説明

レーザーマーキング用スチレン系樹脂組成物およびそれからなる成形品

【課題】 耐衝撃性を損なうことなく、レーザー光線照射によって鮮明なマーキングを呈することができるレーザーマーキング用スチレン系樹脂組成物およびそれからなる成形品を提供する。
【解決手段】 本発明のレーザーマーキング用スチレン系樹脂組成物は、スチレン系樹脂および/またはゴム強化スチレン系樹脂100重量部に対し、着色剤0.0001〜5重量部を含有せしめてなる組成物であり、組成物中における未反応のスチレン系単量体の含有量が4000ppm以下であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、レーザー光線照射によって鮮明なマーキングを呈することができるレーザーマーキング用スチレン系樹脂組成物およびそれからなる成形品に関するものである。
【0002】
【従来の技術】ゴム強化スチレン系樹脂は、成形性と耐衝撃性とのバランスに優れているため、OA機器や家電製品向けとしての用途に幅広く利用されている。
【0003】そして、このようなゴム強化スチレン系樹脂からなる成形品は、文字などによる表示がなされて実用に供されることが多く、この場合には例えばシルク印刷やタンポ印刷などのインキなどを用いた印刷、またはシールによる表示が従来から行われてきた。
【0004】ところが、近年になって、レーザー光線によるマーキング手法が、ゴム強化スチレン系樹脂成形品に対する表示を簡便かつ効率的に行えることが知られ、注目を集めている。
【0005】ここでいうレーザー光線によるマーキング手法(レーザーマーキング法)とは、レーザー光線の照射時に樹脂が発泡・分解または樹脂表面が炭化することにより、マーキングを可能とする技術である。
【0006】ゴム強化スチレン系樹脂にレーザーマーキング性を付与するための具体的な方法としては、カーボンブラックまたはグラファイトを材料にブレンドする方法(特開昭57−116620号公報)、(メタ)アクリル酸エステル系単量体とビニル系単量体からなる共重合体をゴム強化スチレン系樹脂にブレンドする方法(特開平8−112968号公報)、およびゴム強化スチレン系樹脂に他の熱可塑性樹脂をブレンドする方法(特開平9−100390号公報)などがすでに提案されている。
【0007】しかしながら、従来のゴム強化スチレン系樹脂に対するレーザーマーキング法においては、成形品を構成する樹脂組成物中に未反応のスチレン系単量体が一定量以上含まれる場合に、レーザーマーキング部分の鮮明度が著しく低下するという問題があった。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、上述した従来技術における問題点の解決を課題として検討した結果達成されたものである。
【0009】したがって、本発明の目的は、耐衝撃性を損なうことなく、レーザー光線照射によって鮮明なマーキングを呈することができるレーザーマーキング用スチレン系樹脂組成物およびそれからなる成形品を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意検討した結果、樹脂組成物中の未反応のスチレン系単量体含有量を少なく抑えることおよび着色剤の一部に四酸化三鉄および/または微細カーボンを添加することにより、耐衝撃性を損なうことなく、また難燃性樹脂組成物においても鮮明なレーザーマーキングを呈することができることを見出し、本発明を完成するにいたった。
【0011】すなわち、本発明のレーザーマーキング用スチレン系樹脂組成物は、スチレン系樹脂および/またはゴム強化スチレン系樹脂(I)100重量部に対し、着色剤(II)0.0001〜5重量部を含有せしめてなる組成物であり、組成物中における未反応のスチレン系単量体の含有量が4000ppm以下であることを特徴とする。
【0012】そして、上記着色剤(II)が四酸化三鉄0.001〜5重量部および/または粒子径が50nm以下の微細カーボンブラック0.0001〜1重量部を含有することが好ましく、さらには上記スチレン系樹脂および/またはゴム強化スチレン系樹脂(I)100重量部に対し、難燃剤・難燃助剤(III)5〜50重量部を含有せしめてなることが望ましい。
【0013】また、本発明の成形品は、上記のレーザーマーキング用スチレン系樹脂組成物からなることを特徴とする。
【0014】
【発明の実施の形態】以下本発明の実施の形態について説明する。
【0015】本発明におけるスチレン系樹脂および/またはゴム強化スチレン系樹脂(I)とは、スチレン系単量体(a)20〜100重量%、このスチレン系単量体(a)と共重合可能なその他のビニル系単量体(b)0〜80重量%、およびゴム質重合体(c)0〜50重量%からなるものである。
【0016】スチレン系樹脂および/またはゴム強化スチレン系樹脂(I)に用いるスチレン系単量体(a)の具体例としては、スチレン、α−メチルスチレン、p−tブチルスチレンおよびp−メチルスチレンなどが挙げられ、これらのスチレン系単量体(a)は、単独または2種以上を混合して用いることができ、さらにこれらスチレン系単量体(a)と共重合可能なその他のビニル系単量体(b)を混合して用いることもできる。
【0017】スチレン系単量体(a)と共重合可能なその他のビニル系単量体(b)の具体例としては、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、ブチルアクリレート、ブチルメタクリレート、アクリル酸、メタクリル酸などが挙げられる。
【0018】本発明におけるスチレン系樹脂および/またはゴム強化スチレン系樹脂(I)に用いるゴム質重合体(c)の具体例としては、スチレン−ブタジエン共重合体、ブタジエン重合体およびスチレン−ブタジエンブロック共重合体などが好ましく用いられる。また、ゴム質重合体(c)の分子量、分岐度、粒子径などは特に制約されるものではない。
【0019】本発明で使用する着色剤(II)としては、有機顔料、無機顔料および染料などが挙げられるが、なかでも四酸化三鉄及びまたは粒子径が50nm以下の微細カーボンブラックの使用が好ましい。これらの着色剤(II)を用いることによって、発色性、鮮明性がともにより優れたものとなり、レーザーマーキング性が一段と向上する。
【0020】着色剤(II)の添加量は、スチレン系樹脂および/またはゴム強化スチレン系樹脂(I)100重量部に対し、0.0001〜5重量部、好ましくは0.005〜2.5重量部であることが必要である。着色剤(II)の添加量が0.0001重量部未満の場合には、レーザーマーキング性が不十分であり、5重量部を越えると、炭化により発色性が著しく低下することになるため好ましくない。
【0021】また、着色剤(II)の一部として四酸化三鉄を用いる場合には、その添加量を0.001〜5重量部、好ましくは0.01〜2.5重量部の範囲とし、同様に粒子径が50nm以下の微細カーボンブラックを用いる場合には、その添加量を0.0001〜1重量部、好ましくは0.001〜0.5重量部の範囲とすることが、特に優れたレーザーマーキング性を発揮せしめることができることから有利である。
【0022】なお、着色剤(II)として四酸化三鉄と微細カーボンブラックとを併用することも可能であるが、この場合に四酸化三鉄の添加量が0.001重量部未満、微細カーボンブラックの添加量が0.0001重量部未満であると、レーザーマーキング性が不十分であり、四酸化三鉄の添加量が5重量部を越えるかまたは微細カーボンブラックの添加量が1重量部を越えると、発泡と炭化により発色性、鮮明度が低下することになるため好ましくない。
【0023】また、微細カーボンブラックの粒子径は50nm以下であることが好ましく、さらに好ましくは10〜30nmであると、一層優れたレーザーマーキング性が得られる。一方、カーボンブラックの粒子径が50nmを越える場合には、発色性が低下するため好ましくない。
【0024】本発明のレーザーマーキング用スチレン系樹脂組成物においては、組成物中における未反応のスチレン系単量体の含有量を4000ppm以下、好ましくは2000ppm以下に抑えることによって、優れたマーキングの鮮明性を得ることができる。組成物中における未反応のスチレン系単量体の含有量が4000ppmを越える場合には、マーキングの鮮明性が劣ることになるため好ましくない。
【0025】組成物中における未反応のスチレン系単量体の含有量を4000ppm以下に抑える方法としては、ベントを有する一軸または二軸の押出機で過熱下常圧または減圧でベント穴より揮発成分を除去するのが好ましい。ただし、該押出装置へ供給する前に遠心型などのプレートファン型加熱器をドラムに内蔵する蒸発器で揮発成分を除去する方法、遠心型などの薄膜蒸発器で揮発成分を除去する方法、多管式熱交換器を用いて余熱、発泡して真空槽へフラッシュして揮発成分を除去する方法など、いずれの方法も使用できる。
【0026】本発明のレーザーマーキング用スチレン系樹脂組成物においては、上記スチレン系樹脂および/またはゴム強化スチレン系樹脂(I)100重量部に対し、ポリブロモジフェニルエーテル、テトラブロモビスフェノール−A、臭素化エポキシオリゴマー、臭素化ポリカーボネートオリゴマーなどの含ハロゲン系化合物、リン系化合物、および三酸化アンチモンなどの難燃剤・難燃助剤(III)を、さらに0〜50重量部添加してなり、UL94で測定したV−2、V−1、V−0レベルの難燃性スチレン系樹脂組成物においても、上記の場合と同様に、樹脂組成物中の着色剤および未反応のスチレン系単量体の含有量を適量化することによって、優れたレーザーマーキング性の発現を期待することができる。
【0027】また、本発明のレーザーマーキング用スチレン系樹脂組成物は、さらに必要に応じて、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、4、4´−ブチリデン−ビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)などのフェノール系酸化防止剤、トリス(ミックスド、モノおよびジノニルフェニル)ホスファイト、ジフェニル・イソデシルホスファイトなどのリン系酸化防止剤、ジラウリルチオジプロピネート、ジミリスチルチオジプロピネートジアステリアルチオジプロピネートなどのイオウ系酸化防止剤、2−ヒドロキシ−4−オクトキシベンゾフェノン、2−(2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)ベンゾトリアゾールなどの紫外線吸収剤、ビス(2、2、6、6、−テトラメチル−4−ピペリジニル)などの光安定剤、ヒドロキシルアルキルアミン、スルホン酸塩などの帯電防止剤、エチレンビスステアリルアミド、金属石けんなどの滑剤、およびガラス繊維、カーボン繊維などの無機充填材などを含有することも可能である。
【0028】本発明のレーザーマーキング用スチレン系樹脂組成物の製造方法としては、バンバリーミキサー、ロールおよび単軸または多軸押出機で溶融混練するなどの種々の方法を採用することができる。
【0029】本発明のレーザーマーキング用スチレン系樹脂組成物は、射出成形、押出成形、ブロー成形、真空成形、圧縮成形、およびガスアシスト成形などの現在熱可塑性樹脂の成形に用いられる公知の方法によって成形することができ、成形方法自体は特に制限されるものではない。
【0030】このようにして得られる本発明のレーザーマーキング用スチレン系樹脂組成物からなる成形品は、電気・電子部品、自動車部品、各種機械機器部品および雑貨などの多くの用途に特に制限なく適用可能であるが、レーザーマーキング性に優れるという本発明の特徴から、文字や記号などが印字・表示がなされる用途にとって特に有効である。なかでもOA機器・電気・電子製品のハウジング、冷蔵庫の構造体部品、パチンコの受け皿などの雑貨用途、トイレ・台所などのサニタリー用途、および自動車用内外装材の文字や記号などを印字・表示される部位などに有効に適用することができる。
【0031】
【実施例】以下に、実施例を挙げて、本発明の構成・効果をさらに説明する。
【0032】なお、以下の実施例における物性の測定法は次のとおりである。
(1)樹脂組成物中の単量体日立製型式165−5052のガスクロマトグラフィにより、未反応スチレン系単量体を定量測定した。
(2)レーザーマーキング性射出成形により成形したテストピースについて、YAGレーザーマーカーにより、波長1064nmでマーキングを行い測定した。
【0033】[発色性]:レーザーマーク部分の発色性は大日精化工業社製カラーコンピューター(カラコムシステム)を用いて、白色度指数WIを測定した。
【0034】[鮮明度]:レーザーによりマーキングした部分を目視により判定し、細い線がはっきりとマーキングされ、ベース色とマーキング文字色のコントラストが良好なものを(○)、不良なものを(×)とした。
(3)カーボンブラックの平均粒子径透過型電子顕微鏡(TEM)によるカーボンブラックの写真から、直接個々の1次粒子径(長径)を測定した。写真倍率は10万倍であり、1000個以上の1次粒子径を計測し、算術平均により求めた。
【0035】[参考例1]スチレン系樹脂および/またはゴム強化スチレン系樹脂(I)として、下記3種類のポリマを準備した。
【0036】
スチレン系樹脂−1 : ポリスチレン (スチレン100wt%)
スチレン系樹脂−2 : ゴム強化ポリスチレン (ポリブタジエン10wt%)
(スチレン90wt%)
スチレン系樹脂−3 : ゴム強化スチレン系樹脂 (ポリブタジエン10wt%)
(スチレン45wt%)
(メチルメタアクリレート45wt%)
[実施例1〜24、比較例1〜27]参考例1記載のスチレン系樹脂(I)と、着色剤(II)として四酸化三鉄および/または表1および2に記載の粒子径を有する微細カーボンブラックとを、表1および2に記載の配合割合で、ヘンシェルミキサーにより均一に混合した後、小型押出機を用いてペレット化することにより樹脂組成物を得た。
【0037】また、さらに難燃剤・難燃助剤(III)を表1および2に記載の量を加えたものについても、同様にしてペレット化して樹脂組成物を得た。
【0038】なお、表1における部数はいずれも重量部数を示す。
【0039】また、実施例16〜24、比較例19,20,26,27では、着色剤(II)として、四酸化三鉄および/または微細カーボンブラックと共に、チタンホワイト、有機染料を、表1および2記載の着色剤合計量となる割合で使用した。
【0040】このようにして得られた各樹脂組成物の特性評価結果を表1および2に併せて示す。
【0041】
【表1】


【0042】
【表2】


表1および2の結果から明らかなように、本発明のレーザーマーキング用スチレン系樹脂組成物は、比較例の樹脂組成物と比較して、レーザーマーキング性に優れている。
【0043】
【発明の効果】以上説明したように、本発明のレーザーマーキング用スチレン系樹脂組成物およびそれからなる成形品は、レーザー照射により鮮明なマーキングを呈することができるため、文字・記号などを表示する部品として好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 スチレン系樹脂および/またはゴム強化スチレン系樹脂(I)100重量部に対し、着色剤(II)0.0001〜5重量部を含有せしめてなる組成物であり、組成物中における未反応のスチレン系単量体の含有量が4000ppm以下であることを特徴とするレーザーマーキング用スチレン系樹脂組成物。
【請求項2】 前記着色剤(II)が四酸化三鉄0.001〜5重量部および/または粒子径が50nm以下の微細カーボンブラック0.0001〜1重量部を含有することを特徴とする請求項1に記載のレーザーマーキング用スチレン系樹脂組成物。
【請求項3】 前記スチレン系樹脂および/またはゴム強化スチレン系樹脂(I)100重量部に対し、さらに難燃剤・難燃助剤(III)5〜50重量部を含有せしめてなる請求項1記載または2記載のレーザーマーキング用スチレン系樹脂組成物。
【請求項4】 請求項1〜3のいずれか1項に記載のレーザーマーキング用スチレン系樹脂組成物からなることを特徴とする成形品。

【公開番号】特開2001−11267(P2001−11267A)
【公開日】平成13年1月16日(2001.1.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平11−185296
【出願日】平成11年6月30日(1999.6.30)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】