レンズ成形型及びレンズ成型方法
【課題】分離失敗が原因のレンズ不良率を低減する。
【解決手段】レンズ成形型は、完全光学面の型面である成型面を有する上型モールドと、下型モールドと、上型モールド及び下型モールドの外周間を連結してキャビティを形成するレンズ成型用ガスケットと、を備える。上型モールドは、成型面の中心の接線方向に平行な面を有し、成型面の縁に沿って設けられたレンズ離型部を備える。
【解決手段】レンズ成形型は、完全光学面の型面である成型面を有する上型モールドと、下型モールドと、上型モールド及び下型モールドの外周間を連結してキャビティを形成するレンズ成型用ガスケットと、を備える。上型モールドは、成型面の中心の接線方向に平行な面を有し、成型面の縁に沿って設けられたレンズ離型部を備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、注型重合法によってプラスチックレンズを成型するレンズ成形型及びレンズ成型方法に関する。特に、一方のレンズ面が予め設計された完全光学面であるセミフィニッシュドレンズを成型するレンズ成形型及びレンズ成型方法に関する。
【背景技術】
【0002】
眼鏡用のプラスチックレンズは、一般に注型重合法によって成型される。プラスチックレンズを成型するための成形型は、円筒形であって、プラスチックレンズの成型材料を注入する注入口を有するガスケットを備える。さらに、プラスチックレンズは、レンズの両面を成型する上型モールド及び下型モールドを備える。なお、プラスチックレンズは、上下両方のモールドを予め設計された完全光学面の型を用いて成型したフィニッシュドレンズと、一方のモールドのみを設計値に基づく完全光学面の型を用いて成型したセミフィニッシュドレンズとに大別される。
【0003】
セミフィニッシュドレンズは、一方の完全光学面が成型時に完成されており、他方の面を受注等によって対応する度数に個々に切削して製作される。セミフィニッシュドレンズは、目的のレンズの形状に切り出し加工をするので、累進屈折力レンズやプリズム処方レンズなどの特殊レンズに採用できる利点を有している。
【0004】
しかしながら、セミフィニッシュドレンズは、成型後に他面を光学面に形成するので、セミフィニッシュドレンズの他面側に切削代を十分に取る必要がある。また、このように切削代をより多く含むセミフィニッシュドレンズは、成型時に使用する樹脂材料等の成型材料(モノマー)がフィニッシュドレンズと比べて多くなるので、重合時の成型材料の収縮(重合収縮)の量が大きいことが問題となる。重合収縮は、厚み方向に生じるだけでなく、光学面の面内方向にも生じる。セミフィニッシュドレンズの側面はその重合収縮の影響を最も受けやすいので、切削代をより広く取る必要がある。結果、セミフィニッシュドレンズの成型には、比較的多くの成型材料を要することになる。
【0005】
重合収縮による形状の不安定さを解消する手法として、注入口に予め成型材料を残余させておき、重合収縮時にその成型材料を補填させる手法が用いられている。このような方法を用いると、定型的なセミフィニッシュドレンズを得ることができるので、公差の設定を少なくすることができる。しかし、注入口から流入する成型材料とキャビティ内の既存の成型材料とでは、重合の進度が異なる。そのため、成型材料がすべて硬化してできあがったセミフィニッシュドレンズにわずかな歪みが生じる可能性がある。
【0006】
重合収縮によるセミフィニッシュドレンズの形状の不安定さを解消する他の手法として、下型モールドが成型材料の重合収縮に追随するように、当該下型モールドの上下の動きを妨げないように設計されたレンズ成形型を用いる手法が考えられた(例えば特許文献1参照)。
【0007】
このレンズ成形型の一例の概略断面構成を図10に示す。図10に示すように、このレンズ成形型100は、略円筒状のガスケット110の上下から上型モールド130及び下型モールド140をガスケット110に挿入する。これにより、ガスケット110の内部には、セミフィニッシュドレンズの型となるキャビティ150が形成される。
【0008】
ガスケット110の内壁には、上部開口111から挿入された上型モールド130を係止する階段状の上型係止部112が設けられる。この上型係止部112の下方には、セミフィニッシュドレンズの周面の型となる成型部113が設けられる。
【0009】
この成型部113から下部開口115にかけては徐々にガスケット110の内径が大きくなるテーパ面114が形成される。なお、成型部113の一部にレンズ材料を注入する注入口116が設けられる。
【0010】
上型モールド130は、キャビティ150側の面が設計に基づく完全光学面の型となるように構成される。また、下型モールド140は、キャビティ150側の面は設計された光学面の型ではないが、重合時に当該下型モールド140の移動が容易となるように凸面として構成される。
【0011】
このようなレンズ成形型100を用いるレンズ成型方法は以下の通りである。
【0012】
先ず、ガスケット110の上部開口111及び下部開口115からそれぞれ上型モールド130及び下型モールド140が挿入される。そして、上型モールド130は上型係止部112に組付けられ、下型モールド140は所定の押し込み量によりテーパ面114に組付けられる。
【0013】
続いて、セミフィニッシュドレンズを構成する成型材料160が、注入口116を通じてキャビティ150に注入される。成型材料160がガスケット110、上型モールド130及び下型モールド140で封止されるキャビティ150内に充填された状態で、加熱等による重合を行う。すると、重合収縮によって、下型モールド140はテーパ面114に沿って、上側(図10の矢印mの方向)に移動する。そして、成型材料160が硬化してセミフィニッシュドレンズ161(図11参照)が成型される。
【0014】
続いて、セミフィニッシュドレンズ161はガスケット110、上型モールド130及び下型モールド140にくっついているので、それらをセミフィニッシュドレンズ161から分離する。その結果、セミフィニッシュドレンズ161が取り出される。
【0015】
特に、セミフィニッシュドレンズ161を上型モールド130から分離するには、図11に示すように、上型モールド130(またはセミフィニッシュドレンズ161)を手で固定しつつ、セミフィニッシュドレンズ161の側面161b(または上型モールド130の側面)を、硬質な部材(以下、「硬質部材」)等で叩き打つ。これにより、セミフィニッシュドレンズ161の側面161b(または上型モールド130の側面)には、その径方向(図11の白抜き矢印の方向)の衝撃が加わり、セミフィニッシュドレンズ161(または上型モールド130)が一時的に変形して、上型モールド130がセミフィニッシュドレンズ60から分離される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開2009−234111号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
ところで、上述した重合収縮時に、上型モールド130と、上型係止部112との間に隙間が生じていると、この隙間に成型材料160が入り込む現象が生じる。すると、この状態で成型材料160が硬化し、図11に示すように、その側面161bからほぼ径方向に突出した円盤状の角部161aを有するセミフィニッシュドレンズ161が成型される。成型材料160の硬化が進行し、重合収縮が発生すると、上型モールド130とセミフィニッシュドレンズ161の界面に歪が生じる。具体的には、セミフィニッシュドレンズ161の成型面は、成型面の周から成型面の中心に向けて収縮する力が作用しており、上型モールド130は、成型面の収縮に反作用する力が作用している。角部16aがあるセミフィニッシュドレンズ161は、角部161aが上型モールド130の前記反作用を抑止する働きを有する。角部161aがあることで、成型材料160の重合が不完全な状態で界面の歪によって自然に分離する現象を防止することができる。
【0018】
しかしながら、セミフィニッシュドレンズ161を上型モールド130から分離させるために作業員が変形させた際に、角部161aは分離の阻害要素になりうる。角部161aが上型モールド130の内側の面に当たり、図12に示すように、分離が中途で止まってしまうこと(分離失敗)からである。これは、角部161aによる分離防止効果が過大であることによるものである。このような分離失敗が生じると、セミフィニッシュドレンズ161の完全光学面において、分離の止まった箇所に筋状の曇りが生じ、当該セミフィニッシュドレンズ161は不適合品として処理されていた。なお、この上型モールド130からセミフィニッシュドレンズ161を分離する際に、分離失敗によってセミフィニッシュドレンズ161が不適合品になる割合(以下、「レンズ不良率」という)は約10パーセント程度であった。
【0019】
上記課題を解決するため、本発明は、分離失敗が原因のレンズ不良率を低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記の課題を解決し、本発明の目的を達成するため、本発明のレンズ成形型は、完全光学面の型面である成型面を有する上型モールドと、下型モールドと、上型モールド及び下型モールドの外周間を連結してキャビティを形成するレンズ成型用ガスケットと、を備える。上型モールドは、成型面の中心の接線方向に平行な面を有し、成型面の縁に沿って設けられたレンズ離型部を備える。
【0021】
また、本発明のレンズ成型方法は、完全光学面の型面である成型面及び成型面の中心の接線方向に平行な面を有すると共に成型面の縁に沿って設けられたレンズ離型部を有する上型モールドをレンズ成型用ガスケットに挿入して組付ける。そして、上型モールドに対向するように下型モールドを成型用ガスケットに挿入して組付け、上型モールド及び下型モールドの外周間を成型用ガスケットの内壁で連結してキャビティを形成する。続いて、キャビティに成型材料を注入する。そして、成型材料を重合してレンズ形成体をする工程と、重合したレンズ成型体を離型する。
【0022】
本発明の上記した構成によれば、レンズ成型体(セミフィニッシュドレンズ)から上型モールドを分離する際に加える衝撃の方向に対してほぼ平行となるレンズ離型部が設けられている。これにより、レンズ離型部及びレンズ成型体間に働くせん断応力を大きくすることができ、レンズ成型体を上型モールドから分離する際に加える衝撃を効率よくレンズ成型体(または上型モールド)に伝えることができる。したがって、レンズ成型体(または上型モールド)を大きく歪ませることができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、レンズ成型体(または上型モールド)を大きく歪ませることができるので、分離失敗が生じる確率を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の一実施形態に係るレンズ成形型の構成を示す断面図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る上型モールドの構成を示す断面図である。
【図3】本発明の一実施形態に係るレンズ成型方法の概略工程を示すフローチャートである。
【図4】本発明の一実施形態に係るレンズ成型方法の工程を示す説明図である。
【図5】本発明の一実施形態に係るレンズ成型方法の工程を示す説明図である。
【図6】本発明の一実施形態に係るレンズ成型方法の工程を示す説明図である。
【図7】本発明の一実施形態に係るレンズ成型方法の工程を示す説明図である。
【図8】本発明の一実施形態に係るレンズ成型方法の工程を示す説明図である。
【図9】本発明の一実施形態に係るレンズ成型方法の工程を示す説明図である。
【図10】従来のレンズ成形型の構成を示す断面図である。
【図11】従来のレンズ成型方法の工程を示す説明図である。
【図12】従来のレンズ成型方法の工程を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明のレンズ成形型の一実施形態例について、図1〜図9を参照して説明する。各図において共通の部材には、同一の符号を付す。また、本発明は、以下の形態に限定されるものではない。
なお、説明は以下の順序で行う。
1.レンズ成形型の構成例
2.レンズ成型方法
3.レンズ不良率に関する実験結果
【0026】
1.レンズ成形型の構成例
図1は、本発明の一実施形態に係るレンズ成形型を示す断面図である。
レンズ成形型1は、一方の面が眼鏡の処方等に基づき設計された完全光学面として成型されたセミフィニッシュドレンズ(レンズ成型体)を成型するものである。このレンズ成形型1は、上型モールド30と、下型モールド40と、ガスケット10(レンズ成型用ガスケット)とを備える。
【0027】
[ガスケット]
ガスケット10は、弾性を有する円筒形状の樹脂からなる。ガスケット10には、注型成型時に、上型モールド30及び下型モールド40が挿入される。これにより、レンズ成形型1内部にキャビティ50(図4参照)が形成される。
【0028】
このガスケット10には、上部開口11から下部開口25にかけてその内壁に上型リード部12、上型係止部14、成型部16、下型係止部18、下型リード部24が形成される。また、成型部16内の上型係止部14側の領域には、ガスケット10の内部にレンズ成型材料であるモノマー等を導入する注入部23が設けられる。
【0029】
ガスケット10は、上述したように弾性を有する樹脂で構成されるが、この材料としては、例えば熱可塑性ポリウレタンエラストマー等を用いることができる。熱可塑性ポリウレタンエラストマーは、ソフトセグメント及びハードセグメントで構成される。ソフトセグメントは例えばポリメリックグリコールからなり、ハードセグメントは、例えば単分子鎖延長剤及びジイソシアネートからなる。なお、ポリメリックグリコール、単分子鎖延長剤及びジイソシアネートの種類及び量等は、ガスケット10の形状及び成型するレンズの成型材料等によって適宜変更することができる。また、ガスケット10の材料としては、その他、適度な弾性を有する材料であれば使用可能であり、例えば超低密度ポリエチレン、ポリオレフィンエラストマー等の材料を用いることもできる。
【0030】
ガスケット10の上型リード部12は、図1に示す例では円筒面であるが、その他、上部開口11側に向かってわずかに広がるテーパ面であってもよい。このテーパ面は、ガスケット10の中心軸Aに対して1°以上5°以下、より望ましくは2°以上3°以下程度傾いている。
【0031】
また、この上型リード部12の内径は上型モールド30の外径より小さい。そのため、上型モールド30をガスケット10に挿入した際には、ガスケット10はその径が広がる方向(中心軸Aに直交する方向)に変形し、上型モールド30が上型リード部12に押圧された状態で当該上型リード部12内に挿入される。
【0032】
この上型リード部12の内径は、具体的には、挿入される上型モールド30の外径に対して2%以上3%以下程度小さく設計されることが望ましい。上型リード部12の内径をこの範囲とすることで、重合時において、ガスケット10及び上型モールド30間のシール性が確保される。
【0033】
成型部16は、上型係止部14及び下型係止部18間に設けられる。成型部16は、図1に示すように、上型リード部12及び下型リード部24から中心軸A方向に突出する。上型リード部12及び下型リード部24からの成型部16の高さを0.5mm以上1.2mm以下程度とすることにより、上型係止部14及び下型係止部18において重合時に良好なシールドを行うことができる。また、成型部16の内径を調整することによって、異なる径のセミフィニッシュドレンズを成型することができる。なお、中心軸Aに沿う方向の成型部16の幅は、成型されるセミフィニッシュドレンズの側面の厚さ、いわゆるコバ厚に対応して決定される。
【0034】
また、成型部16の上下にそれぞれ設けられた上型係止部14及び下型係止部18は、重合時に、上型モールド30及び下型モールド40とそれぞれ当接してレンズ成形型1内を封止する部分である。そのため、これらの上型係止部14及び下型係止部18の傾斜角度は、上型モールド30及び下型モールド40のそれぞれの当接面(後述するシール面36,44)の形状に応じて、重合時に必要なシール性が得られる角度とする。
【0035】
また、成型部16内の上部には、図1に示すように、ガスケット10の内外に連通する注入部23の注入口22が設けられる。注入部23は、開口形状が例えば横長の長方形状である孔を有する管状であり、外側の接続部21を通じて注入管(不図示)に連通する。
【0036】
また、下型係止部18の直下には、下型リード部24が設けられる。この下型リード部24には、成型材料を注入するときに下型モールド40を静止する初期静止部20が含まれる。成型初期、すなわち重合が開始していない最も成型材料の体積が大きい時、下型モールド40は初期静止部20に位置する。
【0037】
なお、下型リード部24の内径は、下型モールド40の外径よりも小さい。そのため、下型モールド40をガスケット10に持入した際には、下型モールド40は、ガスケット10をその径が拡がる方向(中心軸Aの径方向)に変形させる。そして、下型モールド40が、下型リード部24に押圧された状態で下型リード部24に挿入される。したがって、強い押圧力により下型モールド40を押し込むことで、下型モールド40は下型係止部18に到達可能であるが、下型係止部18に至らない位置である初期静止部20において下型モールド40の押し込みを停止することで、下型モールド40を下型係止部18に対して所定の間隔d(図4参照)だけ離して静止させることができる。この間隔dは、成型材料の重合収縮量に対応して適宜選定される。
【0038】
下型リード部24は、下型係止部18の直下の内径が最も小さく、下部開口25に向けて徐々に内径が広くなるテーパ形状の断面として形成されることが望ましい。具体的には、下型リード部24の内壁は、中心軸Aに対して1°以上3°以下で傾いていることが好ましいが、1.5°以上2.5°以下で傾いていることがより好ましい。
【0039】
ただし、下型リード部24において、下型係止部18の直下から初期静止部20までの間の一部又は全部の領域は、テーパー面ではなく、ほぼ等しい内径で構成された円筒面となる。
【0040】
このように、上型リード部12の上型係止部14側の領域及び下型リード部24の下型係止部18側の領域をテーパ面ではなく円筒面とすることで、成型時において、これらの円筒面と、上型モールド30の側面31及び下型モールド40の側面43との密着性を高めることができる。その結果、外部からキャビティ50への空気の侵入により、セミフィニッシュドレンズに気泡が発生することを防止できる。
【0041】
[上型モールド]
次に、図1に加えて図2を参照して上型モールド30について説明する。
図2は、図1に示す上型モールド30の拡大断面図である。
上型モールド30は、その外径が上型リード部12の内径よりもわずかに大きくなるように形成される。具体的には、上型モールド30の外径は、上型係止部14直上における上型リード部12の内径よりも1.5〜2.5mm程度大きいことが好ましい。これにより、上型リード部12の上部開口11から上型モールド30が挿入された際に、上型モールド30の側面31は、上型リード部12の内壁により締め付けられる。その結果、上型モールド30は、ガスケット10の上部を密封する。なお、重合時には、上型モールド30は上型係止部14に当接するまで押し込まれた状態で用いられる。
【0042】
この上型モールド30は、例えば透明ガラスから構成される。上型モールド30は、凸面である外面32と、略凹面である内面33とを備える。
内面33は、成型されるセミフィニッシュドレンズの完全光学面を直接的に成型する成型面34を含む。
【0043】
また、内面33は、図2に示すように、成型面34の周縁に沿って設けられたレンズ離型面35(レンズ離型部)を有する。レンズ離型面35は、略ドーナツ状の面であって、成型面34の中心の接線方向に平行な面である。すなわち、レンズ離型面35は、成型されるセミフィニッシュドレンズの光軸C(図7参照)に直交する面でもある。
【0044】
このレンズ離型面35は、成型されたセミフィニッシュドレンズの上型モールド30からの離型を容易にするためのものであり、その径方向の幅h(図2参照)が大きいほど離型の成功確率が高くなることが後述する実験結果(表1参照)によりわかっている。しかしながら、この幅hをあまり大きくしすぎると、成型されたセミフィニッシュドレンズの周縁をより多く削る必要があり、成型材料が無駄になる。そのため、レンズ離型面35は、その径方向の幅hが0.5mm以上2.5mm以下であることが好ましい。
【0045】
また、内面33は、図2に示すように、側面31に連続すると共にレンズ離型面35の周縁に沿って設けられたシール面36を含む。このシール面36は、テーパ面として設けられ、ガスケット10の上型リード部12から上型モールド30が挿入された際に上型係止部14に当接する。なお、シール面36及び上型係止部14は、重合時に両者の全周に亘って当接状態が確保されるように構成される。
【0046】
上型モールド30における外面32及び内面33間の厚さ(以下、「上型モールド30の厚さ」という)は、当該上型モールド30の成型面34を構成する領域(以下、「成型面構成領域」という)で均一なるように設計される。この成型面構成領域には、重合収縮時にレンズ成形型1の内部方向に強く引かれる力が作用する。したがって、上型モールド30の成型面構成領域における厚さを均一にすることで、この力の作用が一点に集中することを抑制ないしは回避することができ、重合収縮時のキャビティ50においての減圧に係る作用によって生じる上型モールド30の破損を好適に抑制することができる。
【0047】
[下型モールド]
次に、図1を参照して下型モールド40について説明する。
下型モールド40は、例えば透明ガラスにより構成される。この下型モールド40は、凹面である外面41と、凸面である成型面42とを有する。そして、下型モールド40は、その側面43に続くと共に成型面42の周縁に沿って形成されたシール面44をさらに備える。
【0048】
シール面44は、テーパ面として設けられ、ガスケット10の下型リード部24から下型モールド40が挿入された際に下型係止部18に当接可能に構成される。これにより、下型モールド40は、ガスケット10の下部開口25から下型リード部24に挿入され、成型初期にはシール面44の端部が下型リード部24の初期静止部20で静止し、重合完了時にはシール面44が下型係止部18に当接する。なお、下型モールド40の成型面42を構成する領域における厚さは、上型モールド30と同様の理由により均一に形成される。
【0049】
下型モールド40の外径は、下部開口25の内径に略等しいか、わずかに大きい径となる。これは、上述したように、ガスケット10の下型リード部24は、下型係止部18の下部付近が最も内径が小さく、下部開口25に向かって徐々に内径が大きくなる形状であるためである。具体的には、下型モールド40の外径は、下部開口25の内径よりも1.5mmから2.5mm程度大きいことが好ましい。
【0050】
2.レンズ成型方法
次に、以上説明した本発明の一実施の形態に係るレンズ成形型1を用いたレンズ成型方法について図3〜図9を参照して説明する。
図3は、本発明の一実施形態に係るレンズ成型方法の概略工程を示すフローチャートである。
【0051】
まず、上型モールド30がガスケット10の上部開口11から挿入されて当該ガスケット10に組付けられる(図3のステップS1)。すなわち、上型モールド30のシール面36がガスケット10の上型係止部14に当接される。
【0052】
図4は、ステップS1の工程で上型モールド30をガスケット10の上型係止部14の位置に組付けた後の状態を示す断面図である。
図4に示すように、上型モールド30は、内面33側をガスケット10の内部のキャビティ50側に向けて挿入される。そして、上型モールド30がガスケット10に組付けられた状態で、シール面36と上型係止部14とが全周に渡って接触状態にされる。このとき、ガスケット10を弾性体である樹脂等により構成し、また、上型リード部12の内径よりも上型モールド30の外径の方を大きく選定するので、上型モールド30及びガスケット10間の密着性は確実に確保される。
【0053】
次いで、下型モールド40がガスケット10の下部開口25から挿入されて当該ガスケット10に組付けられる(図3のステップS2)。すなわち、下型モールド40は、その側面43が初期静止部20に位置するようにガスケット10に組付けられる。このとき、ガスケット10の初期静止部20と下型係止部18との間に、間隔dを保持するような組付けが行われる(図4参照)。この間隔dは、重合工程で成型材料が収縮する量を考慮して適宜選定することが望ましい。図1にて説明したように、初期静止部20の内径よりも下型モールド40の外径の方が大きいので、下型モールド40及びガスケット10間の密着性は確実に確保される。なお、以上説明したステップS1及びS2の工程は順序を入れ替えて行うことが可能である。
【0054】
これらのステップS1及びS2の工程が完了すると、レンズ成形型1に成型材料注入時のキャビティ50が形成される。なお、ステップS2の工程までで形成されるキャビティ50の容積は、重合後の完成成型品の設計体積よりも、下型係止部18と初期静止部20との間隔dに応じた体積の分だけ大きい。すなわち、このキャビティ50の容積は、重合収縮により消費される体積分とほぼ等しい容積分だけ設計体積より大きく選定される。
【0055】
次いで、図5に示すように、キャビティ50内にセミフィニッシュドレンズを構成する成型材料(モノマー)が注入される(図3のステップS3)。成型材料は、ガスケット10の外部から注入部23の接続部21、注入口22を通じて注入される。
【0056】
次いで、電気炉等によりレンズ成形型1が加熱されることにより、重合処理が行われ、セミフィニッシュドレンズ60が成型される(図3のステップS4)。この加熱等による重合の際に、キャビティ50内の成型材料が重合収縮すると共に、上型モールド30及び下型モールド40が膨張する現象が生じる。ガスケット10は、弾性を有する材料で構成されており柔軟性があるので、上型モールド30及び下型モールド40の変形に対して高いシール性能を維持しながら、両者の形状変化に追従する。このとき、キャビティ50内の成型材料の重合が進むにしたがい、キャビティ50の初期の容積よりも成型材料の体積が徐々に小さくなる(図6参照)。
【0057】
下型モールド40は、図6に示すように、初期段階において二点鎖線で示すように初期静止部20に位置するが、重合収縮に伴う成型材料の縮小に追随するように、初期静止部20から矢印aで示すように徐々に上方に移動し、下型係止部18により停止する。
【0058】
このとき、上型モールド30のシール面36と、ガスケット10の上型係止部14との間に隙間が生じ、図7に示すように、この隙間に成型材料が入り込むことがある。すると、この状態で成型材料が硬化し、セミフィニッシュドレンズ60が成型される。このセミフィニッシュドレンズ60は、その側面63からほぼ径方向に突出した円盤状の角部60aを有する。
【0059】
セミフィニッシュドレンズ60は、キャビティ50とほぼ等しい形状となるため、その完全光学面61の周縁に沿って、すなわちこの完全光学面61と角部60aとの間には、レンズ離型面35に接触する被離型面62が形成される。この被離型面62は、セミフィニッシュドレンズ60の光軸Cに直交する面であって略ドーナツ状の面となる。また、セミフィニッシュドレンズ60の径方向におけるこの被離型面62の幅は、上型モールド30におけるレンズ離型面35の幅hとほぼ等しくなる。
【0060】
以上の工程が完了した後、作業者は、ガスケット10、上型モールド30及び下型モールド40をセミフィニッシュドレンズ60から分離する、いわゆる離型を行う(図3のステップS5)。すなわち、作業者は、まず、ガスケット10を剥がして、上型モールド30及び下型モールド40がくっついた状態のセミフィニッシュドレンズ60を取り出す。
【0061】
続いて、上型モールド30をセミフィニッシュドレンズ60から分離する工程が行われる。作業者は、上型モールド30を手で固定しつつセミフィニッシュドレンズ60の側面63を、図8に示すように、硬質部材等で叩き打つ。すると、セミフィニッシュドレンズ60の側面63には、その光軸Cに直交する方向(図8の白抜き矢印の方向)の衝撃が加わる。そして、セミフィニッシュドレンズ60が一時的に変形して、セミフィニッシュドレンズ60から上型モールド30が分離される。なお、図8及び後述する図9においては、説明を簡単にするため、下型モールド40は図示していない。
【0062】
ここで、セミフィニッシュドレンズ60の被離型面62及び上型モールド30のレンズ離型面35は両方とも衝撃が加えられた方向(図8の白抜き矢印の方向)に平行な面である。そのため、被離型面62及びレンズ離型面35間に働くせん断応力を大きくすることができ、当該衝撃を効率よくセミフィニッシュドレンズ60に伝えることができる。その結果、セミフィニッシュドレンズ60を大きく歪ませることができる。
【0063】
その上、上型モールド30におけるレンズ離型面35とシール面36とのなす角度を従来よりも大きくしたので、セミフィニッシュドレンズ60に歪が生じた際に、当該上型モールド30がレンズ離型面35とシール面36との境目でセミフィニッシュドレンズ60の角部60aに引っ掛かり、分離が中途で止まってしまう確率を低減できる。したがって、作業者は、図9に示すように、セミフィニッシュドレンズ60から上型モールド30を一気に分離することを容易に行うことができる。
【0064】
次に、セミフィニッシュドレンズ60から下型モールド40を分離する工程が行われるが、この工程は、上述したセミフィニッシュドレンズ60から上型モールド30を分離する工程と同じく、下型モールド40を手で固定しつつセミフィニッシュドレンズ60の側面63を、硬質部材等で叩き打てばよい。なお、本例では、先に上型モールド30をセミフィニッシュドレンズ60から分離する工程を行うようにしたが、先に下型モールド40をセミフィニッシュドレンズ60から分離する工程を行うようにしてもよい。
【0065】
3.レンズ不良率に関する実験結果
本出願人は、上型モールド30におけるレンズ離型面35の幅h(図7参照)と、角部60aを有するセミフィニッシュドレンズ60が不良品となる割合(レンズ不良率)との関係を調べる実験を行った。その実験結果を以下の表1に示す。なお、不良品とは、図3に示すステップS5の工程において上型モールド30の分離に失敗して使い物にならなくなったセミフィニッシュドレンズ60のことを指す。
【0066】
【表1】
【0067】
表1に示すように、上型モールド30におけるレンズ離型面35の幅hが0.5mmのとき、レンズ不良率が4.2パーセントであった。すなわち、成型した1000枚のセミフィニッシュドレンズ60のうち42枚が不良品となった。
【0068】
また、レンズ離型面35の幅hが1.5mmのとき、レンズ不良率が1.1パーセントとなった。すなわち、成型した1000枚のセミフィニッシュドレンズ60のうち11枚が不良品となった。
【0069】
また、レンズ離型面35の幅hが2.5mmのとき、レンズ不良率が0.5パーセントとなった。すなわち、成型した1000枚のセミフィニッシュドレンズ60のうち5枚が不良品となった。
【0070】
この実験により、レンズ離型面35の幅hを大きくすれば、成型したセミフィニッシュドレンズ60のレンズ不良率が小さくなるということが実証された。
【0071】
以上説明したように、本発明の一実施形態によれば、上型モールド30において幅hが0.5mmよりも大きくなるようにレンズ離型面35を形成した。これにより、従来のレンズ成形型で作られたセミフィニッシュドレンズでは10パーセントもあったレンズ不良率を4.2パーセント以下に低減することができる。
【0072】
なお、上述した一実施形態では、セミフィニッシュドレンズから上型モールドを分離する際に、セミフィニッシュドレンズに衝撃を加える例について説明した。しかしながら、セミフィニッシュドレンズに衝撃を加える代わりに、上型モールドに衝撃を加えても、レンズ離型面及びレンズ成型体間に働くせん断応力を大きくすることができ、一実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0073】
また、一実施形態に係る上型モールドは、上述したガスケットとは異なる形状のガスケットに対しても使用することができる。
【符号の説明】
【0074】
1…レンズ成形型、10…ガスケット、11…上部開口、12…上型リード部、14…上型係止部、16…成型部、18…下型係止部、20…初期静止部、21…接続部、22…注入口、23…注入部、24…下型リード部、25…下部開口、30…上型モールド、31…側面、32…外面、33…内面、34…成型面、35…レンズ離型面、36…シール面、40…下型モールド、41…外面、42…成型面、43…側面、44…シール面、50…キャビティ、60…セミフィニッシュドレンズ、60a…角部、61…完全光学面、62…被離型面、63…側面
【技術分野】
【0001】
本発明は、注型重合法によってプラスチックレンズを成型するレンズ成形型及びレンズ成型方法に関する。特に、一方のレンズ面が予め設計された完全光学面であるセミフィニッシュドレンズを成型するレンズ成形型及びレンズ成型方法に関する。
【背景技術】
【0002】
眼鏡用のプラスチックレンズは、一般に注型重合法によって成型される。プラスチックレンズを成型するための成形型は、円筒形であって、プラスチックレンズの成型材料を注入する注入口を有するガスケットを備える。さらに、プラスチックレンズは、レンズの両面を成型する上型モールド及び下型モールドを備える。なお、プラスチックレンズは、上下両方のモールドを予め設計された完全光学面の型を用いて成型したフィニッシュドレンズと、一方のモールドのみを設計値に基づく完全光学面の型を用いて成型したセミフィニッシュドレンズとに大別される。
【0003】
セミフィニッシュドレンズは、一方の完全光学面が成型時に完成されており、他方の面を受注等によって対応する度数に個々に切削して製作される。セミフィニッシュドレンズは、目的のレンズの形状に切り出し加工をするので、累進屈折力レンズやプリズム処方レンズなどの特殊レンズに採用できる利点を有している。
【0004】
しかしながら、セミフィニッシュドレンズは、成型後に他面を光学面に形成するので、セミフィニッシュドレンズの他面側に切削代を十分に取る必要がある。また、このように切削代をより多く含むセミフィニッシュドレンズは、成型時に使用する樹脂材料等の成型材料(モノマー)がフィニッシュドレンズと比べて多くなるので、重合時の成型材料の収縮(重合収縮)の量が大きいことが問題となる。重合収縮は、厚み方向に生じるだけでなく、光学面の面内方向にも生じる。セミフィニッシュドレンズの側面はその重合収縮の影響を最も受けやすいので、切削代をより広く取る必要がある。結果、セミフィニッシュドレンズの成型には、比較的多くの成型材料を要することになる。
【0005】
重合収縮による形状の不安定さを解消する手法として、注入口に予め成型材料を残余させておき、重合収縮時にその成型材料を補填させる手法が用いられている。このような方法を用いると、定型的なセミフィニッシュドレンズを得ることができるので、公差の設定を少なくすることができる。しかし、注入口から流入する成型材料とキャビティ内の既存の成型材料とでは、重合の進度が異なる。そのため、成型材料がすべて硬化してできあがったセミフィニッシュドレンズにわずかな歪みが生じる可能性がある。
【0006】
重合収縮によるセミフィニッシュドレンズの形状の不安定さを解消する他の手法として、下型モールドが成型材料の重合収縮に追随するように、当該下型モールドの上下の動きを妨げないように設計されたレンズ成形型を用いる手法が考えられた(例えば特許文献1参照)。
【0007】
このレンズ成形型の一例の概略断面構成を図10に示す。図10に示すように、このレンズ成形型100は、略円筒状のガスケット110の上下から上型モールド130及び下型モールド140をガスケット110に挿入する。これにより、ガスケット110の内部には、セミフィニッシュドレンズの型となるキャビティ150が形成される。
【0008】
ガスケット110の内壁には、上部開口111から挿入された上型モールド130を係止する階段状の上型係止部112が設けられる。この上型係止部112の下方には、セミフィニッシュドレンズの周面の型となる成型部113が設けられる。
【0009】
この成型部113から下部開口115にかけては徐々にガスケット110の内径が大きくなるテーパ面114が形成される。なお、成型部113の一部にレンズ材料を注入する注入口116が設けられる。
【0010】
上型モールド130は、キャビティ150側の面が設計に基づく完全光学面の型となるように構成される。また、下型モールド140は、キャビティ150側の面は設計された光学面の型ではないが、重合時に当該下型モールド140の移動が容易となるように凸面として構成される。
【0011】
このようなレンズ成形型100を用いるレンズ成型方法は以下の通りである。
【0012】
先ず、ガスケット110の上部開口111及び下部開口115からそれぞれ上型モールド130及び下型モールド140が挿入される。そして、上型モールド130は上型係止部112に組付けられ、下型モールド140は所定の押し込み量によりテーパ面114に組付けられる。
【0013】
続いて、セミフィニッシュドレンズを構成する成型材料160が、注入口116を通じてキャビティ150に注入される。成型材料160がガスケット110、上型モールド130及び下型モールド140で封止されるキャビティ150内に充填された状態で、加熱等による重合を行う。すると、重合収縮によって、下型モールド140はテーパ面114に沿って、上側(図10の矢印mの方向)に移動する。そして、成型材料160が硬化してセミフィニッシュドレンズ161(図11参照)が成型される。
【0014】
続いて、セミフィニッシュドレンズ161はガスケット110、上型モールド130及び下型モールド140にくっついているので、それらをセミフィニッシュドレンズ161から分離する。その結果、セミフィニッシュドレンズ161が取り出される。
【0015】
特に、セミフィニッシュドレンズ161を上型モールド130から分離するには、図11に示すように、上型モールド130(またはセミフィニッシュドレンズ161)を手で固定しつつ、セミフィニッシュドレンズ161の側面161b(または上型モールド130の側面)を、硬質な部材(以下、「硬質部材」)等で叩き打つ。これにより、セミフィニッシュドレンズ161の側面161b(または上型モールド130の側面)には、その径方向(図11の白抜き矢印の方向)の衝撃が加わり、セミフィニッシュドレンズ161(または上型モールド130)が一時的に変形して、上型モールド130がセミフィニッシュドレンズ60から分離される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開2009−234111号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
ところで、上述した重合収縮時に、上型モールド130と、上型係止部112との間に隙間が生じていると、この隙間に成型材料160が入り込む現象が生じる。すると、この状態で成型材料160が硬化し、図11に示すように、その側面161bからほぼ径方向に突出した円盤状の角部161aを有するセミフィニッシュドレンズ161が成型される。成型材料160の硬化が進行し、重合収縮が発生すると、上型モールド130とセミフィニッシュドレンズ161の界面に歪が生じる。具体的には、セミフィニッシュドレンズ161の成型面は、成型面の周から成型面の中心に向けて収縮する力が作用しており、上型モールド130は、成型面の収縮に反作用する力が作用している。角部16aがあるセミフィニッシュドレンズ161は、角部161aが上型モールド130の前記反作用を抑止する働きを有する。角部161aがあることで、成型材料160の重合が不完全な状態で界面の歪によって自然に分離する現象を防止することができる。
【0018】
しかしながら、セミフィニッシュドレンズ161を上型モールド130から分離させるために作業員が変形させた際に、角部161aは分離の阻害要素になりうる。角部161aが上型モールド130の内側の面に当たり、図12に示すように、分離が中途で止まってしまうこと(分離失敗)からである。これは、角部161aによる分離防止効果が過大であることによるものである。このような分離失敗が生じると、セミフィニッシュドレンズ161の完全光学面において、分離の止まった箇所に筋状の曇りが生じ、当該セミフィニッシュドレンズ161は不適合品として処理されていた。なお、この上型モールド130からセミフィニッシュドレンズ161を分離する際に、分離失敗によってセミフィニッシュドレンズ161が不適合品になる割合(以下、「レンズ不良率」という)は約10パーセント程度であった。
【0019】
上記課題を解決するため、本発明は、分離失敗が原因のレンズ不良率を低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記の課題を解決し、本発明の目的を達成するため、本発明のレンズ成形型は、完全光学面の型面である成型面を有する上型モールドと、下型モールドと、上型モールド及び下型モールドの外周間を連結してキャビティを形成するレンズ成型用ガスケットと、を備える。上型モールドは、成型面の中心の接線方向に平行な面を有し、成型面の縁に沿って設けられたレンズ離型部を備える。
【0021】
また、本発明のレンズ成型方法は、完全光学面の型面である成型面及び成型面の中心の接線方向に平行な面を有すると共に成型面の縁に沿って設けられたレンズ離型部を有する上型モールドをレンズ成型用ガスケットに挿入して組付ける。そして、上型モールドに対向するように下型モールドを成型用ガスケットに挿入して組付け、上型モールド及び下型モールドの外周間を成型用ガスケットの内壁で連結してキャビティを形成する。続いて、キャビティに成型材料を注入する。そして、成型材料を重合してレンズ形成体をする工程と、重合したレンズ成型体を離型する。
【0022】
本発明の上記した構成によれば、レンズ成型体(セミフィニッシュドレンズ)から上型モールドを分離する際に加える衝撃の方向に対してほぼ平行となるレンズ離型部が設けられている。これにより、レンズ離型部及びレンズ成型体間に働くせん断応力を大きくすることができ、レンズ成型体を上型モールドから分離する際に加える衝撃を効率よくレンズ成型体(または上型モールド)に伝えることができる。したがって、レンズ成型体(または上型モールド)を大きく歪ませることができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、レンズ成型体(または上型モールド)を大きく歪ませることができるので、分離失敗が生じる確率を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の一実施形態に係るレンズ成形型の構成を示す断面図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る上型モールドの構成を示す断面図である。
【図3】本発明の一実施形態に係るレンズ成型方法の概略工程を示すフローチャートである。
【図4】本発明の一実施形態に係るレンズ成型方法の工程を示す説明図である。
【図5】本発明の一実施形態に係るレンズ成型方法の工程を示す説明図である。
【図6】本発明の一実施形態に係るレンズ成型方法の工程を示す説明図である。
【図7】本発明の一実施形態に係るレンズ成型方法の工程を示す説明図である。
【図8】本発明の一実施形態に係るレンズ成型方法の工程を示す説明図である。
【図9】本発明の一実施形態に係るレンズ成型方法の工程を示す説明図である。
【図10】従来のレンズ成形型の構成を示す断面図である。
【図11】従来のレンズ成型方法の工程を示す説明図である。
【図12】従来のレンズ成型方法の工程を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明のレンズ成形型の一実施形態例について、図1〜図9を参照して説明する。各図において共通の部材には、同一の符号を付す。また、本発明は、以下の形態に限定されるものではない。
なお、説明は以下の順序で行う。
1.レンズ成形型の構成例
2.レンズ成型方法
3.レンズ不良率に関する実験結果
【0026】
1.レンズ成形型の構成例
図1は、本発明の一実施形態に係るレンズ成形型を示す断面図である。
レンズ成形型1は、一方の面が眼鏡の処方等に基づき設計された完全光学面として成型されたセミフィニッシュドレンズ(レンズ成型体)を成型するものである。このレンズ成形型1は、上型モールド30と、下型モールド40と、ガスケット10(レンズ成型用ガスケット)とを備える。
【0027】
[ガスケット]
ガスケット10は、弾性を有する円筒形状の樹脂からなる。ガスケット10には、注型成型時に、上型モールド30及び下型モールド40が挿入される。これにより、レンズ成形型1内部にキャビティ50(図4参照)が形成される。
【0028】
このガスケット10には、上部開口11から下部開口25にかけてその内壁に上型リード部12、上型係止部14、成型部16、下型係止部18、下型リード部24が形成される。また、成型部16内の上型係止部14側の領域には、ガスケット10の内部にレンズ成型材料であるモノマー等を導入する注入部23が設けられる。
【0029】
ガスケット10は、上述したように弾性を有する樹脂で構成されるが、この材料としては、例えば熱可塑性ポリウレタンエラストマー等を用いることができる。熱可塑性ポリウレタンエラストマーは、ソフトセグメント及びハードセグメントで構成される。ソフトセグメントは例えばポリメリックグリコールからなり、ハードセグメントは、例えば単分子鎖延長剤及びジイソシアネートからなる。なお、ポリメリックグリコール、単分子鎖延長剤及びジイソシアネートの種類及び量等は、ガスケット10の形状及び成型するレンズの成型材料等によって適宜変更することができる。また、ガスケット10の材料としては、その他、適度な弾性を有する材料であれば使用可能であり、例えば超低密度ポリエチレン、ポリオレフィンエラストマー等の材料を用いることもできる。
【0030】
ガスケット10の上型リード部12は、図1に示す例では円筒面であるが、その他、上部開口11側に向かってわずかに広がるテーパ面であってもよい。このテーパ面は、ガスケット10の中心軸Aに対して1°以上5°以下、より望ましくは2°以上3°以下程度傾いている。
【0031】
また、この上型リード部12の内径は上型モールド30の外径より小さい。そのため、上型モールド30をガスケット10に挿入した際には、ガスケット10はその径が広がる方向(中心軸Aに直交する方向)に変形し、上型モールド30が上型リード部12に押圧された状態で当該上型リード部12内に挿入される。
【0032】
この上型リード部12の内径は、具体的には、挿入される上型モールド30の外径に対して2%以上3%以下程度小さく設計されることが望ましい。上型リード部12の内径をこの範囲とすることで、重合時において、ガスケット10及び上型モールド30間のシール性が確保される。
【0033】
成型部16は、上型係止部14及び下型係止部18間に設けられる。成型部16は、図1に示すように、上型リード部12及び下型リード部24から中心軸A方向に突出する。上型リード部12及び下型リード部24からの成型部16の高さを0.5mm以上1.2mm以下程度とすることにより、上型係止部14及び下型係止部18において重合時に良好なシールドを行うことができる。また、成型部16の内径を調整することによって、異なる径のセミフィニッシュドレンズを成型することができる。なお、中心軸Aに沿う方向の成型部16の幅は、成型されるセミフィニッシュドレンズの側面の厚さ、いわゆるコバ厚に対応して決定される。
【0034】
また、成型部16の上下にそれぞれ設けられた上型係止部14及び下型係止部18は、重合時に、上型モールド30及び下型モールド40とそれぞれ当接してレンズ成形型1内を封止する部分である。そのため、これらの上型係止部14及び下型係止部18の傾斜角度は、上型モールド30及び下型モールド40のそれぞれの当接面(後述するシール面36,44)の形状に応じて、重合時に必要なシール性が得られる角度とする。
【0035】
また、成型部16内の上部には、図1に示すように、ガスケット10の内外に連通する注入部23の注入口22が設けられる。注入部23は、開口形状が例えば横長の長方形状である孔を有する管状であり、外側の接続部21を通じて注入管(不図示)に連通する。
【0036】
また、下型係止部18の直下には、下型リード部24が設けられる。この下型リード部24には、成型材料を注入するときに下型モールド40を静止する初期静止部20が含まれる。成型初期、すなわち重合が開始していない最も成型材料の体積が大きい時、下型モールド40は初期静止部20に位置する。
【0037】
なお、下型リード部24の内径は、下型モールド40の外径よりも小さい。そのため、下型モールド40をガスケット10に持入した際には、下型モールド40は、ガスケット10をその径が拡がる方向(中心軸Aの径方向)に変形させる。そして、下型モールド40が、下型リード部24に押圧された状態で下型リード部24に挿入される。したがって、強い押圧力により下型モールド40を押し込むことで、下型モールド40は下型係止部18に到達可能であるが、下型係止部18に至らない位置である初期静止部20において下型モールド40の押し込みを停止することで、下型モールド40を下型係止部18に対して所定の間隔d(図4参照)だけ離して静止させることができる。この間隔dは、成型材料の重合収縮量に対応して適宜選定される。
【0038】
下型リード部24は、下型係止部18の直下の内径が最も小さく、下部開口25に向けて徐々に内径が広くなるテーパ形状の断面として形成されることが望ましい。具体的には、下型リード部24の内壁は、中心軸Aに対して1°以上3°以下で傾いていることが好ましいが、1.5°以上2.5°以下で傾いていることがより好ましい。
【0039】
ただし、下型リード部24において、下型係止部18の直下から初期静止部20までの間の一部又は全部の領域は、テーパー面ではなく、ほぼ等しい内径で構成された円筒面となる。
【0040】
このように、上型リード部12の上型係止部14側の領域及び下型リード部24の下型係止部18側の領域をテーパ面ではなく円筒面とすることで、成型時において、これらの円筒面と、上型モールド30の側面31及び下型モールド40の側面43との密着性を高めることができる。その結果、外部からキャビティ50への空気の侵入により、セミフィニッシュドレンズに気泡が発生することを防止できる。
【0041】
[上型モールド]
次に、図1に加えて図2を参照して上型モールド30について説明する。
図2は、図1に示す上型モールド30の拡大断面図である。
上型モールド30は、その外径が上型リード部12の内径よりもわずかに大きくなるように形成される。具体的には、上型モールド30の外径は、上型係止部14直上における上型リード部12の内径よりも1.5〜2.5mm程度大きいことが好ましい。これにより、上型リード部12の上部開口11から上型モールド30が挿入された際に、上型モールド30の側面31は、上型リード部12の内壁により締め付けられる。その結果、上型モールド30は、ガスケット10の上部を密封する。なお、重合時には、上型モールド30は上型係止部14に当接するまで押し込まれた状態で用いられる。
【0042】
この上型モールド30は、例えば透明ガラスから構成される。上型モールド30は、凸面である外面32と、略凹面である内面33とを備える。
内面33は、成型されるセミフィニッシュドレンズの完全光学面を直接的に成型する成型面34を含む。
【0043】
また、内面33は、図2に示すように、成型面34の周縁に沿って設けられたレンズ離型面35(レンズ離型部)を有する。レンズ離型面35は、略ドーナツ状の面であって、成型面34の中心の接線方向に平行な面である。すなわち、レンズ離型面35は、成型されるセミフィニッシュドレンズの光軸C(図7参照)に直交する面でもある。
【0044】
このレンズ離型面35は、成型されたセミフィニッシュドレンズの上型モールド30からの離型を容易にするためのものであり、その径方向の幅h(図2参照)が大きいほど離型の成功確率が高くなることが後述する実験結果(表1参照)によりわかっている。しかしながら、この幅hをあまり大きくしすぎると、成型されたセミフィニッシュドレンズの周縁をより多く削る必要があり、成型材料が無駄になる。そのため、レンズ離型面35は、その径方向の幅hが0.5mm以上2.5mm以下であることが好ましい。
【0045】
また、内面33は、図2に示すように、側面31に連続すると共にレンズ離型面35の周縁に沿って設けられたシール面36を含む。このシール面36は、テーパ面として設けられ、ガスケット10の上型リード部12から上型モールド30が挿入された際に上型係止部14に当接する。なお、シール面36及び上型係止部14は、重合時に両者の全周に亘って当接状態が確保されるように構成される。
【0046】
上型モールド30における外面32及び内面33間の厚さ(以下、「上型モールド30の厚さ」という)は、当該上型モールド30の成型面34を構成する領域(以下、「成型面構成領域」という)で均一なるように設計される。この成型面構成領域には、重合収縮時にレンズ成形型1の内部方向に強く引かれる力が作用する。したがって、上型モールド30の成型面構成領域における厚さを均一にすることで、この力の作用が一点に集中することを抑制ないしは回避することができ、重合収縮時のキャビティ50においての減圧に係る作用によって生じる上型モールド30の破損を好適に抑制することができる。
【0047】
[下型モールド]
次に、図1を参照して下型モールド40について説明する。
下型モールド40は、例えば透明ガラスにより構成される。この下型モールド40は、凹面である外面41と、凸面である成型面42とを有する。そして、下型モールド40は、その側面43に続くと共に成型面42の周縁に沿って形成されたシール面44をさらに備える。
【0048】
シール面44は、テーパ面として設けられ、ガスケット10の下型リード部24から下型モールド40が挿入された際に下型係止部18に当接可能に構成される。これにより、下型モールド40は、ガスケット10の下部開口25から下型リード部24に挿入され、成型初期にはシール面44の端部が下型リード部24の初期静止部20で静止し、重合完了時にはシール面44が下型係止部18に当接する。なお、下型モールド40の成型面42を構成する領域における厚さは、上型モールド30と同様の理由により均一に形成される。
【0049】
下型モールド40の外径は、下部開口25の内径に略等しいか、わずかに大きい径となる。これは、上述したように、ガスケット10の下型リード部24は、下型係止部18の下部付近が最も内径が小さく、下部開口25に向かって徐々に内径が大きくなる形状であるためである。具体的には、下型モールド40の外径は、下部開口25の内径よりも1.5mmから2.5mm程度大きいことが好ましい。
【0050】
2.レンズ成型方法
次に、以上説明した本発明の一実施の形態に係るレンズ成形型1を用いたレンズ成型方法について図3〜図9を参照して説明する。
図3は、本発明の一実施形態に係るレンズ成型方法の概略工程を示すフローチャートである。
【0051】
まず、上型モールド30がガスケット10の上部開口11から挿入されて当該ガスケット10に組付けられる(図3のステップS1)。すなわち、上型モールド30のシール面36がガスケット10の上型係止部14に当接される。
【0052】
図4は、ステップS1の工程で上型モールド30をガスケット10の上型係止部14の位置に組付けた後の状態を示す断面図である。
図4に示すように、上型モールド30は、内面33側をガスケット10の内部のキャビティ50側に向けて挿入される。そして、上型モールド30がガスケット10に組付けられた状態で、シール面36と上型係止部14とが全周に渡って接触状態にされる。このとき、ガスケット10を弾性体である樹脂等により構成し、また、上型リード部12の内径よりも上型モールド30の外径の方を大きく選定するので、上型モールド30及びガスケット10間の密着性は確実に確保される。
【0053】
次いで、下型モールド40がガスケット10の下部開口25から挿入されて当該ガスケット10に組付けられる(図3のステップS2)。すなわち、下型モールド40は、その側面43が初期静止部20に位置するようにガスケット10に組付けられる。このとき、ガスケット10の初期静止部20と下型係止部18との間に、間隔dを保持するような組付けが行われる(図4参照)。この間隔dは、重合工程で成型材料が収縮する量を考慮して適宜選定することが望ましい。図1にて説明したように、初期静止部20の内径よりも下型モールド40の外径の方が大きいので、下型モールド40及びガスケット10間の密着性は確実に確保される。なお、以上説明したステップS1及びS2の工程は順序を入れ替えて行うことが可能である。
【0054】
これらのステップS1及びS2の工程が完了すると、レンズ成形型1に成型材料注入時のキャビティ50が形成される。なお、ステップS2の工程までで形成されるキャビティ50の容積は、重合後の完成成型品の設計体積よりも、下型係止部18と初期静止部20との間隔dに応じた体積の分だけ大きい。すなわち、このキャビティ50の容積は、重合収縮により消費される体積分とほぼ等しい容積分だけ設計体積より大きく選定される。
【0055】
次いで、図5に示すように、キャビティ50内にセミフィニッシュドレンズを構成する成型材料(モノマー)が注入される(図3のステップS3)。成型材料は、ガスケット10の外部から注入部23の接続部21、注入口22を通じて注入される。
【0056】
次いで、電気炉等によりレンズ成形型1が加熱されることにより、重合処理が行われ、セミフィニッシュドレンズ60が成型される(図3のステップS4)。この加熱等による重合の際に、キャビティ50内の成型材料が重合収縮すると共に、上型モールド30及び下型モールド40が膨張する現象が生じる。ガスケット10は、弾性を有する材料で構成されており柔軟性があるので、上型モールド30及び下型モールド40の変形に対して高いシール性能を維持しながら、両者の形状変化に追従する。このとき、キャビティ50内の成型材料の重合が進むにしたがい、キャビティ50の初期の容積よりも成型材料の体積が徐々に小さくなる(図6参照)。
【0057】
下型モールド40は、図6に示すように、初期段階において二点鎖線で示すように初期静止部20に位置するが、重合収縮に伴う成型材料の縮小に追随するように、初期静止部20から矢印aで示すように徐々に上方に移動し、下型係止部18により停止する。
【0058】
このとき、上型モールド30のシール面36と、ガスケット10の上型係止部14との間に隙間が生じ、図7に示すように、この隙間に成型材料が入り込むことがある。すると、この状態で成型材料が硬化し、セミフィニッシュドレンズ60が成型される。このセミフィニッシュドレンズ60は、その側面63からほぼ径方向に突出した円盤状の角部60aを有する。
【0059】
セミフィニッシュドレンズ60は、キャビティ50とほぼ等しい形状となるため、その完全光学面61の周縁に沿って、すなわちこの完全光学面61と角部60aとの間には、レンズ離型面35に接触する被離型面62が形成される。この被離型面62は、セミフィニッシュドレンズ60の光軸Cに直交する面であって略ドーナツ状の面となる。また、セミフィニッシュドレンズ60の径方向におけるこの被離型面62の幅は、上型モールド30におけるレンズ離型面35の幅hとほぼ等しくなる。
【0060】
以上の工程が完了した後、作業者は、ガスケット10、上型モールド30及び下型モールド40をセミフィニッシュドレンズ60から分離する、いわゆる離型を行う(図3のステップS5)。すなわち、作業者は、まず、ガスケット10を剥がして、上型モールド30及び下型モールド40がくっついた状態のセミフィニッシュドレンズ60を取り出す。
【0061】
続いて、上型モールド30をセミフィニッシュドレンズ60から分離する工程が行われる。作業者は、上型モールド30を手で固定しつつセミフィニッシュドレンズ60の側面63を、図8に示すように、硬質部材等で叩き打つ。すると、セミフィニッシュドレンズ60の側面63には、その光軸Cに直交する方向(図8の白抜き矢印の方向)の衝撃が加わる。そして、セミフィニッシュドレンズ60が一時的に変形して、セミフィニッシュドレンズ60から上型モールド30が分離される。なお、図8及び後述する図9においては、説明を簡単にするため、下型モールド40は図示していない。
【0062】
ここで、セミフィニッシュドレンズ60の被離型面62及び上型モールド30のレンズ離型面35は両方とも衝撃が加えられた方向(図8の白抜き矢印の方向)に平行な面である。そのため、被離型面62及びレンズ離型面35間に働くせん断応力を大きくすることができ、当該衝撃を効率よくセミフィニッシュドレンズ60に伝えることができる。その結果、セミフィニッシュドレンズ60を大きく歪ませることができる。
【0063】
その上、上型モールド30におけるレンズ離型面35とシール面36とのなす角度を従来よりも大きくしたので、セミフィニッシュドレンズ60に歪が生じた際に、当該上型モールド30がレンズ離型面35とシール面36との境目でセミフィニッシュドレンズ60の角部60aに引っ掛かり、分離が中途で止まってしまう確率を低減できる。したがって、作業者は、図9に示すように、セミフィニッシュドレンズ60から上型モールド30を一気に分離することを容易に行うことができる。
【0064】
次に、セミフィニッシュドレンズ60から下型モールド40を分離する工程が行われるが、この工程は、上述したセミフィニッシュドレンズ60から上型モールド30を分離する工程と同じく、下型モールド40を手で固定しつつセミフィニッシュドレンズ60の側面63を、硬質部材等で叩き打てばよい。なお、本例では、先に上型モールド30をセミフィニッシュドレンズ60から分離する工程を行うようにしたが、先に下型モールド40をセミフィニッシュドレンズ60から分離する工程を行うようにしてもよい。
【0065】
3.レンズ不良率に関する実験結果
本出願人は、上型モールド30におけるレンズ離型面35の幅h(図7参照)と、角部60aを有するセミフィニッシュドレンズ60が不良品となる割合(レンズ不良率)との関係を調べる実験を行った。その実験結果を以下の表1に示す。なお、不良品とは、図3に示すステップS5の工程において上型モールド30の分離に失敗して使い物にならなくなったセミフィニッシュドレンズ60のことを指す。
【0066】
【表1】
【0067】
表1に示すように、上型モールド30におけるレンズ離型面35の幅hが0.5mmのとき、レンズ不良率が4.2パーセントであった。すなわち、成型した1000枚のセミフィニッシュドレンズ60のうち42枚が不良品となった。
【0068】
また、レンズ離型面35の幅hが1.5mmのとき、レンズ不良率が1.1パーセントとなった。すなわち、成型した1000枚のセミフィニッシュドレンズ60のうち11枚が不良品となった。
【0069】
また、レンズ離型面35の幅hが2.5mmのとき、レンズ不良率が0.5パーセントとなった。すなわち、成型した1000枚のセミフィニッシュドレンズ60のうち5枚が不良品となった。
【0070】
この実験により、レンズ離型面35の幅hを大きくすれば、成型したセミフィニッシュドレンズ60のレンズ不良率が小さくなるということが実証された。
【0071】
以上説明したように、本発明の一実施形態によれば、上型モールド30において幅hが0.5mmよりも大きくなるようにレンズ離型面35を形成した。これにより、従来のレンズ成形型で作られたセミフィニッシュドレンズでは10パーセントもあったレンズ不良率を4.2パーセント以下に低減することができる。
【0072】
なお、上述した一実施形態では、セミフィニッシュドレンズから上型モールドを分離する際に、セミフィニッシュドレンズに衝撃を加える例について説明した。しかしながら、セミフィニッシュドレンズに衝撃を加える代わりに、上型モールドに衝撃を加えても、レンズ離型面及びレンズ成型体間に働くせん断応力を大きくすることができ、一実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0073】
また、一実施形態に係る上型モールドは、上述したガスケットとは異なる形状のガスケットに対しても使用することができる。
【符号の説明】
【0074】
1…レンズ成形型、10…ガスケット、11…上部開口、12…上型リード部、14…上型係止部、16…成型部、18…下型係止部、20…初期静止部、21…接続部、22…注入口、23…注入部、24…下型リード部、25…下部開口、30…上型モールド、31…側面、32…外面、33…内面、34…成型面、35…レンズ離型面、36…シール面、40…下型モールド、41…外面、42…成型面、43…側面、44…シール面、50…キャビティ、60…セミフィニッシュドレンズ、60a…角部、61…完全光学面、62…被離型面、63…側面
【特許請求の範囲】
【請求項1】
完全光学面の型面である成型面を有する上型モールドと、下型モールドと、前記上型モールド及び前記下型モールドの外周間を連結してキャビティを形成するレンズ成型用ガスケットと、を備えるレンズ成形型であって、
前記上型モールドは、
前記成型面の中心の接線方向に平行な面を有し、前記成型面の縁に沿って設けられたレンズ離型部を備える
レンズ成形型。
【請求項2】
前記レンズ離型部を構成する面がドーナツ状の面である
請求項1に記載のレンズ成形型。
【請求項3】
前記レンズ離型部の径方向の幅が0.5mm以上2.5mm以下である
請求項2に記載のレンズ成形型。
【請求項4】
完全光学面の型面である成型面及び前記成型面の中心の接線方向に平行な面を有すると共に前記成型面の縁に沿って設けられたレンズ離型部を有する上型モールドをレンズ成型用ガスケットに挿入して組付ける工程と、
前記上型モールドに対向するように下型モールドを前記成型用ガスケットに挿入して組付け、前記上型モールド及び前記下型モールドの外周間を前記成型用ガスケットの内壁で連結してキャビティを形成する工程と、
前記キャビティに成型材料を注入する工程と、
前記成型材料を重合してレンズ成型体を成型する工程と、
前記レンズ成型体を離型する工程と、を含む
レンズ成型方法。
【請求項1】
完全光学面の型面である成型面を有する上型モールドと、下型モールドと、前記上型モールド及び前記下型モールドの外周間を連結してキャビティを形成するレンズ成型用ガスケットと、を備えるレンズ成形型であって、
前記上型モールドは、
前記成型面の中心の接線方向に平行な面を有し、前記成型面の縁に沿って設けられたレンズ離型部を備える
レンズ成形型。
【請求項2】
前記レンズ離型部を構成する面がドーナツ状の面である
請求項1に記載のレンズ成形型。
【請求項3】
前記レンズ離型部の径方向の幅が0.5mm以上2.5mm以下である
請求項2に記載のレンズ成形型。
【請求項4】
完全光学面の型面である成型面及び前記成型面の中心の接線方向に平行な面を有すると共に前記成型面の縁に沿って設けられたレンズ離型部を有する上型モールドをレンズ成型用ガスケットに挿入して組付ける工程と、
前記上型モールドに対向するように下型モールドを前記成型用ガスケットに挿入して組付け、前記上型モールド及び前記下型モールドの外周間を前記成型用ガスケットの内壁で連結してキャビティを形成する工程と、
前記キャビティに成型材料を注入する工程と、
前記成型材料を重合してレンズ成型体を成型する工程と、
前記レンズ成型体を離型する工程と、を含む
レンズ成型方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2012−206390(P2012−206390A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−73951(P2011−73951)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【出願人】(509333807)ホヤ レンズ タイランド リミテッド (25)
【氏名又は名称原語表記】HOYA Lens Thailand Ltd
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【出願人】(509333807)ホヤ レンズ タイランド リミテッド (25)
【氏名又は名称原語表記】HOYA Lens Thailand Ltd
【Fターム(参考)】
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