説明

レーザキャビティ

【課題】 レーザ光の出力の安定化を図り得るレーザキャビティを提供する。
【解決手段】 YAGロッド1と、YAGロッド1に励起光を照射する励起光源2と、YAGロッド1の端部に外嵌し且つ長手方向中間部分に大外径部を有するロッドホルダ3と、各ロッドホルダ3の大外径部に外接し且つロッドホルダ3のYAGロッド1嵌着端寄り部分を周方向に取り囲む筒形状のスペーサ4と、両端部が各スペーサ4に内接し且つYAGロッド1を略全長にわたって周方向に取り囲む長筒形状のフローチューブ5とを備え、スペーサ4にフローチューブ5端部外周面全周に密着するシール部材16を設けて、フローチューブ5の内方の空間14を流通する冷媒S1と外方の空間15を流通する冷媒S2との混合を回避し、冷媒S1の温度を一定に保つ。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明はレーザキャビティに関するものである。
【0002】
【従来の技術】図2乃至図4は従来のレーザキャビティの一例であり、このレーザキャビティは、略水平に配置したYAGロッド1と、該YAGロッド1の両側に平行に配置した励起光源2と、YAGロッド1の各端部にそれぞれ外嵌し且つ長手方向中間部分に大外径部を有する連続異径円筒形状のロッドホルダ3と、各ロッドホルダ3の大外径部に外接し且つ当該ロッドホルダ3のYAGロッド1嵌着端寄り部分を周方向に取り囲む筒形状のスペーサ4と、両端部が各スペーサ4に内接し且つYAGロッド1を略全長にわたり周方向に取り囲む長筒形状のフローチューブ5と、スペーサ4が嵌入され且つ該スペーサ4を介してロッドホルダ3を支持する前後のロッドホルダブロック6と、該ロッドホルダブロック6の両側に接し且つ励起光源2両端近傍部分を周方向に取り囲む流路ブロック7と、各ロッドホルダブロック6と流路ブロック7とに接し且つYAGロッド1及び左右の励起光源2の長手方向中間部分を周方向に取り囲むリフレクタ8と、これらの各構成部材を内装するボックス構造のキャビティ本体9と、各ロッドホルダ3に接続され且つキャビティ本体9を貫通して外部へ突出する光路筒10とを備えている。
【0003】フローチューブ5は、励起光源2が発する励起光がYAGロッド1の外周面に入射するように、ガラスによって形成されている。
【0004】各ロッドホルダブロック6及びスペーサ4には、スペーサ4の内周面とロッドホルダ3の外周面の間の空隙からキャビティ本体9の底面へ向かって延びる流路13が穿設されている。
【0005】流路ブロック7は、励起光源2の外周面下側半分に空隙を隔てて対峙する下側ブロック7a、並びに励起光源2の外周面上側半分に空隙を隔てて対峙する上側ブロック7bで構成されている。
【0006】リフレクタ8は、YAGロッド1と励起光源2の外周面下側半分に空隙を隔てて対峙する下側ブロック8a、並びにYAGロッド1と励起光源2の外周面上側半分に空隙を隔てて対峙する上側ブロック8bで構成され、YAGロッド1軸線方向に見て2つの楕円が重なり合った閉断面形状の反射面Rを形成している。
【0007】キャビティ本体9の底部には、各ロッドホルダブロック6の流路13に連なる2つの開口11と、各励起光源2の端部近傍を貫通する4つの開口12とが穿設されている。
【0008】図2乃至図4に示すレーザキャビティでは、励起光源2からYAGロッド1へ励起光を照射すると、YAGロッド1の両端部から波長1064nmの光が放出される。
【0009】この波長1064nmの光は、キャビティ本体9の外部に配置され且つYAGロッド1の一端に正対するリアミラー、及びキャビティ本体9の外部に配置され且つYAGロッド1の他端に正対するフロントミラーで構成される共振器(図示せず)により、YAGロッド1への入出射を繰り返した後、フロントミラーから基本波レーザ光として出射される。
【0010】基本波レーザ光の出射にあたっては、キャビティ本体9のYAGロッド1一端寄りに位置している開口11,12へ冷媒S1,S2を連続的に送給する。
【0011】開口11に送給される冷媒S1は、ロッドホルダブロック6の流路13、及びスペーサ4内周面とロッドホルダ3外周面の間の空隙を経て、フローチューブ5内周面とYAGロッド1外周面の間の空間14へ流入し、YAGロッド1を冷却する。
【0012】YAGロッド1を冷却した冷媒S1は、YAGロッド1他端寄りのスペーサ4内周面とロッドホルダ3外周面の間の空隙、及びロッドホルダブロック6の流路13を経た後、キャビティ本体9のYAGロッド1他端寄りに位置している開口11から外部へ流出する。
【0013】また、開口12に送給される冷媒S2は、流路ブロック7と励起光源2外周面の間の空隙を経て、リフレクタ8の反射面Rとフローチューブ5外周面の間の空間15に流入し、励起光源2を冷却する。
【0014】励起光源2を冷却した冷媒S2は、YAGロッド1他端寄りの流路ブロック7と励起光源2外周面の間の空隙を経て、キャビティ本体9のYAGロッド1他端寄りに位置している開口12から外部に流出する。
【0015】上記の冷媒S1,S2は、同一のポンプ(図示せず)からキャビティ本体9のYAGロッド1一端寄りの開口11,12に対して送給される。
【0016】また、キャビティ本体9のYAGロッド1他端寄りの開口11,12から外部へ流出する冷媒S1,S2は、熱交換器により除熱されて、前記のポンプへ流入する。
【0017】更に、冷媒S1,S2には、励起光源2の端子への通電が確保されるように、純水を用いている。
【0018】このようなレーザキャビティを組み込んだ固体レーザ発生装置により得られる基本波レーザ光の出力の安定化を図るためには、YAGロッド1を冷却する冷媒S1の温度を、たとえば、25℃程度に一体に保つ必要がある。
【0019】
【発明が解決しようとする課題】ところが、図2乃至図4R>4に示すレーザキャビティにおいては、空間14を流通してYAGロッド1を冷却すべき冷媒S1、及び空間15を流通して励起光源2を冷却すべき冷媒S2が、フローチューブ5端部外周面とスペーサ4の内周面との間隙を介して混ざり合い、空間14での冷媒S1の温度が高くなる傾向を呈し、基本波レーザ光の出力が低下することがある。
【0020】本発明は上述した実情に鑑みてなしたもので、レーザ光の出力の安定化を図り得るレーザキャビティを提供することを目的としている。
【0021】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するため、本発明の請求項1に記載のレーザキャビティでは、固体レーザ媒質ロッドと、該固体レーザ媒質ロッドに対して励起光を照射する励起光源と、固体レーザ媒質ロッドの各端部に外嵌し且つ長手方向中間部分に大外径部を有するロッドホルダと、各ロッドホルダの大外径部に外接し且つ当該ロッドホルダの固体レーザ媒質ロッド嵌着端寄り部分を周方向に取り囲む筒形状のスペーサと、両端部が各スペーサに内接し且つ固体レーザ媒質ロッドを略全長にわたり周方向に取り囲む長筒形状のフローチューブとを備え、フローチューブ内方、並びに外方にそれぞれ冷媒を流通させるようにしたレーザキャビティにおいて、各スペーサのそれぞれにフローチューブ端部外周面全周に密着するシール部材を設けている。
【0022】本発明の請求項2に記載のレーザキャビティでは、本発明の請求項1に記載のレーザキャビティの構成に加えて、フローチューブ内方へ冷媒を送給する第1の冷媒供給源と、フローチューブ外方へ冷媒を送給する第2の冷媒供給源とを備えている。
【0023】本発明の請求項1あるいは請求項2に記載のレーザキャビティのいずれにおいても、フローチューブ端部外周面と各スペーサ内周面との間に介在させたシール部材によりフローチューブ内方の冷媒流路とフローチューブ外方の冷媒流路との分離を図る。
【0024】本発明の請求項2に記載のレーザキャビティにおいては、フローチューブ内方及び外方に、それぞれ異なる冷媒供給源から冷媒を送給させて、フローチューブ内方を流通する冷媒、並びにその供給源の熱負荷の軽減を図る。
【0025】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施の形態を、図示例とともに説明する。
【0026】図1は本発明のレーザキャビティの実施の形態の一例であり、図中、図2乃至図4と同一の符号を付した部分は同一物を表わしている。
【0027】このレーザキャビティでは、スペーサ4のフローチューブ5嵌着部分に、当該フローチューブ5外周面に密着する環状のシール部材16を設け、更に、ロッドホルダ3の大外径部に、スペーサ4内周面に密着する環状のシール部材17を設けている。
【0028】また、フローチューブ5内方の空間14に冷媒S1を流通させるための第1の冷媒供給源21、及びリフレクタ8の反射面R(図4参照)とフローチューブ5外周面の間の空間15に冷媒S2を流通させるための第2の冷媒供給源22を、キャビティ本体9(図3及び図4参照)の外部に設置している。
【0029】第1の冷媒供給源21は、キャビティ本体9のYAGロッド1一端寄りに位置している開口11(図3参照)へ冷媒S1を連続的に送給するポンプ21aと、キャビティ本体9のYAGロッド1他端寄りに位置している開口11から外部へ流出する冷媒S1を除熱したうえ、ポンプ21aへ送給する熱交換器21bとで構成されている。
【0030】第2の冷媒供給源22は、キャビティ本体9のYAGロッド1一端寄りに位置している開口12(図3参照)へ冷媒S2を連続的に送給するポンプ22aと、キャビティ本体9のYAGロッド1他端寄りに位置している開口12から外部へ流出する冷媒S2を除熱したうえ、ポンプ22aへ送給する熱交換器22bとで構成されている。
【0031】基本波レーザ光の出射にあたっては、第1の冷媒供給源21及び第2の冷媒供給源22の双方を作動させる。
【0032】ポンプ21aから送出される冷媒S1は、キャビティ本体9のYAGロッド1一端寄りに位置している開口11、ロッドホルダブロック6の流路13、並びにスペーサ4内周面とロッドホルダ3外周面の間の空隙を経て、フローチューブ5内方の空間14へ流入し、YAGロッド1を冷却する。
【0033】YAGロッド1を冷却した冷媒S1は、YAGロッド1他端寄りのスペーサ4内周面とロッドホルダ3外周面の間の空隙、及びロッドホルダブロック6の流路13を経た後、キャビティ本体9のYAGロッド1他端寄りに位置している開口11から外部へ流出し、熱交換器21bにより除熱されたうえ、ポンプ21aに送給される。
【0034】ポンプ22aから送出される冷媒S2は、キャビティ本体9のYAGロッド1一端寄りに位置している開口12、並びに流路ブロック7と励起光源2外周面の間の空隙を経て、リフレクタ8の反射面Rとフローチューブ5外周面の間の空間15に流入し、励起光源2を冷却する。
【0035】励起光源2を冷却した冷媒S2は、YAGロッド1他端寄りの流路ブロック7と励起光源2外周面の間の空隙を経て、キャビティ本体9のYAGロッド1他端寄りに位置している開口12から外部に流出し、熱交換器22bにより除熱されたうえ、ポンプ22aに送給される。
【0036】このとき、フローチューブ5端部外周面と各スペーサ4内周面の間に介在するシール部材16、並びにロッドホルダ3の大外径部分外周面とスペーサ4内周面の間に介在するシール部材17により、フローチューブ5内方の空間14と外方の空間15が完全に分離されているので、冷媒S1,S2が混ざり合わず、冷媒S1の温度を一定に保たれ、基本波レーザ光の出力の安定化が図られる。
【0037】また、空間14での冷媒S1の温度上昇が抑制され、冷媒S1及び第1の冷媒供給源21の熱負荷の軽減が図られる。
【0038】更に、冷媒S1が励起光源2の端子に触れないので、当該冷媒S1に純水以外のものを適用することが可能になる。
【0039】なお、本発明のレーザキャビティは上述した実施の形態のみに限定されるものではなく、YAGロッド以外の他の固体レーザ媒質ロッドを用いた構成とすること、過大な熱負荷が想定されない場合において、フローチューブの内外の空間に単一の冷媒供給源から純水を冷媒として送給させる構成とすること、その他、本発明の要旨を逸脱しない範囲において変更を加え得ることは勿論である。
【0040】
【発明の効果】以上述べたように、本発明のレーザキャビティによれば、下記のような種々の優れた効果を奏し得る。
【0041】(1)本発明の請求項1あるいは請求項2に記載のレーザキャビティのいずれにおいても、フローチューブ端部外周面と各スペーサ内周面との間にシール部材を介在させ、フローチューブ内方を流通する冷媒とフローチューブ外方を流通する冷媒が混ざり合わないようにしているので、固体レーザ媒質ロッドを冷却するための冷媒の温度を一定に保つことができ、よって、レーザ光の出力の安定化を図ることが可能になる。
【0042】(2)フローチューブの内外の冷媒流路が完全に分離しているので、両流路に種類の異なる冷媒を流通させることができる。
【0043】(3)本発明の請求項2に記載のレーザキャビティにおいては、フローチューブ内方及び外方に、それぞれ異なる冷媒供給源から冷媒を送給させているので、フローチューブ内方を流通する冷媒、並びにその供給源の熱負荷の軽減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のレーザキャビティの実施の形態の一例を示す平面図である。
【図2】従来のレーザキャビティの一例を示す平面図である。
【図3】図2のIII−III矢視図である。
【図4】図2のIV−IV矢視図である。
【符号の説明】
1 YAGロッド(固体レーザ媒質ロッド)
2 励起光源
3 ロッドホルダ
4 スペーサ
5 フローチューブ
16 シール部材
21 第1の冷媒供給源
22 第2の冷媒供給源
S1 冷媒
S2 冷媒

【特許請求の範囲】
【請求項1】 固体レーザ媒質ロッドと、該固体レーザ媒質ロッドに対して励起光を照射する励起光源と、固体レーザ媒質ロッドの各端部に外嵌し且つ長手方向中間部分に大外径部を有するロッドホルダと、各ロッドホルダの大外径部に外接し且つ当該ロッドホルダの固体レーザ媒質ロッド嵌着端寄り部分を周方向に取り囲む筒形状のスペーサと、両端部が各スペーサに内接し且つ固体レーザ媒質ロッドを略全長にわたり周方向に取り囲む長筒形状のフローチューブとを備え、フローチューブ内方、並びに外方にそれぞれ冷媒を流通させるようにしたレーザキャビティにおいて、各スペーサのそれぞれにフローチューブ端部外周面全周に密着するシール部材を設けたことを特徴とするレーザキャビティ。
【請求項2】 フローチューブ内方へ冷媒を送給する第1の冷媒供給源と、フローチューブ外方へ冷媒を送給する第2の冷媒供給源とを備えた請求項1に記載のレーザキャビティ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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