物の関節炎スコアを示したグラフである。
【図2】CIA動物と、レバミピドを経口投与したCIA動物を屠殺し、関節組織と軟骨組織の破壊の程度を組織染色によって観察した結果を示す図面である。
【図3】CIA動物と、レバミピドを経口投与したCIA動物の血清中の、II型コラーゲンに特異的なIgG量を示す図面である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書で、「レバミピド」とは、無水物、水和物(例えば、1/2水和物など)、結晶型などあらゆる形態のレバミピドを含み、またレバミピドの薬学的に許容可能な塩を含む。前記レバミピドの薬学的に許容可能な塩は、カルシウム、カリウム、ナトリウム及びマグネシウムなどに由来する無機イオン塩;塩酸、硝酸、リン酸、臭酸、ヨウ素酸及び硫酸などに由来する無機酸塩;酢酸、ギ酸、コハク酸、酒石酸、クエン酸、トリクロロ酢酸、トリフルオロ酢酸、グルコン酸、ベンゾ酸、乳酸、フマル酸及びマレイン酸などに由来する有機酸塩;メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸及びナフタレンスルホン酸などに由来するスルホン酸塩;グリシン、アルギニン、リシンなどに由来するアミノ酸塩;並びにトリメチルアミン、トリエチルアミン、アンモニア、ピリジン、及びピコリンなどに由来するアミン塩などを含む。
【0012】
本発明は、活性成分としてのレバミピド及び薬学的に許容可能な担体を含む関節リューマチの予防用または治療用の薬学組成物を提供する。
【0013】
下記実施例で確認することができるように、コラーゲン誘導関節炎(CIA)動物において、レバミピドは、優れた関節リューマチ治療活性を示す。すなわち、CIA動物にレバミピドを経口投与すると、用量依存的に関節炎スコアが低下した(図1)。組織学的試験の結果、レバミピドを経口投与した場合、関節及び軟骨の破壊程度が顕著に低減し、軟骨の破壊は正常マウスと同程度にまで好転した(図2)。血清学的試験の結果、レバミピドを経口投与した場合、II型コラーゲン(type II collagen)特異的免疫グロブリン、すなわち総IgGが有意に減少した(図3参照)。これらの結果は、レバミピドが優れた関節リューマチ治療活性を有することを示している。
【0014】
本発明の薬学組成物は、薬学的に許容可能な担体を含み、それぞれ通常の方法によって、例えば散剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、懸濁液、乳剤、シロップ、エアゾールなどの経口型剤形;外用剤;坐剤;または滅菌注射溶液剤に製剤化される。望ましくは、本発明の薬学組成物は、経口投与用形態であって、さらに望ましくは、錠剤形態またはカプセル剤形態の固形経口用剤形を有する。例えば、本発明の薬学組成物は、商業的に市販されているレバミピド含有錠剤[例えば、ムコスタ錠(登録商標)(大塚製薬株式会社)]の形態であってもよい。前記薬学的に許容可能な担体としては、ラクトース、デキストロース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、キシリトール、エリスリトール、マルチトール、澱粉、アカシアゴム、アルギン酸塩、ゼラチン、リン酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、セルロース、メチルセルロース、微結晶セルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース2910、ポリエチレングリコール6000、ポリビニルピロリドン、メチルヒドロキシベンゾアート、プロピルヒドロキシベンゾアート、酸化チタン、タルク、ステアリン酸マグネシウム及び鉱物油などが挙げられる。また、前記薬学組成物は、充填剤、増量剤、結合剤、湿潤剤、崩壊剤、界面活性剤などの希釈剤または賦形剤をさらに含んでもよい。経口用固形製剤は、錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤などを含み、このような固形製剤は、少なくとも一つ以上の賦形剤、例えば、澱粉、カルシウムカーボネート、スクロースまたはラクトース、ゼラチンなどを含むことができ、ステアリン酸マグネシウム、タルクのような潤滑剤などを含んでいてもよい。具体的には、本発明の薬学組成物は、有効成分としてレバミピドを含み、担体として、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、微結晶セルロース、酸化チタン、ヒドロキシプロピルメチルセルロース2910、ポリエチレングリコール6000、ヒドロキシプロピルセルロース及びステアリン酸マグネシウムを含む錠剤形態であってもよい。経口用液状製剤には、懸濁剤、内用液剤、乳剤、シロップ剤などが含まれる。加えて、水、流動パラフィンなどの希釈剤;湿潤剤;甘味剤;着香剤;保存剤などが含まれていてもよい。非経口用製剤には、滅菌された水溶液、非水性溶剤、懸濁剤、乳剤、凍結乾燥製剤、坐剤が含まれ、非水性溶剤や懸濁剤としては、プロピレングリコール;ポリエチレングリコール;オリーブオイルのような植物性油;オレイン酸エチルのような注射可能なエステル類などが含まれる。坐剤の基剤としては、ウィテプゾール(witepsol)、マクロゴール、ツイーン61(Tween 61)、カカオ脂、ラウリン脂、グリセロゼラチンなどが用いられる。
【0015】
本発明の薬学組成物に含まれる前記レバミピドの投与量は、患者の状態及び体重、疾病の程度、薬物形態、投与経路及び期間によって異なるが、当業者によって適切に選択される。例えば、前記レバミピドは、1日0.1〜100mg/kgの用量で経口投与可能であり、望ましくは0.5〜50mg/kg、特に望ましくは約0.6〜6mg/kgである。従って、本発明の薬学組成物は、レバミピドが0.5〜50mg/kg、望ましくは0.6〜6mg/kgの用量で経口投与されるのに適した単位投与形態(unit dosage form)に製剤化されてもよい。前記投与は、1日に1回または数回に分けて投与可能である。本発明の薬学組成物は、単独で投与されるか、あるいは他の関節リューマチ治療剤、例えば非ステロイド抗炎症剤(NSAID);メトトレキサート、スルファサラジンなどの抗リューマチ薬剤と併用して投与され、併用投与の場合、順次に投与されても同時に投与されてもよい。
【0016】
以下、本発明について、実施例によってさらに詳細に説明する。しかし、実施例は本発明を例示するためのものであり、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0017】
1.動物モデルの準備及び投与
【0018】
試験動物として6〜7週齢のDBA/1J系雄性マウスを使用した。II型コラーゲン(CII)を4mg/mlとなるよう0.1N酢酸溶液に溶解した後、透析緩衝液(dialysis buffer、50mM Tris、0.2N NaCl)で透析し、結核菌(M.tuberculosis)を含有する同量のフロイント完全アジュバント(complete Freund’s adjuvant)(CFA、Chondrex)と混合した後、50μl(すなわち、100μg/50μl)の免疫原をマウスの尾の付け根に皮下注射した(一次注射)。2週間後、同じCIIを同量のフロイント不完全アジュバント(incomplete Freund’s adjuvant)(IFA、Chondrex)と混合した後、50μl(すなわち、100μg/50μl)を一方の後足(足裏(foot pad))に注射した(二次注射)。二次注射後、1日おきに計10回、0.6mg/kgまたは6mg/kgのレバミピド(0.5%CMC溶液に溶解)を経口用ゾンデを用いて経口投与した。
【0019】
各群5匹として関節炎の評価を10週まで行い、in vitro試験のために、関節炎スコアが有意に変化した時点で各動物を屠殺し、血液及び関節組織における関節炎の疾病活動度を調べた。
2.CIA動物におけるレバミピドの関節リューマチ治療活性評価
(2−1)平均関節炎スコア評価
【0020】
実験の内容を知らされていない観察者3人が、最初の接種を起点として2週から10週まで、1週間に3回ずつ関節炎症の重症度を評価した。関節炎の評価は、Rosioniecらによる標準関節炎スコアに基づき、1匹毎に、二次接種時にCII/IFAを投与した足以外の3本の足の点数を合わせて3で割った平均スコアを得て、さらに3人の観察者が得た数値を合算して割った平均値を使用した。関節炎評価による点数と基準は、次の通りである。
0点:浮腫や腫脹がない
1点:足または足首関節に局所的な軽度の浮腫及び発赤
2点:足首関節から中足骨(metatarsal)にわたる軽度の浮腫及び発赤
3点:足首関節から中足骨にわたる中等度の浮腫及び発赤
4点:足首から足全体にわたる浮腫及び発赤
【0021】
1本の足に対する関節炎スコアは最大で4点であるから、マウス1匹当たりの関節炎スコアは最大で16である。レバミピドを投与した試験動物では、関節炎スコアが徐々に低くなることを確認することができた。一方、CIA動物では通常の関節炎発生が見られた。レバミピド治療群における関節炎の症状は、治療を受けない群とは継続的に異なっていた(図1)。
(2−2)組織学的検査
【0022】
前記と同様に準備したコラーゲン誘導関節炎(CIA:collagen induced arthritis)動物に、レバミピドを0.6mg/kgまたは6mg/kgの用量で経口投与した。10週後に試験動物を屠殺した後、マウスの後足を10%ホルマリン(formalin)で固定して骨から石灰質を除去した後、パラフィンで包埋した。関節切片(5〜7μm)を準備し、ヘマトキシリン(hematoxylin)及びエオシン(eosin)で染色した。また、軟骨破壊の程度を確認するために、トルイジンブルー(toluidine blue)及びサフラニンO(safranin O)で染色し、組織学的検査を実施した。
【0023】
組織学的検査の結果、CIA動物の関節では、多くの免疫細胞が浸潤されており、パンヌス(pannus)形成、軟骨破壊及び骨侵食などが観察された。一方、レバミピドを経口投与した動物は、関節や軟骨の破壊程度が正常マウスと同様であった(図2)。
(2−3)血清学的試験(コラーゲン特異的抗体の測定)
【0024】
血清学的試験として、CIIに特異的な免疫グロブリン(総IgG)の変化を、酵素結合免疫測定法(ELISA)で測定した。各試験群の血清を1:8000に希釈した後、CIIに特異的な血清内IgG抗体を測定した結果、レバミピドを経口投与した動物の総IgGは有意に減少していた(図3)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性成分としてのレバミピド及び薬学的に許容可能な担体を含む関節リューマチの予防用または治療用の薬学組成物。
【請求項2】
経口投与用であることを特徴とする、請求項1に記載の薬学組成物。
【請求項3】
錠剤形態またはカプセル剤形態の経口用固形剤形を有することを特徴とする、請求項2に記載の薬学組成物。
【請求項4】
0.5〜50mg/kgの用量でレバミピドを経口投与するのに適した単位投与形態に製剤化されていることを特徴とする、請求項1に記載の薬学組成物。
【請求項5】
0.6〜6mg/kgの用量でレバミピドを経口投与するのに適した単位投与形態に製剤化されていることを特徴とする、請求項4に記載の薬学組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2013−503153(P2013−503153A)
【公表日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−526612(P2012−526612)
【出願日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際出願番号】PCT/KR2009/005753
【国際公開番号】WO2011/025086
【国際公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【出願人】(510058863)カトリック ユニバーシティ インダストリー アカデミック コーオペレイション ファウンデーション (6)
【出願人】(512046866)ハンリム ファーマシューティカル カンパニー リミテッド (2)
【Fターム(参考)】