説明

レプリカ採取装置及びレプリカ採取方法

【課題】簡便かつ効率的に、被検体表面からレプリカを採取でき、被検体表面の評価を行うことができるレプリカ採取装置及びレプリカ採取方法を提供する。
【解決手段】端部23を支点とする開閉可能な2つのアーム21、22と、アーム21、22が開く方向に付勢力を付与するバネ25とを有する保持具20と、弾性変形可能な固定板11と、固定板11の一方の面の表面に設けられ、光を反射する反射板13と、反射部13の表面に貼設されたレプリカ用のフィルム14と、固定板11の他方の面に設けられ、アーム21の先端を脱着可能な取付部12とを有するレプリカ治具10とを備え、レプリカ治具10を被検体の検査対象面に配置し、アーム22の先端を検査対象面に対向する面に配置し、バネ25の付勢力により、レプリカ治具10の配置位置を固定して、検査対象面の表面状態をフィルム14に転写する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検体の表面状態をフィルムに転写、複製したレプリカを採取するレプリカ採取装置及びレプリカ採取方法に関する。
【背景技術】
【0002】
被検体の表面状態をフィルムに転写、複製したレプリカを採取し、当該レプリカを観察することにより、被検体の表面状態の評価を行うことが、従来技術として知られている。
【0003】
図4(a)を参照して、従来のレプリカ採取方法を説明し、図4(b)を参照して、従来のレプリカ観察方法を説明する。
図4(a)に示すように、レプリカ用のフィルム51をピンセット52で掴み、被検体53の隙間53aにフィルム51を挿入する。フィルム51を溶解する酢酸メチル54を観察したい表面53b(検査対象面)に塗布した後、フィルム51を置き、その上からヘラ55で押さえ込み、フィルム51の溶解面が乾燥するまで保持する(約2分間)。乾燥後、表面53bからフィルム51を剥離して、レプリカの採取が終了する。
【0004】
フィルム51は非常に薄い(約50μm)ため、剥離時にカールしてしまう。そのため、剥離したフィルム51は、専用のホルダ56に固定するようにしている。このとき、図4(b)に示すように、観察用の光を反射させる鏡57を、フィルム51の裏面側に配置すると共に、この鏡57の裏面側を押さえバネ58で押さえ込むことにより、フィルム51をホルダ56に固定している。その後、ホルダ56に固定したフィルム51を顕微鏡59で観察するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭63−256837号公報
【特許文献2】特開平03−100437号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来のレプリカの採取方法においては、フィルム51と被検体53の表面53bとの間に気泡が入りやすいため、レプリカの押え方等に作業者の熟練を要する。そのため、採取したレプリカにおいて、気泡により評価できる面積が小さくなってしまった場合には、レプリカ採取自体のやり直しが発生するという問題がある。又、フィルム51の溶解面が乾燥するまで、作業者がヘラ55を保持し続けなければならず、その間、次の作業を行うことができず、効率が悪いという問題もある。更に、従来のレプリカの観察方法においては、専用のホルダ56にレプリカを固定する必要があるため、レプリカ採取から観察するまでに時間がかかってしまい、更に効率が悪くなるという問題もある。
【0007】
本発明は上記課題に鑑みなされたもので、簡便かつ効率的に、被検体表面からレプリカを採取でき、被検体表面の評価を行うことができるレプリカ採取装置及びレプリカ採取方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決する第1の発明に係るレプリカ採取装置は、
一方の端部を支点とする開閉可能な2つのアームと、前記アームが開く方向に付勢力を付与する付勢部とを有する保持具と、
弾性変形可能な固定板と、前記固定板の一方の面の表面に設けられ、光を反射する反射部と、前記反射部の表面に貼設されたレプリカ用のフィルムと、前記固定板の他方の面に設けられ、一方の前記アームの先端を脱着可能な取付部とを有するレプリカ治具とを備え、
一方の前記アームの先端に取り付けた前記レプリカ治具を被検体の検査対象面に配置して、前記フィルムを接触させると共に、他方の前記アームの先端を前記検査対象面に対向する面に配置し、前記付勢部の付勢力により、前記レプリカ治具の配置位置を固定して、前記検査対象面の表面状態を前記フィルムに転写することを特徴とする。
【0009】
上記課題を解決する第2の発明に係るレプリカ採取装置は、
上記第1の発明に記載のレプリカ採取装置において、
前記固定板及び前記反射部を、中央部分を頂点とする湾曲形状に形成し、湾曲した前記反射部の表面に前記フィルムを貼設したことを特徴とする。
【0010】
上記課題を解決する第3の発明に係るレプリカ採取方法は、
上記第1又は第2の発明に記載のレプリカ採取装置を用いたレプリカ採取方法であって、
被検体の検査対象面に前記フィルムを溶解する溶剤を塗布し、
一方の前記アームの先端に取り付けた前記レプリカ治具を前記検査対象面に配置して、前記フィルムを接触させると共に、他方の前記アームの先端を前記検査対象面に対向する面に配置し、
前記溶剤が乾燥するまで、前記付勢部の付勢力により、前記レプリカ治具の配置位置を固定して、前記検査対象面の表面状態を前記フィルムに転写し、
前記溶剤の乾燥後、一方の前記アームの先端に取り付けた前記レプリカ治具及び他方の前記アームの先端を、前記検査対象面及び前記対向する面から取り外すことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、簡便かつ効率的に、被検体表面からレプリカを採取することができる。保持具は、被検体の状況(例えば、隙間の間隔等)に応じて選択すればよく、例えば、被検体の検査対象面が狭隘部にあっても、小さい保持具を用いることで、レプリカ治具を狭隘部に挿入することができ、当該レプリカ治具の配置位置を固定することができるので、簡便且つ効率的に、狭隘部の検査対象面からレプリカを採取することができる。
【0012】
又、レプリカ治具は、保持具のアームから脱着可能であり、フィルムの裏面側に反射部を有するので、レプリカ治具をアームから取り外せば、そのままの状態で、レプリカ治具のフィルムを光学顕微鏡で観察することができ、簡便且つ効率的に、被検体の検査対象面の評価を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係るレプリカ採取装置の実施形態の一例を示すものであり、(a)は、レプリカ治具の上面図、(b)は、レプリカ治具の側面図、(c)は、レプリカ治具の他方向からの側面図、(d)は、保持具の側面図である。
【図2】(a)は、レプリカ治具を保持具に取り付けた状態を示す上面図、(b)は、その側面図である。
【図3】本発明に係るレプリカ採取方法の実施形態の一例を説明する図であり、(a)は、レプリカ採取前の図、(b)は、レプリカ採取時の図、(c)は、レプリカ剥離時の図、(d)は、レプリカ観察時の図である。
【図4】(a)は、従来のレプリカ採取方法を説明する図であり、(b)は、従来のレプリカ観察方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明に係るレプリカ採取装置及びレプリカ採取方法の実施形態について、図1〜図3を参照して、説明を行う。
【0015】
(実施例1)
図1は、本発明に係るレプリカ採取装置の実施形態の一例を示すものであり、図1(a)は、レプリカ治具の上面図、図1(b)は、図1(a)のA方向から見たレプリカ治具の側面図、図1(c)は、図1(a)のB方向から見たレプリカ治具の側面図、図1(d)は、保持具の側面図である。又、図2は、図1(a)〜(c)に示したレプリカ治具を、図1(d)に示した保持具に取り付けた状態を示すものであり、図2(a)は、その上面図、図2(b)は、その側面図である。
【0016】
本実施例のレプリカ採取装置は、レプリカ治具10と保持具20から構成される。
レプリカ治具10は、プラスチック、硬質ゴム等からなり、適度な強度(弾性変形可能な程度)を有する固定板11と、固定板11の表面に設けられ、光を反射する反射板13(反射部)とを有し、反射板13の表面にレプリカ用のフィルム14を貼設するようにしている。このような構造により、フィルム14の表面(反射板13がある面とは反対の面)がレプリカ転写面となり、レプリカ観察時には、フィルム14を透過した光がフィルム14の裏面側にある反射板13により反射されて、レプリカ転写面の観察が可能となる。
【0017】
固定板11としては、板厚が極力薄い方が好ましいが、レプリカ採取が現場での作業であるため、適度な強度(弾性変形可能な程度)を有する板厚とする。反射板13としては、例えば、ステンレス鋼を鏡面研磨したものや蒸着鏡が望ましい。又、固定板11の表面に蒸着鏡を蒸着し、固定板11と反射板13とを一体部材としてもよい。フィルム14は市販品のアセチル系樹脂のものでよく、例えば、アセチルセルロース等からなる。
【0018】
又、固定板11の上面(反射板13、フィルム14がある面とは反対の面)には、取付部12が設けられており、取付部12に設けた挿入部12aに、後述する保持具20の先端(具体的には、第1アーム21の先端部21a)を挿入することにより、レプリカ治具10と保持具20とを脱着可能としている。このような構造により、レプリカ治具10は、保持具20から脱着容易となり、レプリカ採取後、レプリカ治具10を取り外せば、レプリカ治具10をそのまま顕微鏡にセットすることができ、すぐに検鏡することが可能となる。
【0019】
又、図1(c)に示すように、固定板11及び反射板13に、中央部分を頂点とする反りを与えるため、固定板11及び反射板13を、中央部分を頂点とする湾曲形状に形成しており、そのため、フィルム14も中央部分を頂点に湾曲している。このような形状により、被検体の検査対象面にレプリカ治具10を押し付けたときには、フィルム14の中央部が最初に検査対象面に接触し、その後、検査対象面に沿って、フィルム14の外側に向かって、フィルム14が徐々に接触していくことになる。このため、フィルム14と検査対象面との間の空気を中央側から外側に排出するように、フィルム14と検査対象面と接触させることになり、従来問題となっていた、フィルムと検査対象面との間に残留する気泡を抑制することができる。
【0020】
保持具20は、ピンセット形状のものであり、第1アーム21と第2アーム22とを有し、それらを端部23で接合している。従って、端部23を支点として、第1アーム21、第2アーム22は開閉可能である。そして、第1アーム21の先端部21aが、レプリカ治具10の取付部12の挿入部12aに挿入される。レプリカ治具10を保持具20に取り付けた状態を、図2(a)、(b)に示す。
【0021】
第2アーム22の先端にはゴムパッド24が設けられており、又、第1アーム21と第2アーム22との間にはバネ25(付勢部)が設けられている。第1アーム21と第2アーム22との間を狭めると、バネ25により、第1アーム21と第2アーム22との間を開く方向に付勢力が働くので、レプリカ採取時に、レプリカ治具10を被検体の検査対象面に接触させ、ゴムパッド24を検査対象面に対向する面に接触させることで、レプリカ治具10の検査対象面での配置位置を固定することができる。
【0022】
バネ25の力を利用して、検査対象面がある隙間に保持具20を保持させて、レプリカ治具10の検査対象面での配置位置を固定できるので、従来のように、フィルム14が乾燥するまで、作業者が保持しておく必要はない。従って、次のレプリカ採取に取りかかることができ、作業効率の向上を図ることができる。なお、第1アーム21と第2アーム22のみで(例えば、第1アーム21自体又は第2アーム22自体の弾性変形のみで)、十分な付勢力を付与できる場合には、バネ25は無くてもよい。
【0023】
次に、本実施例のレプリカ採取装置を用いたレプリカ採取方法の一例を、図3を用いて説明する。ここで、図3(a)は、レプリカ採取前の図、図3(b)は、レプリカ採取時の図、図3(c)は、レプリカ剥離時の図、図3(d)は、レプリカ観察時の図である。
【0024】
最初に、フィルム14がセットされたレプリカ治具10を、保持具20の第1アーム21の先端部21aに取り付ける(図2(a)、(b)参照)。そして、被検体30の検査対象面30bにフィルム14を溶解できる溶剤31(例えば、酢酸メチル、アセトン)を塗布した後、保持具20を掴み、被検体30の狭隘部30aにハンドリングする(図3(a)参照)。
【0025】
被検体30の検査対象面30bにレプリカ治具10のフィルム14を接触させると共に、検査対象面30bに対向する面30cに保持具20のゴムパッド24を接触させ、バネ25の付勢力により接触位置を固定する(図3(b)参照)。このとき、検査対象面30bにフィルム14が押し付けられ、溶剤31により、検査対象面30bの凹凸に倣って、フィルム14が溶解し、検査対象面30bの凹凸がフィルム14に転写されることになる。
【0026】
フィルム14の溶解面が乾燥するまで放置し(約2分間)、乾燥後、保持具20を掴み、第1アーム21と第2アーム22との間を狭めることにより、検査対象面30bからフィルム14を剥離する(図3(c)参照)。これで、レプリカの採取が終了する。
【0027】
保持具20の第1アーム21の先端部21aからレプリカ治具10を取り外し、そのまま、光学顕微鏡32にセットし、フィルム14に転写された凹凸部分14aを観察することで、レプリカの評価を行う(図3(d)参照)。
【0028】
フィルム14の裏面側には、反射板13があるので、光学顕微鏡32から入射された光33は、反射板13で反射することになる。このとき、凹凸部分14aでは光が乱反射し、光学顕微鏡32からは暗く見えるので、これにより、レプリカの評価、即ち、被検体30の検査対象面30bの評価が可能となる。
【0029】
このように、レプリカ治具10は、保持具20から容易に脱着でき、又、レプリカ治具10自体が反射板13を有しているので、従来のように、レプリカ採取後に、レプリカをホルダに固定したり、鏡を組み込んだりする必要は無い。そのため、レプリカ治具10そのものを用いて、レプリカの観察を光学顕微鏡で容易に行うことができる。
【0030】
本実施例のレプリカ採取装置、採取方法の好適な適用対象の一例として、原動機等の機器・部材が考えられる。
【0031】
原動機等の機器・部材には、狭隘部が多々あり、そこでは、例えば、金属同士が擦れ合い磨耗を生じたり、不純物が蓄積し、腐食が進行したりする等の不具合が発生する場合があるので、その表面を観察する必要がある。狭隘部は狭く、その表面を直接観察するのは困難であるので、レプリカの採取、観察により、狭隘部表面の評価をしていた。しかしながら、従来のレプリカ採取方法では、検査対象面が狭隘部にあるため、レプリカの採取は容易ではなく、取り直し等の問題が多々発生していた。
【0032】
このような狭隘部に対し、本実施例のレプリカ採取装置を適用すれば、上述したように、簡便且つ効率的に、狭隘部表面からレプリカを採取し、観察することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明は、被検体表面からレプリカを採取するものであり、特に、被検体の検査対象面が狭隘部にある場合に好適なものである。
【符号の説明】
【0034】
10 レプリカ治具
11 固定板
12 取付部
13 反射板
14 フィルム
20 保持具
21 第1アーム
22 第2アーム
23 端部
24 ゴムパッド
25 バネ
30 被検体
31 溶剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方の端部を支点とする開閉可能な2つのアームと、前記アームが開く方向に付勢力を付与する付勢部とを有する保持具と、
弾性変形可能な固定板と、前記固定板の一方の面の表面に設けられ、光を反射する反射部と、前記反射部の表面に貼設されたレプリカ用のフィルムと、前記固定板の他方の面に設けられ、一方の前記アームの先端を脱着可能な取付部とを有するレプリカ治具とを備え、
一方の前記アームの先端に取り付けた前記レプリカ治具を被検体の検査対象面に配置して、前記フィルムを接触させると共に、他方の前記アームの先端を前記検査対象面に対向する面に配置し、前記付勢部の付勢力により、前記レプリカ治具の配置位置を固定して、前記検査対象面の表面状態を前記フィルムに転写することを特徴とするレプリカ採取装置。
【請求項2】
請求項1に記載のレプリカ採取装置において、
前記固定板及び前記反射部を、中央部分を頂点とする湾曲形状に形成し、湾曲した前記反射部の表面に前記フィルムを貼設したことを特徴とするレプリカ採取装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のレプリカ採取装置を用いたレプリカ採取方法であって、
被検体の検査対象面に前記フィルムを溶解する溶剤を塗布し、
一方の前記アームの先端に取り付けた前記レプリカ治具を前記検査対象面に配置して、前記フィルムを接触させると共に、他方の前記アームの先端を前記検査対象面に対向する面に配置し、
前記溶剤が乾燥するまで、前記付勢部の付勢力により、前記レプリカ治具の配置位置を固定して、前記検査対象面の表面状態を前記フィルムに転写し、
前記溶剤の乾燥後、一方の前記アームの先端に取り付けた前記レプリカ治具及び他方の前記アームの先端を、前記検査対象面及び前記対向する面から取り外すことを特徴とするレプリカ採取方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−163790(P2011−163790A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−23745(P2010−23745)
【出願日】平成22年2月5日(2010.2.5)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】