説明

レンズの染色方法およびレンズ染色装置

【課題】染色液の蒸発などによる液面高さの変化に対応して、常に正確な所定の一定位置のレンズ表面領域にハーフ染色を施すことができるレンズの染色方法、およびレンズ染色装置を提供する。
【解決手段】レンズ染色装置100を用いて、レンズ保持具6に保持されて染色液S中に吊り下げられたレンズLと、染色液の液面に浮遊することができるフロート37(フロート体371)およびフロートの位置(フロート軸372)を検出する検出器36を備えた検出器ユニット33とが、共に染色液の液面に対する鉛直方向に下降移動して、検出器が、染色液の液面に浮遊したフロート体の底面位置が染色するレンズLの染色上限位置DMに達したことを検出したとき、下降移動を停止し、レンズLを染色液S中から引上げてレンズ表面に濃度勾配を付与するハーフ染色を施す。検出器は、組み込みケース内に発光素子と受光素子とが対向して配置されたフォトインタラプタである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レンズの染色方法およびレンズ染色装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、プラスチックレンズは、ガラスレンズに比べて軽量であり、成形性、加工性、染色性などに優れ、しかも割れにくく安全性も高いため、眼鏡レンズ分野において急速に普及し、その大部分を占めている。
プラスチック眼鏡レンズは、その優れた染色性から色彩変化に富むファッション性豊かなレンズを得ることができる。特に、レンズ表面に連続的な濃度変化を付与したハーフ染色レンズ(ぼかしレンズまたはグラデーションレンズとも呼ばれている)は、高いファッション性を有する。また、プラスチック眼鏡レンズを染色する方法としては、レンズ表面に染料被膜を形成した後、加熱処理して染料をレンズ内に拡散させて染色する技術や、レンズを染料液に浸漬して染色する技術が知られている。
【0003】
例えば、染色液中にプラスチックレンズの表面に濃度勾配を付与する部分まで浸漬し、染色液中から引上げる一往復の上下移動をすることにより、プラスチックレンズに濃度勾配を有する染色を行うハーフ染色方法および染色装置が提案されている(特許文献1、参照)。
また、プラスチックレンズをハーフ染色する際に、染色液などの液位を一定に保つことを目的に、一つまたは複数の作業用容器と、液位を検出するための液位検出容器を接続手段により接続し、液位検出容器内の液位変化を検出手段で検知することで作業用容器内の液位を管理する液位検出方法および液位検出装置が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
【特許文献1】特開2006−145929号公報
【特許文献2】特開2001−41800号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、染色液は蒸発し易く、しかも湯煎などにより90℃程度の温度に加熱して用いられる。したがって、特許文献1に記載されるような染色装置を用いてプラスチックレンズをハーフ染色する際には、色相ズレや染色位置ズレなどを防ぐために染色液の蒸発による液面高さの変化(低下)を考慮する必要がある。また、染色液の液面高さは、染色するプラスチックレンズのレンズ外径、球面度数および乱視度数などによってレンズ体積(外径及び/又は厚さ)が変化すると言う課題も存在する。
一方、特許文献2に示されるような液位検出装置を備えた染色装置は、同一色の染色を大量に行う際には有効であるが、異なる色の染色を少量生産する場合には、製造コストが嵩むという課題を有する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
【0007】
[適用例1]
本適用例に係るレンズの染色方法は、プラスチックレンズを染色液中に吊り下げてハーフ染色するレンズの染色方法であって、前記プラスチックレンズと、前記染色液の液面に浮遊することができるフロートおよび該フロートの位置を検出する検出器を備えた液面検出手段とが、前記染色液の液面に対する鉛直方向に下降移動して、前記検出器が、前記染色液の液面に浮遊する前記フロートの底面位置が前記プラスチックレンズの染色上限位置に達したことを検出したとき、下降移動を停止し、前記プラスチックレンズを前記染色液中から引上げてレンズ表面にハーフ染色を施すことを特徴とする。
【0008】
これによれば、染色液中に吊り下げてハーフ染色するプラスチックレンズと、染色液の液面に浮遊することができるフロートおよびフロートの位置を検出する検出器を備えた液面検出手段とが、染色液の液面に対する鉛直方向に下降移動して、検出器が、染色液の液面に浮遊するフロートの底面位置がプラスチックレンズの染色上限位置に達したことを検出したとき、下降移動を停止し、プラスチックレンズを染色液中から引上げることにより、染色液の蒸発などによる液面高さの変化があっても常に所定の一定位置(染色上限位置)のレンズ表面領域にハーフ染色を施すことができる。また、レンズ外径、球面度数および乱視度数などによってレンズ体積(外径及び/又は厚さ)の異なるプラスチックレンズであっても、染色液の液面高さの変化に対応した所定の一定位置(染色上限位置)のレンズ表面領域にハーフ染色を施すことができる。すなわち、常にハーフ染色領域のバラツキを抑えたプラスチックレンズが得られる。
【0009】
[適用例2]
本適用例に係るレンズの染色方法は、プラスチックレンズを染色液中に吊り下げてハーフ染色するレンズの染色方法であって、前記プラスチックレンズと、前記染色液の液面に浮遊することができるフロートおよび該フロートの位置を検出する検出器を備えた液面検出手段とが、前記染色液の液面に対する鉛直方向に下降移動して、前記検出器が、前記染色液の液面に浮遊する前記フロートの底面位置が前記プラスチックレンズの染色上限位置に達したことを検出したとき、下降移動を停止し、前記プラスチックレンズを前記染色液中から引上げてレンズ表面に濃度勾配を付与するハーフ染色を施すことを特徴とする。
【0010】
これによれば、染色液中に吊り下げてハーフ染色するプラスチックレンズと、染色液の液面に浮遊することができるフロートおよびフロートの位置を検出する検出器を備えた液面検出手段とが、染色液の液面に対する鉛直方向に下降移動して、検出器が、染色液の液面に浮遊するフロートの底面位置がプラスチックレンズの染色上限位置に達したことを検出したとき、下降移動を停止し、プラスチックレンズを染色液中から引上げることにより、染色液の蒸発などによる液面高さの変化があっても常に所定の一定位置(染色上限位置)のレンズ表面領域に濃度勾配を付与するハーフ染色を施すことができる。また、レンズ外径、球面度数および乱視度数などによってレンズ体積(外径及び/又は厚さ)の異なるプラスチックレンズであっても、染色液の液面高さの変化に対応した所定の一定位置(染色上限位置)のレンズ表面領域に濃度勾配を付与するハーフ染色を施すことができる。すなわち、常にハーフ染色領域のバラツキを抑えたプラスチックレンズが得られる。
【0011】
[適用例3]
本適用例に係るレンズ染色装置は、プラスチックレンズを染色液中に吊り下げてレンズ表面にハーフ染色を行うレンズ染色装置であって、前記レンズ染色装置は、上下移動して前記プラスチックレンズを前記染色液中に浸漬する上下移動装置と、前記上下移動装置上に取付けられて前記プラスチックレンズと上下移動する前記染色液の液面位置を検出する液面検出手段と、を備え、前記液面検出手段は、前記染色液の液面に浮遊することができるフロートと、前記フロートの位置検出を行う検出器を有し、前記上下移動装置が下降移動して、前記染色液の液面に浮遊した前記フロートの底面位置が染色する前記プラスチックレンズの染色上限位置に達したとき、前記検出器が前記染色上限位置に達したことを検出して前記上下移動装置の下降移動が停止し、前記上下移動装置が停止した位置より前記プラスチックレンズを前記染色液中から引上げて、前記プラスチックレンズのレンズ表面にハーフ染色を施すことを特徴とする。
【0012】
これによれば、プラスチックレンズを染色液中に吊り下げてレンズ表面にハーフ染色を行うレンズ染色装置が、上下移動してプラスチックレンズを染色液中に浸漬する上下移動装置と、上下移動装置上に取付けられたプラスチックレンズと上下移動する染色液の液面位置を検出する液面検出手段とを備え、液面検出手段は、染色液の液面に浮遊することができるフロートと、フロートの位置検出を行う検出器を有し、上下移動装置が下降移動して、染色液の液面に浮遊したフロートの底面位置が染色するプラスチックレンズの染色上限位置に達したとき、検出器が染色上限位置に達したことを検出して上下移動装置の下降移動が停止し、上下移動装置が停止した位置よりプラスチックレンズを染色液中から引上げて、プラスチックレンズのレンズ表面にハーフ染色を施すことにより、染色液の蒸発などによる液面高さの変化があっても常に所定の一定位置(染色上限位置)のレンズ表面領域にハーフ染色を施すことが可能なレンズ染色装置が得られる。
【0013】
また、レンズ外径、球面度数および乱視度数などによってレンズ体積(外径及び/又は厚さ)の異なるプラスチックレンズであっても、染色液の液面高さの変化に対応した正確な所定の一定位置(染色上限位置)のレンズ表面領域にハーフ染色を施すことができる。すなわち、ハーフ染色領域のバラツキを抑えたレンズ染色装置が得られる。さらに、レンズ染色装置は、従来より用いられている染色装置に液面検出手段を付加するだけで良く、特に、異なる色のハーフ染色を少量生産する場合などにおいて、製造コストの低減や作業効率の向上に寄与することができる。
【0014】
[適用例4]
本適用例に係るレンズ染色装置は、プラスチックレンズを染色液中に吊り下げてレンズ表面に濃度勾配を付与するハーフ染色を行うレンズ染色装置であって、前記レンズ染色装置は、上下移動して前記プラスチックレンズを前記染色液中に浸漬する上下移動装置と、前記上下移動装置上に取付けられて前記プラスチックレンズと上下移動する前記染色液の液面位置を検出する液面検出手段と、を備え、前記液面検出手段は、前記染色液の液面に浮遊することができるフロートと、前記フロートの位置検出を行う検出器を有し、前記上下移動装置が下降移動して、前記染色液の液面に浮遊した前記フロートの底面位置が染色する前記プラスチックレンズの染色上限位置に達したとき、前記検出器が前記染色上限位置に達したことを検出して前記上下移動装置の下降移動が停止し、前記上下移動装置が停止した位置より前記プラスチックレンズを前記染色液中から引上げて、前記プラスチックレンズのレンズ表面に濃度勾配を付与するハーフ染色を施すことを特徴とする。
【0015】
これによれば、プラスチックレンズを染色液中に吊り下げてレンズ表面に濃度勾配を付与するハーフ染色を行うレンズ染色装置が、上下移動してプラスチックレンズを染色液中に浸漬する上下移動装置と、上下移動装置上に取付けられたプラスチックレンズと共に上下移動する染色液の液面位置を検出する液面検出手段とを備え、液面検出手段は、染色液の液面に浮遊することができるフロートと、フロートの位置検出を行う検出器を有し、上下移動装置が下降移動して、染色液の液面に浮遊したフロートの底面位置が染色するプラスチックレンズの染色上限位置に達したとき、検出器が染色上限位置に達したことを検出して上下移動装置の下降移動が停止し、上下移動装置が停止した位置よりプラスチックレンズを染色液中から引上げて、プラスチックレンズのレンズ表面に濃度勾配を付与するハーフ染色を施すことにより、染色液の蒸発などによる液面高さの変化があっても常に所定の一定位置(染色上限位置)のレンズ表面領域に濃度勾配を付与するハーフ染色を施すことが可能なレンズ染色装置が得られる。
【0016】
また、レンズ外径、球面度数および乱視度数などによってレンズ体積(外径及び/又は厚さ)の異なるプラスチックレンズであっても、染色液の液面高さの変化に対応した正確な所定の一定位置(染色上限位置)のレンズ表面領域に濃度勾配を付与するハーフ染色を施すことができる。すなわち、ハーフ染色領域のバラツキを抑えたレンズ染色装置が得られる。さらに、レンズ染色装置は、従来より用いられている染色装置に液面検出手段を付加するだけで良く、特に、レンズ表面領域に異なる色の濃度勾配を付与するハーフ染色を少量生産する場合などにおいて、製造コストの低減や作業効率の向上に寄与することができる。
【0017】
[適用例5]
上記適用例に係るレンズ染色装置において、前記検出器が、発光素子と受光素子を備えたセンサー、または接触式センサーであるのが好ましい。
これによれば、プラスチックレンズと共に上下移動する液面検出手段の検出器が、発光素子と受光素子を備えたセンサー、または接触式センサー、例えばマイクロスイッチであることにより、染色液の液面に浮遊するフロートの底面位置が染色するプラスチックレンズの染色上限位置に達したことを、瞬時に、且つ確実に検出することができる。
【0018】
[適用例6]
上記適用例に係るレンズ染色装置において、前記液面検出手段は、前記上下移動装置上に移動可能に取付けられているのが好ましい。
これによれば、プラスチックレンズと共に上下移動する液面検出手段が、上下移動装置上に移動(位置調節)可能に取付けられていることにより、レンズ外形寸法や染色上限位置の異なるプラスチックレンズに容易に対応することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本実施形態を図面に基づいて説明する。
先ず、プラスチックレンズをハーフ染色するレンズ染色装置の構成を説明する。
図1(a)は、本実施形態に係るレンズ染色装置の概略構成を示す模式図であり、レンズ保持具に保持されたプラスチックレンズがレンズ染色装置にセットされた態様で示す。図1(b)は、レンズ染色装置にセットされたレンズ保持具を、図1(a)中に矢印aで示す方向から矢視した部分側面図である。
【0020】
図1(a)において、レンズ染色装置100は、染色槽1と、上下移動装置2と、液面検出部3と、制御部4と、入力部5とを備えている。
このレンズ染色装置(以後、染色装置と表す場合がある)100は、染色槽1内に貯留された染色液S中にプラスチックレンズLを浸漬する時間を変化させると共に、その浸漬位置を変化させることにより、プラスチックレンズLの表面に連続的な染色濃度勾配を付与することができる。
【0021】
染色槽1は、プラスチックレンズLをハーフ染色する染色液Sを貯留する槽であり、予め染色槽1内に染色液Sが貯留されている。染色槽1の形状は、限定されないが、用いる染色液Sの貯留効率などを考慮すると、開口形状が円形の円筒形が好ましい。なお、以後において、プラスチックレンズLをレンズL、ハーフ染色を染色と表す場合がある。
【0022】
染色液Sは、純水などの溶媒中に、分散染料、分散染料のレンズL内部への含浸を促進させるキャリア剤、分散染料に対する分散剤としての界面活性剤などを添加して攪拌した分散・溶解液である。染色液Sは、染料濃度を染色するレンズLの染色程度に対応して0.1重量%〜5重量%程度に適宜調整し、70℃〜100℃の液温で用いられる。
【0023】
上下移動装置2は、筐体21上に、モーター22、タイミングプーリ23,24、タイミングベルト25、スライドガイド26、スライドガイドレール27などが配設されている。また、スライドガイド26には、取付け具28、支持具29およびフック30が取付けられている。
【0024】
モーター22は、例えばサーボモーターであり、筐体21の上端部に回動可能に固定されている。このモーター22は、後述する制御部4から出力される回転制御信号により回動(正逆回転)する。
タイミングプーリ23は、モーター22の回転軸上に固着されている。一方、タイミングプーリ24は、タイミングプーリ23の鉛直方向の下方に所定距離はなれた位置の筐体21上に、回転可能に軸着されている。
【0025】
タイミングプーリ23とタイミングプーリ24との間には、タイミングベルト25がベルト掛けされている。
また、タイミングベルト25には、ベルト上にスライドガイド26が固着されている。このタイミングベルト25は、モーター22が回動することによってタイミングプーリ23,24上を鉛直方向に往復動(上下移動)する。
【0026】
スライドガイドレール27は、タイミングベルト25(タイミングプーリ23およびタイミングプーリ24)と、略平行に並置して固定されている。
このスライドガイドレール27上には、タイミングベルト25に固着されたスライドガイド26が載置されている。スライドガイド26は、モーター22の回動によるタイミングベルト25の上下移動に同期して、スライドガイドレール27上を鉛直方向に往復スライド(上下移動)する。なお、モーター22の回転は、例えば正回転(紙面における右回転)することによってスライドガイド26が上昇し、逆回転(紙面における左回転)することによってスライドガイド26が下降する。
【0027】
また、スライドガイドレール27の両端部には、スライドガイド26の移動範囲を規制するストッパーST1,ST2を備えている。このストッパーST1,ST2は、タイミングプーリ23とタイミングプーリ24の回転軸間の内側の所定の位置にそれぞれ取り付けられて、スライドガイド26の上下移動の範囲を制限することにより、モーター22の暴走、および後述するレンズ保持具6(レンズL)の落下を防止する。
【0028】
取付け具28は、スライドガイド26の本体から、スライドガイドレール27(タイミングベルト25)に対して略直角方向に延伸するアームの先端に取り付けられている。
取付け具28には、スライドガイドレール27(すなわち、タイミングベルト25)と略平行に鉛直方向の下方に延伸する棒状の支持具29が取付けられている。
支持具29の下端部には、染色するレンズLを保持するレンズ保持具6をセットするためのフック30が、支持具29に沿って固着されている。
【0029】
図1(b)および図1(a)に示すように、このフック30には、支持具29に略直交する方向に延伸する丸棒より成る保持具固定軸7に取付け固定された2つのレンズ保持具6が、保持具固定軸7を介して吊り下げられている。なお、レンズ保持具6が取付け固定された保持具固定軸7は、フック30上に支持具29に対して略直交する水平姿勢で、しかも取外し可能に吊り下げられている。
【0030】
フック30に吊り下げられた2つのレンズ保持具6には、染色するレンズLがそれぞれ保持されている。
レンズLは、テープモールド法などを用いて、重合性組成物を硬化して製造された透明プラスチック樹脂より成るプラスチック眼鏡レンズである。また、レンズLは、眼鏡フレームの内周縁の形状に合わせる玉型加工(縁摺り加工)などが施される以前のレンズであり、外径が65mm〜80mm程度の円形形状を成しており、レンズLの一方または両方のレンズ面に、所定の球面、トーリック面、回転対称非球面、非回転対称非球面、トーリック面と非球面とを合成した曲面、累進面または累進面とトーリック面とを合成した曲面などの形状が形成されている。
【0031】
なお、染色されるレンズLは、重合性組成物を硬化した透明プラスチック樹脂であれば限定されない。例えば、ジエチレングリコールビスアリルカーボネート樹脂(CR−39)、ポリウレタン系樹脂、チオウレタン系樹脂、エピスルフィド系樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂などを挙げることができる。
【0032】
2つのレンズ保持具6に保持されたレンズLは、眼鏡の左右レンズとして用いられる一対(2つ)のレンズであり、ハーフ染色の際に同時に染色される。また、2つのレンズ保持具6に保持されたレンズLは、染色上限位置DM(レンズL中に一点鎖線で示す)まで染色液S中に浸漬した後、染色上限位置DMから下方の外縁方向に向うレンズ表面領域に染色が施される。
【0033】
レンズLを保持した2つのレンズ保持具6は、レンズLを取り外し可能に構成された同一構造の保持具である。
2つのレンズ保持具6は、鉛直方向の下方に延伸する支持具29に沿う方向に、互いに略平行になるように、且つレンズ保持具6に保持されたレンズLの取付け・取り外し方向が、それぞれ保持具固定軸7の両端側と成るようにして保持具固定軸7に相対して取付け固定されている。したがって、フック30上に吊り下げられた2つのレンズ保持具6(レンズL)は、保持具固定軸7の軸方向視、略重なるように保持具固定軸7に取付け固定されている。
【0034】
なお、レンズ保持具6は、薄板状のバネ部材が曲線状および直線状に屈曲・屈折されて略半円弧状に互いに対向して延伸した一対のアーム61と、一対のアーム61を溶接固定して鉛直方向に吊り下げた態様に保持具固定軸7に固着したアーム固定板62とから成る。レンズ保持具6は、一対のアーム61のバネ性によりアーム61間にレンズLが保持固定されている。したがって、レンズ保持具6は、50mm〜90mm程度のレンズ外径寸法の異なるレンズLを保持固定することができる。
【0035】
液面検出部3は、検出器ユニット取付け具31、検出器ユニット支持具32、液面検出手段としての検出器ユニット33、検出器駆動/検出回路34、リード線35を備えている。
【0036】
検出器ユニット取付け具31は、染色するレンズLを保持するレンズ保持具6を鉛直方向に上下移動する上下移動装置2の支持具29から、略直角方向に延伸するアームの先端に取り付けられている。
検出器ユニット取付け具31には、支持具29と略平行に鉛直方向の下方に延伸する棒状の検出器ユニット支持具32が取付けられている。また、検出器ユニット支持具32上には、検出器ユニット33が取付けられている。
【0037】
すなわち、検出器ユニット支持具32および検出器ユニット支持具32上に取付けられた検出器ユニット33は、支持具29および支持具29の下端部に固着されたフック30に吊り下げてセットされるレンズ保持具6(レンズL)と共に、染色槽1に貯留された染色液Sの液面に対する鉛直方向に上下移動する。
【0038】
液面検出手段としての検出器ユニット33は、検出器36と、フロート37と、検出器支持枠38と、支持枠固定ネジ39とを含み構成されている。
検出器36は、フォトセンサーであり、例えば、フォトインタラプタより成る。したがって、以後において検出器36をフォトインタラプタ36と表す場合がある。
【0039】
フォトインタラプタ(検出器)36は、組み込みケース内に、赤外発光ダイオードの発光素子とフォトトランジスタの受光素子とが対向して配置されており(いずれも図示せず)、発光素子から受光素子に向かって発せられる赤外光を遮ることにより、物体の有無検出(物体検出)を行うフロート37の位置検出を行う、透過型フォトインタラプタである。なお、発光素子の発光幅(組み込みケースに形成されたスリット幅)は0.25mm程度である。
【0040】
フロート37は、フロート体371と、フロート軸372と、フロートストッパー373とを有する。
フロート体371は、例えば、発泡倍率が40倍の発泡スチロール(比重:略0.03)より成り、例えば円筒形を成している。このフロート体371の円筒形の略中心軸上に、直径が2mm程度のステンレス製の棒材より成るフロート軸372が、垂直に取付け固定されている。
【0041】
フロート37は、染色するレンズLが染色槽1に貯留された染色液Sに向かって下降して染色液S中に浸漬される際、レンズLと共に下降して、到達した染色液Sの液面にフロート体371が浮遊しながらレンズLの下降に従って上昇し、フロート軸372が検出器36の発光素子から受光素子に向かって発せられる赤外光を遮るスイッチ機能を有する。
【0042】
フロート体371の材質、形状、大きさ、およびフロート軸372の材質、軸断面形状、軸径などは、フロート37を染色液Sに浮かべた際の浮力(フロート体371およびフロート軸372の比重、染色液Sの比重、フロート体371の底面積などに基づいて決定される)を考慮して適宜設定することができるが、染色槽1の大きさやフロート37の移動の俊敏さなどを考慮すると、比重ができる限り小さい材質を用いるのが望ましい。
なお、発泡スチロールより成るフロート体371と、細いステンレス棒より成るフロート軸372とから構成された本実施形態におけるフロート37は、染色液S中に沈むことなく液面に浮遊することができる。
【0043】
こうした検出器36およびフロート37は、検出器支持枠38に取付けられている。
検出器支持枠38は、検出器36を取付け固定する検出器固定部381と、フロート37の上下移動の案内および下降移動の位置規制を行うフロート案内部382とを有し、検出器ユニット支持具32上を移動可能に構成されている。
【0044】
検出器固定部381とフロート案内部382は共に、検出器支持枠38の本体部から検出器ユニット支持具32の略直角方向に延伸する棚状に形成された突起であり、検出器固定部381とフロート案内部382とが所定間隔離れて略平行に形成されている。
検出器固定部381には、発光素子の赤外発光が検出器ユニット支持具32の略直角方向に向かって発光するように検出器36が載置して取付けられている。また、検出器固定部381には、発光素子より発光される赤外光の光軸上の発光素子と受光素子とが対向して配置された間に、少なくともフロート37のフロート軸372が通過可能な大きさの切欠き381aが形成されている。なお、切欠き381aに代えて貫通孔を形成しても良い。
【0045】
一方、フロート案内部382は、フロート37のフロート軸372が遊嵌して案内される貫通孔382aを有する。
貫通孔382aの中心軸は、検出器ユニット支持具32に沿う略鉛直方向に向かって延伸した先が、検出器固定部381に取付けられた検出器36の発光素子より発光される赤外光の光軸上となる位置に形成されている。
【0046】
この貫通孔382a内に、フロート37のフロート軸372が挿入されて、挿入されたフロート軸372の検出器固定部381側の軸上に、貫通孔382aよりも大きな外径寸法を有し、フロート37の下降移動を規制するフロートストッパー373が固着されている。
【0047】
検出器支持枠38上に取付けられたフロート37は、フロート軸372がフロート案内部382の貫通孔382aに案内されて、通常時、フロート37の自重により鉛直方向に下降移動して、フロートストッパー373によってフロート案内部382に位置規制されている。すなわちフロート37は、検出器ユニット33(フロート案内部382)に吊り下げられている。一方、フロート37を鉛直方向に上昇移動した場合には、フロート軸372の先端が、検出器固定部381に形成された切欠き381aを通過した後、検出器36の発光素子から発光される赤外光の光軸上を通過することによって、受光素子に向かう赤外発光を遮って、フロート検出を行うことができる。
【0048】
検出器ユニット支持具32上に取付けられた検出器ユニット33は、検出器ユニット支持具32上の所望の位置に移動した後、支持枠固定ネジ39で固定することによって鉛直方向における位置調節を行うことができる。
【0049】
検出器駆動/検出回路34は、検出器36の発光素子(フォトダイオード)をパルス駆動するための定電圧回路および発振回路、受光素子(フォトトランジスタ)に流れるコレクタ電流の遮断状態を検出する電流検出回路などを具備している(いずれも図示せず)。
検出器駆動/検出回路34は、導線をフッ素樹脂で被覆したプラスチック被覆線などより成るリード線35によって、発光素子(カソード端子とアノード端子)および受光素子(コレクタ端子とエミッタ端子)に接続されている。また、検出器駆動/検出回路34は、電流検出回路に流れるコレクタ電流の遮断状態を検出したとき、電流検出出力のOFF信号を後述する制御部4に出力する。
【0050】
このように構成された液面検出部3は、フック30上に吊り下げられた2つのレンズ保持具6に保持されたレンズLを、染色槽1内に貯留された染色液S中に浸漬してハーフ染色を行う際、フロート37のフロート体371の鉛直方向における底面位置がレンズLの染色上限位置DMに達したことを検出する機能を有する。すなわち液面検出部3は、ハーフ染色するレンズLの染色上限位置DMとなる染色液Sの液面位置を検出することができる。
【0051】
制御部4は、上下移動装置2に配設されたモーター22を駆動するパルス数や移動速度などの演算および制御指示を行うCPU(Central Processing Unit)、レンズLを染色する染色濃度勾配データ(染色液Sに浸漬する時間に対する染色する濃度の関係を計量把握したデータ)や各種制御プログラムを格納するROM、染色するレンズLの染色情報などを一時的に格納するRAMなどで構成され、モーター22、入力部5および液面検出部3(検出器駆動/検出回路34)と電気的に接続している。
【0052】
入力部5は、いずれも図示しないデジタルスイッチ、表示器などを備え、デジタルスイッチを操作して、染色するレンズLの染色情報(レンズLの外径、染色上限位置DMなど)の入力、上下移動装置2のスタート操作などを行う。
【0053】
このように構成された染色装置100は、染色液Sを貯留した染色槽1が、上下移動装置2の支持具29および検出器ユニット33が取付けられた検出器ユニット支持具32が延伸する鉛直方向の下方、すなわちフック30にセットして吊り下げられた2つのレンズ保持具6および検出器支持枠38に取付けられたフロート37の鉛直方向の下方に位置するように配設されている。
【0054】
また、2つのレンズ保持具6(レンズL)およびフロート37は、上下移動装置2が鉛直方向に上下移動することによって、染色液Sの液面から離間した位置(スタート位置)と染色槽1内に貯留された染色液Sの所定の液面位置との間を上下移動(下降および上昇)する。
【0055】
なお、染色装置100には、これらの構成要素の他に、染色槽1内に収容された染色液Sを、所定の温度に加熱・保温するための温度調節装置や、染色液Sを攪拌する攪拌装置などを備えることができる。
【0056】
次に、レンズ染色装置100の動作を説明する。
染色装置100は、一対のレンズ保持具6に保持されたレンズLを、上下移動装置2のモーター22を回動(逆回転)して、染色するレンズLの染色上限位置DMが染色槽1内に貯留された染色液Sの略液面と一致する位置まで下降した後、モーター22の回動(正回転)を微細に制御して上昇することにより、レンズL表面の染色上限位置DMから下方の外縁方向領域に連続的な染色濃度勾配を付与するハーフ染色を行う。
【0057】
ハーフ染色に先立って、入力部5のデジタルスイッチを操作して、染色するレンズLの染色情報(レンズLの外径、染色上限位置DMなど)を入力と共に、検出器ユニット33の位置調節を行う。
検出器ユニット33の位置調節は、フロート37を鉛直方向の上方に持ち上げて移動して、フロート軸372の先端が検出器36の発光素子から発光される赤外光の光軸上に達してフロート検出が行われる時点におけるフロート体371の底面位置が、ハーフ染色するレンズLの染色上限位置DMとなる位置(後述する図3(a)における態様を参照)に移動した後、検出器ユニット支持具32上に支持枠固定ネジ39で固定する。
【0058】
そして、上下移動装置2の支持具29の下端部に固着されたフック30に、ハーフ染色するレンズLが保持された一対のレンズ保持具6が取付け固定された保持具固定軸7を掛着する。保持具固定軸7を介してフック30に掛着された2つのレンズ保持具6は、鉛直方向に吊り下げられる。
そして、入力部5の上下移動装置2のスタートスイッチをON操作すると、制御部4からの制御信号に基づいてモーター22が回動(逆回転)して、レンズ保持具6に保持されたレンズLの染色上限位置DMが、染色槽1に貯留された染色液Sの液面となる位置まで下降して停止する。すなわち、レンズ保持具6に保持されたレンズLが、染色液S中に染色上限位置DMまで浸漬される。
【0059】
レンズLの染色上限位置DMまでの下降は次のように行われる。
レンズ保持具6に保持されたレンズLと共に下降するフロート体371の底面位置が染色液Sの液面に到達して、液面に浮遊した後、上下移動装置2のさらなる下降に同期して、フロート37のフロート軸372の先端が、検出器36の発光素子(フォトダイオード)と受光素子(フォトトランジスタ)の間に達し、発光素子から受光素子に向かって発光されている赤外光の光軸上を通過することで、赤外光がフロート軸372によって遮られて、受光素子に流れていたコレクタ電流が遮断される。
【0060】
このコレクタ電流の遮断状態が、リード線35を介して接続する検出器駆動/検出回路34に出力される。検出器駆動/検出回路34は、電流検出回路において電流検出出力のOFF信号を制御部4に出力する。
制御部4では、検出器駆動/検出回路34から入力した電流検出信号に基づいて、モーター22にモーター22の回動を停止する制御信号を出力して、上下移動装置2の下降を停止する。
【0061】
そして、制御部4のCPUは、入力部5から入力されたレンズの染色情報と、予めROMに格納された該当製品の染色濃度勾配データに基づいて上下移動装置2のモーター22に出力するパルス数(すなわち、移動量)および移動速度を演算し、演算されたパルス列から成る制御信号をモーター22に出力する。
【0062】
モーター22は、制御部4から入力されたパルス列に従って回動(正回転)する染色移動が行われる。染色移動は、モーター22が正回転することにより、レンズ保持具6に取り付けられたレンズLが上昇して、レンズLの表面に染色液S中に浸漬した位置(染色上限位置DM)から下方の外縁方向に向かって所定のハーフ染色が施される。
レンズLをハーフ染色する所定の染色移動が終了すると、モーター22が急速回転して、レンズ保持具6(レンズL)が上昇し、スタート位置に停止する。
【0063】
このようにレンズLを染色する際に上下移動(下降および上昇)する上下移動装置2の動作を、より具体的に説明する。
モーター22は、上記したように制御部4からの制御信号に基づいて正逆回転する。モーター22が回動(回転)すると、モーター22に固着されたタイミングプーリ23が、モーター22と同期して回動し、このタイミングプーリ23とタイミングプーリ24にベルト掛けされたタイミングベルト25が、タイミングプーリ23,24上を往復動する。
【0064】
そして、タイミングベルト25が往復動すると、タイミングベルト25に固着されたスライドガイド26が、タイミングベルト25と略平行に並置して固定されたスライドガイドレール27上を、タイミングベルト25の往復動と同期して、上下移動(上昇および下降)する。同時に、支持具29および検出器ユニット支持具32が、タイミングベルト25の往復動と同期して上下移動する。したがって、支持具29の先端のフック30に掛着された2つのレンズ保持具6に保持されたレンズL、および検出器ユニット支持具32上に取付けられた検出器ユニット33(検出器36およびフロート37)が、上下移動する。
【0065】
次に、レンズ染色装置100を用いたレンズLの染色方法について説明する。なお、レンズLの染色方法は、図1(a),(b)を参照しながら、図2および図3に基づいて説明する。
【0066】
図2(a),(b)および図3(a),(b)は、レンズ保持具に保持されたレンズの染色工程毎の態様を示すレンズ染色装置の部分説明図である。具体的には、図2(a)は下降工程における下降開始状態、図2(b)は下降工程における下降中途状態を示す。また、図3(a)は下降工程における下降終了状態、図3(b)は引上げ工程における態様を示す。
【0067】
先ず、入力部5のデジタルスイッチを操作して、染色するレンズLの染色情報(レンズLの外径、染色上限位置DMなど)を入力すると共に、染色上限位置DMに対応した位置に、検出器ユニット33のフロート体371の底面位置を移動する位置調節を行う。
そして、図2(a)に示すように、ハーフ染色するレンズLが保持された2つのレンズ保持具6が取付け固定された保持具固定軸7を上下移動装置2のフック30に掛着する(染色準備工程)。
【0068】
これにより、フック30に掛着されて鉛直方向に吊り下げられた2つのレンズ保持具6(レンズL)、および検出器ユニット33に吊り下げられた態様のフロート37(フロート体371)は、染色槽1に貯留された染色液Sの液面から離間した位置(スタート位置)に保持される。
そして、下降工程に移行する。
【0069】
下降工程では、入力部5の上下移動装置2の下降スイッチをON操作する。これによりフック30に掛着されたレンズ保持具6に保持されたレンズLが、検出器ユニット33のフロート37と共にスタート位置から染色槽1に貯留された染色液Sに向かって下降(矢印Aで示す)を開始する。
レンズ保持具6(レンズL)およびフロート37(フロート体371)は、制御部4からの制御信号に基づいてモーター22が回動(逆回転)して下降する。
【0070】
そして、図2(b)に示すように、レンズ保持具6に保持されたレンズLが染色槽1内に貯留された染色液S中に下降(破線の矢印Aで示す)して、染色液S中に下降(浸漬)するに従って、染色液Sの液面が、図2(b)中に二点鎖線で示す当初の液面位置から上昇する。
【0071】
そして、図3(a)に示すように、上下移動装置2(レンズ保持具6に保持されたレンズL)が、さらに下降(矢印Bで示す)して、レンズLが染色槽1に貯留された染色液S中に浸漬すると共に、レンズ保持具6に保持されたレンズLと共に下降するフロート体371が染色液Sの液面に達して、液面に浮遊する。そして、上下移動装置2のさらなる下降に同期して、フロート37のフロート軸372の先端が、検出器36の発光素子と受光素子との間に達し、発光素子から受光素子に向かって発光されている赤外光の光軸上を通過する。
【0072】
そして、フロート軸372の先端が赤外光の光軸上を通過した瞬間に、受光素子に向かって発光されている赤外光がフロート軸372によって遮られて、受光素子に流れていたコレクタ電流が遮断される。このコレクタ電流の遮断状態が、リード線35を介して接続された検出器駆動/検出回路34に出力検出されて、検出器駆動/検出回路34から制御部4に電流検出出力のOFF信号が出力される。
そして、制御部4では、検出器駆動/検出回路34からの電流検出出力のOFF信号に基づいて、モーター22にモーター22の回動を停止する制御信号を出力して、上下移動装置2の下降を停止する。
【0073】
この上下移動装置2の下降の停止により、2つのレンズ保持具6に保持されたレンズLの染色上限位置DMが、レンズLの浸漬によって当初の液面から上昇した染色液Sの液面位置に略一致した位置に停止する。この停止時におけるレンズLは、染色上限位置DMから下方の外縁方向領域が染色液S中に浸漬されている。これによって下降工程が終了する。
そして、引上げ工程に移行する。
【0074】
図3(b)に示す引上げ工程では、制御部4のCPUにおいて、先に入力部5から入力されたレンズLの染色情報と、予めROMに格納された該当製品の染色濃度勾配データに基づいて上下移動装置2のモーター22に出力するパルス数(すなわち、移動量)および移動速度を演算し、その演算されたパルス列から成る制御信号をモーター22に出力する。
【0075】
これにより、モーター22は、制御部4から入力された制御信号に従って回動(正回転)して、レンズ保持具6に取り付けられたレンズLが上昇(矢印Dで示す)する。その結果、染色液S中に浸漬した染色上限位置DMから下方の外縁方向のレンズ表面領域に、ハーフ染色(図3(b)中のレンズLにドットで示す)が施される。ここで、ハーフ染色は、染色上限位置DMから下方の外縁方向領域全体を一様に染色しても良く、染色上限位置DMから下方の外縁方向領域に外縁方向に向かって、連続的な染色濃度勾配を付与する染色を行っても良い。
レンズLをハーフ染色する所定の染色移動が終了すると、モーター22が急速回転して、レンズ保持具6(レンズL)が上昇し、スタート位置に停止する。
【0076】
この引上げ工程において、染色液Sの液面に浮遊するフロート37(フロート体371)は、レンズ保持具6に取り付けられたレンズLの上昇に同期して、フロート軸372の先端が検出器36(発光素子と受光素子の間)から徐々に離れ、検出器ユニット33に吊り下げられて、フロート体371が染色液Sの液面から離間した態様のスタート位置に停止する。
これにより、レンズLの所定のハーフ染色が終了する。
【0077】
一対のレンズLのハーフ染色が終了した染色装置100は、レンズ保持具6に同一染色条件の新たなレンズL、または染色上限位置DMの異なる新たなレンズLを取付けて、同様の工程によってレンズLのハーフ染色を行うことができる。
なお、新たな染色上限位置DMを有する新たなレンズLにハーフ染色を施す場合には、染色準備工程において、新たなレンズLの染色情報を入力すると共に、染色上限位置DMに対応した位置に、検出器ユニット33のフロート体371の底面位置を移動する位置調節を行う。
【0078】
このようにレンズ表面にハーフ染色を施した一対のレンズLは、純水洗浄またはアセトン洗浄を行った後、眼鏡フレームの内周縁の形状に合わせる玉型加工(縁摺り加工)などが施される。そして、眼鏡フレームに嵌め込まれてファッション性豊かな眼鏡が完成する。
【0079】
なお、フロート37が染色液Sに浮遊したときのフロート37(フロート体371)の底面位置は、前記のとおり、フロート体371およびフロート軸372の材質、形状および大きさ、あるいは染色液Sの比重などによって変化し、染色液S中に位置する。したがって、本実施形態におけるフロート37(フロート体371)の底面位置とは、これらを考慮した位置を言う。
【0080】
以上のように、本実施形態のレンズの染色方法によれば、染色液S中に吊り下げてハーフ染色するレンズ(プラスチックレンズ)Lと、染色液Sの液面に浮遊することができるフロート37(フロート体371)およびフロート37(フロート軸372の先端)の位置を検出する検出器36を備えた液面検出手段としての検出器ユニット33とが、共に染色液Sの液面に対する鉛直方向に下降移動して、検出器36が、染色液Sの液面に浮遊したフロート体371の底面位置が染色するレンズLの染色上限位置DMに達したことを検出したとき、下降移動を停止し、レンズLを染色液S中から引上げてレンズ表面に濃度勾配を付与するハーフ染色を施すことにより、染色液Sの蒸発などによる液面高さの変化があっても常に所定の一定位置(染色上限位置DM)のレンズ表面領域にハーフ染色を施すことができる。また、レンズ外径、球面度数および乱視度数などによってレンズ体積(外径及び/又は厚さ)の異なるレンズLであっても、染色液Sの液面高さの変化に対応した所定の一定位置(染色上限位置DM)のレンズ表面領域にハーフ染色を施すことができる。すなわち、常にハーフ染色領域のバラツキを抑えたレンズLが得られる。
【0081】
レンズ厚み(体積)の異なるレンズLの一例を説明すれば、例えば、内径が10.5cmの染色槽1内に、外径が75mm、球面度数が+(プラス)4.0、内面TCが4.0の一対のレンズLをレンズ中心位置まで浸漬した場合と、同様に外径が75mm、球面度数が−(マイナス)2.0の一対のレンズLをレンズ中心位置まで浸漬した場合とにおける染色液Sの液面高さは、略3.5mmの異差が生じる。こうした場合であっても本実施形態のレンズの染色方法によれば、液面高さの変化があっても常にレンズ表面の所定の一定位置(染色上限位置DM)のレンズ表面領域にハーフ染色を施すことができる。
【0082】
また、本実施形態のレンズ染色装置によれば、レンズ(プラスチックレンズ)Lを染色液S中に吊り下げてレンズ表面に濃度勾配を付与するハーフ染色を施すレンズ染色装置100が、上下移動してレンズLを染色液S中に浸漬する上下移動装置2と、上下移動装置2上に取付けられたレンズLと共に上下移動する染色液Sの液面位置を検出する液面検出手段としての検出器ユニット33を備え、検出器ユニット33は、染色液Sの液面に浮遊することができるフロート37(フロート体371)と、フロート37(フロート軸372の先端)の位置検出を行う検出器36を有し、上下移動装置2が下降移動して、染色液Sの液面に浮遊したフロート体371の底面位置が、染色するレンズLの染色上限位置DMに達したとき、検出器36が染色上限位置DMに達したことを検出して上下移動装置2の下降移動を停止し、上下移動装置2が停止した位置よりレンズLを染色液S中から引上げて、染色液Sの蒸発などによる液面高さの変化があっても常に所定の一定位置(染色上限位置DM)のレンズLのレンズ表面領域にハーフ染色を施すことが可能なレンズ染色装置100が得られる。
【0083】
また、球面度数や乱視度数などによってレンズ体積(外径及び/又は厚さ)の異なるレンズLであっても、染色液Sの液面高さの変化に対応して正確な所定の一定位置のレンズ表面領域にハーフ染色を施すことができる。
さらに、レンズLと共に上下移動する検出器ユニット33を構成する検出器36が、発光素子と受光素子を備えたフォトセンサー(フォトインタラプタ)、またはマイクロスイッチであることにより、染色液Sの液面に浮遊するフロート体371の底面位置が染色するレンズLの染色上限位置DMに達したことを、瞬時に、且つ確実に検出することができる。さらにまた、検出器ユニット33が、上下移動装置2上に移動可能に取付けられていることにより、レンズ外形寸法や染色上限位置DMの異なるレンズLに容易に対応することができる。
【0084】
以上の本実施形態において、液面検出手段としての検出器ユニット33を構成する検出器36としてフォトインタラプタ(フォトセンサー)を用いた場合で説明したが、フォトインタラプタに代えて接触式センサーを用いても良い。
その場合には、接触式センサーとして、例えば、ピン押しボタン型のマイクロスイッチを用いる。マイクロスイッチは、検出器ユニット33の検出器固定部381上に、フロートストッパー373によってフロート案内部382に位置規制されて吊り下げられたフロート37を、鉛直方向の上方に持ち上げてフロート体371の底面位置がハーフ染色するレンズLの染色上限位置DMとなる位置に移動したとき、フロート軸372の先端がマイクロスイッチをONするように配置すれば良い。
【0085】
なお、検出器36としてマイクロスイッチを用いた場合の検出器駆動/検出回路(34)は、例えば、直流電源、ダイオード、電流検出用抵抗、差動増幅器などを含み構成し、マイクロスイッチがONした時、電流検出用抵抗間に流れる電流を差動増幅器で検出し、電流検出出力のON信号を制御部4に出力するように構成される。
【0086】
また、本実施形態において、眼鏡の左右レンズとして用いられる一対のレンズLを2つのレンズ保持具6に保持する場合で説明したが、本実施形態のレンズの染色方法を用いると、レンズLの大きさ(体積)に係らずバラツキを抑えた正確な染色上限位置DMまでのレンズ面に所定のハーフ染色を施すことができるので、2つのレンズ保持具6に保持するレンズLは、眼鏡の左右レンズとして用いられる一対のレンズでなくても良いし、保持具固定軸7に一つのレンズ保持具6を取付け固定した構成であっても良い。
【0087】
また、本実施形態において、ハーフ染色するプラスチックレンズLとしてプラスチック眼鏡レンズを用いた場合で説明したが、プラスチック眼鏡レンズに限定されず、光学用プラスチックレンズであれば同様に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】本実施形態に係るレンズ染色装置の概構成を示す模式図。
【図2】レンズ保持具に保持されたレンズの染色工程毎の態様を示すレンズ染色装置の部分説明図であり、(a)は下降工程における下降開始状態の説明図、(b)は下降工程における下降中途状態の説明図。
【図3】レンズ保持具に保持されたレンズの染色工程毎の態様を示すレンズ染色装置の部分説明図であり、(a)は下降工程における下降終了状態の説明図、(b)は引上げ工程における説明図。
【符号の説明】
【0089】
1…染色槽、2…上下移動装置、3…液面検出部、4…制御部、5…入力部、6…レンズ保持具、7…保持具固定軸、22…モーター、23,24…タイミングプーリ、25…タイミングベルト、26…スライドガイド、27…スライドガイドレール、28…取付け具、29…支持具、30…フック、31…検出器ユニット取付け具、32…検出器ユニット支持具、33…液面検出手段としての検出器ユニット、34…検出器駆動/検出回路、35…リード線、36…検出器(フォトインタラプタ)、37…フロート、38…検出器支持枠、39…支持枠固定ネジ、61…アーム、62…アーム固定板、100…レンズ染色装置、371…フロート体、372…フロート軸、373…フロートストッパー、381…検出器固定部、381a…切欠き、382…フロート案内部、382a…貫通孔、DM…染色上限位置、L…プラスチックレンズ、S…染色液。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスチックレンズを染色液中に吊り下げてハーフ染色するレンズの染色方法であって、
前記プラスチックレンズと、前記染色液の液面に浮遊することができるフロートおよび該フロートの位置を検出する検出器を備えた液面検出手段とが、前記染色液の液面に対する鉛直方向に下降移動して、
前記検出器が、前記染色液の液面に浮遊する前記フロートの底面位置が前記プラスチックレンズの染色上限位置に達したことを検出したとき、下降移動を停止し、
前記プラスチックレンズを前記染色液中から引上げてレンズ表面にハーフ染色を施すことを特徴とするレンズの染色方法。
【請求項2】
プラスチックレンズを染色液中に吊り下げてハーフ染色するレンズの染色方法であって、
前記プラスチックレンズと、前記染色液の液面に浮遊することができるフロートおよび該フロートの位置を検出する検出器を備えた液面検出手段とが、前記染色液の液面に対する鉛直方向に下降移動して、
前記検出器が、前記染色液の液面に浮遊する前記フロートの底面位置が前記プラスチックレンズの染色上限位置に達したことを検出したとき、下降移動を停止し、
前記プラスチックレンズを前記染色液中から引上げてレンズ表面に濃度勾配を付与するハーフ染色を施すことを特徴とするレンズの染色方法。
【請求項3】
プラスチックレンズを染色液中に吊り下げてレンズ表面にハーフ染色を行うレンズ染色装置であって、
前記レンズ染色装置は、上下移動して前記プラスチックレンズを前記染色液中に浸漬する上下移動装置と、前記上下移動装置上に取付けられて前記プラスチックレンズと上下移動する前記染色液の液面位置を検出する液面検出手段と、を備え、
前記液面検出手段は、前記染色液の液面に浮遊することができるフロートと、前記フロートの位置検出を行う検出器を有し、
前記上下移動装置が下降移動して、前記染色液の液面に浮遊した前記フロートの底面位置が染色する前記プラスチックレンズの染色上限位置に達したとき、前記検出器が前記染色上限位置に達したことを検出して前記上下移動装置の下降移動が停止し、
前記上下移動装置が停止した位置より前記プラスチックレンズを前記染色液中から引上げて、前記プラスチックレンズのレンズ表面にハーフ染色を施すことを特徴とするレンズ染色装置。
【請求項4】
プラスチックレンズを染色液中に吊り下げてレンズ表面に濃度勾配を付与するハーフ染色を行うレンズ染色装置であって、
前記レンズ染色装置は、上下移動して前記プラスチックレンズを前記染色液中に浸漬する上下移動装置と、前記上下移動装置上に取付けられて前記プラスチックレンズと上下移動する前記染色液の液面位置を検出する液面検出手段と、を備え、
前記液面検出手段は、前記染色液の液面に浮遊することができるフロートと、前記フロートの位置検出を行う検出器を有し、
前記上下移動装置が下降移動して、前記染色液の液面に浮遊した前記フロートの底面位置が染色する前記プラスチックレンズの染色上限位置に達したとき、前記検出器が前記染色上限位置に達したことを検出して前記上下移動装置の下降移動が停止し、
前記上下移動装置が停止した位置より前記プラスチックレンズを前記染色液中から引上げて、前記プラスチックレンズのレンズ表面に濃度勾配を付与するハーフ染色を施すことを特徴とするレンズ染色装置。
【請求項5】
請求項4に記載のレンズ染色装置であって、
前記検出器が、発光素子と受光素子を備えたセンサー、または接触式センサーであることを特徴とするレンズ染色装置。
【請求項6】
請求項4または請求項5に記載のレンズ染色装置であって、
前記液面検出手段は、前記上下移動装置上に移動可能に取付けられていることを特徴とするレンズ染色装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−117462(P2010−117462A)
【公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−289518(P2008−289518)
【出願日】平成20年11月12日(2008.11.12)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】