説明

レーザーマーキング多層シート

【課題】レーザーマーキング性に優れ、生地色と印字部とのコントラストが高く、鮮明な文字、記号、画像が得られるとともに、積層工程における加熱融着性に優れ、シートの搬送性、熱プレス後の金型からの離型性、耐熱性、折り曲げ性を兼ね揃えたレーザーマーキング多層シートを提供する。
【解決手段】透明レーザーマーキングシートAと多層シートBを積層してなるレーザーマーキング多層シート1Aであって、透明レーザーマーキングシートAは、ポリカーボネート樹脂を主成分とする透明レーザーマーキングシート3であり、多層シートBは、スキン層5aとコア層5bを有し、積層される少なくとも3層のシートから形成される多層シート5であって、多層シートBの両最外層である前記スキン層5aは、共重合ポリエステル樹脂からなるとともに、多層シートBのコア層5bはポリカーボネート系樹脂組成物からなる着色多層シートからなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザーマーキング多層シートに関する。とりわけ、レーザー光線照射により該多層シートに損傷なくマーキングされ、かつ、生地色と印字部とのコントラストが高く、鮮明な文字、記号、画像が得られ、耐熱性にも優れたレーザーマーキング多層シートに関するものであり、電子パスポートまたはプラスチックカード等に好適に用いられる。
【背景技術】
【0002】
国際交流が進展する中で、人材の移動も活発化している昨今、個人を特定し身元を証明する手段として、個人情報を記録したIDカード、ICカード、或いはパスポート等のいわゆる身分証(身元照明証等)、とくに、公的機関や信頼性の高い団体の発行する身分証の重要性が高まっている。
【0003】
とりわけ、2001年9月の世界同時多発テロ事件以降、各国の入出国管理を厳しくする等の対応策が講じられている。たとえば、国連の専門機関 ICAO(International Civil Aviation Organization)が標準規格を制定し、個人情報を書き込み、読み取り可能なICチップを組み込んだ電子パスポート導入の取り組みが開始されている。また、個人を特定するのに多量な情報を記録したIDカード、ICカード等も登場するに至っている。これらのIDカード、ICカード、或いはパスポート等のいわゆる身分証では、個人情報を書き込みしたICチップの他に、カード本体やシート本体等に個人名、記号、文字、写真等の個人情報を表示したものが一般的となっている。
【0004】
ところで、このようなIDカード、ICカード、或いはパスポート等は、個人を特定し証明し得るものであるから、公的機関や信頼性の高い団体以外の第三者が、個人情報の改竄や偽造等を容易に行えるものであれば、身分証への信頼性は落ち、国際交流の進展や人材の世界規模での移動に支障を与えることになりかねない。
【0005】
そこで、前述の電子パスポート、IDカード、ICカード等のいわゆる身分証では、如何に改竄や偽造を防止するがが重要な問題となっている。すなわち、軽薄短小な電子パスポート、IDカード、ICカード等に如何にしてコントラストが高く、鮮明な表示が得られるかは、改竄や偽造等防止にも繋がるため重要となる。
【0006】
このような問題に対して、個人名、記号、文字、写真などをレーザーマーキングする技術、具体的にはレーザーマーキング用多層シートが注目されており、たとえば、以下の特許文献1、2がある。
【0007】
特許文献1では、外観の損傷がなく、コントラストが良好で、表面平滑性の優れたレーザーマーキングできる多層シートを得ることを目的に、少なくとも表層及び内層からなる多層シートであって、(A)透明の熱可塑性樹脂からなる表層と、(B)(b−1)熱可塑性樹脂100重量部に対し、(b−2)レーザー光線を吸収するエネルギー吸収体0.01〜5重量部および(b−3)着色剤0.5〜7重量部を含有する熱可塑性樹脂組成物からなる内層とを、溶融共押し出しにて形成したレーザーマーキング用多層シートが開示されている。
【0008】
特許文献2では、外観の損傷がなく、コントラストが良好で、表面平滑性の優れたレーザーマーキングでき、耐熱性の優れた多層シートを得ることを目的に、第一の表層/内層/第二の表層からなる多層シートであって、(A)透明の熱可塑性樹脂100重量部に対し、雲母及び/又はカーボンブラックを0.001〜5重量部を含有する熱可塑性樹脂組成物からなる透明な第一及び第二の表層と、(B)熱可塑性樹脂100重量部に対し、レーザー光線を吸収するエネルギー吸収体0.001〜3重量部を含有する熱可塑性樹脂組成物からなる内層とから形成され、第一の表層/内層/第二の表層のシートの厚み構成比が1:4:1〜1:10:1であり、第一の表層/内層/第二の表層を、溶融共押し出しにて形成したレーザーマーキング用多層シートが開示されている。
【0009】
確かに、特許文献1、2におけるレーザーマーキング用多層シートでは、これらの多層シート同士や例えば、PETGシートやABS樹脂シート等の熱可塑性樹脂シートとの加熱融着性に優れ、レーザー光照射によるレーザーマーキングにより文字、数字を印字するには充分な印字性が得られ、評価に値するものである。しかし、特許文献1では内層に着色剤0.5〜7重量部を含有しており、前述のような個人情報を記録したIDカード、ICカード、或いはパスポート等のいわゆる身分証では中間層であるインレイ層に印刷をする場合が一般的であり、その場合には最外層(オーバーレイ)に該多層シートを用いると着色剤含有の影響で透明性が充分でない。そのため、印刷部分の画像鮮明性が阻害されるという問題があった。特許文献2ではこれらの多層シートでは表層にもレーザー光吸収剤である雲母及び/又はカーボンブラックが含有されているで、前述のような個人情報を記録したIDカード、ICカード、或いはパスポート等のいわゆる身分証の最外層(オーバーレイ)に該多層シートを用いると、レーザー光照射により表層に含有されているこれらレーザー光吸収剤がレーザー光エネルギーを吸収して発泡等の現象が生じるため、表面の平滑性が低下する等の問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2002−273832号公報
【特許文献2】特許第3889431号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は上記問題点を解決すべくなされたものであり、レーザーマーキング性に優れ、かつ、生地色と印字部とのコントラストが高く、鮮明な文字、記号、画像が得られるとともに、多層シートの積層工程における加熱融着性に優れ、更には、全光線透過率の点からの透明性の向上、シートの搬送性、熱プレス後の金型からの離型性、耐熱性、折り曲げ性、耐摩耗性を兼ね揃えたレーザーマーキング多層シートを提供することにある。とりわけ、改竄防止、偽造防止に優れている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明により、以下のレーザーマーキング多層シートが提供される。
【0013】
[1] 透明レーザーマーキングシートAと多層シートBを積層してなるレーザーマーキング多層シートであって、前記透明レーザーマーキングシートAは、溶融押出成形によりにより成形された透明レーザーマーキングシートであって、ポリカーボネート樹脂を主成分とする透明樹脂100質量部に対して、レーザー光エネルギー吸収材を0.0005〜1質量部を含む透明ポリカーボネート樹脂組成物からなるとともに、前記透明レーザーマーキングシートAの全厚みが50〜200μmである透明シートからなり、前記多層シートBは、スキン層とコア層を有し、溶融押出成形により少なくとも3層のシートが積層されて形成される多層シートであって、前記多層シートBの両最外層である前記スキン層が、テレフタル酸単位を主とするジカルボン酸単位とエチレングリコール単位(I)、及び、1,4−シクロヘキサンジメタノール単位(II)を主とするグリコール単位からなるポリエステルであって、かつ、エチレングリコール単位(I)と1,4−シクロヘキサンジメタノール単位(II)とが、(I)/(II)=90〜30/10〜70モル%である共重合ポリエステル樹脂からなるとともに、前記多層シートBのコア層が、ポリカーボネート樹脂を主成分とする透明樹脂からなり、前記多層シートBのスキン層及び/又はコア層には、前記共重合ポリエステル樹脂100質量部及び/又は前記ポリカーボネート樹脂100質量部に対して、染料、顔料等の樹脂の着色剤の少なくとも1種以上を1質量部以上含有させてなり、更に、前記多層シートBの全厚さが100〜300μmからなるとともに、前記コア層の厚さの、前記多層シートBの全厚さに対して占める厚み比率が30%以上、85%未満からなる着色多層シートからなるレーザーマーキング多層シート。
【0014】
[2] さらに、前記透明レーザーマーキングシートAが、ポリカーボネート樹脂を主成分とする透明樹脂100質量部に対して、滑剤0.01〜3質量部を含有するともに、前記透明樹脂100質量部に対して、酸化防止剤及び/又は着色防止剤0.1〜5質量部、及び紫外線吸収剤及び/又は光安定剤0.1〜5質量部含有する透明レーザーマーキングシートからなる[1]に記載のレーザーマーキング多層シート。
【0015】
[3] 前記透明レーザーマーキングシートAは、スキン層、コア層を有し、溶融押出成形により成形された透明レーザーマーキングシートであって、前記スキン層は、ポリカーボネート樹脂を主成分とする透明樹脂からなり、前記コア層はポリカーボネート樹脂を主成分とする透明樹脂100質量部に対して、レーザー光エネルギー吸収材を0.0005〜1質量部含む透明ポリカーボネート樹脂組成物からなり、前記透明レーザーマーキングシートAの全厚さが、50〜200μmからなるとともに、前記コア層の、前記透明レーザーマーキングシートAの全厚さに対して占める厚み比率が20%以上〜90%未満である多層シートからなる[1]に記載のレーザーマーキング多層シート。
【0016】
[4] 前記透明レーザーマーキングシートAのスキン層が、ポリカーボネート樹脂を主成分とする透明樹脂100質量部に対して、滑剤0.01〜3質量部を含有するともに、前記透明レーザーマーキングシートAのスキン層及び/又はコア層が、ポリカーボネート樹脂を主成分とする透明樹脂100質量部に対して、酸化防止剤及び/又は着色防止剤0.1〜5質量部、及び紫外線吸収剤及び/又は光安定剤0.1〜5質量部含有する透明レーザーマーキングシートからなる[3]に記載のレーザーマーキング多層シート。
【0017】
[5] 前記透明レーザーマーキングシートAのレーザー光エネルギー吸収材が、カーボンブラック、チタンブラック、金属酸化物、金属硫化物、金属窒化物からなる少なくとも1種または2種以上を含有してなる[1]〜[4]のいずれかに記載のレーザーマーキング多層シート。
【0018】
[6] 前記透明レーザーマーキングシートA及び/又は多層シートBのコア層及び/又はスキン層が熱可塑性樹脂100質量部に対して、酸化防止剤及び/又は着色防止剤0.1〜5質量部、及び紫外線吸収剤及び/又は光安定剤0.1〜5質量部含有する[1]〜[5]のいずれかに記載のレーザーマーキング多層シート。
【0019】
[7] 前記透明レーザーマーキングシートA及び/又は多層シートBの表面には平均粗さ(Ra)0.1〜5μmのマット加工が施されている[1]〜[6]のいずれかに記載のレーザーマーキング多層シート。
【0020】
[8] 電子パスポート用である[1]〜[7]のいずれかに記載のレーザーマーキング多層シート。
【0021】
[9] プラスチックカード用である[1]〜[8]のいずれかに記載のレーザーマーキング多層シート。
【0022】
[10] [1]〜[9]のいずれかに記載のレーザーマーキング多層シートに、レーザーマーキングする方法であって、前記レーザーマーキング多層シートに積層した透明レーザーマーキングシートA側から、レーザー光線を照射して印字するレーザーマーキング方法。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、レーザーマーキング性に優れ、かつ、生地色と印字部とのコントラストが高く、鮮明な文字、記号、画像が得られるとともに、多層シートの積層工程における加熱融着性に優れ、更には、全光線透過率の点からの透明性を向上し、さらに、シートの搬送性、熱プレス後の金型からの離型性、耐熱性、折り曲げ性,耐摩耗性を兼ね揃えたレーザーマーキング多層シートを提供できるという優れた効果を奏する。とりわけ、改竄防止、偽造防止に優れている。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1A】本発明のレーザーマーキング多層シートの一実施形態を示す模式図であって、透明レーザーマーキングシートAが単層からな透明レーザーマーキングシートであって、レーザーマーキング多層シートの断面を模式的に示した図である。
【図1B】本発明のレーザーマーキング多層シートの一実施形態を示す模式図であって、透明レーザーマーキングシートAが3層からな透明レーザーマーキングシートであって、レーザーマーキング多層シートの断面を模式的に示した図である。
【図2】本発明のレーザーマーキング多層シートを、電子パスポートに使用する場合の一例を示す模式図である。
【図3A】本発明のレーザーマーキング多層シートを、プラスチックICカードに使用する場合の一例を示す模式図である。
【図3B】本発明のレーザーマーキング多層シートを、プラスチックICカードに使用する場合の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明のレーザーマーキング多層シートを実施するための形態について具体的に説明する。但し、本発明はその発明特定事項を備えるレーザーマーキング多層シートを広く包含するものであり、以下の実施形態に限定されるものではない。
【0026】
[1−1]本発明のレーザーマーキング多層シート:
第1の発明のレーザーマーキング多層シート1Aとしては、図1Aに示されるように、透明レーザーマーキングシートA(符号3)と多層シートB(符号5)を積層してなるレーザーマーキング多層シート1Aであって、前記透明レーザーマーキングシートA(符号3)は、溶融押出成形により成形された透明レーザーマーキングシートであって、ポリカーボネート樹脂を主成分とする透明樹脂100質量部に対して、レーザー光エネルギー吸収材を0.0005〜1質量部を含む透明ポリカーボネート樹脂組成物からなるとともに、前記透明レーザーマーキングシートAの全厚みが50〜200μmである透明シートからなり、前記多層シートB(符号5)は、スキン層(符号5a)とコア層(符号5b)を有し、溶融押出成形により少なくとも3層のシートが積層されて形成される多層シートであって、前記多層シートB(符号5)の両最外層である前記スキン層(符号5a)は、テレフタル酸単位を主とするジカルボン酸単位とエチレングリコール単位(I)、及び、1,4−シクロヘキサンジメタノール単位(II)を主とするグリコール単位からなるポリエステルであって、かつ、エチレングリコール単位(I)と1,4−シクロヘキサンジメタノール単位(II)とが、(I)/(II)=90〜30/10〜70モル%である共重合ポリエステル樹脂からなるとともに、前記多層シートB(符号5)のコア層(符号5b)が、ポリカーボネート樹脂を主成分とする透明樹脂からなり、前記多層シートBのスキン層(符号5a)及び/又はコア層(符号5b)には、前記共重合ポリエステル樹脂100質量部及び/又は前記ポリカーボネート樹脂100質量部に対して、染料、顔料等の樹脂の着色剤の少なくとも1種以上を1質量部以上含有させてなり、更に、前記多層シートBの全厚さが100〜300μmからなるとともに、前記コア層の厚さの、前記多層シートBの全厚さに対して占める厚み比率が30%以上、85%未満からなる着色多層シートからなるレーザーマーキング多層シート1Aとして構成されている。
【0027】
[1−2]本発明のレーザーマーキング多層シート:
また、第2の発明のレーザーマーキング多層シートとしては、図1Bに示されるように、透明レーザーマーキングシートA(符号3)と多層シートB(符号5)を積層してなるレーザーマーキング多層シートである。前記透明レーザーマーキングシートA(符号3)は、スキン層(符号3a)、コア層(符号3b)を有し、溶融押出成形により成形された透明レーザーマーキングシートであって、前記スキン層(符号3a)は、ポリカーボネート樹脂を主成分とする透明樹脂からなり、前記コア層(符号3b)はポリカーボネート樹脂を主成分とする透明樹脂100質量部に対して、レーザー光エネルギー吸収材を0.0005〜1質量部含む透明ポリカーボネート樹脂組成物からなり、前記透明レーザーマーキングシートAの全厚さが、50〜200μmからなるとともに、前記コア層の、前記透明レーザーマーキングシートAの全厚さに対して占める厚み比率が20%以上〜90%未満である多層シートからなり、前記多層シートBは、スキン層(符号5a)とコア層(符号5b)を有し、積層される少なくとも3層のシートから形成される多層シートである。前記多層シートB(符号5)の両最外層である前記スキン層(符号5a)は、テレフタル酸単位を主とするジカルボン酸単位とエチレングリコール単位(I)、及び、1,4−シクロヘキサンジメタノール単位(II)を主とするグリコール単位からなるポリエステルであって、かつ、エチレングリコール単位(I)と1,4−シクロヘキサンジメタノール単位(II)とが、(I)/(II)=90〜30/10〜70モル%である共重合ポリエステル樹脂からなるとともに、前記多層シートB(符号5)のコア層(符号5b)が、ポリカーボネート樹脂を主成分とする透明樹脂からなり、前記多層シートBのスキン層(符号5a)及び/又はコア層(符号5b)には、前記共重合ポリエステル樹脂100質量部及び/又は前記ポリカーボネート樹脂100質量部に対して、染料、顔料等の樹脂の着色剤の少なくとも1種以上を1質量部以上含有させてなり、更に、前記多層シートBの全厚さが100〜300μmからなるとともに、前記コア層の厚さの、前記多層シートBの全厚さに対して占める厚み比率が30%以上、85%未満からなる着色多層シートからなるレーザーマーキング多層シート1Bとして構成されている。
【0028】
[A]透明レーザーマーキングシートAの構成:
本発明の透明レーザーマーキングシートAは、単層構造のシートとして構成され、単層構造のシートである場合には、溶融押出成形形により成形されることが望ましい。
【0029】
また、透明レーザーマーキングシートAが、単層構造のシートとして構成される場合には、ポリカーボネート樹脂(PC)、特に透明なポリカーボネート樹脂を主成分とする透明樹脂層から形成される。ただし、使用されるポリカーボネート樹脂は特に制限はないが、メルトボリュームレイトが4〜20のものを好適に使用できる。メルトボリュームレイトが4未満では、シートのタフネス性が向上するという点では意味はあるものの、成形加工性が劣ることから、実際の使用に難があるため好ましくない。また、メルトボリュームレイトが20を超えると、シートのタフネス性に劣ることから、好ましくない。このように透明レーザーマーキングシートAを、ポリカーボネート樹脂(PC)を主成分とする透明樹脂層から形成することによって、レーザー光照射によるマーキング部の発泡による、いわゆる「フクレ」が抑制及びレーザー光照射によるマーキング部分の耐磨耗性が向上させることができる。
【0030】
また、透明レーザーマーキングシートAが、単層構造のシートとして構成される場合には、高い透明性を有している事が重要であり、ポリカーボネート樹脂の透明性を阻害しない樹脂、フィラー等であれば特に制限はないが、耐傷性を向上または耐熱性を向上させる目的で、汎用ポリカーボネート樹脂と特殊ポリカーボネート樹脂とのブレンドまたはポリカーボネート樹脂とポリアリレート樹脂とのブレンド等が挙げられる。
【0031】
より好ましいのは、透明レーザーマーキングシートAは、スキン層とコア層とからなる「少なくとも3層」構造のシートとして構成されことである。ただし、この「3層シート」とは、「少なくとも3層」を意味するものであって、3層構造のシートに限られるものではない。換言すれば、透明レーザーマーキングシートAにおいて、「3層シート」と言うのは、説明の便宜を図るものであり、「3層シート」とは、「少なくとも3層以上の層からなるシート」を意味するものであって、「3層」から成るシートに限定する趣旨ではない。つまり、3層以上の構成からなれば、5層から構成されても、7層から構成されても、或いは、それ以上の奇数層から形成されていても、本透明レーザーマーキングシートAに含まれる。
【0032】
また、透明レーザーマーキングシートAが、スキン層とコア層とからなる「少なくとも3層」構造のシートとして構成される場合には、溶融共押出成形(共押出法)により積層形成される。
【0033】
なお、上述した「少なくとも3層」の多層構造から透明レーザーマーキングシートAが構成される場合には、後述する透明レーザーマーキングシートAのスキン層は、多層構造から構成されるシートの最も外側の位置に配されるとともに、そのシートの両側に配され、さらに、両スキン層(の間)に、コア層が挟まれるように配されることが必要となる。なお、透明レーザーマーキングシートAスキン層の厚さは、特に限定されるものではないが、より好ましいのは、後述の所定範囲の厚さに形成されることである。
【0034】
ただし、透明レーザーマーキングシートAが上述の「それ以上の奇数層」から構成される場合であっても、あまりに多層構造からなる場合には、配されるスキン層とコア層との一層あたりの層厚が薄くなり過ぎてしまうと、積層時の加熱プレス工程での、いわゆる金型スティックが発生してしまうおそれがある。したがって、好ましいのは5層から、より好ましいのは3層から構成される多層シートである。
【0035】
すなわち、本実施形態における透明レーザーマーキングシートAが前述のように奇数層から構成されるのは、偶数層からなる多層シートは、必ず奇数層からなる多層シートと同じ構成となるからである。例えば、4層からなる透明レーザーマーキングシートでは、スキン層(PC)/コア層(PC)/コア層(PC)/スキン層(PC)、といった層の配置となり、結局のところ、奇数層から構成される透明レーザーマーキングシートと同様の構成となるからである。
【0036】
たとえば、3層(いわゆる「3層シート」)から構成される透明レーザーマーキングシートAを例にすると、スキン層(PC)/コア層(PC)/スキン層(PC)、といった層の配列がなされるように、一方と他方の両最外側に2つのスキン層が配され、その2つのスキン層に挟まれるように、コア層が1層配されて多層シートが形成されることになる。また、5層から構成される多層シートを例にすると、スキン層(PC)/コア層(PC)/スキン層(PC)/コア層(PC)/スキン層(PC)、といった層の配列がなされるように、一方と他方の両最外側に2つのスキン層が配され、かつ、交互にスキン層とコア層を配列して、透明レーザーマーキングシートAを形成してもよい。ここで、前述のように、コア層のみの単層透明レーザーマーキングシートとして構成しても、充分なレーザー発色性を有し、本願の効果を奏することができるが、より好ましいのは、前述のような多層構造を有する透明レーザーマーキングシートAを形成することである。このような多層構造に透明レーザーマーキングシートAを構成することにより、コア層のみの単層透明レーザーマーキングシートよりも更に、高パワーでレーザー光照射し、レーザーマーキング部の濃度を高めることができ、加えて、コア層マーキング部の発泡による、いわゆる「フクレ」が抑制でき表面平滑性を維持できるからである。その上、コア層マーキング部分の上層にスキン層が積層されているために、スキン層の無い場合と比較してマーキング部分の耐磨耗性がより向上するといった相乗効果も奏することできる。
【0037】
また、透明レーザーマーキングシートAの全厚さ(総厚さ)は、単層或いは3層シートのいずれでも、50〜200μmであることが望ましい。透明レーザーマーキングシートAの全厚さが、50μm未満であると、レーザーマーキング性が不十分となり好ましくない。また、透明レーザーマーキングシートAの全厚さが200μmを超えると、たとえば、その200μmを超えた透明レーザーマーキングシートAと多層シートBとからなるレーザーマーキング多層シートを用いて、電子パスポート用多層シート及びプラスチックカードを多層積層成型した場合には、これらの厚み規格である全最大厚さ800μmを超えてしまう虞があるため、汎用性が乏しく実用困難となる。
【0038】
さらに、透明レーザーマーキングシートAがスキン層とコア層からなる多層シート(いわゆる3層シート)の場合には、透明レーザーマーキングシートAの全厚さ(総厚さ)は、50〜200μmからなるともに、当該多層シートの全シート厚さに対して占める前記コア層の厚さの割合が20%以上、90%未満からなることが好ましい。コア層の厚みが20%未満では、レーザーマーキング性が劣り好ましくない。また、90%以上では、スキン層が薄くなりすぎ、高パワーでレーザー光を照射した場合に、コア層に配合したレーザー光エネルギー吸収剤がレーザー光エネルギーを吸収して熱に変換することにより、高熱が発生し、レーザー光照射部における、いわゆる「フクレ発生」を抑制する効果に乏しくなり好ましくない。また、仮に、レーザー光エネルギーを調整して、好ましいレーザー発色を得たとしても、スキン層の厚みが前述の所望範囲内であるものと比較して、レーザーマーキング部の耐磨耗性が充分でなく好ましくない。
【0039】
このように単層シート或いは3層シートからなる透明レーザーマーキングシートAにおける全体の厚さを所望の厚さとすることにより、透明レーザーマーキングシートAの特性といった局所的な特性を引き出しやすくなる。さらに、この3層シート全体の総厚さだけに限らず、3層シートを構成するスキン層及びコア層の3層シートに占める厚さの割合も前述の所望の割合にすることにより、3層シート全体の厚さを所望範囲内にすることと相俟って、レーザーマーキング性を向上させやすくなる等、本願の効果をより発揮させるため好ましい。
【0040】
また、前記透明レーザーマーキングシートAの全光線透過率が70%以上であることが好ましく、より好ましいのは透明レーザーマーキングシートAの全光線透過率が85%以上である。たとえば、本願発明のレーザーマーキング多層シートを、電子パスポート用の積層体シートや、プラスチックカードの積層体に使用する場合には、それらの用途では印刷を施すことが一般的である。そのため、本実施形態の透明レーザーマーキング多層シートの下部に、たとえば、文字、図形等の印刷を施した白色シート(以下、文字、図形等の印刷を施した白色シートの印刷を、適宜「印刷部」という)を積層するなどして、最外層である透明レーザーマーキングシートAの非印刷部にレーザー光を照射し、黒色発色させて、画像や文字をマーキングさせ、印刷部でのデザイン性とレーザーマーキングによる偽造防止を組み合わせて使用する事が多い。このように組み合わせて製造し使用することで、その下地層が白い故に、印刷部の鮮明性及びレーザーマーキング部の黒/白コントラストにより鮮明な画像を得ることができる。すなわち、白色シート等を積層する場合には、この最外層の透明性を前述の所望範囲の全光線透過率にすることにより、これらの効果を最大限に発揮させられる。(黒/白コントラストの鮮明性を際立たせることができる。)換言すれば、この最外層の透明性は印刷部の鮮明性及びレーザーマーキング部の黒/白コントラストの鮮明性を確保する上で重要であり、全光線透過率が70%未満では黒/白コントラストが不十分となり充分なマーキング性が確保できない問題が生じることと、印刷は下地白色シート上に施すために、この印刷の視認性に問題を生じるため好ましくない。
【0041】
ここで、「全光線透過率」とは、膜等に入射した光のうち、透過する光の割合を示す指標であり、入射した光がすべて透過する場合の全光線透過率は100%である。なお、本明細書中の、「全光線透過率」は、JIS−K7105(光線透過率及び全光線反射率)に準拠して測定した値を示したものであり、この全光線透過率の測定は、たとえば、日本電色工業製のヘイズメーター(商品名:「NDH 2000」)、分光光度計(商品名「EYE7000」マクベス社製)等を用いて測定できる。
【0042】
[A−1]透明レーザーマーキングシートAにおけるスキン層:
透明レーザーマーキングシートAにスキン層を形成する場合、すなわち「3層構造」としての多層構造から構成される場合には、そのスキン層は、3層シートの外側に配される両最外層として構成される。すなわち、このスキン層は、後述する多層シートにおけるコア層の両端面側(外側)から、挟み込むように配される、3層シートの表層(両最外層)としての役割を担っている。
【0043】
ここで、スキン層の厚さは、それぞれ同一であることが好ましい。それぞれ異なる厚さのスキン層から多層シートとして透明レーザーマーキングシートAを構成すると、電子パスポート用多層積層体やカードでは表と裏からレーザーマーキングする事が一般的となるため、この場合に前記積層体の最表層と最裏層であるスキン層の厚みが異なる事で、レーザー光照射によるコア層マーキングの発泡による、いわゆる「フクレ」抑制効果及びマーキング部の耐磨耗性効果が異なるため好ましくないからである。また、例えば、スキン層(PC)/コア層(PC)/スキン層(PC)といった3層から多層シートとして透明レーザーマーキングシートAが構成される場合であって、コア層の厚さが20%以上、90%未満である場合には、スキン層は両側で10%以上、80%未満となる。スキン層の厚さが10%未満であると、レーザー光照射によるコア層マーキング部の発泡による、いわゆる「フクレ」が抑制及びレーザー光照射によるマーキング部分の耐磨耗性が向上する効果が十分でない。他方、スキン層の厚さがあまりにも大きすぎると、レーザーマーキング層であるコア層の厚さが、必然的に薄くなってしまい、レーザーマーキング性が劣るため好ましくない。
【0044】
また、このスキン層は、ポリカーボネート樹脂(PC)、特に透明なポリカーボネート樹脂を主成分とする透明樹脂層から形成される。ただし、使用されるポリカーボネート樹脂は特に制限はないが、メルトボリュームレイトが4〜20のものを好適に使用できる。メルトボリュームレイトが4未満では、シートのタフネス性が向上するという点では意味はあるものの、成形加工性が劣ることから、実際の使用に難があるため好ましくない。また、メルトボリュームレイトが20を超えると、シートのタフネス性に劣ることから、好ましくない。このようにスキン層を、ポリカーボネート樹脂(PC)を主成分とする透明樹脂層から形成することによって、レーザー光照射によるコア層マーキング部の発泡による、いわゆる「フクレ」が抑制及びレーザー光照射によるマーキング部分の耐磨耗性が向上させることができる。
【0045】
スキン層は高い透明性を有している事が重要であり、ポリカーボネート樹脂の透明性を阻害しない樹脂、フィラー等であれば特に制限はないが、スキン層の耐傷性を向上または耐熱性を向上させる目的で、汎用ポリカーボネート樹脂と特殊ポリカーボネート樹脂とのブレンドまたはポリカーボネート樹脂とポリアリレート樹脂とのブレンド等が挙げられる。
【0046】
[A−2]透明レーザーマーキングシートAにおけるコア層:
コア層は、前述のように、透明レーザーマーキングシートAを3層シートからなる構成として、最外層にスキン層を形成する場合には、その3層シートの中心に配される、いわゆる核層として構成される。すなわち、3層シートから構成する場合には、コア層は、最外側に配された2つのスキン層に挟み込まれるように、3層シートの中核層として形成されている。このコア層の厚さとしては、全シート中に占める厚さの割合が、20%以上、90%未満になるよう形成されることが好ましい。より好ましいのは40%以上85%未満である。コア層の厚み比率が20%以上となると、レーザー光照射によるコア層マーキング部の厚み効果により下地白色層による未発色部とのコントラストが高まり、マーキング部の視認性、鮮明性が向上する。他方、コア層の厚み比率が90%を超えると、レーザー光照射によるコア層マーキングの発泡による、いわゆる「フクレ」抑制効果及びレーザー光照射によるマーキング部分の耐磨耗性が向上する効果が十分でない。また、コア層の厚み比率が20%未満では、レーザーマーキング性が劣るため好ましくない。
【0047】
コア層を構成する材料(素材)としては、ポリカーボネート樹脂、特に透明なポリカーボネート樹脂が使用される。ただし、使用されるポリカーボネート樹脂は特に制限はないが、メルトボリュームレイトが4〜20のものを好適に使用できる。メルトボリュームレイトが4未満では、シートのタフネス性が向上するという点では意味はあるものの、成形加工性が劣ることから、実際の使用に難があるため好ましくない。また、メルトボリュームレイトが20を超えると、シートのタフネス性に劣ることから、好ましくない。
【0048】
[A−3]レーザー光エネルギー吸収材:
また、透明レーザーマーキングシートAが単層構造である場合には、透明レーザーマーキングシートAに、或いは透明レーザーマーキングシートAが少なくとも3層シートである場合には、そのコア層には、ポリカーボネート樹脂を主成分とする透明樹脂100質量部に対して、レーザー光エネルギー吸収材を0.0005〜1質量部が含まれることが望ましい。このように構成することにより、レーザーマークした際のレーザー発色性に優れ、生地色と印字部とのコントラストが高くなり、鮮明な文字、記号、画像が得られるので望ましい。
【0049】
また、レーザー光エネルギー吸収材としては、カーボンブラック、チタンブラック、金属酸化物、金属硫化物、金属窒化物の群から選ばれた少なくとも1種が挙げられる。より好ましいのは、レーザー光エネルギー吸収材が、コア層にカーボンブラック、チタンブラック、金属酸化物からなる少なくとも1種または2種以上を含有しているものである。
【0050】
ここで、カーボンブラック、チタンブラック、金属酸化物、金属硫化物、金属窒化物の平均粒子径は、150nm未満であることが好ましく、より好ましいのは100nm未満であり、さらに、平均粒径が10〜90nmで、ジブチルフタレート(DBT)吸油量60〜170ml/100grのカーボンブラックまたは該カーボンブラックと平均粒子径は、150nm未満のチタンブラックまたは金属酸化物の併用が好ましい。カーボンブラック、チタンブラック、金属酸化物、金属硫化物、金属窒化物の平均粒径が150nmを超えるとシートの透明性が低下したり、シート表面に大きな凹凸が発生したりする事があり好ましくない。さらに、カーボンブラックの平均粒径が10nm未満ではレーザー発色性が低下すると共に、微細すぎて取扱いに難があり、好ましくない。また、DBT吸油量が60ml/100gr未満では分散性が悪く、170ml/100grを超えると隠蔽性に劣るため好ましくない。
【0051】
金属酸化物としては、酸化物を形成する金属として、亜鉛、マグネシウム、アルミニウム、鉄、チタン、珪素、アンチモン、錫、銅、マンガン、コバルト、バナジウム、ビスマス、ニオブ、モリブデン、ルテニウム、タングステン、パラジウム、銀、白金などが挙げられる。更に、複合金属酸化物としてITO、ATO、AZO等が挙げられる。
【0052】
金属硫化物としては、硫化亜鉛、硫化カドミニウムなどが挙げられる。さらに、金属窒化物としては窒化チタンなどが挙げられる。
【0053】
このように、エネルギー吸収体としては、カーボンブラック及び金属酸化物、複合金属酸化物が好適に用いられ、各々単独または併用して用いられる。
【0054】
また、エネルギー吸収体の添加量(配合量)は、カーボンブラックを0.0005〜1質量部添加(配合)されることが望ましく、好ましくは0.0008〜0.1質量部である。また、カーボンブラックと平均粒子径150nm未満の金属酸化物、金属硫化物、金属窒化物から選ばれた少なくとも1種とを併用する場合にはその混合物の配合量が0.0005〜1質量部配合されることが好ましく、より好ましくは0.0008〜0.5質量部である。
【0055】
このように、エネルギー吸収体の添加量(配合量)を所望量に調製するのは、透明レーザーマーキングシートAは透明であることが好ましいからである。すなわち、電子パスポート用の積層体シートや、プラスチックカードの積層体に使用する場合、印刷を施した白色シート(インレイとよばれる層)上に、透明レーザーマーキングシート(オーバーレイとよばれる層)を積層するなどして使用されるが、印刷部を施していない部分のオーバーレイにレーザー光を照射し、黒色発色させて、画像や文字をマーキングさせ、印刷部でのデザイン性とレーザーマーキングによる偽造防止効果を組み合わせて使用する事が多い。このように組み合わせて製造し使用することで、その下地層が白い故に、印刷部の鮮明性及びレーザーマーキング部の黒/白コントラストにより鮮明な画像を得ることができる。換言すれば、前述のインレイ層上に積層されるオーバーレイ層の透明性が劣ると、印刷された画像、文字等が不鮮明となること、及びレーザーマーキング部の黒/白コントラストが劣ること等から実用上問題となる。そのために平均粒子径の小さいカーボンブラックが好ましく用いられ、また、カーボンブラックと他の金属酸化物、金属硫化物、金属炭酸塩及び金属ケイ酸塩から選ばれた少なくとも1種との混合物をレーザーエネルギー吸収剤として用いる場合も、これら金属酸化物、金属硫化物の平均粒子径が少なくとも150nm未満、好ましくは100nm未満とするのである。
【0056】
したがって、これらレーザーエネルギー吸収体の平均粒子径が150nmを超えると透明レーザーマーキングシートAの透明性が低下して好ましくない。また、これらレーザーエネルギー吸収体の配合量も1質量部を超えると多層シートの透明性が低下すると共に、吸収エネルギー量が多過ぎてしまい、樹脂を劣化させてしまう。その結果、充分なコントラストが得られない。他方、レーザーエネルギー吸収体の添加量が0.0005質量部未満では充分なコントラストが得られず好ましくない。
【0057】
[A−4]滑材、酸化防止剤及び/または着色防止剤:
また、本実施形態では、透明レーザーマーキングシートAに滑剤を含有させることが好ましく、透明レーザーマーキングシートAがいわゆる3層シートからなる場合には、スキン層に滑剤を含有させることが好ましい。滑剤を含有させることにより、加熱プレス時にプレス板に融着を防ぐことができるからである。
【0058】
さらに、本実施形態では、透明レーザーマーキングシートAに必要に応じて、酸化防止剤及び/又は着色防止剤、及び紫外線吸収剤及び/又は光安定剤を含有させることも好ましく、透明レーザーマーキングシートAがいわゆる3層シートからなる場合には、スキン層及び/またはコア層に、必要に応じて、酸化防止剤及び/又は着色防止剤、及び紫外線吸収剤及び/又は光安定剤を含有させることも好ましい。酸化防止剤及び/または着色防止剤の添加(配合)は成形加工時における分子量低下による物性低下及び色相安定化に有効に作用する。この酸化防止剤及び/又は着色防止剤としては、フェノール系酸化防止剤や亜燐酸エステル系着色防止剤が使用される。また、紫外線吸収剤及び/又は光安定剤の添加(配合)は透明レーザーマーキングシートAの保管時及び最終製品である電子パスポートまたはプラスチックカードの実際の使用時における耐光劣化性を抑制に有効に作用する。
【0059】
フェノール系酸化防止剤の例としては、例えば、α−トコフェロール、ブチルヒドロキシトルエン、シナピルアルコール、ビタミンE、n−オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、3−5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシトルエン;ペンタエリスリチル−テトラキス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、トリエチレングリコール−ビス〔3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、1,6−ヘキサンジオール−ビス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、2−tert−ブチル−6−(3’−tert−ブチル−5’−メチル−2’−ヒドロキシベンジル)−4−メチルフェニルアクリレート、2,6−ジ−tert−ブチル−4−(N,N−ジメチルアミノメチル)フェノール、3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジルホスホネートジエチルエステル、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4’−メチレンビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−シクロヘキシルフェノール)、2,2’−ジメチレン−ビス(6−α−メチル−ベンジル−p−クレゾール)、2,2’−エチリデン−ビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、2,2’−ブチリデン−ビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、トリエチレングリコール−N−ビス−3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオネート、1,6−へキサンジオールビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、ビス[2−tert−ブチル−4−メチル6−(3−tert−ブチル−5−メチル−2−ヒドロキシベンジル)フェニル]テレフタレート、3,9−ビス{2−[3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ]−1,1,−ジメチルエチル}−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン、4,4’−チオビス(6−tert−ブチル−m−クレゾール)、4,4’−チオビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、2,2’−チオビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、ビス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)スルフィド、4,4’−ジ−チオビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、4,4’−トリ−チオビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、2,2−チオジエチレンビス−[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、2,4−ビス(n−オクチルチオ)−6−(4−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−ブチルアニリノ)−1,3,5−トリアジン、N,N’−ヘキサメチレンビス−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシヒドロシンナミド)、N,N’−ビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニル]ヒドラジン、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−tert−ブチルフェニル)ブタン、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)イソシアヌレート、トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、1,3,5−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、1,3,5−トリス(4−tert−ブチル−3−ヒドロキシ−2,6−ジメチルベンジル)イソシアヌレート、1,3,5−トリス2[3(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ]エチルイソシアヌレート、およびテトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシメチル]メタンなどが挙げられる。
【0060】
なお、これらの例示の中でも、とりわけ、n−オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、1,3,5−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、テトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシメチル]メタンが好適であり、特にn−オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネートが好適である。上記ヒンダードフェノール系酸化防止剤は、単独でまたは2種以上を組合せて使用することができる。
【0061】
亜燐酸エステル系着色防止剤としては、例えば、トリフェニルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリデシルホスファイト、トリオクチルホスファイト、トリオクタデシルホスファイト、ジデシルモノフェニルホスファイト、ジオクチルモノフェニルホスファイト、ジイソプロピルモノフェニルホスファイト、モノブチルジフェニルホスファイト、モノデシルジフェニルホスファイト、モノオクチルジフェニルホスファイト、2,2−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)オクチルホスファイト、トリス(ジエチルフェニル)ホスファイト、トリス(ジ−iso−プロピルフェニル)ホスファイト、トリス(ジ−n−ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(2,6−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−エチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、フェニルビスフェノールAペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(ノニルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ジシクロヘキシルペンタエリスリトールジホスファイトなどが挙げられる。
【0062】
さらに、他のホスファイト化合物としては二価フェノール類と反応し環状構造を有するものも使用できる。例えば、2,2’−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、2,2’−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)(2−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ホスファイト、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェニル)(2−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ホスファイト、2,2’−エチリデンビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェニル)(2−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ホスファイトなどを挙げることができる。
【0063】
上記の中でもトリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイトが特に好ましい。亜燐酸エステル系着色防止剤は、1種もしくは2種以上を混合して用いてもよい。また、フェノール系酸化防止剤と併用してもよい。
【0064】
紫外線吸収剤としては、例えば2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−アミルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ビス(α,α’−ジメチルベンジル)フェニルベンゾトリアゾール、2,2’メチレンビス[4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール]、メチル−3−[3−tert−ブチル−5−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−ヒドロキシフェニルプロピオネート−ポリエチレングリコールとの縮合物に代表されるベンゾトリアゾール系化合物を挙げることができる。
【0065】
更に、紫外線吸収剤としては、例えば、2−(4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン−2−イル)−5−ヘキシルオキシフェノール、2−(4,6−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−1,3,5−トリアジン−2−イル)−5−ヘキシルオキシフェノールなどのヒドロキシフェニルトリアジン系化合物を挙げることができる。
【0066】
さらに、紫外線吸収剤としては、例えば、2,2’−p−フェニレンビス(3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)、2,2’−m−フェニレンビス(3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)、および2,2’−p,p’−ジフェニレンビス(3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)などの環状イミノエステル系化合物を挙げることができる。
【0067】
また、光安定剤としては、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケート、テトラキス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)−1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート、テトラキス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)−1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート、ポリ{[6−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)アミノ−1,3,5−トリアジン−2,4−ジイル][(2,2,6,6−テトラメチルピペリジル)イミノ]ヘキサメチレン[(2,2,6,6−テトラメチルピペリジル)イミノ]}、ポリメチルプロピル3−オキシ−[4−(2,2,6,6−テトラメチル)ピペリジニル]シロキサンなどに代表されるヒンダードアミン系のも含むことができ、かかる光安定剤は前記紫外線吸収剤や場合によっては各種酸化防止剤との併用において、耐候性などの点においてより良好な性能を発揮する。
【0068】
滑材としては、脂肪酸エステル、脂肪酸アミド、脂肪酸金属塩が挙げられ、それらから選ばれる少なくとも1種の滑剤が添加されることが好ましい。
【0069】
脂肪酸エステル系滑剤としては、ブチルステアレート、セチルパルミレート、ステアリン酸モノグリセライド、ステアリン酸ジグリセライド、ステアリン酸トリグリセライド、モンタンワックス酸のエステル、ロウエステル、ジカルボン酸エステル、複合エステル等が挙げられ、脂肪酸アマイド系滑剤としては、ステアリン酸アマイド、エチレンビスステアリルアマイド等が挙げられる。また、脂肪酸金属塩系滑剤としては、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸アルミウム、ステアリン酸バリウム等が挙げられる。
【0070】
より好ましいのは、透明レーザーマーキングシートAが単層であれば、透明レーザーマーキングシートAがポリカーボネート樹脂を主成分とする透明樹脂100質量部に対して、滑剤0.01〜3質量部含んでなる透明ポリカーボネート樹脂組成物からなり、さらに、透明レーザーマーキングシートAがポリカーボネート樹脂を主成分とする透明樹脂100質量部に対して、酸化防止剤及び/又は着色防止剤0.1〜5質量部、及び紫外線吸収剤及び/又は光安定剤0.1〜5質量部含有することであり、透明レーザーマーキングシートAが多層(いわゆる「3層シート」)であれば、(透明レーザーマーキングシートAの)スキン層がポリカーボネート樹脂を主成分とする透明樹脂100質量部に対して、滑剤0.01〜3質量部含んでなる透明ポリカーボネート樹脂組成物からなり、さらに、(透明レーザーマーキングシートAの)スキン層及び/またはコア層がポリカーボネート樹脂を主成分とする透明樹脂100質量部に対して、酸化防止剤及び/又は着色防止剤0.1〜5質量部、及び紫外線吸収剤及び/又は光安定剤0.1〜5質量部含有することである。ここで、滑剤の添加量としては0.01〜3質量部、好ましくは0.05〜1.5質量部である。0.01質量部未満では加熱プレス時にプレス板に融着してしまい、3質量部を超えると電子パスポートやカードの多層積層加熱プレス時に層間熱融着性に問題が生じるため好ましくない。さらに、酸化防止剤及び/又は着色防止剤が0.1質量部未満では、溶融し押出させて成形する工程でのポリカーボネート樹脂の熱酸化反応及びそれに起因する熱変色といった不具合が生じやすく、5質量部を超えると、これら添加剤のブリードといった不具合が生じやすいため好ましくない。さらに、紫外線吸収剤及び/又は光安定剤が、0.1質量部未満では、その効果に乏しく耐光劣化、それに伴う変色といった不具合が生じやすく、5質量部を超えると、これら添加剤のブリードといった不具合が生じやすいため好ましくない。
【0071】
また、いわゆる単層構造及び多層構造(前述の3層シート)を含めた透明レーザーマーキングシートA、及び/又は(後述する)多層シートBのコア層及び/又はスキン層が熱可塑性樹脂100質量部に対して、酸化防止剤及び/又は着色防止剤0.1〜5質量部、及び紫外線吸収剤及び/又は光安定剤0.1〜5質量部含有することも好ましい形態の一つである。適宜選択的に、酸化防止剤及び/又は着色防止剤、及び紫外線吸収剤及び/又は光安定剤を所望量含有させることができることに加えて、適宜、含有させる領域を選択できるため、シート全体として相乗的に本願の効果をより奏することができるからである。
【0072】
[A−5]マット加工:
また、透明レーザーマーキングシートAの両面には、マット加工が施され、平均粗さ(Ra)0.1〜5μmであることが好ましい。このように、透明レーザーマーキングシートAの表面にマット加工を形成する理由は、例えば、本実施形態のレーザーマーキング多層シートの構成が、本実施形態の透明レーザーマーキングシートA/別の多層シートBにて加熱プレス成形した場合、本実施形態の透明レーザーマーキングシートAと別の多層シートBの間の空気が抜けやすくなり、これらのシートを積層工程に搬送する場合に、吸引・吸着して搬送した後、これら多層シートを位置合わせして積層した後、空気を注入して多層シートを脱着する際、マット加工していないと脱着困難であったり、脱着できても積層位置がずれたりするなどの問題が生じやすい傾向がある。また、マット加工の平均粗さ(Ra)が5μmを超えると、本実施形態の透明レーザーマーキング多層シート/別の多層シートの熱融着性が低下しやすくなる傾向がある。
【0073】
さらに、表面の平均粗さ(Ra)が0.1μm未満では前述したようにシート搬送時・積層時に、シートが搬送機に貼りつくという問題等が発生しやすい傾向がある。
【0074】
[B]多層シートBの構成:
本発明の多層シートBは、スキン層とコア層とからなる少なくとも3層構造のシートとして構成され、溶融押出成形により積層形成される。なお、本実施形態に係る3層シートは、「少なくとも3層」であって、3層構造のシートに限られたものではない。すなわち、本実施形態における多層シートBにおいて、「3層シート」と言うのは、説明の便宜を図るものであり、「3層シート」とは「少なくとも3層以上の層からなるシート」を意味するものであって、「3層」から成るシートに限定する趣旨ではない。換言すれば、3層以上の構成からなれば、5層から構成されても、7層から構成されても、或いは、それ以上の奇数層から形成されていても、本実施形態の多層シートBに含まれる。
【0075】
ただし、上述した多層構造から本実施形態の多層シートBが構成される場合にも、後述するスキン層は、多層構造から構成されるシートの最も外側の位置に配されるとともに、そのシートの両側に配され、さらに、両スキン層(の間)に、コア層が挟まれるように配されることが必要となる。なお、スキン層の厚さは、特に限定されるものではないが、より好ましいのは、後述の所定範囲の厚さに形成されることである。
【0076】
他方、多層シートBが上述の「それ以上の奇数層」から構成される場合であっても、あまりに多層構造からなる場合には、配されるスキン層とコア層との一層あたりの層厚が薄くなり過ぎてしまうと、透明レーザーマーキングシートAとの加熱融着性が劣る問題が発生する。したがって、好ましいのは5層から、より好ましいのは3層から構成されるである。
【0077】
ここで、多層シートBが前述のように奇数層から構成されるのは、偶数層からなる多層シートは、必ず奇数層からなる多層シートと同じ構成となるからである。例えば、4層からなる多層シートでは、スキン層(PETG)/コア層(PC)/コア層(PC)/スキン層(PETG)、といった層の配置となり、結局のところ、奇数層から構成される多層シートと同様の構成となるからである。
【0078】
また、たとえば、3層から構成される多層シートを例にすると、スキン層(PETG)/コア層(PC)/スキン層(PETG)、といった層の配列がなされるように、一方と他方の両最外側に2つのスキン層が配され、その2つのスキン層に挟まれるように、コア層が1層配されて多層シートが形性されることになる。また、5層から構成される多層シートを例にすると、スキン層(PETG)/コア層(PC)/スキン層(PETG)/コア層(PC)/スキン層(PETG)、といった層の配列がなされるように、一方と他方の両最外側に2つのスキン層が配され、かつ、交互にスキン層とコア層を配列して、多層シートを形性してもよい。このように多層構造を有する多層シートを形成することにより、充分な加熱融着性が確保できる。
【0079】
また、3層シート(多層シートB)の全厚さ(総厚さ)は、全厚さが100〜300μmからなるともに、全厚さに対して占める前記コア層の厚さの割合が30%以上、85%未満からなること望ましい。3層シート(多層シートB)の全厚さが、100μm未満であると、必然的に多層シートBのスキン層であるPETG層が薄くなり、多層シート積層工程における加熱融着時に最外層に積層される透明レーザーマーキングシートA(「単層シート」及びいわゆる「3層シートの両方を含む」と多層シートB間の加熱融着性が確保できない。また、3層シート(多層シートB)の全厚さが300μmを超えると、その300μmを超えた3層シートを用いて電子パスポート用多層シートを成型した場合、全厚みが厚くなりすぎ使いづらくなる。また、プラスチックカードに使用した場合、カードの厚さが、一般的な接触、非接触式カードの規格である全厚さの最大厚さ800μmを超えることになるため、汎用性がなく、使用困難となるから好ましくない。さらに、多層シートBは、全厚さに対して占める前記コア層の厚さの割合が30%以上、85%未満からなることが望ましい。スキン層の厚さがあまりにも薄いと多層シート積層工程における加熱融着時に最外層に積層される透明レーザーマーキングシートA(「単層シート」及びいわゆる「3層シートの両方を含む」と多層シートB間の加熱融着性が確保できない。他方、スキン層の厚さがあまりにも大きすぎると、後述するコア層の厚さが、必然的に薄くなってしまい、コア層のみに着色剤を配合すると、1台の押出機のみに着色剤入りの樹脂を投入するだけでよいので、スキン層とコア層に着色剤を配合した場合よりも洗浄が極端にいえば半分の手間で済むが、多層シートB上に、部分または全面印刷した場合のいんぺい性が不足する。また、スキン層とコア層に着色剤を配合すると、前述したいんぺい性の問題は生じないが、例えば、2種の樹脂による3層シート共押出には2台の押出機を使用するが、この2台の押出機には着色剤入りの樹脂を投入する事となり、2種3層共押出シート生産後のクリーンアップには着色剤の洗浄にはかなりの手間がかかり、生産性とコスト的な問題が生じやすい。したがって、前述のような所望範囲内で、3層シート(多層シートB)の全厚さ(総厚さ)及び、全厚さに対して占めるコア層の厚さの割合が形成されること望ましい。
【0080】
このように3層シート全体の厚さを所望の厚さとすることにより、多層シートBの特性といった局所的な特性を引き出しやすくなるのみならず、本実施形態のレーザーマーキング多層シート(透明レーザーマーキングシートA及び多層シートBからなる多層シート)といった本実施形態全体の特性を引き出しやすくなる。さらに、この3層シート全体の総厚さだけに限らず、3層シートを構成するスキン層及びコア層の3層シートに占める厚さの割合も前述の所望の割合にすることにより、3層シート全体の厚さを所望範囲内にすることと相俟って、コントラスト性を向上させやすくなる等、本願の効果をより発揮させるため好ましい。
【0081】
なお、多層シートの融着性といんぺい性、(透明レーザーマーキングシートAの)レーザーマーキング部とのコントラストは多層シートの実用化や生産性、市場のニーズに応え得るものであるか等極めて重要な要素となるため、さらに後段にて、3層シート全体の総厚さと、スキン層、及びコア層との厚さとの関係について詳述する。
【0082】
[B−1]多層シートBにおけるスキン層:
多層シートBにおけるスキン層は、3層シートの外側に配される両最外層として構成される。すなわち、このスキン層は、後述する多層シートBにおけるコア層の両端面側(外側)から、挟み込むように配される、3層シートの表層(両最外層)としての役割を担っている。
【0083】
スキン層の厚さは、それぞれ同一であることが好ましい。それぞれ異なる厚さのスキン層から多層シートBを構成すると、 多層シート積層工程における加熱融着時に最外層透明レーザーマーキング多層シートと多層シートB間の加熱融着性のバラツキの要因となり好ましくないばかりか、加熱プレス後の積層体に“ソリ”が発生する事があり好ましくない。また、例えば、スキン層(PETG)/コア層(PC)/スキン層(PETG)といった3層から多層シートBが構成される場合であって、コア層の厚さが30%以上、85%未満である場合には、スキン層は両側で15%以上、70%未満となる。スキン層の厚さがあまりにも薄いと熱融着性の低下が生じてしまい、他方、スキン層の厚さがあまりにも大きすぎると、後述するコア層の厚さが、必然的に薄くなってしまい、コア層のみに着色剤を配合すると、1台の押出機のみに着色剤入りの樹脂を投入するだけでよいので、スキン層とコア層に着色剤を配合した場合よりも洗浄が極端にいえば半分の手間で済むが、多層シートB上に、部分または全面印刷した場合のいんぺい性が不足する。また、スキン層とコア層に着色剤を配合すると、前述したいんぺい性の問題は生じないが、例えば、2種の樹脂による3層シート共押出には2台の押出機を使用するが、この2台の押出機には着色剤入りの樹脂を投入する事となり、2種3層共押出シート生産後のクリーンアップには着色剤の洗浄にはかなりの手間がかかり、生産性とコスト的な問題が生じやすい。したがって、前述のような所望範囲内で、3層シート(多層シートB)の全厚さ(総厚さ)及び、全厚さに対して占めるコア層の厚さの割合が形成されること望ましい。
【0084】
このスキン層を形成する素材としては、ポリエステル系樹脂組成物、すなわち、後述の共重合ポリエステル樹脂([B−1−1]参照)を調製した、後述する実質的に非結晶性の芳香族ポリエステル系樹脂組成物からなる層として形成される。
【0085】
[B−1−1]共重合ポリエステル樹脂:
本実施形態に用いられる共重合ポリエステル樹脂は、非結晶性の芳香族ポリエステル系樹脂組成物の主要な成分として配合されている。この共重合ポリエステル樹脂としては、スキン層には、テレフタル酸単位を主とするジカルボン酸単位とエチレングリコール単位(I)[以下「エチレングリコール単位(I)」という]、及び、1,4−シクロヘキサンジメタノール単位(II)を主とするグリコール単位からなるポリエステルであって、かつ、エチレングリコール単位(I)と1,4−シクロヘキサンジメタノール単位(II)とが、(I)/(II)=90〜30/10〜70モル%である共重合ポリエステル樹脂が使用される。この共重合ポリエステル樹脂に含まれる、エチレングリコールと、1,4−シクロヘキサンジメタノールと、の成分量を調製する理由は、共重合ポリエステル樹脂において、エチレングリコール成分の置換量が10モル%未満で得られる樹脂では十分な非晶性にならず、熱融着後の冷却工程で再結晶化が進み、熱融着性が劣るからである。また、70モル%を超えて得られる樹脂では十分な非晶性にならず、熱融着後の冷却工程で再結晶化が進み、熱融着性が劣るからである。したがって、本実施形態のように、エチレングリコールと、1,4−シクロヘキサンジメタノールと、の成分量を調製して得られる樹脂は、十分な非晶性になり、熱融着性の点で優れているため、望ましい樹脂といえる。
【0086】
さらに、この共重合ポリエステル樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレートにおけるエチレングリコール成分の約30モル%を1,4−シクロヘキサンジメタノールで置換した実質的に非結晶性の芳香族ポリエステル系樹脂(商品名「PETG」、イーストマンケミカル社製)が商業的に入手可能なものとして挙げられる。
【0087】
[B−2]多層シートBにおけるコア層:
コア層は、3層シートの中心に配される、いわゆる核層として構成される。すなわち、このコア層は、最外側に配された2つのスキン層に挟み込まれるように、3層シートの中核層として形成されている。このコア層の厚さとしては、全シート中に占める厚さの割合が、30%以上、85%未満になるよう形成されることが望ましい。好ましいのは、40%以上80%未満である。コア層の厚み比率が85%以上となると、多層シートBの総厚みが100〜300μmと薄いため、相対的にスキン層も薄くなってしまい、多層シート積層工程における加熱融着時に最外層である透明レーザーマーキングシートA(「単層シート」及びいわゆる「3層シートの両方を含む」と多層シートB間の加熱融着性のバラツキの要因となり好ましくない。また、コア層の厚み比率が30%未満では、コア層の厚さが、必然的に薄くなってしまい、コア層のみに着色剤を配合すると、1台の押出機のみに着色剤入りの樹脂を投入するだけでよいので、スキン層とコア層に着色剤を配合した場合よりも洗浄が極端にいえば半分の手間で済むが、多層シートB上に、部分または全面印刷した場合のいんぺい性が不足する。また、スキン層とコア層に着色剤を配合すると、前述したいんぺい性の問題は生じないが、例えば、2種の樹脂による3層シート共押出には2台の押出機を使用するが、この2台の押出機には着色剤入りの樹脂を投入する事となり、2種3層共押出シート生産後のクリーンアップには着色剤の洗浄にはかなりの手間がかかり、生産性とコスト的な問題が生じやすい。したがって、前述のような所望範囲内で、3層シート(多層シートB)の全厚さ(総厚さ)及び、全厚さに対して占めるコア層の厚さの割合が形成されること望ましい。
【0088】
コア層を構成する材料(素材)としては、ポリカーボネート樹脂、特に透明なポリカーボネート樹脂が使用される。ただし、使用されるポリカーボネート樹脂は特に制限はないが、メルトボリュームレイトが4〜20のものを好適に使用できる。メルトボリュームレイトが4未満では、シートのタフネス性が向上するという点では意味はあるものの、成形加工性が劣ることから、実際の使用に難があるため好ましくない。また、メルトボリュームレイトが20を超えると、シートのタフネス性に劣ることから、好ましくない。
【0089】
[B−2−1]染料、顔料等の樹脂の着色剤:
多層シートBは、着色多層シートであり、多層シートBのスキン層及び/又はコア層には、前記共重合ポリエステル樹脂100質量部及び/又は前記ポリカーボネート樹脂100質量部に対して、染料、顔料等の樹脂の着色剤の少なくとも1種以上を1質量部以上含有させていることが望ましい。この点で、透明レーザーマーキングシートAと異なる。このように着色系染料、顔料等の樹脂の着色剤を1質量部以上配合するのは、後述するように、透明レーザーマーキングシートAと着色多層シートBの積層体シートを積層させた後レーザー光を照射してマーキングする場合にコントラストが良好になるためと、着色多層シートB上に印刷する場合のいんぺい性を確保するためである。
【0090】
この着色系染料、顔料等の樹脂の着色剤としては、白色顔料として酸化チタン、酸化バリウム、酸化亜鉛、黄色顔料として酸化鉄、チタンイエロー、赤色顔料として、酸化鉄、青色顔料としてコバルトブルー群青などが挙げられる。ただし、コントラスト性を高めるため、薄い色付、淡彩色系となるものが好ましい。
【0091】
より好ましいのは、コントラスト性の際立つ、白色系染料、顔料等の樹脂の着色剤が添加されることである。
【0092】
[B−3]マット加工:
多層シートBにおけるマット加工は透明レーザーマーキングシートAと同じである。したがって、透明レーザーマーキングシートAの説明を参照されたい。
【0093】
[C]透明レーザーマーキングシートAと多層シートBの関係:
前述のように、透明レーザーマーキングシートAと多層シートBを積層することにより、本願の効果を奏することができる。すなわち、透明レーザーマーキングシートAは、PC(レーザーマーク)透明単層シートまたはPC/PC(レーザーマーク)/PCからなる透明なレーザーマーク3層シートとして構成される。さらに、その透明レーザーマーキングシートAのレーザーを照射する面と反対の面には、PETG/PC(白色系着色剤配合)/PETG、からなる着色多層シートBを積層することにより、上層(透明レーザーマーキングシートA)にレーザー照射してコア層PCが黒発色した場合にコントラストを確保しマーキング部の視認性、鮮明性を発揮させるためであり、更には、着色多層シートB上に画像、文字等を印刷することは一般的に為されるため、その印刷部分の鮮明性や印刷部の保護、すなわち、最外層に印刷を施した場合は、なんらかの摩擦、摩耗が発生した場合に印刷部が磨り減り視認性が大きく低下するが、透明レーザーマーキングシートAの下層である多層シートBの表面に印刷する事により、この問題を解決できるため重要である。
【0094】
なお、前述では、本実施形態体におけるレーザーマーキング多層シートを、透明レーザーマーキングシートAの下層に多層シートBを積層する配置パターンついて説明したが、このような配置に限られるものではない。すなわち、必ずしも上層に透明レーザーマーキングシートAを配置し、下層に多層シートBを配置するものに限定されるものではない。たとえば、透明レーザーマーキングシートAを下層に配置し、多層シートBを上層に配置してもよい。このように、透明レーザーマーキングシートA(或いは多層シートB)を、上層又は下層に配置してもよいのは、レーザーマークした画像等を目視する位置(方向)が、上下方向に限られないからである。換言すれば、たとえば、パスポーのように冊子形式で、本実施形態体におけるレーザーマーキング多層シートを使用する場合には、見開き状にして平面視した場合に、上層に透明レーザーマーキングシートAを配置し下層に多層シートBを配置しても、次ページを開いて平面視した場合には、その透明レーザーマーキングシートAと多層シートBの配置位置は、丁度、上層に多層シートBを配置し下層に透明レーザーマーキングシートAを配置したことになってしまうからである。したがって、ここでの上層、下層は、説明の便宜を図るために用いたものであって、レーザー照射する側に透明レーザーマーキングシートAが配置されることを意味する。このように配置されることにより、レーザーマークされた後の透明レーザーマーキングシートAと多層シートBとの、画像等の鮮明さや高コントラストを得ることができ、本願の効果を奏することできるのである。
【0095】
さらに、本実施形態体におけるレーザーマーキング多層シートでは、透明レーザーマーキングシートA/多層シートBと積層させる場合に限らず、たとえば、多層シートBの表面に各種印刷等を施した後、透明レーザーマーキングシートA/(印刷した)多層シートB/他のシートまたはポリエステル等のメッシュクロス/(印刷した)多層シートB/透明レーザーマーキングシートAと積層する場合、透明レーザーマーキングシートA/多層シートB/他のシートまたはポリエステル等のメッシュクロス/多層シートB/透明レーザーマーキングシートAと積層する場合、多層シートB/他のシートまたはポリエステル等のメッシュクロス/多層シートBの積層体シートを加熱融着させて、この積層体シート表面に印刷等をした後、更に透明レーザーマーキングシートA/該積層体シート/透明レーザーマーキングシートAを積層させる場合なども広く含まれる。使用目的や使用方法に応じて柔軟に対応可能となり、本願の効果を奏することができる。なお、前述の「他のシート」としては、PET、PETG、耐熱PETG(PC/PETGアロイ)、PVC、PC等のプラスチックカードで使用される熱可塑性樹脂シート及びPET、ナイロン、熱可塑性ウレタン(TPU)等を挙げることができ、電子パスポートのひんじ部(テールシート、いわゆる電子パスポートの表紙、裏表紙にミシン綴じまたは接着されるための熱可塑性樹脂シート)として使用できる。ただし、これらに限定されるものではなく、本願の構成を採用しながら本願の効果を奏するものであれば広く前述の「他のシート」に含まれる。
【0096】
[2]用途:
また、本実施形態におけるレーザーマーキング多層シートは、電子パスポート用、プラスチックカード用に好適に用いることができる。
【0097】
たとえば、電子パスポート用として用いる場合には、本実施形態におけるレーザーマーキング多層シートを2つ用意し、その間にレーザーマーキング多層シートを綴じやすくするための、ポリエステル樹脂フィルム、熱可塑性ウレタン樹脂フィルムまたはナイロン樹脂フィルムの1種類、または、ポリエステルクロス、ナイロンクロスから選ばれる1種のクロスなどからなる、いわゆるラミフィルム等を配置し、必要に応じてミシン綴じ部等を形成するとともに、さらに、図2に示されるような、表紙9、本実施形態を用いた積層体11、ビザシート13、ICチップ15等を配置し、電子パスポートを作成してもよい。ただし、これは一例であって、必ずしもこのような構成に限られるものではない。
【0098】
また、たとえば、本実施形態における透明レーザーマーキング多層シートを、プラスチックICカードとして用いる場合には、図3A、3Bに示されるようなプラスチックICカードを一例として挙げることができる。具体的には、図3A、3Bに示されるように、インレットとしてのIC−chiP・Antenna層21をプラスチックICカード中核とし、そのIC−chiP・Antenna層21の両側に、さらに、本実施形態のレーザーマーキング多層シートを積層する。すなわち、前述のIC−chiP・Antenna層21の両側に、インレイとして着色多層シートB(符号5,5)を積層し、さらに、インレイとして着色多層シートB(符号5,5)の両側に、オーバーレイとしての透明レーザーマーキングシートA(符号3,3)を積層して、プラスチックICカードを成形するとよい。このように非接触ICカードを成形すると、レーザー光線7を照射した際に、図3A、3Bに示される、オーバーレイとしての透明レーザーマーキングシートA に文字、図等を鮮明にマーキング できる。なお、図3Aは、オーバーレイとしての透明レーザーマーキングシートAが単層からなるもの、図3Bは、オーバーレイとしての透明レーザーマーキングシートAが3層からなるものを示しており、断面を模式的に示した図である。
【0099】
[3]透明レーザーマーキングシートA及び多層シートBの成形方法:
本発明において、透明レーザーマーキングシートA及び着色多層シートBを得るには、例えば、各層の樹脂組成物を共押出して積層する溶融押出成形により、各層をフィルム状に形成し、これをラミネートする方法、2層を溶融押出成形で形成し、これに別途形成したフィルムをラミネートする方法等があるが、生産性、コストの面から溶融押出成形により積層することが好ましい。
【0100】
具体的には、各層の樹脂組成物をそれぞれ配合し、あるいは必要に応じてペレット状にして、Tダイを共有連結した3層Tダイ押出機の各ホッパーにそれぞれ投入し、温度200℃〜300℃の範囲で溶融して3層Tダイ共押出し、冷却ロール等で冷却固化して、3層積層体を形成することができる。なお、本発明の透明レーザーマーキングシートA及び着色多層シートBは、上記方法に限定されることなく、公知の方法により形成することができ、例えば、特開平10−71763号第(6)〜(7)頁の記載に従って得ることができる。
【0101】
上述のようにして得られた透明レーザーマーキングシートA、多層シートBを所定の寸法に切断した後、積層し、所望時間、所望圧力で、所望温度で加熱融着等によって接合して、レーザーマーキング多層シートを得ることができる。また、透明レーザーマーキングシートAおよび多層シートBを各々溶融共押出成形にて2種3層シートを押出した後、ロール状に巻き取りしたロール状シートを所定温度に加熱した加熱ローラー間に、例えば、透明レーザーマーキングシートA/多層シートB/透明レーザーマーキングシートA、または多層シートB/他のシート/多層シートBを通して加熱ローラーにて加熱、加圧により長尺の積層体シートを製造した後所定の寸法にカットする方法などによって製造するとよい。更に、前記透明レーザーマーキングシートAおよび多層シートBを所定の寸法にカットした後、加熱プレス機により、前述同様、例えば、透明レーザーマーキングシートA/多層シートB/透明レーザーマーキングシートA、透明レーザーマーキングシートA/多層シートB/他のシートまたはポリエステルメッシュクロス/多層シートB/透明レーザーマーキングシートA、または多層シートB/他のシート/多層シートBの枚葉積層体シートを製造することもできる。
【0102】
ここで、所望時間、所望圧力、所望温度は、特に限定されるものではない。所望時間、所望圧力、所望温度は、必要に応じて適宜選択されることが好ましい。なお、一般的なものとして、所望時間は10秒〜6分程度、所望圧力1〜20Mpa、所望温度120〜180℃を一例としてあげることができる。
【0103】
[4]:レーザーマーキング方法:
本実施形態におけるレーザーマーキング多層シートは、レーザー光線を照射して発色させるものであるが、レーザー光としては、He−Neレーザー、Arレーザー、COレーザー、エキシマレーザー等の気体レーザー、YAGレーザー、Nd・YVOレーザー等の固体レーザー、半導体レーザー、色素レーザー等が挙げられる。これらのうち、YAGレーザー、Nd・YVOレーザーが好ましい。
【0104】
なお、前述したように、上記樹脂組成物には、必要に応じて、その特性を損なわない範囲で、他の添加剤、例えば離型剤、安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、強化剤などを添加することができる。
【0105】
本実施形態のレーザーマーキング方法において、レーザー光線としては、レーザビームは、シングルモードでもマルチモードでもよく、また、ビーム径が20〜40μmのように絞ったもののほか、ビーム径が80〜100μmのごとく広いものについても用いることができるが、シングルモードで、ビーム径が20〜40μmの方が、印字発色部と下地のコントラストを3以上とし、コントラストが良好な印字品質を得る点で好ましい。
【0106】
このように本実施形態のレーザーマーキング多層シートに、レーザー光線を照射すると、レーザーマーキング多層シートを構成する透明レーザーマーキングシートAが発色するが、この透明レーザーマーキングシートAは耐熱性の高いポリカーボネート樹脂が主成分であるから、高パワーのレーザー光を照射することが可能であり、それによって容易かつより鮮明に画像等を描くことができる。更に、透明レーザーマーキングシートAをPC/PC(レーザー発色層)/PCの3層としてPCレーザー発色層上にPC透明スキン層を設けることにより、PCレーザー発色層単層では更なる高パワーのレーザー光を照射によって“発泡”によってシート表面の「フクレ」現象が発生する条件においても、PC透明スキン層効果により「フクレ」現象が抑制されるため、更に鮮明に画像等を描くことができる。このPC透明スキン層効果はこれだけにとどまらず、PCレーザー発色層単層の場合は該シートが外部との摩擦によりマーキング部が直接削られていくのに対して、PC透明スキン層を付与することによりPC透明スキン層が削られてもレーザーマーキング部は削られないため、レーザーマーキング部の耐磨耗性はより優れるといえる。
【0107】
更に、ポリカーボネート樹脂からなるシートは耐熱性が高い故に、該樹脂シートの多層積層体では加熱融着温度を200〜230℃という高温にする必要があり、加熱プレス工程の生産性にも問題が生じるが、それにもまして、通常プラスチックカードや電子パスポートのプラスチックデータシートでは、インレイ層といわれる中間層上に種々の印刷を施すことが一般的であるが、インレイ層に印刷を施してから多層積層加熱プレス工程において加熱融着温度を200〜230℃という高温にした場合、印刷が“ヤケル”ことが多々あり、印刷した文字、画像が変退色を生じることがあり好ましくない。
【0108】
この問題に対して、オーバーレイであるPCレーザー発色層透明単層シートまたはPC/PC(レーザー発色層)/PCの透明3層シートの下地層であるインレイに本願発明のPETG/PC(着色)/PETG 着色3層シートを積層することにより、PETGのガラス転移温度が約80℃とポリカーボネート樹脂のそれより約60〜70℃低いために、加熱融着温度を150〜170℃と約50℃程度下げることができるため、前記印刷層の印刷した文字、画像が変退色を抑制することができる効果を有する。したがって、本実施形態のレーザーマーキング多層シートは、レーザーマーク性に優れ、その表層、又は表層のコア層にレーザー光照射により黒色発色をさせて画像や文字をマーキングさせるが、その下地層が白い故に黒/白コントラストにより鮮明な文字、画像を描くことができる。
【0109】
より好ましいのは、前述のレーザーマーキング多層シートに、レーザーマーキングする
方法であって、図1A、1Bに示されるようにレーザーマーキング多層シートに積層した透明レーザーマーキングシートA側から、レーザー光線を照射して印字することである。このように本実施形態の透明レーザーマーキング(多層)シート側から、所望のレーザー光線を照射することにより、容易かつ鮮明に画像等を描くことができる。したがって、本実施形態のレーザーマーキング多層シートは、レーザーマーキング性、加熱融着性に優れ、更にマーキング部の耐磨耗性にも優れたものである。
【実施例】
【0110】
以下、本発明を実施例によってさらに具体的に説明するが、本発明はこれによって限定されるものではない。なお、以下の実施例および比較例における「部」および「%」は特に断りのない限り質量部および質量%を意味する。また、実施例における各種の評価、測定は、下記方法により実施した。
【0111】
[1]透明レーザーマーキングシートAの透明性:
透明レーザーマーキングシートAの全光線透過率を、分光光度計(商品名「EYE7000」マクベス社製)を用いて測定した。
◎:全光線透過率80%以上、○:全光線透過率60%以上80%未満、
×:全光線透過率60%未満。
【0112】
[2]シートの搬送性:
透明レーザーマーキングシートを100×300mmにカットした後、シート搬送機で搬送し、加熱プレス機金型に該シートを所定位置に載せる際、以下の判定基準にてシート搬送性を評価した。
○:問題なし、
△:シートを吸着→搬送→脱着時、シートが吸着部より脱着しにくくシートがずれる、
×:シートが吸着部より脱着困難。
【0113】
[3]積層加熱プレス成形後の離型性:
真空プレス機(日精樹脂工業製)を用いて、積層したシートを2枚のクロムメッキ鋼板で挟み、プレス温度100℃で2分間予熱後、160℃、実面圧力12kgf/cmにて2分間保持した。その後、室温まで冷却した後、クロムメッキ鋼板で挟んだ試料をクロムメッキ鋼板ごと取り出し、試料からクロムメッキ鋼板を引き剥がした際の金型離型性を以下のように評価した。
○:容易にはくり可、△:金型にわずかに付着し、剥がす事は可能であるがシート表面に傷が生じて使用不可、×:金型に付着。
【0114】
[4]気泡抜け性:
前記のように加熱プレス後の積層体中の残存気泡状態を観察して、気泡抜け性を以下のように評価した。
○:積層体中に気泡なし、△:積層体中わずかに気泡残存、×:積層体中に多量の気泡残存。
【0115】
[5]加熱誘着性:
透明レーザーマーキングシートAと多層シートBの一端に離型剤を塗布した後、2枚のクロムメッキ鋼板で挟み、真空プレス機(日精樹脂工業製)を用いてプレス温度100℃で2分間予熱後、160℃、実面圧力12kgf/cmにて2分間保持した。その後、室温まで冷却した後、積層体シートを取り出し、離型剤塗布部分から手で引き剥がして積層体間の加熱融着性を以下の様に評価した。
◎:はくりが無く加熱融着性に優れる、○:ごく一部をはくりできるが、シート破壊が生じる。(材料破壊)、△:かなりの強い力でははくり可能。×:全面はくり、××:加熱プレス後にはくり発生またはごく小さい力で全面はくり。
【0116】
[6]レーザーマーキング性:
前記加熱積層体シートを用いて、 Nd・YVOレーザー(商品名「LT−100SA」、レーザーテクノロジー社製及び、商品名「RSM103D」、ロフィンシナール社製)を使用して、レーザーマーキング性を評価した。具体的には、レーザーマーキング性は400mm/secのレーザー照射速度にてマーキングを行い、画像の鮮明性とマーキング部の表面状態から以下のように判定した。
◎:鮮明性に優れる、レーザー光照射部のフクレ等異常無し、
○:鮮明性良好、レーザー光照射部のフクレ等異常無し、
△:鮮明性不十分、または、レーザー光照射部にわずかなフクレ、
×:鮮明性悪い、または、レーザー光照射部のフクレ大。
【0117】
[7]コントラスト性:
多層シートBに印刷した後、前記[5]、[6]の工程処理をし、レーザマーキングによる画像等と、印刷による画像等のコントラストを目視評価にて判定した。
○:レーザーマーキングによる画像と、印刷による画像の鮮明性、視認性に変化なし、
△:レーザーマーキングによる画像と、印刷による画像との鮮明性、視認性が低下、
×:レーザーマーキングによる画像と、印刷による画像との鮮明性、視認性が低下。
【0118】
[8]透明レーザーマーキング多層シートの耐磨耗性:
前記[6]の透明レーザーマーキングシート(3層構造及び単層構造含む)とコアシート加熱融着積層体を前記[6]において、レーザー光を照射させた黒色レーザーマーキング部の耐磨耗性をラビングテスター(井元製作所製)を用いて、#00スチールウール(荷重500gr)にて50回(25往復)行い、テスト前後の状態を目視評価にて判定した。
◎:マーキング部の異常がみられず、画像の鮮明性、視認性に変化なし、
○:マーキング部の削れはあるが、画像の鮮明性、視認性が良好、
△:マーキング部の削れが進行しており、画像の鮮明性、視認性が低下、
×:マーキング部の削れ大で、画像の鮮明性、視認性が著しく低下。
【0119】
(製造例1)透明レーザーマーキングシートA〔1〕:
スキン層として、ポリカーボネート(商品名「タフロンFN2500A」出光興産製、メルトボリュームレイト=8cm/10min)を用い、コア層として、上記ポリカーボネートに、レーザー光線を吸収するエネルギー吸収体としてカーボンブラック(三菱化学製#10、平均粒子径75nm、DBP吸油量86ml/100gr)を0.0015質量部を配合すると共に、フェノール系酸化防止剤として、n−オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート(商品名「イルガノックス1076」、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製))を0.1部、及び、紫外線吸収剤として、2−(2′−ヒドロキシ−3′,5′−ジ−t−ブチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール(商品名「チヌビン327」、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)を、0.2部配合して、Tダイ溶融押出成形によりによりスキン層/コア層/スキン層の3層の透明レーザーマーキング多層シートAを得た。シートの総厚さは100μmであり、表裏のスキン層の厚さを同じ厚さとするとともに、層の構成をスキン層(18μm)/コア層(64μm)/スキン層(18μm)の構成にして、コア層の厚さ比率を64%にした。さらに、両面の平均表面粗さ(Ra)については、0.5〜1.8μm、になるようマット加工が施された3層からなる透明レーザーマーキングシートA〔1〕を得た。
【0120】
(製造例2)透明レーザーマーキングシートA〔2〕:
シートの総厚さは100μmで、表裏のスキン層の厚さを同じ厚さとするとともに、層の構成をスキン層(28μm)/コア層(44μm)/スキン層(28μm)の構成にして、コア層の厚さ比率を44%にした他は製造例1同様にして、3層からなる透明レーザーマーキング多層シートA〔2〕を得た。
【0121】
(製造例3)透明レーザーマーキング多層シートA〔3〕:
シートの総厚さは100μmで、表裏のスキン層の厚さを同じ厚さとするとともに、層の構成をスキン層(45μm)/コア層(10μm)/スキン層(45μm)の構成にして、コア層の厚さ比率を10%にした他は製造例1同様にして、3層からなる透明レーザーマーキング多層シートA〔3〕を得た。
【0122】
(製造例4)透明レーザーマーキングシートA〔4〕:
ポリカーボネート(商品名「タフロンFN2500A」出光興産製、メルトボリュームレイト=8cm/10min)を用い、レーザー光線を吸収するエネルギー吸収体としてカーボンブラック(三菱化学製#10、平均粒子径75nm、DBP吸油量86ml/100gr)を0.0015質量部を配合すると共に、フェノール系酸化防止剤として、(n−オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート(「イルガノックス1076」チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)を0.1部、及び、紫外線吸収剤として、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−t−ブチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール(商品名「チヌビン327」、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)0.2部、Tダイ溶融押出成形によりシートの総厚さは100μmの透明レーザーマーキング単層シートFを得た。さらに、両面の平均表面粗さ(Ra)については、0.5〜1.8μm、になるようマット加工が施された、単層からなる透明レーザーマーキングシートA〔4〕を得た。
【0123】
(製造例5)透明レーザーマーキングシートA〔5〕:
スキン層として、非結晶性ポリエステル(商品名「イースターGN071」イーストマンケミカル社製、EG/CHDM=70/30モル%)100質量部に、滑剤としてステアリン酸カルシウム0.3質量部を配合した。コア層としてポリカーボネート(商品名「タフロンFN2500A」出光興産製、メルトボリュームレイト=8cm/10min)を用い、レーザー光線を吸収するエネルギー吸収体としてカーボンブラック(三菱化学製#10、平均粒子径75nm、DBP吸油量86ml/100gr)を0.0015質量部を配合すると共に、フェノール系酸化防止剤として、(n−オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート(「イルガノックス1076」チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)を0.1部、及び、紫外線吸収剤として、2−(2′−ヒドロキシ−3′,5′−ジ−t−ブチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール(商品名「チヌビン327」、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)0.2部、を配合して、Tダイ溶融押出成形によりスキン層/コア層/スキン層の3層の透明レーザーマーキング多層シートAを得た。さらに、シートの総厚さは100μmであり、表裏のスキン層の厚さを同じ厚さとするとともに、層の構成をスキン層(18μm)/コア層(64μm)/スキン層(18μm)の構成にして、コア層の厚さ比率を64%にした。さらに、両面の平均表面粗さ(Ra)については、0.5〜1.8μm、になるようマット加工が施された3層からなる透明レーザーマーキングシートA〔5〕を得た。
【0124】
(製造例6)多層シートB〔1〕:
スキン層として非結晶性ポリエステル(商品名「イースターGN071」イーストマンケミカル社製、EG/CHDM=70/30モル%)を、コア層としてポリカーボネート(商品名「タフロンFN2500A」出光興産製、メルトボリュームレイト=8cm/10min)を用い、かつ、非結晶性ポリエステルに滑剤としてステアリン酸カルシウム0.3質量部を配合した。さらに、上記ポリカーボネートに、フェノール系酸化防止剤として、(n−オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート(「イルガノックス1076」チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)を0.1部、及び、紫外線吸収剤として、2−(2′−ヒドロキシ−3′,5′−ジ−t−ブチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール(商品名「チヌビン327」、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)0.2部、及び酸化チタン5部を配合して、Tダイ溶融押出成形によりスキン層/コア層/スキン層の3層の多層シートB〔1〕を得た。シートの総厚さ200μmにするとともに、表裏のスキン層の厚さを同じ厚さとし、層の構成をスキン層(50μm)/コア層(100μm)/スキン層(50μm)の構成にするとともに、コア層の厚さを比率50%にした。さらに、両面の平均表面粗さ(Ra)については、0.5〜1.8μm、になるようマット加工が施された3層からなる多層シートB〔1〕を得た。
【0125】
(製造例7)多層シートB〔2〕:
前記多層シートBにおいて、層の構成をスキン層(12μm)/コア層(176μm)/スキン層(12μm)の構成にするとともに、コア層の厚さを比率88%にした他は製造例6同様にして、多層シートB〔2〕を得た。
【0126】
(製造例8)多層シートB〔3〕:
前記多層シートBにおいて、層の構成をスキン層(80μm)/コア層(40μm)/スキン層(80μm)の構成にするとともに、コア層の厚さを比率20%にした他は製造例6同様にして、多層シートB〔3〕を得た
【0127】
(製造例9)多層シートB〔4〕:
スキン層として、ポリカーボネート(商品名「タフロンFN2500A」出光興産製、メルトボリュームレイト=8cm/10min)を用い、コア層として、上記ポリカーボネートに、酸化チタン5質量を配合すると共に、フェノール系酸化防止剤として、n−オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート(商品名「イルガノックス1076」、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製))を0.1部、及び、紫外線吸収剤として、2−(2′−ヒドロキシ−3′,5′−ジ−t−ブチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール(商品名「チヌビン327」、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)を、0.2部配合して、Tダイ溶融押出成形によりスキン層/コア層/スキン層の3層の多層シートをB〔4〕得た。シートの総厚さは200μmであり、表裏のスキン層の厚さを同じ厚さとするとともに、表裏のスキン層の厚さを同じ厚さとし、層の構成をスキン層(50μm)/コア層(100μm)/スキン層(50μm)の構成にするとともに、コア層の厚さを比率50%にした。
【0128】
上述の製造例1〜9を、表1に示す構成により、実施例1〜3及び、比較例1〜5として、各種評価を行った。その結果を表1〜2に示す。
【0129】
【表1】

【0130】
(考察)
表1に示すように、実施例1〜3では、いずれもシートの透明性、搬送性、積層加熱プレス後の離型性、気泡抜け性に優れ、かつ、優れたレーザーマーキング性とマーキング部の耐磨耗性を有するものであった。いずれもシートの搬送性、積層加熱プレス後の離型性、気泡抜け性及び熱融着性に優れ、かつ、優れたレーザーマーキング性を有するものであった。なお、実施例3は、実施例1及び2と比較すると、マーキング部の耐磨耗性が若干劣るものであるが、製品がハード使用等の使用環境である場合、すなわち、レーザーマーキング性の高品質化や耐久性が厳密に求められる分野での使用でない限り、使用に際し問題がないことが裏づけられた。
【0131】
これに対して、比較例1では透明レーザーマーキング多層シートA〈3〉のコア層の厚み比率が10%であったため、レーザーマーキング性に劣るものであり、コントラスト性も劣るものであった。比較例2では、スキン層として、前述した非結晶性ポリエステルを、コア層としてポリカーボネートを基材としたため、鮮明性不十分、または、レーザー光照射部にわずかなフクレが観察できるだけでなく、マーキング部の削れの進行がみられ、画像の鮮明性、視認性が低下しており、実施例と比較して見劣りするものであった。比較例3では、多層シートB〈2〉のコア層の厚さを比率88%にしたため、加熱融着性の点で問題が生じ、コントラスト性も劣るものであった。比較例4では、多層シートB〈3〉のコア層の厚さを比率20%にしたため、コントラスト性が確保できず、さらに、レーザー光照射部のフクレ大きくなり、レーザーマーク性に問題が生じた。比較例5では、多層シートB〈4〉のスキン層として、ポリカーボネートを用い、コア層として、上記ポリカーボネートに、酸化チタン等を含有させたものを用いたため、小さい力で全面はくりしてしまい、実用化が困難であった。なお、比較例5では、全面はくりした時点で実用が困難であるため、他の実験を行わなかった。
【産業上の利用可能性】
【0132】
本発明のレーザーマーキング多層シートは、レーザーマーキング性に優れ、かつ、生地色と印字部とのコントラストが高く、鮮明な文字、記号、画像が得られるとともに、多層シートの積層工程における加熱融着性に優れ、更には、全光線透過率の点からの透明性を向上し、さらに、シートの搬送性、熱プレス後の金型からの離型性、耐熱性、折り曲げ性,耐摩耗性を兼ね揃えたレーザーマーキング多層シートである。とりわけ、改竄防止、偽造防止に優れており、電子パスポート用多層シートやプラスチックカードとして好適に使用できるものである。
【符号の説明】
【0133】
1A,1B:レーザーマーキング多層シート、3:透明レーザーマーキングシートA、3a:(透明レーザーマーキングシートAの)スキン層、3b:(透明レーザーマーキングシートAの)コア層、5:多層シートB、5a:(多層シートBの)スキン層、5b:(多層シートBの)コア層、7:レーザー光線、9:表紙、11;積層体、13:ビザシート、15:ICチップ、17:ミシン綴じ部、21:IC−chiP・Antenna層、23:プラスチックICカード。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明レーザーマーキングシートAと多層シートBを積層してなるレーザーマーキング多層シートであって、
前記透明レーザーマーキングシートAは、溶融押出成形により成形された透明レーザーマーキングシートであって、ポリカーボネート樹脂を主成分とする透明樹脂100質量部に対して、レーザー光エネルギー吸収材を0.0005〜1質量部を含む透明ポリカーボネート樹脂組成物からなるとともに、
前記透明レーザーマーキングシートAの全厚みが50〜200μmである透明シートからなり、
前記多層シートBは、スキン層とコア層を有し、溶融押出成形により少なくとも3層のシートが積層されて形成される多層シートであって、
前記多層シートBの両最外層である前記スキン層が、テレフタル酸単位を主とするジカルボン酸単位とエチレングリコール単位(I)、及び、1,4−シクロヘキサンジメタノール単位(II)を主とするグリコール単位からなるポリエステルであって、かつ、エチレングリコール単位(I)と1,4−シクロヘキサンジメタノール単位(II)とが、(I)/(II)=90〜30/10〜70モル%である共重合ポリエステル樹脂からなるとともに、
前記多層シートBのコア層が、ポリカーボネート樹脂を主成分とする透明樹脂からなり、
前記多層シートBのスキン層及び/又はコア層には、前記共重合ポリエステル樹脂100質量部及び/又は前記ポリカーボネート樹脂100質量部に対して、染料、顔料等の樹脂の着色剤の少なくとも1種以上を1質量部以上含有させてなり、
更に、前記多層シートBの全厚さが100〜300μmからなるとともに、前記コア層の厚さの、前記多層シートBの全厚さに対して占める厚み比率が30%以上、85%未満からなる着色多層シートからなるレーザーマーキング多層シート。
【請求項2】
さらに、前記透明レーザーマーキングシートAが、ポリカーボネート樹脂を主成分とする透明樹脂100質量部に対して、滑剤0.01〜3質量部を含有するともに、前記透明樹脂100質量部に対して、酸化防止剤及び/又は着色防止剤0.1〜5質量部、及び紫外線吸収剤及び/又は光安定剤0.1〜5質量部含有する透明レーザーマーキングシートからなる請求項1に記載のレーザーマーキング多層シート。
【請求項3】
前記透明レーザーマーキングシートAは、スキン層、コア層を有し、溶融押出成形により成形された透明レーザーマーキングシートであって、
前記スキン層は、ポリカーボネート樹脂を主成分とする透明樹脂からなり、前記コア層はポリカーボネート樹脂を主成分とする透明樹脂100質量部に対して、レーザー光エネルギー吸収材を0.0005〜1質量部含む透明ポリカーボネート樹脂組成物からなり、
前記透明レーザーマーキングシートAの全厚さが、50〜200μmからなるとともに、前記コア層の、前記透明レーザーマーキングシートAの全厚さに対して占める厚み比率が20%以上〜90%未満である多層シートからなる請求項1に記載のレーザーマーキング多層シート。
【請求項4】
前記透明レーザーマーキングシートAのスキン層が、ポリカーボネート樹脂を主成分とする透明樹脂100質量部に対して、滑剤0.01〜3質量部を含有するともに、前記透明レーザーマーキングシートAのスキン層及び/又はコア層が、ポリカーボネート樹脂を主成分とする透明樹脂100質量部に対して、酸化防止剤及び/又は着色防止剤0.1〜5質量部、及び紫外線吸収剤及び/又は光安定剤0.1〜5質量部含有する透明レーザーマーキングシートからなる請求項3に記載のレーザーマーキング多層シート。
【請求項5】
前記透明レーザーマーキングシートAのレーザー光エネルギー吸収材が、カーボンブラック、チタンブラック、金属酸化物、金属硫化物、金属窒化物からなる少なくとも1種または2種以上を含有してなる請求項1〜4のいずれか1項に記載のレーザーマーキング多層シート。
【請求項6】
前記透明レーザーマーキングシートA及び/又は多層シートBのコア層及び/又はスキン層が熱可塑性樹脂100質量部に対して、酸化防止剤及び/又は着色防止剤0.1〜5質量部、及び紫外線吸収剤及び/又は光安定剤0.1〜5質量部含有する請求項1〜5のいずれか1項に記載のレーザーマーキング多層シート。
【請求項7】
前記透明レーザーマーキングシートA及び/又は多層シートBの表面には平均粗さ(Ra)0.1〜5μmのマット加工が施されている請求項1〜6のいずれか1項に記載のレーザーマーキング多層シート。
【請求項8】
電子パスポート用である請求項1〜7のいずれか1項に記載のレーザーマーキング多層シート。
【請求項9】
プラスチックカード用である請求項1〜8のいずれか1項に記載のレーザーマーキング多層シート。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項に記載のレーザーマーキング多層シートに、レーザーマーキングする方法であって、
前記レーザーマーキング多層シートに積層した透明レーザーマーキングシートA側から、レーザー光線を照射して印字するレーザーマーキング方法。

【図1A】
image rotate

【図1B】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3A】
image rotate

【図3B】
image rotate


【公開番号】特開2010−194756(P2010−194756A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−39795(P2009−39795)
【出願日】平成21年2月23日(2009.2.23)
【出願人】(591258587)日本カラリング株式会社 (36)
【Fターム(参考)】