説明

レーザレーダ装置

【課題】広視野な受信系において背景光を除去する。
【解決手段】所定の変調信号でレーザ光を変調し、対象物に向けて走査するレーザ光送信手段(発振器1、レーザ装置2、変調器3およびスキャナ4)と、レーザ光に対する対象物からの散乱光を受光し、電気信号に変換する散乱光受信手段(受信レンズ6および受光器8)と、受光面の前段に配置され、閉じることで対応する位置に入射した光を遮光する複数のシャッター素子を有するシャッター7と、電気信号と変調信号との位相差または時間差に基づいて対象物までの距離を算出する距離・強度算出装置9と、電気信号に基づいて背景光を検出する背景光検出装置10と、背景光が検出された場合に、シャッター7を制御して、当該背景光が入射する位置に対応するシャッター素子を閉じさせるシャッター制御装置11とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、レーザ光の発振時間と反射光の受光時間の差から距離を導出するレーザ距離測定法を用いたレーザレーダ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来技術のレーザレーダ装置において、受信系に単素子の受光器を用いた場合、背景光(検出対象の散乱光とともに受光器に入射する光)が入射すると、受信信号量が飽和してしまう恐れがある。この場合、本来検出すべき散乱光の信号が検出できず、レーザレーダ装置として機能しなくなる。
また、背景光により受信信号量が増加すると、雑音が上昇し、散乱光の受信信号検出感度が低下する。そのため、レーザレーダ装置の測距可能距離が短くなってしまう。
【0003】
そこで、上記課題を解決するため、干渉フィルターを用いた装置が提案されている(例えば特許文献1参照)。この特許文献1に開示された装置では、例えば背景光の1つである太陽光の波長帯域は広く、レーザ光の波長帯域は極めて狭いことを利用し、干渉フィルターを用いてレーザ光の波長のみを透過させている。これにより、太陽光の大部分をカットすることができ、上記課題を解消することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−311875号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】平井他、「パルス方式3D Imaging LADARの開発」、第27回レーザセンシングシンポジウム予稿集、pp.90−91,2009
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、干渉フィルターで許容される入射角は狭い。そのため、特許文献1に開示された技術を、受信スキャンレス型のレーザレーダ装置に適用した場合、受信系の視野角が制限されてしまうという課題があった。
【0007】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたもので、広視野な受信系において背景光を除去可能なレーザレーダ装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明に係るレーザレーダ装置は、所定の変調信号でレーザ光を変調し、対象物に向けて走査するレーザ光送信手段と、レーザ光送信手段により走査されたレーザ光に対する対象物からの散乱光を受光し、電気信号に変換する散乱光受信手段と、散乱光受信手段の受光面の前段に配置され、閉じることで対応する位置に入射した光を遮光する複数のシャッター素子を有するシャッターと、散乱光受信手段により変換された電気信号と変調信号との位相差または時間差に基づいて対象物までの距離を算出する距離算出手段と、散乱光受信手段により変換された電気信号に基づいて背景光を検出する背景光検出手段と、背景光検出手段により背景光が検出された場合に、シャッターを制御して、当該背景光が入射する位置に対応するシャッター素子を閉じさせるシャッター制御手段とを備えたものである。
【発明の効果】
【0009】
この発明によれば、上記のように構成したので、背景光が入射される位置に対応するシャッター素子を閉じることで背景光を除去することができる。よって、受信信号量の飽和による散乱光の不検出を防ぐことができ、背景光が受信視野内に存在する場合においても、レーザレーダ装置として正常動作を行うことができる。また、背景光による雑音上昇を防ぐことができ、背景光が受信視野内に存在する場合においても、レーザレーダ装置として測距可能距離の低下を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】この発明の実施の形態1に係るレーザレーダ装置の全体構成を示す図である。
【図2】この発明の実施の形態1に係るレーザレーダ装置の動作を示すフローチャートである。
【図3】この発明の実施の形態1におけるシャッターの構成を示す図である。
【図4】この発明の実施の形態1におけるシャッター制御装置の動作を示すフローチャートである。
【図5】図4に示す背景光カット用シャッター制御動作による受信信号の変化を示す図である。
【図6】この発明の実施の形態2に係るレーザレーダ装置の全体構成を示す図である。
【図7】この発明の実施の形態3に係るレーザレーダ装置の全体構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、この発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
実施の形態1.
図1はこの発明の実施の形態1に係るレーザレーダ装置の全体構成を示す図である。
レーザレーダ装置は、図1に示すように、発振器1、レーザ装置2、変調器3、スキャナ4、スキャナ角度モニタ装置5、受信レンズ6、シャッター7、受光器8、距離・強度算出装置(距離算出手段)9、背景光検出装置(背景光検出手段)10、シャッター制御装置(シャッター制御手段)11および信号処理装置12から構成されている。
【0012】
なお、発振器1、レーザ装置2、変調器3およびスキャナ4は、所定の変調信号でレーザ光を変調し、対象物に向けて走査するレーザ光送信手段を構成する。また、受信レンズ6および受光器8は、レーザ光送信手段により走査されたレーザ光に対する対象物からの散乱光を受光し、電気信号に変換する散乱光受信手段を構成する。
【0013】
発振器1は、所定のパルス状の変調信号を発振する機能を有するものである。そして、発振器1は、発振した変調信号を変調器3および距離・強度算出装置9に出力する。
レーザ装置2は、所定のレーザ光を発振する機能を有するものである。
変調器3は、発振器1からの変調信号に従って、レーザ装置2からのレーザ光に強度変調をかけてパルス状とする機能を有するものである。
【0014】
スキャナ4は、変調器3により変調されたレーザ光を、受信レンズ6が当該レーザ光に対する散乱光を受光可能な角度範囲である受信視野内において、2次元走査する機能を有するものである。
スキャナ角度モニタ装置5は、スキャナ4の照射面の角度を読み取る機能を有するものである。そして、スキャナ角度モニタ装置5は、読み取った角度を示すスキャナ角度信号を信号処理装置12に出力する。
【0015】
受信レンズ6は、受信視野中心に対して同軸方向に伝搬する対象物からの散乱光を集光する機能を有するものである。なお、受信レンズ6により集光される散乱光には、背景光が含まれる場合がある。
【0016】
シャッター7は、受光器8の前段に2次元的に配列され、シャッター制御装置11からのシャッター制御信号に従って閉じることで、対応する位置に入射した光を遮光する機能を有する複数のシャッター素子を有するものである。
【0017】
受光器8は、受信レンズ6により集光されシャッター7を通過した光を受光して電気信号に変換する機能を有するものである。そして、受光器8は、変換した電気信号を受信信号として距離・強度算出装置9および背景光検出装置10に出力する。
【0018】
距離・強度算出装置9は、発振器1からの変調信号と受光器8からの受信信号との時間差に基づいて、レーザ光の伝搬時間を算出することで対象物までの距離を算出する機能を有するものである。そして、距離・強度算出装置9は、算出した距離を示す距離信号を信号処理装置12に出力する。
また、距離・強度算出装置9は、受光器8からの受信信号に基づいて信号強度を算出する機能も有している。そして、距離・強度算出装置9は、算出した信号強度を示す強度信号を信号処理装置12に出力する。
【0019】
背景光検出装置10は、受光器8からの受信信号に基づいて背景光を検出する機能を有するものである。この背景光検出装置10は、受光器8からの受信信号から、予め設定された閾値を超えるDC成分を検出することで、背景光を検出する。そして、背景光検出装置10は、閾値を超えるDC成分を検出した場合には、当該DC成分の電圧値を示す背景光検出信号をシャッター制御装置11に出力する。
【0020】
シャッター制御装置11は、背景光検出装置10からの背景光検出信号に従って、シャッター7を制御して、背景光が入射する位置に対応するシャッター素子を閉じさせる機能を有するものである。この際、シャッター制御装置11は、シャッター素子の開閉を指示するシャッター制御信号をシャッター7に出力する。
【0021】
信号処理装置12は、スキャナ角度モニタ装置5からのスキャナ角度信号に基づいてレーザ光の照射方向を算出し、距離・強度算出装置9からの距離信号から距離を抽出し、各レーザ光の照射方向に対する距離をプロットすることで3次元画像を生成する機能を有するものである。また、信号処理装置12は、距離・強度算出装置9からの強度信号から信号強度を抽出し、各レーザ光の照射方向に対する信号強度をプロットすることで各レーザ光の照射方向からの散乱光強度を示す強度画像を生成する機能も有している。
【0022】
次に、上記のように構成されたレーザレーダ装置の動作について、図2を参照しながら説明する。
レーザレーダ装置の動作では、図2に示すように、まず、レーザ装置2は所定のレーザ光を発振し、変調器3は、発振器1からの変調信号に基づいて、このレーザ光をパルス状に強度変調する(ステップST201)。
次いで、スキャナ4は、変調器3により変調されたレーザ光を、受信レンズ6が当該レーザ光に対する散乱光を受光可能な角度範囲である受信視野内において、2次元走査する(ステップST202)。なおこの際、スキャナ角度モニタ装置5は、スキャナ4の照射面の角度を読み取り、そのスキャナ角度信号を信号処理装置12に出力している。
【0023】
次いで、受信レンズ6は、受信視野中心に対して同軸方向に伝搬する対象物からの散乱光を受光器8の受光面上へ集光し、受光器8は、この集光された光を受光して電気信号に変換し、受信信号として距離・強度算出装置9に出力する(ステップST203)。
次いで、距離・強度算出装置9は、発振器1からの変調信号と受光器8からの受信信号との時間差に基づいて対象物までの距離を算出するとともに、当該受信信号に基づいて信号強度を算出し、その距離信号および強度信号を信号処理装置12に出力する(ステップST204)。
【0024】
次いで、信号処理装置12は、スキャナ角度モニタ装置5からのスキャナ角度信号に基づいてレーザ光の照射方向を算出し、距離・強度算出装置9からの距離信号から距離を抽出し、各レーザ光の照射方向に対する距離をプロットすることで3次元画像を生成する。また、距離・強度算出装置9からの強度信号から信号強度を抽出し、各レーザ光の照射方向に対する信号強度をプロットすることで強度画像を生成する(ステップST205)。
【0025】
一方、背景光検出装置10は、受光器8からの受信信号のDC成分を検出しており、予め設定された閾値を超えるDC成分を検出した場合には、当該DC成分の電圧値を示す背景光検出信号をシャッター制御装置11に出力する(ステップST206)。なお、閾値としては、背景光が含まれない場合での受信信号のDC成分よりも若干高く、想定する背景光が含まれる場合での受信信号のDC成分より低い値を設定しておく。
【0026】
次いで、シャッター制御装置11は、背景光検出信号が入力された場合、シャッター7を制御して、背景光が入射する位置に対応するシャッター素子を閉じさせる(ステップST207)。この際出力されたシャッター制御信号に基づいて、シャッター7では指定されたシャッター素子を開閉する。
【0027】
次に、ステップST207におけるシャッター制御装置11のシャッター制御動作について、図3,4を参照しながら説明する。
なお、図3は、2次元状に配列されたシャッター素子を有するシャッター7を示す図であり、各シャッター素子にはそれぞれシャッター素子番号が付与されている。また、図3では、6,7番のシャッター素子位置に背景光が入射されている。
また、シャッター制御装置11のシャッター制御動作は、図4に示すように、背景光カット用シャッター制御動作と背景光確認用シャッター制御動作の大きく2つに分けられる。まず、背景光カット用シャッター制御動作について説明する。
【0028】
シャッター制御装置11の背景光カット用シャッター制御動作では、図4に示すように、レーザレーダ装置の電源が入れられると、まず、初期条件設定としてシャッター7の全シャッター素子を開く(ステップST401)。次いで、背景光検出装置10から背景光検出信号が入力されているかを判断する(ステップST402)。
【0029】
このステップST402において、背景光検出信号が入力されていると判断した場合には、1番目のシャッター素子を閉じ(ステップST403)、背景光検出装置10から背景光検出信号が入力されているかを再び判断する(ステップST404)。
このステップST404において、背景光検出信号が入力されていないと判断した場合には、シーケンスはステップST402に戻る。
【0030】
一方、ステップST404において、背景光検出信号が入力されていると判断した場合には、シャッター素子を閉じた前後で背景光検出信号の電圧値が減少していないかを判断する(ステップST405)
【0031】
このステップST405において、シャッター素子を閉じた前後で背景光検出信号の電圧値が減少していないと判断した場合には、直前に閉じたシャッター素子を1つ開き(ステップST406)、次の番号のシャッター素子を閉じる(ステップST407)。その後、シーケンスはステップST404に戻る。
【0032】
一方、ステップST405において、シャッター素子が閉じた前後で背景光検出信号の電圧値が減少していると判断した場合には、シーケンスはステップST407に遷移し、次の番号のシャッター素子を閉じる。その後、シーケンスはステップST404に戻る。
【0033】
ここで、図3に示す例に対して上記背景光カット用シャッター制御動作を行った場合、受信信号のDC成分は図5に示すように変化する。
すなわち、例えば図3に示す1番のシャッター素子のように、背景光が入射していないシャッター素子に対しては、閉じてもDC成分に変化はなく、背景光検出信号の電圧値は変化しないため(ステップST403〜ST405)、開いた状態とする(ステップST406)。一方、背景光が入射している6,7番のシャッター素子では、閉じた際に背景光の減少によりDC成分が減少し、背景光検出信号の電圧値が減少するため(ステップST405)、このシャッター素子は閉じた状態とする。
そして、閉じたシャッター素子により背景光が完全に遮光された場合には、背景光検出信号が出力されなくなるため、背景光カット用シャッター制御動作は終了する(ステップST404)。これにより、6,7番のシャッター素子を閉じたままとなる。
【0034】
以上の背景光カット用シャッター制御動作により、受光器8の前段において、シャッター7により背景光が入射する位置での入射光のみをカットすることができる。よって、背景光が入射した場合でも、受信信号量の飽和や雑音上昇を回避することができる。
【0035】
一方、上記背景光カット用シャッター制御動作では、背景光が入射した場合にシャッター7の所定のシャッター素子を閉じることで背景光を遮光しているが、背景光が存在しなくなった後も、当該シャッター素子が閉じたままとなる。この場合、背景光が存在しないにも関わらず、受信視野の一部が欠けたレーザレーダ装置として動作することになる。
そこで、一定時間おきに背景光が存在するかを確認するための背景光確認用シャッター制御動作を行う。以下、この動作について説明する。
【0036】
シャッター制御装置11の背景光確認用シャッター制御動作では、図4に示すように、ステップST402において、背景光検出信号が入力されていないと判断した場合には、まず、閉じているシャッター素子が存在するかを判断する(ステップST408)。
このステップST408において、閉じているシャッター素子は存在しないと判断した場合には、シーケンスはステップST402に戻る。
【0037】
一方、ステップST408において、閉じているシャッター素子が存在すると判断した場合には、最後にシャッター素子を閉じてから一定時間が経過したかを判断する(ステップST409)。
このステップST409において、一定時間が経過していないと判断した場合には、シーケンスはステップST402に戻る。
【0038】
一方、ステップST409において、一定時間が経過したと判断した場合には、閉じているシャッター素子を1つ開き(ステップST410)、シャッター素子を開いた前後で背景光検出信号の電圧値が増加しているかを判断する(ステップST411)。
【0039】
このステップST411において、シャッター素子を開いた前後で背景光検出信号の電圧値が増加していると判断した場合には、直前に開いたシャッター素子を閉じ(ステップST412)、閉じている全シャッター素子についてステップST410における処理を行ったかを判断する(ステップST413)。
【0040】
一方、ステップST411において、背景光検出信号の電圧値が増加していないと判断した場合には、シーケンスはステップST413に遷移し、閉じている全シャッター素子についてステップST410における処理を行ったかを判断する。
【0041】
このステップST413において、ステップST410における処理を行っていないシャッター素子が存在すると判断した場合には、シーケンスはステップST410に遷移し、未処理のシャッター素子を1つ開く。
一方、ステップST413において、全シャッター素子についてステップST410における処理を行ったと判断した場合には、シーケンスはステップST402に遷移する。
【0042】
ここで、背景光が継続して入射している場合、閉じていたシャッター素子を開くとDC成分が上昇し、背景光検出信号の電圧値が増加するため(ステップST411)、開いたシャッター7を再び閉じる(ステップST412)。この結果、当該シャッター素子は閉じたままとなり、背景光は遮光されたままとなる。
一方、背景光が存在しなくなった場合には、閉じていたシャッター素子を開いてもDC成分は上昇しないため(ステップST411)、当該シャッター素子は開いたままとする。
【0043】
以上のように、背景光確認用シャッター制御動作では、背景光が入射されなくなった場合には、閉じていたシャッター素子を開くようにする。これにより、シャッター7により受信視野が欠けてしまうことを防ぐことができる。
【0044】
なお、ステップST410における一定時間とは、背景光の最大移動角速度を予め想定し、この速度と受信レンズ6の焦点距離、シャッター1素子の大きさから算出される、想定スポット移動時間によって予め設定する。移動角速度とは、レーザレーダ装置から見た背景光の単位時間あたりの角度変化量である。また、想定スポット移動時間とは、シャッター7面上における背景光の集光スポットがシャッター1素子分移動する時間である。上記想定スポット移動時間は下式(1)で表される。ここで、想定スポット移動速度をT、シャッター1素子の大きさをd、焦点距離をf、移動角速度をwとする。

【0045】
なお、シャッター7による背景光の遮光方法としては、液晶のように透過率を変化させる方法や、デジタルミラーデバイスのように反射角を変化させる方法等、各種方法が適用可能である。
また、シャッター7は、シャッター素子を2次元状に配置したが、1次元状に配置してもよい。
【0046】
また、発振器1で発振する変調信号はCW変調でもよい。なお、CW変調の場合には、距離・強度算出装置9では、当該変調信号と受信信号との位相差に基づいて対象物までの距離を算出する。
また、スキャナ4は、2次元走査を行うものとしたが、1次元走査を行うものでもよい。なお、1次元走査を行う場合には、ラインセンサとなり1次元の距離データを取得できる。
【0047】
また、シャッター制御装置11は、スキャナ角度信号を用いて散乱光が入射する受光器8の受光面上の位置を特定し、散乱光の受光位置と制御するシャッター素子の位置をずらしてもよい。これにより、散乱光の受光位置と、制御するシャッター素子の位置が重なってしまうことにより、散乱光の受光がシャッター素子により妨げられてしまうことを防ぐことができる。
【0048】
また、距離・強度算出装置9における変調信号と受信信号との時間差による測定方法としては、レーザ発振時間から受信信号検出時間までのクロック数をカウントする方法、パルス波形を逐次AD変換してパルスピークを検出する方法や、非特許文献1に示すような時間に比例して増加するランプ電圧とサンプルホールド回路を用いた方法等、各種方法が適用可能である。
【0049】
以上のように、この実施の形態1によれば、受光系で受光・変換された電気信号から背景光が検出された場合に、当該背景光が入射する位置に対応するシャッター素子を閉じるようにシャッター7を制御するように構成したので、背景光を除去することができ、受信信号量の飽和による散乱光の不検出を防ぐことができるため、背景光が受信視野内に存在する場合においても、レーザレーダ装置として正常動作を行うことができる。また、背景光による雑音上昇を防ぐことができ、背景光が受信視野内に存在する場合においても、レーザレーダ装置として測距可能距離の低下を防ぐことができる。
【0050】
実施の形態2.
図6はこの発明の実施の形態2に係るレーザレーダ装置の全体構成を示す図である。図6に示す実施の形態2に係るレーザレーダ装置は、図1に示す実施の形態1に係るレーザレーダ装置の受光器8、背景光検出装置10およびシャッター制御装置11をそれぞれアレイ状受光器13、背景光検出装置(背景光検出手段)10bおよびシャッター制御装置(シャッター制御手段)11bに変更し、信号加算装置14を追加したものである。
【0051】
アレイ状受光器13は、アレイ状に配置され、受信レンズ6により集光されシャッター7を通過して対応する位置に入射した光を受光し、電気信号に変換する機能を有する複数の受光素子を有するものである。そして、アレイ状受光器13の各受光素子は、変換した電気信号を受信信号として信号加算装置14および背景光検出装置10bに出力する。
【0052】
信号加算装置14は、アレイ状受光器13の各受光素子からの受信信号を加算する機能を有するものである。そして、信号加算装置14は、加算結果を受信信号として距離・強度算出装置9に出力する。
【0053】
背景光検出装置10bは、アレイ状受光器13の各受光素子からの受信信号に基づいて背景光を検出するとともに、当該背景光を受光した受光素子を検出する機能を有するものである。この背景光検出装置10bは、各受光素子からの受信信号から、予め設定された閾値を超えるDC成分を検出することで、背景光を検出する。そして、背景光検出装置10bは、閾値を超えるDC成分を検出した場合には、当該DC成分の電圧値と該当する受光素子を示す背景光検出信号をシャッター制御装置11bに出力する。
【0054】
シャッター制御装置11bは、背景光検出装置10bからの背景光検出信号に従って、シャッター7を制御して、背景光検出装置10bにより検出された受光素子に対応するシャッター素子を閉じさせる機能を有するものである。この際、シャッター制御装置11bは、シャッター素子の開閉を指示するシャッター制御信号をシャッター7に出力する。
【0055】
なお、距離・強度算出装置9は、発振器1からの変調信号と信号加算装置14からの受信信号との時間差に基づいて、レーザ光の伝搬時間を算出することで対象物までの距離を算出する機能を有する。
その他の装置は、図1に示す実施の形態1における各装置と同じ機能を有する。
【0056】
ここで、実施の形態2に係るレーザレーダ装置では、実施の形態1に係るレーザレーダ装置と比較して、アレイ状の受光器13を用いることで、背景光が入射したおおまかな位置を特定することができる。よって、シャッター制御動作回数を減らすことができ、背景光の確認動作を高速化することができるという効果を有する。
【0057】
すなわち、実施の形態1に係るレーザレーダ装置では、単素子の受光器8を用いているため、背景光が受光面上のどの位置に入射したかを特定することはできない。そのため、シャッター素子の開閉により1つ1つ確認していく必要があり、背景光の確認動作に多くの時間がかかる。
それに対して、実施の形態2に係るレーザレーダ装置では、アレイ状の受光器13を用いているため、どの受光素子に背景光が入射したのかを各受光素子からの受信信号を判定することで特定することができ、背景光が入射した位置をおおまかに特定できる。よって、シャッター制御動作回数(図4)を減らすことができ、背景光の確認動作を高速化することができる。
【0058】
例えば、アレイ状受光器13が10個の受光素子から構成されており、受光面上に集光される背景光スポットが受光素子サイズよりも小さいとした場合、シャッター制御動作回数(図4)を、単素子と比較して1/10に減らすことができる。
【0059】
なお、シャッター7による背景光の遮光方法としては、液晶のように透過率を変化させる方法や、デジタルミラーデバイスのように反射角を変化させる方法等、各種方法が適用可能である。
また、シャッター7は、シャッター素子を2次元状に配置したが、1次元状に配置してもよい。
【0060】
また、発振器1で発振する変調信号はCW変調でもよい。なお、CW変調の場合には、距離・強度算出装置9では、当該変調信号と受信信号との位相差から対象物までの距離を算出する。
また、スキャナ4は、2次元走査を行うものとしたが、1次元走査を行うものでもよい。なお、1次元走査を行う場合には、ラインセンサとなり1次元の距離データを取得できる。
【0061】
また、シャッター制御装置11は、スキャナ角度信号を用いて散乱光が入射する受光器8の受光面上の位置を特定し、散乱光の受光位置と制御するシャッター素子の位置をずらしてもよい。これにより、散乱光の受光位置と、制御するシャッター素子の位置が重なってしまうことにより、散乱光の受光がシャッター素子により妨げられてしまうことを防ぐことができる。
【0062】
また、距離・強度算出装置9における変調信号と受信信号との時間差による測定方法としては、レーザ発振時間から受信信号検出時間までのクロック数をカウントする方法、パルス波形を逐次AD変換してパルスピークを検出する方法や、非特許文献1に示すような時間に比例して増加するランプ電圧とサンプルホールド回路を用いた方法等、各種方法が適用可能である。
【0063】
以上のように、この実施の形態2によれば、アレイ状の受光器13を備え、背景光がどの受光素子により受光されたのかを特定するように構成したので、実施の形態1における効果に加えて、背景光の確認動作の高速化を図ることができる。
【0064】
実施の形態3.
図7はこの発明の実施の形態3に係るレーザレーダ装置の全体構成を示す図である。図7に示す実施の形態3に係るレーザレーダ装置は、図6に示す実施の形態2に係るレーザレーダ装置からシャッター7、背景光検出装置10bおよびシャッター制御装置11bを削除し、信号シャッター15を追加したものである。
【0065】
信号シャッター15は、アレイ状受光器13の各受光素子からの電気信号に基づいて背景光を検出し、当該背景光を受光した受光素子からの電気信号をカットする機能を有するものである。この信号シャッター15は、各受光素子からの受信信号から、予め設定された閾値を超えるDC成分を検出することで、背景光を検出する。そして、信号シャッター15は、受信信号から閾値を超えるDC成分を検出した場合には、当該受信信号の出力を停止し、受信信号から閾値を超えるDC成分が検出されない場合には、当該受信信号をそのまま信号加算装置14に出力する。
【0066】
なお、信号加算装置14は、信号シャッター15を通過した各受信信号を加算する機能を有する。
その他の装置は、図6に示す実施の形態2における各装置と同じ機能を有する。
【0067】
ここで、実施の形態3に係るレーザレーダ装置では、実施の形態1,2に係るレーザレーダ装置と比較して、物理的なシャッター7では遮光しきれない背景光による影響を回避することができるという効果を有している。
【0068】
すなわち、実施の形態1,2では、受光器8の前段にシャッター7を配置し、シャッター素子を閉じることで遮光を行っていた。しかし、例えばシャッター7として液晶のような透過率を低下させるものを用いた場合、透過率は0%にはならないため、背景光を完全には遮光できない可能性がある。また、デジタルミラーデバイスのように反射角を変化させるものを用いた場合でも、反射面において散乱光が発生し、当該散乱光が背景光となって受光面に入射してしまうため、背景光を完全には遮光できない可能性がある。
そこで、シャッター7により遮光を行うのではなく、信号シャッター15を用いて受光素子により変換された電気信号をカットする。これにより、シャッター7では遮光しきれない背景光による影響を回避することが可能となる。
【0069】
また、実施の形態1の場合と同様に、信号シャッター15にて背景光カット用シャッター制御動作(図4)を行った場合、背景光が存在しなくなった後も、受信信号をカットしたままとなる。この場合、背景光が存在しないにも関わらず、受信視野の一部が欠けたレーザレーダ装置として動作することになる。
そこで、信号シャッター15においても、一方時間おきに背景光が存在するかを確認するための背景光確認用シャッター制御動作(図4)を行う。これにより、背景光が入射されなくなった場合に、出力を停止していた受信信号を信号加算装置14に出力することができ、シャッター7により受信視野が欠けてしまうことを防ぐことができる。
【0070】
なお、発振器1で発振する変調信号はCW変調でもよい。なお、CW変調の場合には、距離・強度算出装置9では、当該変調信号と受信信号との位相差に基づいて対象物までの距離を算出する。
また、スキャナ4は、2次元走査を行うものとしたが、1次元走査を行うものでもよい。なお、1次元走査を行う場合には、ラインセンサとなり1次元の距離データを取得できる。
【0071】
また、距離・強度算出装置9における変調信号と受信信号との時間差による測定方法としては、レーザ発振時間から受信信号検出時間までのクロック数をカウントする方法、パルス波形を逐次AD変換してパルスピークを検出する方法や、非特許文献1に示すような時間に比例して増加するランプ電圧とサンプルホールド回路を用いた方法等、各種方法が適用可能である。
【0072】
以上のように、この実施の形態3によれば、シャッター7に代えて、アレイ状受光器13の各受光素子のうち、背景光が入射する受光素子からの受信信号をカットする信号シャッター15を用いるように構成したので、実施の形態2と比較して、シャッター7では遮光しきれない背景光による影響を回避することが可能となる。
【0073】
なお、本願発明はその発明の範囲内において、各実施の形態の自由な組み合わせ、あるいは各実施の形態の任意の構成要素の変形、もしくは各実施の形態において任意の構成要素の省略が可能である。
【符号の説明】
【0074】
1 発振器、2 レーザ装置、3 変調器、4 スキャナ、5 スキャナ角度モニタ装置、6 受信レンズ、7 シャッター、8 受光器、9 距離・強度算出装置、10,10b 背景光検出装置、11,11b シャッター制御装置、12 信号処理装置、13 アレイ状受光器、14 信号加算装置、15 信号シャッター。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の変調信号でレーザ光を変調し、対象物に向けて走査するレーザ光送信手段と、
前記レーザ光送信手段により走査されたレーザ光に対する前記対象物からの散乱光を受光し、電気信号に変換する散乱光受信手段と、
前記散乱光受信手段の受光面の前段に配置され、閉じることで対応する位置に入射した光を遮光する複数のシャッター素子を有するシャッターと、
前記散乱光受信手段により変換された電気信号と前記変調信号との位相差または時間差に基づいて前記対象物までの距離を算出する距離算出手段と、
前記散乱光受信手段により変換された電気信号に基づいて背景光を検出する背景光検出手段と、
前記背景光検出手段により背景光が検出された場合に、前記シャッターを制御して、当該背景光が入射する位置に対応するシャッター素子を閉じさせるシャッター制御手段と
を備えたレーザレーダ装置。
【請求項2】
前記散乱光受信手段は、対応する位置に入射した散乱光を受光し、電気信号に変換する複数の受光素子を有する受光器、および、前記各受光素子により変換された電気信号を加算する信号加算装置を備え、
前記背景光検出手段は、前記各受光素子により変換された電気信号に基づいて背景光を検出するとともに、当該背景光を受光した受光素子を検出し、
前記シャッター制御手段は、前記背景光検出手段により検出された受光素子に対応するシャッター素子を閉じさせる
ことを特徴とする請求項1記載のレーザレーダ装置。
【請求項3】
前記シャッター、前記背景光検出手段および前記シャッター制御手段に代えて、前記各受光素子により変換された電気信号に基づいて背景光を検出し、当該背景光を受光した受光素子からの電気信号をカットする信号シャッターを備えた
ことを特徴とする請求項2記載のレーザレーダ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−113669(P2013−113669A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−259076(P2011−259076)
【出願日】平成23年11月28日(2011.11.28)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】