説明

レーザとアークの複合溶接装置及び方法

【課題】ポロシティ等の溶接欠陥の発生の無い高品質な溶接部を得ることができると共に、安定した溶接ビードを形成することができるレーザとアークを併用した複合溶接装置及び方法を提供する。
【解決手段】レーザ光の照射によって被溶接材の表面に細く深い溝状のキーホールを形成し、アーク熱源用の電極と被溶接材の間にアークを発生させることによって、被溶接材の表面に溶融池を形成する。キーホールと溶融池は接続される。キーホールは、レーザ用シールドガスによってシールドされ、溶融池は、アーク用シールドガスによってシールドされる。レーザ用シールドガスとアーク用シールドガスは異なるガスである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザとアークを用いる複合溶接方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
原子力設備の炉内構造物等の機器の溶接には、ポロシティ、溶接割れ等の溶接欠陥の無い高品質な溶接が要求される。このため、これらの機器の溶接には、一般的に高品質な溶接部を得ることが可能なアーク溶接法の一つであるTIG(Tungsten Inert Gas)溶接法が用いられている。TIG溶接法は、非消耗電極を用い、被溶接材と非消耗電極の間にアークを発生させ、その熱により被溶接材を溶融して溶接するものである。しかし、TIG溶接で厚さ3mm以上の中厚板の溶接を行う場合には、溶接開先を形成し、溶融部にフィラワイヤ(溶加材)を送給し、多数パスの積層を行い、溶接開先を埋めることにより溶接を行う。このため、被溶接材の板厚が厚い場合には、非常に多くの溶接時間を要する。
【0003】
近年、中厚板の高能率溶接法としてレーザとアークを併用した溶接方法が提案されている。レーザとアークを併用する複合溶接法は、レーザによる深い溶込み、アークによる熔融金属、両熱源の複合効果等を利用するため、厚板の溶接及び高速溶接に有効である。
【0004】
例えば、特開昭59-66991号公報に記載された溶接方法では、MIG(Metal Inert Gas)溶接で母材を溶融させ、生じたクレータの底面近くにレーザ光線の焦点位置を合わせて溶接することにより、厚板の溶接を行うものである。
【0005】
特開平10-216972号公報に記載された溶接方法では、先行のレーザと後行の消耗電極式アークのアークの複合溶接によって、ルートギャップを有する突合せ継手の溶接を行うものである。また、特開2003-164983号公報に記載された溶接方法では、金属部材の接合面に溶接開先を形成し、溶接開先の開先線から0.1mm以上離れた位置を目標として、シールドガス雰囲気中においてレーザ光とアークを複合したハイブリッド溶接を行うものである。
【0006】
【特許文献1】特開昭59-66991号公報
【特許文献2】特開平10-216972号公報
【特許文献3】特開2003-164983号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
レーザ溶接法は、キーホールと呼ばれる細く深い穴を形成することにより深い溶込みを得ることができる。しかしながら、キーホールの下部でシールドガスの巻き込みによる気泡が発生し易い。この気泡が溶接金属の凝固過程で溶接金属中にトラップされるとポロシティと呼ばれる溶接欠陥が発生する。レーザ溶接法によってステンレス鋼を溶接する場合には、ポロシティの発生防止のために、シールドガスとして、窒素ガスが用いられている。
【0008】
レーザとアークを併用する複合溶接法では、アークで形成されたクレータ部にレーザ光を照射する。そのため、シールドガスは、アークの安定化のためにアーク溶接用と同等あるいは類似のシールドガスが用いられている。即ち、アーク溶接用のシールドガスによって、両熱源で形成された溶融プール及びその近傍のシールドを行っている。
【0009】
アーク溶接用のシールドガスは、Ar及びHe等の不活性ガスを主成分にしている。このガスをレーザ溶融部のシールドガスに用いると、ポロシティ等の溶接欠陥の無い溶接部を得ることはできない。また、レーザ溶接に有効なシールドガスをアークにも適用すると、アークが不安定となり良好な溶接ビードを得ることができない。
【0010】
本発明の目的は、ポロシティ等の溶接欠陥の発生の無い高品質な溶接部を得ることができると共に、安定した溶接ビードを形成することができるレーザとアークを併用した複合溶接装置及び方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のレーザとアークの複合溶接装置及び方法では、レーザ光の照射によって被溶接材の表面に細く深い溝状のキーホールを形成し、アーク熱源用の電極と被溶接材の間にアークを発生させることによって、被溶接材の表面に溶融池を形成する。キーホールと溶融池は接続される。キーホールは、レーザ用シールドガスによってシールドされ、溶融池は、アーク用シールドガスによってシールドされる。レーザ用シールドガスとアーク用シールドガスは異なるガスである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、ポロシティ等の溶接欠陥の発生の無い高品質な溶接部を得ることができると共に、安定した溶接ビードの形成ができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
図1を参照して、本発明のレーザとアークの複合溶接装置及び方法の第1の例を説明する。本例の複合溶接装置は、レーザ光1を照射するレーザ加工ヘッド2とアークトーチ11とを有する。レーザ加工ヘッド2の下にはレーザ用シールドガス8を噴射するシールドノズル7が設けられている。レーザ加工ヘッド2とシールドノズル7は同軸的に配置されている。シールドノズル7は、レーザ用シールドガス8を、レーザ光1の周りを囲むように噴射する。
【0014】
アークトーチ11の周囲には、アーク用シールドガス13を噴射するシールドノズル12が設けられている。アークトーチ11の先端には、アーク熱源用の電極9が装着されている。アークトーチ11とシールドノズル12は同軸的に配置されている。シールドノズル12は、アーク用シールドガス13を、電極9の周りを囲むように噴射する。
【0015】
矢印は、溶接の進行方向を示す。レーザ加工ヘッド2とアークトーチ11は、溶接の進行方向に沿って並んで配置されているが、レーザ加工ヘッド2は、溶接の進行方向に対して、アークトーチ11より前側に配置されている。レーザ加工ヘッド2は、その中心軸線が、被溶接材4の表面に垂直となるように、配置される。一方、アークトーチ11は、その中心軸線が、被溶接材4の表面に対して50°〜70°となるように、配置される。
【0016】
図示していないレーザ発振器からのレーザ光1が、光ファイバー等を介して伝送され、集束レンズ3により集光され、被溶接材4に照射される。それによってキーホール5が形成される。キーホール5は、レーザ光による高密度エネルギによって生成されたガスによって形成された細く深い穴である。キーホール5とその周辺部分は、シールドノズル7から噴射されたレーザ用シールドガス8によってシールドされる。
【0017】
電極9は図示していない溶接電源に接続される。それによって、電極9と被溶接材4の間にアーク10が発生し、被溶接材4の表面に溶融池6が形成される。電極9及びアーク10は、シールドノズル12から噴射されたアーク用シールドガス13によってシールドされる。
【0018】
レーザ光1によって形成されたキーホール5とアーク10によって形成された溶融池6は接続される。ここで、2つのシールドガスの噴射位置、流量等を調整することにより、キーホール5及びその周辺部分はレーザ用シールドガス8によってシールドし、電極9の先端部分及び溶融池6は、アーク用シールドガス13によってシールドすることができる。
【0019】
本例では、レーザ用シールドガス8とアーク用シールドガス13として、異なるガスを用いることができる。レーザ用シールドガス8として、キーホール5に取り込まれても、ポロシティが発生する可能性が低いガスを選定することができる。レーザ用シールドガス8としては、溶融金属中に取り込まれ、気孔を生成しやすい、Ar及びHe等の不活性ガスを含むガスを用いることはできない。レーザ用シールドガス8として好ましいのは、溶融金属中に取り込まれても、気泡として残存しにくい、即ち、溶融金属に吸収され易いガスである。このようなガスとしては、被溶接材がステンレス鋼やインコネル材のようにFe-Crを含む材料の場合には、窒素ガスが望ましい。また、被溶接材が炭素鋼の場合には、炭酸ガスが望ましい。炭酸ガスの場合には、分解され、酸素が溶融金属中に吸収される。
【0020】
アーク用シールドガス13としては、不活性ガス又は不活性ガスを主成分とし、酸化性のガス種を含むガスを用いるのが望ましい。不活性ガスは、アーク熱源用の電極の先端部分を保護し、酸化性のガス種は、アークを安定化させる。
【0021】
本例によると、レーザ用シールドガス8とアーク用シールドガス13として、異なるガスを用いるから、レーザ照射によって形成されるキーホールに起因するポロシティの発生を防止することができると共に、安定したアークが得られ、高品質な溶接部を得ることができる。
【0022】
本例では、アーク熱源用の電極9は、消耗電極であるMIG(Metal Inert Gas Welding)電極である。しかしながら、非消耗電極であるTIG(Tungsten Inert Gas)電極であってもよく、いずれであっても良好な溶接品質を得ることができる。
【0023】
図2はレーザとアーク間の距離とMIG電流の関係の実験結果を示す。図1に示すように、レーザ光とアーク間の距離Dは、レーザ光の光軸が被溶接材表面と交差する点とアーク電極の中心軸線が被溶接材表面と交差する点の間の距離である。レーザ出力は4kWである。ここで、レーザ光とアーク間の距離Dが6mmより小さい領域Aと、レーザ光とアーク間の距離Dが6mm〜20mmである領域Bと、レーザ光とアーク間の距離Dが20mmより大きい領域Cに分ける。領域Aのように、レーザ光とアーク間の距離Dが短すぎると、キーホール5と溶融池6が重畳し、溶融池6の変動が激しくなり、キーホール5の安定形成を阻害する。そのため、溶融金属の溶け落ち等が発生し、安定したビードの形成が得られない。逆に、領域Cのように、レーザ光とアーク間の距離Dが長すぎると、キーホール5と溶融池6が分離し、両熱源を複合化した相乗効果が得られない。このため、領域Bのように、レーザ光とアーク間の距離はD=6mm〜20mmが望ましい。
【0024】
図3aは、片面溶接によって、2つの板材を突き合せ溶接する方法を示す。図示のように、2つの被溶接材4a、4bの端面を突き合せる。突き合せ部にて、一方の面にて、断面が逆台形状の溝からなる開先部15を形成する。
【0025】
被溶接材4a、4bの厚さHはH=12mmである。開先部15の底幅dは、小さい方がよいが、キーホールの生成に影響を及ぼさない大きさがよい。本例では、開先部の底幅dは、d=1〜4mmが望ましい。
【0026】
開先部15のルートフェース厚さhは、大きいほうがよい。本例のようにレーザとアークの複合溶接では、ルートフェース厚さhを大きくすることによって、レーザの深溶け込み溶接の効果を最大限に利用することができる。ルートフェース厚さhは、レーザとアークの溶接条件によって決まるが、本例では、h=8mmである。開先角度θは、開先面への融合不良を防止するため、θ=5°〜20°が望ましい。
【0027】
図3aに示す被溶接材4a、4bを、図1に示す複合溶接装置を用いて、実際に溶接した。被溶接材4a、4bは、オーステナイト系ステンレス鋼SUS316Lの板材である。レーザ光源として、Nd:YAGレーザを用い、アーク熱源用電極9として、MIG電極を用いた。レーザ用シールドガス8は、ステンレス鋼溶接金属中に溶解し易い窒素ガスを用いた。また、アーク用シールドガス13は、MIG電極アークの安定が得られ易いAr+O2ガスを用いた。アーク用シールドガス13は、Arのみでもよく、Ar+CO2、又は、Ar+He+CO2等のガスを用いてもよい。
【0028】
図4は、本例による溶接部の断面写真の一例である。溶込みの良好な溶接欠陥の無い溶接部が得られている。本例の溶接条件は次の通りである。
レーザ出力:4kW
溶接速度:0.3〜0.8m/min
MIG電流:150〜250A、
溶接電圧:21〜30V
レーザ用シールドガス:N2、20l/min
MIGアーク用シールドガス:Ar+O2、25l/min
レーザとアーク間の距離:6mm〜20mm
レーザは、CO2レーザでもよいが、好ましくは、プラズマの発生の無いかあるいは極力少ないNd:YAGレーザ、ファイバーレーザ等の波長の短いレーザが望ましい。
【0029】
本実施例では、オーステナイト系ステンレス鋼SUS316Lを用いたが、他のFe-Crを含むオーステナイト系ステンレス鋼SUS304、SUS310等を用いても良く、インコネル材等でもよい。また、溶接は片面溶接であってもよいが、両面溶接でもよい。さらに、複数層の多層溶接でもよいことは言うまでも無い。
【0030】
図3bは、両面溶接によって、2つの板材を突き合せ溶接する方法を示す。図示のように、2つの被溶接材4a、4bの端面を突き合せる。突き合せ部20にて、両方の面にて、断面が逆台形状の溝からなる開先部15a、15bを形成する。各開先部15a、15bの形状は、図3aの開先部15の形状と同様であってよい。
【0031】
図3bに示す被溶接材4a、4bを、図1に示す複合溶接装置を用いて、実際に溶接した。本実施形態では、被溶接材4a、4bは、厚さ16mmの炭素鋼からなる。アーク電極はMIG溶接電極である。溶接条件は以下の通りである。
レーザ出力:3kW〜4kW
溶接速度:0.4〜1.0m/min
溶接電流:150A〜250A
溶接電圧:22V〜30V
レーザ用シールドガス:CO2、15〜20l/min
アーク用シールドガス;Ar、20〜30l/min
レーザとアーク間の距離:6mm〜20mm
本実施形態では、表側も裏側も同じ溶接条件を用いたが、表側と裏側で溶接条件を変えてもかまわない。被溶接材の炭素鋼の成分は、シリコンやマンガン等の脱酸元素が多い方が望ましい。
【0032】
図5は、本発明のレーザとアークの複合溶接装置及び方法の第2の例を示す。本例では、レーザ用シールドノズル17は、レーザ加工ヘッド2とは別個に設けられている。本例でも、レーザ用シールドガスとアーク用シールドガスの噴射位置、流量等を調整することにより、キーホール5及びその周辺部分はレーザ用シールドガス8によってシールドし、電極9の先端部分及び溶融池6は、アーク用シールドガス13によってシールドすることができる。
【0033】
図示の例では、レーザ用シールドノズル17は、溶接の進行方向に対して、レーザ加工ヘッド2より後側に配置されているが、レーザ加工ヘッド2の前側又は側面方向に配置してもよい。
【0034】
図6は、本発明のレーザとアークの複合溶接装置及び方法の第3の例を示す。本例では、レーザ用シールドノズル17は、レーザ加工ヘッド2とは別個に設けられている。レーザ用シールドノズル17は、溶接の進行方向に対して、レーザ加工ヘッド2より前側に配置されている。更に、本例では、レーザ加工ヘッド2とアークトーチ11の間に遮蔽板18が設けられている。遮蔽板18を設けることによって、レーザ用シールドノズル17から噴出されたレーザ用シールドガス8がアーク10及びその周囲に到達することが阻止される。更に、アーク用シールドガス13がキーホール5及びその周辺部分に及ぼす影響を低減することができる。尚、レーザ用シールドノズル17は、溶接の進行方向に対して、レーザ加工ヘッド2より後側に且つ遮蔽板18の前方に配置してもよい。更に、レーザ用シールドノズル17は、溶接の進行方向に対して、レーザ加工ヘッド2の側面方向に設置してもよい。
【0035】
図7は、本発明のレーザとアークの複合溶接装置及び方法の第4の例を示す。本例では、レーザ用シールドノズル17は、レーザ加工ヘッド2とは別個に設けられている。アーク電極9は消耗電極であるTIG電極であり、溶加材(フィラワイヤ)21をレーザとアークで形成された溶融池6内に連続的に挿入し溶接を行う。レーザ用シールドノズル17は、溶接の進行方向に対して、レーザ加工ヘッド2より後側に配置され、アークトーチ11より前側に配置されている。溶加材21は、溶接の進行方向に対して、アークトーチ11より後側に配置されている。
【0036】
本例でも、レーザ用シールドガスとアーク用シールドガスの噴射位置、流量等を調整することにより、キーホール5及びその周辺部分はレーザ用シールドガス8によってシールドし、電極9の先端部分及び溶融池6は、アーク用シールドガス13によってシールドすることができる。
【0037】
図示の例では、レーザ用シールドノズル17は、レーザ加工ヘッド2とは別個に設けられているが、図1の例のように、レーザ用シールドノズルをレーザ加工ヘッド2と同軸的に配置してもよい。
【0038】
図7に示す複合溶接装置を用いて、実際に、2つの鋼管を突き合せ溶接した。本実施形態では、被溶接材4a、4bは、窒素を0.2mass%〜0.5mass%含む厚さ6mmのオーステナイト系ステンレス鋼管である。
【0039】
レーザ用シールドガス8は第1の例と同様に窒素ガスを用いた。また、アーク用シールドガス13はアルゴンガスを用いた。窒素を多く含むステンレス鋼を、通常の不活性ガスを用いてレーザ溶接を行うと、溶接条件にもよるが、20%程度の脱窒素を生ずる。しかし、本発明では、溶融金属に吸収されやすい窒素ガスをシールドガスに用いるので、脱窒素が生じにくい。
【0040】
アークの非消耗電極はアルゴンガスによりシールドされているので、電極の酸化等による消耗及びアークの不安定現象は生じない。しかも、電極から離れた部分のアークは一部窒素ガスにさらされるが、アークは高温のため、窒素ガスの解離を促進する。そのため、溶接金属に窒素は吸収されやすくなり、脱窒素を妨げる効果も期待できる。
【0041】
このため、原子力機器等に用いられる0.1mass%程度の窒素を含むステンレス鋼の溶接に本発明の方法を用いれば、レーザのキーホールによる深溶込み溶接部の脱窒素を母材の窒素量の10%程度以下に低減することができる。なお、0.01mass%程度の窒素量の少ないステンレス鋼の溶接においては、溶接金属部の窒素量は被溶接材に比べ0.01mass〜0.03mass%程度増加する。
【0042】
図8は、本例による溶接部の断面写真の一例である。溶込みの良好な溶接欠陥の無い溶接部が得られている。本例の溶接条件は以下の通りである。
レーザ出力:2.5kW〜4kW、溶接速度:0.4〜1.5m/min
TIG電流:120A〜250A、アーク高さ:1mm〜3mm
溶加材:0.5〜2.0m/min(φ1.2)
レーザ用シールドガス:N2、15〜20l/min
アーク用シールドガス;Ar、20〜30l/min
レーザとアーク間の距離:6mm〜20mm
本実施形態での溶加材21の挿入は、アーク電極の後方から行ったが、レーザ光の前方から挿入してもよい。また、アーク熱源用電極9はMIG電極でもよい。溶加材等の溶接材料は、溶接金属部の窒素含有率が被溶接材料の窒素含有率とほぼ同等になるように調整された溶加材21を用いることが望ましい。
【0043】
本発明の溶接方法及び装置は以下のような効果を有するものである。本発明によれば、シールドガス等の巻き込み等により気泡を生じ易いレーザ光により形成されるキーホール及びその周辺部分のシールドに、溶融金属中にガスを巻き込んでも気泡を生成しにくいシールドガスを用いることができる。また、アーク熱源用電極先端部のアークの安定性に起因する部分のシールドは、アークの安定性に最も適正なガスを使用できる。そのため、ポロシティ等の溶接欠陥の発生の無い高品質な溶接部を有する溶接構造物が得られる。また、本発明を窒素を含有するステンレス鋼に適用すれば、脱窒素の少ない高品質な溶接部を得ることができる。
【0044】
以上、本発明の例を説明したが本発明は上述の例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された発明の範囲にて様々な変更が可能であることは当業者に容易に理解されよう。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明のレーザとアークの複合溶接装置及び方法の第1の例を示す図である。
【図2】本発明の複合溶接装置及び方法において、レーザとアーク間の距離とMIG電流の関係を説明する図である。
【図3】本発明による溶接方法に用いる突合せ材の溶接用開先部の形状の例を示す図である。
【図4】本発明のレーザとアークの複合溶接装置及び方法の第1の例を用いた溶接部の断面写真の一例を示す図である。
【図5】本発明のレーザとアークの複合溶接装置及び方法の第2の例を示す図である。
【図6】本発明のレーザとアークの複合溶接装置及び方法の第3の例を示す図である。
【図7】本発明のレーザとアークの複合溶接装置及び方法の第4の例を示す図である。
【図8】本発明のレーザとアークの複合溶接装置及び方法の第1の例を用いた溶接部の断面写真の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0046】
1…レーザ光、2…レーザ加工ヘッド、3…集束レンズ、4,4a,4b…被溶接材、5…キーホール、6…溶融池、7…シールドノズル、8…レーザ用シールドガス、9…アーク熱源用電極、10…アーク、11…アークトーチ、12…アークシールドノズル、13…アーク用シールドガス、17…レーザ用シールドノズル(サイドノズル)、18…遮蔽板、20…突合せ面、21…溶加材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ光を照射するレーザ加工ヘッドと、レーザ光の照射部の周囲にレーザ用シールドガスを噴射するレーザ用シールドガスノズルと、アーク熱源用の電極を有するアークトーチと、前記アーク熱源用の電極の周囲にアーク用シールドガスを噴射するアーク用シールドガスノズルと、を有する複合溶接装置において、
前記レーザ光の照射によって被溶接材の表面に形成された細い溝状のキーホールと、前記電極と被溶接材の間に発生したアークによって被溶接材の表面に形成された溶融池とが接続されるように、前記レーザ加工ヘッドと前記アークトーチの位置が設定され、前記レーザ用シールドガスによって前記キーホールがシールドされ、前記アーク用シールドガスによって前記溶融池がシールドされ、前記レーザ用シールドガスと前記アーク用シールドガスは異なるガスであることを特徴とするレーザとアークの複合溶接装置。
【請求項2】
請求項1記載のレーザとアークの複合溶接装置において、前記レーザ用シールドガスは、溶融金属に吸収され易いガスであることを特徴とするレーザとアークの複合溶接装置。
【請求項3】
請求項1記載のレーザとアークの複合溶接装置において、前記レーザ用シールドガスは、窒素又は炭酸ガスを主成分として含むことを特徴とするレーザとアークの複合溶接装置。
【請求項4】
請求項1記載のレーザとアークの複合溶接装置において、前記アーク用シールドガスは不活性ガス又は不活性ガスを主成分とし、アーク安定のためのガス種を含むことを特徴とするレーザとアークの複合溶接装置。
【請求項5】
請求項1記載のレーザとアークの複合溶接装置において、前記レーザ光の光軸が被溶接材表面と交わる点と前記アーク熱源用の電極の中心軸線が被溶接材表面と交わる点の間の距離が6mm〜20mmとなるように、前記レーザ加工ヘッドと前記アークトーチの位置が設定されていることを特徴とするレーザとアークの複合溶接装置。
【請求項6】
請求項1記載のレーザとアークの複合溶接装置において、前記レーザ用シールドガスノズルから噴射された前記ノズルレーザ用シールドガスと前記アーク用シールドガスノズルから噴射されたアーク用シールドガスとを分離する遮蔽板が設けられていることを特徴とするレーザとアークの複合溶接装置。
【請求項7】
請求項1記載のレーザとアークの複合溶接装置において、前記レーザ用シールドガスノズルは前記レーザ加工ヘッドと同軸的に配置されていることを特徴とするレーザとアークの複合溶接装置。
【請求項8】
請求項1記載のレーザとアークの複合溶接装置において、前記レーザ用シールドガスノズルは前記レーザ加工ヘッドとは別個に設けられていることを特徴とするレーザとアークの複合溶接装置。
【請求項9】
請求項1記載のレーザとアークの複合溶接装置において、前記アーク用シールドガスノズルは前記アークトーチと同軸的に配置されていることを特徴とするレーザとアークの複合溶接装置。
【請求項10】
請求項1記載のレーザとアークの複合溶接装置において、前記アーク用シールドガスノズルは前記アークトーチとは別個に設けられていることを特徴とするレーザとアークの複合溶接装置。
【請求項11】
請求項1記載のレーザとアークの複合溶接装置において、前記アーク熱源用の電極はMIG電極又はTIG電極であることを特徴とするレーザとアークの複合溶接装置。
【請求項12】
レーザ光の照射によって被溶接材の表面に細い溝状のキーホールを生成するステップと、
アーク熱源用の電極と被溶接材の間に発生したアークによって被溶接材の表面に溶融池を生成するステップと、
前記レーザ光の照射部の周囲にレーザ用シールドガスを噴射するステップと、
前記アーク熱源用の電極の周囲にアーク用シールドガスを噴射するステップと、
を有するレーザとアークの複合溶接方法において、
前記キーホールと前記溶融池とが接続されるように、前記アーク熱源用の電極と前記レーザ光の照射位置が設定され、前記レーザ用シールドガスによって前記キーホールがシールドされ、前記アーク用シールドガスによって前記溶融池がシールドされ、前記レーザ用シールドガスと前記アーク用シールドガスは異なるガスであることを特徴とするレーザとアークの複合溶接方法。
【請求項13】
請求項12記載のレーザとアークの複合溶接方法において、前記レーザ光の光軸が被溶接材表面と交わる点と前記アーク熱源用の電極の中心軸線が被溶接材表面と交わる点の間の距離が6mm〜20mmとなるように、前記アーク熱源用の電極と前記レーザ光の照射位置が設定されていることを特徴とするレーザとアークの複合溶接方法。
【請求項14】
請求項12記載のレーザとアークの複合溶接方法において、2つの被溶接材を突き合せるステップと、該突き合せ部に溶接開先部を形成するステップと、を有し、前記溶接開先部は逆台形状断面の溝状をなし、開先角度が5°〜20°、開先底部の溝幅が1mm〜4mmであることを特徴とするレーザとアークの複合溶接方法。
【請求項15】
請求項12記載のレーザとアークの複合溶接方法において、前記ノズルレーザ用シールドガスと前記アーク用シールドガスとを分離する遮蔽板を設けるステップと、を有することを特徴とするレーザとアークの複合溶接方法。
【請求項16】
請求項12記載のレーザとアークの複合溶接方法において、前記アーク熱源用の電極としてTIG電極を用い、溶接金属部の窒素含有率が被溶接材料の窒素含有率と実質的に同等になるように調整された窒素含有量を有する溶加材を用いることを特徴とするレーザとアークの複合溶接方法。
【請求項17】
請求項12記載のレーザとアークの複合溶接方法において、前記被溶接材はステンレス鋼構造物であることを特徴とするレーザとアークの複合溶接方法。
【請求項18】
請求項17記載のレーザとアークの複合溶接方法において、前記ステンレス鋼構造物は、0.2〜0.5mass%の窒素を含むステンレス鋼からなり、前記レーザ用シールドガスは窒素を主成分として含むことを特徴とするレーザとアークの複合溶接方法。
【請求項19】
請求項17記載のレーザとアークの複合溶接方法において、前記ステンレス鋼構造物の溶接金属部の窒素含有率が、前記被溶接材であるステンレス鋼構造物の窒素含有率と同等及びそれ以上であることを特徴とするレーザとアークの複合溶接方法。
【請求項20】
請求項17記載のレーザとアークの複合溶接方法において、前記ステンレス鋼構造物が原子力炉内構造物であることを特徴とするレーザとアークの複合溶接方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−284588(P2008−284588A)
【公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−132015(P2007−132015)
【出願日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【出願人】(507250427)日立GEニュークリア・エナジー株式会社 (858)
【Fターム(参考)】