説明

レーザガス分析装置

【課題】システム全体の遅延を測定し、その値に基づいてCPUへ信号を取り込むことにより正確な分析が可能なレーザガス分析装置を実現する。
【解決手段】レーザガス分析装置において、前記タイミング生成回路から出力されたタイミング信号を入力しカウンタをスタートさせる遅延測定回路と、
前記ディテクタ回路で検出される測定信号のエッジ(測定のスタート点)を検出するエッジ検出回路と、を備え、前記タイミング生成回路は前記エッジ検出回路からのエッジ検出信号を入力し前記カウンタで前記レーザ掃引スタートパルスが送出されてからの時間遅れを検出し、その遅れに基づいて前記DAQ回路から前記CPUに取り込むデータ取り込み時間を遅延させるように構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザガス分析装置に関し、詳しくは、設置環境によって異なる、信号の伝送遅延の除去を図ることにより測定精度を向上させたレーザガス分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
TDLAS(Tunable Diode Laser Absorption Spectroscopy;可変波長半導体レーザ吸収分光)法を用いたレーザガス分析計は、測定対象に可変波長半導体レーザからの光を照射するだけで、高温や腐食性ガスなどの測定対象成分の濃度でも、他の成分の干渉を受けることなく成分選択性が高く、非接触で、高速にリアルタイムで測定できるという利点がある。
【0003】
図3はTDLAS法を用いた従来のレーザガス分析装置の一例を示すブロック図であって、プロセスガス雰囲気中に向けて測定用レーザ光を照射する半導体レーザを含む光源ユニットと、プロセスガス雰囲気の測定空間を透過した測定用レーザ光を検出する受光素子およびこの受光素子の出力信号を処理する演算処理部を含む検出ユニットとで構成されている。
【0004】
図3に示すレーザガス分析装置は、赤外から近赤外領域に存在する測定対象成分分子の振動・回転エネルギー遷移による分子固有の光吸収スペクトルを、極めて発振波長スペクトル線幅の狭い半導体レーザを用いて測定する。O、NH、HO、CO、COなど大半の分子の分子特有の吸収スペクトルは赤外〜近赤外領域であり、特定波長における光吸収量(吸光度)を測定することで対象成分の濃度を算出できる。
【0005】
図3において、光源ユニット10に設けられている半導体レーザ11は、測定用レーザ光をプロセスガス20の雰囲気中に照射出力する。この半導体レーザ11が出力するレーザ光は、発振波長スペクトル線幅が極めて狭く、レーザ温度や駆動電流を変えることで発振波長を変更できるので、吸収スペクトルの各吸収ピークの1本のみを測定できる。
【0006】
したがって、干渉ガスの影響を受けない吸収ピークを選定することができ、波長選択性が高く、他の干渉成分の影響を受けることがないため、測定の前段階における干渉ガスを除去することなくプロセスガスを直接測定できる。
【0007】
半導体レーザ11の発振波長を測定成分の1本の吸収線の近傍でスキャンすることにより、干渉成分と重ならない正確なスペクトルの測定が行えるが、そのスペクトル形状は、プロセスガス温度、プロセスガス圧力、共存ガス成分などによるスペクトルのブロードニング(Broadening)現象により変化する。このため、これらの環境変動を伴う実プロセス測定では、その補正が必要になる。
【0008】
そこで、図3の装置では、半導体レーザ11の発振波長をスキャンして吸収スペクトルを測定することによりスペクトル面積を求め、そのスペクトル面積から成分濃度に変換するスペクトル面積法を用いている。
【0009】
他のレーザガス分析装置では、吸収スペクトルのピーク高さから測定成分を求めるピーク高さ法や波長スキャン信号を変調してその周波数の2倍周波数変調波形のP−P(ピーク・ツー・ピーク)値から測定成分の濃度を求める2f法が使われているが、これらは、温度、圧力、共存ガス成分の変動などにより大きな影響を受けやすい。
【0010】
これに対し、スペクトル面積法は原理的に共存ガス成分の違いによる変化の影響を受けることはなく(スペクトルの面積は共存ガス成分によらずほとんど一定)、圧力変動に対してもスペクトル面積法は原理的に線形変化を示す。
【0011】
ピーク高さ法や2f法では、上記3変動要因(温度、圧力、共存ガス成分)が全て非線形に影響し、これら変動要因が共存する場合は補正が困難であるが、スペクトル面積法によれば、ガス圧力変動に対する線形補正とガス温度変動に対する非線形補正を行うことができ、正確な補正を実現できる。
【0012】
プロセスガス20の雰囲気中を通過した測定用レーザ光は検出ユニット30に設けられデテクタ回路40を構成する受光素子31で受光され、電気信号に変換される。
【0013】
受光素子31の出力信号はゲイン可変のアンプ32を介して適切な振幅レベルに調整されてA/D変換器33に入力され、デジタル信号に変換される。
【0014】
A/D変換器33の出力データについて、半導体レーザ11の波長のスキャンに同期して、DAQ(DATA ACQUISITION…データ収集)回路(以下、DAQ回路)41を構成する積算器34とメモリ35との間で所定回数(たとえば数百〜数千回)の積算とメモリ35への格納が繰り返されて測定信号に含まれるノイズが除去されてデータが平滑化された後、CPU36に入力される。
【0015】
CPU36は、ノイズが除去された測定信号に基づきプロセスガスの濃度解析などの演算処理を行うとともに、受光素子31の出力信号の振幅レベルがA/D変換器33の入力レベルとして適切でない場合にゲイン可変アンプ32のゲイン調整を行う。
【0016】
タイミング生成回路42はレーザコントローラ43に半導体レーザを掃引するためのレーザ掃引スタートパルスを出力するとともに積算器34に対してA/D変換器33からの出力を取り入れるタイミングパルスを出力する。
【0017】
非特許文献1には、可変波長半導体レーザ分光を応用したレーザガス分析計の測定原理とその特徴および具体的な測定事例について記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0018】
【非特許文献1】田村 一人、外3名、「レーザガス分析計TDLS200とその産業プロセスへの応用」、横河技報、横河電機株式会社、2010年、Vol.53 No.2(2010) p.51−54
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
図4(a,b)は上述の従来のレーザガス分析装置のタイミングシーケンスを示す図である。縦軸は信号の強さを横軸は時間を示している。
図(a)において、(ィ)で示す実線はレーザ(半導体レーザ)出力の強度変化を示し、(ロ)で示す破線はDAQ回路へ入力する測定信号を示している。また、(ハ)は図3に示すタイミング生成回路42でのパルス信号の発生タイミングを示し、(二)で示すパルス信号はそのパルス信号が同軸ケーブル44やレーザコントローラ43を経て半導体レーザユニット11に配置されたレーザを掃引スタートさせるまでにT1の遅れが生じるということを示している。なお、(ロ)で示す破線に示す(ホ)の凹みはプロセスガスにより吸収された波長部分を示している。
【0020】
そして、光源ユニット11から出射したレーザはプロセスガスを透過してディテクタ回路40を構成する受光素子31、ゲイン可変アンプ32、A/D変換器33を経てDAQ回路41に入力するが、タイミング生成回路42で生成されたパルス信号がレーザコントローラに入力して半導体レーザユニットを構成するレーザを掃引し、掃引されたレーザプロセスガスを透過して電気信号に変換されてDAQ回路41に入力されるまでにT2の遅れを生じ、前述のT1と合わせてTDの遅れが生じていることになる。
【0021】
図4(b)はタイミング生成回路42で発生したパルス信号に対して遅れを生じることなくレーザが発振したと想定した場合の波形(ヘ)と、それからTDの時間遅れを生じてDAQ回路41に入力する信号(ト)の関係を示している。
なお,T1やT2の遅れは同期ケーブルの長さやプロセスの設置状態によりプロセス毎に異なる値となるもので予め遅延を考慮したタイミングを生成するのは困難である。
このような遅れは後段に配置されたCPU36でプロセスガスの状態を解析する場合に精度低下を引き起こす要因となっている。
【0022】
本発明は、このような課題を解決するものであり、レーザガス分析計により予め考慮することが困難なユーザー環境による遅延を含めた、システム全体の遅延を測定し、キャンセルさせる回路を実現することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0023】
このような課題を達成するために、本発明のうち請求項1記載の発明は、
プロセスガスにレーザ光をスキャンしながら照射する半導体レーザ及びレーザコントローラを含む光源ユニットと、
前記プロセスガスを透過したレーザ光を検出するディテクタ回路と、
このディテクタ回路からの出力信号が入力されるDAQ(データ収集)回路と、
このDAQ回路からの出力データを取り込んで前記プロセスガスの濃度を演算するCPU(演算処理部)と、
前記レーザコントローラにレーザ掃引スタートパルスを送出するとともに前記DAQ回路に前記CPUへデータ取り込みのタイミング信号を送出するタイミング生成回路とで構成されたレーザガス分析装置において、
前記タイミング生成回路から出力されたタイミング信号を入力しカウンタをスタートさせる遅延測定回路と、
前記ディテクタ回路で検出される測定信号のエッジ(測定のスタート点)を検出するエッジ検出回路と、を備え、
前記タイミング生成回路は前記エッジ検出回路からのエッジ検出信号を入力し前記カウンタで前記レーザ掃引スタートパルスが送出されてからの時間遅れを検出し、その遅れに基づいて前記DAQ回路から前記CPUに取り込むデータ取り込み時間を遅延させるように構成したことを特徴とする。
【0024】
請求項2記載の発明は、請求項1に記載のレーザガス分析装置において、
前記ディテクタ回路は受光素子、ゲイン可変アンプ、及びA/D変換器を含んで構成され、前記DAQ回路は積算器及びメモリを含んで構成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
請求項1、2においては、ユーザー環境による遅延を含めた、システム全体の遅延を測定し、その遅延した時間に基づいてデータを取り込むので時間遅れをキャンセルしたレーザガス分析装置を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明のレーザガス分析装置の一実施例を示すブロック図である。
【図2】本発明による遅延測定回路を用いた信号取り込みの動作を示す説明図である。
【図3】従来のレーザガス分析装置の一例を示すブロック図である。
【図4】従来のレーザガス分析装置の信号取り込みの動作を示す説明図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて詳細に説明する。図1は本発明の一実施例を示すブロック図であり、図2に示す従来例と共通する部分には同一の符号を付けている。図1と図2の相違点は、タイミング生成回路と遅延測定回路及びディテクタ回路からの出力を入力するエッジ検出回路を設けていることである。
【0028】
図1において、光源ユニット10に設けられている半導体レーザユニット11は、従来と同様に測定用レーザ光をプロセスガス20の雰囲気中に照射出力する。このとき、プロセスガス20の測定対象成分の吸収スペクトルの面積を求めるために、吸収波長を含む狭い帯域でレーザの波長をスキャンさせる。
【0029】
プロセスガス20の雰囲気中を通過した測定用レーザ光は検出ユニット47に設けられている従来と同様の構成のディテクタ回路40に入力されデジタル信号に変換される。
この信号はDAQ回路に入力されて従来と同様に測定信号に含まれるノイズが除去されて平滑化された後、CPU36に入力される。CPU36は、ノイズが除去された測定信号に基づきプロセスガスの濃度解析などの演算処理を行う。
【0030】
ここまでは従来と同様であるが、本発明ではタイミング生成回路42のタイミング信号を入力する遅延測定回路45とエッジ検出回路46が設けられている。遅延測定回路45はカウンタを含んで構成されており、レーザ掃引スタートパルスが入力された時点でカウントをスタートさせる。
【0031】
一方タイミング生成回路42はレーザコントローラ43に半導体レーザを掃引するためのレーザ掃引スタートパルスを出力する。このパルス信号は同期ケーブル44、レーザコントローラ43を介して半導体ユニット11を構成するレーザを掃引し、出射したレーザ光はプロセスガス20中を透過してディテクタ回路40に入力する。
【0032】
このディテクタ回路40の出力はDAQ回路41に出力されるが、エッジ検出回路46にも入力され、エッジ検出回路からの出力は遅延測定回路45でスタートしたカウンタを停止させる。その結果、遅延測定回路45はタイミング生成回路から掃引パルスが出力されからディテクタ回路40に達するまでの時間遅れを測定することができる。遅延測定回路45はその遅れ時間をタイミング生成回路42に送出し、タイミング生成回路はDAQ回路からの出力をその遅れに基づいてCPU36に送出する。
【0033】
図2は上述のレーザガス分析装置のタイミングシーケンスを示す図である。縦軸は信号の強さを横軸は時間を示している。
図2において、(ィ)はレーザ掃引スタートパルス(タイミング生成回路出力)を示し(ロ)の破線はDAQ回路へ入力する信号を示している。また、(ハ)はTDの時間遅れでDAQ回路5に送信される信号取り込みパルス開始を示している。なお、破線に示す(ホ)の凹みはプロセスガスにより吸収された波長部分を示している。
【0034】
上述の構成によれば、ユーザー環境による遅延を含めた、システム全体の遅延を測定し、その値に基づいてCPUへの信号取り込みができるので、正確な分析が可能なレーザガス分析装置を実現することができる。
【0035】
なお、以上の説明は、本発明の説明および例示を目的として特定の好適な実施例を示したに過ぎない。例えば、エッジ検出回路46、遅延測定回路45において複数のカウンタをもたせ、タイミング生成回路42で出力されたレーザー掃引スタートパルスをレーザーコントローラ43が受け、そのまま同期ケーブルを介し、エッジ検出回路46と遅延測定回路45のカウンタを止めるようにしても良い。そうすることで、T1が求まり、TDとの差分でT2も求まる。精度が良く高速なクロックをカウンタに用いれば、同期ケーブル長や光路長を求めることも可能である。
従って本発明は、上記実施例に限定されることなく、その本質から逸脱しない範囲で更に多くの変更、変形を含むものである。
【符号の説明】
【0036】
10 光源ユニット
11 半導体レーザユニット
31 受光素子
32 ゲイン可変アンプ
33 A/D変換器
34 積算器
35 メモリ
36 CPU
40 ディテクタ回路
41 DAQ回路
42 タイミング生成回路
43 レーザコントローラ
44 同軸ケーブル
45 遅延測定回路
46 エッジ検出回路
47 検出ユニット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロセスガスにレーザ光をスキャンしながら照射する半導体レーザ及びレーザコントローラを含む光源ユニットと、
前記プロセスガスを透過したレーザ光を検出するディテクタ回路と、
このディテクタ回路からの出力信号が入力されるDAQ(データ収集)回路と、
このDAQ回路からの出力データを取り込んで前記プロセスガスの濃度を演算するCPU(演算処理部)と、
前記レーザコントローラにレーザ掃引スタートパルスを送出するとともに前記DAQ回路に前記CPUへデータ取り込みのタイミング信号を送出するタイミング生成回路とで構成されたレーザガス分析装置において、
前記タイミング生成回路から出力されたタイミング信号を入力しカウンタをスタートさせる遅延測定回路と、
前記ディテクタ回路で検出される測定信号のエッジ(測定のスタート点)を検出するエッジ検出回路と、を備え、
前記タイミング生成回路は前記エッジ検出回路からのエッジ検出信号を入力し前記カウンタで前記レーザ掃引スタートパルスが送出されてからの時間遅れを検出し、その遅れに基づいて前記DAQ回路から前記CPUに取り込むデータ取り込み時間を遅延させるように構成したことを特徴とするレーザガス分析装置。
【請求項2】
前記ディテクタ回路は受光素子、ゲイン可変アンプ、及びA/D変換器を含んで構成され、前記DAQ回路は積算器及びメモリを含んで構成されていることを特徴とする請求項請求項1に記載のレーザガス分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−24728(P2013−24728A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−159834(P2011−159834)
【出願日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【出願人】(000006507)横河電機株式会社 (4,443)
【Fターム(参考)】