説明

レンズ組立体および撮影装置

【課題】広い範囲で温度が変化する環境下に晒された状態にあっても所定の光学性能が発揮されるレンズ組立体を提供する。
【解決手段】ガラス製のレンズL1〜L4が持つ線膨張係数(5〜10)×10−6とほぼ同じ線膨張係数を持つセラミックを使って鏡枠10Aを製作し、好ましくは、押え環11A、間隔環SPA1〜SPA3もセラミックを使ってを製作する。これらの鏡枠10Aと押え環11Aと間隔環SPA1〜SPA3とを使って製作されたレンズ組立体1Aを、自動車などに搭載する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のレンズが装入される鏡枠を備えたレンズ組立体、そのレンズ組立体を備えた撮影装置に関する。
【背景技術】
【0002】
最近、自動車にカメラが配備されるようになってきている。自動車に配備されるカメラの多くは、ナビゲーションシステムが普及し運転席に表示画面が設けられていることを利用して、ドライバの死角になる場所の状態をその表示画面上に表示するものである。
【0003】
ところで、自動車は夏の炎天下や冬の厳寒屋外に野晒しにされることもあり、車載用のカメラはそのような極めて広範な温度環境下で正常に動作する必要がある。この正常動作を保証するために車載用のカメラに適用されるレンズ組立体に要求される性能としては、軽量性や頑強性などの一般的な性質のほか、温度変化に起因するピンボケを生じさせないために温度による伸縮が少ないことなどが挙げられる。これらの要求を満足するために、セラミック製の鏡胴が考えられている(例えば特許文献1、2参照)。また本出願人は、セラミックを光学部品に適用することを提案している(例えば特許文献3参照)。
【0004】
ここで特許文献4には、例えば、レンズ鏡胴の前側開口より、レンズ、間隔環を装入し、押え環をレンズ鏡胴の前側にねじ込むことによって、レンズ鏡胴にレンズを固定したレンズ組立体を構成することが記載されている。
【0005】
図1は、レンズ組立体1の構成を示す図である。
【0006】
図1のレンズ組立体1には鏡胴10が備えられており、その鏡胴10には対物側開口101と結像側開口102とを有する中空部100が設けられている。この鏡胴10の対物側外周には雄ネジSR1が形成され、その対物側開口101から複数のレンズL1〜L4,複数の間隔環SP1〜SP3が光軸を揃えて装入される。なお、この例では、複数の光学部材として複数のレンズL1〜L4と複数の間隔環SP1〜SP3とが交互に配置されるようにして鏡胴10の中空部100に順次に装入される構成の鏡胴が示されているが、鏡胴には間隔環SP1〜SP3が省略されレンズの周縁部どうしを接触させることで各レンズの位置決めを行なうものもある。
【0007】
更に図1のレンズ組立体1には、鏡胴10の中空部100の内部に装入された複数の光学レンズL1〜L4および間隔環SP1〜SP3を、対物側開口101から押さえ込んで固定するための押さえ環11が備えられている。この押さえ環11は、鏡胴10の対物側の部分が入り込む装着開口110と、鏡胴内に装入された複数のレンズのうちの最も対物側に装入されたレンズL1の中央部を露出させる光学開口111とを有し、装着開口内側の内壁に、上記雄ネジSR1と螺合する雌ネジSR2が形成され、その雄ネジSR1とその雌ネジSR2との螺合により最も対物側に位置するレンズL1の対物側の面の周縁部を押えるものである。
【0008】
この押え環11によって鏡胴10内の複数のレンズL1〜L4および複数の間隔環SP1〜SP3が結像側開口側に向かって押さえ込まれることにより図1のレンズ組立体1が組み立てられている。
【0009】
ここで、特許文献4によると、鏡枠10は樹脂材料からなり、複数のレンズL1〜L4にはガラスレンズが用いられている。さらに押え環11や間隔環SP1〜SP3には、鏡胴10と同じく樹脂材料が用いられている。
【0010】
しかし、図1のレンズ組立体1が厳しい温度環境下に晒されているときには、各レンズL1,L2,L3,L4と鏡枠10、またレンズL1と押え環11、さらにレンズL1およびレンズL2と間隔環SP1、レンズL2およびレンスL3と間隔環SP2,レンズL3およびレンズL4と間隔環SP3が接する部分に、線膨張係数の違いから隙間や変形などが生じる恐れが出てくる。こうして各レンズL1,L2,L3,L4と鏡枠10、またレンズL1と押え環11、さらにレンズL1およびレンズL2と間隔環SP1、レンズL2およびレンスL3と間隔環SP2,レンズL3およびレンズL4と間隔環SP3が接する部分に隙間や変形等が生じると、図1のレンズ組立体1に所定の光学性能を発揮させることができなくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2006−284991号公報
【特許文献2】特開2006−292927号公報
【特許文献3】特開2007−238430号公報
【特許文献4】特開2007−279557号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記事情に鑑み、広い範囲で温度が変化する環境下に晒された状態にあっても所定の光学性能が発揮されるレンズ組立体、およびそのレンズ組立体を備えた撮影装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成する本発明のレンズ組立体は、
複数のレンズと、
上記複数のレンズが装入される中空部を有し一方の端に配置されたレンズの周縁部を抑える鏡枠と、
上記鏡枠に固定され上記中空部に装入された上記複数のレンズのうちのもう一方の端に配置されたレンズの周縁部を押える押え環とを備え、
上記複数のレンズが、ガラスレンズ、又はセラミックレンズからなる群の中から選択されたいずれかのレンズであり、
上記鏡枠がセラミック製であることを特徴とする。
【0014】
上記本発明のレンズ組立体によれば、複数のレンズが全てガラスレンズ又は全てセラミックレンズで構成されるということを考慮して、上記鏡枠が、そのガラスレンズあるいはセラミックレンズが持つ線膨張係数に近い線膨張係数を持つセラミックで製作される。このため、広い範囲で温度が変化する環境下にこのレンズ組立体が置かれても、図1に示す各レンズL1,L2,L3,L4と鏡枠10との間に隙間や変形などを生じさせることがなくなり、いつでも所定の光学性能を発揮させることができる。ここで上記ガラスレンズや上記セラミックレンズというのは、ガラスレンズやセラミックレンズを基材として表面にプラスティックを形成した複合非球面レンズを含む。
【0015】
ここで、本発明のレンズ組立体において、上記押え環もセラミック製であることが好ましい。
【0016】
押え環もセラミック製にすると、図1に示すレンズL1と押え環11との間や鏡枠10と押え環との間にも隙間や変形などを生じさせることがなくなり、光学性能の一層の信頼性向上が期待できる。
【0017】
ここで、上記鏡枠および上記押え環の双方が、3×10−6以上かつ11×10−6以下の範囲の線膨張係数を有するセラミック製であることが好ましい。
【0018】
また、上記鏡枠および上記押え環の双方が、3×10−6以上かつ7×10−6以下の範囲の線膨張係数を有するセラミック製であることがさらに好ましい。
【0019】
上記ガラスレンズ、上記セラミックレンズに対しては、これらの材質が持つ線膨張係数に近い線膨張係数を有するセラミックで鏡枠と押え環との双方を構成すれば良い。一例としてガラスレンズの線膨張係数は、5×10−6程度であり、他のレンズもこの線膨張係数に近い値を示す。この線膨張係数に近い値を示すセラミックには様々なものがあり、例えばジルコニアを原料とするセラミックでは8〜11×10−6程度の線膨張係数が得られ、炭化ケイ素を原料とするセラミックでは4.0×10−6程度の線膨張係数が得られる。また窒化ケイ素を原料とするセラミックでは3.0×10−6程度の線膨張係数が得られ、アルミナを原料とするセラミックでは7〜8×10−6程度の線膨張係数が得られる。また快削性セラミックスでは3〜11×10−6程度の線膨張係数が得られる。
【0020】
いずれのセラミックを使用しても、上記複数のレンズの線膨張係数に近い線膨張係数が得られるので、これらのうちの少なくとも一つを使用して鏡枠や押え環を構成すると良い。
【0021】
また、本発明のレンズ組立体は、上記鏡枠中空部内の、隣接する2つのレンズに挟まれた位置に配置されて2つのレンズどうしの間隔を定める、セラミック製の間隔環をさらに備えた態様であっても良い。
【0022】
その場合には上記間隔環が、3×10−6以上かつ11×10−6以下の範囲の線膨張係数を有するセラミック製であると良く、好ましくは7×10−6以上かつ11×10−6以下の範囲の線膨張係数を有するセラミック製であるとなお良い。
【0023】
上記間隔環は上記鏡枠内に装入されるものであるので、上記鏡枠と上記押え環に対し上記間隔環には上記鏡枠や上記押え環の線膨張係数よりもやや大きい線膨張係数を有するセラミックを使用した方が良い。そうすると、厳しい環境下に晒されて温度が激しく変化しても鏡枠と押え環との間に隙間が生じる恐れがなくなる。
【0024】
また、本発明のレンズ組立体において、
上記鏡枠が、上記複数のレンズよりも線膨張係数の小さいセラミック製であり、
上記押え環が、上記複数のレンズよりも線膨張係数の大きい材料からなることも好ましい態様である。
【0025】
ここで、この態様の場合、上記鏡枠中空部内の、隣接する2つのレンズに挟まれた位置に配置された2つのレンズどうしの間隔を定める間隔環をさらに備えた態様であっても良い。
【0026】
鏡枠が複数のレンズよりも線膨張係数の小さいセラミック製であるときに、もしも押え環を上記鏡枠と同じ線膨張の材料で構成すると、複数のレンズと押え環の線膨張係数の違いにより押え環側からレンズに対して圧力が加えられてレンズが歪んでしまう恐れがある。この歪は場合によってはレンズにひび割れなどを生じさせる。
【0027】
そこで、鏡枠を複数のレンズよりも線膨張係数の小さいセラミック製とした場合には、押え環を上記複数のレンズよりも線膨張係数の大きな材料で構成すると良く、そうすると押え環の線膨張の方がレンズに比べて若干大きくなることから複数のレンズに対して加えられる圧力が小さくされてレンズに歪を発生させることが抑制される。
【0028】
また、本発明のレンズ組立体において、
上記鏡枠中空部内の、隣接する2つのレンズに挟まれた位置に配置されてその2つのレンズどうしの間隔を定める間隔環をさらに備え、
上記鏡枠および上記押え環が、上記複数のレンズよりも線膨張係数の大きいセラミック製であり、
上記間隔環が、上記鏡枠および上記押え環よりも線膨張係数の大きい材料からなることも好ましい態様である。
【0029】
このように鏡枠および押え環が、複数のレンズよりも線膨張係数の大きいセラミック製であると、その押え環と上記複数のレンズとの間にがたつきが生じることが予想される。
【0030】
そこで、これを回避するために複数のレンズのうちの隣接する2つのレンズに挟まれた位置に配置されてその2つのレンズどうしの間隔を定める間隔環を、鏡枠および押え環よりも線膨張係数の大きい材料で構成して、その間隔環をレンズよりもやや大きく膨張させることによりレンズ倒れやレンズのガタツキを生じさせないようにすると良い。
【0031】
また、上記目的を達成する本発明の撮影装置は、本発明のレンズ組立体を備えるとともに、鏡枠に装入された複数のレンズからなる光学系が結像光学系であってその結像光学系の結像面に配置された撮像素子を備えたことを特徴とする。
【0032】
上記撮影装置によれば、自動車に搭載されて厳しい環境下に晒されても所定の光学性能が発揮される。
【発明の効果】
【0033】
以上、説明したように、広い範囲で温度が変化する環境下に晒された状態にあっても所定の光学性能が発揮されるレンズ組立体およびそのレンズ組立体を備えた撮影装置が実現する。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】自動車に搭載されるカメラに用いられるレンズ組立体1の構成の一例を示す図である。
【図2】本発明の第1実施形態であるレンズ組立体1Aの構成を示す図である。
【図3】本発明の第2実施形態であるレンズ組立体1Bの構成を示す図である。
【図4】図2のレンズ組立体1Aが組み込まれたカメラユニット2を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
【0036】
図2は、本発明の第1実施形態であるレンズ組立体1Aの構成を示す図である。
【0037】
図2は、図1と同様の図であるが、鏡枠10A、押え環11A、間隔環SPA1〜SPA3の材料にセラミックが用いられている。
【0038】
この図2に示すレンズ組立体1Aは、鏡枠10A、押え環11A、間隔環SPA1〜SPA3がセラミックで製作されている。
【0039】
この例では、鏡枠10Aと押え環11Aに窒化ケイ素を原料とするセラミックを用いるとともに、間隔環SPA1〜SPA3にジルコニアを原料とするセラミックを用いている。
【0040】
窒化ケイ素を原料とするセラミックの線膨張係数は3×10−6であり、ガラスの線膨張係数(5〜10の10−6)にほぼ等しく、ジルコニアを原料とするセラミックの線膨張係数は8〜11×10−6であり、こちらもガラスの線膨張係数(5〜10の10−6)にほぼ等しい。
【0041】
また図2の例では間隔環SPA1〜SPA3と鏡枠10Aおよび押え環11Aとに同じ線膨張係数のセラミックを用いると、温度の状態によっては鏡枠10Aおよび押え環11Aと間隔環との間に隙間が生じる恐れがあるので、間隔環SPA1〜SPA3にはジルコニアを原料とするセラミックを用いて鏡枠10Aおよび押え環11Aよりも線膨張係数を少し大きくして厳しい温度環境下に置かれても間隔環SPA1〜SPA3と鏡枠10Aおよび押え環11Aとの間に隙間を生じさせないように配慮している。
【0042】
つまり、本発明にいうように、鏡枠および押え環の双方が、3×10−6以上かつ11×10−6以下の範囲の線膨張係数を有するセラミック製であると良く、好ましくは鏡枠および押え環の双方が、3×10−6以上かつ7×10−6以下の範囲の線膨張係数を有するセラミック製であって、間隔環が、7×10−6以上かつ11×10−6以下の範囲の線膨張係数を有するセラミック製であると良いといういうことになる。
【0043】
その結果、図2のレンズ組立体1Aが自動車等に搭載され厳しい環境下に晒された状態になっても、各レンズL1,L2,L3,L4と鏡枠10A、またレンズL1と押え環11A、さらにレンズL1およびレンズL2と間隔環SPA1、レンズL2およびレンズL3と間隔環SPA2,レンズL3およびレンズL4と間隔環SPA3、鏡枠10Aと間隔環SPA1〜SPA3とが接する部分に隙間や変形が生じ難くなって自動車等に搭載されたときの図2のレンズ組立体1Aの光学性能の劣化が防止される。
【0044】
なお鏡枠10Aと押え環11Aと間隔環SPA1〜SPA3には、他にアルミナ(7〜8×10−6)、窒化ケイ素(3×10−6)、快削性セラミックス(3〜11×10−6)等のセラミックを使用することが可能である。これらを材料とするセラミックの線膨張係数は、いずれも10−6の次元であってガラスレンズやセラミックレンズ等の線膨張係数にほぼ等しいので、上記と同様の効果を得ることができる。
【0045】
また、上記の例では複数のレンズL1〜L4を全てガラスレンズで構成したが、複数のレンズL1〜L4は全てをセラミックレンズで構成しても良く、全てをガラスを基材とするレンズで構成しても良く、全てをセラミックを基材とするレンズで構成しても良い。
【0046】
ここで上記図2の構成において、鏡枠10Aに窒化ケイ素(3×10−6)や炭化ケイ素(4×10−6)のようにレンズL1〜L4よりも線膨張係数が小さい材料を用いた場合のことを考えてみる。
【0047】
この場合にもしも押え環11Aを鏡枠10Aと同じようにレンズよりも線膨張係数の小さい材料で構成すると、符号L1〜L4で示されるレンズ(5〜10×10−6)の膨張の方が鏡枠10Aや押え環11Aの膨張よりも大きくなって押え環11Aから複数のレンズL1〜L4に対して圧力が加えられてそれらのレンズL1〜L4に歪が生じる恐れが出てくる。
【0048】
そこで、鏡枠10Aを複数のレンズL1〜L4よりも線膨張係数の小さいセラミックで構成したときには、押え環11AをレンズL1〜L4よりも線膨張係数の大きい材料(例えばジルコニア(8〜11×10−6)やアルミナ(7〜8×10−6))で構成すると良い。そうすると、レンズL1〜L4の光軸方向の延びがそれらのレンズL1〜L4よりも大きい線膨張係数を有する押え環11Aの膨張によって吸収され、押え環11Aから複数のレンズL1〜L4に対して圧力が加えられることがなくなってレンズに歪やひび割れを生じさせることが防止される。
【0049】
この押え環11Aに用いる線膨張係数の大きい材料としては、上記のセラミックの他に金属材料の使用が考えられる。
【0050】
逆に図2の構成において、押え環11Aと鏡枠10Aとにジルコニア(8〜11×10−6)やアルミナ(7〜8×10−6)のようにレンズL1〜L4よりも線膨張係数が大きい材料のものを用いると、鏡枠10Aや押え環11Aの方の延びが若干大きくなってレンズL1〜L4と押え環11Aとの間、またレンズL1〜L4と間隔環との間にがたつきを生じさせることが予想される。こうしてレンズどうしの間やレンズと押え環との間にがたつきが生じるとレンズ倒れが発生したり、外部からの振動を受け取ってレンズが振動とともにがたついたりしてしまう。
【0051】
そこで、押え環11Aと鏡枠10Aとにジルコニア(8〜11×10−6)やアルミナ(7〜8×10−6)のようにレンズL1〜L4よりも線膨張係数が大きい材料のものを用いた場合には、間隔環SPA1〜SPA3にレンズL1〜L4よりも大きな線膨張係数の材料のものを用いて鏡枠10Aおよび押え環11Aの光軸方向の延びを吸収する構造にすると良い。
【0052】
そうすると、レンズどうしの間やレンズと押え環との間にがたつきが生じそうなときには複数のレンズよりも大きな線膨張係数を有する間隔環によってそのがたつきが防止される。
【0053】
符号L1〜L4で示されるレンズ(5〜10×10−6)よりも大きな線膨張係数を持つ材料としては、ジルコニア(8〜11×10−6)やアルミナ(7〜8×10−6)などのセラミック材料の他に金属材料の使用が考えられる。
【0054】
ところで鏡胴内のレンズの位置を定めるにあたっては、レンズどうしの周縁部を接触させる構成にして間隔環を省略することが考えられる。
【0055】
図3は、本発明の第2実施形態であるレンズ組立体1Bの構成を示す図である。
【0056】
図3には、押え環11Bを鏡枠にねじ込んでいくときに複数のレンズL5〜L7の周縁部どうしを接触させることで各レンズL5,L6,L7が位置決めされる。このような構成のものにも本発明は適用され、鏡枠10Bと押え環11Bとの双方がガラスレンズに近い線膨張係数を持つセラミックで製作される。この例では、窒化ケイ素を原料とするセラミックで鏡枠10Bと押え環11Bとが製作された例が示されており、そのセラミックの線膨張係数は3×10−6であってガラスの線膨張係数(5〜10の10−6)にほぼ等しい。
【0057】
このため図3のレンズ組立体が自動車等に搭載され厳しい環境下に晒された状態になっても、各レンズL5,L6,L7と鏡枠10B、またレンズL5と押え環11B、押え環11Bと鏡枠10Bとが接する部分に隙間や変形が生じ難くなる。その結果、自動車等に搭載されたときの図3のレンズ組立体の光学性能の劣化が防止される。
【0058】
なお鏡枠10Bと押え環11Bとの双方には、他にアルミナ(7〜8×10−6)、窒化ケイ素(3×10−6)、快削性セラミックス(3〜11×10−6)等の線膨張係数が3.0×10−6以上かつ11.0×10−6以下の範囲の線膨張係数を持つセラミックを使用することが可能である。これらを材料とするセラミックの線膨張係数は、いずれも10−6の次元であってガラスレンズやセラミックレンズ等の線膨張係数にほぼ等しいので、この第2実施形態においても上記第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0059】
最後に図2のレンズ組立体1Aを撮影装置に適用した場合の例を説明する。
【0060】
図4は、図2のレンズ組立体1Aが組み込まれたカメラユニット2を示す図である。
【0061】
図4には、カメラユニット2を光軸に沿って切断した面が示されている。
【0062】
図4に示すカメラユニット2は、図2のレンズ組立体1Aと、セラミック製のカメラ本体枠20と、撮像素子21とを備えており、その撮像素子21は撮像素子基板210上に実装されカメラ本体枠20に接着固定されている。この図2に示すレンズ組立体1Aの鏡枠10Aの外周面およびカメラ本体枠20の内周面には、それぞれ、ネジ部が形成されている。
【0063】
このカメラユニット2を組み立てるときには、まずカメラ本体枠20に図2のレンズ組立体1Aをねじ込みながら挿入した後、そのレンズ組立体1Aをカメラ本体枠20に接着固定する。その後で、レンズ組立体1Aが備える鏡枠10Aに装入された複数のレンズにより構成された結像光学系の結像面に位置するようにCCD固体撮像素子等の撮像素子21を搭載した基板210をカメラ本体枠20に接着固定する。このような簡単な手順で図2のレンズ組立体1Aをカメラユニット2に組み込むことが可能となる。
【0064】
こうして組み立てられたカメラユニット2は、自動車に搭載されて広い範囲で温度が激しく変化する環境下に晒されたとしても所定の光学性能を発揮することとなる。
【符号の説明】
【0065】
1 1A 1B レンズ組立体
10 10A 10B 鏡枠
11 11A 11B 押え環
L1〜L4 L5〜L7 レンズ
SP1〜SP3 SPA1〜SPA3 間隔環
2 カメラユニット
20 カメラ本体枠
21 撮像素子
210 基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のレンズと、
前記複数のレンズが装入される中空部を有し一方の端に配置されたレンズの周縁部を押える鏡枠と、
前記鏡枠に固定され前記中空部に装入された前記複数のレンズのうちのもう一方の端に配置されたレンズの周縁部を押える押え環とを備え、
前記複数のレンズが、ガラスレンズ、又はセラミックレンズからなる群の中から選択されたいずれかのレンズであり、
前記鏡枠がセラミック製であることを特徴とするレンズ組立体。
【請求項2】
前記押え環がセラミック製であることを特徴とする請求項1記載のレンズ組立体。
【請求項3】
前記鏡枠および前記押え環の双方が、3×10−6以上かつ11×10−6以下の範囲の線膨張係数を有するセラミック製であることを特徴とする請求項2記載のレンズ組立体。
【請求項4】
前記鏡枠および前記押え環の双方が、3×10−6以上かつ7×10−6以下の範囲の線膨張係数を有するセラミック製であることを特徴とする請求項2記載のレンズ組立体。
【請求項5】
前記鏡枠中空部内の、隣接する2つのレンズに挟まれた位置に配置されて該2つのレンズどうしの間隔を定める、セラミック製の間隔環をさらに備えたことを特徴とする請求項2から4のうちのいずれか1項記載のレンズ組立体。
【請求項6】
前記間隔環が、3×10−6以上かつ11×10−6以下の範囲の線膨張係数を有するセラミック製であることを特徴とする請求項5記載のレンズ組立体。
【請求項7】
前記間隔環が、7×10−6以上かつ11×10−6以下の範囲の線膨張係数を有するセラミック製であることを特徴とする請求項5記載のレンズ組立体。
【請求項8】
前記鏡枠が、前記複数のレンズよりも線膨張係数の小さいセラミック製であり、
前記押え環が、前記複数のレンズよりも線膨張係数の大きい材料からなることを特徴とする請求項1記載のレンズ組立体。
【請求項9】
前記鏡枠中空部内の、隣接する2つのレンズに挟まれた位置に配置された該2つのレンズどうしの間隔を定める間隔環をさらに備えたことを特徴とする請求項8記載のレンズ組立体。
【請求項10】
前記鏡枠中空部内の、隣接する2つのレンズに挟まれた位置に配置されて該2つのレンズどうしの間隔を定める間隔環をさらに備え、
前記鏡枠および前記押え環が、前記複数のレンズよりも線膨張係数の大きいセラミック製であり、
前記間隔環が、前記鏡枠および前記押え環よりも線膨張係数の大きい材料からなることを特徴とする請求項1記載のレンズ組立体。
【請求項11】
請求項1から10のうちのいずれか1項記載のレンズ組立体を備えるとともに、前記鏡枠に装入された前記複数のレンズからなる光学系が結像光学系であって該結像光学系の結像面に配置された撮像素子を備えたことを特徴とする撮影装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−107954(P2010−107954A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−206117(P2009−206117)
【出願日】平成21年9月7日(2009.9.7)
【出願人】(000005430)フジノン株式会社 (2,231)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】