説明

レーザレーダシステム,及び取付方法

【課題】自動車に取り付けられるレーザレーダにおいて、モレ光の影響でゴーストが物体として検出されることの低減。
【解決手段】レーザレーダシステム1は、レーザレーダ10と、処理済部材80とを備える。レーザレーダ10は、レンズを含む光学素子を介して、規定角度範囲LA,RAに渡ってレーザ光を照射し、反射されたレーザ光を受光することで物体を検知する。処理済部材80は、レーザレーダ10が取り付けられる自動車における外表面のうち、モレ範囲LE,REと重複する外表面の範囲に反射率を低減させる反射率低減処理が施された部材である。モレ範囲LE,REとは、規定角度範囲LA,RAへのレーザ光の照射に伴って、当該規定角度範囲LA,RAに照射されるレーザ光の強度よりも強度が小さいレーザ光が照射される範囲であり、規定角度範囲LA,RAに隣接する範囲である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ光を出力して受光した結果に基づいて物体を検出するレーザレーダシステム、及びレーザレーダの取付方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車に搭載されるレーザレーダであって、基準軸を中心に含む規定角度範囲にレーザ光を照射する発光部と、物体にて反射したレーザ光を受光する受光部と、発光部で照射したレーザ光、及び受光部で受光したレーザ光に基づいて、レーザ光を反射した物体までの距離及び物体が存在する方位を検出する制御部とを備えたレーザレーダが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
この種のレーザレーダでは、一般的に、発光部は、レーザ光を出力するレーザダイオードと、レーザダイオードで出力したレーザ光を、規定角度範囲内に集束または拡散させるレンズを中心とした光学素子とを備えている。一方、受光部は、受光した反射光の強度に応じたレベルの信号を出力する少なくとも1つの光検出器を備え、制御部は、光検出器から出力される信号のレベルが、予め規定された閾値以上であれば、規定角度範囲内に物体が存在するものと判定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−103482号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述したような発光部が発光するレーザ光は、レンズ表面やレンズ内で乱反射することもあり、図7に示すように、規定角度範囲を挟む範囲であるモレ範囲にも照射される。
【0006】
ここで、図8は、光検出器からの信号レベルに基づいて、制御部が物体を検出する過程を時系列に沿って示した図であり、図8(A)は、モレ範囲内に反射率の高い物体(例えば、水滴)が存在していない場合の信号レベルを示した図であり、図8(B)は、モレ範囲内に反射率の高い物体(例えば、水滴、以下、高反射物体と称す)が存在している場合の信号レベルを示した図である。
【0007】
通常、モレ範囲に照射されるレーザ光の強度は、規定角度範囲内に照射されるレーザ光の強度に比べて弱い。このため、高反射物体がモレ範囲内に存在していない場合には、図8(A)に示すように、モレ範囲からの反射光(即ち、レーザ光)βは、強度が閾値未満であり、規定角度範囲に存在する物体での反射光αとは異なり物体として検出されない。
【0008】
しかしながら、高反射物体がモレ範囲内に存在する場合、図8(B)に示すように、その高反射物体で反射したレーザ光β'は、強度が閾値以上となり、規定角度範囲内には実在しない物体(ゴースト)を、規定角度範囲内に存在する物体として誤検出するという問題がある。
【0009】
この問題は、レーザ光が照射されるモレ範囲が、自動車の外殻を構成する外装部品(バンパーなど)の一部に重複するように、レーザレーダが自動車に取り付けられると生じやすい。
【0010】
そこで、本発明は、自動車に取り付けられるレーザレーダにおいて、ゴーストが物体として検出されることを低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するためになされた第一発明は、レーザレーダと、低減処理部材とを備えるレーザレーダシステムに関する。
この第一発明のレーザレーダシステムにおいて、レーザレーダは、レンズを含む光学素子を介して、少なくとも1つの規定角度範囲に渡ってレーザ光を照射する発光部と、反射したレーザ光を受光する受光部と、発光部で照射したレーザ光及び受光部で受光したレーザ光の強度に基づいて、該レーザ光を反射した物体を検知する物体検知部とを有する。
【0012】
そして、低減処理部材は、自動車の外周の少なくとも一部に沿って規定された範囲である規定照射範囲に規定角度範囲が重なるようにレーザレーダが取り付けられる自動車における外表面のうち、少なくともモレ範囲と重複する外表面の範囲に反射率を低減させる反射率低減処理が施された部材である。
【0013】
なお、モレ範囲とは、規定角度範囲へのレーザ光の照射に伴って、当該規定角度範囲に照射されるレーザ光の強度よりも強度が小さいレーザ光が照射される範囲であり、規定角度範囲に隣接する範囲である。
【0014】
第一発明のレーザレーダシステムでは、自動車の外表面のうち、モレ範囲と重複する外表面の範囲に反射率低減処理が施されるため、図8(C)に示すように、モレ範囲からの反射光B''の強度が低下する。この結果、本発明によれば、高反射物体(即ち、水滴)がモレ範囲内に存在していたとしても、ゴーストを、規定角度範囲内に存在する物体として誤検出することを低減できる。
【0015】
そして、第一発明における低減処理部材は、反射率低減処理として、表面に撥水加工が施されたシート状の部材であっても良い(請求項2)。
このような第一発明であれば、自動車の外殻を構成する既存の部材である外装部品に、低減処理部材としてのシート状の部材を取り付けることで、当該外装部品の表面に水滴が付着することを低減できる。この結果、本発明によれば、大きい強度の反射光がモレ範囲から到達することを低減でき、モレ範囲内に存在する水滴(即ち、ゴースト)が、規定角度範囲内に存在する物体として誤検出されることを低減できる。
【0016】
また、第一発明における低減処理部材は、反射率低減処理として撥水処理が施された、自動車の外表面を構成する外装部品であっても良い(請求項3)。
このような第一発明であれば、既存の外装部品に撥水処理を施すことで、低減処理部材として機能させることができる。この結果、当該外装部品の表面に水滴が付着することを低減できる。
【0017】
ところで、見通しの悪い交差点などに自車両が進入する際に、該交差点を通行する他車両などの状況を確認する状況確認システムが考えられている。この状況確認システムにおいては、交差点を通行する他車両などを検知する構成が必要であり、この構成として、自車両の進行方向に対する左右の少なくとも一方の範囲が規定角度範囲となるレーザレーダを用いることが考えられる。
【0018】
この場合、レーザレーダは、自動車の前方に設置されたナンバープレートの背面に、少なくとも規定角度範囲よりも自車両の車体側にモレ範囲が形成されるように取り付けられていても良い(請求項4)。
【0019】
そして、レーザレーダの取付位置をナンバープレートの背面とすれば、自動車の製造段階に限らず、自動車が完成した後からでも、レーザレーダを自動車に容易に取り付けることができる。この結果、状況確認システムについても、自動車が完成した後に容易に搭載可能となる。
【0020】
前述のように、自動車の前方に設置されたナンバープレートの背面にレーザレーダが固定されると、レーザレーダのモレ範囲は、自動車の前方に設置されるバンパーの一部分と重なる可能性が高い。
【0021】
このため、本発明において、反射率低減処理を施す部材は、自動車の前方に設置されるバンパーであることが好ましい(請求項5)。
レーザレーダにおける受光部が、受光した反射光の強度に応じたレベルの信号を出力する少なくとも2つ以上の光検出器が、直線上に隣接して配置されることで構成されている場合、その受光部は、モレ範囲からの反射光(即ち、レーザ光)を受光部にて受光しやすい。この場合、物体検知部が、反射光を受光した各光検出器の配置位置に応じて、物体の方位を検知するように構成されている(請求項6)と、規定角度範囲内には実在しない物体(即ち、ゴースト)を、規定角度範囲内に存在する物体として誤検出する可能性が高い。
【0022】
しかしながら、上述したようなレーザレーダを有したレーザレーダシステムに本発明を適用すれば、ゴーストを、規定角度範囲内に存在する物体として誤検出することをより確実に低減できる。
【0023】
上記目的を達成するためになされた第二発明は、発光部と、受光部と、物体検知部とを有したレーザレーダを自動車に取り付ける取付方法に関する。
第二発明の取付方法では、取付工程にて、自動車の外周に沿って規定された範囲である規定照射範囲に規定角度範囲が一致するように、レーザレーダを自動車に取り付ける。そして、処理実行工程にて、取付工程にてレーザレーダが取り付けられる自動車における外殻を構成する外装部品のモレ範囲と重複する範囲に、反射率を低減させる反射率低減処理を実行する(請求項7)。
【0024】
ただし、ここで言うモレ範囲とは、規定角度範囲へのレーザ光の照射に伴って、当該規定角度範囲に照射されるレーザ光の強度よりも強度が小さいレーザ光が照射される範囲であり、規定角度範囲に隣接する範囲である。
【0025】
このような取付方法によって自動車に取り付けられたレーザレーダによれば、モレ範囲からの反射光の強度を低下させることができる。この結果、モレ範囲内に実在しない物体、即ち、ゴーストを、規定角度範囲内に存在する物体として誤検出することを低減できる。
【0026】
第二発明において、処理実行工程では、表面が撥水加工されたシート状の部材の取り付けを、反射率低減処理として実行しても良い(請求項8)。
このようなレーザレーダの取付方法によれば、高い反射率を有する水滴が自動車の外装部品(モレ範囲に重複する部位)に付着することを低減できる。この結果、大きい強度の反射光がモレ範囲から到達することを低減でき、ゴーストを、規定角度範囲内に存在する物体として誤検出することをより確実に低減できる。
【0027】
また、処理実行工程では、撥水処理を、反射率低減処理として実行しても良い(請求項9)。
このようなレーザレーダの取付方法によれば、高い反射率を有する水滴が自動車の外装部品(モレ範囲に重複する部位)に付着することを低減できる。
【0028】
第二発明における取付工程では、自車両の進行方向に対する左右の少なくとも一方の範囲を、規定照射範囲とし、少なくとも規定角度範囲よりも自車両の車体側にモレ範囲が形成されるように、自動車の前方に設置されたナンバープレートの背面に、レーザレーダを取り付けても良い(請求項10)。
【0029】
このようなレーザレーダの取付方法によれば、自動車の製造段階に限らず、自動車が完成した後であっても、自動車に容易にレーザレーダを取り付けることができる。この結果、状況確認システムについても、自動車が完成した後に容易に搭載可能となる。
【0030】
前述のように、自動車の前方に設置されるナンバープレートの背面にレーザレーダが固定されると、レーザレーダのモレ範囲は、自動車の前方に設置されるバンパーの一部の範囲と重なる可能性が高い。
【0031】
このため、本発明においては、自動車の前方に設置されるバンパーに、反射率低減処理を実行することが好ましい(請求項11)。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明が適用されたレーザレーダシステムが搭載された自動車を示す図である。
【図2】レーザレーダの取付構造を示す図である。
【図3】レーザレーダの概略構成を示すブロック図である。
【図4】発光部及び受光部の概略構成を示すブロック図であり、図4(A)は、発光部の概略構成を示す図であり、図4(B)は、受光部の概略構成を示す図である。
【図5】発光部からレーザ光が照射される規定角度範囲及びモレ範囲を示す図である。
【図6】実施形態において反射率低減処理を実行する外装部品の範囲を示す図である。
【図7】従来技術の課題を説明する図である。
【図8】従来技術の課題及び本発明の効果を説明する図であり、図8(A),(B)は、従来技術の課題を説明する図であり、図8(C)は、本発明の効果を説明する図である。
【図9】光部及び受光部の変形例を示すブロック図であり、図9(A)は、発光部の変形例を、図9(B)は、受光部の変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下に本発明の実施形態を図面と共に説明する。
図1は、本発明が適用されたレーザレーダシステム1が搭載された自動車を示す図である。
【0034】
以下、レーザレーダシステム1が搭載された自動車を自車両AMとも称す。
このレーザレーダシステム1は、自車両AMの前方に設置されたレーザレーダ10と、自車両AMの外殻を構成する外装部品の少なくとも一部分に反射率を低減する反射率低減処理が施された処理済部材80とを備えている。
〈レーザレーダについて〉
次に、レーザレーダについて説明する。
【0035】
このレーザレーダ10は、規定角度範囲LA,RAに探査波としてのレーザ光を照射し、その探査波の反射光を受光することにより、少なくとも物体までの距離及び物体が位置する方位を検出する装置である。本実施形態において、レーザレーダ10は、例えば、見通しの悪い交差点などに自車両AMが進入する際に、該交差点を通行する他車両などの状況を確認する状況確認システムに適用される。
【0036】
このため、レーザレーダ10は、図2に示すように、自車両AM前方に設けられるナンバープレート7の背面に取り付けられる。具体的には、レーザレーダ10は、当該レーザレーダ10を構成する各部がケース11内に格納された上で、ケース11に穿設されたネジ孔12,13に挿通された締結要素(例えば、ネジやボルト)を用いて、ナンバープレート7と共に自車両AM前方のバンパー8に取り付けられる。このとき、レーザレーダ10は、自車両AMの進行方向に対して左右両側であり、かつ自車両AMの外周に沿って規定された規定照射範囲の各々に、規定角度範囲LA,RAの各々が重なるように取り付けられる。
【0037】
なお、ケース11には、レーザレーダ10からのレーザ光が通過する照射光通過孔14と、反射光が通過する反射光受光孔15とが設けられている。
このように取り付けられるレーザレーダ10は、図3に示すように、レーザ光を発光して、規定角度範囲LA,RAにレーザ光を照射する発光部20,40と、物体によって反射されたレーザ光である反射光を受光する受光部30,50とを備えている。さらに、レーザレーダ10は、発光部20,40にてレーザ光を照射してから受光部30,50にて反射光が受光されるまでの時間、及び受光部30,50での受光強度を計測して計測データを生成する検知回路61,62と、発光部20,40からレーザ光を照射するための発光信号を出力すると共に、検知回路61,62にて生成した計測データに基づいて検知データを生成する制御部65とを備えている。
【0038】
なお、本実施形態における発光部20,受光部30,検知回路61は、自車両AMの進行方向に対して左側に規定された規定角度範囲LAにレーザ光を照射して、反射光を受光する左側発受光機構71として機能する。また、本実施形態における発光部40,受光部50,検知回路62は、自車両AMの進行方向に対して右側に規定された規定角度範囲RAにレーザ光を照射して、反射光を受光する右側発受光機構72として機能する。
【0039】
ここで、図4(A)は、本実施形態における発光部の概略構成を示す図であり、図4(B)は、本実施形態における受光部の概略構成を示す図である。
発光部20,40は、図4(A)に示すように、レーザ光を発生させるレーザダイオード(LD)21と、制御部65からの発光信号に従って、LD21にパルス状のレーザ光を発生させるLD駆動回路22と、LD21が発生したレーザ光のビーム幅を決定する発光レンズを少なくとも含む光学素子23とを備えている。ただし、光学素子23に含まれる発光レンズは、LD21にて発光したレーザ光のビーム幅を規定角度範囲RA,LAとするように構成されている。
【0040】
なお、LD21にて発光され光学素子23を介して規定角度範囲LA,RAに照射されるレーザ光は、発光レンズの表面や発光レンズ内で乱反射することなどにより、規定角度範囲LA,RAを挟む範囲であるモレ範囲LE,REにも照射される(図1参照)。ただし、モレ範囲LE,REに照射されるレーザ光の強度は、規定角度範囲LA,RAに照射されるレーザ光の強度に比べて弱くなる。
【0041】
受光部30,50は、図4(B)に示すように、反射光を集光する受光レンズ31と、受光レンズ31を介して反射光を受光し、その強度に応じた信号レベルを有する受光信号を発生させる複数の受光素子(PD,即ち、光検出器)32A〜nと、受光素子32A〜nそれぞれからの受光信号を増幅する増幅器33A〜nとを備えている。ただし、受光素子32A〜nは、直線上に隣接して配置されており、受光レンズ31は、反射光の入射角度に応じて、反射光を1つの受光素子32へと導くように構成されている。つまり、受光素子32A〜n、及び増幅器33A〜nからの受光信号は、特定の角度(即ち、1つの方向)θx,θzから反射光が入射されたときに、反射光を受光したことを表すものとなる。
【0042】
そして、発光部20,40からのレーザ光は、図5に示すように、照射光通過孔14を通過して、規定角度範囲LA,RAに照射される。ただし、照射光通過孔14を通過するレーザ光は、規定角度範囲LA,RAそれぞれに付随するモレ範囲LE,REにも照射されることになる。本実施形態においては、規定角度範囲LA,RAそれぞれよりも車体側に形成されるモレ範囲LE,REの少なくとも一部分がバンパー8に重複する。ただし、レーザ光が照射される規定角度範囲LA,RA及びモレ範囲LE,REは、自車両AMの全長方向(x軸)及び自車両AMの車高方向(z軸)に拡がりを有した範囲である。換言すれば、全長方向,車高方向の両方向について、物体が存在する位置を検出する際の座標軸を有している。
【0043】
これと共に、反射光は、反射光受光孔15を通過して受光部30,50にて受光され、該反射光を受光した1つの受光素子32は、反射光を受光したことを表す(即ち、信号レベルの大きい)受光信号を出力する。
【0044】
検知回路61,62は、制御部65からの発光信号が入力される毎に計測データを生成して蓄積すると共に、制御部65からの要求に基づいて制御部65に出力する。
この検知回路61,62は、制御部65からの発光信号と、信号レベルが予め規定された閾値以上となる受光部30からの受光信号との位相差(即ち、反射物までの往復時間)を計測し、レーザ光を反射した物体までの距離(以下、検知距離)Rを導出する。これと共に、検知回路61,62は、信号レベルが閾値以上である受光信号を出力した増幅器33を特定することで、レーザ光を反射した物体の方位(即ち、角度θx,θz)を特定する。
【0045】
なお、検知回路61,62が生成する計測データは、検知距離Rを、角度θx,θz、及び受光信号の信号レベルと対応付けたものである。
〈処理済部材について〉
次に、処理済部材について説明する。
【0046】
図6は、外装部品において反射率低減処理を実行する範囲を示す図である。
本実施形態における処理済部材80は、自車両AMの外殻を構成する外装部品90の少なくとも一部分に、反射率を低減する反射率低減処理を施したものである。
【0047】
本実施形態における外装部品90は、バンパー8やフード(いわゆるボンネット)9である。その外装部品90において反射率低減処理を施す範囲は、ナンバープレート7の背面に取り付けられたレーザレーダ10からのレーザ光が照射されるモレ範囲LE,REと重複する範囲である。
【0048】
そして、本実施形態における反射率低減処理とは、表面に撥水加工が施されたシート状の部材(以下、シート状部材と称す)92を取り付けることである。なお、シート状部材92に施す撥水加工としては、撥水剤(シリコン樹脂やフッ素樹脂)を表面に塗布する周知の技術を用いれば良い。
〈レーザレーダシステムの取付方法について〉
次に、レーザレーダシステム1の取付方法について説明する。
【0049】
レーザレーダシステム1の取付方法では、レーザレーダ10を、当該レーザレーダ10のケース11ごと、ナンバープレート7と共に、締結要素(例えば、ネジやボルト)を用いて自車両AM前方のバンパー8に取り付ける。
【0050】
その上で、バンパー8やフード9において、少なくとも、自車両に取り付けられたレーザレーダ10からのレーザ光が照射されるモレ範囲LE,REと重複する範囲に、シート状部材92を貼りつける。
[実施形態の効果]
以上説明したように、レーザレーダシステム1では、自動車AMの外殻を構成する既存の部材である外装部品90の外表面のうち、モレ範囲LE,REと重複する範囲に、シート状部材92を取り付けることで、処理済部材80を実現している。
【0051】
このような処理済部材80によれば、表面に水滴が付着することを低減でき、モレ範囲からの反射光(レーザ光)の強度が低下する。
この結果、レーザレーダシステム1によれば、当該レーザレーダシステム1を構成するレーザレーダ10によれば、モレ範囲LE,REからの反射光、即ち、ゴーストを、規定角度範囲LA,RA内に存在する物体として誤検出することを低減できる。
【0052】
また、上記実施形態においてレーザレーダ10は、ナンバープレート7の背面に締結要素を用いて取り付けられるため、自動車の製造段階に限らず、自動車が完成した後からでも、自動車に容易に取り付けることができる。この結果、状況確認システムについても、自動車が完成した後に容易に搭載可能となる。
【0053】
一般的に、上述したように、レーザレーダ10における受光部30,50が、受光した反射光の強度に応じたレベルの信号を出力する少なくとも2つ以上のPD32が直線上に隣接して配置されるように構成されている場合、その受光部30,50は、モレ範囲LE,REからの反射光(即ち、レーザ光)を受光して、ゴーストを、規定角度範囲LA,RA内に存在する物体として誤検出しやすかった。
【0054】
しかしながら、本実施形態のレーザレーダシステム1によれば、そもそも、モレ範囲LE,REからの反射光(レーザ光)の強度が低下するため、ゴーストを、規定角度範囲LA,RA内に存在する物体として誤検出することをより確実に低減できる。
[その他の実施形態]
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、様々な態様にて実施することが可能である。
【0055】
例えば、上記実施形態では、自車両AMの進行方向に対する左右両方向が規定角度範囲LA,RAとなるように、レーザレーダ10を構成して自動車AMに取り付けていたが、自車両AMの進行方向に対する左右両方向のうち、いずれか一方が規定角度範囲となるように、レーザレーダ10構成して自動車AMに取り付けても良い。この場合、自車両AMの進行方向に対して、運転席が設けられた方向とは反対側の方向に規定角度範囲が設けられることが好ましい。これによって、運転席からの死角に存在する物体(例えば、他車両等)を、運転者に認識させることができる。
【0056】
また、上記実施形態では、自車両AM前方のナンバープレート7の背面にレーザレーダ10を設置していたが、レーザレーダ10を設置する場所は、これに限るものではない。すなわち、レーザレーダ10を設置する場所は、自車両AMの側方に取り付けられたドアアウタやサイドパネルアウタなどでも良いし、自車両AMの後方に取り付けられたバンパーやトランクリッドなどでも良い。なお、前者の場合、レーザレーダ10は、自車両AMの側方にレーザ光を照射し、後者の場合、レーザレーダ10は、自車両AMの後方にレーザ光を照射するように取り付けられることが好ましい。
【0057】
なお、これらの場合、反射率低減処理が実行される外装部品90は、それぞれの場合においてレーザレーダ10が設置される場所の近傍にてモレ範囲と重複する範囲を有した外装部品90である。
【0058】
さらに言えば、上記実施形態におけるレーザレーダ10は、状況確認システムに適用されていたが、レーザレーダ10の適用対象は、これに限るものではなく、例えば、自車両AMと先行車両との間の車間距離を規定された距離に維持するアダプティブクルーズコントロールシステムにおいて、先行車両を検出することや、自車両AMの進行路上に存在する物体を回避不可能となったときに、制動力を発生したりシートベルトを巻き上げるプリクラッシュセーフティシステムにおいて、進行路上に存在する物体を検出することに適用しても良い。
【0059】
また、上記実施形態では、反射率低減処理として、シート状部材92を取り付けることを実施していたが、反射率低減処理の処理内容は、これに限るものではない。例えば、外装部品90においてレーザレーダ10からのレーザ光が照射されるモレ範囲LE,REと重複する範囲に、撥水処理を施しても良いし、外装部品90に水滴が付着しにくくなるように当該外装部品90の表面に細かな凹凸を設けることでも良い。つまり、反射率低減処理は、反射率を低減させる処理であれば、どのような処理でも良い。
【0060】
さらに、上記実施形態において、発光部20,40及び受光部30,50は、図4に示すように構成されていたが、発光部20,40及び受光部30,50の構成は、上記実施形態に記載した構成に限らない。
【0061】
すなわち、発光部20,40は、図9(A)に示すように、レーザダイオード(LD)21と、LD駆動回路22と、少なくとも発光レンズを含む光学素子23と、光学素子23を介して供給されるレーザ光を反射する各面の倒れ角が異なる回転多面鏡24を有し、その回転多面鏡24を回動可能に支持すると共に、レーザ光の俯角θzを車高方向に沿って変化させることが可能なように構成されたスキャナ機構部25と、制御部65からのSC駆動信号に従って、スキャナ機構部25を駆動することで、規定角度範囲内でのレーザ光の走査を実現するSC駆動回路26とを備えるように構成しても良い。
【0062】
発光部20,40が、図9(A)に示すように構成されている場合、受光部30,50は、図9(B)に示すように、受光レンズ31と、1つの受光素子(PD)32と、1つの受光素子32からの受光信号を増幅する1つの増幅器33とを備えるように構成しても良い。つまり、図9(A)に示す発光部20,40及び図9(B)に示す受光部30,40を備えたレーザレーダ10では、2次元的なビームスキャンにより、全規定角度範囲LA,RAに渡って、レーザ光のビームを照射することができ、その規定角度範囲LA,RA内に存在する物体を検知することが可能となる。
【0063】
換言すれば、発光部20,40及び受光部30,50は、規定角度範囲LA,RAにレーザ光を照射して、その照射されたレーザ光の反射光を受光可能に構成され、検知回路61,62及び制御部65にて、反射物までの距離R及び角度θx,θzを検知可能であれば、どのように構成されていても良い。
[実施形態と特許請求の範囲との対応関係]
最後に、上記実施形態の記載と、特許請求の範囲の記載との関係を説明する。
【0064】
上記実施形態におけるレーザレーダ10が、特許請求の範囲の記載におけるレーザレーダに相当し、上記実施形態におけるシート状部材92または処理済部材80が、特許請求の範囲の記載における低減処理部材に相当する。また、上記実施形態における発光部20,40が、特許請求の範囲の記載における発光部に相当し、上記実施形態における受光部30,50が、特許請求の範囲の記載における受光部に相当し、上記実施形態における検知回路61,62、及び制御部65が、特許請求の範囲の記載における物体検知部に相当する。
【符号の説明】
【0065】
1…レーザレーダシステム 7…ナンバープレート 8…バンパー 9…フード 10…レーザレーダ 11…ケース 12,13…ネジ孔 14…照射光通過孔 15…反射光受光孔 20…発光部 22…LD駆動回路 23…発光レンズ 24…回転多面鏡 25…スキャナ機構部 26…SC駆動回路 30…受光部 31…受光レンズ 32…受光素子 33…増幅器 40…発光部 50…受光部 61,62…検知回路 65…制御部 71…左側発受光機構 72…右側発受光機構 80…処理済部材 90…外装部品 92…シート状部材 AM…自車両(自動車) LA,RA…規定角度範囲 LE,RE…モレ範囲

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レンズを含む光学素子を介して、少なくとも1つの規定角度範囲に渡ってレーザ光を照射する発光部と、反射したレーザ光を受光する受光部と、前記発光部で照射したレーザ光及び前記受光部で受光したレーザ光の強度に基づいて、該レーザ光を反射した物体を検知する物体検知部とを有したレーザレーダと、
前記規定角度範囲へのレーザ光の照射に伴って、当該規定角度範囲に照射されるレーザ光の強度よりも強度が小さいレーザ光が照射される範囲であり、前記規定角度範囲に隣接する範囲をモレ範囲とし、
自動車の外周の少なくとも一部に沿って規定された範囲である規定照射範囲に前記規定角度範囲が重なるように前記レーザレーダが取り付けられる自動車における外表面のうち、少なくとも前記モレ範囲と重複する前記外表面の範囲に反射率を低減させる反射率低減処理が施された部材である低減処理部材と
を備えることを特徴とするレーザレーダシステム。
【請求項2】
前記低減処理部材は、
前記反射率低減処理として、表面に撥水加工が施されたシート状の部材である
ことを特徴とする請求項1に記載のレーザレーダシステム。
【請求項3】
前記低減処理部材は、
前記反射率低減処理として撥水処理が施された、前記自動車の外表面を構成する外装部品である
ことを特徴とする請求項1に記載のレーザレーダシステム。
【請求項4】
前記レーザレーダは、
自車両の進行方向に対する左右の少なくとも一方の範囲を、前記規定照射範囲とし、
少なくとも前記規定角度範囲よりも自車両の車体側に前記モレ範囲が形成されるように、自動車の前方に設置されたナンバープレートの背面に取り付けられる
ことを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載のレーザレーダシステム。
【請求項5】
前記反射率低減処理が施される部材は、
自動車の前方に設置されるバンパーである
ことを特徴とする請求項4に記載のレーザレーダシステム。
【請求項6】
前記受光部は、
受光したレーザ光の強度に応じたレベルの信号を出力する少なくとも2つ以上の光検出器が、直線上に隣接して配置されることで構成され、
前記物体検知部は、
前記レーザ光を受光した各光検出器の配置位置に応じて、前記物体の方位を検知する
ことを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれか一項に記載のレーザレーダシステム。
【請求項7】
レンズを含む光学素子を介して、少なくとも1つの規定角度範囲に渡ってレーザ光を照射する発光部と、反射したレーザ光を受光する受光部と、前記発光部で照射したレーザ光及び前記受光部で受光したレーザ光の強度に基づいて、該レーザ光を反射した物体を検知する物体検知部とを有したレーザレーダを、自動車に取り付ける取付方法であって、
自動車の外周に沿って規定された範囲である規定照射範囲に前記規定角度範囲が一致するように、前記レーザレーダを自動車に取り付ける取付工程と、
前記規定角度範囲へのレーザ光の照射に伴って、当該規定角度範囲に照射されるレーザ光の強度よりも強度が小さいレーザ光が照射される範囲であり、前記規定角度範囲に隣接する範囲をモレ範囲とし、
前記取付工程にて前記レーザレーダが取り付けられる自動車における外殻を構成する外装部品の前記モレ範囲と重複する範囲に、反射率を低減させる反射率低減処理を実行する処理実行工程と
を有することを特徴とする取付方法。
【請求項8】
前記処理実行工程は、
表面に撥水加工が施されたシート状の部材の取り付けを、前記反射率低減処理として実行することを特徴とする請求項7に記載の取付方法。
【請求項9】
前記処理実行工程は、
撥水処理を、前記反射率低減処理として実行することを特徴とする請求項7に記載の取付方法。
【請求項10】
前記取付工程は、
自車両の進行方向に対する左右の少なくとも一方の範囲を、前記規定照射範囲とし、
少なくとも前記規定角度範囲よりも自車両の車体側に前記モレ範囲が形成されるように、自動車の前方に設置されたナンバープレートの背面に、前記レーザレーダを取り付けることを特徴とする請求項7〜請求項9のいずれか一項に記載の取付方法。
【請求項11】
前記処理実行工程は、
自動車の前方に設置されるバンパーを、前記外装部品とする
ことを特徴とする請求項10に記載の取付方法。

【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図8】
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【図1】
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【図4】
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【図7】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−19798(P2013−19798A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−153998(P2011−153998)
【出願日】平成23年7月12日(2011.7.12)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】