説明

レーザガス分析計

【課題】 プロセス稼動状態において熱変形などがあった場合においても常に光軸を一定に保つことができ、安定した測定ができるレーザガス分析計を実現することを目的とする。
【解決手段】 測定ガス11中にレーザ光15を照射し、そのレーザ光15の光吸収による光量変化からガス濃度を測定するレーザガス分析計において、レーザ11から出射されるレーザ光15を平行光にするレンズ12と、このレンズ12から出射されるレーザ光15が測定ガス1を透過した後の光量を検出する検出器と、前記レンズ12の焦点位置にある移動平面内で前記レーザ11を移動するアクチュエータ13と、前記検出器からの信号に基づいてアクチュエータ13を駆動するアクチュエータ制御部16とを備えたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定ガス中にレーザ光を照射し、そのレーザ光の光吸収による光量変化からガス濃度を測定するレーザガス分析計に関し、特にその測定光の光軸調整に関する。
【背景技術】
【0002】
TDLAS (Tunable Diode Laser Absorption Spectroscopy) 法を用いたレーザガス分析計は測定対象に可変波長半導体レーザからの光を照射するだけで,測定対象成分の濃度を成分選択性が高く,非接触で測定できるという特長がある。このため,常温から1500 ℃の高温ガスまで広範囲の温度条件下においても,また圧力変動のある環境下でも,あるいは腐食性,危険性の高いガス測定など,広範囲な測定条件においてもプロセスラインでの正確な直接高速測定を可能にする。この正確で応答性の高い測定信号をプロセス制御系に反映させることで,各種産業プロセスの収率やエネルギー効率の向上,安全性向上に寄与できる。
【0003】
図2は従来のレーザガス分析計の一例を示す設置構成図である。レーザガス分析計は投光部2と受光部7を持ち,通常は測定プロセスガス1が流れるダクトを挟み込むように投光部2と受光部7が対向する配置(クロスダクト)で設置される。
【0004】
プロセスガス1と分析計内部とは光学窓で隔離されており,投光部2の半導体レーザからの光は光学窓を通して測定プロセスガス1を通過し,受光部7の光学窓を介して光検出器(図示せず)で受光される。受光されたレーザ光パワーは光検出器で電気信号に変換され、投光部演算回路で測定対象成分の吸収スペクトルが求められ,スペクトル面積が算出され,成分濃度に変換されて標準信号として出力される。
【0005】
光軸調整部4、5はプロセス上重要な気密性を保って角度調整ができるベローズ構造を有している。この光軸調整部4、5を介して投光・受光部2,7をダクトに接続させることにより,図2のような一般的なプロセス配管の両側設置時の光軸調整だけでなく,さまざまな形態の設置においても容易に光軸調整が可能となる。測定成分やそのアプリケーション毎に最適な設置形態を見出し,最適な条件で測定できる。
【0006】
図3は、図2の投光部2の一部を構成し、レーザモジュール内蔵箇所3において内蔵されるレーザモジュールの構成を示す断面図である。
【0007】
半導体レーザ31およびレンズ32はブロック34に固定されている。半導体レーザ31から出射されたレーザ光35はレンズ32で平行光とされ、第1の光軸調整部4(図2)を介してプロセスガス流1に照射される。プロセスガス流1を透過した光は、第2の光軸調整部5(図2)を介して光検出器6内蔵箇所(図2)に内蔵されるフォトダイオード等からなる光検出器で受光され、光量が検出される。プロセスガス流1を透過する際に吸収された光量に基づいて測定対象成分の濃度が演算される。
【0008】
上記レーザモジュールでは、対象プロセスに固定する際に、第1の光軸調整部4にあるベローズ構造を利用して、レーザ光の光軸が手動調整される。検出器側についても同様に第2の光軸調整部5にあるベローズ構造を利用してレーザ光の光軸に対する検出器の角度が手動調整される。
【0009】
レーザガス分析計の先行技術としては下記のような非特許文献1が知られている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】横河技報 Vol.53 No.2 (2010)「レーザガス分析計TDLS200とその産業プロセスへの応用」(田村、南光、高松、松尾)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、従来のレーザガス分析計は、プロセスが稼動し始めると熱変形などにより光軸がずれ、検出器で検出する光量が減るため安定した測定ができないことがあった。
【0012】
本発明は上記従来技術の課題を解決するためになされたもので、プロセス稼動状態において熱変形などがあった場合においても常に光軸を一定に保つことができ、安定した測定ができるレーザガス分析計を実現することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
このような課題を達成するために、本発明のうち請求項1記載の発明は、
測定ガス中にレーザ光を照射し、そのレーザ光の光吸収による光量変化からガス濃度を測定するレーザガス分析計において、
レーザから出射されるレーザ光を平行光にするレンズと、
このレンズから出射されるレーザ光が前記測定ガスを透過した後の光量を検出する検出器と、
前記レンズの焦点位置にある移動平面内で前期レーザを移動するアクチュエータと、
前記検出器からの信号に基づいて前記アクチュエータを駆動するアクチュエータ制御部と
を備えたことを特徴とする。
【0014】
請求項2記載の発明は、
請求項1記載のレーザガス分析計において、
前記移動平面を前記レンズの焦点位置よりわずかに前記レンズに近い位置とすることにより、前記レンズから拡散光が出射するようにしたことを特徴とする。
【0015】
請求項3記載の発明は、
請求項1または2に記載のレーザガス分析計において、
前記アクチュエータにより前記レーザを前記移動平面内の直行する2方向に交互に移動させ、それぞれの方向で最大光量となる位置に制御することを特徴とする。
【0016】
請求項4記載の発明は、
請求項1または2に記載のレーザガス分析計において、
前記アクチュエータにより前記レーザを円軌道上で移動させたとき前記検出器で検出される光量が一定となるよう前記円軌道の中心位置を制御することを特徴とする。
【0017】
請求項5記載の発明は、
請求項1乃至4のいずれかに記載のレーザガス分析計において、
前記レーザを移動する移動周波数は、レーザ波長スキャン周波数に対し十分異なる周波数であることを特徴とする。
【0018】
請求項6記載の発明は、
請求項1乃至5のいずれかに記載のレーザガス分析計において、
前記アクチュエータは超音波モータ方式であることを特徴とする。
【0019】
請求項7記載の発明は、
請求項1乃至5のいずれかに記載のレーザガス分析計において、
前記アクチュエータはボイスコイル方式であることを特徴とする。
【0020】
請求項8記載の発明は、
請求項1乃至5のいずれかに記載のレーザガス分析計において、
前記アクチュエータは高分子アクチュエータ方式であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば以下のような効果がある。
【0022】
すなわち、プロセス稼動状態において熱変形などがあった場合においても、常にレーザの光軸をほぼ一定に保つことができ、安定した測定が実現できる。
【0023】
また、レーザの位置で光軸調整ができるため、ベローズ構造を必要としないので、耐振性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の実施の形態に係るレーザガス分析計の一実施例のレーザモジュールを示す構成横断面図である。
【図2】従来のレーザガス分析計の一例を示す設置構成図である。
【図3】図2のレーザモジュール内蔵箇所3において内蔵されるレーザモジュールの構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下本発明の実施の形態について図面を用いて詳細に説明する。
【0026】
図1は本発明の実施の形態に係るレーザガス分析計の一実施例のレーザモジュールを示す構成横断面図である。図2の従来のレーザガス分析計と異なり、光軸調整部4、5を持たず、レーザモジュールを内蔵する投光部2および光検出器を内蔵する受光部7は取り付けフランジ等を介して対象プロセスに直接固定される。
【0027】
本レーザモジュールにおいて、半導体レーザ11はアクチュエータ13のほぼ中央に固定されており、アクチュエータ13とレンズ12とは、レーザ11の出射面がレンズ12の焦点位置にくるようにブロック14に固定されている。
【0028】
ここで、アクチュエータ13は中央部に穴を有し(図1ではアクチュエータ13の形状を側面から見たときの断面が示されている)、この穴にレーザ11が挿入される。アクチュエータ13は、レーザ11の光軸に垂直な移動平面内で互いに直交する方向に変形するように、例えばX軸方向用とY軸方向用の2種類の信号で駆動される。
【0029】
アクチュエータ制御部16はX軸方向用とY軸方向用の2種類の駆動信号によりアクチュエータ13を駆動する。これらの駆動信号によりアクチュエータはX軸方向とY軸方向に変形し、レーザ11をレンズ12の焦点位置においてレーザ11の光軸と垂直な移動平面(焦点平面)内で移動させる。
【0030】
図1のレーザモジュールを用いたレーザガス分析計の動作を次に説明する。
【0031】
投光部2のレーザ11から出射されたレーザ光は、レンズ12により平行光となり、プロセスガス流1に照射される。プロセスガス流1を透過したレーザ光は受光部7の光検出器で光量が検出される。
【0032】
アクチュエータ制御部16が駆動信号でアクチュエータ13を駆動すると、アクチュエータ13はこの駆動信号によりレーザ11をレンズ12の焦点平面内で移動する。レーザ11の移動に対応して検出器での受光光量が変化するので、この検出結果に基づきレーザ11の位置をさらに制御し、以下これを繰り返す。その際の制御の方法として、次の(1)(2)の動作を繰り返す。
(1)まずレーザ11を一方向(X軸方向)に移動する。その際の受光光量が最大となるレーザ位置を求め、レーザ11の位置をその位置に制御する。
(2)次に(1)で移動した方向に対し直交する方向(Y軸方向)にレーザ11を移動し、(1)と同様にして受光光量が最大になる位置にレーザ11の位置を制御する。
【0033】
ここで、レーザ11を移動する移動周波数は、レーザ波長スキャン周波数に対し十分異なる周波数とする。「十分異なる」とは、移動周波数とレーザ波長スキャン周波数の値が10倍以上異なる場合を言う。
【0034】
また、アクチュエータ制御部16は、上記(1)(2)の動作毎に光量が最大となるX軸/Y軸方向駆動量を一時的に記憶するメモリを備えており、上記(1)(2)のシーケンスを繰り返すことで、レーザ11は常にX軸座標とY軸座標のいずれについても光量が最大となる位置に自動的に調整される。
【0035】
上記のような構成のレーザガス分析計によれば、以下のような利点がある。
【0036】
すなわち、プロセス稼動状態において熱変形などがあった場合においても検出器でのレーザ光の受光光量が最大になる位置にレーザ位置を制御することができるので、常にレーザの光軸を一定に保つことができ、安定した測定が実現できる。
【0037】
また、レーザ位置の変化で光軸調整を行うので、従来のような光軸調整を行うためのベローズ構造を必要とせず、耐振性が向上する。
【0038】
なお、レーザ11をアクチュエータ13により常時円軌道上を回転させ、検出器での受光光量が、光軸が完全にマッチングしている場合の例えば7〜8割の光量で一定となるように円軌道の中心位置を制御することにより、円軌道の中心位置が検出器の中心に合うように光軸調整してもよい。その結果、受光部7(図2)でのレーザ光量変化が少なく、常に安定した測定を実現することができる。これは、円軌道の中心位置が検出器の中心に合っていれば、円軌道上の各位置で検出光量はほぼ一定となるが、円軌道の中心位置が検出器の中心からずれている場合には円軌道上の位置により検出光量が変化することを利用している。
【0039】
また、アクチュエータとして「DSC 用センサースイング方式手ぶれ補正技術の開発(KONICA MINOLTA TECHNOLOGY REPORT VOL.1(2004))」に例示されるような超音波モータ方式や、特開2010−186053号公報に例示されるようなボイスコイル方式を用いれば、入手容易性、コスト低減が期待できる。また、高分子アクチュエータ方式を用いれば小型化が期待できる。
【0040】
また、半導体レーザに限らず、各種のレーザを用いることができる。
【0041】
また、レンズからの出射光は平行光に限らず、測定条件に合わせて拡散光を測定ガスに照射してもよい。この場合は、レンズ12の焦点位置よりわずかにレンズ12に近い位置において、レーザ11の光軸と垂直な移動平面内でレーザ11をアクチュエータ13で移動する。拡散光を用いれば、例えば、太いパイプ内を流れるガス流濃度を測定する場合のように、レーザ−光検出器間の距離が長いときの光軸調整が容易になるメリットがある。ただし、検出感度はレーザ拡散光の拡散の程度に応じて低下する。
【0042】
また、上記の実施例では、アクチュエータは、レーザ11をレンズ12の焦点位置においてレーザ11の光軸と垂直な移動平面(焦点平面)内で移動させたが、これに限らず、レンズ12の焦点位置、またはレンズ12の焦点位置よりわずかにレンズ12に近い位置にある任意の移動平面内でレーザ11を移動してもよい。
【0043】
また、アクチュエータ13は中央部に穴を有する構造に限らず、任意のレーザ取付機構を有する構造を取ることができる。
【0044】
また、本発明は、上記実施例や変形例に限定されることなく、その本質から逸脱しない範囲で更に多くの変更、変形を含むものである。
【符号の説明】
【0045】
1 測定ガス
13 アクチュエータ
16 アクチュエータ制御部
11 レーザ
12 レンズ
15 レーザ光

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定ガス中にレーザ光を照射し、そのレーザ光の光吸収による光量変化からガス濃度を測定するレーザガス分析計において、
レーザから出射されるレーザ光を平行光にするレンズと、
このレンズから出射されるレーザ光が前記測定ガスを透過した後の光量を検出する検出器と、
前記レンズの焦点位置にある移動平面内で前記レーザを移動するアクチュエータと、
前記検出器からの信号に基づいて前記アクチュエータを駆動するアクチュエータ制御部と
を備えたことを特徴とするレーザガス分析計。
【請求項2】
前記移動平面を前記レンズの焦点位置よりわずかに前記レンズに近い位置とすることにより、前記レンズから拡散光が出射するようにしたことを特徴とする請求項1記載のレーザガス分析計。
【請求項3】
前記アクチュエータにより前記レーザを前記移動平面内の直行する2方向に交互に移動させ、それぞれの方向で最大光量となる位置に制御することを特徴とする請求項1または2に記載のレーザガス分析計。
【請求項4】
前記アクチュエータにより前記レーザを円軌道上で移動させたとき前記検出器で検出される光量が一定となるよう前記円軌道の中心位置を制御することを特徴とする請求項1または2に記載のレーザガス分析計。
【請求項5】
前記レーザを移動する移動周波数は、レーザ波長スキャン周波数に対し十分異なる周波数であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載のレーザガス分析計。
【請求項6】
前記アクチュエータは超音波モータ方式であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載のレーザガス分析計。
【請求項7】
前記アクチュエータはボイスコイル方式であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載のレーザガス分析計。
【請求項8】
前記アクチュエータは高分子アクチュエータ方式であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載のレーザガス分析計。

【図1】
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【図3】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−108009(P2012−108009A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−257449(P2010−257449)
【出願日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【出願人】(000006507)横河電機株式会社 (4,443)
【Fターム(参考)】