説明

レーザー光溶着用プロピレン系樹脂組成物およびその用途

【課題】広範なレーザー光溶着条件領域にて、近赤外線吸収剤の塗布などを必要とせず、高効率(高速度)の下、容易に溶着でき、発泡などに起因する微細な孔を生じない、優れた接合部外観を有し、且つ強固な溶着接合強度を有するレーザー光溶着用プロピレン系樹脂組成物およびその用途(レーザー光溶着方法、溶着体)を提供する。
【解決手段】ポリプロピレン系樹脂(a)100重量部に対して、酸化チタン(b)0.01〜3重量部と、カーボンブラック(c)0.001〜0.5重量部とを、含有してなることを特徴とするレーザー光溶着用プロピレン系樹脂組成物など、およびその樹脂組成物などをレーザー光溶着してなる溶着体など。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザー光溶着用プロピレン系樹脂組成物およびその用途に関し、さらに詳しくは、広範なレーザー光溶着条件領域にて容易に溶着でき、発泡などに起因する微細な孔を生じない、優れた接合部外観を有し、且つ強固な溶着接合強度を有するレーザー光溶着用プロピレン系樹脂組成物、レーザー光溶着方法および溶着体に関する。
【背景技術】
【0002】
成形された樹脂部材を相互に接合する方法として、接着剤を用いる方法、振動溶着法、超音波溶着法、レーザー光溶着法および二材料成形法など、樹脂を部分的に溶融させて、溶着する方法が広く知られている。
このうち、接着剤を用いる方法は、接着剤に含有される有機化合物の揮発、飛散など環境や健康などに影響を与える課題を有している。
一方、振動溶着法および超音波溶着法は、樹脂部材が過度の応力や過熱を受けて、変形したり、接合面に生ずるバリの仕上げを要するなど、樹脂部材製品の外観や生産性に課題を有している。また、二つの異質の樹脂材料を二度に分けて射出成形する二材料成形方法は、複数の金型が必要である上に、成形に長時間を要するため、設備コストや生産性に課題を有している。
【0003】
レーザー光溶着法は、レーザー光吸収性を有する樹脂部材に、レーザー光透過性を有する樹脂部材を重ね、その上から照射したレーザー光が、透過性樹脂部材を透過し、吸収性樹脂部材に達して吸収されることにより発熱し、両方の樹脂部材を熱溶融させて、接合するというものである。
レーザー光溶着法は、細かく複雑な接合面を持つ樹脂部材でも、振動がない状態で、容易に安定した接合ができ、バリや発煙もなく、接合した樹脂部材外観が良好で、接合部分の設計自由度も大きいほか、環境や健康などにおいても優れるため、近年使用されることが多い。
【0004】
ポリプロピレンなどのプロピレン系樹脂は、物性、成形性、リサイクル性および経済性などに優れた材料として、工業部品分野、例えば複雑な形状が多い自動車部品などに広く用いられている。
この様なプロピレン系樹脂におけるレーザー光溶着法や成形品として、例えば、特許文献1には、透明のレーザー光透過性の透明樹脂部材(ポリエチレン、ポリプロピレンなど)と、不透明のレーザー光吸収性の樹脂部材(ポリプロピレン、ABS樹脂)とのレーザ光溶着法が開示されている。この方法は、例えば、二材料成形方法に較べ、生産性の向上および生産コストの低減化を図ることができるが、その溶着接合強度の水準は明らかでない。
【0005】
一方、従来からプロピレン系樹脂においては、レーザー光溶着性を高めるため、例えばレーザー光吸収剤として、カーボンブラックを単独含有させる方法が行われている。
この方法は、一定水準のレーザー光溶着性向上を図ることができるが、カーボンブラックの比較的少ない含有量においては、溶着そのものが困難であったり、溶着が可能であっても、発泡などに起因する微細な孔などを生じて、接合部外観が不良になり易かったり、溶着接合強度が不充分であったりする傾向にある。反面、カーボンブラックの含有量を増加させた場合、比較的低いレーザー光出力下においても、レーザー光溶着時の発熱が激しくなり易く、場合によっては発煙、発火することもある。このため、この方法は、広範なレーザー光溶着条件領域にて適切な溶着体が得られ難いなどの傾向にある。
【0006】
上記のようなプロピレン系樹脂のレーザー光溶着性などの向上について、レーザー光透過性樹脂材に関する技術も含め、様々な材料および方法が提案されている。
例えば、特許文献2には、特定のジオキサジン顔料を含有してなるレーザー光透過性着色ポリプロピレン樹脂組成物、および該レーザー光透過性着色ポリプロピレン樹脂組成物からなるレーザー光透過材と、レーザー光がレーザー光透過材を透過して、着色剤として少なくともカーボンブラックを用いたレーザー光吸収材に、吸収されるように、そのレーザー光を照射することにより、溶着させるレーザー溶着方法が開示されている。
また、特許文献3には、特定のアントラキノン系造塩染料を含有してなるレーザー光透過性着色ポリオレフィン系樹脂組成物、およびそのレーザー光透過性着色ポリオレフィン系樹脂組成物からなるレーザー光透過材と、レーザー光がレーザー光透過材を透過して、着色剤としてカーボンブラックやニグロシンなどのレーザー光吸収性着色剤を用いたレーザー光吸収材に吸収されるように、レーザー光を照射することにより、溶着させるレーザー溶着方法が開示されている。
これらの材料および方法は、レーザー溶着状態および溶着接合強度は良好であるが、特定の着色などにより、外観(着色範囲制限)、着色コストの課題があり、さらに、レーザー光溶着条件によっては、溶着接合強度が不十分となるケースがある。
【0007】
また、特許文献4には、ポリプロピレン樹脂100重量部と、密度が少なくとも4g/cmで平均粒子径が100nm〜400nmである酸化チタン0.01〜3重量部とが含有されており、白色、灰色または淡彩色である白色系の色相を示す、レーザー溶着用のレーザー光透過性樹脂組成物、及びそのレーザー光透過性樹脂組成物を成形したものであり、不透明で、白色、灰色または淡彩色である白色系の色相を示しているレーザー溶着用のレーザー光透過性の樹脂部材と、酸化チタンにカーボンブラック(吸収剤)を混練またはその含有樹脂フィルムを組み合わせたレーザー光吸収性を少なくとも部分的に有し得る樹脂部材(例えばポリプロピレン樹脂部材)とを、重ね合わせて、そこへレーザー光を照射することにより、熱溶着させることを特徴とするレーザー溶着方法が開示されている。
これらの材料および方法は、一定水準の溶着性を発現できるが、例えばポリプロピレン樹脂のレーザー光溶着において、(高コストの場合が多い)上記レーザー光透過性(ポリプロピレン)樹脂組成物が必須であるのに加え、溶着体の用途によっては、樹脂フィルムを要したり、溶着接合強度の面で制約を受ける(不足する)ケースがある。さらに、レーザー光吸収性を少なくとも部分的に有し得る樹脂部材中に、高濃度の酸化チタンやカーボンブラックの含有量が必要であり、コスト高になり易く、また、着色度合が高いなどの色調、色相面での外観制約が生じたり、例えば、この前記二成分の含有部分をマスターバッチ化してコストダウンを図る際にも、マスターバッチによる前記二成分の希釈倍率を高くし難い(高希釈倍率のマスターバッチをつくり難い)などの課題がある。
【0008】
一方、本発明者らは、先に耐熱性などに優れ、ポリカーボネート樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂との溶着性に優れるプロピレン系樹脂組成物およびその成形品として、(A−a)ポリプロピレン樹脂50〜90重量%と、(A−b)スチレン含有量が40〜80重量%であるスチレン系エラストマー10〜50重量%とを含有するプロピレン系樹脂材であって、その線膨張係数(単位:cm/cm・℃)が5×10−5〜13×10−5の範囲にあるプロピレン系樹脂材[1]と、ポリカーボネート樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂、環状オレフィン重合体樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種の樹脂材[2]を熱溶着することにより接合してなる樹脂成形品(特許文献5参照。)、さらに、ポリプロピレン樹脂組成物、灯体、灯体の製造方法を提案した(特許文献6、7参照)。
これらの成形品、材料および製造方法は、一定水準の溶着性を発現できるが、近赤外線吸収剤の塗布を要する場合があるなど溶着工程の効率性の一層の向上などに関して未だ課題を有している。
【0009】
従って、自動車部品、例えば、ランプハウジングなどの成形体の更なるデザインの複雑化、薄肉化および低コスト化などの要求を満たすためには、広範なレーザー光溶着条件領域にて、近赤外線吸収剤の塗布などを必要とせず、高効率(高速度)の下、容易に溶着でき、発泡などに起因する微細な孔などを生じない、優れた接合部外観を有し、強固な溶着接合強度を有するなどのレーザー光溶着性やコスト低減性に、一層優れたレーザー光溶着用プロピレン系樹脂組成物およびその用途(溶着方法、溶着体)が求められているのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平11−170371号公報
【特許文献2】特開2004−224925号公報
【特許文献3】WO2004/072175号公報
【特許文献4】WO2005/021244号公報
【特許文献5】特開2005−324347号公報
【特許文献6】特開2009−120685号公報
【特許文献7】特開2009−138100号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
こうした状況下、従来のレーザー光溶着用プロピレン系樹脂組成物およびその用途(レーザー光溶着方法、溶着体)の問題点を解消し、例えば、ランプハウジングなどの自動車部品を得る際に好適である、広範なレーザー光溶着条件領域にて、近赤外線吸収剤の塗布などを必要とせず、高効率(高速度)の下、容易に溶着でき、発泡などに起因する微細な孔を生じない、優れた接合部外観を有し、且つ強固な溶着接合強度を有する、レーザー光溶着用プロピレン系樹脂組成物およびその用途(レーザー光溶着方法、溶着体)に対する研究開発が求められている。
【0012】
本発明の目的は、上記従来技術の問題点に鑑み、広範なレーザー光溶着条件領域にて、近赤外線吸収剤の塗布などを必要とせず、高効率(高速度)の下、容易に溶着でき、発泡などに起因する微細な孔を生じない、優れた接合部外観を有し、且つ強固な溶着接合強度を有するレーザー光溶着用プロピレン系樹脂組成物およびその用途(レーザー光溶着方法、溶着体)を提供することにある。
また、本発明の目的は、プロピレン系樹脂同士のレーザー光溶着接合において、レーザー光透過性樹脂材として、レーザー光透過性を付与させるための特別な添加物を一切必要としないいわゆるニートポリプロピレン樹脂(但し、一般的な酸化防止剤などの添加剤は配合済み)と称されるプロピレン系重合体を用いることもできる上に、さらに、レーザー光透過性樹脂材として、ポリメチルメタクリレート(PMMA)(以下、単にPMMAとも言う。)、またはポリカーボネート(PC)(以下、単にPCとも言う。)を用いることもでき、また、広範なレーザー光溶着条件領域にて、近赤外線吸収剤の塗布などを必要とせず、高効率(高速度)の下、容易に溶着でき、発泡などに起因する微細な孔を生じない、優れた接合部外観を有し、且つ強固な溶着接合強度を有する、レーザー光溶着用プロピレン系樹脂組成物およびその用途(レーザー光溶着方法、溶着体)を提供することすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決するため、鋭意研究を重ねた結果、ポリプロピレン系樹脂に、酸化チタンを特定量含有させ、さらにカーボンブラックを特定少量含有させて、両者を併用することが、広範なレーザー光溶着条件領域にて、近赤外線吸収剤の塗布などを必要とせず、高効率(高速度)の下、容易に溶着でき、発泡などに起因する微細な孔を生じない、優れた接合部外観を呈し、且つ強固な溶着接合強度を有するなど効率の良い優れたレーザー光溶着性を発現させることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0014】
すなわち、本発明の第1の発明によれば、ポリプロピレン系樹脂(a)100重量部に対して、酸化チタン(b)0.01〜3重量部と、カーボンブラック(c)0.001〜0.5重量部とを、含有してなることを特徴とするレーザー光溶着用プロピレン系樹脂組成物が提供される。
【0015】
また、本発明の第2の発明によれば、第1の発明において、酸化チタン(b)とカーボンブラック(c)との含有重量比率(b/c)が15以上であることを特徴とするレーザー光溶着用プロピレン系樹脂組成物が提供される。
さらに、本発明の第3の発明によれば、第1又は2の発明において、酸化チタン(b)の含有量が0.1〜1.5重量部で、且つカーボンブラック(c)の含有量が0.003〜0.1重量部であることを特徴とするレーザー光溶着用プロピレン系樹脂組成物が提供される。
【0016】
また、本発明の第4の発明によれば、第1〜3の何れかの発明において、さらに、フィラー(d)3〜100重量部を含有してなることを特徴とするレーザー光溶着用プロピレン系樹脂組成物が提供される。
さらに、本発明の第5の発明によれば、第4の発明において、フィラー(d)は、タルク、硫酸バリウム、ウィスカー状フィラー、ガラス繊維またはマイカから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とするレーザー光溶着用プロピレン系樹脂組成物が提供される。
【0017】
また、本発明の第6の発明によれば、第1〜5の何れかの発明において、さらに、エラストマー(e)5〜100重量部を含有してなることを特徴とするレーザー光溶着用プロピレン系樹脂組成物が提供される。
さらに、本発明の第7の発明によれば、第1〜6の何れかの発明において、ポリプロ
ピレン系樹脂(a)は、プロピレン単独重合体樹脂または/およびプロピレン・エチレン共重合体樹脂であることを特徴とするレーザー光溶着用プロピレン系樹脂組成物が提供される。
【0018】
また、本発明の第8の発明によれば、第1〜7の何れかの発明に係るレーザー光溶着用プロピレン系樹脂組成物を、レーザー光吸収性樹脂材として用いることを特徴とするレーザー光溶着方法が提供される。
さらに、本発明の第9の発明によれば、第1〜7の何れかの発明に係るレーザー光溶着用プロピレン系樹脂組成物を、レーザー光吸収性樹脂材として用い、且つプロピレン系重合体を、レーザー光透過性樹脂材として用いることを特徴とするレーザー光溶着方法が提供される。
【0019】
また、本発明の第10の発明によれば、第1〜7の何れかの発明に係るレーザー光溶着用プロピレン系樹脂組成物を、レーザー光吸収性樹脂材として用い、且つポリメチルメタクリレート(PMMA)またはポリカーボネート(PC)を、レーザー光透過性樹脂材として用いることを特徴とするレーザー光溶着方法が提供される。
さらに、本発明の第11の発明によれば、第8〜10の何れかの発明に係るレーザー光溶着方法にて、溶着してなることを特徴とする溶着体が提供される。
【0020】
また、本発明の第12の発明によれば、第11の発明において、溶着接合強度が10MPa以上であることを特徴とする溶着体が提供される。
【発明の効果】
【0021】
本発明のレーザー光溶着用プロピレン系樹脂組成物は、ポリプロピレン系樹脂(a)、酸化チタン(b)およびカーボンブラック(c)を主成分とすることにより、広範なレーザー光溶着条件領域にて、近赤外線吸収剤の塗布などを必要とせず、高効率(高速度)の下、容易に溶着でき、発泡などに起因する微細な孔を生じない、優れた接合部外観を有し、且つ強固な溶着接合強度を有するなどの優れたレーザー光溶着性を有するとともに、そのコスト低減性にも優れ、しかも、例えば酸化チタンやカーボンブラックなどの含有成分を、(それらの含有割合が少ないため)高濃度マスターバッチ化し易い(前記成分などの希釈倍率を高くし易い)効果を奏することができる。
また、本発明のレーザー光溶着方法は、高い生産性を発現し、さらに、本発明の溶着体は、広範な分野、例えば、ランプハウジング、トリム類、ピラー、グローブボックス、インストルメントパネル、バンパー、フェンダー、バックドアー、各種ハウジング類などの自動車内外装部品をはじめ、家電機器部品、住宅設備機器部品、各種工業部品、建材部品などの分野に好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明のレーザー光溶着用プロピレン系樹脂組成物およびその用途(レーザー光溶着方法、溶着体)などについて、各項目ごとに詳細に説明する。
【0023】
I.レーザー光溶着用プロピレン系樹脂組成物
1.構成
本発明のレーザー光溶着用プロピレン系樹脂組成物(以下、単にプロピレン系樹脂組成物とも言う。)は、下記の各成分により構成される。
【0024】
(1)ポリプロピレン系樹脂(a)
本発明に係るポリプロピレン系樹脂(a)は、特に限定するものではなく、公知のポリプロピレン系樹脂を用いることができる。ポリプロピレン系樹脂としては、例えば、プロピレン単独重合体樹脂、プロピレン・エチレンランダム共重合体樹脂やプロピレン・エチレンブロック共重合体樹脂などのプロピレンとα−オレフィンとの共重合体樹脂、プロピレンとビニル化合物との共重合体樹脂、プロピレンとビニルエステルとの共重合体樹脂、プロピレンと不飽和有機酸またはその誘導体との共重合体樹脂、プロピレンと共役ジエンとの共重合体樹脂、プロピレンと非共役ポリエン類との共重合体樹脂およびこれらの混合物などが挙げられる。
なかでも、プロピレン単独重合体樹脂、プロピレン・エチレン共重合体樹脂が好ましい。また、これらのポリプロピレン系樹脂は、2種以上併用してもよい。
【0025】
ここで、本発明のプロピレン系樹脂組成物および溶着体を、例えば、レーザー光溶着性、剛性および耐熱性を重要視する分野に適用する場合には、透明性(レーザー光の透過性に優れる。)、剛性、耐熱性に優れるプロピレン単独重合体樹脂を使用することが好ましい。
同様に、例えば、レーザー光溶着性(生産性など)を重要視する分野に適用する場合には、透明性(レーザー光の透過性に優れる。)に優れ、低融点(比較的低いレーザー光出力下においても、レーザー光溶着時に溶融し易いので溶着し易い。)であるプロピレン・エチレンランダム共重合体樹脂を使用することが好ましい。なかでも、メタロセン系触媒を用いて重合されたプロピレン・エチレンランダム共重合体樹脂は、レーザー光溶着性などが優れる傾向にあり、より好ましい。
同様に、例えば、物性バランスを重要視する分野に適用する場合には、剛性、衝撃強度の物性バランスに優れるプロピレン・エチレンブロック共重合体樹脂を使用することが好ましい。
【0026】
また、本発明に係るポリプロピレン系樹脂(a)のメルトフローレート(以下、MFRと記す。)(230℃、2.16kg荷重)は、特に限定されないが、好ましくは1〜300g/10分、より好ましくは、3〜100g/10分、とりわけ好ましくは4〜40g/10分である。
MFRが1g/10分未満であると、本発明のプロピレン系樹脂組成物および溶着体において、レーザー光溶着性および成形体外観が低下する傾向があり、一方、MFRが300g/10分を超えると、衝撃強度などの物性が低下する傾向がある。
【0027】
また、本発明に係るポリプロピレン系樹脂(a)として、プロピレン・エチレンランダム共重合体樹脂を用いる場合には、そのエチレン含量は0.1〜5重量%のものが好ましく、0.5〜4重量%のものがより好ましい。
エチレン含量が0.1重量%未満であると、本発明のプロピレン系樹脂組成物および溶着体において、レーザー光溶着性が低下する傾向があり、一方、エチレン含量が5重量%を超えると、剛性、耐熱性などの物性が低下する傾向がある。
【0028】
また、本発明に係るポリプロピレン系樹脂(a)として、プロピレン単独重合体(プロピレンホモポリマー)部分とプロピレン・エチレン共重合体部分とを有するプロピレン・エチレンブロック共重合体樹脂を用いる場合には、該ブロック共重合体樹脂全量に対して、そのプロピレン・エチレン共重合体部分の含有量は3〜35重量%のものが好ましく、5〜30重量%のものがより好ましく、6〜15重量%のものがとりわけ好ましい。
上記プロピレン・エチレン共重合体部分の含有量が3重量%未満であると、本発明のプロピレン系樹脂組成物および溶着体において、衝撃強度が低下する傾向があり、一方、35重量%を超えると、レーザー光溶着性および剛性、耐熱性などの物性が低下する傾向がある。
ここで、MFRは、JIS K7210に準拠して測定する値であり、エチレン含量およびプロピレン・エチレン共重合体部分の含有量は、クロス分別法、赤外分光分析法(IR)あるいはNMRにて測定する値である。
【0029】
本発明において用いるポリプロピレン系樹脂(a)の製造方法としては、チーグラー系触媒、メタロセン系触媒などのオレフィン重合触媒を用いてのスラリー重合、気相重合あるいは液相塊状重合が挙げられ、重合方式としては、バッチ重合、連続重合どちらの方式も採用することができる。
チーグラーナッタ触媒としては、高立体規則性触媒が用いられ、チーグラーナッタ触媒の調製例としては、四塩化チタンを有機アルミニウム化合物で還元し、更に各種の電子供与体及び電子受容体で処理して得られた三塩化チタン組成物と有機アルミニウム化合物及び芳香族カルボン酸エステルを組み合わせる方法(特開昭56−100806号、特開昭56−120712号、特開昭58−104907号の各公報参照)、および、ハロゲン化マグネシウムに四塩化チタンと各種の電子供与体を接触させる担持型触媒の方法(特開昭57−63310号、特開昭63−43915号、特開昭63−83116号の各公報参照)などの方法を例示することができる。
また、メタロセン触媒としては、インデン、アズレン、フルオレン等の縮合環系共役5員環が周期律表第4族元素に配位した化合物が好ましく用いられる。
【0030】
ここで、プロピレン・エチレンランダム共重合体樹脂の市販品としては、日本ポリプロ社のウィンテックWSX02、同WFX4などが例示される。
また、プロピレン・エチレンブロック共重合体樹脂の市販品としては、日本ポリプロ社のノバテックBC4、同BC03C、同BC03Bなどが例示される。
【0031】
本発明のレーザー光溶着用プロピレン系樹脂組成物において、構成する各成分の含有量は、ポリプロピレン系樹脂(a)の配合量100重量部を基準とする。
【0032】
(2)酸化チタン(b)
本発明において用いる酸化チタン(b)は、特に限定するものではなく、公知の酸化チタンを用いることができる。該酸化チタンは、無処理であってもよいが、各種有機化合物やシリカ、アルミナ等の含水酸化物などの無機処理剤などにより表面処理されたものであってもよく、どちらかと言えば、表面処理されたものが、本発明のレーザー光溶着用プロピレン系樹脂組成物のレーザー光溶着性や衝撃強度などの物性バランスが良好などの点で好ましい。
【0033】
酸化チタン(b)の平均粒子径は、好ましくは0.05〜0.5μm、より好ましくは0.1〜0.4μm、とりわけ好ましくは0.15〜0.35μmである。平均粒子径が0.05μm未満であると、本発明のプロピレン系樹脂組成物のレーザー光溶着性が低下する傾向があり、一方、平均粒子径が0.5μmを超えると、レーザー光溶着性および衝撃強度が低下する傾向がある。
ここで、平均粒子径の測定方法としては、例えば、レーザー回折散乱方式粒度分布計による方法が挙げられる。
【0034】
また、酸化チタン(b)の結晶形態としては、ルチル型、アナターゼ型が挙げられ、何れの型の酸化チタンも使用することができる。
なお、ルチル型の酸化チタンを用いた本発明のプロピレン系樹脂組成物のレーザー光溶着性などが、アナターゼ型を用いた場合より、優れる傾向にあることから、どちらかと言えば、ルチル型の酸化チタンを用いることが好ましい。
ルチル型を用いた場合のレーザー光溶着性が優れる傾向にある理由は、定かでないが、その屈折率の差異(ルチル型>アナターゼ型)などのため、ルチル型がレーザー光の散乱を増大させ易く、そのためレーザー光吸収性が高く(発熱し易く)なり、溶着し易くなるためと考察される。
また、酸化チタン(b)の平均吸油量は、特に限定されないが、70〜200g/1000gが好ましく、80〜149g/1000gがより好ましい。さらに、そのpH値も特に限定されないが、4.0以上のものが好ましく、5.0以上のものがより好ましい。
【0035】
本発明において用いる酸化チタン(b)の製造方法としては、硫酸法と塩素法の2種類が挙げられ、いずれの製造法により製造されたものを用いることができる。
硫酸法は、例えば、イルメナイト鉱石やチタンスラグを原料とし、これを濃硫酸に溶解して鉄分を硫酸鉄として分離し、溶液を加水分解することにより水酸化物の沈殿物を得て、これを高温で焼成して、酸化チタンを取り出す方法が挙げられる。
また、塩素法は、例えば、合成ルチルや天然ルチルを原料とし、これを約1000℃の高温で塩素ガスとカーボンに反応させて四塩化チタンを合成し、これを酸化して酸化チタンを取り出す方法が挙げられる。
ここで、塩素法にて製造された酸化チタンを用いた本発明のプロピレン系樹脂組成物は、レーザー光溶着性などが、硫酸法にて製造されたものを用いた場合より、優れる傾向にあることから、塩素法にて製造された酸化チタンを用いることが好ましい。
【0036】
本発明のレーザー光溶着用プロピレン系樹脂組成物において、酸化チタン(b)の含有量は、ポリプロピレン系樹脂(a)100重量部当たり、0.01〜3重量部、好ましくは0.05〜2重量部、より好ましくは0.1〜1.5重量部、とりわけ好ましくは0.3〜1.3重量部である。
酸化チタン(b)の含有量が0.01重量部未満であると、本発明のプロピレン系樹脂組成物のレーザー光溶着性が低下する。一方、3重量部を超えると、色調、色相面での外観制約が生じたり、衝撃強度などの物性や経済性が低下するとともに、レーザー光溶着性も低下(発煙したり焼け易くなるなど)する。
なお、酸化チタン(b)は、2種以上併用してもよい。
【0037】
(3)カーボンブラック(c)
本発明に用いるカーボンブラック(c)は、特に限定するものではなく、公知のカーボンブラックを用いることができる。
カーボンブラック(c)の種類としては、例えば、ファーネスブラック、チャンネルブラック、アセチレンブラック、ランプブラック、サーマルブラックなどが挙げられる。
また、カーボンブラック(c)の平均粒子径は、好ましくは0.01〜0.1μm(10〜100nm)、より好ましくは0.02〜0.08μm、とりわけ好ましくは0.025〜0.05μmである。平均粒子径が0.01μm未満であると、本発明のレーザー光溶着用プロピレン系樹脂組成物の成形体外観(分散不良)が低下する傾向があり、一方、0.1μmを超えると、レーザー光溶着性および衝撃強度が低下する傾向がある。
ここで、平均粒子径の測定方法は、カーボンブラック粒子を電子顕微鏡で観察して求めた算術平均径を粒子径とする方法である。
【0038】
カーボンブラック(c)のDBP(ジブチルフタレート)吸着量は、特に限定されないが、好ましくは40〜150cm/100g、より好ましくは50〜120cm/100gである。ここで、DBP吸着量の測定方法は、JIS K6221に準拠する方法である。
このDBP吸着量は、主にカーボンブラックのストラクチャーの発達度合を表す指標であり、この値が40cm/100g未満であると、本発明のプロピレン系樹脂組成物のレーザー光溶着性が低下する傾向があり、一方、150cm/100gを超えると、成形体外観(分散不良)および衝撃強度が低下する傾向がある。
また、カーボンブラック(c)のpH値は、特に限定されないが、好ましくは6〜9、より好ましくは7〜8.5である。
ここで、pH値の測定方法は、カーボンブラックと蒸留水の混合液をガラス電極pHメーターで測定する方法である。
【0039】
本発明において用いるカーボンブラック(c)の製造方法としては、例えば、ファーネス法(オイルファーネス法およびガスファーネス法)、チャンネル法、アセチレン法などが挙げられ、いずれの製造法により製造されたものを用いることができる。
ファーネス法は、高温ガス中に原料として石油系や石炭系の油を吹き込み、不完全燃焼させてカーボンブラックを得る方法である。また、チャンネル法は、主に天然ガスを原料として、不完全燃焼する炎とチャンネル鋼(H型鋼)を接触させてカーボンブラックを析出させ、これを掻きとり集める方法である。さらに、アセチレン法は、アセチレンガスの熱分解によってカーボンブラックを得る方法である。
ここで、ファーネス(特にオイルファーネス)法にて製造されたカーボンブラックを用いた本発明のプロピレン系樹脂組成物は、レーザー光溶着性、剛性、衝撃強度などの物性バランス、色調などが他の方法にて製造されたものを用いた場合より、優れる傾向にあることから、ファーネス法にて製造されたカーボンブラックを用いることが好ましい。
なお、カーボンブラック(c)は、2種以上併用してもよい。
【0040】
本発明のレーザー光溶着用プロピレン系樹脂組成物においては、前記酸化チタン(b)と、このカーボンブラック(c)との併用が必須である。
すなわち、本発明のレーザー光溶着用プロピレン系樹脂組成物において、カーボンブラック(c)の含有量は、ポリプロピレン系樹脂(a)100重量部当たり、0.001〜0.5重量部、好ましくは0.002〜0.2重量部、より好ましくは0.003〜0.1重量部、とりわけ好ましくは0.005〜0.05重量部である。
カーボンブラックの含有量が0.001重量部未満であると、本発明のプロピレン系樹脂組成物のレーザー光溶着性が低下(溶着が困難など)する。一方、0.5重量部を超えると、色調、色相面での外観制約が生じたり、衝撃強度などの物性や経済性が低下するとともに、レーザー光溶着性も低下(発煙したり焼け易くなるなど)する。
この様に本発明におけるカーボンブラック(c)の必要含有量は、従来より、相当程度少ないため、レーザー光溶着性が良好であるばかりでなく、本発明のプロピレン系樹脂組成物を、必要に応じて、任意の色相・色調に着色し易い傾向もある。
ここで、前記酸化チタン(b)と、このカーボンブラック(c)との含有重量比率(酸化チタン(b)/カーボンブラック(c))は、好ましくは15以上、より好ましくは20以上、とりわけ好ましくは50以上である。この含有重量比率(酸化チタン(b)/カーボンブラック(c))が、15未満であると、本発明のプロピレン系樹脂組成物のレーザー光溶着性が低下する傾向がある。
【0041】
(4)フィラー(d)
本発明において、必要に応じて用いるフィラー(d)は、特に限定されるものではなく、公知の無機や有機の各種フィラーが使用できる。
具体例としては、タルク、硫酸バリウム、塩基性硫酸マグネシウム繊維(マグネシウムオキシサルフェート繊維)・チタン酸カリウム繊維・ホウ酸アルミニウム繊維・ケイ酸カルシウム繊維・炭酸カルシウム繊維などのウィスカー状フィラー(極細繊維)、ガラス繊維、マイカ、シリカ、ケイ藻土、炭酸カルシウム、木粉、炭素繊維、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、セルロース繊維、木綿、ジュート、紙細片、セロハン片、天然繊維と合成繊維の混紡繊維、各種天然、合成繊維などのリサイクル繊維などが挙げられる。
また、フィラー(d)の形状については、特に制限はなく、粒状、板状、棒状、繊維状などいずれの形状のものも使用することができる。
なかでも板状および繊維状のものは、レーザー光溶着性と物性などのバランスに優れた本発明のレーザー光溶着用プロピレン系樹脂組成物および溶着体を得られやすい傾向にあるため、好ましい。
これらは、一般的な粉末状の外に、取り扱いの利便性などを高めた、圧縮魂状、ペレット(造粒)状、顆粒状、チョップドストランド状などの形態で製造されることが多いが、いずれも使用することができる。
これらのフィラー(d)は、各種のカップリング剤、脂肪酸、脂肪酸金属塩、脂肪酸エステルなどによって表面処理したものでもよい。
また、これらフィラー(d)の製造法は、特に限定されるものではなく、公知の方法、条件の中から適宜選択される。
これらのフィラー(d)は、2種以上併用してもよい。
【0042】
なかでも、フィラー(d)として、タルク、硫酸バリウム、塩基性硫酸マグネシウム繊維(マグネシウムオキシサルフェート繊維)などのウィスカー状フィラー、ガラス繊維およびマイカは、レーザー光溶着性、物性バランスなどに優れる本発明のレーザー光溶着用プロピレン系樹脂組成物および溶着体を得られやすい傾向にある点などから、好ましい。
とりわけタルクは、前記傾向に加え、成形体外観、耐熱剛性に優れ、より広範なレーザー光溶着条件領域にて(レーザー光エネルギー(出力)が比較的低い場合においても)容易に溶着できる傾向にある上に、溶着接合強度も優れる傾向にあるため、特に好ましい。
ここでタルクは、レーザー光溶着性、外観、剛性・衝撃強度の物性バランスおよび経済性などに優れた本発明のプロピレン系樹脂組成物および溶着体が得られやすい傾向にある点などから、平均粒子径が15μm以下のものが好ましく、0.5〜10μmのものがより好ましく、2〜8μmのものがとりわけ好ましい。
この平均粒子径は、レーザー回折散乱方式粒度分布計などを用いて測定した値であり、測定装置としては、例えば、堀場製作所LA−920型が挙げられる。
また、タルクの平均アスペクト比は、4以上のものが好ましく、5以上のものがより好ましい。タルクのアスペクト比の測定は、顕微鏡などにより求められる。
【0043】
また、硫酸バリウムは、レーザー光溶着性、外観、物性バランスなどに優れたプロピレン系樹脂組成物および溶着体が得られやすい傾向にある点などから、平均粒子径が0.5〜1.5μmのものが好ましく、0.6〜1μmのものがより好ましい。
また、ウィスカー状フィラーは、レーザー光溶着性、外観および剛性・衝撃強度の物性バランスなどに優れたプロピレン系樹脂組成物および溶着体が得られやすい傾向にある点などから、種類としては、塩基性硫酸マグネシウム繊維(マグネシウムオキシサルフェート繊維)が好ましい。一方、寸法面としては、平均繊維径が2μmφ以下のものが好ましく、1μmφ以下のものがより好ましい。なお、平均繊維径は、顕微鏡などにより求められる。
また、ガラス繊維は、レーザー光溶着性、とりわけ高度の耐熱剛性を中心とした物性バランスなどに優れたプロピレン系樹脂組成物および溶着体が得られやすい傾向にある点などから、平均繊維径が6〜16μmφのものが好ましく、8〜14μmφのものがより好ましい。なお、平均繊維径の測定は、顕微鏡などにより求められる。
さらに、マイカは、レーザー光溶着性、剛性など物性バランスなどに優れたプロピレン系樹脂組成物および溶着体が得られやすい傾向にある点などから、平均粒子径が5〜150μmのものが好ましく、10〜100μmのものがより好ましい。なお、平均粒子径は、前記タルクと同様な方法などにて求められる。
【0044】
本発明のレーザー光溶着用プロピレン系樹脂組成物において、必要に応じて用いるフィラー(d)の含有量は、ポリプロピレン系樹脂(a)100重量部当たり、3〜100重量部、好ましくは5〜60重量部、より好ましくは10〜40重量部、とりわけ好ましくは15〜30重量部である。フィラー(d)の含有量が3重量部未満であると、本発明のプロピレン系樹脂組成物の剛性などの物性が低下する傾向にあり、一方、100重量部を超えると、レーザー光溶着性および成形体外観が低下する傾向がある。
ここで、後記するレーザー光透過性樹脂材として、ポリオレフィン以外の熱可塑性樹脂、例えば、PMMAや、PCを用いる場合は、全体的にフィラー(d)の含有量は、上記より多い方が物性などが優れる傾向にあり、好ましくは、ポリプロピレン系樹脂(a)100重量部当たり、5〜60重量部、より好ましくは15〜50重量部、とりわけ好ましくは20〜45重量部である。
【0045】
(5)エラストマー(e)
本発明において、必要に応じて用いるエラストマー(e)は、各種の熱可塑性のエラストマー、具体的には、公知のエチレン系エラストマーやスチレン系エラストマーなどである。
エチレン系エラストマーとしては、エチレン・α−オレフィン共重合体エラストマーやエチレン・α−オレフィン・ジエン三元共重合体エラストマーなどが挙げられる。
その具体例としては、エチレン・プロピレン共重合体エラストマー(EPR)、エチレン・ブテン共重合体エラストマー(EBR)、エチレン・ヘキセン共重合体エラストマー(EHR)、エチレン・オクテン共重合体エラストマー(EOR)、エチレン・プロピレン・ジエン共重合体エラストマー(EPDM)などが挙げられる。
【0046】
また、スチレン系エラストマーとしては、スチレン−エチレン・ブチレン共重合体(SEB)、スチレン−エチレン・プロピレン共重合体(SEP)、スチレン−エチレン・ブチレン−スチレン共重合体(SEBS)、スチレン−エチレン・プロピレン−スチレン共重合体(SEPS)、スチレン−エチレン・エチレン・プロピレン−スチレン共重合体(SEEPS)、スチレン−ブタジエン・ブチレン−スチレン共重合体(SBBS)、部分水添スチレン−イソプレン−スチレン共重合体、部分水添スチレン−イソプレン・ブタジエン−スチレン共重合体などを挙げることができる。
【0047】
これらのエラストマーの中では、エチレン・ブテン共重合体エラストマー(EBR)、エチレン・オクテン共重合体エラストマー(EOR)、スチレン−エチレン・ブチレン−スチレン共重合体(SEBS)、スチレン・エチレン・プロピレン・スチレンブロック共重合体(SEPS)およびスチレン−ブタジエン・ブチレン−スチレン共重合体(SBBS)が、本発明のレーザー光溶着用プロピレン系樹脂組成物のレーザー光溶着性、衝撃強度などの物性バランスが優れる傾向にある点などから、好ましい。
【0048】
エラストマー(e)のMFR(230℃、2.16kg荷重)は、特に限定されないが、好ましくは0.5g/10分以上、より好ましくは、1g/10分以上、さらに好ましくは2〜80g/10分以上である。
MFRが0.5g/10分未満であると、本発明のプロピレン系樹脂組成物において、レーザー光溶着性(特に溶着接合強度)や成形体外観が低下する傾向がある。また、MFRが80g/10分以上を超えると、衝撃強度が低下する傾向がある。
また、エラストマー(e)の製造法は、特に限定されるものではなく、公知の方法、条件の中から適宜選択される。
なお、エラストマー(e)は、2種以上併用してもよい。
【0049】
本発明のレーザー光溶着用プロピレン系樹脂組成物において、必要に応じて用いるエラストマー(e)の含有量は、ポリプロピレン系樹脂(a)100重量部当たり、5〜100重量部、好ましくは10〜60重量部、より好ましくは15〜40重量部である。
エラストマーの含有量が5重量部未満であると、本発明のプロピレン系樹脂組成物のレーザー光溶着性(特に溶着接合強度)や衝撃強度が低下する傾向にあり、一方、100重量部を超えると、剛性などの物性および耐熱性が低下する傾向にある。
ここで、後記するレーザー光透過性樹脂材として、ポリオレフィン以外の熱可塑性樹脂、例えば、PMMAや、PCを用いる場合は、全体的にエラストマー(e)の含有量は、上記より多い方が物性などが優れる傾向にあり、好ましくは、ポリプロピレン系樹脂(a)100重量部当たり、15〜70重量部、より好ましくは20〜65重量部である。
【0050】
(6)その他の任意成分
本発明のレーザー光溶着用プロピレン系樹脂組成物には、前記成分の他に、必要に応じて、本発明の効果が著しく損なわれない範囲内で、その他の任意成分が配合されていてもよい。
任意成分としては、フェノール系・リン系・イオウ系などの酸化防止剤、ヒンダードアミン系・ベンゾフェノン系・ベンゾトリアゾール系などの耐候劣化防止剤、発泡剤、帯電防止剤、造核剤、中和剤、難燃剤、金属不活性化剤、滑剤、分散剤、前記ポリプロピレン系樹脂(a)以外の熱可塑性樹脂、前記酸化チタン(b)・カーボンブラック(c)以外のキナクリドン・ペリレン・フタロシアニン・アニリンブラックなどの有機系および無機系の着色物質などを挙げることができる。
【0051】
2.製造
本発明のレーザー光溶着用プロピレン系樹脂組成物は、前記した各構成成分を、前記の配合比率で配合することにより、製造することができる。
前記各構成成分は、単軸押出機、2軸押出機、バンバリーミキサー、ロール練機、ニーダー、ブラベンダープラストグラフなどの公知の溶融混練装置を用いて、製造することができるが、プロピレン系樹脂組成物のレーザー光溶着性、成形体外観や物性バランスの向上、さらに工業的な経済性などから、2軸押出機を用いて混練・造粒するのが好ましい。
この混練・造粒の際には、前記ポリプロピレン系樹脂(a)、酸化チタン(b)およびカーボンブラック(c)(必要に応じフィラー(d)、エラストマー(e)や任意成分)の配合物を同時に混練してもよく、また、性能向上を図るなどのため、各成分を分割、例えば、先ずポリプロピレン系樹脂(a)とカーボンブラック(c)の一部を混練し、その後に残りの成分を混練・造粒することもできる。
また、例えば、前記ポリプロピレン系樹脂(a)と、任意の(高)濃度の酸化チタン(b)およびカーボンブラック(c)を混練して、該プロピレン系樹脂組成物を他の熱可塑性樹脂で希釈成形する射出成形用などのいわゆるマスターバッチ材として、製造することもできる。
また、本発明のプロピレン系樹脂組成物の製造にあたり、用いる酸化チタン(b)やカーボンブラック(c)は、ポリプロピレン系樹脂(a)または低密度ポリエチレンなどの熱可塑性樹脂に、予め任意の(高)濃度に含有させた酸化チタンやカーボンブラックのマスターバッチとしたものを、用いることもできる。
【0052】
3.成形体
本発明のレーザー光溶着用プロピレン系樹脂組成物の成形体は、公知の各種成形方法により得ることができる。
例えば、射出成形(ガス射出成形も含む)、射出圧縮成形(プレスインジェクション)、押出成形、中空成形、カレンダー成形、シート成形、フィルム成形などにて、本発明のプロピレン系樹脂組成物を成形することによって各種成形体を得ることができる。
成形方法としては、射出成形、射出圧縮成形、押出成形、シート成形がより好ましく、射出成形、射出圧縮成形がとりわけ好ましい。
なお、後記するレーザー光透過性樹脂材の成形体も、本記述の方法と同一の成形法を用いて作製することができる。
【0053】
II.レーザー光溶着方法
本発明におけるレーザー光溶着方法は、レーザー光に対して透過性のあるレーザー光透過性樹脂材と、レーザー光に対して吸収性のあるレーザー光吸収性樹脂材とを重ね合わせ、該レーザー光透過性樹脂材側からレーザー光を照射することにより、レーザー光透過性樹脂材とレーザー光吸収性樹脂材との当接面を加熱溶融させて、両者を一体的に溶着接合させることを基本とする方法である。
以下、レーザー光透過性樹脂材、レーザー光吸収性樹脂材、溶着体の作製に関し、説明する。
【0054】
1.レーザー光透過性樹脂材
本発明におけるレーザー光透過性樹脂材としては、公知の熱可塑性樹脂を用いることができる。例えば、プロピレン単独重合体などのプロピレン系重合体、環状オレフィン重合体、ポリエチレン(PE)、塩化ビニル(PVC)、ポリスチレン(PS)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリカーボネート(PC)、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体(ABS)、スチレン・アクリロニトリル共重合体(AS)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリアミド(PA)などの熱可塑性樹脂が挙げられる。
これらの熱可塑性樹脂は、レーザー光透過性を著しく阻害しないなど、本発明の効果を著しく損なわなければ、着色されたものでもよく、フィラーやエラストマーなどを含有、複合化させたものでもよい。
ここで該熱可塑性樹脂は、後記するレーザー光吸収性樹脂材と、同質または近似質の樹脂や、透明性の高い樹脂を用いることがレーザー光溶着性などを向上させ易い点などから好ましい。
【0055】
なかでも、レーザー光溶着性が優れる点、耐熱剛性が良好である点などから、プロピレン系重合体、ポリメチルメタクリレート(PMMA)およびポリカーボネート(PC)が好ましく、プロピレン系重合体がより好ましい。
上記プロピレン系重合体としては、特に限定するものではなく、公知のプロピレン系重合体を用いることができる。例えば、プロピレン単独重合体、プロピレン・エチレンランダム共重合体やプロピレン・エチレンブロック共重合体などのプロピレンとα−オレフィンとの共重合体、プロピレンとビニル化合物との共重合体、プロピレンとビニルエステルとの共重合体、プロピレンと不飽和有機酸またはその誘導体との共重合体、プロピレンと共役ジエンとの共重合体、プロピレンと非共役ポリエン類との共重合体およびこれらの混合物などが挙げられる。
このうち、プロピレン単独重合体、プロピレン・エチレン共重合体、さらにはこれらにタルクやエラストマーなどを含有させたいわゆる複合プロピレン系重合体が好ましい。
また、プロピレン系重合体は、2種以上混合・混練したものでもよい。
【0056】
ここで、本発明のレーザー光溶着用プロピレン系樹脂組成物および溶着体を、例えば、レーザー光溶着性、剛性および耐熱性を重要視する分野に適用する場合には、透明性(レーザー光の透過性に優れる)、剛性、耐熱性に優れるプロピレン単独重合体(さらに、フィラーまたは/およびエラストマーなどを含有させたプロピレン単独重合体系複合プロピレン系重合体)を、レーザー光透過性樹脂材として、使用することが好ましい。
同様に、例えば、レーザー光溶着性(生産性など)を重要視する分野に適用する場合には、透明性(レーザー光の透過性に優れる)に優れ、低融点である(比較的低いレーザー光出力下においても、レーザー光溶着時に溶融し易いので溶着し易い)プロピレン・エチレンランダム共重合体(さらに、フィラーまたは/およびエラストマーを含有させたプロピレン・エチレンランダム共重合体系複合プロピレン系重合体)を、レーザー光透過性樹脂材として、使用することが好ましい。なかでも、メタロセン系触媒を用いて重合されたプロピレン・エチレンランダム共重合体(さらに、フィラーまたは/およびエラストマーを含有させた該プロピレン・エチレンランダム共重合体系複合プロピレン系重合体)は、レーザー光溶着性などがより優れる傾向にあり、より好ましい。
プロピレン・エチレンランダム共重合体の市販品としては、日本ポリプロ社のウィンテックWSX02、同WFX4などが例示される。
同様に、例えば、物性バランスを重要視する分野に適用する場合には、剛性、衝撃強度の物性バランスに優れる、プロピレン・エチレンブロック共重合体(さらに、フィラーまたは/およびエラストマーなどを含有させたプロピレン・エチレンブロック共重合体系複合プロピレン系重合体)を、レーザー光透過性樹脂材として、使用することが好ましい。
プロピレン・エチレンブロック共重合体の市販品としては、日本ポリプロ社のノバテックBC4、同BC03C、同BC03Bなどが例示される。
【0057】
また、本発明のレーザー光溶着用プロピレン系樹脂組成物および溶着体を、例えば、レーザー光溶着性、高透明性、表面光沢、寸法精度、耐変色性(耐候性)、耐傷付性などを重要視する分野などに適用する場合には、高度の透明性(レーザー光の透過性により優れる)、高い表面光沢を示し、寸法精度、耐変色性(耐候性)、耐傷付性などに優れるPMMA(さらに、フィラー又は/及びエラストマーなどを含有させたPMMA)を、レーザー光透過性樹脂材として、使用することが好ましい。
このPMMAは、特に限定するものではなく、公知の市販PMMAを用いることができる。具体的には、メタクリル酸メチルを主体とする樹脂で、メチルメタクリレートの単独重合体、またはメチルメタクリレートとメチルアクリレート、エチルアクリレート、n−プロピルアクリレート、イソプロピルアクリレート、ブチルアクリレート、アクリロニトリル、無水マレイン酸、スチレンもしくはα−メチルスチレンの何れか1つ以上との共重合体、またはメチルメタクリレート単独重合体と上記共重合体との混合物等を挙げることができる。また、PMMAは、2種以上混合・混練したものでもよい。
【0058】
ここで、本発明に用いるPMMAの全光線透過率(3mm厚)は、特に限定されないが、好ましくは90%以上、より好ましくは91%以上、とりわけ好ましくは92%以上である。全光線透過率が90%未満であると、本発明のレーザー光溶着用プロピレン系樹脂組成物および溶着体において、レーザー光溶着性および透明性などの成形体外観が低下する傾向がある。ここで、全光線透過率は、JIS K7361に準拠して測定する値である。
また、本発明に用いるPMMAのメルトマスフローレート(230℃、37.3N荷重)は、特に限定されないが、好ましくは0.5〜40g/10分、より好ましくは1〜20g/10分、とりわけ好ましくは2〜15g/10分である。
メルトマスフローレート(以下、MFRと記す。)が0.5g/10分未満であると、本発明のレーザー光溶着用プロピレン系樹脂組成物および溶着体において、レーザー光溶着性および成形体外観が低下する傾向があり、一方、40g/10分を超えると、衝撃強度および耐熱性が低下する傾向がある。ここで、MFRは、JIS K7210に準拠して測定する値である。
また、本発明に用いるPMMAの荷重たわみ温度(曲げ応力1.80MPa)は、特に限定されないが、好ましくは82℃以上、より好ましくは87℃以上、とりわけ好ましくは89℃以上である。荷重たわみ温度が82℃未満であると、本発明のレーザー光溶着用プロピレン系樹脂組成物および溶着体において、耐熱性が低下する傾向がある。ここで、荷重たわみ温度は、JIS K7191に準拠して測定する値である。
【0059】
本発明において用いる上記PMMAの製造方法としては、特に限定するものではなく、公知の方法が挙げられる。
例えば、先ずMMA(メチルメタクリレート)モノマーの製造方法として、アセトンシアンヒドリン(ACH)を主原料とするアセトンシアンヒドリン法(ACH法)、C4留分を主原料とするイソブチレン直接酸化法、メタクリロニトリル(MAN)を主原料とするメタクリロニトリル法(MAN法)などが挙げられるが、いずれの方法も採用することができる。
次に、これらの製造方法で製造されたMMAモノマーを、縣濁重合法、塊状重合法や溶液重合法などの方法で重合してPMMAを得ることができるが、いずれの重合方法で製造されたPMMAを使用することができる。
ここで、本発明のレーザー光溶着用プロピレン系樹脂組成物および溶着体において、レーザー光溶着性などが優れる傾向にあるなどの観点から、MMAモノマーの製造方法としては、ACH法およびイソブチレン直接酸化法が好ましく、イソブチレン直接酸化法がより好ましい。また同様に、PMMAの重合方法としては、前記したレーザー光溶着性などに影響を及ぼし易いと考察される重合体中の粉塵や夾雑物などの光散乱物質などが生じにくい(混ざりにくい)傾向にある、塊状重合法および溶液重合法が好ましく、塊状重合法がより好ましい。
【0060】
また、本発明のレーザー光溶着用プロピレン系樹脂組成物および溶着体を、例えば、レーザー光溶着性、物性バランス、透明性、寸法精度などを重要視する分野などに適用する場合には、より高い衝撃強度・耐熱剛性などの物性バランスを示し、透明性(レーザー光の透過性に優れる)、寸法精度などに優れるPC(さらに、フィラー又は/及びエラストマーなどを含有させたPC)を、レーザー光透過性樹脂材として、使用することが好ましい。
このPCは、特に限定するものではなく、公知の市販PCを用いることができる。なかでも灯体レンズ用に商業化されているような耐衝撃性に優れ、透明性が高いものを利用すると、本発明の効果をより発揮できる。またこのPCは、例えばアクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体(ABS)とアロイ化されたいわゆるPC・ABSアロイ体などの様に、他樹脂とのアロイ化樹脂としたものを用いることもできる。なお、PCは、2種以上混合・混練したものでもよい。
【0061】
ここで、本発明に用いるPCのMFR(300℃、1.20kg荷重)は、特に限定されないが、好ましくは1g/10分以上、より好ましくは5g/10分以上、とりわけ好ましくは10g/10分以上である。
MFRが1g/10分未満であると、本発明のレーザー光溶着用プロピレン系樹脂組成物および溶着体において、レーザー光溶着性および成形体外観が低下する傾向があり、10g/10分以上であると、レーザー光溶着性および成形体外観が一段と向上する傾向がある。ここで、MFRは、ISO 1133に準拠して測定する値である。
また、本発明に用いるPCのシャルピー衝撃強度(23℃、ノッチ付)は、特に限定されないが、好ましくは5KJ/m以上、より好ましくは8KJ/m以上である。
シャルピー衝撃強度が5KJ/m未満であると、本発明のレーザー光溶着用プロピレン系樹脂組成物および溶着体において、成形体衝撃強度が低下する傾向がある。ここで、シャルピー衝撃強度は、ISO 179に準拠して測定する値である。
【0062】
本発明において用いる上記PCの製造方法としては、特に限定するものではなく、公知の方法が挙げられる。
例えば、ビスフェノールAとホスゲンなどを原料とする界面重縮合法(ホスゲン法)、ビスフェノールAとジフェニルカーボネートなどを原料とするエステル交換法などが挙げられるが、いずれの製造方法で製造されたPCを使用することができる。
ここで、活性炭などの吸着剤で処理するなどの手法で得られた極めて塩素濃度の低い(例えば、1000ppb以下、好ましくは500ppb以下)ホスゲンを主原料とした、揮発性塩素の少ない製造方法(界面重縮合法)で得られたPCを、レーザー光透過性樹脂材として使用した場合、本発明のレーザー光溶着用プロピレン系樹脂組成物および溶着体において、レーザー光溶着性などが優れる傾向にあり、好ましい。
また、炭酸ガス、エチレンオキシドおよびビスフェノールAを主原料とし、ジフェニルカーボネートを経て合成する製造方法(エステル交換法)で得られたPCを、レーザー光透過性樹脂材として使用した場合、本発明のレーザー光溶着用プロピレン系樹脂組成物および溶着体において、レーザー光溶着性などが優れる傾向にあり、好ましい。
【0063】
2.レーザー光吸収性樹脂材
本発明におけるレーザー光吸収性樹脂材としては、前記のレーザー光溶着用プロピレン系樹脂組成物を用いることができる。
すなわち、本発明のレーザー光溶着用プロピレン系樹脂組成物は、レーザー光吸収性に優れるため、前記のレーザー光透過性樹脂材とのレーザー光溶着において、レーザー光エネルギー(レーザー光出力)が比較的低い領域から高い領域までの広範なレーザー光溶着条件領域にて、容易に溶着でき、発泡などに起因する微細な孔を生じない、優れた接合部外観を有し、且つ強固な溶着接合強度を有する溶着体を得ることができるからである。
【0064】
ここで、本発明のレーザー光溶着用プロピレン系樹脂組成物および溶着体を、例えば、レーザー光溶着性、剛性および耐熱性を重要視する分野に適用する場合には、前記したように、前記ポリプロピレン系樹脂(a)として、透明性(レーザー光の透過性に優れる)、剛性、耐熱性に優れるプロピレン単独重合体樹脂を用いた、レーザー光溶着用プロピレン系樹脂組成物を使用することが好ましい。
同様に、例えば、レーザー光溶着性(生産性など)を重要視する分野に適用する場合には、前記したように、前記ポリプロピレン系樹脂(a)として、透明性(レーザー光の透過性に優れる)に優れ、低融点である(比較的低いレーザー光出力下においても、レーザー光溶着時に溶融し易いので溶着し易い)プロピレン・エチレンランダム共重合体樹脂を用いた、レーザー光溶着用プロピレン系樹脂組成物を使用することが好ましい。なかでも、メタロセン系触媒を用いて重合されたプロピレン・エチレンランダム共重合体樹脂を用いた、レーザー光溶着用プロピレン系樹脂組成物は、レーザー光溶着性などがより優れる傾向にあり、より好ましい。
プロピレン・エチレンランダム共重合体樹脂の市販品としては、日本ポリプロ社のウィンテックWSX02、同WFX4などが例示される。
同様に、例えば、物性バランスを重要視する分野に適用する場合には、前記したように、前記ポリプロピレン系樹脂(a)として、剛性、衝撃強度の物性バランスに優れる、プロピレン・エチレンブロック共重合体樹脂を用いた、レーザー光溶着用プロピレン系樹脂組成物を使用することが好ましい。
プロピレン・エチレンブロック共重合体樹脂の市販品としては、日本ポリプロ社のノバテックBC4、同BC03C、同BC03Bなどが例示される。
【0065】
3.溶着体の作製
本発明におけるレーザー光溶着方法による溶着体の作製は、前記レーザー光透過性樹脂材を成形した成形体と、前記レーザー光吸収性樹脂材を成形した成形体とを重ね合わせて密着し、該レーザー光透過性樹脂材成形体側からレーザー光を照射することにより、両成形体の当接面を加熱溶融させて、両者を一体的に溶着接合させることを基本とする。
【0066】
接合部の加熱温度は、接合部において前記両樹脂材の軟化、溶融温度以上であることが必要であり、200℃〜1000℃であることが好ましく、200℃〜800℃がより好ましい。あまり温度が高過ぎると、樹脂に目立つ気泡が発生したり、それが移動したりするほか、樹脂自体が一部分解することなどから、強固な接合ができにくくなるからである。
【0067】
レーザー光源としては、例えば、半導体レーザー、YAGレーザー、ファイバーレーザー、炭酸ガスレーザーなどを用いることができる。これらのレーザー光源の照射は、連続照射またはパルス照射の何れでもよい。
また、レーザー光の出力、出力密度、加熱温度や照射速度などの照射条件は、目的に応じて適宜設定可能である。例えば、レーザーの出力密度は、1W/mm〜10KW/mmが好ましく、2W/mm〜1KW/mmがより好ましく、5W/mm〜500W/mmがとりわけ好ましい。
例えば、レーザー光の出力密度が1W/mm未満であると、溶着接合強度が小さくなる傾向にあり、一方、出力密度が10KW/mmを超えると、気泡が著しく発生し易くなったり、発煙、発火したり、さらには、溶着接合部の冷却も遅くなり、著しく作業効率性が低下するなどの傾向がある。
【0068】
本発明における溶着体の溶着接合強度は、溶着体の用途、使用分野や使用条件などに応じて適宜設定することができる。例えば、自動車部品分野に代表される工業部品向け用途の場合は、良好な溶着接合部外観を有することは論を待たないが、同時に強固な(大きな)溶着接合強度が必要である。
具体的には、使用するレーザー光透過性樹脂材やレーザー光吸収性樹脂材自体が持つ強度に近い水準が好ましく、10MPa以上であることがより好ましい。
【0069】
III.溶着体
本発明の溶着体は、前記レーザー光溶着用プロピレン系樹脂組成物などのレーザー光吸収性樹脂材およびレーザー光透過性樹脂材の成形体を用いて、前記作製法により、作製する。
作製された溶着体は、発泡などに起因する微細な孔を生じない、優れた接合部外観を有し、且つ強固な溶着接合強度を有するため、ランプハウジングをはじめ、トリム類、各種ハウジング類、ピラー、グローブボックス、インストルメントパネル、バンパー、フェンダー、バックドアーなどの自動車用内外装部品、家電機器部品、住宅設備機器部品、各種工業部品、建材部品などの用途に好適に用いることができる。
これらの点などから、前記溶着体は、(前記レーザー光溶着用プロピレン系樹脂組成物とともに)その工業的価値は大きい。
【実施例】
【0070】
以下に、実施例を用いて、本発明を更に詳細に説明するが、本発明はその趣旨を逸脱しない限り、これによって限定されるものではない。
なお、実施例に於ける試験片の調製、評価方法は、下記要領に従った。
【0071】
1.試験片の調製、評価方法
(1)試験片
下記に示す条件で射出成形する。
試験片寸法:80mm×40mm×2mmt
成形機:東芝機械社製、射出成形機EC20
型締力:20トン
成形温度:プロピレン系=220℃、PMMA=240℃、PC=280℃
金型温度:プロピレン系=40℃、PMMA=60℃、PC=80℃
射出圧力:60MPa
【0072】
(2)レーザー光溶着
後記のレーザー光吸収性樹脂材と、同レーザー光透過性樹脂材の前記1.(1)項に示す方法にて調製した両射出成形試験片の全面を、完全に重ね合わせて、その一方の試験片を長手方向に(短手方向側端をそろえて)40mmずらして密着する(密着面は40mm×40mmとなる)。
この状態で固定した後、密着面の試験片短手方向中央線部(すなわち、それぞれの重ね合わせ試験片端から20mmの部分)に、レーザー光透過性樹脂材試験片側から、幅2mmの直線状で、端から端まで(すなわち40mmの長さで)、下記に示す条件でレーザー光照射して、線状に溶着する。
レーザー光加熱装置:LD−HEATER L10060(浜松ホトニクス社製)
レーザー光源:半導体レーザー
スポット径:1.8mmφ
レーザー光出力:40W(出力密度:15.7W/mm)、60W(出力密度:23.6W/mm)、80W(出力密度:31.5W/mm
スキャン(照射)速度:3m/分
波長:940nm
【0073】
(3)接合部外観
前記1.(2)項に示す方法にて得られるレーザー光溶着試験片の溶着接合部分の外観を目視観察し、次の基準で評価する。
○:発泡などに起因する微細な孔などが認められず良好である。
×:発泡などに起因する微細な孔が認められ、不良である。
なお、溶着接合ができない場合は、「溶着せず」とする。
【0074】
(4)溶着接合強度
前記1.(2)項に示す方法にて得られるレーザー光溶着試験片を23℃で72時間放置する。
その後、温度23℃、湿度50%の条件下で、引張試験機を用いて、線状溶着接合方向と直角方向(すなわち、試験片長手方向)に引張り、溶着接合面の剥離する際の強度を測定し、溶着接合強度とする。なお、引張速度は5mm/分である。
【0075】
2.材料類
(1)ポリプロピレン系樹脂(a)
P1:チーグラーナッタ触媒を用いて重合され、MFR(230℃、2.16kg荷重)が5g/10分である、プロピレン単独重合体樹脂(無着色、酸化防止剤汎用配合済みペレット…日本ポリプロ社製、ノバテックMH4)。
【0076】
(2)酸化チタン(b)
T1:平均粒子径0.23μm、結晶形態ルチル型、平均吸油量140g/1000g、pH値6.5であり、表面がアルミナ有機処理され、塩素法にて製造された酸化チタン(デュポン社製、タイピュアR−103)。
【0077】
(3)カーボンブラック(c)
C1:平均粒子径0.03μm、DBP吸着量76cm/100g、pH値8であり、オイルファーネス法にて製造されたカーボンブラック(三菱化学社製、RCF、#33)。
【0078】
(4)フィラー(d)
F1:平均粒子径6μm、平均アスペクト比5であるタルク(富士タルク工業社製)。
F2:平均粒子径0.8μm、pH値7.5である、硫酸バリウム(堺化学工業社製)。
【0079】
(5)エラストマー(e)
E1:MFR(230℃、2.16kg荷重)が2g/10分のスチレン−エチレン・ブチレン−スチレン共重合体(SEBS)(旭化成社製、タフテックH1043)。
E2:MFR(230℃、2.16kg荷重)が7g/10分のスチレン−ブタジエン・ブチレン−スチレン共重合体(SBBS)(旭化成社製、タフテックP2000)。
【0080】
(6)プロピレン系重合体
NP1:チーグラーナッタ触媒を用いて重合され、MFR(230℃、2.16kg荷重)が5g/10分である、プロピレン単独重合体(無着色、酸化防止剤汎用配合済みペレット…日本ポリプロ社製、ノバテックMH4)。
【0081】
(7)PMMA
PMMA1:MFR(230℃、37.3N荷重)が0.6g/10分であるPMMA(住友化学社製、スミペックスMM011)。
【0082】
(8)PC
PC1:MFR(300℃、1.20kg荷重)が16g/10分であるPC(三菱エンジニアリングプラスチック社製、ユーピロンML300R)。
【0083】
3.実施例および比較例
[実施例1〜4、14、15、比較例1〜4、14]
(1)レーザー光溶着用プロピレン系樹脂組成物の製造
前記のポリプロピレン系樹脂(a)、酸化チタン(b)、カーボンブラック(c)、フィラー(d)およびエラストマー(e)を、表1に示す割合で配合し、下記の条件で混練、造粒して、LP1〜4、9、10(実施例1〜4、14、15)およびLP5〜8、11(比較例1〜4、14)を得た。
【0084】
(a)混練造粒条件:
混練装置:日本製鋼所社製「TEX30α」型2軸押出機。
混練条件:温度=210℃、スクリュー回転数=300rpm。
【0085】
[実施例5〜13、16〜19、比較例5〜13、15、16]
1.レーザー光溶着性の評価
レーザー光透過性樹脂材としてプロピレン系重合体:NP1、PMMA:PMMA1およびPC:PC1を、さらにレーザー光吸収性樹脂材としてLP1〜11を、それぞれ前記手法にて試験片調製した。
その後、該試験片を、表2に示す条件(レーザー光出力)にてレーザー光溶着し、前記手法にて評価した。結果を表2に示す。
【0086】
【表1】

【0087】
【表2】

【0088】
表1および2に示す結果から、レーザー光透過性樹脂材として、プロピレン単独重合体(NP1)、PMMA(PMMA1)およびPC(PC1)を用い、レーザー光吸収性樹脂材として、本発明の必須構成要件における各規定を満たす実施例1〜4、14、15に示す組成を持ったレーザー光溶着用プロピレン系樹脂組成物(LP1〜4、9、10)を用いた実施例5〜13、16〜19の溶着体は、何れも広範なレーザー光溶着条件領域にて容易に溶着できるなど良好なレーザー光溶着性(接合部外観および溶着接合強度)を有している。
ここで、中でも実施例8〜10の溶着体に用いたレーザー光透過性樹脂材およびレーザー光吸収性樹脂材は、特に良好な耐熱剛性を有している。すなわち、NP1は、曲げ弾性率が1550MPa、熱変形温度(0.45MPa)が100℃であり、また、LP3は、曲げ弾性率が3100MPa、熱変形温度(0.45MPa)が130℃である。
ここに示す実施例5〜13、16〜19のものは、前記の諸性能に加え、経済性向上効果も大きく、広範な分野、例えばランプハウジング、トリム類、ピラー、グローブボックス、インストルメントパネル、バンパー、フェンダー、バックドアー、各種ハウジング類などの自動車内外装部品をはじめ、家電機器部品、住宅設備機器部品、各種工業部品、建材部品などに適する性能を有していることが明白になっている。
【0089】
一方、比較例1〜4、14に示す組成を有するレーザー光溶着用プロピレン系樹脂組成物(LP5〜8、11)を用いた比較例5〜13、15、16の溶着体は、これらの性能バランスが不良で見劣りしている。
例えば、酸化チタン(b)を含有しないレーザー光吸収性樹脂材LP5(比較例1)を用いた比較例5および6において、溶着体のレーザー光溶着性(溶着接合強度)は、実施例6および7と、著しい差異が生じた。これは、酸化チタン(b)の含有有無により、レーザー光溶着性の向上効果が著しく異なり、酸化チタン(b)が本発明の要件を満たすことが必須であることを示している。
また、酸化チタン(b)を含有しないレーザー光吸収性樹脂材LP6(比較例2)を用
いた比較例7において、溶着体のレーザー光溶着性(溶着接合強度)は、実施例8と著し
い差異が生じた。これは、酸化チタン(b)の含有有無により、レーザー光溶着性の向上
効果が著しく異なり、酸化チタン(b)が本発明の要件を満たすことが必須であることを
示している。
また、酸化チタン(b)を含有しないレーザー光吸収性樹脂材LP6(比較例2)を用いた比較例8および9において、溶着体のレーザー光溶着性(接合部外観および溶着接合強度)は、実施例9および10と著しい差異が生じた。これは、酸化チタン(b)の含有有無により、レーザー光溶着性の向上効果が著しく異なり、酸化チタン(b)が本発明の要件を満たすことが必須であることを示している。
【0090】
また、酸化チタン(b)を含有しないレーザー光吸収性樹脂材LP7(比較例3)を用いた比較例10において、溶着体のレーザー光溶着性(溶着接合強度)は、実施例11と著しい差異が生じた。これは、酸化チタン(b)の含有有無により、レーザー光溶着性の向上効果が著しく異なり、酸化チタン(b)が本発明の要件を満たすことが必須であることを示している。
また、酸化チタン(b)を含有しないレーザー光吸収性樹脂材LP7(比較例3)を用いた比較例11および12において、溶着体のレーザー光溶着性(接合部外観および溶着接合強度)は、実施例12および13と著しい差異が生じた。これは、酸化チタン(b)の含有有無により、レーザー光溶着性の向上効果が著しく異なり、酸化チタン(b)が本発明の要件を満たすことが必須であることを示している。
また、カーボンブラック(c)を含有しないレーザー光吸収性樹脂材LP8(比較例4)を用いた比較例13において、溶着体のレーザー光溶着性(溶着接合強度)は、実施例6と著しい差異が生じた。これは、カーボンブラック(c)の含有有無により、レーザー光溶着性の向上効果が著しく異なり、カーボンブラック(c)が本発明の要件を満たすことが必須であることを示している。
【0091】
さらに、酸化チタン(b)を含有しないレーザー光吸収性樹脂材LP11(比較例14)を用いた比較例15および16において、溶着体のレーザー光溶着性(溶着接合強度)は、実施例16および17と著しい差異が生じた。これは、酸化チタン(b)の含有有無により、レーザー光溶着性の向上効果が著しく異なり、酸化チタン(b)が本発明の要件を満たすことが必須であることを示している。
以上における各実施例と各比較例の結果から、本発明の構成と各要件の合理性と有意性が実証され、さらに、本発明の従来技術に対する優位性も明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明のレーザー光溶着用プロピレン系樹脂組成物およびその用途(レーザー光溶着方法、溶着体)は、広範なレーザー光溶着条件領域にて容易に溶着でき、発泡などに起因する微細な孔を生じない、優れた接合部外観を有し、且つ強固な溶着接合強度を有する上に、経済性にも優れる。
このため、ランプハウジング、トリム類、ピラー、グローブボックス、インストルメントパネル、バンパー、フェンダー、バックドアー、各種ハウジング類などの自動車内外装部品をはじめ、家電機器部品、住宅設備機器部品、各種工業部品、建材部品などに好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリプロピレン系樹脂(a)100重量部に対して、酸化チタン(b)0.01〜3重量部と、カーボンブラック(c)0.001〜0.5重量部とを、含有してなることを特徴とするレーザー光溶着用プロピレン系樹脂組成物。
【請求項2】
酸化チタン(b)とカーボンブラック(c)との含有重量比率(b/c)が15以上であることを特徴とする請求項1に記載のレーザー光溶着用プロピレン系樹脂組成物。
【請求項3】
酸化チタン(b)の含有量が0.1〜1.5重量部で、且つカーボンブラック(c)の含有量が0.003〜0.1重量部であることを特徴とする請求項1又は2に記載のレーザー光溶着用プロピレン系樹脂組成物。
【請求項4】
さらに、フィラー(d)3〜100重量部を含有してなることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載のレーザー光溶着用プロピレン系樹脂組成物。
【請求項5】
フィラー(d)は、タルク、硫酸バリウム、ウィスカー状フィラー、ガラス繊維またはマイカから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項4に記載のレーザー光溶着用プロピレン系樹脂組成物。
【請求項6】
さらに、エラストマー(e)5〜100重量部を含有してなることを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載のレーザー光溶着用プロピレン系樹脂組成物。
【請求項7】
ポリプロピレン系樹脂(a)は、プロピレン単独重合体樹脂または/およびプロピレン・エチレン共重合体樹脂であることを特徴とする請求項1〜6の何れか1項に記載のレーザー光溶着用プロピレン系樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1〜7の何れか1項に記載のレーザー光溶着用プロピレン系樹脂組成物を、レーザー光吸収性樹脂材として用いることを特徴とするレーザー光溶着方法。
【請求項9】
請求項1〜7の何れか1項に記載のレーザー光溶着用プロピレン系樹脂組成物を、レーザー光吸収性樹脂材として用い、且つプロピレン系重合体を、レーザー光透過性樹脂材として用いることを特徴とするレーザー光溶着方法。
【請求項10】
請求項1〜7の何れか1項に記載のレーザー光溶着用プロピレン系樹脂組成物を、レーザー光吸収性樹脂材として用い、且つポリメチルメタクリレート(PMMA)またはポリカーボネート(PC)を、レーザー光透過性樹脂材として用いることを特徴とするレーザー光溶着方法。
【請求項11】
請求項8〜10の何れか1項に記載のレーザー光溶着方法にて、溶着してなることを特徴とする溶着体。
【請求項12】
溶着接合強度が10MPa以上であることを特徴とする請求項11に記載の溶着体。

【公開番号】特開2011−116933(P2011−116933A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−120045(P2010−120045)
【出願日】平成22年5月26日(2010.5.26)
【出願人】(596133485)日本ポリプロ株式会社 (577)
【Fターム(参考)】