説明

レンジサイドローブ除去装置、信号処理装置、同信号処理装置を備えたレーダ装置、レンジサイドローブ除去方法及びプログラム

【課題】レンジサイドローブによる偽像を低減し、物標を確実に検出する。
【解決手段】レーダ装置1において、レンジサイドローブ除去装置36は、レーダーアンテナ10からの受信信号を取得し、パルス圧縮処理を行ってパルス圧縮信号を生成するパルス圧縮部33と、受信信号から、パルス圧縮信号のレンジサイドローブの擬似信号を生成する擬似レンジサイドローブ生成部34と、パルス圧縮信号から擬似信号に相当する成分を除去する信号除去部35と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パルス状電波により反射物体を探知するレーダ装置において、特にパルス圧縮処理された信号のレンジサイドローブを低減する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のレーダ装置においては、受信信号のS/N比の改善や距離分解能の向上図る技術として、パルス圧縮方式を用いている。パルス圧縮方式においては、周波数変調及び符号変調等で変調された送信信号を用い、その受信信号と送信信号に基づき発生させた参照信号との相関によりパルス圧縮を行う。パルス圧縮方式を用いることにより、受信信号のS/N比や分解能は改善されるが、レンジサイドローブが発生して偽像の原因となる。
【0003】
このようなレンジサイドローブを低減する方法が提案されている(例えば、特許文献1及び特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−128278号公報
【特許文献2】特許第2982769号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
図12は、受信電力の大きさが異なる物標A、B、Cを含む信号の波形を示す。物標検出のためスレッショルドT1を設定した場合、スレッショルドT1は物標Aのレンジサイドローブの上限よりも高く設定されているため、レンジサイドローブの影響は受けず、レーダ画像では物標A及びBが検出できる。しかし、スレッショルドT1より受信電力が小さい物標Cは検出できなくなる。一方、弱い受信信号でも検出できるようにするため、スレッショルドT2を設定した場合、受信電力が小さい物標Cは検出できるが、スレッショルドT2のレベルではレンジサイドローブに重複してしまう物標Bは検出できない。
【0006】
本発明は、レンジサイドローブによる偽像を低減し、物標を確実に検出することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の一つの観点によれば、レーダーアンテナからの受信信号を取得し、パルス圧縮処理を行ってパルス圧縮信号を生成するパルス圧縮部と、受信信号から、パルス圧縮信号のレンジサイドローブの擬似信号を生成する擬似レンジサイドローブ生成部と、パルス圧縮信号から擬似信号に相当する成分を除去する信号除去部と、を備えるレンジサイドローブ除去装置が提供される。
【0008】
ここでは、レーダーアンテナからの受信信号から生成されたレンジサイドローブの擬似信号に相当する成分をパルス圧縮信号より除去することにより、レンジサイドローブによる偽像を低減し、物標を確実に検出することができる。
【0009】
上記レンジサイドローブ除去装置においては、擬似レンジサイドローブ生成部は、受信信号を、レンジサイドローブに近似した波形に整形することにより、擬似信号を生成するようにしてもよい。
【0010】
上記レンジサイドローブ除去装置においては、擬似レンジサイドローブ生成部は、受信信号の包絡線の移動平均値を演算する平均値演算部を備え、同移動平均値に基づき擬似信号を生成してもよい。
【0011】
或いは、上記レンジサイドローブ除去装置においては、擬似レンジサイドローブ生成部は、受信信号の包絡線の加重平均値を演算する平均値演算部を備え、同加重平均値に基づき擬似信号を生成してもよい。
【0012】
更に、上記レンジサイドローブ除去装置においては、受信信号を直交検波する直交検波器を更に備え、擬似レンジサイドローブ生成部は、直交検波器が直交検波した受信信号の絶対値を算出することにより、受信信号の包絡線を取得する絶対値演算部を更に有していてもよい。
【0013】
或いは、上記レンジサイドローブ除去装置においては、受信信号をエンベロープ検波することにより受信信号の包絡線を取得するエンベロープ検波器を更に備えていてもよい。
【0014】
更に上記レンジサイドローブ除去装置において、擬似レンジサイドローブ生成部は、受信信号の信号レベルに応じて、受信信号の包絡線の移動平均値又は加重平均値を減衰させることにより、擬似信号を生成してもよい。この場合、疑似レンジサイドローブ生成部は、受信信号のBT積に応じて、受信信号の包絡線の移動平均値又は加重平均値を減衰させることにより、疑似信号を生成してもよい。また、擬似レンジサイドローブ生成部は、減衰された受信信号の包絡線の移動平均値又は加重平均値を対数変換するようにしてもよい。擬似レンジサイドローブ生成部は更に、減衰された受信信号の包絡線の移動平均値又は加重平均値に1を加算して対数変換するようにしてもよい。
【0015】
上記レンジサイドローブ除去装置においては、パルス圧縮部は、例えば、マッチドフィルタを有する。
【0016】
本発明の他の観点によれば、上記レンジサイドローブ除去装置と、レーダーアンテナからの受信信号をデジタル信号に変換するA/D変換器と、レンジサイドローブ除去装置の出力信号を検波する検波器と、を備える信号処理装置が提供される。
【0017】
本発明の更に他の観点によれば、上記信号処理装置と、レーダーアンテナと、同レーダーアンテナからの信号を受信し、同レーダーアンテナを介して信号を送信する送受信部と、上記信号処理装置からの信号に基づきレーダ画像を表示する表示装置と、を備えるレーダ装置が提供される。
【0018】
本発明の別の観点によれば、レーダーアンテナからの受信信号を取得し、パルス圧縮処理を行ってパルス圧縮信号を生成するステップと、受信信号の包絡線の移動平均値又は加重平均値を演算し、同移動平均値又は加重平均値に基づきパルス圧縮信号のレンジサイドローブの擬似信号を生成するステップと、パルス圧縮信号から擬似信号に相当する成分を除去するステップと、を備えるレンジサイドローブ除去方法が提供される。
【0019】
本発明の更に別の観点によれば、レーダーアンテナからの受信信号を取得し、パルス圧縮処理を行ってパルス圧縮信号を生成するステップと、受信信号の包絡線の移動平均値又は加重平均値を演算し、同移動平均値又は加重平均値に基づきパルス圧縮信号のレンジサイドローブの擬似信号を生成するステップと、パルス圧縮信号から擬似信号に相当する成分を除去するステップと、をコンピュータに実行させるためのプログラムが提供される。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、レンジサイドローブによる偽像を低減し、物標を確実に検出できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の一実施形態に係るレーダ装置の全体構成図である。
【図2】同実施形態に係るレンジサイドローブ除去部の構成図である。
【図3】受信信号と、同レンジサイドローブ除去部における擬似レンジサイドローブ生成部の各部の出力信号の波形を簡略化して示す図である。
【図4】同レンジサイドローブ除去部におけるパルス圧縮部の出力信号の例を示す図である。
【図5】同レンジサイドローブ除去部における擬似レンジサイドローブ生成部の出力信号の例を示す図である。
【図6】同レンジサイドローブ除去部の出力信号を、レンジサイドローブの除去処理をしない場合の出力信号と比較して示した図である。
【図7】同実施形態に係る信号処理装置の動作を示すフローチャートである。
【図8】受信電力に応じた、擬似レンジサイドローブ生成部の出力信号の例を示した図である。
【図9】レンジサイドローブの除去処理をしなかった場合における受信電力に応じたパルス圧縮処理後の出力信号を示す。
【図10】本実施形態に係るレンジサイドローブの除去処理をした場合における受信電力に応じたパルス圧縮処理後の出力信号を示す。
【図11】その他の実施形態に係るレンジサイドローブ除去部の構成図である。
【図12】レンジサイドローブを説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
<1.実施形態>
以下、本発明のレーダ装置の一実施形態について図面を参照して説明する。
【0023】
本実施形態に係るレーダ装置1は、例えば、船舶等に設けられ、海上の他船やブイ、鳥等の物標の位置を検出するための船舶用レーダ装置である。
【0024】
本実施形態に係るレーダ装置1の構成について、図1を参照して説明する。図1は、本実施形態に係るレーダ装置1の全体構成を概略的に示す図である。
【0025】
図1に示すように、このレーダ装置1は、アンテナ10、送受信部20、信号処理部(信号処理装置)30及び表示装置40を備える。以下、レーダ装置1を構成する各構成要素について詳細に説明する。
<1.1 アンテナ10>
アンテナ10は、鋭い指向性を持ったパルス状電波であるレーダ送信信号のビームを送信するとともに、その周囲にある物標からの反射波を受信する。アンテナ10は、水平面内で回転しながら、上記の送信と受信を繰り返す。
【0026】
アンテナ10では、レーダ送信信号を、ある方向へ集中して発射することで、物標からの反射波である物標信号を含むレーダ受信信号を受信する。レーダ装置1から物標までの距離は、その物標信号を含むレーダ受信信号の受信時間と、当該レーダ受信信号に対応するレーダ送信信号の送信時間との時間差から求められる。また、物標の方位は、対応するレーダ送信信号を送信するときのアンテナ10の方位から求められる。
<1.2 送受信部20>
送受信部20は、レーダ送信信号を生成してアンテナ10へ送出する。また、送受信部20は、アンテナ10からレーダ受信信号を取り込み、レーダ受信信号を周波数変換する。この実施形態では、送受信部20は、信号生成器21、送信周波数変換器22、局部発振器23、送受切換器24、及び受信周波数変換器25を備える。
【0027】
信号生成器21は、同一の時間間隔で、又は異なる時間間隔で、中間周波数のレーダ送信信号を生成して送信周波数変換器22へ出力する。信号生成器21が生成するレーダ送信信号は、例えば、チャープ信号として知られている周波数変調信号である。或いは、信号生成器21が位相変調信号や無変調のパルスを生成する場合にも、レーダ装置1は同様の構成をとることが可能である。
【0028】
送信周波数変換器22は、信号生成器21の出力信号を局部発振器23から出力されるローカル信号と混合し、信号生成器21の出力信号を周波数変換して送受切換器24へ出力する。
【0029】
送受切換器24は、アンテナ10と接続可能に構成されている。送受切換器24は、アンテナ10と送受信部20との間の信号の切り換えを行う。すなわち、この送受切換器24では、送信時には、レーダ送信信号が受信回路(すなわち受信周波数変換器25)に回り込まないようにし、受信時には、レーダ受信信号が送信回路(すなわち送信周波数変換器22)に回り込まないようにする。送受切換器24としては、例えば、サーキュレータ(Circulator)等の電子部品が用いられる。
【0030】
受信周波数変換器25は、アンテナ10から出力されるレーダ受信信号を送受切換器24を介して取り込む。そして、受信周波数変換器25は、レーダ受信信号を局部発振器23から出力されるローカル信号と混合し、受信周波数変換器25の出力信号を中間周波数に変換し、後段の信号処理部30へ出力する。
【0031】
なお図1の送受信部20では、増幅器やフィルタの図示を省略している。
<1.3 信号処理部30>
信号処理部30は、送受信部20より入力されたレーダ受信信号(例えば、図3(a))をデジタル信号に変換して信号処理を行う。信号処理部30は、A/D(Analog to Digital)変換器31、レンジサイドローブ除去部36、検波器37、及び表示処理部38を備える。
【0032】
A/D変換器31は、送受信部20の受信周波数変換器25から出力されるアナログ値の中間周波数信号をデジタル信号に変換する。
【0033】
レンジサイドローブ除去部36は、後述するように、直交検波器32から出力された複素受信信号Zのパルス圧縮処理を行うと共に、直交検波器32から出力されたI、Q信号から後述するレンジサイドローブの擬似信号(以下、レンジサイドローブ擬似信号と呼ぶ。)を生成する。そして、レンジサイドローブ除去部36は、パルス圧縮されから信号から、レンジサイドローブ擬似信号に相当する成分を減算する。
【0034】
検波器37は、レンジサイドローブ除去部36から出力された信号(以下、レンジサイドローブ除去信号と呼ぶ。)を検波する。
【0035】
表示処理部38は、検波器37より入力された信号に基づいて表示用信号を生成し、表示装置40へ出力する。
<1.4 表示装置40の構成>
表示装置40は、図示しないCPU、メモリ及び入力装置等のデバイスを備える。この表示装置40では、各スイープで得られた振幅のデータS’を画像表示用のメモリに記憶するとともに、記憶したデータを所定の順序でこのメモリから読み出し、レーダ画像としてLCD(Liquid Crystal Display)等に表示する。
<1.5 レンジサイドローブ除去部36>
図1に示すように、レンジサイドローブ除去部36は、直交検波器32、パルス圧縮部33、擬似レンジサイドローブ生成部34、及び減算部(信号除去部)35を有する。以下、レンジサイドローブ除去部36の各構成部分について、詳細に説明する。
【0036】
図2は、レンジサイドローブ除去部36の詳細な構成を示す。
<1.5.1 直交検波器32>
直交検波器32は、A/D変換器31から出力されるデジタル値の中間周波数信号を直交検波する。具体的には、直交検波器32は、A/D変換器31の出力のレーダ受信信号から、これと同位相のI(In-Phase)信号及びこれとπ/2だけ位相の異なるQ(Quadrature)信号を生成する。ここで、I信号,Q信号(以下、適宜「I」,「Q」と略記する。)はそれぞれ、レーダ受信信号である複素受信信号Zの実数部,虚数部である。複素受信信号Zの振幅は、(I+Q1/2で表され、複素受信信号Zの位相は、tan−1(Q/I)で表される。
<1.5.2 パルス圧縮部33>
パルス圧縮部33は、直交検波器32から出力された複素受信信号Zのパルス圧縮処理を行い、パルス圧縮処理された信号(以下、パルス圧縮信号と呼ぶ。)を出力する。図2に示すように、パルス圧縮部33は、マッチドフィルタ(Matched Filter)331と、遅延器332と、対数変換器333とを有する。
【0037】
マッチドフィルタ331は、直交検波器32の出力信号I,Qを取り込み、取り込まれた複素受信信号Zを圧縮する。このパルス幅の圧縮によって、表示装置40において表示されるレーダ画像の解像度が高くなる。このパルス圧縮処理は、送信信号に基づく基準信号と受信信号の相関演算によって行われる。
【0038】
遅延器332は、マッチドフィルタ332の出力信号を入力し、後述する擬似レンジサイドローブ生成部34の出力信号とのタイミングを合わせる。
【0039】
対数変換器333は、遅延器332の出力信号を対数変換する。対数変換器333より出力された出力信号、つまりパルス圧縮信号は、例えば、図4に示すような出力信号となる。同図に示すように、出力信号にはレンジサイドローブが出現している。なお、図4及び後述する図5、6に示す出力信号は、帯域幅20MHz、パルス幅5us、減衰器による減衰量を0dBとした場合の受信信号に基づくものを示している。
<1.5.3 擬似レンジサイドローブ生成部34>
擬似レンジサイドローブ生成部34は、上記パルス圧縮信号のレンジサイドローブ擬似信号を生成する。ここで、レンジサイドローブ擬似信号とは、図4に示すパルス圧縮信号のうち、レンジサイドローブの信号成分に相当する信号を擬似的に生成したものである。図2に示すように、擬似レンジサイドローブ生成部34は、絶対値演算部341と、平均値演算部342と、関数演算部343と、遅延器344とを有する。
【0040】
絶対値演算部341は、次の式により、直交検波器の出力信号I、Qの絶対値x(t)を算出することにより、図3(b)に簡略的に示すような包絡線(正の部分)を求める。なお、理解しやすいように、図3(b)には受信信号(図3(a))の波形を点線で示しているが、本実施形態では当該受信信号はデジタル信号に変換された後、絶対値演算部341により絶対値を算出して包絡線を求める。
【0041】
x(t)=(I+Q1/2
平均値演算部342は、絶対値演算部341の出力信号から、次の数式1により、絶対値x(t)の移動平均値を求める。この移動平均値は、パルス長Tに所定の係数α(パルス長Tに対する移動平均の割合)を掛けて求めたTTに応じたものである。移動平均値を取得することにより、図3(c)に簡略的に示すような波形(実線)の信号が得られる。なお、係数αはハードウエアの設計上、或いはその他の条件を考慮して予め決められる。
【0042】
ここでは計算量を減らすために移動平均値を用いているが、さらにレンジサイドローブ波形に近づけるために加重平均値を用いてもよい。
【0043】
【数1】

【0044】
関数演算部343は、平均値演算部342の出力信号から、次の数式2及び数式3により、レンジサイドローブ擬似信号を生成する。数式2では、x(t)の移動平均値の信号レベルを調整した値PSL_estを得る。
【0045】
【数2】

【0046】
ここで、βは信号を減衰させる割合であり、ハードウエアの設計上、或いはその他の条件を考慮して予め決められる。βは次のような性質を有する。パルス圧縮前のエネルギー、つまりパルス圧縮前の受信波形の移動平均値(積分値)とパルス圧縮後のピーク値は一致する。パルス圧縮波形のピーク値とレンジサイドローブの比を60dBとすると、パルス圧縮前の受信波形の移動平均値に10^6を除算した値が擬似レンジサイドローブとなる。数式2のβは、おおよそレンジサイドローブ比を真数で表わした値となる。
【0047】
また、このβは、受信信号のBT積(時間帯域幅積)に応じた値としてもよい。
【0048】
数式3では、受信電力が低いときに値がマイナスにならないように、値PSL_estに1を加えて対数変換を行う。
【0049】
【数3】

【0050】
この結果、図3(d)に簡略的に示すような波形(実線)の信号が得られる。
【0051】
遅延器344は、関数演算部343の出力信号とパルス圧縮部33の出力信号とのタイミングを合わせる。この結果、図3(e)に簡略的に示すように、パルス圧縮部33の出力信号とタイミングを合わせた波形(実線)の信号が得られる。
【0052】
以上の処理の結果、図5に示すような波形に整形された信号が出力される。この信号は、図4に示すパルス圧縮信号のレンジサイドローブの擬似信号である。
<1.5.4 減算部35>
減算部35は、パルス圧縮部33の出力信号と擬似レンジサイドローブ生成部34の出力信号とを入力し、パルス圧縮部33の出力信号から擬似レンジサイドローブ生成部34の出力信号の成分を減ずる。
【0053】
この処理の結果、図6の黒線で示すように、レンジサイドローブが低減された信号(以下、レンジサイドローブ除去信号と呼ぶ。)が出力される。このレンジサイドローブ除去信号は、図6に示すパルス圧縮信号(グレー線)から、図5の擬似信号に相当する成分を減じたものである。同図に示すように、サイドローブのレベルが減少した信号が得られることが分かる。
<1.6 信号処理部30の動作>
次に、上記信号処理部30の動作について、図7のフローチャートを参照しながら説明する。
【0054】
S101:送受信部20からの受信信号は、信号処理部30のA/D変換器31によりデジタル信号に変換される。
【0055】
S102:A/D変換器31から出力されるデジタル信号は、直交検波器32により直交検波され、I,Q信号が生成される。
【0056】
S103:I,Q信号は、パルス圧縮部33のマッチドフィルタ331を用いて相関処理され、例えば図4に示すようなパルス圧縮信号が生成される。
【0057】
S104:一方、擬似レンジサイドローブ生成部34により、受信したI,Q信号に基づいて、例えば図5に示すようなレンジサイドローブ擬似信号が生成される。
【0058】
S105:減算部35により、パルス圧縮信号から、擬似レンジサイドローブ生成部34の出力信号である擬似信号の成分が減算される。この処理の結果、図6の黒線で示すような、レンジサイドローブ除去信号が得られる。
【0059】
S106:レンジサイドローブ除去部36から出力されたレンジサイドローブ除去信号は、検波器37により検波処理され、更に表示処理部38により表示用信号に生成され、表示装置40へ出力される。
【0060】
なお、上記信号処理部30による処理の流れは一例であり、各処理の順序やタイミング等は上記に限定されない。
<1.7 実施形態の効果>
<1.7.1>
上記の通り、本実施形態に係るレーダ装置1によれば、レンジサイドローブ除去部36により、レンジサイドローブ擬似信号に相当する成分をパルス圧縮信号から減ずることにより、レンジサイドローブを低減させた信号を得ることができる。これにより、レンジサイドローブの影響を排除でき、物標の探知性能を上げることができる。
【0061】
また、レンジサイドローブ擬似信号をパルス圧縮する前の受信信号に基づいて生成するため、従来に比してより簡単且つ確実にレンジサイドローブに相当する信号を生成することができる。
<1.7.2>
更に、上記実施形態においては、小さい受信電力による影響は出ない。図8は、入力電力を変化させたとき(0dB〜30dBまで6dBずつ減衰させたとき)の、上記実施形態により生成されるレンジサイドローブ擬似信号の波形を示す。入力電力レベルに応じて、擬似信号のレベルも変化する。従って、元々レンジサイドローブとして影響しないような小さいレベルの受信信号は、本実施形態のレンジサイドローブ除去処理により影響を受けない。
【0062】
図9及び10は、入力電力を変化させた(0dB〜30dBまで6dBずつ減衰させたとき)場合において,レンジサイドローブ除去処理しなかったとき(図9)と本実施形態により除去処理したとき(図10)のパルス圧縮波形(ピーク近傍)をそれぞれ示す。比較すると、図10において、受信電力が高い(つまり、減衰量が少ない)信号波形ではレンジサイドローブが低減されているのが分かる。一方受信電力が低い(つまり、減衰量が多い)信号波形では、除去されるレンジサイドローブのレベルも低いため、ピーク以外の信号レベルが小さい箇所においてレンジサイドローブ除去処理による影響は受けていないことが分かる。
【0063】
以上のように、本実施形態によれば、受信電力のレベルに影響されずにレンジサイドローブを低減することができる。
<2 その他実施形態>
<2.1>
上記実施形態では、レンジサイドローブ除去部36の擬似レンジサイドローブ生成部34は、平均値演算部342により移動平均値を求めた後関数演算部343により移動平均値を減衰させているが、本発明はこれに限定されない。擬似レンジサイドローブ生成部34は、平均値を演算する前に受信信号を減衰させてもよい。
<2.2>
上記第1実施形態では、レンジサイドローブ除去部36は直交検波器32を有し、直交検波器32から出力された出力信号I,Qの絶対値を算出することにより、包絡線を取得しているが、本発明はこれに限定されない。
【0064】
図11は、本実施形態に係るレンジサイドローブ除去部36´の構成を示す。レンジサイドローブ除去部36´は、直交検波器32、パルス圧縮部33、エンベロープ検波器39、A/D変換機310、擬似レンジサイドローブ生成部34´、及び減算部35を有する。なお、第1実施形態と同様の構成及び機能を有する部分については、同一の符号を付している。
【0065】
本実施形態に係るレンジサイドローブ除去部36´は、エンベロープ検波器39を設けた点において、第1実施形態と異なる。エンベロープ検波器39は、受信信号(アナログ信号)を入力し、受信信号のエンベロープを検波することにより包絡線を示す出力信号を取得する。エンベロープ検波器39の出力信号は、A/D変換機310によりデジタル信号に変換された後、擬似レンジサイドローブ生成部34´に入力される。エンベロープ検波器39により包絡線の信号を取得しているため、擬似レンジサイドローブ生成部34´は、絶対値演算部を必要としない。従って、擬似レンジサイドローブ生成部34´に入力された信号は、平均値演算部342に直接入力される。その後、上記第1実施形態と同様にしてレンジサイドローブ擬似信号が生成される。
【0066】
その他の構成及び機能は上記第1実施形態と同様である。
<2.3>
上記実施形態では、アンテナ10、送受信部20、信号処理部30、及び表示装置40を備えるレーダ装置1について示しているが、本発明は、例えば信号処理部30のみを備える形態(例えば、集積回路、半導体、モジュール、チップ)、または、送受信部20及び信号処理部30のみを備える形態(例えば、集積回路、半導体、チップ、モジュール)として適用することも可能である。
<2.4>
上記実施形態においては、本発明は装置や集積回路として説明したが、レンジサイドローブ除去方法やコンピュータプログラムとしても実現し得るものである。この場合、プロセッサがROM等のメモリに記憶された所定のプログラムを実行することによって上記レンジサイドローブの除去処理を実行する。
【符号の説明】
【0067】
1 レーダ装置
10 アンテナ
20 送受信部
21 信号生成器
22 送信周波数変換器
23 局部発振器
24 送信切換器
25 受信周波数変換器
30 信号処理部
31 A/D変換器
32 直交検波器
33 パルス圧縮部
331 マッチドフィルタ
332 遅延器
333 対数変換器
34 擬似レンジサイドローブ生成部
341 絶対値演算部
342 平均値演算部
343 関数演算部
344 遅延器
35 減算部
36 レンジサイドローブ除去部
37 検波器
40 表示装置


【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーダーアンテナからの受信信号を取得し、パルス圧縮処理を行ってパルス圧縮信号を生成するパルス圧縮部と、
前記受信信号から、前記パルス圧縮信号のレンジサイドローブの擬似信号を生成する擬似レンジサイドローブ生成部と、
前記パルス圧縮信号から前記擬似信号に相当する成分を除去する信号除去部と、
を備える、レンジサイドローブ除去装置。
【請求項2】
前記擬似レンジサイドローブ生成部は、前記受信信号を、前記レンジサイドローブに近似した波形に整形することにより、前記擬似信号を生成する、
請求項1に記載のレンジサイドローブ除去装置。
【請求項3】
前記擬似レンジサイドローブ生成部は、
前記受信信号の包絡線の移動平均値を演算する平均値演算部を備え、
前記移動平均値に基づき前記擬似信号を生成する、
請求項1又は2に記載のレンジサイドローブ除去装置。
【請求項4】
前記擬似レンジサイドローブ生成部は、
前記受信信号の包絡線の加重平均値を演算する平均値演算部を備え、
前記加重平均値に基づき前記擬似信号を生成する、
請求項1又は2に記載のレンジサイドローブ除去装置。
【請求項5】
前記受信信号を直交検波する直交検波器を更に備え、
前記擬似レンジサイドローブ生成部は、前記直交検波器が直交検波した前記受信信号の絶対値を算出することにより、前記受信信号の包絡線を取得する絶対値演算部を更に有する、
請求項3又は4に記載のレンジサイドローブ除去装置。
【請求項6】
前記受信信号をエンベロープ検波することにより前記受信信号の包絡線を取得するエンベロープ検波器、を更に備える、
請求項3又は4に記載のレンジサイドローブ除去装置。
【請求項7】
前記擬似レンジサイドローブ生成部は、前記受信信号の信号レベルに応じて、前記受信信号の包絡線の移動平均値又は加重平均値を減衰させることにより、前記擬似信号を生成する、
請求項3又は4に記載のレンジサイドローブ除去装置。
【請求項8】
前記疑似レンジサイドローブ生成部は、前記受信信号のBT積に応じて、前記受信信号の包絡線の移動平均値又は加重平均値を減衰させることにより、前記疑似信号を生成する、
請求項3又は4に記載のレンジサイドローブ除去装置。
【請求項9】
前記擬似レンジサイドローブ生成部は、減衰された前記受信信号の包絡線の移動平均値又は加重平均値を対数変換する、
請求項7又は8に記載のレンジサイドローブ除去装置。
【請求項10】
前記擬似レンジサイドローブ生成部は更に、減衰された前記受信信号の包絡線の移動平均値又は加重平均値に1を加算して対数変換する、
請求項9に記載のレンジサイドローブ除去装置。
【請求項11】
前記パルス圧縮部は、マッチドフィルタを有する、
請求項1に記載のレンジサイドローブ除去装置。
【請求項12】
請求項1から11のいずれかに記載のレンジサイドローブ除去装置と、
レーダーアンテナからの前記受信信号をデジタル信号に変換するA/D変換器と、
前記レンジサイドローブ除去装置の出力信号を検波する検波器と、
を備える、信号処理装置。
【請求項13】
請求項12に記載の信号処理装置と、
レーダーアンテナと、
前記レーダーアンテナからの信号を受信し、前記レーダーアンテナを介して信号を送信する送受信部と、
前記信号処理装置からの信号に基づきレーダ画像を表示する表示装置と、
を備える、レーダ装置。
【請求項14】
レーダーアンテナからの受信信号を取得し、パルス圧縮処理を行ってパルス圧縮信号を生成するステップと、
前記受信信号の包絡線の移動平均値又は加重平均値を演算し、前記移動平均値又は加重平均値に基づき前記パルス圧縮信号のレンジサイドローブの擬似信号を生成するステップと、
前記パルス圧縮信号から前記擬似信号に相当する成分を除去するステップと、
を備える、レンジサイドローブ除去方法。
【請求項15】
レーダーアンテナからの受信信号を取得し、パルス圧縮処理を行ってパルス圧縮信号を生成するステップと、
前記受信信号の包絡線の移動平均値又は加重平均値を演算し、前記移動平均値又は加重平均値に基づき前記パルス圧縮信号のレンジサイドローブの擬似信号を生成するステップと、
前記パルス圧縮信号から前記擬似信号に相当する成分を除去するステップと、
をコンピュータに実行させるためのプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−220449(P2012−220449A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−89415(P2011−89415)
【出願日】平成23年4月13日(2011.4.13)
【出願人】(000166247)古野電気株式会社 (441)
【Fターム(参考)】