説明

レンズ光学系、画像表示装置およびヘッドアップディスプレイ

【課題】ヘッドアップディスプレイなどの画像表示装置を小型化できるレンズ光学系を提供する。
【解決手段】物体側より順に、複数の第1要素凸レンズ21が平面状に配置された第1凸レンズ群20と、複数の第2要素凸レンズ23が平面状に配置された第2凸レンズ群22と、複数の第3要素凸レンズ25が平面状に配置された第3凸レンズ群24とを備える。第1凸レンズ群20、第2凸レンズ群22、第3凸レンズ群24の順に、各凸レンズのレンズ径およびレンズピッチが大きくなるように構成され、かつ第2凸レンズ群と第3凸レンズとの間の距離が第1凸レンズ群と第2凸レンズ群との間の距離よりも長くなるように構成されている

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レンズ光学系、並びに該レンズ光学系を用いた画像表示装置およびヘッドアップディスプレイに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、車両のフロントウィンドウの前方に車速などの情報を表示するヘッドアップディスプレイが知られている。運転者は、ヘッドアップディスプレイにより表示された表示画像と車両前方の風景とを重ね合わせて見ることにより、車両運転中に視線の移動をあまり行わずに車速などの情報を確認することができる。
【0003】
図1は、従来のヘッドアップディスプレイの一例を示す。このヘッドアップディスプレイは、特許文献1に開示されたものである。図1に示すように、車のダッシュボードに配置される光学ユニット80は、画像表示部である表示器88、平面鏡81、凹面鏡82で構成されている。表示器88の光は、平面鏡81と拡大光学系である凹面鏡82で反射され、出射窓87を通って、フロントウィンド101に設けられたコンバイナ102で運転者に向けて反射される。運転者にとっては、前方に表示の虚像103が視認される。
【0004】
平面鏡81の役割は、光学ユニット80の空間的制約で、表示器88から凹面鏡82に至る光路を一直線にできない場合の、光路の折り曲げである。
【0005】
図2は、凹面鏡82による遠方拡大表示の説明図を示す。表示器88と凹面鏡82(中心点をQとする)の距離をL、表示器上の点Pの凹面鏡による虚像をP’としたときのQP’の距離をL、点Qとコンバイナ102の中心の点Rの距離をL、点Rと運転者の目の位置(点E:視点)の距離をLとする。
【0006】
運転者の目の位置(点E)と前方に形成される虚像P”の距離は、L+L+Lである。このうち、LとLは自動車により決まり、乗用車の場合は、1m程度である。このため、目の焦点移動を行わずに表示と車外風景を視認できるように、より遠方に虚像を表示するためには、Lを大きくする必要がある。
【0007】
を大きくする方法の一つは、凹面鏡82の焦点距離を短く(曲率半径を小さく)して表示器88から凹面鏡82に至る光路長Lを、凹面鏡の焦点距離よりも短い状態で、できるだけ焦点距離に近づけることである。これにより、大きな拡大倍率が得られ、表示器88が小さくて済む。
【0008】
別の方法としては、焦点距離の長い(曲率半径の大きい)凹面鏡82を用い、Lを長くとる方法がある。この方法では、低拡大率であっても、表示距離を大きくすることができる。たとえば図3に示す光学ユニットの如く、平面鏡91、92、凹面鏡93を設けて、限られた空間に光路を重複させる構成としている。これにより光学ユニットの小型化を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平06−55957号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、図1の従来のヘッドアップディスプレイの光学ユニットでは、より遠方に虚像を表示するために、光学系の光路長Lを長くしないで、光学系の拡大倍率を大きくすると、光学ユニットを大きくすることなく、表示像をより遠方に表示できるが、表示像の歪み、収差が大きく、視点を移動したときに像の流れが生じるという問題があった。
【0011】
一方、図3の光学ユニットの如く、光学系の拡大倍率を大きくしないで、光学系の光路長Lを大きくとると、表示像の歪み、収差、視点を変えたときの像の流れの問題を生じないで、表示像をより遠方に表示できるが、光路を鉛直方向の面内で折り曲げているため、光学ユニットの厚みが大きく小型化は不十分で、自動車のダッシュボード内に収納できないという問題点があった。
【0012】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、ヘッドアップディスプレイなどの画像表示装置を小型化できるレンズ光学系、並びに該レンズ光学系を用いた画像表示装置およびヘッドアップディスプレイを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、本発明のある態様のレンズ光学系は、物体側より順に、複数の凸レンズが平面状に配置された第1凸レンズ群と、複数の凸レンズが平面状に配置された第2凸レンズ群と、複数の凸レンズが平面状に配置された第3凸レンズ群と、を備える。第1凸レンズ群、第2凸レンズ群、第3凸レンズ群の順に、凸レンズのレンズ径およびレンズピッチが大きく、さらに第1凸レンズ群と第2凸レンズ群との間の距離よりも第2凸レンズ群と第3凸レンズ群との間の距離が長くなるように構成されている。
【0014】
この態様によると、物体から放射状に放出された光を受けた第1凸レンズ群を構成する各第1要素凸レンズは、各第1要素凸レンズの結像面に物体の倒立像をそれぞれ形成する。第2凸レンズ群を構成する各第2要素凸レンズは、この各倒立像の光束を受けて、光束を主光軸方向に曲げる。第3凸レンズ群を構成する各第3要素凸レンズは、この曲げられた各光束を受け、視点から物体までの光路長よりも主光軸上の遠方に切れ目の無い物体の虚像を形成する。また、第1凸レンズ群と第2凸レンズ群との間の距離よりも第2凸レンズ群と第3凸レンズ群との間の距離を長くすることで、第1凸レンズ群に入射した光束が第2凸レンズ群、第3凸レンズ群を通過する際に欠けることを防ぐことができる。そして、第3凸レンズ群の第3要素凸レンズのレンズピッチ、曲率半径、および第2凸レンズ群と第3凸レンズ群との間の距離を調整することで、虚像を主光軸上の任意の位置に形成することができる。この態様によれば、上述した従来技術のように光学系の光路長を大きくとらなくとも、任意の位置に物体の虚像を形成することができるので、ヘッドアップディスプレイなどの画像表示装置を小型化できる。ここで主光軸とは、レンズ光学系の光軸である。また、物体と表示器、および画像表示部は同意である。
【0015】
第1凸レンズ群は、その各第1要素凸レンズの結像面が対応する第2要素凸レンズの主平面に位置するように各第1要素凸レンズの焦点距離を設定しても良い。第1要素凸レンズおよび第2要素凸レンズのレンズピッチはそれぞれ第1凸レンズ群および第2凸レンズ群内で同一にならなくても良い。第1凸レンズ群内でレンズピッチが全て同一である場合は、第2要素凸レンズのレンズピッチは、主光軸から離れるに従って大きくしてもよい。また、第2凸レンズ群内でレンズピッチをすべて同一にする場合は、第1要素凸レンズのレンズピッチを主光軸から離れるに従って小さくしてもよい。ここで第1凸レンズ群および/または第2凸レンズ群内においてレンズピッチが同一でない場合は、1対1対応する近接する2組の第1要素凸レンズと第2要素凸レンズにおいて、それぞれの要素凸レンズ間のレンズピッチは、必ず、第1要素凸レンズ間のレンズピッチよりも第2要素凸レンズ間のレンズピッチの方が大きくなっている。
【0016】
この態様によると、これまで各第1要素凸レンズの像面湾曲によって対応する第2要素凸レンズの主平面よりも第1凸レンズ群側に結像していた物体の倒立像が、第2要素凸レンズの主平面に位置する。各第1要素凸レンズの焦点距離は、主光軸から遠ざかるに従い長くなる。各第2要素凸レンズは、この各倒立像の光束を受けて、主光軸方向に曲げる。第2凸レンズ群は各第2要素凸レンズを平面上に配置した方がレンズ光学系の作製が容易となるが、この場合、第1要素凸レンズおよび/または第2要素凸レンズのレンズピッチはそれぞれ第1凸レンズ群および/または第2凸レンズ群内で同一にならない。
【0017】
この形態によれば、各第2要素凸レンズで曲げることができる各第1要素凸レンズによる物体の倒立像の光束の領域が増えるため、上述のように任意の位置に形成した物体の虚像を広い範囲から視認できるようになる。
【0018】
第1凸レンズ群は、頂点面を物体に対して凹面状に形成しても良い。ここで頂点面とは、個々の第1要素凸レンズの頂点に接する2次曲面のことである。
【0019】
この形態によると、頂点面が平坦の場合に比べて、物体から放射される光線の主光軸から離れた第1要素凸レンズに対する入射断面を増すことができ、物体から放射される光線が入射する第1要素凸レンズの個数を多くできる。この形態によれば、上述のように任意の位置に形成した物体の虚像を明るくすることができる。
【0020】
第3凸レンズ群は、各第3要素凸レンズの結像面が対応する第2要素凸レンズの主平面に位置するように焦点距離を設定しても良い。この場合、第3要素凸レンズおよび/または第2要素凸レンズのレンズピッチはそれぞれ第3凸レンズ群および/または第2凸レンズ群内で同一にならない。
【0021】
この形態によると、これまで各第3要素凸レンズの像面湾曲によって対応する各第2要素レンズの主平面よりも第3凸レンズ群側に結像していた視点の倒立像が、各第2要素凸レンズの主平面に位置する。各第3要素凸レンズの焦点距離は、主光軸から遠ざかるに従い長くなる。各第2要素凸レンズは、各第1要素凸レンズによる物体の倒立像の光束を受ける。そのため、第3要素凸レンズおよび/または第2要素凸レンズのレンズピッチはそれぞれ第3凸レンズ群および/または第2凸レンズ群内で同一にならない。
【0022】
第3凸レンズ群は、頂点面が物体に対して凸面状であっても良い。
【0023】
この形態、つまり各第3要素凸レンズの頂点に接する面が物体に対して凸面状であると、主光軸から離れた第3要素凸レンズから出射される光線が多くなる。
【0024】
この形態によれば、上述のように任意の位置に形成した物体の虚像の明るさを損なうことなく視認できるようになる。ここで視点は眼を言い、視点位置は眼の位置を言う。何れもレンズ光学系を挟んで物体の反対側に位置する。
【0025】
さらに、画像を表示する画像表示部から放出する光線の放射角度を制限する手段を設けても良い。
【0026】
この形態によると、各第1要素凸レンズによる各第2要素凸レンズの主平面への倒立像の結像範囲を制限することができる。この形態によれば、各第1要素凸レンズの像面湾曲によって各第2要素凸レンズの主平面よりも第1凸レンズ群側に倒立像を結像しても、物体の虚像が視認できる範囲を歪みやボケの無い範囲に制限することができる。
【0027】
一方の面に規則的に配置された複数の第1外側凸レンズと、他方の面に規則的に配置された複数の第1内側凸レンズとを有する第1レンズアレイプレートと、一方の面に規則的に配置された複数の第2外側凸レンズと、他方の面に規則的に配置された複数の第2内側凸レンズとを有する第2レンズアレイプレートと、を備え、第1内側凸レンズと第2内側凸レンズが対向するように、第1レンズアレイプレートと第2レンズアレイプレートとが積層されており、複数の第1外側凸レンズが第1凸レンズ群を構成し、第1内側凸レンズと第2内側凸レンズの複数の組が第2凸レンズ群を構成し、複数の第2外側凸レンズが第3凸レンズ群を構成してもよい。第1内側凸レンズと第2内側凸レンズの曲率半径を等しく、また対向するレンズの光軸を一致させてもよい。
【0028】
この場合、2枚のレンズアレイプレートを積層することで上述のレンズ光学系を構成できるので、レンズ光学系を簡易な構造とすることができ、コストを低減することができる。
【0029】
本発明の別の態様は、画像表示装置である。この装置は、画像を表示する画像表示部と、画像表示部からの光を受け、画像の虚像を表示する上述のレンズ光学系とを備える。
【0030】
この態様によると、小型の画像表示装置を構成できる。このような画像表示装置は、たとえばゲーム機に利用することができる。すなわち、画像表示部で表示した画像よりも遠方に、奥行きのある虚像を形成することにより、ゲームの立体感を演出することができる。
【0031】
本発明のさらに別の態様は、ヘッドアップディスプレイである。このヘッドアップディスプレイの一つの形態は、画像を表示する画像表示部と、画像表示部からの光を受けるレンズ光学系と、レンズ光学系からの光を観察者に向けて反射して、観察者の前方に画像の虚像を表示するコンバイナとを備える。画像表示部とレンズ光学系、レンズ光学系とコンバイナとの間に光の方向を変えるミラーを置いても良い。
【0032】
これら態様によると、ヘッドアップディスプレイにおける光学ユニットを小型化することができる。これにより、ダッシュボード内にあまりスペースが確保できない場合であっても、ヘッドアップディスプレイの光学ユニットを収納することが可能となる。
【0033】
なお、以上の構成要素の任意の組合せ、本発明の表現を方法、装置、システム、などの間で変換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0034】
本発明によれば、ヘッドアップディスプレイなどの画像表示装置を小型化できるレンズ光学系、並びに該レンズ光学系を用いた画像表示装置およびヘッドアップディスプレイを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】従来のヘッドアップディスプレイの一例を示す図である。
【図2】凹面鏡による遠方拡大表示の説明図を示す図である。
【図3】従来の別の光学ユニットの一例を示す図である。
【図4】本発明の実施の形態に係るレンズ光学系を説明するための図である。
【図5】本実施の形態に係るレンズ光学系の断面図である。
【図6】図6(a)〜(c)は、本実施の形態に係るレンズ光学系の動作を説明するための図である。
【図7】本実施の形態に係る第3要素凸レンズと光束を説明するための図である。図7(a)はT12=T23の場合、図7(b)はT12<T23の場合を示す。
【図8】本実施の形態に係る放射角度制限手段を説明するための図である。
【図9】本実施の形態に係る第1凸レンズ群の焦点距離調整、レンズ頂点面調整の効果を説明するための図である。
【図10】本実施の形態に係るレンズ光学系を用いたヘッドアップディスプレイ100を説明するための図である。
【図11】本実施の形態に係るレンズ光学系を用いたヘッドアップディスプレイ200を説明するための図である。
【図12】試作した第1の実施例の光学系を示す図である。
【図13】第1の実施例に係るレンズ光学系の諸元を示す図である。
【図14】第1の実施例に係る第1要素凸レンズの焦点距離の分布を示す図である。
【図15】第1の実施例に係るカメラにより撮像された虚像を示す図である。
【図16】第1の実施例の比較例として、第1凸レンズ群の第1要素凸レンズの焦点距離をすべて同一とした場合のレンズ光学系の諸元を示す図である。
【図17】第1の実施例において、第1要素凸レンズの焦点距離調整の有無により視認される虚像の変化を示した図である。図17(a)〜(c)に焦点距離調整をした場合、図17(d)〜(f)に焦点距離調整をしなかった場合にカメラにより撮像された虚像を示す。
【図18】第1の実施例において、第1要素凸レンズの焦点距離調整の有無により視認される虚像の変化の結果を表した図である。
【図19】図17および図18に示した虚像の撮像における、虚像54のカメラによる撮像位置と光軸74の関係を説明した図である。
【図20】試作した第2の実施例の光学系を示す図である。
【図21】第2の実施例に係るカメラにより撮像された虚像を示す図である。
【符号の説明】
【0036】
10 レンズ光学系、 12 第1レンズアレイプレート、
14 第2レンズアレイプレート、 20 第1凸レンズ群、 21 第1要素凸レンズ、 22
第2凸レンズ群、 23 第2要素凸レンズ、 24 第3凸レンズ群、 25 第3要素凸レンズ、
30 画像表示部、 32 フロントウィンドウ、 33 光路変更ミラー、 34 コンバイナ、 40
物体、 42 虚像、 44 視点、 52 画像、 54 虚像、 60
カメラ、 62 目印、 100 ヘッドアップディスプレイ。
【発明を実施するための形態】
【0037】
図4は、本発明の実施の形態に係るレンズ光学系10を説明するための図である。図4に示すように、レンズ光学系10は、複数の凸レンズが両面に形成された第1レンズアレイプレート12と第2レンズアレイプレート14とが積層された構造となっている。図4では、第2レンズアレイプレート14の第2外側面14c上に、複数の第2外側凸レンズ14aが配置されている様子が示されている。
【0038】
レンズ光学系10は、第1レンズアレイプレート12の第1外側面12c側である物体側に位置する物体40からの光を受けて、第2レンズアレイプレート14の第2外側面14c側である観察側に位置する観察者の視点44に、虚像42を表示するものである。虚像42は、観察者の視点44から物体40までの光路長よりも遠方に形成される。本実施の形態に係るレンズ光学系10を用いることにより、たとえばヘッドアップディスプレイなどの、観察者に虚像を表示する画像表示装置を構成することができる。
【0039】
図5は、本実施の形態に係るレンズ光学系10の断面図である。上述したように、レンズ光学系10は、両面に複数の凸レンズが配置された第1レンズアレイプレート12と、第2レンズアレイプレート14とが積層された構造となっている。すなわち、第1レンズアレイプレート12の一方の面である第1外側面12c上には、複数の第1外側凸レンズ12aが規則的に配置されており、他方の面である第1内側面12d上には、複数の第1内側凸レンズ12bが規則的に配置されている。また、第2レンズアレイプレート14の一方の面である第2外側面14c上には、複数の第2外側凸レンズ14aが規則的に配置されており、他方の面である第2内側面14d上には、複数の第2内側凸レンズ14bが規則的に配置されている。第1レンズアレイプレート12と第2レンズアレイプレート14は、第1内側凸レンズ12bと第2内側凸レンズ14bとが対向するように積層されている。
【0040】
第1外側面12c、第1内側面12d、第2外側面14cおよび第2内側面14d上において、第1外側凸レンズ12a、第1内側凸レンズ12b、第2外側凸レンズ14aおよび第2内側凸レンズ14bは、それぞれ最密充填配列で配置されている。図4には、第2レンズアレイプレート14の第2外側面14c上に、第2外側凸レンズ14aが最密充填配列で配置されている様子が示されている。
【0041】
本実施の形態において、平面状に配置された複数の第1外側凸レンズ12aは、第1凸レンズ群20を構成している。以下においては適宜、第1外側凸レンズ12aを「第1要素凸レンズ21」と称する。
【0042】
平面状に配置された第1内側凸レンズ12bと第2内側凸レンズ14bは、同一のレンズ径であり、対向する第1内側凸レンズ12bと第2内側凸レンズ14bは、光軸が一致し、且つ凸レンズの表面同士が当接するように配置されている。このように配置された第1内側凸レンズ12bと第2内側凸レンズ14bの1つの組は、1つの凸レンズとして機能する。従って、以下においては適宜、対向する第1内側凸レンズ12bと第2内側凸レンズ14bの組を「第2要素凸レンズ23」として扱う。そして、複数の第2要素凸レンズ23は、第2凸レンズ群22を構成している。
【0043】
また、平面状に配置された複数の第2外側凸レンズ14aは、第3凸レンズ群24を構成している。以下においては適宜、第2外側凸レンズ14aを「第3要素凸レンズ25」と称する。
【0044】
また、平面状に配置された第1凸レンズ群20と第2凸レンズ群22の間の距離をT12、第2凸レンズ群22と第3凸レンズ群24の間の距離をT23と称する。
【0045】
本実施の形態においては、第1凸レンズ群20、第2凸レンズ群22、第3凸レンズ群24の順に、凸レンズのレンズ径およびレンズピッチが大きくなるように構成され、第1凸レンズ群20と第2凸レンズ群22の距離よりも第2凸レンズ群22と第3凸レンズ群24の距離が長くなるように構成されている。
【0046】
すなわち、第1要素凸レンズ21のレンズ径d<第2要素凸レンズ23のレンズ径d<第3要素凸レンズ25のレンズ径d、且つ、第1要素凸レンズ21のレンズピッチp<第2要素凸レンズ23のレンズピッチp<第3要素凸レンズ25のレンズピッチp、且つ、T23>T12となるように構成されている。なお、本実施の形態において、レンズピッチとは、最も近接する2つのレンズの中心間の距離である。また、レンズ径とは、レンズとしての機能を有する部分の外接円の直径である。
【0047】
また、本実施の形態において、第1凸レンズ群20は、その各第1要素凸レンズ21の結像面が対応する各第2要素凸レンズ23の主平面に位置するように、個々の第1要素凸レンズ21に主光軸に対して同心円状に焦点距離の分布が設けられており、第2凸レンズ群22の第2要素凸レンズ23は、第1凸レンズ群20の個々の第1要素凸レンズ21を通った光束を主光軸の方向に曲げるように配置されている。
【0048】
図5は第1凸レンズ群の各第1要素凸レンズ21を一定(同一)のレンズピッチで配列した場合を示しており、この場合、第2要素凸レンズ23、第3要素凸レンズ25は各凸レンズ群の平面内において、主光軸から離れるに従ってレンズピッチが大きくなるように各レンズが配列されている。図5において第2要素凸レンズ23の主平面とは、第1内側凸レンズ12bと第2内側凸レンズ14bとの接点が位置している平面である。また、図5においては、各第2要素凸レンズ23の主平面は全て同一の平面上に位置している。
【0049】
第2要素凸レンズ23および第3要素凸レンズ25のレンズピッチがその各凸レンズ群の平面内で同一でない時は、対応する各第1要素凸レンズ21、第2要素凸レンズ23および第3要素凸レンズ25の組を考えた場合に、近接する2組の各要素凸レンズ間のレンズピッチは、必ず、第1要素凸レンズ間のレンズピッチP<第2要素凸レンズ間のレンズピッチP<第3要素凸レンズ間のレンズピッチPとなる。
【0050】
また、本実施の形態においては、第1凸レンズ群20の個々の凸レンズ12aは、主光軸に対して同心円状、物体に対して凹面状の頂点面が設けられている。
【0051】
第1レンズアレイプレート12および第2レンズアレイプレート14は、射出成形により形成される。第1レンズアレイプレート12および第2レンズアレイプレート14の材質は、射出成形に使用可能で、必要な波長帯域の光に対して光透過性が高く、吸水性の低いものが望ましい。望ましい材質としては、シクロオレフィン系樹脂や、オレフィン系樹脂、ノルボルネン系樹脂、ポリカーボネートなどを例示することができる。
【0052】
図6(a)〜(c)は、本実施の形態に係るレンズ光学系10の動作を説明するための図である。図6(a)は、物体40を距離Dだけ離れた位置から両眼で観察すると、観察者(視点)44は、物体40を距離Dの位置に視認できることを示している。
【0053】
ここで、図6(b)に示すように、物体40と観察者の視点44との間にレンズ径およびレンズピッチの異なる第1凸レンズ群20と第3凸レンズ群24を所望の間隔で配置し、物体40からの光を、第1凸レンズ群20の各第1要素凸レンズ21から放射される光束に分けて考える。ここで、第1凸レンズ群20と第3凸レンズ群24との間隔は、物体40から放射される光束が、角度変化なく第3凸レンズ群24から出射し、物体40から第1凸レンズ群20の個々の第1要素凸レンズ21に張った光線角度に整合するように決める。
【0054】
図6(b)のような構成の場合、物体40から放射状に放出された光を受けた第1凸レンズ群20の各第1要素凸レンズ21は、各第1要素凸レンズ21の結像面に倒立像(要素画像とも呼ぶ)を形成する。第3凸レンズ群24の各第3要素凸レンズ25は、この各要素画像の各光束を受けて、観察者に向けて放出する。観察者がこのような放射光線を両眼で観察すると、物体40は、観察者の視点44から距離Dの位置に反転して視認できる。
【0055】
次いで、図6(c)に示すように、第1凸レンズ群20と第3凸レンズ群24の間に、第1凸レンズ群20よりレンズ径およびレンズピッチが大きく、第3凸レンズ群24よりレンズ径およびレンズピッチが小さく、第1凸レンズ群20と第2凸レンズ群22の距離よりも第2凸レンズ群22と第3凸レンズ群24の距離が長くなるように、しかも第1凸レンズ群20、第3凸レンズ群24よりも屈折力の大きな第2凸レンズ群22を追加する。第2凸レンズ群22の各第2要素凸レンズ23は、上述したように、その主平面が各第1要素凸レンズ21の結像面に位置するように配置される。
【0056】
第2凸レンズ群22の各第2要素凸レンズ23は、各要素画像の結像に寄与した各光束を、各第2要素凸レンズ23の光軸方向に曲げる。このように第2凸レンズ群22の各第2要素凸レンズ23により光束が曲げられることにより、観察者は、曲げられた光束の視点から反対方向の主光軸の延長線上に、虚像である観察像42を観ることができる。第3要素凸レンズ25のレンズピッチと曲率半径、および第2凸レンズ群22と第3凸レンズ群24の距離を調整することで、観察像42を任意の位置D’に結像させることができる。もちろん、物体40と第1凸レンズ群20の距離Eを変更することにより、観察像42の倍率と虚像位置D‘を変化させることができる。
【0057】
つまり、第1凸レンズ群20により、高品位な倒立像を形成し、第2要素凸レンズ23と第3要素凸レンズ25のレンズピッチ、曲率半径、第2凸レンズ群22と第3凸レンズ群24の距離、および位置を調整して、倒立像を読み出すことで、任意の位置に虚像42を結像することが可能となり、視差と視度の両立を図ることができる。ここで観察者と観察者の視点、および視点は44で同意であり、視点は眼を言う。
【0058】
第1凸レンズ群20と第2凸レンズ群22の距離T12、および第2凸レンズ群22と第3凸レンズ群24の距離T23について言えば、第1要素凸レンズ21と第3要素凸レンズ25を通る光束の断面積に比例してT23>T12にする。
【0059】
図7は本実施の形態に係る第3凸レンズ群24における第3要素凸レンズ25の光束を説明するための図である。図7(a)はT23=T12のときのレンズ光学系の光束の広がり、図7(b)はT23>T12のときのレンズ光学系の光束の広がりをそれぞれ示したものである。図7(a)に示すように、T23=T12のときは第3凸レンズ群から観察者に向けて出射される光束は離散的で間が開いたものになるのに対し、図7(b)に示すようにT23>T12にすることで第3凸レンズ群から観察者に向けて出射される光束は連続的になることが判る。光束が離散的になった場合は、虚像54が点状物を寄せ集めた見にくいものになるのに対し、光束を連続的にすることで、滑らかな見やすい虚像とすることができる。
【0060】
図8は本実施の形態に係る放射角度制限手段を説明するための図である。図8(a)のように、物体40から放出される光線の放射角度を制限する手段Fを設けることで、第1凸レンズ群20の各第1要素凸レンズ21による第2凸レンズ群22の各第2要素凸レンズ23の主平面を繋いだ平面13へ倒立像が結像する範囲を制限することができる。この形態によれば、第1凸レンズ群20の各第1要素凸レンズ21の像面湾曲があり、第2凸レンズ群22の各第2要素凸レンズ23の主平面を繋いだ平面13よりも第1凸レンズ群側に倒立像が結像したとしても(各第1要素凸レンズ21の結像面を繋いだ面が面71)、任意の位置に形成した物体の虚像を歪みやボケなく視認することができる。放射角度制限手段とは、物体(画像表示部)から放出する光線の広がりを規制するものである。つまり、虚像が見える範囲を制限するものであり、視野制限板F以外では、例えば、点光源36を用いて物体40を表示する画像表示部30の場合に、点光源36から出射される光の光路上にレンズ65を設置した場合のレンズ65が放射角度制限手段に相当する
【0061】
図9は本実施の形態に係るレンズ光学系10の結像面、主平面、焦点距離分布、および頂点面を説明するための図である。
【0062】
図9(a)のように、物体40と各第1要素凸レンズ21との位置関係から成る各第1要素凸レンズ21の結像面を繋いだ面71は、各第1要素凸レンズ21の像面湾曲のために主光軸72から離れるに従い各第2要素凸レンズ23の主平面を繋いだ平面13よりも第1凸レンズ群20側に位置するため、第2要素凸レンズ23の主平面を繋いだ平面13の位置では倒立像がボケる。
【0063】
上述したように、個々の第1要素凸レンズ21の焦点距離が第2要素凸レンズ23の主平面を繋いだ面13に位置するように調整すると、各第1要素凸レンズ21の結像面と第2要素凸レンズ23の主平面が広範囲に一致することで、良好な虚像が広範囲な視点から観察することができるようになる(図9(b))。
【0064】
また、図9(b)のように個々の第1要素凸レンズ21の頂点に接する面を主光軸72に対して、物体側に凹面状に形成する。つまり、第1要素凸レンズ21のレンズ高さを主光軸72に対して同心円状で、物体40側に凹面状になるように高くすることで、主光軸72から離れた凸レンズに入射できる光線が多くなり、視点の位置に依ることなく、任意の位置に形成した物体40の虚像を明るく視認できるようになる。
【0065】
上記では放射角度制限手段Fと第1要素凸レンズの焦点距離の調整について別々に記載したが、これらは別々に用いられてもよく、また併用して用いられてもよい。
【0066】
このように、本実施の形態に係るレンズ光学系10によれば、物体40と第1凸レンズ群20との距離Eを大きくとらなくても、任意の位置に物体40の虚像42を形成することができるので、ヘッドアップディスプレイなどの画像表示装置を小型化できる。
【0067】
図10は、本実施の形態に係るレンズ光学系10を用いた第1のヘッドアップディスプレイ100を説明するための図である。このヘッドアップディスプレイ100は、画像表示部30と、上述したレンズ光学系10と、コンバイナ34とを備える。レンズ光学系10と画像表示部30は、ヘッドアップディスプレイ100の光学ユニットを構成し、たとえば車両のダッシュボード内に収納される。
【0068】
画像表示部30は、たとえば液晶ディスプレイで構成され、図示しない画像処理部からの信号に基づいて、車速、燃料残量などの情報を画像52として表示する。
【0069】
レンズ光学系10は、第1レンズアレイプレート12の第1外側面12cが画像表示部30の表面と対向するように配置される。画像表示部30から出射された光は、第1凸レンズ群20に入射した後、第2凸レンズ群22を通って第3凸レンズ群24より出射される。レンズ光学系10は、第3凸レンズ群24から出射した光がフロントウィンドウ32に対して所定の入射角、たとえば45度の入射角で入射するように配置される。
【0070】
コンバイナ34は、フロントウィンドウ32の表面に形成された反射膜であり、レンズ光学系10から出射された光を運転者(視点)44に向けて反射する。運転者は、視点からコンバイナ34までの光路の延長線上に、画像52の虚像54を視認することができる。
【0071】
ここで、画像表示部30からレンズ光学系10の第1凸レンズ群20までの距離をD1、レンズ光学系10の第3凸レンズ群24からコンバイナ34までの距離をD2、コンバイナ34から運転者の視点44までの距離をD3、コンバイナ34から虚像54までの距離をD4とする。このとき、運転者の視点44から画像52までの光路長は、D1+D2+D3である。また、運転者の視点44から虚像54までの光路長は、D3+D4である。本実施の形態に係るレンズ光学系10は、図3において説明したのと同様に、運転者の視点44から虚像54までの光路長D3+D4を、運転者の視点44から画像52までの光路長D1+D2+D3よりも長くすることができる。
【0072】
運転者の視点44が車両前方の風景と虚像54とを重ね合わせて視認することができるように、虚像54は、車両前方の出来るだけ遠方に形成されることが好ましい。たとえば、コンバイナ34から虚像54までの距離D4は、1m程度を確保することが望ましい。図3に示すような従来のヘッドアップディスプレイの光学ユニットでは、コンバイナから虚像までの距離を1m確保するためには、画像から凹面鏡までの光路長を1m確保する必要があった。この場合、光学ユニットを小型化することは難しい。しかしながら、本実施の形態に係るレンズ光学系10を用いてヘッドアップディスプレイ100を構成することにより、距離D1+D2を距離D4よりも小さくすることができる。従って、光学ユニット内においてそれほど大きな光路長を確保する必要がないため、光学ユニットを小型化することができる。
【0073】
図11は、本実施の形態に係るレンズ光学系10を用いた第2のヘッドアップディスプレイ200を説明するための図である。このヘッドアップディスプレイ200は、画像表示部30と、上述したレンズ光学系10と、光路変更ミラー33と、コンバイナ34とを備える。レンズ光学系10、画像表示部30および光路変更ミラー33は、ヘッドアップディスプレイ200の光学ユニットを構成し、たとえば車両のダッシュボード内に収納される。
【0074】
レンズ光学系10は、第1レンズアレイプレート12の第1外側面12cが画像表示部30の表面と対向するように配置される。画像表示部30から出射された光は、第1凸レンズ群20に入射した後、第2凸レンズ群22を通って第3凸レンズ群24より出射される。レンズ光学系10は、第3凸レンズ群24から出射した光が光路変更ミラー33に反射させてフロントウィンドウ32に対して所定の入射角、たとえば45度の入射角で入射するように配置される。
【0075】
コンバイナ34は、フロントウィンドウ32の表面に形成された反射膜であり、レンズ光学系10から出射された光を運転者に向けて反射する。運転者は、視点44からコンバイナ34までの光路の延長線上に、画像52の虚像54を視認することができる。
【0076】
ここで、画像表示部30からレンズ光学系10の第1凸レンズ群20までの距離をD1、レンズ光学系10の第3凸レンズ群24から光路変更ミラー33までの距離をD5、光路変更ミラー33からコンバイナ34までの距離をD6、コンバイナ34から運転者の視点44までの距離をD3、コンバイナ34から虚像54までの距離をD4とする。このとき、運転者の視点44から画像52までの光路長は、D1+D5+D6+D3である。また、運転者の視点44から虚像54までの光路長は、D3+D4である。本実施の形態に係るレンズ光学系10は、図3において説明したのと同様に、運転者の視点44から虚像54までの光路長D3+D4を、運転者の視点44から画像52までの光路長D1+D5+D6+D3よりも長くすることができる。
【0077】
運転者の視点44が車両前方の風景と虚像54とを重ね合わせて視認することができるように、虚像54は、車両前方の出来るだけ遠方に形成されることが好ましい。たとえば、コンバイナ34から虚像54までの距離D4は、1m程度を確保することが望ましい。図3に示すような従来のヘッドアップディスプレイの光学ユニットでは、コンバイナから虚像までの距離を1m確保するためには、画像から凹面鏡までの光路長を1m確保する必要があった。この場合、光学ユニットを小型化することは難しい。しかしながら、本実施の形態に係るレンズ光学系10を用いてヘッドアップディスプレイ200を構成することにより、距離D1+D5+D6を距離D4よりも小さくすることができる。
【0078】
ヘッドアップディスプレイ200によれば、ヘッドアップディスプレイ100のレンズ光学系10とコンバイナ34の間に光路変更ミラー33を追加したのみと考えられるが、
このミラーを追加することで、ヘッドアップディスプレイの高さをより低くできる。
【0079】
また、本実施の形態に係るヘッドアップディスプレイ100、200によれば、非常に簡易な構成により、画像表示部30に表示された画像52の虚像54を遠方に表示できる。奥行き感のある画像を形成する装置としては、従来より、映像投影系の結像位置にレンチキュラスクリーンを配置し、両眼視差を含んだ画像をそれぞれ左右の眼に空間的に分離して提示する装置がある。しかしながら、このような装置では、両眼視差を含んだ左右の画像を観察者の頭の中で合成して奥行き感を得るものであるので、奥行き感のある画像を認識するのに疲労感を伴ってしまう。しかしながら、本実施の形態に係るヘッドアップディスプレイ100および200では、両眼視差を含んだ左右の画像を観察者の頭の中で合成するような作業は必要なく、容易に奥行き感のある虚像54を視認できるため、観察者が疲労感を感じることはない。
【実施例】
【0080】
次に、本実施の形態に係るヘッドアップディスプレイ100を実際に試作した第1の実施例について説明する。図12は、ヘッドアップディスプレイ100を試作した第1の実施例の光学系を示す図である。図13は第1の実施例において用いたレンズ光学系10の諸元を示す図である。第1の実施例においては、図10の視点44の位置にカメラ60を置き、また、虚像52が形成される位置に目印62を置いた。
【0081】
図12に示すように、第1の実施例においては、画像表示部30から第1凸レンズ群20までの距離D1=130mm、第3凸レンズ群24からコンバイナ34までの距離D2=100mm、コンバイナ34からカメラ60までの距離D3=1000mm、コンバイナ34から目印62までの距離D4=1000mmと設定した。
【0082】
また、図13に示すように、第1要素凸レンズ21を曲率半径=0.584〜0.681mm(焦点距離によって変更)、レンズピッチ=0.662mmと設定した。ここで各第1要素凸レンズ21の焦点距離分布は図14のように設定した。各第1要素凸レンズ21の焦点距離は主光軸72(図示せず)から離れるに従って同心円状に長くなっている。第2凸レンズ群22を構成する第1内側凸レンズ12bおよび第2内側凸レンズ14bの曲率半径を0.497mmとし、レンズピッチを主光軸から離れるに従って0.665mmから0.666mmまで増加させた。また、第3要素凸レンズ25は、曲率半径を1.042mmとし、レンズピッチを主光軸から離れるに従って0.667mmから0.668mmまで増加させた。第1レンズアレイプレート12の厚みを1.405mm、第2レンズアレイプレート14の厚みを2.999mmと設定した。なお、全てのレンズの屈折率は、1.56である。
【0083】
このように構成された第1の実施例において、大きさが1インチ対角の文字「180Km/h」を画像表示部30に表示し、カメラ60によって形成された虚像を撮像した。図15は、カメラ60により撮像された虚像54を示す図である。図15に示すように、目印62を設置した位置に虚像54が形成できていることが分かる。虚像の大きさは、元の像52の約3倍に拡大されていた。
【0084】
このように第1の実施例より、画像表示部30から第1凸レンズ群20までの距離D1を130mm、第3凸レンズ群24からコンバイナまでの距離D2を100mmと短くしても、コンバイナ34から距離D4=1000mmの位置に視差と視度を持った虚像54を表示できることが判り、ヘッドアップディスプレイ100の光学ユニットをコンパクトにしかも低コストに構成できることが分かった。
【0085】
図16に第1の実施例に対する比較例として、第1要素凸レンズ21の焦点距離が第1凸レンズ群20内全て同一である場合のレンズ光学系の諸元を示す。第1凸レンズ群20を構成する第1外側凸レンズ12aは、曲率半径=0.584mm、レンズピッチ=0.662mmとし、第2凸レンズ群22を構成する第1内側凸レンズ12bおよび第2内側凸レンズ14bは、曲率半径=0.497mm、レンズピッチ=0.665mmとし、第3凸レンズ群24を構成する第2外側凸レンズ14aは、曲率半径=1.042mm、レンズピッチ=0.668mmと設定した。第1レンズアレイプレート12の厚みは1.405mm、第2レンズアレイプレート14の厚みは2.999mmと設定した。なお、レンズの屈折率は、全ての凸レンズにおいて1.56である。図16においては、各第1要素凸レンズ21の焦点距離は第1凸レンズ群内において同一であり、第2要素凸レンズ23および第3要素凸レンズ25のレンズピッチは各凸レンズ群内で同一となっている。
【0086】
図17に、第1要素凸レンズ21に焦点距離分布を付けた場合(第1の実施例)と付けなかった場合(比較例)において、虚像の見え方がどのように異なるかを観察した結果を示す。図17において観察した時のカメラの設置位置60は、図19に示すとおり、(1)図12におけるカメラの位置、すなわち光軸74(レンズ光学系72の主光軸72を進む光がコンバイナ34にて反射されて進む光軸)上、(2)光軸74の(1)の位置から、光軸74に対して垂直方向(フロントウィンドウに対して横方向)に30mm離れた位置、(3)光軸74に対して垂直方向に60mm離れた位置、である。
【0087】
図17においては、図17(a)〜(c)が第1要素凸レンズ21に焦点距離分布を設けた場合(実施例)の結果を示しており、図17(d)〜(f)が焦点距離分布を設けなかった場合(比較例)の結果を示している。(a)と(d)は上記(1)の位置で、(b)と(e)は上記(2)の位置で、(c)と(f)は上記(3)の位置で撮像した結果を示す。
【0088】
図17の観察結果をまとめたものが図18である。焦点距離分布を設けた場合は光軸74から60mmはなれても虚像54をはっきりと視認できるのに対し(○で表示)、第1要素凸レンズ21の焦点距離を全て一定にした場合では光軸74から30mmはなれた場合ですでに虚像54がボケ(△で表示)、60mmはなれた場合は視認が難しくなっていることがわかる(×で表示)。
【0089】
第1凸レンズ群20を構成する各第1要素凸レンズ21の結像面が対応する各第2要素凸レンズ23の主平面に位置するように、各第1要素凸レンズ21に焦点距離分布を設け、それに伴って、第2要素凸レンズ23および第3要素凸レンズ25のレンズピッチの調整を行うことにより、光軸74から離れた位置においても虚像54を視認することが可能となる。よって、ヘッドアップディスプレイ100の視域を広げることができる。
【0090】
図20は、ヘッドアップディスプレイ200を試作した第2の実施例の光学系を示す図である。第2の実施例においては、図11の視点44の位置にカメラ60を置き、また、虚像54が形成される位置に目印62を置いている。
【0091】
図20に示すように、第2の実施例においては、画像表示部30から第1凸レンズ群20までの距離D1=130mm、第3凸レンズ群24から光路変更ミラー33までの距離D5=50mm、光路変更ミラー33からコンバイナ34までの距離D6=100mm、コンバイナ34からカメラ60までの距離D3=1000mm、コンバイナ34から目印62までの距離D4=1000mmと設定した。
【0092】
このように構成された第2の実施例において、大きさが1インチ対角の文字「180Km/h」を画像表示部30に表示し、カメラ60によって形成された虚像54を撮像した。図21は、カメラ60により撮像された虚像54を示す図である。図21に示すように、光路変更用ミラー33を設けた場合においても目印62を設置した位置に虚像54が形成されていることが分かる。
【0093】
第2の実施例においては、図12に示した第1の実施例に比べてレンズ光学系10からコンバイナ34までの距離が50mm増えているため、虚像の大きさは若干小さくなり、拡大倍率は約2.8倍であった。
【0094】
第2の実施例に示したとおり、光路変更ミラー33を用いることで、光学ユニットの高さを決定する第1の実施例の画像表示部30から第1凸レンズ群20までの距離D1=130mmと第3凸レンズ群24からコンバイナまでの距離D2=100mmを足した230mmが、第2の実施例においてはレンズ光学系10の幅W(約60mm)の半分と光路変更用ミラー33とコンバイナ34までの距離D6=100mmを足した130mmと短くなり、もってヘッドアップディスプレイ200の高さをヘッドアップディスプレイ100に比べて低くすることができた。
【0095】
以上、本発明を実施の形態をもとに説明した。この実施の形態は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組合せにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
物体側より順に、複数の凸レンズが平面状に配置された第1凸レンズ群と、複数の凸レンズが平面状に配置された第2凸レンズ群と、複数の凸レンズが平面状に配置された第3凸レンズ群と、を備え、
前記第1凸レンズ群、前記第2凸レンズ群、前記第3凸レンズ群の順に、前記凸レンズのレンズ径およびレンズピッチが大きくなるように構成されたレンズ光学系であって、
前記第2凸レンズ群と前記第3凸レンズ群との間の距離は、前記第1凸レンズ群と前記第2凸レンズ群との間の距離よりも長くなるように構成されていることを特徴とするレンズ光学系。
【請求項2】
前記第1凸レンズ群を構成する第1要素凸レンズと、前記第2凸レンズ群を構成する第2要素凸レンズとが1対1に対応しており、前記第1要素凸レンズの結像面が対応する前記第2要素凸レンズの主平面に位置するように、前記第1要素凸レンズの焦点距離が設定されていることを特徴とする請求項1に記載のレンズ光学系。
【請求項3】
前記第2要素凸レンズの前記レンズピッチが、主光軸から離れるに従って大きくなることを特徴とする請求項1または2に記載のレンズ光学系。
【請求項4】
前記第1要素凸レンズの前記レンズピッチが、主光軸から離れるに従って小さくなることを特徴とする請求項1または2に記載のレンズ光学系。
【請求項5】
前記第3凸レンズ群を構成する第3要素凸レンズと、前記第2凸レンズ群を構成する第2要素凸レンズとが1対1に対応しており、前記第3要素凸レンズの結像面が対応する前記第2要素凸レンズの主平面に位置するように、前記第3要素凸レンズの焦点距離が設定されていることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のレンズ光学系。
【請求項6】
一方の面に規則的に配置された複数の第1外側凸レンズと、他方の面に規則的に配置された複数の第1内側凸レンズとを有する第1レンズアレイプレートと、
一方の面に規則的に配置された複数の第2外側凸レンズと、他方の面に規則的に配置された複数の第2内側凸レンズとを有する第2レンズアレイプレートと、を備え、
前記第1内側凸レンズと前記第2内側凸レンズが対向するように、前記第1レンズアレイプレートと前記第2レンズアレイプレートとが積層されており、
前記複数の第1外側凸レンズが前記第1凸レンズ群を構成し、前記第1内側凸レンズと前記第2内側凸レンズの複数の組が前記第2凸レンズ群を構成し、前記複数の第2外側凸レンズが前記第3凸レンズ群を構成することを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載のレンズ光学系。
【請求項7】
前記第1内側凸レンズと前記第2内側凸レンズは前記レンズ径が等しく、対向する前記第1内側凸レンズと前記第2内側凸レンズの光軸が一致していることを特徴とする請求項6に記載のレンズ光学系
【請求項8】
画像を表示する画像表示部と、
前記画像表示部からの光を受け、前記画像の虚像を表示する請求項1から7のいずれかに記載のレンズ光学系と、
を備えることを特徴とする画像表示装置。
【請求項9】
画像を表示する前記画像表示部は、放出する光線の放射角度を制限する手段が設けられていることを特徴とする請求項8に記載されている画像表示装置。
【請求項10】
画像を表示する画像表示部と、
前記画像表示部からの光を受ける請求項1から7のいずれかに記載のレンズ光学系と、
前記レンズ光学系からの光を観察者に向けて反射して、観察者の前方に前記画像の虚像を表示するコンバイナと、
を備えることを特徴とするヘッドアップディスプレイ。
【請求項11】
画像を表示する画像表示部と、
前記画像表示部からの光を受ける請求項1から7のいずれかに記載のレンズ光学系と、
前記レンズ光学系からの光をコンバイナに向けて反射するミラーと、
前記ミラーからの光を観察者に向けて反射して、観察者の前方に前記画像の虚像を表示する前記コンバイナと、
を備えることを特徴とするヘッドアップディスプレイ。
【請求項12】
画像を表示する前記画像表示部は、放出する光線の放射角度を制限する手段が設けられていることを特徴とする請求項10または11に記載されているヘッドアップディスプレイ。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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