説明

レンズ蒸着装置

【課題】蒸着装置において、ドーム外周側に設置された光学レンズに対しても膜特性を安定させることを目的とする。
【解決手段】本発明は、第1面及び第2面を有する光学レンズに膜を蒸着させる膜蒸着装置に関する。蒸着装置は、膜を形成するための蒸着材料を噴射する蒸着源と、複数のレンズを設置可能な複数のレンズパレットと、前記蒸着源の噴射方向に位置し、前記蒸着源の噴射を基準とした所定の傾斜を有し、前記複数のレンズパレットを設置可能なドームと、を備え、前記ドームは、前記設置されたレンズパレットを反転可能であり、 前記光学レンズの第1面が前記蒸着源側に配置された場合において、前記噴射対象として外周側に位置する第1パレットが、前記噴射対象として中心側に位置する第2パレットと比べて、前記所定の傾斜を基準にして、外周側の端部が中心側の端部よりも蒸着源側に位置するように構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディジタルバーサタイルディスク(DVD)、ブルーレイディスク(BD)デジタルスチルカメラ(DSC)等に使用される光学レンズの蒸着(コーティング)装置に関する。
【背景技術】
【0002】
光ディスクや撮像系のデジタル機器は、テレビの薄型化や大画面化の影響もあり、特にDVD、BD、DSC市場が急速に拡大している。
【0003】
ディジタルバーサタイルディスク(DVD)、ブルーレイディスク(BD)、デジタルスチルカメラ(DSC)等に使用される光学レンズは、レンズの透過率改善やレンズ表面の保護のために通常反射防止膜(ARコート)を蒸着することが必要である。
【0004】
しかし近年、光の波長の短波長化、DSCの高画質化のニーズが高まり、光学レンズの反射率がさらに低反射率化へと技術要求が高まってきている。
【0005】
特に光学レンズはその形状が球面や非球面形状をしており、光学レンズへ蒸着を行う場合、図10の一例のように、光学レンズ8は特に9の部分のような光学レンズ8の中心からみて、外周側へ急激に傾斜する形状になる。光学レンズに蒸着する装置は通常図1のようなレンズを保持する回転体のドーム1を使って、ドーム1上に光学レンズが装着されたレンズパレット3A、3B、3C(ここでは3段構成のドームとする)をドーム1上に配置する。
【0006】
そしてドームを横から見た構成を表す図7のように、蒸着源6から蒸着材料が矢印5の方向に飛び、3A、3B、3Cに装着された光学レンズに蒸着される。
【0007】
そして通常光学レンズは両面に蒸着することが多く、上記の方法では光学レンズの片面に蒸着後、蒸着装置からレンズパレットを取り出して、反対側の片面に再度蒸着して両面蒸着が完成することになり、片面ずつの蒸着準備の入れ替え作業が必要となる。これをバッチ方式と以下呼ぶこととする。
【0008】
近年この入れ替え作業を改善するため、蒸着装置内でレンズパレットを自動で反転させる装置が使われている。これを連続式と以下呼ぶこととする。連続式は、図2のようにレンズパレット3A、3B、3Cを図6のような分割された三角状のドーム4に、レンズパレットを配置して、図2の一例ではドーム全体を三角状ドーム4に8分割した構成にし、光学レンズの片面の蒸着が終了後、図6のように三角状ドーム4が反転して、反対側の光学レンズ面の蒸着を行う。そのため入れ替え作業がなく、生産効率の向上が図れる。
【0009】
従来では、以上のような蒸着方法により、光学レンズの両面に反射防止膜を蒸着している。
【0010】
なお、本発明に関連する技術としては、例えば、特許文献1に開示された技術が存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平6−003503号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
バッチ式又は連続式による光学レンズの蒸着装置では、図7又は図8に示すように、蒸着材料が矢印5の方向から、光学レンズの片面に飛んで付着し、蒸着されることになる。
【0013】
ここで、図7に示すようなバッチ式の蒸着装置では、ドームの形状が、横断面で見ると、AからB部にかけて円弧をした形状になっている。一方、図8に示すような連続式の蒸着装置では、ドームの形状が、横断面で見ると、AからBに向かって直線をした形状になる。このようにドームが直線をした形状となる理由は、光学レンズ両面を入れ替え作業なしで蒸着するために、三角状の分割されたドーム4が180°反転する機構を必要とするからである。
【0014】
なお、バッチ式及び連続式の蒸着装置において、ドームの各段の蒸着パレットに装着された光学レンズへの蒸着材料付着入射角度は、図9のように蒸着パレットの法線7に対して、ある角度を持って入射するのに対し、下段(3C)方向ほどその角度は上段(3A)方向に比べて大きくなる。すなわち、上段(3A)と比べて、下段(3C)の方が、入射角度が大きくなる。
【0015】
また、特に下段(3C)については、バッチ式より連続式のほうが、蒸着入射角度が大きくなる傾向にある。これは連続式のドーム形状の横断面が直線になっているためと考える。
【0016】
したがって蒸着材料の入射角度は出来るだけ、全段(3A、3B、3C)揃っていることが理想であるにもかかわらず、この蒸着材料の入射角度がばらつき、反射率特性のばらつきが大きくなるという問題があった。例えば、図10に示すように、光学レンズ8は特に9の部分のような光学レンズ8の中心からみて、外周側へ急激に傾斜する形状を有しており、特に下段(3C)側の分光特性の歩留まりに影響を与えるという問題点があった。
【0017】
そこで、本発明は上記課題を解決するためになされたもので、ドームにおいてレンズパレットが自動反転可能に構成された蒸着装置において、ドーム外周側に設置された光学レンズに対しても膜特性(例えば、反射率分光特性)を安定させることのできる蒸着装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
すなわち、本発明の態様は、第1面及び第2面を有する光学レンズに膜を蒸着させる膜蒸着装置に関する。そして、本発明の蒸着装置は、膜を形成するための蒸着材料を噴射する蒸着源と、複数のレンズを設置可能な複数のレンズパレットと、前記蒸着源の噴射方向に位置し、前記蒸着源の噴射を基準とした所定の傾斜を有し、前記複数のレンズパレットを設置可能なドームと、を備え、前記ドームは、前記設置されたレンズパレットを反転可能であり、前記光学レンズの第1面が前記蒸着源側に配置された場合において、前記噴射対象として外周側に位置する第1パレットが、前記噴射対象として中心側に位置する第2パレットと比べて、前記所定の傾斜を基準にして、外周側の端部が中心側の端部よりも前記蒸着源側に位置するように構成される。
【発明の効果】
【0019】
本発明の実施例によれば、自動反転可能な分割されたドーム上に光学レンズパレットが構成された蒸着装置において、ドーム上の外周側に設置された光学レンズに対しても膜特性を安定にさせることができる。
本発明は、光学レンズのような傾斜を持つ形状のみならず、プリズム形状した光学部品についても応用でき、また反射防止膜のみならず、その他の光学特性を有する光学膜構成であってもよく、またバッチ式蒸着装置での、ドーム上の光学レンズパレットの位置する段ばらつきによる分光特性の改善にも本発明は応用できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】従来のバッチ式蒸着ドーム構成図
【図2】従来の連続式蒸着ドーム構成図
【図3】図1の横断図
【図4】図2の横断図
【図5】光学レンズパレットを示す図
【図6】連続式三角状反転ドームを示す図
【図7】従来のバッチ式蒸着説明図
【図8】従来の連続式蒸着説明図
【図9】光学レンズパレットの蒸着材料入射角度図
【図10】光学レンズを示す図
【図11A】バッチ式と連続式のドーム比較図
【図11B】本実施の形態に係る構成例1を示す図
【図11C】本実施の形態に係る構成例2を示す図
【図12】実施例2の詳細説明図
【発明を実施するための形態】
【0021】
図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。
【0022】
本実施の形態は、連続式蒸着装置において、ドーム上に配置された特に下段側の光学レンズの反射防止膜のばらつきを抑えることを主たる目的とする。
【0023】
以下バッチ式蒸着装置と比較しながら説明する。
【0024】
[1.バッチ式蒸着装置の構成]
本実施例のバッチ式蒸着装置は、図1のようなドーム1形状とレンズパレット(3A〜3C)を配置、図3はそのドームの横断図である。また図7のように蒸着源6から蒸着材料が5の方向に飛び、レンズパレット上の光学レンズ面に蒸着される。図10は光学レンズ8の外形とレンズ外周部9を表す。
【0025】
なお、本実施例の形態で対象とする光学レンズは、第1面と第2面を有している。そして第1面は、第2面よりも曲率半径が大きくなるように構成されている。
【0026】
[2.連続式蒸着装置の構成]
本実施例の連続式蒸着装置は、図2のようなドーム2形状とレンズパレット(3A〜3C)を配置、図4はそのドームの横断図である。また図8のように蒸着源6から蒸着材料が5の方向に飛び、レンズパレット上の光学レンズ面に蒸着される。図6はドーム上で分割反転機構を持つ三角状ドーム4で、これにより光学レンズの両面蒸着ができる。
[3.蒸着材料の入射角度]
図9はレンズパレットの法線と蒸着材料の入射角度の関係を表す。
[4.本実施の形態の構成例]
図11Aはバッチ式と連続式の現状のドーム横断図比較を表す。
【0027】
図11Bは実施例1、図11Cは実施例2の本発明の構成を表し、図12は実施例2の詳細説明図である。
【0028】
ここで、蒸着装置は、主に以下の構成で実現することが可能になる。蒸着装置は、図11Bに示すように、蒸着材料を噴射する蒸着源6と、複数のレンズパレット3を設置可能なドーム2と、複数のレンズパレット3を回転駆動する駆動部と、を備える。
【0029】
ドーム2は、前記蒸着源の噴射を基準とした所定の傾斜を有する。そして、ドーム2は、複数のレンズパレットを設置可能である。
【0030】
ドーム2において、一方の面(例えば、光学レンズの第1面)に蒸着材料が噴射されるようレンズパレットが設置された場合、外周側に設置されるレンズパレット3Dは、内周側に設置されるパレット3A(3B)と比べて、所定の傾斜を基準にして、外周側の端部が中心側の端部よりも蒸着源側に位置するよう構成される。このようにすれば、ドームの外周側に設置された光学レンズに対しても、膜特性を安定させることができる。なお、上記構成は、光学レンズの第1面のように曲率の大きな面に膜が蒸着される場合に、特に有効である。
【0031】
一方、ドーム2において、レンズパレット3が回転された場合、以下のようになる。
【0032】
実施の形態1に示す例では、図11Bに示すレンズパレット3Dが回転機構(回転部)に固定された状態で回転されるので、レンズパレット3Dは、所定の傾斜を基準にして、中心側の端部が外周側の端部よりも蒸着源側に位置するようになる。つまり、中心側の端部が蒸着源に近くなり、外周側の端部が蒸着源から遠くなる。
【0033】
また、実施の形態2に示す例では、図11Cに示すレンズパレット3Eが回転中心のみを固定した状態で回転されるので、パレット3Eは、所定の傾斜を基準にして、外周側の端部が中心側の端部よりも蒸着源側に位置するようになる。つまり、実施の形態2の例であれば、パレットが反転されたとしても、図11Cに示すようにレンズパレット3Eが位置することになる。このようにすれば、光学レンズ両面に対して、反射率分光特性を安定させることができる。
[5.本実施の形態の動作説明]
光学レンズ8はその形状が球面や非球面形状をしており、光学レンズへ蒸着を行う場合、図10の一例のように、光学レンズ8は特に9の部分のような光学レンズ8の中心からみて、外周側へ急激に傾斜する形状になる。光学レンズに蒸着する装置は通常図1のようなレンズを保持する回転体のドーム1を使って、ドーム1上に光学レンズが装着されたレンズパレット3A、3B、3C(ここでは3段構成のドームとする)をドーム1上に配置する。そして光学レンズ両面を連続して蒸着する生産効率の高い連続式は、図2のようにレンズパレット3A、3B、3Cを図6のような三角状のドーム4に分割して、そのドーム4にレンズパレットを配置して、図2の一例ではドーム全体を三角状ドーム4に8分割した構成にし、光学レンズの片面の蒸着が終了後、図6のように三角状ドーム4が反転して、反対面側の光学レンズ面の蒸着を行います。
【0034】
しかしながら連続装置とバッチ式による光学レンズの蒸着は、どちらも図7図8のように、蒸着材料が矢印5の方向から、光学レンズの片面に飛んで付着し、蒸着されることになりますが、図7のようにバッチ式のドーム形状は横断面で見ると、AからB部にかけて円弧をした形状になり、それに比べて連続式は、同じく図8のように、連続式のドーム形状は横断面で見ると、AからBに向かって直線をした形状になります。この2つの断面図を重ね合わせると図11Aのようになり、バッチ式と連続式でレンズパレットのドーム上の傾きに違いが出ます。その違いはバッチ式も連続式も各段の蒸着パレットに装着された光学レンズへの蒸着材料の入射角度は、図9のように蒸着パレットの法線7に対して、ある角度を持って入射し、特に下段(3C)方向ほどその角度は上段(3A)方向に比べて大きくなります。特に下段(3C)については、バッチ式より連続式のほうが、蒸着入射角度が大きくなる傾向にあります。
【0035】
そこで本発明は実施例1(図11B)のように、連続式のドーム2に配置された下段側(3C)の光学レンズパレットに前記蒸着源の放射方向に位置し、前記蒸着源の放射方向に対して所定の傾斜を有した、下段側の端部が上段側の端部よりも前記蒸着源に近くなるように蒸着レンズパレットを傾斜固定(図11B 3D)し、もしくは実施例2として、下段側のパレットが、片面蒸着後、裏面の蒸着を行うために三角状ドーム4が180°反転回転した時に、レンズパレットも片面蒸着時の傾斜方向にもどるように傾斜する(図11C 3E)ように構成されるレンズパレット機構にすることで、蒸着材料の入射角度のばらつきを抑えられ、反射率特性の全段ばらつきが安定し、図10の一例のように、光学レンズ8は特に9の部分のような光学レンズ8の中心からみて、外周側へ急激に傾斜する形状を有するのが特徴で、特に下段(3C)側の分光特性の歩留まりに影響を与えるという問題点があったが、本発明により上記課題が解決され、連続式蒸着装置において特に蒸着装置内のドームに配置された下段側の光学レンズの反射率分光特性の安定した蒸着方法を提供することができる。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明によれば、例えば特にBDのような短波長レーザーダイオードを使用している光ピックアップ装置においては、光の利用効率が出来るだけ高いほうがよく、光ピックアップに搭載される光学レンズの透過率は出来るだけ大きい必要があり、またDSCに搭載される光学レンズにおいては、ばらつきの少ない低反射率の蒸着ができ、それにより高画質化に貢献でき、また光学レンズの蒸着生産効率の向上にも有用である。
【符号の説明】
【0037】
1 バッチ式ドーム
2 連続式ドーム
3 光学レンズパレット
3A 光学レンズパレット(上段)
3B 光学レンズパレット(中段)
3C 光学レンズパレット(下段)
3D 実施例1の光学レンズパレット
3E 実施例2の光学レンズパレット
4 三角状分割ドーム
5 蒸着材料の蒸着方向
6 蒸着源
7 光学レンズパレットの法線方向
8 光学レンズ
9 光学レンズの外周球面部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1面及び第2面を有する光学レンズに膜を蒸着させる膜蒸着装置であって、
膜を形成するための蒸着材料を噴射する蒸着源と、
複数のレンズを設置可能な複数のレンズパレットと、
前記蒸着源の噴射方向に位置し、前記蒸着源の噴射を基準とした所定の傾斜を有し、前記複数のレンズパレットを設置可能なドームと、を備え、
前記ドームは、前記設置されたレンズパレットを反転可能であり、
前記光学レンズの第1面が前記蒸着源側に配置された場合において、前記噴射対象として外周側に位置する第1パレットが、前記噴射対象として中心側に位置する第2パレットと比べて、前記所定の傾斜を基準にして、外周側の端部が中心側の端部よりも前記蒸着源側に位置するように構成される膜蒸着装置。
【請求項2】
前記ドームにおいて、前記第1パレット及び第2パレットが反転された場合、当該反転された第1パレットは、前記反転された第2パレットと比べて、前記所定の傾斜を基準にして、外周側の端部が中心側の端部よりも前記蒸着源側に位置するように構成される、
請求項1に記載の膜蒸着装置。
【請求項3】
前記第1面は、前記第2面と比べて曲率半径が大きい、
請求項1に記載の膜蒸着装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11A】
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【図11B】
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【図11C】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−179102(P2011−179102A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−47429(P2010−47429)
【出願日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】