説明

レブリン酸誘導体とエポキシ化された脂肪酸エステルとの付加体およびそれらの使用

本開示は、レブリン酸エステルとエポキシ化された不飽和脂肪酸エステルとの反応から得られる化合物の製造方法に関する。これらの化合物は、再生可能なバイオマスをベースにした、さまざまなポリマーのための可塑剤として有用である。レブリン酸のアルキルエステルと、植物油から誘導されたエポキシ化不飽和脂肪酸エステルとの間の反応で形成された、モノ−、ジ−、およびトリ−ケタール付加体も開示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本出願は、2005年11月22日に出願した米国特許仮出願第60/739,022号(題名は「レブリン酸誘導体とエポキシ化された脂肪酸エステルとの付加体およびそれらの使用」)の利益を主張し、その全体を本出願に援用する。
【0002】
本開示は、レブリン酸エステルとエポキシ化された不飽和脂肪酸エステルとからの化合物の製造方法に関する。これらの化合物は、再生可能なバイオマスをベースにした、さまざまなポリマーのための可塑剤として有用である。
【背景技術】
【0003】
さまざまなポリマーのための可塑剤が、当分野で広く知られている。ほとんどの可塑剤化合物は、高価で再生可能でない石油由来の原料から製造されている。一部の可塑剤化合物は、植物油のトリグリセリドなどの再生可能な原料から(典型的には、不飽和脂肪酸フラグメントのエポキシ化によって)製造されている。しかし、エポキシ化されたトリグリセリド類には重要な制限があり、主要な可塑剤として満足に使用することができない。なぜなら、これらのポリ(ビニルクロライド)(PVC)ポリマーとの相溶性が限られているからである。
【0004】
一部の脂肪族ジカルボン酸エステル(例えば、セバシン酸またはアゼライン酸のエステル等)は、さまざまな不飽和脂肪酸化合物から製造されている。このようなジカルボン酸は、優れた可塑化特性を有する。しかし、関与する合成の複雑性または原材料価格に起因して、このようなジカルボン酸は比較的高価であり、低温での使用を目的とする用途におけるプレミアム製品として使用されている。
【0005】
工業的製造において使用されている一部の公知の可塑剤、例えば、リン酸とアルキル化されたフェノールとのエステル等は、環境に有害であり、最終製品に不愉快な臭いを付与し、有害な大気汚染を引き起こす。
【0006】
一般にPVCの可塑化に使用されているフタル酸エステル類は、近年、動物またはヒトにおける生殖に関する有害作用、特にヒトにおける男性の生殖毒性に関与する内分泌攪乱物質に関係があるとされている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、安価で、毒性がなく、再生可能な豊富な原材料から製造され、かつ、環境崩壊産物が実質的に有害作用を有さない可塑剤化合物の提供が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
多くのポリマーとの良好な相溶性を有する汎用可塑剤であるエステル化合物を開示する。このエステル化合物は、豊富で安価な再生可能材料(例えば、不飽和脂肪酸エステルおよびレブリン酸エステル等)から製造される。モノエポキシ化された不飽和脂肪酸エステルのエポシキド基を、適切な触媒(典型的には、プロトン酸またはルイス酸)の存在下、レブリン酸エステルと反応させて、ジヒドロキシル化された脂肪酸エステルのレブリン酸エステルのケタールを形成させる。同様に、レブリン酸エステルは、2個または3個の二重結合を有する不飽和脂肪酸エステルから誘導されたビスエポキシ化およびトリスエポキシ化された不飽和脂肪酸エステルと反応して、対応するビスケタールおよびトリスケタールを与える。加えて、エポキシ化された不飽和脂肪酸エステルとの反応において、レブリン酸およびアンゲリカラクトンを、レブリン酸エステルと組み合わせて、あるいはレブリン酸エステルに代えて使用することができる。レブリン酸エステルとエポキシ化された不飽和脂肪酸との付加体は、さまざまな工業用ポリマー用の可塑剤として有用である。
【0009】
レブリン酸エステル、レブリン酸、および/またはアンゲリカラクトンと、エポキシ化された不飽和脂肪酸とから製造された化合物の例には、次式:
【化1】

および、次式:
【化2】

〔式中、Xは以下の:
【化3】

から選択され、
およびRは、C1〜C10の直鎖状または分岐状のアルキルまたはアルコキシアルキルであり;
AまたはBのうち1つは水素であり、他方はエステル化されたカルボキシ基であり;
mおよびnは独立に0〜20の整数であり、m+nの合計が8〜21の範囲である)
からなる群から選択される〕
のものが含まれる。
【0010】
反応生成物は、次式:
【化4】

(式中、RおよびRは、C1〜C10の直鎖状または分岐状のアルキルまたはアルコキシアルキルである)
も有し得る。
【0011】
レブリン酸エステル、レブリン酸、および/またはアンゲリカラクトンを、ビスエポキシ化またはトリスエポキシ化された不飽和脂肪酸エステルと反応させると、結果として得られる化合物には、次式:
【化5】

(式中、RおよびRは、C1〜C10の直鎖状または分岐状のアルキルまたはアルコキシアルキルである)
のものが含まれる。一部の実施態様では、RおよびRは、メチル、エチル、n-ブチル、イソブチル、イソアミル、および2-エチルヘキシルであってよい。
【0012】
これらの化合物は、可塑化されたポリマー組成物中で、ベースポリマーと共に可塑剤として使用することもできる。ベースポリマーには、塩化ビニルポリマー、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)、ポリ(ラクテート)、およびポリサッカライドポリマーが含まれ得る。
【0013】
本発明の1つ以上の態様の詳細を以下の図および記述により説明する。本発明のその他の特徴、目的、および利点は、これらの記載、図、および特許請求の範囲から明らかとなろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下の用語を用いる。
「不飽和脂肪酸」は、10〜24個の炭素原子と少なくとも1つの二重結合とを有する直鎖状モノカルボン酸を意味する。二重結合(複数)は、互いに共役であっても非共役であってもよいがアレン配置にはない任意の位置であってよく、二重結合はいずれも独立してシスであってもトランスであってもよい。不飽和脂肪酸は、1個〜3個の二重結合を有することが好ましい。脂肪酸は、例えば、さまざまな植物油、魚油、およびパーム油のトリグリセリド中などにみられるように、さまざまな不飽和および飽和の脂肪酸の混合物から構成されうる。
【0015】
「不飽和脂肪酸のエステル」は、上述した脂肪酸と一価または多価アルコールとのエステルを意味する。
【0016】
「一価アルコール」は、1〜12個の炭素原子を有する、直鎖状もしくは分岐状の一級もしくは二級のアルカノールまたはアルコキシアルカノールである。アルカノールの好ましい例は、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、sec-ブタノール、イソブタノール、イソアミルアルコール、2-エチルヘキサノールである。好ましいアルコキシアルカノールは、3〜12個の炭素原子を有する一級または二級アルコールであり、1〜8個の炭素原子を有する直鎖状、分岐状、または環状のアルコキシ基がヒドロキシル基の隣接(ビシナル)位置に配置されている。このようなアルコキシアルカノールは、典型的には、アルカノールによるアルキルオキシランの開環によって誘導される。アルコキシアルカノールの別の適切な例は、フルフラールの水素化によって容易に得られるテトラヒドロフルフリルアルコールである。最も好ましいものは、それらの入手性、価格、およびそれらのエステルの満足できる安定性により、一価アルコールである。
【0017】
「多価アルコール」は、1〜6個のヒドロキシル基を有する直鎖状または分岐状のポリヒドロキシル化アルカンである。典型的な例は、エチレングリコール、プロピレン-1,2-および-1,3-ジオール、ブチレングリコール異性体類、グリセロール、1,2,4-トリヒドロキシブタン、ペンタエリスリトール、キシリトール、リビトール、ソルビトール、マンニトール、およびガラクチトールである。多価アルコールは、任意に1つ以上のエーテル結合を含有することもでき、そのような多価アルコールの適切な例は、イソソリビッド、ソルビタン異性体類、およびジグリセロールである。
【0018】
多価アルコールの実質的に全てのヒドロキシル基が、不飽和脂肪酸基でエステル化されることが好ましい。工業的な実施においては、完全なエステル化を達成することは実際的ではないだろうということが理解される。また、工業的な実施において、混合された脂肪酸組成物が用いられる場合には、脂肪酸基の必ずしも全てが不飽和であることはできず、いくらかの完全に飽和の脂肪酸基が存在しうることも理解される。実際に、典型的な植物油(例えば、大豆油、亜麻仁油、カノーラ油、サフラワー油、ヒマワリ油、コーン油、ひまし油、これらのブレンド物など)のトリグリセリド中に存在するような不飽和および飽和の脂肪酸エステルの混合物を用いることが価格において優位である。しかし、この混合された脂肪酸エステルが、大部分は不飽和脂肪酸エステルを含むことが好ましい。モノ不飽和脂肪酸エステルの高い含有率を有する脂肪酸エステル、例えば、高オレイン酸カノーラ油にみられる組成物、を用いることも好ましい。10-ウンデシレン酸のエステルも好ましい。別の好ましい出発物質は、植物油(例えば、さまざまなバイオディーゼル燃料の工業生産に通常用いられる、大豆油、カノーラ油、およびその他の不飽和トリグリセリド類)のエステル交換によって誘導される脂肪酸のメチルエステルの混合物である。
【0019】
さまざまな不飽和脂肪酸エステルは、任意に、ブレンド、混合、または部分的水素化することができ、あるいは二重結合の位置もしくは立体化学の変更のために異性化することができる。
【0020】
「エポキシ化不飽和脂肪酸エステル」は、その不飽和脂肪酸エステルの少なくとも1つの二重結合がエポキシ基に酸化されていることを意味する。このような酸化は当分野では周知であり、例えば、過酸化水素およびカルボン酸(例えばホルメートまたはアセテート)を用いることによって、あるいはハロヒドリン法によって、工業規模で容易に行うことができる。しかし、不飽和脂肪酸エステル中に存在する過半数のまたは全ての二重結合のエポキシ化が達成されることが好ましい。実際には、エポキシ化脂肪酸エステルは、エポキシドの加水分解または転位から、および脂肪酸鎖の架橋から生じるさまざまな量の副生物を含有しうる。エポキシ化副生物とエポキシド分解副生物とを少量を含有するエポキシ化脂肪酸エステルの使用は、完全に本明細書の開示の範囲内である。
【0021】
「レブリン酸エステル」は、レブリン酸(4-オキソペンタン酸)と一価アルコールとのエステルである。しかし、レブリン酸エステル中の一価アルコールフラグメントは、独立に、不飽和脂肪酸エステルの一価アルコールフラグメントから選択され、したがって、同じであっても異なっていてもよい。レブリン酸は、任意に、レブリン酸エステルと 1種以上の一価アルコールとの混合物であってよい。
【0022】
「ポリマー」。ポリ(ビニルクロライド)ポリマー、すなわちPVCは、塩化ビニルのホモポリマーまたはコポリマーである。さまざまな重合度、架橋性の多くのPVC化合物、およびコポリマー組成物が当分野では公知であり、工業的に製造されている。
【0023】
ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)、すなわちPHAは、3-ヒドロキシアルカン酸のポリエステルホモポリマーまたはコポリマーである。好ましくは、PHAは、3〜18個の炭素原子を有する直鎖状の3-ヒドロキシアルカン酸フラグメントから構成される。ポリ(3-ヒドロキシブチレート)、すなわちPHBは、生物学的に、例えばさまざまな微生物によって産生されるホモポリマーである。純粋なPHBポリマーは、狭い範囲の加工温度を有する脆いポリマーであり、その融点からわずか20〜30℃高い温度で容易に分解する。
【0024】
ポリ(ラクテート)、すなわちポリ(ラクチド)、すなわちPLAは、さまざまな立体化学の乳酸の繰り返し単位を含む公知のポリエステルホモポリマーである。
【0025】
ポリサッカライドは、グリコシル結合で連結されたヘキソースまたはペントースフラグメントを含む、直鎖状または分岐状の、ホモポリマーおよびコポリマーである。ポリサッカライドは、任意に、アシルアミド基、硫酸エステル基、カルボン酸エステル基、アルキルおよびヒドロキシアルキルエーテル基などのさまざまな追加の基を含有していてもよい。このような追加の基は天然原料から誘導されるポリサッカライド中に存在していてもよく、あるいは人工的に導入することもできる(すなわち、セルロースのアシル化による)。ポリサッカライドの例には、セルロースおよびデンプンのアシル化誘導体、ならびに天然のもしくはアシル化されたキチンおよびペクチンが含まれる。
【0026】
「可塑剤」は、上述のポリマーの1種以上を含むベース組成物に、ポリマー組成物のガラス転移温度を低くする目的で添加される化合物であり、それによって組成物をより柔軟にし、かつ(例えば溶融押出もしくは溶融成形による)加工を容易にする。可塑剤は、典型的には、さまざまな有効濃度で、かつ、用いるポリマーおよびコンパウンドされたポリマー配合物の所望の特性に応じて使用される。可塑剤は可塑化されていないポリマーの1から80重量%の間の濃度で用いることができる。用いるポリマーおよび可塑剤に応じて、可塑剤は、コンパウンドされたポリマーの物理的および機械的特性のその他の変化を付与すると共に、さまざまなガス、水、水蒸気、または有機化合物に対する透過性に関するコンパウンドされたポリマーのバリア特性の変化を付与することができると考えられる。1種以上の異なる可塑剤を、押出可能もしくは成型可能なポリマー組成物の調製のための追加の化合物とともに、さまざまなブレンド中に用いることができることも考えられる。このような追加の化合物には、さまざまな無機および有機のフィラー化合物、木材粉、強化用繊維、染料、顔料、安定剤、潤滑剤、抗菌添加剤などが含まれる。
【0027】
可塑剤は、典型的には、ベース組成物のポリマーおよび他の任意の成分と、ポリマーの融点より高い温度または低い温度にて、当分野で周知のさまざまな配合装置中で混合することによって混合される。可塑剤は、任意の揮発性溶媒の助けを借りて導入することもできる。
【0028】
レブリン酸のケタール誘導体は、エポキシ化された不飽和脂肪酸エステルと十分な量のレブリン酸エステルとを適切な触媒の存在下で反応させて、それによって、脂肪酸エステルフラグメントとレブリン酸フラグメントとの間の共有結合付加体であるさまざまな化合物を得ることによって製造する。
【0029】
このような反応の1つによれば、式(3)のケタールエステル化合物が容易に形成される。
【化6】

式中、(2)はレブリン酸エステルであり、(1)はエポキシ化された不飽和脂肪酸エステル(エポキシ基を示す)であり、(3)は、ケタールエステル付加体であり、Rは、C1〜C10の直鎖状または分岐状のアルキルまたはアルコキシアルキルである。
【0030】
例えば、この反応によれば、容易に得られるエステルである9,10-エポキシ化オレイン酸エステルが式(4)のケタールに変換される。
【化7】

式中、RおよびRは、独立に、C1〜C10の直鎖状または分岐状のアルキルまたはアルコキシアルキルである。
【0031】
典型的には、さまざまなエポキシドとケトンとを反応させるための触媒には、さまざまな酸が含まれる。このような条件は、レブリン酸エステルと、エポキシ化された不飽和脂肪酸エステルとの反応に、一般的に適用可能である。このような触媒の非限定的な例には、無機強酸、例えば、硫酸、塩酸、ホウフッ化水素酸、臭化水素酸、p-トルエンスルホン酸、カンファースルホン酸、メタンスルホン酸などが含まれる。プロトン化したスルホン酸基を含有するさまざまな樹脂も、反応の終了後にそれらを容易に回収することができるため、有用である。酸の例にはルイス酸も含まれる。例えば、三フッ化ホウ素およびBFのさまざまな錯体、例えば、BFジエチルエーテラート、も有用である。シリカ、酸性アルミナ、チタニア、ジルコニア、さまざまな酸性クレー、混合アルミナ、またはマグネシウム酸化物なども使用することができる。無機酸、スルホン酸、またはルイス酸誘導体を含む活性炭誘導体も使用することができる。当業者は、本明細書に記載した化合物の調製において用いる触媒組成物の部数および量について多くの変形を実施することができる。
【0032】
高温を、反応性の低い触媒を用いる反応を加速するために用いることができる。しかし、反応混合物の温度は、多量のレブリン酸ケタール生成物の製造に成功するために決定的に重要ではない。なぜなら、より活性の低い触媒を用いた場合でも、反応はなお進行して所望の化合物を生成するからである。触媒の量および種類は、反応に用いるエポキシドおよびレブリン酸エステルの具体的な化学組成に左右され、当業者によって容易に確立されうる。この反応は、反応条件下で不活性であり且つ典型的には反応の最後に蒸留によって除去される、任意の共溶媒の存在下で実施することができる。典型的には、充分な量の共溶媒(あるいは十分に過剰のレブリン酸エステル)を用いてエーテル結合形成を介してのエポキシド化脂肪酸エステルの架橋を最小化することが望ましい。適切な共溶媒の非限定的な例には、飽和炭化水素、エーテル、および、単純なアルカノールとアルカン酸とのカルボン酸エステルが含まれる。
【0033】
モノエポキシドと同様に、不飽和脂肪酸エステルのビスエポキシドを、レブリン酸エステルのビスケタールを含む立体異性体混合物に変換することができる。
【0034】
不飽和脂肪酸エステルのモノ−またはビス−エポキシドをレブリン酸エチルと反応させると、脂肪酸のビス−エポキシドの反応が、他の競合反応を伴う場合がある。これらの競合反応が、有用な化合物類の製造に有利であることが見いだされた。特に、多量の遊離のアルカノールが存在する場合、および/またはエステル交換反応に有利なプロトン酸触媒を用いる場合に、不飽和脂肪酸エステルのアルコキシアルカノール誘導体の形成がケタールの形成に優先される。エポキシドの開環後に、アルカノールを除去するための条件を用いると、式(5)のレブリノイル化されたエステル交換生成物が形成される。
【化8】

式中、Rは、C1〜C10の直鎖状または分岐状のアルキルまたはアルコキシアルキルであり;AまたはBのうち1つは水素であり、他方はエステル化されたカルボキシル基であり;mおよびnは独立に0〜20の整数であり、m+nの合計が8〜21の範囲である。
【0035】
変形態様では、公知の不飽和脂肪酸エステルのアルコキシアルカノール誘導体を、エポキシ化された不飽和脂肪酸エステルのエポキシド基をアルカノールを用いて開環させることによって製造することができる。次いで、アルコキシアルカノール誘導体のヒドロキシル基を、レブリン酸エステルもしくは遊離のレブリン酸、またはガンマ−アンゲリカラクトンを使ってエステル化することによって、不飽和脂肪酸エステルの隣接アルコキシ−レブリノイル誘導体を得ることができる。
【化9】

式中、(6)は、エポキシ化された不飽和脂肪酸エステルであり;(7)は、アルコキシアルカノール誘導体であり;(5a)は、アルコキシ−レブリノイル誘導体であり;Rは、C1〜C10の直鎖状または分岐状のアルキルまたはアルコキシアルキルであり;AまたはBのうち1つは水素であり、他方はエステル化されたカルボキシ基であり;mおよびnは独立に0〜20の整数であり、m+nの合計が8〜21の範囲である。
【0036】
互いに近接した位置にあるエポキシ基(複数)を有する、不飽和脂肪酸エステルのビスエポキシドまたはトリスエポキシドを用いる場合は、分子内エポキシド開環反応も起こり、それによって、それぞれが、連続している脂肪酸炭素鎖の2つの炭素原子を結合している、1つ以上のエーテル結合が形成される。典型的には、このようなエーテル結合は、テトラヒドロフラン環(より多い)とテトラヒドロピラン環(より少ない)の形成をもたらす。その結果、不飽和脂肪酸エステルの酸化誘導体の立体異性体の複雑な混合物が形成される。例えば、メチレン基によって隔てられた2つの二重結合を有するジ不飽和脂肪酸から誘導されたビスエポキシドからのこのような生成物の代表的異性体は、下記式(8a)および(8b)を有する。
【化10】

式中、R、A、B、n、およびmは、上述により定義した通りである。
【0037】
典型的には、触媒の除去または中和後、典型的には減圧下で蒸留することによって、任意の過剰のレブリン酸エステル、溶媒、および該当する場合には(エポキシ化された脂肪酸エステル出発物質中の不純物として存在しうる)任意の飽和脂肪酸エステルの除去が達成され、ニートの、透明であり実質的に無臭の安定な液体が形成される。用いられた具体的な条件に依存して、この液体は、不飽和脂肪酸エステルの隣接ジヒドロキシ誘導体のレブリン酸ケタール、および/またはアルキルオキシ−レブリノイル化合物の混合物を含む。後者のこれらの化合物は、不飽和脂肪酸鎖の2つの炭素原子を連結するエーテル結合を含み、これによってテトラヒドロフラン環またはテトラヒドロピラン環を形成していてよい。
【0038】
これらのレブリン酸付加体は、PVC、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)ポリマー、ポリ(ラクテート)、およびポリサッカライドポリマー用の可塑剤化合物として有用である。レブリン酸付加体は、これらのポリマーと広い範囲の濃度にわたって相溶性である。これらの付加体の合成に用いられる反応物中に存在するさまざまなアルカノールフラグメントを選択することによって、可塑剤の性質を、最良の可塑化特性および最良の相溶性という点だけではなく、得られるポリマーのバリア特性(例えば、水分、ガス、溶媒の透過性)、水の浸出、ならびに臭気および汚染保持力の点で微調整することも可能である。
【0039】
本明細書では、遊離のカルボニル基を実質的に有さず、したがって本明細書に記述するレブリノイル誘導体とブレンドして所望の可塑化ポリマー組成物を与える一連の類似の可塑剤化合物も提供する。有用な可塑剤化合物を、低級アルカン酸をレブリン酸エステルに代えて使用することによって製造する。この実施態様では、アルコキシアルカノール誘導体(7)の遊離のヒドロキシル基を低級アルカン酸またはこれらの無水物を用いてエステル交換によってアシル化して、アルカノールと低級アルカン酸とのエステルを製造する。本実施態様で用いるアルカン酸は、炭素原子2〜8個を有する直鎖状または分岐状のモノカルボン酸である。このような酸の好ましい例は、酢酸、プロピオン酸、酪酸、2-エチルヘキサン酸である。本実施態様におけるエステル交換反応に好ましいエステルは、上述のアルカン酸と、炭素原子1〜4個を有する直鎖状または分岐状の一級または二級アルカノールとのエステルである。アルコールフラグメントは、典型的には、エステル交換反応で放出されるアルコールが低い沸点を有し、反応中に形成されると同時に容易に蒸留によって除去可能となるという要求を考慮して選択する。エステル交換は、典型的には、当分野で周知の通常の条件下で達成され、酸触媒または塩基触媒の使用を必要とする。モノ不飽和脂肪酸エステルのモノエポキシドから誘導されるアルキルオキシアシルオキシ誘導体は、式(9)を有する。
【化11】

式中、Rは、C1〜C10の直鎖状または分岐状のアルキルまたはアルコキシアルキルであり;Rは、C1〜C7の直鎖状または分岐状のアルキルであり;AまたはBのうち1つは水素であり、他方はエステル化されたカルボキシル基であり;mおよびnは独立に0〜20の整数であり、m+nの合計が8〜21の範囲である。
【0040】
式(8a)および式(8b)のレブリン酸誘導体と同様に、メチレン基で隔てられた二重結合を有するジエン性脂肪酸エステルのビス−エポキシドから得られる脂肪酸エステルのアルキルオキシアシロキシ誘導体は、代表的な構造(10a)および(10b)を有する。
【化12】

式中、R、R、A、B、n、およびmは、上述により定義した通りである。
【0041】
得られた、脂肪酸エステルと低級アルカン酸とのアルキルオキシアシロキシ誘導体は、上述したレブリン酸エステル付加体と同様の優れた可塑化特性を有する。したがって、これらは、主要可塑剤として、あるいは本明細書において開示したレブリン酸誘導体との混合物としてポリマー組成物に実質的に同様に使用して、可塑化されたポリマー組成物中の遊離のカルボニル基の存在を制御することができる。
【0042】
別の実施態様では、さまざまなPVC含有物品において使用するための可塑剤組成物が望まれる場合において、レブリン酸エステルとエポキシ化された不飽和脂肪酸エステルとの付加体の合成は、エポキシ化された不飽和脂肪酸と、炭素原子18個の連続的な炭素鎖を有する典型的な脂肪酸エステルとを用いて実施することができる。このような付加体には、式(4)のケタールを主として含有する化合物が含まれ、出発物質中に不飽和脂肪酸エステルのビス−エポキシドまたはトリス−エポキシドが存在する場合には、これらは、式(11)のビス−ケタールまたは式(12)のトリス−ケタールによって例示されるレブリン酸エステルケタール付加体にも変換され得る。
【化13】

式中、RおよびRは、C1〜C10の直鎖状または分岐状のアルキルまたはアルコキシアルキルである。
【0043】
このような実施態様においては、他の反応生成物が形成されてもよく、様々な量で存在していてもよいことが理解される。このような他の反応生成物は、例えば、式(13a)および式(13b)のエポキシ−ケタールの立体異性体を含む。
【化14】

反応生成物には、式(5)〜(10)の化合物の組合せも含まれ得る。加えて、さまざまな量の架橋結合した修飾された不飽和脂肪酸エステル誘導体類(不飽和脂肪酸エステルの2つ以上の連続的な炭素結合が、エーテル結合を介して連結しているもの)も存在し得る。存在し得る他の化合物には、レブリン酸とは実質的に反応せず、したがって得られる生成物混合物に変化することなく残っているさまざまな量の飽和脂肪酸エステルが含まれる。
【0044】
さらなる実施態様では、レブリン酸エステルから製造されたケタール付加体とエポキシ化された不飽和脂肪酸エステル(ケタール付加体(4)、(11)、(12)、および(13)によって典型的に例示されるもの)との任意の組合せと、1種以上の飽和脂肪酸エステル(ヘキサデカン酸もしくはオクタデカン酸と一価アルコールR−OHとのエステルによって典型的に例示されるもの)とを含む生成物混合物を、ケタール付加体の混合物から飽和脂肪酸エステルを部分的にまたは実質的に完全に除去するためのさらなる処理にかける。このような除去は、典型的には、飽和エステルの蒸留が開始されるために十分であるがケタール付加体の蒸留は開始されない減圧および高温の条件下で、飽和脂肪酸のエステルを留去することによって達成される。このような蒸留条件は、用いられる温度および減圧、ならびに当分野で公知の蒸留装置次第でさまざまであり得る。ケタール付加体、例えば化合物(4)、(11)、(12)、および(13)は、対応する飽和脂肪酸エステルの沸点よりも典型的に25〜100℃高い沸点を有することが見いだされ、このような大きな沸点の差により、飽和脂肪酸エステルの効率的な除去が、簡単な蒸留装置(例えば、流下膜式カラム、または理論プレート数が比較的少ない他の蒸留塔)を用いて可能になることが見いだされた。レブリン酸エステルとエポキシ化された不飽和脂肪酸エステルとの付加体混合物から飽和脂肪酸エステルを部分的にまたは実質的に除去した結果として、向上した可塑化特性、向上した相溶性、および最小化されたかまたは無視できる程少ない浸出、ならびに臭気が低減されたかまたは臭気がない、ケタール付加体の混合物が形成されることが見いだされた。レブリン酸エステルとエポキシ化された不飽和脂肪酸エステルとのモノケタール付加体(式(4)のケタールによって典型的に例示されるもの)が、ビス−およびトリス−付加体を含む反応混合物(式(11)〜(13)のケタールによって典型的に例示されるもの)から効率的に蒸留によって取り出すことができることも見いだされた。このような蒸留は、真空下もしくは減圧下で典型的に実施することができ、かつ、実質的に無色且つ無臭の形態の高純度モノケタール化合物を提供することができる。式(4)の精製したケタールは、当分野で公知の、セバシン酸およびアゼライン酸のエステルとPVC可塑化特性において同程度である優れたPVC可塑剤であることが見いだされた。
【0045】
これらの可塑化化合物は、単独で、または当分野で公知の多くの他の可塑剤〔例えば、ジカルボン酸のエステル、クエン酸、および芳香族ジカルボン酸のエステル(例えば、フタル酸エステル類)〕を含むさまざまな混合物中で用いることができる。特に有用なものは、エポキシ化度が高いエポキシ化トリグリセリドを用いて調製される可塑剤化合物を含む、PVCの可塑化のための混合物である。このようなエポキシ化トリグリセリドは、エポキシ化大豆油およびエポキシ化亜麻仁油によって典型的に例示することができるが、他のエポキシ化植物油も有用である。このような配合において、エポキシ化された脂肪酸フラグメントは、酸性のポリマー分解生成物のスカベンジャーとして働くことによって、所望の安定化効果を提供する。本可塑化化合物は、さまざまな工業製品および消費物品(床材、外装用のスライド要素およびビルの内装、窓枠、軟質または硬質のパイプ、チューブ、強化ホース、合成皮革、消費物品のパッケージ、自動車の内装および外装部品、電気機器ケース、さまざまな単層および複層のフィルム、ビニル事務用品などが含まれる)の製造に有用である。
【0046】
多くの態様の開示を記述した。しかし、様々な変形が、本開示の精神および範囲から離れることなくなされうることが理解されよう。したがって、他の態様も本願の特許請求の範囲内にある。
【実施例】
【0047】
[実施例1A]
506.2 gの十分にエポキシ化された大豆油(Vicoflex 7170 brand、Arkema社)を2.1 gのナトリウムメトキシドを含有する1 Lの無水メタノール性溶液と混合し、得られた混合物を室温(18℃)にて6時間磁気攪拌した。エステル交換の経時的な進行は、ガスクロマトグラフィーによって追跡した。エステル交換反応が実質的に終了したことを確認した後、反応混合物を、12.8 gの微粉化された無水リン酸二水素カリウムを添加することによって中和し、その後一晩攪拌した(12時間)。得られた混合物を濾過し、ウォーターバスを40℃に設定したロータリーエバポレーターを用い、減圧下でメタノールを蒸発させた。得られたオイルを1 Lのヘキサンに溶解し、ろ過し、さらに、ロータリーエバポレーターを用いて減圧下でヘキサンを蒸発させた。これによって、弱い油の臭いを有する透明な生成物(485 g)が得られ、これをGC−MS(ガスクロマトグラフィー−マススペクトル法)によって分析した。TIC積分法を用いた場合に、このオイルは、9%のメチルヘキサデカノエート、5%のメチルオクタデカノエート、42%のメチル-9,10-エポキシ-9-オクタデセノエート、40%のメチル9,10,-12,13-ビスエポキシ-9,12-オクタデセノエート、ならびに少量の他の飽和脂肪酸およびエポキシ化不飽和脂肪酸を含有していることが判明した。
【0048】
[実施例1B]
代替的に、エポキシ化された大豆油脂肪酸を、食用大豆油(供給者Archer Daniels Midland Company)からエステル交換反応およびエポキシ化反応によって調製した。0.950 kgの大豆油を、6 gの水酸化ナトリウムを含有する0.5 Lのメタノールと共に、40〜45℃にて約6時間攪拌した。この反応混合物を、40 gの微粉化された無水リン酸二水素カリウムを添加することによって中和し、その後室温で10時間攪拌した。得られた混合物からメタノールを、ロータリーエバポレーターを用いて減圧下で留去し、残った溶液を1 Lのヘキサンと混合し、分液漏斗中で2時間静置した。下相(粗グリセロール)を廃棄した。上相(ヘキサン可溶性物質を含む)を集めてろ過し、さらに、ロータリーエバポレーターを用いて減圧下でヘキサンを蒸発させた。得られた脂肪酸メチルエステル混合物(922 g、弱い油の臭いを有する淡黄色透明オイル)をGC−MSによって分析すると、典型的な大豆油脂肪酸組成物と一致した。このオイルを0.5 Lのヘキサンに再び溶解し、500 mgのTween 80界面活性剤を含有する10%ギ酸水溶液100 gと混合し、磁気攪拌によって激しく攪拌した。この混合物を持続的に攪拌しながら、50%過酸化水素水(合計380 ml)を、発熱反応混合物をヘキサンの沸点未満の温度に維持するために小分け(20〜40 ml)にして8時間かけて、注意深く導入した。エポキシ化の進行は、GC−MSによってモニターした。エポキシ化が終了したことを確認した後、反応混合物を分液漏斗中で分離させ、水性の下相を廃棄した。ヘキサン相を無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、濾過し、減圧下でヘキサンを留去した。得られたオイル(1.06 kg)をGC−MSで分析し、実施例1Aで得られたオイルと実質的に同一であることを確認した。
【0049】
[実施例2〜5]
エポキシ化された脂肪酸エステルの合成を、大豆油の代わりに地域の食料品店から入手したオリーブ油、カノーラ油、またはコーン油試料を用いて実施例1Bに従って行い、あるいは、エポキシ化された大豆油の代わりにエポキシ化された亜麻仁油(Vicoflex 7170 brand、Arkema社)を用いて実施例1Aに従って行った。全ての実施例は、実施例1に記載の手順の25%のスケールで行い、全ての他の物質をこれに従ってスケールダウンさせた。
【0050】
[実施例6]
大豆油から実施例1に従って調製した0.2 gのエポキシ化大豆油脂肪酸メチルエステルと、1 gの無水レブリン酸エチルとを5 mlのtert-ブチルメチルエーテル中に溶解させた。この反応混合物を磁気攪拌によって室温にて攪拌しながら、0.01 mlの三フッ化ホウ素エーテラートをこの反応溶液に添加した。穏やかな発熱作用が観察された。20分間攪拌した後、反応混合物の温度を室温(18℃)に戻し、追加の0.01 mlの三フッ化ホウ素エーテラートを添加し、反応混合物をさらに30分間攪拌した。この反応生成物をGC−MSによって分析した。この反応混合物は、式(4)および(11)のレブリン酸ケタールの立体異性体混合物を主要な反応生成物として含有していることが判明した。
【化15】

式中、Rはメチルであり、Rはエチルである。
【0051】
これらの異性体の代表的なマススペクトルを図1に示す。
【0052】
この反応混合物は、過剰の未反応レブリン酸エチルと大豆油由来の出発物質中に存在していた未変化の飽和脂肪酸エステルとを含有していることも判明した。
【0053】
この反応混合物は、少量の式(12)の化合物を含有していることも判明した。
【化16】

式中、Rはメチルであり、Rはエチルである。
【0054】
[実施例7]
1 mLのエポキシ化大豆油脂肪酸エステル(実施例1に従って調製されたもの)を、4 mlの無水レブリン酸メチルに溶解させ、反応混合物を窒素下で磁気攪拌した。この溶液を攪拌しながら、0.02 mLの三フッ化ホウ素エーテラートを添加して、反応を開始させた(発熱作用が観察された)。反応の進行は、GC−MSで追跡した。30分後、GC−MS分析のための試料を採取し(試料A)、追加の0.02 mLの三フッ化ホウ素エーテラートを添加した。さらに30分攪拌した後、GC−MS分析のためのもう1つの試料を採取した(試料B)。
【0055】
試料AのGC−MS分析は、主要な反応生成物が化合物(4)と、式(13a)および(13b)を有するエポキシド−ケタール化合物の立体異性体とであることを明らかにした。
【化17】

【化18】

式中、R=R=メチルである。試料BのGC−MS分析は、主要な反応生成物が化合物(4)および(11)であることを明らかにした。式(13a)および(13b)の化合物は痕跡量しか観察されず、これによって、式(13a)および(13b)の化合物が、化合物(4)の形成における中間体であり、レブリン酸エステルが出発物質中に存在するビス−エポキシドに段階的に付加することにより得られることが示された。
【0056】
本実施例で形成された化合物(4)、(11)、および(13)の代表的なマススペクトルを図2Aおよび図2Bに示す。
【0057】
[実施例8〜12]
反応を、三フッ化ホウ素の代わりに、以下の触媒:無水SnCl2(50 mg)、SnCl4(50 mg)、TiCl4(50 mg)、またはp-トルエンスルホン酸(20 mg)の1つを用いた以外は、実施例7に記載された通りに行った。反応は、60℃〜80℃にて3時間行った。これらの実施例において観察された生成物のCG特性およびMS−スペクトルは、全ての点において実施例7で観察されたものと同一であった。
【0058】
[実施例13]
反応を、実施例1のエポキシ化された脂肪酸の代わりに、1.2 gのエポキシ化大豆油(Vicoflex 7170、Arkema社)を用い、三フッ化ホウ素エーテラート触媒を0.05 ml用いた(一度に導入した)以外は、実施例7に記載された通りに行った。反応が終了した直後に、レブリン酸メチルを減圧下で蒸留した。得られたオイルを50 mlのヘキサンに溶解し、1%フッ化ナトリウム水溶液10 mlで1回洗浄した後、20 mlの水で2回洗浄した。このヘキサン溶液を無水硫酸ナトリウムで無水にし、濾過し、減圧下で溶媒を除去した。淡黄色オイル(1.32 g)が得られ、これはレブリン酸メチルとエポキシ化油とのケタール付加体を含有していた。このオイル(0.66 g)の半分を、0.2重量%のナトリウムメトキシドを含有するメタノール10 mlに溶解し、全体を2時間攪拌した。次いで、この反応混合物を、微粉化された無水リン酸二水素カリウム0.8 gと共に3時間攪拌することによって中和し、濾過し、メタノールを減圧下で留去した。残渣を10 mlのヘキサンに溶解し、濾過した。ヘキサンを減圧下で除去し、得られたオイル(0.46 g)をGC−MSにより分析した。このオイルの組成は、実施例7で得られたものと実質的に同一であることが判明した。
【0059】
[実施例14〜17]
合成を、実施例1のエポキシ化されたエステルの代わりに、実施例2〜5に従って調製したエポキシ化エステルを用いた以外は、実施例7に記載した通りに行った。全ての生成物が、さまざまな量の化合物(4)および(11)(式中、R=R=メチルである)を、出発物質中のエポキシ化されたメチル-9-オクタデセノエートおよびメチル9,12-オクタデカンジエノエートの量を反映した割合で含有していることが判明した。加えて、エポキシ化された亜麻仁油脂肪酸のメチルエステルから得られた生成物は、大量(およそ35〜45%)のトリケタール化合物(12) (式中、R=R=メチルである)を含有していることが判明した。
【0060】
[実施例18]
252 gのエポキシ化された大豆油脂肪酸エステルを745 gの無水レブリン酸メチルに溶解し、全体を窒素下で磁気攪拌し、次いで、オイルバスを使って70℃に加熱した。反応液を磁気攪拌し、かつ、オイルバスを使って65〜70℃に維持しながら、三フッ化ホウ素エーテラート(1.2 ml)を20分間隔で4回に分けて(各0.3 ml)導入した。反応の進行はGC−MSによってモニターした。全ての触媒を導入した後、攪拌を70℃にて1時間続けた後、さらに室温にて1時間攪拌した。
【0061】
加熱バスを105〜110℃に設定し、最終的に6 mmの真空をもたらし得る真空ポンプを使用するロータリーエバポレーターを使って、レブリン酸メチルを減圧下で留去した。得られたオイルを600 mLのヘキサンに溶解し、2%フッ化ナトリウム水溶液100 mLで洗浄した後、150 mlの水で2回洗浄した。次いで、洗浄したヘキサン溶液を、無水硫酸ナトリウムで無水にし、濾過した。濾液を集め、ヘキサンを、減圧下、蒸留によって恒量に達するまで除いた。残った粘稠なオイル(336 g)は、淡黄色−琥珀色であり、メチルヘキサデカノエートに典型的な、かすかな油の臭いを有していた。このオイルをGC−MSによって分析し、実施例6で得られた生成物と実質的に同一の組成であることを確認した。
【0062】
[実施例19〜22]
実施例18で得られた生成物75 gを、回転クーゲルロール(Kugelrohr)型装置に装着した500 ml丸底フラスコに入れ、最終的に0.1ミリバールの真空をもたらし得るポンプを使用して真空を適用した。出発物質が入った回転フラスコを、250℃に加熱した空気流を供給するように設定したヒートガンを使って穏やかに加熱して、メチルヘキサデカノエートおよびメチルオクタデカノエートの定常的な蒸留を開始させた。約5〜10 gのメチルヘキサデカノエートおよびメチルオクタデカノエートが回収用フラスコに集められた後に蒸留を停止させ、未蒸留物質中の内容物を、残ったメチルヘキサデカノエートおよびメチルオクタデカノエートの存在量について評価した。各回において新たな出発物質のバッチを用いて、メチルヘキサデカノエートおよびメチルオクタデカノエートの除去の手順を数回繰り返した。得られた物質は、主としてモノケタール(4)と、ジケタール(11)と、少量のトリケタール(12) (式中、R=R=メチルである)とを含有していることが判明した。えられた化合物の混合物は、少量のメチルヘキサデカノエートおよびメチルオクタデカノエートをさまざまな割合で含有していることも判明した。メチルヘキサデカノエートおよびメチルオクタデカノエートの総含有率は、合計で、0.1重量%未満(実施例19)、約1.5重量%(実施例20)、約2.9重量%(実施例21)、約5.1重量%(実施例22)であった。
【0063】
[実施例23]
実施例19に従って調製した、ケタール(4)および(11) (式中、R=R=メチルである)を含有する化合物混合物96 gを、回転クーゲルロール(Kugelrohr)型装置に装着した500 ml丸底フラスコに入れ、最終的に0.1ミリバールの真空をもたらし得るポンプを使用して真空を適用した。出発物質が入った回転フラスコを、350℃に加熱した空気流を供給するように設定したヒートガンを使って穏やかに加熱した。定常的な蒸留が開始され、約32グラムの蒸留液が回収用フラスコに集まった。加熱を止めることによって蒸留を終了させ、減圧下で物質を室温に冷ました。蒸留液(実施例23A)は、実質的に無色および無臭のオイルであった。これをGC−MSで分析して、96%の純粋なモノケタール化合物(4) (式中、R=R=メチルである)であることを確認した。痕跡量の化合物(11)、(13a)、および(13b)も確認した(実施例23A)。
【0064】
蒸留フラスコ中の残った油状物質(実施例23B)をGC−MSにより分析すると、約80%のジケタール化合物(11)、12%のモノケタール(4)、80%のジケタール(11)、および少量のトリケタール(12) (式中、R=R=メチルである)を含有していることが明らかになった。
【0065】
[実施例24〜28]
実施例19で調製した、ケタール(4)とジケタール(11) (式中、R=R=メチルである)とを主要な含有物として含有する混合物16 gを、以下のもの40 mlに溶解させた:
(24) 約0.2重量%のナトリウムエトキシドを含む無水エタノール、
(25) 約0.2重量%のナトリウムブトキシドを含む無水ブタノール、
(26) 約0.4重量%のナトリウムイソブトキシドを含む無水イソブタノール、
(27) 約0.3重量%のナトリウム3-メチルブトキシドを含む無水イソアミルアルコール
(27) 約0.3重量%のナトリウム2-エチルへキソキシドを含む2-エチルヘキルアルコール。
【0066】
溶液を、室温(26℃)にて磁気攪拌によって12時間攪拌した。エステル交換の進行は、反応混合物の少量の一定分量をGC−MSによって分析することによってモニターした。化合物(4)および(11) (式中RまたはRがそれぞれメチルであるもの、および式中RおよびRのいずれかがメチルであり、残りがエチル、n-ブチル、イソブチル、イソアミル、または2-エチルヘキシルであるもの)の混合物が検出された。
【0067】
実施例24および25で調製および観察したモノケタール(4)およびジケタール(11)の代表的なマススペクトルを、それぞれ図3および4に示す。
【0068】
GC−MS分析で判定してエステル交換反応が実質的に完結した後で、反応混合物を微粉化された無水リン酸二水素カリウム0.4 g〜0.5 gを添加することによって中和し、その後室温にて24時間激しく攪拌した。次いで、この溶液を濾過し、各試料から過剰のアルコールを、減圧下、ロータリーエバポレーターで各サンプルが恒量に達するまで蒸留することによって除いた。得られた油状生成物をGC−MSで分析し、主として化合物(4)および(11) (式中、R=Rであり、RおよびRは、エチル、n-ブチル、イソブチル、イソアミル、または2-エチルヘキシルから選択される)を含有することを確認した。
【0069】
[実施例29〜40]
レブリン酸ケタール付加体(4)および(11)を含む出発物質を、実施例18、20、21、22、23A、および23Bに従って調製した以外は、エステル交換反応を実施例24および25に従って実施した。得られた生成混合物は、R=Rであり、RおよびRがエチルまたはn-ブチルから選択されるものであった。これらは、さまざまな少量のヘキサデカン酸もしくはオクタデカン酸のエチルもしくはn-ブチルエステルを、エステル交換反応前の出発物質中の存在比に一致した量で含有していた。
【0070】
[実施例41]
化合物(4)および(11)を含む可塑化PVC組成物を調製した。実施例18〜40に従って調製した、ケタール(4)および(11)をさまざまな量で含むニートの可塑剤化合物混合物の試料を、20 mlのガラスバイアル中で、乾燥したPVC粉末(平均分子量Mn 約55,000、平均Mw 97,000、固有粘度 0.92、相対粘度 2.23、供給者 Sigma-Aldrich Company, カタログNo.34,677-2)と、最終的な可塑剤の含有率が20重量%、40重量%、または60重量%になるような割合で、十分に予備混合した。ビス-(2-エチルヘキシル)フタレート、ビス-(2-エチルヘキシル)セバケート、およびエポキシ化大豆油(Vicoflex brand、Arkema)を、参照可塑剤として用いた。得られた各混合物を、個別に、Deca Microcompuounder(Deca Instruments社)の小型二軸混合押出機の予備洗浄したチャンバーに、窒素下、混合チャンバーを160℃に加熱し、モータースピードを100 rpmに設定した状態で供給した。次いで、この混合物を約5分間混合した。その後、得られた溶融物を柔軟な棒状体(直径3 mm)として混合チャンバーから押出し、直ちに周囲の空気中で室温に冷却した。
【0071】
ガラス転位温度のデータ(示差走査熱量分析によるもの)、および可塑剤滲出データを押出された棒状体から切り出した可塑化PVC試験片を使って集めた。
【0072】
化合物(4)および/または(11)を含むコンパウンド混合物は全て、満足すべき可塑化特性を有することが見出された。これは、可塑化されていないポリマーと比較して低められたガラス転位温度が観察されることによって判定した。これらの化合物は、優れたポリマー相溶特性を有し、強制滲出試験において最小限または無視できる程度の滲出を有することも見出された。実施例18〜40に従って調製したコンパウンド混合物の可塑化効果は、ビス-(2-エチルヘキシル)フタレートの可塑化効果より優れているかまたは同程度であることが見出された。PVCとの相溶性および滲出特性は、試験した可塑剤濃度において、エポキシ化大豆油およびビス-(2-エチルヘキシル)フタレートより優れていることも見出された。
【0073】
可塑剤化合物の混合物が、モノケタール (4)および/またはジケタール(11)(式中、R=R=エチルまたはn-ブチルである)を主として含む場合に、試験した条件で、可塑化効果と相溶性の最適の組み合わせが観察された。さらに、モノケタール (4)とジケタール(11)(式中、アルキルヘキサデカノエートおよびアルキルオクタデカノエートの濃度が、可塑剤の重量の約5%以下)とを含む可塑剤混合物の試料が、アルキルヘキサデカノエートおよびアルキルオクタデカノエートの濃度が約5%を越える試料と比較して、PVCと可塑剤とのより良好な相溶性を示し、事実上全く滲出がないことが明らかとなった。
【0074】
[実施例42]
可塑化されたPHB試料〔ポリ(3-ヒドロキシブチレート)、天然起源、Tm 172℃、供給者Sigma-Aldrich、カタログNo.36,350-2〕を、混合チャンバーの温度を180℃に設定し、混合時間を3分に設定し、ケタール (4)および(11)を含む実施例18〜40の可塑剤化合物の混合物を5重量%、10重量%、20重量%、および30重量%で試験したこと以外は、実施例41に従って調製した。可塑剤化合物の混合物(式中、R=R=メチルまたはエチルである)は、可塑剤の濃度が約20重量%以下であり、かつ、対応するアルキルヘキサデカノエート及びアルキルオクタデカノエートの濃度が可塑剤の約1.5重量%以下である場合に、試験した条件で満足すべき可塑化特性と相溶性とを有した。
【0075】
[実施例43]
可塑化ポリマー組成物を、39.8%アセチル含量とMn約30,000を有するセルロースアセテートポリマー(Sigma-Aldrichカタログ番号18,095-5)を用いた以外は、実施例42に従って調製した。得られた結果は、実施例42で用いたPHBポリマーで得られた結果を同様であった。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1A】図1Aは、実施例6についてのGC-MS分析の過程で得られた、化合物(4)の代表的なEIマススペクトルを示す(70 eVでの電子イオン化)。
【図1B】図B1は、実施例6についてのGC-MS分析の過程で得られた、化合物(11)の代表的なEIマススペクトルを示す(70 eVでの電子イオン化)。
【図2A1】図2Aは、実施例7(試料B)についてのGC-MS分析の過程で得られた、化合物(4)の代表的なEIマススペクトルを示す。
【図2A2】図2Aは、実施例7(試料B)についてのGC-MS分析の過程で得られた、化合物(11)の代表的なEIマススペクトルを示す。
【図2B】図2Bは、エポキシケタール化合物(13a)および (13b)の異性体混合物(試料A、実施例7)の代表的なEIマススペクトルである。
【図3A】図3Aは、モノケタール化合物(4)(式中、R=R=エチル)の異性体混合物(実施例24)の代表的なEIマススペクトルを示す。
【図3B】図3Bは、ジケタール化合物(11)(式中、R=R=エチル)の異性体混合物(実施例24)の代表的なEIマススペクトルを示す。
【図4A】図4Aは、モノケタール化合物(4)(式中、R=R=n-ブチル)の異性体混合物(実施例25)の代表的なEIマススペクトルを示す。
【図4B】図4Bは、ジケタール化合物(11)(式中、R=R=n-ブチル)の異性体混合物(実施例25)の代表的なEIマススペクトルを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式:
【化1】

(式中、Rは、C1〜C10の直鎖状または分岐状のアルキルまたはアルコキシアルキルであり;
AまたはBのうち1つは水素であり、他方はエステル化されたカルボキシ基であり;
mおよびnは独立に0〜20の整数であり、m+nの合計が8〜21の範囲である)
を有する化合物。
【請求項2】
下記式:
【化2】

〔式中、Xは以下の:
【化3】

(式中、Rは、C1〜C10の直鎖状または分岐状のアルキルまたはアルコキシアルキルであり;
AまたはBのうち1つは水素であり、他方はエステル化されたカルボキシ基であり;
mおよびnは独立に0〜20の整数であり、m+nの合計が8〜21の範囲である)
である〕
を有する化合物。
【請求項3】
下記式:
【化4】

〔式中、Xは以下の:
【化5】

(式中、Rは、C1〜C10の直鎖状または分岐状のアルキルまたはアルコキシアルキルであり;
AまたはBのうち1つは水素であり、他方はエステル化されたカルボキシ基であり;
mおよびnは独立に0〜20の整数であり、m+nの合計が8〜21の範囲である)
から選択される〕
を有する化合物。
【請求項4】
下記式:
【化6】

(式中、RおよびRは、独立に、C1〜C10の直鎖状または分岐状のアルキルまたはアルコキシアルキルである)
を有する化合物。
【請求項5】
下記式:
【化7】

(式中、RおよびRは、独立に、C1〜C10の直鎖状または分岐状のアルキルまたはアルコキシアルキルである)
を有する化合物。
【請求項6】
下記式:
【化8】

(式中、RおよびRは、独立に、C1〜C10の直鎖状または分岐状のアルキルまたはアルコキシアルキルである)
を有する化合物。
【請求項7】
下記式:
【化9】

(式中、RおよびRは、独立に、C1〜C10の直鎖状または分岐状のアルキルまたはアルコキシアルキルである)
を有する化合物。
【請求項8】
下記式:
【化10】

(式中、RおよびRは、独立に、C1〜C10の直鎖状または分岐状のアルキルまたはアルコキシアルキルである)
を有する化合物。
【請求項9】
およびRが、独立に、メチル、エチル、n-ブチル、イソブチル、イソアミル、および2-エチルヘキシルからなる群から選択される、請求項4〜8のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項10】
およびRが、独立に、メチル、エチル、およびn-ブチルからなる群から選択される、請求項9に記載の化合物。
【請求項11】
a)エポキシ化された脂肪酸エステル誘導体と、レブリン酸エステル、レブリン酸、およびアンゲリカラクトンのうちの1種または2種とを準備する工程と、
b)a)の化合物間の反応を、酸触媒の存在下で行わせる工程と
を含み、
前記反応により、請求項1〜8の化合物またはこれらの混合物が形成される、請求項1〜8のいずれか一項に記載の化合物の製造方法。
【請求項12】
a)ベースポリマーと、
b)請求項1〜8のいずれか一項に記載の化合物と
を含む可塑化されたポリマー組成物。
【請求項13】
前記ベースポリマーが、塩化ビニルポリマー、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)ポリマー、およびポリサッカライドポリマーからなる群から選択される、請求項12に記載の可塑化されたポリマー組成物。
【請求項14】
前記ベースポリマーが塩化ビニルポリマーである、請求項13に記載の可塑化されたポリマー組成物。

【図1A】
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【図1B】
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【図2A1】
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【図2A2】
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【図2B】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4A】
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【図4B】
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【公表番号】特表2009−516748(P2009−516748A)
【公表日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−542447(P2008−542447)
【出願日】平成18年11月22日(2006.11.22)
【国際出願番号】PCT/US2006/045273
【国際公開番号】WO2007/062158
【国際公開日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【出願人】(508152412)アロマジェン・コーポレーション (2)
【出願人】(308039757)
【Fターム(参考)】