レンズ及びレンズの製造方法
【課題】汚れの付着と曇りの発生とを防止できるレンズ及びレンズの製造方法を提供する。
【解決手段】
レンズ1は、レンズ基材11と、このレンズ基材11に設けられた反射防止層13とを備え、反射防止層13に撥水部14と親水部30とが異なる位置に設けられている。レンズ1の製造方法は、レンズ基材11の表面に反射防止層13と撥水部14とを順に設ける積層工程と、撥水部14の表面に、その厚さ方向で少なくとも反射防止層13の一部に亘って穴部20を形成する穴部形成工程と、穴部20における反射防止層13の内面131に親水部30を形成する親水工程と、を備える。
【解決手段】
レンズ1は、レンズ基材11と、このレンズ基材11に設けられた反射防止層13とを備え、反射防止層13に撥水部14と親水部30とが異なる位置に設けられている。レンズ1の製造方法は、レンズ基材11の表面に反射防止層13と撥水部14とを順に設ける積層工程と、撥水部14の表面に、その厚さ方向で少なくとも反射防止層13の一部に亘って穴部20を形成する穴部形成工程と、穴部20における反射防止層13の内面131に親水部30を形成する親水工程と、を備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レンズ及びレンズの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、眼鏡レンズやカメラレンズなどの表面は、手垢、指紋、汗、化粧料等が付着することで、汚れが目立ちやすく、またその汚れが取れ難いという問題がある。そのため、汚れ難く、あるいは汚れを拭き取りやすくするために、レンズの表面に防汚層として撥水部を設けることがある(特許文献1)。
また、レンズの表面で大気中に含まれる水蒸気が凝結すると、曇りが発生する。そのため、レンズの表面に防曇層として親水部を設けることもある(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−3817号公報
【特許文献2】特開2005−224791号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載のレンズは、汚れの付着を防止するが、曇りの発生を防止する構成は有していない。
一方、特許文献2に記載のレンズは、曇りの発生を防止するが、汚れの付着を防止する構成は有していない。
【0005】
そこで、本発明の目的は、汚れの付着と曇りの発生とを防止できるレンズ及びレンズの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のレンズは、レンズ基材と、このレンズ基材に設けられた反射防止層とを備えるレンズであって、前記反射防止層に撥水部と親水部とが異なる位置に設けられていることを特徴とする。
この構成の発明では、従来レンズの表面に設けられていた撥水層と同じ材料からなる撥水部を反射防止層に設けるとともに、従来レンズの表面に設けられていた親水層と同じ材料からなる親水部を反射防止層に設ける。
即ち、撥水部と親水部とはそれぞれ反射防止層と馴染みやすいので、撥水部と親水部とを異なる位置で反射防止層に密着させることができる。これにより、汚れの付着と曇りの発生とを防止できるレンズとすることができる。
【0007】
また、本発明では、前記反射防止層の表面には、前記撥水部が設けられ、前記撥水部の表面には、その厚さ方向で少なくとも前記反射防止層の一部に亘って穴部が設けられ、前記穴部における前記反射防止層の内面に前記親水部が設けられていることが好ましい。
この構成の発明では、反射防止層の表面に撥水部を設け、反射防止層の内面に親水部を設けることにより、撥水部と親水部とが互いに阻害することなく、いずれも反射防止層に安定して密着させることができる。
【0008】
そして、本発明では、前記穴部における前記レンズ基材側の底面は、前記反射防止層に位置していることが好ましい。
この構成の発明では、穴部の底面を反射防止層に位置させることにより、反射防止層に積極的に親水部を設けることができる。これにより、十分に曇りの発生を防止できる。
【0009】
さらに、本発明では、前記反射防止層の内面全体に、前記親水部が設けられていることが好ましい。
この構成の発明では、反射防止層の内面に全体的に親水部を設けることにより、さらに曇りの発生を良好に防止できる。
【0010】
また、本発明では、前記穴部の深さは、0.3μm以上1μm以下であることが好ましい。
この構成の発明では、0.3μm以上とすることにより、曇りの発生を良好に防止できる。一方、1μm以下とすることにより、良好な透明性を確保できる。
【0011】
本発明のレンズの製造方法は、レンズ基材の表面に反射防止層と撥水部とを順に設ける積層工程と、前記撥水部の表面に、その厚さ方向で少なくとも前記反射防止層の一部に亘って穴部を形成する穴部形成工程と、前記穴部における前記反射防止層の内面に親水部を形成する親水工程と、を備えることを特徴とする。
この構成の発明では、部分的に撥水部を除去して穴部を形成することにより、撥水部に阻害されること無く、穴部の内部に親水部を形成できる。よって、汚れの付着と曇りの発生を防止できるレンズを得ることができる。
【0012】
ここで、本発明では、前記穴部形成工程は、前記撥水部の表面に、紫外線パルスレーザーを照射して前記穴部を形成することが好ましい。
この構成の発明では、比較的強度の弱い紫外線パルスレーザーにより穴部を形成するため、穴部が必要以上に拡がって、レンズの光学特性が低下することを抑制できる。
【0013】
また、本発明では、前記親水工程は、浸漬法により、前記親水部を形成することが好ましい。
この構成の発明では、浸漬法により、穴部の内面に全体的に親水部を形成できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係る実施形態のレンズを示す断面図である。
【図2】前記レンズを示す平面図である。
【図3】(A)前記レンズの製造方法における積層工程を説明するためのレンズの断面図である。(B)前記レンズの製造方法における穴部形成工程を説明するためのレンズの断面図である。(C)レンズの製造方法における親水工程を説明するためのレンズの断面図である。
【図4】前記レンズを構成する反射防止層と撥水部との関係を説明するための図である。
【図5】前記反射防止層と親水部との関係を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明に係る実施形態のレンズについて図1,2を用いて説明する。図1は、本発明に係る実施形態のレンズを示す断面図であり、図2は、前記レンズを示す平面図である。
本実施形態のレンズは、眼鏡用レンズとして説明するが、カメラレンズ、望遠鏡用レンズ、顕微鏡用レンズ、ステッパー用集光レンズ等の光学レンズでもよい。
【0016】
<レンズの構成>
図1に示すように、レンズ1は、レンズ基材11の表面に、ハードコート層12と反射防止層13と撥水部としての撥水層14とが順に積層された構成である。そして、撥水層14の表面141には、穴部20が設けられ、穴部20における反射防止層13の内面131には、親水部としての親水層30が設けられている。
すなわち、撥水層14と親水層30とは、反射防止層13の異なる位置に設けられている。
なお、必要に応じて、レンズ基材11とハードコート層12との間に、レンズ基材11とハードコート層12との密着性を向上させるためのプライマー層を設けてもよい。プライマー層の材料としては、極性を有する有機樹脂ポリマーと、酸化チタンを含有する金属酸化物微粒子とを含む組成物が挙げられる。有機樹脂ポリマーとしては、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂等を使用することができる。
【0017】
レンズ基材11は、その厚みが1mm以上2mm以下程度である。このレンズ基材11は、屈折率が1.6以上の透明なプラスチック製であることが好ましい。このようなレンズ基材11の材料としては、アクリル樹脂、チオウレタン系樹脂、メタクリル系樹脂、アリル系樹脂、エピスルフィド系樹脂、ポリカーボネート樹脂等が例示できる。なお、レンズ基材11は、無機ガラス製でもよい。
【0018】
ハードコート層12は、レンズ基材11と反射防止層13との密着性を向上させるとともに、レンズ基材11に耐擦傷性を付与するためのものである。ハードコート層12の厚みは、2μm以上3μm以下程度である。
ハードコート層12を形成する材料としては、例えば、オルガノポリシロキサンを主成分とする光硬化性シリコーン組成物、アクリル系紫外線硬化型モノマー組成物、SiO2、TiO2などの無機微粒子を有する無機微粒子含有熱硬化性組成物がある。
【0019】
反射防止層13は、多層からなる無機層であることが好ましく、その厚みは、例えば、432nm程度である。
このような多層からなる無機層としては、例えば、ハードコート層12側から順にSiO2層/ZrO2層/SiO2層/ZrO2層/SiO2層の5層構造や、SiO2層/TiO2層/SiO2層/TiO2層/SiO2層の5層構造がある。ただし、反射防止層13は、有機層により構成されていてもよい。
なお、図1,3では、説明の都合上、反射防止層13を構成するSiO2層などの記載は省略している。
【0020】
撥水層14は、撥水性や撥油性を有し、防汚層として機能する。この撥水層14は、反射防止層13の表面132に設けられる。
撥水層14の厚みは、0.05nm以上10nm以下が好ましく、0.1nm以上1nm以下がより好ましい。厚みを0.05nm以上とすることにより、十分に汚れの付着を防止できる。一方、厚みを10nm以下とすることにより、乱反射や干渉が生じるなどの光学的な問題を回避できる。
撥水層14を形成する材料は、例えば、2種以上のシラン化合物が挙げられ、そのうちの少なくとも1種が含フッ素シラン化合物である。このような含フッ素シラン化合物は、反射防止層13のSiO2層とシロキサン結合を形成して、撥水層14と反射防止層13とを密着させる。
含フッ素シラン化合物は、例えば、一般式(1)で表されるものを例示できる。なお、一般式(1)中のRfは直鎖状または分岐状のパーフルオロアルキル基である。
【0021】
【化1】
【0022】
穴部20は、図1、2に示すように、撥水層14の表面141に点状に複数形成され、互いに離間している。穴部20は、平面視で円形状であるが、半円形状、多角形状でもよい。
また、穴部20は、撥水層14の表面141から反射防止層13の厚さ方向の一部に亘って形成されている。つまり、穴部20は、レンズ基材11、ハードコート層12を貫通していない。そして、穴部20は、周面21と底面22とから構成されている。穴部20のレンズ基材11側の底面22は、反射防止層13に位置している。これら周面21と底面22とにより、反射防止層13の内面131が構成されている。
穴部20の深さ(D)は、0.3μm以上1μm以下であることが好ましい(図1参照)。0.3μm以上とすることにより、反射防止層13の内面131に親水層30を十分に形成することができる。一方、1μm以下とすることにより、穴部20を比較的浅くしてレンズ1の透明性が低下することを抑制できる。
【0023】
穴部20の直径(L)は、1μm以上40μm以下であることが好ましく、例えば、20μmであることが好ましい(図2参照)。
隣り合う穴部20の中心と穴部20の中心との距離(ピッチ間隔)(P)は、50μm以上70μm以下であることが好ましく、例えば、60μmであることが好ましい(図2参照)。
このような深さ(D)、直径(L)、ピッチ間隔(P)とすることにより、汚れの付着と曇りの発生とを防止できる。
【0024】
親水層30は、反射防止層13の内面131全体に設けられている。
親水層30の厚みは、0.05nm以上10nm以下が好ましく、0.1nm以上1nm以下がより好ましい。厚みを0.05nm以上とすることにより、十分に曇りの発生を防止できる。一方、厚みを10nm以下とすることにより、乱反射や干渉が生じるなどの光学的な問題を回避できる。
親水層30を形成する材料は、例えば、含硫黄親水性シラン化合物である。このような含硫黄親水性シラン化合物は、反射防止層13のSiO2層とシロキサン結合を形成して、親水層30と反射防止層13とを密着させる。
含硫黄親水性シラン化合物は、例えば、一般式(2)で表されるものを例示できる。
なお、一般式(2)中のRsは直鎖状または分岐状の含硫黄親水性基である。
【0025】
【化2】
【0026】
なお、含硫黄親水性シラン化合物には、その加水分解物の単体又は2量体以上の縮合物も含まれる。
【0027】
<レンズの製造方法の構成>
本実施形態のレンズの製造方法について図3から5までを用いて説明する。
図3(A)は、本実施形態のレンズの製造方法における積層工程を説明するためのレンズの断面図である。(B)は、レンズの製造方法における穴部形成工程を説明するためのレンズの断面図である。(C)は、レンズの製造方法における親水工程を説明するためのレンズの断面図である。
本実施形態のレンズの製造方法は、積層工程と、穴部形成工程と、親水工程とを備える。
【0028】
積層工程は、図3(A)に示すように、レンズ基材11の表面にハードコート層12と、反射防止層13と撥水層14とを順に形成する。ハードコート層12と撥水層14の形成方法は、浸漬法(ディッピング法)、スピンコート法等である。反射防止層13の形成方法は、真空蒸着法、イオンプレーティング法等である。
反射防止層13は、例えば、レンズ基材11側から順にSiO2層/ZrO2層/SiO2層/ZrO2層/SiO2層の5層構造であり、最表層のSiO2層に撥水層14が密着している。
ここで、反射防止層13に撥水層14が密着するメカニズムについて図4を用いて説明する。図4は、反射防止層と撥水層との関係を説明するための図である。
【0029】
撥水層14の形成は、例えば、含フッ素シラン化合物を含む撥水処理液を用いて行われる。
まず、ハードコート層12と、反射防止層13とを有するレンズ基材11を撥水処理液に浸漬する。これにより、反射防止層13の表面132に撥水処理液を塗布する。
ここで、撥水処理液の溶媒が蒸発することにより、溶媒の気化熱による自己冷却で反射防止層13の表面132の温度が低下し、空気の水分の吸着が起こると考えられる。この過程で、図4に示すように、含フッ素シラン化合物が加水分解する。そして、この状態で、加熱処理することで脱水縮合が起き、反射防止層13のSiO2層と、含フッ素シラン化合物とがシロキサン結合を形成する。さらに、含フッ素シラン化合物同士でも、脱水縮合が起こり、シロキサン結合を形成する。このようにして、反射防止層13の表面132と撥水層14とが強固に密着する。
【0030】
穴部形成工程は、図3(B)に示すように、撥水層14の表面141に、紫外線パルスレーザーを照射して、撥水層14を部分的に除去する。これにより、撥水層14の表面141に、複数の穴部20が形成される。
具体的には、撥水層14の表面141からその厚さ方向で反射防止層13の一部に亘って穴部20を形成する。これにより、穴部20の底面22を反射防止層13の内部に位置させる。
穴部20の深さ(D)や直径(L)は、レーザーの光強度、スポットサイズ、パルスの周波数等を調節することによって調節できる(図1,2参照)。
例えば、レーザーの光強度を0.02mW以上20mW以下程度とすることにより、穴部20の深さを0.05μm以上8μm以下程度とすることができる。
また、スポットサイズを15μm程度とすることにより、穴部20の直径(L)を20μm程度とすることができる。
【0031】
親水工程は、図3(C)に示すように、例えば、含硫黄親水性シラン化合物を含む親水処理液を用い、浸漬法により穴部20の内部に親水層30を形成する。
これにより、反射防止層13の内面131全体に親水層30が形成されるとともに、撥水層14の表面141上にも表面親水層30Aが形成される。ただし、この表面親水層30Aは、撥水層14にはじかれるため、容易に除去できる。これにより、図1,2に示すようなレンズ1が得られる。
ここで、親水層30が反射防止層13の内面131に密着するメカニズムについて図5を用いて説明する。ただし、このメカニズムは、上記積層工程における反射防止層13と撥水層14とが密着するメカニズムと同様であるので、説明を簡潔にする。図5は、反射防止層と親水層との関係を説明するための図である。
【0032】
すなわち、レンズ基材11を、含硫黄親水性シラン化合物を含む親水処理液に浸漬することにより、反射防止層13の内面131に親水処理液を塗布する。その後、含硫黄親水性シラン化合物の加水分解と脱水縮合とを経て、反射防止層13のSiO2層と、含硫黄親水性シラン化合物とがシロキサン結合を形成する。さらに、含硫黄親水性シラン化合物同士でも、脱水縮合が起こり、シロキサン結合を形成する。このようにして、反射防止層13の内面131と親水層30とが強固に密着する。
【0033】
このような本実施形態によれば、以下の効果を奏することができる。
(1)撥水層14と親水層30とがそれぞれ反射防止層13の異なる位置で密着するので、汚れの付着と曇りの発生とを防止できるレンズ1とすることができる。
(2)反射防止層13の表面132に撥水層14を設け、反射防止層13の内面131に親水層30を設けることにより、撥水層14と親水層30とが互いに阻害することなく、いずれも反射防止層13に安定して密着させることができる。
(3)穴部20の底面22を反射防止層13に位置させることにより、反射防止層13に積極的に親水層30を設けることができる。これにより、十分に曇りを防止できる。
(4)反射防止層13の内面131に全体的に親水層30を設けることにより、さらに十分に曇りを防止できる。
【0034】
(5)穴部20の深さを0.3μm以上とすることにより、十分に曇りを防止できる。一方、1μm以下とすることにより、良好なレンズ1の透明性を確保できる。
(6)部分的に撥水層14を除去して穴部20を形成することにより、撥水層14に阻害されること無く、穴部20の内部に親水層30を形成できる。よって、汚れの付着と曇りの発生とを防止できるレンズ1を得ることができる。
(7)比較的強度の弱い紫外線パルスレーザーにより穴部20を形成するため、穴部20が必要以上に拡がって、レンズ1の光学特性が低下することを抑制できる。
(8)浸漬法により、反射防止層13の内面131に全体的に親水層30を形成できる。
【0035】
(変形例)
なお、本発明は本実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
前記実施形態では、反射防止層までしか穴部を設けない構成を説明したが、レンズ基材やハードコート層まで穴部を設けてもよい。
また、前記実施形態では、ハードコート層を有する構成を説明したが、ハードコート層を設けなくてもよい。
さらに、前記実施形態では、穴部が平面視で点状であると説明したが、所定の長さを有する溝状でも良い。
また、前記実施形態では、反射防止層の内面全体に親水層を形成すると説明したが、反射防止層の内面に部分的に親水層を形成してもよい。
【実施例】
【0036】
実施例および比較例を挙げて本発明をさらに詳しく説明する。なお、本発明はこれらの実施例の記載内容に何ら制限されるものではない。
(実施例1)
実施例1のレンズとして、屈折率1.74のエピスルフィド系プラスチック(セイコーエプソン(株)製、SEIKO プレステージ)を使用した。このレンズは、レンズ基材にハードコート層と、反射防止層と、撥水部としての撥水層とが順に積層された構成である。なお、反射防止層の厚みは、432nmであり、撥水層の厚みは、1nmである。
次に、レンズへ波長266nmのパルスレーザー(パルス周波数10kHz、光強度0.2mW、スポットサイズ15μm)を照射した。その照射部位に形成された穴部を位相差顕微鏡 ZYGO New View 6300(キヤノン(株)製)にて測定したところ、穴部の直径が20μm、ピッチ間隔が60μm、深さが0.3μmであった。
【0037】
次に、親水処理液を準備した。具体的には、3−トリメトキシシリルプロパンスルホン酸イソプロピルエステル0.01molを氷酢酸60mlに溶解し、ここに、30%過酸化水素水35gを、液温を25℃以上30℃以下に保った状態で1時間かけて滴下した。
滴下終了後、25℃で一昼夜攪拌した。このトリシロキシプロパンスルホン酸溶液をエタノールにて0.2%に希釈し、150gとした。ここにN−アミノエチルエタノールアミン0.1gを混合し、30℃で2時間攪拌してA液を得た。このA液の一部を純水で20倍に希釈し、A液にラウリル硫酸ナトリウムを親水処理液総量に対し、50ppm加え、親水処理液とした。
そして、上述の穴部を形成した眼鏡レンズを処理液Aに浸漬し、等速引き上げ装置を用いて10cm/分の引き上げ速度で塗工した。その後120℃で1時間保持し、親水部として親水層を形成した。これにより、実施例1のレンズを得た。
【0038】
(実施例2から4まで)
パルスレーザーを照射する際の光強度を変えることにより、穴部の深さを表1のように変えた以外は、実施例1と同様にしてレンズを得た。
(比較例)
パルスレーザーを照射せず、穴部を形成していないレンズを用いた以外は、実施例1と同様にした。
【0039】
(評価)
実施例1から4までと比較例とのレンズについて、油性インクの拭き取り性と、初期防曇性と、透明性とを評価した。
(拭き取り性)
レンズの表面に、黒色油性マーカー(「ハイマッキーケア」ゼブラ株式会社製)により約4cmの直線を描いた後5min放置した。放置後、該マーク部をワイプ紙(「ケイドライ」株式会社クレシア製)によって拭き取りを行い、その拭き取り易さを評価した。その結果、表1の「○」で示すように、10回以下の拭き取りで完全に除去できた。
【0040】
(初期防曇性)
実施例1から4までと比較例とのレンズを20℃で保管した後、温度40℃、湿度90%に保った環境中に移し、表面の曇り発生を目視観察した。この曇り方を、下記評価基準にて評価した。
(評価基準)
○:ぜんぜん曇らない。
△:2分後に曇りが消える。
×:2分たっても曇りが消えない。
【0041】
(透明性)
実施例1から4までと比較例とのレンズについて、下記評価基準で目視により透明性を評価した。
(評価基準)
○:穴部は見えず、十分な透明性を有していた。
×:穴部を視認できた。
【0042】
【表1】
【0043】
(結果)
実施例1,2では、拭き取り性、初期防曇性、透明性のいずれも良好であった。実施例3では、拭き取り性、透明性が良好であったが、穴部が浅かったために、実施例1,2,4よりも初期防曇性が悪かった。実施例4では、拭き取り性、初期防曇性が良好であったが、穴部が深すぎたため、実施例1から3までよりも透明性が悪くなった。
一方、比較例では、親水部が設けられていないので初期防曇性が悪かった。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明は、眼鏡レンズやカメラレンズなどのレンズ及びレンズの製造方法として利用できる。
【符号の説明】
【0045】
1…レンズ、11…レンズ基材、13…反射防止層、14…撥水部としての撥水層、20…穴部、22…底面、30…親水部としての親水層、131…内面、132…表面、141…表面
【技術分野】
【0001】
本発明は、レンズ及びレンズの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、眼鏡レンズやカメラレンズなどの表面は、手垢、指紋、汗、化粧料等が付着することで、汚れが目立ちやすく、またその汚れが取れ難いという問題がある。そのため、汚れ難く、あるいは汚れを拭き取りやすくするために、レンズの表面に防汚層として撥水部を設けることがある(特許文献1)。
また、レンズの表面で大気中に含まれる水蒸気が凝結すると、曇りが発生する。そのため、レンズの表面に防曇層として親水部を設けることもある(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−3817号公報
【特許文献2】特開2005−224791号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載のレンズは、汚れの付着を防止するが、曇りの発生を防止する構成は有していない。
一方、特許文献2に記載のレンズは、曇りの発生を防止するが、汚れの付着を防止する構成は有していない。
【0005】
そこで、本発明の目的は、汚れの付着と曇りの発生とを防止できるレンズ及びレンズの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のレンズは、レンズ基材と、このレンズ基材に設けられた反射防止層とを備えるレンズであって、前記反射防止層に撥水部と親水部とが異なる位置に設けられていることを特徴とする。
この構成の発明では、従来レンズの表面に設けられていた撥水層と同じ材料からなる撥水部を反射防止層に設けるとともに、従来レンズの表面に設けられていた親水層と同じ材料からなる親水部を反射防止層に設ける。
即ち、撥水部と親水部とはそれぞれ反射防止層と馴染みやすいので、撥水部と親水部とを異なる位置で反射防止層に密着させることができる。これにより、汚れの付着と曇りの発生とを防止できるレンズとすることができる。
【0007】
また、本発明では、前記反射防止層の表面には、前記撥水部が設けられ、前記撥水部の表面には、その厚さ方向で少なくとも前記反射防止層の一部に亘って穴部が設けられ、前記穴部における前記反射防止層の内面に前記親水部が設けられていることが好ましい。
この構成の発明では、反射防止層の表面に撥水部を設け、反射防止層の内面に親水部を設けることにより、撥水部と親水部とが互いに阻害することなく、いずれも反射防止層に安定して密着させることができる。
【0008】
そして、本発明では、前記穴部における前記レンズ基材側の底面は、前記反射防止層に位置していることが好ましい。
この構成の発明では、穴部の底面を反射防止層に位置させることにより、反射防止層に積極的に親水部を設けることができる。これにより、十分に曇りの発生を防止できる。
【0009】
さらに、本発明では、前記反射防止層の内面全体に、前記親水部が設けられていることが好ましい。
この構成の発明では、反射防止層の内面に全体的に親水部を設けることにより、さらに曇りの発生を良好に防止できる。
【0010】
また、本発明では、前記穴部の深さは、0.3μm以上1μm以下であることが好ましい。
この構成の発明では、0.3μm以上とすることにより、曇りの発生を良好に防止できる。一方、1μm以下とすることにより、良好な透明性を確保できる。
【0011】
本発明のレンズの製造方法は、レンズ基材の表面に反射防止層と撥水部とを順に設ける積層工程と、前記撥水部の表面に、その厚さ方向で少なくとも前記反射防止層の一部に亘って穴部を形成する穴部形成工程と、前記穴部における前記反射防止層の内面に親水部を形成する親水工程と、を備えることを特徴とする。
この構成の発明では、部分的に撥水部を除去して穴部を形成することにより、撥水部に阻害されること無く、穴部の内部に親水部を形成できる。よって、汚れの付着と曇りの発生を防止できるレンズを得ることができる。
【0012】
ここで、本発明では、前記穴部形成工程は、前記撥水部の表面に、紫外線パルスレーザーを照射して前記穴部を形成することが好ましい。
この構成の発明では、比較的強度の弱い紫外線パルスレーザーにより穴部を形成するため、穴部が必要以上に拡がって、レンズの光学特性が低下することを抑制できる。
【0013】
また、本発明では、前記親水工程は、浸漬法により、前記親水部を形成することが好ましい。
この構成の発明では、浸漬法により、穴部の内面に全体的に親水部を形成できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係る実施形態のレンズを示す断面図である。
【図2】前記レンズを示す平面図である。
【図3】(A)前記レンズの製造方法における積層工程を説明するためのレンズの断面図である。(B)前記レンズの製造方法における穴部形成工程を説明するためのレンズの断面図である。(C)レンズの製造方法における親水工程を説明するためのレンズの断面図である。
【図4】前記レンズを構成する反射防止層と撥水部との関係を説明するための図である。
【図5】前記反射防止層と親水部との関係を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明に係る実施形態のレンズについて図1,2を用いて説明する。図1は、本発明に係る実施形態のレンズを示す断面図であり、図2は、前記レンズを示す平面図である。
本実施形態のレンズは、眼鏡用レンズとして説明するが、カメラレンズ、望遠鏡用レンズ、顕微鏡用レンズ、ステッパー用集光レンズ等の光学レンズでもよい。
【0016】
<レンズの構成>
図1に示すように、レンズ1は、レンズ基材11の表面に、ハードコート層12と反射防止層13と撥水部としての撥水層14とが順に積層された構成である。そして、撥水層14の表面141には、穴部20が設けられ、穴部20における反射防止層13の内面131には、親水部としての親水層30が設けられている。
すなわち、撥水層14と親水層30とは、反射防止層13の異なる位置に設けられている。
なお、必要に応じて、レンズ基材11とハードコート層12との間に、レンズ基材11とハードコート層12との密着性を向上させるためのプライマー層を設けてもよい。プライマー層の材料としては、極性を有する有機樹脂ポリマーと、酸化チタンを含有する金属酸化物微粒子とを含む組成物が挙げられる。有機樹脂ポリマーとしては、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂等を使用することができる。
【0017】
レンズ基材11は、その厚みが1mm以上2mm以下程度である。このレンズ基材11は、屈折率が1.6以上の透明なプラスチック製であることが好ましい。このようなレンズ基材11の材料としては、アクリル樹脂、チオウレタン系樹脂、メタクリル系樹脂、アリル系樹脂、エピスルフィド系樹脂、ポリカーボネート樹脂等が例示できる。なお、レンズ基材11は、無機ガラス製でもよい。
【0018】
ハードコート層12は、レンズ基材11と反射防止層13との密着性を向上させるとともに、レンズ基材11に耐擦傷性を付与するためのものである。ハードコート層12の厚みは、2μm以上3μm以下程度である。
ハードコート層12を形成する材料としては、例えば、オルガノポリシロキサンを主成分とする光硬化性シリコーン組成物、アクリル系紫外線硬化型モノマー組成物、SiO2、TiO2などの無機微粒子を有する無機微粒子含有熱硬化性組成物がある。
【0019】
反射防止層13は、多層からなる無機層であることが好ましく、その厚みは、例えば、432nm程度である。
このような多層からなる無機層としては、例えば、ハードコート層12側から順にSiO2層/ZrO2層/SiO2層/ZrO2層/SiO2層の5層構造や、SiO2層/TiO2層/SiO2層/TiO2層/SiO2層の5層構造がある。ただし、反射防止層13は、有機層により構成されていてもよい。
なお、図1,3では、説明の都合上、反射防止層13を構成するSiO2層などの記載は省略している。
【0020】
撥水層14は、撥水性や撥油性を有し、防汚層として機能する。この撥水層14は、反射防止層13の表面132に設けられる。
撥水層14の厚みは、0.05nm以上10nm以下が好ましく、0.1nm以上1nm以下がより好ましい。厚みを0.05nm以上とすることにより、十分に汚れの付着を防止できる。一方、厚みを10nm以下とすることにより、乱反射や干渉が生じるなどの光学的な問題を回避できる。
撥水層14を形成する材料は、例えば、2種以上のシラン化合物が挙げられ、そのうちの少なくとも1種が含フッ素シラン化合物である。このような含フッ素シラン化合物は、反射防止層13のSiO2層とシロキサン結合を形成して、撥水層14と反射防止層13とを密着させる。
含フッ素シラン化合物は、例えば、一般式(1)で表されるものを例示できる。なお、一般式(1)中のRfは直鎖状または分岐状のパーフルオロアルキル基である。
【0021】
【化1】
【0022】
穴部20は、図1、2に示すように、撥水層14の表面141に点状に複数形成され、互いに離間している。穴部20は、平面視で円形状であるが、半円形状、多角形状でもよい。
また、穴部20は、撥水層14の表面141から反射防止層13の厚さ方向の一部に亘って形成されている。つまり、穴部20は、レンズ基材11、ハードコート層12を貫通していない。そして、穴部20は、周面21と底面22とから構成されている。穴部20のレンズ基材11側の底面22は、反射防止層13に位置している。これら周面21と底面22とにより、反射防止層13の内面131が構成されている。
穴部20の深さ(D)は、0.3μm以上1μm以下であることが好ましい(図1参照)。0.3μm以上とすることにより、反射防止層13の内面131に親水層30を十分に形成することができる。一方、1μm以下とすることにより、穴部20を比較的浅くしてレンズ1の透明性が低下することを抑制できる。
【0023】
穴部20の直径(L)は、1μm以上40μm以下であることが好ましく、例えば、20μmであることが好ましい(図2参照)。
隣り合う穴部20の中心と穴部20の中心との距離(ピッチ間隔)(P)は、50μm以上70μm以下であることが好ましく、例えば、60μmであることが好ましい(図2参照)。
このような深さ(D)、直径(L)、ピッチ間隔(P)とすることにより、汚れの付着と曇りの発生とを防止できる。
【0024】
親水層30は、反射防止層13の内面131全体に設けられている。
親水層30の厚みは、0.05nm以上10nm以下が好ましく、0.1nm以上1nm以下がより好ましい。厚みを0.05nm以上とすることにより、十分に曇りの発生を防止できる。一方、厚みを10nm以下とすることにより、乱反射や干渉が生じるなどの光学的な問題を回避できる。
親水層30を形成する材料は、例えば、含硫黄親水性シラン化合物である。このような含硫黄親水性シラン化合物は、反射防止層13のSiO2層とシロキサン結合を形成して、親水層30と反射防止層13とを密着させる。
含硫黄親水性シラン化合物は、例えば、一般式(2)で表されるものを例示できる。
なお、一般式(2)中のRsは直鎖状または分岐状の含硫黄親水性基である。
【0025】
【化2】
【0026】
なお、含硫黄親水性シラン化合物には、その加水分解物の単体又は2量体以上の縮合物も含まれる。
【0027】
<レンズの製造方法の構成>
本実施形態のレンズの製造方法について図3から5までを用いて説明する。
図3(A)は、本実施形態のレンズの製造方法における積層工程を説明するためのレンズの断面図である。(B)は、レンズの製造方法における穴部形成工程を説明するためのレンズの断面図である。(C)は、レンズの製造方法における親水工程を説明するためのレンズの断面図である。
本実施形態のレンズの製造方法は、積層工程と、穴部形成工程と、親水工程とを備える。
【0028】
積層工程は、図3(A)に示すように、レンズ基材11の表面にハードコート層12と、反射防止層13と撥水層14とを順に形成する。ハードコート層12と撥水層14の形成方法は、浸漬法(ディッピング法)、スピンコート法等である。反射防止層13の形成方法は、真空蒸着法、イオンプレーティング法等である。
反射防止層13は、例えば、レンズ基材11側から順にSiO2層/ZrO2層/SiO2層/ZrO2層/SiO2層の5層構造であり、最表層のSiO2層に撥水層14が密着している。
ここで、反射防止層13に撥水層14が密着するメカニズムについて図4を用いて説明する。図4は、反射防止層と撥水層との関係を説明するための図である。
【0029】
撥水層14の形成は、例えば、含フッ素シラン化合物を含む撥水処理液を用いて行われる。
まず、ハードコート層12と、反射防止層13とを有するレンズ基材11を撥水処理液に浸漬する。これにより、反射防止層13の表面132に撥水処理液を塗布する。
ここで、撥水処理液の溶媒が蒸発することにより、溶媒の気化熱による自己冷却で反射防止層13の表面132の温度が低下し、空気の水分の吸着が起こると考えられる。この過程で、図4に示すように、含フッ素シラン化合物が加水分解する。そして、この状態で、加熱処理することで脱水縮合が起き、反射防止層13のSiO2層と、含フッ素シラン化合物とがシロキサン結合を形成する。さらに、含フッ素シラン化合物同士でも、脱水縮合が起こり、シロキサン結合を形成する。このようにして、反射防止層13の表面132と撥水層14とが強固に密着する。
【0030】
穴部形成工程は、図3(B)に示すように、撥水層14の表面141に、紫外線パルスレーザーを照射して、撥水層14を部分的に除去する。これにより、撥水層14の表面141に、複数の穴部20が形成される。
具体的には、撥水層14の表面141からその厚さ方向で反射防止層13の一部に亘って穴部20を形成する。これにより、穴部20の底面22を反射防止層13の内部に位置させる。
穴部20の深さ(D)や直径(L)は、レーザーの光強度、スポットサイズ、パルスの周波数等を調節することによって調節できる(図1,2参照)。
例えば、レーザーの光強度を0.02mW以上20mW以下程度とすることにより、穴部20の深さを0.05μm以上8μm以下程度とすることができる。
また、スポットサイズを15μm程度とすることにより、穴部20の直径(L)を20μm程度とすることができる。
【0031】
親水工程は、図3(C)に示すように、例えば、含硫黄親水性シラン化合物を含む親水処理液を用い、浸漬法により穴部20の内部に親水層30を形成する。
これにより、反射防止層13の内面131全体に親水層30が形成されるとともに、撥水層14の表面141上にも表面親水層30Aが形成される。ただし、この表面親水層30Aは、撥水層14にはじかれるため、容易に除去できる。これにより、図1,2に示すようなレンズ1が得られる。
ここで、親水層30が反射防止層13の内面131に密着するメカニズムについて図5を用いて説明する。ただし、このメカニズムは、上記積層工程における反射防止層13と撥水層14とが密着するメカニズムと同様であるので、説明を簡潔にする。図5は、反射防止層と親水層との関係を説明するための図である。
【0032】
すなわち、レンズ基材11を、含硫黄親水性シラン化合物を含む親水処理液に浸漬することにより、反射防止層13の内面131に親水処理液を塗布する。その後、含硫黄親水性シラン化合物の加水分解と脱水縮合とを経て、反射防止層13のSiO2層と、含硫黄親水性シラン化合物とがシロキサン結合を形成する。さらに、含硫黄親水性シラン化合物同士でも、脱水縮合が起こり、シロキサン結合を形成する。このようにして、反射防止層13の内面131と親水層30とが強固に密着する。
【0033】
このような本実施形態によれば、以下の効果を奏することができる。
(1)撥水層14と親水層30とがそれぞれ反射防止層13の異なる位置で密着するので、汚れの付着と曇りの発生とを防止できるレンズ1とすることができる。
(2)反射防止層13の表面132に撥水層14を設け、反射防止層13の内面131に親水層30を設けることにより、撥水層14と親水層30とが互いに阻害することなく、いずれも反射防止層13に安定して密着させることができる。
(3)穴部20の底面22を反射防止層13に位置させることにより、反射防止層13に積極的に親水層30を設けることができる。これにより、十分に曇りを防止できる。
(4)反射防止層13の内面131に全体的に親水層30を設けることにより、さらに十分に曇りを防止できる。
【0034】
(5)穴部20の深さを0.3μm以上とすることにより、十分に曇りを防止できる。一方、1μm以下とすることにより、良好なレンズ1の透明性を確保できる。
(6)部分的に撥水層14を除去して穴部20を形成することにより、撥水層14に阻害されること無く、穴部20の内部に親水層30を形成できる。よって、汚れの付着と曇りの発生とを防止できるレンズ1を得ることができる。
(7)比較的強度の弱い紫外線パルスレーザーにより穴部20を形成するため、穴部20が必要以上に拡がって、レンズ1の光学特性が低下することを抑制できる。
(8)浸漬法により、反射防止層13の内面131に全体的に親水層30を形成できる。
【0035】
(変形例)
なお、本発明は本実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
前記実施形態では、反射防止層までしか穴部を設けない構成を説明したが、レンズ基材やハードコート層まで穴部を設けてもよい。
また、前記実施形態では、ハードコート層を有する構成を説明したが、ハードコート層を設けなくてもよい。
さらに、前記実施形態では、穴部が平面視で点状であると説明したが、所定の長さを有する溝状でも良い。
また、前記実施形態では、反射防止層の内面全体に親水層を形成すると説明したが、反射防止層の内面に部分的に親水層を形成してもよい。
【実施例】
【0036】
実施例および比較例を挙げて本発明をさらに詳しく説明する。なお、本発明はこれらの実施例の記載内容に何ら制限されるものではない。
(実施例1)
実施例1のレンズとして、屈折率1.74のエピスルフィド系プラスチック(セイコーエプソン(株)製、SEIKO プレステージ)を使用した。このレンズは、レンズ基材にハードコート層と、反射防止層と、撥水部としての撥水層とが順に積層された構成である。なお、反射防止層の厚みは、432nmであり、撥水層の厚みは、1nmである。
次に、レンズへ波長266nmのパルスレーザー(パルス周波数10kHz、光強度0.2mW、スポットサイズ15μm)を照射した。その照射部位に形成された穴部を位相差顕微鏡 ZYGO New View 6300(キヤノン(株)製)にて測定したところ、穴部の直径が20μm、ピッチ間隔が60μm、深さが0.3μmであった。
【0037】
次に、親水処理液を準備した。具体的には、3−トリメトキシシリルプロパンスルホン酸イソプロピルエステル0.01molを氷酢酸60mlに溶解し、ここに、30%過酸化水素水35gを、液温を25℃以上30℃以下に保った状態で1時間かけて滴下した。
滴下終了後、25℃で一昼夜攪拌した。このトリシロキシプロパンスルホン酸溶液をエタノールにて0.2%に希釈し、150gとした。ここにN−アミノエチルエタノールアミン0.1gを混合し、30℃で2時間攪拌してA液を得た。このA液の一部を純水で20倍に希釈し、A液にラウリル硫酸ナトリウムを親水処理液総量に対し、50ppm加え、親水処理液とした。
そして、上述の穴部を形成した眼鏡レンズを処理液Aに浸漬し、等速引き上げ装置を用いて10cm/分の引き上げ速度で塗工した。その後120℃で1時間保持し、親水部として親水層を形成した。これにより、実施例1のレンズを得た。
【0038】
(実施例2から4まで)
パルスレーザーを照射する際の光強度を変えることにより、穴部の深さを表1のように変えた以外は、実施例1と同様にしてレンズを得た。
(比較例)
パルスレーザーを照射せず、穴部を形成していないレンズを用いた以外は、実施例1と同様にした。
【0039】
(評価)
実施例1から4までと比較例とのレンズについて、油性インクの拭き取り性と、初期防曇性と、透明性とを評価した。
(拭き取り性)
レンズの表面に、黒色油性マーカー(「ハイマッキーケア」ゼブラ株式会社製)により約4cmの直線を描いた後5min放置した。放置後、該マーク部をワイプ紙(「ケイドライ」株式会社クレシア製)によって拭き取りを行い、その拭き取り易さを評価した。その結果、表1の「○」で示すように、10回以下の拭き取りで完全に除去できた。
【0040】
(初期防曇性)
実施例1から4までと比較例とのレンズを20℃で保管した後、温度40℃、湿度90%に保った環境中に移し、表面の曇り発生を目視観察した。この曇り方を、下記評価基準にて評価した。
(評価基準)
○:ぜんぜん曇らない。
△:2分後に曇りが消える。
×:2分たっても曇りが消えない。
【0041】
(透明性)
実施例1から4までと比較例とのレンズについて、下記評価基準で目視により透明性を評価した。
(評価基準)
○:穴部は見えず、十分な透明性を有していた。
×:穴部を視認できた。
【0042】
【表1】
【0043】
(結果)
実施例1,2では、拭き取り性、初期防曇性、透明性のいずれも良好であった。実施例3では、拭き取り性、透明性が良好であったが、穴部が浅かったために、実施例1,2,4よりも初期防曇性が悪かった。実施例4では、拭き取り性、初期防曇性が良好であったが、穴部が深すぎたため、実施例1から3までよりも透明性が悪くなった。
一方、比較例では、親水部が設けられていないので初期防曇性が悪かった。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明は、眼鏡レンズやカメラレンズなどのレンズ及びレンズの製造方法として利用できる。
【符号の説明】
【0045】
1…レンズ、11…レンズ基材、13…反射防止層、14…撥水部としての撥水層、20…穴部、22…底面、30…親水部としての親水層、131…内面、132…表面、141…表面
【特許請求の範囲】
【請求項1】
レンズ基材と、このレンズ基材に設けられた反射防止層とを備えるレンズであって、
前記反射防止層に撥水部と親水部とが異なる位置に設けられている
ことを特徴とするレンズ。
【請求項2】
請求項1に記載のレンズにおいて、
前記反射防止層の表面には、前記撥水部が設けられ、
前記撥水部の表面には、その厚さ方向で少なくとも前記反射防止層の一部に亘って穴部が設けられ、
前記穴部における前記反射防止層の内面に前記親水部が設けられている
ことを特徴とするレンズ。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のレンズにおいて、
前記穴部における前記レンズ基材側の底面は、前記反射防止層に位置している
ことを特徴とするレンズ。
【請求項4】
請求項3に記載のレンズにおいて、
前記反射防止層の内面全体に、前記親水部が設けられている
ことを特徴とするレンズ。
【請求項5】
請求項1から請求項4までのいずれかに記載のレンズにおいて、
前記穴部の深さは、0.3μm以上1μm以下である
ことを特徴とするレンズ。
【請求項6】
レンズ基材の表面に反射防止層と撥水部とを順に設ける積層工程と、
前記撥水部の表面に、その厚さ方向で少なくとも前記反射防止層の一部に亘って穴部を形成する穴部形成工程と、
前記穴部における前記反射防止層の内面に親水部を形成する親水工程と、を備える
ことを特徴とするレンズの製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載のレンズの製造方法において、
前記穴部形成工程は、前記撥水部の表面に、紫外線パルスレーザーを照射して前記穴部を形成する
ことを特徴とするレンズの製造方法。
【請求項8】
請求項6又は請求項7に記載のレンズの製造方法において、
前記親水工程は、浸漬法により、前記親水部を形成する
ことを特徴とするレンズの製造方法。
【請求項1】
レンズ基材と、このレンズ基材に設けられた反射防止層とを備えるレンズであって、
前記反射防止層に撥水部と親水部とが異なる位置に設けられている
ことを特徴とするレンズ。
【請求項2】
請求項1に記載のレンズにおいて、
前記反射防止層の表面には、前記撥水部が設けられ、
前記撥水部の表面には、その厚さ方向で少なくとも前記反射防止層の一部に亘って穴部が設けられ、
前記穴部における前記反射防止層の内面に前記親水部が設けられている
ことを特徴とするレンズ。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のレンズにおいて、
前記穴部における前記レンズ基材側の底面は、前記反射防止層に位置している
ことを特徴とするレンズ。
【請求項4】
請求項3に記載のレンズにおいて、
前記反射防止層の内面全体に、前記親水部が設けられている
ことを特徴とするレンズ。
【請求項5】
請求項1から請求項4までのいずれかに記載のレンズにおいて、
前記穴部の深さは、0.3μm以上1μm以下である
ことを特徴とするレンズ。
【請求項6】
レンズ基材の表面に反射防止層と撥水部とを順に設ける積層工程と、
前記撥水部の表面に、その厚さ方向で少なくとも前記反射防止層の一部に亘って穴部を形成する穴部形成工程と、
前記穴部における前記反射防止層の内面に親水部を形成する親水工程と、を備える
ことを特徴とするレンズの製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載のレンズの製造方法において、
前記穴部形成工程は、前記撥水部の表面に、紫外線パルスレーザーを照射して前記穴部を形成する
ことを特徴とするレンズの製造方法。
【請求項8】
請求項6又は請求項7に記載のレンズの製造方法において、
前記親水工程は、浸漬法により、前記親水部を形成する
ことを特徴とするレンズの製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【公開番号】特開2012−185349(P2012−185349A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−48712(P2011−48712)
【出願日】平成23年3月7日(2011.3.7)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年3月7日(2011.3.7)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
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