説明

レモンバーム抽出物含有食品組成物

Melissa officinalis(レモンバーム)の水性抽出物またはその活性成分ロスマリン酸を含んでなる食品組成物を提案する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品組成物の分野に関連し、ストレス症状に対処するための、心的状態の高揚のための、および認知機能の改善のための植物抽出物を含んでなる新規生成物について言及する。
【背景技術】
【0002】
ストレスは、一般的に我々の国際社会の発展にも関わる社会的要因と見なされている。特に、いわゆる先進国におけるライフスタイルはますます早くなり、その結果として、精神能力、注意力および満足感の欠如に苦しむことに不満を訴える人の数が増加している。
【0003】
医学用語においては、ストレスは、身体的または心理的刺激による恒常性の崩壊である。ストレス刺激は、精神的、生理的、解剖学的または身体的な反応であり得る。ストレスに対する反応には、適合、ストレス管理のような心理的対処、不安および落ち込みが挙げられる。(身体的または精神的に、例えば筋力トレーニングややりがいのある仕事により)ストレスが機能を高める場合、それはユーストレスと考えられ得る。対処や適合により解決できない持続的なストレスは、脱出(不安)行動または離脱(落ち込み)行動を引き起こし得る。ストレス反応の要因は、経験および個人的期待および援助間の相違である。個人的に認める期待に一致して生活している人は、例え第三者視点からは不運と判断される状態にあってもストレスを持たない。期待にそった充足性がある場合には、地方の人々は比較的貧困で生活することができ、ストレスも感じないかもしれない。経験と期待間に慢性的な相違が存在する場合には、継続中の経験または状況を満たすために期待の調整をすることにより、ストレスを和らげることができるかもしれない。
【0004】
現在、汎適応症候群の神経化学は、この系が脳の他、体の他の部分とどのように関係しているかについて多くが解明されていないが、よく理解されていると考えられている。ストレスに対して体は、最初にカテコールアミンホルモン、エピネフリン(アドレナリンEP)およびノルエピネフリン(ノルアドレナリン)、ならびにグルココルチコイドホルモン、コルチゾールおよびコーチゾンを放出することにより反応する。視床下部−下垂体−副腎の軸(HPA)は、神経内分泌系の主要部分であり、視床下部、下垂体および副腎の相互作用に関与している。HPA軸は、アドレナリンを生成する副腎髄質、およびコルチコステロイドを生成する副腎皮質からの放出ホルモンのバランスを取ることにより、ストレスに対する体の反応において主要な役割を果たしていると考えられている。個人のストレス認知およびストレス反応のように、ストレスは多くの体の免疫系に著しく影響を及ぼし得る。用語「精神神経免疫学」は、精神状態、神経系および免疫系間の相互作用、ならびにこれらの系の相互接続における研究を説明するために用いられる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、本発明の根本的な課題は、新規組成物、特に心的状態の刺激、認知機能の改善のための、特に初期のストレス症状に対処するための植物成分を含んでなる食品生成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、Melissa officinalis(レモンバーム)の水性抽出物またはその活性成分ロスマリン酸を含有する食品組成物に言及する。
【0007】
驚くべきことに、精油画分に集中した先行の公表された研究と比較して、レモンバームの水系抽出物、またはその活性成分ロスマリン酸が、心的状態の刺激、特にストレス症状に対処するための刺激、集中力と注意力の改善、満足感の増加および怒りの低減に適当であることが証明された。先行する研究は精油画分に集中している。しかしながら、該抽出物は、抽出物自体として、またはカプセル化した状態で、種々のタイプの食品生成物に容易に組み込むことができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】レモンバーム(2%ロスマリン酸)を経口投与した後の患者におけるロスマリン酸濃度(平均データ)を示す。
【図2】レモンバーム(2%ロスマリン酸)を経口投与した後の患者におけるロスマリン酸濃度(個々のデータ)を示す。
【図3】Plantalin(登録商標)Lemon balm(Cognis GmbH)のHPLC指紋を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
〔レモンバーム〕
Melissa officinalis L.(レモンバーム)は、睡眠導入のための穏やかな鎮静剤として周知の伝統的な生薬である。鎮痛剤、鎮痙薬および抗菌剤としてのその使用の記録は、2000年にわたって遡る。Melissa種抽出物、Avena種抽出物およびTilia種抽出物を含有するハーブ抽出物ならびにその製造方法に言及する欧州特許第0501591号公報(Pure Holding社)が参照される。欧州特許第0762837号公報(J.P.Schuer)は、ベンジルアルコールおよび少なくとも1つの殺菌性GRAS(generally regarded as safe:一般に安全と認められる食品添加物)香料添加剤、例えばロスマリン酸を含有する殺菌組成物を開示する。該組成物は、腐りやすい製品および/またはその環境の表面を処理するために使用される。米国特許第6,306,450号公報(Hauser)は、風味化合物としてシトラール、および、安定剤としてコーヒー酸誘導体を含む水溶性植物抽出物を含有する柑橘風味の組成物に関する。好ましい実施態様において、該安定剤はMelissa officinalisの抽出物である。米国特許第6,576,285号公報(Sunpure)は、少なくとも60%の水、少なくとも約20%の乳化剤、少なくとも約15%のステロールエステルを含有する、コレステロール低下飲料の製造に使用される飲料エマルションに関する。好ましい実施態様において、該組成物はさらに酸化防止剤、例えばロスマリン酸を含む。最後に、米国特許第6,828,310号公報(Grain Processing Corp.)は、低減されたマルトデキストリンを含有する組成物を開示し、それは分解されやすい物質を保護する。好ましい実施態様において、該物質は酸化防止剤、とりわけ、例えばロスマリン酸であってもよい。
【0010】
ヨーロッパにおいて、レモンバームは7世紀にムーア人によりスペインに最初に伝えられた。レモンバームの葉は、長く、不規則に円鋸歯状のまたは鋸歯状の縁を有する、概して楕円形である。それらは深緑であり、わずかに軟毛で覆われた上面と下面上に細く突出した静脈を有する。また、レモンバームは、レモンを思い起こさせるスパイシーな香気を特徴とする。水溶性抽出物は、いくつかの活性成分、主にフラボノイドおよびポリフェノール化合物、大部分はロスマリン酸を含む。
【0011】
【化1】

【0012】
市場においてCognis GmbHから入手可能な抽出物のHPLC指紋を図3に示す。通常、該抽出物は、ロスマリン酸を1〜5重量%のレベルで含んでなる。約1〜約50g/L、より好ましくは約2〜約25g/L、最も好ましくは約10〜約15g/L(約0.01〜約2.5gのロスマリン酸に等しい量)の量でレモンバーム抽出物を添加することが好ましい。
【0013】
〔食品組成物〕
前記レモンバーム抽出物または前記ロスマリン酸は、例えば飲料、バーまたは菓子類のような経口摂取専用の各種食品組成物に組み込むことができる。本発明の好ましい実施態様において、前記食品組成物は、果実飲料、乳製品またはヨーグルトである。
【0014】
本発明の他の好ましい実施態様において、前記食品生成物は、使用する各果実の元々の天然可溶性糖のみを含有し、多糖またはより複雑な炭水化物の分解に由来する可溶性糖種を含まない、種々の果実に由来するジュースである。このような組成物は、通常、液状、例えば、非常に低いグリセミック指数34を示す65°Brix〜最大79°Brixの濃縮シロップである。市場における顕著な例は、Wild GmbHにより提供されるFruit Up(登録商標)である。
【0015】
〔さらなる添加剤〕
本発明の他の好ましい実施態様において、レモンバーム抽出物は、例えば、積極的な体重管理のための生理活性脂肪酸および/または血清中のコレステロール含量を低減するためのステロールまたはステロールエステルなどの他の成分と組合わせることもできる。
【0016】
〔生理活性脂肪酸、その塩およびそのエステル〕
成分(b)を示す、生理的活性を有する脂肪酸に対する一般的な基準は、分子が人体の消化管を通過できるよう親油性挙動をもたらす十分な数の炭素原子を有し、かつ十分な数の二重結合を有する脂肪鎖である。したがって、前記脂肪酸は、通常、18〜26個の炭素原子および2〜6個の二重結合を有する。
【0017】
本発明の第1の実施態様においては、共役リノール酸(CLA)あるいはそのアルカリ塩またはアルカリ土類塩およびエステル(好ましくは、それらのカルシウム塩および1〜4個の炭素数を有する低級脂肪アルコールとのエステル)またはそれらのグリセリド(特にトリグリセリド)が考慮される。共役リノール酸(CLA)は、通常、ヒマワリ油またはそれらの各アルキルエステルの塩基触媒異性化およびその後に続く酵素存在下での異性化により得られる市販製品を意味する。CLAは必須脂肪酸リノール酸(LA、シス−9、シス−12オクタデカジエノン酸、18:2n−6)に由来する位置異性体および幾何異性体に対して使用される頭字語である。本発明によると生理学的見地から、シス−9,トランス−11異性体の使用が特に重要であり、粗混合物中の全CLA含量に基づいて、少なくとも30重量%、好ましくは少なくとも50重量%、最も好ましくは少なくとも80重量%の前記シス−9,トランス−11異性体を含有する。さらに、トランス−10,シス−12異性体の含量が、全CLA含量に基づいて、最大で45重量%、好ましくは最大で10重量%、最も好ましくは1重量%未満であり、全体で8,10−、11,13−およびトランス,トランス−異性体の合計が1重量%未満である場合が有利であることがわかった。このような製品は、市場において、例えば商品名Tonalin(登録商標)CLA-80(Cognis)のもと入手し得る。
【0018】
第2の実施態様において、典型的には18〜26個の、好ましくは20〜22個の炭素原子および少なくとも4個のおよび最大6個までの二重結合を有する、いわゆるω−3脂肪酸も考慮し得る。これらのエステルは、有機化学の標準的方法、例えば、独国特許第3926658号公報(Norsk Hydro)に記載されるように、魚油のエステル交換を介し、得られたアルキルエステルのその後の尿素析出、および非極性溶媒による最終抽出によって得ることもできる。このようにして得られた脂肪酸は、ω−3(全てZ)−5,8,11,14,17−エイコサペンタエン酸(EPA)(C20:5)および(全てZ)−4,7,10,13,16,19−ドコサヘキサエン酸(DHA)(C22:6)に富む。このような製品は、市場において、商品名Omacor(登録商標)(Pronova)のもと入手し得る。
【0019】
第三の実施態様において、リノール酸、バクシン酸(トランス11−オクタデカン酸)、シス−ヘキサデカン酸(例えば、植物Thunbergia alataから得られる)、エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸およびそれらの混合物も使用し得る。
【0020】
さらに、前記生理活性脂肪酸エステルは、それらの低級アルキルエステルまたはグリセリドの状態でのみ使用し得るものではない。本発明の非常に好ましい実施態様は、上記脂肪酸とステロールのエステルを含んでなる組成物に関する。グリセリドのように、ステロールエステルは、人体により容易に再吸収され、分解される。しかしながら、顕著な優位性は、エステル結合の開裂が、健康促進特性を有する第2分子を放出するという事実に由来する。あいまいになることを避けるために、用語「ステロール」、「スタノール」および「ステリン」は、C−3に結合する1つのヒドロキシ基を有するステロイドを定義する同義語として使用すべきである。さらに、27〜30個の炭素原子からなるステロールは、1つの二重結合を、好ましくは5/6位に有していてもよい。本発明によれば、CLAまたはβ−シトステロールまたはその水素化生成物であるβ−シトステロールを含むω−3脂肪酸が好ましい。
【0021】
〔ステロールおよびステロールエステル〕
ステロール(ステリンとも称される)は、C−3に結合する1つのヒドロキシ基を有するステロイドを示す。さらに、27〜30個の炭素原子からなるステロールは、1つの二重結合を、好ましくは5/6位に有していてもよい。二重結合の水素化(「硬化」)は、通常スタノールと称されるステロールを生じる。以下の図は、ステロール属の最も既知の化合物である、コレステロール(動物ステロールに属する)の構造を示す。
【0022】
【化2】

【0023】
エルゴステロール、スチグマステロール、および特にシトステロールおよびその水素化生成物シトスタノールのような植物ステロール(いわゆるフィトステロール)が、それらの優れた生理活性のため好ましい種類である。さらに、ステロールまたはスタノールの代りに、それらの6〜26個の炭素原子および6個までの二重結合を有する飽和または不飽和脂肪酸とのエステルを使用することもできる。その典型的な例は、β−シトステロールまたはβ−シトスタノールと、カプリル酸、カプリル酸、2−エチルヘキサン酸、カプリニック酸、ラウリン酸、イソトリデシル酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、パルモレイン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、オレイン酸、エライジン酸、ペトロセリン酸、リノール酸、リノール酸、エラエオステアリック酸、アラキドン酸、ガドレイン酸、ベヘン酸およびエルカ酸とのエステルである。
【0024】
前記水溶性レモンバーム抽出物/ロスマリン酸および前記のさらなる成分は、食品生成物を製造するために、1:9〜9:1の重量比、好ましくは4:6〜6:4の重量比で使用し得る。
【0025】
〔マイクロカプセル〕
通常、レモンバーム抽出物またはロスマリン酸は、水溶液または噴霧乾燥粉末のいずれかとして食品生成物に添加される。組成物の安定性を改善するために、または単に審美的な理由から、該抽出物をマイクロカプセル化した状態で食品組成物に加えることが望ましいかもしれない。
【0026】
「マイクロカプセル」は、少なくとも1つの連続する膜で取り囲まれた少なくとも1つの固形または液状コアを含む、約0.1〜約5mmの直径を有する球状凝集体であると理解される。より正確には、それらは被膜形成ポリマーにより被覆された細かく分散された液相または固相である(それらの製造において、乳化およびコアセルベーションまたは界面重合の後、ポリマーがカプセル化される原料上に沈着する)。他の工程において、液体活性成分は、マトリックス(「マイクロスポンジ」)中に吸収され、微粒子として、被膜形成ポリマーによってさらに被覆されてもよい。ナノカプセルとしても知られる顕微鏡的に小さなカプセルを、粉末と同様に乾燥させることができる。単一コアマイクロカプセルの他に、連続した膜物質中に分配された2以上のコアを含有する、マイクロスフィアとしても知られる複数のコア凝集体も存在する。さらに、単一コアまたは複数のコアマイクロカプセルは、さらなる第2、第3等の膜によって囲まれていてもよい。該膜は、天然、半合成または合成物質よりなっていてもよい。天然膜物質は、例えば、アラビアゴム、寒天、アガロース、マルトデキストリン、アルギン酸および例えば、アルギン酸ナトリウムまたはカルシウムのようなその塩、脂肪および脂肪酸、セチルアルコール、コラーゲン、キトサン、レシチン、ゼラチン、アルブミン、セラック、デンプンまたはデキストランのような多糖類、ポリペプチド、タンパク加水分解物、スクロースおよびワックスである。半合成膜物質は、とりわけ、化学的に修飾されたセルロース、より具体的にはセルロースエステルおよびエーテル、例えば、酢酸セルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースおよびカルボキシメチルセルロース、およびデンプン誘導体、より具体的にはデンプンエーテルおよびエステルである。合成膜物質は、例えば、ポリアクリル酸塩、ポリアミド、ポリビニルアルコールまたはポリビニルピロリドンのようなポリマーである。
【0027】
既知のマイクロカプセルの例は、以下の商品(膜物質はかっこ内に示す):Hallcrest Microcapsules(ゼラチン、アラビアゴム)、Coletica Thalaspheres(海洋性コラーゲン)、Lipotec Millicapseln(アルギン酸、寒天)、Induchem Unispheres (ラクトース、微結晶性セルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース)、Unicetin C30(ラクトース、微結晶性セルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース)、Kobo Glycospheres (変性デンプン、脂肪酸エステル、リン脂質)、Softspheres(変性寒天)およびKuhs Probiol Nanospheres(リン脂質)である。
【0028】
活性成分は、通常、マイクロカプセルを含有する調製物の使用中に、膜の機械的、熱的、化学的または酵素的分解によりマイクロカプセルから放出される。活性成分のカプセル化の多数の種々の方法が、最新技術から既知である:国際公開第99/043426号パンフレット、国際公開第01/001928号パンフレット、国際公開第01/001929号パンフレット、国際公開第01/066240号パンフレット、国際公開第01/066241号パンフレット、国際公開第01/098578号パンフレット、国際公開第02/0178859号パンフレット、国際公開第02/0178868号パンフレット、国際公開第02/076607号パンフレット、国際公開第02/076606号パンフレット、国際公開第02/077359号パンフレット、国際公開第02/077360号パンフレット、国際公開第03/022419号パンフレット、国際公開第03/093571号パンフレット、国際公開第03/092664号パンフレット、国際公開第03/092880号パンフレット、国際公開第04/091555号パンフレット、国際公開第04/106621号パンフレット、欧州特許第1064911号明細書、欧州特許第1064912号明細書、欧州特許第1077060号明細書、欧州特許第1101527号明細書、欧州特許第1223243号明細書、欧州特許第1243318号明細書、欧州特許第1243320号明細書、欧州特許第1243323号明細書、欧州特許第1243324号明細書、欧州特許第1254983号明細書、欧州特許第1121542号明細書。全てHenkel KGaA, Primacare S.A.またはCognis Iberia, S.L.により出願されたものであり、ここに参照により組み込む。
【0029】
活性成分のカプセル化に対する非常に多くの最新技術の可能性があるという事実にもかかわらず、核が、コアセルベーション、沈降またはアニオン性ポリマーおよびカチオン性ポリマーの重縮合により得られるという方法が、安定なカプセルの調製に非常に適している。特に、本発明の活性成分のカプセル化に対する好ましい方法は、
(a)ゲル形成剤、カチオン性ポリマーおよび活性成分からマトリックスを調製し、
(b)場合により、前記マトリックスを油相に分散し、
(c)分散した前記マトリックスをアニオン性ポリマーの水溶液で処理し、場合によりこの工程で油相を除去する
工程を含んでなることを特徴とする。
当然、工程(a)および(c)におけるアニオン性ポリマーとカチオン性ポリマーは交換し得る。
【0030】
〔ゲル形成剤〕
本発明において、好ましいゲル形成剤は、40℃より高い温度で水溶液中にゲルを形成することができる物質である。そのようなゲル形成剤の典型的な例は、複合多糖類およびタンパク質である。好ましい熱ゲル化複合多糖はアガロースであり、それは、紅藻から得られる寒天の形態で、30重量%までの非ゲル化アガロペクチンと共に存在し得る。アガロースの主成分は、交互1 ,3 -および1 ,4 -グリコシド結合を有するガラクトースおよび3,6−アンヒドロ−L−ガラクトースの直鎖多糖である。複合多糖類は、好ましくは、分子量110,000〜160,000を有し、無臭無味である。適当な代替物は、ペクチン、キサンタン(キサンタンガムを含む)およびそれらの混合物である。他の好ましい種類は、1重量%水溶液において、80℃より低い温度で溶融せず、40℃より高い温度で再び固化するゲルを形成する物質である。熱ゲル化タンパク質の群の例は、種々のゼラチンである。
【0031】
〔アニオン性ポリマー〕
アルギン酸の塩がこの目的に好ましい。アルギン酸は、下記の理想化したモノマー単位を有するカルボキシル含有多糖の混合物である:
【0032】
【化3】

【0033】
アルギン酸またはアルギン酸塩の平均分子量は、150,000〜250,000である。アルギン酸の塩、およびその完全および部分中和生成物は、特に、アルカリ金属塩、好ましくはアルギン酸ナトリウム(「アルギン」)、およびアンモニウムおよびアルカリ土類金属塩であると理解される。混合アルギン酸塩、例えば、ナトリウム/マグネシウムまたはナトリウム/カルシウムアルギン酸塩が特に好ましい。しかしながら、本発明の別の実施態様においては、カルボキシメチルセルロースおよびアニオン性キトサン誘導体、例えば、カルボキシル化生成物および上記全てのスクシニル化生成物もこの目的に適している。
【0034】
〔カチオン性ポリマー〕
キトサンは、親水コロイドのグループに属する生体ポリマーである。化学的にそれらは、下記の理想化したモノマー単位を有する、種々の分子量の部分的に脱アセチルしたキチンである:
【0035】
【化4】

【0036】
生物学的pH値において陰に荷電している大部分の親水コロイドとは対照的に、キトサンは、このような条件下で陽イオン性の生体ポリマーである。陽に荷電したキトサンは、反対に荷電した表面と相互作用することができ、したがって、ヘアケアおよびボディーケア製品および医薬調製物に使用される。キトサンは、キチン、好ましくは、安価な原材料として大量に入手できる甲殻類の殻残留物から生成される。Hackmann等によって最初に記載された方法において、通常、最初に塩基の添加によりキチンを除タンパクし、無機酸の添加により脱塩し、最後に強塩基の添加により脱アセチルし、分子量は広範囲に分布する。好ましいタイプは、独国特許出願第4442987号明細書および独国特許出願第19537001号明細書(Henkel)に開示された、平均分子量10,000〜500,000ダルトンまたは800,000〜1,200,000ダルトン、および/またはブルックフィールド粘度(グリコール酸中1重量%)5,000mPas未満、脱アセチル度80〜88%および灰分0.3重量%未満を有するキトサンである。水へのより高い溶解性のために、キトサンを、その塩の形態、好ましくはグリコール酸塩として一般的に使用する。
【0037】
本発明の好ましい実施態様においては、通常、1〜10重量%、好ましくは2〜5重量%のゲル形成剤、好ましくは寒天の水溶液を調製し、還流させながら加熱する。0.1〜2重量%、好ましくは0.25〜0.5重量%の量のカチオン性ポリマー、好ましくはキトサンおよび0.1〜25重量%、好ましくは0.25〜10重量%の量の活性成分を含む第2水溶液を煮沸温度、好ましくは80〜100℃にて添加する(この混合物をマトリックスと称する)。したがって、活性成分のマイクロカプセルへの充填は、カプセルの重量に基づいて0.1〜25重量%であってよい。必要であれば、水不溶性成分、例えば無機顔料を、この段階で添加して、一般に水性または水性/アルコール分散系の形態において、粘度を調節することができる。さらに、活性成分を乳化または分散させるために、乳化剤および/または可溶化剤をマトリックスに添加することが有用な場合もある。ゲル形成剤、カチオン性ポリマーおよび活性物質からのマトリックスの調製後に、場合により、次のカプセル化工程において小粒子を製造するために、マトリックスを強い剪断作用によって油相に非常に微細に分散させてよい。これに関して、マトリックスを40〜60℃の温度に加熱し、油相を10〜20℃に冷却することが特に有利であることがわかった。実際のカプセル化、すなわち、マトリックス中のカチオン性ポリマーをアニオン性ポリマーに接触させることによる膜の形成を、第3工程において行なう。このために、油相に分散させたマトリックスを、約0.1〜3重量%、好ましくは0.25〜0.5重量%のアニオン性ポリマー(好ましくはアルギン酸塩)水溶液で、40〜100℃ 、好ましくは50〜60℃の温度で洗浄し、それと同時に、存在する場合、油相を除去することが望ましい。得られた水性調製物は、通常、1〜10重量%のマイクロカプセル含有量を有する。ある場合には、ポリマーの溶液が、他の成分、例えば乳化剤または防腐剤を含有することが有利であり得る。濾過した後、好ましくは約1〜3mmの平均直径を有するマイクロカプセルが得られる。カプセルをふるいにかけて、均質な粒度分布を確実にすることが望ましい。このようにして得られたマイクロカプセルは、製造に関連した制限の範囲内で、どのような形も有し得るが、好ましくは実質的に球形である。
【実施例】
【0038】
〔試験的研究結果〕
試験的研究は、最大濃度のレモンバーム抽出物を含む試験食品の、認知改善の単一集中、単盲検評価として実施した。とりわけ、試験的研究は、ストレスを受けるライフスタイルを送っていると考えている23〜28歳の5人の男女の被験者により行った。検査および認識力試験トレーニングの後、各被験者は、1.8g/200mlのレモンバーム抽出物(Plantalin(登録商標)Lemon balm、Cognis GmbH、ドイツ)を含む試験飲料を摂取し、ベースライン時、試験食品摂取の30分、2、3、4、6、8および12時間後に認知試験を実施した。ロスマリン酸および血糖値を評価するために、薬物動態(PK)に対する血液採取も行った。全ての認知試験をPK血液採取の後実施した。
【0039】
CDRコンピューター化された認知評価系からの課題の選択は、製品の認知効果を評価するための最適試験バッテリーを提供するために選択された。異なるが同等の刺激を表示することにより反復した評価を可能にするため、各試験セッションにおいて平行する形で課題(筆記試験)が行われた。全ての課題は、情報によりコンピューター制御され、刺激はノートパソコンの画面上に示される。反応は、一方は「NO」、他方は「YES」と印された2つのボタンを含む反応モジュールにより記録された。
【0040】
薬物動態に対して、ベースライン時、食品組成物摂取の30分、2、3、4、6、8時間後に熟練の静脈穿刺者により血液採取を行った。12時間後の摂取は、機器の故障により行わなかった。サンプルのロスマリン酸およびグルコースの濃度を分析した。
【0041】
CDRコンピューター化認知評価系
CDRコンピューター化認知評価系からの課題の選択は、試験製品の認知効果を評価するための最適試験バッテリーを提供するために選択された。異なるが同等の刺激を表示することにより反復した評価を可能にするため、各試験セッションにおいて平行する形で課題が行われた。全ての課題は、情報によりコンピューター制御され、刺激はノートパソコンの画面上に示される。反応は、一方は「NO」、他方は「YES」と印された2つのボタンを含む反応モジュールにより記録された。
【0042】
CDRコアバッテリー
バッテリーは、注意力/集中力、短期作動記憶、長期二次記憶の認知領域におよび、さらに心理状態をも評価する。バッテリーは完了までに20〜25分かかり、以下の試験からなる。
【0043】
(i)注意力/集中力
・単純反応時間:この試験は、単純な刺激に対する純粋な反応時間を測定するものである。被験者は、用語「YES」が画面上に表示されるたびに、できるだけ速く「YES」のボタンを押すよう指示される。様々な刺激間隔で50個の刺激が示される。試験は約2分間続き、成果の測度は平均反応時間である。
【0044】
・選択反応時間:この試験は、単純反応時間試験と類似しているが、意志決定要因を取り入れることにより、反応時間をより遅くする。用語「NO」または用語「YES」のいずれかが画面に表示され、被験者はできるだけ速く対応するボタンを押すよう指示される。各刺激用語を等確率で様々な刺激間隔によりランダムに選択し50回の試行を行った。試験は約2分間続き、成果の測度は反応の正確さと正確な反応の平均反応時間である。
【0045】
・数字警戒:この試験は、長期間におよぶ注意力の持続能力を測定するものである。目標の数字がランダムに選択され、画面の右側に絶えず表示される。その後、一連の数字が画面の中央に毎分150個の速度で表示され、被験者は、一連の数字が目標の数字と一致するたびに、できるだけ速く「YES」のボタンを押すよう求められる。一連に45の目標がある。試験は3分間続き、成果の測度は反応の正確さと、誤った反応の数および正確な反応の平均反応時間である。
【0046】
(ii)作動記憶
・数値作業記憶:この試験は、短期作業記憶における数値情報の保持および想起能力を測定するものであり、副調音リハーサルループ(sub-articulatory rehearsal loop)に依存する。被験者に記憶を保持させるために5桁の数字を表示した。これに続けて一連の30個のプローブ数字を表示し、被験者はそれぞれのプローブ数字が最初の一連の数字中に存在していたかいなかったかを判断し、必要に応じてできるだけ速く「YES」または「NO」の反応ボタンを押す。2つの異なるシリーズおよびプローブを用いて、この手順をさらに2回繰り返した。この試験は、2〜3分間続き、成果の測度は、反応の正確さおよび正確な反応の平均反応時間である。
【0047】
・空間作業記憶:この試験は、短期作業記憶からの空間情報の保持および回復能力を測定するものであり、視覚的空間記憶領域に依存する。9個の窓のうち4個が点灯している家の絵が画面に表示する。被験者は、照らされた窓の位置を記憶しなければならない。その後、36回表示される家に対して、被験者は、最初の表示において照らされた窓の1つと一致しているかどうかの判断を要求される。被験者は、必要に応じてできるだけ速く「YES」または「NO」のボタンを押すことにより反応する。試験は約3分間続き、成果の測度は反応の正確さおよび正確な反応の平均反応時間である。
【0048】
(iii)長期二次記憶
・即時単語想起および遅延単語想起:これらの試験は、手がかりなしでの、長期記憶からの言語情報の保持および回復能力を測定するものである。被験者が記憶するために、15個の単語のリストが2秒に1個の割合で画面上に表示される。その後、できるだけ多くの単語を想起するため、被験者に1分間与えられる(即時単語想起)。(15〜20分の)時間が経過後、再び単語を見ることなく、できるだけ多くの単語を想起するために、被験者に再び1分間与えられる(遅延単語想起)。成果の測度は、それぞれの課題において正確に想起された単語の数である。
【0049】
・単語認知:この試験は、単語想起試験と同様の言語情報の回復能力を測定するものであるが、一連の手がかりに対する反応時間を測定するものである。元の単語リストの表示の15〜20分後、元の単語に15個の不正解の単語が追加されたものをランダムな順で1個ずつ表示する。各単語に対して、被験者は、必要に応じてできるだけ速く「YES」または「NO」のボタンを押すことにより、各単語が元の単語リストに存在していたとして認識したかどうかを示すことを要求される。試験は約3分間続き、成果の測度は、反応の正確さと正確な反応の平均反応時間である。
【0050】
・絵画提示および絵画認知:この試験は、長期記憶からの手がかり法における非言語情報の保持および回復能力を測定するものである。被験者に記憶させるために、20枚の絵画を3秒ごとに1枚の速度で画面に表示した。(15〜20分の)時間が経過後、元の絵画に20個の不正解の絵画が追加されたものをランダムな順で1個ずつ表示する。各絵画に対して、被験者は、必要に応じてできるだけ速く「YES」または「NO」のボタンを押すことにより、各絵画が元のシリーズに存在していたとして認識したかどうかを示すことを要求される。試験は約3分間続き、成果の測度は、反応の正確さと正確な反応の平均反応時間である。
【0051】
(iv)心的状態
・Bond−Lader視覚的アナログ尺度(VAS):このコンピューター化された質問は、心的状態の側面を記録する。16個の10cmアナログ尺度を被験者に1個ずつ提示する。各尺度に対して、被験者は、時間内にその時点で感じる気分をマウスを使って示す。質問は完了するまでに約2分間かかり、成果の測度は、自己評価した注意力、落ち着きおよび満足感である。
【0052】
(v)さらなる筆記アンケート
・心的状態のプロファイル(POMS):この広く使用される65項目の形容詞試験は、被験者に「今日を含めた過去1週間」をどのように感じたかを評価するよう求める。これは、6個の要因を生じる:緊張−不安、落ち込み−落胆、怒り−敵意、活力−積極性、疲労−無気力、混乱−当惑。得点はそれぞれから得られ、「気分障害」の単独得点も算出される。
【0053】
・Spielberger状態不安アンケート(Spielberger State Anxiety Questionnaire):この試験は、状態不安と特定不安を測定するための2つの自己報告尺度からなる。S−不安尺度(STAI Form Y-1)は、回答者が現段階で「現時点」をどのように感じているかを評価する20の項目(1〜20番)からなる。アンケートの一部は、研究中に実施される。T−不安尺度(STAI Form Y-2)は、回答者が一般的にどのように感じているかを評価する20の項目(21〜40番)からなる。このアンケート部分は、研究中に一度実施されるのみである。
【0054】
〔結果〕
研究過程で、下記の認知機能ならびに自己評価した心的状態および不安に対する改善が得られた。
・単語認知感度指標(正しく単語を認識する能力)は、2および6時間で改善された。
・自己評価した注意力は、3および4時間で改善された。
・自己評価した満足感は、8および12時間で改善された。
・自己評価した怒りは全ての時点で減少した。
これらの研究結果は、心的状態および以前に提示された単語を認識する能力への該物質のプラス効果の可能性を示した。該結果を以下の表に記載する。
【0055】
【表1】

【0056】
【表2】

【0057】
【表3】

【0058】
【表4】

【0059】
【表5】

【0060】
〔薬物動態データ〕
【表6】

【0061】
【表7】

【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明の他の課題は、ストレス症状に対処するための、特に単語認知感度および注意力を改善するための、集中力を改善するための、および怒りを軽減させるための食品組成物用の成分としてのMelissa officinalisの水性抽出物またはロスマリン酸の使用を対象とする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Melissa officinalis(レモンバーム)の水性抽出物を含んでなる食品組成物。
【請求項2】
ロスマリン酸を含んでなる食品組成物。
【請求項3】
0.1〜50g/Lの量のレモンバームの抽出物を含んでなる、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
前記食品組成物が、果実飲料、乳製品またはヨーグルトであることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の組成物。
【請求項5】
生理活性脂肪酸および/またはステロールまたはステロールエステルをさらに含んでなることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の組成物。
【請求項6】
マイクロカプセル状でレモンバーム抽出物またはロスマリン酸を含んでなることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の組成物。
【請求項7】
食品組成物用の成分としての、Melissa officinalisの水性抽出物またはロスマリン酸の使用。
【請求項8】
ストレス症状に対処するための薬剤を製造するための、Melissa officinalisの水性抽出物またはロスマリン酸の使用。
【請求項9】
単語認知感度および注意力を改善するための薬剤を製造するための、Melissa officinalisの水性抽出物またはロスマリン酸の使用。
【請求項10】
満足感の改善および怒りの低減のための薬剤を製造するための、Melissa officinalisの水性抽出物またはロスマリン酸の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2011−500040(P2011−500040A)
【公表日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−529272(P2010−529272)
【出願日】平成20年10月8日(2008.10.8)
【国際出願番号】PCT/EP2008/008472
【国際公開番号】WO2009/056208
【国際公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【出願人】(505066718)コグニス・アイピー・マネージメント・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング (191)
【氏名又は名称原語表記】Cognis IP Management GmbH
【Fターム(参考)】