説明

レーザー・スペックルによる温度測定方法および装置

【課題】広い面積の測定領域における温度分布を効率的に測定することができ、軸対称でない温度分布も測定対象とすることができるレーザー・スペックルによる温度測定方法および装置を提供する。
【解決手段】レーザー発振器1からのレーザー光を散乱する散乱板21〜23と、散乱レーザー光を平行光線とする平行化レンズ31〜33と、平行レーザー光を集光する集光レンズ51〜53と、レーザー光のスペックル・パターンを検出する画像センサー61〜63とを備えたスペックル検出系を複数系統使用する。複数系統のスペックル検出系を、レーザー光が測定領域内のそれぞれ異なる領域を通過するように配置する手順と、レーザー発振器から複数系統のそれぞれのスペックル検出系にレーザー光を入射する手順と、それぞれのスペックル検出系によるスペックル・パターンの検出結果を総合的に処理することにより測定領域の温度分布を求める手順とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定領域の表面温度分布を同時に測定することのできるレーザー・スペックルによる温度測定方法および装置に関し、さらに詳しくは、例えば大口径のシリコンウェハ等の広い面積の測定領域を有する測定対象物や、軸対称でない温度分布の測定対象物も測定可能とするレーザー・スペックルによる温度測定方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
火力発電における二酸化炭素の排出による地球温暖化という問題点や、原子力発電の安全性に対する問題点が指摘されている中、自然エネルギーによる発電システムの重要性がますます増大して来ている。特に、災害時のエネルギー供給の確保という点では、小数の電力会社による集中的な発電・分配システムよりも、例えば各家庭単位で発電し余った電力を送電線を介して他の消費者に供給するような分散的な発電・分配システムが望まれるところである。
【0003】
そのような分散的な発電システムとしては、各家庭での発電実施条件等を考慮すると、特に太陽光発電が適している。そのための太陽電池モジュールは、一般的にはシリコンウェハから製造される。太陽電池モジュールは、LSIなどの他の半導体デバイスに比べて、大きさが100〜10000倍ほども大きい。また、このような大きな太陽電池モジュールを低コストで効率よく製造するために、大口径のシリコンウェハ上に多数の太陽電池モジュールを作成する製造方法が推進されている。
【0004】
このように太陽電池モジュールの効率的な製造のために、使用されるシリコンウェハがますます大口径化しつつある。一方、高品質かつ均一品質な太陽電池モジュールの製造のためには、製造工程におけるシリコンウェハの表面の温度管理が重要である。すなわち、製造工程におけるシリコンウェハの表面温度分布を均一にする必要がある。そして、太陽電池モジュールの製造プラントの開発や評価のために、シリコンウェハの表面の温度分布を短時間で測定する方法や装置が有用である。できれば、シリコンウェハの表面全体の温度分布をリアルタイムで測定可能であることが望まれる。
【0005】
従来の一般的な温度測定方法としては、熱電対やサーミスタを利用した温度測定があるが、この方法はプローブを測定対象に接触させる必要があり、また、基本的にピンポイントでの温度測定となる。このような熱電対などを測定対象に接触させる測定方法は、大口径のシリコンウェハの表面全体の温度分布をリアルタイムで測定するという目的には適していない。
【0006】
また、測定対象物から放射される光・赤外線などの電磁波を検出して測定対象物の温度を測定する放射温度計も使用されている。この放射温度計によれば非接触で広い範囲の温度測定を行うことができるが、測定値が測定対象物の表面の放射率やその他の表面状態に影響されやすいという問題点がある。このため、表面の放射率による測定値の補正や、熱電対などによる温度測定値によって較正を行う必要がある。このように、放射温度計による測定では、測定の準備段階や測定後の作業および処理に手間と時間がかかり、測定作業が複雑化してしてしまう。
【0007】
また、非接触で測定対象物の温度を測定する方法としては、下記の特許文献1に開示された方法がある。特許文献1には、基板にレーザー光を照射し、散乱反射されて生じるスペックル・パターンによって基板の温度を求めるようにした基板温度モニタが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平10−19690号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前述のように、熱電対などを利用した接触型の温度計は、大口径のシリコンウェハの表面全体の温度分布をリアルタイムで測定するという目的には不向きである。また、放射温度計も、測定値が測定対象物の表面の放射率やその他の表面状態に影響されやすく、測定の準備段階や測定後の作業および処理に手間と時間がかかり、測定作業が複雑化してしてしまうという問題点がある。
【0010】
特許文献1のような、レーザー光によるスペックル・パターンによって測定対象物の温度を測定する方法もあるが、この特許文献1の温度測定方法も基本的にはピンポイントでの温度測定であり、シリコンウェハの表面全体の温度分布を求めるには適していない。また、非接触とは言っても測定対象物に直接レーザー光を照射しており、レーザー光が測定対象物に全く影響を及ぼさないとは言い切れない。
【0011】
そこで、本発明は、広い面積の測定領域であっても表面温度分布を効率的に測定することができるレーザー・スペックルによる温度測定方法および装置を提供することを目的とする。また、本発明は、測定対象物のシリコンウェハ等にプローブを直接接触させたり、レーザー光を直接照射させることがなく、温度測定によって測定対象物に全く影響を与えることのないレーザー・スペックルによる温度測定方法および装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明のレーザー・スペックルによる温度測定方法は、レーザー発振器から射出されたレーザー光を散乱する散乱板と、前記散乱板で散乱された散乱レーザー光を平行光線として測定領域を通過させる平行化レンズと、測定領域を通過した平行レーザー光を集光する集光レンズと、前記集光レンズによって集光されたレーザー光のスペックル・パターンを検出する画像センサーとを備えたスペックル検出系を複数系統使用するレーザー・スペックルによる温度測定方法であって、複数系統の前記スペックル検出系を、それぞれの前記スペックル検出系のレーザー光が前記測定領域内のそれぞれ異なる領域を通過するように配置する手順と、前記レーザー発振器から複数系統のそれぞれの前記スペックル検出系にレーザー光を入射する手順と、それぞれの前記スペックル検出系によるスペックル・パターンの検出結果を総合的に処理することにより測定領域の温度分布を求める手順とを有するものである。
【0013】
また、上記のレーザー・スペックルによる温度測定方法において、前記スペックル検出系にレーザー光を入射する手順は、単一の前記レーザー発振器からのレーザー光の経路を変更して複数系統の前記スペックル検出系に順次入射させるものであることが好ましい。
【0014】
また、上記のレーザー・スペックルによる温度測定方法において、回転可能な反射鏡によりレーザー光の経路を変更するものであることが好ましい。
【0015】
また、上記のレーザー・スペックルによる温度測定方法において、前記スペックル検出系を配置する手順は、それぞれの前記スペックル検出系のレーザー光が前記測定領域内の互いに平行な領域を通過するように配置するものとすることができる。
【0016】
また、上記のレーザー・スペックルによる温度測定方法において、前記スペックル検出系を配置する手順は、それぞれの前記スペックル検出系のレーザー光が前記測定領域内の互いに交差する領域を通過するように配置するものとすることができる。
【0017】
また、本発明のレーザー・スペックルによる温度測定装置は、レーザー光を射出するレーザー発振器と、前記レーザー発振器から射出されたレーザー光を散乱する散乱板と、前記散乱板で散乱された散乱レーザー光を平行光線として測定領域を通過させる平行化レンズと、前記測定領域を通過した平行レーザー光を集光する集光レンズと、前記集光レンズによって集光されたレーザー光のスペックル・パターンを検出する画像センサーとを備えたスペックル検出系と、前記レーザー発振器から射出されるレーザー光を制御する制御部と、それぞれの前記スペックル検出系によるスペックル・パターンの検出結果を総合的に処理することにより測定領域の温度分布を求める演算部とを有し、前記スペックル検出系は、複数系統の前記スペックル検出系が配置され、それぞれの前記スペックル検出系のレーザー光が前記測定領域内のそれぞれ異なる領域を通過するように配置されたものである。
【0018】
また、上記のレーザー・スペックルによる温度測定装置において、前記レーザー発振器から射出されたレーザー光の経路を変更するための回転可能な反射鏡を有し、前記制御部は、前記反射鏡の回転角度を制御してレーザー光をそれぞれの前記スペックル検出系に選択的に入射するものであることが好ましい。
【0019】
また、上記のレーザー・スペックルによる温度測定装置において、複数系統の前記スペックル検出系は、それぞれの前記スペックル検出系のレーザー光が前記測定領域内の互いに平行な領域を通過するように配置されたものとすることができる。
【0020】
また、上記のレーザー・スペックルによる温度測定装置において、複数系統の前記スペックル検出系は、それぞれの前記スペックル検出系のレーザー光が前記測定領域内の互いに交差する領域を通過するように配置されたものとすることができる。
【0021】
また、上記のレーザー・スペックルによる温度測定装置において、複数系統の前記スペックル検出系は、前記測定領域の周囲に回動可能に配置された基台に設置されたものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本発明は、以上のように構成されているので、以下のような効果を奏する。
【0023】
本発明のレーザー・スペックルによる温度測定方法および装置によれば、測定対象物のシリコンウェハ等にプローブを直接接触させたり、レーザー光を直接照射させることがなく、温度測定によって測定対象物に全く影響を与えることがない。
【0024】
また、大口径(大面積)の測定領域の温度分布を高精度に効率的に測定することができる。すなわち、大口径のシリコンウェハであってもその表面全体の温度分布を測定することができる。また、各レンズの口径を測定領域の口径に比べて小さくできるため、測定システム全体のコストを大幅に低減することができる。
【0025】
さらに、測定領域の温度分布が軸対称でないことを検出したり、温度分布の偏心量を求めたりすることができ、軸対称でない温度分布も測定対象とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】図1は、本発明の基礎となるレーザー・スペックルによる温度分布の測定方法の概要を示す図である。
【図2】図2は、レーザー・スペックルによる温度分布測定の測定原理を示す図である。
【図3】図3は、本発明の第1の実施形態を示す図である。
【図4】図4は、本発明の第2の実施形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。まず、本発明の基礎となるレーザー・スペックルによる温度分布の測定方法の概要を説明する。図1は、レーザー・スペックルによる温度分布の測定方法を示す全体図である。測定領域4の温度分布が中心軸に対して軸対称であれば、この測定により測定領域4の温度分布を求めることができる。
【0028】
レーザー発振器1はレーザー光を発生し出力する装置である。レーザー発振器1から射出されたレーザー光は、散乱板2によって散乱され図示のように拡散される。散乱板2は、例えばすりガラスのような粗面処理をされた透明体である。散乱板2によって散乱されたレーザー光は、平行化レンズ3によって平行な光束とされ測定領域4を通過する。測定領域4を通過したレーザー光は、集光レンズ5によって集光され、画像センサー6によって検出される。なお、平行化レンズ3および集光レンズ5は平凸レンズが使用される。
【0029】
画像センサー6での検出画像には、散乱板2によって散乱されたレーザー光の干渉によりスペックル・パターンと呼ばれる多数の光斑(光点)が観測される。測定領域4が周囲と温度差のない均一な温度である場合と、測定領域4内に高温または低温の領域がある場合では、光の進路に変化が生じるため、検出画像におけるスペックル・パターンの位置が変化する。このスペックル・パターンの位置の変化を測定して測定領域4の温度分布を求めるのである。
【0030】
例えば、軸対称な炎の温度分布を測定する場合を説明する。まず、測定領域4に炎がなく周囲と同じ温度である状態(基準状態)の、画像センサー6の検出画像を記録する。次に、測定対象の炎を測定領域4の中央に位置させ、そのときの画像センサー6の検出画像を記録する。そして、コンピュータ7によって両者の検出画像を解析し、スペックル・パターンの位置の変化を検出する。そのスペックル・パターンの位置の変化から炎の軸対称な温度分布を求めることができる。
【0031】
図2は、レーザー・スペックルによる温度分布測定の測定原理を示す図である。中央の同心円状の領域は炎の温度分布を示しており、この炎の中心はxy座標の原点に位置している。炎の温度分布は、温度T4の領域が最も高温で、次に温度T3の領域、中心部と外殻部が温度T2で比較的低温であることを示している。炎の周囲では温度T1でほぼ一定の温度であるとする。すなわち、温度T1〜T4の大小関係はT4>T3>T2>T1となっている。
【0032】
この炎の領域に対して、光が左方のy=0の位置から進行してきた場合は、光は屈折せずに直進する。また、光がy=Y6の位置から進行してきた場合も温度が一定であるので直進する。光がy=Y1,Y2,Y3,Y4,Y5の位置から進行してきた場合、それぞれの位置に応じて外側に屈折する。光はそれぞれの温度の環状の領域の境界位置で屈折するが、近似的にはx=0の位置で角度αだけ屈折するとしても差し支えない。なお角度αはx軸と光の進行方向のなす角度である。
【0033】
今、光が左方の座標値yの位置から進行してきた場合、光が角度α(y)だけ屈折するとする。角度αはyの関数となる。図2のような環状の温度分布における、座標原点からの距離rの位置での屈折率をn(r)とすれば、屈折率n(r)は角度α(y)から次の数1によって求めることができる。
【0034】
【数1】

【0035】
また、気体の屈折率と温度との関係はグラッドストーンデールの定理から求めることができる。すなわち、座標原点からの距離rの位置での気体の温度T(r)は、次の数2によって求めることができる。
【0036】
【数2】

【0037】
ここで、Rは気体定数であり、Kはグラッドストーンデールの式における気体の密度と屈折率との関係を規定する定数である。また、温度T0 は室温等の基準温度を示し、n0 は基準温度における気体の屈折率であり、P0 は基準温度における気体の圧力である。
【0038】
以上をまとめると、次のような手順により測定領域の温度分布を求めることができる。まず、スペックル・パターンの基準状態からの位置変化により光の屈折角α(y)を求める。その屈折角α(y)から数1により屈折率n(r)を求める。そして、数2により、温度分布T(r)を求める。
【0039】
次に、本発明の実施形態について説明する。図3は、本発明の第1の実施形態を示す図である。前述のように、太陽電池モジュールの効率的な製造のために使用されるシリコンウェハは近年ますます大口径化してきている。大口径のシリコンウェハの全領域は、図1に示すような1系統のスペックル検出系ではカバーできない。そこで、本発明の第1の実施形態では、複数のスペックル検出系を平行に配置して、大口径のシリコンウェハのほぼ全領域の温度分布を測定可能としたものである。
【0040】
第1のスペックル検出系は、散乱板21、平行化レンズ31、集光レンズ51および画像センサー61からなる。第2のスペックル検出系は、散乱板22、平行化レンズ32、集光レンズ52および画像センサー62からなる。第3のスペックル検出系は、散乱板23、平行化レンズ33、集光レンズ53および画像センサー63からなる。これらの各スペックル検出系のそれぞれの要素の機能は、図1に示したスペックル検出系と同様である。
【0041】
第1の実施形態では、3系統のスペックル検出系を備えており、これらのスペックル検出系が互いに平行に配置されている。すなわち、それぞれのスペックル検出系において、レーザー光が測定領域4内の互いに平行な領域を通過するようにされている。これらの3系統のスペックル検出系によって、大口径の測定領域4であっても全面の温度分布を高精度に求めることができる。
【0042】
レーザー発振器1から射出されたレーザー光は、回転可能な反射鏡8によって反射されレーザー光の経路が変更される。反射鏡8は矢印で示すように回動可能であり、回転角度位置を変更制御することができる。これにより、レーザー発振器1から射出されたレーザー光を第1〜3のスペックル検出系に選択的に入射することができる。反射鏡8としてはポリゴンミラー等の多面鏡を使用することができるが、必ずしも多面鏡である必要はない。
【0043】
反射鏡8で反射されたレーザー光は、さらに固定反射鏡91〜93により反射され、それぞれのスペックル検出系に入射される。すなわち、固定反射鏡91で反射されたレーザー光は第1のスペックル検出系(散乱板21〜画像センサー61)に入射され、固定反射鏡92で反射されたレーザー光は第2のスペックル検出系(散乱板22〜画像センサー62)に入射され、固定反射鏡93で反射されたレーザー光は第3のスペックル検出系(散乱板23〜画像センサー63)に入射される。固定反射鏡91〜93は、位置および角度が調整されて固定されており、レーザー光がそれぞれのスペックル検出系に適正に入射されるように配置されている。
【0044】
反射鏡8の回転角度位置はコンピュータ7によって変更制御される。また、コンピュータ7は、レーザー発振器1のレーザー光のオン・オフおよびレーザー光の出力強度などの制御も行う。つまり、コンピュータ7はレーザー発振器1から射出されるレーザー光のオン・オフ、強度および経路を制御する制御部として機能する。
【0045】
さらに、コンピュータ7は、画像センサー61〜63の検出画像を記録して、前述のようにスペックル・パターンの基準状態からの位置変化を求める。そして、前述と同様な手順により測定領域4における温度分布を求めることができる。コンピュータ7は、3系統のスペックル検出系によるスペックル・パターンの検出結果を総合的に処理することにより測定領域の温度分布を求める演算部として機能している。なお、ここではコンピュータ7が制御部と演算部の両方の機能を有しているが、制御部と演算部の機能をそれぞれ別々の処理装置に割り当てるようにしてもよい。
【0046】
なお、第1〜3のスペックル検出系は水平面上に設置されており、この測定システムではその水平面上の測定領域4の温度分布を測定している。しかし、第1〜3のスペックル検出系全体を上下動可能な基台に設置しておけば、上下方向の位置(z軸方向の位置)を変更しながら、各位置での温度分布を測定することができる。例えば、シリコンウェハの表面の温度分布が知りたい場合、シリコンウェハの上方の複数位置での温度分布を測定することにより、シリコンウェハの表面そのものの温度分布もそれらの測定値から推定することができる。
【0047】
以上のような、本発明の第1の実施形態により、大口径(大面積)の測定領域の温度分布を高精度に効率的に測定することができる。すなわち、大口径のシリコンウェハであってもその表面全体の温度分布を測定することができる。また、各レンズの口径をシリコンウェハの口径に比べて小さくできるため、測定システム全体のコストを大幅に低減することができる。
【0048】
図4は、本発明の第2の実施形態を示す図である。この実施形態でも3系統のスペックル検出系を備えているが、第1の実施形態とは異なり、これらの3系統のスペックル検出系が互いに交差するように配置されている。すなわち、それぞれのスペックル検出系において、レーザー光が測定領域4内の互いに交差する領域を通過するようにされている。
【0049】
第1のスペックル検出系は、散乱板21、平行化レンズ31、集光レンズ51および画像センサー61からなる。第2のスペックル検出系は、散乱板22、平行化レンズ32、集光レンズ52および画像センサー62からなる。第3のスペックル検出系は、散乱板23、平行化レンズ33、集光レンズ53および画像センサー63からなる。これらの各スペックル検出系のそれぞれの要素の機能は、図1に示したスペックル検出系と同様である。
【0050】
そして、第1のスペックル検出系と第2のスペックル検出系は45度の角度で交差しており、第2のスペックル検出系と第3のスペックル検出系も45度の角度で交差している。第1のスペックル検出系と第3のスペックル検出系は90度の角度で交差している。本発明の基礎となっている図1の温度分布の測定方法では、温度分布が軸対称であることが前提条件であった。すなわち、温度分布が軸対称でなかった場合には、それは温度分布の測定誤差として表れるのみであり、温度分布が軸対称でないことを検出することはできなかった。
【0051】
そこで、この第2の実施形態においては、複数の方向から測定領域4の温度分布を測定することにより、温度分布が軸対称でないことを検出できるようにしたものである。また、温度分布そのものは軸対称であるがその中心軸が測定領域4の中心軸から偏心しているような場合にも、その偏心量(両中心軸間の距離)を測定可能である。
【0052】
レーザー発振器1から射出されたレーザー光は、回転可能な反射鏡8によって反射されレーザー光の経路が変更される。反射鏡8は矢印で示すように回動可能であり、回転角度位置を変更制御することができる。これにより、レーザー発振器1から射出されたレーザー光を第1〜3のスペックル検出系に選択的に入射することができる。反射鏡8としてはポリゴンミラー等の多面鏡を使用することができるが、必ずしも多面鏡である必要はない。
【0053】
反射鏡8で反射されたレーザー光は、さらに固定反射鏡91,92,931,932により反射され、それぞれのスペックル検出系に入射される。すなわち、固定反射鏡91で反射されたレーザー光は第1のスペックル検出系(散乱板21〜画像センサー61)に入射され、固定反射鏡92で反射されたレーザー光は第2のスペックル検出系(散乱板22〜画像センサー62)に入射され、固定反射鏡931,932で反射されたレーザー光は第3のスペックル検出系(散乱板23〜画像センサー63)に入射される。固定反射鏡91,92,931,932は、位置および角度が調整されて固定されており、レーザー光がそれぞれのスペックル検出系に適正に入射されるように配置されている。
【0054】
反射鏡8の回転角度位置はコンピュータ7によって変更制御される。また、コンピュータ7は、レーザー発振器1のレーザー光のオン・オフおよびレーザー光の出力強度などの制御も行う。つまり、コンピュータ7はレーザー発振器1から射出されるレーザー光のオン・オフ、強度および経路を制御する制御部として機能する。
【0055】
さらに、コンピュータ7は、画像センサー61〜63の検出画像を記録して、前述のようにスペックル・パターンの基準状態からの位置変化を求める。そして、前述と同様な手順により測定領域4における温度分布を求めることができる。コンピュータ7は、3系統のスペックル検出系によるスペックル・パターンの検出結果を総合的に処理することにより測定領域の温度分布を求める演算部として機能している。なお、ここではコンピュータ7が制御部と演算部の両方の機能を有しているが、制御部と演算部の機能をそれぞれ別々の処理装置に割り当てるようにしてもよい。
【0056】
ただし、この実施形態では第1〜3のスペックル検出系の検出結果を重ね合わせて1つの温度分布を求めるのではなく、第1のスペックル検出系から第1の温度分布を求め、第2のスペックル検出系から第2の温度分布を求め、第3のスペックル検出系から第3の温度分布を求める。測定領域4における温度分布が軸対称になっている場合には、第1〜3のスペックル検出系から求めた第1〜3の温度分布は全て同じ温度分布となる。
【0057】
しかし、測定領域4における温度分布が軸対称から外れた場合は、第1〜3の温度分布に差異が表れる。この第1〜3の温度分布の差異を検出することにより、温度分布が軸対称でなくなったことを検知することができる。例えば、シリコンウェハの表面温度分布が本来は軸対称の分布であるべきところ、何らかの異常や障害により表面温度分布が軸対称ではなくなったような場合、この実施形態の測定方法により、異常を検出し警報信号等を出力することができる。
【0058】
さらに、温度分布そのものは軸対称であるがその中心軸が測定領域4の中心軸から偏心しているような場合、本実施形態によりその偏心量(両中心軸間の距離)を測定可能である。例えば、第1〜3の温度分布の中心位置の温度をそれぞれ求めるとする。この第1〜3の中心位置温度は、偏心量が0の場合には等しい値となるが、偏心量が0でない場合にはそれぞれに差が生じてくる。多数の角度位置において測定領域4の温度分布を測定して、それぞれの中心位置温度の統計的な分散を求めれば、その分散値が温度分布の偏心量と対応関係を持つものと考えられる。すなわち、偏心量に応じて分散値も大きくなる。
【0059】
予め、実験的に偏心量と分散値との関係を求めておけば、実際の測定時の中心位置温度の分散値から偏心量を求めることができる。なお、このような温度分布の偏心量を求める場合には、図4に示すように第1〜3のスペックル検出系を水平面上で回動可能な基台10に設置することが好ましい。基台10は、測定領域4の周囲に回動可能に配置された環状の台であり、測定領域4の中心軸を中心として矢印で示すように回動可能である。基台10を例えば5度ずつ回動させ、測定領域4の温度分布を測定することにより多数の測定値を得ることができる。
【0060】
なお、基台10は、水平面上で回動可能なだけでなく、上下方向にも移動可能とすることができる。基台10を上下方向に移動可能とすれば、上下方向の位置による温度分布の変化を測定することが可能となる。
【0061】
なお、ここでは第1〜3のスペックル検出系を水平面上で回動可能な基台10上に設置するようにしたが、温度分布が軸対称から外れたことを検知するだけであれば、基台10は必ずしも回動可能である必要はない。第1〜3のスペックル検出系の3つの角度位置の測定のみにより、温度分布が軸対称でないことは十分に検出できる。
【0062】
以上のように、本発明のレーザー・スペックルによる温度測定方法および装置によれば、測定対象物のシリコンウェハ等にプローブを直接接触させたり、レーザー光を直接照射させることがなく、温度測定によって測定対象物に全く影響を与えることがない。
【0063】
また、大口径(大面積)の測定領域の温度分布を高精度に効率的に測定することができる。すなわち、大口径のシリコンウェハであってもその表面全体の温度分布を測定することができる。また、各レンズの口径をシリコンウェハの口径に比べて小さくできるため、測定システム全体のコストを大幅に低減することができる。
【0064】
さらに、測定領域の温度分布が軸対称でないことを検出したり、温度分布の偏心量を求めたりすることができ、軸対称でない温度分布も測定対象とすることができる。
【0065】
なお、以上に説明した本発明の第1および第2の実施形態では、スペックル検出系を3系統配置するようにしているが、3系統に限定されるわけではなく、2系統以上、任意の数のスペックル検出系を配置するようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明のレーザー・スペックルによる温度測定方法および装置により、測定対象物に全く影響を与えることなく温度分布を測定することができる。また、大口径の測定領域の温度分布を高精度に効率的に測定することができる。さらに、軸対称でない温度分布も測定対象とすることができる。
【符号の説明】
【0067】
1 レーザー発振器
2,21,22,23 散乱板
3,31,32,33 平行化レンズ
4 測定領域
5,51,52,53 集光レンズ
6,61,62,63 画像センサー
7 コンピュータ
8 反射鏡
10 基台
91,92,93 固定反射鏡
931,932 固定反射鏡

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザー発振器(1)から射出されたレーザー光を散乱する散乱板(21〜23)と、
前記散乱板(21〜23)で散乱された散乱レーザー光を平行光線として測定領域(4)を通過させる平行化レンズ(31〜33)と、
測定領域を通過した平行レーザー光を集光する集光レンズ(51〜53)と、
前記集光レンズ(51〜53)によって集光されたレーザー光のスペックル・パターンを検出する画像センサー(61〜63)とを備えたスペックル検出系を複数系統使用するレーザー・スペックルによる温度測定方法であって、
複数系統の前記スペックル検出系を、それぞれの前記スペックル検出系のレーザー光が前記測定領域内(4)のそれぞれ異なる領域を通過するように配置する手順と、
前記レーザー発振器(1)から複数系統のそれぞれの前記スペックル検出系にレーザー光を入射する手順と、
それぞれの前記スペックル検出系によるスペックル・パターンの検出結果を総合的に処理することにより測定領域の温度分布を求める手順とを有するレーザー・スペックルによる温度測定方法。
【請求項2】
請求項1に記載したレーザー・スペックルによる温度測定方法であって、
前記スペックル検出系にレーザー光を入射する手順は、単一の前記レーザー発振器(1)からのレーザー光の経路を変更して複数系統の前記スペックル検出系に順次入射させるものであるレーザー・スペックルによる温度測定方法。
【請求項3】
請求項2に記載したレーザー・スペックルによる温度測定方法であって、
回転可能な反射鏡(8)によりレーザー光の経路を変更するものであるレーザー・スペックルによる温度測定方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載したレーザー・スペックルによる温度測定方法であって、
前記スペックル検出系を配置する手順は、それぞれの前記スペックル検出系のレーザー光が前記測定領域内の互いに平行な領域を通過するように配置するものであるレーザー・スペックルによる温度測定方法。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか1項に記載したレーザー・スペックルによる温度測定方法であって、
前記スペックル検出系を配置する手順は、それぞれの前記スペックル検出系のレーザー光が前記測定領域内の互いに交差する領域を通過するように配置するものであるレーザー・スペックルによる温度測定方法。
【請求項6】
レーザー光を射出するレーザー発振器(1)と、
前記レーザー発振器(1)から射出されたレーザー光を散乱する散乱板(21〜23)と、前記散乱板(21〜23)で散乱された散乱レーザー光を平行光線として測定領域(4)を通過させる平行化レンズ(31〜33)と、前記測定領域(4)を通過した平行レーザー光を集光する集光レンズ(51〜53)と、前記集光レンズ(51〜53)によって集光されたレーザー光のスペックル・パターンを検出する画像センサー(61〜63)とを備えたスペックル検出系と、
前記レーザー発振器(1)から射出されるレーザー光を制御する制御部(7)と、
それぞれの前記スペックル検出系によるスペックル・パターンの検出結果を総合的に処理することにより測定領域の温度分布を求める演算部(7)とを有し、
前記スペックル検出系は、複数系統の前記スペックル検出系が配置され、それぞれの前記スペックル検出系のレーザー光が前記測定領域(4)内のそれぞれ異なる領域を通過するように配置されたものであるレーザー・スペックルによる温度測定装置。
【請求項7】
請求項6に記載したレーザー・スペックルによる温度測定装置であって、
前記レーザー発振器(1)から射出されたレーザー光の経路を変更するための回転可能な反射鏡(8)を有し、
前記制御部(7)は、前記反射鏡(8)の回転角度を制御してレーザー光をそれぞれの前記スペックル検出系に選択的に入射するものであるレーザー・スペックルによる温度測定装置。
【請求項8】
請求項6,7のいずれか1項に記載したレーザー・スペックルによる温度測定装置であって、
複数系統の前記スペックル検出系は、それぞれの前記スペックル検出系のレーザー光が前記測定領域(4)内の互いに平行な領域を通過するように配置されたものであるレーザー・スペックルによる温度測定装置。
【請求項9】
請求項6,7のいずれか1項に記載したレーザー・スペックルによる温度測定装置であって、
複数系統の前記スペックル検出系は、それぞれの前記スペックル検出系のレーザー光が前記測定領域(4)内の互いに交差する領域を通過するように配置されたものであるレーザー・スペックルによる温度測定装置。
【請求項10】
請求項9に記載したレーザー・スペックルによる温度測定装置であって、
複数系統の前記スペックル検出系は、前記測定領域(4)の周囲に回動可能に配置された基台(10)に設置されたものであるレーザー・スペックルによる温度測定装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2013−64641(P2013−64641A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−203301(P2011−203301)
【出願日】平成23年9月16日(2011.9.16)
【出願人】(304020177)国立大学法人山口大学 (579)
【Fターム(参考)】