説明

レーザアークハイブリッド溶接割れ試験方法

【課題】構造物に対してレーザアークハイブリッド溶接を行う際の溶接割れのリスクを評価し得るレーザアークハイブリッド溶接割れ試験方法を提供する。
【解決手段】中央部に、スリット4が形成された試験片1を用いたレーザアークハイブリッド溶接割れ試験方法であって、実際の構造物の拘束度及びこの拘束度に対応するひずみを反映させた試験片1の外形寸法及びスリット4の長さLsを決定する工程と、この工程で決定された外形寸法で板材を切り出すと共に、切り出した板材の中央部にスリット4を該工程で決定された長さLsでそれぞれ形成して試験片を製作する工程と、製作した試験片1のスリット4に対してレーザアークハイブリッド溶接を施す溶接工程と、溶接工程での溶接後の試験片1を複数箇所で切断する工程と、切断工程で得た試験片1の断面から該断面で生じている割れ率の平均を計測して、溶接割れのリスクを評価する工程を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、橋梁や船舶などの大型構造物における溶接継手部、特に、レーザアークハイブリッド溶接による溶接継手部の品質を管理するのに用いられるレーザアークハイブリッド溶接割れ試験方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、上記したような溶接継手部の品質を管理するのに用いられる溶接割れ試験方法としては、例えば、特許文献1に記載された溶接割れ試験方法がある。
この溶接割れ試験方法は、一組の試験片を対向配置して、両者間に隙間設定ブロックを介在させることで試験片間にルートギャップを形成し、隙間設定ブロックに試験片を両側からそれぞれ押し付け保持した状態で、すなわち、外的に拘束した状態で試験片間にレーザ溶接を施すようにしている。
【0003】
一方、従来において、外的の拘束を必要としない溶接割れ試験方法としては、例えば、非特許文献1に記載された溶接割れ試験方法がある。この溶接割れ試験方法は、JIS Z3159で規定されたH形拘束溶接割れ試験方法であり、中央部に互いに平行を成す2本のスリットが形成されていると共にこれらのスリットを結ぶようにして開先が形成された試験片を用いた試験方法であって、被覆アーク溶接やガスシールドアーク溶接を対象にした溶接割れ試験方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011-036911号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】JIS Z3159
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、上記した特許文献1に記載された溶接割れ試験方法では、試験片間のルートギャップをレーザ溶接用として厳密に管理することができるものの、レーザ溶接時には、隙間設定ブロックに対して試験片を両側からそれぞれ押し付けるようにしているので、試験片の押し付け力の大小で拘束度が変わってしまう可能性がある。
【0007】
一方、上記した非特許文献1に記載されたH形拘束溶接割れ試験方法は、被覆アーク溶接やガスシールドアーク溶接を対象にした試験方法なので、試験片の開先のルートギャップが大きく、したがって、細いレーザ光を照射するレーザアークハイブリッド溶接の溶接割れ評価には採用することができないという問題があり、これらの問題を解決することが従来の課題となっていた。
【0008】
本発明は、上記した従来の課題に着目してなされたもので、レーザアークハイブリッド溶接の溶接割れを適正に評価することができ、その結果、大型構造物における溶接継手部の品質を管理しそして保証することが可能になるレーザアークハイブリッド溶接割れ試験方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の請求項1に係る発明は、中央部に、スリットが形成された試験片を用いたレーザアークハイブリッド溶接割れ試験方法であって、実際の構造物の拘束度及びこの拘束度に対応するひずみを反映させた前記試験片の外形寸法及び前記スリット長さを決定する工程と、この工程で決定された外形寸法で板材を切り出すと共に、切り出した前記板材の中央部に前記スリットを該工程で決定された長さでそれぞれ形成して前記試験片を製作する工程と、製作した前記試験片の前記スリットに対してレーザアークハイブリッド溶接を施す溶接工程と、この溶接工程での溶接後の前記試験片を複数箇所で切断する工程と、この切断工程で得た前記試験片の断面から解析で求めたひずみ分布に基づいてひずみの値が相対的に大きい位置の断面を複数選定し、該断面で生じている割れ率の平均を計測して、溶接割れのリスクを評価する工程を有している構成としたことを特徴としており、この構成のレーザアークハイブリッド溶接割れ試験方法を前述した従来の課題を解決するための手段としている。
【0010】
本発明の請求項2に係るレーザアークハイブリッド溶接割れ試験方法は、前記溶接工程における前記試験片の前記スリットに対する溶接金属の溶け込み深さを該試験片の厚みの半分以下に制限する構成としている。
【0011】
本発明の請求項3に係るレーザアークハイブリッド溶接割れ試験方法において、前記スリットは、前記試験片の中央部に形成された一対の貫通孔間に形成され、前記溶接工程における前記試験片の前記スリットに対するレーザアークハイブリッド溶接は、前記一対の貫通孔を避けて施される構成としている。
【0012】
本発明に係るレーザアークハイブリッド溶接割れ試験方法において、試験片中央部のスリットは、例えば、放電加工によって形成され、スリット幅は、0.05〜1.00mmとすることが望ましい。
また、本発明に係るレーザアークハイブリッド溶接割れ試験方法において、試験片の外形寸法は、例えば、矩形状を成す場合には、長さ、幅、板厚であり、これの寸法及びスリットの長さは、実際の構造物の拘束度及びこの拘束度に対応するひずみに基づいて、FEM(有限要素法)を用いて求められる。なお、試験片の形状は矩形に限定されない。
【0013】
本発明に係るレーザアークハイブリッド溶接割れ試験方法では、実際の構造物で計測した拘束度及びこの拘束度に対応するひずみを反映させた試験片を製作して、この試験片のスリットに対してレーザアークハイブリッド溶接を施して、その際に溶接継手部断面で発生する割れ率の平均を計測するようにしているので、溶接割れのリスクをより緻密に評価し得ることとなり、レーザアークハイブリッド溶接を行う際の溶接割れが生じ難い、鋼材と、溶接金属と、溶接条件の組み合わせを実際の構造物にフィードバックし得ることとなる。
【0014】
この際、溶接工程における試験片のスリットに対する溶接金属の溶け込み深さを試験片の厚みの半分以下に制限するように成せば、溶接割れが生じやすい条件を作り出すことができ、また、スリットが、例えば、放電加工によって形成される場合には、このスリットの両端に形成される貫通孔を避けてレーザアークハイブリッド溶接を行うように成せば、より実際に即した溶接状況を作り出すことができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係るレーザアークハイブリッド溶接割れ試験方法では、上記した構成としているので、レーザアークハイブリッド溶接の溶接割れを適正にそしてより緻密に評価することが可能であり、したがって、大型構造物における溶接継手部の品質を管理保証することができるという非常に優れた効果がもたらされる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施例に係るレーザアークハイブリッド溶接割れ試験に用いる試験片の平面説明図(a)及び正面説明図(b)である。
【図2】図1に示した試験片に対してレーザアークハイブリッド溶接を行った状態の平面説明図(a)及び溶接後の切断箇所を明示する平面説明図(b)である。
【図3】図1に示した試験片の板厚と、拘束度及びこの拘束度に対応するひずみとの関係を表すグラフである。
【図4】図1に示した試験片に対する溶接割れ試験結果を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を図面に基づいて説明する。
図1及び図2は本発明に係るレーザアークハイブリッド溶接割れ試験方法の一実施例を示している。
【0018】
このレーザアークハイブリッド溶接割れ試験方法は、図1に示すように、スリット4を有する試験片1を用いたレーザアークハイブリッド溶接割れ試験方法であって、実際の構造物の拘束度及びこの拘束度に対応するひずみを反映させた試験片1の外形寸法及びスリット4の長さを決定する工程と、この工程で決定された外形寸法で板材を切り出すと共に、切り出した板材の中央部にスリット4を決定された長さでそれぞれ形成して試験片1を製作する工程を有している。
【0019】
試験片1は、矩形状の鋼板から成る試験片本体2の中央部に形成された一対の貫通孔3,3を有しており、スリット4はこれらの貫通孔3,3間に形成されていて、試験片本体2の長手方向中央に位置している。
この矩形状を成す試験片1の外形寸法は、長さL,幅B,板厚tであり、これらの寸法L,B,t及びスリット4の長さLsは、実際の構造物の拘束度及びこの拘束度に対応するひずみに基づいて、FEM(有限要素法)を用いて求められる。
【0020】
この場合、スリット4は放電加工によって形成されており、スリット4の幅Wは0.05〜1.0mmに形成され、ワイヤを通すための貫通孔3,3の各径は6mm程度となっている。
【0021】
このように試験片1は、FEMで求められた外形寸法L,B,tで鋼板から切り出され、切り出された板材の中央部にスリット4を決定された長さLsで形成することで製作される。
【0022】
また、このレーザアークハイブリッド溶接割れ試験方法は、図2(a)に示すように、製作した試験片1のスリット4に対してレーザアークハイブリッド溶接を施す溶接工程と、図2(b)に示すように、溶接後の試験片1における溶接ビード5を複数箇所で切断する工程と、この切断工程で得た試験片1の複数の断面で生じている各割れ率の平均を計測して、溶接割れのリスクを評価する工程を有している。この際、解析で求めた溶接ビード5におけるひずみ分布から、このひずみの値が相対的に大きい位置の断面を複数選定して割れ率の平均を計測するようにしている。
【0023】
この実施例において、溶接工程における試験片1のスリット4に対する溶接金属の溶け込み深さを試験片1の板厚tの半分以下に制限するように成すことで、溶接割れが生じやすい条件を作り出すことができるようにしてある。
【0024】
加えて、スリット4の両端に位置している貫通孔3,3を避けてレーザアークハイブリッド溶接を行うようにすることで、貫通孔3を通しての入熱を防いでより実際に即した溶接状況を作り出すことができるようにしてある。
【0025】
このように、上記した本実施例のレーザアークハイブリッド溶接割れ試験方法では、実際の構造物で計測した拘束度及びこの拘束度に対応するひずみを反映させた試験片1を製作して、この試験片1のスリット4に対してレーザアークハイブリッド溶接を施し、その際に溶接ビード5で発生する割れ率の平均を計測するようにしているので、溶接割れのリスクを評価し得る(拘束度に対応するひずみを反映させている分だけより緻密に評価し得る)こととなり、レーザアークハイブリッド溶接を行う際の溶接割れが生じ難い、鋼材と、溶接材料と、溶接条件の組み合わせを実際の構造物にフィードバックし得ることとなる。
【0026】
図3は、実際の構造物の拘束度及びこの拘束度に対応する拘束ひずみを反映させた試験片1の外形寸法及びスリット4の長さを例示したグラフであり、このグラフから、本実施例のレーザアークハイブリッド溶接割れ試験方法に用いる試験片1(試験片a,試験片b,試験片c)では、板厚tが増すのに応じて拘束度が上昇する、すなわち、拘束度を定量化し得ることが判り、加えて、試験片aのように、板厚変化に応じて拘束ひずみの変化が拘束度の変化から乖離することを把握するように成せば、溶接割れをより緻密に評価し得ることとなる。
【0027】
図4は、試験片1に対する溶接割れ試験結果を表している。図4に示すように、拘束度Rpが約30000N/mm・mmに対応して製作する試験片a(幅B=150mm,長さL=200mm,スリット長さLs=80mm)の板厚が25mmの場合において、鋼材Sbと溶接材料Yの組み合わせ及び鋼材Saと溶接材料Xの組み合わせではいずれも断面割れ率が高く、鋼材Saと溶接材料Yの組み合わせで断面割れ率が低いことが判る。
【0028】
また、拘束度Rpが約14000N/mm・mmに対応して製作する試験片aの板厚が12mmの場合において、鋼材Sbと溶接材料Yの組み合わせでは断面割れ率が非常に高く、鋼材Saと溶接材料Xの組み合わせ及び鋼材Saと溶接材料Yの組み合わせでいずれも断面割れ率が低いことが判る。
【0029】
一方、拘束度Rpが約14000N/mm・mmに対応して製作する試験片b(幅B=150mm,長さL=200mm,スリット長さLs=120mm)の板厚が25mmの場合において、鋼材Saと溶接材料Yの組み合わせで断面割れ率が低いことが判る。
ここで、拘束度Rpが約14000N/mm・mmに対応して製作する試験片aの板厚が12mmの場合には、鋼材Sbと溶接材料Yの組み合わせにおいて断面割れ率が非常に高いものの、試験片bと同様にスリット長さLsを120mmにして拘束度を下げれば、鋼材Sbと溶接材料Yの組み合わせであっても、断面割れ率が下がることが判る。
【0030】
このように、試験片a,bに採用する鋼材Sa,Sb、試験片a,bの各板厚t及び溶接材料X,Yを適宜選択決定して実際の構造物にフィードバックすれば、大型構造物における溶接継手部の品質を管理保証し得ることとなる。
【0031】
なお、本発明に係るレーザアークハイブリッド溶接割れ試験方法の構成は、上記した実施例の構成に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0032】
1 試験片
2 試験片本体
3 貫通孔
4 スリット
5 溶接ビード
B 幅
L 長さ
Ls スリット長さ
t 板厚
W スリット幅

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中央部に、スリットが形成された試験片を用いたレーザアークハイブリッド溶接割れ試験方法であって、
実際の構造物の拘束度及びこの拘束度に対応するひずみを反映させた前記試験片の外形寸法及び前記スリット長さを決定する工程と、
この工程で決定された外形寸法で板材を切り出すと共に、切り出した前記板材の中央部に前記スリットを該工程で決定された長さでそれぞれ形成して前記試験片を製作する工程と、
製作した前記試験片の前記スリットに対してレーザアークハイブリッド溶接を施す溶接工程と、
この溶接工程での溶接後の前記試験片を複数箇所で切断する工程と、
この切断工程で得た前記試験片の断面から解析で求めたひずみ分布に基づいてひずみの値が相対的に大きい位置の断面を複数選定し、該断面で生じている割れ率の平均を計測して、溶接割れのリスクを評価する工程を有している
ことを特徴とするレーザアークハイブリッド溶接割れ試験方法。
【請求項2】
前記溶接工程における前記試験片の前記スリットに対する溶接金属の溶け込み深さを該試験片の厚みの半分以下に制限する請求項1に記載のレーザアークハイブリッド溶接割れ試験方法。
【請求項3】
前記スリットは、前記試験片の中央部に形成された一対の貫通孔間に形成され、前記溶接工程における前記試験片の前記スリットに対するレーザアークハイブリッド溶接は、前記一対の貫通孔を避けて施される請求項1又は2に記載のレーザアークハイブリッド溶接割れ試験方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−91094(P2013−91094A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−236076(P2011−236076)
【出願日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】