説明

レンズの製造方法

【課題】インクジェット方式により、色ムラなく、均一な着色層を簡単に形成できるレンズの製造方法を提供すること
【解決手段】インクジェット方式によるレンズの製造方法であって、透明な組成物と顔料または染料の少なくともいずれかを含んだ組成物(A)と、透明な組成物(B)とを、インクジェット方式によりレンズ基材表面に塗布する塗布工程と、前記塗布工程により形成された塗布層を乾燥することにより着色層として前記基材表面に定着させる定着工程とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レンズの製造方法に関する。より詳しくは、インクジェット方式によるレンズの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、眼鏡用などのプラスチックレンズの着色方法としては、レンズ基材を直接染色する方法や、レンズ基材に被染色層を形成した後に染色する方法など多数存在する。しかしながら、これらの方法はレンズ基材の化学的あるいは物理的性質により、染色条件にバラつきが出るという問題の他、色別に染色ポットを用意する必要があるなど、生産性が低く、色合い等に対する多用なニーズに応え難いという問題があった。
一方、より簡単に所望の色合いで着色を行うことが可能な方法として、インクジェット方式によるカラーレンズの製造方法が知られている(特許文献1〜3)。
【0003】
特許文献1には、水分散ポリマーからなる結合剤と、コロイドを含有する物質または/および吸水性ポリマーを含有する物質からなる透明の印刷プライマーを レンズ基材の表面に積層させ、その後、インクジェットプリンターでこの印刷プライマー上に印刷して着色する方法が記載されている。
特許文献2には、染料・顔料インクに水溶性の樹脂を混ぜてプラスチックレンズ基材にインクジェット方式で印刷する方法が記載されている。
特許文献3には、重合前のプラスチックレンズにおいて、顔料または染料の分散液をハードコート層の内面かプライマーの内面、あるいは反射防止膜の内面にインクジェット方式により吐出して着色された膜を形成する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−528253号公報
【特許文献2】特開平8−20080号公報
【特許文献3】特開2006−264109号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の発明では、インクジェット方式による着色に先立って、印刷プライマーをレンズ表面に積層させる必要がある。また、特許文献2に記載の発明では、インクジェット方式によるプリント後、当該プラスチックレンズをオーブン中で100℃〜130℃で1時間加熱し、染料を拡散させる必要がある。さらに、特許文献3に記載の発明では、着色後、重合を行う必要がある。すなわち、特許文献1〜3に記載の発明では、いずれもインクジェット方式による着色の前か後で、着色膜を均一にするための工程が必要であり、必ずしも生産効率がいいとは言えない。
【0006】
そこで、本発明の目的は、このような従来の問題を解決し、インクジェット方式により、色ムラなく、均一な着色層を簡単に形成できるレンズの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のレンズの製造方法は、インクジェット方式によるレンズの製造方法であって、透明な組成物と顔料および染料のうち少なくともいずれかを含んだ組成物(A)と、透明な組成物(B)とを、インクジェット方式によりレンズ基材表面に塗布する塗布工程と、前記塗布工程により形成された塗布層を乾燥することにより着色層として前記基材表面に定着させる定着工程とを備えたことを特徴とする。
ここで「透明な」とは、無彩色で透明である状態を言い、塗布した層において、CIE 1976 (L*, a*, b*) 色空間のa*が±5かつb*が±5未満(a*≦|5|かつb*≦|5|)で、さらに、視感透過率が85%以上であることを言う。
【0008】
本発明によれば、インクジェット方式により両組成物を塗布し、乾燥するだけで、レンズ基材に直接着色層を形成できる。しかも、色ムラがなく、均一な層が形成できる。
従来は組成物(B)を塗布せず、組成物(A)のみを塗布したため、形成される着色層が十分に均一な層ではなかった。しかしながら本願発明によれば、組成物(B)を併せて塗布したので、組成物(A)と組成物(B)とが隙間なく塗布され、従来は塗布された組成物(A)間に出来ていた隙間をなくすことができたと考えられる。そして、その結果、均一な層を形成することができたと考えられる。
【0009】
本発明では、前記組成物(A)および前記組成物(B)のうち少なくとも一方の25℃における表面張力X[mN/m]が15≦X≦40であることが好ましい。さらには、前記組成物(B)の25℃における表面張力X[mN/m]が15≦X≦40であることがより好ましく、両組成物の表面張力Xがともに15≦X≦40の範囲にあることが最も好ましい。
この発明によれば、前記組成物(A)および前記組成物(B)のうち少なくとも一方の25℃における表面張力X[mN/m]が所定の範囲にあるので、染料や顔料の溶媒への分散性と、レンズ基材表面への濡れ性とのバランスをうまく保つことができる。
【0010】
さらに本発明では、前記塗布工程における、前記組成物(A)と前記組成物(B)との吐出割合が質量比で、組成物(A)/組成物(B)が1/0.5から1/8までの範囲であることが好ましい。
この発明によれば、前述の効果をより一層発揮することができ、特にレンズ基材を所望の色合いとすることができる。
【0011】
また、本発明では、前記組成物(A)および前記組成物(B)のうち少なくともいずれかが有機ポリマーを含む組成物であることが好ましい。
この発明によれば、上述の効果の他、レンズ基材と着色層との密着性の向上、耐衝撃性の向上という効果を発揮することができる。
【0012】
さらに、本発明では、前記組成物(A)および前記組成物(B)のうち少なくともいずれかが金属酸化物ゾルを含む組成物であることが好ましい。
この発明によれば、上述の効果の他、レンズ基材と着色層の屈折率差が小さくなるように金属酸化物ゾルの種類や量を調整することで、干渉縞が減るという効果を奏する。また、金属酸化物ゾルがフィラーとして作用することにより耐水性、耐候性や耐光性が向上するという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】従来の塗布層の模式図
【図2】(A),(B)本発明の実施形態に係る塗布層の模式図。
【図3】本発明の実施形態を実施するための装置の一例を一部拡大した図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について説明するが、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではない。
本実施形態におけるレンズの製造方法により製造されるレンズは、眼鏡用のプラスチックカラーレンズである。ここで、カラーレンズとしては、モノクロのものや、モノカラーのものも含む。
【0015】
[レンズ基材の材質]
レンズ基材の材質としては、特に限定されないが、屈折率が1.6以上の透明なプラスチック素材を使用することがレンズの軽量化の点で好ましい。例えば、イソシアネート基またはイソチオシアネート基を持つ化合物と、メルカプト基を持つ化合物を反応させることによって製造されるチオウレタン系プラスチックや、エピスルフィド基を持つ化合物を含む原料モノマーを重合硬化して製造されるエピスルフィド系プラスチックをレンズ基材の素材として使用することができる。
【0016】
チオウレタン系プラスチックの主成分となるイソシアネート基またはイソチオシアネート基を持つ化合物としては、公知の化合物が何ら制限なく使用できる。
イソシアネート基を持つ化合物の具体例としては、エチレンジイソシアナート、トリメチレンジイソシアナート、2,4,4−トリメチルヘキサンジイソシアナート、ヘキサメチレンジイソシアナート、m−キシリレンジイソシアナート等が挙げられる。
【0017】
また、メルカプト基を持つ化合物としても、公知の物を用いることができる。例えば、1,2−エタンジチオール、1,6−ヘキサンジチオール、1,1−シクロヘキサンジチオール等の脂肪族ポリチオール、1,2−ジメルカプトベンゼン、1,2,3−トリス(メルカプトメチル)ベンゼン等の芳香族ポリチオールが挙げられる。また、プラスチックレンズの高屈折率化のためには、メルカプト基以外にも、硫黄原子を含むポリチオールがより好ましく用いられ、その具体例としては、1,2−ビス(メルカプトメチルチオ)ベンゼン、1,2,3−トリス(メルカプトエチルチオ)ベンゼン、1,2−ビス((2−メルカプトエチル)チオ)−3−メルカプトプロパン等が挙げられる。
【0018】
また、エピスルフィド系プラスチックの原料モノマーとして用いられる、エピスルフィド基を持つ化合物の具体例としては、公知のエピスルフィド基を持つ化合物が何ら制限なく使用できる。既存のエポキシ化合物のエポキシ基の一部あるいは全部の酸素を硫黄で置き換えることによって得られるエピスルフィド化合物が挙げられる。また、プラスチックレンズの高屈折率化のためには、エピスルフィド基以外にも硫黄原子を含有する化合物がより好ましい。具体例としては、1,2−ビス(β−エピチオプロピルチオ)エタン、ビス−(β−エピチオプロピル)スルフィド、1,4−ビス(β−エピチオプロピルチオメチル)ベンゼン、2,5−ビス(β−エピチオプロピルチオメチル)−1,4−ジチアン、ビス−(β−エピチオプロピル)ジスルフィド等が挙げられる。
【0019】
[組成物(A)]
組成物(A)としては、染料や顔料の分散系が好ましく用いられる。染料としては、直接染料、酸性染料、食用染料、塩基性染料、反応性染料、分散染料、建染染料、可溶性建染染料、および反応分散染料など通常のインクジェット方式に用いられる各種の染料が適用可能である。例えば、ニトロソ染料、ニトロ染料、アゾ染料、スチルベンアゾ染料、ケトイミン染料、トリフェニルメタン染料、キサンテン染料、アクリジン染料、キノリン染料、メチン染料、ポリメチン染料、チアゾール染料、インダミン染料、インドフェノール染料、アジン染料、オキサジン染料、チアジン染料、硫化染料、アミノケトン染料、オキシケトン染料、アントラキノン染料、インジゴイド染料、およびフタロシアニン染料などのいずれかを適当な溶媒(水、アルコール系もしくはその他の有機溶媒)に分散させて組成物(A)として使用できる。上記染料は1種単独でも、2種以上併用しても用いることができる。
【0020】
顔料としては、ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャネルブラック等のカーボンブラック(C.I.ピグメントブラック7)類、酸化鉄、酸化チタン等を使用することができる。また、有機顔料としては、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、アゾレーキ、キレートアゾ顔料などのアゾ顔料、フタロシアニン顔料、ペリレン及びペリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサン顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、キノフタロン顔料等の多環式顔料、ニトロ顔料、ニトロソ顔料、アニリンブラック、昼光蛍光顔料等を使用できる。これらの顔料のいずれかを適当な溶媒(水、アルコール系もしくはその他の有機溶媒)に分散させて組成物(A)として使用できる。上記顔料は1種単独でも、2種以上併用して用いることもできる。
上述した染料や顔料は併用することもできる。耐光性や耐水性の観点からは顔料の方が好ましい。
【0021】
染料および顔料に対する分散剤としては、界面活性剤を添加することが好ましい。界面活性剤としては、例えば、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、アルキルスルホコハク酸塩、芳香族スルホン酸ホルマリン縮合物、ラウリル硫酸塩などの陰イオン界面活性剤、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、アルキルアミンエーテル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等の非イオン界面活性剤などが挙げられる。これらの界面活性剤は、レンズ基材の目標とする着色濃度に応じて、使用する染料および顔料の量(100質量部)に対して0.005質量部以上10質量部以下の範囲で使用するのが好ましい。
【0022】
また、組成物の表面張力を下げるために使用する界面活性剤としては、例えば、シリコーン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤、炭化水素系界面活性剤を用いることができる。これらの界面活性剤は全組成物基準で0.005質量%以上2.0質量%以下、好ましくは0.01質量%以上0.5質量%以下含有されるのが好ましい。
【0023】
そして、これらの染料および顔料、界面活性剤の中から適宜選択して組成物(A)を調製すればよい。また、染料および顔料に要求される特性として、分散性、可溶性および染料および顔料の安定性(使用溶剤に対して化学反応が起こらないこと)などがあり、このような特性を考慮して具体的な染料および顔料を選択する。
これらの染料および顔料の配合量も、目的とするカラーレンズの色調に応じて適宜決定すればよい。なお、染料および顔料を多量に使用すると、分散および溶解しないおそれがあるので、分散および溶解する程度の配合量が好ましい。逆に染料の使用量が少量の場合、着色層を厚くする必要があるため、目的色となる着色層を形成するのは困難となる。このような点を踏まえて最終的な配合量を決定する。
【0024】
本実施形態では、組成物(A)および後述する組成物(B)の少なくともいずれかが有機ポリマーや金属酸化物ゾルを含むことも好ましい。
有機ポリマーとしては、極性基を有するものが好ましく、極性基を有する有機ポリマーとしては、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、ポリオレフィン樹脂、ウレタンアクリレート樹脂、エポキシアクリレート樹脂等の各種樹脂を使用することが可能である。この内、硫黄原子を含むレンズ基材に対する密着性と、後述する金属酸化物ゾルの分散性の点から、ポリエステル樹脂を好ましく用いることができる。
ポリエステル樹脂を用いると、樹脂中のエステル結合および側鎖に付いたヒドロキシル基やエポキシ基が基材(プラスチック眼鏡レンズの表面分子)と相互作用を生じ易く、高い密着性を発現する。さらに、染料および顔料に対する親和性も向上する。なお、ポリエステル樹脂のpHは弱酸性を示す場合が多く、フィラーとなる金属酸化物ゾルが安定に存在できるpHと合致する場合が多い。よって、着色層に金属酸化ゾルが局在化せずに均質に分散した状態となり、着色層の架橋密度を安定化もしくは向上させ、耐水性および耐光性も向上する。
【0025】
金属酸化物ゾルとしては、シリカ、チタニアゾル、アルミナゾル等が挙げられ、中でもチタニアゾルが好ましく用いられる。
チタニアゾルとしては、酸化チタンのみを含有するものであってもよく、酸化チタンと他の無機酸化物とを含有するものであってもよい。例えば、酸化チタンと、Si、Al、Sn、Sb、Ta、Ce、La、Fe、Zn、W、Zr、In等金属の酸化物を混合して使用してもよい。さらに、金属酸化物ゾルとしては、酸化チタンと他の無機酸化物との複合粒子であってもよい。複合粒子を使用する場合には、例えば、Si、Al、Sn、Sb、Ta、Ce、La、Fe、Zn、W、Zr、In等の金属の酸化物と、酸化チタンとが複合したものを使用すればよい。また、酸化チタンとしては、アナターゼ型よりも、光触媒作用が相対的に少なく、屈折率も高いルチル型を用いることが好ましい。
【0026】
[組成物(B)]
組成物(B)としては、塗布した層において、CIE 1976 (L*, a*, b*) 色空間のa*が±5かつb*が±5未満(a*≦|5|かつb*≦|5|)で、さらに、視感透過率が85%以上である組成物を用いることができ、例えば、上記組成物(A)において、染料および顔料を含まない組成物を使用すればよい。すなわち、組成物(B)は、組成物(A)から着色成分を除いた無色透明な成分とすればよい。また、組成物(A)と同様に、さらに有機ポリマーと金属酸化物ゾルを含むものが好ましい。
【0027】
[組成物(A)と組成物(B)の表面張力および粘度について]
本実施形態における組成物(A)および組成物(B)のうち少なくとも一方の25℃における表面張力Xは、15mN/m≦X≦45mN/mであることが好ましい。さらには、前記組成物(B)の25℃における表面張力X[mN/m]が15≦X≦40であることがより好ましく、両組成物の表面張力Xがともに15≦X≦40の範囲にあることが最も好ましい。
両組成物の25℃における表面張力が15mN/m未満であると、染料や顔料(固形分)を溶媒にうまく溶解あるいは分散させることができなくなるおそれがある。また、この表面張力Xが45mN/mを超えると、レンズ基材表面への濡れ性が悪化するおそれがある。また、少なくとも一方の組成物が表面張力Xを有することにより、液だれなどを防ぐこともできる。
ここで、前記組成物(B)の表面張力Xが上記範囲にあるときに上述した効果がより大きく、さらに、両組成物の表面張力Xがともに上記の範囲内にあるときに最も効果が大きい。
すなわち、本発明では、従来技術のように組成物(A)と組成物(B)を単に混ぜて染料または顔料の濃度を薄くし、当該組成物を塗布した場合とは全く異なる効果を奏するのである。
【0028】
また、本実施形態における組成物(A)および組成物(B)の25℃における粘度は、0.5mPa・s以上、20mPa・s以下であることが好ましい。当該組成物の25℃における粘度が0.5mPa・s未満であると、塗布層に組成物濃度のムラが生じ、結果として着色層の色ムラが生じやすくなる可能性がある。一方、25℃における粘度が20mPa・sを超えると、インクジェット方式を用いる際に、吐出が不安定となるおそれがあり、レンズ基材への塗布層の形成が困難となる。
【0029】
[塗布工程]
本実施形態では、組成物(A)および組成物(B)をレンズ基材の上にインクジェット方式で塗布する。インクジェット方式とは、一般に10〜100μm径の微小なノズル開口部と圧力発生素子とが設けられた圧力室にインクが充填され、圧力発生素子を電子的に制御することによって圧力室内のインクを加圧し、その圧力で、ノズル開口部からインクを微小な液滴として吐出するものである。圧力発生素子の種類により、ピエゾ素子による圧電振動子を用いたピエゾ方式や、発熱素子を用い、インクを加熱して気泡を発生させ、その圧力を利用するインクジェット方式など、種々の方式がある。本発明では、いずれのインクジェット方式も用いることができる。
【0030】
具体的な塗布方法としては、例えば、組成物(A)と組成物(B)が各々充填され、先端にノズル開口部を有するインクジェットヘッドを、レンズ基材の表面と略等間隔を保つように制御しつつ、表面を走査させる。そして、組成物(A)と組成物(B)のノズルからの吐出を制御することによって、レンズ基材の必要な部分に両組成物を均一に塗布する。
【0031】
このとき、組成物(A)と組成物(B)との吐出割合は質量比で、組成物(A)/組成物(B)が1/0.5から1/8までの範囲であることが好ましい。前記割合が1/0.5より大きいと、染料や顔料が均一に塗布されず、色ムラが発生したり、干渉縞が生じたりする可能性がある。一方、前記割合が1/8より小さいと、染料や顔料の割合が少なすぎて、目的の色合いが得られない可能性がある。
【0032】
また塗布の際、インクジェットヘッドだけを動かしてもよく、あるいはインクジェットヘッドを特定の方向に移動させ、タイミングをとってレンズ基材を前記方向と直交する方向に移動させてもよい。
【0033】
また、レンズ基材の支持体に首振り運動させることで、インクジェットヘッドとレンズ基材の表面との間隔を概ね一定にするような塗布方法を採用してもよい。
また、塗布面としては、レンズ基材の凸面と凹面の両方に塗布してもよく、一方のみに塗布してもよい。
【0034】
[定着工程]
インクジェット方式で塗布した後は、塗布された組成物をレンズ基材のガラス転移点Tg以下かつ20℃以上、好ましくは50℃以上の温度で乾燥してレンズ基材表面に定着させる。これにより、染料あるいは顔料で着色された着色層をレンズ基材表面に形成することができる。
【0035】
[本実施形態の効果]
本実施形態によれば、所望の色合いで、色ムラなく、干渉縞のない眼鏡用のプラスチックカラーレンズが製造できる。製造にあたっては、インク受容層等を形成する必要がなく、レンズ基材に直接組成物を吐出し、乾燥するだけで、着色層を形成できるため、生産性が向上する。さらに、着色層の形成には、インクジェット方式を使用するので、所望の色合いで、色ムラなく、均一な着色層を簡単に形成することができる。
ここで、図1は従来の塗布層の模式図であり、図2(A)、(B)は本発明の実施形態に係る塗布層の模式図である。図2(A)は、インクジェットヘッドHを図中右方向に走査させて塗布する場合の模式図であり、図2(B)は、インクジェットヘッドHを図中左方向に走査させて塗布する場合の模式図である。図1に示すように、従来、組成物(A)をインクジェット法で塗布すると、組成物(A)の液滴L間に隙間ができ、その結果、塗布層が均一にはならなかった。これに対し本発明では、組成物(A)と組成物(B)とを塗布するため、図2(A)および(B)に示すように、組成物(A)の液滴Lと組成物(B)の液滴Mとが隙間なく塗布された状態となる。すなわち、塗布層の表面がより平滑になる。その結果、均一な着色層が形成できると考えられる。また、組成物(A)と組成物(B)との表面張力の関係によっては、組成物(A)と組成物(B)とが塗布層において混ざり合うことで平滑化することも考えられる。
【0036】
一方、インクジェットヘッドHとしては、組成物(A)と組成物(B)とに個別のインクジェットヘッドを用いることの他、図3に示すインクジェットヘッドH1を用いることもできる。図3は、インクジェットヘッドH1をノズル開口部側から見た平面図である。図3に示すように、インクジェットヘッドH1は、吐出部1、2を備える。吐出部1には複数のノズル開口部11が備えられ、吐出部2には複数のノズル開口部12が備えられている。ノズル開口部11と12は、インクジェットヘッドHを図3に矢印で示す方向に走査して、組成物(A)と組成物(B)とを吐出させた際に、レンズ基材表面において塗布された両組成物間の距離ができるだけ小さくなるよう位置が調整されている。具体的には、吐出部1と吐出部2を重ね合わせた際に、ノズル開口部11とノズル開口部12とが重ならず、ノズル開口部11間にノズル開口部12が位置するよう形成されている。
【実施例】
【0037】
以下に、本発明を実施例によりさらに詳しく説明する。
〔実施例1〕
(レンズ基材)
レンズ基材として、屈折率1.74のエピスルフィド系プラスチック(セイコーエプソン(株)製、SEIKO プレステージ)を使用した。
【0038】
(組成物Aの調製)
ジエチレングリコール 10質量%、グリセリン 5質量%、市販顔料インクであるICC38A(シアン)(セイコーエプソン製) 10質量%、水性ポリエステル樹脂(伊藤光学株式会社製)が固形分4質量%となるよう配合し、表面張力コントロールのための界面活性剤であるサーフィノール61(Air products inc.製)、およびFz−2105(日本ユニカー製)を5000ppmずつ添加した。残量を純水とし、これを、ろ過および脱泡して、組成物(A)とした。
このときの表面張力は25℃で23mN/mであった(協和界面科学製DM700を使用し、懸滴法で測定した。以下、表面張力の測定は同様に行った。)。また、組成物(A)中の顔料固形分は全組成物基準で1質量%であった。
【0039】
(組成物Bの調製)
組成物(B)は、組成物(A)で、顔料インクを加えないことにより調製した。
このときの組成物(B)表面張力は25℃で30mN/mであった。
表1に組成物(A)および(B)の組成を示す。
【0040】
【表1】

【0041】
(インクジェット方式による塗布)
これらの組成物をインクジェットプリンター(MMP183T、Mastermind製)を用いて、前述のレンズ基材表面に吐出して塗布し、80℃30分で乾燥(硬化)させることにより組成物を定着させ、着色層を形成した。
この着色層に関して、組成物(A)のみを吐出したときと、組成物(A)と組成物(B)を吐出して塗布した時の色ムラおよび層の均一性を目視により評価した。なお、組成物(A)と組成物(B)を吐出した時の吐出割合は、質量比で組成物(A)/組成物(B)が1/2であった。結果を表2に示す。以下、各実施例の評価において、現行製品のメガネレンズと同程度の場合は○、製品として許容範囲ではあるがやや劣る場合を△、製品として許容できない場合は×とする。
【0042】
【表2】

【0043】
表2より組成物(A)と組成物(B)を別個に吐出することで、色ムラなく均一な着色層を形成できることがわかる。
【0044】
〔実施例2から7まで〕
界面活性剤の量、種類を変化させて表面張力を調整する以外は実施例1の組成物と同様の組成で組成物を作成した。そして、組成物(A)と組成物(B)を吐出した時の吐出割合を、質量比で組成物(A)/組成物(B)が1/1とする以外は、実施例1と同様の手法でプラスチックレンズに着色層を形成した。界面活性剤には実施例1で用いたものに加えてメガファックF−444(DIC製)も用いた。表3に組成物(B)の組成を、表4に組成物(A)の組成を示す。
実施例2から7まで作成した着色層の色ムラおよび層の均一性の評価を行った結果を表5に示す。
【0045】
【表3】

【0046】
【表4】

【0047】
【表5】

【0048】
表5から、組成物(A)および組成物(B)の表面張力Xがともに15≦X≦40のとき、特に色ムラなく均一な着色層を形成可能であることがわかる。
【0049】
〔実施例8〕
組成物(A)の吐出量に対する組成物(B)の吐出割合(質量比)を表6に示す質量比とする以外は、実施例1の同様の組成で組成物を作成し、着色層の均一性を確認した。尚、吐出量の合計は、同量に設定している。また、組成物(A)の表面張力は23mN/m、組成物(B)の表面張力は30mN/mであった。結果を表6に示す。
【0050】
【表6】

【0051】
表6に結果を示すように組成物(A)を1としたときの組成物(B)の割合が質量比で0.5から8までの場合に最適な着色層が形成されることがわかる。
【0052】
〔実施例9〕
組成物(A)中において顔料固形分を約0.5質量%,1.0質量%,2.5質量%とした以外は実施例1と同様の組成とした組成物(A)を調製した。そして、組成物(A)と組成物(B)を吐出した時の吐出割合を、質量比で組成物(A)/組成物(B)が1/1とする以外は、実施例1と同様の手法でプラスチックレンズ基材に着色層を形成した。また、組成物(A)の表面張力は23mN/m、組成物(B)の表面張力は30mN/mであった。結果を表7に示す
【0053】
【表7】

【0054】
表7に記載の通り、各顔料固形分に依らず、着色層の均一性、色ムラに問題ない結果を得た。
ただし、顔料固形分の割合があまり高過ぎるとインクジェット方式で吐出できない場合もあるので注意が必要である。
【0055】
〔実施例10〕
顔料の代わりに染料IC1C03(セイコーエプソン製)を用いる以外は実施例1と同様の組成で組成物(A)を作成した。そして、組成物(A)と組成物(B)を吐出した時の吐出割合を、質量比で組成物(A)/組成物(B)が1/1とする以外は、実施例1と同様の手法でプラスチックレンズ基材に吐出して塗布し、評価した。なお、組成物(A)の表面張力は23mN/m、組成物(B)の表面張力は30mN/mであった。結果を表8に示す。
結果は顔料を使用した場合と同様の結果を得た。
【0056】
【表8】

【0057】
〔実施例11〕
金属酸化物ゾルであるルチル型チタニアゾルを添加する以外は実施例1と同様の組成で組成物(A)、(B)を作成した。組成物(A)、(B)の組成を表9に示す。なお、ゾルの固形分は2質量%とした。
そして、組成物(A)と組成物(B)を吐出した時の吐出割合を、質量比で組成物(A)/組成物(B)が1/1とする以外は、実施例1と同様の手法でプラスチックレンズ基材に吐出して塗布し、評価した。なお、組成物(A)の表面張力は23mN/m、組成物(B)の表面張力は30mN/mであった。結果を表10に示す。
【0058】
【表9】

【0059】
【表10】

【0060】
表10に示すとおり、ルチル型チタニアゾルの添加による、色ムラおよび層の均一性の違いは見られなかった。
なお、目視で確認したところ、金属酸化物ゾルを添加したことにより、プラスチックレンズ基材との屈折率の差が小さくなり、干渉縞が減る効果が得られた。
【符号の説明】
【0061】
L…組成物(A)、M…組成物(B)、S…レンズ基材表面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクジェット方式によるレンズの製造方法であって、
透明な組成物と顔料および染料のうち少なくともいずれかを含んだ組成物(A)と、透明な組成物(B)とを、インクジェット方式によりレンズ基材表面に塗布する塗布工程と、
前記塗布工程により形成された塗布層を乾燥することにより着色層として前記基材表面に定着させる定着工程とを備えた
ことを特徴とするレンズの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のレンズの製造方法であって、
前記組成物(A)および前記組成物(B)のうち少なくとも一方の25℃における表面張力X[mN/m]が15≦X≦40である
ことを特徴とするレンズの製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載のレンズの製造方法であって、
前記組成物(B)の25℃における表面張力X[mN/m]が15≦X≦40である
ことを特徴とするレンズの製造方法。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれかに記載のレンズの製造方法であって、
前記塗布工程における、前記組成物(A)と前記組成物(B)との吐出割合が質量比で、組成物(A)/組成物(B)が1/0.5から1/8までの範囲である
ことを特徴とするレンズの製造方法。
【請求項5】
請求項1から請求項4までのいずれかに記載のレンズの製造方法であって、
前記組成物(A)および前記組成物(B)のうち少なくともいずれかが有機ポリマーを含む組成物である
ことを特徴とするレンズの製造方法。
【請求項6】
請求項1から請求項5までのいずれかに記載のレンズの製造方法であって、
前記組成物(A)および前記組成物(B)のうち少なくともいずれかが金属酸化物ゾルを含む組成物である
ことを特徴とするレンズの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2011−237761(P2011−237761A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−280497(P2010−280497)
【出願日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】