説明

レーザスポット溶接方法

【課題】この発明はレーザ溶接の欠点である溶接スポット1打点当たりの溶接強度が低いための解消策である多点溶接を簡便な装置で短時間に効率よく溶接作業が可能である安全で、高品質のレーザ溶接方法を提案する。
【解決手段】2枚重ねた金属材料板の被溶接物(W)にレーザ光照射ノズル(1)を押圧し、封鎖ガス室(7)を形成し、偏心軸(16)の回転で揺動板(15)が作動してレーザ光照射ユニット(14)を回転揺動し、円弧状に溶接ナゲットを複数個形成した後、封鎖ガス、溶融ガス、およびヒュームを排出するレーザスポット溶接方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は金属材料のレーザスポット溶接方法に係り、特に金属材料を2枚重ねて、スポット状の溶接部を形成し、かつ金属材料表面の美麗さを維持するレーザスポット溶接方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、各種金属材料の板の結合には2枚の被溶接物を重ねて、上下電極で挟み、加圧、通電して溶接する抵抗溶接が用いられてきた。しかし、抵抗溶接での溶接部は溶接時の熱容量が大きいためなどで溶接痕が付き、更に溶接裏面の材料の表面が変色するなど美観上の難点がある。そこで、材料の表面を美麗に保持できる溶接方法としてレーザ溶接での結合が多く活用されている。
【0003】
しかし、レーザ溶接でのスポット状の溶接、つまり溶接各打点の1点での強度は、レーザ溶接の特性上から抵抗溶接の1打点に比較し、著しく低い。たとえば、板厚0.8mmの圧延鋼板の抵抗溶接の1打点での引張せん断強度はJISで定めたA級では3kN程度である。このときの溶着部の径すなわちナゲットの径は約4.5mmである。これに対し、レーザ溶接でのスポット1打点でのナゲット径は1mm以下であり、溶接強度は抵抗溶接の1/10にも満たない。
【0004】
そこで、レーザ溶接でのスポット打点では、一般的に小面積部に複数個の溶着部つまり複数個のナゲットを生成し溶接強度を確保する手段が用いられている。(特許文献1、2参照)
【0005】
先に本願の発明者等は特許文献3でレーザ光照射ノズルを被溶接物に押圧してシールドガスをレーザ光照射ノズル内に封鎖し、溶接時に発生するヒュームや溶融ガスをシールドガスと同時に排出することなどで、被溶接物の表面を美麗のまま保持でき、作業上も安全な金属材料のレーザスポット溶接方法を提案してきた。
【0006】
しかし、前述したように小面積部に多数のナゲットがあれば溶接強度を確保できるが、少数個のレーザスポット打点数では必要な溶接強度を確保できない。そこで、多数のレーザスポット打点のナゲットを簡便な装置で、如何に速く形成するかが課題である。特許文献3を更に進展させ、溶接強度も確保でき、かつ材料表面の美麗さも維持できるレーザスポット溶接方法を本発明にて提案する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−62575号公報
【特許文献2】特開2007−253179号公報
【特許文献3】特許第4721019号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明はレーザ溶接の欠点である溶接スポット1打点当たりの溶接強度が低いための解消策である多点溶接を簡便な装置で短時間に効率よく溶接作業が可能である安全で、高品質のレーザ溶接方法を提案する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は次の構成により上記課題を解決する。
<構成1>
2枚の金属板を載置した板状基台の上部を移動するノズルホルダの先端部に保持されたレーザ光照射ノズルのハウジングの上部にレーザ光照射ユニットを配置し、前記レーザ光照射ユニットは2つの偏心軸の回転で揺動する揺動板の作動で回転揺動し、1回の回転揺動で前記レーザ光照射ユニットから複数回、照射されたレーザ光は円弧状に複数個のナゲットを形成することを特徴とする金属板のレーザスポット溶接方法。
【0010】
<構成2>
前記レーザ光照射ユニットを前記板状基台の面に対し直角から任意の角度だけ傾斜させ、前記レーザ光照射ノズルの前記ハウジングも同じく直角から任意の角度だけ傾斜したことを特徴とする構成1記載のレーザスポット溶接方法。
【0011】
<構成3>
前記レーザ光照射ノズルの封鎖部材を金属板に押圧し、封鎖ガス室を形成し、前記封鎖ガス室内に噴出孔から封鎖ガスを注入し、封鎖ガスを充満させ、レーザ光照射による溶着部を形成後、前記レーザ光照射ノズルの前記ハウジングの先端近傍の排出孔から封鎖ガス、溶融ガス、およびヒュームを排出することを特徴とする構成1記載のレーザスポット溶接方法。
【0012】
<構成4>
前記レーザ光照射ノズル内の圧力変化を検知してレーザビームの漏れを検出することを特徴とする構成1記載のレーザスポット溶接方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明はレーザ溶接の欠点である溶接スポット1打点当たりの溶接強度が低いための解消策である多点溶接を簡便な装置で短時間に効率よく溶接作業が可能で、材料表面の美麗さを保持しつつ、危険性がなく安全で、高品質のレーザ溶接が確保できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の溶接方法を実施する装置の実施例であり、一部を断面で示す説明図である。
【図2】同実施例の概要を示す斜視図である。
【図3】同実施例のレーザ光照射ノズルの部分を断面で示す説明図である。
【図4】同実施例の揺動機構を示し、(a)は二つの偏心軸など一部が断面の左側面図で、(b)はノズルホルダに取り付いた状態の正面図である。
【図5】被溶接物の溶接打点の位置の2つの例(a)、(b)を示す図である。
【図6】同実施例におけるスポット1打点目と2打点目を示す説明図である。
【図7】図6の一部を拡大して揺動機構によるレーザ溶接スポット打点位置の変動を明示した説明図である。
【図8】レーザ溶接の一連の動作を示すフローチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1〜図8は本発明に係るレーザ溶接機(20)の説明図である。
【0016】
添付する図を用いて実施例を説明すると、次のとおりである。
【実施例1】
【0017】
本発明の実施例1を図1に示す。
本発明では、作業者の1回の操作で図5に示すような複数個のナゲットを形成する溶接方法であり、これに関連する内容を以下に説明する。
【0018】
最初に本発明の溶接方法を実施する装置であるレーザ溶接機(20)の基本的な構成を説明する。
【0019】
レーザ光照射ユニット(14)を装備したレーザ光照射ノズル(1)はノズルホルダ(2)の先端部に保持される。このレーザ光照射ノズル(1)のハウジンング(12)の内部でレーザ光照射ユニット(14)からレーザ光が照射され、レーザ溶接が実施される。レーザ光照射ノズル(1)とその上部に配置されたレーザ光照射ユニット(14)は被溶接物(W)を載置する板状基台(5)の面に対し、レーザ光照射ユニットを前記板状基台の面に対し直角から任意の角度だけ傾斜させている。つまり、板状基台(5)の面に対し、レーザ光が直角から任意の角度だけ傾斜している。レーザ光照射ユニット(14)は図2、図3に示すように、レーザ光照射ノズル(1)とは分離していて、焦点調整機構(18)を介して揺動板(15)に結合されており、揺動機構(4)の二つの偏心軸(16)の回転で揺動する揺動板(15)と共に円弧状に回転揺動する。偏心軸(16)は配備した駆動モータ(17)とアイドルギヤにより同期して同じ方向に回転するよう構成している。また、封鎖部材(11)で被溶接物(W)を押圧して封鎖ガス室(7)を形成し、レーザ光照射ノズル(1)内に噴出孔(121)から噴射された封鎖ガスを封入し、溶接後に封鎖ガス、溶融ガスやヒュームを排出孔(122)から排出するのは特許文献3と同様である。実施例では、焦点調整機構(18)として、レーザ光の焦点を調整するため、レーザ光照射ユニット(14)がツマミネジで上下に摺動する方式を取り入れている。
【0020】
次に、添付する図を用いてレーザスポット溶接の動作を説明する。
【0021】
最初に、作業者は図1の取っ手(19)を操作し、ノズルホルダ(2)を溶接個所に移動し、レーザ光照射ノズル(1)を2枚重ねした金属材料板の被溶接物(W)に押付ける。
【0022】
溶接スイッチの作動で封鎖ガスが注入され、また、ノズルホルダ(2)の上部にある加圧シリンダ(8)の作動でレーザ光照射ノズル(1)が被溶接物(W)を加圧し、封鎖ガスの密閉で十分なシールド状態が保持され、レーザ光照射ユニット(14)から、レーザ光が照射される。このとき、駆動モータ(17)が回転作動し、2つの偏心軸(16)が同期して同方向に回転する。すると、揺動板(15)も同時に揺動して、揺動板(15)と結合したレーザ光照射ユニット(14)も回転揺動し円弧運動する。この揺動機構(4)の1回の回転揺動で複数回のレーザ光が照射され、図5(a)、(b)のように予め設定された複数個のスポット打点のナゲットが生成される。図6はレーザ光照射の1打点目と2打点目のレーザ光の位置の相違の構造を示している。このときの偏心軸(16)と揺動板(15)の位置の間隙をH1、H2として図7のA1、A2に拡大して示している。このH1、H2の寸法の違いにより揺動板(15)の位置が変動する。偏心軸(16)の位置が図に向かって右にあるH1より左にあるH2寸法が大きく、この結果、レーザ光照射の打点位置が異なり、複数個のスポット打点のナゲットが生成される。この揺動機構(4)によりレーザ光照射ユニット(14)は、レーザ光照射ノズル(1)が被溶接物(W)に押圧し固定した状態で、板状基台(5)に平行に揺動し、レーザ光の焦点距離を一定に保ったままで連続的に複数個のナゲットを形成できる。
また、この揺動機構(4)での更なる利点は、レーザ光照射ユニット(14)の単純な回転の時に発生するファイバーケーブル(3)のからまりはこの揺動機構(4)では発生しないことである。
次に、溶接後、レーザ光照射ノズル(1)内では溶接後の封鎖ガス、溶融ガスやヒュームをハウジング(12)の先端近傍の排出孔(122)から排出する。
【0023】
レーザ光照射ノズル(1)とその上部に配置されたレーザ光照射ユニット(14)は図3に示すように被溶接物(W)を載置する板状基台(5)の面に対し、レーザ光が直角か、または、任意の角度だけ傾斜している。任意の角度だけ傾斜させる目的は、レーザ光の直接の反射を防止すると共に溶接ナゲット径を拡大し、溶接強度を増強している。また、図3のような折曲げのある被溶接物(W)の曲げ元に極力接近することを可能にしている。図1、図3ではこの傾斜角を15度に設定した事例である。
【0024】
レーザ光は直接目に当たると非常に危険である。そのため、本発明ではレーザ光照射ノズル(1)を被溶接物(W)に押圧し、封鎖ガス室(7)を形成し、更に、封鎖ガス室(7)内の圧力変化を検知し、レーザビームのレーザ光照射ノズル(1)外部への漏洩を防止している。これは、特許文献3と同様である。また、上部からのレーザ光の漏洩を防止するため図1の二点鎖線で示すレーザ光遮断カバー(6)を取り付けている。
【0025】
次に、作業者はノズルホルダ(2)を次の溶接個所に移動し、連続してレーザ溶接を実施し、完了する。図8はレーザ溶接の一連の動作を示すフローチャート図である。また、実施例1では作業者がノズルホルダ(2)を手動で操作する方式としたが、数値制御による自動化装置にすることは当然ながら、可能である。
【産業上の利用可能性】
【0026】
従来のレーザスポット溶接に対し、偏心軸など簡単な揺動機構の追加で、多点溶接を簡便に実施でき、外観の美麗さを保持しつつ、溶接強度の得られる安全で高品質のレーザスポット溶接に適用できる。
【符号の説明】
【0027】
1 レーザ光照射ノズル
2 ノズルホルダ
3 ファイバーケーブル
4 揺動機構
5 板状基台
6 レーザ光遮断カバー
7 封鎖ガス室
8 加圧シリンダ
9 アーム
11 封鎖部材
12 ハウジング
14 レーザ光照射ユニット
15 揺動板
16 偏心軸
17 駆動モータ
18 レーザ光焦点調整機構
19 取っ手
20 レーザ溶接機
121 噴出孔
122 排出孔
W 被溶接物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属板を載置した板状基台の上部を移動するノズルホルダの先端部に保持されたレーザ光照射ノズルのハウジングの上部にレーザ光照射ユニットを配置し、
前記レーザ光照射ユニットは2つの偏心軸の回転で揺動する揺動板の作動で回転揺動し、
1回の回転揺動で前記レーザ光照射ユニットから複数回、照射されたレーザ光は円弧状に複数個のナゲットを形成することを特徴とする金属板のレーザスポット溶接方法。
【請求項2】
前記レーザ光照射ユニットを前記板状基台の面に対し直角から任意の角度だけ傾斜させ、前記レーザ光照射ノズルの前記ハウジングも同じく直角から任意の角度だけ傾斜したことを特徴とする請求項1記載のレーザスポット溶接方法。
【請求項3】
前記レーザ光照射ノズルの封鎖部材を前記金属板に押圧し、封鎖ガス室を形成し、前記封鎖ガス室内に噴出孔から封鎖ガスを注入し、封鎖ガスを充満させ、レーザ光照射による溶着部を形成後、前記レーザ光照射ノズルの前記ハウジングの先端近傍の排出孔から封鎖ガス、溶融ガス、およびヒュームを排出することを特徴とする請求項1記載のレーザスポット溶接方法。
【請求項4】
前記レーザ光照射ノズル内の圧力変化を検知してレーザビームの漏れを検出することを特徴とする請求項1記載のレーザスポット溶接方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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