説明

レンズ鏡胴および撮像装置

【課題】 低コストで且つ簡易な構成で、低温度環境下での作動安定性および高温環境下での水密性安定性、並びに組立容易性を向上する。
【解決手段】 固定枠41と第1の回転筒42との間をシールする第1のシール部材31は、弾性と磁力を有する部材で構成され、第1筒状部材21および第2筒状部材22は、磁性を有する部材で構成される。第1筒状部材21は、固定枠41の端部近傍の外周部に一体的に被着され、端部を突出させ先端を内方に折曲し、この折曲部と固定枠41の端部との間に内周面側に開口する環状溝状をなす固定部21aを形成する。第2筒状部材22は、固定部21aに対応する部位の第1の回転筒42の外周部に一体的に被着されている。第1のシール部材31は、外周部を第1筒状部材21の固定部21a内に嵌挿し、内周縁部31aを第2筒状部材22の外周面22aに当接して設けられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、いわゆる沈胴構造を有するレンズ鏡胴に係り、特に、防水構造を有するレンズ鏡胴およびそのようなレンズ鏡胴を用いて構成される撮像装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、ディジタルカメラ等の撮像装置においては、ズームレンズ等の撮像レンズの高性能化およびユーザー要求による小型化等の進展に伴って、撮影時以外には可動鏡筒がカメラボディ内部に沈胴するタイプの撮像レンズ鏡胴を有するものが要求されている。また、寒冷地および熱帯地でも使用可能とすべく、耐低温および耐高温性能を有することも求められている。
さらには、河川、海浜、ボートやヨット等の船上および雨天の屋外、場合によっては水中や海中でさえも使用することができるように、防水性能を持たせることが求められている。このようなカメラ等の防水性能の要請に対しては、従来、最も撮影レンズを繰り出した状態のカメラボディ全体を包み込むための防水外装体が用いられている。
そして、相対的に移動する部材間を防水する構成として、特許文献1(実開昭58−178126号)には、先端側の断面がほぼV字状をなすシール部材が提案されている。このシール部材は、断面がほぼV字状をなす環状の弾性体からなるシール部材であって、V字状の一端に対応する部分が、中空筒状をなす第1の筒状部材の内周面に弾性変形的に当接し、且つV字状の他端に対応する部分が、第1の筒状部材に対して相対的に移動する第2の筒状部材に弾性変形的に当接するようにして設けられて、第1の筒状部材と第2の筒状部材との間を水密にシールする。
【0003】
【特許文献1】実開昭58−178126号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示された断面がほぼV字状の弾性体からなるシール部材では、弾性体の特性およびその形状に起因して、第1の筒状部材と第2の筒状部材との相対的な移動の移動方向および移動量によっては、V字状の端部がまくれてシール性能が損なわれたり、V字状の各端部を全円周にわたって精度良く均等な肉厚に形成することが困難で、部品が高価になったり、円周方向について肉厚がバラついて均等な圧接力を確保することができなくなって適切なシール性能およびスムーズな作動を阻害したりするおそれがあった。
また、特許文献1の弾性体からなるシール部材では、温度の変動等によって、弾性体の弾性力が変化すると、第1の筒状部材および第2の筒状部材に対する圧接力も変化する。それに伴う摩擦力の変化等によって第1の筒状部材と第2の筒状部材との間の作動力が変化するが、圧接力の制御を弾性体の弾性力だけに依存した場合には、例えば、摂氏25度等の環境ではスムーズな作動性能が得られても、低温時には弾性部材の弾性力が強まるので作動抵抗が増加する結果、作動に不具合を生じさせるおそれがあった。さらに、高温時には、弾性体の弾性力が弱まるので、圧接力が減少する結果、充分な水密性を確保することができなくなるおそれがあった。
【0005】
しかも、弾性部材は、その特性に起因して、接着等による水密固定が容易ではないため、長時間の作業を要したり、高額な設備を要したりするなど、製造コストが増大することに加えて、経時変化によって接着部に不具合が発生するなどして、長期に亘る所要の防水性能を確保することができなくなるおそれがあった。
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたもので、低コストで且つ簡易な構成で、低温度環境下での作動安定性および高温環境下での水密性安定性、並びに組立容易性に優れたレンズ鏡胴および撮像装置を提供することを目的としている。
本発明の請求項1の目的は、特に、シール部材の形状を著しく複雑にすることも、極端な精度を要求することもなく、低コストで部品を製造することができ、組立容易性を向上して、組立設備費用の抑制および組立作業時間の短縮を可能とし、温度変化に対する作動安定性を向上させ且つ水密性の劣化をも防止することを可能とするレンズ鏡胴を提供することにある。
本発明の請求項2の目的は、特に、シール部材の取り付け調整を容易にして、組立容易性を向上させて、組立設備費用の抑制および組立作業時間の短縮を可能とし、温度変化に対する作動安定性を向上させ且つ水密性の劣化をも防止することを可能とするレンズ鏡胴を提供することにある。
【0006】
本発明の請求項3の目的は、特に、より簡単な構成で済み、シール部材の形状を著しく複雑にすることも、極端な精度を要求することもなく、低コストで部品を製造することができ、組立容易性を向上して、組立設備費用の抑制および組立作業時間の短縮を可能とし、温度変化に対する作動安定性を向上させ且つ水密性の劣化をも防止することを可能とするレンズ鏡胴を提供することにある。
本発明の請求項4の目的は、特に、簡易な構成でシール部材を構成し、低コストで、組立容易性を向上して、組立設備費用の抑制および組立作業時間の短縮を可能とし、温度変化に対する作動安定性を向上させ且つ水密性の劣化をも防止することを可能とするレンズ鏡胴を提供することにある。
本発明の請求項5の目的は、特に、シール部材の形状を著しく複雑にすることも、極端な精度を要求することもなく、低コストで部品を製造することができ、組立容易性を向上して、組立設備費用の抑制および組立作業時間の短縮を可能とし、温度変化に対する作動安定性を向上させ且つ水密性の劣化をも防止することを可能とするレンズ鏡胴を撮像レンズとして用いる撮像装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載した本発明に係るレンズ鏡胴は、上述した目的を達成するために、
径方向内周向きに突出する鍔部を有して中空筒状に形成され、磁性を有する材料を用いてなる第一の筒状部材と、
前記第一の筒状部材の中空部内に該第一の筒状部材に対して相対的に移動するように、少なくとも前記第一の筒状部材の前記固定部近傍に対応して設けられ、磁性を有する材料を用いてなる第二の筒状部材と、
環状をなし、弾性を有するとともに、少なくとも外周部および内周部に磁力を有し、外周部が前記第一の筒状部材の前記固定部に磁気吸引力により吸着し且つ内周部が前記第二の筒状部材の外周面に磁気吸引力により圧接しつつ摺接するシール部材と、
を具備することを特徴としている。
請求項2に記載した本発明に係るレンズ鏡胴は、請求項1のレンズ鏡胴であって、
前記第一の筒状部材の前記固定部の内周壁面と前記シール部材の前記外周部の外周壁面との間に、空隙が設けられていることを特徴としている。
【0008】
請求項3に記載した本発明に係るレンズ鏡胴は、上述した目的を達成するために、
径方向内周向きに突出する鍔部を有して中空筒状に形成されてなる第一の筒状部材と、
前記第一の筒状部材の中空部内に該第一の筒状部材に対して相対的に移動するように、少なくとも前記第一の筒状部材の前記固定部近傍に対応して設けられ、磁性を有する材料を用いてなる第二の筒状部材と、
環状をなし、弾性を有するとともに、少なくとも内周部に磁力を有し、外周部が前記第一の筒状部材の前記固定部に固着され且つ内周部が前記第二の筒状部材の外周面に磁気吸引力により圧接しつつ摺接するシール部材と、
を具備することを特徴としている。
請求項4に記載した本発明に係るレンズ鏡胴は、請求項1〜請求項3のいずれか1項のレンズ鏡胴であって、
前記シール部材は、ボンド磁石を用いて磁力を呈するよう構成したことを特徴としている。
請求項5に記載した本発明に係る撮像装置は、
請求項1〜請求項4の少なくとも1項のレンズ鏡胴を用いて撮像レンズを構成したことを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、低コストで且つ簡易な構成で、低温度環境下での作動安定性および高温環境下での水密性安定性、並びに組立容易性に優れたレンズ鏡胴および撮像装置を提供することができる。
すなわち本発明の請求項1のレンズ鏡胴によれば、
径方向内周向きに突出する鍔部を有して中空筒状に形成され、磁性を有する材料を用いてなる第一の筒状部材と、
前記第一の筒状部材の中空部内に該第一の筒状部材に対して相対的に移動するように、少なくとも前記第一の筒状部材の前記固定部近傍に対応して設けられ、磁性を有する材料を用いてなる第二の筒状部材と、
環状をなし、弾性を有するとともに、少なくとも外周部および内周部に磁力を有し、外周部が前記第一の筒状部材の前記固定部に磁気吸引力により吸着し且つ内周部が前記第二の筒状部材の外周面に磁気吸引力により圧接しつつ摺接するシール部材と、
を具備する構成により、
前記シール部材の前記第一の筒状部材および第二の筒状部材に対する接触部の圧接力を、前記シール部材の弾性力と、前記シール部材の磁力と、前記接触部の接触面積との3つのパラメーターで制御することができるため、
シール部材の形状を著しく複雑にすることも、極端な精度を要求することもなく、低コストで部品を製造することができ、組立容易性を向上して、組立設備費用の抑制および組立作業時間の短縮を可能とし、温度変化に対する作動安定性を向上させ且つ水密性の劣化をも防止することが可能となる。
【0010】
また、本発明の請求項2のレンズ鏡胴によれば、請求項1のレンズ鏡胴において、
前記第一の筒状部材の前記固定部の内周壁面と前記シール部材の前記外周部の外周壁面との間に、空隙が設けられる構成により、
前記シール部材の前記外周部と前記固定部の凹所内の接触面との位置誤差を吸収することができ、
特に、シール部材の取り付け調整を容易にして、組立容易性を向上させて、組立設備費用の抑制および組立作業時間の短縮を可能とし、温度変化に対する作動安定性を向上させ且つ水密性の劣化をも防止することが可能となる。
【0011】
本発明の請求項3のレンズ鏡胴によれば、
径方向内周向きに突出する鍔部を有して中空筒状に形成されてなる第一の筒状部材と、
前記第一の筒状部材の中空部内に該第一の筒状部材に対して相対的に移動するように、少なくとも前記第一の筒状部材の前記固定部近傍に対応して設けられ、磁性を有する材料を用いてなる第二の筒状部材と、
環状をなし、弾性を有するとともに、少なくとも内周部に磁力を有し、外周部が前記第一の筒状部材の前記固定部に固着され且つ内周部が前記第二の筒状部材の外周面に磁気吸引力により圧接しつつ摺接するシール部材と、
を具備する構成により、
前記シール部材の前記第二の筒状部材に対する接触部の圧接力を、前記シール部材の弾性力と、前記シール部材の磁力と、前記接触部の接触面積との3つのパラメーターで制御することができるため、
特に、一層簡単な構成で済み、シール部材の形状を著しく複雑にすることも、極端な精度を要求することもなく、低コストで部品を製造することができ、組立容易性を向上して、組立設備費用の抑制および組立作業時間の短縮を可能とし、温度変化に対する作動安定性を向上させ且つ水密性の劣化をも防止することが可能となる。
【0012】
本発明の請求項4のレンズ鏡胴によれば、請求項1〜請求項3のいずれか1項のレンズ鏡胴において、
前記シール部材が、ボンド磁石を用いて磁力を呈するよう構成したことにより、
特に、簡易な構成でシール部材を構成し、低コストで、組立容易性を向上して、組立設備費用の抑制および組立作業時間の短縮を可能とし、温度変化に対する作動安定性を向上させ且つ水密性の劣化をも防止することが可能となる。
さらに、本発明の請求項5の撮像装置によれば、
請求項1〜請求項4の少なくとも1項のレンズ鏡胴を用いて撮像レンズを構成したことにより、
特に、シール部材の形状を著しく複雑にすることも、極端な精度を要求することもなく、低コストで部品を製造することができ、組立容易性を向上して、組立設備費用の抑制および組立作業時間の短縮を可能とし、温度変化に対する作動安定性を向上させ且つ水密性の劣化をも防止することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明に係る実施の形態に基づき、図面を参照して本発明のレンズ鏡胴および撮像装置を詳細に説明する。
図1〜図11は、本発明の第1の実施の形態に係るレンズ鏡胴を組み込んだ撮像装置であるカメラの撮像光学系ユニットの要部の構成および各種動作状態を示している。
図1は、レンズ群を沈胴させて収納した沈胴収納状態におけるレンズ鏡胴部分の構成を物体側から見た斜視図、図2は、レンズ群を大きく繰り出して最も突出させた望遠(長焦点距離)状態およびレンズ群を沈胴させて収納した沈胴収納状態のレンズ鏡胴における各レンズ群、レンズ保持枠および各種レンズ鏡筒の要部をそれぞれ示す縦断面図、図3は、レンズ群を適宜繰り出して所定量突出させた広角(短焦点距離)状態のレンズ鏡胴における各レンズ群、レンズ保持枠および各種レンズ鏡筒の要部をそれぞれ示す縦断面図、図4は、図2の望遠状態における本発明に係る第1のシール部材周辺の拡大図、図5は、図2の望遠状態における本発明に係る第2のシール部材周辺の拡大図、図6は、直進筒のカムフォロワに係合するカム溝等を示す第2の回転筒の模式的展開図、図7は、第2レンズ群用のカム溝およびシャッタ/絞り用のカム溝等を示すカム筒の模式的展開図、図8は、光軸方向に沿う直線溝、ヘリコイド、第2の回転筒のカムフォロワを挿通するための逃げ溝等を示す第1のライナーの模式的展開図、図9は、軸方向に沿う直進溝およびヘリコイド状のカム溝等を示す固定枠の模式的展開図、図10は、図9をより詳細に示す固定枠の模式的展開図、そして、図11は、第1の回転筒の外観構成を模式的に示す斜視図である。
【0014】
図1〜図11に示すレンズ鏡胴は、第1レンズ群11、第2レンズ群12、第3レンズ群13、第4レンズ群14、シャッタ/絞りユニット15、固体撮像素子16、第1レンズ保持枠17、カバーガラス18、第2レンズ保持枠19、第1筒状部材21、第2筒状部材22、第1のライナー23、第3筒状部材24、第2のライナー25、カム筒26、直進筒27、第3レンズ保持枠28、第4筒状部材29、第1のシール部材31、第2のシール部材32、第3のシール部材33、固定枠41、第1の回転筒42、第2の回転筒43、ズームモータ51および第4群モータ52を具備している。
図2および図3を参照して、望遠状態および広角状態の撮影状態を例にとって説明すると、第1レンズ群11、第2レンズ群12、第3レンズ群13および第4レンズ群14は、物体側から順次配列されるとともに、第2レンズ群12と第3レンズ群13の間に、シャッタ/絞りユニット15が挿入配置され、第4レンズ群14の像面側には、CMOS(相補型金属酸化物半導体)またはCCD(電荷結合素子)等を用いて構成される固体撮像素子16が配置される。これら第1レンズ群11〜第4レンズ群14は、焦点距離可変のズームレンズを構成する。第1レンズ群11は、1枚以上のレンズからなり、該第1レンズ群11を一体的に保持する第1レンズ保持枠17を介して直進筒27に固定保持されている。
【0015】
第2レンズ群12は、1枚以上のレンズからなり、該第2レンズ群12を一体的に保持する第2レンズ保持枠19に形成されたカムフォロワ19aが、図7に展開図を示すカム筒26の第2レンズ群用のカム溝に挿通されて第2のライナー25の直進溝25aに係合し、これらカム筒26および第2のライナー25により支持されている。シャッタ/絞りユニット15は、シャッタと開口絞りとを含み、該シャッタ/絞りユニット15に一体的に形成されたカムフォロワ(明確には示されていない)が図7の展開図に示すカム筒26のシャッタ/絞り用のカム溝に挿通されて第2のライナー25の直進溝25aに係合し、これらカム筒26および第2のライナー25により支持されている。
固定枠41の内面には、図9および図10に示すように、軸方向に沿う直進溝およびヘリコイド状のカム溝が形成されている。固定枠41のヘリコイド状のカム溝には、図11に示すように第1の回転筒42の基端部外周面に形成されたヘリコイド状のカムフォロワが係合しており、固定枠41の直進溝には、第1のライナー23の基端部外周に突出形成されたキーが係合している。第1の回転筒42の内面には光軸に直交する面に沿う案内溝が形成されており、第1のライナー23の基端部近傍の外周面に突設された直進案内部材であるフォロワ(またはキー)が係合している。図8に示すように第1のライナー23の内面には、光軸方向に沿う直線溝とヘリコイドが形成され、さらに第1のライナー23には、第2の回転筒43の基端部近傍の外周面に突設されたカムフォロワを挿通するための逃げ溝が形成されている。
【0016】
第2の回転筒43の基端部の外周面にはヘリコイドが形成され、第1のライナー23の内周に設けられたヘリコイドに螺合するとともに、該第2の回転筒43の基端部近傍の外周面に突設されたカムフォロワが、第1のライナー23のライナー(直線溝)を通して第1の回転筒42の内周に設けられた直線溝に係合している。第1のライナー23の内周に設けられた直線溝には第2のライナー25の基端部外周に突設されたキー部が係合している。第2の回転筒43の内面には光軸に直交する面に沿う案内溝が形成されており、第2のライナー25の外周面に突設された直進案内部材であるフォロワ(またはキー)が係合している。このような構成により第2のライナー25は、光軸方向の移動については第2の回転筒43と一体的に移動するが、第2のライナー25に対して第2の回転筒43は回転移動できるようになっている。
第2のライナー25の内周に嵌合するカム筒26は、基端部外周に突設された係止突起が第2の回転筒43の基端部に嵌合係止して、第2の回転筒43と一体的に回転動作するようになっている。第2のライナー25の内面には、光軸に直交する面に沿う案内溝が形成されており、カム筒26の外周面(前側)に突設された直進案内部材であるフォロワ(またはキー)が係合している。このような構成により、カム筒26は、光軸方向の移動については第2のライナー25と一体的に移動するが、相対的には第2のライナー25に対してカム筒26は回転移動できるようになっている。
【0017】
直進筒27は、基端部側が第2の回転筒43と第2のライナー25の間に挿入されており、直進筒27の基端部近傍の外周面には、カムフォロワが突設され、前記カムフォロワが第2の回転筒43の内周面に形成されたカム溝に係合するとともに、直進筒27の内周面には軸方向に沿って直進溝が形成され、該直進溝に第2のライナー25の外周面のキー部が係合している。第1の回転筒42の基端部外周にはギヤ部が形成されており、ズームモータ51の駆動力が適宜ギヤを介してギヤ伝達されて回動され、それによって第1レンズ群11、第2レンズ群12およびシャッタ/絞りユニット15が、所定のごとくズーミング動作する。
なお、直進筒27のカムフォロワに係合する第2の回転筒43のカム溝が図6に示されており、第2レンズ群12のレンズ保持枠のカムフォロワに係合するカム筒26のカム溝およびシャッタ/絞りユニット15のカムフォロワに係合するカム筒26のカム溝が図7に示されている。第2の回転筒43のカムフォロワに係合する第1のライナー23のカム溝および第2のライナー25のキー部に係合する第1のライナー23の直線溝が図10に示されている。そして固定枠41の第1のライナー23のキー部に係合する固定枠41の直進溝、第1の回転筒42のカムフォロワに係合する固定枠41のカム溝が図9に示されている。
【0018】
すなわち、一般に最外周の固定筒に最も近い回転筒は、ヘリコイドによって固定筒に螺合しており、ヘリコイドは、その形状から一定の速度で移動する。このため、沈胴収納状態から広角位置を経て望遠位置へと漸次駆動される間の広角位置においては、回転筒は、半分ほど繰り出された状態となるのが、一般的である。これに対して、上述した構成においては、第1の回転筒42は、固定枠41の固定筒部分と単にヘリコイド螺合するのではなくヘリコイド状のカム溝で係合しており、収納状態から広角位置への駆動により、第1の回転筒42は、最大繰り出し位置まで完全に繰り出し、その後は、図10に示すようにカム溝の物体側端部が固定筒部の端面に平行になっており、広角位置から望遠位置への駆動では第1の回転筒42は、回転筒を光軸方向へ移動させることなく定位置で回転させる。
第1の回転筒42は、沈胴状態から広角位置へ移動する際、最初は回転しながら被写体側へ繰り出し、最大繰り出し位置に到達すると、前記固定枠41に設置されたズーム位置検出器、例えばフォトリフレクタ、フォトインタラプタまたはリーフスイッチ等からなるズーム位置検出器、によりズーム位置基準信号が発生する。したがって、このズーム位置基準信号が発生すると、第1の回転筒42が最大繰り出し位置に達したと考えて良いので、退避レンズ保持枠、すなわち、この例では、第3レンズ保持枠28、が光軸方向へ進入動作を開始できる。
【0019】
次に、第3レンズ群13について簡単に説明する。第3レンズ群13は、1枚以上のレンズからなり光軸方向に沿って移動することで主に変倍動作を行うことができるズーミングレンズであって、収納時には固定枠の内径より外側に退避する。
また、第4レンズ群14について簡単に説明する。第4レンズ群14は、1枚以上のレンズからなり光軸方向に沿って移動することで主に合焦動作を行うことができるフォーカスレンズであって、収納時には(明確には図示されていないが)固定枠41の内径より外側に退避する。
次に、本発明に係るこの第1の実施の形態の特徴について、主として図4および図5を参照して説明する。
図4は、固定枠41と第1の回転筒42との間をシールする第1のシール部材31周辺の拡大図である。この実施の形態に係る第1の形態では、図4に示す第1のシール部材31は、例えばボンド磁石(ゴム磁石またはシートマグネット等とも称される)のように、弾性と磁力を有する部材で構成され、第1筒状部材21および第2筒状部材22は、例えば、酸化防止のためのメッキが施されたNi−Fe合金のように磁性を有する部材で構成される。
【0020】
第1筒状部材21は、固定枠41の端部近傍の外周部に一体的に被着され、端部を適宜突出させ先端を内方(径方向内周向き)に折曲して断面をほぼL字状(側面から見て、倒L字状)として、鍔部を形成してなり、この折曲部(鍔部)と固定枠41の端部との間に内周面側に開口する環状溝状をなす固定部21aを形成している。また、第2筒状部材22は、固定部21aに対応する部位の第1の回転筒42の外周部に一体的に被着されている。第1のシール部材31は、外周部を第1筒状部材21の固定部21a内に嵌挿し、内周縁部31aを第2筒状部材22の外周面22aに当接して設けられる。そして、第1のシール部材31は、磁気吸着力によって第1筒状部材21の固定部21aと第2筒状部材22の外周面22aに水密に圧接されている。このとき、装着後、必要に応じて、第1のシール部材31の外周部を第1筒状部材21の固定部21aに接着剤32c等によって固定しても良い。
このような構成とすることにより、第1筒状部材21の固定部21aと第1のシール部材31の外周部との固定力は、非接着状態では第1筒状部材21の固定部21aと第1のシール部材31の接触面積と第1のシール部材31の磁力とで制御される。そして、第1のシール部材31の内周縁部31aと第2筒状部材22の外周面22aにおける圧接力は、第1のシール部材31の弾性力およびその磁力と、磁性を有する第2筒状部材22の外周面22aに対する第1のシール部材31の接触面積との3つのパラメーターで制御することができる。
【0021】
このため、第1のシール部材31の形状をさほど複雑にすることもなく、工程能力を超えた範囲の精度を要求することもないため、低コストで部品を製造することができる。また、第1のシール部材31と第1筒状部材21の磁性によって第1のシール部材31と第1筒状部材21とを吸着固定することができるため、組立容易性を向上するとともに組立設備費用の抑制および組立作業時間の短縮を実現することができ、常温や高温環境下または低温環境下における作動安定性を向上させるとともに、高温環境下における水密性の劣化を防止することができる。
また、この実施の形態に係る第2の形態では、図4に示す第1のシール部材31は、例えばボンド磁石のように、弾性と磁力を有する部材で構成され、第1筒状部材21は、例えば、アルミニウムのように非磁性体の金属で構成され、そして第2筒状部材22は、例えば、酸化防止のためのメッキが施されたNi−Fe合金のように磁性を有する部材で構成される。第1筒状部材21は、固定枠41の端部近傍の外周部に一体的に被着され、端部を適宜突出させ先端を内方に折曲して断面をほぼL字状としており、この折曲部と固定枠41の端部との間に内周面側に開口する環状溝状をなす固定部21aを形成している。また、第2筒状部材22は、固定部21aに対応する部位の第1の回転筒42の外周部に一体的に被着されている。
【0022】
第1のシール部材31は、外周部を第1筒状部材21の固定部21a内に嵌挿し、内周縁部31aを第2筒状部材22の外周面22aに当接して設けられる。そして、第1のシール部材31は、接着剤32c等によって第1筒状部材21の固定部21aに水密に固着されており、磁気吸着力によって第2筒状部材22の外周面22aに水密に圧接されている。
このような構成とすれば、第1のシール部材31の内周縁部31aにおける圧接力を、第1のシール部材31の弾性力およびその磁力と、第2筒状部材22の外周面22aの当接面積との3つのパラメーターで制御することができ、第1のシール部材31の形状を複雑にすることなく、工程能力を超えた範囲の精度を要求することもなく、低コストで部品を製造することができ、常温や高温環境下または低温環境下における作動安定性を向上させることができ、常温や高温環境下または低温環境下における作動安定性を向上させるとともに、高温環境下における水密性の劣化を抑制することができる。
【0023】
図5は、第1の回転筒42と第2の回転筒43との間をシールする第2のシール部材32周辺の拡大図である。図5に示す第2のシール部材32は、例えばボンド磁石(ゴム磁石またはシートマグネット等とも称される)のように、弾性と磁力を有する部材で構成され、第2筒状部材22および第3筒状部材24は、例えば、酸化防止のためのメッキが施されたNi−Fe合金のように磁性を有する部材で構成される。第2筒状部材22は、第1の回転筒42の端部近傍の外周部に一体的に被着され、端部を適宜突出させ先端を内方に折曲して断面をほぼL字状としており、この折曲部と第1の回転筒42の端部との間に内周面側に開口する環状溝状をなす固定部22bを形成している。また、第3筒状部材24は、固定部22bに対応する部位の第2の回転筒43の外周部に一体的に被着されている。第2のシール部材32は、外周部を第2筒状部材22の固定部22b内に嵌挿し、内周縁部32aを第3筒状部材24の外周面24aに当接して設けられる。このとき、第2のシール部材32の外周部の外径は、第2筒状部材22の固定部22bの環状溝内の内径よりも小さく設定し、第2のシール部材32の外周部の外周面32bと第2筒状部材22の固定部22bの環状溝内の内周壁面22cとの間には空隙を存している。そして、第2のシール部材32は、磁気吸着力によって第2筒状部材22の固定部22bと第3筒状部材24の外周面24aに水密に圧接されている。
【0024】
このとき、第2のシール部材32の外周部は、第2筒状部材22の固定部の折曲面の内側に磁力によって吸着するので、この部分で、第2筒状部材22と第3筒状部材24との偏心等の位置誤差や、第2のシール部材32の偏心等の寸法誤差を吸収させることができる。装着後、必要に応じて、第2のシール部材32の外周部を第2筒状部材22の固定部22bに接着剤32c等によって固定するようにしても良い。
このような構成によって、第2筒状部材22の固定部22bと第2のシール部材32との固定力は、非接着状態では第2筒状部材22の固定部22bと第2のシール部材32の接触面積と第2のシール部材32の磁力とで制御される。そして、第2のシール部材32の内周縁部32aと第3筒状部材24の外周面24aにおける圧接力は、第2のシール部材32の弾性力およびその磁力と、第3筒状部材24の外周面24aに対する第2のシール部材32の接触面積との3つのパラメーターで制御することができる。
このため、第2のシール部材32の形状を複雑にすることなく、工程能力を超えた範囲の精度を要求することもないため、低コストで部品を製造でき、第2のシール部材32の磁力と、第2筒状部材22の磁性によって簡単に第2筒状部材22に固定することができ、さらに、内周壁面22cと外周面32bとの間に空隙を設けることによって、第3筒状部材24の外周面24aと第2のシール部材32の内周縁部32aとの位置誤差を吸収させることができ、組立簡易性を向上するとともに組立設備費用の抑制および組立作業時間を短縮することができ、常温や高温環境下または低温環境下における作動安定性を向上させるとともに、高温環境下における水密性の劣化を抑制することができる。
【0025】
なお、第2の回転筒43と直進筒27との間をシールする第3のシール部材33についても、第2の回転筒43に被着した第3筒状部材24と直進筒27に被着した第4筒状部材29とを用いて、図4に示した第1のシール部材31と同様の構成を適用している。なお、図5に示した第2のシール部材32と同様の構成を適用しても良い。これらの構成は、全てのシールすべき個所に適宜選択して適用することができ、全て同一の構成としてもよい。
次に、本発明に係る第2の実施の形態の特徴について、図12および図13を参照して説明する。この場合、シール部材の形状が異なるのみであるので、図5における第2のシール部材32に代えて第2のシール部材32′を用いるものとして説明する。
図12は、繰り出し状態、すなわち望遠状態等の撮影状態を示し、第2のシール部材32′は、外周部において第2筒状部材22の固定部22bに固定され、第3筒状部材24の外周面24aに圧接される内周縁部32a′は、図示のように第3筒状部材24の外周面24aに沿って密着する帯状の当接面を形成し、外周部と内周縁部32a′との間は充分な可撓性を呈するように肉薄に形成する。この場合も、例えば外周部の外周面32b′と第2筒状部材22の固定部22bの内周壁面22cとの間に空隙を設けて位置誤差を吸収させるようにしても良い。
【0026】
図13は、繰り込み状態、例えば広角状態での撮影状態を示し、第2のシール部材32′は、外周部と内周縁部32a′との間の変形が可能な範囲では、図示のように第3筒状部材24の外周面24aに沿って密着する帯状の当接面が内方に引き込まれ、ある程度引き込まれた状態で、内周縁部32a′が第3筒状部材24の外周面24aに磁気吸引力によって密着したまま摺動して、水密状態を維持する。
上述したレンズ鏡胴は、ディジタルカメラ等のカメラに限らず、各種の撮像装置に組み込んで使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係るレンズ鏡胴を組み込んだ撮像装置であるカメラの撮像光学系ユニットにおけるレンズ群を沈胴させて収納した沈胴収納状態のレンズ鏡胴部分の構成を物体側から見た模式的斜視図である。
【図2】図1のレンズ鏡胴のレンズ群を大きく繰り出して最も突出させた望遠(長焦点距離)状態およびレンズ群を沈胴させて収納した沈胴収納状態のレンズ鏡胴を示す模式的縦断面図である。
【図3】図1のレンズ鏡胴のレンズ群を適宜繰り出して所定量突出させた広角(短焦点距離)状態のレンズ鏡胴を示す模式的縦断面図である。
【図4】図2のレンズ鏡胴の望遠状態における第1のシール部材周辺の拡大図である。
【図5】図2のレンズ鏡胴の望遠状態における第2のシール部材周辺の拡大図である。
【図6】図1のレンズ鏡胴の直進筒のカムフォロワに係合するカム溝等を示す第2の回転筒の模式的展開図である。
【図7】図1のレンズ鏡胴の第2レンズ群用のカム溝およびシャッタ/絞り用のカム溝等を示すカム筒の模式的展開図である。
【図8】図1のレンズ鏡胴の光軸方向に沿う直線溝、ヘリコイド、第2の回転筒のカムフォロワを挿通するための逃げ溝等を示す第1のライナーの模式的展開図である。
【図9】図1のレンズ鏡胴の軸方向に沿う直進溝およびヘリコイド状のカム溝等を示す固定枠の模式的展開図である。
【図10】図9をより詳細に示す固定枠の模式的展開図である。
【図11】図1のレンズ鏡胴の第1の回転筒の外観構成を模式的に示す斜視図である。
【図12】本発明の第2の実施の形態に係るレンズ鏡胴を組み込んだ撮像装置であるカメラの撮像光学系ユニットにおけるレンズ鏡胴の繰り出し望遠状態における第2のシール部材周辺の拡大図である。
【図13】図12のレンズ鏡胴の繰り込み広角状態における第2のシール部材周辺の拡大図である。
【符号の説明】
【0028】
11 第1レンズ群
12 第2レンズ群
13 第3レンズ群
14 第4レンズ群
15 シャッタ/絞りユニット
16 固体撮像素子
17 第1レンズ保持枠
18 カバーガラス
19 第1レンズ保持枠
21 第1筒状部材
21a 固定部
22 第2筒状部材
22a 外周面
22b 固定部
22c 内周壁面
23 第1のライナー
24 第3筒状部材
24a 外周面
25 第2のライナー
26 カム筒
27 直進筒
28 第3レンズ保持枠
29 第4筒状部材
31 第1のシール部材
31a 内周縁部
32 第2のシール部材
32a 内周縁部
32b 外周面
32c 接着剤
33 第3のシール部材
41 固定枠
42 第1の回転筒
43 第2の回転筒
51 ズームモータ
52 第4群モータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
径方向内周向きに突出する鍔部を有して中空筒状に形成され、磁性を有する材料を用いてなる第一の筒状部材と、
前記第一の筒状部材の中空部内に該第一の筒状部材に対して相対的に移動するように、少なくとも前記第一の筒状部材の前記固定部近傍に対応して設けられ、磁性を有する材料を用いてなる第二の筒状部材と、
環状をなし、弾性を有するとともに、少なくとも外周部および内周部に磁力を有し、外周部が前記第一の筒状部材の前記固定部に磁気吸引力により吸着し且つ内周部が前記第二の筒状部材の外周面に磁気吸引力により圧接しつつ摺接するシール部材と、
を具備することを特徴とするレンズ鏡胴。
【請求項2】
前記第一の筒状部材の前記固定部の内周壁面と前記シール部材の前記外周部の外周壁面との間に、空隙が設けられていることを特徴とする請求項1に記載のレンズ鏡胴。
【請求項3】
径方向内周向きに突出する鍔部を有して中空筒状に形成されてなる第一の筒状部材と、
前記第一の筒状部材の中空部内に該第一の筒状部材に対して相対的に移動するように、少なくとも前記第一の筒状部材の前記固定部近傍に対応して設けられ、磁性を有する材料を用いてなる第二の筒状部材と、
環状をなし、弾性を有するとともに、少なくとも内周部に磁力を有し、外周部が前記第一の筒状部材の前記固定部に固着され且つ内周部が前記第二の筒状部材の外周面に磁気吸引力により圧接しつつ摺接するシール部材と、
を具備することを特徴とするレンズ鏡胴。
【請求項4】
前記シール部材は、ボンド磁石を用いて磁力を呈するよう構成したことを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載のレンズ鏡胴。
【請求項5】
請求項1〜請求項4の少なくとも1項のレンズ鏡胴を用いて撮像レンズを構成したことを特徴とする撮像装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2010−72251(P2010−72251A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−238595(P2008−238595)
【出願日】平成20年9月17日(2008.9.17)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】