説明

レベル調整装置、およびレベル調整のためのプログラム

【課題】ユーザに負担をかけることなく、容易にアナログ音響信号の音質劣化を抑制することが可能なレベル調整装置を提供すること。
【解決手段】入力ポートはアナログ入力ブロック800を有し、アナログ入力ブロック800は、迂回スイッチ801、固定ゲインにて信号レベルの減衰を行うパッド802、可変ゲインにて信号レベルを増幅又は減衰して調整するアンプ803を備える。迂回スイッチ801はパッド802とアンプ803により信号レベルが調整されるパッドオン状態とアンプ803のみで信号レベルが調整されるパッドオフ状態を切り替えられる。信号レベルの調整の後に、パッドオン状態で、かつパッドのオン・オフの何れの状態でもゲインの調整が可能な重複範囲ROVの範囲内である入力ポートを抽出し、該当する入力ポートのアナログ入力ブロック800に対して、パッドオフ状態への切り替え調整処理を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願に開示の技術は、音響信号の信号レベルを調整する技術に関し、特に、アナログ音響信号を、音質を考慮しながら好適な信号レベルに調整する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から音響信号のレベルや音質を調整するとともに複数の音響信号を混合するミキシング機能を有する機器としてミキサ等の音響信号処理装置が知られている。
音響信号処理装置には混合する複数の音響信号のミキシングバランスを調整する前段の構成として、入力するアナログ音響信号の信号レベル等を調節するためのプリアンプが備えられている。
【0003】
プリアンプは、入力されるアナログ音響信号の信号レベルを予め定められた固定ゲインの分だけ減衰させる固定減衰器を含むパッド部(PAD)と、入力されるアナログ音響信号の信号レベルを任意に変更可能な可変ゲインの分だけ可変に増幅または減衰可能な可変増幅器を含む可変増幅部とを備える。
パッド部は、ユーザの指示に応じてその使用・不使用が切り替えられる。
パッド部を使用すること(以下、パッドオン)が指示された場合には、プリアンプは固定減衰器および可変増幅器を経由して信号を出力する。この場合、入力されたアナログ音響信号の信号レベルは、固定減衰器にて予め定められた分だけ減衰されるとともに、可変増幅器にて増幅または減衰される。
一方、パッド部を使用しないこと(以下、パッドオフ)が指示された場合には、プリアンプは固定減衰器をバイパスする。この場合、入力されたアナログ音響信号の信号レベルは、可変増幅器においてのみ増幅または減衰される。
このようなプリアンプの構成については、例えば特許文献1、非特許文献1、及び非特許文献2に記載がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−263410号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】「PM5D/PM5D−RHV2/DSP5D 取扱説明書」、ヤマハ株式会社,2004年(特にp.42)
【非特許文献2】「DM2000 Version2 取扱説明書」、ヤマハ株式会社、2004年(特にp.19、64)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般的に、音響信号処理装置に入力されるアナログ音響信号は、減衰や増幅等の信号処理を経ることにより音質の劣化が生じる恐れがある。このため、音響信号処理装置は、入力されたアナログ音響信号に対しては、できるだけ減衰や増幅等の信号処理を経ないで出力することが好ましい。
【0007】
背景技術において記載したパッド部を備えたプリアンプでは、パッドオンとした場合において固定減衰器と可変増幅器とを経て調整された信号レベルが、パッドオフとした場合において可変増幅器のみを用いて調整可能な信号レベルの範囲となることも考えられる。
【0008】
このような状況においては、プリアンプではパッドオフとし、固定減衰器をバイパスすることが音質の点で望ましい。
しかしながら、音響信号処理装置を用いて音響信号の調整を行うユーザは、通常、プリアンプの調整だけでなく、ミキシングバランスの調整等多種多様な調整を複数の音響信号に対して行うのであるから、各入力されるアナログ音響信号について、パッドオフとし固定減衰器をバイパスした状態にすることが可能か否かを、個別に認識することは容易ではなかった。ひいては、パッドオフが可能と認識したアナログ音響信号について、パッドオフに変更し、その上で可変増幅器を再調整することは、ユーザに多大な負担をかけるものであった。
【0009】
本願に開示される技術は上記の課題に鑑み提案されたものであって、ユーザに負担をかけることなく、容易にアナログ音響信号の音質劣化を抑制することが可能なレベル調整装置、およびレベル調整のためのプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願に開示される技術に係るレベル調整装置は、入力ポートと、判定手段とを備える。入力ポートは、音響信号を入力する音響信号入力部、音響信号の信号レベルを固定のゲイン分減衰させる固定減衰部、音響信号の信号レベルを可変のゲイン分増幅または減衰させる可変増幅部、固定減衰部を使用するか否かを設定する切替部を有している。入力ポートは、切替部の設定に応じて、固定減衰部と可変増幅部とを経由した音響信号または可変増幅部のみを経由した音響信号を出力する。判定手段は、入力ポートに入力された音響信号に対するゲインが可変増幅部のみを使用して調整可能なゲインであるか否かを判定する。
【0011】
また、本願に開示される技術に係るレベル調整装置は、請求項1に記載のレベル調整装置において、複数の入力ポートを備え、複数の入力ポートのうち、判定手段により可変増幅部のみを使用して調整可能なゲインであると判定された入力ポートを抽出する抽出手段を備える。
【0012】
また、本願に開示される技術に係るレベル調整装置は、請求項1または2に記載のレベル調整装置において、判定手段による判定結果を報知する報知手段を備える。
【0013】
また、本願に開示される技術に係るレベル調整装置は、請求項1ないし3の何れか1項に記載のレベル調整装置において、自動調整手段を備える。自動調整手段は、判定手段により入力された音響信号に対するゲインが可変増幅部のみを使用して調整可能なゲインであると判定されたことに応じて、切替部にて固定減衰部を不使用に設定し、可変増幅部のゲインを不使用に設定された固定減衰部の固定ゲイン分に応じて調整する。
【0014】
また、本願に開示される技術に係るレベル調整のためのプログラムは、入力した音響信号を、信号レベルを固定のゲイン分減衰させる固定減衰部と信号レベルを可変のゲイン分増幅または減衰させる可変増幅部を経由して出力、または、可変増幅部のみを経由して出力する、レベル調整装置を制御する制御装置に、レベル調整装置において、入力された音響信号に対するゲインを取得する手段と、取得したゲインが可変増幅部のみを使用して調整可能なゲインであるか否かを判定する判定手段とを実行させるようにしたものである。
【発明の効果】
【0015】
本願に開示される技術に係るレベル調整装置、およびレベル調整のためのプログラムによれば、ユーザに負担をかけることなく、容易にアナログ音響信号の音質劣化を抑制することできる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施形態に係るデジタルミキサを示すブロック図である。
【図2】DSPにおいて実行される信号処理の構成を示す図である。
【図3】アナログ入力部においてアナログ入力端子毎に備えられるアナログ入力ブロックのブロック図である。
【図4】アナログ入力ブロックにおけるアナログ音響信号の信号レベルのゲインを調整可能な範囲を示す図である。
【図5】パッドオン状態(ON)からパッドオフ状態(OFF)への切り替えを制御する処理のフローチャートを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1は、本願の実施形態に係るデジタルミキサ1を示すブロック図である。デジタルミキサ1は音響信号処理装置の一例である。複数の音響信号にミキシングやイコライジング等の信号処理を施し、信号処理後の音響信号を出力する装置である。デジタルミキサ1には、プリアンプとして、入力されるアナログ音響信号の信号レベルを調整するレベル調整機能が備えられている。
【0018】
図1に示すデジタルミキサ1は、CPU2、メモリ3、外部I/O4、表示器5、操作子6、電動フェーダ7、波形I/O8、信号処理部(以降、DSP)9を備え、これらがシステムバス10によって接続される。
【0019】
CPU2は、デジタルミキサ1の動作を統括制御する制御装置である。メモリ3に記憶されている所要の制御プログラムを実行することにより、外部I/O4における音響信号以外のデータの入出力の制御や、波形I/O8における音響信号の入出力の制御を行う。また、操作子6や電動フェーダ7における各種処理パラメータの入力操作を検出して、デジタルミキサ1における各種処理パラメータの設定や変更を行う。更に、表示器5において各種処理パラメータの設定や変更の状態、各部の動作状況などの表示の制御を行う。CPU2により、各種処理パラメータを用いて各部の動作制御が行われる。
【0020】
メモリ3は、CPU2が実行する制御プログラム等を記憶するプログラム記憶領域や、CPU2で制御プログラムが実行されている制御動作中に一時的に記憶すべきデータを記憶したり、CPU2のワークメモリとして使用したりするデータ記憶領域を有する記憶装置である。
【0021】
外部I/O4は、種々の外部接続機器に接続されて、音響信号以外の各種のデータの入出力を行うためのインタフェースである。例えば、マウス、文字入力用のキーボード、操作パネル、外部のディスプレイ、USBコントローラ等の外部接続機器が接続される。
【0022】
表示器5は、CPU2の制御に従って種々の情報を表示する表示装置である。例えば液晶パネルや発光ダイオード等で構成される。
【0023】
操作子6は、デジタルミキサ1に対する操作を受け付ける各種の操作子であり、種々のキー、ボタン、ロータリーエンコーダ、スライダ、つまみ等を備える。また、電動フェーダ7は、デジタルミキサ1に対する操作を受け付ける操作子であり、主に音響信号処理チャンネル(以降、チャンネル)における音響信号の信号レベルを制御するための操作を受け付けるための操作子である。なお、電動フェーダ7は、CPU2の制御により、指定された値に該当する位置に自動的に移動させることができるものである。また、表示器5である液晶パネルに積層したタッチパネルを用いてこれら操作子を実現することもできる。
【0024】
波形I/O8は、様々な音源からの音響信号の入力、入力された音響信号のDSP9(後述)への送出、DSP9において信号処理された音響信号の外部音響機器への出力等を行うためのインタフェースである。波形I/O8は、複数のアナログ入力端子や複数のアナログ出力端子などを持ち、これらを介して音響信号の入出力を行う。
【0025】
DSP9には、波形I/O8からデジタル変換された音響信号が入力される。DSP9は、デジタル信号処理回路で構成され、入力される音響信号に対して、ミキシング、イコライジング、フィルタリング等の信号処理を施す。信号処理は、現在設定されている各種処理パラメータの値(以降、カレントデータ)に基づいて制御される。カレントデータは、操作子6や電動フェーダ7の操作等により設定され、メモリ3に設けられたデータ記憶領域であるカレントメモリ(不図示)に記録される。
【0026】
図2は、主にCPU2、波形I/O8、およびDSP9において実行される信号処理の構成を示す図である。波形I/O8は、アナログ入力部80とアナログ出力部82とを備える。アナログ入力部80は、入力端子から入力されるアナログ音響信号をDSP9に出力する複数の入力ポートを備え、音響信号の入力、AD変換などを行う。なお、アナログ入力部80の入力ポートは入力端子毎に設けられている。アナログ出力部82は、DSP9から出力されるデジタル音響信号を受ける複数の出力ポートを備え、デジタル音響信号のDA変換などを行って外部機器に接続される出力端子に出力する。なお、アナログ出力部82の出力ポートは出力端子毎に設けられている。
【0027】
図2に示すように、DSP9での信号処理は、入力パッチ部90、入力チャンネル部91、ミックスバス部92、出力チャンネル部93、出力パッチ部94を有する。なお、本明細書では「チャンネル」という文言を「ch」と表記することがある。
【0028】
入力パッチ部90は、入力チャンネル部91に設けられている複数の入力チャンネルのそれぞれに対して、アナログ入力部80に設けられる複数の入力ポートのうちの何れかを割り当てる(パッチする)ものである。これにより、入力ポートに入力された音響信号が、割り当てられた入力チャンネルに送出される。どの入力ポートがどの入力チャンネルに割り当てられるかはユーザが操作子6等を用いて任意に設定でき、この各入力チャンネルと入力ポートとの割当状態に関するデータ(入力パッチ部90のカレントデータ)はカレントメモリに記憶される。
【0029】
入力チャンネル部91は、例えば128個の入力チャンネルを備え、各入力チャンネルは同じ構成であるものとする。各入力チャンネルは、パッチされた入力ポートから入力される音響信号に対してイコライジング、フィルタリング等の信号処理を施す。信号処理を行った後、ミックスバス部92に備えられる複数のバスのうち1または複数のバスに音響信号を送出する。入力チャンネル毎にミックスバス部92に備えられる各バスへの音響信号送出の有無の設定が可能である。
【0030】
ミックスバス部92は、例えば96系統のバスを備えており、バス毎に、入力チャンネル部91の各入力チャンネルから入力される音響信号をミキシングし、ミキシングされた音響信号を出力チャンネル部93に出力する。出力チャンネル部93はミックスバス部92のバスと同数の出力チャンネルを備えており、各出力チャンネルはそれぞれ異なる1のバスに対応している。各出力チャンネルは対応するバスから入力される音響信号に対してイコライジング、フィルタリング等の信号処理を施す。出力チャンネルにて信号処理された音響信号は出力パッチ部94に送出される。
【0031】
出力パッチ部94は、出力チャンネル部93の出力チャンネルのそれぞれを、アナログ出力部82に設けられた複数の出力ポートのうち何れかに割り当てる(パッチする)ものである。これにより、DSP9により信号処理され各出力チャンネルから出力された音響信号が、アナログ出力部82を介して出力される。
【0032】
図3は、アナログ入力部80における1つの入力ポートの機能ブロック(以降、アナログ入力ブロック800)を示すブロック図である。アナログ入力ブロック800は、迂回スイッチ801、パッド802、アンプ803、およびアナログデジタル変換器(以降、ADC)804を備える。アナログ入力ブロック800はプリアンプに相当し、迂回スイッチ801、パッド802、アンプ803がレベル調整機能を担う。なお、複数の入力ポートのアナログ入力部800はすべて同様の構成であるものとする。
【0033】
迂回スイッチ801は、パッド802を利用するパッドオン状態(図3中、(ON)に接続される状態)と、パッド802を利用しないパッドオフ状態(図3中、(OFF)に接続される状態)とで切り替えられる。迂回スイッチ801は、入力ポートにおけるアナログ音響信号の信号経路にパッド802を含むか含まないかを切り替えるスイッチである。
【0034】
パッド802は、入力されるアナログ音響信号の信号レベルを予め定められた固定ゲインに従って減衰させる固定減衰器である。ユーザはこの固定ゲインを変更することはできない。アンプ803は、入力されるアナログ音響信号の信号レベルを可変ゲインに従って増幅又は減衰させる可変増幅器である。ユーザは操作子6等を用いてこの可変ゲインを調整できる。
【0035】
迂回スイッチ801がパッドオン状態(ON)の場合、アナログ入力ブロック800に入力されるアナログ音響信号は、その信号レベルがパッド802の固定ゲイン分減衰されてから後段のアンプ803に出力される。一方、迂回スイッチ801がパッドオフ状態(OFF)の場合、アナログ入力ブロック800に入力されるアナログ音響信号は、パッド802を経由することなくアンプ803に出力される。
【0036】
迂回スイッチ801のパッドオン状態(ON)とパッドオフ状態(OFF)の切り替えや、アンプ803の可変ゲインの値は、ユーザが操作子6を操作すること等により設定される。設定された値(パッドオンオフを示すパラメータの値、可変ゲインを示すパラメータの値)はカレントデータとしてカレントメモリ内に記憶・更新される。カレントメモリに記憶されたカレントデータに基づいて、CPU2が迂回スイッチ801およびアンプ803を制御する。迂回スイッチ801の状態およびアンプ803の可変ゲインの値に応じて各アナログ入力ブロック800に入力されたアナログ音響信号の信号レベルが調整され、ユーザは複数の入力ポートからそれぞれ出力される各信号レベルを略同等に調整することができる。
【0037】
ADC804は、信号レベルが調整されたアナログ音響信号をデジタル音響信号へAD変換する。
【0038】
尚、アナログ入力ブロック800には、位相変換やハイパスフィルタなどの他の信号処理部や入力ポートの使用・不使用を切り替えるスイッチなどを備えていてもよい。
【0039】
次に、図4を用いて、入力ポートのアナログ入力ブロック800におけるアナログ音響信号の信号レベルのゲインの調整可能範囲について説明する。例えば、アンプ803の可変ゲインは、+60dBから+10dBまでの範囲で連続的に調整できるものとし、パッド802の固定減衰率は、−26dBに固定であるとする。
【0040】
パッドオフ状態(OFF)の場合には、信号経路にパッド802は介在しないので、アナログ入力ブロック800においては、パッド802は使用されずアンプ803のみを使用して、入力されたアナログ音響信号の信号レベルが調整される。パッドオン状態(OFF)の場合に調整可能なゲインの範囲であるパッドオフ調整範囲ROFFは、アンプ803による可変ゲインの調整可能なゲインの範囲と等しい+60dBから+10dBまでの範囲となる。
【0041】
パッドオン状態(ON)の場合には、信号経路にパッド802が介在するので、アナログ入力ブロック800においては、パッド802およびアンプ803を使用して、入力されたアナログ音響信号の信号レベルが調整される。この調整範囲は、パッド802が−26dBの固定ゲインを有しているので、アンプ803による+60dBから+10dBまでの可変ゲインに対して−26dBが減衰された範囲となる。したがって、パッドオン状態(ON)の場合に調整可能なゲインの範囲である。パッドオン調整範囲RONは、+60dBから+10dBから−26dBを減じた+34dBから−16dBまでの範囲となる。つまり、パッドオン調整範囲RONは、パッドオフ調整範囲ROFFと比べ、常に−26dBの固定ゲインだけ減衰された状態となる。
【0042】
パッドオン状態(ON)とパッドオフ状態(OFF)とを切り替えて使用することで、アナログ入力ブロック800におけるゲインの調整範囲は、パッドオフ調整範囲ROFFとパッドオン調整範囲RONとを合わせた+60dBから−16dBまでの範囲となる。
【0043】
パッドオン調整範囲RONの上限である+34dBから、パッドオフ調整範囲ROFFの下限である+10dBまでの範囲は、パッドオン状態(ON)での調整範囲であるパッドオン調整範囲RONとパッドオフ状態(OFF)での調整範囲であるパッドオフ調整範囲ROFFとでゲインの調整範囲が重複する重複範囲ROVである。この重複範囲ROVはパッドオン状態(ON)およびパッドオフ状態(OFF)の何れの状態でもゲインの調整が可能な範囲である。
【0044】
図5には、CPU2がメモリ3に記憶されたプログラムを実行することにより、アナログ入力部80にてパッドオン状態(ON)に設定されている入力ポート(アナログ入力ブロック800)のうちから、パッドオフ状態(OFF)へ切り替えが可能な入力ポートを検出し、該検出した入力ポートをパッドオフ状態(OFF)へ切り替えるための制御を行う処理のフローチャートを示す。
【0045】
図5のフローチャートは、パッドの状態を調整するための指示をCPU2が受け付けた際開始される(S0)。例えば、操作子6のうちの1つとしてデジタルミキサ1に設けられた調整開始スイッチ(不図示)が操作されたことをCPU2が検知したことを契機として図5のフローチャートの処理が開始される。なお、この調整開始スイッチの操作は、通常、ユーザが各入力ポートの調整乃至入力チャンネルの調整等を行った後に、各入力ポートの最終調整を行う際に操作されるものである。
【0046】
図5のフローチャートの実行が開始されると、CPU2は、先ず、カレントメモリを参照し、パッドオン状態(ON)からパッドオフ状態(OFF)へ切り替え可能な入力ポートの抽出を行う(S2)。ステップS2では、入力パッチ部90におけるパッチ状態を示すパラメータに基づいて、入力チャンネル部91の各入力チャンネルにパッチされている入力ポートを特定する。CPU2は、各特定した入力ポートについて、パッドオフ状態(OFF)への切り替え条件に該当するか否かを判定する。切り替え条件に該当した入力ポートがパッドオン状態(ON)からパッドオフ状態(OFF)へ切り替え可能な入力ポートとして抽出される。ここで、パッドオフ状態(OFF)への切り替え条件とは、当該入力ポートにおいて、カレントメモリに記憶されたパッドオンオフの値がパッドオン状態(ON)を示し、かつ、パッド802の固定ゲインとアンプ803に設定されている可変ゲインとの2つのゲインを加味して決まる(2つのゲインの合計である)プリアンプにおけるトータルのゲインの値が重複範囲ROV内に含まれる値を示す場合である。言い換えれば、このステップS2では、入力ポートに入力された音響信号に対するゲインがアンプ803のみを使用して調整可能なゲインであるか否かが判定される。
【0047】
ステップS4では、ステップS2においてパッドオフ状態(OFF)に切り替え可能な入力ポートが抽出されたか否かを確認し、入力ポートが抽出されていた場合(S4:YES)には、ステップS2において抽出された全ての入力ポートに対してパッドオフ状態(OFF)への切り替え調整処理をする処理(S6)に進む。ステップS6では、CPU2は、ステップS2にて抽出された全ての入力ポートに対してパッドオフ状態(OFF)への切り替え調整処理を行い、この後に図5のフローチャートの処理が終了する(S8)。ステップS6におけるパッドオフ状態(OFF)への切り替え調整処理では、CPU2は、調整対象の入力ポートについて、カレントメモリに記憶されたパッドオンオフを示すパラメータの値をパッドオン状態(ON)からパッドオフ状態(OFF)へ書き換えると共に、アンプ803の可変ゲインを示すパラメータの値を調整して更新する。ここで、アンプ803の可変ゲインを示すパラメータの値は、パッドオフ状態(OFF)に切り換えたことに伴い信号経路から外れたパッド802の固定ゲイン(−26dB)に相当する分、アンプ803でのゲインを増加(+26dB)させるよう変更され、この切り替え調整処理の前後で調整対象の入力ポートにおけるトータルのゲインが変化しないよう調整される。一方、ステップS3において入力ポートが抽出されていなかった場合(S4:NO)は、いずれの入力ポートに対しても切り替え調整処理を行うことなく、図5のフローチャートの処理は終了する(S8)。
【0048】
図5に示すフローチャートでは、操作子6に備えられるスイッチ等による指示により処理が開始される場合を例示したが本願はこれに限定されない。例示された方法やタイミングとは異なるその他の方法やタイミングで、処理が開始されてもよい。
【0049】
また、ステップS2において、パッドオフ状態(OFF)への切り替え条件の一つとしてプリアンプにおけるトータルのゲインの値が重複範囲ROVに調整されている場合を例示したが、本願はこれに限定されない。重複範囲ROVに代えて、重複範囲ROVから下限領域のゲイン範囲を除いた重複範囲ROV1を条件としても良い。
【0050】
図4に示すように、重複範囲ROVの範囲のうち下限域にある範囲RMを除いた範囲を重複範囲ROV1として定義する。範囲RMは、パッドオフ調整範囲ROFF(図4)の下限である+10dBを下限としてゲイン調整値Aまでの範囲である。
【0051】
例えば、マージンとして除かれる範囲RMは、重複範囲ROVに対して1/2以下の範囲である。更に、6dB程度であることが好ましい。リハーサル等において事前にゲインの値を設定しておくものの、本願において微調整が必要になる場合がある。この微調整値として6dB程度が望ましい。一般的に、できるだけ多くのアナログ入力ブロック800をパッドオフ状態(OFF)に切り換えられることが音質の向上から好都合であり、この点から重複範囲ROV1は大きな幅を有する範囲であることが好ましく、一方、リハーサルと本番といった時間経過の中で既に調整されたゲインの値であっても再度微調整が必要になる場合もあり、重複範囲ROV1におけるマージンも確保する必要がある。このような事情を考慮して重複範囲ROV1を設定する際のマージンを設定することが望まれる。
【0052】
また、重複範囲ROVの下限だけでなく、重複範囲ROVの上限にも微調整用を行うためのマージンがあってもよい。すなわち、パッドオン調整範囲RON(図4)の上限である+34dBを上限として所定ゲイン低いゲイン調整値までの範囲をマージンとして重複範囲ROVから除外する。
【0053】
また、ステップS2の処理は、パッドオフ状態(OFF)に切り替え可能な入力ポートを抽出する手順は上記説明した態様に限定されない。例えば、パッチ部91におけるパッチ状態を示すパラメータに依らず、全ての入力ポートについて、パッドオフ状態(OFF)への切り替え条件に該当するか否かを判定し、該当した入力ポートパッドオフ状態(OFF)へ切り替え可能な入力ポートとして抽出するようにしてもよい。あるいは、各入力ポート独立にパッドオフ状態(OFF)への切り替え条件に該当するか否かを判定するようにしてもよい。
【0054】
また、ステップS6において、パッドオン状態(ON)からパッドオフ状態(OFF)への切り替え、およびアンプ803の可変ゲインの調整を行う場合を例示したが、本願はこれに限定されるものではない。例えば、ステップS6において、パッドオフ状態(OFF)への切り替えが可能な入力ポート(あるいは当該入力ポートにパッチされている入力チャンネル)をユーザに報知する報知処理を行い、パッドオン状態(ON)からパッドオフ状態(OFF)への切り替え、およびアンプ803の可変ゲインの調整はユーザが操作子6等を操作することにより行われるようにしてもよい。報知の方法は、表示器5を用いた報知(表示器5が液晶パネルの場合にはポップアップウインドウ等による表示、表示器5が発光ダイオード等の発光素子の場合にはその点灯等)や、音声による報知、あるいは機構的な手段を用いた表示等種々の形態を採用することができる。
【0055】
また、ステップS6での調整処理と報知処理とは適宜組み合わせてもよく、報知処理の報知の後に調整処理を行うか否かの指示の入力待ちとする処理としても良い。この場合、ユーザは、ステップS6による自動調整の処理を選択する以外に、手動によりパッドオフ状態(OFF)への切り替えとアンプ803の可変ゲインの調整を行うこともできる。あるいは調整処理とともに報知処理を行い、ユーザに対して抽出された入力ポート乃至調整された入力ポートを報知するようにしてもよい。
【0056】
このように、図5に示すフローチャートによれば、目標レベルの調整の完了の後に、個々の入力ポート(アナログ入力ブロック800)は、パッドオフ状態(OFF)への切り替え条件に従って、パッドオン状態(ON)からパッドオフ状態(OFF)へ切り替え可能な入力ポートの抽出が行われる。パッドオフ状態(OFF)への切り替え条件とは、パッドオン状態(ON)で調整が行われ、かつプリアンプのトータルのゲインの値が重複範囲ROVまたはROV1に調整されている場合である。この条件に該当する入力ポートが探し出される。さらに、抽出の後、切り替え条件に該当する入力ポートは、パッドオフ状態(OFF)への切り替え調整処理が行われる。これにより、ユーザに負担をかけることなく、各入力ポート(アナログ入力ブロック800)について、必要に応じて、個々アナログ入力ブロック800のパッドの使用状況を確認し、パッドオン状態(ON)の場合に、パッドオフ状態(OFF)に切り替えられるか否かを判別することが可能である。
【0057】
尚、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内での種々の改良、変更が可能であることは言うまでもない。
例えば、本願に係るレベル調整装置は、デジタルミキサだけでなく、シンセサイザ、レコーダ、エフェクタ、アンプ等の、アナログ音響信号を入力する任意の音響信号処理装置に適用することも可能である。上記実施形態においてはアナログ入力部80とアナログ出力部82を有するものとして説明したが、さらに図3破線で示すようにデジタル入力部81やデジタル出力部83を有していても良い。また、本願に係るレベル調整装置は、デジタルミキサに限定されず、アナログミキサや、パーソナルコンピュータ、携帯電話機、携帯ゲーム装置、テレビ等の装置についても、アナログ音響信号を入力するプリアンプを制御する機能を有するものであれば、適用可能である。また、音響信号処理装置やその他の装置に搭載するだけでなく、単体のレベル調整装置として実施することも可能である。
【0058】
入力端子は音響信号入力部の一例、パッド802は固定減衰部の一例、アンプ803は可変増幅部の一例、迂回スイッチ801は切替部の一例、ステップS2は判定手段の一例、アナログ入力部80はレベル調整装置の一例、パッドオン調整範囲RONは第1レベル調整範囲の一例、パッドオフ調整範囲ROFFは第2レベル調整範囲の一例である。
の一例である。
【0059】
以下、本発明について、請求項に記載のない諸態様をまとめる。
請求項1ないし4の何れか一に記載のレベル調整装置に係る本発明の第1の態様として、請求項1に記載の判定手段は、固定減衰部および可変増幅部を介する際の第1レベル調整範囲と可変増幅部を介する際の第2レベル調整範囲とを比較し、目標レベルが第1レベル調整範囲と第2レベル調整範囲との何れにも含まれる重複範囲にある場合に、固定減衰器を含まずに可変増幅器での調整が可能であるとの判定を行うことを特徴とする。
本発明の第2の態様として、上記の第1の態様に係るレベル調整装置に記載の判定手段は、目標レベルが重複範囲から第2レベル調整範囲の下限領域の範囲を除く範囲にある場合に、固定減衰器を含まずに可変増幅器での調整が可能であるとの判定を行うことを特徴とする。
【符号の説明】
【0060】
1 デジタルミキサ
2 CPU
3 メモリ
4 外部I/O
5 表示器
6 操作子
7 電動フェーダ
8 波形I/O
9 DSP
10 システムバス
800 アナログ入力ブロック
801 迂回スイッチ
802 パッド
803 アンプ
804 ADC

【特許請求の範囲】
【請求項1】
音響信号を入力する音響信号入力部と、前記音響信号の信号レベルを固定のゲイン分減衰させる固定減衰部と、前記音響信号の信号レベルを可変のゲイン分増幅または減衰させる可変増幅部と、前記固定減衰部を使用するか否かを設定する切替部と、を有し、前記切替部の設定に応じて、前記固定減衰部と前記可変増幅部とを経由した前記音響信号または前記可変増幅部のみを経由した前記音響信号を出力する入力ポートと、
前記入力ポートに入力された音響信号に対するゲインが前記可変増幅部のみを使用して調整可能なゲインであるか否かを判定する判定手段と、
を備えることを特徴とするレベル調整装置。
【請求項2】
前記入力ポートを複数備え、
前記複数の入力ポートのうち、前記判定手段により前記可変増幅部のみを使用して調整可能なゲインであると判定された入力ポートを抽出する抽出手段
を備えることを特徴とする請求項1に記載のレベル調整装置。
【請求項3】
前記判定手段による判定結果を報知する報知手段
を備えることを特徴とする請求項1または2に記載のレベル調整装置。
【請求項4】
前記判定手段により前記入力された音響信号に対するゲインが前記可変増幅部のみを使用して調整可能なゲインであると判定されたことに応じて、前記切替部にて前記固定減衰部を不使用に設定し、前記可変増幅部のゲインを該不使用に設定された固定減衰部の固定ゲイン分に応じて調整する自動調整手段
を備えることを特徴とする請求項1ないし3の何れか1項に記載のレベル調整装置。
【請求項5】
入力した音響信号を、信号レベルを固定のゲイン分減衰させる固定減衰部と信号レベルを可変のゲイン分増幅または減衰させる可変増幅部を経由して出力、または、前記可変増幅部のみを経由して出力する、レベル調整装置を制御する制御装置に、
前記レベル調整装置において、前記入力された音響信号に対するゲインを取得する手段と、
前記取得したゲインが前記可変増幅部のみを使用して調整可能なゲインであるか否かを判定する判定手段と
を実行させるためのプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−115634(P2013−115634A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−260460(P2011−260460)
【出願日】平成23年11月29日(2011.11.29)
【出願人】(000004075)ヤマハ株式会社 (5,930)
【Fターム(参考)】