説明

レンチウイルスベクターベースのワクチン

レンチウイルスベクターを用いる体液性応答を惹起する方法、免疫の方法、ワクチン接種の方法が開示される。加えて、ウエストナイルウイルスに関する免疫原性組成物及びワクチンが開示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の説明
発明の分野
本発明は、レンチウイルスベクター、レンチウイルスベクターを用いる遺伝子導入法、免疫法及びワクチン接種法、組換えポリペプチドの製造法、これらポリペプチドに対して生じた抗体、並びに診断方法、キット、免疫原性組成物、ワクチン及び抗ウイルス療法でのこれら分子の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
過去数年で、レンチウイルス遺伝子導入ベクターは、遺伝子治療界で相当の関心がもたれるようになった。この無類の評判は、治療遺伝子又はレポーター遺伝子を、治療的介入の鍵となる重要な多種多様の細胞及び組織(例えば、造血幹細胞、脳、肝臓及び網膜)に効率的で安定に導入する能力に起因する(とりわけ、[1-4]を参照)。レンチウイルスベクターは、標的細胞の増殖状態にかかわらず高い形質導入効率を達成し、よって形質導入が分裂細胞に限定されるオンコウイルス由来のレトロウイルスベクターの主要な限界の1つを回避する。
【0003】
この利点は、ヒト疾患の種々の動物モデルでの前臨床試験の多くの成功に反映され(とりわけ、[5-11]を参照)、ますます多くの臨床試験で利用されるようになることは疑いない。
【0004】
最近になって、レンチウイルスベクターは、有望なワクチン接種ベクターであることも判ってきた。今日までのほとんどの研究は、抗腫瘍免疫療法の分野での細胞性免疫応答の誘導に集中し[12-18]、少数の研究もウイルスに対する保護性細胞性免疫の誘導に集中していた[19-21]。
【0005】
非分裂樹状細胞(DC)にエキソビボ[12、14、15、19]及びインビボ[13、18、22]で高効率で形質導入する能力は、強力なCTL応答を惹起する能力を説明する。
【0006】
事実、抗腫瘍免疫を刺激するためにレンチウイルスベクターを使用した報告は、非常に有望な結果を示している。腫瘍抗原発現レンチウイルスベクターにより形質導入されたヒトDCは、インビトロで特異的なCTL応答を刺激する[12、14、15、18]。マウスでは、レンチウイルスベクター粒子又はレンチウイルスベクター形質導入DCの注入により、強力で特異的な抗腫瘍の細胞性免疫応答を誘導し[13、15、18]、腫瘍攻撃からの保護を付与する[12、17]。これら応答は、エキソビボ[20]でアッセイしようとインビボ[16、21]でアッセイしようと、ペプチド+アジュバントでの古典的免疫化[13]によって得られる応答より強力であり、ペプチドパルス抗原提示細胞(APC)での古典的免疫化によって得られる応答に対してさえ強力である。観察された利点は、APCのペプチドパルスに続いて起こる一過性の抗原提示[16、20]とは対照的な、抗原のベクター形質導入APCにおける継続的提示に起因し得る。
【0007】
今日まで、レンチウイルスベクターが抗体ベースの保護性免疫を刺激する能力についてはほとんど知られていない。にもかかわらず、高い形質導入効率により、レンチウイルスベクターはまた、体液性免疫を誘導する強力な能力を付与されている可能性がある。更に、インビボで注入されたときDCに選択性であるように見える向性[13、18、22]は、保護性抗体ベース免疫を惹起する能力を更に強化する可能性がある。なぜなら、DCがCD4 T細胞(B細胞ベースの免疫応答の正確な発現に必要)の強力な刺激因子であるからである。更に、ワクチン接種の場面では、形質導入細胞からの抗原の安定な発現は、何回もの注入の必要性を排除できる可能性がある。
【0008】
事実、体液性免疫応答がウエストナイルウイルス(WNV)に対する保護性免疫の必須成分であることは広く受け入れられている[23-25]。WNVのエンベロープE糖タンパク質(中和エピトープを有する[26])は、組換え抗原[27]として注射されたとき、又は裸のDNA[28]若しくは複製麻疹ベクター[29]のいずれかにより発現されたとき、保護性免疫応答を惹起する。WNV株IS-98-ST1由来の可溶形態のエンベロープE糖タンパク質(sE)に対する中和抗体の受動伝達がマウスをWNV脳炎から保護したという事実は、更に、体液性応答がWNV攻撃に対する保護に十分であることを証明している[29]。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
WNVは、フラビウイルス科の日本脳炎血清型群の蚊媒介性フラビウイルスである。WNVは、自然のサイクルではトリと蚊の間で伝染するが、哺乳動物の多くの種に感染することがある[30]。人畜共通性WNVは、1998年にイスラエルで、次いで1999年にニューヨークで毒性のより強い株(Isr98/NY99)が出現したことから、近年、北米、中東及び欧州で主要な健康上の懸念となった。WNV感染の重篤な臨床症状発現には、基本的に中枢神経系が関与し、ヒト及び広範な動物種(特に、ウマ及びトリ)で相当数の死を引き起こし得る(概説としては[30]を参照)。結果として、迅速に強力で長期持続性の免疫を提供できる効率的なワクチンの開発に対する緊急の需要が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
発明の要旨
本発明は、当該分野におけるこれら要求を満たすことの助けとなる。本発明は、レンチウイルスベクターが体液性免疫応答を惹起する能力に関する。レンチウイルスベースのワクチンでの免疫化によりウエストナイルウイルス(WNV)感染に対して保護され得るかどうかを調べた。驚くべきことに、レンチウイルスベクターは抗体ベースの保護性免疫を惹起できることが見出された。
【0011】
本発明において、ヒト、トリ及びウマで脳炎を引き起こす蚊媒介性フラビウイルスであるウエストナイルウイルス(WNV)対して体液性免疫を惹起するレンチウイルスベクターベースワクチンの能力を評価した。驚くべきことに、微小用量のTRIP/sEWNV(高毒性IS-98-ST1株のWNVの分泌性可溶形態のエンベロープE糖タンパク質(sEWNV)を発現するレンチウイルスベクター)での単回免疫化により、WNV脳炎のマウスモデルで、WNV感染に対する特異的な体液性応答及び保護が誘導された。この単回免疫化により、初回刺激(priming)の僅か1週間後に長期持続性の保護性及び殺菌性の体液性免疫が惹起された。これら結果は、保護性免疫に中和性体液性応答を積極的に必要とする病原体に対する効率的な非複製型ワクチンとしてのレンチウイルスベクターの利用可能性を証明する。TRIP/sEWNVレンチウイルスベクターは、人畜共通性WNVに対する獣医学的ワクチン接種の有望なツールであるようである。
【0012】
よって、本発明は、動物にレンチウイルスベクターを投与することを含んでなるインビボで抗体を産生する方法であって、レンチウイルスが抗原をコードする異種核酸を含んでなり、抗原が動物に体液性応答を惹起する方法を提供する。本発明は、その必要のある動物に保護性免疫(例えば、長期持続性保護性免疫及び殺菌性免疫を含む)を誘導するレンチウイルスベクターを包含する。1つの実施形態では、その必要のある動物は、ヒト;ウマ;トリ;家禽;ブタ;ウシ類(cattle)(ウシ、ヒツジ及びヤギを含む);げっ歯類(ハムスター、ラット及びマウスを含む);ペット;及び爬虫類から選択される。
【0013】
本発明は加えて、動物にレンチウイルスベクターを投与することを含んでなるインビボで抗体を産生する方法であって、レンチウイルスが抗原をコードする異種核酸を含んでなり、抗原が動物に体液性応答を惹起し、レンチウイルスベクターが感染性微生物に対する保護性免疫を誘導する方法を提供する。1つの実施形態では、感染性微生物はウエストナイルウイルスである。別の実施形態では、レンチウイルスベクターは、少なくともBエピトープを有するペプチド又はポリペプチドをコードする核酸を含んでなる。少なくともBエピトープを有するポリペプチドは、例えば、微生物の膜タンパク質又はそのフラグメント、特にウエストナイルウイルスのエンベロープE糖タンパク質又はそのフラグメントであり得る。レンチウイルスベクターは、ウエストナイルウイルスの膜貫通固着領域を欠くカルボキシル末端切断型E糖タンパク質、例えば、ウエストナイルウイルス株IS-98-ST1のエンベロープE糖タンパク質の残基1〜441を含んでなるカルボキシル末端切断型E糖タンパク質を含んでなってもよい。別の実施形態では、異種核酸は、ウエストナイルウイルスのエンベロープE糖タンパク質の変形体をコードする。本発明は、エンベロープE糖タンパク質をコードするウエストナイルウイルス株IS-98-ST1の核酸にストリンジェントなハイブリダイゼーション条件(下記で説明)下でハイブリダイズする変形体異種核酸を包含する。
【0014】
本発明はまた、少なくともBエピトープを有するペプチドをコードする核酸を含んでなるレンチウイルスベクターを、その必要のある動物に1回又はそれより多い回数で投与することを含んでなる、動物にウエストナイルウイルス感染に対するワクチン接種をする方法を提供する。少なくともBエピトープを有するペプチドは、例えば、許容され得る生理学的キャリア及び/又はアジュバントを伴う、微生物の膜タンパク質又はそのフラグメント、特にウエストナイルウイルスのエンベロープE糖タンパク質又はそのフラグメントであり得る。適切なインビボ投与経路としては、例えば、腹腔内経路、静脈内経路、筋肉内経路、経口経路、粘膜経路、舌下経路、鼻内経路、皮下経路又は皮内経路が挙げられる。適切なエキソビボ経路としては、レンチウイルスベクターで形質導入された自家細胞[すなわち、樹状細胞(DC)又はB細胞のような抗原提示細胞(APC)]の投与が挙げられる。1つの実施形態では、異種核酸は、少なくともBエピトープを有するペプチド又はポリペプチドをコードする。好ましい実施形態では、ポリペプチドは、膜タンパク質又はそのフラグメントをコードする。別の好ましい実施形態では、異種核酸は、ウエストナイルウイルスの膜貫通固着領域を欠くカルボキシル末端切断型E糖タンパク質をコードする。別の実施形態では、カルボキシル末端切断型E糖タンパク質は、ウエストナイルウイルス株IS-98-ST1のエンベロープE糖タンパク質の残基1〜441を含んでなる。本発明の好ましい実施形態は、制限された数の用量で、例えば、単回用量又は2若しくは3回用量でレンチウイルスベクターを投与することを包含する。1つの実施形態では、この用量は、例えば、p24抗原0.5ng〜5000ngに相当するベクター粒子を含んでなる。マウスでは、好ましい用量は0.5ngから50ngまで変化し得るが、ウマでは好ましい用量は50ngから500ngまで変化し得る。本発明は、動物、例えば、ヒト;ウマ;トリ;家禽;ブタ;ウシ類(ウシ、ヒツジ及びヤギ);げっ歯類(ハムスター、ラット及びマウス);ペット;及び爬虫類のような動物の治療を包含する。
【0015】
本発明はまた、微生物の免疫原性膜タンパク質又はそのフラグメントをコードする異種核酸を含んでなるレンチウイルスベクターを、その必要のある動物に1回又はそれより多い回数で投与することを含んでなる、動物に微生物感染に対するワクチン接種をする方法を提供する。本明細書中で使用する場合、用語 微生物は、ウイルス、細菌及び寄生生物を包含する。
【0016】
好ましい実施形態では、本発明は、その必要のある動物にウイルス感染(例えば、フラビウイルス感染)に対するワクチン接種をする方法、特に、ウエストナイルウイルスのエンベロープE糖タンパク質の変形体又はそのフラグメントと許容され得る生理学的キャリア及び/又はアジュバントとを含んでなるレンチウイルスベクターを投与することによってその必要のある動物にウエストナイルウイルス感染に対するワクチン接種をする方法を提供する。本発明は、異種核酸が、エンベロープE糖タンパク質をコードするウエストナイルウイルス株IS-98-ST1の核酸に、ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下でハイブリダイズするワクチン接種の方法を包含する。1つの実施形態では、レンチウイルスベクターは、例えばp24抗原0.5ng〜5000ngに相当するベクター粒子用量で、1回投与される。その必要のある動物としては、例えば、ヒト;ウマ;トリ;家禽;ブタ;ウシ類(ウシ、ヒツジ及びヤギを含む);げっ歯類(ハムスター、ラット及びマウスを含む);ペット(例えばネコ及びイヌ);及び爬虫類を挙げることができる。
【0017】
本発明はまた、レンチウイルスベクターが免疫原性又は保護性の応答をインビボで誘導するに十分な量の抗原をコードする異種核酸とそのための医薬的に許容され得るキャリアとを含んでなる、レンチウイルスベクターを含んでなる免疫原性組成物を提供する。本発明は、異種核酸が少なくともBエピトープを有するペプチドをコードする免疫原性組成物を包含する。少なくともBエピトープを有するペプチドは、例えば、微生物の膜タンパク質若しくはそのフラグメント、特にウエストナイルウイルスのエンベロープE糖タンパク質若しくはそのフラグメント、又はウエストナイルウイルスの膜貫通固着領域を欠くカルボキシル末端切断型E糖タンパク質であり得る。1つの実施形態では、カルボキシル末端切断型E糖タンパク質は、ウエストナイルウイルス株IS-98-ST1のエンベロープE糖タンパク質の残基1〜441を含んでなる。
【0018】
本発明はまた、レンチウイルスベクターが免疫原性又は保護性の応答をインビボで誘導するに十分な量の抗原をコードする異種核酸とそのための医薬的に許容され得るキャリアとを含んでなり、異種核酸がウエストナイルウイルスのエンベロープE糖タンパク質の変形体をコードする、レンチウイルスベクターを含んでなる免疫原性組成物を提供する。1つの例では、異種核酸は、エンベロープE糖タンパク質をコードするウエストナイルウイルス株IS-98-ST1の核酸に、ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下でハイブリダイズする。
【0019】
本発明は、ベクターがサイトメガロウイルス前初期プロモーターを含んでなり、異種核酸がウエストナイルウイルスのエンベロープE糖タンパク質又はそのフラグメントをコードする、異種核酸の発現を指示するレンチウイルスベクターを包含する。異種核酸は、例えば、ウエストナイルウイルスの膜貫通固着領域を欠くカルボキシル末端切断型E糖タンパク質をコードし得る。1つの実施形態では、カルボキシル末端切断型E糖タンパク質は、ウエストナイルウイルス株IS-98-ST1のエンベロープE糖タンパク質の残基1〜441を含んでなる。本発明はまた、このようなレンチウイルスベクターでトランスフェクト又は形質導入された実質的に精製された宿主細胞を提供し、そのようなレンチウイルスベクターでトランスフェクト又は形質導入された宿主細胞を発現促進条件下で培養すること、及び宿主細胞又は培養培地からポリペプチドを回収することを含んでなる、ウエストナイルウイルスのエンベロープE糖タンパク質ポリペプチド又はそのフラグメントの作製方法を提供する。
【0020】
本発明は更に、ベクターがサイトメガロウイルス前初期プロモーターを含んでなり、異種核酸がウエストナイルウイルスのエンベロープE糖タンパク質の変形体をコードする、異種核酸の発現を指示するレンチウイルスベクターを提供する。1つの実施形態では、異種核酸は、エンベロープE糖タンパク質をコードするウエストナイルウイルス株IS-98-ST1の核酸に、ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下でハイブリダイズする。本発明は、このようなレンチウイルスベクターでトランスフェクト又は形質導入された実質的に精製された宿主細胞、及びそのようなレンチウイルスベクターでトランスフェクト又は形質導入された宿主細胞を発現促進条件下で培養すること、及び宿主細胞又は該培養培地からポリペプチドを回収することを含んでなる、ウエストナイルウイルスのエンベロープE糖タンパク質の変形体を作製する方法を包含する。
【0021】
本発明は更に、ベクターがサイトメガロウイルス前初期プロモーターを含んでなり、異種核酸が緑色蛍光タンパク質を含んでなる、異種核酸の発現を指示するレンチウイルスベクターを提供する。本発明はまた、このレンチウイルスベクターでトランスフェクト又は形質導入された実質的に精製された宿主細胞を包含する。
【0022】
本発明は、その必要のある動物にレンチウイルスベクターを投与することを含んでなる病原性因子に対するワクチン接種をする方法であって、レンチウイルスベクターが抗原をコードする異種核酸を含んでなり、抗原が病原性因子に対する抗体を惹起する方法を包含する。本発明は、例えば、レンチウイルスベクターの投与が長期持続性体液性免疫を惹起するワクチン接種方法を包含する。本発明はまた、例えば、レンチウイルスベクターの投与が病原性因子に対して中和抗体を惹起するワクチン接種方法を包含する。その必要のある動物としては、ヒト;ウマ;トリ;家禽;ブタ;ウシ類(ウシ、ヒツジ及びヤギ);げっ歯類(ハムスター、ラット及びマウスを含む);ペット(例えば、ネコ及びイヌ);及び爬虫類を挙げることができる。1つの実施形態では、レンチウイルスベクターは、ウエストナイルウイルスのエンベロープE糖タンパク質又はそのフラグメントをコードする核酸を含んでなり、病原性因子はウエストナイルウイルスである。別の実施形態では、ウエストナイルウイルスのエンベロープE糖タンパク質は膜貫通固着領域を欠く。別の実施形態では、レンチウイルスベクターの投与は、p24抗原0.5ng〜5000ngに相当する少なくとも1つのベクター粒子用量を含んでなる。
【0023】
本発明はまた、動物にレンチウイルスベクターを投与することを含んでなるインビボで抗体産生用DNAを送達する方法であって、レンチウイルスベクターが抗原をコードする異種核酸を含んでなり、抗原が動物に体液性応答を惹起する方法を提供する。本発明は、その必要のある動物に対して保護性体液性免疫を誘導するレンチウイルスベクターを包含する。1つの実施形態では、その必要のある動物は、ヒト;ウマ;トリ;家禽;ブタ;ウシ類(ウシ、ヒツジ及びヤギを含む);げっ歯類(ハムスター、ラット及びマウスを含む);ペット;及び爬虫類から選択される。
【0024】
本発明は加えて、動物にレンチウイルスベクターを投与することを含んでなるインビボで抗体産生用DNAを送達する方法であって、レンチウイルスベクターが抗原をコードする異種核酸を含んでなり、抗原が動物に体液性応答を惹起し、レンチウイルスベクターがウエストナイルウイルスに対する保護性免疫を誘導する方法を提供する。1つの実施形態では、レンチウイルスベクターは、ウエストナイルウイルスのエンベロープE糖タンパク質又はそのフラグメントをコードする核酸を含んでなってもよい。レンチウイルスベクターは、ウエストナイルウイルスの膜貫通固着領域を欠くカルボキシル末端切断型E糖タンパク質、例えばウエストナイルウイルス株IS-98-ST1のエンベロープE糖タンパク質の残基1〜441を含んでなるカルボキシル末端切断型E糖タンパク質をコードする核酸を含んでなってもよい。別の実施形態では、異種核酸は、ウエストナイルウイルスのエンベロープE糖タンパク質の変形体をコードする。本発明は、ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件(下記で説明)下で、エンベロープE糖タンパク質をコードするウエストナイルウイルス株IS-98-ST1の核酸にハイブリダイズする変形体異種核酸を包含する。
【0025】
本発明はまた、レンチウイルスベクターが抗原をコードする異種核酸を含んでなり、抗原が動物に体液性応答を惹起する、動物にレンチウイルスベクターを投与することを含んでなる方法を包含する。本発明は、その必要のある動物に保護性体液性免疫を誘導するレンチウイルスベクターを包含する。1つの実施形態では、その必要のある動物は、ヒト;ウマ;トリ;家禽;ブタ;ウシ類(ウシ、ヒツジ及びヤギを含む);げっ歯類(ハムスター、ラット及びマウスを含む);ペット;及び爬虫類から選択される。
【0026】
本発明は加えて、レンチウイルスベクターが抗原をコードする異種核酸を含んでなり、抗原が動物に体液性応答を惹起し、レンチウイルスベクターでの形質導入後の該動物において発現される抗原が感染性微生物(例えば、ウエストナイルウイルス)に対する保護性免疫を誘導する、動物にレンチウイルスベクターを投与することを含んでなる方法を提供する。1つの実施形態では、レンチウイルスベクターは、感染性微生物の膜タンパク質(特にエンベロープタンパク質、より好ましくはウエストナイルウイルスのエンベロープE糖タンパク質又はそのフラグメント)をコードする核酸を含んでなる。レンチウイルスベクターは、ウエストナイルウイルスの膜貫通固着領域を欠くカルボキシル末端切断型E糖タンパク質、例えばウエストナイルウイルス株IS-98-ST1のエンベロープE糖タンパク質の残基1〜441を含んでなるカルボキシル末端切断型E糖タンパク質をコードする核酸を含んでなってもよい。別の実施形態では、異種核酸はウエストナイルウイルスのエンベロープE糖タンパク質の変形体をコードする。1つの実施形態では、本発明は、ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下で、下記で説明するものに、例えばエンベロープE糖タンパク質をコードするウエストナイルウイルス株IS-98-ST1の核酸にハイブリダイズする異種核酸を包含する。
【0027】
本発明の更なる目的及び利点は、一部が下記で説明され、一部が説明から明らかであり、又は本発明の実施により理解され得る。本発明の目的及び利点は、添付の特許請求の範囲に特に指摘した要素及び組合せにより実現され達成される。
【0028】
図面の簡単な説明
図1は、TRIP/sEWNVで形質導入した293T細胞におけるsEWNVの発現を示す。(A)TRIP/sEWNVベクターの模式図。sEWNVをコードするIS-98-ST1 cDNAを、TOPO/sEWNVプラスミド[29]からTRIPレンチウイルスベクター中に、BsiW1コーディング部位とBssHIIコーディング部位との間でヒトサイトメガロウイルス前初期プロモーター(CMVie)の制御下にサブクローニングした。LTR=長末端反復。(B)TRIP/sEWNV形質導入293T細胞におけるsEWNVタンパク質の検出。293T細胞を、p24抗原100ng/mlに相当する量のTRIP/sEWNVベクター粒子で形質導入したか(左)、又は形質導入しないままとした(右)。形質導入後48時間で、293T細胞を、抗WNV HMAF(超免疫マウス腹水:Hyperimmune Mouse Ascitic Fluid)で免疫染色した。
【0029】
図2は、TRIP/sEWNVワクチン接種マウスの血清における抗EWNV抗体の検出を示す。Vero細胞を、WNV株IS-98-ST1に感染させたか(WNV)、又は偽感染させた(ウイルスなし)。放射性標識細胞溶解物を、プールした免疫血清(希釈率1:100)で免疫沈降させた。サンプルを非還元条件下でのSDS-15%PAGEにより分析した。(A)免疫化後(p.i)6日目、13日目、20日目及び27日目に採集したTRIP/sEWNV免疫マウスの血清。(B)WNVを接種した耐性類似遺伝子型BALB/c-MBTマウスの血清(WNVに対する血清)。リンパ球性脈絡髄膜炎ウイルス(LCMV)に対する抗血清を陰性コントロールとして使用した。WNV構造糖タンパク質C、prM及びE並びに非構造タンパク質NS3及びNS2Aを示す。(C)免疫化後の7日又は14日で実施したWNV攻撃(challenge)の21日後に採集したTRIP/sEWNV免疫マウスの血清。陽性コントロールとして、ウイルス抗原を抗WNV HMAFで免疫沈降させた。
【0030】
図3は、TRIP/sEWNVベクター粒子の熱不活化が形質導入を無効にすることを示す。293T細胞をTRIP/GFPベクター(66ng/mlのp24抗原)で形質導入し、熱不活化した(70℃で10分間)か又はしなかった。形質導入後48時間で、GFP発現をFACSにより検出した。
【0031】
図4は、IS-98-ST1株の分泌形態のウエストナイルウイルスE糖タンパク質の核酸配列(配列の両端に開始コドン及び停止コドンが付加されている)(配列番号9)を示す。
図5は、IS-98-ST1株の分泌形態のウエストナイルウイルスE糖タンパク質の核酸配列(配列番号10)を示す。
【0032】
図6は、IS-98-ST1株の分泌形態のウエストナイルウイルスE糖タンパク質のアミノ酸配列(配列番号11)を示す。N末端のシグナル配列に下線を付す。
図7は、IS-98-ST1株のウエストナイルウイルスE糖タンパク質のドメインIIIのアミノ酸配列(配列番号12)を示す。
【0033】
図8は、ウエストナイルウイルス株IS-98-ST1の切断型ウエストナイルウイルスE糖タンパク質の異種配列を有するレンチウイルスベクターpTRIPsEWNVの完全核酸配列(配列番号13)を示す。
【0034】
詳細な説明
保護性体液性応答を誘導するためのレンチウイルスベクターを見出した。1つの実施形態では、レンチウイルスベクターは、逆転写、核内移入及び組込みに必要なシス活性配列(それぞれ、PPT 3'領域、PBS領域及びLTRのR領域;cPPT-CTS;psi)と、抗原をコードする異種核酸とを含んでなる複製欠損レトロウイルスベクターである。この実施形態では、構造タンパク質及び酵素タンパク質は、「トランス」で提供される。レンチウイルスベクターは、組込反復(IR)配列及びLTRのTips、並びにORFとしての転写配列及びプロモーターを含んでなることができる。レンチウイルスベクター粒子は、任意のウイルス性又は非ウイルス性のエンベロープにより偽型化して、標的細胞への侵入を容易にすることができる。異種核酸の挿入のためのレンチウイルスベクター上の1つの好ましい部位は、下記で説明するように2つのLTRの間である。或いは、異種核酸は、例えば、LTRのU3領域若しくはU5領域中に挿入するか、又はLTRのU3領域若しくはU5領域との置換として提供することができる。
【0035】
1つの実施形態では、レンチウイルスベクターは、少なくとも1つのBエピトープを有するペプチドをコードする異種核酸を含んでなる。好ましい実施形態では、該異種核酸は、感染性微生物の膜タンパク質(例えば、エンベロープタンパク質)をコードする。1つの好ましい実施形態では、異種核酸は、ウエストナイルウイルスのエンベロープE糖タンパク質又はそのフラグメントをコードする。
【0036】
用語「レンチウイルスベクター」は、該ベクターが(1)天然で組み合わされている(associated)ポリヌクレオチドの全て又は一部と組み合わされていないポリヌクレオチド配列、(2)天然で連結しているポリヌクレオチド以外のポリヌクレオチドと連結されているポリヌクレオチド配列、又は(3)天然には存在しないポリヌクレオチド配列を含有することを意味する。本発明のレンチウイルスベクターは、例えばHIV-1、HIV-2、SIV(サル免疫不全ウイルス)、EIAV(ウマ伝染性貧血ウイルス)、FIV(ネコ免疫不全ウイルス)、CAEV(ヤギ関節炎脳炎ウイルス)及びVMV(ビスナ/マエディウイルス)に由来するベクターを包含する。レンチウイルスベクターはまた、少なくとも2つの異なるレンチウイルスに由来するキメラレンチウイルスを包含する。
【0037】
用語「ポリペプチド」及び「タンパク質」は、本明細書中では互換可能に使用され、任意の長さのアミノ酸のポリマー形態をいい、化学的又は生化学的に改変又は誘導されたアミノ酸、及び改変されたペプチド骨格を有するポリペプチドを含む。この用語は、融合タンパク質(例えばGST融合タンパク質及びPEG化タンパク質、異種アミノ酸配列を有する融合タンパク質、異種又は同種のリーダー配列との融合体、N末端メチオニン残基を有するもの又は有さないもの);免疫学的にタグを付されたタンパク質;などを含む。
【0038】
ポリペプチド配列の「フラグメント」とは、参照配列より短いが参照ポリペプチドと同じと認識される生物学的機能又は活性を保持するポリペプチド配列をいう。このような活性には、例えば、免疫応答を刺激する能力が含まれ得る。フラグメントは、参照ポリペプチドの少なくとも1つのエピトープを保持する。
【0039】
用語「精製(した)」は、本明細書中で使用する場合、例えば組換え宿主細胞培養の精製産物、又は非組換え供給源からの精製産物のように、他のタンパク質又はポリペプチドとの本質的に組み合せられていないポリペプチドを意味する。用語「実質的に精製された」とは、本明細書中で使用する場合、ポリペプチドを含有し、特異抗体を用いて除去することが可能である既知のタンパク質が存在することを除いて、他のタンパク質又はポリペプチドと本質的に組み合せられていない混合物をいい、そのような実質的に精製されたポリペプチドは抗原として使用することができる。
【0040】
用語「抗原」は、本明細書中で使用する場合、免疫応答を刺激することができる物質を意味する。好ましい抗原は、少なくとも1つのBエピトープを包含する。ここで、Bエピトープは、体液性免疫応答を惹起することができる。このような好ましい抗原としては、例えば、表面抗原(例えばエンベロープ)又は他の膜タンパク質、及びそのフラグメントが挙げられる。
【0041】
用語「病原体」は、本明細書中で使用する場合、疾患の特異的原因因子を意味し、例えば任意の細菌、ウイルス又は寄生生物を含み得る。
用語「疾患」は、本明細書中で使用する場合、身体機能、系又は器官の妨害、停止又は異常を意味する。好ましい疾患としては感染性疾患が挙げられる。
【0042】
用語「体液性免疫」は、本明細書中で使用する場合、抗原により惹起される抗体、及びそれに伴う全ての付随プロセスを意味する。
用語「保護性体液性免疫」は、本明細書中で使用する場合、病原体に対する保護の必須成分を付与する体液性免疫応答を意味する。
【0043】
用語「殺菌性体液性免疫」は、本明細書中で使用する場合、病原体による任意の検出可能な感染の樹立を防ぐ体液性免疫応答を意味する。
用語「長期持続性体液性免疫」は、本明細書中で使用する場合、体液性免疫の幾つかの観点(例えば、抗原により惹起された抗体)が抗原投与の3ヵ月後に検出可能であることを意味する。抗体検出の適切な方法としては、ELISA、免疫蛍光(IFA)、フォーカス減少中和試験(focus reduction neutralization test;FRNT)、免疫沈降、及びウェスタンブロッティングのような方法が挙げられるがこれらに限定されない。
【0044】
用語「中和性体液性応答」は、本明細書中で使用する場合、体液性免疫の間に惹起された抗体が、細胞に感染する病原体の能力を直接遮断することを意味する。
用語「迅速な応答」は、本明細書中で使用する場合、保護性体液性免疫が抗原投与の3週間以内に付与されることを意味する。用語「非常に迅速な応答」は、本明細書中で使用する場合、保護性体液性免疫が抗原投与の1週間以内に付与されることを意味する。
【0045】
ハイブリダイゼーション反応は、異なる「ストリンジェンシー」の条件下で実施することができる。ハイブリダイゼーション反応のストリンジェンシーを増大させる条件は、当該分野で公知である。例えば、DNA/DNA及びDNA/RNAハイブリダイゼーションの両方に関するストリンジェントな条件は、Sambrook 及び Russell、Molecular Cloning、A Laboratory Manual、第3版、Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor、N.Y.、2001に記載されている。更に、当業者は、特定のハイブリダイゼーションに要求されるストリンジェンシーの程度に必要なように条件を改変する方法を理解している。
【0046】
関連する条件の例としては、(ストリンジェンシーが増大する順に):25℃、37℃、50℃及び68℃のインキュベーション温度;10×SSC、6×SSC、1×SSC、0.1×SSCの緩衝液濃度(ここで、1×SSCは0.15M NaCl及び15mMクエン酸緩衝液)及び他の緩衝系を用いた均等物;0%、25%、50%及び75%のホルムアミド濃度;5分間〜24時間のインキュベーション時間;1回、2回又はそれより多い洗浄工程;1、2又は15分間の洗浄インキュベーション時間;及び6×SSC、1×SSC、0.1×SSC又は脱イオン水の洗浄溶液が挙げられる。
【0047】
ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件の例は、50℃及び0.1×SSC(15mM塩化ナトリウム/1.5mMクエン酸ナトリウム)でのハイブリダイゼーションである。ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件の別の例は、50%ホルムアミド、1×SSC(150mM NaCl、15mMクエン酸ナトリウム)、50mMリン酸ナトリウム(pH7.6)、5×Denhardt溶液、10%硫酸デキストラン及び20μg/ml変性剪断サケ精子DNAを含有する溶液中42℃にて一晩のインキュベーション、続く約65℃で0.1×SSC中でのフィルターの洗浄である。高ストリンジェンシー条件の更なる例としては、6×SSC(ここで、20×SSCは3.0M NaCl及び0.3Mクエン酸ナトリウムを含有する)、1%硫酸ドデシルナトリウム(SDS)中での65℃で約8時間(又はそれより長い)の水性ハイブリダイゼーション(例えば、ホルムアミドなし)、続く0.2×SSC、0.1%SDS中で65℃での1回又はそれより多い洗浄が挙げられる。
【0048】
本明細書中で言及する「変形体」ポリペプチドは、参照ポリペプチドに実質的に相同であるが1又はそれより多い欠失、挿入又は置換のために参照ポリペプチドの配列とは異なるアミノ酸配列を有するポリペプチドを意味する。変形体アミノ酸配列は、参照ポリペプチドと好ましくは少なくとも90%同一であり、最も好ましくは少なくとも95%同一である。同一性パーセントは、例えば、Devereuxら(Nucl. Acids Res. 12:387、1984)により記載され、the University of Wisconsin Genetics Computer Group (UWGCG)から入手可能なGAPコンピュータプログラム(バージョン6.0)を用いて配列情報を比較することにより決定することができる。GAPプログラムは、Smith及びWaterman(Adv. Appl. Math 2:482、1981)により修正されたNeedleman及びWunsch(J. Mol. Biol. 48:443、1970)の整列方法を利用している。GAPプログラムに好ましいデフォルトパラメータとしては、(1)ヌクレオチドのためのユナリー比較マトリクス(unary comparison matrix)(同一に対しては1の値を、非同一に対しては0の値を含む)、並びにSchwartz及びDayhoff(編、Atlas of Protein Sequence and Structure、National Biomedical Research Foundation、pp. 353-358、1979)により記載されたようなGribskov及びBurgess(Nucl. Acids Res. 14:6745、1986)の荷重比較マトリクス(weighted comparison matrix);(2)各ギャップに対しては3.0のペナルティ、及び各ギャップ中の各シンボルには0.10の追加ペナルティ;及び(3)末端ギャップにはペナルティーなしが挙げられる。
【0049】
変形体は、所定のアミノ酸残基が類似の物理化学的特徴を有する残基により置換されていることを意味する保存的置換配列を含んでなることができる。保存的置換の例としては、或る脂肪族残基の別の脂肪族残基への置換(例えば、Ile、Val、Leu又はAlaをお互いに置換すること)、又は或る極性残基の別の極性残基への置換(例えば、LysとArgの間;GluとAspの間;又はGlnとAsnの間の置換)が挙げられる。他のこのような保存的置換、例えば類似の疎水性を有する領域全体の置換は周知である。天然に存在するポリペプチド変形体もまた本発明に包含される。そのような変形体の例は、mRNAオルタナティブスプライシング事象又はポリペプチドのタンパク質分解性切断に起因するタンパク質である。タンパク質分解に帰結させ得る変化としては、例えば、ポリペプチドからの1又はそれより多い末端アミノ酸のタンパク質分解性除去に起因する、異なるタイプの宿主細胞での発現に際する末端の差異が挙げられる。フレームシフトに帰結させ得る変化としては、例えば、異なるアミノ酸に起因する異なるタイプの宿主細胞での発現に際する末端の差異が挙げられる。
【0050】
抗体結合に関して用語「特異的に結合する」とは、特異ポリペプチドへの、より正確には特異ポリペプチドの特異エピトープへの抗体の高アビディティ及び/又は高親和性の結合をいう。このようなエピトープへの抗体結合は、典型的には、任意の他のエピトープ又は該エピトープを含まない任意の他のポリペプチドへの同一抗体の結合より強い。このような抗体は、代表的には、特異ポリペプチドを動物に注射して、抗体の産生を惹起することにより産生される。このような抗体は、他のポリペプチドに、弱いが検出可能なレベル(例えば、目的のポリペプチドに対して示す結合の10%又はそれ未満のレベル)で結合できてもよい。このような弱い結合又はバックグランド結合は、例えば適切なコントロールを用いて特異的な抗体結合と容易に識別できる。一般には、本発明の抗体は、10-7M又はそれより高い、より好ましくは10-8M又はそれより高い(例えば、10-9M、10-10、10-11など)結合親和性で、特異ポリペプチドに特異的に結合する。
【0051】
「医薬的に許容され得るキャリア」とは、任意の従来型の非毒性の固体、半固体又は溶液の充填剤、希釈剤、カプセル化剤又は製剤化補助剤をいう。「医薬的に許容され得るキャリア」は、用いられる投薬量及び濃度でレシピエントに対して非毒性であり、製剤の他の成分と共存可能である。例えば、ポリペプチドを含有する製剤のためのキャリアは、好ましくは、ポリペプチドに対して有害である酸化剤その他の化合物を含まない。適切なキャリアとしては、水、デキストロース、グリセロール、生理食塩水、エタノール、及びそれらの組合せが挙げられるが、これらに限定されない。キャリアは、追加の薬剤、例えば湿潤剤若しくは乳化剤、pH緩衝剤、又は製剤の効力を増強するアジュバントを含有してもよい。局所キャリアとしては、流動石油、パルミチン酸イソプロピル、ポリエチレングリコール、エタノール(95%)、水中のポリオキシエチレンモノラウレート(5%)、又は水中のラウリル硫酸ナトリウム(5%)が挙げられる。他の材料、例えば抗酸化剤、保湿剤、粘度安定化剤、及び類似の薬剤を必要に応じて添加してもよい。経皮透過増強剤(例えばアゾン)もまた含まれていてもよい。
【0052】
ウエストナイルウイルス株IS-98-ST1(STD)の完全ゲノム配列は、GenBankアクセッション番号AF 481864(GI:19387527、2002年5月21日バージョン)で入手可能である。
【0053】
本発明は、ウエストナイルウイルスの単離及び精製された(又は均質な)エンベロープE糖タンパク質ポリペプチド(組換え及び非組換えの両方)を提供する。抗原として使用できる、天然型エンベロープE糖タンパク質ポリペプチドの変形体及び誘導体は、天然型エンベロープE糖タンパク質ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列の変異により得ることができる。天然型アミノ酸配列の変更は、多くの従来の方法のうちの任意のものにより達成することができる。変異は、天然型配列のフラグメントへのライゲーションを可能にする制限部位に挟まれた変異体配列を含有するオリゴヌクレオチドを合成することにより特定の遺伝子座に導入することができる。ライゲーション後、得られた再構築配列は、所望のアミノ酸の挿入、置換又は欠失を有するアナログをコードする。
【0054】
或いは、オリゴヌクレオチド部位特異的変異誘発手法を用いて、所定のコドンが置換、欠失又は挿入により変更された改変遺伝子を提供することができる。上記の変更を作製する方法の例示は、Walderら(Gene 42:133、1986);Bauerら(Gene 37:73、1985);Craik(BioTechniques、January 1985、12-19);Smithら(Genetic Engineering: Principles and Methods、Plenum Press、1981);Kunkel(Proc. Natl. Acad. Sci. USA 82:488、1985);Kunkelら(Methods in Enzymol. 154:367、1987);及び米国特許第4,518,584号及び同第4,737,462号(これらはすべて参照により組み込まれる)により開示されている。
【0055】
本発明の観点の内では、レンチウイルスベクターは、ポリペプチドに特異的に結合する抗体を作製するために利用できる。用語「抗体」は、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、そのフラグメント(例えば、F(ab')2及びFabフラグメント)、並びに組換え的に作製された任意の結合パートナーを包含する意味である。抗体は、エンベロープE糖タンパク質ポリペプチドに約107-1と等しいか又はそれより大きいKaで結合するとき、特異的に結合すると規定される。結合パートナー又は抗体の親和性は、従来の技法(例えば、Scatchardら(Ann. N.Y Acad. Sci.、51:660 (1949)により記載される技法)を使用して容易に決定することができる。ポリクローナル抗体は、種々の供給源(例えば、ウマ、ウシ、ヤギ、ヒツジ、イヌ、ニワトリ、ウサギ、マウス又はラット)から、当該分野で周知の手順を使用して容易に作製することができる。
【0056】
含有する組換え発現ベクターは、周知の方法を用いて作製することができる。分子生物学的技法の概説としては、Sambrook及びRussell、Molecular Cloning: A Laboratory Manual、CSHL Press 2001、第3版を参照。発現ベクターは、適切な転写又は翻訳調節ヌクレオチド配列(例えば、哺乳動物、微生物、ウイルス又は昆虫の遺伝子に由来するもの)に作動可能に連結した挿入配列(例えば、ウエストナイルウイルスエンベロープE糖タンパク質配列)を含むことができる。調節配列の例としては、転写プロモーター、オペレーター又はエンハンサー、mRNAリボソーム結合性部位、並びに転写及び翻訳の開始及び終結を制御する適切な配列が挙げられる。ヌクレオチド配列は、調節配列が挿入配列に機能的に関係しているとき、「作動可能に連結」している。よって、プロモーターヌクレオチド配列は、当該プロモーターヌクレオチド配列がエンベロープE糖タンパク質のDNA配列の転写を制御しているとき、エンベロープE糖タンパク質配列に作動可能に連結している。通常複製起点により付与される所望の宿主細胞で複製する能力、及び形質転換体を同定する選択遺伝子を、発現ベクター中に追加的に組み込むことができる。
【0057】
加えて、挿入配列と天然には組み合わさっていない適切なシグナルペプチドをコードする配列を、発現ベクターに組み込むことができる。
発現に適切な宿主細胞としては、原核細胞、酵母又は高等真核細胞が挙げられる。細菌、真菌、酵母及び哺乳動物の細胞宿主との使用に適切なクローニング及び発現ベクターは、例えば、Pouwelsら、Cloning vectors: A Laboratory Manual、Elsevier、New York、(1985)に記載されている。
【0058】
本発明のレンチウイルスベクターが一旦得られると、それらをポリクローナル及びモノクローナル抗体の作製に使用することができる。よって、本発明のレンチウイルスベクターによりインビボ又はエキソビボで発現されるタンパク質又はポリペプチドは、当該分野で公知の技法により動物宿主を免疫するために使用することができる。このような技法には、通常、接種が含まれるが、他の投与形態を含んでもよい。動物宿主に免疫原性応答を引き起こすために十分な量のレンチウイルスベクターが投与される。レンチウイルスが感染し得る任意の宿主を使用できる。動物が一旦免疫され、抗原に対する抗体の産生開始に十分な時間が経過すれば、ポリクローナル抗体を回収することができる。一般的な方法は、動物から血液を取り出すこと、及び血液から血清を分離することを含んでなる。血清(抗原に対する抗体を含有する)を、抗原に対する抗血清として使用することができる。或いは、血清から抗体を回収することができる。親和性精製が、抗原に対する精製ポリクローナル抗体を血清から回収するための好ましい技法である。
【0059】
本発明の抗原に対するモノクローナル抗体もまた作製することができる。抗原と反応性のモノクローナル抗体を作製する1つの方法は、宿主にレンチウイルスベクターを感染させる工程;抗体産生細胞を宿主の脾臓から回収する工程;酵素ヒポキサンチン-グアニンホスホリボシルトランスフェラーゼを欠失するミエローマ細胞と抗体産生細胞を融合させてハイブリドーマを形成させる工程;ヒポキサンチン、アミノプテリン及びチミジンを含んでなる培地での増殖により少なくとも1つのハイブリドーマを選択する工程;抗原に対する抗体を産生する少なくとも1つのハイブリドーマを同定する工程、同定したハイブリドーマを培養して回収可能な量で抗体を産生させる工程;及び培養ハイブリドーマにより産生された抗体を回収する工程を含んでなる。
【0060】
これらポリクローナル又はモノクローナル抗体は種々の応用に使用することができる。この内には対応するタンパク質の中和がある。これらは、生物学的調製物中のウイルス抗原を検出するために、又は対応するタンパク質、糖タンパク質若しくはそれらの混合物の精製に(例えば親和性クロマトグラフィーカラムで使用する場合に)、使用することができる。
【0061】
エンベロープE糖タンパク質ポリペプチドを抗原として使用して、材料中のウエストナイルウイルスに対する抗体を同定すること、及び該材料中の抗体の濃度を決定することができる。よって、抗原は、材料中のウイルスの定性的又は定量的決定に使用することができる。このような材料としては、動物組織及び動物細胞、並びに生物学的流体(例えば、動物の体液(動物の血清を含む))が挙げられる。ウエストナイルウイルスに対する抗体の存在又は濃度を決定するための免疫アッセイの試薬として使用する場合、抗原は、簡便、迅速、高感度で特異的なアッセイを提供する。
【0062】
より詳細には、抗原は、流体中の体液性成分の検出又は定量における使用に関して周知である免疫アッセイにより、微生物病原体感染(特にウエストナイルウイルス)の検出に用いることができる。よって、抗原-抗体相互作用は、二次反応(例えば沈降又は凝集)により直接観察又は決定することができる。加えて、免疫電気泳動技法もまた用いることができる。例えば、寒天での電気泳動と続く抗血清との反応の古典的な組合せ、並びに二次元電気泳動、ロケット電気泳動(rocket electrophoresis)及びポリアクリルアミドゲルパターンの免疫標識(ウェスタンブロット又はイムノブロット)を用いることができる。本発明の抗原を用いることができる他の免疫アッセイとしては、放射性免疫アッセイ、競合免疫沈降アッセイ、酵素免疫アッセイ及び免疫蛍光アッセイが挙げられるが、これらに限定されない。比濁、比色及びネフェロメトリック(nephelometric)技法を用い得ることが理解される。ウェスタンブロット技法に基づくイムノアッセイが好ましい。
【0063】
免疫アッセイは、免疫試薬の1つをその免疫反応性を維持させつつキャリア表面に固定することにより実施することができる。相互免疫試薬は未標識であることもでき、又は免疫反応性が再び維持される様式で標識され得る。これら技法は、酵素免疫アッセイ(例えば、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)及び競合阻害酵素免疫アッセイ(CIEIA))での使用に特に適切である。
【0064】
免疫試薬のいずれかが固体支持体に付着される場合、支持体は、通常、ガラス又はプラスチック材料である。プレート、チューブ、ビーズ又はディスクの形態に形作られたプラスチック材料が好ましい。適切なプラスチック材料の例は、ポリスチレン及びポリ塩化ビニルである。免疫試薬が固体支持体に容易に結合しない場合、試薬と支持体との間にキャリア材料を介在させることができる。適切なキャリア材料の例は、タンパク質(例えば、ウシ血清アルブミン)、又は化学試薬(例えば、グルタルアルデヒド又は尿素)である。固相の被覆は、従来の技法を用いて行うことができる。
【0065】
本発明は、免疫原性レンチウイルスベクター、より詳細には、ウエストナイルウイルスに対する保護性応答を惹起するための保護レンチウイルスベクターを提供する。よって、これらレンチウイルスベクターは、病原性微生物(細菌、ウイルス、寄生生物)に感受性の動物に投与することによりウイルスワクチンとして用いることができ、感染の予防に有用である。1つの実施形態では、本発明のレンチウイルスベクターは、フラビウイルス(例えば、ウエストナイルウイルス)の膜タンパク質をコードする異種核酸を含んでなり、感染(例えば、ウエストナイルウイルス感染)の予防に有用である。従来の投与形態を用いることができる。例えば、投与は、経口経路、呼吸系経路、非経口経路、舌下経路、鼻内経路、皮下経路又は皮内経路により行うことができる。
【0066】
本発明のワクチン組成物は、投薬製剤と相反しない様式で、治療上有効で免疫原性である量で投与される。投与されるべき量は、治療されるべき対象(例えば、その個体の免疫系が免疫応答を誘導する能力を含む)に依存する。
【0067】
免疫化スケジュールは、幾つかの要因(例えば、宿主の感染に対する感受性、宿主の体重及び宿主の年齢)に依存する。単回用量の本発明のワクチンを宿主に投与することができるか、又は幾つかの用量が時間間隔をおいて投与される免疫化の主過程を続けることができる。必要に応じて、主免疫過程に続いて、追加免疫として使用される後続用量を投与することができる。
【0068】
免疫原性応答は、本発明のレンチウイルスベクターを宿主に約10〜約500μg抗原/kg体重、好ましくは約50〜約100μg抗原/kg体重の量で投与することにより得ることができる。本発明のタンパク質及びワクチンは、生理学的に許容され得るキャリアと共に投与することができる。例えば、希釈剤(例えば、水又は生理食塩水溶液)を用いることができる。
【0069】
本発明の目的を更に達成するため、及び本発明の目的に従って、ウエストナイルウイルス感染を診断することができるキットが記載される。本キットは、1つの実施形態では、ウエストナイルウイルスエンベロープE糖タンパク質に結合することができる本発明の抗体を含有する。本キットは、別の実施形態では、エンベロープE糖タンパク質ポリペプチドに結合する抗体の有無を検出することができる本発明のポリペプチドを含有する。
【実施例】
【0070】
以下の実施例で、本発明をより詳細に説明する。
実施例1:材料及び方法
細胞培養及びウイルス調製物。ヒト293T細胞及びアフリカミドリザル腎臓Vero細胞を、10%又は5%熱不活化ウシ胎仔血清(FCS)をそれぞれ補充したダルベッコ改変イーグル培地(DMEM) Glutamax (GIBCO)中で増殖させた。WNV株IS-98-ST1(GenBankアクセッション番号AF 481864)[31](NY99株[32-34]の近縁の変形体)を、蚊Aedes pseudoscutellarisのAP61細胞単層に伝染させた。スクロースグラジエント中での精製、及び抗WNV超免疫マウス腹水(HMAF)を用いるフォーカス免疫検出アッセイ(FIA)によるAP61細胞についてのウイルス力価測定を、以前に記載されたように実施する[29、31、35]。感染力価はフォーカス形成単位(FFU)として表した。
【0071】
レンチウイルスベクターの構築及び作製。WNV株IS-98-ST1の膜貫通固着領域を欠くカルボキシル末端切断型E糖タンパク質(残基E-1〜E-441;sEWNVと呼ぶ)をコードする1.4kb cDNAは、他[29]に記載されている。sEWNVをコードするcDNAは、オープンリーディングフレーム端部でBsiWI及びBssHII制限エンドヌクレアーゼ部位に挟まれるようにPCRにより既に改変されていた。cDNAをBsiWI及びBssHIIで消化し、次いでpTRIP ΔU3 CMVプラスミドの独特のBsiWI及びBssHII部位中にクローニングした。得られたベクタープラスミドpTRIP.ΔU3.CMV.sEWNV(以後、pTRIP/sEWNVと呼ぶ)は、サイトメガロウイルス前初期プロモーター(CMVie)の制御下に、IS-98-ST1 sE糖タンパク質配列を含有している。
【0072】
ベクター粒子を、以前[38]に記載されたように、293T細胞とベクタープラスミドpTRIP/sEWNV、キャプシド被包化(encapsidation)プラスミド(p8.7、[36])及びVSV-Gエンベロープ発現プラスミド(pHCMV-G;[37])との一過性リン酸カルシウム同時トランスフェクションにより作製した。濃縮したベクター粒子のp24抗原含量の定量を、市販のHIV-1 p24 ELISAキット(Perkin Elmer LifeSciences)で行った。
【0073】
定量PCR。レンチウイルスベクター中のU5-R配列の検出のために、使用したプライマー及びプローブは以下のとおりである:プローブLTR-FL 5'-CACAACAGACGGGCACACACTACTTGA-フルオレセイン-3'(配列番号1)、LTR-LC 5'-RED640-CACTCAAGGCAAGCTTTATTGAGGC-リン酸化-3'(配列番号2)、プライマーAA55M 5'-GCTAGAGATTTTCCACACTGACTAA-3'(配列番号3)、M667 5'-GGCTAACTAGGGAACCCACTG-3'(配列番号4)[39]。CD3の検出に関しては、プライマー及びプローブの配列は以下のとおりである:プローブCD3-P1 5'-GGCTGAAGGTTAGGGATACCAATATTCCTGTCTC-フルオレセイン-3'(配列番号5)、CD3-P2 5'-RED705-CTAGTGATGGGCTCTTCCCTTGAGCCCTTC-リン酸化-3'(配列番号6)及びプライマーCD3-in-F 5'-GGCTATCATTCTTCTTCAAGGTA-3'(配列番号7)及びCD3-in-R 5'-CCTCTCTTCAGCCATTTAAGTA-3'(配列番号8)。プライマー及びプローブはProligo(France)が合成した。約3.106のレンチウイルスベクター形質導入293T細胞のゲノムDNAを、QIAamp(登録商標)DNA Blood Miniキット(QIAGEN、GmbH、Hilden)を用いる形質導入の48時間後に単離した。リアルタイムPCR分析のために、5μLのDNAを、1×JumpstartTM Taq ReadyMixTM(Sigma)、1.9mM MgCl2、1.5μMのフォワード及びリバースプライマー(AA55M/M667又はCD3-in-F/CD3-in-R)、200nMのプローブ(LTR-FL/LTR-LC又はCD3-P1/CD3-P2)及び1.5単位のTaq DNA Polymerase(Invitrogen)からなる15μLのPCRマスターミックスと混合した。増幅を、LightCycler 2.0(Roche Applied Science)で、95℃にて3分間の1サイクル、95℃にて5秒間、55℃にて15秒間及び72℃にて10秒間の40サイクルを用いて実施した。ベクターストックのプラスミド汚染の可能性を考慮するため、熱不活化(70℃にて10分間)ベクターで形質導入した293T細胞のDNAを、並行して常に試験した。陰性コントロール用に、非形質導入細胞の5μLのゲノムDNAを使用した。各DNAサンプルを二連(in duplicate)で試験し、平均値を報告する。該当配列U5-R及びCD3を含有するプラスミドpTripCD3の既知濃度の10倍系列希釈物をDNAサンプルと並行して増幅させて、標準曲線を作成した。
【0074】
同一ゲノムDNAサンプル上のCD3分子のコピー数により定量されるように、U5-Rコピー数を293T細胞の数に対して規格化し、次いで熱不活化ベクターで形質導入した細胞に関して得られたコピー数を差し引くことにより、細胞当たりの総ベクターコピー数を算出した。
【0075】
WNVに対するマウス抗血清。成体マウスをWNV株IS-98-ST1で繰り返し免疫し、続いてサルコーマ180を接種することにより、抗WNV超免疫マウス腹水(HMAF)を得た。以前[31]に記載のとおり、成体WNV耐性BALB/c-MBT類似遺伝子型マウスを103 FFUのIS-98-ST1で免疫することによりWNVに対する血清を得た。接種の1ヶ月後にマウスポリクローナル抗WNV抗体を採集した。
【0076】
マウス免疫化及びWNV攻撃。全ての動物実験は、パスツール研究所のOffice Laboratory of Animal Careのガイドラインに従って行った。緩衝化0.2%ウシ血清アルブミンを補充した0.1mlのダルベッコPBS(DPBS;pH7.5)(DPBS/0.2%BSA、Sigma)中の種々の用量のTRIP/sEWNVベクター粒子を、6〜8週齢の129匹のマウスに腹腔内(i.p.)接種した。WNV攻撃は、以前[29、31]に記載されたように、神経毒性WNV株IS-98-ST1(i.p. LD50=10FFU)のi.p.接種により実施した。攻撃されたマウスを、21日目までの間毎日、病的状態又は死亡の徴候について監視した。
【0077】
血清抗体応答の測定。眼窩周囲経路によりマウスから採血し、血清を56℃にて30分間熱不活化させた。抗WNV抗体は、ウイルス抗原としてスクロース精製WNV IS-98-ST1[29、31]を用いるELISAにより検出した。1:4,000希釈のペルオキシダーゼ接合抗マウス免疫グロブリン(H+L)(Jackson Immuno Research)及び1:20,000希釈のペルオキシダーゼ接合抗マウスIgM(μ鎖特異的)又はIgG(γ鎖特異的)(Sigma)を二次抗体として使用した。終点力価は、陰性コントロールとして供したTRIP/GFP接種マウスの血清の光学密度(OD)の二倍を惹起する最終希釈率の逆数として算出した。
【0078】
抗WNV中和抗体は、以前[29]に記載されたように、Vero細胞に対するフォーカス減少中和試験(FRNT)により検出した。終点力価は、FFUの数値を90%減少させた試験した最高血清希釈率の逆数として算出した(FRNT90)。
【0079】
放射性免疫沈降アッセイ。25cm2フラスコで培養したVero細胞にWNV株IS-98-ST1を高感染多重度で感染させた。感染後20時間で、細胞をメチオニン欠乏DMEM(ICN Biomedicals)中で1時間飢餓にし、100μCi/mlのTrans35S-LabelTM/ml(ICN Biomedicals)で3時間放射性標識した。冷PBSでの3回の洗浄後、細胞を、25μg/mlアプロチニン(Sigma)を補充したRIPA溶解緩衝液(50mM Tris-Cl、150mM NaCl、10mM EDTA、1% Triton X-100、0.5%デオキシコレート、0.1% SDS、pH8.0)で4℃にて10分間溶解させた。次いで、細胞溶解物を、10,000rpmで4℃にて5分間の遠心分離により明澄にした。放射性免疫沈降(RIP)アッセイを以前[29、40]に記載のように実施した。マウス抗WNV抗体でウイルス抗原を免疫沈降させた。非還元条件下でのSDS-15% PAGEによりサンプルを分析した。
【0080】
間接免疫蛍光及びフローサイトメトリアッセイ。間接免疫蛍光(IF)分析のために、8チャンバGlass-Labteks(Nunc)で培養したヒト293T細胞を、TRIP/sEWNVベクター粒子で形質導入した。48時間後、細胞をPBS中3%のパラホルムアルデヒド(PFA)で20分間固定し、PBS中0.1%のTriton X-100で4分間透過化にした。細胞をPBS中1:100希釈の抗WNV HMAFと1時間インキュベートした。DPBS/0.2% BSAでブロッキングした後、細胞を、DPBS/0.2% BSA中1:500希釈のCy3接合抗マウスIgG抗体(Amersham Pharmacia)と更にインキュベートした。細胞核をDAPIで可視化した。ApoTomeシステムを備えたZeiss Axioplan顕微鏡でスライドを検査した。
【0081】
フローサイトメトリ分析のために、25cm2フラスコで培養した293T細胞を、熱不活化(70℃にて10分間)したか又はしていないTRIP/GFPで形質導入した。48時間で、細胞を剥離し、洗浄し、2% PFAで固定した。GFP蛍光強度を、FACSにより測定し、CellQuestソフトウェアにより分析した。
【0082】
実施例2:組換えTRIPレンチウイルスベクターによるWNVの分泌形態のE糖タンパク質の発現
レンチウイルスベクターベースのワクチンでの免疫化がWNV脳炎に対して保護することができるかどうかを評価するために、CMV前初期プロモーター(CMVi.e.)の制御下にWNV株IS-98-ST1の可溶形態のE糖タンパク質(sEWNV)を発現するレンチウイルスベクターTRIP/sEWNVを作製した(図1A)。本発明者らは、以前に、組換え麻疹ベクターが感染した細胞の培養培地におけるsEWNVの効率的な分泌を証明した[29]。レンチウイルスベクター形質導入293T細胞におけるsEWNVの発現は、免疫蛍光により検査した(図1B)。形質導入後48時間で、高い割合の細胞が、sEWNVが分泌経路を通って移動したことを示唆するパターンで免疫染色された。
【0083】
本研究に使用したベクターストック中の物理的粒子の量は、p24 HIV-1キャプシドタンパク質に対する市販のELISAアッセイ(Perkin Elmer Lifescience)により決定した。ベクターストックの実際の力価は、定量PCRアッセイを用いて、標的細胞へのベクターDNAの移入に基づいて算出した。ベクター特異的配列(U5)及び細胞座(cellular locus)(CD3)の両方の定量により、細胞当たりの平均ベクターDNAコピー数が与えられる。このことにより、ベクター調製物の正確な力価測定が可能になる。本研究で使用したTRIP/sEWNVベクターストックは、ヒト293T細胞中で5.2×107形質導入単位(TU)/ml(ヒト293T細胞における約900TU/ngのp24に対応)の力価であった。単純化のために、以下では、使用したベクター粒子の量をp24抗原のngで表す。
【0084】
実施例3:TRIP/sEWNVでの単回免疫化は強力な抗体応答を誘導する
sEWNVを発現するレンチウイルスベクターにより誘導される体液性免疫応答を評価するために、129匹の成体マウスの群に、p24抗原500ngに相当する単回用量のベクター粒子をi.p.接種した。ベクターは、sEWNV又はコントロールとしてのGFPタンパク質のいずれかをコードしていた。免疫後6、13、20又は27日でマウスの眼窩周囲から採血し、個々の又はプールした血清を、既に記載されたイソタイプ特異的ELISA[29]を用い、抗WNV総抗体(total antibodies)、IgG及びIgMについて試験した。血清のインビトロ中和化活性は、フォーカス減少中和試験(FNRT)[29]によりアッセイした。
【0085】
TRIP/GFP免疫コントロールマウスの血清では、抗WNV抗体は検出されなかった。TRIP/sEWNV免疫マウスの血清は先ず個別に試験し、動物間に非常に小さな差異(6日目の平均±SD=0.5±0.3;13日目=1.3±0.05;21日目=1.3±0,15;27日目=1.4±0.15)が観察されたので、以降の実験では、プールした血清を使用した。TRIP/sEWNV免疫マウスでは、WNVに対する総抗体は、免疫後6日という早期に検出可能であったが、低濃度で存在していた。この時点で予測されるように、抗WNV IgM抗体のみが免疫血清中で検出された。総抗体応答は、13日目にプラトーに達するまで10倍増加し、その後経時的に維持された。より後期のこれらの時点(13、20、27日目)で、IgM抗体は見られなくなり、代わってIgGが現れた(表1)。これら血清は、RIPアッセイにより示されるように、IS-98-ST1感染Vero細胞溶解物のWNV E糖タンパク質と反応性であった(図2A)。
【0086】
フォーカス減少中和試験(FRNT)により、TRIP/sEWNV免疫マウスの血清が免疫後6日という早期に検出可能なレベルの中和抗WNV抗体を含有していることが示された(表1)。併せて、これらデータは、早期で特異的な抗WNV抗体免疫応答が、単回用量のTRIP/sEWNVベクター粒子を接種したマウスに備わることを示す。
【0087】
【表1】

【0088】
実施例4:TRIP/sEWNVでの免疫はWNV脳炎に対するマウスの早期保護を付与する
TRIP/sEWNVワクチン接種後にマウスに惹起された体液性免疫が保護性であるかどうかを確かめるために、WNV攻撃のマウスモデルを利用した。実際、幾つかのマウス系統は、WNV攻撃に対して極端に感受性であり[31、41]、ヒトで見出されるものと類似する神経侵襲性の致死性疾患を発症し[32、42]、接種後数日以内に死亡する。500ng p24の単回用量のTRIP/sEWNV又はTRIP/GFPベクター粒子を与えた129匹のマウスの群に、初回刺激の1又は2週間後に1,000 i.p.LD50のWNV株IS-98-ST1をi.p.攻撃した。
【0089】
驚くべきことに、TRIP/sEWNVで免疫した全てのマウスが、初回刺激の7日後という早期に高ウイルス攻撃(1,000 i.p. LD50)に対して保護された。コントロールベクターTRIP/GFP又はDPBSで免疫された全てのマウスが攻撃の11日以内に死亡した(表2)。興味深いことに、WNVに対する総抗体は、攻撃後10倍増加した。このことは、効果的な二次応答がTRIP/sEWNV免疫マウスに備わったことを示唆する(表2)。同等な結果がBALB/cマウスで得られた(データは示さず)。これら結果は、TRIP/sEWNVワクチン接種が、高WNV攻撃に対して非常に迅速で十分な保護性免疫応答を付与することを示している。
【0090】
【表2】

【0091】
実施例5:TRIP/sEWNVでの免疫化は殺菌性抗ウイルス免疫を惹起する
ワクチン接種した動物でWNV一次感染(primo-infection)が攻撃に際して起こり得るかどうかに取り組むために、WNV攻撃の前及び21日後に採集した免疫マウスのプールした血清について、RIPアッセイを実施した。
TRIP/sEWNV免疫マウスのプールした血清を用いるRIPアッセイにより、免疫後13日目に、先ずEタンパク質が検出可能であった(図2A)。1週間免疫血清中でEに対する抗体が検出されなかったことは、本発明者らのRIPアッセイでのIgMに関するプロテインAの低いアビディティに帰結させることができる。TRIP/GFPコントロール免疫マウスの血清は、WNV Eタンパク質と反応しなかった。
【0092】
重要なことに、TRIP/sEWNVワクチン接種マウスの攻撃後血清は、E以外のいずれのウイルスタンパク質をも沈降させなかった(図2C)。E以外のいずれのWNVタンパク質(例えば、preM及び非構造タンパク質NS2a、NS2b及びNS3)に対しても反応性でないことは、ワクチン接種動物で攻撃に際してインビボWNV複製の不在を明確に示している。WNV脳炎に対して耐性であるBALB/c-MBTマウス系統で、血清は全てのウイルスタンパク質に難なく反応性である(図2B)。よって、TRIP/sEWNVワクチン接種はマウスに十分な殺菌性免疫を付与する。
【0093】
実施例6:TRIP/sEWNVの単回注射により提供される保護は長期持続性である
本発明者らは、次に、レンチウイルスベクターベースのワクチンでの単回免疫がWNV感染に対する長期保護性免疫を惹起する能力を有するかどうかを決定した。129匹のマウスの群に、p24抗原500ngに相当するTRIP/sEWNVベクター粒子又はコントロールとして同量のTRIP/GFPベクターをi.p.免疫した。3ヵ月後、マウスの眼窩周囲から採血し、各群のプールした血清をELISA及びFRNTにより試験した。TRIP/sEWNV免疫マウスの抗体レベルは、単回ベクター注射(1:30,000)の3ヵ月後もなお驚くべきほどに高く、中和抗体が存続した(表3)。次いで、マウスを1,000 LD50用量のIS-98-ST1 WNVでi.p.攻撃した。TRIP/sEWNVで免疫したマウスでは病的状態も死亡も観察されなかった一方で、全てのコントロールマウスは10日以内に死亡した(表3)。総抗体力価並びに中和抗WNV抗体は攻撃後に増大した。このことは、効果的な二次応答が、3ヶ月より早期にTRIP/sEWNVで免疫したマウスに備わったことを示唆している(表3)。
【0094】
よって、単回用量のsEWNVをコードするレンチウイルスベクターは、マウスで長期保護性免疫を提供するために効率的である。
【0095】
【表3】

【0096】
実施例7:単回微小用量のTRIP/sEWNVは十分で迅速な保護を付与する
最小保護性ワクチン用量を決定するために、129匹のマウスの群に、p24抗原1.5ngから500ngまで変化する広範囲のTRIP/sEWNVワクチン用量を1回接種した。初回刺激の1週間後、免疫マウスを1,000 LD50 IS-98-ST1 WNVでi.p.攻撃した。予想したように、p24 500ngのコントロールTRIP/GFPベクターを与えられた全てのマウスが攻撃後11〜13日以内に死亡した。p24 50ng程度の低い単回TRIP/sEWNVベクター用量の注射後に、100%保護が達成された。より低い用量は部分的な保護しか付与しなかった。よって、本発明者らは、成体マウスでの50%保護用量をp24抗原6.2ngと計算した(表4)。注目すべきことには、これら用量-保護実験は、ワクチン接種後7日目の早期攻撃及び高致死性ウイルス攻撃接種(1,000 LD50)という最もストリンジェントな攻撃条件で実施された。総抗体濃度は7日目と14日目の間で10倍に増大した(表1)ので、僅か1週間後に決定した場合には、50%保護用量は6.2ngより更に低い可能性がある。
【0097】
これら結果は、微小用量のベクター粒子がマウスに迅速で十分な保護性免疫を達成することを証明する。この100%保護は、ベクター粒子による現実のインビボ細胞形質導入の結果である。レンチウイルスベクターの形質導入能力を無効にするベクター粒子の熱処理(70℃にて10分間)(図3)は、保護もまた無効にする(表4)。このことは、プラスミドDNA又はベクターストックに混入した残渣sEWNVタンパク質により付与された保護の可能性を除外する。
【0098】
【表4】

【0099】
本発明は、レンチウイルスベクターが、病原体に対する保護性体液性免疫応答を惹起するための効率的なツールであることの最初の証拠を提供する。本明細書で十分に説明したこれらベクターの強力な細胞性免疫応答を誘導する能力[12-15、17、18、21]に加えて、本研究は、病原体(これに対しては中和性体液性応答が免疫系の1つの活性な武器である)に対するワクチン接種ツールとしてのレンチウイルスベクターの利用可能性を広げる。
【0100】
TRIP/sEWNVベクターは、マウスで使用した致死用量にかかわらず、WNVに対して、非常に早期に、長期持続性で十分な保護性免疫応答を誘導することが可能であった。重要なことに、この免疫は、微小用量のベクター粒子での単回免疫により達成された。
【0101】
これら特徴は、TRIP/sEWNVをWNVに対する有望なワクチン候補とする。特に、万が一WNVが大発生した場合に感受性の動物集団に使用し得る効率的な獣医学的ワクチンに対する緊急の必要性は、動物(とりわけ、ウマ及びトリ)におけるレンチウイルスTRIP/sEWNVベクターを含む試験を正当化する。更に、レンチウイルスベクターベースのワクチンでの動物の大集団の予防免疫はまた、毒性及び安全性の確固たる概念実証として役立ち得、必要な後知恵を提供し、最終的にはヒトにおける予防的ワクチン接種ツールとしてのレンチウイルスベクターの使用の可能性に向けて地ならしをする。
【0102】
幾通りかの主張が、TRIP/sEWNVレンチウイルスベクターを獣医学的使用のための強力なワクチン候補にしている。第1に、提供される保護は免疫後まもなく起こる。このことは、感受性動物の迅速な保護が重大であるMNV大発生に関連して第一に重要であろう。この早期保護性免疫応答の正確な性質は、十分に取り扱われていない。免疫後1週間でIgG抗体は未だ検出可能でなく、おそらくIgM抗体が観察された保護の原因である。ポリクローナル抗WNV IgMの受動移入は、マウスをWNV攻撃から保護することが示されている。このことは、早期のWNV感染の制圧におけるこのイソタイプの重大な役割を証明する[43]。にもかかわらず、本発明者らは、WNV抗原に対する生来又は養子の細胞性応答の観察された早期の保護への寄与[44]を排除できない。第2に、TRIP/sEWNVレンチウイルスベクターは単回微小用量で十分効果的である。このことは、このワクチン候補を興味深いほどに費用効率を良くし、特に興味深くは家禽の保護のための、集団ワクチン接種のプロトコルの開発を可能にし得る。十分な保護性免疫に必要な用量は、本発明者らのマウス実験プロトコルで過大評価されている可能性があることに言及することは重要である。事実、ネズミ細胞は、レンチウイルスベクター形質導入に対して、他の哺乳動物細胞(ヒト細胞を含む)より低い寛容性を有することが示されている(データは示さず;[4、45])。トリ細胞は、形質導入に対して、ネズミ細胞より良好な寛容性を示す(データは示さず)。このことにより、微小レンチウイルスベクターワクチン用量が鳥類で有効であろうと予測できる。更に、p24抗原6.2ngというTRIP/sEWNVベクター粒子の50%保護用量は、最もストリンジェントな攻撃条件(ワクチン接種後7日目の早期攻撃及び1,000 LD50の致死用量)下で算出した。総抗体濃度が7日目と14日目の間で10倍増加していることを考えれば、僅か1週間後に決定した場合には、50%保護用量はおそらく6.2ngより低いであろう。第3に、ベクター粒子を偽型化するために使用したVSV-Gエンベロープの遍在親和性(ubiquitous tropism)[37]により、レンチウイルスベクターワクチンは、理論的には、改変なしに、危険のある任意の脊椎動物種(ウマ、家禽及び動物園の動物)で使用することができる。最後に考慮すべきことは、ベクターにより付与される保護性免疫が殺菌性であり、WNV攻撃後にウイルス複製が起こらないことである。このことは、ワクチンがトリの免疫に使用される場合、重要な利点であることを表し得る。事実、ウマ、ヒト及び他の哺乳動物はWNV感染の行き止まり宿主であると考えられている一方で、トリは増幅宿主であり、流行の維持に加担することが知られている[30]。更に、最近の文献は、実験的にWNVに感染され、急性疾患を生き延びたハムスターが、52日までの間尿中に感染性WNVを排泄し続けることがあることを示している[46]。このことを他のWNV感受性哺乳動物に一般化することができるのであれば、殺菌性ワクチンは、WNV流行の制圧に重要となり得る。
【0103】
獣医学用途の幾つかのWNVワクチンが提案されている。2003年に米国でウマ用として認可されたものは、不活化及びアジュバント化(adjuvanted)ウイルス(Fort Dodgeウェブサイト:www.equinewestnile.com)である。この不活化調製物はウマで低規模(low magnitude)の体液性応答を惹起するので、数回の注射、続いて年に1度の追加免疫を必要とする。この死滅ウイルスワクチンは、チリフラミンゴ(Chilean Flamingos)及びアカオノスリ(Red-tail hawk)で中和抗体を惹起しない[47]。WNVのpreM/Eタンパク質をコードする組換えカナリア痘もまた2004年に認可された[48]。しかし、この候補もまた、5週間の間隔で2回の注射を必要とする。いずれのワクチンも、ワクチン接種したウマに絶対的保護を提供しない。他のストラテジー(例えば、WNVのpre M及びEタンパク質をコードする裸のDNA[28])も考案されている。
【0104】
WNVに対するワクチン候補は、大部分が、ヒト使用について開発中である。WNVの分泌形態のE糖タンパク質を発現する生麻疹ワクチンは、WNV脳炎に対してマウスを効率的に保護することが示されている[29]。2つの組換え生-減弱ワクチン、キメラWNV/黄熱及びWNV/デング4(黄熱ウイルスの17Dワクチン株又はデング4ウイルスのいずれかの骨格中にクローニングされたWNVのpre M及びE遺伝子を含有する)が試験されている。マウス及びマカク(macaque)での前臨床試験は、両ワクチンがWNV攻撃に対して保護的であることを示している[49-51]。しかし、キメラ生-減弱ウイルスの使用は、安全性の懸念を引き起こすかもしれない:異なるフラビウイルス種間での組換えは、天然に存在する組換えフラビウイルスにより証明されるように、可能性がある[52、53]。
【0105】
ヒト又は獣医学用途のためのレンチウイルスベクターベースのワクチンの使用の可能性には、ベクターの注意深い設計及び厳格な前臨床安全性試験が必要であろう。組込みベクターの使用についての安全性の懸念は、SCID. X1試験における白血病の症例の最近の報告の冒頭で正当化されている。これら重篤な有害効果は、造血幹細胞におけるLMO2ガン原遺伝子の近傍でのモロニー(Moloney)由来レトロウイルスベクターの組込みに直接繋がっている[54]。
【0106】
しかし、レンチウイルスベクターのワクチン接種応用はより低い危険を提示する。形質転換細胞の広範な増殖及び患者の生涯にわたる遺伝子改変の持続を含む幹細胞ベースの遺伝子治療とは反対に、ワクチン接種シナリオでの形質転換細胞は、該当の抗原を発現するので、惹起された免疫応答の標的である。抗原を発現する細胞は、APCであるなしにかかわらず、数週間又は数ヶ月以内に、ワクチン接種した生物から排除されると考えられる。更に、皮下又は静脈内の注射によるワクチン接種という特定の場合では、VSV-G偽型化レンチウイルスベクター粒子は基本的にDC(活性化に際して短いインビボ半減期を有する非分裂性の専門的APC)を標的することが示されている[13、18]。にもかかわらず、注射経路及びベクター用量に依存して、各ワクチン接種プロトコルについて、ベクターの細胞向性及びワクチン接種ベクター配列の持続の欠如の両方に注意深く取り組まなくてはならない。
【0107】
レンチウイルスベクターは、ウエストナイルウイルス、同様に他の動物原性感染症又は新出の病原体に対するワクチン接種のための有望なツールであるようである。
本発明の他の実施形態は、本明細書に開示された本発明の詳細及び実施を考慮することにより当業者に明らかになる。詳細及び例は単なる例示と見なされるべきと意図されている。本発明の真正な範囲及び精神は添付の特許請求の範囲により示される。
【0108】
【表5−1】

【表5−2】

【表5−3】

【表5−4】

【表5−5】

【表5−6】

【図面の簡単な説明】
【0109】
【図1】TRIP/sEWNVで形質導入した293T細胞におけるsEWNVの発現を示す。
【図2】TRIP/sEWNVワクチン接種マウスの血清における抗EWNV抗体の検出を示す。
【図3】TRIP/sEWNVベクター粒子の熱不活化が形質導入を無効にすることを示す。
【図4】IS-98-ST1株の分泌形態のウエストナイルウイルスE糖タンパク質の核酸配列(配列の両端に開始コドン及び停止コドンが付加されている)(配列番号9)を示す。
【図5】IS-98-ST1株の分泌形態のウエストナイルウイルスE糖タンパク質の核酸配列(配列番号10)を示す。
【図6】IS-98-ST1株の分泌形態のウエストナイルウイルスE糖タンパク質のアミノ酸配列(配列番号11)を示す。
【図7】IS-98-ST1株のウエストナイルウイルスE糖タンパク質のドメインIIIのアミノ酸配列(配列番号12)を示す。
【図8】ウエストナイルウイルス株IS-98-ST1の切断型ウエストナイルウイルスE糖タンパク質の異種配列を有するレンチウイルスベクターpTRIPsEWNVの完全核酸配列(配列番号13)を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗原をコードする異種核酸を含んでなり、該抗原の動物の細胞における発現が該動物に体液性応答を惹起するレンチウイルスベクターの、該動物に投与したとき抗体を産生することができる医薬の製造のための使用。
【請求項2】
前記抗原が表面抗原及び膜抗原からなる群で選択される、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記体液性応答がその必要のある動物に保護性免疫を誘導し、該保護性免疫が長期持続性保護性免疫又は殺菌性免疫のいずれかである、請求項1又は2に記載の使用。
【請求項4】
前記抗原の発現が病原性微生物に対する保護性免疫を誘導する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の使用。
【請求項5】
前記病原性微生物がフラビウイルスである、請求項4に記載の使用。
【請求項6】
前記病原性微生物がウエストナイルウイルスである、請求項5に記載の使用。
【請求項7】
前記異種核酸がウエストナイルウイルスのエンベロープE糖タンパク質、そのフラグメント、又は該ウエストナイルウイルスのエンベロープE糖タンパク質の変形体をコードする、請求項1〜6のいずれか1項に記載の使用。
【請求項8】
前記フラグメントが、ウエストナイルウイルスの膜貫通固着領域を欠くカルボキシル末端切断型E糖タンパク質と、ウエストナイルウイルス株IS-98-ST1のエンベロープE糖タンパク質の残基1〜441を含んでなるカルボキシル末端切断型E糖タンパク質とからなる群で選択される、請求項7に記載の使用。
【請求項9】
微生物の表面タンパク質又はそのフラグメントをコードする異種核酸及び表面膜タンパク質の変形体又はそのフラグメントをコードする異種核酸からなる群で選択される異種核酸と許容され得る生理学的キャリア及び/又はアジュバントとを含んでなるレンチウイルスベクターの、その必要のある動物に1回又はそれ以上の回数で投与することが可能な微生物感染に対するワクチンの製造のための使用。
【請求項10】
前記微生物がウエストナイルウイルスであり、前記異種核酸がウエストナイルウイルスのエンベロープE糖タンパク質、その変形体又はそのフラグメントを、許容され得る生理学的キャリア及び/又はアジュバントと共にコードする、請求項9に記載の使用。
【請求項11】
前記レンチウイルスベクターが、腹腔内経路、静脈内経路、筋肉内経路、経口経路、粘膜経路、舌下経路、皮下経路、鼻内経路又は皮内経路により投与される、請求項9又は10に記載の使用。
【請求項12】
前記レンチウイルスベクターが筋肉内経路により投与され、前記その必要のある動物がウマである、請求項11に記載の使用。
【請求項13】
前記レンチウイルスベクターが鼻内経路又は皮内経路により投与され、前記その必要のある動物がヒトである、請求項11に記載の使用。
【請求項14】
前記異種核酸が、ウエストナイルウイルスの膜貫通固着領域を欠くカルボキシル末端切断型E糖タンパク質と、ウエストナイルウイルス株IS-98-ST1のエンベロープE糖タンパク質の残基1〜441を含んでなるカルボキシル末端切断型E糖タンパク質とからなる群で選択されるウエストナイルウイルスのエンベロープE糖タンパク質のフラグメントをコードする、請求項9〜13のいずれか1項に記載の使用。
【請求項15】
前記レンチウイルスベクターが1回投与され、p24抗原0.5ng〜5000ngに相当する用量のベクター粒子、好ましくはp24抗原0.5ng〜50ngに相当する用量のベクター粒子、より好ましくはp24抗原50〜500ngに相当する用量のベクター粒子を含んでなる、請求項9〜14のいずれか1項に記載の使用。
【請求項16】
レンチウイルスベクターを含んでなり、該レンチウイルスベクターが、インビボで免疫原性又は保護性の応答を誘導するに十分な量の抗原をコードする異種核酸と該異種核酸のための医薬的に許容され得るキャリアとを含んでなる免疫原性組成物。
【請求項17】
前記異種核酸が微生物の表面タンパク質又はそのフラグメントをコードする、請求項16に記載の免疫原性組成物。
【請求項18】
前記異種核酸がフラビウイルスのエンベロープE糖タンパク質又はそのフラグメントをコードする、請求項16に記載の免疫原性組成物。
【請求項19】
前記異種核酸がウエストナイルウイルスのエンベロープE糖タンパク質又はそのフラグメントをコードする、請求項18に記載の免疫原性組成物。
【請求項20】
前記異種核酸が、ウエストナイルウイルスの膜貫通固着領域を欠くカルボキシル末端切断型E糖タンパク質をコードする異種核酸、ウエストナイルウイルス株IS-98-ST1のエンベロープE糖タンパク質の残基1〜441を含んでなるカルボキシル末端切断型E糖タンパク質をコードする異種核酸、及びウエストナイルウイルスのエンベロープE糖タンパク質の変形体をコードする異種核酸からなる群で選択される、請求項19に記載の免疫原性組成物。
【請求項21】
異種核酸の発現を指示し、サイトメガロウイルス前初期プロモーター、CAGプロモーター、EF1αプロモーター、PGKプロモーター、SVeroプロモーター及びMNDプロモーターから選択されるプロモーターを含んでなり、該異種核酸がウエストナイルウイルスのエンベロープE糖タンパク質、その変形体又はそのフラグメントをコードする、レンチウイルスベクター。
【請求項22】
前記異種核酸が、ウエストナイルウイルスの膜貫通固着領域を欠くカルボキシル末端切断型E糖タンパク質をコードする異種核酸と、ウエストナイルウイルス株IS-98-ST1のエンベロープE糖タンパク質の残基1〜441を含んでなるカルボキシル末端切断型E糖タンパク質をコードする異種核酸とからなる群で選択される、請求項21に記載のレンチウイルスベクター。
【請求項23】
pTRIP/sEWNVを含んでなる請求項22に記載のレンチウイルスベクター。
【請求項24】
請求項21〜23のいずれか1項に記載のレンチウイルスベクターでトランスフェクト又は形質導入された実質的に精製された宿主細胞。
【請求項25】
請求項24に記載の宿主細胞を発現促進条件下で培養し、該宿主細胞又は培養培地からポリペプチドを回収することを含んでなる、ウエストナイルウイルスのエンベロープE糖タンパク質ポリペプチド、その変形体又はそのフラグメントの製造方法。
【請求項26】
異種核酸の発現を指示し、サイトメガロウイルス前初期プロモーターを含んでなり、該異種核酸が緑色蛍光タンパク質を含んでなる、レンチウイルスベクター。
【請求項27】
請求項26に記載のレンチウイルスベクターでトランスフェクト又は形質導入された実質的に精製された宿主細胞。
【請求項28】
抗原をコードする異種核酸を含んでなり、該抗原が病原性因子に対する抗体を惹起するレンチウイルスベクターの、その必要のある動物に投与することが可能な病原性因子に対するワクチンの製造のための使用。
【請求項29】
前記レンチウイルスベクターの投与が前記病原性因子に対する長期持続性体液性免疫又は中和抗体を惹起する、請求項28に記載の使用。
【請求項30】
前記レンチウイルスベクターが、ウエストナイルウイルスのエンベロープE糖タンパク質又はそのフラグメントをコードする核酸を含んでなり、前記病原性因子がウエストナイルウイルスである、請求項28又は29に記載の使用。
【請求項31】
ウエストナイルウイルスのエンベロープE糖タンパク質が膜貫通固着領域を欠いている、請求項30に記載の使用。
【請求項32】
前記レンチウイルスベクターの投与が、p24抗原0.5ng〜5000ngに相当する少なくとも1つの用量のベクター粒子を含んでなる請求項28〜31のいずれか1項に記載の使用。
【請求項33】
前記その必要のある動物がヒト、ウマ、トリ、家禽、ブタ、ウシ類、げっ歯類、ペット、及び爬虫類から選択される、請求項3、9又は28に記載の使用。
【請求項34】
前記異種核酸が、ウエストナイルウイルスのエンベロープE糖タンパク質の変形体をコードし、ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下で、ウエストナイルウイルス株IS-98-ST1のエンベロープE糖タンパク質をコードする核酸のいずれかの鎖にハイブリダイズする、請求項7、9、20若しくは21に記載の使用又は請求項25に記載の方法。

【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2009−511623(P2009−511623A)
【公表日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−536154(P2008−536154)
【出願日】平成18年10月17日(2006.10.17)
【国際出願番号】PCT/IB2006/003931
【国際公開番号】WO2007/052165
【国際公開日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【出願人】(501474748)インスティティ・パスツール (27)
【氏名又は名称原語表記】INSTITUT PASTEUR
【住所又は居所原語表記】28,rue du Docteur Roux,F−75724 Paris Cedex 15 FRANCE
【Fターム(参考)】