説明

レモン着香剤として化学的に安定な成分

本発明は、式(I)(式中、Rはメチル基又はエチル基を表し;Rは水素原子又はメチル基もしくはエチル基を表し;R及びRは、別々に、それぞれ水素原子又はOR基を表し、Rは水素原子又はC1−2アルキル基もしくはアシル基であり;又は前記R及びRは、一緒になって、酸素原子、CH基又は炭素−炭素二重結合を表し;且つ−R、R及びRはそれぞれ水素原子であるか;又は−a)Rは水素原子であり且つR及びRは、一緒になって、酸素原子、CH基又は炭素−炭素二重結合を表すか;又は−b)Rは水素原子であり且つR及びRは、一緒になって、酸素原子、CH基又は炭素−炭素二重結合を表す)の幾つかのニトリル誘導体に関し、これらは、レモン調の香気ノートを付与するための芳香成分として非常に有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野
本発明は、香料の分野に関する。更に詳細には、本発明はレモン調の香気ノートを付与するために非常に有用な、幾つかの特定のニトリル誘導体に関する。本発明は、前記化合物の香料産業における使用、並びに前記化合物を含有する組成物又は物品に関する。
【0002】
先行技術
シトラール、及び関連する誘導体(例えば、シトロネラール、シトロネロール、ゲラニオールなど)は、部分的に典型的な及び天然の柑橘類/レモンのノート及び柑橘類果実の香調の元となっている天然の化合物である。しかしながら、これらの化合物は不安定であり、特に塩基性又は酸化性媒体において、化学的に非常に分解し易い。そのため、これらの使用は制限されている。
【0003】
その結果、香料産業の長期にわたる要求の1つは、漂白などの種々の適用媒体で安定である、天然の化合物の香りにできる限り近い香気を有する、柑橘類の着香剤を発見することである。
【0004】
香料の観点からは理想的ではないが(過度のニトリル)、最近まで、柑橘類及び類似物の代替物として汎用された化合物は、ゲラニルニトリル(3,7−ジメチル−2,6−オクタジエンニトリル)であった。しかしながら、近年、ゲラニルニトリルは突然変異誘発性のために禁止されていた。
【0005】
近年、当該産業は、ゲラニルニトリル又はシトラールを置き換えるための成分として3,7−ジメチル−2,6−ノナジエンニトリル(レモンの香り)を使用し始めた。しかしながら、この化合物は、シトラール自体は言うまでもなく、ゲラニルニトリルほど良好ではない。
【0006】
従って、調香師のパレットは、先行技術のニトリルよりも強い及び/又は発展した柑橘類の特性を有し、もちろん可能であれば環境にも更に優しい化合物を未だ要求している。本発明の目的は、化学的に更に安定であり、柑橘類及びその天然の誘導体にできる限り感覚刺激的に近く(又は少なくとも先行技術のニトリルよりも近く)、及び/又は環境/生物に許容される成分の提供によって、この課題を解決することである。
【0007】
本発明者らの知る限り、本発明の化合物の中で、3,6,7−トリメチル−2,6−オクタジエンニトリル(立体化学をもたない)のみが文献に記載されている(I.K. Sarychevaら. in Zhurnal Obshchei Khimii, 1959, 29, 1189を参照のこと)。前記文献では、本発明の化合物が合成における化学的な中間体として記載されている。しかしながら、この先行技術文献は、式(I)の化合物の感覚刺激的な特性、又は前記化合物の香料分野での使用について報告も示唆もしていない。
【0008】
発明の説明
本発明者らは、ここで驚くことに式
【化1】

(式中、Rはメチル又はエチル基を表し;
は水素原子又はメチル又はエチル基を表し;
及びRは、別々に、それぞれ水素原子又はOR基を表し、Rは水素原子又はC1−2アルキル又はアシル基であり;又は前記R及びRは、一緒になって、酸素原子、CH基又は炭素−炭素二重結合を表し;且つ
− R、R及びRはそれぞれ水素原子であるか;又は
− a)Rは水素原子であり且つR及びRは、一緒になって、酸素原子、CH基又は炭素−炭素二重結合を表すか;又は
b)Rは水素原子であり且つR及びRは、一緒になって、酸素原子、CH基又は炭素−炭素二重結合を表す)
の化合物を、例えば、レモン調の香気ノートを付与するための芳香成分として使用できることを発見した。
【0009】
明確にするために、「R及びRは、一緒になって、・・・炭素−炭素二重結合を表す」との表現、又は類似表現は、当業者に理解されている通常の意味、即ち、前記R基を有する炭素原子間の全ての結合、例えば、炭素2と炭素3の間の結合が、炭素−炭素二重結合であることを意味する。
【0010】
本発明の特定の実施態様によれば、前記化合物(I)はC11−C13又は更にC11−C12化合物であり、特に、1つ又は2つの炭素−炭素二重結合が存在するものである。
【0011】
化合物(I)(式中、Rはメチル基である)は本発明の特定の実施態様を表す。
【0012】
化合物(I)(式中、Rは水素原子又はメチル基である)は本発明の特定の実施態様、特にRが水素原子である場合の実施態様を表す。
【0013】
本発明の特定の実施態様によれば、前記化合物(I)は式(I)(式中、
Rはメチル又はエチル基を表し;
は水素原子又はメチル基を表し;
及びRは、別々に、それぞれ水素原子を表し又は前記R及びRは、一緒になって、CH基又は炭素−炭素二重結合を表し;且つ
− R、R及びRはそれぞれ水素原子であるか;又は
− a)Rは水素原子であり且つR及びRは、一緒になって、CH基又は炭素−炭素二重結合を表すか;又は
b)Rは水素原子であり且つR及びRは、一緒になって、CH基又は炭素−炭素二重結合を表す)
の化合物である。
【0014】
本発明の特定の実施態様によれば、前記化合物(I)は式
【化2】

(式中、一方の点線は炭素−炭素単結合を表し、もう一方の点線は炭素−炭素単結合又は二重結合を表し;
及びRは、別々に、水素原子又はOR基を表し、Rは水素原子又はメチル、エチル又はアセチル基であり、又は前記R及びRは、一緒になって、酸素原子、炭素−炭素二重結合又はCH基を表す)
の化合物である。
【0015】
本発明の特定の実施態様によれば、前記化合物(I)は式(II)(式中、
一方の点線は炭素−炭素単結合を表し、もう一方の点線は炭素−炭素単結合又は二重結合を表し;
及びRは、別々に、水素原子を表すか又は前記R及びRは、一緒になって、炭素−炭素二重結合又はCH基を表す)
の化合物である。
【0016】
本発明の更なる実施態様によれば、前記化合物(I)は式
【化3】

(式中、一方の点線は炭素−炭素単結合を表し、もう一方の点線は炭素−炭素単結合又は二重結合を表す)
の化合物である。
【0017】
特に、上の実施態様の化合物(II)又は(III)の場合、3位と4位の間の点線は単結合である。
【0018】
明確にするために、「式中、一方の点線は炭素−炭素単結合を表し、もう一方の点線は炭素−炭素単結合又は二重結合を表す」との表現、又は類似表現は、当業者に理解されている通常の意味、即ち、前記点線によって結合されている炭素原子間の全ての結合(実線及び点線)、例えば、炭素2と炭素3の間の結合が、炭素−炭素単結合又は二重結合であることを意味する。
【0019】
式(I)から分かる通り、本発明の化合物の幾つかは、光学的に活性な形であるか、又は本発明の化合物の幾つかについてニトリル基に隣接する炭素−炭素二重結合は、存在する場合、EもしくはZ又はその混合型の配置であってよい。従って、本発明の化合物は、その光学異性体又は配置異性体又はその混合物のいずれか1つの形であってよいことが明らかである。特に化合物(III)はE及びZ異性体の混合物の形であってよい。特定の実施態様によれば、前記化合物(I)、(II)又は(III)は、E及びZ異性体の混合物の形であってよく、その際、E異性体は少なくとも75%w/w(又は少なくとも3のE/Z比)を表す。
【0020】
式(I)、並びに(II)又は(III)の化合物は、主鎖の6位に追加のメチル基を有することによって類似構造の先行技術の芳香成分と区別されている。これらの化合物は、上述の3,6,7−トリメチル−2,6−オクタジエンニトリルを除いて、全て新規であり、従って本発明の対象でもある。
【0021】
具体的であるが、限定的しない、本発明の化合物の例として、以下の第1表に示したものを挙げてよい:
【表1】

【表2】

【0022】
以上のように、本発明の化合物の柑橘類/レモンの香調は、天然に存在するシトラール及びその類似の誘導体に関して正確に、本発明の化合物の正確な構造に応じて変化する。しかしながら、本発明の化合物の全ては、6位で置換されていない先行技術の類似物よりも自然な及び/又は強い柑橘類のノートを有する。
【0023】
本発明の特定の実施態様によれば、式(I)の化合物は、3,6,7−トリメチル−2,6−オクタジエンニトリル、(2E)−3,6,7−トリメチル−2,6−オクタジエンニトリル及び/又は3,6,7−トリメチル−6−オクテンニトリルである。
【0024】
本発明の化合物の感覚刺激特性は、先行技術を考慮して非常に驚くべきものである。実際に、一方では、シトラール及びその自然に生じる誘導体について、ヘテロ原子官能基(CHO又はCHOH)をニトリル基に置換することは、レモンの香気特性を(たとえ弱くても)維持することを可能にするが、油のノートまで著しく強くすることが公知であった(シトラールvsゲラニルニトリル、又はシトロネロールvsシトロネリルニトリルを参照のこと)。他方では、3,6,7−トリメチル−2,6−オクタジエナール(Arctander 1956を参照のこと)は、「シトラールと比べて全くレモンの香りがしない」(即ち、ほとんどレモン香気なし)と記載されているので、本発明の化合物(ニトリル基を有する)が非常に弱いレモンの香気特性(少なくとも対応する先行技術のニトリルよりも弱い)を有することは予想されなかった。
【0025】
上述の通り、本発明は式(I)の化合物の芳香成分としての使用に関する。換言すれば、本発明は、前記組成物又は物品に有効量の少なくとも1種の式(I)の化合物を添加することを含む、芳香組成物又は着香物品の香気特性を付与、強化、改善又は変性する方法に関する。「式(I)の化合物の使用」とは、本明細書では、活性成分として香料産業において有利に利用することができる、化合物(I)を含有する組成物の使用でもあると理解されるべきである。
【0026】
前記組成物は、事実、芳香成分として有利に使用することができ、本発明の対象でもある。
【0027】
従って、本発明の別の対象は、芳香組成物であって、
i)芳香成分として、上で定義された少なくとも1種の本発明の化合物、
ii)香料担体及び香料ベースからなる群から選択される少なくとも1種の成分、及び
iii)場合により少なくとも1種の香料助剤
を含む、芳香組成物である。
【0028】
「香料担体」とは、本明細書では、香料の観点から実質的に中性であり、即ち、芳香成分の感覚刺激特性を著しく変更しない物質を意味する。前記担体は液体又は固体であってよい。
【0029】
液体担体としては、非限定の例として、乳化系、即ち、溶媒及び界面活性剤系、又は香料において一般的に使用される溶媒を挙げてよい。香料において一般的に使用されている溶媒の性質及び種類の詳細な説明は、網羅することができない。しかしながら、非限定の例として、溶媒、例えばジプロピレングルコール、ジエチルフタラート、イソプロピルミリスタート、安息香酸ベンジル、2−(2−エトキシエトキシ)−1−エタノール又はクエン酸エチルを挙げることができ、これらは最も一般的に使用されている。
【0030】
固体担体としては、非限定の例として、吸収ゴム又はポリマー、又はさらにカプセル化材を挙げてよい。かかる材料の例は、壁形成材料及び可塑化材料、例えば単糖類、二糖類又は三糖類、天然又は改質デンプン、親水コロイド、セルロース誘導体、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、タンパク質又はペクチン、又はさらに参考文献、例えばH. Scherz, Hydrokolloids: Stabilisatoren, Dickungs- und Geliermittel in Lebensmittel, Band 2 der Schriftenreihe Lebensmittelchemie, Lebensmittelqualitaet, Behr's Verlag GmbH & Co., Hamburg,1996に挙げられた材料を含んでよい。カプセル化は当業者によく知られた方法であり、例えば、噴霧乾燥、凝塊形成又はさらに押出しなどの技術を用いて実施してよく;又はコアセルベーション及び複合コアセルベーション技術を含む、被覆カプセル化からなる。
【0031】
「香料ベース」とは、本明細書では、少なくとも1種の芳香共成分を含む組成物を意味する。
【0032】
前記芳香共成分は式(I)のものではない。さらに、「芳香共成分」とは、本明細書では、快い効果を付与するために芳香調製物又は組成物中で使用される化合物を意味する。換言すれば、芳香成分であると考えられるかかる共成分は、積極的な又は快適な方法で組成物の香気を付与又は改質することができるものであって、単に香気を有するだけのものではないと当業者に認められなければならない。
【0033】
ベース中に存在する芳香共成分の性質及び種類は、ここではより詳細な説明を保証せず、これらはいずれの場合にも網羅されない。当業者は、これらの成分を一般的知見に基づき且つ意図される使用又は用途及び所望の感覚刺激効果に応じて選択することができる。一般的な用語において、これらの芳香共成分は、アルコール、ラクトン、アルデヒド、ケトン、エステル、エーテル、アセタート、ニトリル、テルペノイド、窒素性又は硫黄性複素環式化合物及び精油といった種々の化学的クラスに属し、前記芳香共成分は天然又は合成由来であってよい。これらの共成分の多くは、いずれの場合にも、参考文献、例えばS. Arctander, Perfume and Flavor Chemicals, 1969, Montclair, New Jersey, USAによる書物、又はその最新版、又は同種の他の論文、並びに香料分野における豊富な特許文献に挙げられている。前記共成分は、様々な種類の芳香化合物を制御された様式で放出することで知られた化合物であってもよいことも理解されている。
【0034】
香料担体と香料ベースの両方を含む組成物の場合、他の好適な香料担体は、従来から規定されたものではなく、エタノール、水/エタノール混合物、リモネン又は他のテルペン、イソパラフィン、例えば、商標Isopar(登録商標)(製造元:Exxon Chemical)の下で公知のもの又はグリコールエーテル及びグリコールエーテルエステル、例えば、商標Dowanol(登録商標)(製造元:Dow Chemical Company)の下で公知のものであってもよい。
【0035】
「香料助剤」とは、本明細書では、追加的に加えられる利益、例えば色、特定の耐光性、化学的安定性などを付与できる成分を意味する。芳香ベース中で通常使用される助剤の性質及び種類の詳細な説明を網羅することはできないが、前記成分は当業者に周知であることは言及されるべきである。
【0036】
少なくとも1種の式(I)の化合物及び少なくとも1種の香料担体からなる本発明の組成物は、本発明の特定の実施態様を表し、同様に少なくとも1種の式(I)の化合物、少なくとも1種の香料担体、少なくとも1種の香料ベース、及び場合により少なくとも1種の香料助剤を含む芳香組成物をも表す。
【0037】
ここで有用なことは、上記の組成物において、2種以上の式(I)の化合物を有する可能性が重要であることに言及することである。それというのは、香料製造業者が、本発明の種々の化合物の香調を有する、アコード又は香料を調製し、これによりその研究のための新たな道具を創り出すことができるからである。
【0038】
有利には、例えば、適切な精製をしないで、化学合成から直接得られる混合物は、その中に本発明の化合物が出発、中間又は最終生成物として含まれており、本発明による芳香組成物であるとは認められない。
【0039】
さらに、本発明の化合物も、前記化合物(I)が添加される消費者製品の香気を積極的に付与又は改質するために、最新の香料分野の全てにおいて有利に使用することができる。結果として、着香物品であって、
i)芳香成分として、上で定義された少なくとも1種の式(I)の化合物、又は本発明の芳香組成物、及び
ii)消費者製品ベース
を含む着香物品も本発明の対象である。
【0040】
明確にするために、「消費者製品ベース」とは、本明細書では、芳香成分と相容性である消費者製品を意味することが言及されるべきである。換言すれば、本発明による着香物品は、機能性処方物のほかに、場合により、消費者製品、例えば洗剤又はエアフレッシュナーに相応する、付加的な利得剤(benefit agent)も含み、且つ嗅覚的に有効量の少なくとも1種の本発明の化合物を含む。
【0041】
消費者製品の構成成分の性質及び種類は、ここではより詳細な説明を保証せず、これらはいずれの場合にも網羅されない。当業者は、これらの成分を一般的知見に基づき且つ前記製品の性質及び所望の効果に応じて選択することができる。
【0042】
適した消費者製品ベースの例として、固体又は液体の洗剤及び布用柔軟剤並びに香料産業において一般の全ての他の物品、すなわち香水、コロン又はアフターシェーブローション、着香された石けん、シャワー又はバスソルト、ムース、オイル又はジェル、衛生製品又はヘアケア製品、例えばシャンプー、ボディケア製品、デオドラント又は制汗剤、エアフレッシュナー及びまた化粧品が挙げられる。家庭用又は工業用の使用が意図されていようとなかろうと、洗剤として、様々な表面を洗ったり又はきれいにするための洗剤組成物又はクリーニング製品などの意図された用途があり、例えば、テキスタイル、皿又は硬質表面の処理が意図されている。他の着香物品は、布用柔軟剤、布リフレッシャー、アイロン水、ペーパー、ワイプ又は漂白剤である。
【0043】
本発明の特定の実施態様によれば、機能性香料(例えば、石けん、洗剤、デオドラントなど)に関連する消費者製品は特に適切である。
【0044】
様々な上述の物品又は組成物中に導入できる、本発明による化合物の割合は、広範の値に及ぶ。これらの値は、着香されるべき物品の性質、及び所望の感覚刺激効果によって変わるだけでなく、本発明による化合物が当該技術分野で通常使用される芳香共成分、溶媒又は添加剤と混合される場合、所定のベース中での共成分の性質によっても変わる。
【0045】
例えば、芳香組成物の場合、典型的な濃度は、それらが組み込まれる組成物の質量を基準として、本発明の化合物の、0.1質量%〜15質量%、又はそれ以上のオーダーにある。それより低い濃度、例えば0.01質量%〜5質量%のオーダーの濃度は、これらの化合物が着香物品中に導入される場合に使用することができ、パーセンテージは物品の質量を基準とする。
【0046】
上述の通り、本発明の化合物は、有利には先行技術のニトリルよりも環境に優しい。
【0047】
例えば、本発明者らは思いがけなく、E及びZ異性体又はそれらの混合物の形の、3,6,7−トリメチル−2,6−オクタジエンニトリルが、先行技術の3,7−ジメチル−2,6−オクタジエンニトリルとは反対に、染色体異常誘発性ではない(即ち、染色体損傷を誘発しない)ことを見出した。
【0048】
本発明の化合物は、実施例に記載された方法によって製造することができる。
【0049】
実施例
本発明をここで、以下の実施例を用いて更に詳細に説明し、その際、省略形は当該技術分野における通常の意味を有し、温度は摂氏度(℃)で示し;NMRスペクトルのデータは360MHz又は400MHz機を用いてH及び13Cに対して(別に記載がなければ)CDClにおいて記録されたものであり、化学シフトδは標準としてのTMSに関してppmで示し、且つ結合定数JはHzで表す。
【0050】
実施例1
式(I)の化合物の合成
a)3,6,7−トリメチル−2,6−オクタジエンニトリル及びその立体異性体E又はZ異性体の製造並びに3,6,7−トリメチル−3,6−オクタジエンニトリルの製造
5,6−ジメチルヘプト−5−エン−2−オン(100g;0.707モル)、シアノ酢酸(81g;0.948モル)、トリエタノールアミン(7.8g;0.052モル)及びトルエン(140g)を1lの多口丸底フラスコ中に装入し且つ加熱還流した。この反応によって生成した水を、ディーンスタークトラップを用いて除去した。21時間後、反応混合物を室温まで冷却し、これをブラインで繰り返し洗浄した。無水硫酸ナトリウムで乾燥した後、濾過及び溶媒の除去を行うと粗ニトリルが得られた。15cmのビグリューカラムを用いた蒸留によって68.5gの純度88%のメチルゲラニルニトリル(異性体の混合物)が収率52%で得られた(沸点61℃(1ミリバール))。
【0051】
この生成物を35cmのフィッシャー・スパルトロール(Fischer Spaltrohr)(登録商標)カラムにより蒸留し、種々の異性体を分離した。

【0052】
E異性体が約85%w/wを表す、異性体(2E)及び(2Z)の混合物からなる質の3,6,7−トリメチル−2,6−オクタジエンニトリルが、必要量の純粋なE及びZ異性体を混合することによって得られた。前記質は香料の実施例において使用された。
【0053】
b)3,6,7−トリメチル−6−オクテンニトリルの製造
メチルシトロネラール(25.65g;0.147モル)を100mlの多口丸底フラスコ中に装入し、撹拌しながら55℃に加熱した。ヒドロキシルアミン(11.2g;0.17モル、55%水溶液)を、撹拌及び冷却下で20分間滴加した。撹拌を55℃で1時間継続し、次いで0.5gの酢酸ナトリウムを添加した。15分間撹拌した後、反応混合物を室温まで冷却してMTBE(100ml)で抽出し、水相を捨て、そして有機相をブラインで洗浄した。無水硫酸ナトリウムで乾燥した後、濾過及び溶媒の除去を行うと、粗オキシムが2種の異性体の混合物として得られた(35.6%、62.1%)。
【0054】
酢酸ナトリウム(0.6g;0.007モル)及びn−ヘプタン(25ml)を250mlの多口丸底フラスコ中に装入し、撹拌しながら100℃に(還流)加熱した。粗オキシム(26.5g;0.14モル)及び無水酢酸(17.5g;0.17モル)を、同時に30分間撹拌しながら滴加した。撹拌は還流下で30分間続けた。反応混合物を室温まで冷却して氷(100g)の上に注ぎ、水相を捨て、そして有機相を水性NaHCO及びブラインで洗浄した。無水硫酸ナトリウムで乾燥した後、濾過及び溶媒の除去を行うと粗ニトリルが得られた。15cmのビグリューカラムを用いた蒸留によって18.33gの純度97.5%の所望の生成物が収率79.4%で得られた(沸点67℃(1ミリバール))。

【0055】
c)3,6,7−トリメチルオクタンニトリルの製造
3,6,7−トリメチル−2,6−オクタジエンニトリル(15g;0.092モル)、パラジウム炭素(5%Pd/C、1.5g)及び酢酸エチル(60ml)を、500mlの撹拌式オートクレーブ中に装入し、25℃で24時間水素添加した(4バールの水素)。セライトで濾過して溶媒を除去すると、15.1gの飽和ニトリルが2種の異性体の混合物として得られた。10cmのビグリューカラムを用いる蒸留によって13.8gの純度98.2%の3,6,7−トリメチルオクタンニトリル(異性体の混合物;56/42)が収率88%で得られた。
沸点71℃(2ミリバール)。

【0056】
d)(2Z)−3,6,7−トリメチル−2/3−オクテンニトリルの製造
5,6−ジメチルヘプト−5−エン−2−オン(Pd/C、H、ニート、20℃)の水素化によって得られた、5,6−ジメチルヘプタン−2−オンを、上述のクネーフェナーゲル反応条件を用いて目的のニトリルに転換した。35cmのフィッシャー・スパルトロール(Fischer Spaltrohr)(登録商標)カラムを用いて蒸留し、個々の異性体を単離した。

【0057】
e)3−メチル−5−(1,2,2−トリメチルシクロプロピル)−2−ペンテンニトリルの製造
オーブン乾燥した2000mlの丸底フラスコに塩化メチレン(700ml)を窒素雰囲気下で添加した。ジエチル亜鉛(350ml、ヘキサン中1m;0.350モル)を添加し、次いでジヨードメタン(184.5g、0.69モル)を1.5時間にわたり滴下しながら導入した。1時間の撹拌後(白色沈殿物の生成)、3,6,7−トリメチル−2,6−オクタジエンニトリル(14g、0.086モル;15/85のZ/E混合物)を30分間滴加して、反応物を室温で45時間撹拌した。反応混合物を20%の炭酸カリウム水溶液(750ml)中に注ぎ、次いで焼結漏斗中でセライトのパッドを通して濾過した。有機層を分離して、これを無水硫酸ナトリウムで乾燥させた。乾燥剤による濾過、濃縮及びフラッシュ蒸留によって41.4gの粗物質が得られた。この生成物は、35%の出発ニトリルを含有し、これに別のシクロプロパン化手段が行われた。ビグリューカラムを用いた蒸留の後に、フラッシュクロマトグラフィ(シリカ;溶離液=ヘプタン/mtbe)によって目的の化合物がZ/E異性体混合物として得られた。
沸点=55℃(1ミリバール)。

【0058】
f)3−メチル−5−(1,2,2−トリメチルシクロプロピル)ペンタンニトリルの製造
目的の化合物をメチルシトロネリルニトリルのシクロプロパン化によって製造した。上のものと類似の手順を使用した。目的の化合物はジアステレオマー混合物として得られた。

【0059】
実施例2
芳香組成物の調製
「万能洗浄剤」用のレモン調の芳香組成物を、以下の成分を混合することによって調製した:
【表3】

ジプロピレングリコール中
1)テトラヒドロ−2−イソブチル−4−メチル−4(2H)−ピラノール;製造元:Firmenich SA、ジュネーブ、スイス
2)ジヒドロジャスモン酸メチル;製造元:Firmenich SA、ジュネーブ、スイス
【0060】
250質量部の3,6,7−トリメチル−2,6−オクタジエンニトリルの添加によって、レモン特性及び機能面が元の組成物に付与され、これはこの種の家庭用ケア製品にとって絶対必須のものであった。
【0061】
3,6,7−トリメチル−2,6−オクタジエンニトリルの添加は、同じ量のゲラニルニトリル(これはこの種の消費者製品のために一般に使用される成分であったが、香料にはもはや使用することはできない)の添加と同等の全体的な効果、及びそれよりも更に良好なレモンの香りをもたらした。
【0062】
同じ量のシトロネリルニトリルを元の組成物に添加した場合(ゲラニルニトリルの代替)、全体的な効果は、期待はずれの、薄く、油臭い、レモンの香りが非常に弱いものであった。
【0063】
同じ量のレモニル(lemonile)を元の組成物に添加した場合(ゲラニルニトリルの別の代替)、全体的な効果は、3,6,7−トリメチル−2,6−オクタジエンニトリルで得られたものとほぼ同程度のレモンの香りであったが、これよりも不調和で、不自然で且つ化学物質の多いものであった。
【0064】
同じ量の3,6,7−トリメチル−6−オクテンニトリルを元の組成物に添加した場合、全体的な効果は、シトロネリルニトリルで得られたものよりも遥かにレモンの香りが強く、強力で、上品で且つ自然であった。
【0065】
実施例3
芳香組成物の調製
シャワージェル用の「柑橘類、草」調の芳香組成物を、以下の成分を混合することによって調製した:
【表4】

【表5】

ジプロピレングリコール中
1)7−メチル−2H−1,5−ベンゾジオキセピン−3(4H)−オン;製造元:Firmenich SA、ジュネーブ、スイス
2)ドデカヒドロ−3a,6,6,9a−テトラメチル−ナフト[2,1−b]フラン;製造元:Firmenich SA、ジュネーブ、スイス
3)製造元:Firmenich SA、ジュネーブ、スイス
4)ジヒドロジャスモン酸メチル;製造元:Firmenich SA、ジュネーブ、スイス
5)(1S,1’R)−2−[1−(3’,3’−ジメチル−1−シクロヘキシル)エトキシ]−2−メチルプロピルプロパノエート;製造元:Firmenich SA、ジュネーブ、スイス
6)メチルイオノン異性体の混合物;製造元:Firmenich SA、ジュネーブ、スイス
7)3−(4−tert−ブチルフェニル)−2−メチルプロパナール;製造元:Givaudan-Roure SA、バーニア、スイス
8)3−メチル−(4/5)−シクロペンタデセノン;製造元:Firmenich SA、ジュネーブ、スイス
9)1−(5,5−ジメチル−1−シクロヘキセン−1−イル)−4−ペンテン−1−オン;製造元:Firmenich SA、ジュネーブ、スイス
10)3,3−ジメチル−5−(2,2,3−トリメチル−3−シクロペンテン−1−イル)−4−ペンテン−2−オール;製造元:Firmenich SA、ジュネーブ、スイス
11)メチルセドリルケトン;製造元:International Flavors & Fragrances、米国
【0066】
100質量部の3,6,7−トリメチル−2,6−オクタジエンニトリルの添加によって、上述のシャワージェルに、はっきりとしたレモン/ライムのコノテーションが付与された。
【0067】
同じ量のゲラニルニトリル又はレモニル(lemonile)の添加では、同じ効果は得られなかった。実際に、ゲラニルニトリルの場合、新たなフレグランスは非常に油臭く且つバラ様の香りが強く、レモニルの場合、新たなフレグランスは非常に油臭く且つシトロネラソウ様の香りが強かった。
【0068】
実施例4
3,6,7−トリメチル−2,6−オクタジエンニトリル対3,7−ジメチル−2,6−オクタジエンニトリルの毒性のインビボ試験
染色体異常誘発効果のインビボ試験は、哺乳動物の赤血球を用いる小核試験(OECD474,OECDウェブサイトhttp://lysander.sourceoecd.org/vl=155221/cl=19/nw=1/rpsv/ij/oecdjournals/1607310x/vln4/s39/pl)の標準的な試験法に要求される条件下で、3,6,7−トリメチル−2,6−オクタジエンニトリル及び3,7−ジメチル−2,6−オクタジエンニトリルを用いて行われ、以下の結果をもたらした:
3,6,7−トリメチル−2,6−オクタジエンニトリル:試験は200〜1200mg/kgの投与範囲で陰性であった(即ち、毒性が認められない)。
3,7−ジメチル−2,6−オクタジエンニトリル:試験は500〜1250mg/kgの投与範囲(本明細書で上述の本発明の化合物の投与範囲に重なる)で陽性であった(即ち、毒性が認められる)。この成分は、染色体異常誘発効果のために禁止されていた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】

【化1】

(式中、Rはメチル基又はエチル基を表し;
は水素原子又はメチル基もしくはエチル基を表し;
及びRは、別々に、それぞれ水素原子又はOR基を表し、Rは水素原子又はC1−2アルキル基もしくはアシル基であり;又は前記R及びRは、一緒になって、酸素原子、CH基又は炭素−炭素二重結合を表し;且つ
− R、R及びRはそれぞれ水素原子であるか;又は
− a)Rは水素原子であり且つR及びRは、一緒になって、酸素原子、CH基又は炭素−炭素二重結合を表すか;又は
b)Rは水素原子であり且つR及びRは、一緒になって、酸素原子、CH基又は炭素−炭素二重結合を表す)
の化合物の、その光学異性体又は配置異性体又はその混合型のいずれか1つの形での芳香成分としての使用。
【請求項2】
前記式(I)の化合物が式
【化2】

(式中、一方の点線は炭素−炭素単結合を表し、もう一方の点線は炭素−炭素単結合又は二重結合を表し;
及びRは、別々に、水素原子を表すか、又は前記R及びRは、一緒になって、炭素−炭素二重結合又はCH基を表す)
の化合物であることを特徴とする、請求項1記載の使用。
【請求項3】
前記式(I)の化合物が式
【化3】

(式中、一方の点線は炭素−炭素単結合を表し、もう一方の点線は炭素−炭素単結合又は二重結合を表す)
の化合物であることを特徴とする、請求項1記載の使用。
【請求項4】
前記式(I)の化合物が、3,6,7−トリメチル−2,6−オクタジエンニトリル、(2E)−3,6,7−トリメチル−2,6−オクタジエンニトリル、(2Z)−3,6,7−トリメチル−2,6−オクタジエンニトリル、3,6,7−トリメチル−6−オクテンニトリル又は(3E)−3,6,7−トリメチル−3,6−オクタジエンニトリルであることを特徴とする、請求項1記載の使用。
【請求項5】
前記式(I)の化合物が、3,6,7−トリメチル−2,6−オクタジエンニトリル、(2E)−3,6,7−トリメチル−2,6−オクタジエンニトリル又は3,6,7−トリメチル−6−オクテンニトリルであることを特徴とする、請求項1記載の使用。
【請求項6】
芳香組成物であって、
i)請求項1で定義された少なくとも1種の式(I)の化合物、
ii)香料担体及び香料ベースからなる群から選択される少なくとも1種の成分、又はフレーバー担体、フレーバーベースからなる群から選択される少なくとも1種の成分;及び
iii)場合により少なくとも1種の香料助剤又はフレーバー助剤
を含む、芳香組成物。
【請求項7】
前記化合物(I)が、3,6,7−トリメチル−2,6−オクタジエンニトリル、(2E)−3,6,7−トリメチル−2,6−オクタジエンニトリル、(2Z)−3,6,7−トリメチル−2,6−オクタジエンニトリル、3,6,7−トリメチル−6−オクテンニトリル又は(3E)−3,6,7−トリメチル−3,6−オクタジエンニトリルであることを特徴とする、請求項6記載の芳香組成物。
【請求項8】
着香物品であって、
i)請求項1に定義された式(I)の少なくとも1種の化合物、及び
ii)消費者製品ベース
を含む、着香物品。
【請求項9】
消費者製品ベースが、固体又は液体の洗剤、布用柔軟剤、香水、コロン又はアフターシェーブローション、着香された石けん、シャワー又はバスソルト、ムース、オイル又はジェル、衛生製品、ヘアケア製品、シャンプー、ボディケア製品、デオドラント又は制汗剤、エアフレッシュナー、化粧品、布リフレッシャー、アイロン水、ペーパー、ワイプ又は漂白剤であることを特徴とする、請求項8記載の着香物品。
【請求項10】

【化4】

(式中、Rはメチル基又はエチル基を表し;
は水素原子又はメチル基もしくはエチル基を表し;
及びRは、別々に、それぞれ水素原子又はOR基を表し、Rは水素原子又はC1−2アルキル基もしくはアシル基であり;又は前記R及びRは、一緒になって、酸素原子、CH基又は炭素−炭素二重結合を表し;且つ
− R、R及びRはそれぞれ水素原子であるか;又は
− a)Rは水素原子であり且つR及びRは、一緒になって、酸素原子、CH基又は炭素−炭素二重結合を表すか;又は
b)Rは水素原子であり且つR及びRは、一緒になって、酸素原子、CH基又は炭素−炭素二重結合を表す)
の、その光学異性体又は配置異性体又はその混合型のいずれか1つの形であるが、
但し、3,6,7−トリメチル−2,6−オクタジエンニトリルを除くことを条件とする、化合物。
【請求項11】

【化5】

(式中、一方の点線は炭素−炭素単結合を表し、もう一方の点線は炭素−炭素単結合又は二重結合を表す)
の化合物である、請求項10記載の化合物。
【請求項12】
(2E)−3,6,7−トリメチル−2,6−オクタジエンニトリル又は3,6,7−トリメチル−6−オクテンニトリル又は(3E)−3,6,7−トリメチル−3,6−オクタジエンニトリルである、請求項10記載の化合物。

【公表番号】特表2012−505284(P2012−505284A)
【公表日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−530621(P2011−530621)
【出願日】平成21年10月9日(2009.10.9)
【国際出願番号】PCT/IB2009/054443
【国際公開番号】WO2010/044031
【国際公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【出願人】(390009287)フイルメニツヒ ソシエテ アノニム (146)
【氏名又は名称原語表記】FIRMENICH SA
【住所又は居所原語表記】1,route des Jeunes, CH−1211 Geneve 8, Switzerland
【Fターム(参考)】