レンズ及び光情報記録再生装置
【課題】Blu−Ray Disc等の大容量の記録媒体への情報の記録及び再生を行うことができる光情報記録再生装置の対物レンズとして好適に用いることができ、中央部から周辺部にかけて一定量以上の透過光量が確保でき、容易に製造可能な反射防止膜を有するレンズを提供すること。
【解決手段】光入射側レンズ面が、光入射側に凸で、かつ入射光の入射角が該レンズ面の中央部で略0°有効径の周辺部で60°以上となるレンズにおいて、光入射側レンズ面に反射防止膜を設け、光入射側レンズ面への入射角が0°の光の反射率が極小値となる波長が800〜1200nmの範囲にあるように設定し、波長400〜410nmの入射光の光入射側レンズ面への入射角が0°〜60°の範囲において該入射光の透過率を93%以上とする。
【解決手段】光入射側レンズ面が、光入射側に凸で、かつ入射光の入射角が該レンズ面の中央部で略0°有効径の周辺部で60°以上となるレンズにおいて、光入射側レンズ面に反射防止膜を設け、光入射側レンズ面への入射角が0°の光の反射率が極小値となる波長が800〜1200nmの範囲にあるように設定し、波長400〜410nmの入射光の光入射側レンズ面への入射角が0°〜60°の範囲において該入射光の透過率を93%以上とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、波長400〜410nmの光を集光するレンズ、及び該レンズを備える光情報記録再生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、CD(コンパクト・ディスク)、CD−ROM、DVD(デジタル・バーサタイル・ディスク)や、光磁気ディスク等の光記録媒体に光学的に情報を記録したり、光記録媒体に記録された情報を再生するため、光情報記録再生装置(光ピックアップ装置)が開発されている。また、最近では、高密度光ディスクとして大容量化を図った、Blu−Ray DiscやHD−DVDも開発されている。
【0003】
光ピックアップ装置の対物レンズは、表面反射を抑え、光の利用効率を向上させるために、表面に反射防止膜が設けられる。反射防止膜は真空蒸着法などにより成膜され、その膜厚は、通常、光入射側のレンズ面の中央部において入射角0°で垂直入射する光の透過率が、光ピックアップ装置の光の波長に対して最大値を示すように設定される。
対物レンズのレンズ面が外側(光源側)に凸であると、レンズ面の中央部から周辺部へ行くほどレンズ面の傾斜が強くなるため、レンズ面に対する光の入射角度も大きくなり、また周辺部へ行くほど反射防止膜が薄く形成されるので、レンズの周辺部へ行くほど光の透過率が低くなる。一方、例えば、近年、大容量の光記録媒体として注目されているBlu−Ray Discでは、使用する光の波長が405nmと短いため、情報の記録再生のためには、開口数を大きくするためレンズの有効径を大きくし、レンズの周辺部まで使用する必要がある。最近では、光の入射角が50°以上となる周辺部をレンズ有効径内に含んだ対物レンズが用いられるようになってきている。
【0004】
光の反射率の波長依存性は、反射防止膜の膜厚が薄くなると短波長側にシフトすること、また光の入射角度が大きくなると短波長側にシフトするとともに反射率が大きくなることが知られている。
従来の光ピックアップ装置の対物レンズにおいては、入射する光の反射率がレンズ面の中央部で極小値をとるよう設計されているが、周辺部では、反射率の波長依存性が短波長側にシフトするために入射する光の波長に対して極小値を取らず、反射率も中央部に比べて高くなる。このため、周辺部を透過する光量が、中央部を透過する光量に比べて相対的に少なく、レンズ全体の透過率の低下、光の集束性能の低下、ビーム光量の低下などの問題が生じていた。
この問題は、光の入射角度がより大きな周辺部を利用する、Blu−Ray Disc用の対物レンズ等では顕著となるため、その改善が強く求められている。
【0005】
この問題を解決するために、例えば特許文献1には、波長400〜440nmの範囲のレーザ光源の光を用いる光ピックアップ装置に用いるレンズであって、光入射側レンズ面への光の入射角が53°以上となる周辺部を有し、光の入射角が0°となる中央部において該入射角0°で入射する光の反射率が波長460〜650nmの範囲内で極小値を示すように膜厚が設定された光反射防止膜が光入射側レンズ面上に設けられ、相対的に周辺部の透過率を高くしたレンズが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4172180号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1には、レンズの周辺部の透過光量を中央部より相対的に増加させた反射防止膜が提案されているが、これは結果的には中央部の透過光量を犠牲にしており、有効径内に更に大きい入射角の入射光まで取り込もうとすると、中央部での透過光量低下が大きくなってしまう。また、単波長光源の光学系でこのレンズを使用する場合、該波長での反射率特性の傾きが大きいと、膜厚のバラツキによる反射特性の変動が大きく、成膜する際に膜厚の制御をより精密に行うことが必要になり、成膜し難く製造適性に優れているとは言えない。
【0008】
以上のような状況に鑑み、本発明の目的は、Blu−Ray Disc等の大容量の記録媒体への情報の記録及び再生を行うことができる光情報記録再生装置の対物レンズとして好適に用いることができ、中央部から周辺部にかけて一定量以上の透過光量が確保でき、容易に製造可能な反射防止膜を有するレンズを提供することである。本発明の他の目的は、該レンズを有する光情報記録再生装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らが検討したところ、光入射側のレンズ面が、光入射側に凸で、かつ入射光の入射角が該レンズ面の中央部で略0°、有効径の周辺部で60°以上となる対物レンズにおいて、入射角0°の光の波長に対する反射率が極小となる波長域を800〜1200nmの範囲となるような反射防止膜を光入射側のレンズ面に設けることにより、該反射防止膜の成膜が容易であり、中央部から周辺部にかけて一定量以上の透過光量が確保でき、波長400〜410nmの入射光の集光性能に優れたレンズが得られることを見出した。
【0010】
即ち、前記課題は、以下の手段により解決することができる。
[1]
波長400〜410nmの入射光を入射するレンズであって、
該レンズの光入射側レンズ面は、光入射側に凸で、かつ入射光の入射角が該光入射側レンズ面の中央部で略0°、有効径の周辺部で最大60°以上であり、
前記レンズは、前記光入射側レンズ面に反射防止膜を有し、
前記光入射側レンズ面への入射角が0°の光の反射率が極小値となる波長が800〜1200nmの範囲にあり、
前記波長400〜410nmの入射光の前記光入射側レンズ面への入射角が0°〜60°の範囲において該入射光の透過率が93%以上であるレンズ。
[2]
前記波長400〜410nmの入射光の前記光入射側レンズ面への入射角が0°〜60°の範囲内において、該入射光の透過率の最大値と最小値の差が5%以下である、[1]に記載のレンズ。
[3]
前記反射防止膜が単層膜又は2層以上の多層膜である、[1]又は[2]に記載のレンズ。
[4]
前記反射防止膜が前記単層膜であり、該単層膜がMgF2層である、[3]に記載のレンズ。
[5]
前記反射防止膜が前記多層膜であり、該多層膜が、ZrO2層とMgF2層との積層膜である、[3]に記載のレンズ。
[6]
屈折率が1.50〜1.70のガラス又はプラスチックの基材上に前記反射防止膜が設けられた、[1]〜[5]のいずれか1項に記載のレンズ。
[7]
光記録媒体上に光を集光することにより、該光記録媒体上への情報の記録又は該光記録媒体に記録された情報の再生を行う光情報記録再生装置であって、400〜410nmの光を発する光源と、該光源からの光を前記光記録媒体上に集光するレンズとを有し、該レンズが[1]〜[6]のいずれか1項に記載のレンズである光情報記録再生装置。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、波長400〜410nmの入射光に対し中央部から周辺部にかけて一定量以上の透過光量が確保でき、集光性能に優れたレンズ、及び該レンズを用いた光情報記録再生装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施形態のレンズの断面模式図である。
【図2】図1に示すレンズがレンズ面S1側に2層構成の反射防止膜を有する場合のレンズ面S1側の部分拡大図である。
【図3】本発明の一実施形態の光情報記録再生装置の構成の概略を示す図である。
【図4】実施例1のレンズの光入射側レンズ面の中央部(入射角0°)での分光反射率特性を示す図である。
【図5】実施例1のレンズの光入射側レンズ面の入射角0°となる中央部から入射角60°となる周辺部までの透過率を示す図である。
【図6】比較例1のレンズの光入射側レンズ面の中央部(入射角0°)での分光反射率特性を示す図である。
【図7】比較例1のレンズの光入射側レンズ面の入射角0°となる中央部から入射角60°となる周辺部までの透過率を示す図である。
【図8】実施例1のレンズにおいて光入射側レンズ面の入射角0°となる中央部から入射角60°となる周辺部までの反射率を示す図である。
【図9】実施例1の反射率平坦度を示す図である。
【図10】実施例2のレンズにおいて光入射側レンズ面の入射角0°となる中央部から入射角60°となる周辺部までの反射率を示す図である。
【図11】実施例3のレンズにおいて光入射側レンズ面の入射角0°となる中央部から入射角60°となる周辺部までの反射率を示す図である。
【図12】実施例4のレンズにおいて光入射側レンズ面の入射角0°となる中央部から入射角60°となる周辺部までの反射率を示す図である。
【図13】実施例5のレンズにおいて光入射側レンズ面の入射角0°となる中央部から入射角60°となる周辺部までの反射率を示す図である。
【図14】実施例2の反射率平坦度を示す図である。
【図15】実施例3の反射率平坦度を示す図である。
【図16】実施例4の反射率平坦度を示す図である。
【図17】実施例5の反射率平坦度を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
本発明のレンズは、波長400〜410nmの入射光を入射するレンズであって、
該レンズの光入射側レンズ面は、光入射側に凸で、かつ入射光の入射角が該レンズ面の中央部で略0°、有効径の周辺部で60°以上であり、
前記レンズは、前記光入射側レンズ面に反射防止膜を有し、
前記光入射側レンズ面への入射角が0°の光の反射率が極小値となる波長が800〜1200nmの範囲にあり、
前記波長400〜410nmの入射光の前記光入射側レンズ面への入射角が0°〜60°の範囲において該入射光の透過率が93%以上である。
【0014】
図1に、本発明の一実施形態のレンズの断面を模式的に示す。図1に示すように、レンズ1は、レンズ基材2と、光入射側のレンズ面S1に反射防止膜3を有する。レンズ面S1に入射する平行光である入射光Iは、レンズ面S2より出射して所定の焦点位置(図示略)に集光する。
なお、本明細書においては、レンズ面S1の一位置における法線Nと、該一位置に入射する入射光(光軸Lと平行)との角度θを、該入射光のレンズ面S1への入射角と定義する。
【0015】
レンズ面S1は、入射光Iが実際に入射する範囲である有効径内において、光入射側に凸で、かつ入射光Iの入射角θがレンズ面S1の中央部Cで略0°、周辺部Pで60°以上となる曲率を有している。ここで、入射角が「略0°」とは、入射光Iがレンズ面S1に対して略垂直入射することを意味し、レンズが傾いていなければ、入射面の凸面頂部で垂直入射となる。
前述したように、記録密度の高いBlu−Ray Disc用の光情報記録再生装置の対物レンズでは、大きな開口数が求められ、有効径を大きくするために、周辺部Pにおける入射光Iの入射角θが60°以上となる範囲まで有効径内として使用することが多い。本発明は、入射角θが60°以上となる範囲まで使用する場合に適用すると顕著な効果を現す。本発明の効果は最大入射角θが大きくなる場合ほど大きな効果を現すが、実際上、入射光を有効に利用できるのは70°程度が限度であるとされている。
【0016】
レンズ面S2は、出射した光が所定の焦点位置に集光させることができれば、その形状は特に限定されるものではない。図1では図示していないが、通常、レンズ面S2は光出射側に凸形状を有する。
また、レンズ面S2上には、反射防止膜を有していてもよい。
【0017】
レンズ基材2は、レンズ形成可能な材料で構成されれば特に限定されるものではないが、プラスチック材料やガラス材料などにより構成することができる。
プラスチック材料は、例えば、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリオレフィン系樹脂などの透明な樹脂材料が用いられる。また、ガラス材料としては、従来周知の光学用硝子が用いられる。
【0018】
反射防止膜3は、例えば、真空蒸着法や、スパッタ法、CVD法、大気圧プラズマ法などの従来周知の成膜方法により、成膜することができる。例えば、真空蒸着法の場合、レンズ基材2に対して光軸Lに沿った向き(図1において入射光Iが入射する向き)から反射防止膜3の材料を蒸着することによりに成膜することができる。ここで、反射防止膜3全体の膜厚制御は、レンズ面S1の形状に応じて中央部Cの膜厚を制御することにより行うことができるので、成膜も容易に行うことができる。
反射防止膜3は、単層膜であってもよいし、2層以上の多層膜であってもよい。
単層膜の場合、反射防止膜3の材料としては、MgF2、SiO2、などが挙げられる。より屈折率が低い、MgF2を用いるのが好ましい。
【0019】
多層膜の場合、2層以上を積層することで成膜することができる。
2層が積層された多層膜の場合には、例えば、図2に示すように、基材2側から、第一層5と、第一層5より屈折率の低い第二層6とを積層することで形成することができる。
第一層5を構成する材料としては、CeO2、TiO2、Ta2O5、ZrO2、Al2O3、SiNなどの高〜中屈折率材料が挙げられる。また、第二層6を構成する材料としては、例えば、MgF2、SiO2などの低屈折率材料が挙げられる。
【0020】
2層を超える多層膜の場合には、上記2層構成の多層膜の第二層6の上に、更に、前記高屈折率材料からなる層や前記低屈折率材料からなる層を積層することにより成膜することができる。ここで、前記高屈折率材料と前記低屈折率材料との中間の屈折率を有する中屈折率材料からなる層を設けてもよい。
【0021】
本実施形態のレンズ1では、レンズ面S1の中央部Cにおいて反射率が極小値をとる波長範囲が800〜1200nmとなる。このため、中央部Cにおいて波長400〜410nmの入射光に対して反射率が極小値を取るように反射防止膜を設計した場合に比べて、本実施形態のレンズ1の中央部Cにおける波長400〜410nmの入射光の反射率は大きな値を取る。
一方、周辺部Pでは、反射防止膜の膜厚が中央部Cに比べて薄く、また入射光の入射角度も60°以上と大きいため、前述のとおり、反射率の波長依存性が短波長側にシフトし、周辺部Pにおいて分光反射率特性が極小値を示す波長の範囲は、中央部Cにおいて分光反射率特性が極小値を示す波長範囲よりも短波長側になる。ここで、本実施形態では、中央部Cにおいて反射率が極小値を示す波長範囲が800〜1200nmなので、周辺部Pにおいて分光反射率特性が極小値を示す波長範囲は中央部Cより入射光の波長400〜410nmに近い範囲となることを利用し、中央部Cにおいて波長400〜410nmの入射光に対して分光反射率特性が極小値を取るように反射防止膜を設計した場合の周辺部Pの反射率に比べて、本実施形態のレンズ1の周辺部Pにおける波長400〜410nmの入射光の反射率は小さな値を取るようにした。
以上のようにすることで、中央部Cから周辺部Pにかけて均一に近く、一定量以上の透過光量を確保できる。具体的には、レンズ面S1への入射角が0°〜60°の範囲にある入射光の透過率が93%以上とすることができ、波長400〜410nmの入射光の集光性能に優れたレンズとすることができる。
【0022】
中央部Cから周辺部Pにかけて均一に近い透過光量をより確実に確保する上では、レンズ面S1への入射角が0°の反射率の極小値(中央部Cにおける分光反射率の極小値)は、波長800〜1200nmの範囲にあることが好ましく、波長900〜1050nmの範囲にあることがより好ましい。
【0023】
更に、本実施形態のレンズ1では、レンズ面S1への入射角が0°の光の反射率の最大値(中央部Cにおける分光反射率の最大値)と最小値の差を小さくとすることが好ましく、具体的には5%以下することが好ましい。
これにより膜厚変化による分光反射特性(分光透過特性)の変動を小さくすることができるので、成膜し易く、製造適性に優れる反射防止膜となるので、好ましい。
【0024】
本実施形態のレンズ1は、光記録媒体への情報の記録や、光記録媒体に記録された情報の再生が可能な光情報記録再生装置の対物レンズとして好適に用いることができる。
【0025】
本発明に係る光情報記録再生装置は、400〜410nmの光を発する光源と、該光源からの光を光記録媒体上に集光するレンズを備える。
図3に本発明の一実施形態の光情報記録再生装置の構成の概略を示す。図3に示す光情報記録装置10は、Blu−Ray Discの光記録媒体に適用可能な構成とされており、400〜410nmの光を発する光源としての半導体レーザ光源11、コリメータレンズ12、偏光ビームスプリッタ13、1/4波長板14、対物レンズ1、集光レンズ16、光検出器17を備えて構成されている。レンズ1は、上述の本実施形態のレンズ1であり、レンズ面S1を半導体レーザ光源11側に向けている。
半導体レーザ光源11から出射したレーザ光は、コリメータレンズ12により平行光に変換され、偏光ビームスプリッタ13によりP成分の光のみが透過される。P偏光は、1/4波長板14により円偏光に変換され、レンズ面S1側から対物レンズ15(レンズ1)に入射して、光記録媒体Rの情報記録面Aに集光される。光記録媒体Rの情報記録面Aで反射された円偏光は、回転方向が逆の円偏光に変換され、再び対物レンズ15を通過して、1/4波長板14によりS成分のみの直線偏光に変換される。S偏光は、偏光ビームスプリッタ13により反射され、集光レンズ16により光検出器17に集光される。
光情報記録再生装置10においては、光検出器17によって戻り光量を検出することにより、光記録媒体Rの情報記録面Aに記録された情報を読み出して、情報の再生を行えるようになっている。
【0026】
対物レンズとして本実施形態のレンズ1を用いているので、レンズ面S1の有効径全体にわたって略均一な透過率で光が透過し光記録媒体上に集光されるので、Blu―Ray Discのように光記録媒体へ情報を高密度に記録したり、高密度に情報が記録された光記録媒体から情報を再生する用途に適している。
【実施例】
【0027】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0028】
[実施例1]
図1に示すレンズ1において、レンズ基材2として屈折率1.562のプラスチックレンズ、反射防止膜3としてMgF2からなる単層膜を真空蒸着法により成膜した。レンズ面S1の中央部Cにおける反射防止膜3の光学膜厚は反射率極小値が1000nmになるように調整した。レンズ基材2としては、レンズ面S1の中央部Cから周辺部Pにかけての角度θ(光軸Lに対するレンズ面S1の法線の傾き)が有効径内で0°〜60°以上となる曲率を有するものを用いた。
このようにして作製した実施例1のレンズの入射角が0°の光に対する中心部Cにおける反射率特性を図4に示す。反射率の極小値は1000nm付近となり、最大値(極大値)は500nm付近となっている。
また、波長405nmの入射光に対する入射角0°の中央部Cから入射角60°の周辺部Pにかけての反射率と透過率(100−反射率)を下記表1及び図5(透過率のみ)にも示す。表1及び図5に示すように、中央部Cから周辺部Pにかけて、透過率が95%以上であり、透過率の最大値と最小値の差が2%以下の均一な透過率が得られた。
【0029】
【表1】
【0030】
また、レンズ面S1の中央部Cにおける光学膜厚を変えることで、入射角が0°の光に対する中心部Cにおける反射率の極小値(以下、「反射率極小波長」と呼ぶ)が800〜1200nmの範囲で異なる波長となる反射防止膜1−1〜1−7を成膜した。反射防止膜1−1〜1−7それぞれについて、波長405nmの入射光に対する入射角0°の中央部Cから入射角60°の周辺部Pにかけての反射率を下記表2及び図8に示す。また波長405nmの入射光に対する中央部Cから周辺部Pにかけてのレンズ面S1の反射率平坦度(反射率最大値−反射率最小値)を図9に示す。
【0031】
【表2】
【0032】
表2及び図8に示すように、入射角が0°の光に対する中心部Cにおける反射率の極小値を800〜1200nmの範囲となるように反射防止膜を設けることで、波長405nmの入射光に対して中央部Cから周辺部Pにかけて反射率6%以下とすることができる。即ち、中央部Cから周辺部Pにかけて、94%以上の透過率が得られる。
また、図9から、中央部Cから周辺部Pにかけて反射率の変化が小さく、レンズ面S1の有効径内で均一な反射率及び透過率が得られることが分かる。
【0033】
[比較例1]
実施例1のレンズにおいて、レンズ面S1の中央部Cにおける反射防止膜3の光学膜厚は反射率の極小値が405nmとなるようにした以外は、実施例1と同様にして反射防止膜を成膜した。
このようにして作製した比較例1のレンズの入射角が0°の光に対する中心部Cにおける反射率特性を図6に示す。図6では、反射率の極小値は、設定した通り405nm付近となっている。
また、また、波長405nmの入射光に対する入射角0°の中央部Cから入射角60°の周辺部Pにかけての反射率と透過率(100−反射率)を下記表3及び図7(透過率のみ)に示す。表3及び図7に示すように、比較例1のレンズでは、入射角0°の中央部Cの透過率が高いが、入射角60°の周辺部Pでは透過率が減少してしまい、中央部Cから周辺部Pにかけて均一な透過率が得られない。
【0034】
【表3】
【0035】
[実施例2〜5]
実施例1のレンズにおいて、レンズ基材2として屈折率が1.470(ガラス:実施例2)、1.505(プラスチック:実施例3)、1.527(プラスチック:実施例4)、1.609(ガラス:実施例5)の4種類を用い、それぞれ、反射率極小波長が800〜1200nmの範囲で異なる波長となるように7種類の反射防止膜(2−1〜2−7、3−1〜3−7、4−1〜4−7、5−1〜5−7)を成膜した。
【0036】
反射防止膜2−1〜2−7、3−1〜3−7、4−1〜4−7及び5−1〜5−7のそれぞれについて、波長405nmの入射光に対する入射角0°の中央部Cから入射角60°の周辺部Pにかけての反射率を下記表4〜7及び図10〜13に示す。また波長405nmの入射光に対する中央部Cから周辺部Pにかけてのレンズ面S1の反射率平坦度(反射率最大値−反射率最小値)を図14〜17に示す。
【0037】
【表4】
【0038】
【表5】
【0039】
【表6】
【0040】
【表7】
【0041】
表4〜7及び図10〜13に示すように、各実施例とも、入射角が0°の光に対する中心部Cにおける反射率の極小値を800〜1200nmの範囲となるように反射防止膜を設けることで、波長405nmの入射光に対して中央部Cから周辺部Pにかけて反射率7%以下とすることができる。即ち、中央部Cから周辺部Pにかけて、93%以上の透過率が得られる。
また、図14〜17から、中央部Cから周辺部Pにかけて反射率の変化が小さく、レンズ面S1の有効径内で均一な反射率及び透過率が得られることが分かる。
【符号の説明】
【0042】
1 レンズ
2 レンズ基材
3 反射防止膜
10 光情報記録再生装置
11 光源
R 光記録媒体
【技術分野】
【0001】
本発明は、波長400〜410nmの光を集光するレンズ、及び該レンズを備える光情報記録再生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、CD(コンパクト・ディスク)、CD−ROM、DVD(デジタル・バーサタイル・ディスク)や、光磁気ディスク等の光記録媒体に光学的に情報を記録したり、光記録媒体に記録された情報を再生するため、光情報記録再生装置(光ピックアップ装置)が開発されている。また、最近では、高密度光ディスクとして大容量化を図った、Blu−Ray DiscやHD−DVDも開発されている。
【0003】
光ピックアップ装置の対物レンズは、表面反射を抑え、光の利用効率を向上させるために、表面に反射防止膜が設けられる。反射防止膜は真空蒸着法などにより成膜され、その膜厚は、通常、光入射側のレンズ面の中央部において入射角0°で垂直入射する光の透過率が、光ピックアップ装置の光の波長に対して最大値を示すように設定される。
対物レンズのレンズ面が外側(光源側)に凸であると、レンズ面の中央部から周辺部へ行くほどレンズ面の傾斜が強くなるため、レンズ面に対する光の入射角度も大きくなり、また周辺部へ行くほど反射防止膜が薄く形成されるので、レンズの周辺部へ行くほど光の透過率が低くなる。一方、例えば、近年、大容量の光記録媒体として注目されているBlu−Ray Discでは、使用する光の波長が405nmと短いため、情報の記録再生のためには、開口数を大きくするためレンズの有効径を大きくし、レンズの周辺部まで使用する必要がある。最近では、光の入射角が50°以上となる周辺部をレンズ有効径内に含んだ対物レンズが用いられるようになってきている。
【0004】
光の反射率の波長依存性は、反射防止膜の膜厚が薄くなると短波長側にシフトすること、また光の入射角度が大きくなると短波長側にシフトするとともに反射率が大きくなることが知られている。
従来の光ピックアップ装置の対物レンズにおいては、入射する光の反射率がレンズ面の中央部で極小値をとるよう設計されているが、周辺部では、反射率の波長依存性が短波長側にシフトするために入射する光の波長に対して極小値を取らず、反射率も中央部に比べて高くなる。このため、周辺部を透過する光量が、中央部を透過する光量に比べて相対的に少なく、レンズ全体の透過率の低下、光の集束性能の低下、ビーム光量の低下などの問題が生じていた。
この問題は、光の入射角度がより大きな周辺部を利用する、Blu−Ray Disc用の対物レンズ等では顕著となるため、その改善が強く求められている。
【0005】
この問題を解決するために、例えば特許文献1には、波長400〜440nmの範囲のレーザ光源の光を用いる光ピックアップ装置に用いるレンズであって、光入射側レンズ面への光の入射角が53°以上となる周辺部を有し、光の入射角が0°となる中央部において該入射角0°で入射する光の反射率が波長460〜650nmの範囲内で極小値を示すように膜厚が設定された光反射防止膜が光入射側レンズ面上に設けられ、相対的に周辺部の透過率を高くしたレンズが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4172180号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1には、レンズの周辺部の透過光量を中央部より相対的に増加させた反射防止膜が提案されているが、これは結果的には中央部の透過光量を犠牲にしており、有効径内に更に大きい入射角の入射光まで取り込もうとすると、中央部での透過光量低下が大きくなってしまう。また、単波長光源の光学系でこのレンズを使用する場合、該波長での反射率特性の傾きが大きいと、膜厚のバラツキによる反射特性の変動が大きく、成膜する際に膜厚の制御をより精密に行うことが必要になり、成膜し難く製造適性に優れているとは言えない。
【0008】
以上のような状況に鑑み、本発明の目的は、Blu−Ray Disc等の大容量の記録媒体への情報の記録及び再生を行うことができる光情報記録再生装置の対物レンズとして好適に用いることができ、中央部から周辺部にかけて一定量以上の透過光量が確保でき、容易に製造可能な反射防止膜を有するレンズを提供することである。本発明の他の目的は、該レンズを有する光情報記録再生装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らが検討したところ、光入射側のレンズ面が、光入射側に凸で、かつ入射光の入射角が該レンズ面の中央部で略0°、有効径の周辺部で60°以上となる対物レンズにおいて、入射角0°の光の波長に対する反射率が極小となる波長域を800〜1200nmの範囲となるような反射防止膜を光入射側のレンズ面に設けることにより、該反射防止膜の成膜が容易であり、中央部から周辺部にかけて一定量以上の透過光量が確保でき、波長400〜410nmの入射光の集光性能に優れたレンズが得られることを見出した。
【0010】
即ち、前記課題は、以下の手段により解決することができる。
[1]
波長400〜410nmの入射光を入射するレンズであって、
該レンズの光入射側レンズ面は、光入射側に凸で、かつ入射光の入射角が該光入射側レンズ面の中央部で略0°、有効径の周辺部で最大60°以上であり、
前記レンズは、前記光入射側レンズ面に反射防止膜を有し、
前記光入射側レンズ面への入射角が0°の光の反射率が極小値となる波長が800〜1200nmの範囲にあり、
前記波長400〜410nmの入射光の前記光入射側レンズ面への入射角が0°〜60°の範囲において該入射光の透過率が93%以上であるレンズ。
[2]
前記波長400〜410nmの入射光の前記光入射側レンズ面への入射角が0°〜60°の範囲内において、該入射光の透過率の最大値と最小値の差が5%以下である、[1]に記載のレンズ。
[3]
前記反射防止膜が単層膜又は2層以上の多層膜である、[1]又は[2]に記載のレンズ。
[4]
前記反射防止膜が前記単層膜であり、該単層膜がMgF2層である、[3]に記載のレンズ。
[5]
前記反射防止膜が前記多層膜であり、該多層膜が、ZrO2層とMgF2層との積層膜である、[3]に記載のレンズ。
[6]
屈折率が1.50〜1.70のガラス又はプラスチックの基材上に前記反射防止膜が設けられた、[1]〜[5]のいずれか1項に記載のレンズ。
[7]
光記録媒体上に光を集光することにより、該光記録媒体上への情報の記録又は該光記録媒体に記録された情報の再生を行う光情報記録再生装置であって、400〜410nmの光を発する光源と、該光源からの光を前記光記録媒体上に集光するレンズとを有し、該レンズが[1]〜[6]のいずれか1項に記載のレンズである光情報記録再生装置。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、波長400〜410nmの入射光に対し中央部から周辺部にかけて一定量以上の透過光量が確保でき、集光性能に優れたレンズ、及び該レンズを用いた光情報記録再生装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施形態のレンズの断面模式図である。
【図2】図1に示すレンズがレンズ面S1側に2層構成の反射防止膜を有する場合のレンズ面S1側の部分拡大図である。
【図3】本発明の一実施形態の光情報記録再生装置の構成の概略を示す図である。
【図4】実施例1のレンズの光入射側レンズ面の中央部(入射角0°)での分光反射率特性を示す図である。
【図5】実施例1のレンズの光入射側レンズ面の入射角0°となる中央部から入射角60°となる周辺部までの透過率を示す図である。
【図6】比較例1のレンズの光入射側レンズ面の中央部(入射角0°)での分光反射率特性を示す図である。
【図7】比較例1のレンズの光入射側レンズ面の入射角0°となる中央部から入射角60°となる周辺部までの透過率を示す図である。
【図8】実施例1のレンズにおいて光入射側レンズ面の入射角0°となる中央部から入射角60°となる周辺部までの反射率を示す図である。
【図9】実施例1の反射率平坦度を示す図である。
【図10】実施例2のレンズにおいて光入射側レンズ面の入射角0°となる中央部から入射角60°となる周辺部までの反射率を示す図である。
【図11】実施例3のレンズにおいて光入射側レンズ面の入射角0°となる中央部から入射角60°となる周辺部までの反射率を示す図である。
【図12】実施例4のレンズにおいて光入射側レンズ面の入射角0°となる中央部から入射角60°となる周辺部までの反射率を示す図である。
【図13】実施例5のレンズにおいて光入射側レンズ面の入射角0°となる中央部から入射角60°となる周辺部までの反射率を示す図である。
【図14】実施例2の反射率平坦度を示す図である。
【図15】実施例3の反射率平坦度を示す図である。
【図16】実施例4の反射率平坦度を示す図である。
【図17】実施例5の反射率平坦度を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
本発明のレンズは、波長400〜410nmの入射光を入射するレンズであって、
該レンズの光入射側レンズ面は、光入射側に凸で、かつ入射光の入射角が該レンズ面の中央部で略0°、有効径の周辺部で60°以上であり、
前記レンズは、前記光入射側レンズ面に反射防止膜を有し、
前記光入射側レンズ面への入射角が0°の光の反射率が極小値となる波長が800〜1200nmの範囲にあり、
前記波長400〜410nmの入射光の前記光入射側レンズ面への入射角が0°〜60°の範囲において該入射光の透過率が93%以上である。
【0014】
図1に、本発明の一実施形態のレンズの断面を模式的に示す。図1に示すように、レンズ1は、レンズ基材2と、光入射側のレンズ面S1に反射防止膜3を有する。レンズ面S1に入射する平行光である入射光Iは、レンズ面S2より出射して所定の焦点位置(図示略)に集光する。
なお、本明細書においては、レンズ面S1の一位置における法線Nと、該一位置に入射する入射光(光軸Lと平行)との角度θを、該入射光のレンズ面S1への入射角と定義する。
【0015】
レンズ面S1は、入射光Iが実際に入射する範囲である有効径内において、光入射側に凸で、かつ入射光Iの入射角θがレンズ面S1の中央部Cで略0°、周辺部Pで60°以上となる曲率を有している。ここで、入射角が「略0°」とは、入射光Iがレンズ面S1に対して略垂直入射することを意味し、レンズが傾いていなければ、入射面の凸面頂部で垂直入射となる。
前述したように、記録密度の高いBlu−Ray Disc用の光情報記録再生装置の対物レンズでは、大きな開口数が求められ、有効径を大きくするために、周辺部Pにおける入射光Iの入射角θが60°以上となる範囲まで有効径内として使用することが多い。本発明は、入射角θが60°以上となる範囲まで使用する場合に適用すると顕著な効果を現す。本発明の効果は最大入射角θが大きくなる場合ほど大きな効果を現すが、実際上、入射光を有効に利用できるのは70°程度が限度であるとされている。
【0016】
レンズ面S2は、出射した光が所定の焦点位置に集光させることができれば、その形状は特に限定されるものではない。図1では図示していないが、通常、レンズ面S2は光出射側に凸形状を有する。
また、レンズ面S2上には、反射防止膜を有していてもよい。
【0017】
レンズ基材2は、レンズ形成可能な材料で構成されれば特に限定されるものではないが、プラスチック材料やガラス材料などにより構成することができる。
プラスチック材料は、例えば、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリオレフィン系樹脂などの透明な樹脂材料が用いられる。また、ガラス材料としては、従来周知の光学用硝子が用いられる。
【0018】
反射防止膜3は、例えば、真空蒸着法や、スパッタ法、CVD法、大気圧プラズマ法などの従来周知の成膜方法により、成膜することができる。例えば、真空蒸着法の場合、レンズ基材2に対して光軸Lに沿った向き(図1において入射光Iが入射する向き)から反射防止膜3の材料を蒸着することによりに成膜することができる。ここで、反射防止膜3全体の膜厚制御は、レンズ面S1の形状に応じて中央部Cの膜厚を制御することにより行うことができるので、成膜も容易に行うことができる。
反射防止膜3は、単層膜であってもよいし、2層以上の多層膜であってもよい。
単層膜の場合、反射防止膜3の材料としては、MgF2、SiO2、などが挙げられる。より屈折率が低い、MgF2を用いるのが好ましい。
【0019】
多層膜の場合、2層以上を積層することで成膜することができる。
2層が積層された多層膜の場合には、例えば、図2に示すように、基材2側から、第一層5と、第一層5より屈折率の低い第二層6とを積層することで形成することができる。
第一層5を構成する材料としては、CeO2、TiO2、Ta2O5、ZrO2、Al2O3、SiNなどの高〜中屈折率材料が挙げられる。また、第二層6を構成する材料としては、例えば、MgF2、SiO2などの低屈折率材料が挙げられる。
【0020】
2層を超える多層膜の場合には、上記2層構成の多層膜の第二層6の上に、更に、前記高屈折率材料からなる層や前記低屈折率材料からなる層を積層することにより成膜することができる。ここで、前記高屈折率材料と前記低屈折率材料との中間の屈折率を有する中屈折率材料からなる層を設けてもよい。
【0021】
本実施形態のレンズ1では、レンズ面S1の中央部Cにおいて反射率が極小値をとる波長範囲が800〜1200nmとなる。このため、中央部Cにおいて波長400〜410nmの入射光に対して反射率が極小値を取るように反射防止膜を設計した場合に比べて、本実施形態のレンズ1の中央部Cにおける波長400〜410nmの入射光の反射率は大きな値を取る。
一方、周辺部Pでは、反射防止膜の膜厚が中央部Cに比べて薄く、また入射光の入射角度も60°以上と大きいため、前述のとおり、反射率の波長依存性が短波長側にシフトし、周辺部Pにおいて分光反射率特性が極小値を示す波長の範囲は、中央部Cにおいて分光反射率特性が極小値を示す波長範囲よりも短波長側になる。ここで、本実施形態では、中央部Cにおいて反射率が極小値を示す波長範囲が800〜1200nmなので、周辺部Pにおいて分光反射率特性が極小値を示す波長範囲は中央部Cより入射光の波長400〜410nmに近い範囲となることを利用し、中央部Cにおいて波長400〜410nmの入射光に対して分光反射率特性が極小値を取るように反射防止膜を設計した場合の周辺部Pの反射率に比べて、本実施形態のレンズ1の周辺部Pにおける波長400〜410nmの入射光の反射率は小さな値を取るようにした。
以上のようにすることで、中央部Cから周辺部Pにかけて均一に近く、一定量以上の透過光量を確保できる。具体的には、レンズ面S1への入射角が0°〜60°の範囲にある入射光の透過率が93%以上とすることができ、波長400〜410nmの入射光の集光性能に優れたレンズとすることができる。
【0022】
中央部Cから周辺部Pにかけて均一に近い透過光量をより確実に確保する上では、レンズ面S1への入射角が0°の反射率の極小値(中央部Cにおける分光反射率の極小値)は、波長800〜1200nmの範囲にあることが好ましく、波長900〜1050nmの範囲にあることがより好ましい。
【0023】
更に、本実施形態のレンズ1では、レンズ面S1への入射角が0°の光の反射率の最大値(中央部Cにおける分光反射率の最大値)と最小値の差を小さくとすることが好ましく、具体的には5%以下することが好ましい。
これにより膜厚変化による分光反射特性(分光透過特性)の変動を小さくすることができるので、成膜し易く、製造適性に優れる反射防止膜となるので、好ましい。
【0024】
本実施形態のレンズ1は、光記録媒体への情報の記録や、光記録媒体に記録された情報の再生が可能な光情報記録再生装置の対物レンズとして好適に用いることができる。
【0025】
本発明に係る光情報記録再生装置は、400〜410nmの光を発する光源と、該光源からの光を光記録媒体上に集光するレンズを備える。
図3に本発明の一実施形態の光情報記録再生装置の構成の概略を示す。図3に示す光情報記録装置10は、Blu−Ray Discの光記録媒体に適用可能な構成とされており、400〜410nmの光を発する光源としての半導体レーザ光源11、コリメータレンズ12、偏光ビームスプリッタ13、1/4波長板14、対物レンズ1、集光レンズ16、光検出器17を備えて構成されている。レンズ1は、上述の本実施形態のレンズ1であり、レンズ面S1を半導体レーザ光源11側に向けている。
半導体レーザ光源11から出射したレーザ光は、コリメータレンズ12により平行光に変換され、偏光ビームスプリッタ13によりP成分の光のみが透過される。P偏光は、1/4波長板14により円偏光に変換され、レンズ面S1側から対物レンズ15(レンズ1)に入射して、光記録媒体Rの情報記録面Aに集光される。光記録媒体Rの情報記録面Aで反射された円偏光は、回転方向が逆の円偏光に変換され、再び対物レンズ15を通過して、1/4波長板14によりS成分のみの直線偏光に変換される。S偏光は、偏光ビームスプリッタ13により反射され、集光レンズ16により光検出器17に集光される。
光情報記録再生装置10においては、光検出器17によって戻り光量を検出することにより、光記録媒体Rの情報記録面Aに記録された情報を読み出して、情報の再生を行えるようになっている。
【0026】
対物レンズとして本実施形態のレンズ1を用いているので、レンズ面S1の有効径全体にわたって略均一な透過率で光が透過し光記録媒体上に集光されるので、Blu―Ray Discのように光記録媒体へ情報を高密度に記録したり、高密度に情報が記録された光記録媒体から情報を再生する用途に適している。
【実施例】
【0027】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0028】
[実施例1]
図1に示すレンズ1において、レンズ基材2として屈折率1.562のプラスチックレンズ、反射防止膜3としてMgF2からなる単層膜を真空蒸着法により成膜した。レンズ面S1の中央部Cにおける反射防止膜3の光学膜厚は反射率極小値が1000nmになるように調整した。レンズ基材2としては、レンズ面S1の中央部Cから周辺部Pにかけての角度θ(光軸Lに対するレンズ面S1の法線の傾き)が有効径内で0°〜60°以上となる曲率を有するものを用いた。
このようにして作製した実施例1のレンズの入射角が0°の光に対する中心部Cにおける反射率特性を図4に示す。反射率の極小値は1000nm付近となり、最大値(極大値)は500nm付近となっている。
また、波長405nmの入射光に対する入射角0°の中央部Cから入射角60°の周辺部Pにかけての反射率と透過率(100−反射率)を下記表1及び図5(透過率のみ)にも示す。表1及び図5に示すように、中央部Cから周辺部Pにかけて、透過率が95%以上であり、透過率の最大値と最小値の差が2%以下の均一な透過率が得られた。
【0029】
【表1】
【0030】
また、レンズ面S1の中央部Cにおける光学膜厚を変えることで、入射角が0°の光に対する中心部Cにおける反射率の極小値(以下、「反射率極小波長」と呼ぶ)が800〜1200nmの範囲で異なる波長となる反射防止膜1−1〜1−7を成膜した。反射防止膜1−1〜1−7それぞれについて、波長405nmの入射光に対する入射角0°の中央部Cから入射角60°の周辺部Pにかけての反射率を下記表2及び図8に示す。また波長405nmの入射光に対する中央部Cから周辺部Pにかけてのレンズ面S1の反射率平坦度(反射率最大値−反射率最小値)を図9に示す。
【0031】
【表2】
【0032】
表2及び図8に示すように、入射角が0°の光に対する中心部Cにおける反射率の極小値を800〜1200nmの範囲となるように反射防止膜を設けることで、波長405nmの入射光に対して中央部Cから周辺部Pにかけて反射率6%以下とすることができる。即ち、中央部Cから周辺部Pにかけて、94%以上の透過率が得られる。
また、図9から、中央部Cから周辺部Pにかけて反射率の変化が小さく、レンズ面S1の有効径内で均一な反射率及び透過率が得られることが分かる。
【0033】
[比較例1]
実施例1のレンズにおいて、レンズ面S1の中央部Cにおける反射防止膜3の光学膜厚は反射率の極小値が405nmとなるようにした以外は、実施例1と同様にして反射防止膜を成膜した。
このようにして作製した比較例1のレンズの入射角が0°の光に対する中心部Cにおける反射率特性を図6に示す。図6では、反射率の極小値は、設定した通り405nm付近となっている。
また、また、波長405nmの入射光に対する入射角0°の中央部Cから入射角60°の周辺部Pにかけての反射率と透過率(100−反射率)を下記表3及び図7(透過率のみ)に示す。表3及び図7に示すように、比較例1のレンズでは、入射角0°の中央部Cの透過率が高いが、入射角60°の周辺部Pでは透過率が減少してしまい、中央部Cから周辺部Pにかけて均一な透過率が得られない。
【0034】
【表3】
【0035】
[実施例2〜5]
実施例1のレンズにおいて、レンズ基材2として屈折率が1.470(ガラス:実施例2)、1.505(プラスチック:実施例3)、1.527(プラスチック:実施例4)、1.609(ガラス:実施例5)の4種類を用い、それぞれ、反射率極小波長が800〜1200nmの範囲で異なる波長となるように7種類の反射防止膜(2−1〜2−7、3−1〜3−7、4−1〜4−7、5−1〜5−7)を成膜した。
【0036】
反射防止膜2−1〜2−7、3−1〜3−7、4−1〜4−7及び5−1〜5−7のそれぞれについて、波長405nmの入射光に対する入射角0°の中央部Cから入射角60°の周辺部Pにかけての反射率を下記表4〜7及び図10〜13に示す。また波長405nmの入射光に対する中央部Cから周辺部Pにかけてのレンズ面S1の反射率平坦度(反射率最大値−反射率最小値)を図14〜17に示す。
【0037】
【表4】
【0038】
【表5】
【0039】
【表6】
【0040】
【表7】
【0041】
表4〜7及び図10〜13に示すように、各実施例とも、入射角が0°の光に対する中心部Cにおける反射率の極小値を800〜1200nmの範囲となるように反射防止膜を設けることで、波長405nmの入射光に対して中央部Cから周辺部Pにかけて反射率7%以下とすることができる。即ち、中央部Cから周辺部Pにかけて、93%以上の透過率が得られる。
また、図14〜17から、中央部Cから周辺部Pにかけて反射率の変化が小さく、レンズ面S1の有効径内で均一な反射率及び透過率が得られることが分かる。
【符号の説明】
【0042】
1 レンズ
2 レンズ基材
3 反射防止膜
10 光情報記録再生装置
11 光源
R 光記録媒体
【特許請求の範囲】
【請求項1】
波長400〜410nmの入射光を入射するレンズであって、
該レンズの光入射側レンズ面は、光入射側に凸で、かつ入射光の入射角が該光入射側レンズ面の中央部で略0°、有効径の周辺部で最大60°以上であり、
前記レンズは、前記光入射側レンズ面に反射防止膜を有し、
前記光入射側レンズ面への入射角が0°の光の反射率が極小値となる波長が800〜1200nmの範囲にあり、
前記波長400〜410nmの入射光の前記光入射側レンズ面への入射角が0°〜60°の範囲において該入射光の透過率が93%以上であるレンズ。
【請求項2】
前記波長400〜410nmの入射光の前記光入射側レンズ面への入射角が0°〜60°の範囲内において、該入射光の透過率の最大値と最小値の差が5%以下である、請求項1に記載のレンズ。
【請求項3】
前記反射防止膜が単層膜又は2層以上の多層膜である、請求項1又は2に記載のレンズ。
【請求項4】
前記反射防止膜が前記単層膜であり、該単層膜がMgF2層である、請求項3に記載のレンズ。
【請求項5】
前記反射防止膜が前記多層膜であり、該多層膜が、ZrO2層とMgF2層との積層膜である、請求項3に記載のレンズ。
【請求項6】
屈折率が1.50〜1.70のガラス又はプラスチックの基材上に前記反射防止膜が設けられた、請求項1〜5のいずれか1項に記載のレンズ。
【請求項7】
光記録媒体上に光を集光することにより、該光記録媒体上への情報の記録又は該光記録媒体に記録された情報の再生を行う光情報記録再生装置であって、400〜410nmの光を発する光源と、該光源からの光を前記光記録媒体上に集光するレンズとを有し、該レンズが請求項1〜6のいずれか1項に記載のレンズである光情報記録再生装置。
【請求項1】
波長400〜410nmの入射光を入射するレンズであって、
該レンズの光入射側レンズ面は、光入射側に凸で、かつ入射光の入射角が該光入射側レンズ面の中央部で略0°、有効径の周辺部で最大60°以上であり、
前記レンズは、前記光入射側レンズ面に反射防止膜を有し、
前記光入射側レンズ面への入射角が0°の光の反射率が極小値となる波長が800〜1200nmの範囲にあり、
前記波長400〜410nmの入射光の前記光入射側レンズ面への入射角が0°〜60°の範囲において該入射光の透過率が93%以上であるレンズ。
【請求項2】
前記波長400〜410nmの入射光の前記光入射側レンズ面への入射角が0°〜60°の範囲内において、該入射光の透過率の最大値と最小値の差が5%以下である、請求項1に記載のレンズ。
【請求項3】
前記反射防止膜が単層膜又は2層以上の多層膜である、請求項1又は2に記載のレンズ。
【請求項4】
前記反射防止膜が前記単層膜であり、該単層膜がMgF2層である、請求項3に記載のレンズ。
【請求項5】
前記反射防止膜が前記多層膜であり、該多層膜が、ZrO2層とMgF2層との積層膜である、請求項3に記載のレンズ。
【請求項6】
屈折率が1.50〜1.70のガラス又はプラスチックの基材上に前記反射防止膜が設けられた、請求項1〜5のいずれか1項に記載のレンズ。
【請求項7】
光記録媒体上に光を集光することにより、該光記録媒体上への情報の記録又は該光記録媒体に記録された情報の再生を行う光情報記録再生装置であって、400〜410nmの光を発する光源と、該光源からの光を前記光記録媒体上に集光するレンズとを有し、該レンズが請求項1〜6のいずれか1項に記載のレンズである光情報記録再生装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2012−119046(P2012−119046A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−270949(P2010−270949)
【出願日】平成22年12月3日(2010.12.3)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年12月3日(2010.12.3)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】
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